(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6919078
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】二次電池用正極構造体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/32 20060101AFI20210729BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20210729BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20210729BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20210729BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20210729BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20210729BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20210729BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20210729BHJP
H01M 50/454 20210101ALI20210729BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20210729BHJP
H01M 50/466 20210101ALI20210729BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20210729BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20210729BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20210729BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20210729BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
H01M4/32
H01M4/66 A
H01M4/80 C
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/44
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/454
H01M50/46
H01M50/466
H01M50/489
H01M4/38 Z
H01M4/52
H01M4/42
H01M10/30 Z
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-559714(P2020-559714)
(86)(22)【出願日】2019年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2019032602
(87)【国際公開番号】WO2020115955
(87)【国際公開日】20200611
【審査請求日】2021年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2018-230195(P2018-230195)
(32)【優先日】2018年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】松矢 淳宣
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 賢信
(72)【発明者】
【氏名】八木 毅
【審査官】
宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018−029045(JP,A)
【文献】
特開平06−251771(JP,A)
【文献】
特開2001−185209(JP,A)
【文献】
特開2016−038995(JP,A)
【文献】
特開2016−103450(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/105178(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/24− 4/34
H01M 4/64− 4/84
H01M 10/24−10/34
H01M 50/40−50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用の正極構造体であって、
平板状の発泡ニッケルで構成され、平板状の塗工部及び該塗工部の外周部から延在する未塗工部を有する、正極集電体と、
前記正極集電体の前記塗工部に組み込まれる、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極活物質と、
を備え、
前記正極集電体の前記未塗工部には前記正極活物質が存在しておらず、
前記未塗工部を構成する前記発泡ニッケルが、前記塗工部を構成する前記発泡ニッケルの厚さの0.10倍以上0.8倍未満の厚さとなるように圧縮されており、
前記正極集電体の前記塗工部を両面から覆う、高分子材料製の不織布をさらに備え、
前記不織布は、前記塗工部の全体を包含し、かつ、前記塗工部の外周部から延出して余剰領域を形成しており、前記塗工部の外周部をその全周にわたって閉じるように前記余剰領域が封止されており、
前記余剰領域のうち前記未塗工部と重なる部分において、前記不織布が前記正極集電体を挟んで封止されており、
前記余剰領域のうち前記未塗工部と重ならない部分において、前記不織布が前記正極集電体を挟まないで封止されており、
前記不織布が前記正極集電体を挟んで封止された部分において、前記正極集電体を構成する前記発泡ニッケルの孔内が、前記不織布に由来する溶融固化した状態の前記高分子材料で充填されている、正極構造体。
【請求項2】
前記未塗工部を構成する前記発泡ニッケルが、前記塗工部を構成する前記発泡ニッケルの厚さの0.11倍以上0.5倍未満の厚さとなるように圧縮されている、請求項1に記載の正極構造体。
【請求項3】
前記未塗工部を構成する前記発泡ニッケルが、前記塗工部を構成する前記発泡ニッケルの厚さの0.13倍以上0.3倍未満の厚さとなるように圧縮されている、請求項1に記載の正極構造体。
【請求項4】
前記未塗工部を構成する前記発泡ニッケルの厚さが、0.10〜0.30mmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の正極構造体。
【請求項5】
前記未塗工部の前記塗工部からの延在距離が、5〜50mmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の正極構造体。
【請求項6】
前記封止が、熱溶着封止である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の正極構造体。
【請求項7】
前記不織布の厚さが、0.05〜0.2mmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の正極構造体。
【請求項8】
前記高分子材料が、ポリエチレン及びポリプロピレンの少なくともいずれか一方を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の正極構造体。
【請求項9】
前記発泡ニッケルが矩形状であって、前記不織布は、前記塗工部の全体を包含し、かつ、前記塗工部の外周4辺から延出して余剰領域を形成しており、前記塗工部の外周4辺を閉じるように前記余剰領域が封止されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の正極構造体。
【請求項10】
前記二次電池がニッケル亜鉛電池である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の正極構造体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の正極構造体と、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質層を含む負極構造体と、
高分子材料製の多孔質基材、並びに水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)を含むLDHセパレータと、
電解液と、
を含み、前記LDHセパレータを介して前記正極と前記負極活物質層が互いに隔離される、ニッケル亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の正極構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高電圧や大電流を得るために、複数の単電池を組み合わせて作られた積層電池が広く採用されている。積層電池は、単電池を複数直列または並列に接続した積層体が一つの電池容器内に収納された構成を有する。例えば、特許文献1(国際公開第2017/086278号)には、電極及びセパレータ(特に後述するLDHセパレータ)を備えた複数個の電極カートリッジを密閉容器内に収容した亜鉛二次電池が開示されている。特許文献1に開示される積層電池においては、正極板、セパレータ及び負極板を立てた状態で密閉容器に収容され、正極板とセパレータとの間及び/又は負極板とセパレータとの間には不織布が設けられる。このように不織布を設けることで、緩衝材、保液材、脱落防止材、気泡逃がし材等の様々な機能を呈することができるため、正極板や負極板からの構成粒子の脱落を防止し、且つ/又は発生しうる気泡を逃がしながら、電解液を十分にセパレータと接触させて保持することができ、それにより、セパレータの水酸化物イオン伝導性を最大限に発揮させることができる。
【0003】
ところで、ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献
2(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献
3(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献
4(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料(LDHセパレータ)を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/086278号
【特許文献2】国際公開第2013/118561号
【特許文献3】国際公開第2016/076047号
【特許文献4】国際公開第2016/067884号
【発明の概要】
【0005】
ところで、ニッケル水素電池やニッケル亜鉛電池には正極集電体として発泡ニッケルが用いられている(例えば特許文献1)。発泡ニッケルは、ニッケルで構成された開気孔構造を有する多孔質金属体である。正極活物質(水酸化ニッケル)が電気伝導性を有しないことから、三次元構造の発泡ニッケルが正極集電体として使用されている。発泡ニッケルには集電端子が接合されることになるが、生産性向上の観点からその接合を超音波溶着で行うことが望まれる。しかしながら、発泡ニッケルと集電端子とを超音波溶着で接合しようとすると、発泡ニッケルが破れてしまい上手く溶着できないという問題がある。
【0006】
本発明者らは、今般、正極活物質が存在していない未塗工部を構成する発泡ニッケルを、正極活物質が組み込まれた塗工部を構成する発泡ニッケルの厚さに対して所定の比率になるように圧縮した構成とすることで、発泡ニッケルと集電端子との超音波溶着による接合が可能になるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、発泡ニッケル集電体を集電端子との超音波溶着が可能な状態で備えた正極構造体を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、二次電池用の正極構造体であって、
平板状の発泡ニッケルで構成され、平板状の塗工部及び該塗工部の外周部から延在する未塗工部を有する、正極集電体と、
前記正極集電体の前記塗工部に組み込まれる、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極活物質と、
を備え、
前記正極集電体の前記未塗工部には前記正極活物質が存在しておらず、
前記未塗工部を構成する前記発泡ニッケルが、前記塗工部を構成する前記発泡ニッケルの厚さの0.10倍以上0.8倍未満の厚さとなるように圧縮されている、正極構造体が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、前記正極構造体と、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質層を含む負極構造体と、
高分子材料製の多孔質基材、並びに水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)を含むLDHセパレータと、
電解液と、
を含み、前記LDHセパレータを介して前記正極と前記負極活物質層が互いに隔離される、ニッケル亜鉛二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一態様による正極構造体を概念的に示す断面図であり、(a)は未塗工部の発泡ニッケルを圧縮する前の状態を、(b)は未塗工部の発泡ニッケルを圧縮した後の状態を示す。
【
図2】本発明の一態様による正極構造体を示す正面図である。
【
図3】
図2に示される正極構造体の封止辺S’における不織布/正極集電体/不織布の熱溶着封止構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図2に示される正極構造体の作製における不織布を熱溶着封止する前の積層体を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図2に示される正極構造体のA−A線断面図であり、
図4に示される積層体に対して熱溶着封止を完了した正極構造体に対応する図である。
【
図6】不織布の外周3辺Sのみが封止された正極構造体を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の正極構造体は、ニッケル水素電池やニッケル亜鉛電池等の二次電池、好ましくはニッケル亜鉛二次電池に用いられるものである。
図1に本発明の正極構造体の一例を示す。
図1に示される正極構造体10は、正極集電体12及び正極活物質14を備える。正極集電体12は平板状の発泡ニッケルで構成され、平板状の塗工部C及び該塗工部Cの外周部から延在する未塗工部Uを有する。正極活物質14は水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、正極集電体12の塗工部Cに組み込まれる。正極集電体12の未塗工部Uには正極活物質14が存在していない。そして、未塗工部Uを構成する発泡ニッケルが、塗工部Cを構成する発泡ニッケルの厚さの0.10倍以上0.8倍未満の厚さとなるように圧縮されている。すなわち、
図1(a)に示されるように発泡ニッケルは当初は塗工部Cから未塗工部Uの全域にわたって厚さが概ね一定の部材であるが、
図1(b)に示される矢印方向に圧縮されることで厚さが薄くなっている。このように、未塗工部Uを構成する発泡ニッケルを、塗工部Cを構成する発泡ニッケルの厚さに対して所定の比率になるように圧縮した構成とすることで、発泡ニッケルと集電端子との超音波溶着による接合が可能になる。これは、未塗工部Uを圧縮することで発泡ニッケル内の気孔Pの比率(例えば気孔数や気孔サイズ)が減少して、超音波溶着に適した金属板に近い形態が実現されるためと考えられる。そうでありながら、気孔Pを完全に無くさないで残留させることで不織布との熱溶着等による封止接合も可能になるとの利点もある。
【0012】
正極集電体12は、発泡ニッケルで構成される。発泡ニッケルはニッケルで構成された開気孔構造を有する多孔質金属体である。発泡ニッケルの外形は、正極集電体12として用いるべく、平板状であり、好ましくは矩形状(例えば四辺形状)である。なお、本明細書において「平板状」なる用語は、完全に平らな形状である必要はなく、概ね平板の外形が認められるかぎり、段差やうねり等の厚さの変化(例えば塗工部Cと未塗工部Uの境界における段差又はテーパー状の厚さ変化)は許容される。本明細書において「矩形状」ないし「四辺形状」なる用語は、完全な矩形状ないし四辺形状である必要はなく、概ね矩形状ないし四辺形状の外形が認められるかぎり、切欠きや角の丸み等の多少の変形があってもよい。正極集電体12として、市販の発泡ニッケルを用いることができ、例えば住友電気工業株式会社製セルメット(登録商標))が挙げられる。各種仕様の発泡ニッケルが市販されており、所望の厚みや性能に応じて、厚さ、平均孔径、平均窓径等を適宜選択すればよい。例えば、厚さ0.5〜10mm、平均孔径0.3〜5mmが、平均窓径0.2〜2mmの発泡ニッケルを好ましく用いることができる。もっとも、これらの厚さ、平均孔径及び平均窓径は正極活物質14の充填及びその後のプレスによって変化するため、最終形態としての正極構造体10における数値ではない点に留意されたい。
【0013】
未塗工部Uを構成する発泡ニッケルは、塗工部Cを構成する発泡ニッケルの厚さの0.10倍以上0.8倍未満の厚さ、好ましくは0.11倍以上0.5倍未満の厚さ、さらに好ましくは0.13倍以上0.3倍未満の厚さとなるように圧縮されている。これらの範囲内であると、発泡ニッケルと集電端子との超音波溶着による接合を良好に行えるとともに、不織布との熱溶着も行いやすくなる。未塗工部Uを構成する発泡ニッケルの圧縮は、一軸プレスやロールプレス等で加圧して、所望の厚さになるように調整することにより行われるのが好ましい。正極構造体10において、未塗工部Uを構成する発泡ニッケルの厚さは、好ましくは0.10〜0.30mmであり、より好ましくは0.10〜0.25mmであり、さらに好ましくは0.10〜0.20mmである。
【0014】
正極集電体12は、平板状の塗工部Cと、塗工部Cの外周部(典型的には1辺)から延在する未塗工部Uとを有する。塗工部Cは正極活物質14が組み込まれるための部分であり、未塗工部Uは正極活物質14が組み込まれないまま残される部分である。したがって、正極構造体10において、正極集電体12の未塗工部Uには正極活物質が存在してしない。このため、正極集電体12の未塗工部Uは正極端子を超音波溶着等により接続するのに適している。未塗工部Uの塗工部Cからの延在距離は、5〜50mmであるのが好ましく、より好ましくは5〜40mmであり、さらに好ましくは5〜30mmである。
【0015】
正極活物質14は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む。したがって、本発明の二次電池は、ニッケル亜鉛二次電池に特に適する。正極集電体12の塗工部Cへの正極活物質14の充填は以下のようにして行うことができる。例えば、水酸化ニッケルを主成分とする活物質粉末とバインダー等を含む正極活物質ペーストを、正極集電体12の塗工部Cの孔内に充填して、乾燥する。充填の際、正極集電体12の未塗工部Uへのペーストの侵入を防ぐため、予めペーストを充填させたくない場所にマスキング等を施して孔を塞いでおくのが好ましい。そして、正極活物質ペーストを充填させた塗工部Cを十分に乾燥させた後、ロールプレスで均一加圧して所望の厚さになるように調整する。乾燥後の塗工部Cをプレスすることで、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることができる。なお、所望の密度が得られるように、ペーストの調製条件や、ロールプレス条件は適宜調整するのが好ましい。
【0016】
正極活物質14が組み込まれた正極集電体12の厚さ(すなわち
図5におけるT
C)は、0.2〜2.0mmであるのが好ましく、より好ましくは0.4〜1.4mmであり、さらに好ましくは0.6〜0.8mmである。なお、本明細書において、「正極活物質14が組み込まれた正極集電体12の厚さ」は、内部に正極活物質14を含む正極集電体12の厚さのみならず、正極集電体12の表面に付着している正極活物質14の厚さをも算入した、正極活物質14及び正極集電体12で構成される正極板全体としての厚さを意味するものとする。
【0017】
図2〜5に示されるように、正極構造体10は不織布16をさらに備えることができる。好ましくは、不織布16は、高分子材料製であり、正極集電体12の塗工部Cを両面から覆う。より好ましくは、不織布16は、塗工部Cの全体を包含し、かつ、塗工部Cの外周部から延出して余剰領域Eを形成しており、塗工部Cの外周部をその全周にわたって閉じるように余剰領域Eが封止されている。このように、正極集電体12の正極活物質14が組み込まれた塗工部Cを不織布16で両面から覆い、かつ、塗工部Cの外周部をその全周にわたって閉じるように不織布16の余剰領域Eを封止することにより、二次電池に組み込まれた場合に、自己放電反応を抑制して目的の電圧を得ることを可能とする正極構造体10を提供することができる。すなわち、正極板に不織布を設けるにあたり、不織布の諸機能(緩衝材、保液材、脱落防止材、気泡逃がし材等の機能)を効果的に得るため、不織布で正極板を両面から挟み込んで不織布の端部同士を熱溶着等により封止することが考えられる。この場合、集電体への干渉を避けるべく、
図6に示されるように、正極板を挟み込んだ不織布の外周4辺のうち、正極集電体と重なる1辺(この辺は不織布との熱溶着が通常は困難とされる)以外の3辺Sのみを熱溶着封止して(すなわち1辺Oを開放したまま)ニッケル亜鉛電池を作製すると、自己放電反応が進行してしまい目的の電圧が得られなくなる。すなわち、塗工した正極活物質(例えばニッケル成分)がエージングや評価中に正極集電体から脱落して、不織布が封止されてない開放辺Oから外側(図中矢印方向)に拡散することで、負極に到達して局部電池を形成してしまい、負極の自己放電反応が起こり目的の電圧が得られないといった不具合が発生する。そこで、正極集電体12として発泡ニッケルを用いて、不織布16を塗工部Cの外周部から延出して余剰領域Eを形成させ、
図3に示されるように正極集電体12の両側から不織布16で正極集電体12ごと封止する。この点、通常の無孔質の金属板からなる正極集電体では不織布で挟んだ形で熱溶着することができないが、発泡ニッケルを採用したことで、
図3に示されるように正極集電体12内に多数の空隙が存在し、不織布16の溶融時に正極集電体12内の空隙で不織布16同士が熱溶着でき、効果的な封止が実現される。もっとも、接着剤や超音波溶着等の熱溶着以外の封止手法を用いても上記多数の空隙を利用することで同様に封止できるものと考えられる。こうして、不織布16の正極集電体12と重ならない辺Sのみならず、不織布16の正極集電体12と重なる辺S’をも封止することで、正極から脱落したニッケル成分等が外部に拡散することなく、自己放電反応を抑制して目的の電圧を得ることができる。
【0018】
不織布16は、高分子材料製の不織布であるのが好ましい。不織布16は、正極集電体12の塗工部Cを両面から覆うことで、不織布の諸機能(緩衝材、保液材、脱落防止材、気泡逃がし材等の機能)を効果的にもたらすことができる。すなわち、不織布は、緩衝材、保液材、脱落防止材、気泡逃がし材等の様々な機能を呈することができるため、正極からの構成粒子の脱落を防止し、且つ/又は発生しうる気泡を逃がしながら、電解液を十分に正極活物質14及びセパレータと接触させて保持することができる。不織布を構成する高分子材料は、熱溶着封止を行う観点から、熱可塑性高分子材料が好ましい。熱可塑性高分子材料の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等が挙げられ、特に好ましくはポリエチレン及び/又はポリプロピレンである。不織布16の厚さは、上述した不織布の諸機能(特に保液性)及び封止(特に熱融着封止)のしやすさの観点から、0.05〜0.2mmが好ましく、より好ましくは0.07〜0.15mmであり、さらに好ましくは0.08〜0.10mmである。不織布16は市販のものを使用することができ、所望の特性が得られるように、吸水速度や保水性等を考慮して目付や厚みを適宜選択すればよい。不織布16は界面活性剤やプラズマ処理等により親水性が付与されているものが好ましい。
【0019】
図2に示されるように、不織布16は、塗工部Cの全体を包含し、かつ、塗工部Cの外周部から延出して余剰領域Eを形成しており、塗工部Cの外周部をその全周にわたって閉じるように余剰領域Eが封止されている。
【0020】
図2、3及び5に示されるように、余剰領域Eのうち未塗工部Uと重なる部分において、不織布16が正極集電体12を挟んで封止されているのが好ましい。この場合、不織布16が正極集電体12を挟んで封止されている部分の幅W
sは、1〜10mmであるのが好ましく、より好ましくは1〜7mmであり、さらに好ましくは1〜4mmである。また、不織布16が正極集電体12を挟んで封止された部分の厚さT
Sが、0.1〜1.0mmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜0.7mmであり、さらに好ましくは0.1〜0.4mmである。
図3に示されるように、不織布16が正極集電体12を挟んで封止された部分において、正極集電体12を構成する発泡ニッケルの孔内が、不織布16を構成する高分子材料(すなわち不織布16に由来する溶融固化した状態の高分子材料)で充填されているのが好ましい。さらに、
図5に示されるように、正極構造体10は、塗工部Cと、不織布16が正極集電体12を挟んで封止された部分(辺S’)との間に、正極集電体12を構成する発泡ニッケルの孔が上述の高分子材料(すなわち不織布16の構成材料)又は正極活物質で充填されていない非充填領域Fを有するのが好ましい。かかる非充填領域Fは、不織布16が正極集電体12を挟んで封止された部分(辺S’)から、塗工部Cを十分に隔離するためのバッファとして機能し、塗工部Cからの上記封止部分への正極活物質14の浸入を効果的に防止して、正極集電体12を介した不織布16の封止をより確実なものとすることができる。また、非充填領域Fがあることで、未塗工部Uを加圧する際に塗工部Cとの接触を避けることが出来る。
【0021】
図4及び5に示されるように、正極構造体10は、余剰領域Eのうち未塗工部Uと重なる部分において、塗工部Cから未塗工部に向かって厚さが減少するテーパー状の断面形状を有するのが好ましい。かかる断面形状であると、発泡ニッケルのプレス加工時(すなわち未塗工部Uのプレス時)における塗工部C及び未塗工部Uの境界における急激な厚さ変化に伴う発泡ニッケルの破損や、不織布16の封止時における塗工部Cと未塗工部Uの境界における不織布16の破損を効果的に防止できる。
【0022】
一方、余剰領域Eのうち未塗工部Uと重ならない部分(辺S)において、不織布16が正極集電体12を挟まないで封止されているのが好ましい。正極集電体12を介在させない、不織布16同士を直接封止できるため、封止がしやすくなる。
【0023】
本発明の特に好ましい態様においては、
図2に示されるように、発泡ニッケルが矩形状(例えば四辺形状)であって、不織布16が、塗工部Cの全体を包含し、かつ、塗工部Cの外周4辺から延出して余剰領域Eを形成しており、塗工部Cの外周4辺S,S’を閉じるように余剰領域Eが封止されている。
【0024】
余剰領域Eにおける封止は、接着剤、熱溶着、超音波溶着、接着テープ、封止テープ等の公知の手法により行うことができるが、好ましくは熱溶着封止である。熱溶着封止によれば、市販のヒートシールバーを用いて簡便に封止できるとともに、
図3を参照しながら前述したように、正極集電体12の両側から不織布16で正極集電体12ごと封止するのに有利となる。すなわち、不織布16の溶融時に正極集電体12内の空隙で不織布16同士が熱溶着でき、効果的な封止を実現できる。例えば、不織布16の熱溶着封止は、塗工部Cよりも大きいサイズに切り出した不織布16で塗工部Cを両側から挟み込んで(例えば
図4を参照)、不織布16端部の塗工部Cからはみ出した余剰領域Eをヒートシールバー等で熱圧着する(例えば
図5を参照)ことにより行えばよい。熱圧着は150〜200℃の加熱温度で1秒以上プレスすることにより行うのが好ましい。
【0025】
前述のとおり、本発明の正極構造体10はニッケル亜鉛二次電池に用いられるのが好ましい。この場合、ニッケル亜鉛二次電池は、上述した正極構造体10と、負極構造体と、LDHセパレータと、電解液とを含み、LDHセパレータを介して正極と負極活物質層が互いに隔離される。負極構造体は、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質層を含み、所望により負極集電体をさらに含む。負極活物質の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。電解液はアルカリ金属水酸化物水溶液を含むのが好ましい。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。
【0026】
LDHセパレータは、層状複水酸化物(LDH)を含むセパレータであって、専らLDHの水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。好ましいLDHセパレータは、LDHと多孔質基材とを含む。前述のとおり、LDHセパレータが水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDHが多孔質基材の孔を塞いでいる。多孔質基材は高分子材料製であるのが好ましく、LDHは高分子材料製多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。例えば、特許文献2〜4に開示されるような公知のLDHセパレータが使用可能である。
【0027】
正極構造体10、負極構造体、LDHセパレータ及び電解液を含む単電池要素は密閉容器内に収容され、蓋部で塞がれることにより、密閉型亜鉛二次電池の主要構成部品として機能しうる。密閉容器内には複数の単電池要素が収容されて組電池を成すのがより好ましい。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0029】
例1
(1)正極構造体の作製
水酸化ニッケルを主成分として含む正極活物質粉末と、バインダーとを混合して正極ペーストを調製した。正極集電体として矩形平板状の発泡ニッケル(住友電気工業株式会社製、セルメット(登録商標)、品番#7、厚さ1.6mm、平均孔径0.51m
m)を用意し、正極ペーストを発泡ニッケルの塗工部とすべき部分の孔内に充填して乾燥させた。このとき、発泡ニッケルの未塗工部とすべき部分に予めマスキングを施して孔を塞いでおくことで、未塗工部の孔内に正極ペーストが侵入しないようにした。こうして正極活物質が部分的に充填された発泡ニッケル(正極集電体)を正極板として得た。得られた正極板を十分に乾燥させた後、ロールプレスで均一に加圧して塗工部の厚さを0.70mmに低減した。このとき、発泡ニッケルの未塗工部(正極活物質が充填されていない部分)もある程度圧縮されたが、未塗工部Uを選択的にさらに圧縮すべく油圧0.1MPa、隙間0.06mmの条件でロールプレスを施して未塗工部の厚さを0.10mmに低減した。すなわち、未塗工部を構成する発泡ニッケルが、塗工部を構成する発泡ニッケルの厚さの0.14倍の厚さとなるように圧縮した。こうして
図4に示されるような断面形状の正極板を得た。未塗工部Uの長さL
U(すなわち塗工部Cからのはみ出し長さ)は30mmであった。
【0030】
市販の不織布(日本バイリーン社製、材質:ポリプロピレン、厚さ:0.10mm、単位面積重量:40g/m
2)を塗工部Cよりも大きいサイズに矩形状に切断した。得られた矩形状の不織布16で
図4に示されるように塗工部Cを両面から挟んで覆った。このとき、不織布16が塗工部Cの全体を包含し、かつ、塗工部Cの外周4辺から延出して余剰領域を形成するようにした。塗工部Cの外周4辺を全て閉じるように余剰領域Eを熱溶着封止(熱圧着)した。この熱溶着封止は、市販のヒートシールバーを用いて、不織布16の端部を150〜200℃の温度で1秒間以上加熱することにより行った。なお、余剰領域Eのうち未塗工部Uと重ならない部分においては、不織布16が正極集電体12を挟まないで不織布16同士を直接熱溶着封止した。一方、余剰領域Eのうち未塗工部Uと重なる部分においては、不織布16で正極集電体12を両側から挟んで熱溶着封止した。こうして
図5に示されるような正極構造体10を得た。
【0031】
図4及び5に示される各部材の寸法は表1に示されるとおりであった。
【表1】
【0032】
得られた正極構造体を目視及び断面SEMにより観察した結果、以下の構造が確認された。
‐
図3に示されるように、不織布16が正極集電体12を挟んで封止された部分において、正極集電体12を構成する発泡ニッケルの孔内が、不織布16を構成する高分子材料で充填されていることが確認された。
‐
図5に示されるように、余剰領域Eのうち未塗工部Uと重なる部分において、塗工部Cから未塗工部Uに向かって厚さが減少するテーパー状の断面形状が確認された。
‐
図5に示されるように、塗工部Cと、不織布16が正極集電体12を挟んで封止された部分(辺S’)との間に、正極集電体12を構成する発泡ニッケルの孔が高分子材料又は正極活物質14で充填されていない非充填領域Fが存在することが確認された。
【0033】
(2)評価
上記(1)で作製した正極構造体、下記LDHセパレータ、及び下記負極構造体を、LDHセパレータを介して正極構造体と負極活物質層が互いに隔離されるように電池容器に収納した。そして、正極構造体10の未塗工部Uを構成する圧縮された発泡ニッケル12枚に正極端子(材質:ニッケル、厚さ1mm)を超音波溶着により接合した。超音波溶着による接合は、発泡ニッケルを破損させることなく問題無く行うことができた。
・負極構造体:銅エキスパンドメタルに、金属亜鉛及び酸化亜鉛粉末をバインダーとともに含んだ負極活物質層を圧着し、不織布で覆ったもの
・LDHセパレータ:高分子材料(ポリエチレン)製の多孔質基材の孔を水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するようにLDHで塞いでプレスされたセパレータ
【0034】
こうして作製されたニッケル亜鉛二次電池に対して、化成プロセスとして、以下の注液工程、化成工程及び廃液工程を行った。
・注液工程:正極構造体及び負極構造体に電解液(5.4mol%水酸化カリウム水溶液)を浸透させる処理を行った。電解液量は積層体全体が浸漬する量とし、全量を2回に分けて用いることで、減圧下(−90kPa)での浸漬と、大気開放下での浸漬とを実施した。
・化成工程:正極の活性化のために行う処理として、正極搭載容量の80%、100%及び120%の各深度までの充電と放電を行った。
・排液工程:化成工程後、正極構造体及び負極構造体に吸収されなかった余剰電解液を、電池を180°反転して注液口から排出した。
【0035】
<排液中の異物定量>
上記排液工程で得られた排液中の異物としての正極活物質の有無を調べた。具体的には、排液中のろ過残渣の異物数をカウントして、単位容積当たりの異物の個数を測定した。この測定は、X線異物解析装置(EA8000、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、異物の測定サイズを20μm以上と設定して行った。結果は、表2に示されるとおりであった。
【0036】
<自己放電特性評価>
作製したニッケル亜鉛二次電池について、一定充電深度で30日保存した後の残容量比率を自己放電率として以下の式に基づき算出した。結果は、表2に示されるとおりであった。
自己放電率=[(初回充電容量)−(保存経過後の放電容量)]/(初回充電容量)×100(%)
【0037】
例2
図6に示されるように塗工部Cの外周4辺のうち3辺Sのみを閉じるように余剰領域Eを熱溶着封止(熱圧着)したこと(すなわち余剰領域Eのうち未塗工部と重なる部分(辺O)における熱溶着封止を行わなかったこと)以外は、例1と同様にして正極構造体の作製及び評価を行った。
【0038】
【表2】