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特許6918900船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918900
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造
(51)【国際特許分類】
   B63B 3/32 20060101AFI20210729BHJP
   B63B 3/28 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   B63B3/32
   B63B3/28
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-205270(P2019-205270)
(22)【出願日】2019年11月13日
(65)【公開番号】特開2021-75227(P2021-75227A)
(43)【公開日】2021年5月20日
【審査請求日】2019年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】100090044
【弁理士】
【氏名又は名称】大滝 均
(72)【発明者】
【氏名】宗近 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】宇野 洋平
【審査官】 伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−035584(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 3/32
B63B 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)とDeck(甲板)との接合端部の船体横方向における中心位置にのみ配置する開口及びその背後にHold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)端部全幅に渡り船体縦方向に貫通する貫通孔とを有することを特徴とする船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造。
【請求項2】
前記開口は、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)の中心とDeck(甲板)との交差部を中心とする第一の曲率(r0)の円に内接する頂上円弧を有し、かつ、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)とDeck(甲板)5との接合端部の中央に所定の接合幅及びその接合幅からソフトヒール幅位置の垂線に内接する円を繋いだ開口下部円弧を有する楕円状の開口であることを特徴とする請求項1に記載の船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造。
【請求項3】
前記貫通孔は、断面右上部が第二の曲率(r1)で線c及び線dに内接する円弧、断面中部が第三の曲率(r2)で線a及び線cに内接する円弧、断面下部が第四の曲率(r3)で線a及び線bに内接する円弧を有する貫通孔断面であることを特徴とする請求項1に記載の船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造。
(線aは、HolD Web Frameに発生する主応力が約60N/mm2以下の位置の垂線、線bは、ソフトヒールの立ち上がり厚の水平線、線cは、Deck(甲板)の表面から貫通孔内部の溶接作業が可能な位置の水平線、線dは、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)先端の板厚の垂線。)
【請求項4】
前記線aが、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)の表面から165mm位置の垂線、前記線cが、Deck(甲板)の表面から265mm離れた水平線であることを特徴とする請求項3に記載の船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の Web Frameとは、貨物積み込み艙内の大骨断面に配置する大型構造材(いわゆる「桁材」)をいい、Hold Web Frameとは、そのうち横方向に配置される大型構造フレーム(いわゆる「横肋骨」)をいう。
この種の船舶のHold Web Frame(以下、「艙内横肋骨」とも称する。)配置に関するものとしては、特開平9−109989号公報の開示が知られている。特開平9−109989号公報の開示は、発明名称「船舶の横肋骨の配置方法」に係り、「・・縦強度、横強度および局部強度に耐えうるとともに、船殻部材の部品数や船殻重量の最適化を可能とする船舶の横肋骨の配置方法を提供する」発明解決課題において(同公報明細書段落番号0006参照)、「船倉内に横肋骨を配置した船舶であって、その船体に必要な縦強度、横強度および局部強度を有する船側外板の板厚から、予め求めておいた船側外板の板厚と横肋骨の間隔との関係曲線を利用して横肋骨の要求間隔を導き出し、その横肋骨の要求間隔に基づいて船倉内に横肋骨を配置する」構成とすることにより(同公報特許請求の範囲請求項1の記載参照)、「船側外板の板厚に応じた間隔となるように横肋骨を配置しているため、縦強度、横強度および局部強度に耐えうるとともに、船殻部材の部品数や船殻重量の最適化を可能とし、船殻部材の部品数の削減、船殻重量の減少を図ることができる。また、船殻部材の部品数や船殻重量が最適化されることにより、塗装面積を減少することができるので、塗料の削減や塗装のために施す板の縁のグラインダー掛け部分を減少することができる。また、横肋骨の減少により、溶接する箇所も減少することができる。さらに、これらの効果から、船体の組立の工期を短縮することができる、などの優れた効果を有する。」との効果を奏するものである(同公報明細書段落番号0015、0016参照)。
【0003】
一方、船舶の応力低減構造に関しては、例えば、特開2005ー178447号公報に開示のものが知られている。図6図7は、同公報に図1として添付される開示発明の実施形態にかかる船体構造を適用したタンカーの中央部横断面から前方を見た状態を部分的に示す斜視図及び同公報に図3として添付される開示発明の一実施形態の外板1と桁5との接合部の一部を拡大して上から見た平面図である。図6図7において、符号101は、外板、103は、タンク壁、105は、桁、107は、隔壁、108は、ウエブ、109は、ロンジ、110は、フェイス、111は、ウェブスチフナ、113は、短辺、115は、長辺、117は、自由端、119は、えぐり部、121は、円弧部、123は、直線部、125は、ヒール、A、Bは、えぐり部19のフェイス10側の円弧部121の円弧、Cは、Bから自由端117に合流する直線部123の直線部である(なお、符号は、先行技術であることを明らかにするために、本願出願人において、3桁に変更して説明した。)。
【0004】
図6及び図7で示される特開2005ー178447号公報の開示は、発明名称「船体構造」に係り、「資材、加工工数の増加がなく応力緩和を行えるウェブスチフナを備えた船体構造を提供することを目的とする」発明解決課題において(同公報明細書段落番号0005参照)、「皮材に、船の長さ方向に延在するように多数取り付けられたロンジと、船の横断方向に設けられた桁、隔壁等の大骨と、前記ロンジのフェイスに短辺が接合され、前記大骨に長辺が接合されて、これらロンジおよび大骨を接合する長方形状のウェブスチフナと、を備えた船体構造において、前記ウェブスチフナの前記大骨に接合された長辺と反対側の長辺で、前記フェイスに近い位置に、滑らかな線で内側に向かって形成されたえぐり部が設けられている」構成とすることにより(同公報特許請求の範囲請求項1の記載等参照)、「・・疲労強度が向上する。また、このウェブスチフナを特別な疲労強度対策を施していない箇所に採用すると、同部の疲労強度が向上するので、船体構造全体の疲労寿命に対する信頼性が向上する。・・えぐり部のフェイス側は円弧状をしているので、応力を緩和し易く、また、円弧部分には応力が集中することがない。」等の効果を奏せしめるものである(同公報明細書段落番号0010、0011参照)。
【0005】
しかしながら、特開平9−109989号公報の開示は、船側外板の板厚と横肋骨間隔に関するものであり、横肋骨に係る応力緩和や低減を目的とするものではないし、特開2005ー178447号公報の開示は、船舶の桁材やFLOOR(床材)、GIRDER(桁)等のいわゆる大骨に接合される小骨(2次防撓材)に「えぐり部119」を設けて小骨の疲労寿命向上をはかるというものであり、対象部材が異なり、このような小骨に係る特開2005ー178447号公報の開示をそのままHold Web Frame(艙内横肋骨)等の大骨に適用しても、応力緩和等について、同様の効果を奏することはできない。
【0006】
図8(a)(b)は、本願出願人会社建造の自動車運搬船のHold Web Frame(艙内横肋骨配置)の船側構造を示す概略図であり、図8(a)は、船の中央から船腹方向へとから見た側面図であり(右側が船長方向)、図8(b)は、船長方向から見た断面図である。図8(a)(b)において、符号130は、Hold Web Frame(艙内横肋骨)、131aは、下層に位置する甲板(Deck)であり、131b、131cは、それを支える部材でそれぞれ甲板縦通梁(Deck Longitudinal Stiffner)、甲板横桁梁(Deck Trans)であり、132aは、上層に位置する甲板(Deck)であり、132b、132cは、それを支える部材でそれぞれ甲板縦通梁(Deck Longitudinal Stiffner)、甲板横桁梁(Deck Trans)であり、132cは、Deck Trans、133は、Hold Web Frame(艙内横肋骨)130と甲板横桁梁(Deck Trans)131cの接合端であり、完全溶け込み溶接で接合される構造のものであり、高い応力が掛かる高応力個所を示している。
【0007】
図8(a)(b)に示すように、従来の自動車運搬船のHold Web Frame(艙内横肋骨)の船側構造においては、ラッキング変形時にHold Web Frame(艙内横肋骨)端部の高応力箇所133に応力が集中するため、これに対応するために高応力箇所133周辺に対して、局部的に周辺部材(例えば、Hold Web Frme Deck等)の大幅な増厚を行うことによって、疲労寿命を満足させていた。また、特にPCC(自動車運搬船)にあっては、比較的、全体の板厚が薄い傾向にあることから、急激な板厚差を避ける為に、増厚部には厚板から薄板へと遷移させるための板を複数枚挿し込む必要があり、重量が増えることが問題であった。さらには、板厚が厚くなることで溶接作業も困難になり、さらに溶接部に欠陥が生じるリスクも増えることなどの問題もあった。
なお、「増厚」とは,補強のため部材の板厚を大きくすることをいい、「遷移」とは、ここでは、急な板厚差を避ける為に使用する板の意味であり、板の接合箇所周辺において急激な板厚差があると、板接合箇所周辺で応力集中が生じることとなるため、母材と局部増厚の板の間に母材と局部増厚との板厚差を抑える用途の板を入れることで応力集中を避けようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−109989号公報
【特許文献2】特開2005ー178447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本願発明は、船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部の応力を緩和させ、周辺部材の板厚増加を抑えることができ、また、周辺部の板厚を下げることで、溶接も容易となり、溶接部の欠陥が生じるリスクも減らすことができる船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願請求項1に係る発明は、船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造において、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)とDeck(甲板)との接合端部の船体横方向における中心位置にのみ配置する開口及びその背後にHold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)端部全幅に渡り船体縦方向に貫通する貫通孔とを有することを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載の船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造において、前記開口は、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)の中心とDeck(甲板)との交差部を中心とする第一の曲率(r0)の円に内接する頂上円弧を有し、かつ、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)とDeck(甲板)5との接合端部の中央に所定の接合幅及びその接合幅からソフトヒール幅位置の垂線に内接する円を繋いだ開口下部円弧を有する楕円状の開口であることを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1に記載の船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造において、前記貫通孔は、断面右上部が第二の曲率(r1)で線c及び線dに内接する円弧、断面中部が第三の曲率(r2)で線a及び線cに内接する円弧、断面下部が第四の曲率(r3)で線a及び線bに内接する円弧を有する貫通孔断面であることを特徴とする。 (線aは、Hold Web Frameに発生する主応力が約60N/mm2以下の位置の垂線、線bは、ソフトヒールの立ち上がり厚の水平線、線cは、Deck(甲板)の表面から貫通孔内部の溶接作業が可能な位置の水平線、線dは、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)先端の板厚の垂線。)
そして、本願請求項4に係る発明は、前記請求項3に記載の船舶のHold Web Frame端部における応力低減構造において、前記線aが、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)の表面から165mm位置の垂線、前記線cが、Deck(甲板)の表面から265mm離れた水平線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記の様な構造とすることで、船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)が船幅方向に倒れる変形をする際に、Hold Web Frameからデッキ及びデッキトランスに流れる力を従来の構造よりも緩やかに伝達することができ、これによりHold Web Frame端部に発生する応力集中を低減させ、周辺部材の板厚増加を抑えることができる。また、周辺部の板厚を下げることで、溶接も容易となり、溶接部の欠陥が生じるリスクも減らすことができるという効果を有する。上記構造は、大きな構造に限らず、Hold Frame(艙内構造物)のように小さな構造部にも適用できるという効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)及びDeck Trans(甲板横桁梁)との接合適用箇所の概略を示す図である。
図2図2(a)(b)は、本発明の船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造の実施例1を示す図であり、そのうち、図2(a)は、実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1を船の中央から船腹方向へと見た側面図であり(右側が船長方向)、図2(b)は、船長方向から見た断面図であり、いずれも図8(a)(b)に対応する図である。
図3図3は、面材8を船の中央から船幅方向に見た図である。
図4図4は、面材8の中心とDeckの交差部に設けられるネガティブR9の開口9aの概略を示す図である。
図5図5は、ネガティブR9bの概略を示す部分断面図である。
図6図6は、特開2005ー178447号公報に図1として添付される開示発明の実施形態にかかる船体構造を適用したタンカーの中央部横断面から前方を見た状態を部分的に示す斜視図である。
図7図7は、特開2005ー178447号公報に図3として添付される開示発明の一実施形態の外板1と桁5との接合部の一部を拡大して上から見た平面図である。
図8図8(a)(b)は、本願出願人会社のHold Web Frame(艙内横肋骨配置)の船側構造を示す概略図であり、図8(a)は、船の中央から船腹方向へとから見た側面図であり(右側が船長方向)、図8(b)は、船長方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造を実施するための形態として一実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明を実施する実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造の適用箇所を明らかにする。
図1は、船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)及びDeck Trans(甲板横桁梁)との接合箇所の概略を示す図であり、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造の適用箇所の概略を示すためものである
【0015】
図1において、符号1は、本発明の実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造であり、Hold Web Frame(艙内横肋骨)及びDeck Trans(甲板横桁梁)との接合箇所に適用されるものである。また、符号2は、図8では符号130として説明したHold Web Frame(艙内横肋骨)であり、符号3は、図8では、梁材(Deck Trans)131c、132cとして説明したDeck Trans(甲板横桁梁),4は、Side Shell(船側外板)、5は、図8では、符号130として説明したDeck(甲板)である。
【0016】
また、図2(a)(b)は、本発明の実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造の概略を示す図であり、そのうち、図2(a)は、実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1を船の中央から船腹方向へと見た側面図であり(右側が船長方向)、図2(b)は、船長方向から見た断面図であり、いずれも図8(a)(b)に対応する図である。
【0017】
図2(a)(b)において、符号1は、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造であり、符号2は、Hold Web Frame(艙内横肋骨)、3は、Deck Longitudinal stiffner(縦通防とう材)、5は、Deck(甲板)、8は、Hold Web Frame(艙内横肋骨)2の船艙側に配置される所定板厚のHold Web Frame Face(艙内横肋骨面材:ガセットFace)(以下、単に「面材8」ともいう)、9は、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1に係るネガティブR、9aは、その開口、9bは、面材8とDeck(甲板)5との接合箇所のネガティブRの開口9aの背後の貫通孔である。
【0018】
本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、例えば、上のデッキと下デッキとの深さ(甲板間の距離)が約3m毎に配置されているPCC(自動車運搬船)への適用を前提とすると、桁幅1680mm、板厚10mmのHold Web Frame2に対し、そのデッキ5側に板厚16mm、幅350mm、ガセット幅1400mm程度の前記面材(ガセットFace)8が配置される船体への適用を前提とするものである。
具体的には、図1図2(a)(b)に示すように、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、面材8の中央でDeck(甲板)5との接合面に前記ネガティブR9の開口9a及びその背後に貫通孔9bからなる構造である。
【0019】
本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるネガティブR9の開口9a及びその背後の貫通孔9bの概略について図面に基づいて説明する。
図3は、面材8を船の中央から船幅方向に見た図であり、面材8の中心とDeck5の交差部に設けられるネガティブR9の開口9aの概略を示す図である。また、図4は、開口9aの背後の貫通孔9bの断面図であり、図3図4において、符号5は、前記Deck(甲板)、8は、前記面材、9は、前記ネガティブRの開口9aであり、図3に示すように、ネガティブR9の開口9aは、面材8の中心とDeck5の交差部に開口して設けられる。
【0020】
そして、図4に示すように、ネガティブR9の開口9aは、面材8の中心とDeck(甲板)5との交差部を中心とする第一の曲率(r0)の円に内接する頂上円弧を有し、かつ、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)8とDeck(甲板)5との溶接を考慮してHold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)8の中央に130mmの接合幅をとり、そこから50mmのソフトヒール幅をとった位置の垂線eに内接する円を繋いだ開口下部円弧を有する楕円状に形成したものである。なお、本実施例1に係る船舶のHold Wer Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、第一の曲率r0=150R(半径150mm)とした。
【0021】
次に、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるネガティブR9の貫通孔9b断面概略について説明する。
図5は、ネガティブR9の貫通孔9b概略を示す部分断面図であり、図5において、符号8、9は、上述する面材及びネガティブRであり、線aは、面材8の表面から165mm位置の垂線、線bは、ソフトヒールの立ち上がり厚15mmの水平線、線cは、Deck(甲板)5の表面から265mm離れた水平線、線dは、面材8の表面からソフトヒール先端高さ15mm位置の垂線であり、r1は、線c及び線dに内接する円の第二の曲率、r2は、線a及び線cに内接する円の第三の曲率、r3は、線a及び線bに内接する円の第四の曲率を示す。
【0022】
本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるネガティブR9の貫通孔9b断面概略は、面材8とDeck(甲板)5との接合箇所が、図5に示すように、片ハート型形状(変形楕円形状)の貫通孔9b断面を有し、かつ、面材8とDeck(甲板)5との接合箇所のDeck(甲板)5側が、図3図4に示す開口を有する断面概略を有する。すなわち、当該貫通孔9b断面は、図5に示すように、断面右上部が第二の曲率r1で線c及び線dに内接する円弧を有し、断面中部が第三の曲率r2で線a及び線cに内接する円弧、断面下部が第四の曲率r3で線a及び線bに内接する円弧を有する貫通孔9b断面であり、さらに、当該貫通孔9bは、面材8とDeck(甲板)5との交差部において、図4に示すように、面材8の中心とした半径r0の円に内接する頂上円弧を有する(したがって、頂上円弧の高さは第一の曲率と同じ高さのr0となる。)。
【0023】
すなわち、実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるネガティブR9は、面材8とDeck(甲板)5との接合箇所において、面材8とDeck(甲板)5の接合箇所のガセット幅1400mmの面材8の中心でDeck(甲板)5との交差部を中心とする半径r0の円に内接する頂上円弧を有する図4に示す楕円状開口9aを有する一方、当該開口は奥行きにおいて、図5に示す断面上部が半径r1で線c及び線dに内接する円弧を有し、断面中部が半径r2で線a及び線cに内接する円弧、断面下部が半径r3で線a及び線bに内接する円弧を有するくり抜き貫通孔9b断面からなるものである。
【0024】
ここで、前述する面材8の表面から165mm位置の垂線a、Deck(甲板)5の表面から265mm離れた水平線c等、線a、線b、線c、線d及びr0、r1、r2、r3は、次のような考えに基づいて決定される。
Hold Web Frame2とDeck交差部を基部として、船幅方向に変形する場合は、r3が高応力となる。そのため、r3の曲率をr1、r2よりも大きくする方が応力緩和に有効であり、また、Hold Web Frame Face8の開口9aの縁は応力が高くなり、さらに、貫通孔9b上部のソフトヒール先端からHold Web Frame Face8に応力が伝わるため、開口9aの頂上円弧と貫通孔9b上部のソフトヒール先端はできるだけ離れた構造とする方が良く、また、r1、r2の縁はHold Web Frame2の端部から離れているため、低応力であることなどを考慮すると、r1、r2は、r0、r3よりも小さい曲率とすることが望ましい。
そこで、開口9a、貫通孔9bを設けないときの応力分布を解析結果を考慮して、線a、線b、線c、線d並びにこれらの線a、線b、線c、線dに接する円の半径r0、r1、r2、r3を決定したものである。
【0025】
具体的には、線b、線dの配置位置は、上述するように、Hold Web Frame FACE8の端部厚さやHold Web Frame FACE8端部の先端のソフトヒール高さ(本願出願人会社のソフトヒール先端の立ち上がりの基準は、ソフトヒール先端の溶接が十分な15mm)に基づいて決定し、線aに関しては、Hold Web Frame2及びHold Web Frame FACE8に開孔9a、貫通孔9bを設けない有限要素モデル(メッシュサイズ:50mm×50mm、局部増厚は再現)の条件下において、疲労評価用の荷重を与えた応力分布において、Hold Web Frame2に発生する主応力が約60N/mm2以下を示す位置に線aを配置し、これに接する円の半径r3の値を決めたものである。
さらに、Hold Web Frame FACE8に設ける開孔9aについても、円内部の主応力が約60N/mm2以下となるように、その半径r0を決定したものである。なお、線c、線eに関しては、ソフトヒール先端の溶接可能性、すなわち、現場において溶接機器がこの隙間に入り込み溶接可能な位置等工作、溶接作業性を考慮して、開口9a、貫通孔9bを再現したモデルの解析にて強度上、問題が無い位置となるように線c、線eの位置を決定したものである。
【0026】
なお、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、r1=50mmR、r2=100mmR、r3=150mmRとしたくり抜き貫通孔9b断面は、いわば、片ハート型、すなわち、ハート型形状を中心から右半分を切除した断面形状としたものである。
図2図5に示すように、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1は、上記のような形状ないし構造のネガティブR9とすることにより、当該箇所の応力集中を避け、応力緩和を実現するものである。
【0027】
すなわち、Hold Web Frame(艙内横肋骨)2は、例えば、13層からなる自動車運搬船における軽車輌が積まれるDeck5においては、1700mm程度の深さの大骨が船の高さ方向に船側外板(図示外)の沿って配設され、特に厳しい応力集中箇所となるので、図3に示す適用箇所を本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1として、上記適用箇所にHold Web Frame2の幅の約10%のサイズのネガティブRを適用したことで、応力低減の効果が得られ、疲労寿命向上につながったことから上記開口サイズ及びRサイズとしたものである。
【0028】
もちろん、当該箇所の総力緩和の実現という観点からは、R9の開口サイズや貫通孔9bのサイズ等は適用する船体の大きさ、周囲板厚等によって変更を伴うものであるが、解析により応力緩和を確認し、さらに、面材端部等(ソフトヒールしている箇所、ウェブフレーム足元)の溶接が可能なサイズ等を考慮した上で決定されるものであることは言うまでもなく、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるHold Web Frame2の幅、板厚、Face(面材)8の板厚及びDeck(甲板)5との接合幅等によって、そのネガティブR9の配置位置、大きさ等が適宜変更するものであることは言うまでもないことを付言する。
【0029】
本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1は、このような構造としたことにより、板厚等の増厚(応力に抗する必要箇所の板厚の補強)を必要とする場合にも、従来の構造よりも応力を下げることが可能であり、増厚を抑えることができる。この結果、自動車運搬船のカーデッキ(車両艙)の大幅な増厚が不要となり、遷移させる板の枚数が減らすことによって、従来の構造よりも補強による重量増加を抑えることができることとなる。また、局部増厚箇所の板厚が従来の構造よりも下がることで、溶接も容易となり、溶接部の欠陥が生じるリスクも減らすことが可能となる等の効果を有する。
【0030】
また、Hold Web Frameの疲労寿命が満足する適当なサイズのネガティブR9は、Hold Web Frame端部は高応力であるため、フルペネ(full penetration)溶接(完全溶込み溶接)により、母材と接合部材との溶着面積を増し、強度を向上させることが求められ、これは、板厚が大きくなるほど、開先(溶材を盛るスペース)をけずる量が増え、溶材を盛る量が増えることとなり、開先のすきまを埋めるには複数回溶接する必要があり、この結果、溶接作業の時間が増え、溶接欠陥が生じやすく、そのため、板厚を薄くすることで、完全溶け込み箇所の溶接作業の時間が減り、溶接欠陥のリスクも減ることとなる。
【0031】
なお、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、Hold Web Frame Face(面材)8端部の中心位置に開口9a及びその背後に貫通孔9bを設けることで生じる断面性能の低下を補うために、Hold Web Frame Face(面材)8の横幅(がセット幅)を拡げることや当該箇所を増厚することについて妨げるものではない。
(変形実施例)
本実施例1においては、図2図5に示すように、Hold Web Frame Face(面材)8端部の中心位置に開口9a及びその背後に貫通孔9bからなる応力低減構造1としたが、これは必ずしも、Hold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合端部の中心位置に開口9a及びその背後に貫通孔9bの両者を必須とするものではなく、変形実施例として、例えば、Hold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合端部に所定の奥行きを有する開口9aを所定間隔で複数開口する形状ないし構造、又は、Hold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合端部に開口を設けることなく、Hold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合端部の背後に所定形状の船体縦方向の貫通孔9bを設け、さらには、当該貫通孔9bのHold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合部の全部又は一部が所定形状で開口する形状ないし構造であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造に利用される。
【符号の説明】
【0033】
1 実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造
2 Hold Web Frame(艙内横肋骨)
3 Deck Trans(甲板横桁梁)
4 Side Shell(船側外板)
5 Deck(甲板)
6 Deck Girder(甲板縦桁)
7 Pillar(柱)
8 Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)
9 本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1のネガティブR
9a ネガティブRの開口
9b ネガティブRの開口9a背後の貫通孔
101 外板
103 タンク壁
105 桁
107 隔壁
108 ウエブ
109 ロンジ
110 フェイス
111 ウェブスチフナ
113 短辺
115 長辺
117 自由端
119 えぐり部
121 円弧部
123 直線部
125 ヒール
130 Hold Web Frame(艙内横肋骨)
131a、132a 積載艙(Deck)
131b、132b 梁材(Deck Longitudinal Stiffner)
131c、132c 甲板横桁梁(Deck Trans)
133 接合端
図1
図2
図3
図4
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図8