【実施例】
【0080】
下記に提示する実施例に記載の試験は、以下の材料及び方法論を用いて行った。
【0081】
ショウジョウバエのストック
キイロショウジョウバエ種のハエMhc−Gal4系統は、ショウジョウバエミオシン重鎖遺伝子発現パターンと共に酵母の転写因子Gal4を発現する。したがって、Gal4は体性筋組織すなわち骨格筋組織、内臓筋組織すなわち平滑筋組織、特に咽頭及び背脈管又は心臓の筋肉を含む、この昆虫の筋肉組織全体で発現される。これらは中央リポジトリ(http://flystocks.bio.indiana.edu/)から、その維持に貢献する料金を支払うことによって購入することができる。ショウジョウバエのmiRNAであるdme−miR−92a、dme−miR−100、dme−miR−124、dme−miR−277、dme−miR−304に対するmiRNAスポンジ(UAS−miR−SP)、及び陰性対照としてのランダム配列に対するmiRNAスポンジ(scrambled−SPとして知られる、対照)を有する系統は、T. Fulga博士から入手した(Fulga et al., 2015)。簡潔に述べると、miR−SPの構築物を、4ヌクレオチドの可変結合配列によって分離されたmiRNAに相補的な20反復配列のサイレンシングカセットを用いて設計した(miR−92SP:配列番号62;miR−100SP:配列番号63;miR−124SP:配列番号64;miR−277SP:配列番号65;miR−304SP:配列番号66)。組み換え系統MHC−Gal4 UAS−i(CTG)480は、Llamusi et al.に記載のように生成した(Llamusi et al., 2013)。ハエ系統UAS−mblC及びUAS−IR−mblの構築及び特性は、以前に記載されている(それぞれGarcia-Casado et al., 2002及びLlamusi et al., 2013)。UAS−mblCは、GaL4/UASシステムの制御下でmuscleblindのアイソフォームmblC(アクセス番号NM 176210で表される)を発現する導入遺伝子であり、UAS−IR−mblは、muscleblind遺伝子から選択的スプライシングによって生成する全ての転写産物をサイレンシングする干渉構築物を発現し、mblの発現を、その正常値の少なくとも50%まで低減することが以前の試験で示されている導入遺伝子である。全ての交雑を標準ハエ給餌により25℃で行った。
【0082】
RNAの抽出、RT−PCR及びqRT−PCR
各生物学的複製について10匹の雄性成体の全RNAを、Trizol(Sigma)を用いて抽出した。1マイクログラムのRNAをDNアーゼI(Invitrogen)で消化し、ランダムヘキサヌクレオチドを用いるSuperscript II(Invitrogen)を用い、製造業者の推奨に従って逆転写した(retrotranscribed)。20ngのcDNAを、Go Taqポリメラーゼ(Promega)及びFhos遺伝子のエクソン16’及びTnt遺伝子のエクソン3〜5のスプライシングを分析するための特異的プライマーを用いた標準PCR反応に使用し、内在性対照としてRp49を0.2ngのcDNAとともに使用した。qRT−PCRを2ngのcDNA鋳型からSYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)及び特異的プライマー(配列番号31〜配列番号50:表1を参照されたい)を用いて行った。参照遺伝子Rp49については、qRT−PCRを0.2ngのcDNAから行った。熱サイクルは、Step One PlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)において標準条件に従って行った。各実験において3回の生物学的反復試験及び3回の技術的反復試験を行った。内在性遺伝子及び対照群に関する相対発現のデータは、2
-ΔΔ
Ct法によって得た。サンプル対は、両側T検定(α=0.05)を用い、必要であればウェルチ補正を適用して比較した。
【0083】
【表1】
【0084】
ウエスタンブロット
キイロショウジョウバエの全タンパク質の抽出のために、20個の雌の胸部をRIPAバッファー(150mM NaCl、1.0%IGEPAL、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、50mM Tris−HCl pH8.0)+プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル(Roche Applied Science)中でホモジナイズした。全タンパク質を、ウシ血清アルブミンを標準として用いたBCAタンパク質アッセイキット(Pierce)によって定量化した。20μgのサンプルを100℃で5分間変性させ、12%SDS−PAGEゲル中で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。膜をPBS−T(8mM Na
2HPO
4、150mM NaCl、2mM KH
2PO
4、3mM KCl、0.05%Tween 20、pH7.4)中の5%粉末スキムミルクでブロッキングし、免疫検出を膜上で標準手順に従って行った。ショウジョウバエのMblタンパク質の検出のために、抗Mbl抗体(Houseley et al., 2005)を初期野生型胚(産卵後0時間〜6時間)に対して予め吸着処理し、非特異的抗体の結合を排除した。膜を吸着処理済み(preabsorbed)一次抗体(終夜、1000倍)、続いてホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートした二次抗ヒツジIgG抗体(1時間、5000倍、Sigma-Aldrich)と共にインキュベートした。ロード対照(Load control)を、抗チューブリン抗体(終夜のインキュベーション、5000倍、Sigma-Aldrich)を用いて行い、続いてHRPコンジュゲート二次抗マウスIgG抗体(1時間、3000倍、Sigma-Aldrich)とのインキュベーションを行った。ウエスタンブロットECL基質(Pierce)を用いてバンドを検出した。画像をImageQuant LAS 4000(GE Healthcare)により撮影した。
【0085】
細胞からの全タンパク質抽出のために、HeLa細胞及びヒト筋芽細胞を超音波処理し、マウス筋肉(腓腹筋及び四頭筋)を、プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル(Roche Applied Science)を添加したRIPAバッファー(150mM NaCl、1.0%IGEPAL、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、50mM Tris−HCl pH8.0)中でホモジナイズした。全タンパク質を、ウシ血清アルブミンを標準濃度範囲として用いたBCAタンパク質アッセイキット(Pierce)によって定量化した。免疫検出アッセイのために、20μgのサンプルを100℃で5分間変性させ、12%SDS−PAGEゲル上で電気泳動し、0.45μmニトロセルロース膜(GE Healthcare)上に転写し、PBS−T(8mM Na
2HPO
4、150mM NaCl、2mM KH
2PO
4、3mM KCl、0.05%Tween 20、pH7.4)中の5%脱脂粉乳でブロッキングした。HeLa細胞、ヒト筋芽細胞及びマウスサンプルについては、膜を一次マウス抗MBNL1(1000倍、ab77017、Abcam)又はマウス13抗CUG−BP1(200倍、クローン3B1、Santa Cruz)抗体のいずれかと共に4℃で一晩インキュベートした。MBNL2を検出するために、マウス抗MBNL2(100倍、クローンMB2a、Developmental Studies Hybridoma Bank)をヒト筋芽細胞及びマウスサンプルに使用し、ウサギ抗MBNL2(1000倍、ab105331、Abcam)抗体をHeLa細胞に使用した。HRPコンジュゲート抗ウサギIgG二次抗体(1時間、5000倍、Sigma-Aldrich)を必要とするHeLa細胞サンプル中のMBNL2抗体を除く全ての一次抗体を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗マウスIgG二次抗体(1時間、5000倍、Sigma-Aldrich)を用いて検出した。ローディング対照は、細胞サンプルについては抗β−アクチン抗体(1時間、5000倍、クローンAC−15、Sigma-Aldrich)、マウスサンプルについては抗Gapdh(1時間、5000倍、クローンG−9、Santa Cruz)、続いてHRPコンジュゲート抗マウスIgG二次抗体(1時間、5000倍、Sigma-Aldrich)とした。免疫反応性バンドを、増強化学発光ウエスタンブロット基質(Pierce)を用いて検出し、画像をImageQuant LAS 4000(GE Healthcare)によって取得した。ImageJソフトウェア(NIH)を用いて定量化を行い、統計学的差異を正規化データに対するスチューデントのt検定(p<0.05)を用いて推定した。
【0086】
組織学的分析
ハエの飛翔筋(fly muscle)におけるMuscleblindの免疫蛍光検出及びショウジョウバエの胸部における筋面積の分析を以前に記載のように行った(Llamusi et al., 2013)。Mblの免疫検出のために、ハエ胸部の凍結切片を用い、ブロッキング溶液と共に30分間、500倍希釈の抗Mbl抗体と共に4℃で終夜インキュベートした。翌日、過剰な抗体をPBS−Tで洗い流し、200倍希釈のビオチンとコンジュゲートした二次抗体抗ヒツジIGと共に45分間インキュベートした。二次抗体を洗浄した後、ABC溶液(VECTASTAIN ABCキット)と共に30分間インキュベートし、過剰な試薬を洗い流し、1000倍の最終フルオロフォアとコンジュゲートしたストレプトアビジンと共に45分間インキュベートした。調製物を、DAPIを含む封入剤に封入した。
【0087】
エポキシ樹脂に包埋した胸部断面から筋面積を決定した。簡潔に述べると、胸部を氷中の200μlの溶液1(1/4の4%パラホルムアルデヒド、1/4の8%グルタルアルデヒド、1/4の0.2M Na
2HPO
4及び1/4の0.2M NaH
2PO
4)の入ったチューブに入れた。次いで、200μlの溶液2(溶液1及び四酸化オスミウムの1:1混合物)を添加し、氷中で30分間インキュベートした。次いで、混合物を200μlの溶液2に置き換え、氷中で1時間〜2時間インキュベートした。固定後に、サンプルを氷中で30%、50%及び70%、室温で90%及び100%のエタノールに5分間(2回)通すことによって脱水した。次いで、プロピレンオキシドに10分間、2回通した。最後に、サンプルをプロピレンオキシド及びエポキシ樹脂の1:1混合物中に一晩置いた。翌日、液体を純粋なエポキシ樹脂に置き換え、少なくとも4時間サンプル中に浸透させた。その後、ハエを樹脂の入った鋳型に入れ、整列させ、樹脂を70℃のパスツール炉(Pasteur furnace)内で終夜重合させた。サンプルをウルトラミクロトームにおいてダイヤモンドブレードで1.5μmの断面切片に切り出した。光学顕微鏡下での更なる観察のために切片をスライド上に置き、1滴のDPX封入剤をゲル化させ、カバーガラスをかぶせた。
【0088】
フォーカスの検出
分析対象のハエの胸部をPBS中の4%パラホルムアルデヒドにおいて4℃で一晩固定した後、PBS中の30%スクロース溶液において2日間維持した。2日後に、胸部をOCTに浸し、液体窒素中で凍結し、処理を行うまで−80℃に維持した。この時点で、15μmの横断切片をクライオミクロトーム(cryomicrotome)Leica CM 1510Sで得た。胸部切片のスライドを1倍PBSで3回(5分間)洗浄し、アセチル化バッファーを添加した。10分後に、スライドを1倍PBSで3回(5分間)洗浄し、ハイブリダイゼーション溶液(10mlの脱イオン化ホルムアミド、12μlの5M NaCl、400μlの1M Tris−HCl pH=8、20μlの0.5M EDTA pH=8、2gの硫酸デキストラン、400μlの50倍デンハルト溶液、1mlのニシン精子(10mg/m)、20mlの最終容量までのH
2O)を用いて30分間プレハイブリダイズした。標識プローブ(Cy3−5’CAGCAGCAGCAGCAGCAGCA3’−Cy3:配列番号61、Sigma)を65℃で5分間加熱した後にスライドに添加し、ハイブリダイゼーションバッファー(1/100)に溶解し、多湿暗室において37℃で一晩ハイブリダイズした。翌日、プレパラートを32℃に維持しながら2倍SSCで洗浄し(2×15分間)、PBSで3×5分間洗浄した。最後に、スライドにVectastainをマウントし、40倍レンズを備える共焦点顕微鏡FLUOVIEW FV1000を用いて写真を撮影した。
【0089】
ショウジョウバエにおける生存率の分析
適切な遺伝子型を有する合計120匹の新生ハエを収集し、29℃に維持した。ハエを2日に1回、新たな新鮮栄養培地に移し、死亡数を毎日計数した。カプランマイヤー法を用いて生存曲線を得て、GraphPad Prism5ソフトウェアを用いて対数範囲検定(logarithmic range test)(ログランク検定、マンテル−コックス)(α=0.05)により統計分析を行った。
【0090】
機能試験
飛行試験をBabcok et al.によって記載される手順(Babcock et al., 2014)に従い、1群当たり100匹の雄性ハエを用いて5日目に行った。試験は、じょうごを通して高さおよそ1メートル、直径15cmの円筒にハエの群を放すことからなる。この円筒を、接着剤を染み込ませたプラスチックシートで覆い、ハエが飛んで円筒の上部の空中に留まりそこで動けなくなるか、又は十分に飛べない場合に円筒の底部に落下して動けなくなるようにする。着地高さを、両側t検定(α=0.05)を用いて群間で比較した。上昇速度を評定するために、10匹の5日齢の雄の群を麻酔することなく24時間経過後に使い捨てピペット(直径1.5cm、高さ25cm)に移した。各ハエが10秒間で到達するバイアルの底からの高さをカメラで記録した。各遺伝子型について30匹のハエの2つの群を試験した。サンプル対を、両側T検定(α=0.05)を用い、必要であればウェルチ補正を適用して比較した。
【0091】
マイクロRNA模倣物のライブラリー(SureFINDトランスクリプトームPCRアレイ、Qiagen)に基づくスクリーニング
この研究では、キット「癌miRNA SureFindトランスクリプトームPCRアレイ」(Qiagen)を使用して、考え得るMBNL1及びMBNL2を調節するmiRNAを特定した。qPCR多重試験を、市販のTaqManプローブ(QuantiFastプローブPCRキット、Qiagen)を用いて行い、MBNL1及びMBNL2(ThermoFisherによる蛍光マーカーFAM:フルオレセインで標識した対象の遺伝子)、並びにGAPDH(同様にThermoFisherからのMax又はFluoro−Maxとして知られるフルオロフォアで標識した内在性遺伝子として)の発現を定量化した。qRT−PCRを、StepOnPlusリアルタイムサーマルサイクラーを用いて行い、各々の特異的マイクロRNA模倣物による処理の結果としてのMBNL1及びMBNL2の発現の変化を、SureFIND miRNAトランスクリプトームPCRアレイに付属するExcelベースのデータ分析ソフトウェアを用いて分析し、模倣物陰性対照(天然には存在しないマイクロRNA)に対して算出し、GAPDHに対して標準化した。観察された変化をlog2の形で表し、陽性miRNA候補の選択のために統計分析ΔΔCt(MAD)に供した。
【0092】
検証試験
HeLa細胞を、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)を添加した、1000mg/Lグルコースを含むDMEM培養培地(Sigma-Aldrich)中、37℃で培養した。細胞を6ウェルプレートにおいて2ml容量の培地に4×10
5細胞/ウェルの密度で播種した。16時間後に細胞が80%コンフルエントな状態で、X−tremeGENE HP試薬(Roche)を用い、HeLa細胞での使用についての製造業者の説明書に従ってベクターをトランスフェクトした。
【0093】
HeLa細胞に、マイクロRNAの発現のための2μgの各バージョンのベクター:いずれの場合にも、元のベクターのCMVプロモーターに操作可能に連結した、ひいてはその制御下の5つのマイクロRNA(hsa−miR−7、挿入配列:配列番号5、hsa−miR−23b:配列番号6、hsa−miR−146b:配列番号7、hsa−miR−218:配列番号8及びhsa−miR−372:配列番号9)のうち1つの個々の前駆体のコード配列を含有する市販のプラスミドpCMV−MIR(OriGene)に由来するベクター、又はマイクロRNAの前駆体配列を含まない空バージョンをトランスフェクトした。
【0094】
これらの細胞のRNAを、プラスミドのトランスフェクションの48時間後にTrizol(Sigma)を用いて抽出した。1マイクログラムのRNAをDNアーゼI(Invitrogen)で消化し、ランダムヘキサマーを用い、Superscript II(Invitrogen)を用いて逆転写した。各RNAサンプルの濃度を、Nanodrop−1000分光光度計(Thermo Scientific,Waltham,MA)で決定した。qPCRによる転写レベルでのMBNL1及びMBNL2の発現の定量化を、10ngのcDNAから市販のTaqManプローブ(QuantiFastプローブPCRキット、Qiagen)を用い、先のセクションのように製造業者の説明書に従って行った。
【0095】
ウエスタンブロット試験に使用した全てのタンパク質は、トランスフェクションの72時間後にRIPAバッファー(150mM NaCl、1.0%IGEPAL、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、50mM Tris−HCl pH8.0)+プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤(Roche Applied Science)を用いて抽出した。サンプルを、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce)を用いて定量化した。20ngのサンプルを100℃で5分間変性させ、SDS−PAGEゲル(12%アクリルアミド)のロードに使用し、Mini−protean電気泳動システム(Bio-Rad)を用いてタンパク質を分離した。ニトロセルロース膜(GE Healthcare)でのタンパク質の固定化を、Trans−blot SD半乾式転写細胞システム(Bio-RAD)における電気泳動転写(electrotransference)によって行った。転写は定電圧(15V)で1時間行った。電気泳動後に膜をPBST中で平衡化し、ブロッキング溶液(PBST中の5%スキムミルク)中で1時間ブロッキングした。これらの膜を続いて一次抗体である抗MBNL1及び抗MBNL2(終夜、1000倍、Abcam)と共にインキュベートし、PBSTで3回洗浄した後、二次抗体、抗マウス−HRP及び抗ウサギ−HRPのそれぞれを添加した(1時間、5000倍、Sigma-Aldrich)。ロード対照として抗β−アクチンを使用し(終夜、5000倍、Sigma-Aldrich)、続いて適切な洗浄を行い、二次抗体、この場合は抗マウス−HRPを使用した(1時間、5000倍、Sigma-Aldrich)。化学発光検出を、ECLウエスタンブロット基質(Pierce)を用いて行った。ドキュメンテーションシステムImageQuant LAS 4000(GE Healthcare Australia Pty Ltd,Rydalmere,NSW,Australia)を用いて画像を得た。
【0096】
3’UTR領域に対する候補miRNAの活性の検証試験(デュアルルシフェラーゼキット)
HeLa細胞を、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S;Sigma-Aldrich)を添加した、1000mg/Lグルコースを含むDMEM培養培地(Sigma-Aldrich)中、37℃で培養した。細胞を24ウェルプレートにおいて0.5ml容量の培地に4×10
5細胞/ウェルの密度で播種した。16時間後に細胞が80%コンフルエントな状態で、pCMV−MIRベクター(OriGene)の対応する誘導体から発現される上述のマイクロRNAを、遺伝子MBNL1及びMBNL2の両方の3’UTR領域を有するpEZX−MT05ベクター(GeneCopoeia)と共に、X−tremeGENE HP試薬(Roche)を用い、HeLa細胞での使用についての製造業者の説明書に従ってコトランスフェクトした。いずれの場合にもpEZX−MT05ベクターに挿入される、対応するフラグメントの3’UTRに対応する部分の配列を、配列番号51(MBNL1遺伝子の3’UTR領域:製品番号HmiT011084−MT05)及び配列番号54(MBNL2遺伝子の3’UTR領域:製品番号HmiT000192−MT05)に示す。
【0097】
最初の活性研究に陽性であった全てのmiRNAについて、以下の3つのタイプの構築物を試験した:先に試験したMBNL1及びMBNL2の3’UTRを有する野生型構築物(WT)、並びに2つの新たな構築物:3’UTRへのマイクロRNAの結合を妨げるためにマイクロRNAの予測標的中に欠失(通常は6ヌクレオチド、7ヌクレオチド又は8ヌクレオチドのシード領域に相補的な配列の欠失)を有するように設計された突然変異構築物(MUT)、及び完全相補標的を有する構築物(PM)。これら全ての構築物は、GeneCopoeia社により本発明者らの注文に従って合成された。修飾3’UTRに対応する部分を配列番号52(hsa−miR−23bとMBNL1の3’UTRとの結合領域に欠失を有する構築物:MUT−miR−23b)、配列番号53(MBNL1の3’UTRとのMiR−23bの結合領域において完全な相補性を有する構築物:PM−miR−23b)、配列番号55(MBNL2の3’UTRとのhsa−miR−23bの結合領域に欠失を有する構築物:MUT−miR−23b)、配列番号56(MBNL2の3’UTRとのmiR−23bの結合領域に完全な相補性を有する構築物:PM−miR−23b)、配列番号57、配列番号58、配列番号59(MBNL2の3’UTRとのhsa−miR−218の第1、第2又は第3の結合領域それぞれに欠失を有する構築物:MUT1−miR−218、MUT2−miR−218、MUT3−miR−218)及び配列番号60(MBNL2の3’UTRとのhsa−miR−218の3つの結合領域において完全な相補性を有する構築物:PM−miR−218)に示す。
【0098】
両方の遺伝子に対する3’UTRを有するこれら全ての構築物(WT、MUT、PM)において、これは培地に分泌されるガウシアルシフェラーゼ(Gluc)を発現するレポーター遺伝子の下流に位置する。ルシフェラーゼに対応する配列及び3’UTR領域に対応する配列の両方が、哺乳動物細胞の発現プロモーターSV40下で一緒に転写され、キメラmRNAを生じる。加えて、このベクター(pEZX−MT05)は、構成的発現により同様に培地に分泌される別のレポーターであるアルカリホスファターゼ(SEAP)を有し、これはCMVプロモーターの制御下で発現され、ガウシアルシフェラーゼについて得られる読み取り値の正規化の内部対照となる。
【0099】
これらの実験の読取りを、プレートリーダー(Infinite 200 PROマイクロプレートリーダー、Tecan)に入れた白色96ウェルプレートフォーマットにおいて、Secrete−Pair(商標)ガウシアルシフェラーゼデュアル発光アッセイキット(GeneCopoeia)を用い、製造業者の説明書に従って行った。研究した構築物のそれぞれについて、3回の技術的反復試験を3回の独立実験の各々で行った。
【0100】
関連組織における候補miRNAの発現
マウス組織(前脳、小脳、海馬、心臓、腓腹筋及び四頭筋)、ヒト筋肉生検組織及びヒト線維芽細胞の培養物に由来する小型RNAを富化した全RNAの抽出を、QiagenのMiRNeasyキットを用いて行った。10ngの全RNAから、miRNAの画分をExiqonの汎用cDNA合成IIキットを用いて逆転写した。qRT−PCRのために、cDNAの80倍希釈を行い、そのうち4μlを1回の技術的反復試験に使用した。miRNAのqRT−PCR増幅を、各miRNAに特異的な市販のプライマー(EXIQON)及びSyBR Green Mastermix Universal RTを用いて行った。発現の差異を、2
-ΔΔ
Ct法を用いて算出した。
【0101】
antagomiRによるトランスフェクションの試験
健常対照線維芽細胞を細胞培養ボトル中の1%P/S及び10%不活性化ウシ胎仔血清を添加した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(DMEM 4500mg/l、Gibco)において培養し、増殖させた。
【0102】
本アッセイの細胞を96ウェルプレート(1ウェル当たり10000細胞)に10
5細胞/mlの密度で播種した。細胞の播種の約16時間後に細胞が80%コンフルエントな状態で、antagomiR(合成をCreative Biogeneに委託した;antagomiR−23b−3pのヌクレオチド塩基配列:GGUAAUCCCUGGCAAUGUGAU(配列番号2)、及びantagomiR−218−5pのヌクレオチド塩基配列:ACAUGGUUAGAUCAAGCACAA(配列番号1))によるこれらの細胞のトランスフェクションを、X−TremeGENE HP試薬(Roche)を用い、線維芽細胞での使用についての製造業者の説明書に従って行った。製造業者によって推奨されるよりも少量のトランスフェクション試薬(0.5μl及び1μl)を使用したことから、説明書に僅かに変更を加えた。これは、antagomiRが、細胞膜をより良好に透過することを可能にし、侵入に有利となるコレステロールを構造内に組み込む特別な化学的性質を有するため、それほどトランスフェクション試薬は必要とされず、生存能力が改善するためである。
【0103】
具体的には、agomiR及びantagomiRの合成に関する対応するCreative Biogenのウェブサイト(http://www.creative-biogene.com/Services/MicroRNA-Agomir-Antagomir-Synthesis-Service.html)に反映されるような、本願において使用したantagomiR(antagomiR−218−5p:配列番号10及びantagomiR23b−3p:配列番号11)は、配列番号1及び配列番号2によって表される基本オリゴヌクレオチド配列とは以下の化学修飾を示す点で異なる:5’末端の2つのホスホロチオエート基、3’末端の4つのホスホロチオエート基、3’末端の4つのコレステロール基、及び全ヌクレオチド位置の、すなわちオリゴヌクレオチド配列全体にわたるリボース中の2’−メトキシ修飾。それらの各々の基本オリゴヌクレオチド配列である配列番号1及び配列番号2はそれぞれ、ブロッキングされるmiRNAの配列、すなわちmiR−23b−3pの配列5’−AUCACAUUGCCAGGGAUUACC−3’(配列番号12)及びmiR−218−5pの配列5’−UUGUGCUUGAUCUAACCAUGU−3’(配列番号13)に相補的である。明確にするために、配列を以下のように転写することもできる:
5’−mG
*mG
*mUmAmAmUmCmCmCmUmGmGmCmAmAmUmGmU
*mG
*mA
*mU
*−3’−chol(antagomiR−23b−3p)
5’−mA
*mC
*mAmUmGmGmUmUmAmGmAmUmCmAmAmGmCmA
*mC
*mA
*mA
*−3’−chol(antagomiR−218−5p)
【0104】
トランスフェクション実験を患者に由来する線維芽細胞において行った。特に、これらの試験では、MyoD(筋芽細胞への分化転換を可能にする)のドキシサイクリンによって誘導可能な発現を可能にする構築物であるレンチウイルスベクターを形質導入した、hTERTの発現によって不死化された細胞である皮膚線維芽細胞を使用した。これらの細胞は、Institute of Myology(http://www.institut-myologie.org/en/)のDenis Furling博士の研究室によるものである。
【0105】
両方のantagomiRを、上記の患者の線維芽細胞に漸増量:10nM、50nM、100nM、200nMを用いてトランスフェクトした。対照としては、トランスフェクション試薬のみを使用し、antagomiRは使用しなかった。トランスフェクション培地を細胞と共に4時間放置し、その後、培地を再びDMEM培地に交換した。トランスフェクションの48時間後に、細胞の画像を顕微鏡で、細胞の存在及び形態を観察するために可視光により、また蛍光マーカーCy3(赤色)で標識されるantagomiRの分布及び存在を観察するために蛍光により撮影した。
【0106】
細胞培養毒性試験
健常対照線維芽細胞を細胞培養ボトル中の1%P/S及び10%不活性化ウシ胎仔血清を添加した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(DMEM 4500mg/l、Gibco)において培養し、増殖させた。これらの細胞の接着増殖(adherent growth)を考慮すると、細胞を継代するためにPBSで洗浄し、37℃で2分間トリプシン処理した後、トリプシンの作用を阻害するために新鮮培地を添加した。
【0107】
本アッセイの細胞を96ウェルプレートに10
5細胞/mlの密度で播種した(1ウェル当たり10000細胞)。プレートに表2に表すテンプレートに従って播種したが、ここで、列の番号は最後の行に見ることができる。1列目の場合には、比色分析のブランクとなるために細胞を播種しない。A行〜D行(下線の濃度)はmiRNA23b−3pのantagomiRに対応し、E行〜H行はmiRNA−218のantagomiRに対応する(太字の濃度)。
【0108】
【表2】
【0109】
両方のantagomiRを、患者の線維芽細胞に漸増量:1nM、10nM、50nM、100nM、200nM、500nM及び1000nM(1μM)を用いてトランスフェクトし、対照としては、トランスフェクション試薬のみを使用し、antagomiRは使用しなかった。トランスフェクション培地を細胞と共に4時間放置し、その後、培地を分化転換培地に交換した。線維芽細胞を筋芽細胞に分化転換するために、MyoDの発現を誘導した。このために、培地全体を1%P/S、2%ウマ血清(Gibco)、0.1mg/mlアポトランスフェリン、0.01mg/mlインスリン及び0.02mg/mlドキシサイクリン(Sigma)を添加したDMEMからなる筋肉分化培地(MDM)に60時間置き換えた。
【0110】
この60時間後に、1列目を含む全てのプレートウェルの分化転換培地を100μlの新たな培地に置き換え、20μlのMTS/PMS溶液(CellTiter 96(商標) Aqueous非放射性細胞増殖アッセイキット)を各ウェルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション時間後に、比色アッセイをTecanのInfinite 200 PROマイクロプレートリーダーで製造業者の説明書に従って読み取った。リーダーにより得られたデータを処理し、分析して、IC10(細胞の10%阻害濃度)及びIC50(細胞の50%阻害濃度)を得た。これにより細胞モデルにおいて毒性とならないように取り扱うべきantagomiRの量を知ることが可能となる。
【0111】
定量PCR及びスプライシングアッセイ
DM1患者及び健常対照に由来する線維芽細胞を、細胞培養ボトルにおいて1%P/S及び10%不活性化ウシ胎仔血清を添加した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(4500mg/l DMEM、Gibco)中で培養した。細胞を60mmペトリ皿に125000細胞/プレートの密度で、10mlの細胞を各ウェルに入れて播種した。細胞の播種の約16時間後に細胞が80%コンフルエントな状態で、細胞に出願人の依頼に応じてCreative Biogeneにより合成されたantagomiR(antagomiR−23b−3p及びantagomiR−218−5p)を、X−tremeGENE HP試薬(Roche)を用い、5μlのトランスフェクション試薬しか添加しなかったこと以外は、線維芽細胞での使用についての製造業者の説明書に従ってトランスフェクトした。
【0112】
両方のantagomiRを、患者の線維芽細胞に漸増量:50nM、100nM及び(y)200nMを用いてトランスフェクトした。対照としては、健常対照細胞及び患者線維芽細胞のどちらにおいてもトランスフェクション試薬のみを使用し、antagomiRは使用しなかった。トランスフェクション培地を細胞と共に4時間放置し、その後、分化転換培地(1%P/S、2%ウマ血清(GIBCO)、0.1mg/mlアポトランスフェリン、0.01mg/mlインスリン及び0.02mg/mlドキシサイクリン(Sigma)を添加したDMEM)に交換した。線維芽細胞を、48時間及び96時間の2つの時間にわたって筋芽細胞に分化転換した。
【0113】
HeLa細胞及びヒト筋芽細胞からの全RNAを、antagomiRによるトランスフェクションの48時間後及び96時間後にTrizol(Sigma)を用いて抽出した。マウス筋組織からの全RNAは、miRNeasy Miniキット(Quiagen,Valencia,OA)を用い、製造業者の説明書に従って単離した。いずれの場合にも、1マイクログラムのRNAをDNアーゼI(Invitrogen)で消化し、ランダムヘキサマーを用い、SuperScript II(Invitrogen)で逆転写した。各RNAサンプルの濃度をNanodrop 1000分光光度計(Thermo Scientific,Waltham,MA)で決定した。
【0114】
qPCRによる転写レベルでのMBNL1及びMBNL2の発現の定量化を、10ngのcDNAから市販のTaqManプローブ(QuantiFastプローブPCRキット、Qiagen)を用いて行い、MBNL1及びMBNL2(ThermoFisherの蛍光マーカーFAM:フルオレセインで標識した対象の遺伝子)、GAPDH及びACTB(同様にThermoFisherからのMAX又はFluoro−Max及びTAMRAのそれぞれとして知られるフルオロフォアで標識した内在性遺伝子として)の発現を定量化した。
【0115】
RT−PCRによる転写産物の増幅のために、GoTaq(商標)DNAポリメラーゼ(Promega)を使用した。このために、先の工程により鋳型として得られたcDNAを、製造業者の条件に従って使用した。PCR産物を2.5%アガロースゲル中で分離した。研究した各スプライシング事象の分析に使用したプライマー、DM1患者の筋芽細胞において予想されるパターン、研究したエクソン及び使用した条件を以下の表に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
トランスジェニックマウス及びantagomiR投与
マウスの取扱い及び実験手順は、実験動物の世話及び実験法に関する欧州法(2003/65/CE)に準拠し、本施設内審査委員会によって認可された(参照番号A1458832800370)。ホモ接合体トランスジェニックHSALR(20b系統)マウス25は、C. Thornton教授(University of Rochester Medical Center,Rochester,New York,USA)によって提供され、対応する遺伝的背景(FVB)を有するマウスを対照として使用した。合計4匹の性別及び年齢を適合させた(5月齢未満の)マウスに、肩甲骨間部に送達される100μlの1倍PBS(ビヒクル)又はantagomirの3回の皮下注射(12時間に1回)を行った。全注射に分割された最終的に投与されるantagomirの総量は、12.5mg/kgであった。最初の注射の4日後に、マウスを屠殺し、対象の組織を採取し、各2つのサンプルに分けた。上記セクションのPCRアッセイを含む分子分析のために一方を液体窒素中で凍結し、他方を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で固定し、組織学的処理の前に30%スクロース中で凍結保護した。Cy3標識antagomirは、10mg/kgの単回皮下注射で上記のように投与した。
【0118】
細胞増殖アッセイ
細胞を10
5細胞/mLで96ウェルプレートに播種し、先に説明したようにantagomiRをトランスフェクトした。トランスフェクションの96時間後に、細胞増殖を、CellTiter 96(商標) AQueous非放射性細胞増殖アッセイ(Promega)を用い、製造業者の説明書に従って測定した。IC
10及び用量応答阻害曲線を、非線形最小二乗回帰を用いて算出し、吸光度レベルをTecan Infinite M200 PROプレートリーダー(Life Sciences)を用いて決定した。
【0119】
免疫蛍光法
MBNL1及びMBNL2については、免疫蛍光筋芽細胞を4%PFAにより室温(RT)で15分間固定し、続いて1倍PBS中で数回洗浄した。次いで、細胞をPBS−T(PBS中の0.3%Triton−X)で透過化処理し、RTで30分間ブロッキングし(PBS−T、0.5%BSA、1%ロバ血清)、一次抗体であるマウス抗MBNL1(200倍、ab77017、Abcam)又はウサギ抗MBNL2(200倍、ab105331、Abcam)と共に4℃で一晩インキュベートした。数回のPBS−T洗浄後に、細胞をビオチコンジュゲート二次抗体、及び抗MBNL1を検出するための抗マウスIgG(200倍、Sigma-Aldrich)又は抗MBNL2を検出するための抗ウサギIgG(200倍、Sigma-Aldrich)と共に1時間インキュベートした。蛍光シグナルをElite ABCキット(VECTASTAIN)によりRTで30分間増幅し、続いてPBS−T洗浄を行い、抗MBNL1を検出するためのストレプトアビジン−FITC(200倍、Vector)又は抗MBNL2を検出するためのストレプトアビジン−テキサスレッド(200倍、Vector)と共にRTで45分間のインキュベーションを行った。PBSで数回洗浄した後、細胞を、核の検出のためにDAPIを含有するVECTASHIELD(商標)封入剤(Vector)に封入した。
【0120】
化合物の分布を可視化するためにCy3部分をオリゴヌクレオチドの5’末端に合成的に付着させた。心臓、脳、腓腹筋及び四頭筋を含むマウス組織の凍結切片(10μm)を抗Cy3抗体(50倍、Santa Cruz)、続いて二次ヤギビオチンコンジュゲート抗マウス−IgG(200倍、Sigma-Aldrich)を用いて免疫染色した。Cy3標識したantagomirは筋芽細胞、肝臓及び腎臓組織において蛍光顕微鏡下で直接検出可能であった。筋芽細胞の画像をOlympusのFluoView FV100共焦点顕微鏡で撮影し、Cy3−antagomirを含有するヒト筋芽細胞及びマウス組織の画像を、LeicaのDM4000 B LED蛍光顕微鏡を用いて得た。全ての場合で画像を倍率40倍で撮影し、Adobe Photoshopソフトウェア(Adobe System Inc.)で処理した。
【0121】
筋電図検査研究
筋電図検査を、処理前及び屠殺時に全身麻酔下で以前に記載されているように
26行った。簡潔に述べると、両後肢の各四頭筋に5回の針挿入を行い、ミオトニー放電(myotonic discharges)を5段階評価で格付けした:0、筋強直なし;1、針挿入の50%以下で時折のミオトニー放電;2、挿入の50%超でミオトニー放電;3、ほぼ全ての挿入でミオトニー放電;4、全ての挿入でミオトニー放電。
【0122】
筋肉組織学
マウス腓腹筋及び四頭筋の筋肉の凍結15μm切片をヘマトキシリンエオシン(H&E)で染色し、標準手順に従ってVECTASHIELD(商標)封入剤(Vector)に封入した。画像をLeicaのDM2500顕微鏡により倍率100倍で撮影した。中心核を含有する線維のパーセンテージを、各マウスにおいて合計200本の線維で定量化した。
【0123】
実施例1. キイロショウジョウバエのDM1モデルにおける概念実証
1.1. dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングは、ショウジョウバエの筋肉におけるmuscleblindの過剰発現を引き起こす
RNAのフォーカスにおけるMuscleblindによる捕捉及びその後のタンパク質機能の喪失が、DM1の分子病理の主要誘発因子の1つである。muscleblindを抑制するmiRNAを特定するために、本発明者らは候補miRNAを選択し、次に特異的miRNAスポンジを用いたそれらの活性の遮断を行った。
【0124】
初めに、本発明者らのグループによって生成された以前のデータ及びヒトmiRNAとのそれらのオルソロジー関係に基づき、dme−miR−92a、dme−miR−100及びmiR−dme−124を選択した。このデータを得るために、数あるツールの中でも、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center Computational Biology Centerで開発されたmiRandaアルゴリズム(数あるサイトの中でも、microRNA.orgのダウンロードウェブページ:http://www.microrna.org/microrna/getDownloads.doからダウンロード可能な2010年バージョン;http://cbio.mskcc.org/microrna_data/manual.htmlで入手可能なマニュアル)を用いた。候補miRNAの検索を広げるために、Whitehead InstituteによってmiRNA標的の予測のために提供されるオンラインソフトウェアであるTargetScan(www.targetscan.org)を用い、muscleblindの3’UTR領域中のmiRNA認識部位を探索し、特に2つのmiRNA:dme−miR−277及びdme−miR−304の部位を特定した。表4に、Muscleblindの3’UTR領域において種々のアルゴリズムに従って予測された幾つかのmiRNAの認識部位、並びにMiRBaseのデータベース(www.mirbase.org)におけるヘアピンループを有するそれらの前駆体配列(略称MIで始まるコード)及び成熟miRNA(略称MIMATで始まるコード)の両方のアクセス番号を示す。
【0125】
【表4】
【0126】
muscleblindを調節するmiRNAを検証するために、スポンジ構築物(Fulga et al., 2015)であるUAS−miR−XSPの発現を、Mhc−Gal4系統(遺伝子ミオシン重鎖のプロモーター要素、及びショウジョウバエを含む種々の生物において転写活性化因子として作用することが知られる酵母Gal4の転写を活性化するタンパク質に対応する遺伝子Gal4のコード領域の略称である)によりショウジョウバエの筋肉に指向させた。この系では、タンパク質GAL4がUAS(上流活性化配列)要素に特異的に結合して遺伝子の転写を活性化することから、UAS要素が転写エンハンサーとして作用するが、遺伝子Gal4のコード領域が遺伝子Mhcの内在性プロモーターに操作可能に結合し、miRNAスポンジの発現を筋肉に指向する。Muscleblind転写レベルを、これまでに知られている全ての転写産物アイソフォームに共通する、muscleblindのエクソン2の領域を増幅するための特異的プライマーを用いて、qRT−PCRによって分析した。対照として、ランダム配列を有する系統(UAS−scrambled−SP)を用いた。
【0127】
miR−92aSP、miR−100SP又はmiR−124SPをMHC−Gal4の制御下で発現するハエにおいてmuscleblindの発現レベルの有意な増大は検出されなかった。対照的に、muscleblind転写産物のレベルは、miR−277SP又はmiR−304SPを筋肉に発現するハエにおいて、Scrambled−SPの対照と比較して有意に増大した(
図1a)。muscleblind RNAのレベルは、遮断されるmiRNAがdme−miR−227である場合に14倍高く、dme−miR−304のサイレンシングは6倍の増大を生じた。したがって、これらの結果から、dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングがMuscleblindの過剰発現を引き起こすことが示される。
【0128】
1.2. dme−miR−277及びdme−miR−304は、muscleblindの種々のアイソフォームを調節する
キイロショウジョウバエのmuscleblind遺伝子は、110kb超をカバーし、選択的スプライシングにより幾つかの異なる転写産物を生じる大きな遺伝子である(Begeman et al., 1997、Irion et al., 2012)。実験的証拠から、muscleblindのアイソフォームが機能的に冗長でないことが示唆される(Vicente et al., 2007)。どのmuscleblindのアイソフォームがdme−miR−277又はdme−miR−304によって調節されるかを決定するために、miRandaアルゴリズム(Enright et al., 2003)を用いて、muscleblindのアイソフォームの3’UTR領域におけるdme−miR−277及びdme−miR−304の認識部位を特定した(表4)。MiRandaが、上述の参照においてBegemann et al. 1997によって用いられる分類に従ってmblA、mblB、mblC及びmblDの転写産物における探索を行い、近年特定されたアイソフォームであるmblH、mblH’、mblJ及びmblK(Irion et al., 2012)を含まないことに留意することが重要である。
【0129】
dme−miR−277の潜在的認識部位がアイソフォームmblAにおいて、またmblB及びmblDにおいて2つ見出された。qRT−PCR分析により、mblBレベルがdme−miR−277を遮断した/枯渇させた場合に有意に増大することが決定された。mblDの発現レベルは、ハエMhc−Gal4 miR−277SPにおいて低下し、mblAに関しては、Scrambled−SPを発現する対照ハエと比較して有意差は検出されなかった(
図1b)。不思議なことに、dme−miR−277に対する認識部位が予測されなかったアイソフォームであるmblCの発現レベルは、ハエMhc−Gal4 miR−277SPにおいて有意に低下した。
【0130】
dme−miR−304については、認識部位がmblC及びmblDの3’UTR領域において見出され、ハエMhc−Gal4 miR−304SPにおいて、これら2つのアイソフォームの有意な上方調節が検出された(
図1b)。特に、筋肉におけるdme−miR−304の遮断/枯渇は、成虫ハエにおいて最も発現されるアイソフォームであるmblCのレベルの強い増大を引き起こした(Vicente et al., 2007)。
【0131】
dme−miR−277及びdme−miR−304のサイレンシングが各Muscleblindのアイソフォームの特異的発現レベルの変化を生じさせることから、これらのmiRNAを介したmuscleblind転写産物の直接調節が示唆される。
【0132】
miRNAが通例、mRNAの安定性又はその翻訳の遮断の点で作用することを考慮して、候補調節miRNAを検証するためにMuscleblindタンパク質のレベルを分析することにした。この目的で、抗Mbl抗体をタンパク質MblA、MblB及びMblCの上方調節の検出に使用した。ウエスタンブロット転写分析により、ハエMhc−Gal4 miR−304SPのみでmuscleblindタンパク質のレベルが増大することが明らかとなった(
図1c)。qRT−PCRによる決定と一致して、ウエスタンブロット転写において検出されたバンドは、タンパク質MblCに対応していた。使用した抗体が以前に過剰発現実験においてのみ研究されたものであることに留意されたい(Houseley et al., 2005、Vicente-Crespo et al., 2008)。
【0133】
dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングの影響を分析するために、間接飛翔筋(IFM)の縦断切片を染色し、Muscleblindの分布を検証した。抗Mblシグナルは緑色で検出され、核はDAPIで青色に対比染色されて現れた。本発明者らのグループは、内在性タンパク質Muscleblindが主に筋肉のサルコメアバンドZ及びHに位置することを以前に示した(Llamusi et al., 2013)。これと一致して、これらの切片から得られた共焦点像では、Scrambled−SPの構築物を発現する対照ハエにおいて、筋肉サルコメアのバンド中でmuscleblindタンパク質がより検出され、これらの細胞の幾つかの核においては低いシグナルが得られた。興味深いことに、dme−miR−277及びdme−miR−304の機能低下は、タンパク質分布に対して異なる影響を有していた。dme−miR−277のサイレンシングが細胞質muscleblindタンパク質のシグナル、特にサルコメアバンド中のものを増大した一方で、ハエMhc−Gal4 miR−304SPでは強い核位置が検出された。
【0134】
組み合わせると、これらの結果から、dme−miR−277及びdme−miR−304の阻害活性を遮断することによって、Muscleblindの内在性アイソフォームを上方調節することができることが示される。
【0135】
1.3. dme−miR−277又はdme−miR−304の機能の低下は、ショウジョウバエのDM1モデルにおいてmuscleblindの発現に有利に働く
ショウジョウバエの以前のDM1モデルは、muscleblindタンパク質を含有する筋細胞中にリボ核内フォーカスを有していた(Garcia-Lopez et al., 2008、Picchio et al., 2013)。ショウジョウバエDM1モデルにおけるmuscleblindのリプレッサーmiRNAサイレンシングの特異的効果を試験するために、muscleblindの発現を、筋肉における発現の特異的決定因子ドライバーとしてのミオシン重鎖プロモーターと共に断続CTG 480リピート(「i(CTG)480」)を発現し、スポンジ構築物の同時発現を有するハエ(Mhc−Gal4 UAS−i(CTG)480 UAS−miR−XSP)において研究した。
【0136】
qRT−PCRによるmbl転写レベルの分析から、dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングがDM1モデルハエにおいてmuscleblindの発現の増大を生じることが示された(
図2a)。Muscleblindの正の調節が、DM1モデルハエにおいてスポンジ構築物のみを発現するハエよりも強いことに留意することが重要である(
図1aと
図2aとの比較)。Muscleblind転写レベルは、対照と比較してi(CTG)480及びmiR−277SPの両方を発現するハエで19倍高く、ハエMhc−Gal4 UAS−i(CTG)480 UAS−miR−304SPで7倍高かった。一方、種々のスポンジ構築物の存在下で行ったタンパク質分析(
図1c)と一致して、dme−miR−304のサイレンシングは、DM1モデルハエにおいてタンパク質MblCのレベルの増大を引き起こした(
図2b)。
【0137】
DM1モデルハエにおけるMuscleblindの細胞内局在性へのdme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングの影響を研究するために、muscleblindタンパク質の分布をIFMにおいて免疫検出によって分析した(
図2c〜f)。DM1モデルハエにおけるmiR−277SPの発現(
図2e)及びmiR−304SPの発現(
図2f)はどちらも、Muscleblindをリボ核内フォーカスから放出させ、核及び細胞質の両方でタンパク質のレベルを増大した。miR−277SPを発現するモデルハエの場合、リピートを発現しない対照ハエに特徴的な筋肉のサルコメアバンド中のMuscleblindの分布が完全に回復した。同様に、miR−304SPの発現は、核及び細胞質中に分散したMuscleblindの検出可能な増大をもたらした。したがって、dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングは、DM1モデルハエの筋肉においてMuscleblindレベルを上方調節し、その細胞内分布を回復させる。
【0138】
1.4. dme−miR−304のサイレンシングは、ショウジョウバエのDM1モデルにおいてスプライシング及び全体的な遺伝子発現レベルの変化を回復させる
スプライス異常は、症状に直接関連付けられている唯一の主要なDM1の生化学的指標である。dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングによって引き起こされるMuscleblindの増加が、DM1モデルハエにおいてスプライシングの変化を回復させるのに十分であるかを試験するために、特徴的に変化させたスプライシング事象を研究した。
【0139】
これらの事象は、
本発明者らによって特定され、Muscleblindによって調節されることが検証されるDM1モデルハエにおけるFhos遺伝子のエクソン16’の除外、
Muscleblindによって調節されるスプライシング事象であるSerca遺伝子のエクソン13の包含、
であった。
【0140】
Mblについて記載される別の分子機能である全体的な遺伝子発現レベルの調節を併うことも見出された。具体的には、DM1モデルハエにおける発現の増大が記載されている(Picchio et al., 2013)、遺伝子CyP6W1のエクソン2を、その遺伝子の発現レベルを確認するために増幅させた。
【0141】
DM1モデルハエでは、リピートを発現しない対照ハエと比較して、Fhosのエクソン16’の包含の2倍の増大及びエクソン13を有するSercaの転写産物の2.4倍の減少、並びにCyP6W1の転写産物の3倍の増加が確認された。
【0142】
これらのハエにおけるmiR−304SPの発現により、Fhosのエクソン16’及び遺伝子CyP6W1の正常な発現の完全な回復、並びにエクソン13を含むSercaの転写産物の20%の顕著な増加が達成された(
図2g〜i、l)。筋肉におけるdme−miR−304のサイレンシングは、スプライシング調節因子として作用することが以前に示されているアイソフォームである(Vicente et al., 2007)、mblCのレベルの強い増大を引き起こしたことが注目に値する(
図2b)。これに対し、細胞質におけるMuscleblind発現を回復させ、mblCの発現レベルを低下させたmiR−277SPの発現は、これらのスプライシング事象を変更しなかった。対照として、DM1モデル成虫ハエでは変化しない(Garcia-Lopez et al., 2008)、Tntのエクソン3〜5のスプライシングパターンがスポンジ構築物の発現によっても、muscleblindの発現の変化によっても変更されないことが確認された(
図2j、
図2k)。
【0143】
これらの結果から、miRNAスポンジによって得られるMuscleblindの抑制解除のレベルが、潜在的に顕著な分子回復を誘発するのに十分であることが示される。
【0144】
1.5. dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングは、ショウジョウバエのDM1モデルにおいて筋萎縮及び運動機能を回復させる
特異的スポンジ構築物の発現によって達成されるMuscleblindの増加の機能的関連性を評価するために、その変化がDM1を有する個体を特徴付ける形質の1つである、筋萎縮に対するdme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングの影響を研究した。筋萎縮の研究のために、筋肉中にmiR−277SP又はmiR−304SPのいずれかを発現する対照ハエにおけるIFMの背腹断面の筋面積を初めに測定した(
図3a〜d)。dme−miR−277の機能の低下は、対照としてのScrambled−SPを発現するハエと比較してIFM面積の15%の減少を誘導した。重要なことには、miR−304SPの発現は、このパラメーターには影響を有しなかった。
【0145】
本発明者らの研究グループは、筋肉中にi(CTG)480を発現するハエにおける筋萎縮の存在について以前に報告している。これらのDM1モデルハエでは、dme−miR−277又はdme−miR−304の特異的組織サイレンシングが、筋面積のパーセンテージを顕著に回復させるのに十分であることが見出された(
図3e〜h)。CUGリピートを発現しない対照ハエと比較して、scrambled−SPを発現するモデルハエにおけるIFMの平均面積は、40%まで大幅に減少した。CUGリピートとmiR−277SP又はmiR−304SPのいずれか1つとの同時発現は、これらのハエにおいて筋面積の20%の増大をもたらした。加えて、飛翔筋の断面についてのin situハイブリダイゼーション試験(
図3i〜k)により、miR−277SP(
図3j)及びmiR−304SP(
図3k)の発現が、どのように疾患の典型的な病理組織学的パラメーターである、ハエのDM1モデル(
図3i)のリボ核内フォーカスの顕著な減少を生じるかが示され、これはmiR−304SPの発現後にごく僅かであった。これらのデータから、Muscleblindの異なるアイソフォームの上方調節が、ショウジョウバエにおいて筋萎縮及びリボ核内フォーカスの形成を回復させるのに十分であったことが確認される。
【0146】
筋面積と運動活性(locomotive activity)との相関を評価するために、種々の遺伝子型のハエの上昇能力及び飛行能力を分析した。筋肉におけるmiR−277SPの発現は、scrambled−SPを発現する対照ハエと比較して約10%の平均着地高さの減少をもたらし、これらのハエに見られる筋面積の減少が機能的相関を有することが示された(
図4a)。しかしながら、表面上昇速度がこれらのハエにおいて変化しないままであったことから(
図4b)、筋萎縮はIFMに特異的であるようであった。これに対し、筋肉におけるdme−miR−304のサイレンシングは、ハエの運動活性に影響を及ぼさなかった(
図4a、b)。DM1モデルハエでは、リピートを発現しない対照ハエと比較して、CUGリピートとscrambled−SP構築物との同時発現が、平均着地高さ及び表面上昇速度の劇的な減少をもたらした(
図4e、f)。しかしながら、モデルハエにおけるmiR−277SP又はmiR−304SPのいずれか1つの発現は、これら全てのパラメーターの回復を同様のレベルでもたらした(
図4e、f)。したがって、これらの結果から、muscleblindを調節するmiRNAの特異的サイレンシングが、筋萎縮及びDM1の特徴的な機能的表現型を回復させることができることが示された。
【0147】
1.6. dme−miR−277又はdme−miR−304の機能的枯渇は、DM1モデルハエの生存率を上昇させる
筋肉機能、特に呼吸器系の筋肉機能の低下がDM1の主要な死因である。本発明者らのグループは、筋肉中にi(CTG)480を発現するハエが対照ハエと比較して生存率の低下及び平均生存の低下を有することを以前に報告した(Garcia-Lopez et al., 2008)。dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングがDM1モデルハエの生存率を回復させるかを研究するために、種々の遺伝子型のハエにおける生存曲線の分析を行った。筋肉中にmiR−277SP又はmiR−304SPを発現するハエの生存曲線がscrambled−SPを発現するハエの生存曲線とは異ならず、dme−miR−277又はdme−miR−304のサイレンシングが生存率を変化させなかったことが示されることに留意することが重要である(
図4c、d)。scrambled−SPを発現するDM1モデルハエの生存率は、CTGリピートを発現しない対照ハエと比較して有意に低下した(
図4g、h)。モデルハエにおけるmiR−277SP又はmiR−304SPの発現は、生存率及び平均生存を増大した。Dme−miR−277のサイレンシングは平均生存を8日間延長し、6日間の延長がmiR−304SPを発現するDM1モデルハエについて検出された(
図4g、h)。したがって、dme−miR−277又はdme−miR−304の機能の低下によって引き起こされるmuscleblindの正の調節は、DM1モデルハエの生存を改善する。
【0148】
全体として見ると、これらの結果から、ショウジョウバエにおける特異的miRNAのサイレンシングが、生存の延長を含む幾つかの分子特性及び生理特性を回復させるのに十分なmuscleblindのレベルの増大を引き起こすことが示される。したがって、これにより、ヒト及び他の哺乳動物におけるDM1の治療の潜在的戦略としてのmiRNAによりMuscleblind様抑制を遮断するアプローチが支持される。
【0149】
したがって、本発明者らは次に、MBNL1及び/又はMBNL2のmiRNAリプレッサーの特定を行い、中でもDM1症状を呈する組織において発現され、その遮断がDM1の分子特性の回復に効果的であり、疾患の症状を改善するものを探した。
【0150】
実施例2:MBNL1及び/又はMBNL2のmiRNAリプレッサーの特定、検証及び特性決定
2.1. MBNL1又はMBNL2を負に調節するmiRNAを特定するためのスクリーニング
初めに、miRNA模倣物のライブラリーに基づき初期スクリーニングを、Qiagenの市販のキットであるSureFINDトランスクリプトームPCRアレイを用いて、先の方法論のセクションに記載されるように行った。この研究により、対照GAPDHに対して少なくとも4倍の上述の遺伝子の発現の抑制を示す、HeLa細胞におけるMBNL1の潜在的リプレッサーとしての18個のmiRNA及びHeLa細胞におけるMBNL2の潜在的リプレッサーとしての9個のマイクロRNAが初めに特定された。これらのmiRNAのうち4個が、初めに両方の発現を阻害することが可能であると考えられた。
【0151】
2.2. 抑制作用の確認
マイクロRNAの数が検証には多かったことから、アッセイを続けるマイクロRNAの数を、所与の遺伝子の転写産物における特異的マイクロRNAの標的の存在に関する情報を与える合計9つの予測プログラムの情報を収集するデータベースmirDIP(https://omictools.com/mirdip-tool)及びmiRecords(https://omictools.com/mirecords-tool)において収集された、調節が存在することを示唆するバイオインフォマティクス予測数に基づいて選択することで合計6つに限定した。
【0152】
直接調節により起こり得る変調を確認する、初期結果の確認試験を行うために、両方の遺伝子の潜在的調節因子及びMBNL1又はMBNL2の特異的リプレッサーの両方を含む幾つかのmiR(MBNL1及びMBNL2の両方の潜在的調節因子としてのMiR−146b及びmiR−23b、並びにMBNL2の特異的リプレッサーとしてのmiR−218及びmiR−372)を初めに選択した。
【0153】
以前の結果を、選択されたmiRNAの前駆体を発現するpCMV−MIRに由来する発現プラスミド(Origene)を空プラスミドpCMV−MIR、及び初期スクリーニングにおいてMBNL1又はMBNL2の阻害剤としては特定されていない陰性対照としてのmiR−7と共に、HeLa細胞にトランスフェクトすることによって幾つかのmiRNAについて確認した。次いで、MBNL1又はMBNL2の発現を、方法論のセクションの「検証試験」に関するパートに記載されるようにmRNA及びタンパク質の点で定量化した。
図5は、miR−146b及びmiR−23b(初めにMBNL1及びMBNL2の両方の潜在的調節因子として特定された)、並びにmiR−218及びmiR−372(初めにMBNL2の特異的リプレッサーとして特定された)について得られた結果を示す。
【0154】
実際に、MBNL1の場合(
図5a)及びMBNL2の場合(
図5b)の両方で、選択されたマイクロRNAが、初めに抑制効果が検出された遺伝子のメッセンジャーに対して抑制効果を発揮することが観察されたが、miR−146bによって引き起こされる抑制効果はあまり顕著ではなかった。
【0155】
タンパク質の定量化に関して、miR−23bの場合(
図5c)にトランスフェクションの72時間後にタンパク質MBNL1のレベルで減少が観察され、MBNL2の場合(
図5d)は、このタンパク質レベルでの減少は、マイクロRNA miR−23b及びmiR−218の両方で生じた。miR−372によって引き起こされる減少は、他の2つのマイクロRNAよりもはるかに低かった。
【0156】
したがって、得られたデータから、miR−23bがタンパク質レベルでMBNL1及びMBNL2の両方を下方調節し、miR−218がMBNL2を抑制することが確認された。
【0157】
2.3. miRNA標的配列の特定及び潜在的miRNA−mRNA相互作用の機能的関連性の実証
次いで、miRNAが結合し、抑制作用を発揮する必要がある特異的配列を特定した。これは、blockmiR型阻害剤を設計するために、また標的へのmiRNAの直接結合を確認し、間接的調節を除外するために必要とされる。
【0158】
この目的で、スクリーニング後に予め選択されたmiRNAの標的のバイオインフォマティクス予測を、ショウジョウバエにおいて行った試験で既に使用したアプリケーションmiRanda及びTargetScanを用いて行った。
図6A及び
図6Fは、それぞれMBNL1及びMBNL2の3’UTR領域上の上述のプログラムによって予測される結合部位の縮尺通りの概略図を示す。どちらの場合も、選択的スプライシングによって生じる上記遺伝子のアイソフォームは、いずれも対応する転写産物中の予測標的の存在に影響を及ぼさない。
【0159】
潜在的miRNA−mRNA相互作用の機能的関連性を実証するために、センサーを使用して、実際に予め選択されたマイクロRNAが両方の遺伝子の3’UTR中のそれらの予測標的に結合することを示した。このことは、miRNAの過剰発現によって生じる最終的な抑制調節が検出されるルシフェラーゼの量の減少として観察されるように、MBNL1又はMBNL2の3’UTR末端がレポーター遺伝子としてのルシフェラーゼコード配列に融合した構築物を生成することによって実験的に実証された。具体的には、「3’UTR結合試験(デュアルルシフェラーゼキット)」のセクションに記載される方法論を用いた。
【0160】
同じ方法論のセクションにおいて説明したように、この試験では、3’UTRへのマイクロRNAの結合がレポーターの翻訳を妨げ、したがって培地に放出されるGlucを減少させるため、ガウシアルシフェラーゼ(Gluc)のシグナルの低下は、3’UTRへのマイクロRNAの結合を示す(具体的なGenecopoeiaのウェブサイト、http://www.genecopoeia.com/product/mirna-targets/に提示される図を参照されたい)。
【0161】
マイクロRNAを発現させるプラスミド及びベクターpEZX−MT05(ガウシアルシフェラーゼのコード配列の下流に両方の遺伝子MBNL1及びMBNL2の3’UTR領域を有する)の両方のコトランスフェクションの48時間後に観察された読み取り値から、miR−146b及び陰性対照であるmiR−7を除く試験した全てのマイクロRNAがレポーターに対して抑制効果を有することが観察され、標的遺伝子の3’UTRへの配列の特異的結合が推測された(
図6B及び
図6Eを参照されたい)。
【0162】
前の実験が完了した時点で、観察された結合が直接的であることが検証され、3’UTRに対するマイクロRNAの直接調節が示された。この目的で、予測標的配列が欠失によって突然変異した、各候補miRNAに対する3’UTRセンサーを有する付加的な構築物のバージョン(mut)、更には3’UTR中の上記予測標的が突然変異し、マイクロRNAが完全に最も高い効率で結合する完全な標的である、対応するmiRNAの完全相補標的を生じる別のバージョン(PM)を設計した。上述の方法論のセクションにおいて説明したように、突然変異3’UTRへの、またPM標的との種々のマイクロRNAの結合は、アルカリホスファターゼSEAPの内部対照に対して標準化したガウシアルシフェラーゼの相対単位(Gluc/SEAP)で表した。これらの標的突然変異誘発試験を、MBNL1におけるmiR−23b(
図6C)、並びにMBNL2におけるmiR−218及びmiR−23b(
図6F及び
図6G)について行った。
【0163】
MBNL1の場合、マイクロRNA miR−23bの直接結合が
図6Bに示され、HeLa細胞にレポーター構築物MBNL1の突然変異バージョン(mut)及びmiR−23bをトランスフェクトすることにより(
図6C)、上記miRNAは抑制を停止させ、センサー構築物に空ベクターpCMV−MIRをトランスフェクトした対照において生じるものと同様のルシフェラーゼの増大を有していた。マイクロRNAと共に、PMで認められる完全結合に対する問題の遺伝子の3’UTR(WT:野生型)へのマイクロRNAの結合の有効性の程度を知ることを可能にする、結合標的の完全適合バージョンの構築物(PM)もトランスフェクトした。これらの試験は、blockmiRの設計において重要な基礎となることから非常に有用である。全ての場合で、天然標的により観察されるよりも大きなルシフェラーゼシグナルの減少が見られた。
【0164】
MBNL2の場合、HeLa細胞に標的の突然変異バージョンを有する構築物(mut)を、種々のマイクロRNA miR−23b(
図6F)及びmiR−218(
図6G)共にトランスフェクトすることで、レポーターの抑制が失われ、センサー構築物に空ベクターpCMV−MIRをトランスフェクトした対照によって生じるのと同様のルシフェラーゼの増大が観察されたことから、マイクロRNA miR−23b及びmiR−218の直接結合が存在することが示された。この場合も、結合標的の完全適合バージョンの構築物(PM)をマイクロRNAと共にトランスフェクトした。どちらの場合にも、天然標的により観察されるよりも大きなルシフェラーゼシグナルの減少が見られた。
【0165】
2.4. 関連組織における候補miRNAの発現
抑制能力を検証することに加えて、作用を受けるmiRNAが疾患に関係がある組織(中でも心臓、筋肉及び脳)において発現され、それに対する作用がこれらの組織と関連する疾患の症状に対して緩和効果を有し得るかを確認することが重要である。したがって、このことは、リプレッサーが特定されるが、関連組織において発現されない場合、その遮断が効果を有しないことから重要である。
【0166】
次に、方法論のセクション「関連組織における候補miRNAの発現」に記載されるように、健常個体及びDM1患者に由来するヒト筋肉生検組織、同様に健常個体又はDM1患者に由来するヒト線維芽細胞の培養物、並びにマウス組織(前脳、小脳、海馬、心臓、腓腹筋及び四頭筋)における候補miRNAの発現の確認を行った。
【0167】
マウスにおいて得られた結果(
図7A)は、公開データベース又は独自のデータのいずれかによる本発明者らが利用可能な以前の発現データと一致し、或る特定のmiRNAが疾患に関係がある組織(心臓、筋肉、脳)において発現されることが示された。miR−23b及びmiR−218を用いて得られた結果は、特に全ての組織における相対発現がmiR−146bよりも、また特に発現が検出されなかったマイクロRNA miR−372に対してはるかに高かったmiR−23bについて特に関連性がある。
【0168】
したがって、ヒト個体に由来する筋肉生検組織において得られた結果(
図7C)は、miR−218の発現の有意な増大及び明白な傾向を示し、DM1患者のサンプルにおけるmiR−23bについて行った実験のデータでは有意ではないが、miR−146について観察されるよりもはるかに高かった。ヒト線維芽細胞を用いて行った試験(
図7B)であっても、miR−218の相対発現は、DM1患者に由来する線維芽細胞の場合に、疾患による影響を受けない対照個体の線維芽細胞と比較してはるかに高い。
【0169】
実施例3. miR−218及びmiR−23bのantagomiRのトランスフェクションの影響
mRNA及びタンパク質の発現のリプレッサー能を確認するための試験の結果、MBNL1及び/又はMBNL2のmRNAに対する直接作用を確認するための試験の結果、並びに種々の組織における発現のデータを考え合わせることで、病理に関与する組織において最も大きな発現を有する2つのマイクロRNAであるmiR−23b及びmiR−218の遮断剤又は阻害剤の設計に集中することにした。
【0170】
先で説明したように、miRNAへの結合をより安定させ、分解の影響を受けにくくし、細胞膜を透過する能力を増大する特定の化学的性質を有するRNAに類似していることから、AntagomiR型オリゴリボヌクレオチド阻害剤を選択した(この場合のように、コレステロールを含むのが一般的である)。
【0171】
以下の試験を行った具体的なantagomiRの供給業者は、http://www.creative-biogene.com/Services/MicroRNA-Agomir-Antagomir-Synthesis-Service.htmlであった。先に記載するように、本明細書において言及されるantagomiRは、antagomiR−218(antagomiR−218−5p:配列番号10)及びantagomiR−23b(antagomiR−23b−3p:配列番号11)と略され、基本配列である配列番号1及び配列番号2(それぞれ、ヒトマイクロRNA miR−218−5p及びmiR−23b−5pに相補的)とは配列表及び方法論のセクション「AntagomiRによるトランスフェクションの試験」中の詳細な変更点で異なる。
【0172】
3.1. AntagomiRトランスフェクション試験
上記セクションに記載されるように、初めにフルオロフォアCy3(赤色シグナルを発する)で標識した漸増濃度(10nM、50nM、100nM)の各antagomiR、及び2つの異なる濃度のトランスフェクション試薬XtremGene(0.5μl及び1μl)によるDM1患者に由来する線維芽細胞のトランスフェクションについての試験を行った。
【0173】
この線維芽細胞トランスフェクション試験実験は、antagomiRを細胞内で検出可能な閾値濃度、及び使用するトランスフェクション試薬の量(この試薬がヒト線維芽細胞に対して強い毒性があることから、可能な限り最小の量を用いることを試みる)を決定するために行った。
【0174】
構造中のCy3の存在のために、antagomiRが細胞に入ると、蛍光顕微鏡下で赤く見え、antagomiRの存在が示される。
【0175】
10nM濃度では赤色シグナルが殆ど検出されず、細胞中のantagomiRのわずかな存在が示されたため、シグナルを強くするために50nM以上の濃度が必要であった。このため、antagomiRを用いて行われた後続の試験ではこれらの濃度が使用された。
【0176】
3.2. 毒性試験
最初の概算は、化合物を細胞モデルにおいて扱う場合に、IC10よりも低い濃度で扱うことが望ましいことから、antagomiRが細胞内で扱うには毒性となり始めるantagomiR濃度の閾値を確立するため用量応答細胞毒性試験を行うことであった。
【0177】
両方のantagomiRの毒性プロファイルを、「細胞培養毒性試験」のセクションに記載されるように、培地への添加の60時間後に健常ヒト筋芽細胞において得た(
図8a)。比色アッセイを行うことにより、漸増濃度のantagomiRの添加による細胞増殖及び生存能力の迅速かつ高感度の定量化が可能となった。得られたデータにより、IC10(細胞の10%が化合物と関連する毒性のために死滅する濃度を示す)及びIC50(細胞の50%が毒性のために死滅する濃度である)を算出した。得られた値は以下のとおりである。
【0178】
【表5】
【0179】
正のZ値が、毒性試験が正確に行われていることを示すことから、Z値の値も算出した。この場合、Z値は0.46であった。
【0180】
研究を行った後に、3つの濃度(50nM、100nM及び200nM)で継続することにしたが、これらがIC10未満であり、すなわち毒性閾値をはるかに下回る濃度であることから、これらの濃度を用いて後続の試験を行った。
【0181】
3.3. DM1患者の細胞におけるantagomiRの用量応答試験
上述の濃度を用いて、antagomiR−23又はantagomiR−218によるDM1患者の筋芽細胞に分化転換した線維芽細胞のトランスフェクションについての試験を、「スプライシング試験」についての方法論のセクションに記載されるように行い、MBNL1及びMBNL2のRNAの定量化アッセイを開始した。
図9に見られるように、antagomiR mir−23b及びantagomiR mir−218の両方が、qPCRによるMBNL1及びMBNL2の発現をmRNAレベルで増大させ、この増大は、antagomiRの用量(トランスフェクションによる)に対応する。これは48時間及び96時間の時点で行った。典型的な釣鐘型の用量応答を仮定すると、得られる結果から、antagomiR mir−23bの最適濃度が50nM以下であり、antagomiR mir−218については200nM以上であることが示唆される。
【0182】
DM1において通例変化する選択的スプライシングの幾つかの事象を、患者の筋芽細胞においてantagomiR23b又はantagomiR218の存在下で回復させることが可能であるかについても、「スプライシングアッセイ」のセクションに記載される方法論に従って検証した。これらの実験を、AntagomiRのトランスフェクションの48時間後(
図10A、C、D、E、F、G)及び96時間後(
図10B、H、I、J、K、L)に行った。
【0183】
これらの図面において認められるように、antagomiRによるDM1細胞の処理は、両方のantagomiRについて、全ての濃度及び両方のトランスフェクション後の時点でBIN1のエクソン11の包含を改善した。
【0184】
antagomiRでの処理は、48時間の時点で行ったアッセイにおいて、ゲルにおいて反映されるように(上のバンド)、両方のantagomiRについて全ての濃度でDMDのエクソン79の包含のパーセンテージを増大する。対照的に、96時間の時点で行った試験では、DMDの異常スプライシングの変化は観察されなかった。
【0185】
48時間の時点で行ったアッセイでは、いずれの濃度のantagomiRによってもSERCA1の異常スプライシングの変化は観察されなかったが、96時間の時点でのアッセイでは、両方のantagomiRによる全ての濃度での処理が、SERCA1のエクソン22の包含のパーセンテージの増大をもたらす。この増大は、特にantagomiR−23bでより明白であった。
【0186】
トランスフェクションの48時間後のアッセイは、IRの異常スプライシングにいかなる変化も生じなかった。IRのエクソン11の包含は、健常筋芽細胞の場合に見られるものと同様に、96時間の時点ではより低濃度のantagomiR−23b(50nM)及び最高濃度のantagomiR−218(200nM)でのみ改善された。
【0187】
cTNTの異常スプライシングの変化は、いずれの濃度のantagomiRでも観察されなかった。antagomiR−23b及びantagomiR−218の特異性を試験するために、CAPZBのエクソン8の包含(CELF1に依存する)を定量化した。これがantagomiRによって回復しないことが観察された。付加的に、MBNL1及びCELF1に依存しないことが知られるDLG1のエクソン19の包含の調節は、いずれの実験条件下でも変化せず、antagomiR処理時の選択的スプライシング制御に対する全体的効果が棄却された(
図11A及びBを参照されたい)。これらの結果から、antagomiRによって媒介されるMBNL1及びMBNL2抑制解除の結果としてDM1筋芽細胞において生じる選択的スプライシングの欠陥のMuscleblind特異的な回復が確認される。
【0188】
3.4. AntagomiR−23b及びantagomiR−218はMBNLタンパク質を上方調節し、DM1筋芽細胞におけるそれらの正常細胞内分布に戻す
miRNAはmRNAの安定性及び翻訳レベルで遺伝子発現を調節することができるため、MBNL1及びMBNL2のタンパク質発現に対するantagomiRの影響を決定しようとした。antagomiR処理により、トランスフェクションの48時間後(
図12A)又は96時間後(
図12B)にqPCRデータからMBNL1及びMBNL2 mRNAのレベルの有意な増大が確認された。タンパク質レベルでは、これらの差異が更に拡大し、antagomiR処理の96時間後(
図13a、b、d、e)及び48時間後にDM1筋芽細胞においてウエスタンブロットにより4倍〜5倍多いMBNL1及び3倍〜5倍多いMBNL2タンパク質が検出された。対照的に、CELF1タンパク質レベルは、miR−23b又はmiR−218サイレンシングの際に96時間後(
図13c、f)及び48時間後の両方で変化しないままであり、CAPZB選択的スプライシングでは一貫して同じままであった。重要なことには、この増大が免疫蛍光により明らかに認められた。MBNL1及びMBNL2の両方がDM1筋芽細胞のリボ核内フォーカスに捕捉された一方で(
図4h、l)、antagomiR−23b及びantagomiR−218は、タンパク質発現を確実に増大し、細胞質及び細胞核におけるそれらの分布を元に戻した(
図13i、j;m、n)。細胞核におけるMBNL1及びMBNL2タンパク質の増加は、先に示したスプライシングの回復と一致していた。
【0189】
実施例4. マウスDM1モデルにおけるmiR−218及びmiR−23bのantagomiRの活性
4.1. AntagomiR−23b及びAntagomiR−218は、HSA
LRモデルマウスにおいて骨格筋に到達し、Mbnlタンパク質発現を増大する
次に、HSA
LRマウスDM1モデルにおけるantagomiR−23b及びantagomiR−218の活性を調査した(Mankodi et at., 2000)。初めに、本発明者らは、骨格筋に到達するantagomiRの能力を評価した。antagomiRのCy3標識バージョンを、4月齢HSA
LRマウスに単回皮下注射によって投与した。注射の4日後に、標識オリゴヌクレオチドを検出するために後肢の腓腹筋及び四頭筋の6つの筋肉を処理した。antagomiRは、抗Cy3免疫蛍光により両方の種類の筋線維の核内に強い点状パターンで観察された。antagomiRは、細胞全体にも散在していた(
図5b〜e)。これらのデータから、miR−23b又はmiR−218を遮断するantagomiRオリゴヌクレオチドがDM1マウスモデルの骨格筋に到達し得ることが実証される。
【0190】
本発明者らは、同じ投与方法を用いて、非標識antagomiRを4匹の更なる群DM1動物に12.5mg/kgの最終用量までの連続注射(12時間間隔)で注射することにした。対照には1倍PBSを注射した。初回注射の4日後に動物を屠殺し、組織学的分析及び分子的分析のために四頭筋及び腓腹筋を得た。miR−23b及びmiR−218がそれらの相補的なantagomiRによって強くサイレンシングされることが確認された。miR−23bは非処理HSA
LRマウスにおいて測定されるレベルの20%、miR−218は50%まで減少した(
図14f、g)。miRNAの減少の結果として、Mbnl1及びMbnl2が両方の筋肉型において転写産物及びタンパク質レベルで増加した(
図14h、i;j、m;k、n)。それにもかかわらず、四頭筋では、antagomiR−23bは、Mbnl1及びMbnl2の両方のタンパク質レベルの重要な増大を達成し、antagomiR−218は、Mbnl2のみを有意に上方調節した。重要なことには、Celf1タンパク質のレベルは、いずれの処理によっても変化しなかった(
図14l、o)。
【0191】
4.2. miR−23b又はmiR−218活性の遮断は、マウスにおいてMbnl発現を増強し、筋肉転写産物のスプライシング異常を回復させる
処理した腓腹筋及び四頭筋の筋肉におけるMbnl1及びMbnl2の大幅な増加を考慮して、本発明者らは、HSA
LRマウスにおけるMbnl依存性スプライシング事象Atp2a1、Clcn1及びNfixの回復を確認しようとした(
図15a、b)。AntagomiR投与は、HSA
LRマウスの四頭筋ではなく腓腹筋においてAtp2a1(エクソン22)及びNfix(エクソン7)の異常エクソン選択を改善し、Clcn1エクソン7a PSIを増大した。HSA
LRマウスの導入遺伝子発現の日常試験において、CUG発現レベルが動物間で最大0.5倍変動し、その変動が腓腹筋及び四頭筋における選択的エクソンの異常な包含と正に相関することが発見された(
図16)。留意すべきは、Atp2a1エクソン22包含が二峰性であった。低レベルの導入遺伝子を発現する2匹のマウスが、エクソン22を残りのHSALRマウスよりも有意に高い(正常に近い)レベルまで包含したため、分析から除外した(
図16及び
図17)。これらのデータから、筋肉におけるCUGリピートRNAの発現が低い程、スプライシング異常が少ないことが示唆される。対照的に、antagomiRで処理したHSA
LR筋肉サンプルでは、スプライシング欠損は、リピート発現ではなくMbnl mRNAレベルと相関し、スプライシング事象の回復におけるこれらのタンパク質7の因果的役割が支持される(
図16)。モデルの固有の変動性に関わらず、両方のantagomiRが全ての腓腹筋スプライシング異常事象において同様のレベルの回復を達成したと結論付けられる。しかしながら、antagomiR−23bは、四頭筋においてNfix及びClcn1スプライシングをantagomiR−218よりも大きく回復させ、これは、この筋肉においてantagomiR−218によって達成されるMbnl1及びMbnl2のタンパク質レベルのより低い上方調節と相関していた。処理HSA
LRマウスの筋肉において変化しないCelf1タンパク質のレベルと一致して、処理マウス及び対照マウスの腓腹筋及び四頭筋におけるCapzbエクソン8包含は非常によく似ていた(
図15a、b)。これらの結果から、antagomiRの全身送達がDM1マウスモデルにおいて筋肉スプライシング異常をin vivoで回復させることが可能であることが示される。
【0192】
4.3. AntagomiRは筋肉組織病理を改善し、筋強直グレードを低減する
胎児から成体への選択的スプライシングパターンの移行の欠陥は、DM1筋肉表現型44によって生じることが提唱されている。HSA
LR DM1モデルマウスでは、イオン電流の変化が、筋電図検査によって定量化することができる反復活動電位、すなわち筋強直を引き起こす。処理前に、全てのDM1マウスがグレード3又は4の筋強直、すなわち電極挿入の大半で多くの反復放電を有していた。4日後に、antagomiRは、antagomiR−218で処理したマウスの75%及びantagomiR−23bで処理したマウスの50%のそれぞれで、筋強直をグレード2(挿入の50%超でミオトニー放電)又はグレード1(時折のミオトニー放電)まで低減した(
図15c)。DM1及びHSA
LRマウス筋線維の典型的な組織学的特徴は、再生しようとしているミオパシー性(myopathic)筋肉に起因する中央の核の位置である。両方のantagomiRが、腓腹筋及び四頭筋の両方の筋肉において核の分散化を引き起こした(
図15d〜h)。まとめると、これらの結果から、哺乳動物においてCUGリピートRNAによって誘導されるミオパシーを抑制する薬物としてのantagomiR−23b及びantagomiR−218の可能性が検証される。
【0193】
実施例5. AntimiR及びBlockmiRを用いて行われるアッセイ
他のタイプのアンタゴニストへのアプローチの適用性を検証するために、以下のantimiR及びblockmiRがMiRx Therapeutics(Lyngby,Denmark)によって合成された:
MbloCKnoMIR TbsGbscsascscsusususgsTbsTbsAbsTbsTbsTb(配列番号84)
M1bloCK23−1 CbsCbsAbsTbsTbsAbsuscsascsasusususTbsGb(配列番号85)
M2bloCK23−1 AbsuscsascsasusgsasTbsTbsCbsAbsAbsCbsGb(配列番号86)
M1bloCK218−1 GbsAbsusgsusgscsusususAbsAbsAbsTbsAbsTb(配列番号87)
M1bloCK218−2 GbsususgsusgscsusgsTbsCbsTbsAbsTbsTbsGb(配列番号88)
M2bloCK218−1 AbsCbsTbsusgsusgscsususGbsAbsAbsusTbsTb(配列番号89)
M2bloCK218−2 GbsTbsTbsGbsusgsusgscsusasasTbsAbsAbsTb(配列番号90)
M2bloCK218−3 CbsGbsAbsTbsAbsgsusgscsususAbsAbsAbsAb(配列番号91)
AntimiR−23b CbscscsusgsgsCbsasAbsusgsusGbsasTb(配列番号92)
AntimiR−218 TbsusasGbsasuscsAbsasgsGbsasCbsasAb(配列番号93)
AntimiR−SC GbsCbsAbsTbsAbsAbsusgsascsusususasTbsGb(配列番号94)
ここで、
LNAヌクレオチドは、大文字及び小文字の組合せ:Ab、Gb、Tb、Cbによって示される。
ホスホロチオエート結合は、小文字「s」によって示される
2’−O−メチル−ヌクレオチドは、小文字:a g c uによって表される。
【0194】
毒性及びトランスフェクションのアッセイのために、blockmiR又はantimiRを、antagomiRについて従った同じプロトコルに従って培養培地に添加した。RNAを同様にantagomiRについて用いた同じ方法で処理して採取した。
【0195】
5.1. AntimiRを用いたアッセイ
図18Aに見られるように、antimiRは、DM1線維芽細胞においてantagomiRよりも低毒性であるようであり、更なるアッセイで濃度を増大することが可能である。トランスフェクション反応自体が20%の細胞を死滅させたことを指摘することが重要である。
【0196】
図18B及び
図18Cに見られるように、先の実施例に用いたantagomiRも含まれる比較アッセイでは、アッセイ濃度(X軸の下の表示を参照されたい)のantagomiRは、MBNL1又はMBNL2発現を増大するようにantimiRよりも良好に働くようであった。注目すべきは、最高濃度(200nM)の対照(CNT:scrambled RNA)がMBNL2発現を改善した。
【0197】
5.2. blockmiRを用いたアッセイ
トランスフェクション反応としてblockmiRを用いて行われた毒性アッセイにより、blockmiRの比較的低い毒性が示され、同様に更なるアッセイで濃度を増大することが可能である(
図19Aを参照されたい)。
【0198】
図19B及び
図19Cに見られるように、先の実施例に用いたantagomiRも含まれる比較アッセイでは、MBNL1及びMBNL2の発現の有意な増大が、miR−23bについて、その標的を遮断した場合(M1bloCK23−1及びM2bloCK23−1、それぞれ)に見られた。しかしながら、それらのそれぞれの標的を遮断した場合(M1bloCK218−1及びM1bloCK218−2、又はM2bloCK218−1、M2bloCK218−2及びM2bloCK218−3)に、MBNL1又はMBNL2の有意な増加を観察することは可能でなかった。驚くべきことに、MBNL1の3’UTRにおけるmiR−218標的の遮断(M1bloCK218−2)は、MBNL2発現の有意な増大をもたらす。不思議なことに、最高濃度(200nM)の対照(MblcknoMIR)がMBNL2発現を改善した。
【0199】
実施例6. FANAオリゴヌクレオチドを用いて行われるアッセイ
AUM Biotech LLC(Philadelphia,PA,United States)によって合成され、提供された以下のFANAオリゴヌクレオチドを用いたアッセイを行った:
AUM−miR−23b−1 GGUAAUCCCTGGCAAUGUGAU(配列番号95)
AUM−miR−23b−2: GGUAATCCCTGGCAATGTGAU(配列番号96)
AUM−miR−23b−3 GGUAAUCCCUGGCAAUGUGAU(配列番号97)
AUM−miR−23b−4 GGUAATCCCTGGCAATGTGAU(配列番号98)
AUM−miR−218−1 ACAUGGUTAGATCAAGCACAA(配列番号99)
AUM−miR−218−2 ACATGGUUAGATCAAGCACAA(配列番号100)
AUM−miR−218−3 ACAUGGUUAGAUCAAGCACAA(配列番号101)
AUM−miR−218−4 ACATGGUTAGATCAAGCACAA(配列番号102)
AUM−SC−1 AUAUCCUTGTCGTAUCCCAGU(配列番号103)
AUM−SC−2 AUAUCCUTGTCGTAUCCCAGU(配列番号104)
【0200】
全てのオリゴヌクレオチドが末端に2’F−アラビノヌクレオチド、配列に沿ってホスホロチオエート結合を含有する。
【0201】
毒性及びトランスフェクションのアッセイについては、FANAオリゴヌクレオチドをより高濃度:250nM及び1μMで添加したジムノティック送達(
図20A)の場合を除いて、FANAオリゴヌクレオチドをantagomiRについて従った同じプロトコルに従って培養培地に添加した(また、RNAを同様にantagomiRについて用いた同じ方法で処理して採取した)。ジムノティック送達については、オリゴヌクレオチドが単独で細胞に入ることが可能であることから、トランスフェクションのためにX−treme GENEを添加せず、FANAオリゴヌクレオチドを細胞培養培地に直接添加した。ジムノティック送達におけるqRT−PCRアッセイについては、線維芽細胞を、FANA−antimiRを添加した3mlのMDM培地(4.5g/Lグルコース、1%P/S、2%ウマ血清、1%アポトランスフェリン(10mg/ml)、0.1%インスリン(10mg/ml)及び0.02%ドキシサイクリン(10mg/ml)を含むDMEM)の入ったペトリ皿に6時間プレーティングした(1×10
6細胞/ウェル)。その後、7mlのMDM培地を添加し、サンプルを96時間インキュベートした。
【0202】
結果は、先の実施例のantagomiRを用いた比較アッセイを示す
図20A及びB、
図21A及びB並びに
図22A及びBに見ることができる。
【0203】
ジムノティック送達を用いて行った毒性アッセイ(
図20A)から、FANAオリゴヌクレオチドがDM1筋芽細胞に対してあまり毒性でないことが示された。antagomiRとの比較については、antagomiRを通常の方法でトランスフェクトすることから、毒性値が同等でないことを考慮すべきである。トランスフェクション試薬を用いて毒性をアッセイした場合(
図20B)、FANAオリゴヌクレオチドは同じ濃度でantagomiRよりも毒性であった。
【0204】
MBNL1及びMBNL2の発現に対する影響のアッセイについても、ジムノティック送達及びトランスフェクション試薬によるトランスフェクションの影響を確認するために種々のアッセイを行った。
【0205】
「ジムノティック送達」の場合(MBNL1及びMBNL2のそれぞれについて
図21A及び
図22A)、antagomiRをトランスフェクトする一方で、FANAを直接供給し、非処理DM1細胞に対して比較を行った。2つのAUM−miR−23 FANAオリゴヌクレオチド(AUM−miR−23b−1及びAUM−miR−23b−4)がMBNL1レベルを増大し、残りが大きな働きをしないようであったことを観察することができる。AUM−218 FANAオリゴヌクレオチドは、本アッセイでは作用しなかった。全体として、antagomiRがより強力であるようであったと言える。同様の結果がMBNL2について得られた。2つのAUM−miR−23 FANAオリゴヌクレオチド(AUM−miR−23b−1及びAUM−miR−23b−3)がMBNL2レベルを増大し、残りが大きな働きをしないようであり、AUM−218 FANAオリゴヌクレオチドは本アッセイでは作用しなかったことを観察することができる。
【0206】
トランスフェクション試薬を用いたトランスフェクションをアッセイした場合(
図21B及び
図22B)、同じ濃度のAUM miR−23b、特にAUM miR−23b−1が対応するantagomiRよりも僅かに良好にMBNL1レベルを増大したようであり、AUM miR23bの付加的な設計が活性を示す(ジムノティック送達と比較して)。AUM miR−218 FANAオリゴヌクレオチドも活性を示した(
図21Bを参照されたい)。scrambled RNAで処理した細胞におけるMBNL1発現レベルの非特異的増大が検出された。MBNL2について得られた結果は、MBNL1の場合と概ね同じであった(
図22Bを参照されたい)。データの品質は、以前のデータセットよりも低かった(おそらくはより少量のRNAのため)。
【0207】
書誌参照