(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、AlN基板の酸化の影響について説明する。まず、AlN基板が酸化されていない場合について説明する。酸素原子がない場合には、Al原子が配置された面とN原子が配置された面との組が、c軸方向に繰り返し配列されている。
【0006】
次に、AlN基板が大気により自然に酸化されている場合について説明する。AlN基板の表面が自然に酸化されることにより、N原子の一部は酸素原子に置換される。つまり、AlNの酸化により基板の上にAlONが部分的に形成される。AlNに酸素原子が入ると、例えば、c軸方向に…−Al−N−Al−O−Al−O−…という結合ができる。このAl−O−Alの結合があることにより、極性が反転する。そして、部分的な酸化のために、基板の上層に成長させる半導体層には、III 族極性面が優勢な箇所と窒素極性面が優勢な箇所とが発生する。その結果、基板の上に成長させる半導体層の結晶性は比較的悪い。また、このような半導体層の不純物濃度は比較的高い。このままでは、高性能な半導体発光素子を製造することは困難である。AlN膜の結晶性を向上させる技術として、例えば、特許文献1が挙げられる。
【0007】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、AlN基板等のAlを含有する基板を用いて、半導体層の極性の部分的な反転を抑制しつつ半導体層を成長させたIII 族窒化物半導体発光素子とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様におけるIII 族窒化物半導体発光素子は、基板と、基板に接触している状態で形成された第1の酸化膜と、第1の酸化膜に接触している状態で形成された第1のIII 族窒化物層と、第1のIII 族窒化物層に接触している状態で形成された第2の酸化膜と、第2の酸化膜の上に形成された第1導電型の第1半導体層と、第1半導体層の上に形成された発光層と、発光層の上に形成された第2導電型の第2半導体層と、を有する。基板は、AlN基板またはAlGaN基板である。第1の酸化膜は、Al原子とN原子とO原子とを含有するものである。第1のIII 族窒化物層は、AlNまたはAlGaNからなる。第2の酸化膜は、Al原子とN原子とO原子とを含有するものである。
第1の酸化膜の膜厚および第2の酸化膜の膜厚は、3nm以上100nm以下の範囲内である。
【0009】
このIII 族窒化物半導体発光素子は、AlN基板またはAlGaN基板の上に第1の酸化膜と第1のIII 族窒化物層と第2の酸化膜とを有する。均一かつ完全に酸化された第1の酸化膜および第2の酸化膜が、下層からの極性を反転させる。そのため、1つの半導体層のうちにIII 族極性面が優勢な箇所と窒素極性面が優勢な箇所との共存状態が発生するおそれがほとんどない。これにより、不純物濃度および結晶性に優れた半導体層を成長させることができる。
【0010】
第1の酸化膜は、基板の表面が酸化されたものであるとよい。第2の酸化膜は、第1のIII 族窒化物層の表面が酸化されたものであるとよい。第1導電型の第1半導体層の極性は、基板の極性と同じであるとよい。基板は、AlNであり、第1のIII 族窒化物層は、AlNであるとよい。この場合、第1の酸化膜は、AlONであり、第2の酸化膜は、AlONである。第1の酸化膜の膜厚および第2の酸化膜の膜厚は、好ましくは、3nm以上100nm以下の範囲内である。好ましくは、第1のIII 族窒化物層のAl組成は、0.5以上である。好ましくは、第1導電型の第1半導体層のAl組成は、0.5以上である。
【0011】
第2の態様におけるIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法は、基板の上に第1の酸化膜を形成する第1の酸化膜形成工程と、第1の酸化膜の上に第1のIII 族窒化物層を形成する第1のIII 族窒化物層形成工程と、第1のIII 族窒化物層の上に第2の酸化膜を形成する第2の酸化膜形成工程と、第2の酸化膜の上に第1導電型の第1半導体層を形成する第1半導体層形成工程と、第1半導体層の上に発光層を形成する発光層形成工程と、発光層の上に第2導電型の第2半導体層を形成する第2半導体層形成工程と、を有する。この製造方法においては、基板としてAlN基板またはAlGaN基板を用いる。第1の酸化膜形成工程では、第1の酸化膜としてAl原子とN原子とO原子とを含有する酸化膜を形成する。第1のIII 族窒化物層形成工程では、第1のIII 族窒化物層としてAlN層またはAlGaN層を形成する。第2の酸化膜形成工程では、第2の酸化膜としてAl原子とN原子とO原子とを含有する酸化膜を形成する。
第1の酸化膜の膜厚および第2の酸化膜の膜厚は、3nm以上100nm以下の範囲内である。
【発明の効果】
【0012】
本明細書では、AlN基板等のAlを含有する基板を用いて、半導体層の極性の部分的な反転を抑制しつつ半導体層を成長させたIII 族窒化物半導体発光素子とその製造方法が提供されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、具体的な実施形態について、半導体発光素子とその製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。しかし、本明細書の技術はこれらの実施形態に限定されるものではない。また、後述する半導体発光素子の各層の積層構造および電極構造は、例示である。実施形態とは異なる積層構造であってももちろん構わない。そして、それぞれの図における各層の厚みの比は、概念的に示したものであり、実際の厚みの比を示しているわけではない。
【0015】
(第1の実施形態)
1.半導体発光素子
図1は、第1の実施形態の発光素子100の概略構成を示す図である。
図1に示すように、発光素子100は、フェイスアップ型の半導体発光素子である。発光素子100は、III 族窒化物半導体から成る複数の半導体層を有する。また、発光素子100は、紫外発光する素子である。
【0016】
図1に示すように、発光素子100は、基板S1と、第1の酸化膜O1と、第1のIII 族窒化物層I1と、第2の酸化膜O2と、n型コンタクト層110と、n側クラッド層130と、発光層140と、p側クラッド層150と、p型コンタクト層160と、透明電極TE1と、n電極N1と、p電極P1と、を有する。
【0017】
n型コンタクト層110と、n側クラッド層130とは、n型半導体層である。ここで、n型半導体層は、第1導電型の第1半導体層である。p側クラッド層150と、p型コンタクト層160とは、p型半導体層である。ここで、p型半導体層は、第2導電型の第2半導体層である。また、n型半導体層は、ドナーをドープしていないud−GaN層等を有していてもよい。p型半導体層は、アクセプターをドープしていないud−GaN層等を有していてもよい。
【0018】
基板S1は、+c極性のAlN基板である。
図1では基板S1の主面は平坦である。基板S1の主面は凹凸形状を有していてもよい。
【0019】
第1の酸化膜O1は、基板S1の主面の上に直接接触している状態で形成されている。第1の酸化膜O1は、基板S1におけるAlNの表面が酸化されることにより得られた表面酸化膜である。第1の酸化膜O1は、例えば、表面のAlNが酸化されることにより基板上に均一に得られたAl2 O3 またはAlOx Ny である。基板S1がAlGaNの場合には、第1の酸化膜O1は、表面のAlGaNが酸化されることにより基板上に均一に得られたAla Gab Ox Ny である。
【0020】
第1のIII 族窒化物層I1は、第1の酸化膜O1に直接接触している状態で形成されている。第1のIII 族窒化物層I1は、第1の酸化膜O1と第2の酸化膜O2との中間に位置する中間層である。第1のIII 族窒化物層I1の材質は、例えば、AlX Ga1-X N(0<X≦1)である。
【0021】
第2の酸化膜O2は、第1のIII 族窒化物層I1に直接接触している状態で形成されている。第2の酸化膜O2は、第1のIII 族窒化物層I1の表面が酸化することにより得られた表面酸化膜である。第2の酸化膜O2は、例えば、Alx Ga1-x N(AlNを含む)が酸化することにより均一に得られたAl2 O3 、AlOx Ny 、Ala Gab Ox Ny のいずれかである。
【0022】
第1の酸化膜O1の膜厚および第2の酸化膜O2の膜厚は、好ましくは、2nm以上100nm以下である。より好ましくは、3nm以上100nm以下である。第1の酸化膜O1および第2の酸化膜O2は、それぞれ、基板S1のおよび第1のIII 族窒化物層I1の表面上にこれらの膜厚で均一に形成されている。第1の酸化膜O1の膜厚は、基板S1の極性から第1のIII 族窒化物層I1の極性に完全かつ均一に反転させるために十分な膜厚である。第2の酸化膜O2の膜厚は、第1のIII 族窒化物層I1の極性からn型コンタクト層110の極性に完全かつ均一に反転させるために十分な膜厚である。
【0023】
n型コンタクト層110は、n電極N1とオーミック接触をとるためのものである。n型コンタクト層110は、第2の酸化膜O2に直接接触している状態で形成されている。また、n型コンタクト層110の上には、n電極N1が位置している。n型コンタクト層110は、例えば、n型GaNである。
【0024】
n側クラッド層130は、発光層140に加わる応力を緩和するための歪緩和層である。n側クラッド層130は、n型コンタクト層110の上に形成されている。n側クラッド層130は、例えば、SiドープしたAlGaN層を積層したものである。もちろん、半導体の材料は、その他の組成の半導体層であってもよい。
【0025】
発光層140は、電子と正孔とが再結合することにより発光する層である。発光層140は、n側クラッド層130の上に形成されている。発光層140は、井戸層と障壁層とを積層した単位積層体を繰り返し積層したものである。つまり、発光層140は、多重量子井戸構造を有する。また、発光層140は、井戸層の上に形成されたキャップ層を有していてもよい。また、発光層140は、単一量子井戸構造であってもよい。
【0026】
p側クラッド層150は、発光層140の上に形成されている。p側クラッド層150は、p型AlGaN層を積層したものである。もちろん、半導体の材料は、その他の組成の半導体層であってもよい。
【0027】
p型コンタクト層160は、透明電極TE1とオーミック接触するためのものである。p型コンタクト層160は、p側クラッド層150の上に形成されている。p型コンタクト層160の材質は、例えば、AlY Ga1-Y N(0≦Y<1)である。
【0028】
透明電極TE1は、電流を発光面内に拡散するためのものである。透明電極TE1は、p型コンタクト層160の上に形成されている。透明電極TE1の材質は、ITO、IZO、ICO、ZnO、TiO2 、NbTiO2 、TaTiO2 、SnO2 のいずれかであるとよい。透明電極TE1は青色透明電極であってもよい。
【0029】
p電極P1は、透明電極TE1の上に形成されている。p電極P1は、Ni、Au、Ag、Co、等から1以上を組み合わせて形成したものである。もちろん、これ以外の構成であってもよい。p電極P1は、p型半導体層と導通している。
【0030】
n電極N1は、n型コンタクト層110の上に形成されている。n電極N1は、Ni、Au、Ag、Co、Ti、V等から1以上を組み合わせて形成したものである。もちろん、これ以外の構成であってもよい。n電極N1は、n型半導体層と導通している。
【0031】
また、発光素子100は、半導体層を保護する保護膜を有していてもよい。
【0032】
2.酸化膜
2−1.酸化膜の周辺構造
図2は、酸化膜の周辺を抜き出して描いた図である。
図2に示すように、基板S1は、主面S1uを有している。第1の酸化膜O1は、下面O1dと上面O1uとを有する。第1のIII 族窒化物層I1は、下面I1dと上面I1uとを有する。第2の酸化膜O2は、下面O2dと上面O2uとを有する。n型コンタクト層110は、下面110dを有する。
【0033】
図2に示すように、第1の酸化膜O1の下面O1dは、基板S1の主面S1uと接触している。第1の酸化膜O1の上面O1uは、第1のIII 族窒化物層I1の下面I1dと接触している。
【0034】
第2の酸化膜O2の下面O2dは、第1のIII 族窒化物層I1の上面I1uと接触している。第2の酸化膜O2の上面O2uは、n型コンタクト層110の下面110dと接触している。
【0035】
2−2.酸化膜における極性反転
ここで、第1の酸化膜O1および第2の酸化膜O2は、極性反転層である。まず、酸素原子がない場合について説明する。酸素原子がない場合には、Al原子が配置された面とN原子が配置された面との組が、c軸方向に繰り返し配列されている。
【0036】
基板S1の表面のAlNが均一かつ一様に酸化された場合には、基板S1の表面の窒素原子は酸素原子に置き換えられ、Al−O共有結合が生成される。このとき、酸素原子およびAl原子の結晶は、八面体配位構造を有する。八面体配位の極性は、基板S1のAlNの極性により決定される。したがって、O原子とAl原子の八面体結晶の上に成長するIII 族窒化物半導体の極性は、基板S1のAlNの結晶の極性と反対である。よって、Al−O−Alの結合があることにより、極性が反転する。
【0037】
第1の酸化膜O1のO原子とAl原子の八面体配位結晶が存在するため、第1のIII 族窒化物層I1の下面I1dはAl極性面(+c面)であり、第1のIII 族窒化物層I1の上面I1uはN極性面(−c面)である。第2の酸化膜O2のO原子とAl原子の八面体配位結晶が存在するため、n型コンタクト層110の下面110dはN極性面(−c面)である。つまり、
図2の矢印で示すように、基板S1の極性はAl極性(+c極性)である。第1のIII 族窒化物層I1の極性はN極性(−c極性)である。n型コンタクト層110の極性はAl極性(+c極性)である。このように、n型コンタクト層110の極性は、基板S1の極性と同じである。第1のIII 族窒化物層I1の極性は、基板S1およびn型コンタクト層110の極性と反対である。
【0038】
図2の矢印に示すように、第1の酸化膜O1は、半導体層の極性をAl極性(+c極性)からN極性(−c極性)に変える。第2の酸化膜O2は、半導体層の極性をN極性(−c極性)からGa極性(+c極性)またはAl極性(+c極性)に変える。
【0039】
第1のIII 族窒化物層I1およびn型コンタクト層110が0.5以上のAl組成を有するAlGaNである場合には、第1の酸化膜O1および第2の酸化膜O2は、極性反転に有効である。好ましくは、第1のIII 族窒化物層I1およびn型コンタクト層110のAl組成は0.8以上である。
【0040】
基板S1の酸化または第1のIII 族窒化物層I1の酸化が全面に対して均一かつ完全でなかった場合には、窒素極性面が支配的な箇所とAl極性面またはGa極性面が支配的な箇所との混合状態が発生する。例えば1000℃以上の高温状況下では、Al組成の小さい+c極性のAlGaNは、−c極性のAlGaNの上に横方向成長する。結果として、第1のIII 族窒化物層I1のAlGaNを厚く成長させたとすると、基板S1の上に+c極性のAlGaNが得られる。
【0041】
高温下であっても、Al組成が0.5以上のAlGaNが横方向成長するのは困難である。結果として、Al組成が0.5以上のAlGaNをを成長させるために、第1の酸化膜O1は、基板S1の全面のAlGaNの均一な極性を得るために特に有効である。好ましくは、AlGaNのAl組成は0.8以上である。
【0042】
第2の酸化膜O2についても同様である。n型コンタクト層110のAlGaNを厚く成長させたとすると、第1のIII 族窒化物層I1の上に+c極性のAlGaNが得られる。Al組成が0.5以上のAlGaNをを成長させるために、第2の酸化膜O2は、第1のIII 族窒化物層I1のAlGaNの均一な極性を得るために特に有効である。好ましくは、AlGaNのAl組成は0.8以上である。
【0043】
図2に示すように、極性を反転させる効果を備える第1の酸化膜O1および第2の酸化膜O2はハッチングされている。
【0044】
2−3.極性反転の効果
通常、AlN基板は、製造後に製造装置から取り出される。その場合には、大気中の酸素によりAlN基板が部分的に自然に酸化されてしまう。AlN基板の表面上に部分的に酸化膜が形成されるため、AlN基板の表面上で極性反転が部分的に生じる。そして、先行技術によれば、極性反転の程度に局所的にばらつきが生じる。そのため、このようなAlN基板の上にIII 族窒化物半導体層を成長させた場合に、一つの層の内部でAl極性が優勢な箇所とN極性が優勢な箇所とが生じることがあった。
【0045】
これに対して、本実施形態では、あえてAlを含有する酸化膜(第1の酸化膜O1等)を形成することによって、一旦は全体的に極性を反転させる。これにより、Al極性が優勢な箇所とN極性が優勢な箇所とが生じることを抑制することができる。次に、Alを含有する第2の酸化物層O2により極性を均一に反転させることにより、成長させようとする半導体層(例えば、n型コンタクト層110)の極性が得られる。したがって、発光素子100における半導体層の結晶性はよく、不純物濃度は低い。
【0046】
3.半導体発光素子の製造方法
ここで、本実施形態に係る発光素子100の製造方法について説明する。半導体層を成長させる際には、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により、各半導体層の結晶をエピタキシャル成長させる。ここで用いるキャリアガスは、水素(H2 )もしくは窒素(N2 )もしくは水素と窒素との混合気体(H2 +N2 )である。窒素源として、アンモニアガス(NH3 )を用いる。Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 )3 )を用いる。In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 )3 )を用いる。Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH3 )3 )を用いる。n型ドーパントガスとして、シラン(SiH4 )を用いる。p型ドーパントガスとして、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Mg(C5 H5 )2 )を用いる。また、これら以外のガスを用いてもよい。
【0047】
3−1.基板のクリーニング
基板S1をH2 ガスでクリーニングする。基板温度は1100℃程度である。もちろん、その他の基板温度であってもよい。
【0048】
3−2.第1の酸化膜形成工程
次に、表面が部分的に酸化している基板S1の上に第1の酸化膜O1を形成する。第1の酸化膜O1としてAl原子とN原子とO原子とを含有する酸化膜を形成する。そのために、基板温度を25℃以上400℃以下の範囲内として酸素雰囲気中で基板S1を加熱する。基板温度は200℃以上400℃以下であってもよい。または、基板S1を大気中またはMOCVD炉の外部の酸素雰囲気中に放置してもよい。
【0049】
3−3.第1のIII 族窒化物層形成工程
次に、第1の酸化膜O1の上に第1のIII 族窒化物層I1を形成する。その際にMOCVD法を用いてもよい。また、スパッタリングを用いてもよい。このときの基板温度は850℃以上1200℃以下の範囲内である。この温度範囲では、AlNが好適に成長する。第1の酸化膜O1の上に成長する第1のIII 族窒化物層I1(例えばAlN)の極性は、酸素原子の八面体結晶と第1の酸化膜O1のAlの極性により決定される。酸素原子の八面体結晶およびAlの極性は、基板の極性の反対である。したがって、Al極性(+c極性)の基板の上に成長するAlNの極性は、均一なN極性(−c極性)である。
【0050】
3−4.第2の酸化膜形成工程
次に、第1のIII 族窒化物層I1の上に表面酸化膜として第2の酸化膜O2を形成する。第2の酸化膜O2としてAl原子とN原子とO原子とを含有する酸化膜を形成する。そのために、第1の酸化膜O1および第1のIII 族窒化物層I1を形成された基板S1を酸素雰囲気中で25℃以上400℃以下の範囲内で加熱する。加熱温度は200℃以上400℃以下であってもよい。基板S1を大気中またはMOCVD炉の外部の酸素雰囲気中に放置してもよい。
【0051】
3−5.第1半導体層形成工程
3−5−1.n型コンタクト層形成工程
次に、第2の酸化膜O2の上にn型コンタクト層110を形成する。このときの基板温度は、900℃以上1140℃以下である。この温度範囲内では、n型コンタクト層110のGaNは好ましく成長する。第2の酸化膜O2の上に成長するGaNの極性は、酸素原子の八面体結晶および第2の酸化膜O2のAlの極性により決定される。酸素原子の八面体結晶およびAlの極性は、第1のIII 族窒化物層I1の極性と反対である。そのため、N極性(−c極性)の第1のIII 族窒化物層I1の上に成長するGaNの極性は、均一なGa極性(+c極性)、すなわちIII 族金属極性である。したがって、半導体層の均一かつ完全な極性のために、発光素子100における半導体層は優れた結晶性を有する。
【0052】
n型コンタクト層110のAl組成は、0.5以上のAlGaN(AlNを含む)であってもよい。この場合には、前述の理由により、第2の酸化膜O2は均一な極性を得るために特に有効である。より好ましくは、n型コンタクト層110のAl組成は、0.8以上である。
【0053】
3−5−2.n側クラッド層形成工程
次に、n型コンタクト層110の上にn側クラッド層130を形成する。そのために、SiドープしたAlGaN層を積層する。
【0054】
3−6.発光層形成工程
次に、n側クラッド層130の上に発光層140を形成する。そのために、井戸層と障壁層とを積層した単位積層体を繰り返し積層する。また、井戸層を形成した後にキャップ層を形成してもよい。
【0055】
3−7.第2半導体層形成工程
3−7−1.p側クラッド層形成工程
次に、発光層140の上にp側クラッド層150を形成する。ここでは、p型AlGaN層を積層する。
【0056】
3−7−2.p型コンタクト層形成工程
次に、p側クラッド層150の上にp型コンタクト層160を形成する。
【0057】
3−8.透明電極形成工程
次に、p型コンタクト層160の上に透明電極TE1を形成する。
【0058】
3−9.電極形成工程
次に、透明電極TE1の上にp電極P1を形成する。そして、レーザーもしくはエッチングにより、p型コンタクト層160の側から半導体層の一部を抉ってn型コンタクト層110を露出させる。そして、その露出箇所に、n電極N1を形成する。p電極P1の形成工程とn電極N1の形成工程は、いずれを先に行ってもよい。
【0059】
3−10.その他の工程
また、上記の工程の他、熱処理工程、絶縁膜形成工程、その他の工程を実施してもよい。以上により、
図1に示す発光素子100が製造される。
【0060】
4.変形例
4−1.フリップチップ
図3は、変形例における発光素子200の概略構成を示す図である。発光素子200は、フリップチップ型の半導体発光素子である。発光素子200は、反射層R1を有する。反射層R1は、透明電極TE1とp電極P1との間に配置されている。
【0061】
4−2.基板の材質
本実施形態では、基板S1はAlN基板である。しかし、基板S1はAlGaN基板であってもよい。また、基板は、サファイア基板の上にAlNもしくはAlGaNが形成されたテンプレート基板であってもよい。
【0062】
4−3.第1の酸化膜の材質
本実施形態では、第1の酸化膜O1の材質はAl2 O3 、AlOx Ny 、Ala Gab Ox Ny のいずれかである。しかし、第1の酸化膜O1の材質は、その他のAlを含有するIII 族窒化物が酸化したものであってもよい。その場合であっても、第1の酸化膜O1は、Al原子とN原子とO原子とを含有する。
【0063】
4−4.第1のIII 族窒化物層の材質
本実施形態の第1のIII 族窒化物層I1の材質はAlN、AlGaNまたはGaNであってもよい。
【0064】
4−5.第2の酸化膜の材質
本実施形態では、第2の酸化膜O2の材質はAl2 O3 、AlOx Ny 、Ala Gab Ox Ny のいずれかである。しかし、第2の酸化膜O2の材質は、その他のAlを含有するIII 族窒化物が酸化したものであってもよい。その場合であっても、第2の酸化膜O2は、Al原子とN原子とO原子とを含有する。
【0065】
4−6.第2の酸化膜の上層
本実施形態では、第1の酸化膜O2の上にはn型コンタクト層110が形成されている。しかし、第1の酸化膜O2とn型コンタクト層110との間に任意のIII 族窒化物層を形成してもよい。
【0066】
4−7.半導体層の積層構造
本実施形態においては、第2の酸化膜O2の上に、n型コンタクト層110と、n側クラッド層130と、発光層140と、p側クラッド層150と、p型コンタクト層160と、を形成する。しかし、これ以外の積層構造であってももちろん構わない。また、上記の各層の積層構造も、本実施形態で説明した構成以外の構成であってもよい。
【0067】
4−8.極性反転
第1の実施形態においては、第1のIII 族窒化物層I1が成長する基板S1の表面S1uが、Al極性面(+c面)である。第1のIII 族窒化物層I1の極性は、成長方向に沿ってN極性面(−c極性)である。第2の酸化膜O2の上に成長するn型コンタクト層110の極性は、成長方向に沿ってGa極性面またはAl極性面(+c極性)である。しかし、基板の極性は反対であってもよい。つまり、基板S1の表面S1uが、N極性面(−c面)であってもよい。その場合には、第1のIII 族窒化物層I1は、Al極性またはGa極性(+c極性)である。そして、n型コンタクト層110の極性は、N極性(−c極性)である。
【0068】
4−9.発光波長
本実施形態の発光素子100は、紫外発光する素子である。本明細書の技術は、基板および全てのエピタキシャル層がAlGaN(AlNを含む)であり紫外発光する発光素子(井戸層にInを含む発光素子を除く)に対して特に有効である。しかし、発光素子は紫外線以外の波長の光を発してもよい。
【0069】
4−10.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0070】
5.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態の発光素子100は、第1の酸化膜O1と、第1のIII 族窒化物層I1と、第2の酸化膜O2と、を有する。第1の酸化膜O1と、第2の酸化膜O2とは、下地層からの極性を反転させる。そのため、成長させる半導体層の内部でIII 族極性面とN極性面とが混在することを抑制することができる。つまり、半導体層の結晶性はよい。
【0071】
なお、以上に説明した実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、半導体層の成長方法は、有機金属気相成長法(MOCVD法)に限らない。キャリアガスを用いて結晶を成長させる方法であれば、他の方法を用いてもよい。また、液相エピタキシー法、分子線エピタキシー法等、その他のエピタキシャル成長法により半導体層を形成することとしてもよい。