特許第6919489号(P6919489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6919489
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】エンジンの潤滑経路構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20210805BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   F02F7/00 301F
   F01M1/06 Q
   F01M1/06 Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-198603(P2017-198603)
(22)【出願日】2017年10月12日
(65)【公開番号】特開2019-73981(P2019-73981A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】恩地 耕平
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 弘喜
【審査官】 楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−096292(JP,A)
【文献】 特開2008−025369(JP,A)
【文献】 特開平07−063119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
F02F 1/20
F01M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクウェブを備えたクランクシャフトと、
このクランクシャフトの回転軸を左右方向に位置づけて前記クランクシャフトを収容するクランク室、並びにこのクランク室に連通し前記クランク室の下方に設けられてオイルを貯溜するオイル溜り室を備えるクランクケースと、を有するエンジンにおいて、
前記クランクケースの内側における、前記クランクシャフトの前記回転軸よりも上方及び前方で且つ前記クランクウェブの外周面近傍位置に突出して設けられた凸部材と、
この凸部材に形成され、上方に開口してオイルを回収する回収溝と、
前記クランクケースに形成され、流入口が前記回収溝に開口し、流出口が前記クランク室の下部に設けられたオイル排出機構に開口し、このオイル排出機構の作用でオイルを前記オイル溜り室へ導くオイル排出通路と、を有することを特徴とするエンジンの潤滑経路構造。
【請求項2】
前記クランクケースには、クランクケースの上部に設置されるシリンダからクランクウェブへ向かって斜め下方へ傾斜する斜面部が設けられ、この斜面部における前記クランクウェブ側の下端縁が、前記クランクウェブの外周面の最上位置よりも下方に位置づけられたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの潤滑経路構造。
【請求項3】
前記斜面部は、回収溝へ向かって斜め下方へ傾斜してオイルを前記回収溝へ導くよう構成され、この斜面部における前記回収溝側の下端縁が、前記回収溝に連続する位置、または前記回収溝よりも高い位置に設けられたことを特徴とする請求項2に記載のエンジンの潤滑経路構造。
【請求項4】
前記オイル排出機構は、クランク室を形成するクランクケースの側壁の下部であってクランクウェブの側面に対向して形成された凹部と、前記クランクウェブとを備えてなり、前記凹部にオイル排出通路の流出口が開口し、
前記クランクウェブの回転移動により、前記流出口から前記凹部内に流出したオイルを前記クランクケースのオイル溜り室へ排出するよう構成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエンジンの潤滑経路構造。
【請求項5】
前記凸部材は、オイルジェットへオイルを供給するオイル供給通路が形成されたリブであり、このリブの上面における前記オイル供給通路とクランクケースの前壁との間に回収溝が設けられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエンジンの潤滑経路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの潤滑経路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン内のピストンやシリンダ、クランクシャフトを潤滑し冷却したオイルは、クランク室内を下方へ流れて、このクランク室内に配置されたクランクシャフト及びクランクウェブと連れまわる。特に、単気筒エンジンでコンパクト化が要請されるエンジンでは、クランクケースの側壁とクランクウェブの外側面との距離が接近しているので、その間に存在するオイルよって、クランクシャフト及びクランクウェブに引きずり抵抗と称する回転抵抗(オイルの粘性による抵抗)が発生して、エンジンのメカニカルロスが増大する恐れがある。
【0003】
特許文献1には、エンジンのクランク室内において、クランクウェブの外側面と対向するクランクケースの側壁に、オイルをオイル溜り室へ排出させるオイル排出溝が設けられた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−96292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術によれば、オイル排出溝内のオイルが、回転するクランクウェブによってオイル溜り室へ排出されることで、クランクシャフト及びクランクウェブを収容するクランク室内に溜まるオイルが減少するので、オイルによるクランクシャフトの回転抵抗を低減させることができる。しかしながら、この特許文献1に記載の技術では、クランク室の上方において、クランクシャフトの回転でクランクウェブによりクランクシャフトの径方向に飛散したオイルや、シリンダから流下するオイルを回収する機構が存在しないため、これらのオイルは全てクランク室内へ流れ込んでいる。
【0006】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、クランクシャフトに設けられたクランクウェブとクランクケースの側壁との間に流入するオイルをその手前で効率よく回収して減少させ、オイルによるクランクシャフトの回転抵抗を低減してエンジンのメカニカルロスを低下できるエンジンの潤滑経路構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエンジンの潤滑経路構造は、クランクウェブを備えたクランクシャフトと、このクランクシャフトの回転軸を左右方向に位置づけて前記クランクシャフトを収容するクランク室、並びにこのクランク室に連通し前記クランク室の下方に設けられてオイルを貯溜するオイル溜り室を備えるクランクケースと、を有するエンジンにおいて、前記クランクケースの内側における、前記クランクシャフトの前記回転軸よりも上方及び前方で且つ前記クランクウェブの外周面近傍位置に突出して設けられた凸部材と、この凸部材に形成され、上方に開口してオイルを回収する回収溝と、前記クランクケースに形成され、流入口が前記回収溝に開口し、流出口が前記クランク室の下部に設けられたオイル排出機構に開口し、このオイル排出機構の作用でオイルを前記オイル溜り室へ導くオイル排出通路と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クランクケースの上部に設置されたシリンダから流下するオイル、及びクランクシャフトの回転によりクランクシャフトの径方向に飛散されるオイルを凸部材の回収溝により回収し、オイル排出通路及びオイル排出機構を経てオイル溜り室へ排出させることができる。この結果、クランクシャフトのクランクウェブとクランクケースの側壁との間に流入するオイルを、その手前で効率よく回収して減少させることができ、オイルによるクランクシャフトの回転抵抗を低減して、エンジンのメカニカルロスを低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るエンジンの潤滑経路構造における一実施形態が適用されたエンジンを示す左側断面図。
図2図1のII−II線に沿う断面図。
図3図1及び図2の右クランクケース及びクランクシャフト等を左斜め前方から目視して示す斜視図。
図4図3の右クランクケースを左斜め後方から目視して示す斜視図。
図5図1及び図4の右クランクケースの一部を拡大して示す部分左側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係るエンジンの潤滑経路構造における一実施形態が適用されたエンジンを示す左側断面図である。また、図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。この実施形態における前後、左右、上下の表現は、本実施形態のエンジンを搭載した自動二輪車に乗車する乗員を基準にしたものである。
【0011】
図1及び図2に示すエンジン10は、自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載される4サイクル単気筒エンジンであり、クランクケース11にシリンダアッセンブリ12が若干前傾して設置されて構成される。シリンダアッセンブリ12は、クランクケース11の上部に略円筒形状のシリンダ13が嵌め込まれて配置され、このシリンダ13にシリンダヘッド14、ヘッドカバー(不図示)が順次配置されて構成される。
【0012】
クランクケース11は、エンジン10の幅方向(左右方向)であってクランクシャフト18の回転軸O方向に分割可能となっている。つまり、クランクケース11は、左クランクケース11Lと右クランクケース11Rとが結合されて構成され、この結合によりクランク室15、オイル溜り室16及びミッション室17が形成される。クランク室15内にクランクシャフト18が、その回転軸Oをエンジン10の幅方向(左右方向)に位置づけて、回転自在に収容される。また、オイル溜り室16は、クランク室15の下方に、オイル排出口19を介してクランク室15に連通し、潤滑油としてのオイル(エンジンオイル)を貯溜する。更に、ミッション室17内には、図示しない減速機構が収容される。
【0013】
クランクシャフト18は、回転軸Oに対して同軸な回転軸部20とクランクウェブ21とが一体に成形され、これらのクランクウェブ21がクランクピン22により連結されて構成される。クランクウェブ21は、クランクシャフト18の回転軸Oに対して垂直な外側面21Aを備える。このクランクシャフト18は、回転軸部20が軸受23を介して、クランクケース11の側壁24に回転自在に支持される。この側壁24は、クランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)においてクランクジャーナル部を構成する側壁であり、この側壁24に軸受23が設置されている。
【0014】
左クランクケース11Lと右クランクケース11Rのそれぞれの側壁24は、クランクシャフト18の回転軸Oに対して略垂直な内面を有している。そして、側壁24の内面はクランクシャフト18におけるクランクウェブ21の外側面21Aに対向して接近して配置される。これにより、クランク室15の容積が最小限に設定されて、エンジン10のコンパクト化が図られる。
【0015】
シリンダ13内にはピストン26が、シリンダ13の軸線P方向に往復移動可能に収容される。このピストン26とクランクシャフト18とがコンロッド27を用いて接続されて、ピストン26の往復運動がクランクシャフト18の回転運動に変換される。ここで、クランクシャフト18の回転方向を図1及び図3に矢印Rで示す。また、コンロッド27の小端部は、ピストンピン28を介してピストン26に揺動自在に連結される。またコンロッド27の大端部は、クランクピン22を介してクランクシャフト18に揺動自在に連結される。
【0016】
シリンダヘッド14内には、シリンダ13の内壁面、シリンダヘッド14の下面及びピストン26の上面によって囲まれた燃焼室29に、燃料と空気の混合気を供給する吸気ポート30と、燃焼室29外へ燃焼ガスを排出する排気ポート31とが形成されている。また、シリンダヘッド14内には、吸気ポート30を開閉する吸気バルブ32と、排気ポート31を開閉する排気バルブ33と、これらの吸気バルブ32、排気バルブ33を駆動する図示しない動弁機構が設置されている。
【0017】
上述のように構成されたエンジン10では、エンジン10の各部、例えばシリンダ13とピストン26との摺動部分、コンロッド27の両端の軸部分(ピストンピン28、クランクピン22)、及びクランクシャフト18の軸受部分(軸受23)は、オイルによって潤滑され、更に、シリンダ13の内面と燃焼室29に面するピストン26は、上記オイルによって冷却される。
【0018】
特に、シリンダ13とピストン26との摺動部分、及びコンロッド27とピストン26との軸部分(ピストンピン28)の潤滑、並びにピストン26の冷却のために、クランク室15の上部に、オイルジェットとしてのピストンジェット35(図3図4)が設けられている。このピストンジェット35は、クランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)の前壁に後方へ突出して設けられた凸部材としてのリブ36に、開口してまたはノズル形状に(本実施形態では開口して)形成されて、オイルポンプにて送られてくるオイルを噴射する。詳細には、このピストンジェット35は、ピストン26の裏面へ向かってオイルを噴射する。リブ36は、クランクシャフト18の回転軸Oの方向に沿って延びて形成され、クランクケース11の側壁24の上部に形成されたオイル通路37(図5)からのオイルをピストンジェット35へ供給するためのオイル供給通路38を、内部に備える。
【0019】
図1及び図2に示すように、シリンダ13、ピストン26及びクランクシャフト18等のエンジン10の各部を潤滑し冷却したオイルは、クランク室15の内部、及び後述のオイル回収装置40(図5)を経て、クランクケース11の下部のオイル溜り室16に貯溜される。このオイル溜り室16内に貯溜されたオイルは、図示しないオイルポンプにより送り出されて、エンジン10の各部へ再び供給される。
【0020】
図1及び図5に示すように、上述のオイル回収装置40は、クランク室15の上方から流下または落下するオイルをクランク室15の上部で回収して、クランク室15内において、クランクケース11の側壁24とクランクシャフト18のクランクウェブ21の外側面21Aとの間を流れるオイル量を減少させるものであり、前記リブ36、回収溝41、斜面部42、オイル排出通路43及びオイル排出機構44を有して構成される。
【0021】
リブ36は、前述の如く、クランク室15の上部におけるクランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)の前壁に設けられる。詳細には、クランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)の内側における、クランクシャフト18の回転軸Oよりも上方及び前方で、且つクランクウェブ21の外周面21Bの近傍でこの外周面21Bの最上位置よりも下方位置に設けられる。そして、このリブ36は後方へ突出し、クランクシャフト18の回転軸O方向に沿って延びて形成される。
【0022】
回収溝41は、図1図3及び図4に示すように、リブ36の上面に左右方向に沿って(クランクシャフト18の回転軸O方向に沿って)形成されている。回収溝41を構成する為に、リブ36の先端(後端)に上方に突出するフランジを設けることが出来る。本実施形態では、フランジを設ける代わりにオイル供給通路38を内蔵する為の上方への膨出形状を利用して、回収溝41を構成している。つまり、車両の前後方向でクランクケース11の前壁の内面とオイル供給通路38の膨出形状との間のリブ36の上面に、上方に開口した左右方向に沿って延びる窪みとして形成される。従って、この回収溝41は、リブ36と同様に、クランクシャフト18の回転軸Oよりも上方及び前方で、且つクランクウェブ21の外周面21B近傍でこの外周面21Bの最上位置よりも下方位置に設けられる。そして、回収溝41は、リブ36の上面にクランクシャフト18の回転軸O方向に沿って形成されて、シリンダ13の内面から流下するオイル、及びクランクシャフト18の回転でクランクウェブ21によりクランクシャフト18の径方向に飛散されたオイルを捕捉して回収する。また、リブ36の先端はクランクウェブ21の外周面21Bの近傍に配置され、クランクウェブ21に連れまわるオイルを掻き取る。
【0023】
斜面部42は、図2及び図3に示すように、クランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)において、シリンダ13が嵌め込まれる略円筒状のシリンダ収容部25と、シリンダ収容部25よりも幅が狭い縦壁であってクランクシャフト18が支持される側壁24との境界に配置されている。そして、斜面部42は、シリンダ収容部25の内面の下端に連続し、側壁24の上端部に連続するように形成される。つまり、シリンダ収容部25の内径に対して両クランクウェブ21の回転軸O方向の寸法が狭く設定され、更にクランクウェブ21の外側面21Aに接近して、クランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)の側壁24が配置されている。このことから、側壁24の上端部に、シリンダ収容部25の壁面に連続して斜面部42が形成される。
【0024】
この斜面部42は、シリンダ収容部25に嵌め込まれるシリンダ13の下方に配置され、シリンダ収容部25の内面からクランクウェブ21へ向かって斜め下方へ傾斜して設定されている。さらに、この斜面部42のクランクウェブ21側の下端縁42Aが、クランクウェブ21の外周面21Bの最上位置よりも下方に位置づけられる。つまり、クランクウェブ21の上部は、斜面部42の下端縁42Aよりも上方に突出する様に配置されている。これにより、図3及び図4の矢印Aに示すように、斜面部42上を流れ落ちるオイルの一部は、クランクウェブ21に到達したときに、クランクウェブとクランクケースの側壁との間に流入する前に、このクランクウェブ21の回転によってクランクシャフト18の径方向へ飛散される。更に、斜面部42上を流れ落ちるオイルの一部は、クランクウェブ21に到達したときにクランクウェブ21に付着し、外周面21Bの近傍に配置されたリブ36に運ばれて掻き取られる。
【0025】
また、図1図3及び図4に示すように、シリンダアッセンブリ12がクランクケース11に対して前傾して設置され、更に、エンジン10が自動二輪車に搭載されたときにシリンダアッセンブリ12が鉛直方向に対して前傾した状態になることで、斜面部42は、エンジン10の自動二輪車への搭載状態で前側が低くなる。そして、斜面部42の下端縁42Aは自動二輪車への搭載状態で前側が低くなる。つまり、斜面部42は、回収溝41へ向かって斜め前下方へ傾斜してオイルを回収溝41へ導くよう構成される。更に、この斜面部42の下端縁42Aにおける回収溝41側の下端縁42Bは、回収溝41に連続する位置、または回収溝41よりも高い位置に設けられている。つまり、回収溝41は、斜面部42の下端縁42Aよりも下方に配置されている。そして、このような配置構成によって図3及び図4の矢印Bに示すように、斜面部42上を流れるオイルの一部を回収溝41へ導く。
【0026】
オイル排出通路43は、図4及び図5に示すように、クランクケース11における左クランクケース11Lと右クランクケース11Rの少なくとも一方(本実施形態では右クランクケース11R)の側壁24の内部に形成されている。更に、エンジン10の側面視(クランクシャフト18の回転軸方向視)でクランクウェブ21と部分的に重なる位置に形成される。このオイル排出通路43は、回収溝41からクランクシャフト18の回転軸Oの下方に設けられるオイル排出機構44の後述の凹部50に至り、互いに連続する第1加工孔45及び第2加工孔46を有して構成される。
【0027】
第1加工孔45は、リブ36の回収溝41に対してクランクケース11のシリンダ収容部25側から下方へ孔加工され、上端が回収溝41に開口する流入口47となる。また、第2加工孔46は、クランクケース11外からオイル排出機構44の凹部50へ向かって孔加工され、第1加工孔45と連通すると共に、下端が、凹部50を形成する前面に開口して流出口48となる。この第2加工孔46の上端は、栓49が挿入されて閉塞される。このオイル排出通路43は、回収溝41にて回収されたオイルが流入してオイル排出機構44の凹部50へ流す。
【0028】
オイル排出機構44は、図1図4及び図5に示すようにクランク室15の下部に設けられ、凹部50を有して構成される。凹部50は、クランクケース11の左クランクケース11Lと右クランクケース11Rの少なくとも一方(本実施形態では右クランクケース11R)における側壁24の下部に、クランクウェブ21の外側面21Aに対向して形成される。また、凹部50は、クランクシャフト18の回転方向Rにおけるオイル排出口19よりも上流側に、クランクシャフト18の回転軸Oを中心とする円弧形状に形成される。更に、凹部50は、オイル排出口19側の後面に近づくに従って深く形成され、また、前述の如く前面にオイル排出通路43の流出口48が開口する。尚、オイル排出口19は、クランクケース11の下部に、クランクウェブ21の外周面21Bに対向してクランクシャフト18の回転方向Rの上流側に向かって開口して形成される。
【0029】
オイル排出通路43の流出口48から凹部50内に流出したオイルは、オイル排出口19側へ流れて、オイル溜り室16内へ排出される。また、クランクシャフト18の回転により回転移動するクランクウェブ21側へ流動し、このクランクウェブ21によりオイル排出口19側へ押し出されて、クランク室15内のオイルと共に、オイル溜り室16内へ排出される。回転移動するクランクウェブ21の作用により凹部50内のオイルが引き出されてオイル排出口19側へ押し出されることによって、オイル排出通路43内のオイルは、その流れがスムーズになって搬送量が増大し、凹部50及びオイル排出口19を経てオイル溜り16へ排出される。尚、クランクウェブ21の作用により凹部50内から引き出されて連れまわるオイルは、オイル排出口19の開口縁部で掻き落とされてオイル排出口19に流れこむ。オイル排出通路43の流出口48が凹部50の前面に開口することで、加工方向に略垂直な面を構成することが容易となって、第2加工孔46の孔加工が容易になるとともに、刃具の寿命が長くなって生産性が向上する。
【0030】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(3)を奏する。
(1)図1図4及び図5に示すように、クランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)の前壁の内側には、クランクシャフト18の回転軸Oよりも上方及び前方で且つクランクウェブ21の外周面21B近傍位置にリブ36が突出して設けられる。このリブ36の上面に、上方に開口してオイルを回収する回収溝41が形成されている。更に、クランクケース11の右クランクケース11Rにはオイル排出通路43が、その流入口47を回収溝41に開口させ、流出口48を、クランク室15の下部に設けられたオイル排出機構44の凹部50に開口させて形成される。そして、このオイル排出機構44におけるクランクウェブ21の回転移動の作用で、オイル排出通路43から凹部50内に流出したオイルがオイル溜り室16へ導かれる。
【0031】
従って、クランクケース11の上部のシリンダ収容室25に設置されたシリンダ13から流下するオイル、及びクランクシャフト18の回転でクランクウェブ21によりクランクシャフト18の径方向に飛散されるオイルを、リブ36の回収溝41により回収し、オイル排出通路43及びオイル排出機構44(凹部50)を経てオイル溜り室16へ排出させることができる。この結果、クランクウェブ21の外側面21Aとクランクケース11の側壁24との間に流入するオイルを、その手前で効率よく回収して減少することができるので、オイルによるクランクシャフト18の回転抵抗を低減して、エンジン10のメカニカルロスを低下させ、エンジン10の出力及び燃費を向上させることができる。
【0032】
(2)図2及び図3に示すように、クランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)の側壁24には、シリンダ収容部25に配置されるシリンダ13からクランクウェブ21へ向かって斜め下方へ傾斜する斜面部42が設けられている。この斜面部42は更に、エンジン10の自動二輪車への搭載状態で、クランクケース11(左クランクケース11L、右クランクケース11R)の前壁に突設されたリブ36の回収溝41へ向かって斜め前下方へ傾斜してオイルを回収溝41へ導くよう構成されている。このため、斜面部42に落下または流下したオイルは、その一部がクランクウェブ21により飛散すると共に、残部が回収溝41にて回収されることになるので、回収溝41によるオイルの回収を効率的に実施できる。
【0033】
(3)図4に示すように、オイルを回収する回収溝41は、ピストンジェット35へオイルを供給するオイル供給通路38を形成するために設けられたリブ36の上面に形成されたので、回収溝41に専用のリブを設ける必要がない。このため、クランクケース11の構造が複雑にならず、エンジン10の大型化を回避できる。
【0034】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0035】
例えば、本実施形態では、自動二輪車に搭載されるエンジンに本発明が適用される場合を述べたが、自動三輪車や不整地走行車、自動四輪車等に搭載されるエンジンに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…エンジン、11…クランクケース、13…シリンダ、15…クランク室、16…オイル溜り室、18…クランクシャフト、21…クランクウェブ、21A…外側面、21B…外周面、24…側壁、35…ピストンジェット(オイルジェット)、36…リブ(凸部材)、38…オイル供給通路、40…オイル回収装置、41…回収溝、42…斜面部、42A、42B…下端縁、43…オイル排出通路、44…オイル排出機構、47…流入口、48…流出口、50…凹部、O…回転軸。
図1
図2
図3
図4
図5