特許第6919145号(P6919145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社飯沼ゲージ製作所の特許一覧

<>
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000002
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000003
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000004
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000005
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000006
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000007
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000008
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000009
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000010
  • 特許6919145-マスク製造装置及びマスク製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6919145
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】マスク製造装置及びマスク製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20210805BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20210805BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20210805BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20210805BHJP
   B23K 26/10 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   C23C14/04 A
   H05B33/14 A
   H05B33/10
   B23K26/21 N
   B23K26/10
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-153835(P2017-153835)
(22)【出願日】2017年8月9日
(65)【公開番号】特開2019-31720(P2019-31720A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2019年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】594073587
【氏名又は名称】株式会社飯沼ゲージ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】浅野 邦一
(72)【発明者】
【氏名】福居 克幸
(72)【発明者】
【氏名】土橋 美博
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−111941(JP,A)
【文献】 特開2009−127128(JP,A)
【文献】 特開2009−301789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
B23K 26/10
B23K 26/21
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクパターン開口部を含むマスクパターン形成領域を有し磁性体金属で形成される1枚または複数枚のマスクシートと、前記マスクパターン形成領域に対応する位置に前記マスクパターン形成領域と同じか広く、かつ、前記マスクシートの数と同じかそれより少ない数のマスク開口部を有するマスクフレームとを重ね合わせて接合するマスク製造装置であって、
平面視して前記マスク開口部の配置位置の内側下方に配置され、マグネットチャックを有し前記マスクシートを磁気的に吸着する吸着状態と、非吸着状態と、に切り換え可能なマスクシート保持部と、
前記マスクシートの配置位置上方に配置され、複数のアライメントマーカーが設けられた板状の透明なガラスマスターと、
前記複数のアライメントマーカーに対する前記マスクシートに設けられている複数のアライメント孔のずれ量を検出するアライメントカメラと、
前記マスクシート保持部を移動するアライメントステージと、
前記マスクパターン形成領域の外側周縁部を前記マスク開口部の外側周縁部に接合する接合装置と、
を有し、
前記マグネットチャックは、前記マスクシートを吸着している際に前記マスクシートを支持する基準面を有する非磁性体のキャップ部と、当該キャップ部の内側に配置され前記キャップ部とは独立して昇降可能な第1マグネットとを有し、
前記第1マグネットを前記マスクシートの吸着状態から非吸着状態に切り換えた後に、前記基準面が前記マスクシートから離されることを特徴とするマスク製造装置。
【請求項2】
マスクパターン開口部を含むマスクパターン形成領域を有し磁性体金属で形成される1枚または複数枚のマスクシートと、前記マスクパターン形成領域に対応する位置に前記マスクパターン形成領域と同じか広く、かつ、前記マスクシートの数と同じかそれより少ない数のマスク開口部を有するマスクフレームとを重ね合わせて接合するマスク製造装置であって、
平面視して前記マスク開口部の配置位置の内側下方に配置され、マグネットチャックを有し前記マスクシートを磁気的に吸着する吸着状態と、非吸着状態と、に切り換え可能なマスクシート保持部と、
前記マスクシートの配置位置上方に配置され、複数のアライメントマーカーが設けられた板状の透明なガラスマスターと、
前記複数のアライメントマーカーに対する前記マスクシートに設けられている複数のアライメント孔のずれ量を検出するアライメントカメラと、
前記マスクシート保持部を移動するアライメントステージと、
前記マスクパターン形成領域の外側周縁部を前記マスク開口部の外側周縁部に接合する接合装置と、
を有し、
前記マスクシート保持部は、前記マスクシートを前記マスクフレームに接合する際に、接合開始位置の近傍において前記マスクシートを吸着し前記マスクフレームに密接させる磁気吸着ユニットを有することを特徴とするマスク製造装置。
【請求項3】
マスクパターン開口部を含むマスクパターン形成領域を有し磁性体金属で形成される1枚または複数枚のマスクシートと、前記マスクパターン形成領域に対応する位置に前記マスクパターン形成領域と同じか広く、かつ、前記マスクシートの数と同じかそれより少ない数のマスク開口部を有するマスクフレームとを重ね合わせて接合するマスク製造装置であって、
平面視して前記マスク開口部の配置位置の内側下方に配置され、マグネットチャックを有し前記マスクシートを磁気的に吸着する吸着状態と、非吸着状態と、に切り換え可能なマスクシート保持部と、
前記マスクシートの配置位置上方に配置され、複数のアライメントマーカーが設けられた板状の透明なガラスマスターと、
前記複数のアライメントマーカーに対する前記マスクシートに設けられている複数のアライメント孔のずれ量を検出するアライメントカメラと、
前記マスクシート保持部を移動するアライメントステージと、
前記マスクパターン形成領域の外側周縁部を前記マスク開口部の外側周縁部に接合する接合装置と、
を有し、
前記マスクシート保持部の前記マグネットチャックで囲まれた空間内に、前記マスクシート保持部が前記マスクシートを吸着する際に前記マスクシートを平坦に支持するバックアッププレートが配置されていることを特徴とするマスク製造装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のマスク製造装置において、
前記マスクフレームは、複数の前記マスクシートの接合配列に対応して設けられる複数の前記マスク開口部を有しており、
前記アライメントステージは、一つの前記マスク開口部の配置位置から他の前記マスク開口部の配置位置に前記マスクシート保持部を移動する粗動ステージと、前記ずれ量に基づいて複数の前記アライメントマーカーに対する前記マスクシートのずれ量を補正する微動ステージとを有していることを特徴とするマスク製造装置。
【請求項5】
請求項3に記載のマスク製造装置において、
前記バックアッププレートの前記マスクシートに対して反対側の下方側に配置され、昇降可能な第2マグネットを有することを特徴とするマスク製造装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマスク製造装置において、
前記接合装置は、レーザ光出射ヘッドが装着されたロボットハンドを有する溶接ロボットであり、前記溶接ロボットは、ガイドレールに沿って移動可能であることを特徴とするマスク製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載のマスク製造装置において、
前記溶接ロボットが、複数台配設されていることを特徴とするマスク製造装置。
【請求項8】
マスクパターン開口部を含むマスクパターン形成領域を有し磁性体金属で形成された1枚または複数のマスクシートと、前記マスクパターン形成領域に対応する位置に前記マスクパターン形成領域と同じか広く、かつ、前記マスクシートの数と同じかそれより少ない数のマスク開口部を有するマスクフレームとを重ね合わせて接合するマスク製造方法であって、
前記マスクフレームをマスクフレーム台の所定位置に搬送し保持する搬送保持工程と、
前記マスクシートを前記マスクフレームの上方の所定位置に搬送し、マスクシート保持部によって前記マスクシートを磁気的に吸着するマスクシート吸着工程と、
前記マスクシートを吸着した状態で、ガラスマスターのアライメントマーカーに対する前記マスクシートのアライメント孔のずれ量を検出するずれ量検出工程と、
前記ずれ量に基づいて複数の前記アライメントマーカーに対する前記マスクシートのずれ量を補正するアライメント工程と、
前記アライメント工程の後に、前記マスクシートを前記マスクシート保持部が吸着した状態で前記マスクシートを前記マスクフレームに接合する接合工程と、を含み、
前記マスクシートと前記マスクフレームの間に厚み方向の隙間を有した状態で前記アライメント工程を行い、
前記マスクシートのマスクパターン形成領域の外側周縁部の一部を前記マスクフレームの前記マスク開口部の外側周縁部の一部に密接させて前記接合工程を行うことを特徴とするマスク製造方法。
【請求項9】
マスクパターン開口部を含むマスクパターン形成領域を有し磁性体金属で形成された1枚または複数のマスクシートと、前記マスクパターン形成領域に対応する位置に前記マスクパターン形成領域と同じか広く、かつ、前記マスクシートの数と同じかそれより少ない数のマスク開口部を有するマスクフレームとを重ね合わせて接合するマスク製造方法であって、
前記マスクフレームをマスクフレーム台の所定位置に搬送し保持する搬送保持工程と、
前記マスクシートを前記マスクフレームの上方の所定位置に搬送し、マスクシート保持部によって前記マスクシートを磁気的に吸着するマスクシート吸着工程と、
前記マスクシートを吸着した状態で、ガラスマスターのアライメントマーカーに対する前記マスクシートのアライメント孔のずれ量を検出するずれ量検出工程と、
前記ずれ量に基づいて複数の前記アライメントマーカーに対する前記マスクシートのずれ量を補正するアライメント工程と、
前記アライメント工程の後に、前記マスクシートを前記マスクシート保持部が吸着した状態で前記マスクシートを前記マスクフレームに接合する接合工程と、を含み、
前記マスクフレームは、複数の前記マスクシートの前記マスクパターン形成領域それぞれに対応する位置に複数の前記マスク開口部を有しており、1枚の前記マスクシートを前記マスクフレームの複数の前記マスク開口部の一つに接合した後に前記マスクシート保持部を降下させて非吸着状態とし、他の前記マスク開口部まで前記マスクシート保持部を移動し、他の前記マスクシートを前記マスクシート保持部で吸着した後に、前記ずれ量検出工程、前記アライメント工程及び前記接合工程を前記マスクシートの数だけ繰り返すことを特徴とするマスク製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のマスク製造方法において、
一つの前記マスク開口部から他の前記マスク開口部への前記マスクシート保持部の移動は粗動ステージで行い、前記アライメント工程は微動ステージで行うことを特徴とするマスク製造方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のマスク製造方法において、
前記接合工程では、複数の溶接ロボットを用いたレーザ溶接によって接合を行い、
前記アライメント孔の配置位置よりも外側の対辺位置又は対角位置の少なくとも2か所で同時に接合を開始することを特徴とするマスク製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク製造装置及び当該マスク製造装置を用いたマスク製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型表示デバイスとして有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)表示デバイスが注目されている。有機EL表示デバイスは、自己発光のためコントラストが高く視認性に優れるなどの特徴を有している。このような有機EL表示デバイスは、発光層などのパターンに対応するパターン開口部を有するマスクを用いて真空蒸着法によって製造される。近年、有機EL表示デバイスは大判化が図られてきており、必然的にマスクも大判化されてきているが、マスクの大判化に伴いマスクが撓みやすいことが問題となっていた。
【0003】
特許文献1には、マスクパターン形成領域を有する磁性体金属のマスクシートと、マスクパターン形成領域に対応するマスク開口部を備えるマスクシートを吸着するために磁化された平坦部を有するマスクフレームと、から構成され、マスクシートをマスクフレームの平坦部で磁気吸着して構成するマスクが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、マスクシートに一方方向の張力を与えて撓みをなくし、シート押え機構でマスクシートをマスクフレームに密着させてレーザ溶接によって接合一体化するマスク製造装置が開示されている。
【0005】
近年、有機EL表示デバイス用のマスクは、6G(第6世代)あるいは6Gハーフなどのように大判化しつつあり、マスクシートを複数の小型マスクシート(単位マスクシートと呼ぶことがある)に分割し、一つのマスクフレームの所定位置に複数の小型マスクシートを並列させ固定することで大判化を図ろうとしている。特許文献3には、パターン開口部を有する長尺のマスクシートを複数枚並列させ、これらのマスクシートをマスクフレームによって長手方向に張力を与えてマスク構造体を形成するというものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−221911号公報
【特許文献2】特開2015−1012号公報
【特許文献3】特開2003−217850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のマスクは、マスクシートをマスクフレームに磁気吸着することでマスクシートの撓みをなくし、マスクシートがマスクフレームに磁気吸着されたマスクで発光層などを真空蒸着するものである。しかし、このようなマスクは、マスクシートとマスクフレームが機械的に固定されていないために、複数のマスクシートを配列させて大判サイズのマスクを製造する際に、複数のマスクシートの相対的な位置ずれが発生しやすいという問題がある。
【0008】
特許文献2及び特許文献3は共に、マスクシートに一方方向の張力を与えてマスクフレームに固定することによってマスクシートに撓みが発生しないようにしている。しかし、マスクシートに一方向の張力を与えることによって生じるマスクパターン開口部の歪みによって、マスクパターン開口部の縦方向と横方向との寸法誤差が発生することがあり、この寸法誤差を補正することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、このような課題の少なくとも一つを解決するためになされたものであり、マスクパターン開口部に歪みがなく、マスクパターン開口部の縦方向と横方向の寸法誤差を抑え、複数枚のマスクシートの間の相対的な位置ずれが小さく大判サイズにも適合できるマスクの製造を可能にするマスク製造装置及び当該マスク製造装置を用いたマスク製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明のマスク製造装置は、マスクパターン開口部を含むマスクパターン形成領域を有し磁性体金属で形成される1枚または複数枚のマスクシートと、前記マスクパターン形成領域に対応する位置に前記マスクパターン形成領域と同じか広く、かつ、前記マスクシートの数と同じかそれより少ない数のマスク開口部を有するマスクフレームとを重ね合わせて接合するマスク製造装置であって、平面視して前記マスク開口部の配置位置の内側下方に配置され、マグネットチャックを有し前記マスクシートを磁気的に吸着する吸着状態と、非吸着状態と、に切り換え可能なマスクシート保持部と、前記マスクシートの配置位置上方に配置され、複数のアライメントマーカーが設けられた板状で透明なガラスマスターと、前記複数のアライメントマーカーに対する前記マスクシートに設けられた複数のアライメント孔のずれ量を検出するアライメントカメラと、前記マスクシート保持部を移動するアライメントステージと、前記マスクパターン形成領域の外側周縁部を前記マスク開口部の外側周縁部に接合する接合装置と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明のマスク製造装置によれば、マスクシートを磁気的に吸着し、吸着した状態でアライメントマーカーに対するマスクシートのずれ量(位置及び姿勢)を検出し、このずれ量に基づき、アライメントマーカーに対するマスクシートのずれ量を補正し、マスクシートをマスクシート保持部が吸着した状態のままマスクシートをマスクフレームに接合する。このようにすれば、マスクパターン開口部に歪みがなく、マスクパターン開口部の縦方向と横方向の寸法誤差を抑え、接合配列される複数枚のマスクシートの相対的な位置ずれが小さい大判サイズのマスク製造を可能にするマスク製造装置を提供できる。なお、マスクパターン開口部とは、たとえば、有機EL表示デバイスにおいて発光層のパターンを真空蒸着するための孔である。
【0012】
[2]本発明のマスク製造装置においては、前記マグネットチャックは、前記マスクシートを吸着している際に前記マスクシートを支持する基準面を有する非磁性体のキャップ部と、当該キャップ部の内側に配置され前記キャップ部とは独立して昇降可能な第1マグネットとを有し、前記第1マグネットを前記マスクシートの吸着状態から非吸着状態に切り換えた後に、前記基準面が前記マスクシートから離されることが好ましい。
【0013】
第1マグネットをマスクシートから離間させる際に、吸着状態から非吸着状態にする間に第1マグネットの吸着力でマスクシートを引き下げて曲げてしまうことがある。そこで、キャップ部がマスクシートを支持している間に第1マグネットを離間させ非吸着状態にすれば、マスクシートはキャップ部で支持されているのでマスクシートが第1マグネットの吸着力によって曲がってしまうことを防止でき、マスクシートが曲がることによるマスクパターン開口部が歪むことを防止できる。
【0014】
[3]本発明のマスク製造装置においては、前記マスクシート保持部は、前記マスクシートを前記マスクフレームに接合する際に、少なくとも前記接合装置による接合開始位置の近傍において前記マスクシートを吸着し前記マスクフレームに密接させる磁気吸着ユニットを有することが好ましい。
【0015】
接合開始位置においてマスクシートを磁気吸着手段で吸着しマスクフレームに密接させて接合すれば、ずれ量補正後のマスクシートの位置、姿勢を保持した状態で確実に接合することが可能となる。
【0016】
[4]本発明のマスク製造装置においては、前記マスクフレームは、複数の前記マスクシートの接合配列に対応して設けられる複数の前記マスク開口部を有しており、前記アライメントステージは、一つの前記マスク開口部の配置位置から他の前記マスク開口部の配置位置に前記マスクシート保持部を移動する粗動ステージと、前記ずれ量に基づいて複数の前記アライメントマーカーに対する前記マスクシートのずれ量を補正する微動ステージと、を有していることが好ましい。
【0017】
マスクシート保持部をマスクフレームの複数のマスク開口部の間を移動させる際には、粗動ステージによってマスクシート保持部を移動し、ずれ量の補正においては、微動ステージによってマスクシート保持部の位置、姿勢及び高さの精緻な調整を行う。このような構成にすれば、複数枚のマスクシートを接合する構成であっても、マスクシート保持部1台で対応することができる。
【0018】
[5]本発明のマスク製造装置においては、前記マスクシート保持部の複数の前記マグネットチャックで囲まれた空間内に、前記マスクシート保持部が前記マスクシートを吸着する際に前記マスクシートを平坦に支持するバックアッププレートが配置されることが好ましい。
【0019】
マスクシートは、マスクパターン形成領域の厚みが20μm〜数100μmであり、大判化すると自重で撓みやすくなる(いわゆる垂れ下がり)。そこで、マスクシート吸着時にマスクパターン形成領域の下面側をバックアッププレートで支持することによって、マスクシートを平坦化しながら吸着することが可能となり、撓みに起因する位置ずれやマスクパターン開口部の歪みを抑えることが可能となる。
【0020】
[6]本発明のマスク製造装置においては、前記バックアッププレートの前記マスクシートに対して反対側の下方側に、昇降可能な第2マグネットを有することが好ましい。
【0021】
マスクシートは、上記のように自重で撓む場合と、逆方向に反る(いわゆる上反りがある)場合とがある。第2マグネットでマスクシートを磁気的に吸着すれば、上反りがあるマスクシートをバックアッププレートに倣って平坦化することができ、上反りに起因するマスクシートの位置ずれやマスクパターン開口部の歪みを抑制することが可能となる。
【0022】
[7]本発明のマスク製造装置においては、前記接合装置は、レーザ光出射ヘッドが装着されたロボットハンドを有する溶接ロボットであり、前記溶接ロボットは、ガイドレールに沿って移動可能であることが好ましい。
【0023】
ロボットハンドの動作には自由度がありしかも高精度に制御可能であるため、ロボットハンドにレーザ光出射ヘッドを設ければ、マスクシートの配置、サイズ並びに形状に対して容易に対応できる。また、溶接ロボットをガイドレールに沿って移動できるようにすることで、接合可能領域を広げることが可能であり、多数のマスクシートを有する大判のマスクの製造も対応可能となる。
【0024】
[8]本発明のマスク製造装置においては、前記溶接ロボットが、複数台配設されていることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、平面方向の2か所以上で同時に接合を開始することが可能となり、たとえば、1枚のマスクシートの対角位置など離れた位置での接合を同時に行うことにより、1か所ごとの接合による歪みや位置ずれを抑制することが可能となる。
【0026】
[9]本発明のマスク製造方法は、マスクパターン開口部を含むマスクパターン形成領域を有し磁性体金属で形成された1枚または複数枚のマスクシートと、前記マスクパターン形成領域に対応する位置に前記マスクパターン形成領域と同じか広く、前記マスクシートの数と同じかそれよりも少ない数のマスク開口部を有するマスクフレームとを重ね合わせて接合するマスク製造方法であって、前記マスクフレームをマスクフレーム台の所定位置に搬送し保持する搬送保持工程と、前記マスクシートを前記マスクフレームの上方の所定位置に搬送し、マスクシート保持部によって前記マスクシートを磁気的に吸着するマスクシート吸着工程と、前記マスクシートを吸着した状態で、ガラスマスターのアライメントマーカーに対する前記マスクシートのアライメント孔のずれ量を検出するずれ量検出工程と、前記ずれ量に基づいて複数の前記アライメントマーカーに対する前記マスクシートのずれ量を補正するアライメント工程と、前記アライメント工程の後に、前記マスクシートを前記マスクシート保持部が吸着した状態で前記マスクシートを前記マスクフレームに接合する接合工程と、を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明のマスク製造方法によれば、マスクシートをマスクシート保持部で磁気的に吸着し、吸着した状態でアライメントカメラにより検出したずれ量(位置及び姿勢)に基づき、基準マーカーであるアライメントマーカーに対するずれ量を補正し、マスクシートをマスクシート保持部が吸着した状態のまま接合する。そのことによって、マスクパターン開口部に歪みがなく、マスクパターン開口部の縦方向と横方向の寸法誤差を抑え、接合配列される複数枚のマスクシートの相対的な位置ずれが小さい大判サイズのマスクを製造することが可能となる。
【0028】
[10]本発明のマスク製造方法においては、前記マスクシートと前記マスクフレームの間に厚み方向の隙間を有した状態で前記アライメント工程を行い、前記マスクシートのマスクパターン形成領域の外側周縁部の一部を前記マスクフレームの前記開口部の外側周縁部の一部に密接させて前記接合工程を行うことが好ましい。
【0029】
このようなアライメント工程においては、マスクシートとマスクフレームとの間に隙間を有していることから摩擦を低減し位置や姿勢の微調整が容易に可能となる。また、接合工程では、マスクシートとマスクフレームとを密接させてから接合することによって、浮きがなく確実に接合することが可能となる。
【0030】
[11]本発明のマスク製造方法においては、前記マスクフレームは、複数の前記マスクシートの前記マスクパターン形成領域それぞれに対応する位置に複数の前記マスク開口部を有しており、1枚の前記マスクシートを前記マスク開口部の一つに接合した後に前記マスクシート保持部を降下させて非吸着状態とし、他の前記マスク開口部まで前記マスクシート保持部を移動し、他の前記マスクシートを前記マスクシート保持部で吸着した後に、前記ずれ量検出工程、前記アライメント工程並びに前記接合工程を前記マスクシートの数だけ繰り返すことが好ましい。
【0031】
マスクは、複数枚のマスクシートとマスクシートに対応するマスク開口部を有する一つのマスクフレームによって構成される。1枚のマスクシートは、マスクシート保持部によって磁気的に吸着された状態でマスクフレームに接合される。そして、次のマスク開口部の位置までマスクシート保持部を移動しアライメントマーカーとのずれ量を補正しマスクシートをマスクフレームに接合する。このような工程をマスクシートの数だけ繰り返すことによって複数のマスクシートの相対的な位置ずれが小さい大判サイズのマスクを製造することが可能となる。
【0032】
[12]本発明のマスク製造方法においては、一つの前記マスク開口部から他の前記マスク開口部への前記マスクシート保持部の移動は粗動ステージで行い、前記アライメント工程は微動ステージで行うことが好ましい。
【0033】
複数枚のマスクシートが配列される大判サイズのマスクにおいては、マスクシート保持部がマスクフレームの複数のマスク開口部の間を移動する際には、粗動ステージによって素早く移動し、ずれ量の補正においては、微動ステージによってマスクシートの位置、姿勢及び高さの精緻な調整を行う。従って、複数枚のマスクシートを接合する構成であっても、マスクシート保持部は1台で対応することができる。
【0034】
[13]本発明のマスク製造方法においては、前記接合工程は、複数の溶接ロボットを用いたレーザ溶接によって接合を行い、前記アライメント孔の配置位置よりも外側の対辺位置又は対角位置の少なくとも2か所で同時に接合を開始することが好ましい。
【0035】
このようにすれば、マスクシートとマスクフレームの接合を、マスクシートの対辺位置または対角位置など離れた2か所以上において同時に開始することにより、1か所を接合した後に、次の接合場所の接合を行うよりも接合による歪みや位置ずれを抑制することが可能となる。また、離れた位置で接合を開始することにより、接合時に発生する熱が集中し必要以上の高温となるのを防ぐことでき、その結果、マスクシートに熱ひずみが生ずることやマスク製造装置への温度変化の影響を抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施形態に係るマスク製造装置20及びマスク製造方法によって製造されるマスク1の1例を示す組み立て分解図である。
図2】実施形態に係るマスク製造装置20及びマスク製造方法によって製造されるマスク1の構成の1例を示す図である。
図3】実施形態に係るマスク製造装置20の概略構成を示す平面図である。
図4】マスク製造装置20におけるマスク組立部21の一部を示す断面図である。
図5】マスク製造装置20におけるガラスマスター26のアライメントマーカー63の配置構成を示す平面図である。
図6】マスク製造装置20におけるスクシート保持部25の構成を示す斜視図である。
図7】マスク製造装置20におけるグネットチャック53の構成を拡大して示す断面図である。
図8】実施形態に係るマスク製造方法の主要工程を示す工程フロー図である。
図9】実施形態に係るマスク製造方法の主要な工程を示す説明図である。
図10】実施形態に係るマスク製造方法における溶接ロボット28A,28Bの溶接動作の1例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明のマスク製造装置20及びマスク製造方法について、図に示す実施形態を詳細に説明する。以下の説明に用いる各図では、各部材を認識可能なサイズとするため、各部材、部分の縮尺を適宜変更している。
【0038】
[マスク1の構成]
まず、実施形態に係るマスク製造装置20及びマスク製造方法を用いて製造されるマスク1の構成例について説明する。
【0039】
図1は、実施形態に係るマスク製造装置20及びマスク製造方法を用いて製造されるマスク1の構成の1例を示す組み立て分解図である。図1に示す構成例においては、マスク1は、8枚のマスクシート2と一つのマスクフレーム3とで構成される。マスクシート2は、マスクパターン形成領域6以外のフレーム部(外側周縁部2a)の厚みがマスクパターン形成領域6よりも厚い磁性体であり、かつ熱膨張係数が極めて小さい金属材料(例えば、Fe−Ni36%など)で形成される。マスクパターン形成領域6は厚みが20μm〜数100μmのシート状部材である。マスクパターン形成領域6には、中央部に配列される複数のマスクパターン開口部4を有している。
【0040】
マスクパターン開口部4は、たとえば、有機EL表示デバイスにおいて発光層のパターンを真空蒸着するための孔であって、図示は省略するが、膨大な数の孔が形成されている。図1では、マスクパターン開口部4が18個配列される例を示しているが、マスクパターン開口部4の数、配列や形状などは自在に設定される。マスクシート2の対角の2隅には、アライメント孔7が設けられている。なお、アライメント孔7を図示とは異なる対角位置に設けてもよい。また、アライメント孔7の数は、2か所に限らず3か所又は4か所に設けてもよい。アライメント孔7は、マスクシート2をマスクフレーム3に接合する際の位置を決めるアライメント基準であって、アライメント孔7とマスクパターン開口部4とは、正確な位置関係となるように管理されている。
【0041】
マスクフレーム3は、マスクシート2と同じ、もしくは近い熱膨張係数の金属材料で形成された板部材である。マスク開口部8は、マスクシート2が配置される位置と数に対応して設けられている。但し、一つのマスク開口部8に複数枚のマスクシート2を配置するマスク構成もある。マスク開口部8は、マスクシート2のマスクパターン形成領域6と同じか広い面積を有している。なお、マスク開口部8の大きさは、真空蒸着の際に蒸気の通過を妨げない範囲でマスクパターン形成領域6より小さくしてもよい。マスク開口部8の周辺領域を外側周縁部3aと表す。
【0042】
マスクフレーム3には、マスクシート2のアライメント孔7と同じ平面位置に導光孔9が設けられている。導光孔9の直径は、アライメント孔7の直径よりも大きく設定されている。また、マスクフレーム3には、各導光孔9の外側に溶接バックアップ孔11が設けられている。導光孔9及び溶接バックアップ孔11の機能については、図9を参照して後述する。導光孔9及び溶接バックアップ孔11は共に、外側周縁部3aに設けられる。なお、導光孔9と溶接バックアップ孔11とを連続した長孔としてもよい。
【0043】
8枚のマスクシート2は、各々マスクフレーム3のマスク開口部8の上面に配置され、マスクシート2をマスクフレーム3に重ね合わせて接合する。マスクシート2は、アライメントマーカー63(図5参照)を基準に接合される。この際、マスクパターン形成領域6が、マスク開口部8内に配置される。言い換えれば、マスクパターン開口部4の全てがマスク開口部8内に配置される。なお、マスクフレーム3は、マスクシート2の補強部材である。
【0044】
図2は、マスク1の構成の1例を示す図で、図2(a)は平面図、図2(b)はA−A切断線で切断した断面図である。図2(a),(b)に示すように、マスク1は、8枚のマスクシート2と一つのマスクフレーム3とを重ね合わせて接合一体化した構造体である。図2(a)においては、マスクパターン形成領域6をハッチングで表している。
【0045】
図2において例示するマスク1は、6Gハーフ(6世代ハーフ)とよばれる1.6m×1.1m程度の大きさの基板などに対応するマスク1の構成例であり、8枚のマスクシート2を縦4枚、横2枚ずつ配列して大判化に対応するものを例示している。ただし、マスクシート2の数は1枚、2枚、4枚、あるいは8枚より多くしてもよい。
【0046】
導光孔9は、バックライト(不図示)から出射される光をアライメント孔7に導光するために設けられているので、導光孔9の直径はアライメント孔7の直径よりも大きい。図2(a)において二点鎖線、図2(b)において三角印で表す位置は、マスクシート2とマスクフレーム3とを接合する手段であるレーザ溶接による溶接軌跡並びに溶接位置を表している。溶接バックアップ孔11は、接合(溶接)開始位置の近傍に配置される。
【0047】
[マスク製造装置20の構成]
図3は、マスク製造装置20の概略構成を示す平面図である。なお、以降の図面の説明では、図3において図示左右方向をX軸、紙面に平行、かつX軸に直交する方向をY軸、並びにXY平面に対して鉛直方向をZ軸と記載する。マスク製造装置20は、XY平面のほぼ中央部にマスクシート2とマスクフレーム3とを接合する領域であるマスク組立部21と、マスク組立部21にマスクシート2を搬送するマスクシート搬送部22とを有している。マスク組立部21及びマスクシート搬送部22は、空調機23を備えたサーマルチャンバー24内に格納され所定温度範囲(たとえば、設定温度に対して±0.1℃の範囲)に内部温度が管理される。
【0048】
マスク組立部21は、搬送保持されたマスクフレーム3の下方側に配置されるマスクシート保持部25と、マスクフレーム3の配置位置(マスクシート2の配置位置)上方に配置されるガラスマスター26と、位置ずれ検出装置であるアライメントカメラ27と、接合装置としての2台の溶接ロボット28A,28Bを有している。なお、溶接ロボットは、2台に限らず2台以上としてもよい。マスクシート保持部25及びガラスマスター26の構成は、それぞれ図4図5を参照して後述する。アライメントカメラ27は、ガラスマスター26のX(−)側に配設されるY軸ガイドレール29に沿ってY軸方向に移動可能である。また、ガラスマスター26を挟んで対向する両側には一対のX軸ガイドレール30,30が配設されており、X軸ガイドレール30,30に沿ってY軸ガイドレール29が移動可能となっている。すなわち、アライメントカメラ27は、X軸方向及びY軸方向に自在に移動し8枚のマスクシート2それぞれのアライメント孔7の位置に移動することが可能となっている。アライメントカメラ27は、例えば、CCDカメラである。
【0049】
溶接ロボット28A,28Bは、各々レーザ光を出射するレーザ光出射ヘッド31が取り付けられたロボットハンド32を有している。レーザ光出射ヘッド31,31は、ロボットハンド32の可動範囲においてXY平面及びZ軸方向に自在に移動可能である。また、溶接ロボット28Aは、X軸ガイドレール33Aに沿って往復移動が可能であり、溶接ロボット28Bは、X軸ガイドレール33Bに沿って往復移動が可能となっている。溶接ロボット28A,28Bによって、8枚のマスクシート2の接合範囲を捕捉している。2台の溶接ロボット28A、28Bは相互に同期して移動し、または、独立して移動して接合(溶接)作業を行うことができる。なお、図示は省略するが、溶接ロボット28A,28Bは共通のレーザ光の発振源を有し、レーザ光を導光管で分岐し二つのレーザ光出射ヘッド31,31から出射できるようにしている。
【0050】
マスク組立部21のX(−)方向の外側には、マスクフレーム3をマスク組立部21に供給するマスクフレーム供給部35が配置されており、マスクフレーム3は、マスクフレーム台59上(図4参照)に搬送され、所定位置において磁気的に吸着される。マスクフレーム供給部35は、マスク1を除材する位置でもある。
【0051】
マスク組立部21のX(+)方向には、マスクシート搬送部22が配設されている。マスクシート搬送部22は、マスクシートストッカ40、マスクシート搬入ロボット41及びプリアライメントユニット42を有する。なお、図3では、これらマスクシート搬送部22を構成する各装置は、配置のみを簡略化して表している。マスクシートストッカ40にストックされたマスクシート2は、マスクシート搬入ロボット41によって1枚ずつプリアライメントユニット42に搬送する。プリアライメントユニット42では、マスクシート2をマスク組立部21に搬送する際に、少なくとも所定のアライメント孔7内に所定のアライメントマーカー63(図9(c)参照)があるように位置調整され、ピックアップツール90(図9(a)参照)によってマスクシート2を1枚ずつマスク組立部21に搬送する。
【0052】
図4は、マスク製造装置20におけるマスク組立部21の一部を示す断面図である。なお、図4は構成部材を簡略化して模式的に示す説明図である。図4に示すように、マスクシート保持部25は、架台50上に配設される粗動ステージ51と、粗動ステージ51上に配設される微動ステージ52によって移動可能となっている。粗動ステージ51は、マスクシート保持部25を微動ステージ52と共にX軸方向及びY軸方向に移動させ、8つのマスク開口部8(図1図2(a)参照)各々にマスクシート保持部25を移動させる機能を有する。微動ステージ52は、マスクシート保持部25をX軸方向、Y軸方向、X軸またはY軸に対する姿勢(角度θ)に微動する。さらにZ軸方向に昇降させ、マスク開口部8内においてマスクシート保持部25の位置、言い換えればマスクシート保持部25に磁気的に吸着されたマスクシート2の位置、姿勢及び高さを微調整する機能を有している。
【0053】
マスクシート保持部25は、平面視形状が四角形の筒状の構造体であって(図6参照)、平面視4辺にマスク開口部8をZ軸方向に貫通し、マスクシート2を磁気的に吸着するマグネットチャック53を有している。マスクシート保持部25の底部には、バックプレート54が固定されていて、4辺のマグネットチャック53に囲まれた空間内にZ軸ステージ55が配設されている。Z軸ステージ55のマスクシート2側の上端には、下方から順に第2マグネット(永久磁石)56、バックアッププレート57が取り付けられている。バックアッププレート57は、マスクシート2の下面を支持し、第2マグネット56は、マスクシート2を吸着してマスクシート2の上反りを抑え、マスクシート2を平坦化する機能を有する。Z軸ステージ55は、バックアッププレート57をマスクシート2に対して昇降させ、マスクシート2が平坦になるように、つまりマグネットチャック53の上方端面の基準面75(図6参照)と同じ高さになるように高さを調整する。マグネットチャック53の詳しい構成は、図7を参照して後述する。
【0054】
マスクシート2は、マスクフレーム3のマスク開口部8の上方に搬送され、マグネットチャック53によって吸着される。マスクシート保持部25は、マグネットチャック53をマスク開口部8との交差領域から下方側に降下させた後、隣のマスク開口部8まで粗動ステージ51によって移動する(図4において実線の矢印で示す)。マスクシート2にはアライメント孔7が設けられ、マスクフレーム3にはアライメント孔7と同じ平面位置に導光孔9が設けられており、不図示のバックライトから照射される光が導光孔9及びアライメント孔7を通ってマスクシート2の上方側に出射するようになっている。
【0055】
マスクシート2の上方(Z軸(+)方向)には、複数のアライメントマーカー63が設けられた板状の透明なガラスマスター26が配置されている。ガラスマスター26はガラスフレーム60の下面側に密着固定され、ガラスフレーム60の上面側には補強用ガラス61が密着固定されている。ガラスマスター26は、6Gまたは6Gハーフサイズに対応する大きさを有しているので撓みやすい。そこで、補強用ガラス61を設けるとともに、ガラスマスター26と補強用ガラス61の間の空間65を負圧にすることによって、ガラスマスター26を補強するとともに撓みの発生を抑制している。ガラスマスター26の下面には基準マーカーであるアライメントマーカー63が形成されている。アライメントマーカー63は、アライメント孔7に対応する位置に設けられている。アライメントマーカー63の配置は、図5を参照して後述する。ガラスフレーム60(ガラスマスター26)は、4本のガイドポスト62によって支持されZ軸方向に昇降可能となっており、マスクシート2がマスクフレーム3上に搬送された後に、マスクシート2に接触しない位置まで降下する(図4において二点鎖線で示す)。ガラスマスター26は、後述するずれ量検出工程及びアライメント工程のとき以外は、他の工程の妨げにならない高さ位置に上昇させておく。
【0056】
図4において二点鎖線で示すように、ガラスマスター26がマスクシート2の直近の上方まで降下した状態においては、アライメントカメラ27がX軸ガイドレール30,30またはY軸ガイドレール29に沿ってアライメントマーカー63(ガラスマスター26)上に移動し、アライメント孔7のアライメントマーカー63に対するずれ量を検出する。アライメントカメラ27は、1枚のマスクシート2のアライメント孔7のアライメントマーカー63に対するずれ量を検出し、たとえば、2か所のずれ量を平均化した基準ずれ量を基にして、マスクシート2のアライメントマーカー63に対するずれ量を補正する。
【0057】
図5は、マスク製造装置20に使用するガラスマスター26に設けられるアライメントマーカー63の配置構成を示す平面図である。ガラスマスター26は、接合配列される8枚のマスクシート2の全部を覆う外形を有し、マスクシート2それぞれのアライメント孔7の配置位置にアライメントマーカー63が設けられている。アライメントマーカー63は、マスクシート2の位置を決める基準マーカーである。なお、図5に示す例において、アライメントマーカー63は、マスクシート2の対角の2か所に設けられているが、3か所又は4か所に設けておいてもよく、アライメント孔7の数の増減に対応して設けられる。
【0058】
続いて、マスクシート保持部25の構成について図6を参照して説明する。なお、図6は、Z軸ステージ55、第2マグネット56及びバックアッププレート57の図示を省略している。
【0059】
図6は、マスクシート保持部25の構成を示す斜視図である。マスクシート保持部25は、全体として平面視四角形の枠状構造体であって、4辺のそれぞれにマグネットチャックユニット70A,70B,70C,70Dが配設されている。対向するマグネットチャックユニット70A,70Bは同じ構成であり、対向するマグネットチャックユニット70C,70Dは同じ構成となっている。マグネットチャックユニット70A,70Bは、各々4個のマグネットチャック53を直列に配列したマグネットチャックサブユニット71から構成され、マグネットチャックユニット70C,70Dはマグネットチャックサブユニット71と同じ構成である。そこで、マグネットチャックサブユニット71の一つを代表例として説明する。
【0060】
マグネットチャックサブユニット71には、4個のマグネットチャック53がX軸方向に延在されるマグネット支持プレート部72に直列に固定されている。4個のマグネットチャック53の上面は同じ高さであって、マスクシート2を吸着する際の基準面75(図7も参照)となる。マグネット支持プレート部72から突設された半島状の昇降プレート部73は、昇降手段であるアクチュエータ(例えば、エアシリンダー)74に連結されており、アクチュエータ74によって4個のマグネットチャック53を同時に昇降させることができる。なお、マグネットチャックユニット70A〜70Dが備える全てのマグネットチャック53は、基準面75が同じになるように、各アクチュエータ74は同期して駆動される。
【0061】
マスクシート保持部25の平面方向の4隅には、磁気吸着ユニット77が配置されている。4個の磁気吸着ユニット77は同じ構成であり、柱状のマグネット部78と、マグネット部78を昇降させる昇降駆動部79を有している。4個のうち、少なくとも対角に配置されるマグネット部78は、昇降駆動部79によって同期駆動され、上面が同じ高さとなるように制御される。磁気吸着ユニット77は、マスクシート2をマスクフレーム3に接合固定する際に、この接合(溶接)開始位置の近傍においてマスクシート2を吸着することでマスクシート2をマスクフレーム3に密接させる機能を有する。
【0062】
マグネットチャックユニット70A、70B各々のX軸方向中央部には、ユニット駆動部76が配設されている。ユニット駆動部76は、マグネットチャックユニット70A,70B各々を独立してX軸方向及びY軸方向に駆動し、マグネット部78の位置を接合開始位置(溶接開始位置)の近傍に調節する。このことについては、図10を参照して後述する。
【0063】
図7は、マグネットチャック53の構成を拡大して示す断面図である。マグネットチャック53は、昇降プレート部73に固定された筒状の支持枠部85と、支持枠部85のマスクシート2側の端部に嵌着された非磁性体のキャップ部86を有し、それらの内側にマグネット保持枠87に収容された第1マグネット88と第1マグネット88を昇降させるマグネット昇降機構部89とを有している。第1マグネット88は永久磁石である。キャップ部86のマスクシート2に接触する面が基準面75である。キャップ部86とマグネット昇降機構部89とは、昇降プレート部73に同期して昇降可能(太い矢印で示す)であり、この際、第1マグネット88もキャップ部86と共に昇降する。しかし、第1マグネット88は、マグネット昇降機構部89を有することからキャップ部86の動作に対して独立して昇降可能(細い矢印で示す)となっている。つまり、キャップ部86と第1マグネット88の駆動タイミングをずらすことが可能となっている。第1マグネット88は、電磁方式の磁石でも吸着機能部材として可能であるが、電磁方式は発熱することから、この熱によるマスク製造装置20及び熱膨張によるマスクシート2の接合精度の低下を考慮し永久磁石とすることが好ましい。なお、第2マグネット56においても同じ理由で永久磁石を使用している。
【0064】
以上説明したマスク製造装置20は、マスクパターン開口部4を含むマスクパターン形成領域6を有し磁性体金属で形成される1枚または複数枚のマスクシート2と、マスクパターン形成領域6に対応する位置にマスクパターン形成領域6と同じまたは広く、かつ、マスクシート2の数と同じかそれより少ない数のマスク開口部8を有するマスクフレーム3とを重ね合わせて接合するマスク製造装置である。マスク製造装置20は、平面視してマスク開口部8の配置位置の内側下方に配置され、マグネットチャック53を有しマスクシート2を磁気的に吸着する吸着状態と、非吸着状態に切り換え可能なマスクシート保持部25と、マスクシート2の配置位置上方に配置され、複数のアライメントマーカー63が設けられた板状で透明なガラスマスター26と、複数のアライメントマーカー63に対するマスクシート2に設けられた複数のアライメント孔7のずれ量を検出するアライメントカメラ27と、マスクシート保持部25を作動するアライメントステージ(粗動ステージ51及び微動ステージ52)と、マスクパターン形成領域6の外側周縁部2aをマスク開口部8の外側周縁部3aに接合する接合装置である溶接ロボット28A,28Bと、を有している。
【0065】
本発明のマスク製造装置20によれば、マスクシート2を磁気的に吸着し、吸着した状態でアライメントマーカー63に対するマスクシート2のずれ量を検出し、このずれ量(位置及び姿勢)に基づき、アライメントマーカー63に対するずれ量を補正し、マスクシート2をマスクシート保持部25が吸着した状態のままマスクフレーム3に接合する。そのことによって、マスクパターン開口部4に歪みがなく、マスクパターン開口部4の縦方向と横方向の寸法誤差を抑え、接合配列される8枚のマスクシート2の相対的な位置ずれが小さく大判サイズのマスク1の製造を可能とするマスク製造装置20を提供できる。
【0066】
また、マグネットチャック53は、マスクシート2を吸着している際にマスクシート2を支持する基準面75を有する非磁性体のキャップ部86と、キャップ部86の内側に配置されキャップ部86とは独立して昇降可能な第1マグネット88とを有し、第1マグネット88をマスクシート2の吸着状態から非吸着状態に切り換えた後に、基準面75がマスクシート2から離される。
【0067】
マスクシート2をマスクフレーム3に接合した後、マスクシート2に対してマスクシート保持部25を降下させて非吸着状態にしてマスク1を除材する。非吸着状態にする際に、第1マグネット88をマスクシート2から離間させる間に吸着力でマスクシート2を引き下げて曲げてしまうことがある。そこで、キャップ部86の基準面75がマスクシート2を支持している間に第1マグネット88を離間させ非吸着状態にし、その後、キャップ部86を降下させれば、第1マグネット88の吸着力によってマスクシート2が曲がってしまうことを防止でき、曲りによってマスクパターン開口部4が歪むことを防止できる。
【0068】
また、マスクシート保持部25は、マスクシート2をマスクフレーム3に接合する際に、接合装置である溶接ロボット28A,28Bによる接合開始位置91.92の近傍においてマスクシート2を吸着しマスクシート2をマスクフレーム3に密接させる磁気吸着ユニット77を有している。
【0069】
マスクシート2をマスクシート保持部25によって吸着した状態で、さらに、接合開始位置91,92の近傍においてマスクシート2を磁気吸着ユニット77で吸着し、マスクシート2をマスクフレーム3に密接させて接合すれば、ずれ量補正後のマスクシートの位置、姿勢を保持した状態で確実に接合することが可能となる。
【0070】
また、マスクフレーム3は、複数のマスクシート2の接合配列に対応して設けられる複数のマスク開口部8を有しており、アライメントステージは、一つのマスク開口部8の配置位置から他のマスク開口部8の配置位置にマスクシート保持部25を移動する粗動ステージ51と、ずれ量に基づいて複数のアライメントマーカー63に対するマスクシート2のずれ量を補正する微動ステージ52とを有している。
【0071】
マスクシート保持部25をマスクフレーム3の複数のマスク開口部8の間を移動させる際には、粗動ステージ51によってマスクシート保持部25を素早く移動させ、ずれ量の補正においては、微動ステージ52によってマスクシート2が吸着されたマスクシート保持部25の位置、姿勢精緻な調整を行う。このような構成にすれば、複数枚のマスクシートを接合する構成であっても、マスクシート保持部1台で対応することができる。
【0072】
また、マスク製造装置20においては、マスクシート保持部25の複数のマグネットチャック53で囲まれた空間内に、マスクシート保持部25がマスクシート2を吸着する際にマスクシート2を平坦に支持するバックアッププレート57を配置している。
【0073】
マスクパターン形成領域6は大判化すると自重で撓みやすくなる。そこで、マスクパターン形成領域6の下面側をバックアッププレート57で支持することで、マスクシート2を平坦化しながら吸着することが可能となり、撓みに起因するマスクシート2の位置ずれやマスクパターン開口部4の歪みを抑えることが可能となる。
【0074】
また、マスク製造装置20においては、バックアッププレート57のマスクシート2に対して反対側の下方側に、昇降可能な第2マグネット56を有している。
【0075】
マスクシート2は、自重で撓む場合と、逆方向に反っている(上反り)場合がある。第2マグネット56でマスクシート2を磁気的に吸着すれば、上反りがあるマスクシート2をバックアッププレート57に倣って平坦化することができ、上反りに起因するマスクシート2の位置ずれやマスクパターン開口部4の歪みを抑制することが可能となる。
【0076】
また、接合装置は、レーザ光出射ヘッド31が装着されたロボットハンド32を有する溶接ロボット28A,28Bであり、溶接ロボット28A,28Bは、ガイドレール(X軸ガイドレール33A,33B)に沿って移動可能となっている。
【0077】
ロボットハンド32の動作には自由度があり、しかも高精度に制御可能であるため、ロボットハンド32にレーザ光出射ヘッド31を設ければ、マスクシート2の配置、サイズ並びに形状に対して容易に対応できる。また、溶接ロボット28A,28Bを各々X軸ガイドレール33A,3Bに沿って移動できるようにすることで、接合可能領域を広げることが可能であり、多数のマスクシート2を有する大判のマスクの製造にも対応可能となる。
【0078】
マスク製造装置20は、2台の溶接ロボット28A,28Bが配設されている。実施形態においては、2台の溶接ロボット28A,28Bを有しているが、溶接ロボットは3台、4台または配置可能であればもっと多くてもよい。複数台の溶接ロボットによって平面方向の複数か所の接合を同時に行うことが可能となり、たとえば、1枚のマスクシート2の対角位置や対向する多点の位置の接合を同時に行うことにより、1か所ごとの接合による歪みや位置ずれを排除することが可能となる。
【0079】
続いて、図8図9を参照してマスク製造装置20を用いたマスク1の製造方法について説明する。
【0080】
[マスク製造方法]
図8は、マスク製造方法の主要工程を示す工程フロー図である。図9は、マスク製造方法の主要な工程を示す説明図であり、図9(a)は、マスクシート吸着工程を示す図、図9(b),(c)は、アライメント工程を示す図、図9(d)は、接合工程を示す図である。まず、図9(a)に示すように、マスクシート保持部25をマスクフレーム3の接合対象場所のマスク開口部8の内側下方に配置しておく。マスクシート保持部25が他のマスク開口部8の位置に配置されている場合には、マスクシート保持部25を接合対象のマスク開口部8の位置まで粗動ステージ51によって移動させる。この際、マグネットチャック53をマスクシート保持部25が移動可能な高さ位置まで降下させる。次にマスクフレーム3をマスクフレーム台59上に搬送し所定位置に吸着保持する(搬送保持工程:ステップS1)。次いで、ピックアップツール90によって1枚のマスクシート2をプリアライメントユニット42において吸着し、マスクフレーム3の所定のマスク開口部8の上方に搬送し、マスクシート保持部25を微動ステージ52によって上昇させ、マグネットチャック53によってマスクシート2を磁気的に吸着する(マスクシート吸着工程:ステップS2)。この工程においては、マスクシート2とマスクフレーム3の間には、両者が接触しない程度の隙間tが設けられる。ガラスマスター26は、マスクシート2及びマスクフレーム3の搬送の妨げにならない位置に上昇させている。
【0081】
次に、図9(b)に示すように、ガラスマスター26をマスクシート2の直近上方まで降下させ、マスクシート2をマスクシート保持部25が吸着した状態で、アライメントカメラ27によってガラスマスター26に設けられているアライメントマーカー63に対するマスクシート2に設けられたアライメント孔7のずれ量を検出する(ずれ量検出工程:ステップS3)。続いて、微動ステージ52によってアライメントマーカー63に対するマスクシート2のずれ量を補正する(アライメント工程:ステップS4)。このアライメント工程においては、バックアッププレート57はマスクシート2が平坦になるようマスクシート2の下面を支持し、第2マグネット56はマスクシート2を磁気的に吸着する。ずれ量検出工程(ステップS3)及びアライメント工程(ステップS4)は、マスクシート2の1枚につき2か所のアライメント孔7において行われる。ずれ量検出工程(ステップS3)においては、アライメントカメラ27は、図9(c)に示すように、導光孔9から入射しアライメント孔7を通過してガラスマスター26から出射する光の通過または遮蔽を撮像し、ガラスマスター26のアライメントマーカー63に対するマスクシート2のアライメント孔7のずれ量を画像処理によって検出する。
【0082】
図9(d)に示すように、アライメント工程(ステップS4)の後に、ガラスマスター26を図9(a)に示す位置まで上昇させ、溶接ロボット28A,28Bによってマスクシート2をマスクフレーム3に接合する(接合工程:ステップS5)。図9(d)は、ガラスマスター26の図示を省略している。接合開始位置の近傍において、磁気吸着ユニット77のマグネット部78は、溶接バックアップ孔11を貫通してマスクシート2を吸着し、マスクシート2の接合開始位置近傍をマスクフレーム3に密接させてから溶接する。接合開始位置の近傍とは、接合開始位置とその周囲を含む範囲である。磁気吸着ユニット77がマスクシート2を吸着するときには、マスクシート保持部25を降下させることによる平面方向の微細な位置ずれを排除するために、マスクシート保持部25はアライメント工程(ステップS4)におけるマスクシート2を吸着する状態を維持している。
【0083】
図10は、溶接ロボット28A,28Bの溶接動作の1例を示す説明図である。なお、図10は、2台の溶接ロボット28A,28Bで1枚のマスクシート2をマスクフレーム3に接合する例を表している。接合開始位置(溶接開始位置)は、溶接ロボット28Aによる接合開始位置91、対角方向の溶接ロボット28Bによる接合開始位置92とする。接合開始位置91,92においては、ほぼ同時に溶接を開始し、溶接ロボット28A、28Bの各々を実線の矢印に沿う方向または点線の矢印に沿う方向にほぼ同期させ、二点鎖線で示す所定の溶接軌跡93に沿ってレーザ光出射ヘッド31(図3参照)を移動させることが好ましい。接合開始位置91,92において溶接を開始する際には、接合開始位置91,92に対応する位置の磁気吸着ユニット77によってマスクシート2のマスクパターン形成領域6の外側周縁部2aの一部を吸着してマスクフレーム3に密接させ、少なくとも対角の2点においてマスクシート2をマスクフレーム3に溶接してから溶接軌跡93に沿ってレーザ光出射ヘッド31を移動する。なお、溶接ロボットが2台以上の場合は、接合開始位置をマスクシート2の重心位置(図心位置)から等角度間隔(例えば、溶接ロボットが4台の場合は、90度間隔)の延長線と溶接軌跡93との交点とすれば、接合開始位置に偏りがなく、溶接によるマスクシート2の位置ずれや発熱分布の偏りを抑制できる。
【0084】
接合工程(ステップS5)を終了した後、マスクシート2がマスクフレーム3に接合された構造体であるマスク1を除材する(除材工程:ステップS6)。除材にあたっては、まず、Z軸ステージ55によって第2マグネット56をマスクシート2の非吸着位置まで降下させ、続いて、微動ステージ52によってマスクシート保持部25を降下させてマスクシート2を非吸着状態とし除材する。なお、マスクシート2は8枚構成であり、1枚目を接合した後、マスクシート保持部25を非吸着位置まで降下させ、粗動ステージ51によって次の接合対象であるマスク開口部8の位置にマスクシート保持部25を移動し(図9(d)において二点鎖線で表す)、その位置に2枚目のマスクシート2を搬送し、前述したステップS2からステップS5までの工程をマスクシート2の枚数分繰り返し、その後、除材する。なお、除材前に、アライメントカメラ27によって、アライメントマーカー63に対するアライメント孔7の接合後のずれ量を再検出し、規格外のものを分別するようにしてもよい。
【0085】
なお、マグネットチャック53によるマスクシート2の吸着、非吸着の作用について図7を参照して説明する。マスクシート2を吸着する際には、第1マグネット88がキャップ部86に対して下方側に降下した状態で、キャップ部86をマスクシート2に接触可能な位置まで上昇させ、その後、マグネット昇降機構部89によって第1マグネット88がマスクシート2を吸着可能な位置まで上昇させる。一方、非吸着状態にする際には、第1マグネット88を非吸着位置まで降下させてからキャップ部86をマスクシート2から離れる位置まで降下させる。このようにすることでマスクシート2を吸着する際、並びに非吸着にする際に、マスクシート2が撓まないようにしている。
【0086】
以上説明したマスク製造方法は、マスクパターン開口部4を含むマスクパターン形成領域6を有し磁性体金属で形成された1枚または複数のマスクシート2と、マスクパターン形成領域6に対応する位置にマスクパターン形成領域6と同じ面積または広く、かつ、マスクシート2の数と同じかそれより少ない数のマスク開口部8を有するマスクフレーム3とを重ね合わせて接合するマスク製造方法である。このマスク製造方法は、マスクフレーム3をマスクフレーム台59上に搬送し保持する搬送保持工程と、マスクシート2をマスクフレーム3の上方の所定位置に搬送し、マスクシート保持部25によってマスクシート2を磁気的に吸着するマスクシート吸着工程と、マスクシート2を吸着した状態で、ガラスマスター26のアライメントマーカー63に対するマスクシート2のアライメント孔7のずれ量を検出するずれ量検出工程と、ずれ量に基づいて複数のアライメントマーカー63に対するマスクシート2の位置及び姿勢を補正するアライメント工程と、アライメント工程の後に、マスクシート2を吸着した状態でマスクシート2をマスクフレーム3に接合する接合工程と、を含んでいる。
【0087】
上記マスク製造方法によれば、マスクシート2をマスクシート保持部25で磁気的に吸着し、吸着した状態でアライメントカメラ27により検出したずれ量(位置及び姿勢)に基づき、基準マーカーであるアライメントマーカー63に対するずれ量を補正し、マスクシート2をマスクシート保持部25が吸着した状態のまま接合する。そのことによって、マスクパターン開口部4に歪みがなく、マスクパターン開口部4の縦方向と横方向の寸法誤差を抑え、接合配列される複数枚のマスクシート2の相対的な位置ずれが小さい大判サイズのマスクを製造することが可能となる。
【0088】
また、マスク製造方法においては、マスクシート2とマスクフレーム3の間に厚み方向の隙間tを有した状態でアライメント工程(ステップS4)を行い、前記マスクシートのマスクパターン形成領域の外側周縁部の一部を前記マスクフレームの前記開口部の外側周縁部の一部に密接させて前記接合工程を行う。アライメント工程においては、マスクシート2とマスクフレーム3の間に隙間tを有していることから摩擦を低減し位置や姿勢の微調整が容易に行うこと可能となる。また、接合工程においては、マスクシート2とマスクフレーム3とを密接させてから接合することによって、浮きがなく確実に接合することが可能となる。
【0089】
また、マスクフレーム3は、8枚のマスクシート2のマスクパターン形成領域6それぞれに対応する位置に8つのマスク開口部8を有しており、1枚のマスクシート2をマスク開口部8の一つに接合した後にマスクシート保持部25を降下させて非吸着状態とし、他のマスク開口部8までマスクシート保持部25を移動し、他のマスクシート2をマスクシート保持部25で吸着した後に、ずれ量検出工程(ステップS3)、アライメント工程(ステップS4)並びに接合工程(ステップS5)をマスクシート2の数だけ繰り返す。
【0090】
1枚のマスクシート2は、マスクシート保持部25によって磁気的に吸着された状態でマスクフレーム3に接合される。そして、次のマスク開口部8の位置までマスクシート保持部25を移動しアライメントマーカー63に対するずれ量を補正し、マスクシート2をマスクフレーム3に接合する。このような工程をマスクシート2の数だけ繰り返すことによって複数のマスクシート2の相対的な位置ずれのない大判サイズのマスク1を製造することが可能となる。
【0091】
また、一つのマスク開口部8から他のマスク開口部8へのマスクシート保持部25の移動は粗動ステージ51で行い、アライメント工程(ステップS4)は微動ステージ52で行う。
【0092】
複数枚のマスクシート2が配列される大判サイズのマスクにおいて、マスクシート保持部25がマスクフレーム3の複数のマスク開口部8の間を移動する際には、粗動ステージ51によって素早く移動し、ずれ量の補正においては、微動ステージ52によってマスクシート2の位置、姿勢及び高さの精緻な調整を行う。従って、複数枚のマスクシート2を接合する構成であっても、マスクシート保持部25は1台で対応することができる。
【0093】
また、接合工程(ステップS5)では、溶接ロボット28A,28Bを用いたレーザ溶接による接合を行い、アライメント孔7の配置位置よりも外側の対辺位置又は対角位置の少なくとも2か所で同時に接合を開始する。
【0094】
このようにすれば、マスクシート2とマスクフレーム3の接合を、マスクシート2の対辺位置または対角位置など離れた2か所以上において同時に開始することにより、1か所を接合した後に、次の接合場所の接合を行うよりも接合による歪みや位置ずれを抑制することが可能となる。また、離れた位置で接合を開始することにより、接合時に発生する熱が集中し必要以上の高温となるのを防ぐことでき、その結果、マスクシート2に熱ひずみが生ずることやマスク製造装置20への温度変化の影響を抑えられる。溶接ロボットを2台以上の複数台、例えば4台の場合においては、マスクシート2の4隅を接合開始位置にすればよい。
【0095】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。たとえば、前述したマスク製造装置20においては、マスクシート保持部25を複数のマスク開口部8の位置に移動させているが、マスクシート保持部25をマスク開口部8(マスクシート2)の数だけ用意し各々を独立して微調整が可能な構成としてもよく、一つのマスクシート保持部25にマスク開口部8の数に相当するマグネットチャックユニット70A〜70Dを装備し、それぞれを同期して昇降させるようにしてもよい。
【0096】
また、前述した接合方法は、レーザ溶接としたが、たとえば、スポット溶接や他の溶接方法を用いてもよく、接着や固定ピンなどによる機械的な固定方法を用いるようにしてもよい。
【0097】
また、前述した実施形態のアライメント工程においては、マスクシート2にアライメント孔7を設けているが、マスクシート2のガラスマスター26側の面に刻印や印刷によるアライメント用のマーカーを設けるようにしてもよく、ガラスマスター26に替えて、レーザ光によってアライメント用のマーカーを検出する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1…マスク、2…マスクシート、2a…マスクシートの外側周縁部、3…マスクフレーム、3a…マスクフレームの外側周縁部、6…マスクパターン形成領域、7…アライメント孔、8…マスク開口部、20…マスク製造装置、25…マスクシート保持部、26…ガラスマスター、27…アライメントカメラ、28A,28B…溶接ロボット(接合装置)、31…レーザ光出射ヘッド、32…ロボットハンド、33A,33B…X軸ガイドレール(ガイドレール)、51…粗動ステージ(アライメントステージ)、52…微動ステージ(アライメントステージ)、53…マグネットチャック、56…第2マグネット、57…バックアッププレート、59…マスクフレーム台、63…アライメントマーカー、86…キャップ部、88…第1マグネット、91,92…接合開始位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10