【実施例】
【0058】
<合成例1:セレン化インジウム−フェリチン複合体の合成>
内腔を有するタンパク質としてフェリチンを用い、以下の方法により、セレン化インジウム−フェリチン複合体(セレン化インジウムを内包したフェリチン)を作製した。
終濃度が、硫酸インジウム1mM、セレノ尿素0.5mM、アポフェリチン(金属化合物粒子を内包していないフェリチン)0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア50mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.5となるように調製した反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルにつき、無染色のサンプルと、2.0%金チオグルコース液により負染色したサンプルを、それぞれ、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)により解析したところ、粒子径が均一なナノ粒子を複数個、確認した(
図1及び
図2を参照)。さらに、得られたナノ粒子の組成を、電子顕微鏡(JEOL日本電子(株)製「JEM−3100FEF」)を用いた電子エネルギー損失分光法(EELS)と、エネルギー分散型X線分析(EDS)とにより分析した結果、いずれの分析方法によってもインジウムとセレンが検出され、セレン化インジウムを内包したフェリチンのナノ粒子(セレン化インジウム−フェリチン複合体のナノ粒子)が得られていることが確認された(
図3及び
図4を参照)。
【0059】
<合成例2:セレン化インジウム−フェリチン複合体の合成条件の検討>
セレン化インジウム−フェリチン複合体の合成条件(反応液のpH、反応液に含まれるアンモニアの濃度及び反応温度)の検討を行った。
【0060】
(反応液のpHの検討)
セレン化インジウム−フェリチン複合体の合成条件を最適化するために、種々のpHの反応液を作製し検討した。具体的には、終濃度が、硫酸インジウム1mM、セレノ尿素0.5mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア34mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpHが3.4から6.2となるように調製した反応液を、それぞれ25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)を使用した解析するとともに、EELS及びEDSによる元素分析を行い、観察された全フェリチンのうち、セレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合を計測しグラフに示した(
図5を参照)。
図5に示すグラフにおいて、横軸は反応液のpHを示し、縦軸は、全フェリチン中のセレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合(以下、「セレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合」ともいう)を示している。グラフの縦軸における、Nはセレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合が0であることを示し、Lはセレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合が0.4未満であることを示し、Mはセレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合が0.4以上0.8未満であることを示し、Hはセレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合が0.8以上であることを示す。
【0061】
図5に示すように、反応液のpHを3.7から5.1としたものにおいて、セレン化インジウム−フェリチン複合体のナノ粒子の形成が確認された。特に、反応液のpHを4.3から4.7としたものでは、セレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合が0.4以上、すなわち、全フェリチンのうち、40%以上のフェリチンの内腔にセレン化インジウム粒子が生成されるので、セレン化インジウム−フェリチン複合体のナノ粒子の形成において好ましいということがわかった。
【0062】
(アンモニア濃度の検討)
種々のアンモニア濃度の反応液を作製し検討した。具体的には、終濃度が、硫酸インジウム1mM、セレノ尿素0.5mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mMであるとともに、アンモニアを終濃度が10mM〜160mMとなるように加え、1MのHCl水溶液によりpH4.4に調製した反応液をそれぞれ25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)を使用した解析するとともに、EELS及びEDSによる元素分析を行い、観察された全フェリチン中のセレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合を計測しグラフに示した(
図6を参照)。ここで、
図6のグラフの横軸は、反応液中の総アンモニア濃度(緩衝剤として添加している酢酸アンモニウムと、アンモニアとの合計の濃度)を示し、縦軸はセレン化インジウムを内包しているフェリチンの割合を示している。
図6に示すグラフの縦軸における、N、L、M、Hは、
図5のグラフの縦軸におけるN、L、M、Hと同様である。
【0063】
図6に示すように、総アンモニア濃度が50mM〜200mMの反応液において、セレン化インジウム−フェリチン複合体のナノ粒子の形成が確認された。特に、総アンモニア濃度が60mMから100mMのものでは、全フェリチンのうち、40%以上のフェリチンの内腔にセレン化インジウムが生成されるので、セレン化インジウム−フェリチン複合体のナノ粒子の形成において好ましいことがわかった。
【0064】
(反応温度の検討)
反応液の温度条件を変えて反応温度の検討を行った。具体的には、終濃度が、硫酸インジウム1mM、セレノ尿素0.5mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mMであるとともに、アンモニアを終濃度が34mMとなるように加え、1MのHCl水溶液によりpH4.4に調製した反応液を4℃〜60℃の温度条件でそれぞれ20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)を使用した解析するとともに、EELS及びEDSによる元素分析を行い、観察された全フェリチン中の、インジウム化合物を内包しているフェリチンの割合を計測しグラフに示した(
図7を参照)。ここで、
図7に示すグラフにおいて、横軸は反応温度を示し、縦軸は全フェリチン中のインジウム化合物を内包しているフェリチンの割合を示している。グラフの縦軸における、Nはインジウム化合物を内包しているフェリチンの割合が0であることを示し、Lはインジウム化合物を内包しているフェリチンの割合が0.4未満であることを示し、Mはインジウム化合物を内包しているフェリチンの割合が0.4以上0.8未満であることを示し、Hはインジウム化合物を内包しているフェリチンの割合が0.8以上であることを示す。
【0065】
図7に示すように、反応温度4℃〜60℃で、金属化合物を内包したフェリチンのナノ粒子の形成が確認されたが、元素分析により、反応温度を40℃以上としたものでは、フェリチンに内包されている粒子は酸化インジウムであることが確認された。なお、反応温度が35℃以下のものでは、フェリチンに内包されている粒子がセレン化インジウムであることが確認された。この結果より、セレン化インジウム−フェリチン複合体のナノ粒子の形成においては反応温度を40℃よりも低くすることが好ましいということがわかった。
なお、
図7のグラフにおいては、フェリチンの内腔に形成されているインジウム化合物がセレン化インジウムであると確認されたもの(つまり、セレン化インジウム−フェリチン複合体のナノ粒子が形成されているもの)については、グラフを黒く塗りつぶし、フェリチンの内腔に形成されているインジウム化合物が酸化インジウムであると確認されたもの(つまり、酸化インジウムを内包したフェリチンのナノ粒子が形成されているもの)についてはグラフに斜線を施した。
【0066】
<合成例3:セレン化銅−フェリチン複合体の合成>
内腔を有するタンパク質としてフェリチンを用い、以下の方法により、セレン化銅−フェリチン複合体(セレン化銅を内包したフェリチン)を作製した。
終濃度が、酢酸銅1mM、セレノ尿素1mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア50mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.7となるように調製した反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルにつき、無染色のサンプルと、2.0%金チオグルコース液により負染色したサンプルを、それぞれ、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)により解析したところ、粒子径が均一なナノ粒子を複数個、確認した(
図8及び
図9を参照)。さらに、得られたナノ粒子の組成を、電子顕微鏡(JEOL日本電子(株)製「JEM−3100FEF」)を用いた電子エネルギー損失分光法(EELS)と、エネルギー分散型X線分析(EDS)とにより分析した結果、いずれの分析方法によっても銅とセレンが検出され、セレン化銅−フェリチン複合体のナノ粒子が得られていることが確認された(
図10及び
図11を参照)。
【0067】
<合成例4:セレン化銅−フェリチン複合体の合成条件の検討>
セレン化銅−フェリチン複合体の合成条件(反応液のpH、反応液に含まれるアンモニアの濃度及び反応温度)の検討を行った。
【0068】
(反応液のpHの検討)
セレン化銅−タンパク質複合体の合成条件を最適化するために、種々のpHの反応液を作製し検討した。具体的には、終濃度が、酢酸銅1mM、セレノ尿素1mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア50mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpHが3.5から6.8となるように調製した反応液を、それぞれ25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)を使用した解析するとともに、EELS及びEDSによる元素分析を行い、観察された全フェリチン中の、セレン化銅を内包しているフェリチンの割合を計測しグラフに示した(
図12を参照)。
図12に示すグラフにおいて、横軸は反応液のpHを示し、縦軸は全フェリチン中のセレン化銅を内包しているフェリチンの割合(以下、「セレン化銅を内包しているフェリチンの割合」ともいう)を示している。具体的には、グラフの縦軸における、Nはセレン化銅を内包しているフェリチンの割合が0であることを示し、Lはセレン化銅を内包しているフェリチンの割合が0.4未満であることを示し、Mはセレン化銅を内包しているフェリチンの割合が0.4以上0.8未満であることを示し、Hはセレン化銅を内包しているフェリチンの割合が0.8以上であることを示す。
【0069】
図12に示すように、反応液のpHを3.5から6.8としたものにおいて、セレン化銅−フェリチン複合体のナノ粒子の形成が確認された。特に、反応液のpHを4.4から5.1としたものでは、セレン化銅を内包しているフェリチンの割合が0.4以上、すなわち、全フェリチンのうち、40%以上のフェリチンの内腔にセレン化銅粒子が生成されるので、セレン化銅−フェリチン複合体のナノ粒子の形成において好ましいということがわかった。
【0070】
(アンモニア濃度の検討)
種々のアンモニア濃度の反応液を作製し検討した。具体的には、終濃度が、酢酸銅1mM、セレノ尿素1mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mMであるとともに、アンモニアを終濃度が0mM〜50mMとなるように加え、1MのHCl水溶液によりpH4.4に調製した反応液をそれぞれ25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)を使用した解析するとともに、EELS及びEDSによる元素分析を行い、観察された全フェリチン中のセレン化銅を内包しているフェリチンの割合を計測し、グラフに示した(
図13を参照)。ここで、
図13に示すグラフにおいて、横軸は反応液中の総アンモニアの濃度(緩衝剤として添加している酢酸アンモニウムと、アンモニアとの合計)を示し、縦軸は全フェリチン中のセレン化銅を内包しているフェリチンの割合を示している。グラフの縦軸における、N、L、M、Hは
図12のグラフの縦軸におけるN、L、M、Hと同様である。
【0071】
図13に示すように、すべての反応液においてセレン化銅−フェリチン複合体のナノ粒子の形成が確認された。特に、総アンモニア濃度が40mMから90mMのものでは、全フェリチンのうち、40%以上のフェリチンの内腔にセレン化銅粒子が生成されるので、セレン化銅−フェリチン複合体のナノ粒子の形成において好ましいことがわかった。
【0072】
(反応温度の検討)
反応液の温度条件を変えて反応温度の検討を行った。具体的には、終濃度が、酢酸銅1mM、セレノ尿素1mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mMであるとともに、アンモニアを終濃度が34mMとなるように加え、1MのHCl水溶液によりpH4.7に調製した反応液を4℃〜60℃の温度条件でそれぞれ20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)を使用した解析するとともに、EELS及びEDSによる元素分析を行い、観察された全フェリチン中のセレン化銅を内包しているフェリチンの割合を計測しグラフに示した(
図14を参照)。ここで、
図14に示すグラフにおいて、横軸は反応温度を示し、縦軸は全フェリチン中のセレン化銅を内包しているフェリチンの割合を示している。グラフの縦軸における、N、L、M、Hは
図12のグラフの縦軸におけるN、L、M、Hと同様である。
【0073】
図14に示すように、反応温度4℃〜40℃で、セレン化銅−フェリチン複合体のナノ粒子の形成が確認された。特に、反応温度が25℃と40℃のものでは、全フェリチンのうち、40%以上のフェリチンの内腔にセレン化銅粒子が生成されるので、セレン化銅−フェリチン複合体のナノ粒子の形成において好ましいことがわかった。
【0074】
(実施例1−1:銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包するタンパク質複合体ナノ粒子の作製)
インジウム化合物を内包したフェリチンを前駆体として、銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンのナノ粒子を作製した。
【0075】
終濃度が、硫酸インジウム1mM、セレノ尿素2mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア34mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.4となるように調製した反応液を、40℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで、粒径が均一なフェリチンに内包されたインジウム化合物(インジウム化合物を内包したフェリチン)を含む水溶液を得た。
【0076】
インジウム化合物を内包したフェリチンを含む水溶液をアミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、インジウム化合物を内包したフェリチンが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後のインジウム化合物を内包したフェリチンを含む溶液に、終濃度が、酢酸銅3mM、セレノ尿素1mM、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア20mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.5となるように各成分を添加してなる反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収しサンプルを得た。
【0077】
得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)により解析したところ、9割以上のフェリチンの内腔にナノ粒子が形成されていることを確認することができた(
図15を参照)。さらに、フェリチンに内包されたナノ粒子の組成を、電子顕微鏡(JEOL日本電子(株)製「JEM−3100FEF」)を用いた電子エネルギー損失分光法(EELS)と、エネルギー分散型X線分析(EDS)とにより分析した結果、銅、インジウム、セレンを同時に含む粒子であることが確認された(
図16および
図17を参照)。またEELS分析により、フェリチンに内包されたナノ粒子は酸素を含有しない粒子であることが確認された(
図16を参照)。この結果より、インジウム化合物を内包したフェリチンに、銅イオンとセレンイオンを添加することで、銅とインジウムとセレンとを含むナノ粒子を内包したフェリチンのナノ粒子が生成したことを確認することができた。
【0078】
(実施例1−2〜1−5:銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包するタンパク質の複合体ナノ粒子の作製)
インジウム化合物を内包したフェリチンを含む溶液に添加する酢酸銅、セレノ尿素、酢酸アンモニウム及びアンモニアの量を表1に記載の量とし、表1に記載の成分を含む反応液のpHを4.6とすること以外は、実施例1−1と同様にした場合にも、銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンを得ることができた(実施例1−2〜1−5)。表1には実施例1−1のインジウム化合物を内包したフェリチンを含む溶液に添加する酢酸銅、セレノ尿素、酢酸アンモニウム及びアンモニアの量及びこれらを含む反応液のpHも併せて示した。
【0079】
【表1】
【0080】
(実施例2−1:銅−インジウム−セレン内包タンパク質複合体の合成)
銅化合物を内包したフェリチンを前駆体として、銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンのナノ粒子を作製した。
【0081】
終濃度が、酢酸銅1mM、セレノ尿素1mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア20mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.5となるように調製した反応液を、25℃で一晩放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで、粒径が均一なフェリチンに内包された銅化合物(銅化合物を内包したフェリチン)を含む水溶液を得た。
【0082】
銅化合物を内包したフェリチンを含む水溶液をアミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、銅化合物を内包したフェリチンが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後の銅化合物を内包したフェリチンを含む溶液に、終濃度が、硫酸インジウム1mM、セレノ尿素1mM、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア34mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.4となるように各成分を添加した反応液を、25℃で一晩放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収しサンプルを得た。サンプルを実施例1−1と同様に分析した結果、銅とインジウムとセレンとを含むナノ粒子を内包したフェリチンのナノ粒子が生成したことを確認することができた(
図18〜
図20を参照)。
【0083】
(実施例2−2〜2−4:銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包するタンパク質の複合体ナノ粒子の作製)
銅化合物を内包したフェリチンを含む溶液に添加する硫酸インジウム、セレノ尿素、酢酸アンモニウム及びアンモニアの量を表2に記載の量とすること以外は、実施例2−1と同様にした場合にも、銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンを得ることができた(実施例2−2〜2−4)。表2には実施例2−1の銅化合物を内包したフェリチンを含む溶液に添加する硫酸インジウム、セレノ尿素、酢酸アンモニウム及びアンモニアの量及びこれらを含む反応液のpHも併せて示した。
【0084】
【表2】
【0085】
(実施例3:銅−インジウム−セレン内包タンパク質複合体の物性分析)
(1)銅インジウムセレン内包タンパク質複合体の作製
終濃度が、酢酸銅1mM、セレノ尿素1mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア20mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.6となるように調製した反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで、粒径が均一なフェリチンに内包された銅化合物(銅化合物を内包したフェリチン)を含む水溶液を得た。
【0086】
銅化合物を内包したフェリチンを含む水溶液をアミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、銅化合物を内包したフェリチンが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後の銅化合物を内包したフェリチンを含む溶液に、終濃度が、硫酸インジウム1mM、セレノ尿素1mM、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア34mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.4となるように各成分を添加してなる反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収し、銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンが懸濁された溶媒を得た。
(2)XRD分析
アミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後の銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンを含む水溶液を室温で放置することで乾燥させ、X線回折装置((株)リガク製「RINT−TTR 3/NM」)を用いてX線回折(XRD)による結晶性の分析を行った。XRD測定は、光源としてCuKα線(Kα1とKα2とが2:1で混ざったもの)を用い、ステップ幅0.02度の条件で行った。その結果、αカルコパイライト型CuInSe
2結晶に特有の回折光を検出することができ、フェリチン内部に形成された粒子はαカルコパイライト型のCuInSe
2であること、つまり、CuInSe
2を内包したフェリチンが生成されていることが確認された(
図21を参照)。
【0087】
(3)分光スペクトルの測定
銅化合物を内包したフェリチンを前駆体として作製したCuInSe
2を内包したフェリチン((1)で作製したもの。以下サンプル1)及びインジウム化合物を内包したフェリチンを前駆体として作製したCuInSe
2を内包したフェリチン(実施例1−1。以下サンプル2)の分光スペクトルを、分光光度計(米国ベックマンコールター(株)製「DU−800」)を用いて測定した。その結果、サンプル1では900nm〜1000nmから光吸収をしており、そのバンドギャップエネルギーは1.2〜1.4eVと推測された(
図22を参照)。一方、サンプル2ではより短い波長である600nm付近まで光吸収している様子が観察され、そのバンドギャップエネルギーは2.0eV前後であると推測された。これらはバルクであるCuInSe
2のバンドエネルギー(1.04eV)より大きかった。CuInSe
2の粒子径を4nmから5nm程度にナノ粒子化した場合、量子サイズ効果によりバンドギャップエネルギーは1.2〜1.4eVに増加することが期待できる。このことから、銅化合物を前駆体としてフェリチン内部に形成されたCuInSe
2の結晶粒のサイズは4nmから5nm程度である可能性が高いと考えられる。一方、CuInSe
2の粒子径を2nmから3nm程度にナノ粒子化した場合、量子サイズ効果によりバンドギャップエネルギーは1.6〜2.2eVに増加することが期待でき、インジウム化合物を前駆体としてフェリチン内部に形成されたCuInSe
2の結晶粒のサイズは2nmから3nm程度である可能性が高いと考えられる。
【0088】
(4)蛍光スペクトルの測定
インジウム化合物を内包したフェリチンを前駆体として作製したCuInSe
2を内包したフェリチン(実施例1−1)とナノ粒子を内包していないフェリチン(アポフェリチン)の蛍光スペクトルを、蛍光分光光度計計((株)堀場製作所製「Nanolog−NR」)を用いて測定した。その結果、550nmの光で励起されたCuInSe
2を内包したフェリチンでは680nmをピークとした蛍光を発しており、そのバンドギャップエネルギーは1.8eVと推測された(
図23を参照)。これはバルクであるCuInSe
2のバンドエネルギー(1.04eV)より大きかった。CuInSe
2の粒子径を2.4nmから2.5nm程度にナノ粒子化した場合、量子サイズ効果によりバンドギャップエネルギーは1.8eV前後に増加することが期待できる。このことから、フェリチン内部に形成されたCuInSe
2の微結晶のサイズは2.4nmから2.5nm程度である可能性が高いと考えられる。なお、
図24はアポフェリチンの蛍光スペクトルである。
【0089】
(5)粒度分布の測定
(1)で作製した銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンが懸濁された溶媒を用いて、CuInSe
2を内包したフェリチンの粒度分布を測定した。10mMトリス緩衝液(pH8.0)中に、フェリチンタンパク質の濃度が1mg/mlとなるように懸濁した溶液サンプルについて、英国マルバーン製のゼータサイザーナノZSを用いて粒度分布を測定した。その結果、粒子径(直径)15nmを頂点としたピークの単一ピークが観察された(
図25を参照)。すなわち、本発明のCuInSe
2を内包したフェリチンは、フェリチン由来の粒径均一性と溶液分散性を維持しており、優れた機能を有するナノ粒子であることが確認された。
【0090】
(1)で作製した銅−インジウム−セレンを含む化合物を内包したフェリチンが懸濁された溶媒を用いて、CuInSe
2を内包したフェリチンの粒度分布を測定した。10mMトリス緩衝液(pH8.0)中に、フェリチンタンパク質の濃度が0.3mg/mlとなるように懸濁した溶液サンプルを無染色で透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)により解析し、画像処理ソフト(米国NIH製「Image−J」)を用いて粒径を測定した。粒径の計測はTEM画像中の646個の粒子について、以下のように行った。まずImage−J中でTEM像を8bitグレースケールに変更し、TEM画像中の20nmの長さバーと同じ長さに線を引き、その長さを画像中の単位長さとした。次にTEM画像の明るさとコントラストを調整し、画像を二値化した。その後、粒子が見えにくい部分を四角く囲み削除し、楕円近似にて画像中の粒子の長軸と短軸の長さを計測し、長軸と短軸の平均値を粒子の直径としてヒストグラム化した。その結果、フェリチンに内包されたCuInSe
2の粒径は6.0±0.9nmであることが分かった(
図26を参照)。
【0091】
(実施例4:銅−インジウム−セレン内包タンパク質複合体の作製)
終濃度が、硫酸インジウム1mM、酢酸銅1mM、セレノ尿素2mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア34mM、pH4.4(1M HCl水溶液にて調製)となる反応液を25℃で17時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで、サンプルを得た。
【0092】
得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)により解析したところ、9割以上のフェリチンの内腔にナノ粒子が形成されていることを確認することができた(
図27を参照)。さらに、フェリチンに内包されたナノ粒子の組成を、電子顕微鏡(JEOL日本電子(株)製「JEM−3100FEF」)を用いた電子エネルギー損失分光法(EELS)と、エネルギー分散型X線分析(EDS)とにより分析した結果、少なくともナノ粒子の一部は、銅、インジウム、セレンを同時に含む粒子であることが確認された(
図28および
図29を参照)。この結果より、フェリチンに、インジウムイオン、銅イオン及びセレンイオンを添加することで、銅とインジウムとセレンとを含むナノ粒子を内包したフェリチンのナノ粒子が生成したことを確認することができた。
【0093】
(実施例5:硫化銅インジウムを内包するDpsタンパク質複合体の作製)
(1)硫化インジウム内包タンパク質複合体の作製
終濃度が、硫酸インジウム1mM、チオ酢酸2mM、Dps0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア110mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH3.8となるように調製した反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで、粒径が均一なDpsに内包された硫化インジウム(硫化インジウムを内包したDps)を含む水溶液を得た。
【0094】
上記反応液を遠心分離して上清を回収することで得られたサンプルにつき、2.0%金チオグルコース液により負染色し、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)により解析した結果、粒子径が均一なナノ粒子を複数個、確認した(
図30を参照)。さらに、得られたナノ粒子の組成を、電子顕微鏡(JEOL日本電子(株)製「JEM−3100FEF」)を用いたエネルギー分散型X線分析(EDS)により分析した結果、インジウムと硫黄が検出され、硫化インジウムを内包したDpsのナノ粒子(硫化インジウム−Dps複合体のナノ粒子)が得られていることが確認された(
図31を参照)。
【0095】
上記反応液に代えて、終濃度が、硫酸インジウム0.5〜1.5mM、チオ酢酸0.5〜2.0mM、Dps0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア0〜110mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH3.5〜4.5となるように調製した反応液を用いたものについても、同様に、硫化インジウムを内包したDpsのナノ粒子が得られることを確認した。
【0096】
(2)硫化銅インジウム内包タンパク質複合体の作製
(1)で作製した硫化インジウムを内包したDpsを含む水溶液をアミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、硫化インジウムを内包したDpsが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後の硫化インジウムを内包したDpsを含む溶液に、終濃度が、酢酸銅1mM、チオ酢酸0.5mM、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア30mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.1となるように各成分を添加してなる反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで、硫化銅インジウムを内包したDpsのナノ粒子(硫化銅インジウム−Dps複合体のナノ粒子)が得られた。
【0097】
なお、上記反応液に代えて終濃度が、酢酸銅0.1〜10mM、チオ酢酸0.5〜1.0mM、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア0〜50mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.0〜5.0となるように各成分を添加してなる反応液を用いた場合も同様に、硫化銅インジウムを内包したDpsのナノ粒子(硫化銅インジウム−Dps複合体のナノ粒子)が得られた。
【0098】
(実施例6:硫化銅インジウムを内包するDpsタンパク質複合体の作製)
(1)硫化インジウム内包タンパク質複合体の作製
終濃度が、硫酸インジウム1mM、チオ酢酸2mM、Dps0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア110mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH3.8となるように調製した反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで、粒径が均一なDpsに内包された硫化インジウム(硫化インジウムを内包したDps)を含む水溶液を得た。
【0099】
(2)硫化銅インジウム内包タンパク質複合体の作製
(1)で作製した硫化インジウムを内包したDpsを含む水溶液をアミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、硫化インジウムを内包したDpsが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後の硫化インジウムを内包したDpsを含む溶液に、終濃度が、酢酸銅1mM、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア30mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.1となるように各成分を添加してなる反応液を、25℃で10分間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで、硫化銅インジウムを内包したDpsのナノ粒子(硫化銅インジウム−Dps複合体のナノ粒子A)が得られた。
【0100】
なお、上記反応液に代えて終濃度が、酢酸銅0.1〜10mM、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア0〜50mMであるとともに、特にpHが調整されていない反応液を用いた場合も同様に、硫化銅インジウムを内包したDpsのナノ粒子(硫化銅インジウム−Dps複合体のナノ粒子)が得られた。当該反応液にさらにチオ酢酸を0.5〜1.0mM追加した場合でも、硫化銅インジウムを内包したDpsのナノ粒子(硫化銅インジウム−Dps複合体のナノ粒子)が得られたが、チオ酢酸を用いなかった場合よりも収率が低かった。
【0101】
(3)硫化銅インジウムを内包するDpsタンパク質複合体のXRD分析
(2)で作製した硫化銅インジウム−Dps複合体のナノ粒子Aを、アミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、硫化銅インジウムを含む化合物を内包したDpsが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後の硫化銅インジウムを含む化合物を内包したDpsを含む水溶液0.1mlを室温で24時間から72時間放置することで乾燥させた。乾燥後の硫化銅インジウム−内包Dps複合体を、さらに、窒素中で30分間、400℃で加熱して得られたサンプルを、X線回折装置((株)リガク製「RINT−TTR 3/NM」)を用いて、X線回折(XRD)による結晶性の分析を行った。XRD測定は、光源としてCuKα線(Kα1とKα2とが2:1で混ざったもの)を用い、ステップ幅0.02度の条件で行った。得られた結果を
図32に示した。
図32には、400℃で加熱して得られたサンプルの分析結果とCuInS
2の標品の分析結果を並べて示した。
分析の結果、400℃で加熱されたサンプルではαカルコパイライト型CuInS
2結晶に特有の回折光を明確に検出することができ、Dps内部に形成された粒子は銅−インジウム−硫黄からなり、加熱によりαカルコパイライト型のCuInS
2に変換できることが確認された(
図32を参照)。
【0102】
(4)硫化銅インジウム内包タンパク質複合体のXPSによる組成分析
(2)で作製した硫化銅インジウム−Dps複合体のナノ粒子Aを含む水溶液をアミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、硫化銅インジウムを内包したDps複合体が懸濁された溶媒を水に置換し、サンプル溶液を得た。115℃で1時間のUVオゾン処理により、基板表面に親水性のSiO
2膜を形成させた厚さ300μm、1cm角のp型低抵抗シリコン基板に、サンプル溶液を滴下し自然乾燥させた。サンプル溶液の滴下量が、硫化銅インジウム−Dps複合体のナノ粒子の外殻のDps量として50μg分となるように基板に滴下した。乾燥後、基板表面の構成元素をPHI 5000 VersaProbe II(アルバック・ファイ(株)製)を使ったX線光電子分光(XPS)で分析し、結果を
図33及び
図34に示した。
【0103】
その結果、タンパク質由来の炭素(
図33のC1s)および窒素(
図33のN1s)由来のシグナルを各々検出することができた。また、硫化銅インジウム由来のCu(
図34のCu2p
3/2)とIn(
図34のIn3d
5/2とIn3d
3/2)、S(
図34のS2p
3/2とS2p
1/2)由来のシグナルを各々検出することができた。この結果より、本条件で得られたDps内部には、銅とインジウム、硫黄の各元素が含有されており、銅とインジウムと硫黄とを含むナノ粒子を内包したDpsのナノ粒子が得られたことを確認することができた。
【0104】
(実施例7:硫化銅インジウムを内包するフェリチンタンパク質複合体の作製)
(1)硫化インジウム内包タンパク質複合体の作製
内腔を有するタンパク質としてフェリチンを用い、以下の方法により、硫化インジウム−フェリチン複合体(硫化インジウムを内包したフェリチン)を作製した。
終濃度が、硫酸インジウム1mM、チオ酢酸2mM、アポフェリチン0.3g/L、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア110mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.3となるように調製した反応液を、25℃で20時間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収することで得られたサンプルAを、2.0%金チオグルコース液により負染色して得られたサンプルを透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)により解析したところ、粒子径が均一な硫化インジウムナノ粒子を内包したフェリチンを複数個、確認した(
図35を参照。代表例を白矢印で示す)。
【0105】
(2)硫化銅インジウム内包タンパク質複合体の作製
硫化インジウムを内包したフェリチン(サンプルA)を含む水溶液をアミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、硫化インジウムを内包したフェリチンが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後の硫化インジウムを内包したフェリチンを含む溶液に、終濃度が、酢酸銅1mM、酢酸アンモニウム40mM、アンモニア30mMであるとともに、1MのHCl水溶液によりpH4.5となるように各成分を添加してなる反応液を、25℃で10分間放置した。その後、15,000rpm、5分間の遠心分離により、上清を回収しサンプルを得た。
得られたサンプルを2.0%の金チオグルコース液により負染色し透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子(株)製「JEM−2200FS」)により解析したところ、9割以上のフェリチンの内腔にナノ粒子が形成されていることを確認することができた(
図36を参照。代表例を白矢印で示す)。
【0106】
(3)硫化銅インジウムを内包するDpsタンパク質複合体のXRD分析
(2)で得られたサンプルを、アミコンウルトラ(メルクミリポア社、50K)にて限外濾過処理し、硫化銅インジウムを含む化合物を内包したフェリチンが懸濁された溶媒を水に置換した。置換処理後の硫化銅インジウムを含む化合物を内包したフェリチンを含む水溶液を室温で放置することで乾燥させた。さらに、窒素中で30分間、400℃で加熱して得られたサンプルと、400℃で加熱する前のサンプルについてX線回折装置((株)リガク製「RINT−TTR 3/NM」)を用いてX線回折(XRD)による結晶性の分析を行った。XRD測定は、光源としてCuKα線(Kα1とKα2とが2:1で混ざったもの)を用い、ステップ幅0.02度の条件で行った。得られた結果を
図37に示した。
図37には、400℃で加熱して得られたサンプルの分析結果、400℃で加熱する前のサンプルの分析結果、及びCuInS
2の標品の分析結果を並べて示した。
その結果、400℃で加熱されたサンプルでは、αカルコパイライト型CuInS
2結晶に特有の回折光を明確に検出することができ、フェリチン内部に形成された粒子は銅−インジウム−硫黄からなり、加熱によりαカルコパイライト型のCuInS
2に変換できることが確認された(
図37を参照)。