特許第6918782号(P6918782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918782
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】培養培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20210729BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20210729BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20210729BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   C12N5/073
   C12N5/0735
   C12N5/074
   C12N5/10
【請求項の数】21
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2018-510051(P2018-510051)
(86)(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公表番号】特表2018-525008(P2018-525008A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】EP2016070005
(87)【国際公開番号】WO2017032811
(87)【国際公開日】20170302
【審査請求日】2019年6月11日
(31)【優先権主張番号】1515015.4
(32)【優先日】2015年8月24日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1603407.6
(32)【優先日】2016年2月26日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1607414.8
(32)【優先日】2016年4月28日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509303785
【氏名又は名称】ヴィトロライフ スウェーデン アクチボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チュオン, ティ
(72)【発明者】
【氏名】ガードナー, デイビッド
【審査官】 林 康子
(56)【参考文献】
【文献】 REPRODUCTION FERTILITY AND DEVELOPMENT,2015年 3月 5日,VOL:27, NR:6, SP. ISS. SI,PAGE(S):975 - 983,URL,https://www.researchgate.net/publication/273149599
【文献】 REPRODUCTION FERTILITY AND DEVELOPMENT,2005年12月14日,VOL:18, NR:2,PAGE(S):280 - 281,Abstract No. 346,URL,http://dx.doi.org/10.1071/RDV18N2AB346
【文献】 Diabetologia,2008年,51,165-174
【文献】 J Cell Biochem.,2008年,104(4),1232-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00〜5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)約5〜約50μMの濃度のアセチル−カルニチン;および
b)約2.5〜約40μMの濃度のリポ酸またはその誘導体
を含む、胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地であって、ここで、前記誘導体は、リポ酸と本質的に同等の生理学的特性を有する生物学的に活性な両親媒性ジスルフィド/チオール分子である、培地。
【請求項2】
約5〜約50μMの濃度のアセチル−システインをさらに含む、請求項1に記載の培地。
【請求項3】
前記アセチル−カルニチンの濃度が約5μM〜約20μM、例えば約10μMである、請求項1または2のいずれか一項に記載の培地。
【請求項4】
前記アセチル−システインの濃度が約5μM〜約20μM、例えば約10μMである、請求項2〜4のいずれか一項に記載の培地。
【請求項5】
前記リポ酸またはその誘導体の濃度が約5μM〜約10μM、例えば約5μMである、請求項1〜4のいずれかに記載の培地。
【請求項6】
無機塩、エネルギー源、アミノ酸、タンパク質、サイトカイン、キレート剤、抗生物質、ヒアルロナン、成長因子、ホルモン、ビタミンおよびGM−CSFの1つまたはそれよりも多くをさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の培地。
【請求項7】
胚、配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養するための方法であって、請求項1〜6のいずれかに記載の培養培地中で、前記胚または配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養することを含む、方法。
【請求項8】
酸化ストレスおよび/もしくはフリーラジカル形成、例えば活性酸素種(ROS)形成を軽減もしくは防止し、ならびに/またはインビトロで培養された胚、配偶子もしくは幹細胞の抗酸化能力のレベルを増加させ、ならびに/またはインビトロで培養された胚の発生を改善し、またはインビトロで培養された幹細胞の増殖および分化を改善し、または配偶子の健康および生存度を改善する方法であって、請求項1〜6のいずれかに記載の培地中で、前記胚および/または配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養することを含む、方法。
【請求項9】
胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地中における、アセチル−カルニチンと、リポ酸またはその誘導体との組み合わせの使用であって、ここで、前記誘導体は、リポ酸と本質的に同等の生理学的特性を有する生物学的に活性な両親媒性ジスルフィド/チオール分子である、使用。
【請求項10】
前記組み合わせがアセチル−システインをさらに含む、請求項に記載の使用。
【請求項11】
前記アセチル−カルニチンが約5〜約50μMの濃度であり、前記リポ酸またはその誘導体が約2.5〜約40μMの濃度である、請求項または10に記載の使用。
【請求項12】
前記アセチル−システインが約5〜約50μMの濃度である、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
酸化ストレスおよび/もしくはフリーラジカル形成、例えば活性酸素種(ROS)形成を軽減もしくは防止し、ならびに/またはインビトロで培養された胚もしくは幹細胞の抗酸化能力のレベルを増加させ、ならびに/またはインビトロで培養された胚の発生を改善し、またはインビトロで培養された幹細胞の増殖および分化を改善するための、請求項1〜6のいずれかに記載の胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地の使用。
【請求項14】
前記胚の発生の改善が、
a)栄養外胚葉細胞数、内細胞塊および/もしくは胚盤胞期の胚における総細胞数の増加;
b)拡張胚盤胞および孵化発生に達するまでの時間の減少;
c)胚移植後の胎児の体重、胎児の頭殿長および/もしくは胎盤の重量の増加;
d)良質な胚盤胞の増加;ならびに/または
e)胚盤胞利用率の増加
を含む、請求項8に記載の方法または請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記胚が哺乳動物胚、例えばヒト胚である、請求項7〜14のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項16】
前記胚を個別培養する、請求項7〜15のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項17】
前記胚を胚盤胞期まで培養する、請求項7〜16のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項18】
前記幹細胞が、以下の胚性幹細胞、成体幹細胞および誘導多能性幹細胞の1つまたはそれよりも多くから選択される、請求項7〜14のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項19】
前記幹細胞がヒト幹細胞である、請求項7〜14または請求項18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
5〜20%の酸素含有量の環境で、前記胚、配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養し、例えば、雰囲気酸素条件、例えば約20%酸素下で、または低酸素条件、例えば約5%酸素下で、前記胚または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養する、請求項7〜19のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項21】
胚、配偶子または幹細胞の培養において使用するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の培養培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚、配偶子または幹細胞のための培養培地に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
不妊症は、世界中で8000万人超に影響を与えている。すべてのカップルの10%が、一次不妊症または二次不妊症を経験すると推定されている。補助生殖処置(ART)は、他の方法では妊娠することができなかったカップルに妊娠成立の機会を提供し得る選択的医学的処置である。それは、女性の卵巣から卵(卵母細胞)を採取し、次いで実験室で精子と受精させるプロセスである。次いで、このプロセスで作られた胚は、可能性のある着床のために子宮に置かれる。
【0003】
ARTの進歩にもかかわらず、成功率は依然として低く、着床当たりの生児出生は約30%である。特に、胚のインビトロ培養は、インビボの生理学的条件を正確にシミュレートすることができないので、多くの要因がARTの成功に影響を及ぼす。例えば、インビトロ環境における配偶子の取扱い、操作および培養によって産生される活性酸素種(ROS)は、胚の質および生存度の低下に悪影響を与え得る酸化ストレスの発生をもたらし得る。インビトロにおけるROSの主な寄与因子は、胚を培養する酸素濃度である。大気酸素(約20%)における胚の収集および培養は高酸素環境条件を作り出し、これが外因性ROSの産生増加に関与し、続いて酸化ストレスをもたらす。20%酸素で収集および培養された胚に対する酸化ストレスの効果は、遺伝子発現に悪影響を与え、得られるプロテオームを変化させ、代謝を混乱させることが示されている。大気酸素への短時間の曝露でさえ胚発生に悪影響を及ぼし、卵割の遅延をもたらし得る。しかしながら、高い酸素濃度が胚の発生および生存度に有害であるという証拠の増加にもかかわらず、世界中で相当数のIVFサイクルは依然として、大気酸素で実施されている。
【0004】
5%酸素で実施された胚培養は、酸化ストレスの損傷効果の一部を緩和し得るが、5%酸素濃度は依然として酸化ストレスにつながる。さらに、配偶子はすべて、それらの収集および処理の間に大気酸素に曝露される。高い酸素濃度がヒト胚の発生および生存度に有害であるという証拠にもかかわらず、専ら5%酸素で実施されているIVFサイクルは世界中でわずか25%であり、診療所の34%は、特定の胚培養段階で5%酸素を使用しており、残りの診療所は、専ら20%酸素を用いていると報告されている(Christiansonら、2014 J.Assist Reprod.Genet.31:1029−1036)。
【0005】
また、インビトロ培養では、ROSレベルの厳密な調節を維持するために必要な生理学的機構が決定的に欠如しているので、高いレベルの外因性ROSによって引き起こされる胚に対する酸化ストレスの効果が悪化し得る。確かに、内因性ROSは、配偶子および胚によってインビボで産生され、配偶子の機能および発生の適切な調節のためには、低いレベルが必要である。しかしながら、インビトロ条件とは異なり、インビボにおける過剰なROSは、酸化的損傷に対する修復および保護を提供する優れた抗酸化防御系によってクエンチされる。したがって、生理学的条件下では、全身ROSと抗酸化能力との間で、精緻な平衡/恒常性が維持される。インビトロではこのバランスが破壊され、20%酸素で胚を培養する場合のように、外因性ROSの蓄積および保護機構の欠如は、必然的に酸化ストレスにつながる。
【0006】
インビボにおけるROSは、酵素および非酵素を含む自然抗酸化系によって中和される。カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ/レダクターゼおよびスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を含む酵素性抗酸化物質は、細胞質、子宮内膜腺細胞およびミトコンドリアにおいて見られ、ROSを捕捉することによって保護を付与する。ビタミン(A、B、CおよびE)、ピルビン酸塩、グルタチオン(GSH)およびヒポタウリンなどの非酵素性抗酸化物質は、卵巣、精漿、子宮内膜上皮および濾胞および卵管液に見られ、酸化的連鎖反応を終了させることによってROS形成を防止する。インビトロ培養はこれらの自然抗酸化物質を欠くので、配偶子および胚への酸化的損傷のチェックおよび防止においてROSレベルを維持するための処置として、培養培地への様々な抗酸化物質の補充が使用されている。
【0007】
幹細胞培養における酸化ストレスもまた、確認されている問題である。
【0008】
胚発生に対する個々の抗酸化物質の効果が報告されているが、培地中に集団として存在する抗酸化物質の胚発生に対する効果に関する研究は、比較的限られている。培養培地中の抗酸化物質の有益効果に関して、矛盾する報告がある(Legge and Sellens,Hum Reprod 1991;6:867−871;Nasr−Esfahani and Johnson,Hum Reprod 1992;7:1281−1290;Nodaら、Mol Reprod Dev 1991;28:356−360;Payneら、Reprod Fertil Develop 1992;4:167−174)。
胚の発生ならびに幹細胞の増殖および分化を増強する培養培地、または配偶子の生存度を維持もしくは増強するための培養培地の発見は困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Christiansonら、2014 J.Assist Reprod.Genet.31:1029−1036
【非特許文献2】Legge and Sellens,Hum Reprod 1991;6:867−871
【非特許文献3】Nasr−Esfahani and Johnson,Hum Reprod 1992;7:1281−1290
【非特許文献4】Nodaら、Mol Reprod Dev 1991;28:356−360
【非特許文献5】Payneら、Reprod Fertil Develop 1992;4:167−174)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
第1の態様によれば、本発明は、
a)約5〜約50μMの濃度のアセチル−カルニチン;および
b)約2.5〜約40μMの濃度のリポ酸またはその誘導体
を含む胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地を提供する。
別の態様では、本発明は、
a)約5〜約50μMの濃度のアセチル−カルニチン;
b)約2.5〜約40μMの濃度のリポ酸またはその誘導体;および
c)約5〜約50μMの濃度のアセチル−システイン
を含む胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地を提供する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、胚および/または配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養するための方法であって、本発明の培養培地中で、前記胚および/または配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養することを含む方法を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、酸化ストレスを軽減もしくは防止し、ならびに/またはフリーラジカル形成(例えば、活性酸素種(ROS)形成)を軽減もしくは防止し、ならびに/またはインビトロで培養された胚および/もしくは配偶子もしくは幹細胞の抗酸化能力のレベルを増加させ、ならびに/またはインビトロで培養された胚の発生を改善し、またはインビトロで培養された幹細胞の増殖および分化を改善し、または配偶子の健康および/もしくは生存度を改善する方法であって、本発明の培地中で、前記胚および/または配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養することを含む方法を提供する。
【0013】
別の態様では、本発明は、体外受精の方法であって、配偶子を培養すること、卵母細胞を精子と受精させること、および/または本発明の培地中で胚を培養することを含む方法を提供する。一実施形態では、好ましくは、前記体外受精の方法は、ヒトまたは動物の体内における胚の着床を包含しない。
【0014】
本発明はまたさらに、胚培養培地および/または配偶子培養培地または幹細胞培養培地中における、アセチル−カルニチンと、リポ酸またはその誘導体との組み合わせの使用を提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、胚培養培地および/または配偶子培養培地または幹細胞培養培地中における、アセチル−カルニチンと、リポ酸またはその誘導体と、アセチル−システインとの組み合わせの使用を提供する。
【0016】
本発明はまた、酸化ストレスおよび/もしくはフリーラジカル形成を軽減もしくは防止し、ならびに/またはインビトロで培養された胚もしくは幹細胞の抗酸化能力のレベルを増加させ、ならびに/またはインビトロで培養された胚の発生、もしくはインビトロで培養された幹細胞の増殖および分化を改善し、または配偶子の健康および/もしくは生存度を改善するための、本発明の胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地の使用を提供する。
【0017】
本発明のまたさらなる態様では、体外受精の成功率を改善するための、本発明の胚培養培地および/または配偶子培養培地の使用が提供される。一実施形態では、体外受精の成功率を改善するための、本発明の胚培養培地および/または配偶子培養培地の使用は、ヒトまたは動物の体内における胚の着床を包含しない。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、胚、配偶子または幹細胞の培養において使用するための、本発明の培養培地を提供する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
a)約5〜約50μMの濃度のアセチル−カルニチン;および
b)約2.5〜約40μMの濃度のリポ酸またはその誘導体
を含む、胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地。
(項目2)
約5〜約50μMの濃度のアセチル−システインをさらに含む、項目1に記載の培地。
(項目3)
前記アセチル−カルニチンの濃度が約5μM〜約20μM、例えば約10μMである、項目1または2のいずれか一項に記載の培地。
(項目4)
前記アセチル−システインの濃度が約5μM〜約20μM、例えば約10μMである、項目2〜4のいずれか一項に記載の培地。
(項目5)
前記リポ酸またはその誘導体の濃度が約5μM〜約10μM、例えば約5μMである、上記項目のいずれかに記載の培地。
(項目6)
無機塩、エネルギー源、アミノ酸、タンパク質、サイトカイン、キレート剤、抗生物質、ヒアルロナン、成長因子、ホルモン、ビタミンおよびGM−CSFの1つまたはそれよりも多くをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の培地。
(項目7)
胚、配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養するための方法であって、項目1〜6のいずれかに記載の培養培地中で、前記胚または配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養することを含む、方法。
(項目8)
酸化ストレスおよび/もしくはフリーラジカル形成、例えば活性酸素種(ROS)形成を軽減もしくは防止し、ならびに/またはインビトロで培養された胚、配偶子もしくは幹細胞の抗酸化能力のレベルを増加させ、ならびに/またはインビトロで培養された胚の発生を改善し、またはインビトロで培養された幹細胞の増殖および分化を改善し、または配偶子の健康および生存度を改善し、または精子による卵母細胞の受精を改善する方法であって、項目1〜6のいずれかに記載の培地中で、前記胚および/または配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養することを含む、方法。
(項目9)
体外受精の方法であって、項目1〜6のいずれかに記載の培地中で、配偶子および/または胚を取扱いおよび/または操作および/または培養することを含む、方法。
(項目10)
胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地中における、アセチル−カルニチンと、リポ酸またはその誘導体との組み合わせの使用。
(項目11)
前記組み合わせがアセチル−システインをさらに含む、項目10に記載の使用。
(項目12)
前記アセチル−カルニチンが約5〜約50μMの濃度であり、前記リポ酸またはその誘導体が約2.5〜約40μMの濃度である、項目10または11に記載の使用。
(項目13)
前記アセチル−システインが約5〜約50μMの濃度である、項目11に記載の使用。
(項目14)
酸化ストレスおよび/もしくはフリーラジカル形成、例えば活性酸素種(ROS)形成を軽減もしくは防止し、ならびに/またはインビトロで培養された胚もしくは幹細胞の抗酸化能力のレベルを増加させ、ならびに/またはインビトロで培養された胚の発生を改善し、またはインビトロで培養された幹細胞の増殖および分化を改善するための、項目1〜6のいずれかに記載の胚培養培地、配偶子培養培地または幹細胞培養培地の使用。
(項目15)
前記胚の発生の改善が、
a)栄養外胚葉細胞数、内細胞塊および/もしくは胚盤胞期の胚における総細胞数の増加;
b)拡張胚盤胞および孵化発生に達するまでの時間の減少;
c)胚移植後の胎児の体重、胎児の頭殿長および/もしくは胎盤の重量の増加;
d)良質な胚盤胞の増加;ならびに/または
e)胚盤胞利用率の増加
を含む、項目8に記載の方法または項目14に記載の使用。
(項目16)
体外受精の成功率を改善するための、項目1〜6のいずれかに記載の培養培地の使用。
(項目17)
前記胚が哺乳動物胚、例えばヒト胚である、項目7〜16のいずれかに記載の方法または使用。
(項目18)
前記胚を個別培養する、項目7〜17のいずれかに記載の方法または使用。
(項目19)
前記胚を胚盤胞期まで培養する、項目7〜18のいずれかに記載の方法または使用。
(項目20)
前記幹細胞が、以下の胚性幹細胞、成体幹細胞および誘導多能性幹細胞の1つまたはそれよりも多くから選択される、項目7〜16のいずれかに記載の方法または使用。
(項目21)
前記幹細胞がヒト幹細胞である、項目7〜16または項目20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
5〜20%の酸素含有量の環境で、前記胚、配偶子または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養し、例えば、雰囲気酸素条件、例えば約20%酸素下で、または低酸素条件、例えば約5%酸素下で、前記胚または幹細胞を取扱いおよび/または操作および/または培養する、項目7〜21のいずれかに記載の方法または使用。
(項目23)
胚、配偶子または幹細胞の培養において使用するための、項目1〜6のいずれか一項に記載の培養培地。

【図面の簡単な説明】
【0019】
添付の図面を参照して、単なる例として、本発明の実施形態を説明する。
図1A図1aは、異なる投与量のアセチルカルニチンを用いた、20%酸素における集団胚発生を示す;
図1B図1bは、異なる投与量のアセチルシステインを用いた、20%酸素における集団胚発生を示す;
図1C図1cは、異なる投与量のリポ酸を用いた、20%酸素における集団胚発生を示す;
図2図2は、20%O2で培養した胚の細胞系統配分を示す。データは、平均±SEMとして表されている。淡色および濃色のバー部分は、それぞれ平均TEおよびICM細胞を表す。対照(n=35)、10μMカルニチン−10uMシステイン(n=42)、10μMカルニチン−5uMリポ酸(n=53)、10μMシステイン−5uMリポ酸(n=48)、三重(10μMカルニチン−10μMシステイン−5μMリポ酸)(n=44)。3回の生物学的反復。**P<0.01、****P<0.0001;
図3図3は、5%O2で集団培養した胚の細胞系統配分を示す。10μMカルニチン、10μMシステインおよび5μMリポ酸を含むカクテル。データは、平均±SEMとして表されている。淡色および濃色のバー部分は、それぞれ平均TEおよびICM細胞を表す。3回の生物学的反復。対照(n=154)、カクテル(n=168)。***P<0.005、P<0.05;
図4図4は、20%O2で個別培養した胚の細胞系統配分を示す。データは、平均±SEMとして表されている。淡色および濃色のバー部分は、それぞれ平均TEおよびICM細胞を表す。6回の生物学的反復。対照(n=116)、カクテル(n=145)。****P<0.0001、***P<0.005;
図5図5は、hCG注射後の時間で表される主な発生事象のタイミングを示す。tPNB=前核崩壊のタイミング、t2=2細胞分裂のタイミング、t3=3細胞のタイミング、t4=4細胞分裂のタイミング、t5=5細胞のタイミング、t6=6細胞分裂のタイミング、t8=8細胞分裂のタイミング、tCA=キャビテーションの(胞胚腔が形成を開始する)時、tB=胚盤胞が形成する時、tE=胚盤胞が完全に拡張する時、tH=胚盤胞が孵化する時。実線のバーは対照を示し、斜線灰色のバーは三重カクテル処置群を示す。**、P<0.01;***、P<0.001;****、P<0.0005。データは、平均±SEMとして表されている。
図6図6は、20%酸素で集団培養した胚の細胞系統配分に対する、三重カクテルへの曝露時間の効果を示す。カクテルは、10μMカルニチン、10μMシステインおよび5μMリポ酸を含み、最初の2日間(G1)もしくは最後の3日間(G2)で培地に、またはその両方で培地(G1およびG2)に補充した。データは、平均±SEMとして表されている。淡色および濃色のバー部分は、それぞれ平均TEおよびICM細胞を表す。3回の生物学的反復。対照(n=92)、G1(n=84)、G2(n=97)、G1およびG2(n=80)。P<0.05、**P<0.01;
図7図7は、MCB蛍光に対するBSOの効果を示す−3回の生物学的反復(n=6〜12)。**P=0.004、P=0.011;
図8図8は、10uM MCBによる胚の蛍光標識を示す。カクテルは、10μMカルニチン、10μMシステインおよび5μMリポ酸を含む。データは、平均±SEMとして表されている。6回の生物学的反復(n=60)。蛍光値は、任意単位で示されている。**P<0.01;
図9図9は、20%酸素で個別培養したIVF胚の胚盤胞細胞数に対する組み合わせ抗酸化物質の効果を示す。データは、平均±SEMとして表されている。淡色および濃色のバー部分は、それぞれ平均TEおよびICM細胞を表す。20%酸素で個別培養した胚の細胞系統配分。抗酸化物質(A3)は、配偶子取扱い/収集培地および/または培養培地中にあった。対照(Con)は、抗酸化物質を含まない配偶子および/または培養培地中にあった:4回の生物学的反復。Con/Con(n=34)、Con/A3(n=34)、A3/Con(n=38)、A3/A3(n=48)。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001;
図10図10は、20%酸素で個別培養したIVF由来胚盤胞に対する組み合わせ抗酸化物質の効果を示す。データは、平均±SEMとして表されている。抗酸化物質(A3)は、配偶子取扱い/収集培地および/または培養培地中にあった。対照(Con)は、抗酸化物質を含まない配偶子取扱い培地および/または培養培地中にあった。3回の生物学的反復。Con/Con(n=34)、Con/A3(n=34)、A3/Con(n=38)、A3/A3(n=48)。**P<0.01。
図11図11は、受精卵母細胞の総数に対するヒト胚盤胞利用率をパーセントで示す。対照群では、さらなる臨床用途のために、44個の受精卵母細胞のうちの12個を選択し、10μMアセチルカルニチン、10μMアセチルシステインおよび5μMリポ酸を補充した培地中で培養した群では、さらなる臨床治療用途のために、49個のうちの26個を選択した。質の要件を満たさない胚盤胞は選択せずに廃棄した。市販のソフトウェア(GraphPad Prism)を使用して両側t検定を適用したところ、2つの群間の差異は、0.0112のp値で有意であった。
図12図12は、胚盤胞の総数に対するヒト胚盤胞利用率をパーセントで示す。対照群では、さらなる臨床用途のために、28個の胚盤胞のうちの12個を選択し、10μMアセチルカルニチン、10μMアセチルシステインおよび5μMリポ酸を補充した培地中で培養した群では、さらなる臨床治療用途のために、36個のうちの26個を選択した。質の要件を満たさない胚盤胞は選択せずに廃棄した。市販のソフトウェア(GraphPad Prism)を使用して両側t検定を適用したところ、2つの群間の差異は、0.0173のp値で有意であった。
図13図13は、良質な胚盤胞(GQB)のスコア(これは、ガードナー胚盤胞評価方式による3ABまたはそれを超えるスコア)に達したヒト胚盤胞の胚盤胞の総数あたりの割合をパーセントで示す。対照群では、30個の胚盤胞のうちの8個をGQBと評価し、10μMアセチルカルニチン、10μMアセチルシステインおよび5μMリポ酸を補充した培地中で培養した群では、36個のうちの18個をGQBと評価した。市販のソフトウェア(GraphPad Prism)を使用して両側t検定を適用したところ、2つの群間の大きい差異は、0.0545のp値で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本発明は、約5〜約50μMの濃度のアセチル−カルニチンと約2.5〜約40μMの濃度のリポ酸またはその誘導体との特定の組み合わせが、特に約5〜約50μMの濃度のアセチル−システインと組み合わせた場合に、インビトロで培養された胚の発生、またはインビトロで培養された幹細胞の増殖および分化、または配偶子の健康および生存度、ならびに/または精子による卵母細胞の受精を有意に改善したという驚くべき知見に基づくものである。
【0021】
本発明は、
a)約5〜約50μMの濃度のアセチル−カルニチン;および
b)約2.5〜約40μMの濃度のリポ酸またはその誘導体
を含む配偶子培養培地、胚培養培地または幹細胞培養培地に関する。
【0022】
一実施形態では、本発明の配偶子培養培地、胚培養培地または幹細胞培養培地は、約5〜約50μMの濃度のアセチル−システインをさらに含む。
【0023】
一実施形態では、アセチル−カルニチンは、約5μM〜約20μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0024】
別の実施形態では、アセチル−カルニチンは、約5μM〜約15μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0025】
好ましい実施形態では、アセチル−カルニチンは、約10μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0026】
一実施形態では、リポ酸またはその誘導体は、約2.5μM〜約20μM、例えば5μM〜約20μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0027】
別の実施形態では、リポ酸またはその誘導体は、約2.5μM〜約10μM、例えば5μM〜約10μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0028】
好ましい実施形態では、リポ酸またはその誘導体は、約5μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0029】
一実施形態では、アセチル−システインは、約5〜約20μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0030】
別の実施形態では、アセチル−システインは、約5μM〜約15μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0031】
好ましい実施形態では、アセチル−システインは、約10μMの濃度で本発明の培養培地中に存在する。
【0032】
適切には、本発明の培地は、1つまたはそれを超えるさらなる化合物、例えば無機塩、エネルギー源、アミノ酸、タンパク質源、サイトカイン、キレート剤、抗生物質、ヒアルロナン、成長因子、ホルモン、ビタミンおよび/または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)をさらに含み得る。
【0033】
一実施形態では、培養培地は、無機塩を含み得る。一実施形態では、無機塩は、水溶液中で無機イオンに解離するものであり得る。適切には、無機塩は、以下の無機イオン:Na(+)、K(+)、Cl(−)、Ca(2+)、Mg(2+)、SO(4)(2−)またはPO(4)(2−)の1つまたはそれよりも多くを含むものであり得る。
【0034】
一実施形態では、培養培地は、エネルギー源を含み得る。エネルギー源は、胚の発生段階に応じて、ピルビン酸塩、乳酸塩またはグルコースであり得る。エネルギー源の要件は、ピルビン酸塩−乳酸塩選好性(8細胞期までの胚が母性遺伝制御下にある間)から、グルコースベースの代謝(8細胞期から胚盤胞への発生を支援する胚性ゲノムの活性化後)に進化する。
【0035】
適切には、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、エネルギー源として乳酸炭水化物およびピルビン酸炭水化物であり得るか、またはこれらを含み得る。
【0036】
一実施形態では、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、ヒアルロン酸であり得る。一実施形態では、培養培地は、アミノ酸を含み得る。アミノ酸は、必須アミノ酸であり得る。適切には、必須アミノ酸としては、システイン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、バリン、アルギニン、グルタミン、フェニルアラニン、トレオニンおよび/またはトリプトファンが挙げられる。代替的な実施形態では、アミノ酸は、非必須アミノ酸、例えばプロリン、セリン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グリシンおよび/またはグルタミン酸であり得る。8細胞までの接合子の発生を支援する培地は、典型的には、非必須アミノ酸、例えばプロリン、セリン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グリシンおよび/またはグルタミン酸が補充され得る。胚盤胞期までの8細胞胚の発生を支援する培地は、典型的には、必須アミノ酸、例えばシステイン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、バリン、アルギニン、グルタミン、フェニルアラニン、トレオニンおよび/またはトリプトファンが補充される。
【0037】
一実施形態では、培養培地は、タンパク質源を含み得る。タンパク質源は、(例えば、それぞれ5〜20%w/vまたはv/vの濃度の)アルブミンまたは合成血清であり得る。適切なタンパク質補充源としては、ヒト血清、ヒト臍帯血清(HCS)、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ胎仔血清(FCS)またはウシ血清アルブミン(BSA)が挙げられる。
【0038】
一実施形態では、培養培地は、成長因子を含み得る。
【0039】
一実施形態では、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、胚、配偶子または幹細胞の培養に適切な培地中に存在する任意の化合物であり得る。
【0040】
適切には、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、ヒト血清アルブミンなどのタンパク質源を含む。
【0041】
一実施形態では、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、水を含み得る。
【0042】
一実施形態では、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、緩衝液を含み得る。適切な緩衝液としては、例えば、HEPES緩衝液またはMOPS緩衝液が挙げられる。
【0043】
一実施形態では、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、水、無機塩および少なくとも1つのエネルギー源を含み得る。
【0044】
一実施形態では、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、水、無機塩、少なくとも1つのエネルギー源および1つまたはそれを超えるアミノ酸を含み得る。
【0045】
一実施形態では、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、少なくとも1つのエネルギー源(例えば、乳酸塩、ピルビン酸塩などの炭水化物)、タンパク質源(例えば、ヒト血清アルブミン)および水または緩衝液であり得るか、またはこれらを含み得る。
【0046】
一実施形態では、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、エネルギー源(例えば、乳酸塩、ピルビン酸塩などの炭水化物)、アミノ酸、ヒアルロナンおよび水または緩衝液であり得るか、またはこれらを含み得る。
【0047】
1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、配偶子、胚または幹細胞の培養に適切な培地(この培地は、バックグラウンド培地と称され得る)の形態であり得る。
【0048】
本明細書で使用される「培養培地」という用語は、培養のための培地(例えば、成長に適切な条件)に限定されず、配偶子、胚および/または幹細胞の取扱いまたは収集または操作を使用する培地を包含する。
適切には、1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、緩衝培地(例えば、重炭酸塩緩衝化培地)を形成し得る。
【0049】
1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、4細胞期までの胚(例えば、哺乳動物胚)を支援するように設計された培地(この培地は、バックグラウンド培地と称され得る)の形態であり得る。
【0050】
1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、8細胞期までの胚(例えば、哺乳動物胚)を支援するように設計された培地(この培地は、バックグラウンド培地と称され得る)の形態であり得る。
【0051】
1つまたはそれを超えるさらなる化合物は、胚盤胞期までの胚(例えば、哺乳動物胚)を支援するように設計された培地(この培地は、バックグラウンド培地と称され得る)の形態であり得る。
【0052】
(バックグラウンド)培地は、胚、配偶子または幹細胞の培養に適切な任意の培地であり得る。
【0053】
一実施形態では、(バックグラウンド)培地は、胚移植専用の培地であり得る。
【0054】
一実施形態では、(バックグラウンド)培地は、配偶子取扱い培地(配偶子収集培地を含む)、卵細胞質内精子注入法(ICSI)用の培地、受精培地、一段階胚培養培地、胚移植培地、卵母細胞成熟培地、精子調製培地および受精培地、または配偶子もしくは胚のために使用される任意の他の適切な培地からなる群の1つまたはそれよりも多くであり得る。
【0055】
一実施形態では、本発明の胚培養培地または配偶子培養培地は、配偶子取扱い培地(配偶子収集培地を含む)、卵細胞質内精子注入法(ICSI)用の培地、受精培地、一段階胚培養培地、胚移植培地、卵母細胞成熟培地、精子調製培地および受精培地、または配偶子もしくは胚のために使用される任意の他の適切な培地からなる群の1つまたはそれよりも多くであり得る。
【0056】
一実施形態では、(バックグラウンド)培地は、市販の単純培養培地、例えばヒト卵管液(HTF)、Whittingham’s T6培地およびEarle’s平衡塩溶液(EBSS)(Irvine Scientificから入手可能)であり得る。
【0057】
一実施形態では、(バックグラウンド)培地は、基本培地、例えばVitrolifeのIVF(商標)であり得る。IVF(商標)は、受精培地と考えられ得る。
【0058】
一実施形態では、IVF培地は、受精培地であると考えられる。
【0059】
あるいはまたは加えて、培地は、以下の培地G−1(商標)、G−2(商標)、HSA−solution(商標)、G−MOPS(商標)Plus、G−MOPS(商標)、EmbryoGlue(商標)、ICSI(商標)もしくはG−TL(商標)の1つもしくはそれよりも多くまたはそれらの組み合わせであり得る。これらの製品は、Vitrolife AB,Swedenから入手可能である。これらは、バックグラウンド培地と称され得る。
【0060】
一実施形態では、適切な取扱い培地(例えば、配偶子取扱い培地)は、G−MOPS(商標)であり得る。
【0061】
一実施形態では、適切な一段階培養培地は、G−TL(商標)であり得る。
【0062】
一実施形態では、胚移植培地は、EmbryoGlue(商標)であり得る。いくつかの実施形態では、胚移植培地は、着床促進移植培地と称され得る。
【0063】
一実施形態では、(バックグラウンド)培地は、卵母細胞成熟培地または精子調製培地および受精培地またはそれらの組み合わせなどの培地であり得る。
【0064】
卵母細胞成熟培地は、培養卵母細胞の改善された発生および生存度を提供するように設計されている。適切な卵母細胞成熟培地の完全な処方は、以下の表に提供されている:
【表A-1】
【表A-2】
特に指示がない限り、この表中の濃度は、mM単位で提供されている;培地は水性である。
【0065】
適切な精子調製培地および受精培地の完全な処方は、以下の表に提供されている:
【表B】
特に指示がない限り、この表中の濃度は、mM単位で提供されている;培地は水性である。
【0066】
卵細胞質内精子注入法(ICSI)用の培地、例えばICSI(商標)は、精子の取扱いを助け、受精における精子の不動化および卵母細胞への注射を容易にするように設計されている。ICSI用の適切な培地の完全な処方は、以下の表に提供されている:
【表C】
【0067】
G−1(商標)培地は、ほぼ8細胞期への卵割期胚の発生を支援するように設計されている。早期胚を支援するために、このような培地は、炭水化物、アミノ酸およびキレート剤を含有する。G−1(商標)培地の完全な処方は、以下の表に提供されている:
【表D】
特に指示がない限り、この表中の濃度は、mM単位で提供されている。
【0068】
あるいは、(バックグラウンド)培地は、3日目以降(8細胞期)の胚を支援することができる市販のIVF培養培地であり得る。これらの培養培地は、着床前に胚を胚盤胞期にするように設計(signed)されている。一例としては、Desaiら、(Human Reprod.12:328−335(1997))に記載されているα改変必須培地(αMEM)が挙げられる。第2の例としては、HECM−6培地+パントテン酸塩(McKiernan SH&Bavister BD,Human Reprod.15:157−164(2000)が挙げられる。他の例としては、Vitrolifeから入手可能なG−2(商標)が挙げられる。G−2(商標)培地は、ほぼ8細胞期(3日目)から胚盤胞期への胚の発生を支援するように設計されている。後期胚を支援するために、このような培地は、炭水化物、アミノ酸およびビタミンを含有する。
【0069】
G−2(商標)培地の完全な処方は、以下の表に提供されている:
【表E】
特に指示がない限り、上記表中の濃度は、mM単位で提供されている。
【0070】
一実施形態では、8細胞期胚は、本発明にしたがって補充された初期成長(すなわち、8細胞期まで)を支援するように最適化された胚培養培地から、後期成長(すなわち、胚盤胞期まで)を支援するように最適化された胚培養培地(これは、本発明にしたがってさらに補充され得る)に移される。
【0071】
培養培地中の各化合物の濃度は、培地が最適化される胚発生の段階に応じて変動し得る。培養培地中の無機塩の典型的な濃度は、約100mM〜約150mMまたは約110mM〜約140mMであり得る。
【0072】
培地中のエネルギー源の典型的な濃度は、約5mM〜約40mM、例えば約5mM〜約30mMまたは約5mM〜約15mMであり得る。
【0073】
培養培地中のアミノ酸の総量の典型的な濃度は、約0.1mM〜約15mMまたは約0.5mM〜約12mMまたは約0.5mM〜約6mMであり得る。
【0074】
培養培地中のビタミン、成長因子、ホルモンおよび他の各種成分は、かなり低い濃度、例えば1mMもしくはそれ未満、0.5mMもしくはそれ未満またはさらに0.1mMもしくはそれ未満で追加される傾向にある。
【0075】
好ましくは、胚、配偶子または幹細胞は、パラフィン油下で培養される。これは、培地の蒸発を防止して一定のオスモル濃度を保持し得る。加えて、前記油は、pHおよび温度の変動を最小化し得る。
【0076】
一実施形態では、本発明の培養培地は、抗生物質を含み得る。適切な抗生物質のいくつかの例としては、ペニシリンおよびストレプトマイシンが挙げられる。
【0077】
一実施形態では、本発明は、胚および配偶子を取扱いおよび/または操作および/または培養するための方法であって、本発明の培養培地中で、前記胚および配偶子を取扱いおよび/または操作および/または培養することを含む方法を提供する。
【0078】
本発明は、(例えば、配偶子取扱い培地(配偶子収集培地を含む)中における、精子調製培地中における、卵母細胞成熟培地中における、または配偶子のために使用される任意の他の適切な培地中における)配偶子の取扱いおよび(例えば、卵細胞質内精子注入法(ICSI)用の培地、受精培地、一段階胚培養培地、胚移植培地、または胚のために使用される任意の他の適切な培地中における)胚の操作の両方において、(例えば、5〜50μMの濃度の)アセチル−カルニチンと、(例えば、約2.5〜約40μMの濃度の)リポ酸またはその誘導体と、場合により(例えば、約5〜約50μMの濃度の)アセチル−システインとの組み合わせを使用することを含む。
【0079】
一実施形態では、本発明は、(例えば、配偶子収集培地中における)配偶子の取扱いおよび(例えば、卵細胞質内精子注入法(ICSI)用の培地中における、または受精培地もしくは胚移植培地中における)胚の操作(例えば、ICSIまたは受精または胚移植)の両方における、(例えば、5〜50μMの濃度の)アセチル−カルニチンと、(例えば、約2.5〜約40μMの濃度の)リポ酸またはその誘導体と、場合により(例えば、約5〜約50μMの濃度の)アセチル−システインとの組み合わせの使用に関する。
【0080】
一実施形態では、本発明は、胚培養培地中における、(例えば、5〜50μMの濃度の)アセチル−カルニチンと、(例えば、約2.5〜約40μMの濃度の)リポ酸またはその誘導体と、場合により(例えば、約5〜約50μMの濃度の)アセチル−システインとの組み合わせの使用に関する。
【0081】
いくつかの実施形態では、本発明において使用するための化合物は、配偶子の取扱い中に、および/または胚の操作中に、および/または胚の培養中に追加される。換言すれば、本発明において使用するための化合物は、IVF/ICSIプロセス中に複数の段階で追加され得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、本発明において使用するための化合物は、配偶子取扱い培地および/または胚操作培地および/または胚培養培地に追加される。本明細書で使用される「取扱い」という用語は、例えば、配偶子、胚または幹細胞の任意の保持または移動を含み得る。例えば、これは、着床のために、胚の収集または移植の間およびその後の配偶子の移植を含み得る。
【0083】
本明細書で使用される「操作」という用語は、配偶子および/または胚および/または幹細胞の任意の操作を含み得る。例えば、これは、(例えば、精子を卵子と受精させることによる)ICSIまたは受精を含み得る。
【0084】
本明細書で使用される「培養」という用語は、成長または成熟に適切な条件で維持することを意味し得る。
【0085】
好ましくは、培養培地のpHは、(培養の間に)7.2〜7.4である(に維持される)。
【0086】
驚くべきことに、本発明の培養培地は、酸化ストレスを軽減もしくは防止し、ならびに/またはフリーラジカル形成(例えば、活性酸素種(ROS)形成)を軽減もしくは防止し、ならびに/またはインビトロで培養された配偶子、胚もしくは幹細胞の抗酸化能力のレベルを増加させることが見出された。
【0087】
酸化ストレスは、活性酸素種の全身発現と、反応性中間体を容易に解毒し、または生じる損傷を修復する胚または幹細胞の能力との間の不均衡を反映する。細胞の正常なレドックス状態の異常は、タンパク質、脂質およびDNAを含む細胞のすべての成分を損傷する過酸化物およびフリーラジカルの産生を介して毒性効果を引き起こし得る。酸化的代謝による酸化ストレスは、塩基損傷およびDNAの鎖切断を引き起こす。塩基損傷は主に間接的であり、生成された活性酸素種(ROS)、例えばO2−(スーパーオキシドラジカル)、OH(ヒドロキシルラジカル)およびH2O2(過酸化水素)によって引き起こされる。さらに、いくつかの活性酸素種は、レドックスシグナル伝達において細胞メッセンジャーとして作用する。したがって、酸化ストレスは、細胞シグナル伝達の正常な機構の破壊を引き起こし得る。
【0088】
本明細書で使用される「抗酸化能力」という用語は、胚または幹細胞の酸化ストレス耐性能力を意味する。胚の抗酸化能力は、(以下の方法および材料のセクションで詳述されているように)胚の成長速度を測定することによって、および/または細胞内グルタチオン(GSH)を測定することによって間接的に測定され得る。
【0089】
一実施形態では、本発明の培養培地は、インビトロで培養された胚におけるGSHのレベルを、インビボで発生した胚のものと実質的に同じレベルに維持する。換言すれば、本発明の培養培地中における本明細書で教示されるアセチル−カルニチンと、リポ酸と、(場合により)アセチル−システインとの特定の組み合わせは、化合物のこの組み合わせを含まない培養培地中でインビトロで培養された胚と比較して、インビトロで培養された胚におけるGSHレベルを増加させる。
【0090】
理論に縛られるものではないが、GSHは、酸化的損傷からの細胞の保護において重要な役割を果たすスルフィドリルチオールペプチドである。胚発生におけるその役割は、胚発生中の細胞増殖および進行において実証されている。GSH合成はシステインのアベイラビリティに依存し、フィードバック阻害により、システインの細胞内レベルは、細胞GSHの上限濃度を決定する。したがって、GSHの増加は、より大きい抗酸化能力により、酸化ストレスから細胞を保護して、胚の質の改善を促進し得る。
【0091】
成長速度は、例えば、本発明の培養培地中で2日間培養した時点において、もしくは胚盤胞期において、例えば適切には本発明の培養培地中で5日間培養した時点において測定した場合に、栄養外胚葉細胞数、内細胞塊数もしくは総細胞数を測定することによって;拡張胚盤胞に達するまでの時間を測定することによって;および/または孵化胚盤胞に達するまでの時間を測定することによって測定され得る。
【0092】
加えてまたはあるいは、驚くべきことに、本発明の培養培地は、インビトロで培養された胚の発生を改善することが見出された。
【0093】
胚との関連で本明細書で使用される「発生を改善する」という用語は、以下の1つまたはそれよりも多くを含み得る:
a)例えば、本発明の培養培地中で5〜6日間培養した時点において測定した場合に、胚盤胞期の胚における栄養外胚葉細胞数を増加させること);
b)例えば、本発明の培養培地中で5〜6日間培養した時点において測定した場合に、胚盤胞期の胚における内細胞塊を増加させること;
c)例えば、本発明の培養培地中で5〜6日間培養した時点において測定した場合に、胚盤胞期の胚における総細胞数を増加させること;
d)拡張胚盤胞に達するまでの時間の減少;
e)孵化胚盤胞に達するまでの時間の減少;
f)胚移植後の胎児の体重の増加;
g)胚移植後の胎児の頭殿長の増加;
h)胚移植後の胎盤の重量の増加;
i)良質な胚盤胞(GQB)(すなわち、抗酸化物質を含まない同程度の培地中で培養された胚と比較した、ガードナー胚盤胞評価方式(Gardnerら、1999を参照のこと)による3ABまたはそれを超えるスコアに達した胚盤胞の胚盤胞の総数に対する割合)の増加;ならびに/または
j)胚盤胞利用率(すなわち、例えば、受精卵母細胞の総数に対するパーセントでの、または胚盤胞の総数に対するパーセントでの、移植のために新鮮状態で使用される胚盤胞、または患者へのその後の移植のために凍結保存される胚盤胞の割合)の増加。
【0094】
「内細胞塊(ICM)」という用語は、本明細書では、胚の内部の細胞の塊であって、胎児の最終的な構造を最終的に生じさせる塊と定義される。内細胞塊は、胚結節または多能性細胞集団(pluriblast)としても公知であり得る。
【0095】
「栄養外胚葉(TE)」という用語は、本明細書では、例えば栄養素を胚に供給し、胎盤の大部分に発達する胚盤胞の外層を形成する細胞として定義される。
【0096】
本明細書で使用される「拡張胚盤胞」という用語は、胞胚腔が胚よりも大きい発生段階を意味する。典型的には、これは、胚盤胞の外郭構造(透明帯)の薄化との組み合わせである。
【0097】
「孵化胚盤胞」という用語は、本明細書では、外被の透明帯から胚それ自体が解放される時点を意味する。一連の伸縮サイクルを通して、胚は、この被膜を破裂させる。これは、非胚側極で透明帯を溶解する酵素によって支援される。律動的な伸縮は、堅固な糖タンパク質コート(透明帯)からの胚の脱出および出現をもたらす。
【0098】
(例えば、発生および/または増殖および/または分化との関連で)「改善する」という用語は、対照(例えば、本発明で定義されるアセチル−カルニチンとリポ酸またはその誘導体との組み合わせまたはアセチル−カルニチンとリポ酸またはその誘導体とアセチル−システインとの組み合わせを含まない以外は同様の培養培地中における成長)と比較して改善することを意味する。
【0099】
好ましい実施形態では、胚は、哺乳動物胚、例えばヒト胚である。
【0100】
一実施形態では、胚は、ヒト胚である。
【0101】
胚発生の着床前期間は、哺乳動物種によって異なる。しかしながら、ヒトおよびマウスの胚は、最も類似の発生期間(約4〜5日間)を共有し、さらには極めて類似の着床を示す。両種の胚盤胞は類似のサイズに達し、ヒトおよびマウスの胚間では、栄養素の利用パターンが非常に類似する(例えば、Gott AL,Hardy K,Winston RM,Leese HJ.Non−invasive measurement of pyruvate and glucose uptake and lactate production by single human preimplantation embryos.Hum Reprod.1990;5(1):104−8;Leese HJ,Barton AM.Pyruvate and glucose uptake by mouse ova and preimplantation embryos.J Reprod Fertil.1984;72(1):9−13;およびGardner DK,Wale PL.Analysis of metabolism to select viable human embryos for transfer.Fertility and Sterility.2013;99(4):1062−72を参照のこと)。ヒトおよびマウスの発生間で共有される類似性は、マウスの系で実施された実験からヒトの発生を評価することを可能にするようなものである(Csaba Pribenskyら、Reproductive Biomedicine Online(2010)20,371−379を参照のこと)。その結果、マウスは、ヒト着床前胚の最も適切なモデルになると考えられる。
【0102】
本明細書で使用される「配偶子」という用語は、卵母細胞および/または精子細胞を指し得る。
【0103】
本明細書で使用される「胚」という用語は、前期胚子段階(pre−embryo phase)を含む広範な定義を有し得る。本明細書で使用される「胚」という用語は、卵母細胞の受精から緊密化、桑実胚、胚盤胞期、孵化および着床までのすべての発生段階を包含し得る。
【0104】
いくつかの場合では、「胚」という用語は、受精後8週間(ヒトでは、それはこの段階で胎児になる)までの子宮内着床後の受精卵母細胞を記載するために使用される。この定義によれば、受精卵母細胞は、着床が起こるまで前期胚子と称されることが多い。しかしながら、上記のように、本明細書で使用される「胚」という用語は、前期胚段階を含み得る。
【0105】
胚はほぼ球状であり、透明帯として公知の無細胞マトリックスによって囲まれた1つまたはそれを超える細胞(割球)から構成される。透明帯は、胚が孵化するまで様々な機能を果たし、胚評価のための優れたランドマークである。透明帯は球状かつ半透明であり、細胞残屑と明確に区別可能であるはずである。
【0106】
受精は、精子細胞が卵母細胞によって認識および受容される時点である。卵母細胞の減数分裂サイクルが第2減数分裂の中期に中断された後、精子細胞は、卵の活性化をトリガーする。これは、第二極体の生成および成形をもたらす。これは、本明細書では第二極体の排除と称される時点である(基準値iiを参照のこと)。精子および卵子の融合の数時間後、DNA合成が開始する。雄性前核および雌性前核(PN)が出現する。これは、前核(PN)が出現すると称される時点である(基準値iiiを参照のこと)。PNが卵の中心に移動し、膜が崩壊し、PNが消失する。これは、本明細書では、前核が消失した(または薄れた)時点と称される時点である(基準値iを参照のこと)。2つのゲノムのこの合体は、配偶子融合と称される。その後、細胞分裂が開始する。
【0107】
胚発生の間、割球数は、幾何級数的に増加する(1−2−4−8−16−など)。同調的な細胞分裂は、一般に、ヒト胚では8細胞期まで維持される。その後、細胞分裂は非同調的になり、最終的には、個々の細胞は独自の細胞周期を有する。不妊処置中に産生されるヒト胚は、通常、8胚盤胞期前にレシピエントに移植される。いくつかの場合では、ヒト胚はまた、移植前に胚盤胞期まで培養される。これは、好ましくは、多くの良質な胚が利用可能であるか、または着床前遺伝子診断(PGD)の結果を待つために長期間のインキュベーションが必要な場合に行われる。しかしながら、インキュベーション技術が改善するにつれて、インキュベーションが長期間になる傾向がある。
【0108】
したがって、胚という用語は、以下では、受精卵母細胞、接合子、2細胞、4細胞、8細胞、16細胞、緊密化、桑実胚、胚盤胞、拡張胚盤胞および孵化胚盤胞の各段階、ならびにそれらの間のすべての段階(例えば、3細胞または5細胞)を示すために使用される。
【0109】
胚は、精子細胞(精子)の融合または注射によって卵母細胞が受精した場合に形成される。この用語はまた、伝統的には、孵化(すなわち、透明帯の破裂)およびその後の着床の後に使用される。ヒトの場合、最初の8週間には、受精卵母細胞は、伝統的には、接合子または胚と称される。その後(すなわち、8週間後およびすべての主要器官の形成後)、それは胎児と称される。しかしながら、接合子と胚と胎児との間の区別は、一般に、十分に定義されていない。胚および接合子という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0110】
一実施形態では、胚は、個別培養され得る。
【0111】
さらに別の実施形態では、胚は、胚盤胞期、拡張胚盤胞期または孵化胚盤胞期まで、本発明の培養培地中で培養される。
【0112】
加えてまたはあるいは、驚くべきことに、本発明の培養培地は、インビトロで培養された幹細胞の増殖および分化を改善することが見出された。
【0113】
(例えば、幹細胞発生との関連で)本明細書で使用される「分化」という用語は、細胞がある細胞型から別の細胞型に変化するプロセスを意味する。この用語は、例えば細胞成長中により特殊な細胞型になるあまり特殊ではない細胞型を包含し得る。
【0114】
(例えば、幹細胞発生との関連で)本明細書で使用される「増殖」という用語は、例えば幹細胞集団のエクスパンションをもたらす幹細胞の増大を意味する。
【0115】
本明細書で使用される「幹細胞」という用語は、特殊な細胞に分化し得る未分化生物細胞であって、(有糸分裂を介して)分裂して、より多くの幹細胞を生じさせ得る未分化生物細胞を意味する。「幹細胞」という用語は、胚性幹細胞(これは、胚盤胞の内細胞塊から単離され得る)および成体幹細胞(これは、様々な組織に見られ得る)の両方を包含する。加えてまたはあるいは、本明細書で使用される「幹細胞」という用語は、誘導多能性幹細胞(iPSC)を意味する。iPSCは、成体細胞から直接生成される多能性幹細胞の一種である。
【0116】
一実施形態では、幹細胞という用語は、胚性幹細胞を意味する。
【0117】
特に、胚性幹細胞は、胚の内細胞塊に由来する。本発明の発明者らは、本発明の培養培地が内細胞塊の発生を保護および/または改善することを示した。したがって、本発明の培養培地は、内細胞塊由来の胚性幹細胞を保護する。
【0118】
一実施形態では、幹細胞は、ヒト幹細胞であり得る。
【0119】
一実施形態では、(バックグラウンド)培地は、幹細胞培養専用の培地であり得る。任意の公知の幹細胞培養培地は、バックグラウンド培地として使用され得る。
【0120】
一実施形態では、幹細胞(バックグラウンド)培地は、多能性幹細胞の培養のための培地であり得る。
【0121】
一実施形態では、幹細胞(バックグラウンド)培地は、ヒト胚性幹細胞および/またはiPS細胞の培養のための培地であり得る。
【0122】
一実施形態では、幹細胞(バックグラウンド)培地は、mTeSR(商標)1として公知の市販の培地、例えば、(StemCell(商標)Technologies,UKから入手可能な)ヒト胚性幹細胞およびiPS細胞のための規定のフィーダフリー維持培地であり得る。
【0123】
胚または幹細胞は、5〜20%v/vの酸素含有量の環境で培養され得る。
【0124】
一実施形態では、胚、配偶子または幹細胞は、雰囲気酸素条件下で培養される。本明細書で使用される雰囲気酸素条件は、約18〜22%v/vまたは約19〜21%v/vであり得る。一実施形態では、雰囲気酸素条件は、約20%v/vである。
【0125】
別の実施形態では、胚、配偶子または幹細胞は、低酸素条件下で培養される。本明細書で使用される低酸素条件は、約3%(v/v)〜約7%(v/v)または約4%(v/v)〜約6%(v/v)の酸素濃度であり得る。一実施形態では、低酸素条件は、約5%(v/v)である。
【0126】
本発明は、リポ酸またはその誘導体の使用に関する。リポ酸という用語は、α−リポ酸を意味し得る。この化合物は、任意のラセミ体、例えば(±)−1,2−ジチオラン−3−ペンタン酸、(R)−5−(1,2−ジチオラン−3−イル)ペンタン酸または(S)−1,2−ジチオラン−3−ペンタン酸であり得る。リポ酸またはその誘導体は、エナンチオマー形態の混合物として、または単一のエナンチオマーとして追加され得る。後者の場合、R−エナンチオマーは、より生物学的に活性であることが見出されている。本発明において使用するためのリポ酸の1つの誘導体は、リポエートである。リポエートは、リポ酸の塩またはエステル誘導体である。リポ酸のさらなる誘導体としては、メチル化リポ酸が挙げられる。リポ酸との関連で本明細書で使用される「誘導体」という用語は、リポ酸と本質的に同等の生理学的特性を有する生物学的に活性な両親媒性ジスルフィド/チオール分子を意味する。
【0127】
本明細書で使用される「アセチル−システイン」という用語は、N−アセチル−L−システイン(NAC)(例えば、非改変NAC)またはその誘導体、例えばN−アセチルシステイン−アミド(NACA)であり得る。
【0128】
好ましい実施形態では、本明細書で使用される「アセチル−システイン」という用語は、N−アセチル−L−システイン(NAC)(例えば、非改変NAC)を意味する。
【0129】
アセチル−カルニチンという用語は、アセチル−L−カルニチンと称され得る。
【0130】
一実施形態では、胚または幹細胞は、本発明の培地中、約35℃〜約39℃の温度で培養され得る。
【0131】
好ましい実施形態では、胚または幹細胞は、本発明の培地中、約36.5℃〜約37.5℃の温度で培養され得る。
【0132】
最も好ましい実施形態では、胚または幹細胞は、本発明の培地中、約37℃の温度で培養され得る。
【0133】
一実施形態では、本発明の培養培地は、補酵素Qまたはユビキノンを含まない。
【0134】
一実施形態では、本発明の培養培地は、最終組成において0.0001重量%〜0.005重量%の範囲の補酵素Qまたはユビキノンを含まない。
【0135】
一実施形態では、本発明の培養培地は、ポリソルベート界面活性剤を含まない。ポリソルベート界面活性剤は、例えば、Tween(商標)またはSpan(商標)であり得る。
【0136】
本明細書で言及される場合、配偶子への言及は、単数の配偶子および複数の配偶子の両方を含む。換言すれば、配偶子は、「1つの配偶子または複数の配偶子」を意味する。
【0137】
本明細書で言及される場合、胚への言及は、単数の胚および複数の胚の両方を含む。換言すれば、胚は、「1つの胚または複数の胚」を意味する。
【0138】
本明細書で言及される場合、幹細胞への言及は、単数の幹細胞および複数の幹細胞の両方を含む。換言すれば、幹細胞は、「1つの幹細胞または複数の幹細胞」を意味する。
【0139】
特に定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。Singletonら、DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY,20 ED.,John Wiley and Sons,New York(1994)およびHale&Marham,THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY,Harper Perennial,NY(1991)は、本開示において使用される用語の多くに関する一般辞書を当業者に提供する。
【0140】
本開示は、本明細書に開示される例示的な方法および材料によって限定されず、本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料は、本開示の実施形態の実施または試験において使用され得る。
【0141】
一定範囲の値が提供される場合、文脈上特に明確な指定がない限り、その範囲の上限と下限との間に介在する各値もまた、下限の単位の10分の1まで具体的に開示されていると理解される。任意の指定値または指定範囲内に介在する値と、任意の他の指定値またはその指定範囲内に介在する値との間のより小さい各範囲は、本開示内に包含される。これらのより小さい範囲の上限および下限は独立して、前記範囲内に包含または除外され得、より小さい範囲にいずれかの限度、両方の限度が包含されるかまたはいずれの限度も包含されない各範囲もまた、本開示(すなわち、指定範囲内の任意の具体的に除外された限度に関する主題)内に包含される。指定範囲が限度の一方または両方を包含する場合、その包含される限度のいずれかまたは両方を除外した範囲もまた本開示に包含される。
【0142】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「a」、「an」および「the」という単数形は、文脈上特に明確な指定がない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「胚」への言及は、複数のこのような候補胚を含む、など。
【0143】
本明細書で議論される刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示についてのみ提供される。このような刊行物が、本明細書に添付の特許請求の範囲の先行技術を構成することを認めると解釈されるものは、本明細書には存在しない。
【0144】
出願または本出願で引用されるすべての特許文献および非特許文献もまた、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0145】
以下の図面および実施例を参照して、単なる例として、本発明を説明する。
【実施例】
【0146】
方法および材料
胚の収集
5IUの妊馬血清ゴナドトロピンを3〜4週齢のF1未経産ハイブリッド雌性マウス(C57BL/6×CBA)に腹腔内注射した。48時間後、5IUのヒト絨毛性ゴナドトロピンを投与し、雌性マウスを12週齢超のF1雄性マウスと交配させた。翌朝、膣粘液栓の存在によって、交配の成功を確認した。hCG注射の22時間後に、5mg/mlヒト血清アルブミンを補充した予熱取扱い培地(G−MOPS)中で、前核卵母細胞を収集した。300IU/mlヒアルロニダーゼを含有するGMOPSを用いて、卵母細胞から卵丘細胞を剥離した。培養のために配分前に、すべての胚をG−MOPS培地で2回洗浄し、G−1(商標)培地で1回洗浄した。飼料および水を不断給餌して、光日12時間の光周期で動物を飼育した。すべてのマウス実験は、施設内動物倫理委員会によって承認された。
【0147】
胚の培養
加湿マルチガスインキュベーター(Sanyo MCOK−5M[RC],Japan)内において、6%CO空気(大気酸素約20%)または6%CO5%酸素、パラフィン油下、20ulの培地滴中で、胚を1群10個で37℃で培養した。G−1(商標)培地(HSA−solution(商標)含有G−1(商標)、Vitrolife)中で胚を48時間培養し、次いで、G−2(商標)培地(HSA−solution(商標)含有G−2(商標)、Vitrolife)中でさらに48時間培養した。4日目の子宮移植のために選択した胚盤胞を、移植前にG2培地中で24時間培養した。35mmペトリ皿(Falcon,BD Biosciences)において、すべての培養を実施した。
【0148】
胚の移植
偽妊娠を樹立するために、8〜12週齢のF1雌性マウスを精管切除雄と交配させた。翌朝、膣栓の存在によって、交配の成功を確認した。4日目の胚盤胞(受精後96時間)を4日目の偽妊娠雌性マウスの子宮に外科移植した(レシピエント雌の生殖管に同調)。レシピエント雌性マウスをイソフルランガスで麻酔した。背部切開を介してガラスピペットによって、5個の胚を各子宮角の内腔に移植し、各レシピエント雌は、対照群および処置群から胚を受けた。いかなる優先的着床バイアスも回避するために、代替群をレシピエント1匹当たり左右両方の角に移植した。胚移植の後、滅菌外科用クリップで皮膚創傷を密封した。10日後、妊娠雌を屠殺し、胎児発生または再吸収部位を記録した。測定を行って、Wahlsten and Wainwright(1977)(J.of Embryology and Experimental Morphology 42:79−92)(これは、参照により本明細書に組み込まれる)によって考案されたように、頭殿長、胎児の体重および胎盤の重量、ならびに胎児の耳、眼および四肢の発達の形態学的評価を決定した。
【0149】
胚細胞数の決定
当技術分野で一般に公知の技術によって胚の鑑別染色を実施して、5日目(例えば、胚盤胞)における内細胞塊(ICM)および栄養外胚葉(TE)への細胞の配分を決定した。簡潔に言えば、プロナーゼを使用して透明帯を除去した後、補体反応(これは、ヨウ化プロピジウムでTE核を標識し、ICMはインタクトな未標識状態のままである)で胚を処置した。ビスベンズイミド処置の後、すべての核を染色した。胚をグリセロールにホールマウンティングし、デジタルカメラ(Nikon digital sight DS−Fi1)を備える倒立蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse TS100)を使用してイメージングし、イメージングソフトウェアImageJを使用して核をカウントした。
【0150】
MCBおよびBSO処置のための胚培養
加湿マルチガスインキュベーター(Sanyo MCOK−5M[RC],Japan)内において、6%CO、20%O74%N、パラフィン油(Ovoil,Vitrolife)下、20ulの培地滴中で、胚を1群10個で37℃で培養した。胚の半分を対照群に割り当て、残りの半分を処置群に割り当てた。G−1(商標)培地(HSA−solution(商標)含有G−1(商標)、Vitrolife)中で、対照群の胚を4時間培養した。同様に、(実施例2で決定した)最適な三重抗酸化物質用量を補充したG−1(商標)培地中で、処置群の胚を培養した。
【0151】
BSO投与量の最適化
収集の直後に、0、50、100、200、400、800、1600μMの用量のBSOでスパイクしたG−1(商標)培地中、6%CO、20%O74%Nで、前核対照胚を37℃で4時間インキュベートした。HSA−solution(商標)含有G−1(商標)培地で胚を十分にリンスし、ガラスボトムディッシュ(Fluorodish,Coherent Scientific,Australia)上に作った2μl滴のHSA−solution(商標)含有GMOPS(G−MOPS(商標)Plus,Vitrolife AB,Sweden)中に個別に置き、蛍光イメージングのためにパラフィン油(Ovoil,Vitrolife)でオーバーレイした。蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse TS100)下で360±40nm/460±40nmの励起/発光波長の蛍光を記録することによって、最適投与量を決定した。記録した蛍光からブランク(BSO曝露なしの胚)および培養培地の基礎レベルの値を差し引くことによって、結果を計算した。使用したすべての培地および油を、6%CO、20%O74%Nで予め一晩平衡化した。
【0152】
MCB投与量の最適化
前述のようにBSOの最適化と同様に、0、1.25、2.5、5、10、20、40、80、160、320、640μMの用量のMCBを補充したG−1(商標)培地中で15分間インキュベートした胚を用いて、MCB蛍光プローブの最適化を行った。
【0153】
グルタチオン(GSH)に対するMCB特異性の検証
200μM BSOおよび10μM MCBの最適用量を使用して、GSHに対するMCBの特異性を検証した。前述のようにプローブ投与量の最適化と同じ方法で、検証を行った。収集の直後に、200μM BSOを補充したG−1(商標)培地中で、前核胚を4時間インキュベートした。HSA−solution(商標)含有G−1(商標)培地で十分にリンスした後、10μM MCB中で胚をさらに15分間インキュベートした。HSA−solution(商標)含有G−1(商標)で最後に十分にリンスした後、パラフィン油下、2μl滴のHSA−solution(商標)含有G−MOPS(商標)中に胚を個別に置き、蛍光画像を撮影した。
【0154】
グルタチオンレベルの決定
卵母細胞の収集およびインキュベーションの4時間後、同じ培養条件下で、対照群および処置群の両方の胚を10μM MCBで15分間処置した。胚をリンスし、2ulのG−1(商標)培地滴に個別に置いた後、前述のように蛍光をキャプチャした。MCBの時間経過を評価するために、画像を10分ごとに撮影した。
【0155】
統計分析
対照と比較したすべての処置の細胞数データを一元配置分散分析(ANOVA)に供し、続いて、ボンフェローニ多重比較試験に供した。3×2分割表を使用して、比率データを比較した。単回投与の場合、スチューデントt検定を使用して、データ平均を対照と比較した。分析前に、バートレット検定を使用して、正常性についてすべての群を試験した。差異は、0.05のP値で生物学的に有意であるとみなした。(GraphPad Softwareから入手可能な)Windows(登録商標)用GraphPad Prismバージョン5.04を使用して、すべての分析を実施した。
【0156】
実施例1:単一の化合物を用いた20%Oにおける集団胚発生
HSA5mg/ml(HSA,Vitrolife)を補充したG−(商標)1およびG−2(商標)培地中で、対照群で培養した胚を成長させた。同様に、1、10および100μMの用量のアセチルカルニチン、アセチルシステインまたはα−リポ酸Sigma Aldrich,USA)を補充し、対照群と同様にHSAを補充したG−1(商標)およびG−2(商標)培地中で、処置群の胚を培養した。胚を培養し、得られた胚盤胞細胞系統の数を分析することによって、カルニチン(図1aおよび表1aは、2回の独立した実験を表す)、システイン(図1bおよび表1bは、2回の独立した実験を表す)およびリポ酸(図1cおよび表1c)の最適用量を決定した。「総平均」は、5日目の胚(内細胞塊および栄養外胚葉を含む)の平均総細胞数を意味する。有意に多い細胞数をもたらした用量を最適用量とみなした。アセチル−カルニチンの最適用量は10μMであり、栄養外胚葉細胞を有意に増加させて、胚盤胞細胞数の増加をもたらすことが見出された。同様に、アセチル−システインの最適用量は10μMであり、胚盤胞の内部細胞数を有意に増加させた。5μMはリポ酸の最適用量であることが見出され、有意に多い栄養外胚葉および内部細胞数を示して、胚盤胞細胞数の増加をもたらした。対照と比較して、いかなる処置も胚盤胞形成に悪影響はなかった(データは示さず)。
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【0157】
加えて、これらのデータは、単一の化合物の濃度を上昇させるだけでは、本発明の組み合わせに関連する利益が得られないことを示している。
【0158】
実施例2:胚盤胞細胞数に対する組み合わせ抗酸化物質の効果。
HSA−solution(商標)5mg/mlを補充したG−1(商標)およびG−2(商標)培地中で、対照群で培養した胚を成長させた。同様に、10μMアセチルカルニチン−10μMアセチルシステイン、10μMアセチルカルニチン−5μMリポ酸、10μMアセチルシステイン−5μMリポ酸、10μMアセチルカルニチン−10μMアセチルシステイン5μMリポ酸の三重カクテルを補充し、HSAを補充したG−1(商標)およびG−2(商標)培地中で、処置群の胚を培養した。三重抗酸化物質カクテルで処置した胚では、5日間インキュベートした後の胚盤胞細胞数は、二重抗酸化物質処置よりも有意に多かった。10uMカルニチン−5uMリポ酸群においても、総細胞数は、対照と比較して有意に多かったが、三重カクテルでは、TE細胞も有意に増加しており、これがより多くの総細胞数に寄与していた(図2)。
【0159】
実施例3:組み合わせ化合物を用いた5%Oにおける集団胚発生
加湿マルチガスインキュベーター(Sanyo MCOK−5M[RC],Japan)内において、6%CO、5%O89%N、パラフィン油(Ovoil,Vitrolife)下、20μlの培地滴中で、胚を1群10個で37℃で培養した。胚の半分を対照群に割り当て、残りの半分を処置群に割り当てた。先に決定したように、最適な抗酸化物質用量を補充した培地中で、処置群の胚を培養した。5%Oで培養した場合、三重カクテルで個別培養した胚では、ICMおよび栄養外胚葉細胞が有意に増加しており、胚盤胞の総細胞数が増加した(図3)。
【0160】
実施例4:組み合わせ化合物を用いた20%O2における個別胚培養
加湿マルチガスインキュベーター(Sanyo MCOK−5M[RC],Japan)内において、6%CO2空気(大気酸素約20%)、パラフィン油下、20μlの培地滴中で、胚を37℃で個別培養した。胚の半分を対照群に割り当て、残りの半分を処置群に割り当てた。三重カクテルで個別培養した胚では、ICMおよび栄養外胚葉細胞が有意に増加しており、胚盤胞の総細胞数が増加した(図4)。これらの結果は、胚発生の改善が個別培養中にも観察されることを示している。個別培養した胚では、総細胞数が少なかったが、集団培養とは対照的に、個別培養した胚では、抗酸化物質を組み合わせる効果が大きく、ICM、TEおよび総細胞数が増加した(図4図2)。
【0161】
実施例5:三重カクテルで培養した個々の胚の分裂および発生時間。
明視野光学を備えるデュアルガスサーモスタットインキュベーター(MCOK−5M[RC],Sanyo,Osaka,Japan)およびEmbryoScope(商標)(Unisense FertiliTech)タイムラプスイメージングシステムを使用したPrimoVison(Vitrolife)を使用して、胚発生動態を取得した。対照群および処置群において、最適な抗酸化物質用量で胚を個別培養し、培養期間を通して15分間隔でタイムラプス画像を作成した。hCG投与後の時間として、形態動態事象のタイミングを記録した。10μMカルニチン、10μMシステインおよび5μMリポ酸10μMを含む抗酸化物質カクテルを補充した培地中、または抗酸化物質を含まない対照培地中、20%O2で個別培養した胚の細胞分裂および発生時間(図5)。発生動態の分析により、三重カクテル群で培養した胚では、拡張(99.8±0.5時間対102.8±0.7時間;P<0.05)および孵化胚盤胞(102.6±0.8時間対104.9±1.1時間;P<0.01)までの時間が、対照群で培養した胚よりも有意に短縮されたことが明らかになったが(図5)、これは、胚盤胞が発達するにつれて発生の後期に、抗酸化物質への曝露の利益が見られ得ることを示している。
【0162】
実施例6:化合物への曝露時間の効果
抗酸化物質への曝露時間の効果
最大5日間の培養期間全体を通して、カクテルを補充した培地(G1およびG2)中で成長させた胚では、対照と比較して、胚盤胞の内細胞塊数が有意に増加し、総細胞数が有意に増加した。補充培地では、G−1(商標)培地中で成長させた胚においてのみ、胚盤胞の総細胞数も有意に増加したが(図6)、これは、緊密化前の利益を示している。
【0163】
実施例7:BSO特異性に起因する相関GSH喪失
最適なプローブ用量は、200μMブチオニンスルホキシミン(BSO)および10μM/mlモノクロロビマン(MCB)であることが見出された。BSOは、グルタチオン合成酵素の阻害剤である。MCBは、還元型グルタチオン(GSH)に結合し、細胞内のGSHを測定するために使用されるGSHの蛍光マーカーである。
【0164】
200μM BSOで前処置し、続いて10μM/mlまたは40μmol/ml MCBで処置した胚は、MCBのみで処置した群と比較して有意に減少した蛍光を示した(図7)。これらの結果は、グルタチオン合成酵素に対するBSOの高い特異性結合がGSHの内因性濃度を減少させて、より低い蛍光レベルをもたらすことを示している。この図は、200μM BSOと10μMまたは40μM MCBのいずれかとの組み合わせで処置した胚では、MCBのみで処置した胚と比較して、蛍光が有意に減少していることを示している。10μM MCBは、40μM(P=0.011)と比較して蛍光を大きく減少させたので(P=0.004)、その後の実験では、この濃度(40μM)を使用した。興味深いことに、80μM MCBでは、BSO処置群と非BSO処置群との間で蛍光に有意差はなかったが、これは、より高いMCB濃度では、MCB蛍光レベルが高いので、BSO封鎖による蛍光の減少を検出することができなかったことを示している。
【0165】
実施例8:胚GSHレベルに対する抗酸化物質の効果
材料および方法のセクションにしたがって胚を培養し(「MCBおよびBSO処置のための胚培養」を参照のこと)、上記材料および方法のセクションの「グルタチオンレベルの決定」の間でグルタチオン(GSH)レベルを決定した。化合物(例えば、抗酸化物質)の非存在下で培養した対照群の胚では、インビボでフラッシュした胚と比較して、GSHのレベルが有意に低かった(P<0.01)(図8)。しかしながら、胚を三重抗酸化カクテルと共に培養した場合、GSHのレベルは、インビボで発生した胚のものと同様であり、これは、抗酸化物質が、インビトロで培養した胚内のGSHのレベルを維持したことを示している。
【0166】
実施例9:胎児発生および妊娠に対する化合物の効果(20%O)、
胚盤胞を偽妊娠レシピエントに移植した後、抗酸化物質の存在下で培養した胚では、対照と比較して、有意に頭殿長が長く(11.6±0.1mm対11.3±0.1mm;P<0.01)、胎児が重く(209.8±11.8mg対183.9±5.9mg;P<0.05)、胎盤が重かった(103.5±3.1mg対93.6±2.7mg;P<0.01)(表2)。対照と三重抗酸化物質培養胚との間で着床率に有意差はなかった。同様に、四肢、眼および耳の形態学的評価ならびに性決定パラメータは、2つの群間で有意差を示さなかった。
【表2】
データは、%平均±SEMとして表されている。n=移植した胚盤胞95個/群
F、雌;M、雄;n/a、未決定;Ex、外脳
行内の文字は、群間の有意差を表す。
P<0.05、P<0.01。
【0167】
実施例10:インビボでフラッシュした4日目の胚と比較した、5%酸素で培養した胚の胎児発生および妊娠に対する化合物の効果
胚盤胞を偽妊娠レシピエントに移植した後、インビボでフラッシュした胚では、対照群および三重抗酸化物質群の胚と比較して、胎児が有意に重かった(P<0.0001)(表3)。加えて、インビボでフラッシュした群の胎児では、対照群と比較して、頭殿長が有意に長かったが(P<0.01)、しかしながら、三重群と比較して差異はなかった。さらに、3つの群間で着床率、四肢、眼および耳の形態学的評価ならびに性別パラメータに有意差はなかった。
【表3】
データは、%平均±SEMとして表されている。移植した胚盤胞/群:対照(n=60)、三重(n=55)、
F、雌;M、雄;Ex、外脳
インビボと有意に異なる;***P<0.0001、
対照は、インビボと有意に異なる;**P<0.01、
【0168】
実施例11:IVFのための抗酸化物質の組み合わせの効果は、胚発生を有意に改善する
酸化ストレスは、ヒトARTのすべての段階で生じ、配偶子は、酸化的損傷に特に感受性である。本発明者らは、培養培地中における抗酸化物質リポエートとカルニチンと(場合によりシステインと)の組み合わせが、胚発生に非常に有益であったことを示した。
【0169】
本実験研究では、本発明者らは、IVF中の抗酸化物質の存在も有益であったことを示す。したがって、本発明者らは、卵母細胞および精子の収集ならびにIVF中のこの抗酸化物質群の効果を調査した。
【0170】
材料および方法:10μMアセチル−L−カルニチン/10μM N−アセチル−L−システイン/5μM α−リポ酸の存在下または非存在下、20%酸素で、F1マウスからの配偶子収集およびIVFを行った。4つの群を作って、抗酸化物質を含むまたは含まないG−1(商標)およびG−2(商標)培地中で、得られた胚を個別培養した。タイムラプス顕微鏡検査とそれに続く鑑別核染色とによって胚発生を分析して、胚盤胞への細胞配分を決定した。
【0171】
対照の総細胞数および内細胞塊(ICM)数は、それぞれ32.9±2.1および7.7±2.1であった。抗酸化物質をIVF用の培地にのみ追加すると、総数が有意に増加した(48.7±2.8;P<0.01)。抗酸化物質が胚培養培地中にのみ存在すると、総細胞数が有意に増加した(50.4±3.2;P<0.001)。しかしながら、抗酸化物質がIVF培地および胚培養培地の両方に存在すると、総胚盤胞およびICM細胞数の両方が有意に増加した(59.8±3.4、15.3±1.1;P<0.01)。IVF由来胚に対するその後のタイムラプス分析により、IVF中および培養中における抗酸化物質処置は、5細胞分裂までの発生時間の短縮に関連しており(51.8±0.6時間対54.1±0.7時間)、これが拡張胚盤胞期まで継続したことが明らかになった。
【0172】
結論として、IVFおよび胚培養の間の抗酸化物質の存在は、胚発生速度ならびにその後の細胞数および配分に対して有意な有益効果を与える。これらの知見は、IVF培地および胚培養への抗酸化物質の補充が、おそらくは酸化ストレスの減少を介して、ARTにおけるヒト胚の生存度を維持するのをさらに助けることを示している。
【0173】
別の研究では、配偶子取扱い培地(すなわちG−MOPS(商標))中における抗酸化物質の存在下または非存在下で前核胚を収集し、抗酸化物質を含まない対照培地中で培養した。IVFに使用した受精培地はG−IVF(商標)であり、1細胞から胚盤胞までの胚の培養に使用した胚培養培地は、G−1(商標)および次いでG−2(商標)培地であった(G−1(商標)は1日目に48時間であり、G−2(商標)は3日目に48時間であった)。鑑別細胞染色によって、胚発生を分析した。
【0174】
結果:抗酸化物質をIVF用の配偶子取扱い培地にのみ追加すると、対照と比較して有意に増加した胚盤胞細胞数を有する胚が得られた(48.9±3.3対33.6±2.1;P<0.001)(図9を参照のこと)。同様に、抗酸化物質が胚培養培地中にのみ存在すると、対照と比較して、胚盤胞細胞数が有意に増加した(59.3±3.1対33.6±2.1;P<0.001))(図9を参照のこと)。また、配偶子収集中および胚培養中の両方において抗酸化物質が存在すると、対照と比較して、胚盤胞細胞数がさらに有意に増加した(61.0±3.9対33.6±2.1;P<0.001)(図9を参照のこと)。IVF由来胚に対するその後のタイムラプス分析により、収集中および培養中の両方における抗酸化物質処置は、5細胞分裂までの発生時間の短縮に関連しており(51.8±0.6時間対54.1±0.7時間)、これが胚盤胞期まで継続したことが明らかになった(図10を参照のこと)。独立した研究では、胚収集中に抗酸化物質で前核卵母細胞を20分間処置すると、対照と比較して、胚盤胞内細胞塊数が有意に増加した(19.3±1.2対16.2±1.1;P<0.05)。
【0175】
結論:配偶子調製およびIVF中に、さらには培養期間を通して、抗酸化物質を含めると、胚細胞数および発生速度に対して有益な結果となる。これらの知見は、卵母細胞および精子調製/取扱い培地およびIVF培地ならびに胚培養への抗酸化物質の補充が、酸化ストレスを減少させることによって、ARTにおけるヒト胚の発生および生存度をさらに助けることを示している。
【0176】
実施例12:抗酸化物質の組み合わせの効果は、インビトロにおけるヒト胚発生を有意に改善する
本実験研究では、本発明者らは、抗酸化物質の存在が、インビトロにおけるヒト胚発生に有益であったことを示す。本発明者らは、インビトロにおける胚発生中に、抗酸化物質群(すなわち、10μMアセチルカルニチン、10μMアセチルシステインおよび5μMリポ酸)の組み合わせの効果を調査した。
【0177】
材料および方法
実験群では、抗酸化物質(10μMアセチル−L−カルニチン/10μM N−アセチル−L−システイン/5μM α−リポ酸)をVitrolife培地G−IVF(これは、ヒト卵母細胞の採取および受精に使用した)ならびに(Vitrolifeから入手可能な)タンパク質補充G1およびG2培地(これらは、ヒト胚培養に使用し、3日目に培地をG−1からG−2に交換した)に追加した。
【0178】
5%酸素で胚を培養した。
【0179】
タイムラプス顕微鏡検査によって胚発生を評価し、5日目に、規定の胚盤胞採点方式によって胚の質を測定した(Gardnerら、1999 In vitro culture of human blastocyst In Jansen R and Mortimer D(eds)Towards reproductive certainty:fertility and genetics beyond 1999.Parthenon Publishing Carnforth,UK,pp.378−388)を参照のこと)。最終結果のパラメータは、胚盤胞期における利用率および胚の質であった。
【0180】
結果:抗酸化物質を胚培養培地に追加すると、抗酸化物質を含まない同程度の培地中で培養した胚と比較して多くの良質な胚盤胞(すなわち、ガードナー評価方式(Gardnerら、1999を参照のこと)による3ABまたはそれを超える質スコアに達した胚盤胞の割合)が得られた(図13を参照のこと)。図13は、ガードナー胚盤胞評価方式による良質な胚盤胞(GQB)のスコアに達した胚盤胞の胚盤胞の総数に対する割合をパーセントで示す。対照群では、30個の胚盤胞のうちの8個をGQBと評価し、10μMアセチルカルニチン、10μMアセチルシステインおよび5μMリポ酸を補充した培地中で培養した群では、36個のうちの18個をGQBと評価した。市販のソフトウェア(GraphPad Prism)を使用して両側t検定を適用したところ、2つの群間の大きい差異は、0.0545のp値で示されている。
【0181】
加えて、抗酸化物質は、胚盤胞利用率(すなわち、移植のために新鮮状態で使用される胚盤胞、または患者へのその後の移植のために凍結保存される胚盤胞の割合)を有意に増加させた(図11および図12を参照のこと)。図11は、受精卵母細胞の総数に対する胚盤胞利用率をパーセントで示す。対照群では、さらなる臨床用途のために、44個の受精卵母細胞のうちの12個を選択し、10μMアセチルカルニチン、10μMアセチルシステインおよび5μMリポ酸を補充した培地中で培養した群では、さらなる臨床治療用途のために、49個のうちの26個を選択した。質の要件を満たさない胚盤胞は選択せずに廃棄した。市販のソフトウェア(GraphPad Prism)を使用して両側t検定を適用したところ、2つの群間の差異は、0.0112のp値で有意であった。
【0182】
図12は、胚盤胞の総数に対する胚盤胞利用率をパーセントで示す。対照群では、さらなる臨床用途のために、28個の胚盤胞のうちの12個を選択し、10μMアセチルカルニチン、10μMアセチルシステインおよび5μMリポ酸を補充した培地中で培養した群では、さらなる臨床治療用途のために、36個のうちの26個を選択した。質の要件を満たさない胚盤胞は選択せずに廃棄した。市販のソフトウェア(GraphPad Prism)を使用して両側t検定を適用したところ、2つの群間の差異は、0.0173のp値で有意であった。
【0183】
結論:インビトロにおける卵母細胞回収、受精および胚培養中に抗酸化物質を含めると、胚盤胞の質に対して有益な結果となる。特に、抗酸化物質を使用すると、治療に使用され得るより良質なより多くの胚盤胞が得られた。
【0184】
上記本明細書で言及されているすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。記載されている本発明の方法およびシステムの様々な改変および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱せずに、当業者には明らかであろう。特定の好ましい実施形態に関連して本発明を説明したが、特許請求の範囲に記載されている本発明は、このような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことを理解すべきである。実際、本発明を行うための記載されている様式の様々な改変であって、生化学およびバイオテクノロジーまたは関連分野の当業者に明らかな改変は、以下の特許請求の範囲内であることを意図する。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13