特許第6918281号(P6918281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918281
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】焼結部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/10 20060101AFI20210729BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20210729BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20210729BHJP
【FI】
   B22F3/10 B
   B23B51/00 S
   !C22C38/00 304
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-540496(P2018-540496)
(86)(22)【出願日】2017年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2017046206
(87)【国際公開番号】WO2018163568
(87)【国際公開日】20180913
【審査請求日】2020年6月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-43127(P2017-43127)
(32)【優先日】2017年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】園田 康則
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−254501(JP,A)
【文献】 特表2016−540643(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/093244(WO,A1)
【文献】 特開2016−113659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する成形工程と、
前記成形体にドリルを用いて穴を形成する穴あけ加工工程と、
前記穴あけ加工工程後、前記成形体を焼結する焼結工程とを備え、
前記成形体は、
前記穴が形成される加工対象面と、
前記加工対象面以外の押圧対象面と、を有し、
前記押圧対象面は、前記穴の外周側に位置する面であり、
前記穴あけ加工工程は、前記押圧対象面における前記穴の軸方向全長に亘る領域を押圧した状態で行うことで、前記穴の内周面と前記押圧対象面との間の厚みが前記穴の径よりも小さい薄肉部を形成し、
前記成形体の前記押圧対象面を押圧する領域の幅は、前記穴の径の1/3倍以上2倍以下であり、
前記押圧する領域の幅の中央は、仮想線上に位置し、
前記仮想線は、前記穴の中心を通り前記薄肉部の厚み方向に平行な直線であり、
前記薄肉部の厚みは、前記穴の内周面と前記押圧対象面との間の長さが最も短い箇所の長さである、
焼結部品の製造方法。
【請求項2】
前記ドリルは、先端部に円弧状の切れ刃を有する請求項1に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項3】
前記薄肉部の厚みが前記穴の径の1/5倍以上1/2倍以下である請求項1又は請求項2に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項4】
前記薄肉部の厚みが0.01mm以上10mm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項5】
前記穴の径が0.2mm以上50mm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項6】
前記穴の軸方向の長さが前記穴の径以上である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の焼結部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結部品の製造方法に関する。
本出願は、2017年3月7日出願の日本出願第2017−043127号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用部品や一般機械の部品などに利用される焼結部品として、特許文献1や特許文献2の焼結部品が知られている。これらの焼結部品の製造はそれぞれ、金属粉末を含有する原料粉末をプレス成形した成形体の所定の位置にドリルで穴あけ加工を施し、穴あけ加工を施した成形体を焼結することで行われている。特許文献1では、穴あけ加工にローソク型ドリルを用いており、特許文献2では、先端に円弧状の切れ刃を有するドリル(R-ドリル)を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−113658号公報
【特許文献2】特開2016−113657号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る焼結部品の製造方法は、
金属粉末を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する成形工程と、
前記成形体にドリルを用いて穴を形成することで、前記穴の内周面と前記成形体の外側面との間の厚みが前記穴の径よりも小さい薄肉部を形成する穴あけ加工工程と、
前記穴あけ加工工程後、前記成形体を焼結する焼結工程とを備え、
前記穴あけ加工工程は、前記成形体の前記外側面における前記穴の軸方向全長に亘る領域を押圧した状態で行い、
前記成形体の前記外側面を押圧する領域の幅は、前記穴の径の1/3倍以上2倍以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】実施形態に係る焼結部品の製造方法の概略を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る焼結部品の製造方法において、ドリルの軸方向から成形体を見た平面図である。
図3A】実施形態に係るドリルの一例を説明する概略平面図である。
図3B図3Aのドリルを先端側から見た概略正面図である。
図3C図3Aのドリルの先端部を部分的に示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
前記特許文献1の焼結部品は、円筒状に形成され、円筒の外周面と内周面とを貫通する貫通孔が円筒の端面近傍に形成されている。この焼結部品は、貫通孔の内周面と円筒の端面との間の厚みが貫通孔の径よりも小さい薄肉部を備える。特許文献2の焼結部品は、円筒状に形成され、円筒の外周面と内周面とを貫通する貫通孔が、貫通孔の内周面と円筒の端面との距離が貫通孔の径と同じ以上になる箇所に形成されている。これらの焼結部品の製造はそれぞれ、金属粉末を含有する原料粉末をプレス成形した成形体の所定の位置にドリルで穴あけ加工を施し、穴あけ加工を施した成形体を焼結することで行われている。前記特許文献1では、穴あけ加工にローソク型ドリルを用いており、前記特許文献2では、先端に円弧状の切れ刃を有するドリル(R-ドリル)を用いている。
【0007】
《発明が解決しようとする課題》
ローソク型ドリルを用いることで、焼結部品と比較して低強度な(脆い)焼結前の成形体であっても薄肉部の外側面の亀裂を抑制し易い。しかし、ローソク型ドリルを用いても加工条件によっては薄肉部の外側面に亀裂が生じる場合があった。
【0008】
そこで、薄肉部の外周面に亀裂などの疵のない焼結部品の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0009】
《発明の効果》
本開示の焼結部品の製造方法は、薄肉部の外周面に亀裂などの疵のない焼結部品を生産性よく製造できる。
【0010】
《本発明の実施形態の説明》
最初に本発明の実施態様の内容を列記して説明する。
【0011】
(1)本発明の一態様に係る焼結部品の製造方法は、
金属粉末を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する成形工程と、
前記成形体にドリルを用いて穴を形成することで、前記穴の内周面と前記成形体の外側面との間の厚みが前記穴の径よりも小さい薄肉部を形成する穴あけ加工工程と、
前記穴あけ加工工程後、前記成形体を焼結する焼結工程とを備え、
前記穴あけ加工工程は、前記成形体の前記外側面における前記穴の軸方向全長に亘る領域を押圧した状態で行い、
前記成形体の前記外側面を押圧する領域の幅は、前記穴の径の1/3倍以上2倍以下である。
【0012】
上記の構成によれば、薄肉部の外周面に亀裂などの疵のない焼結部品が得られる。穴あけ加工工程時に成形体の外側面を押圧することで、ドリルにより穴を外周側に押し広げるような応力によって薄肉部が穴の外側に広がることを抑制できる。それにより、焼結部品に比べて脆い成形体であっても、成形体に亀裂などの疵が形成されることなく穴を形成し易い。そのため、薄肉部の外側面に疵のない成形体が得られる。焼結部品の表面性状は成形体の表面性状を実質的に維持するため、薄肉部の外側面に疵のない成形体を焼結することで、薄肉部の外側面に疵のない焼結部品が得られる。押圧する領域の幅が穴の径の1/3倍以上であることで、成形体の外側面に十分な押圧力を付加できる。上記幅が穴の径の2倍以下であることで、成形体の外側面に局所的に過度な押圧力が作用することを抑制できる。上記幅とは、穴の軸方向に直交し、かつ外側面に沿う方向の長さをいう。
【0013】
(2)上記焼結部品の製造方法の一形態として、前記ドリルは、先端部に円弧状の切れ刃を有することが挙げられる。
【0014】
上記の構成によれば、先端部に円弧状の切れ刃を有するドリルを用いることで、成形体に貫通孔を形成する際、穴の出口の周縁が欠ける所謂コバ欠けの発生を抑制できる。コバ欠けは、穴の底がドリルで切削されずに抜け落ちる際、底の近傍も一緒に崩れることで生じる。上記ドリルは切れ刃の形状が円弧上であるため、スラスト荷重自体が低い上、穴の底に作用するスラスト荷重が分散されて応力集中が少ないので、ドリルが貫通する間際まで成形体を切削でき、ドリルが貫通するより先に穴の底が崩れることを抑制できる。「円弧状の切れ刃」については、詳しくは後述する。
【0015】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0016】
〔焼結部品の製造方法〕
実施形態に係る焼結部品の製造方法は、成形体を作製する成形工程と、成形体に貫通孔を形成する穴あけ加工工程と、穴あけ加工工程後、成形体を焼結する焼結工程とを備える。この焼結部品の製造方法の特徴の一つは、穴あけ加工工程において、所定の位置に穴を形成して所定の薄肉部を形成する際、穴を形成する加工対象面以外の特定の面のうち特定の箇所を押圧した状態で行う点にある。以下、適宜図1を参照して各工程の詳細を説明する。
【0017】
[成形工程]
成形工程は、複数の金属粒子を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する。この成形体は、後述の焼結を経て製品化される機械部品の素材である。
【0018】
(原料粉末)
原料粉末は、金属粒子を複数有する金属粉末を主体として含有する。金属粉末の材質は、製造する焼結部品の材質に応じて適宜選択でき、代表的には、鉄系材料が挙げられる。
鉄系材料とは、鉄や鉄を主成分とする鉄合金のことをいう。鉄合金としては、例えば、Ni,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B,N,及びCoから選択される1種以上の添加元素を含有するものが挙げられる。具体的な鉄合金としては、ステンレス鋼、Fe−C系合金,Fe−Cu−Ni−Mo系合金,Fe−Ni−Mo−Mn系合金,Fe−P系合金,Fe−Cu系合金,Fe−Cu−C系合金,Fe−Cu−Mo系合金,Fe−Ni−Mo−Cu−C系合金,Fe−Ni−Cu系合金,Fe−Ni−Mo−C系合金,Fe−Ni−Cr系合金,Fe−Ni−Mo−Cr系合金,Fe−Cr系合金,Fe−Mo−Cr系合金,Fe−Cr−C系合金,Fe−Ni−C系合金,Fe−Mo−Mn−Cr−C系合金などが挙げられる。鉄系材料の粉末を主体とすることで、鉄系焼結部品が得られる。鉄系材料の粉末を主体とする場合、その含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば90質量%以上、更に95質量%以上とすることが挙げられる。
【0019】
鉄系材料の粉末、特に鉄粉を主体とする場合、合金成分としてCu,Ni,Moなどの金属粉末を添加してもよい。Cu,Ni,Moは、焼入れ性を向上させる元素であり、その添加量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば0質量%超5質量%以下、更に0.1質量%以上2質量%以下とすることが挙げられる。また、炭素(グラファイト)粉などの非金属無機材料を添加してもよい。Cは、焼結体やその熱処理体の強度を向上させる元素であり、その含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば0質量%超2質量%以下、更に0.1質量%以上1質量%以下とすることが挙げられる。
【0020】
原料粉末は、潤滑剤を含有することが好ましい。原料粉末が潤滑剤を含有することで、原料粉末をプレス成形して成形体を作製する際に成形時の潤滑性が高められ、成形性が向上する。よって、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な成形体を得易く、成形体の密度を高めることで、高密度の焼結部品を得易い。更に、原料粉末に潤滑剤を混合すると、成形体中に潤滑剤が分散することになるため、後工程で成形体に切削工具で切削加工する際に切削工具の潤滑剤としても機能する。従って、切削抵抗を低減したり、工具寿命を改善したりできる。
【0021】
潤滑剤は、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。潤滑剤は、固体状や粉末状、液体状など形態を問わない。潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば、2質量%以下、更に1質量%以下とすることが挙げられる。潤滑剤の含有量が2質量%以下であれば、成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできる。そのため、プレス成形の圧力を低くしても、緻密で強度の高い成形体を得易い。更に、後工程で成形体を焼結した際に潤滑剤が消失することによる体積収縮を抑制でき、寸法精度が高く、高密度の焼結部品を得易い。潤滑剤の含有量は、潤滑性の向上効果を得る観点から、0.1質量%以上、更に0.5質量%以上が好ましい。
【0022】
原料粉末は、有機バインダーを含有していない。原料粉末に有機バインダーを含有しないことで、成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできるため、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な成形体を得易い。更に、成形体を後工程で脱脂する必要もない。
【0023】
原料粉末は、上述の金属粉末を主体とし、不可避的不純物を含むことを許容する。
【0024】
上述した金属粉末は、水アトマイズ粉、還元粉、ガスアトマイズ粉などが利用でき、中でも、水アトマイズ粉又は還元粉が好適である。水アトマイズ粉や還元粉は、粒子表面に凹凸が多く形成されていることから、成形時に粒子同士の凹凸が噛み合って、成形体の保形力を高められる。一般に、ガスアトマイズ粉では、表面に凹凸の少ない粒子が得られ易いのに対し、水アトマイズ粉又は還元粉では、表面に凹凸が多い粒子が得られ易い。
【0025】
金属粉末の平均粒径は、例えば20μm以上、更には50μm以上150μm以下とすることが挙げられる。金属粉末の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(以下、D50とする。)のことである。金属粉末の平均粒径が上記範囲内であれば、取り扱い易く、プレス成形が行い易い。
【0026】
(プレス成形)
プレス成形は、機械部品の最終形状に沿った形状に成形できる適宜な成形装置(成形用金型)を用いる。機械部品の形状は、中心に円形状の軸孔が形成される円筒状である場合が多い。この円筒状の機械部品の作製は、円筒の軸方向にプレス成形することで行われる。機械部品には、その外周面から軸孔に直交するように貫通する貫通孔(例えば、油孔に利用される)が形成されるものがある。この貫通孔は、成形体の成形時に一体に形成できないことから、後述する穴あけ加工工程により形成される。
【0027】
ここでは、説明の便宜上、図1の上段図及び中段図に示すように、成形体10の形状は円筒状としている。この成形体10は、例えば、成形体10の両端面を形成する円環状のプレス面を有する上下のパンチと、上下パンチの内側に挿通されて、成形体10の内周面を形成する円柱状のコアロッドと、上下パンチの外周を囲み、成形体10の外周面を形成する円形状の挿通孔が形成されたダイとを用いて形成できる。この成形体10の軸方向両端面は上下のパンチでプレスされたプレス面、内周面と外周面とはダイとの摺接面であり、軸孔は成形時に一体に形成されている。
【0028】
プレス成形の圧力は、例えば250MPa以上800MPa以下が挙げられる。
【0029】
[穴あけ加工工程]
穴あけ加工工程は、成形体10にドリル2を用いて穴12Gを形成することで薄肉部11Gを形成する(図1中段図)。穴12Gは、貫通孔又は止まり穴であり、ここでは貫通孔としている。本例の加工対象面は成形体10の外周面及び内周面であり、穴あけ加工は外周面から成形体10の中心軸に向かって行っている。薄肉部11Gとは、穴12Gの内周面12Giと成形体10の外側面11Gf(端面)との間に形成される部位で、穴12Gの内周面12Giと成形体10の外側面11Gfとの間の厚みGtが穴12Gの径Gd(ドリル2の直径Dd)よりも小さい箇所である(図1中段右の断面図)。厚みGtは、穴12Gの内周面12Giと成形体10の外側面11Gfとの間の長さが最も短い箇所の長さをいう。即ち、この穴あけ加工工程では、穴12Gの形成により形成される薄肉部11Gの厚みGtが、穴12Gの径Gdよりも小さくなる箇所に穴12Gを形成する。図1中段図に示す成形体10は、薄肉部11G及び穴12Gの形成前の円筒体であり、薄肉部11G及び穴12Gを二点鎖線で示している。図1中段右の成形体10の断面図は、同中段左の全体斜視図の(B)−(B)切断線で切断した断面図である。
【0030】
薄肉部11Gの厚みGtは、Gd/5以上Gd/2以下(Dd/5以上Dd/2以下)とすることが好ましい。薄肉部11Gの厚みGtが上記範囲であることで、薄肉部11Gの外側面の損傷を抑制できる。薄肉部11Gの外側面とは、成形体10の外側面11Gf(端面)における成形体10の軸方向の穴12Gの投影領域をいう。薄肉部11Gの厚みGtは、穴12Gの径Gdにもよるが、例えば、0.01mm以上10mm以下、更には0.5mm以上10mm以下が挙げられる。
【0031】
薄肉部11Gの外側面の表面性状は、プレス成形直後の状態が実質的に維持される。成形体10に穴あけ加工を施しても、上述したように薄肉部11Gの外側面の損傷を抑制し易いからである。薄肉部11Gの外側面の表面性状は、後述の焼結後も実質的に維持される。
【0032】
穴12Gの径Gd(ドリル2の直径Dd)は、成形体10の焼結により焼結部品1(図1下段図)のサイズが成形体10よりも縮小することを考慮した上で、焼結部品1の穴12Sの径Sdが所定の範囲となるように適宜選択すればよい。穴12Gの径Gd(ドリル2の直径Dd)は、例えば、0.2mm以上50mm以下が挙げられる。
【0033】
穴12Gの軸方向の長さGLは、穴12Gの径Gd(ドリル2の直径Dd)以上とすることができる。穴12Gの径Gd(ドリル2の直径Dd)以上のように穴12Gの長さGLの長い穴12Gを形成する場合にも、上述した薄肉部11Gの外側面の損傷抑制、生産性の向上、及びドリル2の寿命の低下抑制といった効果を奏することができる。穴12Gの長さGLは、更に2Gd(2Dd)以上とすることができ、特に3Gd(3Dd)以上とすることができる。穴12Gの長さGLは、凡そ15Gd(15Dd)以下が挙げられる。
【0034】
この穴あけ加工は、成形体10の外側面11Gf(端面)を押圧した状態で行う。それにより、薄肉部11Gの外側面に疵のない成形体10を得られる。穴あけ加工時に成形体10の外側面11Gfを押圧することで、ドリル2による穴12Gを外周側に押し広げるような応力により薄肉部11Gが外側に広がることを抑制できるからである。押圧対象面は、穴あけ加工の加工対象面(成形体10の外周面)以外の面で、ここでは外周面に隣接する成形体10の外側面11Gf(端面)である。押圧する領域は、成形体10の外側面11Gfにおける穴12Gの軸方向の全長に亘る領域とすることが挙げられる。そうすれば、薄肉部11Gの外側面における穴12Gの軸方向の全長に亘って疵のない成形体10を作製できる。
【0035】
この押圧には、成形体10の外側面11Gfにおける所定の領域を押圧する押圧部材3(図2)と、押圧部材3に所定の荷重を付加する荷重付加機構(図示略)とを用いることが挙げられる。図2は、ドリル2(図1中図)の軸方向から成形体10を見た平面図である。押圧部材3は、成形体10を押圧する押圧面と、押圧面に対向配置されて荷重付加機構の荷重を受ける荷重受け面とを備える。押圧部材3の横断面形状は、押圧面と荷重受け面とが同じ幅の矩形状などでもよいが、押圧面の幅よりも荷重受け面の幅が大きいT字状や逆台形状などであることが好ましい。そうすれば、荷重付加機構により押圧部材3に対して荷重を付加し易く、押圧部材3により成形体10の外側面11Gfに押圧力を付加し易い。ここでは、押圧部材3の横断面形状はT字状としている。押圧部材3における成形体10の外側面11Gfとの接触面のうち、押圧部材3の角部は、R面取り加工を施していることが好ましい。そうすれば、押圧部材3で成形体10の外側面11Gfを押圧した際、押圧部材3の角部で成形体10の外側面11Gfが傷付くことを抑制できる。図2では、説明の便宜上、角部のR面を誇張して示している。荷重付加機構には、例えば、油圧シリンダや電動シリンダなどが利用できる。その他、押圧部材3に錘を載せることで成形体10に押圧力を付加してもよい。
【0036】
押圧幅W(押圧面の幅)は、成形体10の外側面11Gfを押圧する領域の幅をいい、穴12Gの軸方向に直交し、かつ外側面11Gfに沿う方向の距離をいう。押圧幅Wは、Gd×1/3≦W≦Gd×2を満たすことが挙げられる。押圧幅WをGd×1/3以上とすることで、成形体10の外側面11Gfに十分な押圧力を付加できる。押圧幅WをGd×2以下とすることで、成形体10の外側面11Gfに局所的に過度な押圧力が作用することを抑制できる。押圧幅Wは、更にGd×4/9以上を満たすことが好ましく、Gd×1/2以上、Gd×2/3以上、特にGd×1以上を満たすことが好ましい。押圧幅Wは、更にGd×1.8以下を満たすことが好ましく、特にGd×1.5以下を満たすことが好ましい。押圧幅Wの中央は、穴12Gの中心を通り薄肉部11Gの厚みGt方向に平行な仮想線Cを採ったとき、この仮想線C上に位置することが好ましい。即ち、仮想線Cから押圧幅Wの両端までのそれぞれの長さLは、同じ長さ(押圧幅W/2)であることが好ましい。
【0037】
(ドリル)
使用するドリル2は、適宜選択できるが、先端部20に円弧状の切れ刃21を有するドリル(以下、R-ドリル)を好適に利用できる(図3A図3B図3C)。図3Aはドリル2の概略平面図であり、図3Bはドリル2を先端側から見た概略正面図であり、図3Cはドリル2の先端部20を部分的に示す概略側面図である。R-ドリルは、穴12Gを広げるよう応力が成形体10に作用し難い。その上、貫通孔を形成する場合、貫通孔の出口の周縁にコバ欠けが生じ難い。ドリル2は、その軸方向に沿った先端部20の長さhが円弧の半径Rに等しい。先端部20とは、切れ刃21の先端(頂点)から外周コーナ23までの部分である。
【0038】
〈切れ刃の形状〉
ドリル2は、図3Aに示すように、チゼルエッジを通り切れ刃21の両外端(外周コーナ23)を結ぶ直線を対角線とする長方形を採り、その長方形の短辺に沿った方向から見たとき、切れ刃21の投影形状が円弧状である。このドリル2を回転させてドリル2の回転軸に直交する方向から切れ刃21を見たとき、切れ刃21の回転軌跡が円弧状に見える。切れ刃21を形成する先端部20の投影輪郭を構成する円弧の中心角αは、例えば130°以上であり、好ましくは135°以上180°以下、より好ましくは150°以上である。この例では、上記円弧の中心角αが180°である。一方、切れ刃21を形成する円弧の半径Rは、例えばドリル2の直径Ddの0.4倍以上0.6倍以下であり、好ましくはドリル径Ddの0.5倍、即ちドリル径Ddの半径(d/2)と同等である。
この例では、切れ刃21の形状が半円状であり、上記円弧の中心角αが180°で、かつ、円弧の半径Rがドリル径Ddの半径に等しい。ドリル2の直径Ddは、特に限定されないが、例えば1.0mm以上20.0mm以下である。ここでいう「ドリルの直径(ドリル径)」とは、切れ刃が形成される部分(所謂、刃部)の外径寸法のことである。
【0039】
〈切れ刃のすくい角〉
切れ刃21のすくい角は、例えば0°以上であり、好ましくは0°超10°以下、より好ましくは5°以上8°以下である。切れ刃21のすくい角は、図3Cに示すように、チゼルエッジを通り切れ刃21の両外端(外周コーナ23)を結ぶ直線を対角線とする長方形を採り、その長方形の長辺に沿った方向から見たとき、軸に平行な面Pと切れ刃21を構成するすくい面22とがなす角度γのことである。この例では、切れ刃21のすくい角が7°である。
【0040】
複数のドリルを使用してもよい。例えば、穴12Gの入口側の加工と出口側の加工とで異なるドリルを使用してもよい。具体的には、穴12Gの入口側の加工をローソク型ドリルで行ない、穴12Gの出口側の加工を上述のR-ドリルで行ってもよい。ローソク型ドリルは、穴12Gの入口の周縁にコバ欠けが生じ難い。ローソク型ドリルとは、先端部の中央がろうそく形状で、先端部において中央と切れ刃の両外端(外周コーナ)とを結ぶ直線同士の間の角度(ドリル後方側)が所定の角度であり、中央と外端との間に凹部(例えば、円弧状)が形成されているドリルをいう。所定の角度としては、例えば、140°以上220°以下程度が挙げられる。このローソク型ドリルは、公知のものを利用できる。
【0041】
(加工条件)
ドリル2の回転数や送り速度は、薄肉部11Gの厚みGt及び穴12Gのサイズ(径Gd、長さGL)に応じて適宜設定すればよい。ドリル2の回転数や送り速度は、量産に適した程度に早くできる。ドリル2の回転数は、例えば、4000rpm以上、更には6000rpm以上、特に10000rpm以上とすることができる。ドリル2の送り速度は、例えば、700mm/min以上、更には800mm/min以上、1600mm/min以上、特に2000mm/min以上とすることができる。
【0042】
[焼結工程]
焼結工程では、上述の切削加工した成形体10を焼結する。この焼結には、適当な焼結炉(図示略)を用いることが挙げられる。焼結の温度は、成形体10の材質に応じて焼結に必要な温度を適宜選択することができ、例えば、1000℃以上、更に1100℃以上、特に1200℃以上が挙げられる。焼結時間は、凡そ20分以上150分以下が挙げられる。
【0043】
この焼結により、焼結部品1が得られる(図1下図)。図1下段右の焼結部品1の断面図は、同下段左の全体斜視図の(C)−(C)切断線で切断した断面図である。この焼結部品1は、穴12Sが形成され、穴12Sの内周面12Siと焼結部品1の外側面11Sfとの間の厚みStが穴12Sの径Sdよりも小さい薄肉部11Sを備える。薄肉部11Sの外側面11Saには、亀裂などの損傷が生じていない。薄肉部11Sの外側面11Saとは、焼結部品1の外側面11Sf(端面)における焼結部品1の軸方向の穴12Sの投影領域(図1下段左の全体斜視図においてハッチングで示す)をいう。焼結部品1のサイズは焼結により成形体10に比較して縮小するが、焼結部品1の薄肉部11Sの厚さSt、穴12Sの径Sd、及び穴12Sの軸方向の長さSLの関係は、成形体10の薄肉部11Gの厚さGt、成形体10の穴12Gの径Gd、及び穴12Gの軸方向の長さGLの関係と同様である。焼結部品1の薄肉部11Sの厚さSt、穴12Sの径Sd、及び穴12Sの軸方向の長さSLはそれぞれ、成形体10の薄肉部11Gの厚さGt、成形体10の穴12Gの径Gd、及び穴12Gの軸方向の長さGLに依存するからである。
【0044】
[用途]
実施形態に係る焼結部品の製造方法は、各種の一般構造用部品(スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの機械部品などの焼結部品)の製造に好適に利用できる。
【0045】
〔作用効果〕
実施形態に係る焼結部品の製造方法によれば、以下の効果を奏することができる。
【0046】
(1)薄肉部11Sの外周面に亀裂などの疵のない焼結部品1が得られる。穴あけ加工工程時に成形体10の外側面11Gfを押圧することで、ドリル2により穴12Gを外周側に押し広げるような応力によって薄肉部11Gが穴12Gの外側に広がることを抑制できる。それにより、焼結部品1に比べて低硬度で脆い成形体10であっても、成形体10に亀裂などの疵が形成されることなく穴を形成し易い。そのため、薄肉部11Gの外側面に疵のない成形体10が得られる。焼結部品1の表面性状は成形体10の表面性状を実質的に維持するため、薄肉部11Gの外側面に疵のない成形体10を焼結することで、薄肉部11Sの外側面11Saに疵のない焼結部品1が得られる。
【0047】
(2)焼結部品1の生産性を向上できる。穴あけ加工の際、成形体10の薄肉部11Gtが穴12Gの外側へ広がることを抑制できることで、成形体10の加工スピードを早くし易いからである。
【0048】
(3)ドリル2の寿命の低下を抑制できる。上述のように穴あけ加工時間を短縮できることから、ドリル2の加工負荷を低減し易いからである。
【0049】
《試験例1》
成形体に穴あけ加工を施して、貫通孔が形成されることで薄肉部が形成された成形体を作製し、薄肉部の外側面への亀裂などの疵の有無を確認した。
【0050】
〔試料No.1−1〜No.1−6〕
試料No.1−1〜No.1−6の成形体は、上述の焼結部品の製造方法で説明した成形工程と穴あけ加工工程とを経て作製した。
【0051】
[成形工程]
水アトマイズ鉄粉(D50:100μm)と、水アトマイズ銅粉(D50:30μm)と、炭素(黒鉛)粉(D50:20μm)と、潤滑剤としてエチレンビスステアリン酸アミドとを用意し、これらを混合して原料粉末を準備した。
【0052】
続いて、原料粉末を図1に示すような円筒状の成形体10が得られる所定の成形用金型に充填し、600MPaのプレス圧力でプレス成形して、厚み:7mm(内径:20mm、外径:34mm)、軸方向の長さ20mmの成形体を作製した。この成形体の密度は、6.9g/cmであった。この密度は、サイズと質量から算出した見かけ密度とした。
【0053】
[穴あけ加工工程]
次に、成形体にドリルを用いて3つの貫通孔を形成することで、3箇所に薄肉部を形成した。貫通孔の形成は、成形体の外周面から成形体の中心軸に向かって穴あけ加工することで行った。貫通孔の径Gdは3.2mm、貫通孔の長さGLは7mm、薄肉部の厚みGtは1.5mmとした。貫通孔の形成箇所は、成形体の外周面の周方向に3等分する箇所とした。その際、形成する3つの貫通孔の隣接する貫通孔同士の間の略中央をチャックで把持して行った。
【0054】
この穴あけ加工は、図2に示すような押圧部材3を用いて、成形体の外側面を押圧した状態で行った。押圧長さは、貫通孔の長さGLと同じ7mm(貫通孔の全長に亘る長さ)とした。押圧幅(mm)及び押圧力(kg)は、表1に示す通り、種々変更した。押圧幅は、成形体の外側面を押圧する領域の幅をいい、貫通孔の軸方向に直交し、かつ外側面に沿う方向の距離とした。押圧幅の中央の位置は、貫通孔の中心を通り薄肉部の厚み方向に平行な仮想線を採ったとき、この仮想線上とした。
【0055】
ドリルは、図3Aに示すような先端部に円弧状の切れ刃を有するR-ドリルを利用した。R-ドリルは、ドリルの直径Ddが3.2mmであり、切れ刃を形成する先端部の投影輪郭を構成する円弧の中心角αが180°で、かつ、円弧の半径Rが1.6mm(ドリルの直径Ddの1/2倍)である。また、切れ刃のすくい角が7°である。このR-ドリルは、住友電工ハードメタル株式会社製のドリル(型番:MDW0800GS4、材質:超硬合金)の先端部の切れ刃を研磨加工して作製した。
【0056】
ドリルの回転数、及びドリルの送り速度(入口送り速度と本送り速度)は、表1に示す通り種々変更した。入口送り速度は、入口近傍(成形体の外周面から3mm)を削るまでの速度をいい、本送り速度は、それ以降出口が開口するまでの速度をいう。
【0057】
[亀裂の評価]
各貫通孔を形成することで形成された各薄肉部の外側面の表面観察及び磁粉探傷検査により、亀裂の有無を確認した。磁粉探傷検査は、磁粉が充填された蛍光液に漬けた成形体を磁化させて、紫外線灯(ブラックライト)で紫外線を照射することで行った。亀裂は、筋状に光って見える。結果を表1に示す。表1の「有」は、3箇所の外側面のうち、1箇所でも亀裂が形成されていたことを示し、表1の「無」は、3箇所の外側面の全てに亀裂が形成されていないことを示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、試料No.1−2〜No.1−4の成形体はいずれも、薄肉部の外側面に亀裂などの疵が形成されなかった。試料No.1−1,No.1−5,No.1−6の成形体は薄肉部の外側面に亀裂が形成された。この結果から、成形体の外側面における貫通孔の全長に亘る領域を特定の幅で押圧すれば、亀裂のない成形体を作製できることがわかった。特に、試料No.1−2〜No.1−4の条件では、亀裂のない成形体を安定して作製できる。
【0060】
ローソク型ドリル(菱高精機株式会社製 ZH342−ViO φ:3.2mm)を利用して、成形体の外側面を押圧しなかった点を除いて、試料No.1−1などと同様にして成形体に貫通孔を形成した。その場合、試料No.1−2〜No.1−4に比較して、亀裂のない成形体を安定して作製することができなかった。
【0061】
なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 焼結部品
10 成形体
11G、11S 薄肉部
11Gf、11Sf、11Sa 外側面
12G、12S 穴
12Gi、12Si 内周面
2 ドリル
20 先端部
21 切れ刃
22 すくい面
23 外周コーナ
3 押圧部材
図1
図2
図3A
図3B
図3C