特許第6918277号(P6918277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918277
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】地域津波防災構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20210729BHJP
【FI】
   E04H9/14 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-230123(P2019-230123)
(22)【出願日】2019年12月20日
(65)【公開番号】特開2021-98945(P2021-98945A)
(43)【公開日】2021年7月1日
【審査請求日】2019年12月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500240863
【氏名又は名称】株式会社ランドビジネス
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】亀井 正通
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6497641(JP,B2)
【文献】 特許第6516946(JP,B1)
【文献】 特許第6501961(JP,B1)
【文献】 特許第5462322(JP,B2)
【文献】 特開2013−185327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波の被害が想定される対象地域における津波による人的被害を最小化するための地域津波防災構造であって、前記対象地域内に、想定される津波の高さ以上の高さを有し、前記想定される津波の波力に抵抗可能な耐力を有する耐津波塀で囲まれた耐津波避難空間を複数分散配置してなり、複数分散配置された前記耐津波避難空間のそれぞれに、前記耐津波塀の1または複数個所に開口部が形成され、前記開口部には該開口部を水密に閉塞する開口部閉塞手段が設けられており、さらに、前記耐津波塀の内外に、津波が迫ってきて前記開口部が閉塞された後に、逃げ遅れた被災者が前記耐津波塀を乗り越えて前記耐津波塀の内側の耐津波避難空間に避難するための階段が、前記耐津波塀と一体に設けられており、津波が発生したときに、周辺住民が前記耐津波避難空間内に避難できるようにしたことを特徴とする地域津波防災構造。
【請求項2】
請求項1記載の地域津波防災構造において、前記耐津波塀の全部または一部は、1または複数の建物を取り巻く形で構築されていることを特徴とする地域津波防災構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の地域津波防災構造において、前記耐津波塀で囲まれる耐津波避難空間の内側に、さらに第2の耐津波塀で囲まれる2重の耐津波避難空間を形成してあることを特徴とする地域津波防災構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波の被害が想定される対象地域における津波による人的被害を最小化するための地域津波防災構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日の東日本大震災では、津波による大きな被害が発生し、非常に多くの建築物が津波で押し流されたり、大破する被害を受けた。大破した建物では、津波そのものの力により被害を受けたもののほか、漂流物の衝突によって被害を受けたものがある。
【0003】
そのような中で、木造家屋に比べ自重の大きいRC構造の建築物については、周辺が壊滅的な被害を受けている中で津波の力に耐えて原位置に残ったものもあり、注目を集めた。
【0004】
そのような原位置にとどまることができた建築物についても、津波の影響をまともに受けた建築物では、1階部分あるいは3階部分程度まで、特に開口部から大きく損壊したものが多く、さらに人的被害も大きく、そのまま復旧できた建物は少ない。
【0005】
そのため、大規模な津波が発生した場合の対策に関する多数の特許出願がなされている。
従来、開発されているこのような津波対策の発明に関しては、大きく分けて以下のようなものがある。
【0006】
(1) 避難用シェルターまたは避難用構造物
特許文献3には、耐震性および耐津波性を維持しつつ、避難場所の面積や高さを簡単に変更することができる避難用建築物として、基礎部と、基礎部上に設置され、梁間方向および桁行方向に間隔を存して配置した複数の独立構造体と、複数の独立構造体上に設置され、避難場所を構成する屋上部と、基礎部と屋上部とを連絡する複数の階段とを備え、各独立構造体は、プレキャストコンクリート製の複数のプレキャストボックスを、鉛直方向に積み上げて構成されるプレキャスト構造物が開示されている。
【0007】
特許文献7には、地中に設置される基礎部と基礎部に固定される本体部とから構成されており、耐震性と水密性を備えた避難空間を有するシェルターであって、本体部の上部が平面視楕円状のドーム形状又はレモン型形状に形成されており、シェルター全体の半分以上が地中に埋設され、本体部の上部の地上に露出している箇所に出入口用ハッチが取り付けられている小型のシェルターが開示されている。
【0008】
特許文献9には、既設建築物の建物に隣接して設置可能な防災用避難用の地下式避難用シェルターとして、筒型鉄板と天井板と、内部空間を有するシェルター本体と、天井板に設けられる鉄板製の蓋と、内部空間を第1室と第2室に仕切る仕切壁とを備え、仕切壁の上端部が天井板と接続され、第1室と第2室の下部が連通空間で連通されており、第1室が蓋に隣接して設けられ、第1室の内部空間を上下2層に仕切る床が設けられ、床を上下に昇降する可動床とした地下式避難用シェルターが開示されている。
【0009】
(2) 建物内に避難スペースを設けるもの
特許文献8には、屋根裏部屋を津波シェルターにして、斜めのケーブルを張り、ケーブルで衝突荷重を低減したり、シェルターの浮上、流失を防ぐ構造が開示されている。
【0010】
(3) フロートによる漂流型の避難対策
特許文献4には、商業施設や居住施設等として利用可能な建物本体と、建物本体の屋上に設置された浮体と、建物本体から浮体に至る連結部とを備える避難用構造物であって、浮体は水に浮遊する密度を有した平板からなり、連結部は浮体が浮遊した際に、浮体を建物本体に係留できるようにした避難用構造物が開示されている。
【0011】
特許文献6には、津波が襲来した際に海岸近辺の人々が避難するための津波用避難施設において、地上に設置した基礎部と、基礎部に着脱自在に設置したフロートと、基礎部とフロートを連結する連結索とからなり、フロートに海面が到達した場合には、フロートが浮力を受けて基礎部から離脱して海面に浮遊するようにした津波用避難施設が開示されている。
【0012】
(4) 建物自体を津波に耐える構造とするもの
特許文献1には、建物の外壁に通常の出入口用開口および窓用開口とは別個の開口を設け、常時はその開口を閉塞しておき、津波が押し寄せたときに閉塞を解除し、津波の一部を意図的に建物の内部に流入させることで、外壁が受ける津波荷重の負荷を軽減し、建物の躯体骨組も外壁を介しての津波荷重の負荷が軽減されることで、建物の崩壊や倒壊を抑制する構造が開示されている。
【0013】
特許文献2には、地下の下層階と地上の上層階とが一体に構成された鉄筋コンクリート製基礎重量構造の構造躯体として、津波の圧力によって生ずる建物の浮き上がりを防止し、耐圧水密構造の扉体ないし窓部を備えることによって、津波の圧力に耐えられる耐圧性と、外部からの海水等の流入を防止し、また外壁部の海側の面と内陸側の面を津波の衝撃を和らげる緩衝波形状とした防災対応住宅が開示されている。
【0014】
特許文献5には、津波などの水害を受けた場合であっても持続的に使用可能な水害対策用建物として、周方向全周にわたって延在するとともに、水害に対して予め設定された最大水位よりも高く、かつ水圧や流出物による衝撃に耐え得る耐圧性能を備えた外周防圧壁と、外周防圧壁の内側に一体に設けられ外周防圧壁の内部空間を中心部分の内側内部空間および外周防圧壁との間の外側内部空間に区画するコア隔壁と、外周防圧壁の内側内部空間内に設けられる複数階層の建物本体とを備え、建物本体の床スラブをコア隔壁及び外周防圧壁に剛接合して構築され、かつ、外周防圧壁には、外面から外側に突出し周方向の全周にわたって延在する波返し部が設けられるとともに、地表面から建物の複数階層にわたる高さで開口形成され、外部と建物の複数階層の内側内部空間を連通させる複数の開口部が設けられている水害対策用建物が開示されている。
【0015】
特許文献10には、津波が来ても押し流されず、居住者が避難場所から帰ってきたときに、津波が来る前と同じ生活に戻ることのできる構造物として、基礎部と基礎部に固接された居住部とを一体として備えた構造物であって、居住部は、居住部内外の連通に用いられる開閉可能な開口部を備えていると共に開口部から居住部内への水の浸入を防止する水密構造を備え、基礎部は水没状態の構造物に作用する浮力よりも、構造物に作用する重力が大きくなるような重量を有し、居住部の開口部は開口を開閉する扉体を備えており、開口部に備えられた水密構造は開口部の外側に配置された昇降体を備えており、昇降体は扉体を外側から覆う閉位置と扉体が外界に晒される開位置との間で昇降可能であり、閉位置の昇降体は昇降体と扉体との間の空間である隙間領域を外界に対して水密にするようにした構造物が開示されている。
【0016】
この他、特許文献11には本願の発明者による耐洪水塀を備えた耐水害建物が開示されている。その主な構成は、建物としての集合住宅、ホテル、オフィスビル、病院建築物または工場の周囲に、建物と間隔をおいて、常時の出入口としての開口部を除く建物のほぼ全周を取り巻く形で水密性を有する耐洪水塀が構築されており、この耐洪水塀は適用対象地域で想定される浸水深以上の高さを有し、かつ想定される浸水深以上の水圧に抵抗可能な耐力を有する塀であり、その開口部には浸水時に開口部を水密に閉塞する開口部閉塞手段が設けられているというものである。
【0017】
上記の耐水害建物によれば、水害発生時には、耐洪水塀の開口部を開口部閉塞手段により閉塞することで、建物の周囲と耐洪水塀との間に隔離された空間が形成され、耐洪水塀の外側が想定浸水深の水位に達しても耐洪水塀の内側はせいぜい降水量以下の水深で建物の入口や窓からの浸水の恐れがなく、既存の建物に適用する場合でも、建物自体の開口部は特に改修しなくてもそのまま水害に対処することができ、建物に被害を生じさせないかまたは被害を最小限に抑えることができる。
【0018】
また、耐洪水塀の外側が想定浸水深あるいはそれに近い水位に達し、外部との往来が困難となった場合でも、耐洪水塀の内側が平穏な状態に保たれることで、建物自体の機能に関する影響は小さく、周辺の浸水継続時間が例えば1週間以上の長期にわたる場合でも、建物自体の安全性が保たれるため、耐洪水塀の内側に例えば非常用発電機、非常用受水槽、非常用汚水槽などの非常用設備をあらかじめ設置しておくことで、水害時における安全な長期の避難生活が可能となる。
【0019】
建物の用途が公共施設である場合など、広域避難が困難な周辺住民を受け入れる避難所としても活用することができる。
【0020】
耐洪水塀については、水圧に耐え得る水密性の大きな窓を設けたり、装飾を施すなどすることで、建物の1〜2階の居住者が閉塞感を持たないよう内側からの視界を確保することができる。また、耐洪水塀内外の景観を損なうことなく、むしろ美感を与え建物のデザイン的な財産価値を高めることもできる。
【0021】
建物の地下または敷地内あるいは屋上部分に、災害時用の受水槽、災害時用の非常用発電機、災害時用の汚水槽などを設置することで、外部からのサービスが途絶えた状態でも建物内部のインフラが確保され、長期の避難生活が可能となる。
【0022】
さらに、特許文献12には、上述の耐洪水塀に関連して、本願発明者による多重止水壁が開示されている。その主な構成は、壁厚さ方向に間隔をおいて2重または3重以上に配置された複数の止水壁と、その止水壁間に浸透した水を外部に排出するための排水手段を備えているというものであり、簡易な構造で多重止水壁の内側への水の浸透を抑えることができる。
【0023】
すなわち、1重目の止水壁については、洪水時などの水圧である程度の漏水を許容し、2重目あるいは3重目以降の止水壁との間に漏水してきた水を排水手段で早期に排水することで、2重目あるいは3重目以降の止水壁の負担が小さくなり、多重止水壁の内側への水の浸透を抑えることができる。
【0024】
したがって、1重の止水壁でできるだけ止水性を高めようとする従来の止水壁に比べ、多重に配置された個々の止水壁や止水材、押圧手段などの負担が小さいため、簡易な構造とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特許第5956801号公報
【特許文献2】特開2014−012966号公報
【特許文献3】特許第6192286号公報
【特許文献4】特許第6116870号公報
【特許文献5】特許第6124073号公報
【特許文献6】特許第6254396号公報
【特許文献7】特許第6016869号公報
【特許文献8】特許第6268403号公報
【特許文献9】特許第6312939号公報
【特許文献10】特許第4838395号公報
【特許文献11】特許第6501961号公報
【特許文献12】特許第6516946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
上述した(1)のタイプの避難用シェルターまたは避難用構造物は、基本的に津波が発生したときに使用するための施設であり、常時は有効利用が難しく、メンテナンス費用などを考慮すると経済性の面でも合理的とは言い難い。
【0027】
(2)のタイプの建物内に避難スペースを設けるものは、人命を守るという点では意味があるが、建物の被害を防ぐことはできず、また避難施設としてのキャパシティーは建物の居住者に限られてしまう。
【0028】
(3)のタイプのフロートによる漂流型の避難対策も、人命を守るという点で意味があるものの、それ以上の効果は期待できない。
【0029】
(4)のタイプの建物自体を津波に耐える構造とするものは、基本的に津波が発生した後も建物がそのまま利用できるようにしたもので、このうち、特許文献5に開示されている水害対策用建物は、外周防圧壁、波返し部、津波による外圧を低減するための開口部などを備え、大きな津波にも抵抗できるようにしたある意味要塞のような構造物であるが、居住性や利便性、デザイン性などを考慮した場合、ホテルやリゾート集合住宅、オフィスビルその他一般の公共建築物への適用には適さない。
【0030】
また、特許文献2や特許文献10に開示されたものは、住宅について水密性、耐圧性を与え、浮力対策を施すなどして、津波がひいた後も使用できることを目的としたものであるが、避難施設としてのキャパシティーは建物の居住者に限られ、また個人用の住宅としてはコストが高く付き、メンテナンスの問題もある。
【0031】
本発明は、上述したような従来の津波対策に比べ、津波の被害が想定される対象地域における津波による人的被害を最小化するための大規模な避難施設としての地域津波防災構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の地域津波防災構造は、津波の被害が想定される対象地域における津波による人的被害を最小化するための地域津波防災構造であって、対象地域内に、想定される津波の高さ以上の高さを有し、想定される津波の波力に抵抗可能な耐力を有する耐津波塀で囲まれた耐津波避難空間を複数分散配置し、津波が発生したときに、周辺住民が前記耐津波避難空間内に避難できるようにしたことを特徴とするものである。
【0033】
耐津波塀の構造は、形態的には上述した本願の発明者による特許文献11に記載される耐洪水塀と同様の形態とすることができるが、津波の波力に耐えるためには、静水圧の3倍の圧に耐える必要があるとされており、そのような波力に耐える強度の材質、厚さ、重量等を備えたものとする。
【0034】
想定される津波の高さは理論的には上限はないが、3〜5mあるいは7m程度までを対象と考え、それ以上の高さの津波が想定される場合は、別途の対策を設けるか、早期に対象地域外に避難することが必要となる。
【0035】
なお、漂流物が衝突する場合には、さらに大きな衝撃荷重が生ずる可能性もあり、漂流物の衝突による大きな衝撃荷重を防ぐ手段としては、津波が到達すると考えられる方向の前方にコンクリートブロックあるいは植樹などによる緩衝帯を設けることは有効である。
【0036】
対象地域内に複数分散配置される耐津波避難空間を構成する耐津波塀の全部または一部は、上述した特許文献11に記載される耐洪水塀の場合と同様、1または複数の建物を取り巻く形で構築することができ、その場合、内側の耐津波避難空間に位置する建物に居住する住民あるいは職場として従事する通勤者等は、そのまま避難所として使用することができる。また、周辺住民等は、津波の来襲時に耐津波塀の内側に避難することができる。
【0037】
耐津波塀の内側の耐津波避難空間は、居住用その他の建物がない場合もあり得る。その場合は単に周辺住民の避難所として利用することができる。
【0038】
通常は、耐津波塀の1または複数個所に開口部が形成されており、開口部には開口部を水密に閉塞する開口部閉塞手段を設ける。津波が迫ってきて開口部が閉塞された後に、逃げ遅れた被災者が内側の耐津波避難空間に避難するためには、耐津波塀の内外に耐津波塀を乗り越えるための階段、その他の昇降手段を設けることが考えられる。
【0039】
また、開口部閉塞手段としては、例えば、上述した本願の発明者による特許文献12に記載される多重止水壁を用いることができる。
【0040】
多重止水壁は、止水壁を多重に設け、多重の止水壁間に浸透した水をポンプなどの排水手段で排水する構成であるため、簡易な構造で多重止水壁の内側への水の浸透を抑えることができる。
【0041】
すなわち、1重目の止水壁については、洪水時などの水圧である程度の漏水を許容し、2重目あるいは3重目以降の止水壁との間に漏水してきた水を排水手段で早期に排水することで、2重目あるいは3重目以降の止水壁の負担が小さくなり、多重止水壁の内側への水の浸透を抑えることができる。
【0042】
したがって、1重の止水壁でできるだけ止水性を高めようとする従来の止水壁に比べ、多重に配置された個々の止水壁や止水材、押圧手段などの負担が小さいため、簡易な構造とすることができる。
【0043】
この他、耐津波塀で囲まれる耐津波避難空間の内側に、さらに第2の耐津波塀で囲まれる2重の耐津波避難空間を形成したり、別途、水密性のあるシェルターを配置することなども考えられる。
【発明の効果】
【0044】
本発明は、津波の被害が想定される対象地域内に、想定される津波の高さ以上の高さを有し、想定される津波の波力に抵抗可能な耐力を有する耐津波塀で囲まれた耐津波避難空間を複数分散配置し、津波が発生したときに、周辺住民が前記耐津波避難空間内に避難できるようにしたものであり、従来の津波対策に比べ地域全体を対象とする大規模な避難施設として、津波による人的被害を最小化することができる。
【0045】
対象地域内に複数分散配置される耐津波避難空間を構成する耐津波塀の全部または一部について、耐津波塀を1または複数の建物を取り巻く形で構築することができ、その場合、内側の耐津波避難空間に位置する建物に居住する住民あるいは職場として従事する通勤者等は、そのまま避難所として使用することができる。また、周辺住民等は、津波の来襲時に耐津波塀の内側に避難することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】耐津波塀を備えた本発明の地域津波防災構造の概念図である。
図2】本発明の地域津波防災構造を構成する個々の耐津波塀の概念図である。
図3】本発明の地域津波防災構造の一実施形態を概念的に示す平面図である。
図4】本発明の地域津波防災構造を構成する個々の耐津波塀の一実施形態を示す平面図である。
図5】本発明の地域津波防災構造を構成する耐津波塀の一実施形態として、津波が到達する側の鉛直断面を示した図である。
図6】開口部に用いられる多重止水壁の一実施形態を示す水平断面図である。
図7図6の実施形態に対応する鉛直断面図である。
図8】開口部に用いられる多重止水壁の他の実施形態を示す水平断面図である。
図9図8の実施形態に対応する鉛直断面図である。
図10】多重止水壁の原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。
図1は、耐津波塀を備えた本発明の地域津波防災構造の概念図であり、津波の被害が想定される対象地域に、想定される津波の高さ以上の高さを有し、想定される津波の波力に抵抗可能な耐力を有する耐津波塀2で囲まれた耐津波避難空間1を複数分散配置し、津波が発生したときに、周辺住民が耐津波避難空間1内に避難できるようにする。
【0048】
図2は、地域津波防災構造を構成する個々の耐津波塀2の概念図である。耐津波塀2が津波の波力に耐えるためには、静水圧の3倍の圧に耐える必要があるとされており、そのような波力に耐える強度の材質、厚さ、重量等を備えたものとする。
【0049】
耐津波塀2には、1または複数個所に開口部を設け、開口部には開閉可能な止水壁10などの開口部閉塞手段を設け、津波が来襲した際に、開口部を水密に閉塞する。
【0050】
津波が迫ってきて開口部が閉塞された後に、逃げ遅れた被災者が内側の耐津波避難空間1に避難するためには、耐津波塀2の内外に耐津波塀2を乗り越えるための階段3などを設けておくことが望ましい。
【0051】
図3は、本発明の地域津波防災構造の一実施形態を概念的に示したもので、街路に挟まれる複数の区域に耐津波塀2で囲まれる耐津波避難空間1を形成している。
【0052】
図4は、個々の耐津波塀2の一実施形態を示したもので、内側の複数の建物5を取り囲む形で耐津波塀2を構築している。この例では2方向に止水壁10を設置した開口部が形成されている。また、2か所に耐津波塀2を乗り越えるための階段3を設けている。
【0053】
図3および図4に示した例では、各耐津波塀2について、津波が最初に到達する海側に尖った平面形状とすることで、耐津波塀2に対して津波が直角に当たらないようにして、津波の波力をかわす構造としている。
【0054】
図5は、本発明の地域津波防災構造を構成する耐津波塀の一実施形態として、津波が到達する側の鉛直断面を示した図である。この例では、耐津波塀2をL字形断面とし、L字の下辺を安定のための根入れ部7としている。
【0055】
また、津波が衝突する耐津波塀2の外面側に津波による洗堀を防止するための洗堀防止版8を設けている。
【0056】
図6および図7は、その開口部を閉塞するための開口部閉塞手段の一例を示したものであり、図6は水平断面図であり、図7は対応する鉛直断面図である。
【0057】
この例では間隔をおいて設置された2本の支柱11間に止水パネル12による2重の止水壁10A、10Bを形成した場合である。図は耐洪水塀2の開口部に設置した場合である。
【0058】
この例では、支柱11に上下方向に延びる2条のガイド溝12a、12bを設け、常時は保管場所に保管されている強化プラスチックあるいは金属板などからなる止水パネル12の両端を対向する支柱11のガイド溝12a、12bに上から嵌め込む形で、止水パネル12をそれぞれ上下方向3段に設けている。ガイド溝12a、12b部分や止水パネル12間には一般的な止水材を配置して隙間からの漏水を最小限に抑えられるようにする。
【0059】
ただし、多重に配される個々の止水壁10A、10Bでの完全な止水を期待するものではなく、外からの水が浸透してくることを前提として、浸透してきた水を排水ポンプ14などの排水手段で外部に排水することで、2重の止水壁10A、10B間の水位が外部の水位より低くなるようにする。
【0060】
2重に配した止水壁10A、10B間の水位が低く抑えられることで、内側の止水壁1Bにかかる水圧は相対的に小さくなるため、2重目の止水壁10Bの内側に浸透する水量は低く抑えることができる。原理的には、後述する図10に示されるように2重の止水壁の内側にさらに3重目、4重目の止水壁を設けることで、多重止水壁の内側への浸透をさらに抑えることができるが、通常は2重または3重の止水壁で十分であると考えられる。
【0061】
図8は本発明の多重止水壁の他の実施形態を示す水平断面図であり、図9は対応する鉛直断面図である。
【0062】
本実施形態は間隔をおいて設置された2本の支柱11a、11b間に止水パネル12A、12Bによる開閉式の2重の止水壁10A、10Bを形成した場合である。
【0063】
この例では、一方の支柱11bの側面に止水パネル12A、12Bを収納する戸袋状の収納部15を設け、水害の発生が予想されるときに、収納部15に収納された止水パネル12A、12Bを他方の支柱11aに向けて摺動させて開口部を閉塞できるようにしたものである。
【0064】
2重止水壁あるいは多重止水壁と排水ポンプなどの排水手段による止水の原理は図6図7の場合と同様である。
【0065】
図10はこれらの多重止水壁を原理的に示した図であり、壁厚さ方向に間隔をおいて多重に配置された複数の止水壁(止水壁10A、10B、10C、10D)と、止水壁間に浸透した水を外部に排出するための排水手段(排水ポンプ14a、14b、14c)とで、多重止水壁が構成されている。
【0066】
水害時に多重止水壁の外側Oの水位が高くなったとき、一番外側に位置する止水壁10Aの止水性が完全であれば、内側Iへの浸透はないが、実際には完全な止水性を得ることは難しく、またコストがかかる。そのため、完全な止水性は得られないことを前提として、各止水壁10A、10A、10C、10Dを設計する。
【0067】
止水壁10Aと止水壁10Aの間には浸透する水を排水するための排水ポンプ14aを設置し、浸透してきた水を多重止水壁の外部に排出すれば、止水壁10Aと止水壁10Bの間の水位は、止水壁10Aの外側O(外部)の水位に比べ低い水位に保つことができる。
【0068】
2重の止水壁では十分でない場合には、図10に示すように、3重目の止水壁10C、4重目の止水壁10Dというように多重配置される止水壁の数を増し、それぞれの間に浸透してくる水を排水ポンプ14b、14cで排出することで、内側寄りほど浸透水の水位が低くなり、多重止水壁の内側への水の浸透を抑え、多重止水壁で保護される内側の建物などが受ける水害の被害を防止することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…避難空間、2…耐津波塀、3…階段、5…建物、7…根入れ部、8…洗堀防止版、
10、10A、10B、10C、10D…止水壁、
11、11a、11b…支柱、12a、12b…ガイド溝、
12、12A、12B…止水パネル、
14、14a、14b、14c…ポンプ、
15…収納部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10