【実施例1】
【0024】
図1は、実施例1の電磁波検出器の構成を示した図である。
図1のように、実施例1の電磁波検出器は、基板10と、基板10上に設けられた第1絶縁膜11と、第1絶縁膜11上に設けられた半導体層12と、半導体層12上に設けられた第2絶縁膜13と、第2絶縁膜13上に設けられた吸収層14と、吸収層14を覆う第3絶縁膜18と、ゲート電極15、ソース電極16、ドレイン電極17と、を有している。基板10、第1絶縁膜11、半導体層12、ゲート電極15、ソース電極16、ドレイン電極17は、本発明のトランジスタ構造(MOSFET)に相当する。実施例1の電磁波検出器は、半導体層12をチャネルとして、ドレイン電流の変化により遠赤外線を検出するFET型の電磁波検出器である。
【0025】
(基板10について)
基板10は、表面に第1絶縁膜11が形成されたn−Siからなる。第1絶縁膜11はSiの熱酸化膜(SiO
2 )であり、厚さは500nmである。第1絶縁膜11は、FETのゲート絶縁膜として機能する。
【0026】
なお、基板10はSiに限らず、任意の材料を用いることができる。ただし、基板10裏面側からの遠赤外線を検出する場合には、基板10は遠赤外線を透過する材料とする必要がある。基板10を遠赤外線透過材料とする場合、基板10の表面側と裏面側の両方からの両方の遠赤外線を検出するようにしてもよい。
【0027】
また、第1絶縁膜11はSiの熱酸化膜としているが、他の方法により形成したSiO
2 でもよいし、SiO
2 以外の絶縁体を用いてもよい。たとえば、Al
2 O
3 、SiN、SiON、TiO
2 、HfO
2 ZrO
2 、Ta
2 O
5 などを用いることができる。また、異なる材料の積層であってもよい。
【0028】
また、実施例1の電磁波検出器では、ボトムゲート型であるため基板10を導電性材料としているが、トップゲート型とする場合には絶縁性材料を用いてもよい。
【0029】
(半導体層12について)
半導体層12は、グラフェンからなり、第1絶縁膜11上に接して位置している。ここでグラフェンは、単層のものだけでなく数層のものも含み、たとえば1〜9層のものである。半導体層12は、トランジスタのチャネルとして動作する層である。半導体層12は、吸収層14の平面パターンと重ならず、かつ吸収層14の周の少なくとも一部の近傍に位置するパターンに形成されている。そのパターンの詳細については後述する。
【0030】
半導体層12には、グラフェン層以外の層状物質の半導体を用いることもできる。ここで層状物質は、強い結合によって二次元的に結合したシート状の構造を単位として、そのシート状構造が弱い接合によって積層した層状構造を有し、積層数が単層から数層程度(たとえば1〜9層)の積層のものを示すとする。
【0031】
たとえば、遷移金属ダイカルコゲナイドを用いることができる。遷移金属ダイカルコゲナイドは、化学式MX
2 で表される層状物質である。ここでMは、遷移金属であり、たとえば、Mo、W、Ta、Hf、Sn、Ti、Re、Sn、などである。また、Xは、S、Se、またはTeである。具体的には、MoS
2 、WS
2 、WSe
2 、MoSe
2 、HfS
2 、SnS
2 などを用いることができる。
【0032】
また、たとえば、13族カルコゲナイドや14族カルコゲナイドを用いることができる。13族カルコゲナイドは、13族元素と16族元素の化合物であり、14族カルコゲナイドは、14族元素と16族元素の化合物である。具体的には、GaS、GaSe、InSe、GeSe、SnSe
2 などを用いることができる。
【0033】
また、たとえば、フォスフォレン、シリセン、ゲルマネンなどの単一元素からなる層状物質を用いることができる。
【0034】
(第2絶縁膜13について)
第2絶縁膜13は、半導体層12上に接して設けられている。第2絶縁膜13は、SiO
2 からなる。第2絶縁膜13は、半導体層12と吸収層14とを離間させ、吸収層14から半導体層12へ電流がリークしないようにするために設けるものである。
【0035】
第2絶縁膜13の厚さは、吸収層14から半導体層12へトンネル効果により電流がリークしない厚さに設定されていればよい。電流リークがあると、検出精度に影響を及ぼしてしまうからである。なお、完全に電流リークが生じない厚さである必要はなく、遠赤外線の検出精度に影響のない範囲で多少の電流リークが生じることは許容される。
【0036】
たとえば、第2絶縁膜13の厚さは、2nm以上とすることが望ましい。2nm未満の厚さでは電流リークを十分に抑制できない。また、第2絶縁膜13の厚さは、100nm以下とすることが望ましい。吸収層14と半導体層12の距離が離れると、吸収層14で発生した電界の半導体層12での電界強度が弱くなり、遠赤外線の検出精度が十分に向上しないためである。また、第2絶縁膜13が厚くなると製造に時間やコストがかかり、電磁波検出器も大型となってしまうためである。より望ましい第2絶縁膜13の厚さは、2〜50nm、さらに望ましくは5〜20nmである。
【0037】
また、第2絶縁膜13の材料はSiO
2 に限らず、第1絶縁膜11とは異なる材料であってもよい。たとえば、Al
2 O
3 、SiN、SiON、TiO
2 、HfO
2 ZrO
2 、Ta
2 O
5 などを用いることができる。第2絶縁膜13は複数の材料の積層であってもよい。装置の小型化を図りつつ電流リークを効果的に防止するために、第2絶縁膜13は高誘電率材料が望ましい。たとえば、比誘電率が4以上の材料が望ましい。
【0038】
(吸収層14について)
吸収層14は、第2絶縁膜13上の一部領域に設けられている。吸収層14は、厚さ5nmのCr、厚さ30nmのAuを順に積層した構造である。Au層は、表面プラズモン共鳴により所望の波長の遠赤外線を吸収し、吸収層14の周囲に電界を発生させるための層である。Cr層は、第2絶縁膜13とAu層との密着性を高めるための層である。吸収層14の平面パターンは、所望の波長を効率的に吸収可能なパターンに形成されている。そのパターンの詳細については後述する。
【0039】
吸収層14の厚さは、30nmに限らず、所望の波長の遠赤外線を十分に吸収できる厚さであれば任意である。たとえば10〜1000nmの範囲とすれば十分である。
【0040】
吸収層14の材料はAuに限らず、遠赤外線を吸収して電界を生じさせるような材料であれば任意の材料を用いることができ、絶縁体、金属、半導体のいずれでもよいし、無機材料であっても有機材料であってもよい。複数材料の積層であってもよい。また、遠赤外線の吸収は、材料の格子欠陥や不純物による吸収でもよい。また、電界の発生要因は、表面プラズモン共鳴によるもの、電子と正孔対の生成による電荷の局在に起因するもの、分極によるもの、など任意の要因であってよい。
【0041】
たとえば、表面プラズモン共鳴を生ずる材料である。そのような材料であれば、金属、半導体、絶縁体のいずれであってもよい。そのような材料の一例は、実施例1のAuの他、Ag、Cuなどの金属、PbTiO
3 、BaTiO
3 などの強誘電体、遷移金属ダイカルコゲナイド、である。遷移金属ダイカルコゲナイドについては、半導体層12の説明で挙げた材料を用いることができる。
【0042】
また、たとえば、電磁波の吸収によって電子−正孔対を生成し、その電子と正孔の局在によって電界が発生する材料である。たとえば、Ge、Si、GaAs、GaN、AlGaAsなどの半導体、有機色素、フタロシアニン系材料などの有機半導体、BaTiO
3 などの強誘電体、PbTiO
3 などの焦電体である。また、pn接合構造やpin接合構造としてもよい。電子と正孔の局在がより顕著となり、より強い電界が発生することで電磁波検出器の遠赤外線検出精度の向上を図ることができる。
【0043】
なお、実施例1では、半導体層12と吸収層14の位置関係は、遠赤外線の入射側(基板10表面側)から順に、吸収層14、半導体層12の順であるが、逆に半導体層12、吸収層14の順の構造であってもよい。一例として、
図2に、実施例1において第2絶縁膜13上の吸収層14を第1絶縁膜11中に埋め込む構成(吸収層14Aとする)に替え、第2絶縁膜13は省略した構成を示す。
図2のような構成であっても、半導体層12を透過した遠赤外線を吸収層14Aによって吸収させることができるため、実施例1の電磁波検出器と同様に動作させることができる。
【0044】
また、実施例1では、吸収層14は1層のみであるが、2層以上設けてもよい。これにより、複数の波長を検出可能としたりすることができる。一例として、
図3に、実施例1において第1絶縁膜11中に吸収層14Aをさらに加えた構成を示す。
図3の電磁波検出器において、吸収層14の材料、平面パターンと、吸収層14Aの材料、平面パターンとを変えることで、吸収層14の吸収波長と、吸収層14Aの吸収波長を変えてもよい。たとえば、波長5μmの遠赤外線と波長10μmの遠赤外線の両方を検出可能な電磁波検出器を実現することができる。
【0045】
(第3絶縁膜18について)
第3絶縁膜18は、吸収層14を覆うようにして形成されている。第3絶縁膜18の厚さは、たとえば5〜20nmである。吸収層14は第2絶縁膜13と第3絶縁膜18によって内部に封止された状態となっている。このように絶縁膜で吸収層14を封止することで、吸収層14を物理的、化学的に保護している。第3絶縁膜18はSiO
2 からなる。SiO
2 以外にも、吸収層14を物理的、化学的に保護可能な任意の材料を用いることができる。
【0046】
(電極構造について)
第2絶縁膜13および第3絶縁膜18の一部領域にコンタクトホールが設けられ、その底面に半導体層12が露出している。その露出する半導体層12上に接してソース電極16およびドレイン電極17が設けられている。ソース電極16とドレイン電極17は所定距離離間して設けられている。ゲート電極15は、基板10の裏面に接して設けられている。ソース電極16、ドレイン電極17、およびゲート電極15は、Ti/Auからなる。
【0047】
なお、実施例1では、ゲート電極15が第1絶縁膜11を介して半導体層12に接続する絶縁ゲート構造のFET(MOSFET)を構成しているが、ゲート電極15の材料としてグラフェンにショットキー接続する材料を用い、ゲート電極15と半導体層12とを直接接続してショットキーゲート構造のFET(MESFET)としてもよい。たとえば、基板10をグラフェンにショットキー接続する材料とし、ゲート電極15を兼ねる構造としてもよい。
【0048】
また、実施例1では、ゲート電極15を1つ設けているが、複数設けてもよい。複数のゲート電極15を設けることで、半導体層12に対する電圧の印加位置を制御することができ、FETの動作を両極性から半極性としたり、半導体層12のディラックポイントのシフト量制御をより容易とすることができ、電磁波の検出精度の向上を図ることができる。また、実施例1では、基板10裏面側にゲート電極15を設けたバックゲート型の構造としているが、基板10表面側にゲート電極15を設けたトップゲート型の構造としてもよいし、表面側と裏面側の両方に設けたデュアルゲート型の構造としてもよい。
【0049】
ゲート電極15を複数設ける場合の具体例を以下にいくつか例示する。
図4の電磁波検出器は、実施例1において、第3絶縁膜18上にグラフェンからなるゲート電極15Aをさらに加えた構成である。この場合、第3絶縁膜18はゲート絶縁膜としての機能を兼ねる。
【0050】
また、
図5の電磁波検出器は、ゲート電極15に替えて、ゲート電極25、26を加えた構成であり、実施例1において基板10に替えて、遠赤外線を透過する高抵抗のn−Siからなる基板20を用いている。基板20上には、グラフェンからなるゲート電極25、第1絶縁膜11、半導体層12が順に積層され、半導体層12上には、実施例1と同様に第2絶縁膜13、吸収層14、ソース電極16、ドレイン電極17、第3絶縁膜18が設けられている。また、第3絶縁膜18上にTi/Auからなるゲート電極26が設けられている。基板20裏面には、ゲート電極25を底面に露出させるコンタクトホールが設けられ、コンタクトホールを埋めてゲート電極25と接続するコンタクト電極27が設けられている。この
図5の電磁波検出器では、基板20裏面側から基板20を透過して入射する遠赤外線を検出する。
【0051】
また、ゲート電極15を吸収層14と同一面上に設けてもよい。一例を
図6に示す。
図6の電磁波検出器は、高抵抗の基板20上に半導体層12、第2絶縁膜13を順に形成し、第2絶縁膜13上に吸収層14とゲート電極15を離間して形成し、さらに第2絶縁膜13にコンタクトホールを設けて半導体層12と接続するソース電極16、ドレイン電極17を形成した構成である。このように吸収層14とゲート電極15を同一面上に設けると、素子構造を簡略化して絶縁膜の形成回数を削減でき、製造コストの低減を図ることができる。また、吸収層14と半導体層12とを隔てて電流リークを抑制するための第2絶縁膜13が、ゲート絶縁膜としての機能を兼ねるようにすることができる。
【0052】
また、実施例1では吸収層14と半導体層12は異なる面上に位置しているが、吸収層14から半導体層12に電流リークが生じないように絶縁膜によって離間して設けられていれば、吸収層14と半導体層12との位置関係は任意でよい。吸収層14と半導体層12を同一面上に設けてもよい。絶縁膜を形成する領域を削減でき、製造工程の簡略化、コスト低減を図ることができる。なお、吸収層14と半導体層12を同一面上に形成する場合、必然的に吸収層14の平面パターンと半導体層12の平面パターンは重ならない。
【0053】
吸収層14と半導体層12を同一面上に形成する場合の具体例を以下にいくつか例示する。
図7は、変形例の電磁波検出器の構成を示し、
図7(a)は断面図、
図7(b)は平面図である。
図7のように、基板10上に第1絶縁膜11が設けられ、第1絶縁膜11上に正方形のパターンの吸収層14を設けられ、同じく第1絶縁膜11上に半導体層12が設けられている。半導体層12は正方形の窓が空けられ、その窓内に半導体層12から一定距離離間して吸収層14が位置している。そして吸収層14と半導体層12を覆うようにして第3絶縁膜18が設けられ、吸収層14と半導体層12との隙間にも第3絶縁膜18が位置する。ゲート電極15、ソース電極16、ドレイン電極17については実施例1と同様にして設けられている。
【0054】
図8は、
図7の電磁波検出器において、
図4と同様にして第3絶縁膜18上にもゲート電極15Aを設けてゲート電極を2つ有した構成としたものである。
【0055】
図9は、
図7の電磁波検出器において、
図5と同様にして2つのゲート電極25、26を設けた構成としたものである。
【0056】
これら
図7〜9の電磁波検出器では、実施例1の電磁波検出器に比べて第2絶縁膜13を設ける必要がないため、製造工程をより削減でき、低コスト化を図ることができる。
【0057】
(実施例1の電磁波検出器の製造方法)
次に、実施例1の電磁波検出器の製造方法について、
図10を参照に説明する。
【0058】
まず、銅箔上に、CVD法を用いて半導体層12を形成する。炭素源にはメタン、エタンなどの炭素含有ガスを用いる。温度はたとえば1000℃以上とし、圧力はたとえば500Pa以下とする。
【0059】
次に、表面、裏面に500nmの熱酸化膜(第1絶縁膜11)が形成されたn−Siからなる低抵抗な基板10を用意する。この基板10表面に、銅箔上の半導体層12を張り合わせる。そして、銅箔をウェットエッチングによって除去する。このようにして、半導体層12を基板10表面の第1絶縁膜11上に転写する(
図10(a)参照)。
【0060】
なお、半導体層12の形成方法はCVD法に限らず、テープ剥離法などの任意の方法を用いてもよい。
【0061】
次に、フォトリソグラフィ、ドライエッチングにより、第1絶縁膜11上に所定のパターンの半導体層12を形成する(
図10(b)参照)。
【0062】
次に、半導体層12上に、CVD法によって厚さ20nmの第2絶縁膜13を形成し、第2絶縁膜13上に所定のパターンの吸収層14を形成する(
図10(c)参照)。吸収層14は、Cr/Auであり、Cr層は5nm、Au層は30nmとする。吸収層14は、スパッタ法や蒸着法などによって形成する。吸収層14のパターニングは、フォトリソグラフィとドライエッチングを用いる。あるいはリフトオフ法によってパターニングしてもよい。
【0063】
次に、吸収層14を覆うようにしてCVD法により第3絶縁膜18を形成する。そして、第2絶縁膜13、第3絶縁膜18の一部領域をドライエッチングしてコンタクトホールを形成し、コンタクトホール底面に半導体層12を露出させる。そして、露出させた半導体層12上に、フォトリソグラフィ、蒸着、リフトオフにより、ソース電極16、ドレイン電極17を形成する(
図10(d)参照)。次に、基板10裏面の熱酸化膜を除去し、ゲート電極15を形成する。以上によって
図1に示す実施例1の電磁波検出器を作製する。
【0064】
(電磁波検出器の動作について)
次に、実施例1の電磁波検出器の動作について説明する。
【0065】
まず、ゲート電極15に所定の電圧を印加し、ドレイン電圧の変化に対してドレイン電流が大きく変化する領域となるように設定しておく。グラフェンからなる半導体層12をチャネルとするトランジスタは、両極性を示し、
図11のように、ゲート電圧−ドレイン電流特性の曲線は線対称に現れる。そこで、曲線の傾きの大きな領域Aや領域Bとなるようにゲート電圧を印加する。
【0066】
このようにゲート電圧を印加した状態で、実施例1の電磁波検出器の基板10表面側から遠赤外線が入射すると、遠赤外線は吸収層14に吸収される。すると、吸収層14中の電子の分布に偏りが生じ、吸収層14の周囲に電界が生じる。
【0067】
吸収層14の遠赤外線吸収によって生じた電界に半導体層12が晒され、電圧が印加されると、半導体層12を構成するグラフェンのディラックポイントがシフトする。半導体層12は、後述のような平面パターンであるため、吸収層14の遠赤外線吸収により発生する電界のうち、電界強度の強い領域に半導体層12を効率的に晒すことができる。その結果、半導体層12のディラックポイントを効率的にシフトさせることができる。ディラックポイントのシフトにより、半導体層12をチャネルとするトランジスタの電気的特性(ゲート電圧−ドレイン電流の特性)も変化し、
図12のようにその曲線がシフトする。
【0068】
ここで、あらかじめゲート電圧の印加によって、ゲート電圧の変動によって大きくドレイン電流が変化する領域(
図11中の領域Aや領域B)に設定されている。そのため、グラフェンをチャネルとするトランジスタの電気的特性の変化によって、ドレイン電流も大きく変化する(
図12参照)。このドレイン電流の変化により、遠赤外線を検出することができる。また、ドレイン電流の変化量から遠赤外線の強度を測定することができる。
【0069】
実施例1の電磁波検出器では、遠赤外線を吸収させる機能と、その吸収を電流の変化として検出するトランジスタの機能とを分離させている。また、半導体層12は、遠赤外線の吸収によって発生する電界の強い領域に配置され、弱い領域には配置されていない。そのため、実施例1の電磁波検出器はノイズや暗電流に強く、高感度に遠赤外線を検出することができ、たとえば比検出能(D*)を向上させることができる。
【0070】
(吸収層14および半導体層12のパターン)
上述のように、吸収層14、半導体層12の平面パターンは、効率的に遠赤外線を検出できるように設定されている。その平面パターンについて、図を参照に詳しく説明する。
【0071】
まず、吸収層14の平面パターンについて説明する。吸収層14は、
図13に示すように、ボウタイ型の形状を単位構造として、その単位構造が正方格子状に配列されたパターンである。ボウタイ型の形状は、2つの二等辺三角形の頂角が一部重なるように対向させた形状である。また、ボウタイ型の2つの底辺14aは、検出したい偏光方向に対して垂直となるように配置する。これにより、その偏光方向の遠赤外線を高効率に検出することができる。
【0072】
図14は、吸収層14の透過スペクトルをシミュレーションにより算出した結果を示したグラフである。吸収層14のボウタイ型の形状は、2つの二等辺三角形の底辺14aの長さを2340nm、頂角の重なり幅を80nm、2つの底辺14aの間隔を2340nmとし、そのボウタイ型の形状を周期2590nmで正方格子状に無限に配列した平面パターンとした。また、遠赤外線は吸収層14の厚さ方向に入射し、偏光方向は、ボウタイ型の底辺14aに直交する方向とした。このような平面パターンの吸収層14は、
図14のように、波長10μmの遠赤外線の透過率はおよそ0.02であり、波長10μmの遠赤外線を効率的に吸収できることがわかる。
【0073】
なお、吸収層14の単位構造は、実施例1ではボウタイ型の構造としているが、任意のパターンでよい。ただし、効率的に遠赤外線を吸収するために、2回対称以上の対称性を有するパターンとするのがよい。たとえば、正三角形、正方形、長方形、正六角形、円、楕円、十字型などのパターンとしてもよい。特に、4回対称以上とすれば、無偏光であっても効率的に検出することができる。
【0074】
吸収層14の単位構造の他の例として、
図15に、吸収層14の単位構造を正方形とした場合の平面パターンを示す。また、
図16は、この平面パターンにおける吸収層14の透過スペクトルをシミュレーションにより算出した結果を示したグラフである。正方形の一辺の長さは2μmとし、その正方形を周期5μmで正方格子状に無限に配列した平面パターンとした。また、吸収層14の厚さは100nmとした。
図16のように、波長5μmの遠赤外線の透過率はおよそ0.07であり、波長5μmの遠赤外線を効率的に吸収できることがわかる。
【0075】
また、実施例1では、吸収層14を単位構造が正方格子状に配列されたパターンとしているが、所望の吸収波長、吸収帯域幅などに応じて配列パターンや配列数を設定してよく、正方格子以外にも、三角格子、蜂の巣格子などの周期的パターンであってもよい。ただし、吸収層14全体として2回対称以上の対称性となるように配置することが望ましい。吸収層14によって効率的に遠赤外線を吸収させることができる。また、複数の単位構造を配列したパターンではなく、単位構造を1つ有するのみであってもよい。
【0076】
次に、吸収層14の単位構造がボウタイ型形状の場合における半導体層12の平面パターンについて説明する。半導体層12は、
図13に示すように、ストライプ状に形成されている。吸収層14のボウタイ型形状における底辺14aに垂直な方向をx軸方向、底辺14aに沿う方向をy軸方向とすると、そのストライプの方向は、y軸方向である。また、隣接するボウタイ型形状の一方の底辺14aと他方の底辺14aとの隙間の位置に設けられており、吸収層14と半導体層12とは平面視で重ならないように設定されている。また、ストライプの幅は、隣接するボウタイ型形状の一方の底辺14aと他方の底辺14aとの間隔に等しい。
【0077】
図17は、x軸方向に偏光した波長10μmの遠赤外線の吸収層14による吸収で発生する電界の強度分布をシミュレーションにより求めた結果を示した図である。吸収層14直下のxy平面での電界強度分布である。吸収層14がボウタイ型形状である場合、
図17のように、電界強度分布は、吸収層14と平面視が重なる領域では非常に弱くなる。一方、ボウタイ型形状の底辺14a近傍の領域では負の強い電界強度を示す。
【0078】
そこで、半導体層12を
図13に示すストライプ状とすることで、遠赤外線の吸収により発生する電界の強い領域(ボウタイ型形状の底辺14a近傍の領域)に半導体層12を配置し、電界の弱い領域(吸収層14と重なる領域)には半導体層12を配置しないようにしている。このように半導体層12を配置することで、半導体層12を構成するグラフェンのディラックポイントを効率的にシフトさせることができ、高感度に遠赤外線を検出することができる。
【0079】
次に、吸収層14の単位構造が正方形の場合における半導体層12の平面パターンについて説明する。半導体層12は、
図15のように、ストライプ状に形成されている。吸収層14の正方形の辺のうち、ある一辺に沿う方向をx軸方向、これに垂直な方向をy軸方向として、ストライプの方向はy軸方向である。また、正方形と正方形の間の領域に設けられており、吸収層14と半導体層12とは平面視が重ならないように設定されている。また、ストライプの幅は、正方形と正方形の間隔に等しい。
【0080】
図18は、x軸方向に偏光した波長5μmの遠赤外線の吸収層14による吸収で発生する電界の強度分布をシミュレーションにより求めた結果を示した図である。吸収層14直下のxy平面における電界強度分布である。
図18のように、電界強度分布は吸収層14と重なる領域で非常に弱くなる。一方、正方形の辺のうちx軸方向に直交する辺の近傍の領域では負の強い電界強度を示し、他の辺の近傍の領域では弱い電界強度を示す。
【0081】
そこで、半導体層12を
図15に示すストライプ状とすることで、遠赤外線の吸収により発生する電界の強い領域(正方形の辺のうちx軸方向に直交する辺の近傍の領域)に半導体層12を配置し、電界の弱い領域(吸収層14と重なる領域)には半導体層12を配置しないようにしている。このように半導体層12を配置することで、半導体層12を構成するグラフェンのディラックポイントを効率的にシフトさせることができ、高感度に遠赤外線を検出することができる。
【0082】
以上はx軸方向の偏光の遠赤外線を検出する場合の半導体層12の平面パターンについて述べたが、無偏光の遠赤外線を検出する場合の半導体層12の平面パターンについて説明する。
【0083】
まず、吸収層14の単位構造がボウタイ型形状の場合を考える。ボウタイ型形状を単位構造とする吸収層14に、無偏光の遠赤外線が入射した場合、y軸方向の偏光に対しては、
図19のように、波長10μmの遠赤外線をあまり吸収することはできないが、x軸方向の偏光に対しては、
図14のように波長10μmの遠赤外線を効率的に吸収できる。
【0084】
図20は、無偏光の遠赤外線を吸収した場合に発生する電界の強度分布を示したグラフである。この
図20のように、無偏光の遠赤外線の場合でも、ボウタイ型形状の底辺14a近傍の領域では負の強い電界強度を示し、吸収層14と重なる領域では電界強度が非常に弱くなる。
【0085】
したがって、
図13と同様に半導体層12の平面パターンをストライプ状のパターンとすれば、無偏光の場合においても高感度に遠赤外線を検出することができる。
【0086】
次に、吸収層14の単位構造が正方形の場合を考える。正方形を単位構造とする吸収層14では、その形状の対称性から、x軸方向の偏光もy軸方向の偏光も同じ透過スペクトル(
図16参照)となり、無偏光であっても効率的に波長5μmの遠赤外線を吸収できる。
【0087】
また、
図21は、吸収層14の単位構造を正方形とした場合において、無偏光の遠赤外線が入射したときの電界強度分布を示した図である。
図21のように、吸収層14と重なる領域は電界強度が弱く、一方で正方形の各辺の近傍の領域では負の強い電界強度を示す。x軸方向に偏光した遠赤外線が入射した場合には、x軸方向に直交する辺の近傍のみが負の強い電界強度を示したが、無偏光の場合には、全ての辺の近傍で負の強い電界強度を示している。
【0088】
したがって、吸収層14の単位構造が正方形の場合には、
図15と同様のストライプ状でも高感度に無偏光の遠赤外線を検出することはできるが、格子状とすることでさらに高感度に無偏光の遠赤外線を検出することができる。
図22は、半導体層12を格子状とした場合の平面パターンを示す。
図22のように、半導体層12の平面パターンは、吸収層14の正方形と正方形の間の領域にx軸方向に伸びるストライプと、同じく正方形と正方形の間の領域にy軸方向に伸びるストライプとが直交して交差する格子状のパターンである。このような格子状のパターンとすることで、遠赤外線の吸収により発生する電界の強い領域(正方形の各辺の近傍の領域)に半導体層12を配置し、電界の弱い領域(吸収層14と重なる領域)には半導体層12を配置しないようにしている。
【0089】
以上の検討から、半導体層12の平面パターンは、吸収層14の平面パターンと重なる領域には設けないようにし、吸収層14の周の少なくとも一部の近傍に位置するようなパターンとすれば、遠赤外線の吸収により発生する電界のうち、電界強度の強い領域に半導体層12を晒すことができ、効率的に遠赤外線を検出できることがわかる。特に、吸収層14の単位構造の周の形状を、ある1組の平行な対辺とそれに直交する1組の対辺とを有した形状(たとえば正方形、長方形、八角形など)とし、半導体層12の平面パターンを、それらの辺に沿った格子状のパターンとすれば、無偏光の遠赤外線について高感度に検出することができる。
【0090】
なお、吸収層14と半導体層12のパターンが完全に重ならないようにする必要はなく、多少の重なりはあってもよい。ただし、平面視において吸収層14と半導体層12との重なりの幅は200nm以下とすることが望ましい。より望ましくは100nm以下、さらに望ましくは20nm以下である。最も望ましいのは重ならないようにすることである。また、吸収層14と半導体層12とのパターンに間隔が開きすぎると、遠赤外線の吸収により吸収層14で電界が発生したときに半導体層12に係る電圧が弱くなり、遠赤外線の検出感度が悪くなる。そのため、平面視において吸収層14と半導体層12との間隔は100nm以下とすることが望ましい。より望ましくは50nm以下、さらに望ましくは20nm以下である。
【0091】
また、実施例1の電磁波検出器は、遠赤外線の検出に用いるものであったが、本発明の電磁波検出器は、任意の波長の電磁波の検出に用いることができる。たとえば、紫外線、可視光、赤外線、テラヘルツ波の検出に用いることができる。特に、赤外線(とりわけ中赤外線や遠赤外線)の検出に有効である。中赤外から遠赤外領域を高感度に検出できる検出器が従来存在していなかったためである。