【実施例1】
【0014】
本発明を実施する実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造の適用箇所を明らかにする。
図1は、船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)及びDeck Trans(甲板横桁梁)との接合箇所の概略を示す図であり、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造の適用箇所の概略を示すためものである
【0015】
図1において、符号1は、本発明の実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造であり、Hold Web Frame(艙内横肋骨)及びDeck Trans(甲板横桁梁)との接合箇所に適用されるものである。また、符号2は、
図8では符号130として説明したHold Web Frame(艙内横肋骨)であり、符号3は、
図8では、梁材(Deck Trans)131c、132cとして説明したDeck Trans(甲板横桁梁),4は、Side Shell(船側外板)、5は、
図8では、符号130として説明したDeck(甲板)である。
【0016】
また、
図2(a)(b)は、本発明の実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造の概略を示す図であり、そのうち、
図2(a)は、実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1を船の中央から船腹方向へと見た側面図であり(右側が船長方向)、
図2(b)は、船長方向から見た断面図であり、いずれも
図8(a)(b)に対応する図である。
【0017】
図2(a)(b)において、符号1は、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造であり、符号2は、Hold Web Frame(艙内横肋骨)、3は、Deck Longitudinal stiffner(縦通防とう材)、5は、Deck(甲板)、8は、Hold Web Frame(艙内横肋骨)2の船艙側に配置される所定板厚のHold Web Frame Face(艙内横肋骨面材:ガセットFace)(以下、単に「面材8」ともいう)、9は、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1に係るネガティブR、9aは、その開口、9bは、面材8とDeck(甲板)5との接合箇所のネガティブRの開口9aの背後の貫通孔である。
【0018】
本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、例えば、上のデッキと下デッキとの深さ(甲板間の距離)が約3m毎に配置されているPCC(自動車運搬船)への適用を前提とすると、桁幅1680mm、板厚10mmのHold Web Frame2に対し、そのデッキ5側に板厚16mm、幅350mm、ガセット幅1400mm程度の前記面材(ガセットFace)8が配置される船体への適用を前提とするものである。
具体的には、
図1、
図2(a)(b)に示すように、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、面材8の中央でDeck(甲板)5との接合面に前記ネガティブR9の開口9a及びその背後に貫通孔9bからなる構造である。
【0019】
本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるネガティブR9の開口9a及びその背後の貫通孔9bの概略について図面に基づいて説明する。
図3は、面材8を船の中央から船幅方向に見た図であり、面材8の中心とDeck5の交差部に設けられるネガティブR9の開口9aの概略を示す図である。また、
図4は、開口9aの背後の貫通孔9bの断面図であり、
図3、
図4において、符号5は、前記Deck(甲板)、8は、前記面材、9は、前記ネガティブRの開口9aであり、
図3に示すように、ネガティブR9の開口9aは、面材8の中心とDeck5の交差部に開口して設けられる。
【0020】
そして、
図4に示すように、ネガティブR9の開口9aは、面材8の中心とDeck(甲板)5との交差部を中心とする第一の曲率(r0)の円に内接する頂上円弧を有し、かつ、Hold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)8とDeck(甲板)5との溶接を考慮してHold Web Frame Face(艙内横肋骨面材)8の中央に130mmの接合幅をとり、そこから50mmのソフトヒール幅をとった位置の垂線eに内接する円を繋いだ開口下部円弧を有する楕円状に形成したものである。なお、本実施例1に係る船舶のHold Wer Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、第一の曲率r0=150R(半径150mm)とした。
【0021】
次に、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるネガティブR9の貫通孔9b断面概略について説明する。
図5は、ネガティブR9の貫通孔9b概略を示す部分断面図であり、
図5において、符号8、9は、上述する面材及びネガティブRであり、線aは、面材8の表面から165mm位置の垂線、線bは、ソフトヒールの立ち上がり厚15mmの水平線、線cは、Deck(甲板)5の表面から265mm離れた水平線、線dは、面材8の表面からソフトヒール先端高さ15mm位置の垂線であり、r1は、線c及び線dに内接する円の第二の曲率、r2は、線a及び線cに内接する円の第三の曲率、r3は、線a及び線bに内接する円の第四の曲率を示す。
【0022】
本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるネガティブR9の貫通孔9b断面概略は、面材8とDeck(甲板)5との接合箇所が、
図5に示すように、片ハート型形状(変形楕円形状)の貫通孔9b断面を有し、かつ、面材8とDeck(甲板)5との接合箇所のDeck(甲板)5側が、
図3,
図4に示す開口を有する断面概略を有する。すなわち、当該貫通孔9b断面は、
図5に示すように、断面右上部が第二の曲率r1で線c及び線dに内接する円弧を有し、断面中部が第三の曲率r2で線a及び線cに内接する円弧、断面下部が第四の曲率r3で線a及び線bに内接する円弧を有する貫通孔9b断面であり、さらに、当該貫通孔9bは、面材8とDeck(甲板)5との交差部において、
図4に示すように、面材8の中心とした半径r0の円に内接する頂上円弧を有する(したがって、頂上円弧の高さは第一の曲率と同じ高さのr0となる。)。
【0023】
すなわち、実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるネガティブR9は、面材8とDeck(甲板)5との接合箇所において、面材8とDeck(甲板)5の接合箇所のガセット幅1400mmの面材8の中心でDeck(甲板)5との交差部を中心とする半径r0の円に内接する頂上円弧を有する
図4に示す楕円状開口9aを有する一方、当該開口は奥行きにおいて、
図5に示す断面上部が半径r1で線c及び線dに内接する円弧を有し、断面中部が半径r2で線a及び線cに内接する円弧、断面下部が半径r3で線a及び線bに内接する円弧を有するくり抜き貫通孔9b断面からなるものである。
【0024】
ここで、前述する面材8の表面から165mm位置の垂線a、Deck(甲板)5の表面から265mm離れた水平線c等、線a、線b、線c、線d及びr0、r1、r2、r3は、次のような考えに基づいて決定される。
Hold Web Frame2とDeck交差部を基部として、船幅方向に変形する場合は、r3が高応力となる。そのため、r3の曲率をr1、r2よりも大きくする方が応力緩和に有効であり、また、Hold Web Frame Face8の開口9aの縁は応力が高くなり、さらに、貫通孔9b上部のソフトヒール先端からHold Web Frame Face8に応力が伝わるため、開口9aの頂上円弧と貫通孔9b上部のソフトヒール先端はできるだけ離れた構造とする方が良く、また、r1、r2の縁はHold Web Frame2の端部から離れているため、低応力であることなどを考慮すると、r1、r2は、r0、r3よりも小さい曲率とすることが望ましい。
そこで、開口9a、貫通孔9bを設けないときの応力分布を解析結果を考慮して、線a、線b、線c、線d並びにこれらの線a、線b、線c、線dに接する円の半径r0、r1、r2、r3を決定したものである。
【0025】
具体的には、線b、線dの配置位置は、上述するように、Hold Web Frame FACE8の端部厚さやHold Web Frame FACE8端部の先端のソフトヒール高さ(本願出願人会社のソフトヒール先端の立ち上がりの基準は、ソフトヒール先端の溶接が十分な15mm)に基づいて決定し、線aに関しては、Hold Web Frame2及びHold Web Frame FACE8に開孔9a、貫通孔9bを設けない有限要素モデル(メッシュサイズ:50mm×50mm、局部増厚は再現)の条件下において、疲労評価用の荷重を与えた応力分布において、Hold Web Frame2に発生する主応力が約60N/mm
2以下を示す位置に線aを配置し、これに接する円の半径r3の値を決めたものである。
さらに、Hold Web Frame FACE8に設ける開孔9aについても、円内部の主応力が約60N/mm
2以下となるように、その半径r0を決定したものである。なお、線c、線eに関しては、ソフトヒール先端の溶接可能性、すなわち、現場において溶接機器がこの隙間に入り込み溶接可能な位置等工作、溶接作業性を考慮して、開口9a、貫通孔9bを再現したモデルの解析にて強度上、問題が無い位置となるように線c、線eの位置を決定したものである。
【0026】
なお、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、r1=50mmR、r2=100mmR、r3=150mmRとしたくり抜き貫通孔9b断面は、いわば、片ハート型、すなわち、ハート型形状を中心から右半分を切除した断面形状としたものである。
図2〜
図5に示すように、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1は、上記のような形状ないし構造のネガティブR9とすることにより、当該箇所の応力集中を避け、応力緩和を実現するものである。
【0027】
すなわち、Hold Web Frame(艙内横肋骨)2は、例えば、13層からなる自動車運搬船における軽車輌が積まれるDeck5においては、1700mm程度の深さの大骨が船の高さ方向に船側外板(図示外)の沿って配設され、特に厳しい応力集中箇所となるので、
図3に示す適用箇所を本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1として、上記適用箇所にHold Web Frame2の幅の約10%のサイズのネガティブRを適用したことで、応力低減の効果が得られ、疲労寿命向上につながったことから上記開口サイズ及びRサイズとしたものである。
【0028】
もちろん、当該箇所の総力緩和の実現という観点からは、R9の開口サイズや貫通孔9bのサイズ等は適用する船体の大きさ、周囲板厚等によって変更を伴うものであるが、解析により応力緩和を確認し、さらに、面材端部等(ソフトヒールしている箇所、ウェブフレーム足元)の溶接が可能なサイズ等を考慮した上で決定されるものであることは言うまでもなく、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1におけるHold Web Frame2の幅、板厚、Face(面材)8の板厚及びDeck(甲板)5との接合幅等によって、そのネガティブR9の配置位置、大きさ等が適宜変更するものであることは言うまでもないことを付言する。
【0029】
本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1は、このような構造としたことにより、板厚等の増厚(応力に抗する必要箇所の板厚の補強)を必要とする場合にも、従来の構造よりも応力を下げることが可能であり、増厚を抑えることができる。この結果、自動車運搬船のカーデッキ(車両艙)の大幅な増厚が不要となり、遷移させる板の枚数が減らすことによって、従来の構造よりも補強による重量増加を抑えることができることとなる。また、局部増厚箇所の板厚が従来の構造よりも下がることで、溶接も容易となり、溶接部の欠陥が生じるリスクも減らすことが可能となる等の効果を有する。
【0030】
また、Hold Web Frameの疲労寿命が満足する適当なサイズのネガティブR9は、Hold Web Frame端部は高応力であるため、フルペネ(full penetration)溶接(完全溶込み溶接)により、母材と接合部材との溶着面積を増し、強度を向上させることが求められ、これは、板厚が大きくなるほど、開先(溶材を盛るスペース)をけずる量が増え、溶材を盛る量が増えることとなり、開先のすきまを埋めるには複数回溶接する必要があり、この結果、溶接作業の時間が増え、溶接欠陥が生じやすく、そのため、板厚を薄くすることで、完全溶け込み箇所の溶接作業の時間が減り、溶接欠陥のリスクも減ることとなる。
【0031】
なお、本実施例1に係る船舶のHold Web Frame(艙内横肋骨)端部における応力低減構造1においては、Hold Web Frame Face(面材)8端部の中心位置に開口9a及びその背後に貫通孔9bを設けることで生じる断面性能の低下を補うために、Hold Web Frame Face(面材)8の横幅(がセット幅)を拡げることや当該箇所を増厚することについて妨げるものではない。
(変形実施例)
本実施例1においては、
図2〜
図5に示すように、Hold Web Frame Face(面材)8端部の中心位置に開口9a及びその背後に貫通孔9bからなる応力低減構造1としたが、これは必ずしも、Hold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合端部の中心位置に開口9a及びその背後に貫通孔9bの両者を必須とするものではなく、変形実施例として、例えば、Hold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合端部に所定の奥行きを有する開口9aを所定間隔で複数開口する形状ないし構造、又は、Hold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合端部に開口を設けることなく、Hold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合端部の背後に所定形状の船体縦方向の貫通孔9bを設け、さらには、当該貫通孔9bのHold Web Frame Face(面材)8のDeck(甲板)5の接合部の全部又は一部が所定形状で開口する形状ないし構造であっても良い。