【実施例】
【0038】
材料および方法:
下記に示す実験例は、以下の材料および方法を使用して得られた。
【0039】
精子運動パラメータの観察:
試験する精子を各々等分し、一方はFEEcでインキュベートし、他方は、同じであるがランダムな順のアミノ酸を含有する「スクランブル」ペプチドでインキュベートした。本発明者らは、37℃で3時間、100μMのFEEcペプチドまたはスクランブルペプチドの存在下でヒトから得た精子をインキュベートし、次に、自動分析(Computed Assisted Sperm Analysis、CASA)により精子運動パラメータを観察した。
【0040】
試験した精子パラメータは、平滑化したVAP、VSL、VCLおよびALHである。それらは各々、平均速度、直線速度、曲線速度および頭部振幅に該当する。この試験では、超活性化精子のパーセンテージが有意な増加を示した(Mortimerらの基準に従う)。これにより、ペプチドの存在下で観察される受精率の増加の説明が可能となる。
【0041】
ミトコンドリア膜電位の測定:
本発明者らは、37℃で3時間、FEEcペプチド、または同じアミノ酸をランダムな順で含み、ゆえに対照群を構成する「スクランブル」ペプチドの存在下で、ヒトから得た精子をインキュベートした。洗浄後、精子を親油性蛍光色素、DIOC6を使用して標識した。
【0042】
次にミトコンドリア膜電位(ミトコンドリア内膜のレベルにおけるプロトン勾配)をフローサイトメトリーにより測定した。FEEcへの曝露後、精子が増加していることがわかる。
【0043】
受精インデックスの測定
透明帯を除去したヒト卵母細胞を、100μMのFEEcの存在下または非存在下において、ヒト精子とインキュベートした。UV励起の後、融合した精子をカウントした。核がヘキスト33342で標識されているとき、精子が融合したものとみなした。更に、FEEcペプチドの存在下で卵母細胞を貫通した精子頭部は、数が増加するのみならず、それらの精子頭部の脱凝縮を証明するぼやけた外見を有する。この脱凝縮は、精子の貫通後の卵母細胞活性化の第1段階の1つである。したがって、このことから、FEEcは精子の受精能力を改善するのみならず、受精した卵母細胞を活性化すると結論付けることができる。
【0044】
体外成熟(IVM)を目的とするヒト卵母細胞の回収
研究に供する未成熟ヒト卵母細胞は、コーチン病院(パリ、フランス)の生殖補助医療(Medically Assisted Procreation、MAP)センターの体外受精(IVF)研究室から回収した。卵母細胞穿刺の2時間後、マイクロインジェクションしようとする卵母細胞をヒアルロニダーゼ(Origio社、Limonest、フランス)により、それらの放射冠(corona)を除去した。倒立顕微鏡(Hoffman社)での観察後、胚胞(GV)期の未成熟卵母細胞を以降の実験のために維持した。
【0045】
未成熟ヒト卵母細胞の体外成熟(IVM)
GV期の未成熟ヒト卵母細胞を、対照培養培地(グローバル、JCD社、La Mulatiere、フランス)(n=203)、または100μMのFEEcを添加した同じ培地(n=193)にランダム化した。未成熟ヒト卵母細胞を、37歳未満の女性に属するもの、および37歳以上の女性に属するものの2つの群に分類した。小胞穿刺の日、GV期の卵母細胞の2つの群を、油膜で覆った20μlの液滴中でインキュベートし、5%のCO
2下、37℃に維持して、倒立顕微鏡(Hoffman社)を用いてD1(インキュベート24時間)およびD2(インキュベート48時間)において観察した。卵母細胞を、中期II(囲卵腔に第1極体)、胚胞期(GV)、中期I(極体放出を伴わない胚胞の破裂)または閉鎖卵細胞に分類した。
【0046】
体外成熟(IVM)を目的とするマウス卵母細胞の回収
チャールズリバー・ラボラトリー社(L’Arbresle、フランス)により供給されたB6CBAF1メス(5〜8週齢の間)に対し、排卵誘発を生じさせずに、PMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)(Sigma−Aldrich社、Saint−Quentin Fallavier、フランス)を10IUでの注射して刺激した。未成熟卵母細胞を注射の48時間後に卵巣から回収し、次にそれらの卵丘細胞をヒアルロニダーゼにより除去し、M2培養培地で3回洗浄した。GV期に分類される卵母細胞のみを、以降の実験のために維持した。
【0047】
未成熟マウス卵母細胞の体外成熟(IVM)
マウス卵母細胞を、一方は標準培地、他方は100μMのQDEcを添加した培地間でランダム化して、インキュベートした。培養皿は前日に調製し、5%のCO
2下、37℃でインキュベートした。D0(安楽死後8時間)およびD1(24時間)において卵母細胞を観察した。
【0048】
免疫蛍光法
IVMから得られたヒト卵母細胞を、周囲温度で1時間、2%のパラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、次に0.5%のBSAを含有するPBSで洗浄した。0.5%のBSA、0.1%のトリトンX−100、0.05%のTween−20および5%の正常ヤギ血清を含有する溶液中で卵母細胞をインキュベートすることによって、透過化処理を行った。次に卵母細胞をPBS−0.5% BSA中で洗浄した後、0.5%のBSAを含有するPBS中の抗ヒトαチュービュリン抗体(Sigma−Aldrich社)の1/200希釈液中で一晩インキュベートした。次に卵母細胞をAlexa FluorがコンジュゲートしたIgG二次抗体(Life Technologies社、Alfortville、フランス)の存在下で、1時間インキュベートした。洗浄ステップの後、卵母細胞をDAPI(1/1000希釈)中で10分間インキュベートした後、スライドに載せ、暗所で共焦点顕微鏡により観察した。スピンドルの解析の際には、独立にかつ良好に構成された微小管繊維が中期板のレベルで完全に配置された染色体と連結された卵母細胞を、正常なものとした。
【0049】
マウスの刺激および交配
7週齢の「若齢」および7月齢の「老齢」B6CBAF1メスに、10IUのPMSG(Sigma−Aldrich社)を注射し、続いて10IUのhCG(ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン)(Sigma−Aldrich社)を46〜48時間後に投与して排卵を誘発することで構成される過剰排卵の後、C57Nオスと交尾させた。
【0050】
交尾の翌日、膣栓を示すマウスを安楽死させた。hCGの注入の15〜16時間後に輸卵管から卵母細胞を回収し、囲卵腔中の第2極体の存在によって受精率を評価した。
【0051】
受精したマウス卵母細胞のインキュベート
交尾後に受精し、回収されたマウス卵母細胞を、4群(環状QDEペプチド(QDEc)に曝露された若齢、若齢対照、QDEcに曝露された老齢、老齢対照)にランダム化し、対照では20μlの培養培地(KSOM)の滴中に、曝露されたものでは100μMのQDEcを添加してインキュベートした。in vivoでの交尾(D0)の後、D1からD4まで曝露を継続させた。QDEcはヒトFEEcに対応する。培養皿を5%のCO
2下、37℃でインキュベートし、それらを鉱油で被覆した。
【0052】
卵母細胞を、双眼拡大顕微鏡で毎日観察し、胚発生の徴候を評価した。正常な発生動態では、最短で、D2までに胚の2細胞への分裂が起こり、D5までに桑実胚期または胚盤胞期を迎える。
【0053】
ヒトIVFのランダム化プロスペクティブ試験
平均年齢は、女性が34.3±4.2歳、およびそのパートナーが37.0±5.2歳である66カップルに対し、2014年9月8日、コーチンMAPセンターのIVF研究室で臨床試験を開始した。この試験は、FEEcの存在下または非存在下において実施される体外受精(IVF)の、ランダム化による、単一施設でのプロスペクティブ試験である。その卵丘から回収された卵母細胞を、その回収した順に従い、1つずつ交替に2つの群に分けた。全ての卵母細胞を回収したとき、卵丘からの回収に関与しなかった技術者に、2つの群のうちのいずれをFEEc存在下で受精させ、またいずれを対照として用いるかについて、ランダムに決定させた。卵母細胞の一方を標準培養培地(グローバル、JCD社)でインキュベートし、他方を、100μMのFEEcを添加した同じ培地でインキュベートした。
【0054】
図9にダイアグラムとして表すこの試験の方法を以下に示す。産婦人科医による、ホルモンの刺激後の卵巣穿刺により、18〜43歳の女性に由来するヒト卵母細胞を回収した。卵母細胞を、ランダム化して2つの群に分け、すなわち卵母細胞を、100μMのFEEcを添加した標準培養培地、または標準培養培地(グローバル、JCD社)の存在下でインキュベートし、次に、5%のCO
2雰囲気下、37℃のインキュベーターに置いた。パートナーの精子を研究室で回収し、MAPセンターの標準調製法により最も動きの良いものを選択した。IVFは、油下、20μlの滴中、選択された精子10
5/mlの濃度の授精培地中で、精子を卵母細胞と接触させることで構成される。5%のCO
2下、37℃で、インキュベーター内で18時間、授精を行う。授精の18時間後(D1)、卵母細胞から放射冠を除去する。受精した卵母細胞を洗浄し、別の培地の滴に移し、更に24時間培養する。子宮内への移植時、それらを3回洗浄し、次に移植培地中に移し、子宮腔に注入する。由来の群に何ら注意を払うことなく、その見かけの品質に従い、胚を移植する。年齢、IVFの徴候、可能性のランク(attempt rank)および得られた胚の品質、ならびにカップルの合意に従い、1個または複数の胚を移植する。幾つかの胚は、直ちに、またはD2での胚の移植後に、5日間(胚盤胞期)にわたる長時間の培養を行う場合もある。
【0055】
主要評価基準は、新鮮なまたは冷凍された胚の移植による臨床妊娠率であり、均一移植群(対照群および処理群)ならびに混合移植群(2つの混合群)の3つの群について流産率を評価した。
【0056】
副次的基準は以下の通りである:
− 授精率、すなわち、コホートの中期2の卵母細胞数に対する、受精18時間後の、細胞質内に2つの前核を有する接合体数の比率。
− 良質の胚、すなわち分裂の順序が理想的な順序に対応する胚、つまり、D2において4〜5細胞、およびD3において8〜9細胞、ならびに割球断片化がA型(断片により占められる割合が胚体積の10%未満のとき)またはB型(断片により占められる割合が胚総体積の10%〜30%の間のとき)のパーセンテージ。ゆえに、これらの「トップ」胚は、各群の胚総数に対する各タイプの胚数の比率に対応する。
【0057】
このプロトコルは、2012年12月13日にWest VI倫理委員会によって承認された。試験は、2013年7月8日にフランス生物医薬局(Agence de la Biomedecine)から許可を得た。IVFは、適切な臨床診療への厳格な順守に基づき実施される。試験への参加に同意した各カップルは、自由意思によりインフォームドコンセント文書に署名した。
【0058】
統計分析
定量的変数は、それらの数値、平均および標準偏差によって分析した。定量的変数に対する適切な検定方法(Student’s検定またはWilcoxon検定)を使用して、データを曝露群および非曝露群間で比較した。パーセンテージの比較は、カイ二乗(χ
2)検定またはフィッシャー正確検定を使用して行った。p値(有意な閾値)が0.05未満であったとき、比較データ間の相違を統計的有意であるとみなした。
【0059】
実施例1
精子運動パラメータ、および男性における超活性化精子のパーセンテージの改善
予備実験では、FEEペプチドの存在下でインキュベートした精子の18時間生存試験において、生存が、100μMの濃度のFEEで処理した群において、対照群と比較して有意に改善されることが示された。
【0060】
実施例1a
FEEcの、および対照であるスクランブルペプチドの存在下、インキュベート後の、精子運動パラメータの自動分析:
下記の表1に示す結果は、平滑化したVAP(p=0.008)、VSL(p=0.048)、VCL(p<0.0001)およびALH(p=0.002)の増加を示し、超活性化精子では対照群と比較し29%の増加が得られた(p=0.009)ことを示す。超活性化精子のパーセンテージのこの改善は、それらの融合能力の改善、およびインタクトの卵母細胞−卵丘複合体に対するマウスにおいて記録された受精率の上昇を説明するものである
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1b
ミトコンドリア膜電位の測定
「スクランブル」ペプチドと比較して、FEEcペプチドの存在下では、ミトコンドリア膜電位が21%上昇することがわかる(p<0.001)(
図1)。
【0063】
したがって、FEEcは、精子ミトコンドリア膜電位を上昇させることにより精子運動パラメータを改善する。
【0064】
実施例1c
受精インデックスの試験
図2に示す結果は、FEEcペプチドの存在下では、透明帯を除去した卵母細胞と融合する精子の数が多いのみならず、対照群と異なり、前記精子が脱凝縮されることも示す。
【0065】
平均19.0±4.6個の精子が、対照卵母細胞の原形質でカウントされる一方、100μMのFEEcでインキュベートした後では、36.9±11.7個の精子が卵母細胞と融合することが報告される(p<0.001)。この現象は、FEEcペプチドにより媒介される精子の受精能力の増加および卵母細胞の活性化を示唆する。
【0066】
37名の患者の精子運動パラメータについて、FEEc(3時間のインキュベート)の存在下または非存在下において分析した。Mortimerの基準に従う超活性化精子のパーセンテージの有意な増加が見られ、それらの受精能力の向上を説明するものである(上記の表1を参照)。
【0067】
実施例2
未成熟ヒト卵母細胞の体外成熟に対する改善のパーセンテージ
試験した全てのヒト卵母細胞において、D1でのFEEcによる卵成熟の有意な増加が示された。得られた結果は、FEEcを用いた中期II(MII)の卵母細胞では42.3%(69/163)、対して、対照群では30.0%(52/173)である(p=0.02)(
図3)。成熟の増加は、37歳以上の女性から得た卵母細胞で、D1と同時期においてなおより顕著である。得られた結果は、FEEcを用いたMIIの卵母細胞では47.9%(23/48)、対して、対照群では20.4%(11/54)である(p=0.003)。
【0068】
若齢女性の卵母細胞に関しては同等の成熟率が得られたため(FEEcの存在下の中期IIの卵母細胞では47.9%、対して、対照群では20.4%、p=0.003)、ヒトの卵母細胞におけるIVMの改善は、37歳未満の女性から得た卵母細胞では低いが、より年配の女性の卵母細胞では非常に顕著である。
【0069】
GV期の336個のヒト卵母細胞を、FEEcペプチドの存在下または非存在下においてランダム化してインキュベートして得られた結果は、FEEcの存在下でヒト卵母細胞の成熟率が改善されることを示す。
【0070】
2つの群間の卵母細胞の閉鎖率については、有意差は検出されなかった(ペプチド存在下では16.5%、対して、対照群では16.8%)(
図4)。37歳以上の女性のサンプルでは、対照培地(24.1%、13/54)と比較して、FEEcペプチドの存在下(16.7%、8/48)では、閉鎖率の有意でないが閉鎖率の低下傾向(p>0.05)が注目される。
【0071】
試験を継続し、追加の結果が得られた。これらの結果は上記の結果を確認するものであり、後述するFEEcペプチドの他の効果を示す。
【0072】
合計600個の卵母細胞を体外で成熟させた。分析の際、女性一人あたり1個の卵母細胞のみを試験に含め、全ての事象の独立性を担保した。培地中のフェルチリンの存在により、成熟率は38.3%から59.0%に増加した(P<1.6×10
−4)(
図12)。GV期由来の卵母細胞の提供元の女性の年齢とのとの関数として解析すると、成熟の改善は、37歳未満の女性では比較的低い(42.6%〜51.8%、P<0.2)が、37歳以上の女性から得た卵母細胞では非常に高い(35.1%〜65.9%、P<3.91×10
−5)ことがわかる。したがって、フェルチリンは、放射冠を除去した卵母細胞のin vivoでの成熟、および第1極体の放出を刺激することができる。明らかに、加齢に伴う卵母細胞のエネルギー不足がより大きい程、フェルチリンは、この刺激をより良好に行う。この試験はまた、37歳以上および30歳未満の女性のGV期の卵母細胞の成熟率の増加を示すことができるものといえる(
図13)。
【0073】
実施例3
体外で成熟させたヒト卵母細胞の減数分裂スピンドルの形成
図5は、染色体が並んでいない中期板における、染色体の配列の不完全なおよび異常な形成を示す。対照培地の存在下、IVMの24時間後のMII期のヒト卵母細胞から得た画像である。
【0074】
実施例4
マウスにおける受精率の改善および初期の胚発生
D1では、受精率は、若齢マウスでは変化がないが、老齢マウスでは39%から51%に増加する(p<0.03)(
図6)。
【0075】
D2では、若齢マウスのうち、卵母細胞の50.0%(26/52)が、対照群における32.4%(18/56)と比較して、QDEc群においては分裂している(P=0.02)(
図7)。老齢マウスに関しては、D2では、対照(35.4%、23/65)と比較して、QDEc(58.7%、37/63)の存在下では有意に分裂胚が多い(p=0.008)。D4では、若齢マウスから得た桑実胚期または胚盤胞胚期の分裂胚の比率は、対照QDEcを添加した培地の63.0%(17/26)と比較して、対照群では34.6%(7/16)である(p<0.03)。この割合は、老齢マウスでは、対照培地の28.3%(15/53)と比較して、ペプチドの存在下では86.3%(63/73)に達する(p=0.001)。
【0076】
有利なことに、マウスにおける割球形成は、QDEcペプチドの存在下で改善される。
【0077】
閉鎖した胚のパーセンテージは、2つの若齢マウスの群間で有意差がなく、QDEcの存在下では17.3%(9/52)、および対照では30.4%(17/56)である(p=0.1)。若齢マウスと比較して、閉鎖のパーセンテージは、QDEc(38.1%、24/63)および対照群(49.2%、32/65)間で同程度の率であり、老齢マウス群で高い(p=0.2)(
図8)。
【0078】
より詳細に移植前胚発生を研究するため、以下のプロトコルを実施した。すなわち、マウスをD0で交尾させた。D1で、卵管を裂傷により卵母細胞を回収した。次にそれらをランダム化様式で2つの群に分け、QDEc有りまたは無しで培地中に置き、受精させた。
【0079】
D3では桑実胚の、D4では胚盤胞の増加を示し、中でも、拡張胚盤胞の場合、卵母細胞をQDEcの存在下でインキュベートしたときに増加するという結果である(31.1%対45.9%、P<0.009)(
図14)。更に、偽妊娠のメスへのこれらの胚盤胞の移植後、特に若齢マウス由来の胚では、移植された胚によって得られる子孫数の有意な増加が見られる(下記の表2)
【0080】
【表2】
【0081】
実施例5
体外受精による臨床妊娠率の増加
以下に示す結果は、「フェルチリン」試験の関連で得られた。
【0082】
第1ステップで、56のカップルを含めた。平均年齢は、女性が33.9±4.1歳、パートナーが36.7±5.3歳である。2つの群、FEEc対対照の、受精率間またはトップ品質胚のパーセンテージ間の有意差は示されなかった。対照および混合群と比較して、ペプチドの存在下において、移植により妊娠率が増加する有意な傾向は示されない(それぞれ、29.4%(5/17)および40%(2/5)と比較して、46.1%(6/13))(
図10および下記の表2)。対照群から得た胚の移植後、流産が1例報告された。副作用は現在まで報告されていない。
【0083】
現在まで、66のカップルを試験に含めた。54の移植を行い、そのうち、対照胚が26例、FEE群の胚が22例、2つの群の胚(混合移植)が6例であった。累積妊娠率は、3つの群でそれぞれ34.6%、45.5%および33.3%であった。自然流産率は、それぞれ33.3%、10%および0%であった。したがって、臨床妊娠率は、それぞれ23%、41%および33.3%である。臨床妊娠率が患者年齢に相関するという基本的事実は、若齢の患者において、成長的(evolutive)臨床妊娠(つまり妊娠〜出産予定日)の率が20%から57.1%に有意に増加する(P<0.03)ことがわかるということである。
【0084】
【表3】
【0085】
結果はまた、FEEc群から得た胚の移植後の臨床妊娠において21%の増加を示す(対照群の33.3%(8/24)と比較して、40.0%(8/20))(p>0.05)。受精率は、FEEcに曝露された群の67.6%と比較して、対照では66.2%である(p>0.05)。初期の自然流産率は、胚がFEEcに曝露されたときの11.1%(1/9)と比較して、対照群では37.5%(3/8)に達する(p>0.05)(
図11)。
【0086】
37歳未満の女性では、受精率は、対照群の68.3%と比較して、FEEcへの曝露後では70.9%である。卵母細胞がFEEcに曝露された場合、妊娠率は、対照群の20.0%と比較して、57.1%に達する(下記の表4)。
【0087】
【表4】
【0088】
現在までの試験に含まれる最初の66カップルのうち、51例で移植を行い、その他は先延ばしし、これらの51例の移植の結果は以下のとおりである:
− 21例は、対照群の胚を使用して実施
− 18例は、FEEcの存在下の群を使用して実施
− 12例は、2つの群の胚を使用して実施。
【0089】
他の群(FEEcの存在下の胚の9%と比較して、33%の流産率)と比較して、FEEcの存在下の群では、妊娠率が高く、流産率が低い(下記の表5および6)。
【0090】
若齢女性の妊娠率は、対照と比較して、FEEcの存在下では20%から57.1%に増加する(p<0.03)。
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
フェルチリン試験を継続することにより、更なる結果が得ることが可能になった。合計66のカップルを試験に含めた。結果を以下の表に報告する。
【0094】
試験の全体的なデータを表7に報告する。全体的な受精率は、実質的に変化しなかった。しかしながら、FEEcの存在下では、低頻度の受精(20%未満の受精率)を示す試験のパーセンテージが37.9%から27.3%まで減少しており、フェルチリンの存在下での生殖子の良好な受精能力が示唆される。同様に、フェルチリン群における多精受精が対照群と同程度であったため(4.0%対5.2%)、多精受精をブロックする正常な機構が変更されなかったことを示している
【0095】
【表7】
【0096】
胚移植を行った全てのカップルの結果を、表8に報告する。この表では、フェルチリンの有無での、2つの群の卵母細胞における、不可解な受精障害を呈したカップル(n=6)を除外している。
【0097】
【表8】
【0098】
表8に示すように、胚移植を行った患者では、受精率は69.5%から78.6%まで増加し、これは13%の改善であるが、本コホートでは有意水準には達していない。胚盤胞期までの胚発生は変化せず、子宮への胚の着床率も同様である。一方、フェルチリン群の流産率は約50%減少する(15.4%対30.5%)。
【0099】
胚移植を行い、女性が37歳未満であるカップルの結果を表9に報告する。
【0100】
女性が37歳未満であるカップル(n=47)であり、処理された患者の70%に対応するカップルのみを考慮すると、受精率が70.9%から83.3%まで有意に改善されることがわかる(P<0.05)。流産率は、対照群の胚を移植した患者での36.3%から9.1%に減少し、つまり、フェルチリン群の胚を移植した患者では4分の1である。実際に小児を出生する成長的(evolutive)妊娠率は、対照胚の群の28.6%から、フェルチリン群の胚の41.6%に増加する
【0101】
【表9】