(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の構成要素については同一の符号を付す。本発明は下記実施形態に限定されない。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態に係る圧電素子10は、一対の電極5a,5bと、一対の電極5a,5b間に挟まれた圧電体2と、を備える。つまり、圧電体2の一方の表面には電極5aが重なり、圧電体2の他方の表面には別の電極5bが重なっている。
図2中の(a)に示されるように、本実施形態に係る圧電体2は、直方体である。ただし、圧電体2の形状は限定されない。
【0018】
圧電体2は、圧電組成物を含む焼結体である。圧電体2は、圧電組成物のみからなる焼結体であってよい。圧電体2は、圧電組成物に加えて、他の成分を含んでもよい。
【0019】
図3は、
図2中の(b)に示される圧電体2(圧電組成物)の断面2csの拡大図である。
図3に示されるように、圧電体2を構成する圧電組成物は、複数(無数)の結晶粒子4を備える。各結晶粒子4は、粒界18(例えば、粒界相)を介して、互いに焼結している。各結晶粒子4は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。そして各結晶粒子4は、コア6と、コア6を覆うシェル8と、を含む。つまり、結晶粒子4は、コアシェル構造を有する。コア6及びシェル8は、互いに異なる結晶相であってよい。コア6及びシェル8それぞれがペロブスカイト型の結晶構造を有してよい。シェル8は、コア6の一部又は全体を覆う相である。一つのシェル8が、複数のコア6を覆ってよい。つまり、一つの結晶粒子4が、複数のコア6を含んでよい。結晶粒子4は、コア6及びシェル8のみからなっていてよい。結晶粒子4は、コア6及びシェル8に加えて、別の相を含んでもよい。圧電組成物は、コア6及びシェル8を含む結晶粒子4のみからなっていてよい。圧電組成物は、コア6及びシェル8を含む結晶粒子4に加えて、別の種類の粒子を含んでよい。例えば、圧電組成物は、組成又は結晶構造において結晶粒子4とは異なる別の結晶粒子を含んでよい。例えば、圧電組成物は、結晶粒子4のコア6と略同し組成を有する粒子12を含んでよい。圧電組成物は、結晶粒子4のシェル8と略同じ組成を有する粒子14を含んでもよい。コアシェル構造を有さない粒子16の一部分の組成が、コア6と略同じであり、粒子16の他の部分の組成が、シェル8と略同じであってよい。
【0020】
圧電体2を構成する圧電組成物は、主成分として、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)及び酸素(O)を含有する。圧電組成物に含まれるそれぞれの結晶粒子4が、ビスマス、鉄、バリウム、チタン及び酸素を含有してよい。シェル8におけるビスマスの含有量(単位:質量%)の平均値は、コア6におけるビスマスの含有量の平均値よりも大きい。換言すれば、コア6におけるビスマスの含有量の平均値は、C
CORE質量%と表され、シェル8におけるビスマスの含有量の平均値が、C
SHELL質量%と表され、C
COREはC
SHELLよりも小さい。C
CORE質量%は、結晶粒子4のコア6に属する10箇所以上の測定点におけるビスマスの含有量の平均値であってよい。C
SHELL質量%は、結晶粒子4のシェル8に属する10箇所以上の測定点におけるビスマスの含有量の平均値であってよい。圧電体2(圧電組成物)の断面2csに露出するコア6の断面の面積の合計がS
COREと表され、圧電体2(圧電組成物)の断面2csに露出するシェル8の断面の面積の合計がS
SHELLと表され、100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)が、50〜90面積%である。100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)は、55〜75面積%、又は60〜70面積%であってよい。
【0021】
本実施形態では、100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)が50〜90であるため、圧電組成物の圧電定数d
33が従来の鉄酸ビスマス系の圧電組成物に比べて大きく、圧電組成物のキュリー温度Tcが従来の鉄酸ビスマス系の圧電組成物に比べて高い。その理由は以下の通りである、と本発明者らは考える。
【0022】
結晶粒子4が、組成及び結晶構造において異なるコア6とシェル8とを含む場合、コア6とシェル8との間の結晶構造のミスマッチを緩和するために、コア6とシェル8の界面に構造傾斜領域が出現する。例えば、コア6は正方晶又は立方晶であり、シェル8は菱面晶(Rhombohedral crystal)であり、構造傾斜領域がコア6とシェル8との間の歪みを緩和する。また、構造傾斜領域を有する結晶粒子4では、組成相境界(Morphotropic Phase Boundary,つまりMPB)と同様に、分極反転が容易に起こるため、結晶粒子4の圧電特性が向上し、圧電組成物全体の圧電定数d
33も大きくなり易い。また、ビスマスの含有量がシェル8に比べて小さいコア6では、BaTiO
3が主相として結晶を形成し易い。その結果、コア6自体のTcはシェル8に比べて低いが、コア6自体の誘電率が大きいため、コア6自体のd
33は大きい。一方、ビスマスの含有量がコア6に比べて大きいシェル8では、BiFeO
3が主相として結晶を形成し易い。その結果、シェル8自体のd
33は低いが、シェル8自体のTcは高い。そして、100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)が50〜90であることにより、コア6自体の大きいd
33と、シェル8の高いTcとが両立して、圧電組成物全体が大きい圧電定数d
33と、高いキュリー温度Tcと、を兼ね備えることができる。100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)が50〜90の範囲外である場合、d
33及びTcのどちらかが著しく減少するため、d
33とTcとの両立は困難である。ただし、圧電組成物の圧電定数d
33が大きく、且つ圧電組成物のキュリー温度Tcが高い理由は、必ずしも上記の理由に限定されない。
【0023】
圧電組成物に含まれる全ての粒子の数がN個と表され、コア6及びシェル8を含む結晶粒子4の数がn個と表され、n/Nが、0.10〜1.00であってよい。n/Nとは、大きいd
33と高いTcとを兼ね備える結晶粒子4の数の割合を意味する。n/Nが大きいほど、圧電組成物を構成する全粒子に占める結晶粒子4の数の割合が大きいので、圧電組成物全体が大きい圧電定数d
33と高いキュリー温度Tcとを兼ね備え易い。同様の理由から、n/Nは、0.20〜1.00、0.30〜1.00、0.40〜1.00、0.50〜1.00、0.60〜1.00、0.70〜1.00、0.80〜1.00、又は0.90〜1.0であってよい。n/Nの増加に伴って、圧電組成物の圧電定数d
33が増加する傾向がある。
【0024】
C
CORE/C
SHELLは、0.10〜0.95であってよい。C
CORE/C
SHELLが0.10〜0.95である場合、結晶粒子4がコアシェル構造を有し易い。つまり、C
CORE/C
SHELLが0.10〜0.95である場合、コア6及びシェル8それぞれの結晶構造の異方性が高まり易く、コア6とシェル8の界面に構造傾斜領域が出現し易い。通常、移行性の高い結晶構造を有する圧電組成物の分極反転は困難である。一方、構造傾斜領域を有する結晶粒子4では、分極反転が起こり易いため、結晶粒子4の圧電特性が向上し易く、圧電組成物の圧電定数d
33が大きくなり易い。同様の理由から、C
CORE/C
SHELLは、0.20〜0.90、0.30〜0.80、又は0.50〜0.70であってもよい。
【0025】
C
SHELL−C
CORE(コア6とシェル8との間のビスマスの含有量の差)は、例えば、2質量%以上100質量%以下であってよい。C
SHELL−C
COREが上記の範囲内である場合、コア6及びシェル8それぞれの結晶構造の異方性が高まり易く、コア6とシェル8の界面に構造傾斜領域が出現し易い。その結果、結晶粒子4では分極反転が起こり易く、結晶粒子4の圧電特性が向上し易く、圧電組成物の圧電定数d
33が大きくなり易い。
【0026】
圧電組成物全体の平均的組成は、下記化学式1で表さ
れる。圧電組成物に含まれる複数の結晶粒子4の平均的組成が、下記化学式1で表されてよい。一つの結晶粒子4全体の平均的組成が、下記化学式1で表されてよい。
x[Bi
mFeO
3]−y[Ba
nTiO
3] (1)
[式1中、0.6≦x≦0.9、0.1≦y≦0.4、x+y=1、0.96≦m≦1.04、0.96≦n≦1.04。]
【0027】
圧電組成物全体の平均的な組成が、下記化学式2で表されてよい。つまり、上記化学式1で表される圧電組成物は、下記化学式2で表される複合酸化物であってよい。つまり、圧電組成物の一部または全部が、Bi
mFeO
3、及びBa
nTiO
3の固溶体であってもよい。圧電組成物に含まれる複数の結晶粒子4の平均的組成が、下記化学式2で表されてよい。一つの結晶粒子4全体の平均的組成が、下記化学式2で表されてよい。圧電体2は、下記化学式2で表される圧電組成物のみからなっていてよい。圧電体2は、下記化学式2で表される圧電組成物に加えて、他の成分を含んでもよい。
(Bi
xmBa
yn)(Fe
xTi
y)O
3 (2)
[式2中、0.6≦x≦0.9、0.1≦y≦0.4、x+y=1、0.96≦m≦1.04、0.96≦n≦1.04。]
【0028】
圧電組成物の一部は、Bi
mFeO
3からなる相であってもよい。圧電組成物の一部は、Ba
nTiO
3からなる相であってもよい。
【0029】
結晶粒子4の粒子径は、例えば、0.2〜20μmであってよい。シェル8の厚みは、例えば、0.05〜1μmであってよい。
【0030】
圧電組成物は、上記化学式1又は化学式2に含まれる元素以外の元素を、不純物又は添加物として含有していてもよい。例えば、圧電組成物は、Na、Mg、Mn、Nb、V、Al、S、Zr、Si、P、K、Fe、Cu、Zn、Hf、Ta又はWの酸化物を含んでよい。圧電組成物がこれらの酸化物等を含有する場合、圧電組成物における各酸化物の含有率の合計は、圧電組成物全体の0.3質量%以下であってよい。
【0031】
圧電組成物全体の平均的な組成は、例えば、蛍光X線分析法(XRF法)又はエネルギー分散型X線分析(EDS)によって分析されてよい。また、結晶粒子4のコア6及びシェル8は、例えば、走査型透過電子顕微鏡(STEM)及びEDSによって識別されてよい。コア6及びシェル8は、例えば、STEMで撮影された画像のコントラストによって識別されてよい。コア6及びシェル8は、例えば、EDSに沿って測定されたBiの含有量の差異によって識別されてもよい。コア6及びシェル8それぞれにおける各元素の含有量は、EDSによって測定されてよい。
【0032】
圧電素子10は、上記の圧電組成物を含む圧電体2を備えるため、圧電特性に優れる。圧電素子10が備える一対の電極5a,5b間の電位差は、例えば、0.1〜2.0kV/mmであってよい。従来のBiFeO
3を用いた圧電素子では、圧電素子の電極間の電位差が5.0kV/mm以上の高電圧でない限り、十分な圧電特性が得られない。一方、本実施形態に係る圧電素子10では、電極5a,5b間の電位差が上記の数値範囲内の低電圧であっても、十分な圧電特性が得られる。例えば、0.1〜2.0kV/mmの電界が印加された圧電体2(圧電組成物)は、200pC/N以上の圧電定数d
33を有することができる。
【0033】
次に、本実施形態に係る圧電組成物及び圧電素子10の製造方法の一例を説明する。圧電組成物の製造では、まず原料粉末(原料粒子)を調製する。原料粒子のプレス成形により、成形体を形成する。成形体を焼成して焼結体を得る。続く焼結体に分極処理を施すことより、圧電体2を得る。圧電体2に対して電極を形成して圧電素子10を得る。以下、各工程について具体的に説明する。
【0034】
造粒工程では、まず、圧電組成物の出発原料を秤量する。出発原料は、例えば化学式1で表される圧電組成物を構成する各元素の酸化物、又は焼成後にこれらの酸化物になる化合物であってよい。出発原料である化合物とは、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、又は硝酸塩等であってよい。具体的な出発原料は、例えば、ビスマス化合物、鉄化合物、バリウム化合物、チタン化合物等であってよい。これらの出発原料それぞれの秤量により、出発原料におけるBi,Fe,Ba及びTiのモル比を、上記化学式1におけるBi,Fe,Ba及びTiのモル比に調整してよい。
【0035】
ビスマス化合物(Bi化合物)は、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、硝酸ビスマス(Bi(NO
3)
3)等であってよい。鉄化合物(Fe化合物)は、酸化鉄(Fe
2O
3)、塩化鉄(FeCl
3)、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3)等であってよい。バリウム化合物(Ba化合物)は、酸化バリウム(BaO)、炭酸バリウム(BaCO
3)、シュウ酸バリウム(C
2BaO
4)、酢酸バリウム((CH
3COO)
2Ba)、硝酸バリウム(BaSO
4)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)等であってよい。チタン化合物(Ti化合物)は、酸化チタン(TiO
2)等であってよい。
【0036】
造粒工程では、上述した出発原料を用いて、ビスマスの含有量が異なる二種類の原料粒子(第一原料粒子及び第二原料粒子)を調製する。Bi化合物、Fe化合物、Ba化合物及びTi化合物のいずれも、第一原料粒子及び第二原料粒子のうち少なくともいずれか一方に含まれる。そして、第一原料粒子におけるビスマスの含有量は、第二原料粒子におけるビスマスの含有量よりも小さい。つまり、第一原料粒子に含まれるビスマスのモル数又は質量は、第二原料粒子に含まれるビスマスのモル数又は質量よりも小さい。その結果、C
COREがC
SHELLよりも小さい結晶粒子4を含む圧電組成物を製造することが可能になる。出発原料の焼結及び粉砕を経て第一原料粒子及び第二原料粒子それぞれを調製する場合、焼結後の第一原料粒子におけるビスマスの含有量は、焼結後の第二原料粒子におけるビスマスの含有量よりも小さい。
【0037】
例えば、第一原料粒子は、少なくともBa化合物及びTi化合物から調製されてよい。上述のBa化合物及びTi化合物の混合物を仮焼きして第一焼結体を形成し、第一焼結体の粉砕により第一原料粒子を得てよい。第一原料粒子は、例えば、Ba化合物、Ti化合物、Bi化合物及びFe化合物から調製されてもよい。Ba化合物、Ti化合物、Bi化合物及びFe化合物の混合物を仮焼きして第一焼結体を形成し、第一焼結体の粉砕により第一原料粒子を得てもよい。第一原料粒子におけるBaのモル数とTiのモル数との比は、上記化学式1におけるBa
nTiO
3の場合と同様に、n:1であってよい。つまり、第一原料粒子におけるBaのモル数とTiのモル数との比が、ペロブスカイト型酸化物の組成に一致するように、Ba化合物及びTi化合物それぞれを秤量してよい。第一原料粒子におけるBiのモル数とFeのモル数との比は、上記化学式1におけるBi
mFeO
3と同様に、m:1であってよい。つまり、第一原料粒子におけるBiのモル数とFeのモル数との比がペロブスカイト型酸化物の組成に一致するように、Bi化合物及びFe化合物それぞれを秤量すればよい。第一原料粒子は、少なくともBa及びTiを含む複合酸化物(例えば、Ba
nTiO
3)であってよい。第一原料粒子は、少なくともBa、Ti、Bi及びFeを含む複合酸化物であってよい。第一原料粒子は、焼結後の圧電組成物において結晶粒子4のコア6になってよい。
【0038】
例えば、第二原料粒子は、少なくともBi化合物及びFe化合物から調製されてよい。上述のBi化合物及びFe化合物の混合物そのもの(出発原料の混合物)を、仮焼きすることなく、第二原料粒子として用いてもよい。上術のBi化合物及びFe化合物の混合物そのもの(出発原料の混合物)を、仮焼きすることなく、第二原料粒子として用いてよい。上述のBi化合物及びFe化合物の混合物を仮焼きして第二焼結体を形成し、第二焼結体の粉砕により第二原料粒子を得てもよい。第二原料粒子は、例えば、Ba化合物、Ti化合物、Bi化合物及びFe化合物から調製されてもよい。上述のBa化合物、Ti化合物、Bi化合物及びFe化合物の混合物そのもの(出発原料の混合物)を、仮焼きすることなく、第二原料粒子として用いてよい。Ba化合物、Ti化合物、Bi化合物及びFe化合物の混合物を仮焼きして第二焼結体を形成し、第二焼結体の粉砕により第二原料粒子を得てもよい。第二原料粒子におけるBiのモル数とFeのモル数との比は、上記化学式1におけるBi
mFeO
3と同様に、m:1であってよい。つまり、第二原料粒子におけるBiのモル数とFeのモル数との比がペロブスカイト型酸化物の組成に一致するように、Bi化合物及びFe化合物それぞれを秤量すればよい。第二原料粒子におけるBaのモル数とTiのモル数との比は、上記化学式1におけるBa
nTiO
3の場合と同様に、n:1であってよい。つまり、第二原料粒子におけるBaのモル数とTiのモル数との比が、ペロブスカイト型酸化物の組成に一致するように、Ba化合物及びTi化合物それぞれを秤量してよい。第二原料粒子は、少なくともBi及びFeを含む複合酸化物(例えば、Bi
mFeO
3)であってよい。第二原料粒子は、Ba、Ti、Bi及びFeを含む複合酸化物であってもよい。
【0039】
第二原料粒子におけるBiのモル数と、第一原料粒子におけるBaのモル数と、の比は、上記化学式1及び2の場合と同様に、x:yであってよい。第二原料粒子におけるFeのモル数と、第一原料粒子におけるTiのモル数と、の比も、上記化学式1及び2の場合と同様に、x:yであってよい。第一原料粒子全体におけるBiの含有量がC1質量%と表記され、第二原料粒子全体におけるBiの含有量がC2質量%と表記される場合、C1/C2が、圧電組成物におけるC
CORE/C
SHELLに影響する。C1/C2の減少に伴って、C
CORE/C
SHELLも減少する傾向がある。したがって、C1/C2の調整により、C
CORE/C
SHELLを0.10〜0.95の範囲に制御することができる。また、第一原料粒子及び第二原料粒子それぞれの出発原料の秤量においてビスマス化合物の量を調整することで、C1及びC2それぞれを制御することができる。
【0040】
例えば、第一原料粒子は、少なくともFe化合物及びTi化合物から調製されてよい。換言すれば、第一原料粒子は、結晶粒子4のペロブスカイト構造(一般式ABO
3で表される結晶構造)のBサイトを占める元素(Fe及びTi)を含んでよい。上述のFe化合物及びTi化合物の混合物を仮焼きして第一焼結体を形成し、第一焼結体の粉砕により第一原料粒子を得てよい。第一原料粒子は、少なくともFe及びTiを含む複合酸化物であってよい。一方、第二原料粒子は、例えば、少なくともBi化合物及びBa化合物から調製されてよい。換言すれば、第二原料粒子は、結晶粒子4のペロブスカイト構造(一般式ABO
3で表される結晶構造)のAサイトを占める元素(Bi及びBa)を含んでよい。上述のBi化合物及びBa化合物の混合物そのもの(出発原料の混合物)を、仮焼きせずに、第二原料粒子として用いてよい。上述のBi化合物及びBa化合物の混合物を仮焼きして第二焼結体を形成し、第二焼結体の粉砕により第二原料粒子を得てもよい。第二原料粒子は、少なくともBi及びBaを含む複合酸化物であってよい。
【0041】
上述の第一焼結体の粉砕により、第一原料粒子の一次粒子径の平均値を所望の値に調整してよい。第一原料粒子の一次粒子径は、圧電組成物に含まれる結晶粒子4の粒子径に影響する。そして、第一原料粒子の一次粒子径の平均値が大きいほど、コア6の断面の面積の合計S
COREが増加し易く、100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)も増加し易い。したがって、第一原料粒子の一次粒子径の平均値の調整により100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)を制御してよい。上述の第二焼結体の粉砕により、第二原料粒子の一次粒子径の平均値を所望の値に調整してもよい。第二原料粒子の一次粒子径の平均値が小さいほど、コア6の断面の面積の合計S
COREが増加し易く、100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)も増加し易い。第一原料粒子及び第二原料粒子それぞれの一次粒子径の平均値の調整により、圧電組成物に含まれる結晶粒子4の平均粒子径を制御してよい。第一原料粒子の一次粒子径が第二原料粒子の一次粒子径よりも大きいほど、コアシェル構造を有する結晶粒子4が形成され易く、S
COREが増加し易い。第一原料粒子の一次粒子径の平均値は、例えば、0.1〜20μmであってよい。第二原料粒子の一次粒子径の平均値は、例えば、0.01〜3μmであってよい。第一原料粒子及び第二原料粒子それぞれの一次粒子径の平均値を上記範囲内に調整することにより、100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)を50〜90に制御し易い。
【0042】
第一原料粒子と第二原料粒子を混合して、第三原料粒子を調製してよい。第三原料粒子全体に対する第一原料粒子の割合(例えば質量比m1)が、第三原料粒子全体に対する第二原料粒子の割合(例えば質量比m2)よりも大きいほど、n/Nが小さい傾向がある。つまり、m1/m2が大きいほど、圧電組成物に含まれる結晶粒子4(コアシェル構造を有する粒子)の数は少ない傾向がある。したがって、m1/m2の調整により、圧電組成物におけるn/Nを所望の範囲に制御することができる。コアシェル構造を有する仮焼粒子(第一原料粒子)と、コアシェル構造を有さない原料粒子(第二原料粒子)との混合比によって、圧電組成物におけるn/Nを所望の範囲に制御に制御してもよい。第一原料粒子の表面を第二原料粒子で覆うことにより、第三原料粒子を調整してよい。第一原料粒子の表面を第二原料粒子で覆うことにより、コアシェル構造を有する結晶粒子4が形成され易い。
【0043】
第三原料粒子の具体的な調製方法は、例えば、以下の通りであってよい。第一原料粒子と溶媒とを混合して、第一スラリーを調製する。ボールミル等を用いた第一スラリーの湿式混合により、第一スラリー中の第一原料粒子を粉砕して、第一原料粒子の一次粒子径の平均値を調整してよい。一方、第二原料粒子と溶媒とを混合して、第二スラリーを調製する。ボールミル等を用いた第二スラリーの湿式混合により、第二スラリー中の第二原料粒子を粉砕して、第二原料粒子の一次粒子径の平均値を調整してよい。各スラリーの調製に用いる溶媒は、例えば、水、エタノール等のアルコール、又は水とエタノールとの混合物であってよい。
【0044】
第一スラリーと第二スラリーとをボールミル等を用いて混合することにより、第三原料粒子を含む第三スラリーを調製する。第三スラリーをスプレードライヤーで噴霧して、乾燥された第三原料粒子を得る。続いて、第三原料粒子を仮焼きする。仮焼きの温度は、700〜1050℃であってよい。仮焼き時間は1〜3時間程度であってよい。仮焼きは、大気中で行ってもよく、酸化雰囲気中又は純酸素中で行ってもよい。仮焼き後、ボールミル等を用いて第三原料粒子の湿式粉砕を行う。粉砕された第三原料粒子を乾燥する。乾燥された第三原料粒子にバインダーを添加して、第三原料粒子のプレス成形により成形体を得る。バインダーは、ポリビニルアルコール、又はエチルセルロース等の有機バインダーであってよい。バインダーに分散剤を添加してもよい。続いて、成形体の焼成によって焼結体を形成する。成形体の焼成前に、成形体の脱バインダー処理(加熱によるバインダーの分解)を行ってもよい。成形体の脱バインダー処理と焼成とは、連続して行ってもよく、別々に行ってもよい。
【0045】
焼成温度は1050〜1250℃程度であってよい。焼成時間は1〜8時間程であってよい。成形体の焼成後、得られた焼結体の分極処理を行う。分極処理に先立って、焼結体を薄板状に切断し、焼結体の表面にラップ研磨を施す。焼結体の切断には、カッター、スライサー又はダイシングソー等の切断機を用いればよい。ラップ研磨後、焼結体の対向する一対の表面それぞれに、分極処理用の仮電極を形成する。仮電極を構成する導電材は、塩化第二鉄溶液によるエッチング処理によって容易に除去できるCuであればよい。仮電極の形成には、真空蒸着法又はスパッタリングを用いればよい。
【0046】
分極処理では、焼結体を挟む一対の仮電極間に分極電界を印加する。分極処理される焼結体の温度は150〜300℃であってよい。分極電界を印加する時間は1〜30分であってよい。分極電界は、焼結体の抗電界の0.9倍以上であってよい。
【0047】
分極処理後の焼結体からエッチング処理などにより仮電極を除去する。焼結体を所望の形状に加工して、圧電体2を形成する。一対の電極5a,5bを圧電体2の表面に形成して、圧電体2を電極5a,5bで挟み込む。電極5a,5bは、真空蒸着法、スパッタリング又はめっき法などによって形成することができる。以上の工程を経て、圧電素子10が完成する。
【0048】
本実施形態に係る圧電組成物を備える圧電素子10の用途は、多岐にわたる。圧電素子10は、例えば、発振子、共振子、アクチュエータ、モーター、又はセンサに適用されてよい。圧電素子の具体的な用途は、例えば、SAWフィルタ、BAWフィルタ、圧電マイク、ヘッドアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置、超音波洗浄機、超音波モーター、霧化器用振動子、魚群探知機、ショックセンサ、超音波診断装置、廃トナーセンサ、ジャイロセンサ、ブザー、トランス又はライターであってよい。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、圧電体2は、本発明に係る圧電組成物を含む薄膜であってもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
[焼結体の作製]
Baのモル数、Tiのモル数、Biのモル数及びTiのモル数が互い等しくなるように、BaCO
3の粉末、TiO
2の粉末、Bi
2O
3の粉末及びFe
2O
3の粉末それぞれを秤量した。つまり、Baのモル数とTiのモル数との比が、ペロブスカイト型の結晶構造を形成する組成(BaTiO
3)を満たすものとなるように、BaCO
3及びTiO
2それぞれを秤量した。またBiのモル数とFeのモル数との比が、ペロブスカイト型の結晶構造を形成する組成(BiFeO
3)を満たすものとなるように、Bi
2O
3及びFe
2O
3それぞれを秤量した。続いて、BaCO
3、TiO
2、Bi
2O
3、Fe
2O
3及び純水をボールミルで16時間混合することにより、スラリーを調製した。スラリーに含まれるBa、Ti、Bi及びFeのモル比も、1:1:1:1であった。スラリーを120℃で加熱して乾燥することにより、BaCO
3、TiO
2、Bi
2O
3及びFe
2O
3の混合粉末を得た。この混合粉末を、600〜850℃で2時間仮焼きして、仮焼粉末(第一原料粒子)を得た。第一原料粒子及び純水をボールミルで16時間混合して第一原料粒子を粉砕することにより、第一スラリーを得た。上記のボールミルにより、第一スラリー中の仮焼粉末(第一原料粒子)の一次粒子径の平均値を1.0μmに調整した。
【0053】
第二原料粒子として、BaCO
3の粉末、TiO
2の粉末、Bi
2O
3の粉末及びFe
2O
3の粉末の混合物を調製した。Baのモル数がTiのモル数と等しくなるように、BaCO
3の粉末及びTiO
2の粉末それぞれを秤量した。つまり、Baのモル数とTiのモル数との比が、ペロブスカイト型の結晶構造を形成する組成(BaTiO
3)を満たすものとなるように、BaCO
3及びTiO
2それぞれを秤量した。また、Biのモル数がFeのモル数と等しくなるように、Bi
2O
3の粉末及びFe
2O
3の粉末それぞれを秤量した。つまり、Biのモル数とFeのモル数との比が、ペロブスカイト型の結晶構造を形成する組成(BiFeO
3)を満たすものとなるように、Bi
2O
3及びFe
2O
3それぞれを秤量した。そして、第二原料粒子全体に含まれるBiの質量を、第一原料粒子全体に含まれるBiの質量よりも多い値に調整した。続いて、第二原料粒子及び純水をボールミルで16時間混合することにより、第二原料粒子を含む第二スラリーを調製した。上記のボールミルにより、第二スラリー中の第二原料粒子の一次粒子径の平均値を0.1μm以下に調整した。第二スラリー全体に含まれるBiの質量は、第一スラリー全体に含まれるBiの質量よりも大きかった。
【0054】
第一スラリーと第二スラリーとをボールミルを用いて混合することにより、第三スラリーを調製した。第三スラリーをスプレードライヤーで噴霧することにより、第一原料粒子と当該第一原料粒子を覆う第二原料粒子とから構成される第三原料粒子を得た。続いて、第三原料粒子を700℃で2時間仮焼きした。第三原料粒子の仮焼は大気中で行った。仮焼き後、ボールミルを用いて第三原料粒子の湿式粉砕を行った。湿式粉砕後、第三原料粒子を乾燥してバインダーと混合した。第三原料粒子及びバインダーの混合物から成形体を形成した。成形体を1000℃で焼成して焼結させた。成形体の焼成は大気中で実施した。成型体の焼成時間は4時間であった。以上の工程を経て、実施例1の圧電組成物から構成される焼結体を得た。
【0055】
後述の分析を目的として、第二スラリー及び第三スラリーを調製せず、第三スラリーの代わりに第一スラリーを用いたこと以外は、上記の同様の方法で、比較例2の焼結体を得た。
【0056】
[焼結体(圧電組成物)の分析]
比較例2の焼結体の断面を分析するために、比較例2の焼結体の断面にガリウムイオンビームを照射して、比較例2の薄片状の試料を作製した。比較例2の試料の断面の写真をSTEMで撮影した。STEMとしては、日本電子(JEOL)株式会社製のJEM−2100Fを用いた。比較例2の焼結体の断面は、
図4に示される。
図4に示されるように、比較例2の焼結体の断面では、コアシェル構造を有する結晶粒子が発見されなかった。
【0057】
比較例2の場合と同様の方法で、実施例1の試料(薄片状の焼結体)を作製した。そして、実施例1の焼結体の断面の写真をSTEMで撮影した。実施例1の焼結体の断面は、
図5中の(a)及び(b)に示される。
図5中の(b)に示される断面は、
図5中の(a)に示される断面と同じである。
図5中の(b)に示される複数の測定点1〜12(X印が付された各点)の組成を、STEM‐EDSによって分析した。STEM及びEDSに基づく分析の結果、実施例1の焼結体は、ビスマス、鉄、バリウム及びチタンを含む複合酸化物であることが確認された。実施例1の焼結体の断面にある複数の結晶粒子も、上記の複合酸化物であることが確認された。実施例1の焼結体の断面にある複数の結晶粒子は、コアと、コアを覆うシェルとから構成され、コアにおけるBiの含有量がシェルにおけるBiの含有量よりも小さいがことも確認された。
図5中の(b)に示される測定点1〜6は、2つの結晶粒子のうちいずれかのシェルに属し、2つの結晶粒子の粒界近傍(2つのシェルの界面近傍)に位置している。
図5中の(b)に示される測定点7,8は、結晶粒子のコアに属する。一方、
図5中の(b)に示される測定点10〜12は、別の結晶粒子のコアに属する。シェルに属する測定点1〜6それぞれにおける各元素の含有量は、下記表1に示される。また測定点1〜6それぞれにおける各元素の含有量の平均値は、下記表1に示される。コアに属する測定点7〜12それぞれにおける各元素の含有量は、下記表2に示される。また測定点7〜12それぞれにおける各元素の含有量の平均値は、下記表2に示される。下記表1及び表2に示される各元素の含有量の単位は、質量%である。下記表1及び表2に示されるように、結晶粒子のコアにおけるBiの含有量は、結晶粒子のシェルにおけるBiの含有量よりも小さかった。以下では、コアとコアを覆うシェルとから構成される結晶粒子を、「コアシェル粒子」と記す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1の焼結体の断面に属する複数箇所を、STEMで観察して、焼結体の断面に露出する100個のコアシェル粒子の断面を無作為に選出した。観察された各箇所の視野の広さは、5μm×5μmであった。そして、STEM‐EDSに基づく各コアシェル粒子の断面の元素マッピングにより、各コアシェル粒子の断面の画像を解析した。画像解析により、各コアシェル粒子のコアの断面(Biの含有量が小さい領域)の面積S1を測定した。面積S1は、コアシェル粒子の断面の画像においてコアが占めるピクセルの個数をカウントすることによって算出した。同様の方法により、各コアシェル粒子のシェルの断面(Biの含有量が大きい領域)の面積S2を測定した。100個のコアシェル粒子のS1の合計値を、実施例1のS
COREとみなした。100個のコアシェル粒子のS2の合計値を、実施例1のS
SHELLとみなした。実施例1の100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)は、下記表3に示される値であった。なお、下記表3及び4に記載の「S」とは、100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)を意味する。
【0061】
[圧電定数d
33の測定]
d
33メーターを用いて、実施例1の焼結体(圧電組成物)の圧電定数d
33(単位:pC/N)を測定した。d
33メーターは、JIS(Japanese Industrial Standards) R 1696に準拠したベルリンコート法により、d
33を測定するための装置である。ベルリンコート法では、圧電組成物に振動を与えたときの圧電正効果を利用してd
33を測定する。そのため、ベルリンコート法では、圧電組成物に電界を印加したときの圧電逆効果を利用する測定方法とは異なり、電歪の影響がなく、圧電組成物の本来のd
33が得られる。実施例1のd
33は、下記表3に示される値であった。d
33は200pC/N以上であることが好ましい。
【0062】
[キュリー温度Tcの測定]
実施例1の焼結体(圧電組成物)を両面ラップ盤で加工して、焼結体の厚みを0.4mmに調整した。続いて、焼結体をダイシングソーで切断して、焼結体の寸法を縦6mm×横6mmに調整した。一対の銀電極を、切断後の焼結体の両端面に形成した。各銀電極の寸法は縦5mm×横5mmであった。銀電極が形成された焼結体を電気炉中に設置した。電気炉中の焼結体の静電容量が昇温過程において最大値となるときの温度T1を測定した。昇温過程に続く降温過程において焼結体の静電容量が最大値となるときの温度T2も測定した。T1及びT2の測定には、LCRメーターを用いた。T1及びT2の平均値を、実施例1の焼結体(圧電組成物)のキュリー温度Tcとみなした。実施例1のTcは、下記表3に示される値であった。高温においても圧電組成物が所望の圧電性を保持するためには、Tcが250℃以上であることが好ましい。
【0063】
(実施例2〜9,比較例1〜8)
実施例2では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例1の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0064】
実施例3では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例2の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例3の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0065】
実施例4では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例3の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例4の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0066】
実施例5では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例4の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例5の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0067】
実施例6では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例5の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例6の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0068】
実施例7では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例6の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例7の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0069】
実施例8では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例7の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例8の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0070】
実施例9では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例8の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例9の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0071】
比較例1では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例9の場合によりも増加させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0072】
上述の通り、比較例2では、第二スラリー及び第三スラリーを調製せず、第三スラリーの代わりに、第一スラリーを用いた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例2の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0073】
比較例3では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を実施例1の場合によりも減少させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例3の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0074】
比較例4では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を比較例3の場合によりも減少させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例4の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0075】
比較例5では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を比較例4の場合によりも減少させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例5の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0076】
比較例6では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を比較例5の場合によりも減少させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例6の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0077】
比較例7では、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の一次粒子径の平均値を比較例6の場合によりも減少させた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例7の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0078】
比較例8では、第一スラリー及び第三スラリーを調製せず、第三スラリーの代わりに、第二スラリーを用いた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例8の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0079】
実施例2〜9及び比較例1〜8それぞれの焼結体を、実施例1と同様の方法で分析した。実施例2〜9及び比較例1,3〜7の焼結体のいずれも、実施例1と同様に、ビスマス、鉄、バリウム及びチタンを含む複合酸化物であることが確認された。また実施例2〜9及び比較例1,3〜7の焼結体のいずれも、実施例1と同様に、複数のコアシェル粒子を含有することが確認された。一方、比較例2及び8の焼結体の断面ではコアシェル粒子の存在を確認することができなかった。実施例2〜9及び比較例1,3〜7それぞれの100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)は、下記表3に示される値であった。比較例2、8のいずれの場合も、焼結体に含まれる結晶粒子全体に亘ってBiが略均一に分散しており、結晶粒子の内部と粒界近傍との間でBiの含有量の差がなかった。
【0080】
実施例2〜9及び比較例1〜8それぞれの焼結体のd
33を、実施例1と同様の方法で測定した。実施例2〜9及び比較例1〜8それぞれの焼結体のd
33は、下記表3に示される値であった。実施例2〜9及び比較例1〜8それぞれの焼結体のTcを、実施例1と同様の方法で測定した。実施例2〜9及び比較例1〜8それぞれの焼結体のTcは、下記表3に示される値であった。実施例1〜9のいずれにおいても、d
33が200pC/N以上であり、且つTcが250℃以上であった。一方、d
33が200pC/N以上であり、且つTcが250℃以上である比較例はなかった。
【0081】
(実施例10〜18)
第二スラリーに含まれる第二原料粒子の質量がM2と表され、第一スラリーに含まれる第一原料粒子の質量がM1と表されるとき、実施例10では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例10の焼結体(圧電組成物)を作製した。実施例10〜18の第一原料粒子及びその一次粒子径は、実施例4の第一原料粒子及びその一次粒子径と同じであった。実施例10〜18の第二原料粒子及びその一次粒子径は、実施例4の第二原料粒子及びその一次粒子径と同じであった。
【0082】
実施例11では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例11の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0083】
実施例12では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例12の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0084】
実施例13では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例13の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0085】
実施例14では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例14の焼結体(圧電組成物)及び圧電素子を作製した。
【0086】
実施例15では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例15の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0087】
実施例16では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例16の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0088】
実施例17では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例17の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0089】
実施例18では、M1/M2を実施例4の場合よりも小さい値に調整した。この事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例18の焼結体(圧電組成物)を作製した。
【0090】
実施例10〜18それぞれの焼結体を、実施例1と同様の方法で分析した。実施例10〜18の焼結体のいずれも、実施例1と同様に、ビスマス、鉄、バリウム及びチタンを含む複合酸化物であることが確認された。また実施例10〜18の焼結体のいずれも、実施例1と同様に、複数のコアシェル粒子を含有することが確認された。実施例10〜18それぞれの100・S
CORE/(S
CORE+S
SHELL)は、下記表4に示される値であった。
【0091】
実施例1の場合と同様に、実施例10の焼結体の断面に属する5箇所をSTEM及びSTEM‐EDSによって分析した。そして、各視野内に存在する全ての粒子の数を数えて、全ての視野内に存在する全ての粒子の数の合計値Nを算出した。「全ての粒子」とは、コアシェル粒子を含み、コアシェル構造を有さない結晶粒子も含む。また、各視野内に存在するコアシェル粒子の数を数えて、全ての視野内に存在するコアシェル粒子の数の合計値nを算出した。分析された各箇所の視野の広さは、5μm×5μmであった。n及びNから、実施例10のn/Nを算出した。実施例10のn/Nは、下記表4に示される値であった。実施例10の場合と同様の方法で、実施例10〜18それぞれのn/Nを算出した。実施例10〜18それぞれのn/Nは、下記表4に示される値であった。
【0092】
実施例10〜18それぞれの焼結体のd
33を、実施例1と同様の方法で測定した。実施例10〜18それぞれの焼結体のd
33は、下記表4に示される値であった。実施例10〜18それぞれの焼結体のTcを、実施例1と同様の方法で測定した。実施例10〜18それぞれの焼結体のTcは、下記表4に示される値であった。実施例10〜18のいずれにおいても、d
33が200pC/N以上であり、且つTcが250℃以上であった。
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】