特許第6918393号(P6918393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6918393漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤及びその製造方法、並びに固形製剤の崩壊性を向上させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6918393
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤及びその製造方法、並びに固形製剤の崩壊性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/20 20060101AFI20210729BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 36/00 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   A61K9/20
   A61K9/14
   A61K36/00
   A61K47/36
【請求項の数】3
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2021-28924(P2021-28924)
(22)【出願日】2021年2月25日
【審査請求日】2021年3月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592156482
【氏名又は名称】大峰堂薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】辻 将央
(72)【発明者】
【氏名】成田 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】半田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹本 龍介
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−032351(JP,A)
【文献】 特開2012−001473(JP,A)
【文献】 防已黄耆湯エキス錠Fクラシエ添付文書,2017年
【文献】 半夏瀉心湯エキス錠Fクラシエ添付文書,2013年
【文献】 漢方防風通聖散料エキスEX錠添付文書,2018年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/20
A61K 9/14
A61K 36/00
A61K 47/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを含む固形製剤の製造方法であって、
前記エキスに含まれるα化デンプンを測定する工程と、
α化デンプンの測定値に基づいて、前記固形製剤において前記エキスが60重量%以上の割合で配合され、かつ前記固形製剤におけるα化デンプンの含有量が12重量%以下となるように、前記エキスと前記添加剤とを混合する工程と、
得られた混合物を用いて固形製剤を成型する工程と
を含む、漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤の製造方法。
【請求項2】
前記添加剤が、α化デンプンを含まない請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
固形製剤において、漢方エキス又は植物性生薬エキスの配合割合が60重量%以上となり、かつα化デンプンの含有量が12重量%以下となるように、前記エキスと、薬学的に許容される添加剤(ただし、α化デンプンを除く)とを混合し、得られた混合物を用いて固形製剤を成型することを含み、前記α化デンプンが、前記エキスに由来する成分である、漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤の崩壊性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤及びその製造方法に関する。本発明は、漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤の崩壊性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤などの固形製剤では、服用後に一定時間で崩壊して、有効成分の効果・効能を奏することが一般に求められる。しかし、漢方エキスを含む固形製剤では、漢方エキスの配合割合が増加するのに伴って、その崩壊時間が延長することが知られている。例えば漢方エキス含有錠剤の場合、錠剤の硬度と崩壊性を考慮して処方を設計すると、錠剤が大型化して服用性に問題が生じる。反対に、服用性を考慮して大型化しないように錠剤の処方を設計すると、1錠当たりの漢方エキス含有量が増加するので、崩壊時間が著しく延長するという問題が生じる。
【0003】
このような問題を解決するため、医薬品添加物を用いた製剤技術的アプローチによって、漢方エキス含有固形製剤の崩壊性を向上させる様々な取り組みがなされている。例えば特許文献1には、漢方エキスを含有する混合末と、軽質無水ケイ酸及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとを混合したものを圧縮成型した後、破砕して得られた顆粒に軽質無水ケイ酸をさらに混合して圧縮成型することで、崩壊時間の遅延が抑制された錠剤が得られることが記載されている。特許文献2には、所定の範囲内の粉体物性を有するセルロース粉末を造粒賦形剤として用いることで、崩壊時間の短い錠剤が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-161706号公報
【特許文献2】特開2017-061577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の方法では、比較的高価な添加剤を用いることや製造過程において工程を追加することを要するので、製造コストの面で不利である。そのため、高価な添加剤や工数のかかる製造技術に依らずに、崩壊性に優れた漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤を製造できる手段が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
漢方エキスは種々の生薬の抽出物であるところ、本発明者らは、漢方エキスには、植物性生薬に由来するα化デンプンが含まれることに着目した。α化デンプンとは、デンプンを水中で加熱することにより得られる、立体構造が変化したデンプンである。デンプンは通常の状態では水にほとんど溶けない物質であるが、水中で加熱すると、α化デンプンとなって水中に溶出する。α化デンプンが溶解した水は、糊液と呼ばれる粘性のある溶液となる。漢方エキスの抽出工程では、適切な大きさに裁断した各種の生薬を処方に従って一定量ずつ量り、それらの全量に水などの水性溶媒を加えて一定時間加熱して抽出する。そのため、植物性生薬に含まれるデンプンが熱と水分によってα化され、α化デンプンが植物性生薬の有効成分とともに抽出される。
【0007】
α化デンプンは冷却により元のデンプンの立体構造に近い状態に戻り、α化デンプンの親水性は失われる。この現象はデンプンの老化と呼ばれる。しかし、α化デンプンを高温のまま乾燥させるか又は急速に冷凍すると、立体構造の変化が抑制されるので、デンプンの老化が防止される。漢方製剤の工業的製造では、漢方エキスを保存安定性の高い医薬品原料とするため、漢方エキスである生薬の抽出液又はその濃縮液をスプレードライヤー、ドラムドライヤー及び急速凍結乾燥機などを用いて短時間で乾燥させて粉末化することが行われる。このようにして得られる漢方エキス末では、デンプンの老化が防止されており、α化デンプンが含まれる。
【0008】
本発明者らは、漢方エキス含有固形製剤において、α化デンプンの含有量と該固形製剤の崩壊時間との間に直線的な相関関係があることを見出した。そして、固形製剤において、漢方エキスの配合割合を60重量%以上とすると、一般に崩壊時間が延長するところ、α化デンプンの含有量が低くなるように、漢方エキスを60重量%以上の割合で配合した固形製剤を製造することにより、該固形製剤の崩壊性が改善された。これらのことから、本発明者らは本発明を完成させた。
【0009】
よって、本発明は、漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを含む固形製剤であって、前記固形製剤における前記エキスの配合割合が60重量%以上であり、かつ前記固形製剤におけるα化デンプンの含有量が12重量%以下であることを特徴とする、漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤を提供する。
【0010】
本発明は、漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを含む固形製剤の製造方法であって、前記エキスに含まれるα化デンプンを測定する工程と、α化デンプンの測定値に基づいて、前記固形製剤において前記エキスが60重量%以上の割合で配合され、かつ前記固形製剤におけるα化デンプンの含有量が12重量%以下となるように、前記エキスと前記添加剤とを混合する工程と、得られた混合物を用いて固形製剤を成型する工程とを含む、漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤の製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを含み、前記エキスの配合割合が60重量%以上である固形製剤の製造において、前記固形製剤におけるα化デンプンの含有量を12重量%以下とすることにより、漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤の崩壊性を向上させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、漢方エキス又は植物性生薬エキスを60重量%以上という高い割合で配合することができ、かつ高価な添加剤や工数のかかる製造技術に依らずに、崩壊性に優れた漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】芍薬甘草湯エキスを含む実施例1〜4及び比較例1の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図2】半夏厚朴湯エキスを含む実施例5、6及び比較例2の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図3】防已黄耆湯エキスを含む実施例7、8及び比較例3の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図4】小青竜湯エキスを含む実施例9、10及び比較例4の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図5】五苓散エキスを含む実施例11、12及び比較例5の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図6】大柴胡湯エキスを含む実施例13、14及び比較例6の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図7】葛根湯加川キュウ辛夷エキスを含む実施例15、16及び比較例7の各錠剤の1錠中α化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図8】加味帰脾湯エキスを含む実施例17、18及び比較例8の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図9】桂枝加苓朮附湯エキスを含む実施例19、20及び比較例9の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図10】半夏瀉心湯エキスを含む実施例21、22及び比較例10の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
図11】防風通聖散エキスを含む実施例23、24及び比較例11の各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の固形製剤は、漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを含む。本実施形態の固形製剤では、有効成分である漢方エキス又は植物性生薬エキスが60重量%以上の割合で配合されている一方で、該エキスに由来するα化デンプンの含有量が12重量%以下にされている。漢方エキス及び植物性生薬エキスは、植物性生薬を原料に含むところ、植物性生薬には一般にデンプンが含まれる。上記のとおり、植物性生薬からエキスを製造する過程において、植物性生薬に含まれるデンプンがα化デンプンとなってエキス中に含まれる。後述の実施例に示すように、本発明者らは、エキスに由来するα化デンプンが固形製剤の崩壊時間を延長する因子であることを発見し、α化デンプンの含有量が少ないほど固形製剤の崩壊時間が短くなることを明らかにした。よって、本実施形態の固形製剤は、漢方エキス又は植物性生薬エキスが、一般に崩壊性が良好でなくなるとされる60重量%以上という比較的高い割合で配合されていても、固形製剤中のα化デンプンの含有量が12重量%以下に抑えられていることにより、崩壊性が改善されている。
【0015】
本実施形態の固形製剤において、含有量が12重量%以下に規定されるα化デンプンは、漢方エキス又は植物性生薬エキスに由来する成分であることを意図する。すなわち、本実施形態の固形製剤において、漢方エキス及び植物性生薬エキスは、生薬の有効成分とα化デンプンとを包含する組成物である。ここで、当業界においては、薬学的に許容される添加剤の一つとしてα化デンプンを用いることがあるが、本実施形態の固形製剤では、添加剤としてのα化デンプンは含まないことが好ましい。もし添加剤としてα化デンプンを用いる場合は、固形製剤において、添加剤としてのα化デンプンと、漢方エキス又は植物性生薬エキスに由来するα化デンプンとを合わせた含有量が12重量%以下となるように添加してもよい。
【0016】
漢方エキスとは、少なくとも2種の生薬から製造されたエキスであって、該生薬のうち少なくとも1種が植物性生薬であるものを意図する。植物性生薬エキスとは、単味の植物性生薬、すなわち1種の植物性生薬から製造されたエキスを意図する。生薬自体は公知であり、例えば、植物の薬用とする部分、動物の薬用とする部分、細胞内容物、分泌物、抽出物、鉱物などが挙げられる。植物性生薬は、植物に由来する生薬であれば特に限定されず、例えば第十七改正日本薬局方に記載のものであってもよいし、局方外のものであってもよい。本実施形態では、漢方エキス及び植物性生薬エキスの原料となる生薬は特に限定されないが、第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合している原料が好ましい。
【0017】
本実施形態の漢方エキス及び植物性生薬エキスの形態は、水性溶媒を用いて原料生薬から抽出した抽出液、又はその軟エキス、又はそれらのエキス末のいずれであってもよい。抽出に用いられる水性溶媒としては、例えば水、1価の低級アルコール及びそれらの混液が挙げられる。1価の低級アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどが挙げられ、それらの中でもエタノールが好ましい。水と1価の低級アルコールの混液としては、例えば30容量%以下のエタノール水溶液などが挙げられる。水性溶媒としては、水が特に好ましい。
【0018】
本実施形態において、漢方エキスの原料を構成する生薬の組み合わせ及びその配合比率は、特に制限されない。例えば、漢方エキスは、「改訂 一般用漢方処方の手引き」などの公知の文献に記載の漢方処方に定められた生薬を、第十七局改正日本薬局方の製法に従ってエキス化することで得ることができる。
【0019】
漢方処方の具体例としては、芍薬甘草湯、半夏厚朴湯、防已黄耆湯、小青竜湯、五苓散、大柴胡湯、葛根湯加川キュウ辛夷、加味帰脾湯、桂枝加苓朮附湯、半夏瀉心湯、防風通聖散、十味敗毒湯、当帰飲子、柴胡加竜骨牡蛎湯、葛根湯、補中益気湯、牛車腎気丸、独活葛根湯、加味逍遙散、安中散、安中散加茯苓、胃風湯、胃苓湯、茵チン蒿湯、茵チン温経湯、温清飲、温胆湯、延年半夏湯、黄耆建中湯、黄ゴン湯、応鐘散、黄連阿膠湯、黄連解毒湯、黄連湯、乙字湯、乙字湯去大黄、化食養脾湯、カッ香生気散、葛根黄連黄ゴン湯、葛根紅花湯、加味温胆湯、加味解毒湯、加味逍遙散加川キュウ地黄、加味平胃散、乾姜人参半夏丸、甘草瀉心湯、甘草湯、甘麦大棗湯、帰耆建中湯、桔梗湯、帰脾湯、キュウ帰膠艾湯、キュウ帰調血飲、キュウ帰調血飲第一加減、響声破笛丸、杏蘇散、苦参湯、駆風解毒散、荊芥連翹湯、鶏肝丸、桂枝湯、桂枝加黄耆湯、桂枝加葛根湯、桂枝加厚朴杏仁湯、桂枝加芍薬生姜人参湯、桂枝加芍薬大黄湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加朮附湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、桂枝人参湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸料加ヨク苡仁、啓脾湯、荊防敗毒散、桂麻各半湯、鶏鳴散加茯苓、堅中湯、甲字湯、香砂平胃散、香砂養胃湯、香砂六君子湯、香蘇散、厚朴生姜半夏人参甘草湯、五虎湯、牛膝散、五積散、呉茱萸湯、五物解毒散、五淋散、五苓散、柴陥湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡桂枝湯、柴胡清肝湯、柴芍六君子湯、柴朴湯、柴苓湯、左突膏、三黄散、三黄瀉心湯、酸棗仁湯、三物黄ゴン湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、紫雲膏、四逆散、四君子湯、滋血潤腸湯、七物降下湯、柿蒂湯、四物湯、炙甘草湯、鷓鴣菜湯、蛇床子湯、十全大補湯、潤腸湯、蒸眼一方、生姜瀉心湯、小建中湯、小柴胡湯、小柴胡湯加桔梗石膏、小承気湯、小青竜湯加杏仁石膏、小青龍湯加石膏、椒梅湯、小半夏加茯苓湯、消風散、升麻葛根湯、逍遙散、四苓湯、辛夷清肺湯、秦糺キョウ活湯、秦糺防風湯、参蘇飲、神秘湯、参苓白朮散、清肌安蛔湯、清湿化痰湯、清暑益気湯、清上ケン痛湯、清上防風湯、清心蓮子飲、清肺湯、折衝飲、川キュウ茶調散、千金鶏鳴散、銭氏白朮散、疎経活血湯、蘇子降気湯、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、大建中湯、大柴胡湯去大黄、大半夏湯、竹茹温胆湯、治打撲一方、治頭瘡一方、治頭瘡一方去大黄、中黄膏、調胃承気湯、丁香柿蒂湯、釣藤散、猪苓湯、猪苓湯合四物湯、通導散、桃核承気湯、当帰建中湯、当帰散、当帰四逆湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰芍薬散、当帰湯、当帰貝母苦参丸、独活湯、二朮湯、二陳湯、女神散、人参養栄湯、人参湯、排膿散、排膿湯、麦門冬湯、八味地黄丸、半夏白朮天麻湯、白虎湯、白虎加桂枝湯、白虎加人参湯、不換金正気散、伏竜肝湯、茯苓飲、茯苓飲加半夏、茯苓飲合半夏厚朴湯、茯苓沢瀉湯、分消湯、平胃散、防已茯苓湯、補気健中湯、補肺湯、麻黄湯、麻杏甘石湯、麻杏ヨク甘湯、麻子仁丸、揚柏散、ヨク苡仁湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯、立効散、竜胆瀉肝湯、苓姜朮甘湯、苓桂甘棗湯、苓桂朮甘湯、六味丸、麻黄附子細辛湯、黄耆桂枝五物湯、解労散、加味四物湯、枳縮二陳湯、杞菊地黄丸、紫胡疎肝湯、柴蘇飲、芍薬甘草附子湯、沢瀉湯、竹葉石膏湯、知柏地黄丸、中建中湯、定悸飲、当帰芍薬散加黄耆釣藤、当帰芍薬散加人参、当帰芍薬散加附子、排膿散及湯、八解散、附子理中湯、味麦地黄丸、明朗飲、抑肝散加芍薬黄連、連珠飲などが挙げられる。
【0020】
本実施形態では、植物性生薬エキスは、公知の方法により植物性生薬から得られるものであれば特に限定されない。植物性生薬は特に限定されないが、例えばカンゾウエキス、シャクヤクエキス、ニンジンエキス、ヨクイニンエキス、オンジエキス、バンランコンエキスなどが挙げられる。
【0021】
漢方エキス及び植物性生薬エキスの製法自体は公知である。例えば、抽出液は、原料生薬にその約1〜約200倍量(質量)の水性溶媒を加え、約60℃〜約100℃、好ましくは約80℃〜約100℃で撹拌下又は非撹拌下に約0.5時間〜約24時間抽出することにより得られるが、これに限定されない。例えば、撹拌下であれば、約0.5時間〜約3時間抽出してもよいし、非撹拌下であれば、約5時間〜約24時間抽出してもよい。抽出処理は、同一原料について1回だけ行ってもよいが、複数回、例えば2〜5回程度行うこともできる。必要に応じて、得られた抽出液を自然ろ過又は遠心ろ過してもよい。軟エキスは、抽出液を減圧及び/又は加温して濃縮することにより取得してもよい。エキス末は、抽出液又は軟エキスを、例えば噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧濃縮乾燥、自然乾燥などにより乾燥させることにより取得してもよい。乾燥機は、適用する乾燥方法に応じて適宜決定でき、例えばスプレードライヤー、ドラムドライヤー、急速凍結乾燥機などが挙げられる。
【0022】
本実施形態では、エキス末は、抽出液又は軟エキスにケイ酸類を添加し、得られた混合物を常法により噴霧乾燥することにより取得してもよい。ケイ酸類は、固着防止剤(固化防止剤とも呼ばれる)として使用できるものであればよく、例えば軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素などが挙げられる。ケイ酸類は、抽出液又は軟エキス1重量部に対して、0.05〜0.4重量部、好ましくは0.1〜0.3重量部、特に好ましくは0.15〜0.25重量部添加してよい。
【0023】
本実施形態では、抽出液又は軟エキスを乾燥させて得られたエキス末(以下、乾燥エキス末ともいう)に、固着防止剤としてケイ酸類を添加してもよい。ケイ酸類は、乾燥エキス末1重量部に対して、0.01〜0.4重量部、好ましくは0.05〜0.3重量部、特に好ましくは0.1〜0.2重量部添加してよい。
【0024】
本実施形態では、固形製剤における漢方エキス又は植物性生薬エキスの配合割合は60重量%以上である。すなわち、固形製剤において漢方エキス又は植物性生薬エキスが、該固形製剤の総重量の60重量%以上となるように、該エキスが配合されている。固形製剤における漢方エキス又は植物性生薬エキスの配合割合は、例えば60重量%以上90重量%以下であり、60重量%以上80重量%以下であることが好ましく、60重量%以上70重量%以下であることがより好ましい。
【0025】
原料生薬には一般に、同一の生薬であっても産地や収穫時期などによって異なるロットがある。本発明者らは、ロット間でデンプン含有量が一定ではないことを見出した。本実施形態では、固形製剤におけるα化デンプンの含有量が12重量%以下とするために、原料生薬の段階で、その抽出物にα化デンプンがどの程度含まれるかを測定してもよい。α化デンプンの測定法は、簡便性を考慮して、ヨウ素呈色法が好ましい。これにより、デンプン含有量がより少ないロットの原料生薬を選択することができる。カンゾウを例に挙げると、デンプン含有率が15重量%のカンゾウと、10重量%のカンゾウと、5重量%のカンゾウが存在した場合、デンプン含有率が15重量%のカンゾウよりも10重量%のカンゾウを使用することが好ましく、5重量%のカンゾウを使用することがより好ましい。
【0026】
原料生薬の抽出液に含まれるα化デンプンのヨウ素呈色法による測定は、例えば次のようにして行うことができる。まず、原料生薬を適当な大きさに裁断したものを一定量とり、水10倍量を加え、95℃以上で1時間抽出する。得られた抽出物をろ紙でろ過し、夾雑物を取り除く。ろ液を蒸留水で50 mLにメスアップしたのち、その5mLにヨウ素液(0.5 mL)を加えて、蒸留水で50 mLにメスアップし、分光光度計で600 nmでの吸光度を測定する。また、検量線作成のための標準物質として、市販のα化デンプンを用いる。上記のろ液に替えて、種々の濃度のα化デンプン水溶液を同様に測定して、α化デンプン含有量と吸光度との関係を示す検量線を作成する。この検量線を用いて、原料生薬の抽出物に含まれるα化デンプン量を決定する。検量線は、測定ごとに作成してもよいし、あらかじめ作成したものを用いてもよい。
【0027】
本実施形態では、固形製剤におけるα化デンプンの含有量が12重量%以下とするために、漢方エキス又は植物性生薬エキスの段階で、そのエキスにα化デンプンがどの程度含まれるかを測定することが好ましい。これにより、エキス中のα化デンプンの測定値に基づいて、固形製剤においてエキスが60重量%以上の割合で配合され、かつ固形製剤におけるα化デンプンの含有量が12重量%以下となるように、漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを混合することができる。例えば、固形製剤が錠剤の場合、製造しようとする錠剤の1錠重量と、エキス中のα化デンプンの測定値とから、錠剤にエキスが60重量%以上の含有量で含まれ、かつ固形製剤におけるα化デンプンの含有量が12重量%以下となるエキスの重量を算出し、その重量のエキスと添加剤とを混合する。
【0028】
漢方エキス又は植物性生薬エキスに含まれるα化デンプンの測定では、試料に用いる漢方エキス又は植物性生薬エキスの形態は、抽出液、軟エキス及びエキス末のいずれであってもよいが、固形製剤の製造に用いる形態と同じであることが好ましい。本実施形態では、乾燥エキス末を用いることが好ましい。乾燥エキス末を試料に用いたヨウ素呈色法による測定は、例えば次のようにして行うことができる。まず、乾燥エキス末から100 mg分取して常温の蒸留水(25 mL)と混合し、5分間浸透させて可溶性成分を溶解させる。エキスと蒸留水との混合物をろ紙でろ過し、夾雑物を取り除く。ろ液全量にヨウ素液(1mL)を加えて、蒸留水で100 mLにメスアップして分光光度計で600 nmでの吸光度を測定する。そして、上記の検量線を用いて、エキス中のα化デンプンの含有量を決定する。
【0029】
漢方エキス又は植物性生薬エキス中のα化デンプンの含有量を調節するために、必要に応じて、アミラーゼなどのα化デンプンを分解可能な酵素をエキスに添加して、所定の時間反応させてもよい。反応終了後、加熱により酵素を失活させてもよい。酵素の添加量及び反応時間は、α化デンプンの含有量に応じて適宜決定できる。
【0030】
本実施形態では、固形製剤におけるα化デンプンの含有量は12重量%以下であり、例えば11.5、11、10.5、10、9.5、9、8.5、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5又は1重量%以下であり得る。固形製剤に漢方エキス又は植物性生薬エキスを60重量%以上で配合できる限りにおいて、固形製剤におけるα化デンプンの含有量はより低い方が好ましく、例えば9%重量以下、好ましくは6%重量以下、さらに好ましくは3重量%以下であり得る。
【0031】
本実施形態の固形製剤の剤形は、錠剤、顆粒剤又は丸薬が好ましく、錠剤が特に好ましい。本実施形態の固形製剤では、α化デンプンを低減することにより崩壊性を改善しているので、崩壊剤等を多量に添加することを必要としない。そのため、本実施形態の錠剤は小型化することが可能となる。本実施形態の錠剤の1錠あたりの重量は、服用性や生産性を考慮して、例えば200 mg以上500 mg以下であり、好ましくは250 mg以上450 mg以下であり、より好ましくは300 mg以上400 mg以下である。
【0032】
本実施形態の固形製剤は、剤形に応じて公知の製造方法で製造できる。固形製剤として錠剤を製造する場合は、例えば、錠剤の製造において一般的に行われている粉砕、混合、造粒、乾燥、圧縮などの工程を適宜行う。造粒法としては、湿式造粒法及び乾式造粒法があるが、湿式造粒法が好ましい。湿式造粒の種類は特に限定されないが、例えば撹拌造粒、流動層造粒、押し出し造粒、転動造粒、解砕造粒、噴霧造粒などから適宜選択できる。これらの造粒は、一般に入手可能な製剤機器を用いて行うことができる。造粒により得られた粒子を乾燥させた後、整粒して、所定の粒度分布となるようにすることが好ましい。乾燥手段は特に限定されないが、流動層乾燥により粒子を乾燥させることが好ましい。流動層乾燥は、公知の流動層乾燥機を用いて行うことができる。造粒機に流動層乾燥機能が付加されている場合は、その造粒機により乾燥させてもよい。
【0033】
本実施形態では、漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを混合した後、造粒を行わずに、混合末を直接打錠することも可能である。漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤との混合末又はこれを造粒した粒子は、一般に入手可能な打錠機を用いて圧縮成形して錠剤化することができる。上記の混合末又は粒子に滑沢剤を混合して打錠用粉末とし、得られた打錠用粉末を圧縮成型してもよい。錠剤化は所望の打錠圧で実施できる。
【0034】
錠剤は、コーティング製剤(例えば糖衣錠、フィルムコーティング錠など)として製造してもよい。コーティング層は、パンコーティング法、流動層コーティング法、転動コーティング法などの慣用法により、コーティング剤を薬物核(造粒した粒子又は素錠)に付与することで得ることができる。素錠とは、コーティングされていない錠剤を意味する。
【0035】
薬学的に許容される添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、滑沢化剤、崩壊剤、崩壊補助剤、安定(化)剤、可溶(化)剤、緩衝剤、基剤、吸着剤、硬化剤、抗酸化剤、光沢化剤、界面活性剤、分散剤、懸濁(化)剤、コーティング剤、充填剤、清涼(化)剤、甘味剤、咀嚼剤、静電防止剤、着色剤、糖衣剤、発泡剤、pH調整剤、防湿剤、防腐剤、保存剤、流動化剤(又は固着防止剤)、矯味剤、矯臭剤などが挙げられる。各々の具体例は、製剤学上利用可能なもの(例えば、第十七改正日本薬局方又は医薬品添加物規格に適合するもの)であれば特に限定されないが、下記のものを例示することができる。
【0036】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、粉末セルロース、糖アルコール(例えばエリスリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトールなど)、多糖(例えば、[精製]白糖、トレハロース、乳糖、ブドウ糖、麦芽糖、果糖、マルトース、[粉末]還元麦芽糖水アメ)、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、乳酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、タルク、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、カオリンなどが挙げられる。なお、当業界では、乳糖は、乳糖水和物又は乳糖一水和物とも呼ばれる。
【0037】
結合剤としては、例えば、アラビアゴム末、セルロース及びセルロース誘導体(例えば結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒプロメロース、カルメロース及びこれらの塩など)、多糖、糖アルコール、ゼラチン、ポビドン、コポリビドン、ポリビニルアルコール、アクリル酸系高分子、プルラン、トラガント末、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、炭酸水素ナトリウム、カンテン末などが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油、マクロゴールなどが挙げられる。流動化剤(又は固着防止剤)としては、例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、カオリンなどが挙げられる。
【0039】
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸及びその塩、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、クエン酸などが挙げられる。保存剤としては、例えば、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステルなどが挙げられる。pH調整剤としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。コーティング剤としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、ポビドン、腸溶性基剤、胃溶性基剤、多糖などが挙げられる。
【0040】
本実施形態において、薬学的に許容される添加剤の配合量は、製剤学上一般に採用される範囲から、本発明の効果を損なわないように適宜選択すればよい。
【0041】
さらなる実施形態は、漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを含み、前記エキスの配合割合が60重量%以上である固形製剤の製造において、前記固形製剤におけるα化デンプンの含有量を12重量%以下とすることにより、漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤の崩壊性を向上させる方法である。固形製剤の崩壊性は、固形製剤の崩壊時間により評価できる。崩壊時間の測定方法としては、例えば、第十七改正日本薬局方の一般試験法 6. 製剤試験法 6.09 崩壊試験法2.1.即放性製剤に記載された方法が挙げられる。試験液は適宜決定できるが、好ましくは水である。この実施形態の崩壊性を向上する方法によれば、漢方エキス又は植物性生薬エキスが60重量%以上の割合で配合され、かつ前記α化デンプンの含有量が12重量%より高い固形製剤に比べて、崩壊時間が短縮され得る。
【0042】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
<試験例1> 芍薬甘草湯エキス含有錠剤
(1) 芍薬甘草湯エキスの調製
(i) 原料生薬の抽出物中のα化デンプンの測定
芍薬甘草湯の原料生薬として、第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合したカンゾウ及びシャクヤクをそれぞれ複数ロット購入した。各生薬を適当な大きさに裁断したものを一定量ずつ量り、全量に水10倍量を加え、95℃以上で1時間抽出した。この抽出物と蒸留水との混合物を定性濾紙(東洋濾紙社製、No.1)でろ過し、夾雑物を取り除いた。ろ液を蒸留水で50 mLにメスアップしたのち、その5mLにヨウ素液(関東化学社製)を0.5 mL加えて、蒸留水で50 mLにメスアップし、ダブルレーザー分光光度計(日立製作所社製、U-2010)で600 nmでの吸光度を測定した。また、検量線作成のための標準物質として、可溶性デンプン(α化デンプン)(関東化学社製)を用いた。上記のろ液に替えて、種々の濃度の可溶性デンプン水溶液を同様に測定して、α化デンプン含有量と吸光度との関係を示す検量線を作成した。この検量線を用いて、各ロットのカンゾウ及びシャクヤクのそれぞれの抽出物に含まれるα化デンプン量を決定した。
【0044】
(ii) 芍薬甘草湯エキス中のα化デンプンの測定
上記(i)の結果に基づいて、各ロットのカンゾウ及びシャクヤクを組み合わせて、α化デンプン含有量が少ない順に、各組み合わせを実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4とした。α化デンプン含有量が最も多いロットの組み合わせを比較例1とした。これらのカンゾウ及びシャクヤクの組み合わせを用いて、第十七改正日本薬局方に記載の芍薬甘草湯エキスの製法に従って、芍薬甘草湯の乾燥エキス末(以下、「芍薬甘草湯エキス」とも呼ぶ)を調製した。実施例1〜4及び比較例1のそれぞれの芍薬甘草湯エキスから100 mgずつ分取して常温の蒸留水(25 mL)と混合し、振とう機(イワキ産業社製、V-SN)で5分間振とうさせて可溶性成分を溶解させた。エキスと蒸留水との混合物を定性濾紙(東洋濾紙社製、No.1)でろ過し、夾雑物を取り除いた。ろ液全量にヨウ素液(1mL)を加えて、蒸留水で100 mLにメスアップして、ダブルレーザー分光光度計(日立製作所社製、U-2010)で600 nmでの吸光度を測定した。上記(i)で作成した検量線を用いて、各芍薬甘草湯エキス中のα化デンプンの含有量を決定した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(2) 芍薬甘草湯エキス含有錠剤の製造
表2に、実施例1〜4及び比較例1の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(ii)で得た芍薬甘草湯エキスと含水二酸化ケイ素とを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、カルメロースカルシウム、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。
【0047】
【表2】
【0048】
(3) 錠剤の硬度及び崩壊時間の測定
実施例1〜4及び比較例1の錠剤(10錠)のそれぞれについて、硬度を硬度計(Sotax社製、MT50)で測定した。また、実施例1〜4及び比較例1の錠剤(6錠)のそれぞれについて、第十七改正日本薬局方の一般試験法 6. 製剤試験法 6.09 崩壊試験法 2.1.即放性製剤の記載に基づいて、錠剤の崩壊時間を崩壊試験機(富山産業社製、NT-2H)で測定した。試験液には水を用いた。補助版は使用しなかった。結果を表3に示す。また、各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフを図1に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3より、実施例1〜4及び比較例1の錠剤はいずれも十分な硬度を有していた。一方、崩壊時間については、表3から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図1に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があることが明らかとなった。このように、錠剤の組成及び製法が同じであるにもかかわらず、崩壊時間が最大で約50%短縮されたことは驚くべき結果であった。
【0051】
本試験例の結果は、固形製剤中のα化デンプンの含有量が、漢方エキスや植物性生薬エキスを含む固形製剤の崩壊性に関与する重要な成分であることを示唆示する。また、固形製剤中の漢方エキス配合量を増加すると崩壊時間が著しく延長することは、漢方エキスに由来するα化デンプンの含有量が増加することが原因となって引き起こされていることを示唆する。これらの知見より、α化デンプンの含有量が少なくなるように漢方エキスを固形製剤に配合することで、崩壊性の改善のための高価な添加剤や工数のかかる製造技術に依らずに、崩壊性に優れた漢方エキス含有固形製剤を製造し得ることが示唆された。
【0052】
表3のとおり、実施例1〜4の錠剤では、崩壊時間が30分以下と良好な崩壊性を示した。よって、芍薬甘草湯エキスが60重量%以上の割合で配合された固形製剤の製造において、該固形製剤におけるα化デンプンの含有量を12重量%以下とすることにより、十分な硬度と優れた崩壊性を備えた固形製剤が得られることが示された。
【0053】
<試験例2> 半夏厚朴湯エキス含有錠剤
半夏厚朴湯エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0054】
(1) 半夏厚朴湯エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した半夏厚朴湯の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の半夏厚朴湯エキスの製法に従って、半夏厚朴湯の乾燥エキス末(以下、「半夏厚朴湯エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの半夏厚朴湯エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表4に示す。調製した半夏厚朴湯エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例5、実施例6及び比較例2とした。
【0055】
【表4】
【0056】
(2) 半夏厚朴湯エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表5に、実施例5、6及び比較例2の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た半夏厚朴湯エキスと含水二酸化ケイ素とを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、クロスカルメロースカルシウム、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例5、6及び比較例2の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表5に示す。また、各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフを図2に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
表5から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図2に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0059】
<試験例3> 防已黄耆湯エキス含有錠剤
防已黄耆湯エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0060】
(1) 防已黄耆湯エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した防已黄耆湯の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の防已黄耆湯エキスの製法に従って、防已黄耆湯の乾燥エキス末(以下、「防已黄耆湯エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの防已黄耆湯エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表6に示す。調製した防已黄耆湯エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例7、実施例8及び比較例3とした。
【0061】
【表6】
【0062】
(2) 防已黄耆湯エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表7に、実施例7、8及び比較例3の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た防已黄耆湯エキスと、含水二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、水酸化アルミナマグネシウム、タルク及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例7、8及び比較例3の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表7に示す。また、各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフを図3に示す。
【0063】
【表7】
【0064】
表7から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図3に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0065】
<試験例4> 小青竜湯エキス含有錠剤
小青竜湯エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0066】
(1) 小青竜湯エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した小青竜湯の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の小青竜湯エキスの製法に従って、小青竜湯の乾燥エキス末(以下、「小青竜湯エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの小青竜湯エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表8に示す。調製した小青竜湯エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例9、実施例10及び比較例4とした。
【0067】
【表8】
【0068】
(2) 小青竜湯エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表9に、実施例9、10及び比較例4の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た小青竜湯エキスと含水二酸化ケイ素とを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、カルメロースカルシウム、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例9、10及び比較例4の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表9に示す。
【0069】
【表9】
【0070】
表9から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図4に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0071】
<試験例5> 五苓散エキス含有錠剤
五苓散エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0072】
(1) 五苓散エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した小青竜湯の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の五苓散エキスの製法に従って、五苓散の乾燥エキス末(以下、「五苓散エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの五苓散エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表10に示す。調製した五苓散エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例11、実施例12及び比較例5とした。
【0073】
【表10】
【0074】
(2) 五苓散エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表11に、実施例11、12及び比較例5の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た五苓散エキスと軽質無水ケイ酸とを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例11、12及び比較例5の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表11に示す。
【0075】
【表11】
【0076】
表11から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図5に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0077】
<試験例6> 大柴胡湯エキス含有錠剤
大柴胡湯エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0078】
(1) 大柴胡湯エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した大柴胡湯の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の大柴胡湯エキスの製法に従って、大柴胡湯の乾燥エキス末(以下、「大柴胡湯エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの大柴胡湯エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表12に示す。調製した大柴胡湯エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例13、実施例14及び比較例6とした。
【0079】
【表12】
【0080】
(2) 大柴胡湯エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表13に、実施例13、14及び比較例6の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た大柴胡湯エキスと、軽質無水ケイ酸及びラウリル硫酸ナトリウムとを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例13、14及び比較例6の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表13に示す。
【0081】
【表13】
【0082】
表13から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図6に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0083】
<試験例7> 葛根湯加川キュウ辛夷エキス含有錠剤
葛根湯加川キュウ辛夷エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0084】
(1) 葛根湯加川キュウ辛夷エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した葛根湯加川キュウ辛夷の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の葛根湯加川キュウ辛夷エキスの製法に従って、葛根湯加川キュウ辛夷の乾燥エキス末(以下、「葛根湯加川キュウ辛夷エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの葛根湯加川キュウ辛夷エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表14に示す。調製した葛根湯加川キュウ辛夷エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例15、実施例16及び比較例7とした。
【0085】
【表14】
【0086】
(2) 葛根湯加川キュウ辛夷エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表15に、実施例15、16及び比較例7の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た葛根湯加川キュウ辛夷エキスと、カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸及びラウリル硫酸ナトリウムとを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、水酸化アルミナマグネシウム、軽質無水ケイ酸、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例15、16及び比較例7の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表15に示す。
【0087】
【表15】
【0088】
表15から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図7に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0089】
<試験例8> 加味帰脾湯エキス含有錠剤
加味帰脾湯エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0090】
(1) 加味帰脾湯エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した加味帰脾湯の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の加味帰脾湯エキスの製法に従って、加味帰脾湯の乾燥エキス末(以下、「加味帰脾湯エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの加味帰脾湯エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表16に示す。調製した加味帰脾湯エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例17、実施例18及び比較例8とした。
【0091】
【表16】
【0092】
(2) 加味帰脾湯エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表17に、実施例17、18及び比較例8の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た加味帰脾湯エキスと軽質無水ケイ酸とを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、カルメロースカルシウム、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例17、18及び比較例8の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表17に示す。
【0093】
【表17】
【0094】
表17から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図8に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0095】
<試験例9> 桂枝加苓朮附湯エキス含有錠剤
桂枝加苓朮附湯エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0096】
(1) 桂枝加苓朮附湯エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した桂枝加苓朮附湯の原料生薬を複数ロット購入して「改訂 一般用漢方処方の手引き」などの公知の文献の桂枝加苓朮附湯の項目に書かれた生薬を適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載のエキス剤の製法に従って、桂枝加苓朮附湯の乾燥エキス末(以下、「桂枝加苓朮附湯エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの桂枝加苓朮附湯エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表18に示す。調製した桂枝加苓朮附湯エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例19、実施例20及び比較例9とした。
【0097】
【表18】
【0098】
(2) 桂枝加苓朮附湯エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表19に、実施例19、20及び比較例9の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た桂枝加苓朮附湯エキスと軽質無水ケイ酸とを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例19、20及び比較例9の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表19に示す。
【0099】
【表19】
【0100】
表19から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図9に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0101】
<試験例10> 半夏瀉心湯エキス含有錠剤
半夏瀉心湯エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0102】
(1) 半夏瀉心湯エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した半夏瀉心湯の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の半夏瀉心湯エキスの製法に従って、半夏瀉心湯の乾燥エキス末(以下、「半夏瀉心湯エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの半夏瀉心湯エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表20に示す。調製した半夏瀉心湯エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例21、実施例22及び比較例10とした。
【0103】
【表20】
【0104】
(2) 半夏瀉心湯エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表21に、実施例21、22及び比較例10の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た半夏瀉心湯エキスと、乳糖水和物及び軽質無水ケイ酸とを混合し、99%エタノールを溶媒として添加し、乳鉢を用いて造粒した。乾燥棚で乾燥させた造粒末と、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例21、22及び比較例10の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表21に示す。
【0105】
【表21】
【0106】
表21から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図10に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0107】
<試験例11> 防風通聖散エキス含有錠剤
防風通聖散エキス含有錠剤についても、芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様の結果が得られるかについて検討した。
【0108】
(1) 防風通聖散エキスの調製
第十七改正日本薬局方に記載された規格に適合した防風通聖散の原料生薬を複数ロット購入して適宜組み合わせた。3通りの原料生薬の組み合わせについて、第十七改正日本薬局方に記載の防風通聖散エキスの製法に従って、防風通聖散の乾燥エキス末(以下、「防風通聖散エキス」とも呼ぶ)を調製した。試験例1と同様にして、それぞれの防風通聖散エキス中のα化デンプンの含有量を測定した。結果を表22に示す。調製した防風通聖散エキスを、α化デンプン含有量が少ない順に実施例23、実施例24及び比較例11とした。
【0109】
【表22】
【0110】
(2) 防風通聖散エキス含有錠剤の製造及び崩壊時間の測定
表23に、実施例23、24及び比較例11の錠剤の処方(1錠当たりの成分量)を示す。処方自体はいずれも同じである。各錠剤を、次のようにして製造した。上記(1)で得た防風通聖散エキスと、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、タルク及びステアリン酸マグネシウムとを混合し、混合物を50号メッシュで篩過して、打錠末を得た。得られた打錠末を、ロータリー打錠機(菊水製作所社製、コレクト24)を用いて圧縮成型して錠剤を得た。実施例23、24及び比較例11の錠剤(6錠)のそれぞれについて、試験例1と同様にして、錠剤の崩壊時間を測定した。結果を表23に示す。また、各錠剤の1錠中のα化デンプン含有量(重量%)と崩壊時間(分)とをプロットしたグラフを図11に示す。
【0111】
【表23】
【0112】
表23から分かるように、錠剤中のα化デンプン含有量が少ないほど、崩壊時間が短くなることが示された。また、図11に示されるように、1錠中のα化デンプン含量と錠剤の崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があった。これらの結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。
【0113】
上記のとおり、試験例2〜11の結果は、試験例1の芍薬甘草湯エキス含有錠剤と同様であった。デンプンは、植物性生薬に普遍的に含まれるものであることから、試験例1で得た知見は、漢方エキス全般に当てはまることが示唆される。したがって、本実施形態においては、漢方エキス又は植物性生薬エキスが60重量%以上の割合で配合された固形製剤の製造において、該固形製剤におけるα化デンプンの含有量を12重量%以下とすることにより、崩壊性に優れた固形製剤が得られることが示された。
【0114】
<処方例>
以下に、本実施形態の錠剤の処方例を挙げるが、本発明はこれらに限られるものではない。表24〜26に記載の処方について、公知の技術を用いて錠剤とする。
【0115】
【表24】
【0116】
【表25】
【0117】
【表26】
【産業上の利用可能性】
【0118】
本実施形態の固形製剤は、漢方エキス又は植物性生薬エキスの配合割合が多くても、添加剤の配合量や種類、製剤技術などに依存せずに崩壊性が改善された製剤を簡便に製造することができる。すなわち、添加剤の配合量を減らすことが可能になるため、1回あたりの服用量を減らすことができ、錠剤であればサイズを小さくして服用性を高めることが可能になる。また、高価な添加剤や煩雑な製剤技術に依存しないことで、製造コストを抑えることが可能となり、高品質かつ価格の安い製剤を市場に提供することが可能となる。
【0119】
漢方エキスが配合された固形製剤は、天然物である生薬を原料としているがゆえに、同一の製品であったとしても、ロットによって崩壊時間にバラツキが生じてしまうことがしばしばあった。これは、生薬エキス配合剤の品質安定化の課題の一つになっている。本発明者らにより得られた、製剤中のα化デンプン含有量と崩壊時間との間に非常に強い直線的な相関関係があるという知見は、この課題の解決に大きく寄与する。例えば、ある漢方エキスを配合した固形製剤について、製剤中のα化デンプン含有量と崩壊時間との関係を直線の近似式で表しておくことで、製剤化する前にその崩壊時間を予測できるようになり、崩壊時間の遅い製剤が製造されることを防ぐことができる。
【要約】
【課題】高価な添加剤や工数のかかる製造技術に依らずに、崩壊性に優れた漢方エキス又は植物性生薬エキスを含む固形製剤を製造できる手段を提供することを課題とする。
【解決手段】漢方エキス又は植物性生薬エキスと、薬学的に許容される添加剤とを含み、当該エキスが60重量%以上の割合で配合された固形製剤において、α化デンプンの含有量を12重量%以下とすることにより、上記の課題を解決する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11