(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂組成物が、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレングリコール(PEG)、寒天、ゼラチン、でんぷん、及びスクロースから選ばれる1種以上の有機樹脂成分を含むことを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体。
前記触媒組成物スラリーは、粒度分布における小粒径側からの累積分布が90%となるときの粒子径D90が5μm以下であり、ハニカム構造体の単位体積あたりの含浸被覆量が10〜200[g/L]であることを特徴とする請求項10に記載のハニカム構造型触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスには、窒素酸化物(NOx)、燃料由来の未燃焼の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)など様々な有害成分が含まれ、その浄化にあたっては従来から様々な手法が提案され実施されてきた。
【0003】
排ガスの発生源には、ガソリン自動車の他、軽油を燃料として使用したディーゼルエンジンを搭載したディーゼル自動車がある。ディーゼル自動車から排出される排ガスについては、前記のNOx、HC、COの他に、微粒子成分としてのPM(Particulate matter)も知られており、そのようなPMの浄化用装置としてDPF(Diesel Particulate Filter)が広く使われてきた。
【0004】
DPFはウォールフローハニカムフィルターとも呼ばれる排ガス浄化用フィルター装置の総称であるが、その構造は入口端部から出口端部に向けて隔壁に仕切られた複数のセルからなり、このセルは入口端部と出口端部で交互に目封止されたハニカム構造である。セルを構成する隔壁は通気性を有し、この通気性を利用して排ガス中からPMを濾し取ることによってPMを除去している。
DPFによって排ガス中から濾し取られたPMは、そのままであるとDPFに堆積し続けて目詰まりを起こしてしまうことから、排ガスの熱や、エンジンの燃焼室や排ガス中への燃料の噴射によってPMを燃焼させてPMの堆積したDPFを再生している。このような再生を促進する目的で、DPFのセル隔壁に触媒成分を被覆することがあり、触媒成分を被覆したDPFをCSF(Catalyzed Soot Filter)ということがある。本出願人も、これらの触媒を組み込んだシステムを提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
従来、排ガス中のPMの浄化は、ディーゼル自動車で多く求められてきたが、それは燃焼し難い軽油を使用するためであり、燃焼し易く、発生するPMの量も少ない燃料を用いるガソリン自動車については、環境問題として今まで特に注目されることはなかった。
【0006】
しかし、環境問題への関心が高まる中、排ガス中の有害成分への規制も厳しさを増し、ガソリン自動車から排出されるPMについても、その排出量を規制する動きが有る。特に近年は燃費も市場の関心が高く、ガソリンエンジンにおいては緻密な制御のもと燃焼室内にガソリンを直接噴霧供給する直噴型エンジンが主流になりつつある。しかし、このような直噴型ガソリンエンジン(GDI:Gasoline Direct Injection)においては、噴霧されたガソリンの一部が微粒子の状態を保ったまま燃焼室内が燃焼状態となり、粒子状の燃料に由来して不完全燃焼になることから、インテークマニホールドから燃料と空気の混合ガスを供給する従来のガソリン自動車に比べて多くのPMが発生することがあり、排出規制の必要性もより現実味を増す様になってきた。
【0007】
このようなガソリン自動車から排出されるPMの除去にも、ディーゼル自動車用のDPFと同様にウォールフローハニカムフィルターを使用することが考えられるが、ガソリン自動車の特性からディーゼル自動車用のDPFをそのまま転用することは以下のような理由により難しかった。
【0008】
ガソリン自動車とディーゼル自動車の大きな違いの一つとして排ガスの流速が挙げられる。ディーゼルエンジンは、高圧力で圧縮された空気に対し燃料を噴射し、その圧力の作用により燃料を着火し爆発させることで運動エネルギーを取り出している。高圧縮で効率の良いエンジンではあるが、高圧縮な状態を作ることからエンジンの回転数がガソリン自動車に比べて低く、そのため排気ガスの流速も遅い。この様に流速の遅い排ガス用に設計されたDPFでは、ハニカム構造の外部側面(以下、「外皮部分」ということがある)にまで通気性を求める必要が無く、従来DPFではハニカム構造体の強度を向上するために外皮部分は緻密な高強度セラミックス材料で構成されていた。また、ディーゼル自動車では通常エンジンの回転数が低いことから、ガソリン自動車に比べて走行中の排ガスの温度も低い。
【0009】
しかし、ガソリンエンジンからの排ガスにおいては、ディーゼルエンジンの場合とは状況が異なる。ガソリンエンジンは、点火プラグによって混合気に着火するため、一般的なディーゼルエンジンに比べて圧縮比が小さい。そのため、エンジンを高回転で稼働させ、高出力を得ることができる。更に、近年の燃費向上に関する市場からの要求により、車両の軽量化を目的に高出力エンジンについても小型化する傾向がある。小型エンジンで高出力を得るためにはエンジンを高回転で稼働させたり、過給器により多量の空気をシリンダー内に供給したりする必要があるが、高回転や過給状態で稼働させたエンジンから排出される排ガスの流速は更に速くなる。このような流速の早い排ガスに従来のようなDPFを使用したのでは背圧が上がり、エンジン出力の向上への障害になってしまう。
また、DPFのようにハニカム構造体の外皮部分(以下、外周壁ともいう)に別材料の壁をつくると、走行中の温度がディーゼルエンジンよりも高温となるガソリンエンジン用触媒では、熱膨張率の差等によりクラックが生じる問題も懸念され、一体成型のものが好ましいとされている。
【0010】
従って、ガソリンエンジンの排ガス中からPMを除去するフィルターでは、DPFのように強度を求めて通気性の無い緻密な外皮部分を設けずに、外皮部分にも通気性を持たせたハニカムフィルターが検討されている。このようなガソリンエンジン用のPMフィルターをGPF(Gasoline Particulate Filter)ということがある(例えば、特許文献3参照)。
GPFであれば、いたずらに背圧の上昇を招かずに排ガス中のPMを除去することが可能である一方、触媒としての製造上、新たな課題が生じていた。
【0011】
一般的にガソリンエンジンの排ガスの浄化には白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を含有した三元触媒(TWC:Three Way Catalyst)という、NOx、HC、COを同時に浄化する成分で触媒化したハニカム構造体が使用されている。従来のTWCは、DPFのようにセルの両端面で互いに目封止をしたハニカム構造体ではなく、フロースルーハニカムと言われるセルの両端面が解放されたハニカムのセルの隔壁に触媒成分を被覆して使用されてきた。このようなフロースルーハニカムであれば、背圧の上昇も少なく、ガソリンエンジンのように高流速の排ガス処理に適している。
【0012】
フロースルーハニカムに限らず、DPFをTWCのような触媒組成物で触媒化するにあたっては、一般にウォッシュコート法と言われる製法が適用される(例えば、特許文献2参照)。
ウォッシュコートには多様な手法が提案され実施されているが、その基本原理は「ハニカムセル内部にスラリー化した触媒成分を供給する工程」と、「供給されたセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程」からなる。「供給されたセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程」において、フロースルーハニカムであれば特段の支障なく、余剰なスラリーの除去が可能である。また、従来のDPFにおいても、緻密な外皮部分を有することから、この場合も余剰スラリーは支障なく除去可能である。
【0013】
しかしながら、GPFでは背圧の上昇抑制という課題があることから、その外周壁はセルの隔壁と同様に通気性のある多孔質から構成され、50%以上の気孔率、さらには60%以上の気孔率を有するハニカム構造体を用いて、排ガスを外周壁からも通気可能とする必要がある。
【0014】
GPFに使用される比較的小型のハニカム構造体は、通常、隔壁と外皮とが一体的に形成されたものである。このようなハニカム基材は、押出成形により、隔壁と外周壁とを同時に成形し、得られた成形体を焼成して作製されるものであり、外皮と隔壁とが同一の気孔率を有する。また、このような小型のハニカムを用いることから、フィルターとしての幾何学的な面積も小さく、圧力損失による出力低下の懸念が大きかった。
【0015】
また、ハニカムセルの端部が目封止されていることから、ウォッシュコート時における「供給されたセル内の触媒スラリーを空気圧で払い出す工程」において目封止部分が障害になり、空気圧で払い出されるスラリーが外皮部分から浸出してしまうという問題が有った。
このように外皮部分からスラリーが浸出してしまうと、ウォッシュコート装置が汚れるのみならず、高価な貴金属を無駄にしてしまう。また、自動車触媒成分として高価な貴金属は、コスト管理の目的からその成分量が厳密に管理されているが、外皮部分からスラリーが浸出してしまうと成分量の管理が困難になり、このような成分量のバラツキは製造上の不具合とみなされる。また、自動車触媒は、適切な触媒量の管理によって初めて工業的に実施可能な性能となるが、スラリーが外皮部分に浸出してしまうことで、大量生産時における各ハニカムが担持する触媒量の管理が困難になり、安定した浄化性能の実現が極めて困難であった。
また、GPFのような多孔質ハニカムの外皮に触媒スラリーが浸入すると、スラリー中の成分とハニカムの材質の間で熱膨張率の差が生じ、触媒製造工程の焼成時や、この焼成からの冷却時、また自動車走行時の熱履歴によってクラックが生じる事があった。
【0016】
前記のとおり、GPF用のウォールフローハニカムは、圧力損失を少なくするために空隙率が大きく、外周壁もセル隔壁と同様に通気性の多孔質体であることから、触媒スラリーの浸入による亀裂(クラック)の発生は深刻であった。更に、触媒スラリーは活性種である貴金属と共にアルミナ等の無機酸化物微細粒子を多量に含むことから、外周壁に含浸した無機酸化物粒子の影響により、クラックの発生は更に助長される。
【0017】
また、ハニカム外皮部分に存在するマイクロクラックを触媒成分によって埋めてしまうことで熱膨張率の差によってできる応力に対応する余裕がなくなり、クラックが発生する(例えば、特許文献8)。ハニカムの外周壁に触媒成分があると、熱伝導率の差で外周部と内部の温度差ができたときに、温度分布にムラができる等の理由でクラックが生じることも考えられる。
【0018】
このように、外皮部分からのスラリー浸出を防止しうるGPFに好適な手段が望まれていた。しかも、その手段としては、触媒適用後の製品に対しても圧損などの悪影響を与えないという、相反する目的を同時に達成できる手段であり、安定的に安価に適用でき、大量生産が可能な手段であることも望まれる。
【0019】
従来、ハニカム構造体の強度を向上させる技術として、外周壁に補強材料を付着させる技術が知られている。例えば、特許文献4、特許文献7には、ハニカム構造体の外周部を、高温で消失あるいは飛散する材料により補強したハニカム構造体が開示されている。また、特許文献5には、触媒担持前のセラミックハニカム構造体の外周壁外側全面に、触媒とほぼ同等の熱膨脹率を有する材料を付着させたハニカム構造体が開示されている。更に、特許文献6には、セル構造体の外周部を被覆するように配設された、多孔質体からなる外壁の所定厚さの最外周部分に、燃焼により焼失する非水溶性の有機物質、又は無機物質が含浸された含浸部分が形成されたハニカム触媒担体が開示されている。
【0020】
これら先行技術文献のなかには、ハニカム構造体に触媒を焼き付ける際の高温処理において消失あるいは飛散する補強材料に関する記載がある。しかし、GPF用のハニカムの様に外周壁までも良好な通気性を有する多孔質ハニカム構造体を使用したときの触媒スラリーの浸み出し防止や、アイソスタティック強度の向上が検討されていないか、触媒製造時やGPF使用時の熱履歴によるクラックの発生も考慮されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、それらの実施形態に限定されて解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等を加え得るものである。
【0043】
1.ハニカム構造体
本発明のハニカム構造体は、ハニカム基材が複数のセルを形成する隔壁と外部側面からなり、外皮部分の全域に樹脂組成物が含浸され、その含浸深さが外皮の厚さに相当するか、樹脂組成物の少なくとも一部が隣接するセル隔壁にも達している。
【0044】
ハニカム基材は、隔壁によって、一方の端面から他方の端面へ向かって伸びる多数の通孔(セル)が形成されており、これらが集まってハニカム形状の構造体を形成している。
ハニカム構造体は、その構造の特徴から、フロースルー型(フロースルーハニカム)とウォールフロー型(ウォールフローハニカム)に大別されている。フロースルー型は、一方の開放端面から他方の開口端面に向けて開口する多数の通孔端部が封止されておらず、酸化触媒、還元触媒、三元触媒に広く用いられている。これに対し、ウォールフロー型は、通孔の一端が、互い違いに封止されているもので、排気ガス中の煤やSOF(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)等、固形成分を濾し取ることができるため、DPFとして用いられている。本発明は、そのどちらにも使用できるが、GPFでは通孔端部が封止されていることから、触媒製造時に触媒スラリーが外皮部分に浸出し易く、本発明では、これを防止する必要のあるGPFで隔壁と同様に多孔質な外皮を持つウォールフローハニカムが好適に使用される。
【0045】
また、ハニカムを構成する隔壁は、排気ガスを外部に逃がす必要から、多孔質体により形成される。多孔質体として通常用いられている無機酸化物からなるもの、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、シリカ−アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、アルミニウムチタネート等のセラミック材料が好ましい。これらの中でも、コージェライトが特に好ましい。ハニカム基材の材料がコージェライトであると、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を得ることができるためである。
また、隔壁と外皮部分とは、同質材料により形成されることが好ましい。同質材料とはサーマルショックによるクラック発生が防げる程度の熱膨張率や気孔率の差の範囲である材料のことを示す。さらに、同一材料による一体成型で製造されることが好ましい。効率的な製造が可能であり、材料の違いによる問題を回避できるためである。また、高温となるガソリンエンジン用触媒では熱膨張率の差によりクラックが生じるなどの問題も懸念される。このため、隔壁と外皮部分とは、熱膨張率の同じものであるか、一体成型のものが好ましい。
また、目封止部の材質は、ハニカム基材の材質と同様な材質が好ましい。目封止部の材質とハニカム基材の材質とは、同じ材質でも、異なる材質であってもよい。
【0046】
隔壁および外皮部分には多数の細孔が存在していることが好ましい。このような細孔の特性は、細孔容積、平均細孔径としても表わされ、ガス吸着法、アルキメデス法、水銀圧入法など様々な手法によって測定できるが、本発明においては、特にことわりの無い限り、水銀圧入法により圧入圧力400MPaで測定し得られた値のことをいう。
本発明におけるハニカム構造体は、セルの隔壁、外皮部分の細孔容積が0.3〜1.6ml/gである場合に有効であり、0.8〜1.6ml/gであることが好ましく、1.0〜1.6ml/gであるとより好ましい。
【0047】
また、ハニカム基材の全長は、特に制限されないが、50〜300mmであり、100〜200mmが好ましい。ハニカム基材の端面幅(円形の場合は直径)は、特に制限されないが、50〜200mmであり、80〜150mmが好ましい。
そして、セル壁(隔壁)の厚みは、1〜18mil(0.025〜0.47mm)が好ましく、6〜12mil(0.16〜0.32mm)がより好ましい。この範囲であれば構造的に脆くならず、セルの幾何学的表面積が小さくならないため、触媒の有効使用率が低下することもない。
ハニカム基材の外周壁は、厚さが300〜1000μmであることが好ましく、500〜800μmであることが特に好ましい。外周壁の厚さが300μm以上であれば、十分な強度が得られ、また、外周壁の厚さが1000μm以下であると、ハニカム構造体の圧力損失を抑制でき、GPFとして用いても十分なエンジンの出力を得ることができる。
【0048】
このようなハニカム基材のセルは、通常、直径あるいは一辺が凡そ0.8〜2.5mmである。また、その密度は、セル密度とも言われ、単位断面積あたりの孔の数で表され、特に制限されないが、100〜1200セル/inch
2(15.5〜186セル/cm
2)が好ましい。セル密度は、150〜600セル/inch
2(23〜93セル/cm
2)がより好ましく、200〜400セル/inch
2(31〜62セル/cm
2)である事がより好ましい。セル密度が100〜1200セル/inch
2であれば、触媒成分や、排気ガス中の固形分で目詰まりが発生しにくく、また触媒の有効使用率を低下せず排気ガス浄化触媒としての有用性が維持できる。
【0049】
本発明のハニカム構造体が適用されるガソリン車用のTWCでは、ハニカム基材は、少なくとも外皮部分が多孔質体により形成されていることが必要である。GPF製造時には、被覆によって触媒スラリーが外皮部分に浸出することを防止できるとともに、フィルターとして使用する際には、外皮部分に通気性を持たせることが必要なためである。
【0050】
隔壁および外皮部分には多数の細孔が存在している。このような細孔の特性は、細孔容積、細孔径としても表わされ、ガス吸着法、アルキメデス法、水銀圧入法など様々な手法によって測定できるが、本発明においては特にことわりの無い限り、水銀圧入法により圧入圧力400MPaで測定し得られた値のことをいう。
【0051】
本発明のハニカム構造体においては、セルの隔壁、外皮部分それぞれの細孔容積が0.3〜1.6ml/g、平均細孔径が10〜25μmであることが好ましい。平均細孔径は15〜25μmがより好ましい。ハニカム構造体の平均細孔径が10μm以上であれば、ハニカム構造体の圧力損失の上昇を抑制し、GPFとして用いても、十分なエンジンの出力を得ることができる。また、ハニカム構造体の平均細孔径が25μm以下であると、十分な強度が得られる。
また、このような細孔の特性は、気孔率(細孔容積率)として表すこともできる。本発明におけるハニカム構造体の気孔率とは、セルの隔壁と外皮部分の厚みと長さ、セルの密度から求められる幾何学的な体積に対する細孔容積の占める割合を意味するものであり、本発明においては50〜80%であり、60〜80%が好ましく、60〜70%がより好ましい。
【0052】
ハニカム構造体の形状は、特に限定されるものではなく、一般的に知られている円柱形、円柱状に類する楕円柱状のほか、多角柱なども含まれる。好ましいのは、円柱形あるいは楕円柱状のものである。
すなわち、ハニカム構造体は、一以上のローラーを用いて樹脂組成物を含浸塗布することができ、外皮部分に塗布されるが、断面形状が円であると均一に被膜を形成しやすく、楕円のものでも皮膜形成が可能である。また、あらかじめハニカム構造体の外皮部分表面を粗雑化しておくか、表面を化学的処理して、被膜を形成しやすくしておくこともできる。このようなローラーによる含浸塗布については後で詳述する。
また、セルのハニカム基材の長さ方向に対して垂直な断面における形状(以下、「セル形状」という。)も特に限定されないが、四角形、六角形、八角形等の多角形あるいはそれらを組み合わせたもの、例えば四角形と八角形を組み合わせたもの等が好ましい。
【0053】
ここで、本発明に係るハニカム構造体の外観を
図1、その縦断面を
図2によって説明する。ハニカム構造体1は、ハニカム基材2及び樹脂塗工部3を備えている。樹脂塗工部3は樹脂組成物8が含浸した外周壁6、または外周壁6と隔壁4を表す。ハニカム基材2は、流体の入口側となる入口端面11から流体の出口側となる出口端面12まで延びる複数のセル5を区画形成する多孔質の隔壁4と、隔壁4と一体的に形成された多孔質の外皮(外周壁)6とを有する。
ここで、「一体的に形成された」とは、ハニカム基材2の製造工程において、隔壁4と外周壁6とが同時に押出成形され、隔壁4と外周壁6とが押出直後から一体的になって成形体が得られることをいう。本発明では、一体的に成形されたものが好ましいが、一体的でない場合も外周壁6は隔壁4と同様に多孔質体であり、隔壁4同様に通気性を有すれば好ましく使用できる。このような成形体を焼成して得られたハニカム基材2においては、その全体の気孔率、即ち、隔壁4の気孔率と外周壁6の気孔率とが同一となる。
【0054】
樹脂塗工部3は、ハニカム基材2の外周壁6の外側表面の全域に樹脂組成物(シーラー)との接触で形成されている。樹脂塗工部3は、外周壁6の外側表面だけでなく、細孔内に含浸した樹脂組成物8を含んでいる。本発明では、樹脂組成物が、水などの媒体によりスラリー状態でハニカム基材に含浸され、乾燥あるいは硬化のあと樹脂塗工部となる。こうして樹脂組成物の大半が外皮表面の細孔から内側のセル方向に含浸されるので、最終的に外皮表面に残るのはごくわずかな量となることがある。
【0055】
このようなシーラーとしての樹脂組成物の溶液には分散性や粘度の調整のため多少の無機粒子が含まれていても良い。しかし、多量の無機粒子が含まれると、後述する触媒製造時の加熱や自動車に搭載して使用した際に、隔壁4と外周壁6の間の熱膨張率の違いが大きくなり、クラックの発生を助長するか、外周壁6における通気性を阻害し、排ガスの圧力損失を招き出力の低下を招く事がある。そのため、無機粒子の量は、樹脂組成物溶液中10質量%以下、さらには5質量%以下であることが好ましく、無機粒子を全く含まないものであることがより好ましい。なお、このような無機粒子は樹脂組成物8中に無機粒子そのものとして含まれるものに限られない。触媒の製造工程における乾燥、焼成や自動車に搭載した状態の熱履歴によって無機粒子化するシリコーンのような成分についても同様である。
【0056】
本発明でハニカム基材の外周壁6に含浸させる樹脂組成物は、樹脂の種類によって限定されるものではないが、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレングリコール(PEG)、寒天、ゼラチン、でんぷん、スクロース、ロウまたはワックスなどが使用できる。
【0057】
このうち、樹脂としてはPVA、アクリル樹脂、ロウまたはワックスが好ましく、PVAが最も好ましい。PVAは、様々な重合度やグレードのものを市場から容易に入手可能であり、外周壁6の含浸被覆(コート)並びに後述する触媒製造時の加熱により燃焼除去も容易である。このようなPVAは、特に限定されるものでは無いが、平均重合度で500〜4,000のものが使用でき、1,000〜3,000のものが好ましく、1,500〜2,500であるものがより好ましい。
【0058】
本発明のハニカム構造体では、樹脂塗工部3に無機粒子が含まれない事が好ましい。製品管理等の目的でハニカム外周面にレーザーマーキングなどでバーコード処理を施す場合、外周壁6の表面にチタニアで下地を作ることがある。このような場合でも、チタニアは無機成分であることから、外周壁6の細孔内へ含浸しないほうがよい。
そのため、外周壁6の表面にチタニア等の下地処理をする場合、その粒子径は外周壁6の細孔7よりも同等か大きい事が好ましい。チタニア等の無機粒子が細孔7の孔径以上であることで、外周壁6への無機粒子の含浸が無くなり、様々な熱履歴によるクラックの発生を抑制できる。
なお、このような下地処理を行うに際して、下地処理材と外周壁6との密着性の向上を目的にバインダーを使用することがある。このようなバインダーとしてはシリカゾル等が挙げられるが、バインダーを使用する場合、バインダーは事前にチタニア等の無機粒子と混合し、チタニア等の無機粒子表面と外周壁6表面との密着性を発揮できる最小限に留め、外周壁6内部の細孔7中にバインダー成分が充填されるような含浸状態にしない事が好ましい。
【0059】
なお、
図1、
図2では、ハニカム構造体1をGPF等のPM捕集フィルターに用いる場合を例示したため、セル5aは入口端面11側の開口端部に、また隣接するセル5bは出口端面12側の開口端部に目封止部9を形成している。
このように、ハニカム基材2の各セル5の開口端部に交互に目封止部9を設けることにより、ハニカム構造体1は、高いPM捕集効率を持ったウォールフロー型フィルターとなる。このウォールフロー型フィルターにおいては、入口端面11からセル5内に流入した排ガスが、隔壁4を透過した後、出口端面12からセル5外に流出する。そして、排ガスが隔壁4を透過する際に、隔壁4が濾過層として機能し、排ガス中に含まれるPMが捕集される。
尚、目封止部9は、入口端面11と出口端面12とが、それぞれ、開口端部が目封止されたセル5と、目封止されていないセル5とにより、互い違いの市松模様(checkered pattern)を呈する配置となるように形成されることが好ましい。しかし、本発明の実施形態は、このようなウォールフロー型フィルターに限られるものでは無く、入口端面11又は出口端面12のいずれか一方が目封止されたウォールフロー型フィルターにも適用できる。
【0060】
本発明において、樹脂塗工部3は、
図3に示すように、外周壁6の細孔7内に樹脂組成物8が完全に含浸している。ここでは、ハニカム基材2の外周壁6を超えて、外周壁6に隣接する隔壁4にも樹脂組成物8が含浸している例を示している。
【0061】
このように一部の隔壁にまで樹脂組成物8を含浸させるのは、本発明では外周壁6を確実にシールすることが優先されるからである。本発明では、含浸深さが外皮厚さに相当し、実施態様としては、必ずしも隔壁4に樹脂組成物8を含浸させる必要は無いが、外周壁6へ確実に樹脂組成物8を含浸させるためには、隣接する隔壁4方向に、セル数にして1〜3程度先まで樹脂組成物8が含浸する程度の含浸被覆を行う事が好ましい。セルの隔壁4にまで含浸処理を行う場合、その含浸深さは、外周壁6の厚さも含めて2〜6mmである事が好ましい。すなわち、ハニカム基材の大きさ(軸方向の全長)が、200mm以下と比較的小型であれば、4mm以下の深さとし、200mmを超える比較的大型であれば、6mm以下の深さにするのが好ましい。
【0062】
なお、
図3のように樹脂組成物8の極一部がハニカム表面で非常に薄い層になっても良いし、樹脂組成物8が全て外周壁6の中に入り、少なくとも一部は隔壁4にまで含浸して樹脂組成物8が表面で層を形成しなくなっても良い。樹脂組成物8が表面で層を形成しなければ、乾燥・硬化後でもハニカム構造体の外形寸法に変化が無いことから、触媒化の工程において余分な層を除去する操作が不要になる。
本発明では、このような樹脂組成物の大半が外周壁の細孔内に含浸されてしまう状態、あるいは外周壁の細孔内に含浸され、しかも表面にもわずかに樹脂が存在しうるような外皮の状態を総称して、樹脂塗工部という。
【0063】
前記樹脂組成物は、塗布量がハニカム構造体の体積当たり、8g/L以上であることが好ましい。ここで、塗布量とは、樹脂塗工部を構成する樹脂成分のハニカム構造体の体積当たりの質量である。より好ましい塗布量は、ハニカム構造体の体積当たり、8〜30g/Lであり、さらに好ましい塗布量は、ハニカム構造体の体積当たり、8〜20g/Lである。
【0064】
このように、本発明においては、樹脂組成物がハニカム構造体1の外周壁6の細孔7内全域に含浸しており、所定の塗布量となって、外周壁6の細孔7が閉塞されている。このため、ハニカム構造体1の隔壁4に触媒を担持させるため、触媒スラリーをセル5内に導入しても、外周壁6の細孔に入ることができない。そのため触媒スラリーが外側表面に浸み出すことがなく、ハニカム構造体1の隔壁4に触媒を担持させる工程において、良好な作業性が得られる。
また、樹脂を含む樹脂塗工部3が外周壁6を補強するため、ハニカム構造体1に触媒を担持させる工程において、強度が向上した外周壁6の一部をチャック(把持)することで、外周壁6の破損が効果的に防止できる。更に、外周壁6の強度が向上した結果、ハニカム構造体1全体のアイソスタティック強度も向上し、ハニカム構造体1の搬送時における破損も効果的に防止できる。
更に、触媒塗布の際には樹脂組成物8が外周壁6内部に存在するが、その後の加熱によって焼失するので、
図4のように、外周壁6の孔が解放され、自動車に搭載した際の圧力損失の上昇を抑制することができる。また、触媒組成物13(スラリー)が外周壁6に存在しないため、外周壁6の熱膨張率に変化が生じず、触媒製造時の加熱や自動車の走行時の熱履歴によるクラックの発生を抑制できる。
【0065】
このような本発明と異なり、外周壁6への樹脂組成物8が、外周壁6の一部にしか含浸されなかった場合や含浸が不完全な場合、外周壁6に触媒スラリーが浸入して細孔を塞ぎ圧力損失が生じたり、様々な熱履歴によるクラックの発生を助長したりしてしまう。例えば、特許文献7では、コート層の外周壁の細孔内に樹脂組成物が浸入している部分の厚さが、外周壁の厚さの1〜90%であり、15〜50%が特に好ましいとしている。特許文献7のように、コート層の外周壁の細孔内に樹脂組成物が浸入している部分の厚さが90%以下と本発明よりも薄い場合は、こうした圧力損失や、熱履歴によるクラック発生という現象を招きやすい。
【0066】
また、本発明においては、樹脂組成物が外周壁6の細孔7内に完全に含浸し、一部が隔壁まで達していることから、その含浸状態の確認は目視で容易に行う事ができる。SEM(走査型電子顕微鏡)による観察などが必要無いので、手間がかからず品質管理上有利である。
ただ、樹脂組成物溶液が透明であると、塗布時の含浸状態はハニカムの濡れの有無を頼りに確認しなければならないし、更に溶液が乾燥した後は非含浸部分との見分けがより難しくなることがある。このような樹脂塗工部3の含浸状態の確認をより容易にするためには、樹脂組成物溶液を着色しておくことが好ましい。
【0067】
前記の通り、本発明のハニカム構造体では、ハニカム基材の外周壁が、隔壁と一体的に形成されたものが好ましいが、隔壁と別個に形成されたものであってもよい。ここで、「隔壁と別個に形成された」とは、ハニカム基材の製造工程において、ハニカム基材の外周壁となる部分の形成が、隔壁となる部分の形成よりも後に行われたことを意味する。
ハニカム基材の外周壁が、隔壁と別個に形成されている場合、外周壁の気孔率と隔壁の気孔率とは、同一でも異なっていてもよい。また、外周壁の平均細孔径と隔壁の平均細孔径とが同一でも異なっていてもよいし、外周壁の材質が隔壁の材質と同一でも異なっていてもよい。尚、ここで言う「気孔率」及び「平均細孔径」は、水銀ポロシメーターによって測定された値である。
しかし、いずれの場合も熱膨張率が同一であれば外周壁の気孔率は50%以上である事が好ましい。このような高気孔率のハニカム構造体の代表的な用途が、触媒を担持して使用するGPFである。本発明のハニカム構造体は、このようなGPFだけでなく、各種フィルターや触媒担体等にも広く使用することもできる。
【0068】
2.ハニカム基材の製造方法
本発明のハニカム構造体の材料となるハニカム基材は、市場からも入手可能であるが、公知の方法により製造でき、その一例を以下に示す。
ハニカム基材は、セラミック原料を含有する成形原料から作製される。セラミック原料は、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、焼成されコージェライトとなるコージェライト化原料、ムライト、アルミナ、シリカアルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート及びアルミニウムチタネートからなる群から選択される。これらの中でも、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れたコージェライト化原料、すなわち、シリカ:42〜56質量%、アルミナ:30〜45質量%、マグネシア:12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料が好ましい。
【0069】
成形原料は、前記のようなセラミック原料に、分散媒、有機バインダー、無機バインダー、造孔材、界面活性剤等を混合して調製される。各原料の組成比は、作製しようとするハニカム基材の構造、材質等に合わせた組成比とされる。
次に、成形原料を混練して坏土を形成する。成形原料を混練して坏土を形成する好適な方法としては、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
その後、格子状のスリットが形成された口金を用いて、坏土から、隔壁と外周壁が一体となったハニカム成形体を押出成形し、このハニカム成形体を乾燥する。好適な乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができ、誘電乾燥、マイクロ波乾燥、熱風乾燥を単独で又は組合せて行うことが好ましい。
【0070】
続いて、乾燥後のハニカム成形体(ハニカム乾燥体)を焼成して、ハニカム基材とする。この焼成(本焼成)の前に、ハニカム成形体中に含まれているバインダー等を除去するため、仮焼(脱脂)を行うことが好ましい。仮焼の条件は、ハニカム成形体中に含まれている有機物(有機バインダー、界面活性剤、造孔材等)を除去できる条件であればよい。一般に、有機バインダーの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるため、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
ハニカム成形体を焼成(本焼成)する条件(温度、時間、雰囲気等)は、成形原料の種類により異なり、その種類に応じて適当な条件を選択する。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1410〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、4〜8時間程度とすることが好ましい。仮焼、本焼成を行う好適な装置としては、電気炉、ガス炉等を挙げることができる。
【0071】
ハニカム基材に目封止部を形成するには、まず、作製したハニカム基材の端面にシートを貼り付ける。次いで、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開ける。次に、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカム基材の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填する。こうして充填した目封止用スラリーを乾燥した後、焼成して硬化させることにより、目封止部が形成される。目封止部の形成材料には、ハニカム基材の形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。尚、目封止部の形成は、ハニカム成形体の乾燥後、仮焼後あるいは焼成(本焼成)後の何れの段階で行ってもよい。
上記のように、ハニカムそのものは1000℃を超える極めて高い温度で焼成されて得られることから、本発明における触媒製造時の焼成温度や自動車に搭載時の熱履歴においても極めて安定である。
【0072】
ところで、前記特許文献4には、薄壁ハニカムを押し出し成形した後、焼成工程前にハニカムの角部を樹脂により補強するのが好ましいとしている。しかし、特許文献4では本願のように特殊なハニカム構造体の所定深さに樹脂組成物が含浸した樹脂塗工部を設け、触媒組成物の含浸を防ぐというような記載は無く、サーマルショックや圧損の問題を解決できるものでは無い。
【0073】
3.ハニカム構造体の製造方法(樹脂組成物による含浸)
本発明は、複数のセルを形成する隔壁と外側面である外皮部分とを有する、ハニカム基材の外皮部分に樹脂組成物を含む塗布液を付着させて、細孔内に樹脂組成物を十分に含浸し、乾燥・硬化してハニカム構造体を製造する方法である。
まず、ハニカム基材の外周壁に塗布する樹脂組成物溶液を調製する。塗布液の樹脂組成物溶液は、樹脂成分と溶媒と任意の添加剤からなる。
【0074】
樹脂成分としては、乾燥などによって固化するポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、寒天、ゼラチン、でんぷん、スクロース等が挙げられる。これらは、ポリマーを水溶媒に分散または溶解させたエマルジョンの形態で用いるのが好ましい。このような樹脂組成物は、単に水などの溶媒に溶解させるだけで溶液化でき、その分子量については特に限定されるものでは無く、親水成分や硬化用の反応成分を配合しなくても良いことは言うまでもない。
樹脂を溶液化する際の溶媒は水のほかに、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、トルエン、キシレンなどの有機溶剤などが使用できる。溶媒のなかでは水が最も好ましい。水であれば製造上の取扱いも容易で、揮発性有機溶剤のような局所排気設備の必要が無い。
有機樹脂は、エマルジョン全体の1〜50質量%、好ましくは3〜40質量%を必要とする。有機樹脂の濃度がエマルジョン全体の1質量%未満であるか、50質量%を超えると、樹脂の種類によらず、有機樹脂によるハニカム基材の外周壁6への含浸が不適切なものとなる場合がある。
【0075】
なお、水を溶媒とし有機樹脂をPVAとした場合、1〜50質量%の範囲でエマルジョンを調製できるが、PVAの濃度は2〜10質量%が好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。例えば、重合度が500〜4000のPVAを上記の濃度の水溶液としてハニカム基材に適用した場合、外周壁6への含浸が容易である上に、必要以上にハニカム中心軸線方向の隔壁4へ深く含浸されすぎることがない。
【0076】
本発明では、使用される樹脂組成物の溶液を特定の粘度に調整することが望ましい。ハニカム構造体の平均細孔径・樹脂組成物の接触角・表面張力が一定であると仮定した場合、含浸深さは、粘度の逆数の平方根に比例するというルーカス‐ウォッシュバーンの式が当てはまると考えられ、粘度によって含浸深さを制御できることになる。
好ましい含浸深さは、使用するハニカム構造体の種類やサイズなどによって適宜調整できるが、外皮の厚さよりやや大きい程度とすべきことから、粘度の範囲は5〜1000mPa・sが好ましく、さらに好ましくは10〜500mPa・sである。この粘度はB型粘度計を使用し、25℃、ずり速度(shear velocity)6.65/秒で測定した値であり、以下、本発明において特にことわりの無い限り同様である。また、樹脂組成物の粘度は平均重合度、添加剤、濃度、温度等によって調整できる。
【0077】
有機樹脂をPVAとし、溶媒を水とした場合、PVAの濃度はPVAの重合度を勘案して好ましい範囲に調整することが望ましい。すなわち、同一濃度であっても重合度が極めて小さいPVAでは水溶液としての粘度も低くなる傾向にあり、重合度が極めて大きいPVAでは粘度が高くなる傾向にある。従って、重合度の大きなPVAを採用する場合にはその濃度を小さくする必要があり、逆に重合度の小さなPVAを採用する場合にはその濃度を大きくする必要がある。
【0078】
このような傾向から、平均重合度が1,500〜2,500のPVAであれば、水溶液としての濃度は2〜10質量%であることが好ましく、3〜7質量%がより好ましい。
PVA濃度が低すぎると、外周壁の細孔の閉塞が不完全になり、PVA溶液がハニカム基材の軸線方向に深く浸み込んでセル壁に止まらず、触媒スラリーをセル壁の細孔に含浸させられないことがある。一方、PVA濃度が高すぎると、外周壁の細孔に対して含浸しにくく、PVA溶液が強い粘着性を示してPVA溶液の塗工が困難になることがある。本発明では、塗工装置として塗布ローラー(回転体)を使用する事が好ましいが、PVA濃度が高すぎるとハニカム基材と回転体が固着して回転塗工が出来なくなることがある。
【0079】
更に、PVAの好ましい平均重合度と濃度において、温度と粘度変化による塗布性への影響を検討する。PVA濃度が高いときには温度の下降と共に粘度の上昇がみられ塗布性が低下し、前述の濃度が高いときと同様の塗工不良を生じることがある。一方、PVA濃度が低いときには温度変化に対して大きな粘度変化を生じ難く取り扱い易くなる。
【0080】
例えば、PVA水溶液が8質量%を超える濃度で35℃における粘度が約300mPa・sであった場合でも、温度が下がり10℃になると粘度が約800mPa・sになることがある。このように温度の変化に対して粘度が変化するので、夏季と冬季の製造時の気温差によって生産されるハニカム構造体の外皮への樹脂含浸度に大きな影響を与え、安定した生産が困難になることがある。
これに対して、PVA濃度が7質量%では、35℃における粘度が約100mPa・sであるが、温度が下がり10℃になっても粘度は約200mPa・sと変化が小さく、塗布ローラー(回転体)を使用した装置でも確実かつ適切な塗工が可能である。そして、このようなPVA濃度を低くした場合の温度低下による粘度変化は鈍感な傾向があり、PVA溶液の塗工は安定する。
【0081】
塗布液の樹脂成分としては、上記の他に、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂またはポリウレタン樹脂などの有機樹脂も使用できる。
なお、このような樹脂組成物は、単に水などの溶媒に溶解させるだけで溶液化できるものであれば、その分子量については特に限定されるものでは無く、親水成分や硬化用の反応成分を配合しなくても良いことは言うまでもない。
ただ、加熱により二重結合の部分が反応して硬化する成分を用いた樹脂組成物や、紫外線照射により反応し硬化する成分を用いた樹脂組成物は、ハニカム構造体に含浸させてから加熱あるいは光照射して硬化させなければならず、設備や処理工程が複雑でコスト負担もかかるため好ましくない。
【0082】
また、樹脂成分として、常温で固体の有機樹脂を主成分としたもの、例えば高分子量で親水性のないワックス、有機系顔料などを使用する場合、そのままではハニカムへの塗布が難しいことがある。ハニカムの外皮からマクロな細孔内に被膜形成成分が浸入しにくい場合には塗りむらが生じ、触媒スラリーの浸みを抑制しにくいためである。しかし、このような樹脂成分であっても、加熱し水や有機溶剤などの媒体に分散または溶解させるなどの工夫をとれば使用することができる。
【0083】
このように有機樹脂の種類を選び、適切に粘度調整を行うなどの操作を行うことで、外皮への含浸深さが制御されるから、後で触媒組成物のスラリーでハニカム構造体を被覆処理した場合に、触媒組成物が隔壁に密着できる面積が減少するような事が無い。
【0084】
溶媒は水であれば、安全かつ低コストであるが、有機溶媒のアルコールなどを用いても良い。その後の乾燥・硬化容易性や安全性を考慮すれば、沸点の低いエタノールがより好ましい。
また、樹脂組成物の水溶液には、前記樹脂成分と水のほかに、樹脂成分の種類に応じて分散剤や防腐剤、pH調整剤などの添加剤を配合することができる。さらに、樹脂ワニス、増粘剤、湿潤剤、造膜助剤、硬化剤、着色剤等を適宜含むことができる。
【0085】
樹脂ワニスとしては、例えば、水性シェラックワニス、水性カゼインワニス、水性ロジンマレイン酸樹脂ワニス、水性ポリエステル樹脂ワニス、水溶性セルロースワニス等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びウレタン樹脂等が挙げられ、湿潤剤としては、例えば、アルキルアルコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられ、造膜助剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0086】
なお、上記の有機樹脂の溶液は、少量であれば無機フィラーを含んでもよい。無機フィラーとして、チタニア、アルミナ、シリカなどを含有してもよいが、有機樹脂の量は、ハニカム外表面への付着量とセル外皮のマクロポアへの封入量の合計が、材料全体の少なくとも90質量%であるのが好ましい。したがって、無機フィラーの量は10質量%以下とするのが好ましく、5質量%以下がより好ましい。無機フィラーが10質量%を超えるほど多量であると、セル内のマクロポアに浸入したものが、触媒担持後にも残存して細孔を小さくすることがあり圧損やクラックを招く要因ともなる。このような懸念がある場合は無機フィラーを含有しない方が望ましい
【0087】
次に、この樹脂組成物溶液をハニカム基材の外周壁の外側表面に塗布し内部に含浸させる。このような樹脂組成物溶液の塗布は、特に限定されるものでは無いが、樹脂組成物溶液の塗布に当たっては、塗布部位にローラーを接触させることで、有機樹脂を含むスラリーを外周壁全域の細孔内に浸入させ、外周壁を完全に含浸させることができる。なお、このような塗布液による樹脂塗工部形成時には、樹脂塗工部の形成をより確実なものにするため、外周壁だけでなく、それに隣接するセルからその軸線方向内部の隔壁にも樹脂組成物溶液を含浸させ樹脂塗工部を形成させても良い。
【0088】
本発明において、樹脂組成物は、ハニカム基材の外周壁の外側表面の全体(全域)に塗工される。全体に塗工されないと、所定の量の樹脂が含浸している部位と樹脂の含浸不足な部位とで膨張率の差が生じ、様々な熱履歴によるクラックを誘発し易くなる。このようなクラックの誘発は、触媒化された後のハニカムにおいても同様である。また、一部でも樹脂組成物の含浸されない箇所(未含浸部)があると、ハニカム構造体を触媒化する際に、触媒スラリーが未含浸部から浸出してしまう事があり、貴金属を使用した触媒の無駄、また、触媒担持工程における作業性の悪化を招く事がある。
【0089】
本発明において、ハニカム基材に樹脂組成物を含浸被覆する方法は、特に限定されるものでは無いが、樹脂組成物溶液を含浸させた多孔質なローラーをハニカム基材の外皮部分に回転接触させることで含浸被覆させることができる。その一例としては、塗布部位に接触させるローラーは、ハニカム基材を回転させる駆動機能および/または前記外皮部分に塗布液を塗布する塗布機能を有するものである。
すなわち、本発明においては、駆動機能および塗布機能を有するローラー(「駆動・塗布ローラー」)か、または駆動機能を有するローラー(「駆動ローラー」)と塗布機能を有するローラー(「塗布ローラー」)とを組み合わせるのがよい
塗布ローラーの材質は、限定されないが、最外面がスポンジ状材料で形成されているものが好ましい。スポンジ状材料としては、前記と同様、ウレタンフォーム、ポリビニルアルコール、セルロース系、ゴム系、シリコン系または不織布などを好適に用いることができる。
【0090】
塗布ローラーの形状は、ハニカム基材の形状とも関係するが、通常、断面形状が円形であると塗布液を均一に塗布しやすいが、断面楕円形のものでも塗布が可能である。
また、塗布ローラーの長さは、ハニカム基材の大きさと同等かやや長めとする。ハニカム基材よりも短尺であると、ハニカム基材の一部にしか塗布されない。
塗布液は、樹脂成分が高分子量であり、その前駆体にしても単独では塗布しにくいことから、溶媒に分散または溶解した状態で用いるようにする。
【0091】
塗布液を用いてハニカム基材へ外皮膜を形成するには、まず、ハニカム基材を、二本の駆動・塗布ローラー上に載置して、ハニカム基材の外周側面を接触させる。該ローラーは、有機樹脂を含む塗布液が蓄えられた液浴に下端部が漬けた状態とする。
駆動・塗布ローラーの少なくとも最外面がスポンジ状材料で形成されておれば、塗布液が満たされた液浴に浸漬させることで塗布液がローラーに付着して塗布部位を形成する。
【0092】
この状態で駆動・塗布ローラーを駆動回転させると、ハニカム基材も回転し、少なくとも一回転したとき、駆動・塗布ローラーに付着した有機系被覆液がハニカム基材の外周全体に被覆される。回転数は例えば1〜10回、好ましくは1〜5回とする。
この場合、駆動・塗布ローラーの回転速度は、ローラーのサイズ・樹脂材料の種類にもよるが、例えば、0.1〜100rpmとし、1〜30rpmが好ましい。回転速度が小さいほどハニカム基材外皮部分への塗布液の付着量、細孔内への浸透量も増え、外皮部分を貫通する細孔に十分に封入される。回転速度をさらに小さくすれば、ハニカム基材の表面から外皮部分を経てセル方向へ浸透する液量が増え、細孔からあふれ出た液が隣接する内部のセル壁にも達するようになる。
【0093】
通常、有機樹脂の濃度が低いほど塗布操作は容易であり、ハニカム基材への含浸深さも深くなる。しかし、ハニカム基材が十分に乾燥していれば、細孔が溶媒である水を吸収するため水溶性有機樹脂の粘度が高くなって、含浸が深くなりすぎないという作用効果も期待できる。
これは有機樹脂がPVAである場合も例外ではないが、例えば1質量%未満のように希薄すぎると、ハニカム基材に深く含浸されすぎて、その後に触媒化したとき、触媒スラリーによるセル隔壁への触媒担持量が減る事が有る。また外周壁の細孔の閉塞が不完全になって触媒スラリーの浸入を許してしまい、サーマルショックや圧損の増加を生じてしまう事が有る。
逆に有機樹脂の量が多すぎて、例えばPVAの場合、10質量%のように高濃度液であると、ハニカム基材全域に含浸されにくくなり樹脂層が外壁内側の浅いところに留まるので、触媒製造工程で触媒スラリーが外壁の細孔に入り込んで担持されてしまうため、本発明の課題であるサーマルショックによる割れが生じやすくなる。
【0094】
このような樹脂塗工部形成の制御には、樹脂組成物の塗工量を制御すれば良いが、例えば、樹脂組成物溶液の塗布を行うローラーを外周壁に押し付ける圧力や、ローラーの回転数、ローラーの気孔率、ローラーの気孔の大きさ、ローラーを外周壁に接触させる時間等によって、適宜制御を行うことができる。
【0095】
樹脂成分を含む液が塗布されたハニカム基材は、次に乾燥(硬化)工程へと進める。乾燥(硬化)工程は、雰囲気や温度などによって限定されるものではないが、大気圧もしくは減圧下、0〜200℃の温度で行うことができるが、室温で行うことが好ましい。必要により空気を表面に当てたり、減圧したりしても良い。加熱温度は、樹脂の種類によっても異なるが、50〜200℃が好ましく、100〜180℃がより好ましい。
また、ハニカム基材の乾燥では、塗布された樹脂成分の液が完全に乾燥することが好ましい。そのための乾燥条件は温度や湿度、通風の有無などにより異なるが、室温であれば2時間以上、より望ましくは5時間以上かけて乾燥させることが好ましい。
【0096】
これにより、水分が減少した樹脂成分の硬化物(固化物)となって、ハニカム構造体に定着する。こうしてハニカム基材の外周壁の内部の細孔に、樹脂組成物が十分に含浸された樹脂塗工部を有する本発明のハニカム構造体が得られる。一方、非水溶性樹脂を用いた場合、熱可塑性のロウやワックスでは、塗工時に加熱装置が必要で、塗工後の冷却が緩やかで保管中に温度が上がるとハニカム内部で徐々に奥へと浸透していき、当初の含浸深さが変わってしまうことがあるので取り扱いに留意する。
【0097】
なお、このように樹脂組成物がハニカム基材の外周壁の内部の細孔はもちろん、隣接するセル隔壁にまで達するほど深く含浸できるメカニズムは、まだ完全には解明されていないが、毛細管現象によると考えられるため、ハニカム基材と樹脂を含む溶剤との表面張力が関係すると推測できる。また、溶液粘度が低いほど深く含浸でき、有機樹脂が水などの溶媒に分散しやすいと、細孔内に浸入しやすい。その後、乾燥すると水分が容易に排除されて、細孔の内部にて薄い樹脂膜を形成し、固化した状態では触媒組成物スラリーがセル内に入ってきても、十分にハニカム基材と密着しており、セル隔壁や外周壁内部への触媒組成物スラリーの浸入を阻止する働きを示すものと推定される。
【0098】
4.排気ガス浄化触媒
本発明のハニカム構造体は、その後、触媒を担持させることでハニカム構造型触媒となる。ハニカム構造型触媒の製造は、貴金属等の触媒を含む触媒スラリーを、吸引法等の従来公知のウォッシュコート法を用いて、隔壁の表面や細孔に付着させた後、400〜600℃で焼成処理を施して、触媒スラリーに含まれる触媒を隔壁に焼き付けることで行われる。
【0099】
例えば、ガソリン車排気ガス浄化触媒では、ハニカム構造体を担体とし、セル内にNOx、CO、炭化水素を浄化する三元触媒(TWC)の触媒成分を担持する。三元触媒(TWC)は、プラチナ、パラジウム、ロジウム等の貴金属を主とする活性成分を無機酸化物粒子に担持させた排気ガス浄化触媒であって、一つの触媒で排気ガス中に含まれる炭化水素は水と二酸化炭素に酸化され、一酸化炭素は二酸化炭素に酸化され、窒素酸化物は窒素に還元され浄化することができる。なお、このような触媒はTWC一つであっても良いが、その前後に一つ以上の触媒を配置して複数個使用しても良い。
【0100】
図1のように本発明のハニカム構造体1は、ハニカム基材2の隔壁4に触媒を担持して使用され、担持させる貴金属の担持量は、ハニカム構造体1の単位体積当たり、0.3〜3.5g/Lとすることが好ましい。
【0101】
貴金属等の触媒は、予めアルミナのような比表面積の大きな耐熱性無機酸化物に一旦担持させた後、ハニカム基材2の隔壁4に高分散状態で担持させることが好ましい。耐熱性無機酸化物としては、アルミナ以外にセリア、ジルコニア、あるいはこれらの複合酸化物、ゼオライト等を用いることもできる。
【0102】
アルミナなどの無機粒子に担持された貴金属触媒は、所定の粒径に粉砕され、水媒体などと混合されスラリー化されて、一層または二層でハニカムに担持される。触媒スラリーには、耐熱性を向上させる成分、酸素を吸蔵し放出する成分として、ジルコニア、セリア、La,NdやPrなどの元素を含む酸化物なども配合できる。
【0103】
本発明における触媒組成物のスラリーは、無機粒子の粒度で限定されるものではないが、
図4のように、少なくとも一部が隔壁4の細孔内部に浸入出来ることが好ましい。このような触媒組成物13のスラリーは、その粒度分布における小粒径側からの累積分布が90%となるときの粒子径D90が5μm以下となるように、ボールミルなどで微粒子化されていることが好ましく、D90が3μm以下であるのがより好ましい。このようにD90が5μm以下であることで、隔壁4の細孔7内部へ、適切な量の触媒成分が浸入可能になる。これによりウォールフローハニカムを使用したGPFでは、排ガス中の有害成分と共に煤等の微粒子成分も充分に浄化され、圧力損失を招く事も無い。
【0104】
ウォッシュコート法の基本原理は、次の2つの工程要素からなる。「ハニカム構造体のセル内部に触媒組成物のスラリーを導入する工程(以下、「導入工程」ということがある)」と、「セルに導入された触媒組成物のスラリーのうち、余剰のスラリーを除去する工程(以下、「除去工程」ということがある)」である。この導入工程、除去工程ともに、ハニカムのセルに圧力操作を加えて触媒スラリーの吸引、並びに除去を行うことが一般的である。
【0105】
この様なウォッシュコート装置の一例には、特表2011−529788号公報に記載されたようなものがある。ここで用いられる装置では、ハニカム構造体の外周部を空気で膨らませたべローズ(「バルーン」ともいう)で把持し、触媒成分を含むスラリーが入った浸漬パンに漬け吸引し、引き上げた後、エアーを吹き付けて余剰スラリーを除去するが、この吸引、除去操作の圧力によって、触媒組成物13のスラリーが隔壁4へ浸入する。なお、この後でハニカム構造体が反転され、再び吸引、除去操作が行われる。
【0106】
本発明のハニカム構造体を用いて、触媒組成物スラリーをウォッシュコートする場合、GPF用のウォールフロー型ハニカムであれば、その被覆量はハニカム構造体の単位体積当たり10〜200[g/L]であることが好ましく、30〜100[g/L]がより好ましい。触媒量が10[g/L]以上であれば排ガス中の微粒子成分と共にCO,HC,NOxについて優れた浄化性能が期待でき、200[g/L]以下であればウォールフロー型ハニカムのフィルターとしての機能に阻害する事が無い。
【0107】
GPFでは、排気ガスに含まれる微細な粒子状物質を除去するために、ハニカム外壁に大きな細孔(マクロポア)が存在し、セル内から外部へと連通した箇所も存在する。このような箇所では、外皮の空隙からスラリー液が浸み出しやすい構造になっている。
スラリーの成分には、触媒材料をセル内に被着しやすくする粘着性の物質も含まれており、本発明のような樹脂による樹脂塗工部3を設けていないハニカム構造体を用いた場合には、外周壁6から多量の触媒スラリーが浸み出し、それがウォッシュコート法においてハニカム構造体を把持するバルーンに固着する問題があった。また、触媒製造時に正確な触媒担持量の制御が出来なくなり、浸みだした触媒組成物13のスラリーは、ハニカム構造体における排ガス浄化に有利な表面であるセル隔壁への担持量が減り、高価な貴金属を無駄にすることになる。
【0108】
外周壁の外側表面への触媒スラリーの浸み出しの問題は、気孔率が50%以上であるような高気孔率のハニカム構造体で顕著となる。よって、本発明は、気孔率が50〜80%のハニカム基材を用いた場合でも、ハニカム構造体が上述した有機樹脂を含む樹脂塗工部を有するので、セル内に触媒成分を被覆する工程で、該ハニカム構造体の外周に触媒成分含有液が浸出にくくなり、粘着成分を含む液による弾性把持治具との固着を抑制し、脱離作業に支障をきたさない。
【0109】
このハニカム構造型触媒製造の焼成工程時に、本発明の樹脂塗工部を形成したハニカム構造体の樹脂組成物が焼失する。樹脂組成物が焼失することで、外周壁には塞がれた細孔が再び現れ、触媒組成物が被覆されたセルの隔壁と共に、高い通気性を有する外周壁が形成される。
このようにして触媒化された本発明のハニカム構造型触媒を模式的に
図4に表す。
図4中、触媒組成物13は、隔壁の表面に担持される場合、また隔壁4の細孔7内部に含浸担持する場合、またその両方の担持状態をとる場合がある。また、触媒組成物13が隔壁4表面に担持される場合、その表面全体に一様に触媒組成物13の層が形成されていても良く、
図4に示したように一部が隔壁4の細孔7内部に浸入することで、必ずしも隔壁4の表面に担持されなくても良い。細孔への触媒の浸入深さも浅くて構わない。
このような触媒組成物13の様子は、
図4の部分拡大図である
図5に模式的に表される。
図5では隔壁4の細孔7内部に触媒組成物13が浸入している例を表している。
図5では、細孔7が触媒組成物13で充填されているように見えるが、実際には細孔の全てが完全に充填されていることは無く、ウォッシュコートのエアーブロー工程において加圧空気が流通し、隔壁内には排ガスが通気可能な程度の空隙が存在するように触媒組成物が浸入した状態となっている。このような状態で触媒組成物が浸入していることで、ハニカム構造型触媒はフィルターとしても作用し、GPFとして使用した場合に優れた排ガスの浄化性能を発揮することができる。
【0110】
本発明のハニカム構造体であれば、外周壁6の細孔7が樹脂組成物8によって、その全域にわたり閉孔されており、ウォッシュコート法により被覆した触媒組成物13を焼成して隔壁4に定着させる際に樹脂組成物8が焼失し、外周壁6の細孔7は開口し、触媒化による圧力損失を抑制したハニカム構造型触媒が得られる。また、このように外周壁6に無機酸化物粒子を含む触媒組成物13が浸入していないことで、自動車に搭載して走行した際の熱履歴の変動によつクラックの発生が極めて少ないハニカム構造型触媒を得ることができる。
【0111】
なお、本発明のハニカム構造型触媒の外周壁には、そのアイソスタティック強度を向上させる材が含まれていないため、自動車に搭載して実際に走行する事を想定すると、強度不足が懸念される場合がある。このような強度不足に対しては、本発明の触媒を自動車に搭載する際に、適切な緩衝材を選択し、それをもって充分に触媒外周壁の周りを覆い、走行時の衝撃が直接触媒に伝わらない様に充分な対策を施す事が好ましい。このような緩衝材は特に限定されるものでは無いが、外周壁における通気性を著しく阻害するような材は選択すべきではなく、金属や無機酸化物からなる耐熱性の繊維をもって構成された綿状の緩衝材やメッシュ形状の緩衝材、またバネ状の緩衝材が選択される。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
(ハニカム基材)
ハニカム構造体の基材として、NGK社のコージェライト製ウォールフローハニカムを用意した。その詳細は以下のとおりである。
・気孔率:外周壁、隔壁共に65%
・平均細孔径:水銀圧入法による体積平均で20μm
・隔壁厚さ:10mil(約0.3mm)
・セル密度:300cel/inch
2(約46.5cel/cm
2)
・直径:4.66inch(118.4mm)
・長さ:5inch(127mm)
【0114】
(評価)
ハニカム構造体は、触媒スラリーでウォッシュコートしたが、エアーブロー工程で、外周壁にスラリーが浸み出した場合は浸出しあり(×)、スラリーの浸出しがなかった場合は浸みなし(〇)と評価した。
その後、150℃で2時間乾燥した後、450℃で焼成してハニカム構造型触媒を調製した。その後、自動車に搭載された際の状況を想定して580℃の電気炉に20分入れた後、炉外に取出し、室温で1時間放置しサーマルショックテストを実施した。
サーマルショックテストでは、ハニカム構造型触媒の表面を目視し、クラックの有無を確認したうえで、クラックが目視できなかったものについても打音によりクラックの有無を確認した。打音については、樹脂によるコート層形成前のウォールフローハニカムの打音と比べて、濁った音がしなかったものをクラックなし(〇)、濁った音がしたものをクラック有り(×)と評価した。なお、外周壁にスラリーが浸み出した場合は浸み出したスラリーを拭い取った後に乾燥、焼成を行い同様の評価を行った。
なお、サーマルショックテストの評価だけでなく、ハニカム構造体の調製時の環境面や作業容易性も加味して、総合評価を行い、良好であったもの(〇)と、特に良好であったもの(◎)を合格、それ以外を不合格(×)とした。
【0115】
[実施例1]
(1.ハニカム基材への樹脂組成物の含浸)
まず、平均重合度1900のポリビニルアルコール(PVA)を水に溶かし、5質量%の樹脂組成物溶液を樹脂塗工部形成用液として調製した。樹脂組成物溶液の粘度(B型粘度計により25℃で測定)は6mPa・sであった。
次に、塗布装置の液浴に樹脂組成物溶液を入れ、二本の塗布・駆動ローラーの上にハニカム基材を、互いの円周側面同士が接触するように載置し、塗布・駆動ローラーの下方を樹脂組成物溶液に接触させた。その後、塗布・駆動ローラーを回転速度60rpmで回転させて常に樹脂組成物溶液を供給しながら、塗布・駆動ローラーの塗布部位から樹脂組成物溶液をハニカム構造体表面に塗布した。
ハニカムの両端面から目視で確認すると、樹脂組成物溶液が全て外周壁に含浸され、外周壁軸線方向の内側の1セルを超える深さ(含浸深さは約2mm、概ね1〜2セル)まで樹脂塗工部含浸していることが確認できた。樹脂組成物溶液による樹脂塗工部(PVA)は、ハニカム基材の外周壁の外側表面の全域に15g/Lとなる量で塗布されたことになる。尚、樹脂塗工部形成用液の塗布は、ローラーをハニカム基材の外周壁に押し付ける圧力や、ローラーの回転数等によって、塗布量を制御することができる。
ハニカム構造体を乾燥させると、樹脂組成物であるPVAは、全て外周壁に含浸されてしまい、外周壁表面上にPVA単独の層を形成していなかった。このような樹脂塗工部を有するハニカム構造体であれば、スラリーの浸み出しが抑制される。結果を表1に示す。
【0116】
樹脂組成物溶液樹脂塗工部の塗布量は、液の粘度を調整することでも制御することができる。10℃における平均重合度1500のPVA水溶液と、平均重合度2500のPVA水溶液、いずれの場合でも濃度を約3〜7質量%とすることで、粘度が約200mPa.sの樹脂組成物溶液を調製することができ、これを樹脂塗工部形成用液として用いて、上記と同様にハニカム基材に塗布すると、含浸深さは約2mmとなった。樹脂組成物であるPVAは、全て外周壁に含浸し、セル隔壁まで達しており、ハニカム構造体を乾燥させると、外周壁表面上にPVA単独の層を形成していなかった。このような樹脂塗工部を有するハニカム構造体であれば、スラリーの浸み出しが抑制される。
【0117】
一方、10℃における平均重合度1500のPVA水溶液と、平均重合度2500のPVA水溶液、いずれの場合でも濃度を約2質量%以下とすることで粘度が約5mPa.sの樹脂組成物溶液を調製することができ、これを樹脂塗工部形成用液として用いて、上記と同様にハニカム基材に塗布すると、含浸深さは約7mmとなった。樹脂組成物であるPVAは、全て外周壁に含浸し、セル隔壁まで達しており、ハニカム構造体を乾燥させると、外周壁表面上にPVA単独の層を形成していなかった。このような樹脂塗工部を有するハニカム構造体であれば、スラリーの浸み出しが抑制される。ただ、含浸深さが長すぎて、樹脂がさらに奥側のセルまで達しているために、触媒組成物が担持される有効面積が低下してしまう。
【0118】
(2.ハニカム構造型触媒の製造)
まず、三元触媒であるRh,Pdを担持したアルミナ、セリア、ジルコニアを含む触媒組成物を用意し、水と混合しスラリー化した後、粒度分布における小粒径側からの累積分布が90%となるときのD90が3μmとなるようにボールミルで粉砕して触媒スラリーを調製した。
次に、上記1.で得られた樹脂塗工部が設けられたハニカム構造体に、ウォッシュコート法をもって、下記の条件で、三元触媒であるRh,Pd、アルミナ、セリア、ジルコニアを含む触媒組成物スラリーを被覆した。ハニカム単位体積あたりのウォッシュコート量は60g/Lとした。ハニカム構造体の端部をバルーンで把持して液浴に漬け、引き上げてから反転させた後、スラリー除去工程でエアー圧力:15psi(0.1MPa)で3秒間エアーブローを行った。エアーブロー時にハニカム構造体を観察したが、外周壁への触媒組成物スラリーの浸み出しはなかった。
その後、触媒組成物で被覆されたハニカム構造体を150℃で2時間乾燥させ、引き続き450℃で3時間焼成した。得られたハニカム構造型触媒に対して、前記の要領でサーマルショックテストを行った。ハニカム構造体の場合と同様に濁った音はなく、クラックの発生はないと判断できた。結果を表1に示す。
【0119】
[実施例2]
実施例1で用いたポリビニルアルコールに代え、アクリル樹脂(水性ニス:和信ペイント株式会社製)を用い、それ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物の樹脂塗工部を有するハニカム構造体を調製した。
ハニカムの両端面から目視で確認すると、実施例1と同様に樹脂組成物溶液が全て外周壁に含浸していることが確認できた。樹脂組成物溶液(アクリル樹脂)は、ハニカム基材の外周壁の外側表面の全域に約8g/Lとなる量で塗布されたことになる。
ハニカム構造体を乾燥させると、樹脂組成物であるアクリル樹脂は、全て外周壁に含浸されてしまい、外周壁表面上にアクリル樹脂単独の層を形成していなかった。このような樹脂塗工部を有するハニカム構造体であれば、スラリーの浸み出しが抑制される。結果を表1に示す。
【0120】
こうして得られたハニカム構造体を用いて、実施例1と同様にして、ハニカム構造型触媒を得た。実施例1と同様、エアーブロー時に外周壁からのスラリーの浸みだしは確認されなかった。
その後、150℃で2時間乾燥させ、引き続き450℃で3時間焼成した。得られた触媒に対して、前記の要領でサーマルショックテストを行った。ハニカム構造体の場合と同様に濁った音はなく、クラックの発生はないと判断できた。結果を表1に示す。
【0121】
[実施例3]
実施例1で用いたポリビニルアルコールに代え、ロウ(is−fit(登録商標)液体靴クリーム:モリト株式会社製)を用い、この樹脂組成物溶液を塗布ローラーの内部に充填した。次に、二本の駆動ローラーの上にハニカム基材を、互いの円周側面同士が接触するように載置し、塗布ローラーをハニカム基材の上から押し付け、回転させながら樹脂組成物溶液をハニカム基材の外表面に付着させ、樹脂組成物の樹脂塗工部を有するハニカム構造体を調製した。
ハニカムの両端面から目視で確認すると樹脂組成物溶液が全て外周壁に含浸され、実施例1同様に外周壁軸線方向の内側の1セルを超える深さまで含浸していることが確認できた。樹脂組成物溶液(ロウ)は、ハニカム基材の外周壁の外側表面の全域に15g/Lとなる量で塗布されたことになる。
ハニカム構造体を乾燥させると、樹脂組成物であるロウは、全て外周壁に含浸されてしまい、外周壁表面上にロウ単独の層を形成していなかった。このような樹脂塗工部を有するハニカム構造体であれば、スラリーの浸み出しが抑制される。結果を表1に示す。
【0122】
こうして得られたハニカム構造体を用いて、実施例1と同様にして、ハニカム構造型触媒を得た。実施例1と同様、エアーブロー時に外周壁からのスラリーの浸みだしは確認されなかった。
その後、150℃で2時間乾燥させ、引き続き450℃で3時間焼成した。得られた触媒に対して、前記の要領でサーマルショックテストを行った。ハニカム構造体の場合と同様に濁った音はなく、クラックの発生はないと判断できた。結果を表1に示す。
【0123】
[比較例1]
実施例1において使用したと同様なウォールフローハニカムを用い、樹脂組成物を塗布せず、実施例1と同様にウォッシュコート法をもって触媒組成物のスラリーを被覆した。
実施例1とは異なり、ハニカム基材に樹脂組成物を塗布しなかったので、製造時のハニカム構造体には樹脂塗工部が形成されていない。そのため、ウォッシュコートの際、スラリー除去工程でエアーブローすると、ハニカム構造体の外周壁から表面へと触媒組成物スラリーが激しく浸み出した。
また、得られた触媒は、サーマルショックテストで濁った音が生じたことから、クラックが発生したと評価された。この結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
「評価」
上記の結果を示す表1から、本発明の実施例1〜3によれば、ハニカム構造体は樹脂組成物による樹脂塗工部が形成されており、樹脂組成物であるPVA,アクリル樹脂、ロウは、いずれも全てハニカム外周壁全域の細孔内に含浸され、うちPVAとロウはセル隔壁の一部にまで達したため、このような樹脂組成物によって形成されるハニカム構造体の樹脂塗工部によって、エアーブロー工程での外周壁への触媒スラリーの浸み出しが抑制されている。これを用いて得られたハニカム構造型触媒は、サーマルショックテストでクラックの発生がないことが確認されているので、GPFとして有効に使用できる。樹脂組成物であるPVA,アクリル樹脂、ロウは、いずれも有効であるが、使用条件を総合的に判断するとPVAが最も良好であった。
【0126】
これに対して、比較例1ではハニカム構造体をそのまま用いており、樹脂組成物による樹脂塗工部を形成しなかったので、触媒スラリーが激しく浸み出している。このようなハニカム構造型触媒は、サーマルショックテストでクラックの発生が確認されているので、GPFとして使用できない。