【文献】
Cell Death and Differentiation,2009年,Vol. 16,pp. 312-320
【文献】
International Journal of Molecular Sciences,2018年,Vol. 19,Article No. 712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Bax阻害剤がVal−Pro−Met−Leu−Lys(配列番号1)、Pro−Met−Leu−Lys−Glu(配列番号2)、Val−Pro−Thr−Leu−Lys(配列番号3)、及びVal−Pro−Ala−Leu−Arg(配列番号4)、Val−Pro−Ala−Leu−Lys(配列番号5)、Pro−Ala−Leu−Lys−Asp(配列番号6)、Val−Ser−Ala−Leu−Lys(配列番号7)、及びSer−Ala−Leu−Lys−Asp(配列番号8)から選ばれるペプチドである、請求項1記載の方法。
Bax阻害剤を有効成分とするインフルエンザウイルス増殖促進剤であって、Bax阻害剤がVal−Pro−Met−Leu−Lys(配列番号1)、Pro−Met−Leu−Lys−Glu(配列番号2)、Val−Pro−Thr−Leu−Lys(配列番号3)、及びVal−Pro−Ala−Leu−Arg(配列番号4)、Val−Pro−Ala−Leu−Lys(配列番号5)、Pro−Ala−Leu−Lys−Asp(配列番号6)、Val−Ser−Ala−Leu−Lys(配列番号7)、及びSer−Ala−Leu−Lys−Asp(配列番号8)から選ばれるペプチドである、インフルエンザウイルス増殖促進剤。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、インフルエンザウイルスとしては、A型、B型、C型、及びD型のいずれでも良いが、A型及びB型を好適に例示することができる。
また、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(赤血球凝集素 HA:haemagglutinin)の型(HA型)とノイラミニダーゼの型(NA型)も特に制限されない。例えば、H1N1株、H2N2株、H3N2株、H4N2株、H4N6株、H5N1株、H5N2株、H7N7株、H7N9株、H9N2株等の現在知られている亜型の他、将来単離・同定される亜型も包含される。
【0014】
また対象となるウイルスは、ヒトに感染できるものであればよく、他にブタやトリ、ウマ、ウシへの感染能力を有するウイルスでもよい。
【0015】
また、本発明のインフルエンザウイルスは、感染動物や患者等の感染個体から単離された株であってもよく、遺伝子工学的に培養細胞で樹立された組換えウイルスであってもよい。
【0016】
本発明において、「Bax」とは、Bcl−2ファミリーに属するアポトーシス促進タンパク質を指す。Bcl−2ファミリーに属するタンパク質はBH(Bcl−2 homology)ドメインと呼ばれるアミノ酸配列を1つ以上有している。また、C末端側に疎水性の高いTM(transmembrane)領域を有しているため、ミトコンドリア膜上に移行し、アポトーシスを制御することが可能となる。
【0017】
Bcl−2ファミリータンパク質の主要機能は、ミトコンドリアの透過性を調節することによるアポトーシスの制御である。抗アポトーシスタンパク質であるBcl−2とBcl−xLはミトコンドリアの外壁に存在し、シトクロムcの放出を阻害する。アポトーシス促進性のタンパク質であるBad、Bid、Bax及びBimは細胞質に存在し、細胞死のシグナルによりミトコンドリア内膜へと移動し、そこでシトクロムcの放出を促進する。細胞外へ流出したシトクロムcはApaf−1と複合体を形成し、カスパーゼ9を活性化、さらにカスパーゼ3、6、7を活性化することでアポトーシスが起こると考えられている(Annu Rev Genet (2009)43:95-118)。
【0018】
本発明において、「Baxのミトコンドリア内膜への移行の抑制」とは、ウイルス感染から放出の過程で細胞内に生じるシグナル伝達に起因する、Baxの細胞質からミトコンドリア内膜への移行を抑制することを意味する。
【0019】
抑制手段としては、宿主の細胞質に存在するBaxのミトコンドリア内膜への移行を抑制可能であれば、特に限定されない。例えばBaxと相互作用してBaxのミトコンドリア移行を抑制する分子(「Bax阻害剤」と称する)を当該細胞に適用すること、細胞質内に存在するBaxを遺伝子工学的に低減すること等が挙げられるが、好適には、Bax阻害剤の使用である。すなわち、本発明において、Bax阻害剤は、宿主の培養によってインフルエンザウイルスを増殖させるためのインフルエンザウイルス増殖促進剤であると云え、宿主の培養によってインフルエンザウイルスを増殖させるために使用できる。また、Bax阻害剤はインフルエンザウイルス増殖促進剤を製造するために使用することができるとも云える。
【0020】
Bax阻害剤としては、好適には、Baxのミトコンドリア内膜への移行に必要なKu70タンパク質とBaxとの結合を阻害するペプチドや化合物が挙げられ、例えばBiochem Biophys Res Commun (2004)321:961-966)やNat Cell Biol (2003)5:352-357)に記載のペプチドが挙げられる。
具体的には、Val−Pro−Met−Leu−Lys(配列番号1)、Pro−Met−Leu−Lys−Glu(配列番号2)、Val−Pro−Thr−Leu−Lys(配列番号3)、及びVal−Pro−Ala−Leu−Arg(配列番号4)が挙げられるが、この他にもVal−Pro−Ala−Leu−Lys(配列番号5)、Pro−Ala−Leu−Lys−Asp(配列番号6)、Val−Ser−Ala−Leu−Lys(配列番号7)、及びSer−Ala−Leu−Lys−Asp(配列番号8)等が挙げられる。
【0021】
斯かるBax阻害剤におけるBax阻害効果は、例えば、BaxとKu70タンパク質との結合阻害活性を測定することにより評価できる。また、Bax阻害剤を添加した条件において、当該細胞へアポトーシスを誘導し、そのアポトーシス細胞の割合を評価することにより評価できる。
【0022】
Bax阻害剤は、インフルエンザウイルス(A型、B型、C型、D型)を増殖させるための宿主に対して、濃度1μM以上、好ましくは5μM以上、より好ましくは10μM以上で、且つ1000μM以下、好ましくは500μM以下、より好ましくは200μM以下、また、1〜1000μM、好ましくは5〜500μM、より好ましくは10〜200μMで使用される。
【0023】
インフルエンザウイルスの増殖は、具体的には、宿主中にインフルエンザウイルスを感染させる工程、及び当該感染宿主をウイルスが複製可能な条件下で培養する工程により行われるが、本発明においては、Baxのミトコンドリア内膜への移行を抑制する工程が、例えばウイルス感染前、ウイルス感染後、又はウイルス感染と同時に行われる。好適には、Bax阻害剤をウイルス感染前、ウイルス感染後、又はウイルス感染と同時に宿主に添加することが挙げられる。
【0024】
インフルエンザウイルスの増殖に用いられる宿主としては、培養細胞又は発育鶏卵の何れでもよいが、供給安定性の面から培養細胞を用いるのが好ましい。
培養細胞としては、インフルエンザウイルスに感受性であれば如何なる細胞も使用できる。このような細胞として、例えば、MDCK細胞(イヌ腎臓由来の株化細胞)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞)、PER.C6(ヒト網膜細胞由来の株化細胞)、SK−NEP−1細胞(ヒト腎臓由来の株化細胞)、A549(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞)、Duck embryo細胞(アヒル胚細胞)が挙げられる。これらの細胞は、ATCC(American Type Culture Collection)に、それぞれCCL−34、CCL−81、CCL−107、HTB−48、CCL−185、CCL−141等として登録されており、また、市販で購入することができる。また、インフルエンザウイルスに感受性を示すニワトリ由来の細胞として、CEF細胞(Chicken embryonic fibroblast cell: ニワトリ胚由来線維芽細胞)が使用できる。なお、CEF細胞には単離された細胞以外に発育鶏卵中に存在する細胞も含まれる。この他、インフルエンザウイルスの増殖には、インフルエンザウイルスを効率的に増殖させるために開発された細胞株を用いることもできる。斯かる細胞株としては、例えばEB66(登録商標)、DuckCelt−T17(登録商標)、EBx(登録商標)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
宿主として培養細胞を用いる場合、細胞を培養するための培地としては、通常細胞培養に用いられる培地、例えば、ウシ胎児血清(FBS)含有MEM培地(Wako社製)、無血清培地(Serum−Free Medium)(ThermoFisher社製)等が挙げられるが何れを使用しても良い。
【0026】
当該培地には、細胞の増殖効率を上げるために、非必須アミノ酸やL−グルタミンを添加することができる。また、インフルエンザウイルスの培養においては、ヘマグルチニンの開裂を促す目的でトリプシンやアセチル化トリプシン等のプロテアーゼを添加することができる。また、微生物のコンタミネーションを避けるために、ペニシリンやストレプトマイシン、ゲンタマイシン等の細胞培養に一般的に使用される抗生物質を添加してもよい。培地のpHは、適当な緩衝液(例えば、炭酸水素ナトリウム、HEPES)で動物細胞の増殖に適した6.5〜8、好ましくは、6.8〜7.3に調整される。
【0027】
細胞培養の方法としては、培養器の底に細胞を付着させた静止培養、細胞を培地中に浮遊させて培養する浮遊培養が挙げられるが、工業生産レベルで行なうときは、浮遊培養が好ましい。浮遊培養の方法としては、マイクロキャリアなどの担体に細胞を付着させてこれを浮遊させて培養する方法又は担体を用いずに細胞を浮遊させて培養する方法等が挙げられるが、何れの方法を用いても良い。
【0028】
細胞培養物(培養した細胞と培地の混液)は、そのままインフルエンザウイルスの接種に使用することできるが、インフルエンザウイルスの接種に際しては、新鮮な培地又は適当な緩衝液、例えば、PBS、トリス緩衝液により細胞の洗浄が行なわれることが好ましい。
具体的には、スピナ−フラスコ等で培養増殖した細胞を低速遠心又は膜ろ過し、細胞と培養上清に分離し、遠心沈渣又は膜ろ過濃縮液の細胞に新鮮培地を加え、細胞を懸濁することにより培地交換が行われる。
【0029】
斯くして得られる細胞培養物に、インフルエンザウイルス液が添加され、一定条件下で培養が行なわれる。ウイルス培養開始時の初期細胞密度は0.001〜100×10
6 cells/mLを用いることができるが、好ましくは0.01〜10×10
6 cells/mL、より好ましくは0.1〜10×10
6 cells/mLである。なお、細胞密度の測定は、血球計算盤等による一般的な方法に従って行えばよい。細胞培養物に添加されるインフルエンザウイルス液は、感染価MOI(Multiplicity of infection)が0.00001〜10となるように添加できるが、好ましくは0.0001〜0.1、より好ましくは0.0001〜0.01で添加することができる。
【0030】
また、宿主として発育鶏卵を用いる場合、33℃〜38℃、好ましくは35〜37℃、湿度条件は40〜60%、好ましくは45〜55%の条件で孵卵し、1日に1〜24回、好ましくは4〜12回の転卵を行うことで発育させた鶏卵を用いることができる。発育8−13日目の鶏卵を用いインフルエンザウイルスを感染させることができるが、好ましくは10−12日目の鶏卵に感染させることができる。感染させるウイルス量は、50%鶏卵感染用量(50%Egg Infection Dose; EID
50)で1〜1×10
6 EID
50/Eggを感染させることができるが、好ましくは1×10
2〜1×10
5EID
50/Egg、より好ましくは1×10
3〜1×10
4 EID
50/Eggを感染させることができる。感染部位は鶏卵の漿尿膜内(尿膜腔液中)が望まれるが、羊膜内(羊水中)であっても良く、鶏卵中でインフルエンザウイルスが増殖する部位であれば限定されない。
【0031】
培養条件は、宿主内でインフルエンザウイルスが増殖可能な条件であればいかなる条件であってもよい。細胞の種類、ウイルス接種量及び培養スケール・方法等の組み合わせにより適切に調節される。例えば、宿主として培養細胞を用いる場合、培養温度は、33℃〜39℃、好ましくは34〜38℃、培養期間は、1〜10日間、好ましくは3〜7日間、炭酸ガス濃度は3〜8%、好ましくは4〜5%、酸素濃度は、17〜25%、好ましくは20〜22%が使用される。
また、宿主として発育鶏卵を用いる場合、感染後は33℃〜38℃、好ましくは34〜36℃、培養期間は1〜5日間、好ましくは2〜4日間、湿度条件は40〜60%、好ましくは45〜55%の条件で培養されるが、ウイルス株によって増殖性が最も高まる条件は異なるため、培養期間、培養温度、湿度等は適切に組み合わせることができる。
【0032】
本発明の方法によれば、インフルエンザウイルスを効率的に増殖させることができる。なお、宿主中のウイルス含量は、モルモット等の赤血球を用いた赤血球凝集法(希釈倍数)やヘマグルチニンに対する抗体を用いたELISA法(μg/mL)、ウイルス感染価を測定するプラークアッセイやTCID
50、ウイルスRNA量を測定できるリアルタイムPCR等により測定することができる。
【0033】
インフルエンザウイルスは、宿主が発育鶏卵の場合は尿膜腔液(漿尿液)または羊水中に含まれており、宿主が培養細胞の場合は培養上清に含まれる。培養終了後、宿主中のウイルス浮遊液からウイルス粒子が回収され、濃縮、精製及び不活化することにより、不活化全粒ワクチンや不活化スプリットワクチン用のウイルス粒子を調製することができる。生ワクチンや弱毒化生ワクチンとして用いる場合は、濃縮及び精製後にインフルエンザワクチン用のウイルス粒子として調製することができる。
【0034】
ウイルス粒子の回収は、ウイルス浮遊液を清澄化すること、具体的には遠心分離又は濾過することにより行われ、次いで、濃縮のために、限外濾過が行われる。ウイルスの精製は、ショ糖密度勾配遠心分離等の超遠心分離や液体クロマトグラフィー等の手段を用いて行うことができる。精製ウイルス液は、不活化全粒ワクチンや不活化スプリットワクチンの場合、ホルマリン処理、紫外線照射、ベータプロピオラクトン、バイナリーエチレンイミン等により、不活化処理される。生ワクチンや弱毒化生ワクチンとして用いる場合は、上記精製ウイルス液をインフルエンザワクチン用のウイルス粒子として調製される。
【0035】
斯かるインフルエンザウイルス粒子に、適宜医薬として許容され得る担体(緩衝剤、乳化剤、保存剤(例えば、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウムゲル)等を添加し、各種剤型のワクチンを調製することができる。
【実施例】
【0036】
実施例1 イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来細胞株(MDCK細胞)を用いたウイルスの増殖性評価試験
(1)MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来細胞株、DSファーマバイオケミカル社より入手)を5%ウシ胎児血清(FBS)含有MEM培地(Wako社製)にて37℃、5%CO
2存在下で培養した。上記MDCK細胞を24ウェルプレートに播種し、コンフルエントの状態で試験に用いた。上述の24ウェルプレートに播種したMDCK細胞をPBSで洗浄後、Serum free medium(SFM;Gibco社製)を400μL/ウェルで添加し、1時間馴化させた。
【0037】
(2)上記細胞にA型インフルエンザウイルスであるH3N2インフルエンザウイルス株(A/Memphis/1/1971)、及びH1N1pdmインフルエンザウイルス株(A/Shizuoka/830/2009)を感染価MOI(Multiplicity of infection)=0.001となるように感染させ、1時間インキュベートした。その後、SFMによる洗浄操作を行い、Bax阻害剤(Bax inhibitor peptide(V5)(Val−Pro−Met−Leu−Lys(配列番号1);TOCRIS bioscience社製))を0−200μM濃度で添加した2.0μg/mL−アセチル化トリプシン(Sigma社製)含有SFM培養培地を500μL/ウェル量加え、23時間培養した。感染24時間後に培養上清を回収し、後述のHAアッセイにより、インフルエンザウイルスのHA価を測定した(
図1)。なお、以降の実験においてインフルエンザウイルスの増殖性を評価する試験では、2.0μg/mL−アセチル化トリプシン含有SFM培養培地をインフルエンザウイルスの培養に用いた。
【0038】
(3)HAアッセイ
U底96ウェルプレートを用い、インフルエンザウイルス培養上清50μLを2−1024倍まで2倍ずつ、希釈系列を作製した。そこへ、0.7%モルモット赤血球含有PBS 50μLを加え、4℃で2時間静置した。その後、赤血球の凝集を確認し、凝集が認められない希釈濃度をHA価とした。
【0039】
(4)本検討の結果、Bax阻害剤の添加は、H3N2及びH1N1インフルエンザウイルス株のHA価を増加させることが明らかとなった。
【0040】
実施例2 Bax阻害剤添加による様々なタイムポイントにおけるインフルエンザウイルスの増殖促進効果の検討
(1)実施例1と同様に、MDCK細胞をSFMで1時間馴化させた後、H3N2及びH1N1pdmインフルエンザウイルス株を感染価MOI=0.001となるように感染させ、1時間インキュベートした後、SFMによる洗浄操作を行い、Bax阻害剤(Bax inhibitor peptide(V5))を100μM濃度で添加し、20−47時間培養した。感染後21時間、24時間、48時間に培養上清を回収し、HAアッセイにより、インフルエンザウイルスのHA価を測定した(
図2)。
本検討の結果、Bax阻害剤の添加は培養の早い段階から、インフルエンザウイルス株のHA価を増加させることが明らかとなった。
【0041】
(2)また、感染後21又は24時間の培養上清を用い、培養液中のインフルエンザウイルス量を、後述するフォーカスアッセイにより定量した(
図3)。
1)フォーカスアッセイ
12ウェルプレートにMDCK細胞をコンフルエントとなるように培養し、PBSで洗浄後、SFMに1時間馴化させた。感染後21又は24時間で回収したインフルエンザウイルス培養上清を100−100000倍に希釈し、上記12ウェルプレートにて培養しているMDCK細胞に1mL/ウェルで添加し1時間インキュベートすることで、インフルエンザウイルスを感染させた。本試験は三重測定にて行った。感染後、SFMによる洗浄操作を行い、1.2%−セオラス(旭化成ケミカルズ,RC591)及び2.0μg/mL−アセチル化トリプシン(Sigma社製)含有SFMを2.0mL/ウェルとなるように加え、30時間培養した。培養後、ウェルを4℃に冷やしたPBSで3回洗浄後、−20℃に冷やした100%メタノール(Wako社製)を加え、細胞を固定化した。固定化細胞は一次抗体:Anti−NP antibody(マウスハイブリドーマ(4E6)細胞培養上清:Journal of Virology(2008)82:5940−5950)及び二次抗体:HRP linked goat Anti−mouse IgG+IgM抗体(Jackson Immuno Research Laboratries社製)にて反応させ、DEPDA反応を用いHRPと反応させ、染色されたフォーカス数をカウントした。フォーカスアッセイは独立した三重測定で行い、統計学的な解析はStudent’s t−test(
図3及び
図5)又は一元配置分散分析(Tukeyによるその後の検定、
図7)を用い、危険率5%を有意水準(*;p<0.05、**;p<0.01、***;p<0.001)とした。
【0042】
2)本検討の結果、Bax阻害剤の添加は、H3N2及びH1N1インフルエンザウイルス株のウイルス増殖性亢進効果を示すことが明らかとなった。
【0043】
実施例3 Bax阻害剤(2種類)の低濃度条件におけるインフルエンザウイルスの増殖促進効果の検討
(1)実施例1と同様に、MDCK細胞をSFMで1時間馴化させた後、H3N2及びH1N1pdm、H1N1(実験株)インフルエンザウイルス株を感染価Moi=0.001となるように感染させ、1時間インキュベートした後、SFMによる洗浄操作を行い、Bax阻害剤(Bax inhibitor peptide(V5)(Val−Pro−Met−Leu−Lys(配列番号1)及び(P5)(Pro−Met−Leu−Lys−Glu(配列番号2);TOCRIS bioscience社製))を1.0 μM濃度で添加し、23時間培養した。感染後24時間に培養上清を回収し、HAアッセイにより、インフルエンザウイルスのHA価を測定した(
図4)。
本検討の結果、Bax阻害剤の添加は実施例2と比較して低濃度条件においてもH3N2及びH1N1pdm、H1N1(実験株)インフルエンザウイルス株のHA価を増加させることが明らかとなった。加えて、配列番号2においてもインフルエンザウイルスのHA価の増加が認められた。
【0044】
(2)また、配列番号2を添加した感染後24時間の培養上清を用い、実施例2(2)と同様にインフルエンザウイルス量をフォーカスアッセイにより定量した(
図5)。
本検討の結果、配列番号2のBax阻害剤を添加することで、H3N2及びH1N1pdm、H1N1(実験株)インフルエンザウイルス株のウイルス増殖性が亢進することが明らかとなった。
【0045】
実施例4 Bax阻害剤(2種類)のB型インフルエンザウイルスの増殖促進効果の検討
(1)実施例3と同様に、使用するウイルス株をB型インフルエンザウイルス株(B/Lee/1940)に変更しウイルスの増殖性を評価した。Moi=0.01となるようにB型インフルエンザウイルスを感染させ、1時間インキュベートした後、SFMによる洗浄操作を行い、Bax阻害剤(Bax inhibitor peptide(V5)(Val−Pro−Met−Leu−Lys(配列番号1)及び(P5)(Pro−Met−Leu−Lys−Glu(配列番号2);TOCRIS bioscience社製))を0〜100μM濃度で添加し、47時間培養した。感染後48時間に培養上清を回収し、HAアッセイにより、インフルエンザウイルスのHA価を測定した(
図6)。
本検討の結果、Bax阻害剤の添加はB型インフルエンザウイルス株のHA価を増加させることが明らかとなった。
【0046】
(2)また、感染後48時間の培養上清を用い、培養液中のインフルエンザウイルス量を後述するプラークアッセイにより定量した(
図7)。
1)プラークアッセイ
12ウェルプレートにMDCK細胞をコンフルエントとなるように培養し、PBSで洗浄後、SFMに1時間馴化させた。感染後48時間で回収したB型インフルエンザウイルス培養上清を100−100000倍に希釈し、上記12ウェルプレートにて培養しているMDCK細胞に1mL/ウェルで添加し1時間インキュベートすることで、B型インフルエンザウイルスを感染させた。本試験は三重測定にて行った。感染後、SFMによる洗浄操作を行い、0.8%−アガロース(ロンザジャパン株式会社 SeaKem(登録商標)Gold Agalose)及び2.0μg/mL−アセチル化トリプシン(Sigma社製)含有SFMを2.0mL/ウェルとなるように加え、47時間培養した。培養後、エタノール:酢酸=5:1で混合した溶液を各ウェルに1mL添加し、4℃で一晩以上静置することで細胞を固定化した。固定化細胞を1%(w/v)濃度のクリスタルバイオレッド溶液で染色し、PBSで洗浄後に、ウイルス感染に伴い細胞が脱落している部分(プラーク)の数をカウントした。
【0047】
2)本検討の結果、配列番号1及び配列番号2のBax阻害剤は、B型インフルエンザウイルス株に対してもウイルス増殖性亢進効果を示すことが明らかとなった。
【0048】
実施例5 Bax阻害剤の発育鶏卵におけるインフルエンザウイルスの増殖促進効果の検討
(1)発生11日目の発育鶏卵を用いH1N1インフルエンザウイルス株(A/Puerto Rico/8/1934)の増殖性を評価した。対照群にはH1N1インフルエンザウイルスを50%鶏卵感染用量(50%Egg Infection Dose; EID
50)が5×10
2 EID
50/鶏卵となるように感染させ、対照―10倍量群には5×10
3EID
50/鶏卵となるように感染させた。Bax阻害剤群(Val−Ser−Ala−Leu−Lys(配列番号7)を添加する群)には鶏卵の漿尿液量を5mLとしたときにBax阻害剤の終濃度が10μMとなるように上記ペプチドをウイルス溶液に添加し感染操作を行った。感染液量はいずれの群も200μL/鶏卵とした。感染後48時間に発育鶏卵より漿尿液を回収し、実施例2(2)と同様にインフルエンザウイルス量をフォーカスアッセイにより定量した(
図8)。エラーバーは標準誤差を示した。
【0049】
(2)本検討の結果、Bax阻害剤の添加はH1N1インフルエンザウイルス株のウイルス価を1.27倍に増加させることが明らかとなった。加えて、Bax阻害剤の添加により10倍量のウイルスを感染させた発育鶏卵よりも得られるウイルス価が高まることが明らかとなった。