(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918562
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】インキ用容器
(51)【国際特許分類】
B43L 25/00 20060101AFI20210729BHJP
B65D 77/04 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
B43L25/00
B65D77/04 B
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-87908(P2017-87908)
(22)【出願日】2017年4月27日
(65)【公開番号】特開2018-183948(P2018-183948A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】久保田 正昭
【審査官】
金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−044596(JP,U)
【文献】
実開昭47−013049(JP,U)
【文献】
中国特許出願公開第102350913(CN,A)
【文献】
登録実用新案第059437(JP,Z1)
【文献】
実公昭39−012935(JP,Y1)
【文献】
特開昭51−040227(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第105109250(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 25/00
B65D 77/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキの減少に伴い減容変形する容器本体と、上方にインキ吸入装置とインキタンクを備えたインキ吸入具に接続可能な接続口を有し、下方を前記容器本体の内部に配したインキ吸引管と、を備え、前記容器本体が、外層体に収容され、前記外層体を2つ以上に分割可能な構成とした、インキ用容器。
【請求項2】
前記インキ吸引管の中間部に、逆流防止弁を配したことを特徴とする、請求項1に記載のインキ用容器。
【請求項3】
前記容器本体が、外層体に収容されたことを特徴とする、請求項1または2に記載のインキ用容器。
【請求項4】
前記外層体を2つ以上に分割可能な構成としたことを特徴とする、請求項3に記載のインキ用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用のインキを収容するインキ用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ペン芯の後方に装着したインキ吸入器を操作することでインキタンク内へインキを補給する構造の万年筆や、万年筆のインキカートリッジの代わりに使用されるコンバータは知られており、このような万年筆やコンバータにインキの補給を行う場合、インキ用容器内に収容したインキの吸入が行われる。
【0003】
万年筆やコンバータにインキを補給する際には、万年筆のペン先やコンバータを容器本体内に挿入してインキを吸引して補給するが、その際、ペン芯やコンバータをインキに浸けることから、ペン先部やコンバータ先端部がインキで汚れてしまう。
【0004】
インキ用容器は、インキが少なくなった際に、ペン芯がインキに浸かり難くなることから、特許文献1(意匠登録第1108850号公報)に示されているように、容器本体内に、インキの貯留部を有したアダプターを挿着するインキ用容器も存在している。
このアダプターは、容器本体内のインキの残量が少なくなってきた際に、容器本体にキャップをした状態で、当該容器本体を傾けたり引っ繰り返したりすることで、アダプターのインキ貯留部にインキを貯めてペン芯をインキに浸かりやすくさせ、インキの吸入を行いやすくすることができる。
しかしながら、アダプターを有したインキ用容器であっても、インキを吸入する際にはペン先部をインキに浸ける必要があり、ペン先部は汚れてしまう。
【0005】
特許文献2(実用新案登録第2556951号公報)に示されているように、インキ用容器の開口部に配される充填装置も存在している。
この充填装置は、コンバータ先端部と密封状態で接続可能な接続口を有し、接続口からインキ用容器の内部底壁近傍まで延びる管状の導液部材を有しており、コンバータ先端部を汚すことなくインキの吸入を行うことができる構造となっている。
しかしながら、当該充填装置では、インキの補給を行う場合に、まず管状の導液部材内に存在している空気がコンバータ内に吸入され、その後にインキの吸入が始まるために、効率の良い吸入が妨げられてしまうことになる。
また、容器本体内のインキの量がきわめて少なくなった場合には、管状の導液部材がインキ用容器の底に残ったインキに届かず、管状の導液部材の位置をずらすなどしなければ、インキの吸入を行うことができない場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】意匠登録第1108850号公報
【特許文献2】実用新案登録第2556951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、万年筆やコンバータに対してインキの補給を行う際に、ペン先部やコンバータ先端部をインキで汚してしまうことがなく、インキタンク内やコンバータ内への空気の吸入を防止し、また容器本体内のインキの量がきわめて少なくなった場合でも、効率よくインキの吸入を継続して行うことができるインキ用容器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記構成を有する。
【0009】
本発明は、
「1.インキの減少に伴い減容変形する容器本体と、上方にインキ吸入装置とインキタンクを備えたインキ吸入具に接続可能な接続口を有し、下方を前記容器本体の内部に配したインキ吸引管と、を備えたインキ用容器。
2.前記インキ吸引管の中間部に、逆流防止弁を配したことを特徴とする、前記1項に記載のインキ用容器。
3.前記容器本体が、外層体に収容されたことを特徴とする、前記1項または2項に記載のインキ用容器。
4.前記外層体を2つ以上に分割可能な構成としたことを特徴とする、前記3項に記載のインキ用容器。」である。
【0010】
本発明によれば、接続口に対して、インキ吸入装置とインキタンクを備えた万年筆のペン芯の空気溝あるいはコンバータの先端部を接続させることで、ペン先部やコンバータの先端部をインキで汚さずに、容器本体内のインキをインキタンク内へ補給することが可能となり、インキの減少に伴い容器本体が減容変形することから、インキ吸入が終了した後もインキ吸引管の内部のインキは容器本体内に戻ることなく当該インキ吸引管内に残り、次回のインキ吸入時においても空気を吸入することなく容器本体内のインキをインキタンクへ吸入させることが可能となり、また容器本体内のインキの量がきわめて少なくなった場合でも、インキの吸入を継続して行うことが可能となる。
また、容器本体内のインキが空気に触れることがないため、インキの保存安定性に優れる。
【0011】
本発明における容器本体は、内部に収容されたインキの減少にともない減容変形する可撓性材料で形成されることが好ましい。
具体的には、ナイロン樹脂などのポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂といった樹脂材料で成形されたフィルムなどで形成される。インキ中の水分の蒸発によってインキの粘度やpHや表面張力などの物性が変化することがないように、水分の透過性が低く、インキ中に樹脂成分が溶出しないポリエチレン樹脂がより好ましい。
前記フィルムやアルミニウム箔などを用いた同質あるいは材質の異なる2層以上の多層構造で形成することにより、遮光性やバリア性を高めることもできる。また、前記フィルムに紫外線吸収剤などを添加してもよい。
【0012】
容器本体に収容するインキは、従来万年筆などの筆記具に普通に用いられるインキを用いることができる。
容器本体が、内部に収容されたインキの減少にともない減容変形するため、容器本体内のインキが空気に触れることがなく、インキに黴が生えたりするなどの、析出物や凝集物などの異物が発生することや、インキに異物が混入することや、インキ中の水分が蒸発してインキの粘度やpHや表面張力などの物性が変化することや、インキの色が変化することなど、インキとしての機能を果たせなくなることを防止し、インキの保存安定性に優れたインキ用容器となる。
また、万年筆やコンバータにインキを補給する際にも、直接外気に触れることなくインキを補給できるため、インキに異物が混入することがない。
【0013】
本発明におけるインキ吸引管は、樹脂、金属、ガラスなどで形成することができる。
具体的には、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などの樹脂で形成することができ、また透明にすることで、インキ吸引管の内部を流れるインキを視認することが可能となる。インキ吸引管を金属で形成する場合には、インキに対して耐食性が強いステンレスで形成することが好ましい。またインキ吸引管は、樹脂とステンレスとを組み合わせて形成することもできる。
【0014】
また、インキ吸引管の接続口は、万年筆のペン芯に形成された空気溝あるいはコンバータの先端部に挿通できるよう形成する必要がある。
なお、接続口へのコンバータの接続方法としては、コンバータの先端部に設けられている開口に接続口を挿通させる方法以外にも、接続口の先端に凹部を形成して、当該凹部にコンバータの先端部を挿通させる方法もある。
また、インキ吸引管の接続口と、ペン芯に形成された空気溝あるいはコンバータの先端部との関係は、連結される互いの外面形状と内面形状とを一致させることで密着できるようにするか、接続口の外面を外力によって変形しやすい柔らかいシリコーン樹脂やウレタン樹脂などで形成して密着させやすくすることで、インキの吸入効率を向上させることが可能となる。
【0015】
また、逆流防止弁を設ける場合には、万年筆やコンバータのインキ吸入機構の作動によって生じる負圧で作動する逆流防止弁を用いることができ、ダックビル式、ダイヤフラム式、ディスク式、ボール式などの、垂直配管での利用が可能な構造を適宜採用することができる。
また、材質としてはシリコーン樹脂、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などの樹脂で形成することができる。
【0016】
また、前記容器本体を、外層体に収容された構成とする場合には、外部からの衝撃では当該容器本体が変形しないように、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などの樹脂材やガラス、金属などの材料で当該外層体を形成することが好ましい。
また、前記外層体を透明材で形成したり、側面に窓孔を設けたりすることなどにより、中で小さく減容変形した容器本体を視認してインキの残量を確認できるものとなる。
さらに、外層体を2つ以上に分割可能な構成とすることで、インキを収容して膨張した容器本体をその内部に収容させることが容易となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、万年筆やコンバータに対してインキの補給を行う際に、ペン先部やコンバータ先端部をインキで汚してしまうことがなく、インキタンク内やコンバータ内への空気の吸入を防止し、また容器本体内のインキの量がきわめて少なくなった場合でも、インキの吸入を継続して行うことができるインキ用容器を得ることができる。
また、容器本体内のインキが空気に触れることがないため、インキの保存安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】
図1の逆流防止弁部分を拡大した縦断面図である。
【
図4】万年筆にインキを補給している状態を示す縦断面図である。
【
図5】本実施例のインキ用容器の縦断面図であり、
図1とは直角な別方向の縦断面図である。
【
図6】
図5の状態からインキの減少に伴い本体が減容変形した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施例のインキ用容器の縦断面図であり、
図2は、本実施例の容器本体の斜視図であり、
図3は、
図1の逆流防止弁部分を拡大した縦断面図であり、
図7は、本実施例のインキ用容器の正面図である。
【0021】
インキ用容器1は、外層体2の内部に容器本体3が収容されている。
外層体2は、上部外層体21の下端部に形成された凹部と、下部外層体22の上端部に形成された凸部と、が嵌合されて形成されている。上部外層体21には、窓孔11が貫設されている。なお、上部外層体21および下部外層体22は、ポリエチレンテレフタレート樹脂で形成されている。
容器本体3は、ポリエチレン樹脂のフィルムの縁部を熱溶着することで袋状に形成してあり、両側面を袋の内方に折り込んでマチ部を設けてあり、内部にはインキ4が収容されている。
インキ吸引管5は、上部インキ吸引管51と下部インキ吸引管52とを備え、インキ吸引管5の中間部となる上部インキ吸引管51と下部インキ吸引管52の間には、逆流防止弁6が設けられている。
下部インキ吸引管52は、容器本体3に挿入され、溶着部3aで容器本体3に固着され、上部が容器本体3から露出している。なお、上部インキ吸引管51と下部インキ吸引管52は、シリコーン樹脂で形成されている。
逆流防止弁6は、ナイロン樹脂で形成された先端側ハウジング部6aと、ナイロン樹脂で形成された基端側ハウジング部6bと、シリコーン樹脂で形成され基端側から先端側に向かうインキの流動を規制する弁体(ダックビル弁)6cとで構成されている。
上部インキ吸引管51の下端部は、逆流防止弁6の上端部に挿着され、下部インキ吸引管52の上端部は、逆流防止弁6の下端部に挿着されている。
外層体2の開口部7には、シリコーン樹脂で形成された円盤状の連結部材8を嵌着している。連結部材8には装着孔8aと空気導入孔8bが貫設されており、装着孔8aには前記逆流防止弁6が嵌合により装着されている。
上部インキ吸引管51の先端部には、接続口51aが形成されている。
外層体2の開口部7の外側には雄螺子が設けられ、蓋体9の内側には雌螺子が設けられ、開口部7が蓋体9で閉塞される。蓋体9の内天面には、シリコーン樹脂で形成されたパッキン10を嵌着してあり、パッキン10には、上部インキ吸引管51の先端部に形成された接続口51aを挿着できるよう凹部10aが形成されている。
【0022】
次に
図4、
図5、
図6、
図7を用いて、万年筆にインキを補給する状態について説明を行う。
図4は、万年筆にインキを補給している状態を示す縦断面図であり、
図5は、本実施例のインキ用容器の縦断面図であり、
図1とは直角な別方向の縦断面図であり、
図6は、
図5の状態からインキの減少に伴い本体が減容変形した状態を示す縦断面図であり、
図7は、本実施例のインキ用容器の正面図である。
万年筆100は、ペン先101とペン芯102とを重ねたペン先部103を下方に向け、ペン芯102に形成した空気溝102aに、上部インキ吸引管51の上端部に形成された接続口51aを挿通させ、インキ吸入機構104の回転操作部105を回転することで弁体106を前進させた状態にして、回転操作部105を逆回転することで弁体106を後退させてインキタンク107内を負圧にし、ペン芯102を通して容器本体3のインキ4を万年筆100のインキタンク107に吸入することができた。
インキ4が万年筆100のインキタンク107に吸引されることにより、容器本体3は
図5に示す状態から
図6に示す状態のように、吸引されたインキ4の減少に伴って減容変形し、外層体2の内部が減圧状態になったが、この時、連結部材8に空気導入孔8bが設けられていることから、外層体2の内部が負圧になることなく、スムーズなインキの吸引を行うことができた。
また、上部外層体21の側面には窓孔11が設けられていることから、インキの吸引により中で小さく減容変形した容器本体を視認して、インキの残量を確認することができた。
インキ吸入操作後に万年筆100を接続口51aから抜去した後は、容器本体3が減容変形している状態が維持され、さらに逆流防止弁6が機能することから、インキ吸引管5の内部のインキ4は容器本体3に戻ることなく、インキ吸引管5ならびに逆流防止弁6の内部にインキ4が満たされた状態を保つことができる。
なお、インキ吸入後に外層体2の開口部7を蓋体9で閉塞すると、接続口51aがパッキン10の凹部10aに挿着されることから、インキ吸引管5および逆流防止弁6の内部に満たされたインキが経時的に乾燥することを防止できる。
【0023】
本実施例のインキ用容器1によれば、万年筆100のペン先部103をインキ4に浸けることなく、インキ4の吸入を行うことができるので、ペン先部103がインキ4によって汚れてしまうことがない。
また、インキ4の減少に伴い容器本体3が減容変形することで、インキ吸入が終了した後もインキ吸引管5の内部のインキは容器本体3内に戻ることがなく当該インキ吸引管5内に残り、次回のインキ吸入時においても空気を吸入することなく容器本体3内のインキ4を万年筆100のインキタンク107へ吸入することが可能となり、容器本体3内のインキ4の量がきわめて少なくなった場合でも、効率よくインキ4の吸入を継続して行うことが可能となる。
また、上部外層体21の側面に窓孔11が設けられていることで、インキの残量を確認することができ、装飾性にもすぐれたインキ用容器となる。
【符号の説明】
【0024】
1…インキ用容器、
2…外層体、21…上部外層体、22…下部外層体、
3…容器本体、3a…溶着部、
4…インキ、
5…インキ吸引管、51…上部インキ吸引管、51a…接続口、52…下部インキ吸引管、
6…逆流防止弁、6a…先端側ハウジング部、6b…基端側ハウジング部、
6c…弁体(ダックビル弁)、
7…開口部、
8…連結部材、8a…装着孔、8b…空気導入孔、
9…蓋体、
10…パッキン、10a…凹部、
11…窓孔、
100…万年筆、101…ペン先、102…ペン芯、102a…空気溝、103…ペン先部、104…インキ吸入機構、105…回転操作部、106…弁体、107…インキタンク。