特許第6918453号(P6918453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918453
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】食品の離水抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/269 20160101AFI20210729BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20210729BHJP
【FI】
   A23L29/269
   A23L23/00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-164050(P2016-164050)
(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2017-42164(P2017-42164A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2019年8月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-165100(P2015-165100)
(32)【優先日】2015年8月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 正治
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 允
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰之
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104489427(CN,A)
【文献】 特開2007−049908(JP,A)
【文献】 米国特許第04342866(US,A)
【文献】 特開平08−173087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/269
A23L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェランガムを含有する離水の抑制された食品(ただし、カードラン、ウェランガム、スクレログルカン、及び塩化カリウムを含有するゼリーを除く)であって、
前記食品が、ピザソスである、食品。
【請求項2】
ウェランガムをピザソースに対して0.01〜1.5質量%含有する請求項1記載の食品。
【請求項3】
ウェランガムを添加することを特徴とする食品(ただし、カードラン、ウェランガム、スクレログルカン、及び塩化カリウムを含有するゼリーを除く)の離水抑制方法であり、
前記食品が、ピザソースである離水抑制方法
【請求項4】
ウェランガムをピザソースに対して0.01〜1.5質量%含有させる請求項3記載の食品の離水抑制方法。
【請求項5】
ウェランガムを含有する食品用離水抑制剤であって、
前記食品が、ピザソースであり、
ヌメリの発生を抑制することを特徴とする、食品用離水抑制剤(ただし、カードラン、ウェランガム、スクレログルカン、及び塩化カリウムを含有するゼリー用離水抑制剤を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェランガムを含有することにより、保水性・保湿性が維持され、離水という品質上望ましくない現象が実質的に生じない食品に関する。
【0002】
本発明に係る食品は、離水が有意に抑制されるために、長期に亘る保存によっても瑞々しさを保持し、食品本来の食感を損なわないという面で有益である。
【背景技術】
【0003】
カラギーナン及び寒天等を含有するゼリー、水ようかん等の食品は、缶又はカップに充填密封され、殺菌して市場に流通・供給されるが、冷蔵や常温保存中、或いは冷凍解凍時に該食品から経時的に水分が流出するいわゆる「離水」が起こる。このため、こうした食品を長期間保存すると食品に含まれる水分含量が減少して食感が損なわれる、味が変化する等の問題がある。また、保存期間が長期でなくても製造直後から離水は起こるため、製造後すぐに消費者に販売された場合でも、消費者が缶を開けたときや蓋をはがした際に、離水した水分が手につく、飛び散る等の問題があった。更に、ペクチン等を含有するジャム類や、寒天・ゼラチン等をゲル化剤として用いたヨーグルト等では、商品として容器に入ったそのままの状態でも離水は生じているが、特に容器を開けて一部をすくい取った後により著しく離水し、経時的な品質劣化を惹起するとともに、風味や外観が損なわれて飲食者に好ましくない印象を与え、嗜好意欲を減退させてしまうという問題があった。
【0004】
上記のような多糖類で水分を保持する食品以外であっても、経時的な水分の喪失が続くことにより、食感が固くなる、乾燥したものとなるほかにも、当該食品の周囲へ浸潤するなどの問題が生じている。
【0005】
「ゲル」又は「ゲル組成物」は、通常その内部に大量の液体を保持するものであるため、経時的に離水が生じるが、特にゲル化して成形した後に切断・破断等による構造破壊が一部にでもあると、離水の程度がより大きくなる。このようなゲル又はゲル組成物の離水による品質低下を抑制するために、従来ゲル化剤の配合量を多くする方法や、イオタカラギーナン、グァーガム、ペクチン、タマリンド等を併用する方法等が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらのいずれの方法によっても、離水を十分に抑制することはできておらず、しかも食品に添加すると弾力性が出てしまうなど、本来の食品等の性状に悪影響を与え、本来の食感が損なわれる。また、食品から離水した水分が表面を覆うために、食品に含まれる香気成分本来の効果が弱まることがある。さらに、離水した水分がこぼれて周辺を汚してしまう等の問題もある。
【0007】
また、十分な離水の抑制手段がないために、水分を保持した食品、ゲル化剤を用いたデザート食品等の工業製品は長期保存ができず、経時的に進行する離水が商品の寿命さえも決定する大きな要因ともなっていた。
【0008】
このため、上記のような食品において、離水を防止・抑制する簡便な方法が種々提案されている。
【0009】
具体的には、サイリウムシードガムを含有することによる冷凍解凍ゼリーの離水抑制方法(特許文献1)、ラムザンガムを含有する冷菓用安定剤(特許文献2)、ネイティブジェランガムを含むことによる離水の抑制されたゲル組成物(特許文献3)、セルロース系粉末を含む具材と、パン又は飯が接触している加工食品(特許文献4)などが開示されているが、改善の余地が残されているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−142906号公報
【特許文献2】特開2007−159570号公報
【特許文献3】特開平10−150933号公報
【特許文献4】特開2011−254770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたもので、食品全般において、本来の弾性、強度等の特性を変更することなく、食品の保存(常温、冷蔵及び冷凍解凍)時に生じる離水を有意に防止・抑制した食品を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、食品の内部に液体を安定に閉じこめ、長期保存によっても実質的に離水を生じさせない方法、つまり食品の離水を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、ウェランガムを添加することにより食品本来の弾力、固さ、強度、食感といった各食品の特性を損ねることなく、離水という望ましくない現象が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明はウェランガムを含有する離水の抑制された食品に関する。
【0015】
また本発明は、ウェランガムを添加することを特徴とする食品の離水抑制方法にも関する。
【0016】
本発明で対象となる食品は、多量の液体を含むが自重では流れ出さず、形を保っているものをいう。具体的には、海苔の佃煮、ツナマヨネーズ(おにぎりやサンドイッチの具材)、ピザソースやウスターソースのようなソース類、ヨーグルト、水ようかん、フルーツゼリー、プリン、ジャム、ハンバーグ、餃子の具材、春巻きの具材、野菜炒め、ホイップクリーム等が例示できる。
【0017】
また本発明で「離水」とは、食品中に一旦保持された液体がその後経時的に食品からにじみ出てくる現象をいう。
【0018】
なお上記「食品」及び「離水」をはじめ本発明の説明中でいう「液体」とは、水を含む水性成分をいい、「水」及び「水に、糖類・多糖類・保存料・香料・色素・調味料・乳化剤等の水に溶解もしくは乳化し得るものを溶解・乳化させたもの」の双方を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の離水の抑制された食品は、ウェランガムを含有することを特徴とするものである。
ウェランガムは、スフィンゴモナス属細菌(Sphingomonas sp.)の培養液から得られた多糖類を主成分とするものである。簡便には、一般に流通している市販製品を利用することが可能であり、具体的には三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のビストップ(登録商標)W等が例示できる。
【0020】
本発明は、ウェランガムが食品に含まれる液体をその内部に安定に閉じこめる特性を有するという知見に基づくものである。従って、本発明の離水が問題となる食品であれば制限はなく適用することができる。
【0021】
より具体的に、本発明が適用される食品としては、水畜産加工品(例えば、ソーセージ、ハム、豚カツ、ハンバーグ、つみれ等)、肉まん・餃子・春巻き・シュウマイやコロッケ等の具材、おにぎりやサンドイッチの具材(例:ツナマヨネーズ)、野菜炒め、だし巻き、練りわさび・練りカラシ・練りショウガ等の練り製品、ヨーグルト、水ようかん等の寒天製品、イチゴジャム・マーマレード等のジャム類、ワインゼリー・コーヒーゼリー・フルーツゼリー等のゼリー類やホイップクリーム、海苔の佃煮、塩辛等に使用する調味液やタレ、ピザソースやウスターソースのようなソース類が例示される。これらはいずれも食品製造後や保存時等の離水が問題となるものであって、これにより視覚的及び味覚的に商品価値が低下するものである。
【0022】
本発明にかかる食品は、該食品本来の弾力性、強度、味や風味といった特性を損なうことなく、食品の保存(常温、冷蔵及び冷凍解凍)時に生じる離水を有意に抑制することにより、該食品等の品質を良好に保持することができるものである点で有用である。
【0023】
本発明にかかる離水の抑制された食品に含まれるウェランガムの量は、対象とする食品等の種類によって適宜調節すればよく、必要に応じて従来使用されている他のゲル化剤等と併用することもできる。具体的なウェランガムの添加量は、添加する食品に対し通常0.01〜1.5質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲から適宜選択される。
【0024】
また本発明は、ウェランガムを添加することを特徴とする食品の離水抑制方法に関する。
【0025】
かかる方法は、食品の製造工程において原料の一種としてウェランガムを添加・配合することによって達成される。従って、別の局面から見れば、当該方法は前述の離水の抑制された食品の製造方法ともいえる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、処方中、特に記載がない限り、「%」は「質量%」、「部」は「質量部」であり、文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0027】
実験例1 海苔の佃煮
次の処方に基づき、海苔の佃煮を調製した。使用した増粘剤の種類と添加量を、表1に示す。また、得られた海苔の佃煮の粘度、離水の程度及び食感についての評価結果も表1に示す。
【0028】
<処方>
濃口醤油 39.0
水あめ 20.0
砂糖 11.0
生海苔 58.3
L−グルタミン酸ナトリウム 0.3
増粘剤 表1参照
煮詰めて全量 100.0 部
【0029】
<調製方法>
1) 生海苔以外の原料に増粘剤を加え、80℃にて10分間攪拌した。
2) 生海苔を加え、よく混ぜながら全量が100部になるまで弱火で煮詰めた。
【0030】
<評価方法>
・粘度:デジタル型粘度計(B型回転粘度計)にて、測定温度20℃、回転数60rpm、1分後の粘度を測定した。
・離水:φ150mmのろ紙(No.2)の円内(φ70mm)に、調製した試料(海苔の佃煮)10gを均一に広げた。その後、室温で1時間静置し、目視にてろ紙の濡れ具合(水の滲み出る量)にて評価した(「+(少ない)〜+++(多い)」)。
【0031】
【表1】
【0032】
<評価>
表1の結果より、ウェランガムを海苔の佃煮に添加した場合、従来使用されているキサンタンガム、タマリンドシードガムより低添加量で同等の離水抑制効果を得ることができた。さらに、ウェランガムを添加したものでは、ヌメリが殆どない優れた食感となっていた。
【0033】
実験例2 ツナマヨネーズ(おにぎりの具材)
次の処方に基づき、おにぎりの具材であるツナマヨネーズを調製した。使用した増粘剤の種類と添加量を表2に示す。また、得られたツナマヨネーズの離水率と食感についても、表2に示す。
【0034】
<処方>
マヨネーズ(市販品) 58.0
ツナ缶詰(液切りなし) 40.0
(はごろもフーズ シーチキン L フレーク)
醤油 1.5
増粘剤 表2参照
イオン交換水にて全量 100.0 %
【0035】
<調製方法>
1) 全原料をよく混合した。
【0036】
<評価方法>
離水率:2枚重ねたろ紙(No.2、10cm四方)の上にツナマヨネーズ10gをのせ、さらに上から2枚重ねたろ紙にて挟み、全体をラップで包んだ。その後、室温条件下1時間及び17時間静置し、下式により離水率を算出した。

離水率(%)=(試料を除去した後のろ紙の質量−評価前のろ紙の質量)/ろ紙にのせた試料の質量(10g)×100(以下、同じ)

また、得られたツナマヨネーズを12時間冷蔵保管した後に食感を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
<評価>
表2の結果より、ウェランガムをツナマヨネーズに添加した場合、キサンタンガムよりも優れた離水抑制効果が得られることがわかった。ウェランガムの添加量が多くなってもヌメリはほとんど感じられず、キサンタンガムを添加したものよりもほぐれやすい食感となっていた。
【0039】
実験例3 ピザソース
次の処方に基づき、ピザソースを調製した。使用した増粘剤の種類と添加量を、表3に示す。得られたピザソースの粘度と冷凍解凍前後の離水の程度、食感の評価についても表3に示す。
【0040】
<処方>
トマトペースト 30.0
トマト加工品 1.0
(Clear Tomato Concentrate 60°BX*)
サラダ油 2.0
醸造酢(酸度10%) 2.0
果糖ぶどう糖液糖 3.0
ガーリックペースト 1.0
食塩 1.0
増粘剤 表3参照
イオン交換水にて全量 100 %
【0041】
<調製方法>
1) イオン交換水にサラダ油、果糖ぶどう糖液糖、増粘剤を加え、85℃にて10分間撹拌した。
2) 残りの全原料を加え、さらに85℃にて5分間撹拌した。
3) 全量補正後、容器に充填した。
4) 85℃にて30分間ボイル殺菌した。
5) 20℃まで冷却した。
【0042】
<評価方法>
・粘度:デジタル型粘度計(B型回転粘度計)にて、測定温度20℃、回転数60rpm、1分後の粘度を測定した。
・冷凍解凍前の離水の測定:φ150mmのろ紙(No.2)の円内(φ58mm)に試料10gを乗せ、均一に広げた。その後、室温で1時間静置し、離水の状態を目視で観察した。離水は「+(少ない)〜+++(多い)」で評価した。
・冷凍解凍後の離水の測定:上記と同様にろ紙に試料をのせ、−40℃で急速凍結(1時間)した。その後、室温で1時間静置し、目視により滲み出た水の量で離水を評価した(「+(少ない)〜+++(多い)」)。
【0043】
【表3】
【0044】
<評価>
表3の結果より、ピザソースに添加した場合、ウェランガムは食感のヌメリを抑えながらも、冷凍解凍の前後においても離水抑制効果が高いことがわかった。
【0045】
実験例4 ヨーグルト
次の処方に基づき、ヨーグルトを調製した。使用した増粘剤の種類と添加量を表4に示す。得られたヨーグルトの粘度と離水の程度、食感の評価についても表4に示す。
【0046】
<発酵乳ベース部処方>
全脂粉乳 23.0
スターター 3.0
イオン交換水にて全量100.0 %
<ヨーグルト処方>
発酵乳ベース部 50.0
砂糖 12.0
乳酸 適量
増粘剤 表4参照
イオン交換水にて全量 100.0 %
【0047】
<調製方法>
1)イオン交換水に全脂粉乳を加え、70℃にて10分間撹拌した。
2)全量補正後、ホモジナイザーにて均質化した(一段目10MPa、二段目5MPa)。
3)90℃にて10分間殺菌した。
4)45℃まで冷却した。
5)スターターを添加した。
6)42℃の恒温器内で、pH4.5±0.1まで発酵させた。
7)TKロボミックスにて、3,000rpmで3分間カード破砕した。
8)10℃にて冷蔵保管した(発酵乳ベース部の調製完了)。
9)80℃のイオン交換水に砂糖、増粘剤を加え、80℃にて10分間撹拌溶解した。
10)全量補正後、10℃まで冷却した。
11)8で得た発酵乳ベース部を加え、乳酸溶液にてpH4.2に調整した。
12)耐熱容器に充填し、85℃にて30分間ボイル殺菌を行った。
13)室温まで冷却した。
【0048】
【表4】
【0049】
<評価方法>
・離水:冷却後に離水を目視にて評価した。
「−(全くない)〜+(少ない)〜+++(多い)」
【0050】
<評価>
表4の結果より、ヨーグルトに添加した場合、離水の抑制効果が高く、滑らかで濃厚な食感になった。
【0051】
実験例5 ゼリー
次の処方に従い、ゼリーを調製した。ゼリーに添加した増粘剤とその添加量は、表5に示す。得られたゼリーの離水率、ゼリー強度を下記評価方法に従い測定した。ゼリーの食感とあわせて表5に示す。
【0052】
<処方>
1 砂糖 15.0
2 ゲル化剤 1.2
(ゲルアップ※WM−1(F)*)
3 増粘剤 表5参照
4 50%クエン酸溶液 適量
5 5倍濃縮コンコード透明果汁 1.0
6 香料(グレープESS NO.80*) 0.1
イオン交換水にて、全量 100.0%
【0053】
<調製方法>
1) イオン交換水の一部に攪拌しながら1〜3を添加し、80℃10分間攪拌溶解した。
2) 4〜6を添加してpHを3.8に調整し、イオン交換水にて全量補正した。
3) プラスチックカップに充填後、85℃で30分間殺菌し、冷却した。
【0054】
<評価方法>
・ゼリー強度:テクスチャーアナライザー(Stable Micro systems社製)にて断面積1cmの円柱プランジャーを1mm/secで押込み時の破断強度を測定。
・離水:室温で3日間保存したゼリーの離水率を測定。
離水率(%)=離水量(g)÷カップ充填し冷却したゼリーの重量(g)×100
【0055】
【表5】
【0056】
<結果>
表5に示した結果より、ウェランガムを添加したゼリーでは、ブランク品と変わりないゼリー強度を有するゼリーが得られ、離水やヌメリの発生も抑制されていた。一方、グァーガムとイオタカラギーナンを増粘剤として添加したゼリーでは、離水は抑えられたもののゼリー強度の低下によって食感が劣化し、ブランク品以上のヌメリを生じており、ゼリーとしての品質が向上しているとは言い難いものであった。
【0057】
実験例6 鶏つくね
次の処方に基づき、鶏つくねを調製した。得られた鶏つくねの加熱歩留りと食感の評価を行い、その結果を表6に示す。
【0058】
<処方>
1 鶏胸肉ミンチ(皮付き 3mmミンチ) 75.0
2 鶏モモ肉ミンチ(皮付き 3mmミンチ) 11.5
3 豚脂 4.5
4 調味料(サンライク※和風だしL*) 1.0
5 生ジンジャーペースト 1.0
6 砂糖 0.5
7 食塩 0.5
8 調味料(サンライク※チキンエキス2822E*) 0.5
9 調味料(サンライク※アジビーフ1936P*) 0.5
10 保存料(サンキプロ※No.94*) 0.5
11 増粘剤 表6参照
イオン交換水にて全量 100.0%
【0059】
<調製方法>
1) 全ての材料をよく混合し、各25gの球状に成型した。
2) 95℃で6分間のボイル加熱を行った。
3) 室温になるまで静置した。
【0060】
<評価方法>
・加熱歩留り(%)=ボイル後重量(g)÷ボイル前重量(g)× 100
【0061】
【表6】
【0062】
<結果>
上記結果より、ウェランガムを添加すると、キサンタンガムと同様に加熱時の離水を抑制し、歩留りが向上し、ほぐれ易い食感、又は軟らかい食感となることがわかった。その一方で、ウェランガムの添加量が増えるとヌメリが生じてくることがわかった。一方、ブランクの鶏つくねでは、ヌメリは生じていなかったが、硬くしまった食感となっていた。キサンタンガムを添加した比較例13の鶏つくねでは、ヌメリを生じ軟らかい食感となっていた。
【0063】
実験例7 調味液
次の処方に基づき、調味液を調製した。得られた調味液の粘度、離水率と食感を測定・評価し、表7に示す。
【0064】
<処方>
1 砂糖 30.6
2 発酵乳酸ナトリウム50%溶液 30.0
3 糖アルコール 18.0
(アマミール 三菱商事フードテック社)
4 料理酒 5.0
5 醤油 3.0
6 食塩 1.5
7 増粘剤 表7参照
イオン交換水にて全量 100.0%
【0065】
<調製方法>
1) 処方中の2、3をイオン交換水に添加し、攪拌しながら1、7を加え、80℃にて10分間攪拌した。
2) 残りの材料を加え、さらに80℃にて5分間攪拌した。
3) 全量補正後、冷却した。
【0066】
<評価方法>
・粘度:デジタル粘度計(B型回転粘度計)にて、測定温度20℃、回転数6rpm、1分後の粘度を測定した。
・離水率:2枚重ねたろ紙(No.2、15cm四方)のФ72mmの円内に、調味液を10gのせ均一に広げた。その後、室温で6時間静置し、実験例2と同じ方法で離水率を算出した。
【0067】
【表7】

【0068】
<評価>
上記結果より、ウェランガムを使用した調味液では、多糖類を併用して添加した調味液よりも低添加量で、離水抑制効果が発揮されていた。また、ヌメリもほとんど生じていなかった。
【0069】
実験例8 餃子
次の表8にある処方に基づき、餃子の具材を調製し、餃子の皮で包み餃子を調製した。焼きあがった餃子から中身の具材を取り出し、加熱による歩留りと食感の評価を行った。結果を表9に示す。
【0070】
【表8】

キャベツ*1:3分間ボイル後にみじん切りし、質量が30質量%減少するまで脱水処理を行った。
【0071】
<調製方法>
1)1〜18をよく混合した。
2)各10gの球状に成型し、餃子の皮に包んだ。
3)ホットプレートにて焦げ目がつくまで焼成し、湯を200g投入して蓋をし、3分間蒸し焼きにした。
【0072】
<評価方法>
焼きあがった餃子から中身の具材だけを取り出し、加熱歩留りと食感の評価を行った。
・加熱歩留まり(%)=具材の加熱後重量(g)÷具材の加熱前重量(g)×100
【0073】
【表9】
【0074】
<結果>
ウェランガムを具材に添加した餃子では、ブランクやキサンタンガムを添加した比較例16よりも歩留りが向上しており、ヌメリもなくほぐれ易い食感となっていた。一方のブランク品は、ヌメリは生じていなかったがしまったような硬めの食感となっていた。また、キサンタンガムを添加した比較例16の餃子の具材は、ブランク品に比べわずかに歩留りが向上していたが、ヌメリがあり、べちゃっとした食感となっていた。
【0075】
実験例9 野菜炒め
次の処方に基づき、野菜炒め用の調味液を調製した。得られた調味液を用いて野菜炒めを調製し、調理後に発生する離水の量を測定した。
<処方>
1 濃口醤油 8.7
2 みりん風調味料 5.0
3 砂糖 4.7
4 清酒 2.4
5 食塩 2.0
6 L−グルタミン酸ナトリウム 0.3
7 クエン酸 0.2
8 カラメル色素 0.1
9 調味料 0.05
(ペパーSP−61524*)
10 保存料 0.5
(サンキーパー※S−3*)
11 ウェランガム 0.3
(ビストップ※W*)
イオン交換水にて全量 100.0 部
【0076】
<調製方法>
1)適量のイオン交換水に11を加え、85℃にて10分間攪拌溶解した。
2)残りの原料を加え、さらに5分間の攪拌溶解をした。
3)全量補正し、85℃達温にてホットパック充填した。
4)室温まで冷却し、野菜炒め用の調味液とした。
5)もやしと4で得た調味液を8:2の割合で混合し、中火で2分間炒めた。
6)容器に移し、粗熱を除去した。
【0077】
<評価>
調製した野菜炒めをバットに移し、冷蔵(10℃)にて12時間保管したものを、角度10°に傾けたバットに移し、30分静置後の離水率(野菜炒め全量に対する離水の割合)を算出した。
<結果>
ウェランガムを添加した野菜炒め用の調味液を用いた野菜炒めでは、離水率は1.0%であった。一方、ウェランガムを添加しないブランク品の離水率は、4.0%であった。この結果より、野菜炒め用の調味液にウェランガムを添加することで、野菜炒めからの離水を抑制する効果を発揮することが確認できた。
【0078】
実験例10 ソース
次の表10の処方に基づいて、ソースを調製した。
【0079】
【表10】
【0080】
<調製方法>
1)イオン交換水の一部と1を混合し、これに10、11を加え、85℃にて10分間攪拌した。
2)残りの全原料を加え、さらに5分間撹拌した。
3)耐熱容器に充填し、85℃にて30分間殺菌した。
4)室温まで冷却し、ソースを得た。
【0081】
<評価方法>
・離水:ろ紙の中心にφ58mmの円を描き、その円内に試料10gをのせ均一に伸ばした。室温にて3時間静置し、外観を目視で観察。離水面積をプラニメーター(小泉測機製作所 KP−13)にて測定。
・粘度:B形回転粘度計にて、60 rpm、20℃、1分後の粘度を測定。
【0082】
<結果>
比較例の加工デンプンのみを添加したソースの離水面積は、7,700mmであり、粘度は1,100mPa・sであった。ソースの外観は照り艶に乏しく、食したところ、ソースの辛味酸味があまり感じられなかった。
一方、加工デンプンの一部をウェランガムに置き換えた実施例では、離水面積は3,160mmと比較例の半分以下に抑えられていながらも、粘度は1,020mPa・sと大きな差はなかった。また、外観も照り艶がよく、食したときの辛味や酸味が強く感じられた。
以上より、ウェランガムをソースに添加した場合、ソースからの離水を顕著に抑制することが確認できた。また、外観もよく、フレーバーリリースが向上することも確認できた。