(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記標識がナノポアを持つ物質であり、該物質が前記リポソームと融合して該リポソームにナノポアが形成されており、前記標識検出段階は、遊離したリポソームのみを選択的に脂質二重膜と融合させ、該脂質二重膜にナノポアを形成する、ナノポア形成段階と、形成されたナノポアにイオンを通過させ、その際の電流を測定する、電流測定段階とを含み、前記ナノポア形成段階及び電流測定段階は、リポソーム結合一本鎖核酸を内面に固定化した容器内で行う、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
前記リポソーム結合一本鎖核酸は、磁性粒子に結合され、前記容器内では、前記リポソーム結合一本鎖核酸は、前記容器の外部からかけられた磁場により、前記容器内の内面に固定化され、それによって前記脂質二重膜との接触が防止される、請求項7記載の方法。
前記二本鎖核酸形成段階及び前記リポソーム遊離段階を第1の容器内で単一の操作で行い、前記脂質二重膜は、第2の容器内に形成され、前記ナノポア形成段階及び前記電流測定段階を第2の容器内で行う、請求項1、7及び8のいずれか1項に記載の方法。
前記二本鎖核酸形成段階及び前記リポソーム遊離段階は、反応液の温度を標的核酸の変性温度から、標的核酸の融解温度よりも低くかつ二本鎖特異的ヌクレアーゼの作用温度範囲内まで低下させ、二本鎖特異的ヌクレアーゼの存在下、二本鎖特異的ヌクレアーゼの作用温度範囲内で維持することを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい態様である、前記標識がナノポアを持つ物質であり、該物質が前記リポソームと融合して該リポソームにナノポアが形成されており、前記標識検出段階は、遊離したリポソームのみを選択的に脂質二重膜と融合させ、該脂質二重膜にナノポアを形成する、ナノポア形成段階と、形成されたナノポアにイオンを通過させ、その際の電流を測定する、電流測定段階とを含む態様について説明する。この態様には、大別して第1の実施形態と第2の実施形態がある。以下、それぞれについて説明する。
【0012】
1. 第1の実施形態
まず、本発明の好ましい一実施形態である、二本鎖核酸形成段階と、リポソーム遊離段階とを第1の容器(例えば試験管)内で行い、ナノポア形成段階と電流測定段階とを第2の容器(例えばダブルウェルチャンバー(DWC))内で行う方法について説明する。
【0013】
(1) 標的核酸
本発明の方法により検出すべき試料中の標的核酸としては、検出することが望まれる、特定の塩基配列を持つ核酸であれば特に限定されず、DNAでもRNAでもよいが、RNAは、後述する二本鎖特異的ヌクレアーゼにより切断されないのでRNAの方が好ましい。ここで、「特定の塩基配列」は、検出が望まれる核酸の既知の塩基配列である。ここで、「既知の塩基配列」とは、本発明の方法を実施する者にとって既知という意味であり、必ずしも公知である必要はない。「特定の塩基配列を持つ核酸」とは、その核酸の塩基配列が、その特定の塩基配列と同一であることを意味する。標的核酸のサイズは、特に限定されないが、検出特異性の観点から、塩基数が18〜40個のものが好ましく、特に20〜25個のものが好ましい。特にがんやその他の疾患のバイオマーカーとして注目を集めているmiRNAが好ましい。また、標的核酸を含む試料としては、特に限定されないが、生体から分離された体液又はその希釈物が好ましく、特に血液試料(全血、血清、血漿を包含する)又はその希釈物が好ましい。
【0014】
(2) リポソーム結合一本鎖核酸
本実施形態の方法では、ナノポアを有するリポソームに結合され、支持体に固定化可能なように修飾された、前記標的核酸と相補的な塩基配列を含む、リポソーム結合一本鎖核酸が用いられる。下記実施例で作製した、好ましいリポソーム結合一本鎖核酸の模式図を
図1に示す。
図1中、上段右側の図が、磁気粒子10に多数(
図1では4個)のリポソーム結合一本鎖核酸12が結合されている様子を示す模式図であり、
図1の下段が、各リポソーム結合一本鎖核酸12を拡大して示す模式図、
図1の上段左側の図が、リポソーム結合一本鎖核酸12中のリポソーム部分を拡大して示す模式図である。なお、図示される各要素の形状や寸法比率は実物とは異なる。
図1の下段の図に示されるように、一本鎖核酸12の末端(図示の例では5’末端)にはコレステロール14を介してリポソーム16が結合されている。このリポソーム16の拡大模式図が
図1の上段左側に示されている。リポソーム16は、脂質二重膜18から成り、この脂質二重膜18に所々(図示の例では3箇所)、チャネルタンパク質であるα−ヘモリシン20が融合している。α−ヘモリシン20は、ナノポアを持つチャネルタンパク質であるので、α−ヘモリシン20が融合している部分には、ナノポア22が形成されている。これにより、このリポソーム16は、ナノポア22を有することになる。一方、一本鎖核酸12の、リポソーム16とは反対側の末端(図示の例では3’末端)には、ビオチン24が結合され、このビオチンと、磁性粒子10上に固定化されているストレプトアビジン26との特異的結合により、一本鎖核酸12が磁性粒子10に結合されている。
【0015】
以下、
図1に例示されるようなリポソーム結合一本鎖核酸について説明する。
【0016】
一本鎖核酸の一端にリポソームを結合する方法自体は公知である。すなわち、例えば、一本鎖核酸の一末端(5’末端又は3’末端)にコレステロールを結合し、一方、常法によりリポソームを形成し、このコレステロール結合一本鎖核酸とリポソームとを接触させることにより、コレステロールを介してリポソームと一本鎖核酸とが結合される。一本鎖核酸の一端にコレステロールを結合する方法は公知であり、例えば、コレステリル-トリエチレングリコール-ホスホラミダイトを、10%テトラヒドロフランのアセトニトリル溶液に溶解し、一本鎖核酸と混合して15分室温でインキュベートし、次いで10%ジエチルアミンを含むアセトニトリルで処理することにより行うことができる。なお、所望の塩基配列を持つ一本鎖核酸の一末端に、コレステロールが結合されたコレステロール結合一本鎖核酸を合成する商業サービスも存在するので、このような商業サービスを利用することも可能である。
【0017】
上記リポソームはナノポアを有する。ナノポアは、直径がナノメートルのオーダーの微小な透孔である。ナノポアは、リポソームの外側と内側に向かって開口しており、イオンが通過可能なものである。ナノポアを持つ物質としては、このようなサイズのチャネルを持つチャネルタンパク質を好ましく用いることができる。チャネルタンパク質は、分子内にチャネルと呼ばれる透孔を有するタンパク質であり、生体内ではこのチャネルを介して各種イオン等の輸送が行われる。チャネルタンパク質としては、α−ヘモリシン、外膜タンパク質(Outer membrane protein) F (OmpF)、マイコバクテリウム・スメグマチスポリン(Mycobacterium smegmatis porin) A (MspA)、ストレプトリジンO等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、リポソームのような脂質二重膜に形成することが可能な、このような透孔として、金属錯体や人工ペプチドも利用することができる。ここで、利用可能な金属錯体としては、MOP(Metal organic polyhedra)を挙げることができる。また、利用可能な人工ペプチドとしては、相互に架橋を施し透孔を安定化した人工アラメチシンを挙げることができる。これらは、脂質二重膜に保持可能であることが報告されている。
【0018】
これらのナノポアを持つ物質を、リポソームの脂質二重膜に保持することにより、ナノポアを持つリポソームを調製することができる。α−ヘモリシンのようなチャネルタンパク質は、生体内では、脂質二重膜である細胞膜等に保持されているので容易に脂質二重膜に保持させることができる。すなわち、チャネルタンパク質の存在下でリポソームを形成したり、リポソーム形成後にチャネルタンパク質をリポソームと接触させることによりリポソームの脂質二重膜にチャネルタンパク質を保持させることができる(例えば、特開2014-100672号公報、特開2015-077559号公報等)。また、下記実施例では、リポソーム形成後に、リポソーム存在下で、無細胞系タンパク質合成キット(市販品)を用いて、α−ヘモリシン遺伝子を発現させ、生産されたα−ヘモリシンをリポソームの脂質二重膜に保持しているが、このような方法も可能である。
【0019】
前記リポソーム結合一本鎖核酸は、支持体に固定化可能なように修飾されている。ここで、支持体は、固相であれば特に限定されないが、好ましくは、容器の内面(側面及び/又は底面)である。リポソーム結合一本鎖核酸は、支持体に固定化可能なように修飾されている。これは、例えば、リポソーム結合一本鎖核酸の、リポソームとは反対側の末端に磁性粒子(「磁気ビーズ」とも呼ばれる)を結合することにより行うことができる。磁性粒子は、容器の外部から磁場をかけることにより、容器の内面に固定化することができるので、一末端に磁性粒子を結合することは、「支持体に固定化可能なように修飾されている」に該当する。磁性粒子としては、アミノ基やカルボキシル基等の種々の官能基を表面に有するものが市販されているので、カルボジイミド等のカップリング剤を用いて核酸を支持体に共有結合することができる。また、磁性粒子として、表面にストレプトアビジンを固定化したものも市販されており、これを用いることもできる(
図1参照)。この場合には、リポソーム結合一本鎖核酸の、リポソームとは反対側の末端にビオチンを結合し、このビオチンをストレプトアビジンと結合させることにより、該末端に磁性粒子を結合することができる。なお、核酸の一端にビオチンを結合することは広く行われており、所望の塩基配列を持つ一本鎖核酸の一端にビオチンを結合したものを合成する商業サービスも存在する。あるいは、磁性粒子以外の粒子(ビーズ)であって、支持体に固定化可能な粒子に結合したものであってもよい。例えば、ストレプトアビジンが固定化されたアガロースビーズが市販されているので、上記と同様にリポソーム結合一本鎖核酸の一端にビオチン結合して、ストレプトアビジン固定化アガロースに結合したものであってもよい。ストレプトアビジン固定化アガロースは、第2の容器の内面にビオチンを固定化しておけば、余剰のストレプトアビジンとビオチンとの結合により第2の容器の内面に固定化可能である。さらに、リポソーム結合一本鎖核酸の一端にビオチン結合したものであってもよい。この場合、第2の容器の内面にストレプトアビジンを固定化しておけば、リポソーム結合一本鎖核酸を第2の容器の内面に固定化することが可能である。
【0020】
リポソーム結合一本鎖核酸は、検出すべき標的核酸と相補的な塩基配列を含む。ここで、「相補的な」とは、完全に相補的である場合のみならず、完全に相補的ではなくても、塩基配列に基づいて特異的に結合可能な程度の相補性を持つ場合も包含される。通常、ミスマッチの塩基数が2個以下の場合には許容可能な程度に相補的である。もっとも、完全に相補的であることが好ましい。
【0021】
リポソーム結合一本鎖核酸のサイズは、標的核酸と同じであってもよいが、ハイブリダイゼーションの効率を高める観点から、標的核酸よりも長いことが好ましい。リポソーム結合一本鎖核酸と標的核酸がハイブリダイズした状態で、リポソーム結合側及びその反対側の末端に3〜10塩基程度の一本鎖領域が存在するようにリポソーム結合一本鎖核酸のサイズと、標的核酸との相補領域の位置を設定することが好ましい。
【0022】
(3) 二本鎖核酸形成段階
次に、標的核酸と前記リポソーム結合一本鎖核酸をハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成する。この二本鎖核酸形成段階では、標的核酸が二本鎖核酸である場合、まず、試料を標的核酸の変性温度(通常、94℃〜99℃、好ましくは98℃)に維持して変性処理を行う。標的核酸の変性を十分行うために、変性温度で、15秒〜60秒程度維持することが好ましい。なお、標的核酸が一本鎖核酸の場合には変性処理は不要であるが、一本鎖であっても、分子内ハイブリダイゼーション等によりループ等の二次的な構造を取ることが少なくないので、一本鎖核酸の場合でも変性処理を行うことが好ましい。
【0023】
変性処理後、試料を冷却して、試料温度を標的核酸の融解温度(Tm)よりも低くかつ二本鎖特異的ヌクレアーゼの作用温度範囲内まで低下させる。冷却後、上記したリポソーム結合一本鎖核酸及び、好ましくは、二本鎖特異的ヌクレアーゼを添加する。添加するリポソーム結合一本鎖核酸の量は、想定される試料中の標的核酸よりも過剰量であることが好ましく、特に限定されないが、通常、反応液中の終濃度として、一本鎖核酸の濃度で、通常、0.01nM〜10000nM程度、好ましくは、0.1nM〜100nM程度である。なお、二本鎖核酸の融解温度は、核酸の鎖長とGC含量から周知の計算式により計算可能であり、多くのマイクロRNAでは、50℃〜60℃程度である。二本鎖特異的ヌクレアーゼは、至適温度は50℃前後であるが、作用温度範囲は広く、室温下でも作用する。酵素反応の効率の観点からは、至適温度近辺を採用することが望ましいが、磁性粒子等の粒子との結合にストレプトアビジンを用いている場合には、ストレプトアビジンの熱変性を防止する上で、より低い温度を採用することが好ましく、室温から40℃程度、さらには、37℃±2℃程度の温度を採用することが好ましい。この冷却過程は、単に変性温度(例えば98℃)に設定された恒温槽から、冷却後の最終温度(例えば37℃)に設定された恒温槽に第1の容器を移すことにより行うことができる。また、反応液の媒体として用いられる緩衝液も、特に限定されず、通常のハイブリダイゼーションにおいて常用されているものであって、二本鎖特異的ヌクレアーゼが作用可能(好ましくはマグネシウムイオンを含む)な緩衝液であればよい。なお、最後の電流測定段階では、脂質二重膜内に形成されたナノポアを通過するイオン電流を測定するので、水溶液の液滴には、カリウム塩のような、水中で電離して陽イオンを生じる物質を含めておくことが好ましい。
【0024】
この段階において、試料中に標的核酸が含まれていない場合には、ハイブリダイゼーションは起きず、二本鎖は形成されない。
【0025】
(4) リポソーム遊離段階
次に、形成された二本鎖核酸に、二本鎖特異的ヌクレアーゼを作用させて核酸を切断し、前記リポソームを遊離させる。この段階は、二本鎖特異的ヌクレアーゼの存在下、反応液の温度を二本鎖特異的ヌクレアーゼの作用温度範囲内に維持することにより行うことができる。反応液中の二本鎖特異的ヌクレアーゼの終濃度は、特に限定されないが、通常、1unit/ml〜500unit/ml程度、好ましくは10unit/ml〜100unit/ml程度である。リポソーム遊離段階の時間は、特に限定されないが、15分以上が好ましく、20分〜1時間程度が好ましい。
【0026】
なお、変性処理後の試料を冷却後、リポソーム結合一本鎖核酸のみを試料に添加して二本鎖形成段階を行い、次いで、二本鎖特異的ヌクレアーゼを添加してリポソーム遊離段階を行うことも可能であるが、リポソーム結合一本鎖核酸と二本鎖特異的ヌクレアーゼを同時又は連続的に添加して、二本鎖形成段階とリポソーム遊離段階とを同時並行的に行うことが効率の観点から好ましい。この場合、個々の分子に着目すれば、先に二本鎖が形成され、次いでリポソームが遊離されるので、二本鎖形成段階が先にあって、次にリポソーム遊離段階があるが、反応液全体でみれば、二本鎖形成段階とリポソーム遊離段階は、同時並行的に進行する。
【0027】
リポソーム遊離段階では、二本鎖特異的ヌクレアーゼの作用により、二本鎖核酸のみが選択的に切断される。切断の結果、リポソーム結合一本鎖核酸から、リポソームが遊離する。ただし、通常、リポソームには、切断された一本鎖核酸の断片は結合しているが、後のナノポア形成段階では問題なく脂質二重膜にナノポアが形成されるので、「リポソームが遊離する」は、リポソームに切断後の一本鎖核酸の断片が結合したリポソームが遊離する場合を包含する。一方、標的核酸と二本鎖を形成しなかったリポソーム結合一本鎖核酸は、切断されないので、リポソームは一本鎖核酸から遊離されない。すなわち、試料中に、標的核酸が含まれていない場合には、リポソームは一本鎖核酸から遊離されない。二本鎖特異的ヌクレアーゼとしては、DNAのみを切断するものが好ましい。このような二本鎖特異的ヌクレアーゼを用いると、標的核酸がマイクロRNAのようなRNAで、一本鎖核酸がDNAの場合、DNAのみが切断され、RNAである標的核酸は切断されない。このため、DNAの切断後、標的RNAが再び一本鎖となって、異なるリポソーム結合一本鎖核酸とハイブリダイズし、先に述べたメカニズムにより再度リポソームが遊離され、これが繰り返される。したがって、1分子の標的RNAが、複数のリポソームを次々に遊離させることができ、標的RNAの検出感度が向上する。このように、1分子の標的RNAが、複数のリポソームを次々に遊離させる場合には、反応液全体としてみれば、二本鎖形成段階とリポソーム遊離段階は、同時並行的に行われている。なお、RNA−DNA二本鎖のDNAのみを切断する二本鎖特異的ヌクレアーゼは市販されているので、市販品を好ましく用いることができる。
【0028】
(5) ナノポア形成段階
(i) 脂質二重膜の形成
次に、第2の容器(好ましくはDWC)内に脂質二重膜を形成する。脂質二重膜の形成方法は、周知であり、例えば、一般的な脂質二重膜形成法である液滴接触法により形成することができる。この方法は、有機溶媒中に形成した二つの脂質単分子膜を接触させることで、接触界面に脂質二重膜を形成する周知の方法であり、例えば特開2012-81405号公報、特開2014-100672号公報及び特開2015-077559号公報等に記載されており、下記実施例にも具体的に記載されている。好ましい具体例では、第2の容器として、下記実施例に記載するようなダブルウェルチャンバー(DWC)を用い、DWCの境界部分に脂質二重膜を形成することができる。すなわち、DWCの2つのチャンバーのそれぞれに脂質二重膜形成性脂質溶液を添加し、各チャンバーに水又は水溶液を添加して前記脂質溶液中に水又は水溶液の液滴を形成させ、この状態で放置して2つの液滴の接触部分に脂質二重膜を形成させることができる。DWCを用いて液滴接触法により形成された脂質二重膜の模式図を
図2に示す。
図2中、28a、28bは、DWCの各チャンバー内にそれぞれ形成された、脂質単分子膜で囲包された水性液滴であり、それらの周囲は、脂質32を含む有機溶媒である。DWCの各チャンバーの境界部分で、各脂質単分子膜が接触し、この部分に脂質二重膜30が形成される。なお、脂質二重膜の形成方法は、液滴接触法に限定されるものではなく、種々の公知の方法を包含するいずれの方法により形成されたものであってもよい。
【0029】
脂質二重膜を形成後、リポソーム遊離段階後の反応液を添加してもよいが、脂質二重膜を形成する際、一方のチャンバーに添加する水溶液として、リポソーム遊離段階後の反応液を用いることが好ましい。
【0030】
次に、リポソーム遊離段階で遊離したリポソームのみを選択的に前記脂質二重膜と融合させ、該脂質二重膜にナノポアを形成する。リポソームと脂質二重膜との融合は、単にリポソームが脂質二重膜と接触することにより自動的に行われる。試料中に標的核酸が存在する場合、リポソーム遊離段階後の反応液中には、一本鎖核酸から遊離したリポソームと、一本鎖核酸に結合されたままのリポソームが混在している。このうち、一本鎖核酸から遊離したリポソームのみを選択的に脂質二重膜と融合させる。これは、リポソーム結合一本鎖核酸として、上記した、磁性粒子に結合したものを用い、第2の容器の外部から磁場をかけることにより容易に行うことができる。すなわち、第2の容器の外部から磁場をかけた状態で、第2の容器にリポソーム遊離段階後の反応液を添加すると、切断されなかったリポソーム結合一本鎖核酸は、磁性粒子が磁力により引っ張られて第2の容器の内面に固定化される。磁性粒子は、添加直後から、第2の容器の内面に向かって引っ張られているので、リポソーム結合一本鎖核酸のリポソームは、脂質二重膜と融合できない。これに対し、リポソーム遊離段階で、一本鎖核酸が切断されて遊離したリポソームには、もはや磁性粒子が結合していないので、磁力によって第2の容器の内面に向かって引っ張られることがないので、リポソームが脂質二重膜と十分に接触して融合し、脂質二重膜内にナノポアが形成される。同様に、第2の容器内面にビオチン又はアビジンを固定化し、リポソーム結合一本鎖核酸として、ビオチン修飾したもの又は、ストレプトアビジン固定化アガロースビーズに結合したものを用いる場合も、ビオチン−アビジン結合は極めて親和性が高いので、磁性粒子を用いた場合と同様、遊離したリポソームのみが脂質二重膜と融合すると考えられる。なお、第2の容器としては、上記のとおりDWCが好ましく、この場合、リポソーム遊離段階からの反応液は、DWCの2個のチャンバーのうちの片方又は両方に添加される(両方のチャンバーに添加する場合であって、磁性粒子を用いる場合は、両チャンバーの外側から磁場をかける)。なお、ナノポア形成段階は、上記したリポソーム遊離段階と同程度の温度下で行うことも可能であるが、室温下でも十分反応が進むので、室温下で行うことが簡便である。
【0031】
以上から明らかなように、試料中に標的核酸が含まれていない場合には、リポソーム遊離段階でリポソームが遊離しないので、脂質二重膜中にナノポアは形成されず、従って、次の電流測定段階では、電流は測定されない。
【0032】
(6) 電流測定段階
次に、上記のようにして、脂質二重膜に形成されたナノポアを通過するイオン電流を測定する。イオン電流が生じるためには、上記のとおり、二本鎖核酸形成/リポソーム遊離段階に用いる緩衝液中に、カリウム塩のような水中で電離して陽イオンを生じる物質を含有させておくことが好ましい。なお、脂質二重膜に形成されたナノポアを通るイオン電流を測定することは、公知であり、例えば、上記した特開2014-100672号公報、特開2015-077559号公報等に記載されている。
【0033】
第2の容器としてDWCを用いた場合の、イオン電流測定のための回路の好ましい1例を
図3に模式的に示す。
図3中、30は脂質二重膜、33はDWC、34はリポソーム遊離段階後の反応液、35は、もう一方のチャンバーに添加した水溶液、36は、有機溶媒中の脂質溶液、38は、Ag/AgCl電極のような電極、40はパッチアンプ回路である。計測は、印加電圧を30mV〜120mV程度、サンプリングレートを1kHz〜10kHz程度、ローパスフィルターを0.5kHz〜2kHz程度に設定して行うことができるが、計測条件は、これに限定されるものではない。
【0034】
試料中に標的核酸が存在する場合、上記のとおり、ナノポア形成段階で脂質二重膜中にナノポアが形成されるので、このナノポアを通るイオン電流が測定される。一方、試料中に標的核酸が存在しない場合には、ナノポア形成段階で脂質二重膜中にナノポアが形成されないので、ナノポアを通るイオン電流は測定されない。したがって、測定電流の有無により、試料中の標的核酸を検出することが可能になる。
【0035】
なお、ナノポア形成段階と同時に電流測定を開始することも可能であり、この場合、ナノポア形成段階と電流測定段階は、同時並行で行われる。ナノポア形成段階と電流測定段階は、同時並行で行う場合には、電流を測定しながら、ナノポア形成も進行するので、脂質二重膜に形成されるナノポアの数が、電流測定中に増加し得る。これが起きると、ナノポアの数が増えるたびに測定電流が増加するので、測定電流が段階状に増大する。これにより、検出の感度が一層向上する。
【0036】
なお、上記した方法では、各段階の条件を一定にすれば、試料中の標的核酸の量に依存した測定電流が得られるので、本発明の方法により、標的核酸の定量も可能である。なお、定量を行う場合には、必然的に「検出」も行われるので、本発明の「検出方法」には、定量を行う場合も包含される。
【0037】
2. 第2の実施形態
上記した第1の実施形態では、リポソーム遊離段階までを試験管のような第1の容器内で行い、ナノポア形成段階以降をDWCのような第2の容器内で行ったが、全段階(ただし、試料の変性処理は除く)を1つの容器内で行うことも可能である。
【0038】
この第2の実施形態で用いるリポソーム結合一本鎖核酸は、第1の実施形態の場合と同様でもよいし、予め容器(好ましくはDWCのチャンバー)の内面(支持体)に固定化しておいてもよい。この固定化は、
図1に示すような、リポソーム結合一本鎖核酸に磁性粒子を結合させておいて、磁力により容器内面に固定化することによっても行うことができるが、予め容器の内面に固定化しておいてもよいので、磁性粒子を用いる必要はなく、周知の様々な方法により、容器の内面に固定化することもできる。核酸の直接的な固定化は、この分野において種々の方法が周知であり、そのいずれをも採用することができる。例えば、支持体にアミノ基を設けておき、カルボジイミド等のカップリング剤を用いて核酸を支持体に共有結合することができる。
【0039】
第2の実施形態では、二本鎖核酸形成段階、リポソーム遊離段階、ナノポア形成段階及び電流測定段階を1つの容器内で行うので、これらの段階を同時並行して進めることもできる。なお、二本鎖核酸形成段階における最初の標的核酸の変性処理は、高温のため、脂質二重膜を損傷する恐れがあるので、別の容器で行うことが好ましい。試料液(リポソーム結合一本鎖核酸を含む又は含まない)を、DWCの一方のチャンバーにおける水溶液として用いて、上記した液滴接触法により脂質二重膜を形成することができる。リポソーム結合一本鎖核酸として、磁性粒子が結合されているものは、磁力により容器の内面に固定化することができるので、試料液に含めておくことができる。リポソーム結合一本鎖核酸が予め容器の内面に固定化されている場合には、試料液はリポソーム結合一本鎖核酸を含まない。
【0040】
脂質二重膜を形成後、二本鎖核酸形成段階、リポソーム遊離段階、ナノポア形成段階及び電流測定段階の各段階は、それぞれ、第1の実施形態の説明において上記した条件下で行うことができる。ただし、容器内に脂質二重膜が存在する状態で、二本鎖核酸形成段階及びリポソーム遊離段階を行うので、必然的にナノポア形成段階も同時進行する。電流測定段階は、脂質二重膜の形成直後から開始してもよいし、15分以上のリポソーム遊離段階後に開始してもよい。電流測定開始後も、二本鎖核酸形成段階、リポソーム遊離段階、ナノポア形成段階はそれぞれ進行するので、4つの段階は同時進行する。
【0041】
第2の実施形態における各段階を、試料中に標的核酸が存在する場合と存在しない場合について、
図4に模式的に示す。ここでは、標的核酸がmiRNAであり、二本鎖特異的ヌクレアーゼは、二本鎖DNA−RNAのうちのDNAを切断するものである場合が示されている。
図4の左欄が試料中に標的miRNAが含まれている場合、右欄が試料中に標的miRNAが含まれていない場合(標的miRNA以外のmiRNAやDNAを含む)について示している。
【0042】
図4中、
図1〜
図3に登場した同様な要素には同じ参照番号が付されている。
図4中、10は磁性粒子、12は一本鎖DNA、16はナノポアを有するリポソーム、30はDWCの境界に形成された脂質二重膜、42はDWCの一方のチャンバーの側壁内面、44が標的miRNA、46が標的miRNA以外のmiRNAやDNAである。
【0043】
段階A(
図4右端参照)は、準備段階であり、磁力により、磁性粒子10を側壁内面42に結合することにより、リポソーム結合一本鎖DNA12を側壁内面42に固定化する。リポソーム結合一本鎖DNA12を側壁内面42に固定化された状態で、リポソームは、脂質二重膜30と接触しない位置にある。なお、上記のとおり、磁性粒子10を用いずに、共有結合等により、リポソーム結合一本鎖DNA12を側壁内面42に固定化しておくことも可能である。
【0044】
段階Bは、二本鎖形成段階であり、試料中に標的miRNAが含まれる場合(図中左側)には二本鎖核酸が形成されるが、試料中に標的miRNAが含まれない場合(図中右側)には、二本鎖核酸は形成されない。
【0045】
段階Cは、リポソーム遊離段階であり、試料中に標的miRNAが含まれる場合(左側)には、二本鎖特異的ヌクレアーゼ(図中、「はさみ」で表示)により、一本鎖DNA12が切断されてリポソーム16が遊離されるが、試料中に標的miRNAが含まれない場合(図中右側)には、二本鎖核酸が形成されていないため、リポソームも遊離されない。なお、段階Cにおいては、標的miRNAは切断されずに遊離するので、遊離した標的miRNAは再度、一本鎖DNA12とハイブリダイズして二本鎖を形成するので、シグナル(後の電流測定段階で測定されるイオン電流)が増大する。
【0046】
段階Dは、ナノポア形成段階であり、試料中に標的miRNAが含まれる場合(左側)には、遊離したリポソーム16が脂質二重膜30と融合して、脂質二重膜中にナノポア22が形成される(図では2個のナノポアが形成)が、試料中に標的miRNAが含まれない場合(図中右側)には、リポソームが遊離していないので、脂質二重膜30中にナノポアは形成されない。
【0047】
段階Eは、電流測定段階であり、試料中に標的miRNAが含まれる場合(左側)には、形成されたナノポア22を介してイオン電流が流れ、シグナルが測定される。なお、電流測定段階中もナノポア形成段階は進行するので、脂質二重膜30中に形成されるナノポア22の数が増える度にイオン電流が増大し、階段状の電流が測定される。一方、試料中に標的miRNAが含まれない場合(図中右側)には、脂質二重膜30中にナノポアは形成されていないので、イオン電流は0のままである。
【0048】
以上のように、試料中にmiRNAが含まれる場合には、階段状の電流が測定され、試料中にmiRNAが含まれない場合には、電流が測定されないので、この方法により、試料中の標的miRNAを検出することができる。
【0049】
以上、標識が、α−ヘモリシンのようなナノポアを持つ物質である場合について説明したが、標識は、これに限定されるものではなく、検出可能でリポソーム内に含ませるか又はリポソーム表面に結合させることが可能な物質であれば、いずれも採用することができる。このような標識は、例えば免疫測定の分野において広く用いられており、これらの周知の標識をいずれも採用することができる。すなわち、例えば、酵素標識、蛍光標識、化学発光標識、放射標識、金コロイド標識等を用いることができる。なお、リポソームは、薬剤送達システム(DDS)において多用されていることからも明らかなように、周知の方法により、様々な物質を封入することが可能であるので、免疫測定において常用されている上記標識以外の物質であっても、何らかの方法により検出可能な物質であれば、該物質をリポソーム内部に封入することにより標識として利用可能である。例えば、免疫測定において常用されている酵素標識の基質を標識として利用することも可能である。すなわち、リポソーム内に基質を封入し、封入された基質を酵素と反応させて検出することが可能である。また、リポソームは、上記したα−ヘモリシンのようなタンパク質を脂質膜に融合させることができるので、α−ヘモリシンに代えて酵素等のタンパク質をリポソームの脂質膜に融合又は結合することも可能である。
【0050】
このような、検出可能でリポソーム内に含ませるか又はリポソーム表面に結合させることが可能な物質を標識として用いる場合、遊離したリポソームのみを選択的に回収し、回収された遊離のリポソーム内に封入された又はリポソーム表面に結合された標識を検出すればよい。遊離したリポソームのみを選択的に回収する操作は、単に、リポソーム遊離段階後の液相を回収することにより行うことができる。
【0051】
例えば、酵素免疫測定で多用されている、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)のような酵素を標識としてリポソーム内に封入し、遊離したリポソーム内の酵素を測定する場合にはリポソーム遊離段階後の液相を回収し、ケミルミネッセンスを代表例とする周知の基質と混合することで遊離リポソーム濃度に応じて産生する基質分解産物を測定する。基質の種類に応じて検出方法は異なるが、発色基質の3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)や4-クロロ-1-ナフトールなどを用いた場合は視認できる発色を得ることが可能であり、吸光分光計を用いると発色量を定量することも可能である。蛍光基質の10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(ADHP)と過酸化水素水を用いると、96穴プレートなどにより蛍光値を測定することが想定される。具体例の一つとして、HRP 0.1mg/ml、NaCl 300mM, HEPES-KOH (pH7.6) 15mM、ショ糖200mMを含むリポソームを作成し、遊離段階後にリポソーム液を回収する。TMB 発色用市販原液を規定希釈した溶液にTween-20(商品名)1%を含むTMB基質溶液100μlと混合し、室温、好ましくは37℃で30分反応させる。30分後、溶液が青色に呈するかを目視で判別し、遊離リポソームが回収されているかを判別する。このとき、プレートリーダー等で発色度合を数値化することも可能である。逆に、酵素反応の基質をリポソーム内に封入し、封入された基質を測定する場合には、具体的には次のようにして行うことができる。5-クロロメチルフルオレッセインジ-β-D-ガラクトピラノシド(CMFDG)1 mM、NaCl 300mM, HEPES-KOH (pH7.6) 15mM、ショ糖200mMを含むリポソームを作成し、遊離段階後にリポソーム液を回収する。次にβ-ガラクトシダーゼ1μM、NaCl 300mM, HEPES-KOH (pH7.6) 15mM、Tween-20(商品名)1%を含む溶液と混合し、室温、好ましくは37℃で30分反応させる。プレートリーダー等を用いて488nm領域の励起光を用いて515nm領域の蛍光波長を測定する。これらと同様に、標識として利用可能な他の種々の物質も、それぞれの物質について公知の方法により、検出することができる。
【0052】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
1. リポソーム結合一本鎖オリゴDNAの作製
DOPE:DOPS:DOPC:コレステロール= 5:3:3:1 (重量比)、合計1.2 mg になるように、以下の量にて脂質混合液をガラスバイアルにて調製した。脂質溶液は全てクロロホルムに溶解したものである。
DOPE:1,2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(25 mg/ml)を20μL
DOPS:1,2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスフォ-L-セリン(50 mg/ml)を6μL
DOPC:1,2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(25 mg/ml)を12μL
【0054】
これに、一本鎖DNA(5’末端にコレステロール、3’末端にビオチンが結合)(10μM)を0.6μL添加した。一本鎖DNAの塩基配列は以下のとおりであった。
cccccccatctttaccagacagtgttaccccc (配列番号1)
なお、コレステロールとビオチンが結合された配列番号1の一本鎖DNAは、ユーロフィンジェノミクス社のカスタムオリゴ合成サービスにより外注した。更にクロロホルムを 50.4 μL、次いで、更にメタノールを10μL添加した。アルゴンガスを吹き付けて溶媒を揮発させ、ガラスバイアルの側壁に脂質フィルムを形成した。デシケータを用いてガラスバイアルを真空下にて2時間以上、保持した。
【0055】
内液(NaCl 300mM, HEPES-KOH (pH7.6) 15mM、ショ糖200mM)200μLで水和し、リポソームを作製した。外液(NaCl 300mM, HEPES-KOH (pH7.6) 15mM)300μLを混和し、18000G、15分、4℃ で遠心し、リポソーム結合一本鎖DNAを調製した。
【0056】
2. リポソームへのα−ヘモリシンの組み込み
1の遠心沈殿に、α−ヘモリシン遺伝子(塩基配列は、GenBank Accession No. WP_000857483に記載したものを参考にした(シグナル配列を除外)。ユーロフィンゲノミクス社から購入(合成依頼))5 nMを混合したPURE frex 2.0(ジーンフロンティア社製商品名)溶液20μLを用いて懸濁した。37℃で6時間インキュベートし、ヘモリシンを合成すると同時にリポソームの脂質膜に組み込んだ。外液(組成は上記、以下同じ)500μLを用いてリポソーム液を懸濁、18000G、15分、4℃の遠心操作でリポソームを沈殿させ、上清を捨てて新しい外液1mLを用いて懸濁した。エクストルーダー装置(Avanti polar lipids社製)を用いてリポソームサイズを小さくした(フィルターサイズ100 nm)。
【0057】
3.リポソーム結合一本鎖DNAの磁性ビーズへの結合
磁性ビーズ(dynabeads, myone streptavidin C1(商品名)、Thermo Fisher Scientific 社) 500μLを外液500μLで懸濁し、DynaMag装置(商品名、Thermo Fisher Scientific社)を用いてビーズをチューブ側壁に集め、外液を新たな外液1mLと交換してビーズを洗浄した。磁性ビーズ溶液500μLと2で得られたリポソーム溶液500μLを混和し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート中、数回の転倒混和を繰り返した。DynaMag装置を用いて外液を除去した。外液2(組成:Tris-HCl (pH7.0) 20mM、MgCl
2 20mM、DTT 1mM, KCl 50mM, CaCl
2 1m)500μLを用いて磁性ビーズを懸濁した。
【0058】
4. 標的miRNA等
標的miRNAは、miRNA-141(塩基配列:uaacacugucugguaaagaugg(配列番号2))であった。モック(mock)として、標的miRNA以外の以下のmiRNA及びDNAも用いた。
miRNA-16 :uagcagcacguaaauauuggcg (配列番号3)
DNA-20C141: ccatctttaccagacagtgttacccccccccccccccccccc (配列番号4)
百万種の混合microRNA:aucnnngugnnnugcnnnnauc (配列番号5)
*N: 4塩基(A, U, C, G)がランダムに入っている
miRNA-141、miRNA-16、DNA-20C141はSigma-Aldrich社のカスタム一本鎖RNA、カスタムオリゴDNAの合成サービスで発注、調製した。百万種の混合microRNAは、ジーンデザイン社のカスタムRNA合成サービスで発注、調製した。
【0059】
5. 二本鎖核酸形成、リポソーム遊離
上記miRNA又はDNA(濃度1μM、百万種の混合microRNAの場合は合計10μM)の溶液(溶媒は外液2(組成は上記、以下同じ))を、試験管内で、恒温槽を用いて98℃、30秒間、変性処理した。次に試験管を37℃の恒温槽に移し、上記のとおり調製したリポソーム結合一本鎖DNA(磁性ビーズ結合)を0.17nM(溶媒は外液2)と、二本鎖特異的ヌクレアーゼ(Evrogen社より購入、使用時の終濃度は10unit/ml)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。
【0060】
6. ナノポア形成、電流測定
一方、DWC内に脂質二重膜を形成した。用いたDWCは、
図3に示すものであり、円柱状の各チャンバーの直径は4mm、深さは3mmであった。片方のチャンバーの外縁部に、チャンバー内面から0.5mmの距離に、幅1.75mm、深さ3mmの磁性シート用の溝を構築した。この溝に、磁性シート(スガツネ社の超強力マグネットキャッチラバータイプNMS型)を挿入した。
【0061】
DOPC:DOPE=3:1(質量比)、20mg/mlのn-デカン4.2μLをDWCの2つの円柱に滴下した。次に、上記5でインキュベートした後の溶液21μLを一方のチャンバーに添加し、他方のチャンバーには外液2を21μL添加して2つのチャンバーの境界に脂質二重膜を形成した。この状態で、電極間に60mVを印加し、サンプリングレート5kHz、ローパスフィルター1kHzでイオン電流(陽イオン)を測定した。
【0062】
7. 測定結果
電流の測定結果を
図5及び
図6に示す。
図5中、(a)は、miRNAを添加しなかった場合(陰性対照)の結果を示し、電流は全く検出されなかった。(b)は、リポソーム結合一本鎖DNAを、磁性ビーズに結合せず、かつ、miRNAも添加せず、その他の処理を上記のとおり行った場合(陽性対照)の結果を示す。階段状の電流が検出された。(a)と(b)の比較から、磁性ビーズがチャンバー内面に固定化されていることが確認された。
【0063】
(c)はモックであるmiRNA-16の測定結果、(d)はモックであるDNA-20C141の測定結果を示す。いずれの場合も、電流は検出されなかった。(e)は、標的miRNAであるmiRNA-141の測定結果であり、階段状の電流が検出された。(f)は、標的miRNAであるmiRNA-141とモックであるmiRNA-16との混合物の測定結果であり、標的miRNAが含まれていれば、他のmiRNAが混入していても階段状の電流が測定された。
【0064】
図6は、(e)と同様、標的miRNAであるmiRNA-141を再度測定した結果を示し、階段状の電流が検出された。これに対し、標的miRNAとは異なる、100万種類のmiRNA混合物を測定した場合、(b)に示されるように、階段状の電流は検出されなかった。
【0065】
以上の実験から、本発明の方法により、塩基配列特異的に標的核酸を検出できることが確認された。