(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負極は、長手方向に直交する方向に断面視したときに結晶が中心から外周面側に放射状に配向した炭素材料を前記負極活物質として有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二次電池。
炭素材料の負極活物質を有する柱状体であり、該柱状体が6体積%以上30体積%以下の範囲の空孔率であり50μm以上300μm以下の範囲の径方向の長さで形成されている負極の表面に、イオン伝導性及び絶縁性を有する分離膜を形成する分離膜形成工程と、
前記形成した分離膜を介して正極活物質と隣り合う状態で複数の前記負極を結束する結束工程と、
を含む二次電池の製造方法。
前記分離膜形成工程では、放射光を用いてX線小角散乱測定をイメージング法で行い、計算式(1)で表される結晶化度が0.50以上である前記負極を用いる、請求項8に記載の二次電池の製造方法。
結晶化度=(結晶部002回折ピーク面積)/(結晶部002回折ピーク面積+非晶質部面積) … 計算式(1)
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態で説明する二次電池は、正極と、正極集電部と、柱状体である負極と、負極集電部と、分離膜とを備えている。この二次電池は、正極が正極活物質を含み、負極が負極活物質としての柱状炭素材料を含むものとしてもよい。なお、正極及び負極には、活物質のほか導電材や結着材を含むものとしてもよい。この負極は、円柱体又は多角形柱体などの柱状体であるものとしてもよい。また、正極は、柱状体の負極の周りに存在するものとしてもよいし、負極の間の空間に充填されているものとしてもよい。この二次電池は、分離膜を介して正極と隣り合う状態で複数の負極が結束された構造を有するものとしてもよい。また、正極及び負極には、集電線、集電箔及び3次元網目構造体のうち少なくとも1以上である集電部材が埋設されているものとしてもよいし、この集電部材を備えないものとしてもよい。ここでは、説明の便宜のため、リチウムイオンをキャリアとするリチウム二次電池をその主たる一例として以下説明する。
【0012】
次に、本実施形態で開示する二次電池について図面を用いて説明する。
図1は、二次電池10の一例を示す模式図である。
図2は、
図1の二次電池10のA−A断面図である。この二次電池10は、
図1〜2に示すように、負極11と、負極集電体12と、正極16と、正極集電体17と、分離膜21とを備えている。この二次電池10は、多角形柱体又は円柱体である負極11と、負極11の周りに形成された正極活物質層からなる正極16とを備えている。
【0013】
負極11は、負極活物質を有する断面が円の円柱体であるものとしてもよい。この二次電池10では、50本以上の負極11が結束された構造を有しているものとしてもよい。負極11は、端面以外の外周が分離膜21を介して正極16に対向している。例えば、負極11は、セル全体の負極容量の1/nの容量を有し、n個が負極集電体12に並列接続されているものとしてもよい。この負極11は、径方向の長さ(直径)が50μm以上300μm以下の円柱体であるものとする。径方向の長さが50μm以上では、電極構造体としての強度を担保することができ安定した充放電ができる。また、この径方向の長さが300μm以下ではキャリアのイオンの移動距離が長くなりすぎず、高出力性能が得られる。また、径方向の長さがこの範囲では、単位体積あたりのエネルギー密度をより高めることができる。あるいは、この範囲では、キャリアのイオンの移動距離をより短くすることができ、より大きな電流で充放電を行うことができる。この柱状炭素材料の長手方向の長さは、二次電池の用途などに応じて適宜定めることができ、例えば、100mmや200mmなどとしてもよい。
【0014】
負極活物質は、柱状の炭素材料である。非晶質系炭素材料と黒鉛材料との複合体からなる柱状炭素材料であるものとしてもよい。黒鉛材料としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛などが挙げられる。非晶質系炭素材料には、非晶質炭素材料や低結晶性炭素材料などが含まれる。この非晶質系炭素材料としては、コークス類、ガラス状炭素類、難黒鉛化性炭素類、易黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。この炭素材料は、例えば、柱状体の長手方向に結晶が配向したものが好ましい。また、長手方向に直交する方向に断面視したときに結晶が中心から外周面側に放射状に配向したものであることが好ましい。このような炭素材料では、外周からキャリアであるリチウムイオンを吸蔵放出することができ、イオン伝導性が高く好ましい。この負極11では、それ自体に導電性を有しており、集電線などの埋設を省略してもよい。
【0015】
負極11は、柱状体が6体積%以上30体積%以下の範囲の空孔率である。この柱状体の空孔率が6体積%以上では電解液が浸透しやすく、好ましい。また、この空孔率が30体積%以下では電極構造体としての強度を担保することができ、好ましい。この空孔率は、10体積%以上であることが好ましく、12体積%以上であるものとしてもよい。また、この空孔率は、28体積%以下であることが好ましく、25体積%以下であるものとしてもよい。
【0016】
負極11は、放射光を用いてX線小角散乱測定をイメージング法で行い、計算式(1)で表される結晶化度が0.50以上であることが好ましい。この結晶化度は、0.60以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましく、0.80以上であることが更に好ましい。この結晶化度は、製造工程の制約などを考慮すると0.95以下であるものとしてもよい。
結晶化度=(結晶部002回折ピーク面積)/(結晶部002回折ピーク面積+非晶質部面積) … 計算式(1)
【0017】
この負極11は、例えば、負極活物質である炭素材料と、必要に応じて導電材と、結着剤とを混合し成形したものとしてもよい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子や導電材粒子を繋ぎ止めて所定の形状を保つ役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0018】
負極11において、負極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、負極11の質量全体に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。導電材の含有量は、負極活物質を含む電極合材の全体の質量に対して0質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、0質量%以上15質量%以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、電池容量の低下を抑制し、導電性を十分に付与することができる。また、結着材の含有量は、負極11の質量全体に対して25質量%以下の範囲であることが好ましく、10質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0019】
負極集電体12は、導電性を有する部材であり、負極11の端面が電気的に接続されている。負極集電体12には、50本以上の負極11が並列接続されている。この負極集電体12は、例えば、カーボンペーパー、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、白金、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化(還元)性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀、白金、金などで処理したものも用いることができる。負極集電体12の形状は、複数の負極11が接続できるものであれば特に限定されず、例えば、板状、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。
【0020】
正極16は、正極活物質を有し、負極11の外周に分離膜21を介して形成されている。正極16は、断面の外形が六角形状であり、円柱状の負極11を内包しているものとしてもよい。なお、正極16は、負極11の間に充填されるものとすればよく、外形が六角形状には特に限定されない。正極16は、それ自体に導電性を有しており、集電部材は省略されているものとしてもよい。正極16の端面が正極集電体17に直接接続されている。この正極16は、例えば、負極11の外周に分離膜21を形成したのち、その外周に正極16の原料を塗布して形成されたものとしてもよい。
【0021】
正極16は、正極活物質を含んでいるが、正極活物質が導電性を有さない場合は、例えば導電性を有する導電材と混合して成形したものとしてもよい。この正極16は、例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材と、結着剤とを混合し成形したものとしてもよい。正極活物質は、例えば、キャリアであるリチウムを吸蔵放出可能な材料が挙げられる。正極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属とを有する化合物、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。具体的には、基本組成式をLi
(1-x)MnO
2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi
(1-x)Mn
2O
4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)CoO
2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)NiO
2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)Co
aNi
bMn
cO
2(a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)などとするリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV
2O
3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV
2O
5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、基本組成式をLiFePO
4とするリン酸鉄リチウム化合物などを正極活物質として用いることができる。これらのうち、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、例えば、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2やLiNi
0.4Co
0.3Mn
0.3O
2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、AlやMgなどの成分を含んでもよい趣旨である。
【0022】
正極16において、正極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、正極16の質量全体に対して70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。導電材の含有量は、正極16の全体の質量に対して0質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、電池容量の低下を抑制し、導電性を十分に付与することができる。また、結着材の含有量は、正極16の質量全体に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましく、0.2質量%以上3質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0023】
正極集電体17は、導電性を有する部材であり、正極16に電気的に接続されている。正極集電体17には、50本以上の正極16の端面が並列接続されている。この正極集電体17は、負極集電体12と同様の部材とするものとしてもよい。
【0024】
分離膜21は、キャリアであるイオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有し負極11と正極16とを絶縁するものである。分離膜21は、正極16と対向する負極11の外周面の全体、及び負極11と対向する正極16の外周面の全体に形成されており、負極11と正極16との短絡を防止している。分離膜21は、イオン伝導性と絶縁性とを有するポリマーが好適である。この分離膜21は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体や、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。例えば、PVdFとHFPとの共重合体では、電解液の一部がこの膜を膨潤ゲル化し、イオン伝導膜となる。この分離膜21の厚さtは、例えば、0.5μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、5μm以上であるものとしてもよい。厚さtが0.5μm以上では、絶縁性を確保する上で好ましい。また、分離膜21の厚さtは、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。厚さtが20μm以下では、イオン伝導性の低下を抑制できる点で好ましい。厚さtが0.5〜20μmの範囲では、イオン伝導性及び絶縁性が好適である。この分離膜21は、例えば、原料を含む溶液へ負極11や正極16を浸漬させてその表面にコートすることにより形成されるものとしてもよい。
【0025】
分離膜21は、キャリアであるイオンを伝導するイオン伝導媒体を含むものとしてもよい。このイオン伝導媒体は、例えば、支持塩を溶媒に溶解した電解液などが挙げられる。電解液の溶媒としては、例えば、非水電解液の溶媒などが挙げられる。この溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。支持塩は、例えば、二次電池10のキャリアであるイオンを含む。この支持塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiSbF
6、LiSiF
6、LiAlF
4、LiSCN、LiClO
4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl
4などが挙げられる。このうち、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4などの無機塩、及びLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。
【0026】
次に、二次電池の製造方法について説明する。この製造方法は、分離膜形成工程と、結束工程とを含む。分離膜形成工程では、負極活物質を有する柱状体である負極の表面に、イオン伝導性及び絶縁性を有する分離膜を形成する。結束工程では、形成した分離膜を介して正極活物質を有する正極と隣り合う状態で複数の負極を結束する。ここでは、具体例として、二次電池10の製造工程について説明する。
図3は、二次電池10の製造工程の一例を示す説明図であり、
図3(a)が熱処理工程、
図3(b)が分離膜形成工程、
図3(c)が正極活物質形成工程、
図3(d)が導電材添加工程、
図3(e)が結束工程である。なお、二次電池に用いる材料などは、上述したいずれかを適宜用いることができる。
【0027】
熱処理工程では、炭素材料の原料を熱処理し、柱状炭素材料を作製する(
図3(a))。この工程では、炭素材料の原料を含む混練材を押出成形し成形体を成形したのち熱処理するものとしてもよい。柱状炭素材料の原料としては、例えば、黒鉛材料や、非晶質系炭素、加熱により炭化する樹脂、加熱により炭化する化合物を用いてもよい。この黒鉛材料、樹脂及び化合物は、その含有量を調整することにより結晶化度を調整することができる。原料中の黒鉛材料の含有量は、例えば、40質量%以上や、60質量%以上とすることができる。また、原料中の非晶質系炭素、樹脂及び化合物の含有量は、例えば、それぞれ0質量%以上30質量%以下の範囲としてもよい。非晶質系炭素としては、例えば、上述したもののいずれかを用いることができる。樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニルが挙げられる。化合物としては、フタル酸ジイソブチルが挙げられる。これらの原料は、分散媒を加えて分散させることが好ましい。分散媒としては、ジオクチルフタレートが挙げられる。熱処理は、不活性雰囲気中で、800℃以上1200℃以下の範囲で行うものとしてもよい。この熱処理温度は、900℃以上1100℃以下の範囲で行うことが好ましい。不活性雰囲気としては、窒素中や希ガス中などが挙げられ、このうちアルゴン雰囲気が好ましい。柱状炭素材料は、6体積%以上30体積%以下の範囲の空孔率であり、50μm以上300μm以下の範囲の径方向の長さで、多角形柱体又は円柱体に形成する。空孔率は、炭素材料の原料粒径や、成形圧力などにより調整することができる。径方向の長さは、成形型の形状で調整することができる。また、柱状炭素材料は、放射光を用いてX線小角散乱測定をイメージング法で行い、上記計算式(1)で表される結晶化度が0.50以上であるものとする。
【0028】
次に、柱状炭素材料の外表面に分離膜を形成する(
図3(b))。上記分離膜の原料を塗布し、乾燥させるものとしてもよい。あるいは、分離膜の原料溶液中に柱状炭素材料を浸漬させるものとしてもよい。次に、分離膜上に正極活物質を形成する(
図3(c))。この正極活物質は、例えば、活物質の微粒子に導電材や結着材を付着させたものとしてもよい。このような正極活物質粒子をスラリー状にした正極合材を調製し、分離膜上に塗布するものとしてもよい。正極合材には、必要に応じて導電材を添加する処理を行う(
図3(d))。導電材としては、炭素材料や金属粒子(例えばCu、Ni、Alなど)を用いてもよい。そしてこのように作製された負極の柱状体を複数並べ、結束する(
図3(e))。このようにして、二次電池10を作製することができる。
【0029】
以上詳述した二次電池10及びその製造方法では、出力特性をより向上した新規なものを提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池などの二次電池の負極材料として柱状炭素材料を用いることにより、全周からキャリアのイオンを吸蔵放出させることができる。全周からの吸蔵放出反応は、正負極対向面積の増加による反応促進に加えて、深部(奥部)に行くほど対向面積当たりの活物質量が減少することによる平均反応速度の向上効果が期待でき、高出力化が達成できる。なお、深部での活物質量の減少は、深部の活物質ほど反応しにくいために好適と考えられる。また、平均反応速度の向上は、正/負極活物質間の平均距離低下に基づく。また、柱状炭素材料の径方向の長さが50μm以上では、電極構造体としての強度を担保することができ安定した充放電ができる。また、この径方向の長さが300μm以下ではキャリアのイオンの移動距離が長くなりすぎず、高出力性能が得られる。更に、柱状炭素材料の空孔率が6体積%以上では電解液が浸透しやすく、好ましい。また、この空孔率が30体積%以下では電極構造体としての強度を担保することができ、好ましい。これらの複合的な理由により、本開示の二次電池及びその製造方法では、出力特性、例えば、高容量での急速充放電の特性などをより向上することができるものと推察される。また、この製造方法によれば、柱状炭素材料の表面に分離膜と正極活物質層とを形成して結束するという比較的簡便な工程で二次電池を作製することができる。
【0030】
また、例えば、金属箔の集電体上に活物質を形成しセパレータを介して積層した従来の電極構造では、エネルギー密度を高めようとすると、集電箔上の電極合材の塗布量や密度を高めなければならず、イオン伝導性が低下するなどの弊害が生じうる。これに対して、本開示の二次電池10では、柱状体の電極を結束した構造を採用することによって、イオンの伝導距離をより短くすることができる。また、本開示の二次電池10では、構造内部に箔状の集電体を設けなくてもよく、更に、セパレータなどを分離膜に変更してより薄くするなど、活物質による空間の占有率をより高めることができる。このため、よりエネルギー密度を高めることもできる。
【0031】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、二次電池10において、負極11は集電線を有しないものとして説明したが、特にこれに限定されず、各電極は、集電線13を埋設していてもよい。
図4は、二次電池10Bの一例を示す模式図である。
図5は、
図4の二次電池10BのA−A断面図である。この負極11の内部には、断面が円形状の集電線13が埋設されている。この集電線13は、外部に引き出されて接続部14を構成する。集電線13の径方向の長さ(太さ)は接続部14と同じとしてもよいし、異なるものとしてもよい。集電線13の直径は、例えば、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。集電線13は、導電性を確保した上で、できるだけ細いことが、単位体積あたりのエネルギー密度をより向上でき、好ましい。集電線13の径方向の長さは、例えば、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましい。集電線13は、導電性を確保する観点からは、より太いことが好ましい。この二次電池10Bにおいて、負極11は、例えば、集電線13の表面に炭素原料を形成したのち、熱処理を行いグラフェン構造の結晶化や配向などを高めたものとしてもよい。なお、二次電池10,10Bにおいて、正極16に集電線を設けるものとしてもよい。
【0033】
また、上述した実施形態では、二次電池のキャリアをリチウムイオンとしたが、特にこれに限定されず、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリイオン、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2族元素イオンとしてもよい。また、電解液を非水系電解液としたが、水溶液系電解液としてもよい。
【0034】
上述した実施形態では、柱状炭素材料は、円柱形状である例を説明したが、特にこれに限定されず、四角柱や六角柱などの形状としてもよい。
【実施例】
【0035】
以下には、上述した二次電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。まず、二次電池の構造について考察した結果を実験例として説明する。
【0036】
図6は、二次電池10における、柱状体の結束構造及び電極箔の積層構造における正負極合材の径や厚さ、正負極対向面積及びセルエネルギー密度を計算によって求めた関係図である。
図6に示した負極の直径A、正極の厚さX及び分離膜の厚さtなどを用いて実験例1,2を計算した。なお、実験例6は、積層構造の従来電極をモデルとし、実験例4は、従来電極の電極合材を厚膜化した高エネルギー型の電極とした。なお、実験例3は、実験例2の正負極に高容量の活物質を適用した場合について考察したものである。
図6に示すように、二次電池10の構造を採用した場合、負極の径を50μm以上とし、正極の厚さを5〜15μmとすると、セルエネルギー密度を650Wh/L以上とし、正負極の対向面積を300cm
2以上とすることができることがわかった。以上のように、
図1に示した電極構造は、Li電池用に使用されている正極活物質、負極活物質、有機電解液を使用して、エネルギー密度をEV車に適した600Wh/L(電極合材の体積分率が88%程度)まで向上することができることがわかった。
【0037】
図7は、柱状体(円柱)の負極活物質の直径と電極の対向面積との関係図である。
図8は、集電箔を積層した従来構造での合材膜厚と電極対向面積との関係図である。ここでは、二次電池10におけるエネルギー密度について、より詳細に検討した。
図7では、分離膜の厚さtを5μmとし、負極活物質の径方向の長さ(直径)を変更した際の電極の対向面積及びエネルギー密度を計算により求めた。
図8では、分離膜厚さtを5μmとし、正極集電箔厚さBを12μm、負極集電箔厚さDを10μmとして計算した。
図7に示すように、直径が50μm以上200μm以下の範囲では、電極対向面積が100cm
2以上である、即ちキャリアイオンの出入りする面積が増大し、且つエネルギー密度が700Wh/L以上という高エネルギー密度を実現可能であることがわかった。また、この二次電池10では、最大で1210Wh/Lを示すことがわかった。一方、
図8に示すように、従来の積層構造では、電極対向面積が100cm
2以上且つエネルギー密度が700Wh/L以上を示す合材膜厚は、25〜50μmで、且つエネルギー密度は最大で810Wh/Lであり、高エネルギー密度を得るのは困難であることがわかった。なお、
図6〜8の結果には、反応速度などは考慮されていない。このため、以下には二次電池を作製し、充放電の反応速度なども含めて考察した。上述した二次電池を具体的に作製した例を実施例として、以下説明する。
【0038】
[実施例1]
(柱状炭素材料の作製)
天然黒鉛60質量%、ポリ塩化ビニル25質量%、フタル酸ジイソブチル15質量%を混合後、ジオクチルフタレートで分散させて混練機で十分に混合分散させた。この混合物をペレット成型後、押出成型機を用いて成型体を作製した。ジオクチルフタレートを乾燥後アルゴンガス雰囲気中にて1000℃、10時間焼成処理することによって、直径300μm、長さ100mmの柱状炭素材料を得た。これを実施例1の柱状炭素材料とした。
【0039】
[実施例2〜5]
実施例1の押出成型機の成型条件を変更し、直径200μmの柱状炭素材料を作製し、これを実施例2とした。実施例1の押出成型機の成型条件を変更し、直径50μmの柱状炭素材料を作製し、これを実施例3とした。天然黒鉛を40質量%、非晶質炭素(日本カーボン製SCB−5)を20質量%、ポリ塩化ビニルを25質量%、フタル酸ジイソブチルを15質量%として混合したものを用い、実施例2の押出成型機の成型条件で直径200μmの柱状炭素材料を作製し、これを実施例4とした。非晶質炭素は、ピッチコークスを熱処理して得られた易黒鉛化炭素を用いた。実施例1の押出成型機の成型条件を変更し、直径200μm、低空孔率の柱状炭素材料を作製し、これを実施例5とした。
【0040】
[比較例1〜3]
天然黒鉛を25質量%、非晶質化炭素を35質量%、ポリ塩化ビニルを25質量%、フタル酸ジイソブチルを15質量%として混合したものを用い、実施例2の押出成型機の成型条件で直径200μmの柱状炭素材料を作製したものを比較例1とした。天然黒鉛を45質量%、ポリ塩化ビニルを40質量%、フタル酸ジイソブチルを15質量%とし、実施例2の混練機での混合分散に対してさらに押出成型機の成型条件を変更して高空孔率の柱状炭素材料を作製し、これを比較例2とした。実施例1の押出成型機の成型条件を変更し、直径500μmの柱状炭素材料を作製し、これを比較例3とした。
【0041】
(X線小角散乱測定)
X線小角散乱測定は、波長0.92Å(13.5keV)の放射光を用い、ビームサイズ(縦0.28mm×横0.99mm)、露光時間180秒の条件で測定した。測定結果を
図9に示す。算出式(結晶部002回折ピーク面積)/(結晶部002回折ピーク面積+非晶質部面積)を用いて結晶化度を算出した。
【0042】
(柱状炭素材料の空孔率の測定)
空孔率は、カンタクローム社製のPoreMaster60−GTを使用して水銀圧入法により測定した。測定試料を入れたサンプルセルに水銀を圧入して求めた細孔容積(P)、試料の嵩容積(V)から下式より空孔率を算出した。
空孔率=P/(P+V)×100
【0043】
(供試電池の作製)
上記作製した柱状炭素材料を用い、
図1に示した構造のリチウムイオン二次電池を作製した。作製手順を以下に示す。長さ100mmの柱状炭素材料を負極電極とした。この柱状炭素材料の外周に分離膜(電解質膜)としてPVdF−HFP膜をディップコートで約5μm塗布し、乾燥した。この乾燥体の外周に正極スラリーをディップコートして乾燥、高密度化し、電子伝導性と結着性を有する複合正極活物質を配置した。正極スラリーは、正極活物質としてのLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2と、導電材としてのカーボンブラックと、結着材としてのPVdFとを質量比で90/7/3で混合し、分散媒を加えた混合体とした。コート量は正負極容量比が1.0になるように制御した。この電極柱状体を200本束ね、柱状電極の間隙が正極電極内の空孔率と等しくなるように高密度化し、正極電極の電子伝導性を向上させた。また、柱状炭素材料の端面を金属で集電し、それを束ねることで負極の集電を行った。このように、正極合材の中にPVdF−HFPでコートされ、電子的に並列接合された柱状炭素材料が均一に配置する電極体を作製した。電極はAlラミネート袋に挿入し、電解液を注入して封止した。非水電解液には、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートとを体積比で30/40/30で混合した混合溶媒にLiPF
6を1.0Mの濃度で溶解させたものを用いた。
【0044】
(ハイレート特性)
ハイレート特性は、以下のように評価した。まず、上記作製した供試電池を用い、25℃の温度環境下、2.5V〜4.1Vの範囲で、C/4レート及び2Cレートで充放電させ、各々の放電容量を求めた。そして、C/4レートでの放電容量に対する2Cレートでの放電容量の割合を下式により求めた。
(2Cの放電容量)/(C/4の放電容量)×100%
【0045】
(結果と考察)
各柱状炭素材料の直径(μm)、空孔率(体積%)、結晶化度及び柱状炭素材料を用いた供試電池のハイレート特性を表1にまとめた。表1に示すように、負極に用いられる柱状炭素材料の直径は50〜300μmであることが好ましく、空孔率は10〜30体積%であることが好ましく、結晶化度は0.5〜0.9の範囲であることが好ましいことがわかった。これらを満たす柱状炭素材料を用いたセルでは、ハイレート特性が50%以上と高く、大容量で充放電することができることがわかった。これは、柱状の負極活物質の表面に分離膜を形成し、その上に正極活物質を含む正極合材層を形成し、結束した構造を有することにより、キャリアであるLiイオンの移動距離が好適になったこと、及び負極でのLiイオンの吸蔵放出が円滑になったためであると推察された。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0048】
例えば、各電極は作製プロセスを問わず、電極の断面形状も円や六角だけでなく、四角や多角形としてもよい。集電部材も集電線でなく発泡金属などでもよい。電極を被覆する分離膜は、ポリマー電解質でなくとも、固体電解質(酸化物、硫化物)でも、ゲルポリマー電解質、真性ポリマー電解質(PEO等)でもよい。電解液はLi電池に用いられているLiPF
6系電解液でなくてもよく、水系電解液でも、濃厚系有機電解液でも、溶媒に不燃性溶媒を用いた不燃有機電解液でも、さらには固体電解質(全固体電池)でもよい。