(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム、アルミニウム合金及び非鉄金属等の溶湯を溶解保持する溶解保持炉がある(例えば、特許文献1参照)。一般的な溶解保持炉の炉体は、底壁と、底壁の周端から鉛直方向に伸びる周壁又は側壁によって構成されている。底壁と側壁は、概略、外側から内側に向かって順番に、鉄製の外壁(鉄皮)、断熱層、バックアップ層、耐火層(以下、耐火物又は耐火材ともいう)といった内張材を備えており、耐火層の内側に溶湯を保持する溶湯収納部が形成されている。
【0003】
このような溶解保持炉では、内張材、特に溶湯に接する耐火層、例えば定型耐火物のプレキャストブロック(焼成・不焼成)、耐火断熱れんが、耐火れんが(焼成・不焼成・電鋳)等や不定形耐火物の耐火モルタル(熱硬性・気硬性・水硬性)、キャスタブル(従来・低セメント)、軽量キャスタブル等が使用されている。溶湯には、これら耐火層の組織中に、容易に浸透する性質と還元力がある。
【0004】
例えばアルミニウム合金の溶湯(以下、アルミ溶湯ともいう)に酸化物が発生し、長期間の使用から炉体損傷のクラック(亀裂)が生じ易くなり、アルミ溶湯が耐火層のクラックに浸透し溶湯漏れ(湯漏れともいう)が発生し、アルミ溶湯が溶湯収納部の外部に漏れる場合があった。
【0005】
特許文献2には、炉体の内部もしくは外側表面の略全域に形成した第1の電極と、炉体の内側の溶湯に浸透した第2の電極との間の導電状態に基づいて、溶湯の漏れを検出するための溶湯漏れ検出方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2は、溶湯漏れが発生することを前提に、溶湯漏れした結果を検出するものであり、溶湯漏れを阻止するものではない。溶湯漏れを阻止するために、耐火層を100mm前後の厚さの耐火物を使用することで対処する方法も実際にはあるが、炉の使用開始後6〜8年程経過すると、炉体へのクラックによる損傷が見つかることもあった。
【0008】
また、メンテナンスを目的とした2〜4回/年の停止しか行わない連続操業の場合では、外部への溶湯漏れを防止することは困難をきわめ、作業員への安全性確保や溶湯の熱量減少といった操業面でのデメリットへの対応に注力する必要があった。
【0009】
したがって、本発明の課題は、溶湯漏れを防止又は抑制できるとともに、漏れ方向を制御することができる金属溶湯炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段の態様は次のとおりである。
【0011】
外周部に外壁を有し、金属溶湯を保持する溶湯収納部を備える金属溶湯炉において、
前記溶湯収納部を形成する前記金属溶湯炉の内壁には複数の内張材層が配設されており、
前記内張材層のうち、前記金属溶湯に接する面を構成する第1の内張層が耐火材からなり、
前記第1の内張層と前記外壁との間における少なくとも一つの境界にシール材が設けられていることを特徴とする金属溶湯炉である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶湯漏れを防止又は抑制できるとともに、漏れ方向を制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
金属溶湯炉は、
図1に示すように、外周部に外壁1を有し、溶湯収納部6を形成する内壁には複数の内張材層が配設されており、金属溶湯Mを保持するものである。
【0016】
前記内張材層は、例えば
図1に示すように、第1の内張層10、第2の内張層20及び第3の内張層30で構成される。
【0017】
第1の内張層10は、例えばアルミニウム又はその合金などの金属溶湯Mに接する面を構成するもので、耐火材から構成される。耐火材としては例えばアルミナ(Al
2O
3)を主成分とした低セメントキャスタブルが用いられる。第2の内張層20及び第3の内張層30としては、アルミナ(Al
2O
3)及びシリカ(SiO
2)の少なくとも一方を含む繊維又はキャスタブルが使用され、断熱性及び耐熱性が確保される。
【0018】
金属溶湯炉としては、種々の構造のものを対象とすることができる。
図1に示す構造のものは、低圧鋳造用溶湯保持炉であり、詳細は次のとおりである。
すなわち、上部に出湯口2を有し、出湯口2は円筒状のストーク3により構成される。また、上部に給気ポート4と排気ポート5を備えており、加圧気体を溶湯保持室内に給排気できる。
【0019】
図示しない加圧装置により、給気ポート4を介して、ドライエアや、アルゴン、窒素などの不活性ガスなどの加圧気体が溶湯保持室内に送り込まれる。溶湯保持室内に送り込まれた加圧気体により、溶湯の液面が加圧され、溶湯はストーク3内を上昇して、出湯口2を介し、図示されない鋳造用金型内に形成されたキャビティに圧入される。
鋳造完了後、給気ポート4からの加圧気体の供給は停止され、溶湯保持室内の加圧気体は、排気ポート5から排気される。
【0020】
この種の金属溶湯炉においては、既述のように、そして
図2の模式的に示す(内張層が4層の場合における例)ように、長期間の使用から炉体損傷のクラック(亀裂)Cが生じ易くなり、金属溶湯、例えばアルミ溶湯が耐火層のクラックに浸透し溶湯漏れ(湯漏れともいう)が発生することがある。外壁1は、例えば鉄製の外壁であり、極端な例では、クラックに浸透したアルミ溶湯が外壁1まで達し、外壁1がアルミ溶湯の熱で外側に膨張する場合があった。溶湯漏れの流れ例を
図2の破線で示した。
【0021】
かかる問題に対し、
図3に示すように、少なくとも第1の内張層10と外壁側の第2の内張層20との間に、シール材50が設けられる。
【0022】
このシール材50としては、シート状のもの、特に厚さが2〜10mmのシート状を好適に使用できる。
【0023】
そして、シール材50は、セラミック繊維及び生体溶解性セラミック繊維の少なくとも一方の繊維と、ガラス繊維及びステンレス繊維の少なくとも一方と、を織成したシート材であるのが特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられる生体溶解性セラミック繊維は、「EU指令97/69/EC」規制におけるカテゴリー0(適用除外物質)に分類される繊維から選択される。そのためには、NotaQ「生体内溶解性繊維判定基準」により下記4種類の動物実験のどれかで安全性を証明されるか、またはNotaR「吸入性繊維でないことの判定基準」により長さ加重幾何平均繊維径から標準偏差の2倍を差し引いた数値が6μmを超える繊維であることが必要である。
(1)短期吸入による生体内滞留性試験で、20μmより長い繊維が10日未満の荷重半減期をもつこと、
(2)短期気管内注入による生体内滞留試験で、20μmより長い繊維が40日未満の荷重半減期を持つこと、
(3)腹腔内投与試験により過大な発がん性の証拠がないこと、
(4)長期間吸入試験で、関連ある病原性変化もしくは腫瘍性変化がないこと。
【0025】
上記の安全性が確認された生体溶解性セラミック繊維であれば、その製造方法、化学組成、平均繊維径あるいは平均繊維長に特に制限はなく、例えば、生体溶解性ロックウールを使用することもできる。
アルカリ金属およびアルカリ土類金属の酸化物(Na
2O、K
2O、CaO、MgO、BaO等。)を18質量%超含有するものが使用できる。
シリカ−マグネシア−カルシア系のアルカリアースシリケートウールなども使用できる。
【0026】
セラミック繊維としては、主として常用温度1,400℃以下で使用される、アルミナ(Al
2O
3)とシリカ(SiO
2)を主成分とした人造鉱物繊維である、非晶質のリフラクトリーセラミックファイバー(以下、RCFと称する。)と、1,400℃より高温で使用されるアルミナ質の結晶質セラミック繊維が知られている。これらRCFと結晶質セラミック繊維は、製造方法や性能、価格が大きく異なっており、それぞれの特性によって使い分けがなされている。
【0027】
金属溶湯、特にアルミニウム又はアルミニウム合金の温度は700℃以上に達する。そのために、セラミック繊維及び生体溶解性セラミック繊維の少なくとも一方の繊維に対して、ガラス繊維及びステンレス繊維の少なくとも一方の繊維で補強するのが好ましい。
特に、耐熱性の点で少なくともステンレス繊維により補強するのが望ましい。
【0028】
このシール材50としては、シート状のもの、特に厚さが2〜10mmのシート状とするために、繊維糸(ファイバー又はストランド)を織成してシート状にすることができる。織成は、例えば
図4及び
図5に示す平織り、斜文織り、朱子織りのほか、適宜の織成形態とすることができる。
そして、
図5に示すように、セラミック繊維及び生体溶解性セラミック繊維の少なくとも一方の第1繊維51A,51Bに、ガラス繊維及びステンレス繊維の少なくとも一方の補強繊維52を適宜の形態で織り込むことができる。補強繊維52はストランド内に組み込んで補強することもできる。そして、補強繊維を組み込んだストランドを、適宜の形態で織成してシート状のシール材とすることができる。
【0029】
シール材50は、
図6に示すように、第2の内張層20と、これより外壁1側の第3の内張層30との間にも設けることができる。
【0030】
さらに、シール材50は、
図7に示すように、第3の内張層30と、これより外壁1側の第4の内張層40との間にも設けることができる。
【0031】
本発明においては、第1の内張層10と外壁1との間における少なくとも一つの境界にシール材が設けられておればよく、例えば、
図8に示すように、第2の内張層20の外壁側の境界にのみ、すなわち、第2の内張層20と、これより外壁1側の第3の内張層30との間にのみ設けるものであってもよい。
【0032】
さらに、例えば
図9に示すように、最も外側の内張層(
図9の例においては第2の内張層20)と外壁1との境界のみにシール材が設けられていてもよい。
【0033】
また、シール材50は、上記のように内張層同士の間に設けた後、溶湯収納部に初めて金属溶湯Mを入れた際に、金属溶湯Mの熱が第1の内張層10を介してシール材50に伝わり、シール材50が焦げ臭い匂いを発する場合がある。この匂いを抑えるため、シール材50を予め焼成することができる。
【0034】
ところで、従来は溶湯漏れに関し、主に第1の内張層の材料の選定に注目されていた。しかるに、第1の内張層10にクラックの発生は避けることができず、クラックが生じる可能性があり、そのクラックを通しての溶湯漏れの危険性は残る。
本発明者は、第1の内張層10の材料の選定に注目するのではなく、第1の内張層10にクラックが発生することを前提に、本発明の完成に到った。
【0035】
クラックを通しての溶湯漏れがあったとしても、漏れ量の最小化、熱量の減少、漏れの方向を制御し外壁までの浸透を抑えることができれば、終局の目的である外壁までの溶湯漏れを防止できる。
【0036】
本発明に従ってシール材、特に耐熱(耐火)シール材を使用することは次の利点をもたらす。
(1)溶湯温度に耐える(例えばアルミ溶湯では700℃に耐える)。
(2)溶湯収納部内の金属溶湯を汚さない。
(3)漏れた溶湯の熱量を下げることができ、外壁に到達するまでに漏れた溶湯の浸透を抑えることができる。
(4)溶湯が漏れた場合の方向を制御することができる。
【0037】
通常漏れた溶湯は、重力により内張層同士の間に沿って下降した後、水平に設けられた外壁側の内張層に到達すると、水平方向に広がっていく。場合によっては、水平に設けられた外壁側の内張層にクラックが発生し、さらにクラックを通して重力により溶湯漏れが広がっていくことがあり、漏れる方向は予測がつかない。
【0038】
本発明によるシール材を内張層同士の間に設けると、漏れた溶湯はシール材が抵抗となって重力により内張層同士の間に沿って下降しにくくなり(つまり下降速度を抑えることができ)、その間に漏れた溶湯の熱量を下げ、水平に設けられた外壁側の内張層に到達前に漏れた溶湯の浸透を抑えることができる。また、シール材が設けられているので、外壁側の内張層に直接溶湯が接触しにくくなり、クラックの発生が生じにくくなる。
【0039】
すなわち、本発明における溶湯が漏れた場合の方向を制御するとは、具体的には、内張層同士の間の空間をシール材により狭くすることで抵抗を大きくし漏れた溶湯の速度を抑えることと外壁側への浸透の制御とを意味する。
外周部に外壁1を有し、金属溶湯Mを保持する溶湯収納部を備える金属溶湯炉において、前記溶湯収納部を形成する前記金属溶湯炉の内壁には複数の内張材層が配設されており、前記内張材層のうち、前記金属溶湯Mに接する面を構成する第1の内張層10が耐火材からなり、前記第1の内張層10と前記外壁1との間における少なくとも一つの境界にシール材50が設けられている。