(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918441
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】水処理装置及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/08 20060101AFI20210729BHJP
【FI】
C02F3/08 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-40893(P2016-40893)
(22)【出願日】2016年3月3日
(65)【公開番号】特開2017-154101(P2017-154101A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年5月17日
【審判番号】不服2019-16834(P2019-16834/J1)
【審判請求日】2019年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】特許業務法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】村田 圭三
【合議体】
【審判長】
日比野 隆治
【審判官】
正 知晃
【審判官】
金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−079034(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/167952(WO,A1)
【文献】
特開2000−254684(JP,A)
【文献】
特開2015−192949(JP,A)
【文献】
特開2007−175582(JP,A)
【文献】
特開2002−079294(JP,A)
【文献】
特開2000−301197(JP,A)
【文献】
特開2014−200760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性処理された硫化水素を含む被処理水を処理する水処理装置であって、
処理槽と、
前記処理槽内に充填され、硫黄酸化菌を含む好気性微生物が固定されている担体と、を備え、
前記処理槽は、前記担体に対する硫化水素の負荷が1kgH2S/m3担体・日以下の条件で、前記被処理水を処理することを特徴とし、
前記処理槽は、
前記担体の充填率が10%以上、かつ、前記被処理水の処理槽内における滞留時間が2時間以上の条件、又は、
前記担体の充填率が20%以上、かつ、前記被処理水の処理槽内における滞留時間が1時間以上の条件で、前記被処理水を処理することを特徴とする、水処理装置。
【請求項2】
前記被処理水の処理槽内における滞留時間が3時間以内であることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
嫌気性処理された硫化水素を含む被処理水を処理する水処理方法であって、
硫黄酸化菌を含む好気性微生物が固定されている担体を充填した処理槽を用いて、前記担体に対する硫化水素の負荷が1kgH2S/m3担体・日以下の条件で、被処理水を処理する工程、及び、
充填率10%以上で担体を充填した処理槽を用いて、被処理水を処理槽内に2時間以上滞留させる工程、若しくは、
充填率20%以上で担体を充填した処理槽を用いて、被処理水を処理槽内に1時間以上滞留させる工程、を備えたことを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性処理された硫化水素を含む被処理水を処理する水処理装置及び水処理方法に関する。更に詳しくは、嫌気性処理された硫化水素を含む被処理水を、担体が充填された処理槽により処理する水処理装置及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生活排水などの有機性排水を処理する排水処理方法として、嫌気性微生物を用いて処理する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法によれば、有機性排水を、酸生成槽、メタン発酵のための嫌気反応槽、及び付加した嫌気反応槽の順に通水することにより、有機性排水のCODを低下している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−164892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
嫌気性処理槽から排出された処理排水には、硫化水素(H
2S)が含まれていることがあり、そのまま放流すると、硫化水素のガスが揮発して異臭を発生する。そこで、本発明の課題は、嫌気性処理された処理排水から硫化水素を除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、担体を充填した処理槽において、硫化水素を含む被処理水を、特定の条件で処理することにより、硫化水素を除去できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の水処理装置及び水処理方法である。
【0006】
上記課題を解決するための本発明の水処理装置は、嫌気性処理された硫化水素を含む被処理水を処理する水処理装置であって、処理槽と、前記処理槽内に充填される担体と、を備え、前記処理槽は、前記担体に対する硫化水素の負荷が1kgH
2S/m
3担体・日以下の条件で、前記被処理水を処理することを特徴とする。
【0007】
また、上記課題を解決するための本発明の水処理装置は、嫌気性処理された硫化水素を含む被処理水を処理する水処理装置であって、処理槽と、前記処理槽内に充填される担体と、を備え、前記処理槽は、前記担体の充填率が10%以上、かつ、前記被処理水の処理槽内における滞留時間が2時間以上の条件、又は、前記担体の充填率が20%以上、かつ、前記被処理水の処理槽内における滞留時間が1時間以上の条件で、前記被処理水を処理することを特徴とする。
【0008】
上記の水処理装置によれば、嫌気性処理後の硫化水素を含む被処理水から硫化水素が除去されるため、硫化水素の揮発による異臭を低減することができる。
更には、被処理中の硫化水素を高度に除去することができるため、本発明の水処理装置により処理された処理水は、残存する硫化水素量の観点に限れば、そのまま排水路等に放流しても問題を生じない。また、更に別の処理を行う場合にも、後段の処理工程において異臭が発生するという問題を生じないという効果を奏する。
【0009】
また、硫化水素が揮発して空気中に拡散すると、活性炭等の吸着剤を使用して空気中から硫化水素を除去する必要がある。そして、硫化水素の揮発する量が多くなると、活性炭等の吸着剤の交換頻度が高まりランニングコストが増えるという問題が生じる。上記の水処理装置によれば、被処理水中に含まれる硫化水素を酸化して除去するため、揮発する硫化水素の量を低減することができ、吸着剤の交換に要するランニングコストも低減することができる。
【0010】
更に、本発明の水処理装置の一実施態様としては、被処理水の処理槽内における滞留時間は3時間以内であるという特徴を有する。
この特徴によれば、短時間で硫化水素を処理することができるため、処理槽の容量を縮小することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明の水処理方法は、嫌気性処理された硫化水素を含む被処理水を処理する水処理方法であって、担体を充填した処理槽を用いて、前記担体に対する硫化水素の負荷が1kgH
2S/m
3担体・日以下の条件で、被処理水を処理する工程、充填率10%以上で担体を充填した処理槽を用いて、被処理水を処理槽内に2時間以上滞留させる工程、又は、充填率20%以上で担体を充填した処理槽を用いて、被処理水を処理槽内に1時間以上滞留させる工程、のいずれかの工程を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記の水処理方法によれば、上記水処理装置と同様、嫌気性処理後の硫化水素を含む被処理水から硫化水素が除去されるため、硫化水素の揮発による異臭を低減することができる。そのため、別の処理を行う場合にも、後段の処理工程において異臭が発生するという問題を生じないという効果を奏する。
【0013】
また、本発明の水処理方法により処理された処理水は、残存する硫化水素量の観点に限れば、そのまま排水路等に放流することができるため、有機性排水の処理工程を軽減することができる。
【0014】
また、上記の水処理方法によれば、揮発する硫化水素の量を低減することができるため、活性炭等の吸着剤の効果頻度を低下し、有機性排水の処理の作業が軽減される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水処理装置によれば、嫌気性処理後の硫化水素を含む被処理水から硫化水素が除去されるため、硫化水素の揮発による異臭を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施態様の水処理装置、及び、嫌気処理装置の構造を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様の水処理装置において、被処理水の滞留時間、担体に対する硫化水素の負荷(kgH
2S/m
3担体・日)の各条件についての硫化水素の除去率を示すグラフである。
【
図3】本発明の第1の実施態様の水処理装置において、被処理水の滞留時間、担体の充填率、担体に対する硫化水素の負荷(kgH
2S/m
3担体・日)の各条件についての硫化水素の除去率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水処理装置は、嫌気性処理され、硫化水素を含有する被処理水を処理する水処理装置であって、処理槽と、処理槽内に充填される担体を備えている。
【0018】
本発明の水処理装置の用途は、嫌気性処理された硫化水素を含有する被処理水を処理して、被処理水内の硫化水素を低減する目的で利用される。例えば、下水処理場、食品工場等から発生する有機性排水を嫌気性微生物により嫌気性処理した処理排水を、本発明の水処理装置の被処理水として使用する。
【0019】
次に、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施形態は、本発明を限定するものではない。
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様の水処理装置1、及び、嫌気性処理装置4の構造を示す概略説明図である。
【0020】
(嫌気処理装置)
嫌気処理装置4は、酸生成槽5、メタン発酵槽6により構成され、有機性排水等の原水W2に嫌気性処理を行い、原水W2中に含まれる有機物からメタンガスGを得る装置である。酸生成槽5は、酸生成菌等の微生物により原水W2中に含まれる糖、蛋白質又は油分などの固体や高分子有機物から低級脂肪酸を生成する酸生成工程を行うための槽であり、メタン発酵槽6は、低級脂肪酸からメタンを生成するメタン生成工程を行うための槽である。
【0021】
原水W2は、酸生成槽5により処理されると、酸生成処理水W3としてメタン発酵槽6の下部から流入し、メタン発酵槽6を上昇する。酸生成処理水W3は、メタン発酵槽6を上昇する間にメタン生成工程が行われ、一部の処理排水が本発明の水処理装置1の被処理水W0として使用される。残りの処理排水は、返送処理水W4として酸生成槽5へ返送され、酸生成槽5とメタン発酵槽6の間を循環する。循環することにより、メタン発酵の基質となる低級脂肪酸の濃度を高め、メタン発酵を効率的に実行することができる。
【0022】
なお、第1の実施態様の嫌気性処理装置4では、嫌気性処理としてメタン発酵を行う嫌気性処理装置であるが、嫌気性処理装置は、硫化水素を発生する嫌気性処理を行うものであればよく、制限されない。
【0023】
(水処理装置)
本発明の水処理装置1は、処理槽2と、処理槽2内に充填された担体3を備えている。また、処理槽2は、ブロアBとこれに接続された散気装置とを備えており、散気装置に開口された散気孔より処理槽2内に微細気泡が供給される。微細気泡は、1mm以下の気泡の他、100μm以下のマイクロバブル等でもよい。被処理水W0中との接触面積が大きいという観点から、マイクロバブルを利用することが好ましい。
【0024】
処理槽2には、好気性微生物として硫黄酸化菌が存在し、散気による好気性条件下で被処理水W0に含まれる硫化水素を酸化する。
また、本発明の水処理装置1では、処理槽2内に担体3が充填されており、硫黄酸化菌を含む好気性微生物が担体3に固定されている。これにより、硫黄酸化菌を高濃度で存在するため、硫化水素を効率的に除去することができる。
【0025】
担体3としては、特に制限されないが、例えば、プラスチック、スポンジ、多孔性焼結物、コークス等が挙げられる。微生物が固定されやすいように、表面積が大きく、通水性に優れたものが好ましい。担体3の大きさについても特に制限されないが、取扱い性の観点から、一般的には直径2〜20mm、高さ2〜40mmの円柱又は円筒形、あるいは、2〜30mm×2〜30mm×2〜30mmの塊状である。
【0026】
<担体の充填率>
処理槽2の容量に対する担体3の充填率(体積%)は、10%以上であることが好ましく、更に好ましくは15%以上であり、特に好ましくは、20%以上である。担体3の充填率を10%以上とすることにより、硫化水素を効率的に除去することができる。
また、上限としては、特に制限されないが、好ましくは50%以下であり、更に好ましくは40%以下であり、特に好ましくは30%以下である。50%を超えて担体を充填しても硫化水素の除去率が上がらないため、技術的に意味がない。
なお、充填率とは、処理槽2に担体3を充填した際に、充填された担体3の嵩高(空隙を含む体積)を担体3の体積として、処理槽2の容量に対する担体3の体積%を算出したものである。
【0027】
<担体に対する硫化水素の負荷>
処理槽2に供給する被処理水W0の流量は、担体3に対する硫化水素の負荷が1kgH
2S/m
3担体・日以下であることが好ましく、更に好ましくは、0.7kgH
2S/m
3担体・日以下であり、特に好ましくは、0.5kgH
2S/m
3担体・日以下である。担体3に対する硫化水素の負荷が1kgH
2S/m
3担体・日以下とする場合には、硫化水素の除去率を高めることができる。
なお、担体3に対する硫化水素の負荷を表す「kgH
2S/m
3担体・日」は、1日に担体1m
3当たりに供給される硫化水素の重量(kg)という意味である。硫化水素の重量は、被処理水W0中の硫化水素濃度を測定しておき、被処理水W0の流量から算出することができる。
【0028】
<滞留時間>
被処理水W0の処理槽2内における滞留時間は、1時間以上であることが好ましい。滞留時間を1時間以上とすることにより、硫化水素の除去率を高めることができる。また、3時間以下であることが好ましく、2.5時間以下であることが更に好ましい。滞留時間を短縮することにより、処理槽2の容量を縮小することができる。
【0029】
また、これらの「担体の充填率」、「担体に対する硫化水素の負荷」、「滞留時間」の条件を組み合わせることにより、硫化水素の除去効率をより高めることができる。好ましい条件としては、担体の充填率が10%以上、かつ、滞留時間が2時間以上である、又は、担体の充填率が20%以上、かつ、滞留時間が1時間以上である。特に好ましい条件は、担体に対する硫化水素の負荷が0.6kgH
2S/m
3担体・日以下であり、担体の充填率が15〜30%、滞留時間が1.5〜2.5時間である。この条件は、被処理水から硫化水素を除去するという目的に特化した条件である。
【実施例】
【0030】
図2、
図3には、「担体の充填率」、「担体に対する硫化水素の負荷」、「滞留時間」の各条件について、硫化水素の除去率を測定した結果を示すグラフである。
なお、硫化水素の除去率は、以下の式(1)により算出した。
硫化水素の除去率=(被処理水W0のH
2S濃度−処理水W1のH
2S濃度)/被処理水W0のH
2S濃度 …式(1)
その他の条件:[曝気量]:0.5〜1.5VVH、[担体]10mm×10mm×10mm:スポンジ担体
【0031】
図2を参照すると、担体に対する硫化水素の負荷が1kgH
2S/m
3担体・日以下の条件のとき、優れた硫化水素除去率が認められる。
【0032】
図3を参照すると、担体の充填率が10%以上、かつ、被処理水の処理槽内における滞留時間が2時間以上である条件、又は、担体の充填率が20%以上、かつ、被処理水の処理槽内における滞留時間が1時間以上である条件において、優れた硫化水素除去率が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の水処理装置の用途は、嫌気性処理された硫化水素を含有する被処理水を処理して、被処理水内の硫化水素を低減する目的で利用される。例えば、下水処理場、食品工場等から発生する有機性排水を嫌気性微生物により嫌気性処理した処理排水を、排水路等に放流する場合に、排水路等で異臭が発生しないように、本発明の水処理装置を利用して硫化水素を除去する。
【符号の説明】
【0034】
1…水処理装置、2…処理槽、3…担体、4…嫌気処理装置、5…酸生成槽、6…メタン発酵槽、W0…被処理水、W1…処理水、W2…原水、W3…酸生成処理水、W4…返送処理水、G…メタンガス、P…ポンプ、B…ブロア