(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ケイ素化合物を含む第2層が、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、および酸窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つのケイ素化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
前記酸化亜鉛を含む第1層の亜鉛原子濃度のピークおよび平坦部は、X線光電子分光法により測定される亜鉛(Zn)原子濃度が10〜35atom%、ケイ素(Si)原子濃度が7〜25atom%、アルミニウム(Al)原子濃度が0.5〜5atom%、酸素(O)原子濃度が45〜70atom%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
前記ケイ素化合物を含む第2層は、X線光電子分光法により測定されるケイ素(Si)原子濃度が25〜45atom%、酸素(O)原子濃度が55〜75atom%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ガスバリア性フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムは、高分子基材の少なくとも片面に、酸化亜鉛を含む第1層とケイ素化合物を含む第2層を高分子基材側からこの順に配したA層を有し、X線光電子分光法により第2層表面側から原子濃度を測定した場合に、前記酸化亜鉛を含む第1層における亜鉛の原子濃度が、少なくとも1個のピークを有する、ガスバリア性フィルムである。なお、「酸化亜鉛を含む第1層」を、単に「第1層」と、「ケイ素化合物を含む第2層」を、単に「第2層」と略記することもある。
【0011】
図1に本発明のガスバリア性フィルムの一例の断面図を示す。本発明のガスバリア性フィルムは、高分子基材1の片面にA層2を有し、A層2は、酸化亜鉛を含む第1層2aとケイ素化合物を含む第2層2bとを高分子基材1からこの順に配されている。A層2は酸化亜鉛を含む第1層2aの上にケイ素化合物を含む第2層2bを配することによって、第1層表面のピンホールやクラック等の欠陥に第2層に含まれるケイ素化合物が充填され、高度なガスバリア性を有するものとなる。
【0012】
また、本発明はX線光電子分光法により第2層表面側から原子濃度を測定した場合に、前記酸化亜鉛を含む第1層における亜鉛の原子濃度が、少なくとも1個のピークを有することが好ましい。第1層における亜鉛の原子濃度が、第1層の表面
部でピークを有する場合、第1層表面の原子欠陥に第2層に含まれるケイ素原子が充填されて欠陥が減少することに加えて、第1層に含まれる亜鉛原子と第2層に含まれるケイ素原子が化学結合してZn−O−Siのシリケートを形成しやすくなり、第1層と第2層間の密着性が向上して第2層が緻密化するため、高度なガスバリア性をより安定して発現するものとなる。また、第1層は亜鉛の原子濃度が、第1層内部でピークを有する場合、硬度の低い亜鉛および酸化亜鉛を多く含む部分を有するため、屈曲や外部からの衝撃によって第1層にクラックが生じにくく、高度なガスバリア性を維持することができるガスバリア性フィルムとなる。従って、第1層における亜鉛の原子濃度が、少なくとも1個のピークを有することが好ましい。なお、第1層における亜鉛の原子濃度のピークに関する詳細は後述する。
【0013】
また、本発明のガスバリア性フィルムの別の一例は
図2に示すように、高分子基材1の片側において高分子基材1とA層2との間にアンダーコート層3を有するものである。アンダーコート層3を有することによって、高分子基材1の表面に突起や傷が存在しても、平坦化することができ、A層が偏りなく均一に成長するため、より高いガスバリア性を発現するガスバリア性フィルムとなる。なお、第1層の表面側については後述する。
【0014】
[高分子基材]
本発明に用いられる高分子基材は、柔軟性を確保する観点からフィルム形態を有することが好ましい。フィルムの構成としては、単層フィルム、または2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムであってもよい。フィルムの種類としては、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用してもよい。
【0015】
本発明に用いられる高分子基材の素材は特に限定されないが、有機高分子を主たる構成成分とするものであることが好ましい。本発明に好適に用いることができる有機高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィン、環状構造を有する非晶性環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性や汎用性、機械特性に優れた非晶性環状ポリオレフィンまたはポリエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。また、前記有機高分子は、単独重合体、共重合体のいずれでもよいし、有機高分子として1種類のみを用いてもよいし、複数種類をブレンドして用いてもよい。
【0016】
高分子基材のA層を形成する側の表面には、密着性や平滑性を良くするためにコロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、有機物もしくは無機物またはそれらの混合物で構成されるアンダーコート層の形成処理、等の前処理が施されていてもよい。また、A層を形成する側の反対側には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上を目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が積層されていてもよい。
【0017】
本発明に使用する高分子基材の厚みは特に限定されないが、柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましい。さらに、フィルムの加工やハンドリングの容易性から高分子基材の厚みは10μm以上、200μm以下がより好ましい。
【0018】
[酸化亜鉛を含む第1層]
本発明のガスバリア性フィルムは、A層が酸化亜鉛を含む第1層を有することによって高いガスバリア性を発現することができる。酸化亜鉛を含む第1層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、酸化亜鉛が硬度の低い化合物で、柔軟性に優れるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じにくく安定して高いガスバリア性を維持できると考えられる。また、本発明の酸化亜鉛を含む第1層は、酸化亜鉛を含んでいれば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)およびタンタル(Ta)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。さらに、これらの元素の酸化物、窒化物、硫化物、または、それらの混合物を含んでいてもよい。これらの中でも、二酸化ケイ素や酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ガリウム等の酸化物を少なくとも1つ混合させることで、酸化亜鉛の結晶成長が抑制され、膜全体が微細粒子で形成された非結晶構造の膜となるため、よりガスバリア性は優れたものになる。特に第1層が、さらに二酸化ケイ素を含むことがガスバリア性の観点から好ましい。
【0019】
例えば、高いガスバリア性が得られる酸化亜鉛と二酸化ケイ素を含む第1層として、以下の共存相からなる層が好適に用いられる。
(i)酸化亜鉛
(ii)二酸化ケイ素
(iii)酸化アルミニウム
なお、この共存相からなる層の詳細は後述する。
【0020】
本発明に使用する第1層の厚みは、ガスバリア性を発現する層の厚みとして20nm以上、1,000nm以下が好ましい。層の厚みが20nmより薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が発生し、高分子基材面内でガスバリア性がばらつく場合がある。また、層の厚みが1,000nmより厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によって第1層にクラックが発生しやすくなり、使用に伴いガスバリア性が低下する場合がある。従って、第1層の厚みは10nm以上、1,000nm以下が好ましく、柔軟性を確保する観点から100nm以上、500nm以下がより好ましい。
【0021】
本発明における第1層の厚みと組成は、X線光電子分光法(XPS法)と透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察を併用することにより測定したものである。具体的な方法としては、まず、第2層側から第1層方向にかけてアルゴンエッチングにより5nmずつ膜を除去し、X線光電子分光法で各原子の原子濃度を測定する。アルゴンエッチングにより除去した厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察から確認することができる。次に、5nmの間隔でアルゴンエッチングとX線光電子分光法による各原子の原子濃度測定を高分子基板またはアンダーコートのいずれかに到達するまで繰り返し、原子濃度プロファイルを得る。ここで、炭素(C)の原子濃度が3atom%以上検出された場合に、高分子基板またはアンダーコートのいずれかに到達したと判断する。なお、第2層の表面は外気汚染の影響や異物の付着により、有機物が堆積して炭素(C)の原子濃度が3atom%以上となる場合があるため表層から厚み2±0.5nmの範囲で膜を除外する。上述して得られた各原子濃度プロファイルにおいて、第2層表層から厚み2±0.5nmの範囲で膜を除外した位置から5nmずつエッチングしていき、最初に亜鉛(Zn)の原子濃度が3atom%以上を確認したプロットまでの厚みを本発明における第2層の厚みとし、前記最初に亜鉛(Zn)の原子濃度が3atom%以上を確認したプロットから高分子基板またはアンダーコートのいずれかに最初に到達したプロットまでの厚みを第1層の厚みとする。
【0022】
次に第1層の好ましい形態について説明する。
図3に本発明の第1層の組成の原子濃度プロファイルの一例を示す。本発明は、X線光電子分光法により第2層表面側から第1層方向にかけてアルゴンエッチングにより厚み5nmの間隔で膜を除去し、X線光電子分光法で各原子の原子濃度を測定して得られた亜鉛原子濃度プロファイルにおいて、第1層に、少なくとも1個の亜鉛原子濃度のピークを有することが好ましい。
【0023】
ここで、本発明における亜鉛原子濃度のピークとは、第1層において第2層表面側から高分子基板にかけて厚み5nmの間隔で測定した亜鉛原子濃度(atom%)をL
1、L
2、L
3・・・L
n(nは第1層の表面側からn番目の測定点を示す)としたとき、式(1)および式(2)を満たす第1層の表面側からn番目の測定点をいう。なお、式(1)を満たさない場合は、式(3)、式(5)を順次満たすか判定することとする。式(2)を満たさない場合は、式(4)、式(6)を順次満たすか判定することとする。本発明における亜鉛原子濃度のピークとは、式(1)、式(3)、式(5)のいずれかと式(2)、式(4)、式(6)のいずれかを満たすときの第1層の表面側からn番目の測定点をいう。このとき、式(1)、式(3)、式(5)のいずれかを満たす場合におけるnと式(2)、式(4)、式(6)のいずれかを満たす場合におけるnは同一の値である。
【0030】
本発明は、亜鉛原子濃度のピークを少なくとも1個有していればよく、第1層の表面部や高分子基板側、表面部と高分子基板側の間に亜鉛原子濃度のピークを複数有しても構わない。第1層の高分子基板側や表面部と高分子基板側の間に亜鉛原子濃度がピークを有する場合は、硬度の低い亜鉛や酸化亜鉛を膜内部に有するため、屈曲や外部からの衝撃によって第1層にクラックが生じにくくなるため、高度なガスバリア性を維持することができる。第1層に含まれる亜鉛原子濃度のピークは複数存在する方が屈曲や外部からの衝撃に対する耐性が良好となるため好ましい。
【0031】
また、第1層の表面部に亜鉛原子濃度のピークを有する場合は、第1層表面部の原子欠陥に第2層に含まれるケイ素原子が充填されて欠陥が減少することに加えて、第1層に含まれる亜鉛原子と第2層に含まれるケイ素原子が化学結合してZn−O−Siのシリケートを形成しやすくなり、第1層と第2層間の密着性が向上して第2層が緻密化するため、高度なガスバリア性をより安定して発現するものとなる。ここで第1層の表面部とは第1層表面から30nmの範囲をいう。なお、第1層表面とは、上述したように第2層側から第1層方向にかけて原子濃度プロファイルをとったときに最初に亜鉛(Zn)の原子濃度が3atom%以上を確認したプロットにおける位置をいう。第1層に含まれる亜鉛原子と第2層に含まれるケイ素原子が効率良く化学結合する様態として、第1層の亜鉛原子濃度のピークは、第1層表面から30nmの範囲に存在することが好ましく、さらには第1層表面から20nmの範囲に存在することがより好ましい。
【0032】
本発明のガスバリア性フィルムは、高度なガスバリア性に加えて、耐屈曲性や耐衝撃性を十分に発現する範囲として、第1層の亜鉛原子濃度のピークにおける亜鉛の原子濃度は、15atom%以上であることが好ましく、さらに好ましくは20atom%以上である。ここで、第1層の亜鉛原子濃度のピークにおける亜鉛の原子濃度が15atom%以上であるとは、少なくとも1つのピークにおける亜鉛の原子濃度が15atom%以上であることをいう。なお、ピークが複数あるときはすべてのピークにおける亜鉛の原子濃度が15atom%以上であることが好ましく、すべてのピークにおける亜鉛の原子濃度が20atom%以上であることがより好ましい。
【0033】
式(3)を満たす場合において、L
nとL
(n−1)の2点の亜鉛原子濃度が等しい場合のピークは、n番目とn−1番目の測定点の中央とし、ピークにおける原子濃度はn番目とn−1番目の測定点の平均値とする。式(4)を満たす場合において、L
nとL
(n+1)の2点の亜鉛原子濃度が等しい場合のピークは、n番目とn+1番目の測定点の中央とし、ピークにおける原子濃度はn番目とn+1番目の測定点の平均値とする。また、式(3)および式(4)を満たす場合において、L
nとL
(n−1)、L
(n+1)の3点の亜鉛原子濃度が等しい場合のピークは、n番目とn−1番目、n+1番目の3点の測定点の中央とし、ピークにおける原子濃度はn番目とn−1番目、n+1番目の3点の平均値とする。
【0034】
式(5)を満たす場合において、L
nとL
(n−1)、L
(n−2)の3点の亜鉛原子濃度が等しい場合のピークは、n番目とn−1番目、n−2番目の測定点の中央とし、ピークにおける原子濃度はn番目とn−1番目、n−2番目の平均値とする。式(6)を満たす場合において、L
nとL
(n+1)、L
(n+2)の3点の亜鉛原子濃度が等しい場合のピークは、n番目とn+1番目、n+2番目の測定点の中央とし、ピークにおける原子濃度はn番目とn+1番目、n+2番目の平均値とする。また、式(5)および式(6)を満たす場合において、L
nの亜鉛原子濃度と等しい測定点が複数ある場合のピークは、n番目の亜鉛原子濃度と等しくなる複数の測定点の中央とし、ピークにおける原子濃度はn番目の原子濃度と等しくなる複数の測定点の原子濃度の平均値とする。
【0035】
また、本発明はX線光電子分光法により第2層表面側から原子濃度を測定した場合に、前記酸化亜鉛を含む第1層における亜鉛(Zn)の原子濃度が平坦部となる範囲が含まれることが好ましい。ここで、本発明における亜鉛の原子濃度が平坦部となる範囲とは、亜鉛の原子濃度の変動係数が3%以下となる範囲である。すなわち、上述した方法で測定した第1層の亜鉛原子濃度プロファイルにおいて、連続した
m個分の亜鉛原子濃度の標準偏差をLσ、平均値をLaveとしたとき、式(7)で求められる変動係数が3%以下となる範囲が本発明における平坦部である。ただし、nは2以上の整数であり、
mが最大となるよう平坦部を決定する。
【0037】
亜鉛の原子濃度が平坦部となる範囲では、厚み方向および面内で膜質や膜構造が均一となりやすく、亜鉛の原子濃度が傾斜する場合に比べて、第1層のガスバリア性が安定化する。本発明のガスバリア性フィルムにおいて、亜鉛(Zn)の原子濃度が平坦部となる範囲は第1層の厚み全体の25%以上含まれることが好ましく、より好ましくは35%以上である。なお、平坦部が複数存在する場合は、それぞれの平坦部の占める厚みを合計したものを平坦部となる範囲とする。
【0038】
本発明に使用する第1層の中心面平均粗さSRaは、10nm以下であることが好ましい。SRaが10nmより大きくなると、第1層表面の凹凸形状が大きくなり、積層されガスバリア性の向上効果は得られにくくなる場合がある。また、SRaが10nmより大きくなると、第1層上に積層するケイ素化合物を含む第2層の膜質が均一にならないため、ガスバリア性が低下する場合がある。従って、第1層のSRaは10nm以下であることが好ましく、より好ましくは7nm以下である。本発明における第1層のSRaは、三次元表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
【0039】
高分子基材上(または高分子基材上に設けられた層上(例えば後述するアンダーコート層の上))に酸化亜鉛を含む第1層を形成する方法は特に限定されず、例えば第1層が目的とする組成になるように調整された混合焼結材料を使用して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。第1層に含まれる単体材料を使用する場合は、それぞれの材料を別の蒸着源またはスパッタ電極から同時に成膜し、所望の組成となるように混合させて形成することができる。これらの方法の中でも、本発明のガスバリア性フィルムのA層の第1層の形成方法は、ガスバリア性と形成した層の組成再現性の観点から、混合焼結材料を使用したスパッタリング法がより好ましい。
【0040】
第1層の厚み方向に亜鉛原子濃度のピークおよび平坦部を形成する方法は特に限定されず、第1層を複数の成膜室で分割して形成する場合、ピークおよび平坦部が目的とする組成になるように混合焼結材料の組成を調整して積層することで形成することができる。また、別の方法としては、混合焼結材料の組成を調整することに加えて、第1層形成中の高分子基材表面の温度を制御することで亜鉛原子濃度のピークおよび平坦部が形成できる。亜鉛は融点が低い金属元素であるため、第1層形成中に高分子基材表面が高温になると、熱拡散が起りやすく脱離する傾向がある。従って、第1層形成中に高分子基材表面の温度を上昇させると亜鉛原子濃度は減少し、逆に高分子基材表面の温度を低下させると亜鉛原子濃度は上昇する。これらの現象を利用し、第1層形成中に高分子基板表面の温度を連続的に制御して亜鉛原子濃度のピークを形成することができる。第1層形成中に高分子基板表面の温度を制御する方法としては、例えば、抵抗加熱や赤外線加熱、マイクロ波加熱などを利用したヒーターによる温度制御や膜形成に使用する蒸着源やスパッタ電極の輻射熱を利用し、高分子基板表面から蒸着源やスパッタ電極までの距離を調整して温度制御するなどの方法が適用できる。これらの中でも、本発明の第1層の厚み方向に亜鉛原子濃度のピークおよび平坦部を形成する方法は、設備コストが安価で簡便な方法として、スパッタ電極の輻射熱を利用した温度制御が好ましい。
【0041】
[酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層]
本発明において酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層として好適に用いられる共存相について詳細を説明する。第1層は以下の(i)〜(iii)の共存相からなることが好ましい。
(i)酸化亜鉛
(ii)二酸化ケイ素
(iii)酸化アルミニウム
なお、「(i)〜(iii)の共存相」を「酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相」または「ZnO−SiO
2−Al
2O
3」と略記することもある。また、二酸化ケイ素(SiO
2)は、生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO
2)が生成することがあるが、二酸化ケイ素あるいはSiO
2と表記することとする。かかる組成比の化学式からのずれに関しては、酸化亜鉛、酸化アルミニウムについても同様の扱いとし、それぞれ、生成時の条件に依存する組成比のずれに関わらず、それぞれ酸化亜鉛またはZnO、酸化アルミニウムまたはAl
2O
3と表記することとする。
【0042】
本発明のガスバリア性フィルムにおけるA層の第1層として酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素を含む層に、さらに酸化アルミニウムを共存させることによって、酸化亜鉛と二酸化ケイ素のみを共存させる場合に比べて、より結晶成長を抑制することができるため、クラックの生成に起因するガスバリア性低下が抑制できたものと考えられる。
【0043】
酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層の厚みと組成は、上述したX線光電子分光法(XPS法)と透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察を併用することにより得ることができる。本発明における第1層の亜鉛原子濃度のピークおよび平坦部における組成は、X線光電子分光法により測定される亜鉛(Zn)原子濃度が10〜は35atom%、ケイ素(Si)原子濃度が7〜25atom%、アルミニウム(Al)原子濃度が0.5〜5atom%、酸素(O)原子濃度が45〜70atom%であることが好ましい。ここで、亜鉛原子濃度のピークにおける組成が上記の組成であるとは、少なくとも1つの亜鉛原子濃度のピークにおける組成が上記の組成であることをいう。なお、第1層の亜鉛原子濃度のピークが複数ある場合、すべての亜鉛原子濃度のピークにおいて上記組成を満たすことが好ましい。また、平坦部における組成が上記の組成であるとは、平坦部に含まれる各点すべての組成が上記の組成であることをいう。
【0044】
亜鉛(Zn)原子濃度が35atom%より大きくなる、またはケイ素(Si)原子濃度が7atom%より小さくなると、酸化亜鉛の結晶成長を抑制する二酸化ケイ素および/または酸化アルミニウムが不足するため、空隙部分や欠陥部分が増加し、十分なガスバリア性が得られない場合がある。亜鉛(Zn)原子濃度が10atom%より小さくなる、またはケイ素(Si)原子濃度が25atom%より大きくなると、層内部の二酸化ケイ素の非晶質成分が増加して層の柔軟性が低下する場合がある。また、アルミニウム(Al)原子濃度が5atom%より大きくなると、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため膜の硬度が上昇し、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。アルミニウム(Al)原子濃度が0.5atom%より小さくなると、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が不十分となり、層を形成する粒子間の結合力が向上できないため、柔軟性が低下する場合がある。また、酸素(O)原子濃度が70atom%より大きくなると、第1層内の欠陥量が増加するため、所望のガスバリア性が得られない場合がある。酸素(O)原子濃度が45atom%より小さくなると、亜鉛、ケイ素、アルミニウムの酸化状態が不十分となり、結晶成長が抑制できず粒子径が大きくなるため、ガスバリア性が低下する場合がある。かかる観点から、亜鉛(Zn)原子濃度が15〜35atom%、ケイ素(Si)原子濃度が10〜20atom%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜3atom%、酸素(O)原子濃度が50〜64atom%であることがより好ましい。
【0045】
酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層に含まれる成分は酸化亜鉛、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムが上記組成の範囲でかつ主成分であれば特に限定されず、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)等から形成された金属酸化物を含んでも構わない。ここで主成分とは、第1層の組成の50質量%以上であることを意味し、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0046】
本発明のガスバリア性フィルムは、酸化亜鉛を含む第1層において、X線光電子分光法による亜鉛の原子濃度のピークにおける亜鉛(Zn)原子とケイ素(Si)元素の含有比率(Zn/Si)が1以上であることが好ましい。亜鉛の原子濃度のピークにおける亜鉛(Zn)原子とケイ素(Si)元素の含有比率(Zn/Si)が1より小さいと、硬度の低い亜鉛や酸化亜鉛が減少し、屈曲や外部からの衝撃に対するクラックの抑制効果が十分に得られない。従って、亜鉛の原子濃度のピークにおける亜鉛(Zn)原子とケイ素(Si)元素の含有比率(Zn/Si)は、1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。
【0047】
高分子基材上(または高分子基材上に設けられた層上(例えば後述するアンダーコート層の上))に酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層を形成する方法は特に限定されず、例えば酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層が目的とする組成になるように調整された混合焼結材料を使用して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの単体材料を使用する場合は、それぞれの材料を別の蒸着源またはスパッタ電極から同時に成膜し、所望の組成となるように混合させて形成することができる。これらの方法の中でも、本発明のガスバリア性フィルムのA層の第1層の形成方法は、ガスバリア性と形成した層の組成再現性の観点から、混合焼結材料を使用したスパッタリング法がより好ましい。
【0048】
[ケイ素化合物を含む第2層]
次に、ケイ素化合物を含む第2層について詳細を説明する。本発明における第2層は、ケイ素化合物を含む層であり、ケイ素化合物として、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素炭化物、ケイ素酸窒化物または、それらの混合物を含んでいてもよい。特に、ケイ素化合物を含む第2層が、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素および酸窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つのケイ素化合物を含むことが好ましい。
【0049】
ケイ素化合物の含有率は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。なお、本発明におけるケイ素化合物は、X線光電子分光法、ICP発光分光分析、ラザフォード後方散乱法等により成分を特定された各元素の組成比が整数で表される組成式を有する化合物として扱う。たとえば、二酸化ケイ素(SiO
2)は、生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO
2)が生成することがあるが、そのような場合でも、SiO
2として扱い上記の質量含有率を算出するものとする。
【0050】
本発明のガスバリア性フィルムは、酸化亜鉛を含む第1層とケイ素化合物を含む第2層を高分子基材側からこの順に配したA層を有することで、高度なガスバリア性を維持することができるガスバリア性フィルムとなる。
【0051】
本発明のガスバリア性フィルムにおいてケイ素化合物を含む第2層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は以下の(i)、(ii)、(iii)のように推定している。
【0052】
(i)第2層はケイ素化合物を含むことで層全体が非晶質な構造かつ緻密な層となるため、第1層表面に存在するクラックやピンホールなどのサイズが大きい欠陥の表面または欠陥内部に第2層のケイ素化合物が効率良く充填され、第1層単層よりも水蒸気の透過が抑制され、ガスバリア性は向上する。
【0053】
(ii)さらに、第2層が第1層の亜鉛原子より原子半径の小さいケイ素原子を含むことで、第1層表面に存在する数nm以下サイズの欠陥原子欠陥に効率良くケイ素原子を充填できるため、よりガスバリア性は向上する。
【0054】
(iii)さらに、第1層に含まれる亜鉛は、融点が低い元素であることから、第2層形成時におけるプラズマや熱の影響を受けて、第1層表面の原子欠陥に充填された第2層のケイ素原子や酸素原子は、第1層に含まれる亜鉛原子と化学結合して特定のシリケートの結合を形成するため、第1層表面の原子欠陥の減少および結合状態の秩序性の向上により空隙は減少して、より高度なガスバリア性を発現すると推定している。
【0055】
また、第1層と第2層との界面において、シリケート結合による高い密着性を有するため、使用時、屈曲や外部からの衝撃によって剥離や密着性低下が生じにくくなり、高度なガスバリア性を維持することができるガスバリア性フィルムになると推定している。
【0056】
第2層の厚みは、10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。層の厚みが10nmより薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が発生しガスバリア性がばらつく場合がある。また、第2層の厚みは、1,000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。層の厚みが1,000nmより厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によって第2層にクラックが発生しやすくなり、使用に伴いガスバリア性が低下する場合がある。
【0057】
本発明における第2層の厚みと組成は、第1層と同様にX線光電子分光法(XPS法)と透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察を併用することにより測定したものである。具体的な方法として、まず、第2層表面は、外気に暴露されることにより、塵や異物などが付着し炭素や水素などで汚染されるため、第2層の表面から第1層方向にかけてアルゴンエッチングにより厚み2±0.5nmの膜を除去し、X線光電子分光法で各原子の原子濃度を測定する。アルゴンエッチングにより除去した厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察でアルゴンエッチング前後の厚みを測定することで確認することができる。次に、アルゴンエッチングとX線光電子分光法による各原子の原子濃度測定を高分子基板またはアンダーコートのいずれかに到達するまで繰り返し、含有原子の原子濃度プロファイルを得る。ここで、第2層の表面から第1層方向にかけてアルゴンエッチングにより厚み2±0.5nmの膜を除去した位置から最初に亜鉛(Zn)の原子濃度が3atom%以上を確認したプロットまでの厚みを本発明における第2層の厚みとする。
【0058】
第2層の上に無機層や樹脂層が積層されている場合、透過型電子顕微鏡による断面観察により測定された無機層や樹脂層の厚み分をイオンエッチングや薬液処理により除去した後、上述した方法で分析することとする。
【0059】
第2層がケイ素酸化物を含む層である場合において、その組成はX線光電子分光法により測定されるケイ素(Si)原子濃度が25〜45atom%、酸素(O)原子濃度が55〜75atom%であることが好ましい。ここで、第2層の組成とは第2層の表面から2±0.5nmエッチングした後に測定した各原子濃度の組成をいう。ケイ素(Si)原子濃度が25atom%より小さくまたは酸素原子濃度が75atom%より大きくなると、ケイ素原子に結合する酸素原子が過剰に多くなるため、層内部に空隙や欠陥が増加し、ガスバリア性が低下する場合がある。また、ケイ素(Si)原子濃度が45atom%より大きくまたは酸素(O)原子濃度が55atom%より小さくなると、膜が過剰に緻密になるため、大きなカールが発生したり柔軟性が低下したりすることにより、熱や外部からの応力でクラックが生じやすくなり、ガスバリア性を低下させる場合がある。かかる観点から、ケイ素(Si)原子濃度が28〜40atom%、酸素(O)原子濃度が60〜72atom%であることがより好ましく、さらにはケイ素(Si)原子濃度が30〜35atom%、酸素(O)原子濃度が65〜70atom%であることがより好ましい。
【0060】
第2層に含まれる成分はケイ素(Si)原子濃度および酸素(O)原子濃度が上記組成の範囲であれば特に限定されず、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)等から形成された金属酸化物を含んでも構わない。
【0061】
第2層を形成する方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、化学気相蒸着法(CVD法と略す)等の成膜方法によって形成することができるが、第1層の表面に存在するクラックやピンホール、原子欠陥等に効率良く第2層に含まれる原子を充填し、さらに第1層に含まれる亜鉛原子と第2層に含まれるケイ素原子が化学結合してZn−O−Siのシリケートを形成するために、第2層の形成中は高分子基材を50℃以上で加熱した状態において、第1層表面で第2層を構成する原子が活性化するように高いエネルギーで第1層表面を処理しながら第2層を形成する方法が好ましい。
【0062】
例えば、真空蒸着法の場合、高分子基材を50℃以上で加熱した状態において、蒸着源で成膜中に酸素ガスや炭酸ガスなどの反応性ガスのプラズマを発生させ、さらにプラズマを加速させてビーム化し、第1層表面を処理しながら第2層を形成する、イオンビームアシスト蒸着法が好ましい。
【0063】
スパッタリング法の場合は、高分子基材を50℃以上で加熱した状態において、ターゲット材料をスパッタリングするプラズマとは別に、酸素ガスや炭酸ガスなどの反応性ガスのプラズマを発生、加速させてビーム化し、第1層表面を処理しながら第2層を形成する、イオンビームアシストスパッタ法が好ましい。
【0064】
CVD法の場合は、高分子基材を50℃以上で加熱した状態において、誘導コイルで酸素ガスや炭酸ガスなどの反応性ガスの高密度なプラズマを発生させ、プラズマによる第1層表面の処理とケイ素系有機化合物のモノマー気体の重合反応による第2層の形成とを同時に行う誘導結合型CVD電極を用いたプラズマCVD法が好ましい。
【0065】
これらの方法の中でも、本発明に使用する第2層の形成に適用する方法は、第1層表面の欠陥に第2層に含まれる原子を効率良く充填させ、さらに第1層表面を大面積かつ均一に処理できる誘導結合型CVD電極を用いたプラズマCVD法がより好ましい。
【0066】
CVD法に使用するケイ素系有機化合物とは、分子内部にケイ素を含有する化合物のことであり、例えば、シラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、テトラエチルシラン、プロポキシシラン、ジプロポキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジメチルジシロキサン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ウンデカメチルシクロヘキサシロキサン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、デカメチルシクロペンタシラザン、ウンデカメチルシクロヘキサシラザンなどが挙げられる。中でも取り扱い上の観点からヘキサメチルジシロキサン、テトラエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0067】
[アンダーコート層]
本発明のガスバリア性フィルムには、ガスバリア性向上、耐屈曲性向上のため、前記高分子基材と前記第1層との間に芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を架橋して得られる構造を含むアンダーコート層を設けることが好ましい。高分子基材上に突起や傷などの欠点が存在する場合、前記欠点を起点に高分子基材上に積層する第1層にもピンホールやクラックが発生してガスバリア性や耐屈曲性が損なわれる場合があるため、本発明のアンダーコート層を設けることが好ましい。また、高分子基材と第1層との熱寸法安定性差が大きい場合もガスバリア性や耐屈曲性が低下する場合があるため、アンダーコート層を設けることが好ましい。また、本発明に用いられるアンダーコート層は、熱寸法安定性、耐屈曲性の観点から芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含有することが好ましく、さらに、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、有機ケイ素化合物および/または無機ケイ素化合物を含有することがより好ましい。
【0068】
本発明に用いられる芳香族環構造を有するポリウレタン化合物は、主鎖あるいは側鎖に芳香族環およびウレタン結合を有するものであり、例えば、分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレート、ジオール化合物、ジイソシアネート化合物とを重合させて得ることができる。
【0069】
分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、水添ビスフェノールF型、レゾルシン、ヒドロキノン等の芳香族グリコールのジエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸誘導体とを反応させて得ることができる。
【0070】
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、4,4’−チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−(2−ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェノール、o−,m−,及びp−ジヒドロキシベンゼン、4,4’−イソプロピリデンフェノール、4,4’−イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、ビスフェノールAなどを用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0071】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等の脂環族系イソシアネート化合物、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族系イソシアネート化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0072】
前記分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレート、ジオール化合物、ジイソシアネート化合物の成分比率は所望の重量平均分子量になる範囲であれば特に限定されない。本発明における芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜100,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が5,000〜100,000であれば、得られる硬化皮膜の熱寸法安定性、耐屈曲性が優れるため好ましい。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用いて測定され標準ポリスチレンで換算された値である。
【0073】
エチレン性不飽和化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールS型エポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシアクリレート等を挙げられる。これらの中でも、熱寸法安定性、表面保護性能に優れた多官能(メタ)アクリレートが好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0074】
エチレン性不飽和化合物の含有量は特に限定されないが、熱寸法安定性、表面保護性能の観点から、芳香族環構造を有するポリウレタン化合物との合計量100質量%中、5〜90質量%の範囲であることが好ましく、10〜80質量%の範囲であることがより好ましい。
【0075】
光重合開始剤としては、本発明のガスバリア性フィルムのガスバリア性および耐屈曲性を保持することができれば素材は特に限定されない。本発明に好適に用いることができる光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルーケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン等のアルキルフェノン系光重合開始剤、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系光重合開始剤、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等のチタノセン系光重合開始剤、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(0−ベンゾイルオキシム)]等オキシムエステル構造を持つ光重合開始剤等が挙げられる。
【0076】
これらの中でも、硬化性、表面保護性能の観点から、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルーケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドから選ばれる光重合開始剤が好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0077】
光重合開始剤の含有量は特に限定されないが、硬化性、表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量100質量%中、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0078】
有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0079】
これらの中でも、硬化性、活性エネルギー線照射による重合活性の観点から、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランおよびビニルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一つの有機ケイ素化合物が好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
【0080】
有機ケイ素化合物の含有量は特に限定されないが、硬化性、表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量100質量%中、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0081】
無機ケイ素化合物としては、表面保護性能、透明性の観点からシリカ粒子が好ましく、さらにシリカ粒子の一次粒子径が1〜300nmの範囲であることが好ましく、5〜80nmの範囲であることがより好ましい。なお、ここでいう一次粒子径とは、ガス吸着法により求めた比表面積sを下記の式(8)に適用することで求められる粒子直径dを指す。
【0083】
アンダーコート層の厚みは、200nm以上、4,000nm以下が好ましく、300nm以上、2,000nm以下がより好ましく、500nm以上、1,000nm以下がさらに好ましい。アンダーコート層の厚みが200nmより薄くなると、高分子基材上に存在する突起や傷などの欠点の悪影響を抑制できない場合がある。アンダーコート層の厚みが4,000nmより厚くなると、アンダーコート層の平滑性が低下して前記アンダーコート層上に積層する第1層表面の凹凸形状も大きくなり、積層されるスパッタ粒子間に隙間ができるため、膜質が緻密になりにくく、ガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合がある。ここでアンダーコート層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から測定することが可能である。
【0084】
アンダーコート層の中心面平均粗さSRaは、10nm以下であることが好ましい。SRaを10nm以下にすると、アンダーコート層上に均質な第1層を形成しやすくなり、ガスバリア性の繰り返し再現性が向上するため好ましい。アンダーコート層の表面のSRaが10nmより大きくなると、アンダーコート層上の第1層表面の凹凸形状も大きくなり、積層されるスパッタ粒子間に隙間ができるため、膜質が緻密になりにくく、ガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合があり、また、凹凸が多い部分で応力集中によるクラックが発生し易いため、ガスバリア性の繰り返し再現性が低下する原因となる場合がある。従って、本発明においては、アンダーコート層のSRaを10nm以下にすることが好ましく、より好ましくは7nm以下である。
【0085】
本発明におけるアンダーコート層のSRaは、三次元表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
【0086】
本発明のガスバリア性フィルムにアンダーコート層を適用する場合、アンダーコート層を形成する樹脂を含む塗液の塗布手段としては、まず高分子基材上に芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗料を乾燥後の厚みが所望の厚みになるよう固形分濃度を調整し、例えばリバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、スピンコート法などにより塗布することが好ましい。また、本発明においては、塗工適性の観点から有機溶剤を用いて芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗料を希釈することが好ましい。
【0087】
具体的には、キシレン、トルエン、メチルシクロヘキサン、ペンタン、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ジブチルエーテル、エチルブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤などを用いて、固形分濃度が10質量%以下に希釈して使用することが好ましい。これらの溶剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いてもよい。また、アンダーコート層を形成する塗料には、各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。例えば、触媒、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、界面活性剤、レベリング剤、帯電防止剤などを用いることができる。
【0088】
次いで、塗布後の塗膜を乾燥させて希釈溶剤を除去することが好ましい。ここで、乾燥に用いられる熱源としては特に制限は無く、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターなど任意の熱源を用いることができる。なお、ガスバリア性向上のため、加熱温度は50〜150℃で行うことが好ましい。また、加熱処理時間は数秒〜1時間行うことが好ましい。さらに、加熱処理中は温度が一定であってもよく、徐々に温度を変化させてもよい。また、乾燥処理中は湿度を相対湿度で20〜90%RHの範囲で調整しながら加熱処理してもよい。前記加熱処理は、大気中もしくは不活性ガスを封入しながら行ってもよい。
【0089】
次に、乾燥後の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗膜に活性エネルギー線照射処理を施して前記塗膜を架橋させて、アンダーコート層を形成することが好ましい。
【0090】
かかる場合に適用する活性エネルギー線としては、アンダーコート層を硬化させることができれば特に制限はないが、汎用性、効率の観点から紫外線処理を用いることが好ましい。紫外線発生源としては、高圧水銀ランプメタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができる。また、活性エネルギー線は、硬化効率の観点から窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で用いることが好ましい。紫外線処理としては、大気圧下または減圧下のどちらでも構わないが、汎用性、生産効率の観点から本発明では大気圧下にて紫外線処理を行うことが好ましい。前記紫外線処理を行う際の酸素濃度は、アンダーコート層の架橋度制御の観点から酸素ガス分圧は1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。相対湿度は任意でよい。
【0091】
紫外線発生源としては、高圧水銀ランプメタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができる。
【0092】
紫外線照射の積算光量は0.1〜1.0J/cm
2であることが好ましく、0.2〜0.6J/cm
2がより好ましい。前記積算光量が0.1J/cm
2以上であれば所望のアンダーコート層の架橋度が得られるため好ましい。また、前記積算光量が1.0J/cm
2以下であれば高分子基材へのダメージを少なくすることができるため好ましい。
【0093】
[その他の層]
本発明のガスバリア性フィルムの最表面の上には、ガスバリア性が低下しない範囲で耐擦傷性の向上を目的としたハードコート層を形成してもよいし、有機高分子化合物からなるフィルムをラミネートした積層構成としてもよい。なお、ここでいう最表面とは、高分子基材上に第1層および第2層がこの順に積層された後の、第1層と接していない側の第2層の表面をいう。
【0094】
[用途]
本発明のガスバリア性フィルムは高いガスバリア性を有するため、様々な電子デバイスに用いることができる。例えば、太陽電池のバックシートやフレキシブル回路基板、有機EL照明、フレキシブル有機ELディスプレイのような電子デバイスに好適に用いることができる。また、高いガスバリア性を活かして、電子デバイス以外にも、食品や電子部品の包装用フィルム等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0096】
[評価方法]
(1)層の厚み
次の方法により、アンダーコート層の厚み、アルゴンエッチングにより除去した層の厚み、第1層および第2層以外の層の厚みを測定した。
【0097】
断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB−2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118〜119に記載の方法に基づいて)作製した。透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製 H−9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し厚みを測定した。
【0098】
(2)中心面平均粗さSRa
三次元表面粗さ測定機(小坂研究所社製)を用いて、以下の条件でアンダーコートの表面について測定した。
システム:三次元表面粗さ解析システム「i−Face model TDA31」
X軸測定長さ/ピッチ:500μm/1.0μm
Y軸測定長さ/ピッチ:400μm/5.0μm
測定速度:0.1mm/s
測定環境:温度23℃、相対湿度65%、大気中。
【0099】
(3)層の厚みおよび厚み方向組成分析
A層の組成分析は、X線光電子分光法(XPS)により行った。まず、外気の暴露により汚染したA層の最表面を除去するため、A層の最表面から高分子基板方向に向けて、アルゴンイオンを用いて厚み2±0.5nmをスパッタエッチングして除去した。アルゴンエッチングにより除去した厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察でアルゴンエッチング前後の厚みを測定することで確認した。
【0100】
次に、外気に汚染された膜を除去した表面から高分子基板方向に向けて、アルゴンイオンを用いて厚み5nm狙いでスパッタエッチングを行った。このとき、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察で実際に除去した膜の厚みを測定するとともに除去にかかった時間を求めた。実際に除去した膜の厚みおよび除去にかかった時間から、厚み5nmを除去するために必要なスパッタエッチング時間を算出した。次に、上記のようにして算出されたスパッタエッチング時間エッチングすることによる厚み5nm分のアルゴンエッチングとX線光電子分光法による各原子の原子濃度測定を高分子基板またはアンダーコートのいずれかに到達するまで繰り返し、含有原子の原子濃度プロファイルを得た。ここで、A層が2層以上で積層されている場合は、各層において厚み5nm分が除去されるアルゴンエッチング時間を上述した方法で算出し、それぞれの層に適用した。なお、第2層側からアルゴンエッチングしていき、炭素(C)の原子濃度が3atom%以上検出されたところで高分子基板またはアンダーコートのいずれかに到達したと判断した。
【0101】
また、ケイ素化合物を含む第2層の厚みは、第2層の表面から第1層方向にかけてアルゴンエッチングにより厚み2±0.5nmの膜を除去した位置から最初に亜鉛(Zn)の原子濃度が3atom%以上を確認したプロットまでとし、第1層の厚みは最初に亜鉛(Zn)の原子濃度が3atom%以上を確認したプロットから最初に高分子基板またはアンダーコートのいずれかに到達したプロットまでの厚みとした。
XPS法の測定条件は下記の通りとした。
・装置 :ESCA 5800(アルバックファイ社製)
・励起X線 :monochromatic AlKα
・X線出力 :300W
・X線径 :800μm
・光電子脱出角度 :45°
・Arイオンエッチング :2.0kV、10mPa。
【0102】
(4)高分子基材の表面温度測定
高分子基材表面に熱電対をカプトンテープにて貼り付けてA層の形成を行うことで、フィルム基材の表面温度をデータロガーにて測定した。熱電対は、DATAPAQ社製Kタイプ熱電対(PA0210)を使用した。また、データロガーは、DATAPAQ社製データロガー(DQ1863−S)を使用した。真空中の使用であるため、データロガーはDATAPAQ社製真空プロセス用耐熱ケース(TB7400C)に入れて使用した。測定中に得られた最も高い到達温度を高分子基材の最高表面温度測定とした。
【0103】
(5)水蒸気透過度(g/(m
2・24hr))
特許第4407466号に記載のカルシウム腐食法により、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気下での水蒸気透過度を測定した。各検体について10点の水蒸気透過度(g/(m
2・24hr))を測定し、最小値、最大値、平均値を算出した。
【0104】
(実施例1)
(芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の合成)
5リットルの4つ口フラスコに、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(共栄社化学社製、商品名:エポキシエステル3000A)を300質量部、酢酸エチル710質量部を入れ、内温60℃になるよう加温した。合成触媒としてジラウリン酸ジ−n−ブチル錫0.2質量部を添加し、攪拌しながらジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート(東京化成工業社製)200質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後2時間反応を続行し、続いてジエチレングリコール(和光純薬工業社製)25質量部を1時間かけて滴下した。滴下後5時間反応を続行し、重量平均分子量20,000の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を得た。
【0105】
(アンダーコート層の形成)
高分子基材1として、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48)を用いた。
アンダーコート層形成用の塗液として、前記ポリウレタン化合物を150質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学社製、商品名:ライトアクリレートDPE−6A)を20質量部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルーケトン(BASFジャパン社製、商品名:IRGACURE 184)を5質量部、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名:KBM−503)を3質量部、酢酸エチルを170質量部、トルエンを350質量部、シクロヘキサノンを170質量部配合して塗液を調整した。次いで、塗液を高分子基材上にマイクログラビアコーター(グラビア線番150UR、グラビア回転比100%)で塗布、100℃で1分間乾燥し、乾燥後、下記条件にて紫外線処理を施して厚み1,000nmのアンダーコート層を設けた。形成したアンダーコート層表面の中心面平均粗さSRaは、1.7nmであった。
【0106】
紫外線処理装置:LH10−10Q−G(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)
導入ガス:N
2(窒素イナートBOX)
紫外線発生源:マイクロ波方式無電極ランプ
積算光量:400mJ/cm
2
試料温調:室温。
【0107】
(第1層の形成)
図4に示す巻き取り式のスパッタリング・化学気相蒸着装置(以降スパッタ・CVD装置と略す)を使用し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムで形成された混合焼結材であるスパッタターゲットをスパッタ電極11に設置し、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、前記高分子基材1のアンダーコート表面に、第1層としてZnO−SiO
2−Al
2O
3層を膜厚130nm狙いで設けた。
【0108】
具体的な操作は以下のとおりである。まず、スパッタ電極11に酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3で焼結されたスパッタターゲットを設置したスパッタ・CVD装置4の巻き取り室5の中で、巻き出しロール6に前記高分子基材1の第1層を設ける側(アンダーコートが形成された側)の面がスパッタ電極11に対向するようにセットし、巻き出し、ガイドロール7,8,9を介して、温度100℃に加熱されたメインドラム10に通した。真空度2×10
−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、直流パルス電源によりスパッタ電極11に投入電力3,000Wを印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子基材1のアンダーコート表面上にZnO−SiO
2−Al
2O
3層を形成した。なお、スパッタリング中の高分子基板1表面の最高表面温度が125℃になるように、予め高分子基板1表面とスパッタ電極11の距離を調整した。また、形成するZnO−SiO
2−Al
2O
3層の厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール12,13,14を介して巻き取りロール15に巻き取った。
【0109】
(第2層の形成)
次に、
図4に示す構造のスパッタ・CVD装置を使用し、高分子基材1の第1層の上に、ヘキサメチルジシラザンを原料とした化学気相蒸着(以降、CVDと略す)を実施し第2層としてSiO
2層を厚み300nm狙いで設けた。
【0110】
具体的な操作は以下のとおりである。スパッタ・CVD装置4の巻き取り室5の中で、巻き出しロール6に前記高分子基材1をセットし、巻き出し、ガイドロール7,8,9を介して、温度100℃に加熱されたメインドラム10に通した。真空度5×10
−1Paとなるように酸素ガス150sccmとヘキサメチルジシラザン9sccmを導入し、高周波電源からCVD電極16の誘導コイル17に投入電力2,000Wを印加することにより、プラズマを発生させ、CVDにより前記高分子基材1の第1層上に第2層を形成した。その後、ガイドロール12,13,14を介して巻き取りロール15に巻き取り、ガスバリア性フィルムを得た。
【0111】
続いて、得られたガスバリア性フィルムから試験片を切り出し、TEMおよびXPSによる厚み方向の組成分析と膜厚を測定後、水蒸気透過率の評価を実施した。結果を
図5、表1に示す。
【0112】
(実施例2)
第1層であるZnO−SiO
2−Al
2O
3層の形成において、スパッタ電極11の投入電力を4,000Wに上昇させて、スパッタリング中の高分子基板1表面の最高表面温度が125℃になるように、高分子基板1表面とスパッタ電極11の距離を調整した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図6、表1に示す。
【0113】
(実施例3)
第1層であるZnO−SiO
2−Al
2O
3層の形成において、スパッタ電極11の投入電力を3,500Wに上昇させて、スパッタリング中の高分子基板1表面の最高表面温度が125℃になるように、高分子基板1表面とスパッタ電極11の距離を調整した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図7、表1に示す。
【0114】
(実施例4)
第1層であるZnO−SiO
2−Al
2O
3層の形成において、1回目を厚み70nm狙いで形成し、続いて2回目を厚み70nm狙いで形成した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図8、表1に示す。
【0115】
(比較例1)
第1層であるZnO−SiO
2−Al
2O
3層の形成において、スパッタリング中の高分子基板1表面の最高表面温度が100℃になるように、高分子基板1表面とスパッタ電極11の距離を調整し、第2層を形成しない以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図9、表1に示す。
【0116】
(比較例2)
第1層であるZnO−SiO
2−Al
2O
3層の形成において、スパッタリング中の高分子基板1表面の最高表面温度が100℃になるように、高分子基板1表面とスパッタ電極11の距離を調整した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図10、表1に示す。
【0117】
(比較例3)
第1層であるZnO−SiO
2−Al
2O
3層の形成において、メインドラム10の温度を75℃に加熱し、スパッタリング中の高分子基板1表面の最高表面温度が75℃になるように、高分子基板1表面とスパッタ電極11の距離を調整した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図11、表1に示す。
【0118】
【表1】