特許第6919310号(P6919310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6919310
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】インクセット、記録方法及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/54 20140101AFI20210805BHJP
   C09D 11/328 20140101ALI20210805BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20210805BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   C09D11/54
   C09D11/328
   B41M5/00 120
   B41M5/00 132
   B41M5/00 114
   D06P5/30
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-89594(P2017-89594)
(22)【出願日】2017年4月28日
(65)【公開番号】特開2018-188499(P2018-188499A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎平
(72)【発明者】
【氏名】多賀 康浩
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−245331(JP,A)
【文献】 特開2000−281947(JP,A)
【文献】 特開2010−162726(JP,A)
【文献】 特開平08−039793(JP,A)
【文献】 特開2009−262549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
B41J 2/01
B41M 5/00
D06P 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録用水性インクと、定着剤と、を含むインクセットであって、
前記インクジェット記録用水性インクは、直接染料及び酸性染料の少なくとも一方と、水と、を含み、
前記定着剤は、式(1)で表されるジアリルアミン類のみを構成単位として有する水溶性ポリマーを含むことを特徴とするインクセット。
【化1】
式(1)において、
は、アルキル基又は水素原子であり、前記アルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
nは、5〜1000である。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が、5000を超えて20000未満である請求項1記載のインクセット。
【請求項3】
インクジェット記録用水性インクと、定着剤と、を含むインクセットであって、
前記インクジェット記録用水性インクは、直接染料及び酸性染料の少なくとも一方と、水と、を含み、
前記定着剤は、式(2)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーを含み、
前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が、5000を超えて20000未満であることを特徴とするインクセット。
【化2】
式(2)において、
及びRは、それぞれ、アルキル基であり、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよく、前記アルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
は、アニオンであり、
nは、5〜1000である。
【請求項4】
前記水溶性ポリマーが、式(2)で表されるジアリルアミン類のみを構成単位として有する水溶性ポリマーである請求項3記載のインクセット。
【請求項5】
前記定着剤全量における前記水溶性ポリマーの配合量が、5重量%以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項6】
インクジェット記録用水性インク及び定着剤を含むインクセットを用いて記録する記録方法であって、
記録媒体の種類に応じて前記定着剤を付与するか否かを選択し、付与することを選択したときは前記記録媒体に前記定着剤を付与する定着剤付与工程と、
前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程と、を含み、
前記水性インクは、染料と、水と、を含み、
前記定着剤は、式(1)で表されるジアリルアミン類のみを構成単位として有する水溶性ポリマーを含み、
前記定着剤付与工程において、前記記録媒体が記録用紙以外の記録媒体である場合に、前記定着剤を付与することを選択することを特徴とする記録方法。
【化1】
式(1)において、
は、アルキル基又は水素原子であり、前記アルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
nは、5〜1000である。
【請求項7】
インクジェット記録用水性インク及び定着剤を含むインクセットを用いて記録する記録方法であって、
記録媒体の種類に応じて前記定着剤を付与するか否かを選択し、付与することを選択したときは前記記録媒体に前記定着剤を付与する定着剤付与工程と、
前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程と、を含み、
前記水性インクは、染料と、水と、を含み、
前記定着剤は、式(2)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーを含み、
前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が、5000を超えて20000未満であり、
前記定着剤付与工程において、前記記録媒体が記録用紙以外の記録媒体である場合に、前記定着剤を付与することを選択することを特徴とする記録方法。
【化2】
式(2)において、
及びRは、それぞれ、アルキル基であり、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよく、前記アルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
は、アニオンであり、
nは、5〜1000である。
【請求項8】
前記記録用紙以外の記録媒体が、布帛である請求項6又は7記載の記録方法。
【請求項9】
前記記録媒体が、記録用紙以外の記録媒体である場合に、前記定着剤付与工程後に、前記記録媒体を210℃以下で熱処理して乾燥する乾燥工程を含む請求項6〜8のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項10】
基材上に、被覆層が形成された記録媒体であって、
基材が、布帛及び記録用紙の少なくとも一方であり、
前記被覆層が、式(1)で表されるジアリルアミン類のみを構成単位として有する水溶性ポリマーを含む定着剤を用いて形成されることを特徴とする記録媒体。
【化1】
式(1)において、
は、アルキル基又は水素原子であり、前記アルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
nは、5〜1000である。
【請求項11】
基材上に、被覆層が形成された記録媒体であって、
前記被覆層が、式(2)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーを含む定着剤を用いて形成され、
前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が、5000を超えて20000未満であることを特徴とする記録媒体。
【化2】
式(2)において、
及びRは、それぞれ、アルキル基であり、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよく、前記アルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
は、アニオンであり、
nは、5〜1000である。
【請求項12】
前記基材が、布帛である請求項10又は11記載の記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、記録方法及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー用紙やレポート用紙等の普通紙に対し、染料を含有する水性インク(以下、「水性染料インク」と言うことがある。)を用いて印字を行うインクジェット記録方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−127351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、普通紙等の記録用紙に加え、それ以外の布帛等の記録媒体にも記録可能な、新たなインクジェット記録方法が求められている。このとき、記録用紙向けの水性染料インクを布帛への記録に転用するのみでは、布帛を水洗すると、色落ちしてしまう。また、記録用紙への記録時と、布帛への記録時とにおける色の変化(色差)が小さいこと、及び、布帛への記録時において、記録前後での手触り、肌触り等の触感の変化が小さいことも求められる。
【0005】
そこで、本発明は、記録用紙と、記録用紙以外の記録媒体との双方の記録に利用可能なインクジェット記録用水性インクと、定着剤と、を含むインクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクセットは、
インクジェット記録用水性インクと、定着剤と、を含むインクセットであって、
前記インクジェット記録用水性インクは、直接染料及び酸性染料の少なくとも一方と、水と、を含み、
前記定着剤は、ジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクセットは、直接染料及び酸性染料の少なくとも一方を含む水性染料インクと、ジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーを含む定着剤と、を含むことで、記録用紙と、記録用紙以外の記録媒体との双方の記録に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す概略斜視図である。
図2図2(a)及び(b)は、本発明の記録方法による記録例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[インクセット]
本発明のインクセットについて説明する。本発明のインクセットは、インクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)と、定着剤と、を含む。
【0010】
(水性インク)
まず、前記水性インクについて説明する。前記水性インクは、直接染料及び酸性染料の少なくとも一方と、水と、を含む。
【0011】
前記直接染料は、特に限定されず、例えば、C.I.ダイレクトブラック、C.I.ダイレクトブルー、C.I.ダイレクトレッド、C.I.ダイレクトイエロー、C.I.ダイレクトオレンジ、C.I.ダイレクトバイオレット、C.I.ダイレクトブラウン、C.I.ダイレクトグリーン等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラックとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、71、108、146、154及び168等があげられる。前記C.I.ダイレクトブルーとしては、例えば、C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、86、90、106及び199等があげられる。前記C.I.ダイレクトレッドとしては、例えば、C.I.ダイレクトレッド1、4、17、28、83及び227等があげられる。前記C.I.ダイレクトイエローとしては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、86、98、132、142及び173等があげられる。前記C.I.ダイレクトオレンジとしては、例えば、C.I.ダイレクトオレンジ34、39、44、46及び60等があげられる。前記C.I.ダイレクトバイオレットとしては、例えば、C.I.ダイレクトバイオレット47及び48等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラウンとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン109等があげられる。前記C.I.ダイレクトグリーンとしては、例えば、C.I.ダイレクトグリーン59等があげられる。
【0012】
前記酸性染料も、特に限定されず、例えば、C.I.アシッドブラック、C.I.アシッドブルー、C.I.アシッドレッド、C.I.アシッドイエロー、C.I.アシッドオレンジ、C.I.アシッドバイオレット等があげられる。前記C.I.アシッドブラックとしては、例えば、C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112及び118等があげられる。前記C.I.アシッドブルーとしては、例えば、C.I.アシッドブルー9、22、40、59、90、93、102、104、117、120、167、229及び234等があげられる。前記C.I.アシッドレッドとしては、例えば、C.I.アシッドレッド1、6、32、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、256、289、315及び317等があげられる。前記C.I.アシッドイエローとしては、例えば、C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、61及び71等があげられる。前記C.I.アシッドオレンジとしては、例えば、C.I.アシッドオレンジ7及び19等があげられる。前記C.I.アシッドバイオレットとしては、例えば、C.I.アシッドバイオレット49等があげられる。
【0013】
前記水性インク全量における前記直接染料及び前記酸性染料の少なくとも一方の配合量は、特に限定されず、例えば、0.1重量%〜20重量%、1重量%〜15重量%、2重量%〜10重量%である。前記直接染料及び前記酸性染料の少なくとも一方は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記水性インク全量における前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0015】
前記水性インクは、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部におけるインクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0016】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン;等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0017】
前記水性インク全量における前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%、5重量%〜80重量%、5重量%〜50重量%である。
【0018】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記水性インク全量における前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%、0重量%〜15重量%、1重量%〜6重量%である。
【0020】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース等があげられる。
【0021】
前記水性インクは、例えば、前記直接染料及び前記酸性染料の少なくとも一方と、前記水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0022】
(定着剤)
つぎに、前記定着剤について説明する。前記定着剤は、ジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーを含む。前記定着剤は、前記水溶性ポリマーを含むことが特徴であり、その他の構成は何ら制限されない。前記水溶性ポリマーは、例えば、カチオン性ポリマー、両性ポリマーであり、カチオン性ポリマーであることが好ましい。前記水溶性ポリマーは、例えば、架橋性を有さない水溶性ポリマーであってもよい。
【0023】
前記水溶性ポリマーとしては、例えば、式(1)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマー、式(2)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマー等があげられる。前記水溶性ポリマーが、式(1)で表されるジアリルアミン類及び式(2)で表されるジアリルアミン類以外の構成単位を有さなければ、布帛への記録時において、記録前後での手触り、肌触り等の触感の変化がより小さいインクセットを得ることができる。また、前記水溶性ポリマーは、式(2)で表されるジアリルアミン類のみを構成単位として有する水溶性ポリマーであることが好ましい。前記水溶性ポリマーが、式(2)で表されるジアリルアミン類のみを構成単位として有する水溶性ポリマーであれば、記録用紙への記録時と、布帛への記録時とにおける色の変化(色差)がより小さいインクセットを得ることができる。
【化1】
【化2】
【0024】
式(1)において、Rは、アルキル基又は水素原子である。前記アルキル基の炭素原子数は、例えば、1〜3、1又は2、1である。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基等があげられる。前記アルキル基は、ハロゲン原子等の置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0025】
式(2)において、R及びRは、それぞれ、アルキル基である。前記アルキル基としては、例えば、式(1)においてアルキル基として例示したものと同様のものがあげられる。
【0026】
式(2)において、Xは、アニオンであり、例えば、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、燐酸イオン、クエン酸イオン、アミド硫酸イオン等があげられる。
【0027】
式(1)及び式(2)において、nは、例えば、5〜1000、10〜500、20〜200である。
【0028】
前記水溶性ポリマーの重量平均分子量は、例えば、1000〜100000、2000〜50000、5000を超えて20000未満である。前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が5000を超えて20000未満であれば、記録用紙への記録時と、布帛への記録時とにおける色の変化(色差)がより小さく、且つ、布帛への記録時の水洗前後での色落ちがより抑制されたインクセットを得ることができる。
【0029】
前記水溶性ポリマーは、自家調製してもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、センカ(株)製の「ユニセンスFPA 100LU」、「ユニセンスFPA 101LU」及び「ユニセンスKCA 103LU」;ニットーボーメディカル(株)製の「PAS−M−1A」、「PAS−21」、「PAS−84」及び「PAS−2451」;等があげられる。前記市販品の詳細は、つぎのとおりである。

ユニセンスFPA 100LUは、式(2)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーであり、R及びRは、それぞれ、メチル基、Xは、メチル硫酸イオンであり、重量平均分子量は、5000を超えて20000未満である。
【化3】

ユニセンスFPA 101LUは、式(2)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーであり、R及びRは、それぞれ、メチル基、Xは、メチル硫酸イオンであり、重量平均分子量は、20000〜100000である。
【化4】

ユニセンスKCA 103LUは、式(1)で表されるジアリルアミン類及び式(3)を構成単位として有する水溶性ポリマーであり、Rは、水素原子であり、重量平均分子量は、20000〜100000である。式(3)において、mは、式(1)のnと同数であってもよい。
【化5】

PAS−M−1Aは、式(1)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーであり、Rは、水素原子であり、重量平均分子量は、20000である。
【化6】

PAS−21は、式(1)で表されるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーであり、Rは、水素原子であり、重量平均分子量は、5000である。
【化7】

PAS−84は、式(2)で表されるジアリルアミン類と、式(4)及び式(5)と、を構成単位として有する水溶性ポリマーであり、R及びRは、それぞれ、メチル基、Xは、塩化物イオンであり、重量平均分子量は、20000である。式(4)及び式(5)において、o及びpは、それぞれ、式(2)のnと同数であってもよい。
【化8】

PAS−2451は、式(2)で表されるジアリルアミン類及び式(4)を構成単位として有する水溶性ポリマーであり、Rは、メチル基、Rは、エチル基、Xは、エチル硫酸イオンであり、重量平均分子量は、30000である。式(4)において、oは、式(2)のnと同数であってもよい。
【化9】
【0030】
前記定着剤に含まれるポリマー全量に占めるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーの割合は、例えば、90重量%を超える。すなわち、前記定着剤に含まれるポリマー全量に占めるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマー以外のポリマーの割合は、例えば、10重量%未満である。前記定着剤に含まれるポリマー全量に占めるジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーの割合の上限は、特に制限されず、例えば、100重量%、すなわち、前記定着剤に含まれるポリマー全てが、ジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーであってもよい。
【0031】
前記定着剤全量における前記水溶性ポリマーの配合量は、例えば、1重量%以上である。前記水溶性ポリマーの配合量は、例えば、1重量%〜40重量%、2重量%〜20重量%、4重量%〜10重量%、5重量%〜10重量%であってもよい。前記水溶性ポリマーの配合量が5重量%以上であれば、記録用紙への記録時と、布帛への記録時とにおける色の変化(色差)がより小さく、且つ、布帛への記録時の水洗前後での色落ちがより抑制されたインクセットを得ることができる。
【0032】
前記定着剤は、さらに、水を含んでもよい。前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記定着剤全量における前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0033】
前記定着剤は、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、前記水性インクにおいて例示したものと同様のものを用い得る。前記定着剤全量における前記水溶性有機溶剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%、5重量%〜80重量%、5重量%〜50重量%である。
【0034】
前記定着剤は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、前記水性インクにおいて例示したものと同様のものを用い得る。
【0035】
前記定着剤は、例えば、前記水溶性ポリマーと、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合することにより調製できる。
【0036】
[記録方法]
つぎに、本発明の記録方法について説明する。
【0037】
本発明の記録方法は、
インクジェット記録用水性インク及び定着剤を含むインクセットを用いて記録する記録方法であって、
記録媒体の種類に応じて前記定着剤を付与するか否かを選択し、付与することを選択したときは前記記録媒体に前記定着剤を付与する定着剤付与工程と、
前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程と、を含み、
前記水性インクは、染料と、水と、を含み、
前記定着剤は、ジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーを含み、
前記定着剤付与工程において、前記記録媒体が前記記録用紙以外の記録媒体である場合に、前記定着剤を付与することを選択することを特徴とする。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0038】
本発明の記録方法において、前記記録用紙以外の記録媒体としては、例えば、布帛等があげられる。前記布帛は、編物及び織物の双方を含む。前記布帛の材質は、天然繊維であっても、合成繊維であってもよい。前記天然繊維としては、例えば、綿、絹等があげられる。前記合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル等があげられる。
【0039】
本発明の記録方法における前記インクセットは、前記水性インクに含まれる染料が、直接染料及び酸性染料に限定されない点を除き、前述の本発明のインクセットと同様であり、その説明を援用できる。直接染料及び酸性染料以外の前記染料としては、特に限定されず、例えば、反応性染料等があげられる。直接染料及び酸性染料以外の前記染料の具体例としては、例えば、C.I.フードブラック等があげられる。前記C.I.フードブラックとしては、例えば、C.I.フードブラック1及び2等があげられる。
【0040】
本発明の記録方法は、例えば、つぎに説明する本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。
【0041】
本発明のインクジェット記録装置は、インクセット収容部と、定着剤付与手段と、インク吐出手段と、を含むインクジェット記録装置であって、前記インクセット収容部に、本発明の記録方法における前記インクセットが収容され、前記インクセットを構成する前記定着剤を、前記定着剤付与手段によって記録媒体に付与可能であり、前記インクセットを構成する前記水性インクが、前記インク吐出手段によって前記記録媒体に吐出されることを特徴とする。
【0042】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8と、を主要な構成要素として含む。
【0043】
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記4色の水性インクのうちの少なくとも一つが、前記インクセットを構成する水性インクである。本例では、4つのインクカートリッジ2のセットを示したが、これに代えて、水性イエローインク収納部、水性マゼンタインク収納部、水性シアンインク収納部及び水性ブラックインク収納部を形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジを用いてもよい。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0044】
ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙P)に記録を行う。なお、前記記録媒体は、布帛等の記録用紙P以外の記録媒体であってもよい。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0045】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0046】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0047】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。インクジェット記録装置1において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置1内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。また、これらの態様においては、4つのインクカートリッジ2に代えて、ボトル形状の4つのインクボトルを用いてもよい。この場合、前記インクボトルには、外部から内部にインクを注入するための注入口が設けられていることが好ましい。
【0048】
このインクジェット記録装置1を用いた記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録媒体の種類に応じて前記インクセットを構成する定着剤を付与するか否かを選択し、付与することを選択したときは前記記録媒体に前記定着剤を付与する。具体的には、前記記録媒体が記録用紙P以外の記録媒体(例えば、布帛等)である場合に、前記記録媒体に前記定着剤を付与する。本発明において、前記定着剤の付与は、例えば、スプレー方式、スタンプ塗布、刷毛塗り、ローラ塗布、インクジェット方式等により実施できる。前記定着剤の付与は、前記記録媒体の記録面の全面でもよく、一部でもよい。一部に付与する場合、前記記録媒体の記録面の少なくとも水性インクによる記録部分が付与部となる。一部に付与する場合、付与部の大きさは、記録部分よりも大きい方がよい。例えば、図2(a)に示すように、記録媒体Fに対し、文字(X)を記録する場合は、前記文字の線幅よりも大きな線幅で付与部30を形成するように前記定着剤を付与することが好ましい。また、図2(b)に示すように、記録媒体Fに対し、図柄を記録する場合は、前記図柄よりも大きな付与部40を形成するように前記定着剤を付与することが好ましい。本発明の記録方法は、例えば、前記記録媒体が記録用紙P以外の記録媒体である場合に、前記定着剤付与工程後、前記記録媒体を210℃以下で熱処理して乾燥する乾燥工程を含んでもよい。前記乾燥工程における前記熱処理温度の下限値は、特に制限されず、例えば、80℃以上である。前記記録媒体が記録用紙Pである場合には、これらの工程を行うことなく、つぎの工程を実施する。
【0049】
つぎに、インクジェットヘッド3から、前記記録媒体に、前記水性インクを吐出する。このとき、前記記録媒体が記録用紙P以外の記録媒体である場合には、前記定着剤の付与部に、前記水性インクを吐出する。
【0050】
本例では、前記記録媒体が記録用紙P以外の記録媒体である場合において、前記定着剤を、前記水性インクの吐出に先立ち前記記録媒体に付与する前処理剤として使用している。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明では、前記記録媒体に前記水性インクを先に吐出した後、前記定着剤を付与してもよいし、前記記録媒体への前記定着剤の付与と前記水性インクの吐出とを同時に行ってもよい。
【0051】
このようにして記録された前記記録媒体は、インクジェット記録装置1から排紙される。本発明によれば、記録用紙Pに代えて、布帛に記録を行った場合であっても、水洗後の色落ちが抑制される。この色落ち抑制効果は、前記水性インクに含まれる染料が一般的にアニオン性であることから、前記定着剤に含まれる前記水溶性ポリマーにより、前記染料の電荷が打ち消されて非水化され、耐水性が高まったためと推定される。ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこれに限定されない。また、本発明によれば、記録用紙Pへの記録時と、布帛への記録時とにおける色の変化(色差)が小さく、且つ、布帛への記録時において、記録前後での手触り、肌触り等の触感の変化も小さい。なお、図1においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0052】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用する装置であってもよい。
【0053】
[記録媒体]
つぎに、本発明の記録媒体について説明する。
【0054】
本発明の記録媒体は、
基材上に、被覆層が形成された記録媒体であって、
前記被覆層が、ジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーを含む定着剤を用いて形成されることを特徴とする。
【0055】
本発明の記録媒体において、前記基材としては、例えば、布帛、記録用紙等があげられる。前記基材への前記被覆層の形成は、例えば、前述の本発明の記録方法における記録媒体への定着剤の付与方法と同様にして実施できる。
【0056】
[定着剤]
つぎに、本発明の定着剤について説明する。
【0057】
本発明の定着剤は、
インクジェット記録用水性インクに含まれる染料を記録媒体に定着させるための定着剤であって、ジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーと、湿潤剤と、浸透剤と、水と、を含み、
前記湿潤剤が、グリセリンを含み、
前記浸透剤が、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテルを含むことを特徴とする。
【0058】
前記定着剤の調製は、例えば、前述の本発明のインクセットにおける定着剤の調製と同様にして実施できる。
【実施例】
【0059】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0060】
〔水性インクの調製〕
インク組成(表1)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、インクジェット記録用水性イエローインクY、インクジェット記録用水性マゼンタインクM、インクジェット記録用水性シアンインクC1及びC2を得た。
【0061】
【表1】
【0062】
〔定着剤の調製〕
定着剤組成(表2)の各成分を、均一に混合して、15種の定着剤を得た。
【0063】
[実施例1〜9及び比較例1〜6]
表1に示す水性イエローインクY、水性マゼンタインクM、水性シアンインクC1又はC2と、表2に示す15種の定着剤とを組み合わせることで、実施例1〜9及び比較例1〜6のインクセットを得た。
【0064】
実施例1〜9及び比較例1〜6のインクセットについて、(a)画質評価(記録用紙と綿との色差)、(b)定着性評価(綿での水洗前後の色差)及び(c)触感評価を、下記方法により実施した。
【0065】
(a)画質評価(記録用紙と綿との色差)
(記録用紙の評価サンプルの色測定)
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−J4225Nを使用して、実施例及び比較例のインクセットを構成する水性インクを用いて、記録用紙(アスクル(株)製の「スーパーホワイト+」)上にイエロー、シアン、マゼンタの単色パッチを記録し、評価サンプルを作製した。前記記録用紙の評価サンプルの各色パッチの色(L、a及びb)を、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(測定視野:2°;白色基準:Abs(絶対白色);光源:D50;濃度基準:ANSI T)により測定した。前記色(L、a及びb)の測定結果は、3回の測定の平均値である。
【0066】
(綿の評価サンプルの色測定)
平面サイズが15cm×5cmの綿(シーチング)上に、実施例及び比較例のインクセットを構成する定着剤1gを、スプレー方式により均一に付与した。前記定着剤付与後の綿に、210℃を上限とした高温(180℃〜210℃)のアイロンを2分間かけて乾燥させた。つぎに、前記インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−J4225Nを使用して、記録用紙におけるのと同様にして、前記綿上にイエロー、シアン、マゼンタの単色パッチを記録し、評価サンプルを作製した。前記綿の評価サンプルの各色パッチの色(L、a及びb)を、前記記録用紙の評価サンプルと同様にして測定した。
【0067】
(色差(ΔE)の算出)
前記記録用紙の評価サンプルの色と、前記綿の評価サンプルの色との色差(ΔE)を、下記式により算出し、下記評価基準に従って評価した。

ΔE={(L−L+(a−a+(b−b1/2
【0068】
画質評価(記録用紙と綿との色差) 評価基準
A:記録用紙と綿との色差(ΔE)が、5.0以下
B:記録用紙と綿との色差(ΔE)が、5.0を超えて15.0未満
C:記録用紙と綿との色差(ΔE)が、15.0以上
【0069】
(b)定着性評価(綿での水洗前後の色差)
(a)画質評価(記録用紙と綿との色差)における綿の評価サンプルを、水の中で前記評価サンプルの一部が他の部分と擦れることがない程度に振りながら5分間水洗した。水洗後、乾燥して得られた前記評価サンプルの各色パッチの色(L、a及びb)を、(a)画質評価(記録用紙と綿との色差)における前記記録用紙の評価サンプルと同様にして測定し、前記綿の評価サンプルの水洗前後での色差(ΔE)を、下記式により算出して、下記評価基準に従って評価した。

ΔE={(L−L+(a−a+(b−b1/2
【0070】
定着性評価(綿での水洗前後の色差) 評価基準
A:水洗前と水洗後の色差(ΔE)が、5.0以下
B:水洗前と水洗後の色差(ΔE)が、5.0を超えて15.0未満
C:水洗前と水洗後の色差(ΔE)が、15.0以上
【0071】
(c)触感評価
10人の被験者が、(a)画質評価(記録用紙と綿との色差)における綿の評価サンプルと、定着剤の付与及び水性インクの塗布を行っていない元の綿と、を指で触り、前記評価サンプルが、前記元の綿と比べ、手触りが硬くなったと感じた人数を集計し、下記評価基準に従って評価した。
【0072】
触感評価 評価基準
A:前記評価サンプルの手触りが硬くなったと感じた人数が、10人中2人以下
B:前記評価サンプルの手触りが硬くなったと感じた人数が、10人中3人又は4人
C:前記評価サンプルの手触りが硬くなったと感じた人数が、10人中5人以上
【0073】
実施例1〜9及び比較例1〜6の定着剤組成及び評価結果を、表2に示す。なお、表2において、「PAA(登録商標)−01」及び「PAA(登録商標)−05」は、式(11)で表されるカチオン性ポリマーを、「ポリエチレンイミン」は、式(12)で表されるカチオン性ポリマーを、「ポバール(登録商標) PVA 203」は、式(13)で表されるノニオン性ポリマーを、「ピッツコール(登録商標) K−17L」及び「ピッツコール(登録商標) K−30AL」は、式(14)で表されるノニオン性ポリマーを示す。また、表2の評価の欄における「Y」は、表1に示す水性イエローインクYと組み合わせたインクセットでの評価を示し、「M」は、表1に示す水性マゼンタインクMと組み合わせたインクセットでの評価を示し、「C1」及び「C2」は、表1に示す水性シアンインクC1又はC2と組み合わせたインクセットでの評価を示す。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すとおり、実施例1〜9では、画質(記録用紙と綿との色差)、定着性(綿での水洗前後の色差)及び触感の評価結果が良好であった。特に、定着剤において、ジアリルアミン類を構成単位として有する水溶性ポリマーの配合量が5重量%又は10重量%である実施例2及び3では、前記水溶性ポリマーの配合量が4重量%であること以外は同条件である実施例1と比べて、画質(記録用紙と綿との色差)及び定着性(綿での水洗前後の色差)の評価結果が優れていた。また、特に、定着剤に重量平均分子量が5000を超えて20000未満の前記水溶性ポリマーを用いた実施例3では、前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が5000以下又は20000以上であること以外は同条件である実施例4〜9と比べて、画質(記録用紙と綿との色差)及び定着性(綿での水洗前後の色差)の評価結果が優れていた。そして、特に、前記定着剤において、前記水溶性ポリマーが、式(1)で表されるジアリルアミン類及び式(2)で表されるジアリルアミン類以外の構成単位を有さない実施例3、4、6及び7では、前記水溶性ポリマーが、式(1)で表されるジアリルアミン類及び式(2)で表されるジアリルアミン類以外の構成単位を有すること以外は同条件である実施例5、8及び9と比べて、触感の評価結果が優れていた。さらに、特に、前記定着剤において、前記水溶性ポリマーが、式(2)で表されるジアリルアミン類のみを構成単位として有する水溶性ポリマーである実施例3及び4では、前記水溶性ポリマーが、式(2)で表されるジアリルアミン類以外の構成単位を有すること以外は同条件である実施例5〜9と比べて、画質(記録用紙と綿との色差)の評価結果が優れていた。一方、構成単位としてジアリルアミン類を有さないカチオン性ポリマー又はノニオン性ポリマーを用いた比較例1〜6では、定着性(綿での水洗前後の色差)及び触感のいずれかの評価結果が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本発明のインクセットは、記録用紙と、記録用紙以外の記録媒体との双方の記録に利用可能である。本発明のインクセットの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置
図1
図2