特許第6919744号(P6919744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6919744
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20210805BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20210805BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210805BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20210805BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   B60C1/00 A
   B60C11/00 D
   B60C11/00 B
   C08K3/013
   C08L21/00
   C08L101/00
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2020-78382(P2020-78382)
(22)【出願日】2020年4月27日
【審査請求日】2020年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼村 健二
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−031117(JP,A)
【文献】 特開2010−174232(JP,A)
【文献】 特開2003−292672(JP,A)
【文献】 特表2002−503177(JP,A)
【文献】 特開2004−263046(JP,A)
【文献】 特開2014−189694(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0171120(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2019/0144646(US,A1)
【文献】 特開2007−119582(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/191222(WO,A1)
【文献】 特表2019−519432(JP,A)
【文献】 特開2005−23505(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2019/0225778(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0282444(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0144643(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
B60C 11/00
C08K 3/013
C08L 21/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を備えたタイヤであって、
前記タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量WT(kg)の比(WT/WL)が0.0176以下であり、
前記トレッド部は、ゴム成分および熱可塑性エラストマーを含有するゴム組成物からなる少なくとも1層のゴム層を有し、
前記熱可塑性エラストマーは、JIS K 6394に準拠した動的粘弾性試験(温度依存測定10Hz)において、−20〜20℃の範囲にtanδピーク値を示し、そのピーク値が1.00以上である、タイヤ。
【請求項2】
前記WT/WLが0.0174以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物の、初期歪み5%、動歪み1%、周波数10Hzの条件下で測定した15℃におけるtanδが0.10以上であり、初期歪み10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で測定した30℃における複素弾性率(E*)が8.0MPa以下である請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物の比重が、1.200以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物が補強用充填剤をさらに含み、ゴム成分100質量部に対する補強用充填剤の含有量が75質量部以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーが、水素添加熱可塑性エラストマーを含むものである、請求項1〜のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記トレッド部が、最表面を構成する外層と、外層より内側に位置する内層の少なくとも2層からなるものであり、これら各層の少なくとも一つが前記ゴム組成物からなるものである、請求項1〜のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記タイヤ重量(WT)(kg)に対する、前記ゴム組成物の初期歪み5%、動歪み1%、周波数10Hzの条件下で測定した15℃におけるtanδの比(tanδ(15℃)/WT)が、0.010以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り心地性能が改善されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤでは、燃費の向上の観点から軽量化が求められている。特許文献1には、軽量化のためゴムボリュームを低減した所定のタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−43281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ゴムボリュームを低減した重量の軽いタイヤは、乗り心地が悪く、特に、摩耗が進むと、ますますその傾向が大きくなるという課題がある。
【0005】
本発明は、軽量でありながら乗り心地を向上することができるタイヤ、とりわけ、摩耗による乗り心地の悪化を抑制することができるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、タイヤの最大負荷能力に対するタイヤ重量を所定の範囲以下とした軽量タイヤにおいて、トレッド部を、ゴム成分および所定の熱可塑性エラストマーを含有するゴム組成物からなる少なくとも1層のゴム層を有するものとすれば、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]トレッド部を備えたタイヤであって、
前記タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量WT(kg)の比(WT/WL)が0.0180以下、好ましくは0.0179以下、より好ましくは0.0178以下、さらに好ましくは0.0177以下、さらに好ましくは0.0176以下、さらに好ましくは0.0175以下、さらに好ましくは0.0174以下であり、
前記トレッド部は、ゴム成分および熱可塑性エラストマーを含有するゴム組成物からなる少なくとも1層のゴム層を有し、
前記熱可塑性エラストマーは、JIS K 6394に準拠した動的粘弾性試験(温度依存測定10Hz)において、−20〜20℃の範囲、好ましくは−15〜20℃の範囲、より好ましくは−13〜20℃の範囲、さらに好ましくは−10〜20℃の範囲にtanδピーク値を示し、そのピーク値が1.00以上、好ましくは1.10以上、より好ましくは1.15以上、さらに好ましくは1.20以上である、タイヤ、
[2]前記ゴム組成物の15℃におけるtanδが0.10以上、好ましくは0.11以上、より好ましくは0.12以上であり、30℃における複素弾性率(E*)が8.0MPa以下、好ましくは7.9以下、より好ましくは7.8以下、さらに好ましくは7.7以下、さらに好ましくは7.6以下、さらに好ましくは7.5以下である上記[1]記載のタイヤ、
[3]前記ゴム組成物の比重が、1.200以下、好ましくは1.198以下、より好ましく1.195以下、さらに好ましくは1.193以下である、上記[1]または[2]記載のタイヤ、
[4]前記ゴム組成物が補強用充填剤をさらに含み、ゴム成分100質量部に対する補強用充填剤の含有量が75質量部以下、好ましくは74質量部以下、より好ましくは73質量部以下、さらに好ましくは72質量部以下、さらに好ましくは71質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のタイヤ、
[5]前記熱可塑性エラストマーが、水素添加熱可塑性エラストマーを含むものである、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のタイヤ、
[6]前記トレッド部が、最表面を構成する外層と、外層より内側に位置する内層の少なくとも2層からなるものであり、これら各層の少なくとも一つが前記ゴム組成物からなるものである、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のタイヤ、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
タイヤの最大負荷能力に対するタイヤ重量を所定の範囲以下とし、かつ、トレッド部を、ゴム成分および所定の熱可塑性エラストマーを含有するゴム組成物からなる少なくとも1層のゴム層を有するものとした本発明のタイヤは、軽量でありながら、乗り心地を向上すること、とりわけ、摩耗による乗り心地の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】タイヤの断面図の一例である。
図2】タイヤの断面図において、タイヤ断面幅Wt、タイヤ断面高さHt、タイヤ外径Dtを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施形態であるタイヤは、トレッド部を備えたタイヤであって、前記タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量WT(kg)の比(WT/WL)が0.0180以下であり、前記トレッド部は、ゴム成分および熱可塑性エラストマーを含有するゴム組成物からなる少なくとも1層のゴム層を有し、前記熱可塑性エラストマーは、JIS K 6394に準拠した動的粘弾性試験(温度依存測定10Hz)において、−20〜20℃の範囲にtanδピーク値を示し、そのピーク値が1.00以上であるタイヤである。
【0011】
理論に拘束されることは意図しないが、本開示において、軽量でありながら、乗り心地を向上すること、とりわけ、摩耗による乗り心地の悪化を抑制することができるメカニズムとしては、以下が考えられる。すなわち、タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量WT(kg)の比(WT/WL)が0.0180以下である本開示のタイヤは、比較的軽量のため路面からの入力を緩和しにくいので、振動し易く振動周波数が高くなる傾向にある。また、摩耗によってさらにその傾向は大きくなる。そこで、低温域にピークを有する熱可塑性エラストマーを配合すると、これにより振動エネルギーを熱エネルギーに変換することができるので、路面からの入力を緩和することができる。このため、軽量タイヤでも乗り心地が改善し、かつ、維持することができるものと考えられる。
【0012】
なお、本明細書において最大負荷能力WL(kg)は、タイヤに250kPaの圧力で空気を充填したときのタイヤ断面幅をWt(mm)、タイヤ断面高さをHt(mm)、タイヤ外径をDt(mm)としたとき、下記式(1)および(2)により算出される値であり、JATMA規格で定められるロードインデックス(LI)に基づく最大負荷能力よりも50kg〜100kgほど小さい値となる。
V={(Dt/2)^2−(Dt/2−Ht)^2}×π×Wt ・・・(1)
L=0.000011×V+100 ・・・(2)
【0013】
前記ゴム組成物において、15℃におけるtanδ(tanδ(15℃))は0.10以上であることが好ましく、30℃における複素弾性率(E*(30℃))は8.0MPa以下であることが好ましい。tanδ(15℃)とE*(30℃)を上記範囲内とすることで、トレッド用ゴム組成物全体によって振動を吸収できるので、乗り心地性能を維持することができると考えられる。tanδ(15℃)は0.11以上であることがより好ましく、0.12以上であることがさらに好ましい。一方、上記観点からは、tanδ(15℃)の上限は特に限定されないが、通常、0.25以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましい。E*(30℃)は7.9以下であることがより好ましく、7.8以下であることがさらに好ましく、7.7以下であることがさらに好ましく、7.6以下であることがさらに好ましく、7.5以下であることがさらに好ましい。一方、上記観点からは、E*(30℃)の下限は特に限定されないが、通常、4.0以上であることが好ましく、4.5以上であることがより好ましい。tanδ(15℃)は、例えば、シリカの含有量を増やすことにより上昇させることができ、逆に、シリカの含有量を減らすことにより低下させることができる。E*(30℃)は例えば、加硫剤の含有量を増やすことにより上昇させることがき、加硫剤の含有量を減らすことにより低下させることができる。tanδ(15℃)およびE*(30℃)は後述する実施例の欄に記載の方法により測定される値である。
【0014】
前記ゴム組成物の比重は、1.200以下であることが好ましい。該比重を上記範囲内としてトレッド重量を軽くすることで、耐摩耗性能の悪化を防ぎ、摩耗による乗り心地の悪化を抑制することができると考えられる。該比重は、1.198以下であることがより好ましく、1.195以下であることがさらに好ましく、1.193以下であることがさらに好ましい。一方、上記観点からは、該比重の下限は特に限定されないが、通常、1.160以上であることが好ましく、1.165以上であることがさらに好ましく、1.170以上であることがさらに好ましい。比重は、例えば、シリカの含有量を増やすことにより上昇させることができ、逆に、シリカの含有量を減らすことにより低下させることができる。
【0015】
前記ゴム組成物は、補強用充填剤をさらに含み、ゴム成分100質量部に対する補強用充填剤の含有量が75質量部以下であることが好ましい。補強用充填剤の量が75質量部以下であることで、ゴム組成物中のゴム成分および熱可塑性エラストマーの相対的割合が増えるので、乗り心地を維持することができると考えらえる。該含有量は、74質量部以下であることがより好ましく、73質量部以下であることがさらに好ましく、72質量部以下であることがさらに好ましく、71質量部以下であることがさらに好ましく、70質量部以下であることがさらに好ましい。一方、上記観点からは、該含有量の下限は特に限定されないが、通常、50質量部以上であることが好ましく、55質量部以上であることがより好ましい。
【0016】
前記熱可塑性エラストマーは、水素添加熱可塑性エラストマーを含むものであることが好ましい。熱可塑性エラストマーは水素添加することで耐摩耗性能が高くなるので、摩耗による乗り心地の悪化をより一層抑えることができ、軽量タイヤの乗り心地を長期間維持することができると考えられる。
【0017】
前記トレッド部が最表面を構成する外層と、外層より内側に位置する内層の少なくとも2層からなるものである場合、これら各層の少なくとも一つが前記ゴム組成物からなるものである。この場合において、前記ゴム組成物からなるゴム層をどの層とするかは、特に制限されない。例えば、最外層を第一層とし、タイヤの内側に第二層が存在する場合、いずれか1層を前記ゴム組成物からなるものとする他、2層すべてを前記ゴム組成物からなるものとしてもよい。また、第二層の内側にさらに第三層が存在する場合、任意の1層を前記ゴム組成物からなるものとする他、任意の2層を前記ゴム組成物からなるものとしてもよいし、3層すべてを前記ゴム組成物からなるものとしてもよい。さらに層が増えても同様である。
【0018】
本開示の一実施形態であるタイヤについて詳細に説明する。
【0019】
本明細書において、ゴム組成物の比重とは、加硫後のゴム組成物についての比重であり、JIS K 2249−4:2011に基づいて測定される。
【0020】
数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「〜」にかかる上限および下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、実施例における数値を該上限および下限とすることもできる。また、「〜」によって数値範囲を特定する場合、特に断りのない限り、その両端の数値も含む意味である。
【0021】
<ゴム成分>
本開示において、ゴム成分としては、タイヤ工業において通常使用されるものをいずれも好適に使用することができる。そのようなゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ポリノルボルネンゴム等のジエン系ゴムの他、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等の非ジエン系ゴム等を挙げることができる。ゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ゴム成分は、ジエン系ゴムを含むことが好ましく、ジエン系ゴムのみからなるものであってもよい。また、ジエン系ゴムとしては、イソプレン系ゴム、SBRおよびBRからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。ゴム成分は、イソプレン系ゴムおよびSBRを含むゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBR、およびBRを含むゴム成分としてもよい。さらに、ゴム成分は、イソプレン系ゴムおよびSBRのみからなるゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBR、およびBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0023】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。このうち、天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。なかでも天然ゴムが好ましく、例えば、NRを好適に用いることができる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0025】
イソプレン系のゴム成分中の含有量は、加工性および耐久性能の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。一方、イソプレン系のゴム成分中の含有量の上限は特に制限されないが、トレッド部での減衰性による良好な乗り心地性能を得る観点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S−SBR)、乳化重合SBR(E−SBR)、これらの変性SBR(変性S−SBR、変性E−SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでも、低燃費性能および耐摩耗性能を良好に改善できるという点から、S−SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
SBRのスチレン含量は、トレッド部での減衰性の確保およびウェットグリップ性能の観点から、15質量%以上が好ましく、20質量%以上より好ましい。また、グリップ性能の温度依存性および耐摩耗性能の観点からは、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含有量は、1H−NMR測定により算出される。
【0028】
SBRのビニル結合量は、シリカとの反応性の担保、ゴム強度や耐摩耗性能の観点から10モル%以上が好ましく、13モル%以上がより好ましく、16モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル結合量は、温度依存性の増大防止、ウェットグリップ性能、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル結合量(1,2−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0029】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から15万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、25万以上がさらに好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、250万以下が好ましく、200万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製のGPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0030】
SBRとしては油展SBRを用いることもできるし、非油展SBRを用いることもできる。油展SBRを用いる場合、SBRの油展量、すなわち、SBRに含まれる油展オイルの含有量は、SBRのゴム固形分100質量部に対して、10〜50質量部であることが好ましい。
【0031】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、宇部興産(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)、ZSエラストマー(株)等により製造・販売されているSBRを使用することができる。
【0032】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、トレッド部での減衰性の確保およびウェットグリップ性能の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上がさらに好ましくい。また、トレッド部の発熱抑制による耐久性能向上の観点からは、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下が特に好ましい。
【0033】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量(シス−1,4結合含量)が50%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。BRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
希土類系BRは、タイヤ工業において一般的に用いられているもの使用することができる。希土類系BRの合成(重合)に使用する希土類元素系触媒は、公知のものを使用でき、例えば、ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒が挙げられる。なかでも、高シス含量、低ビニル含量のBRが得られる観点から、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジム(Nd)含有化合物を用いたNd系触媒が好ましい。
【0035】
SPB含有BRは、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。
【0036】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3−ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ−炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。
【0037】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製のGPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0038】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、住友化学(株)、JSR(株)、ランクセス(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0039】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、耐摩耗性能の観点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、ウェットグリップ性能の観点からは、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
<熱可塑性エラストマー>
熱可塑性エラストマーはJIS K 6394に準拠した動的粘弾性試験(温度依存測定10Hz)において、−20〜20℃の範囲にtanδピーク値を示し、そのピーク値が1.00以上である。該tanδピーク値が存在する温度範囲は、本開示の効果の観点から、好ましくは−15〜20℃の範囲であり、より好ましくは−13〜20℃の範囲であり、さらに好ましくは−10〜20℃の範囲である。該ピーク値は、好ましくは1.10以上であり、より好ましくは1.15以上であり、さらに好ましくは1.20以上である。本開示の観点から、該ピーク値について特に上限はないが、通常は2.00以下、ないし、1.50以下である。
【0041】
本明細書において、「熱可塑性エラストマー」とは、弾性を有する高分子化合物であって、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと、非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料を意味する。熱可塑性エラストマーは結晶性で融点の高いハードセグメントが、擬似的な架橋点として振る舞い弾性を発現する。熱可塑性エラストマーは、加熱してハードセグメントを一旦溶融させた後これを冷却すれば、擬似的な架橋点を再生することができるので、再利用が可能である。一方、ゴムは分子鎖中に二重結合などを有しており、硫黄等を加えて架橋(加硫)することで三次元の網目構造を生成し弾性を発現する。そのため、ゴムは、一旦架橋(加硫)するとこの三次元網目構造により流動性を失うので、加熱しても再利用が困難である。なお、本開示の熱可塑性エラストマーは、前記のゴム成分を含まないものとする。
【0042】
本開示において使用可能な熱可塑性エラストマーとしては特に限定されないが、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、なかでも、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましく、スチレン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。熱可塑性エラストマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0043】
(スチレン系熱可塑性エラストマー)
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとは、少なくとも1つのスチレンブロック(ハードセグメント)と少なくとも1つのエラストマーブロック(ソフトセグメント)とを有する共重合体である。スチレン系熱可塑性エラストマーの分子構造は特に限定されないが、スチレンブロックを片末端または両末端に有し、それ以外にエラストマーブロックを有する分子構造であることが好ましい。少なくとも片末端にスチレンブロックを有することにより、より良好なグリップ性能が得られる傾向がある。また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、末端以外の主鎖部分にスチレンブロックを有さない構造であることがより好ましい。そのような構造とすることにより、常温領域での熱可塑性エラストマーの硬度が高くなり過ぎず、より良好なグリップ性能が得られ、またより良好な破壊特性や耐摩耗性が得られる傾向がある。
【0044】
エラストマーブロックとしては、例えば、スチレン−ブタジエン(SB)などのビニル−ポリジエン、ポリイソプレン(IP)、ポリブタジエン、ポリエチレン、ポリクロロプレン、ポリ2,3−ジメチルブタジエン等が挙げられる。また、エラストマーブロックとして、前記のエラストマーブロックを水素添加(水添)したものを用いることもできる。
【0045】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン−イソブチレンブロック共重合体(SIB)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体(SEBC)、水素添加スチレン・ブタジエン共重合体(HSBR)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)等が挙げられる。
【0046】
スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレンユニットの含有率(スチレン含有率)は、グリップ性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、発熱性抑制の観点からは、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0047】
(ウレタン系熱可塑性エラストマー)
ウレタン系熱可塑性エラストマーとしては特に限定されないが、例えば、ポリオールおよびジイソシアネートより調製されるものを好適に使用することができる。ポリオールとしては、ポリエステル系ポリオール、ポリエステルエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオールおよびポリエーテル系ポリオール等が挙げられる。ジイソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。
【0048】
(オレフィン系熱可塑性エラストマー)
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−ブテン共重合体(EBR)、エチレン−ヘキセン共重合体(EHR)、エチレン−オクテン共重合体(EOR)等のエチレン・α−オレフィン共重合体;エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−イソプレン共重合体等のエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体等が挙げられる。
【0049】
(水素添加)
熱可塑性エラストマーは水素添加することで耐摩耗性能が高くなる。したがって、摩耗による乗り心地の悪化をより一層抑え、軽量タイヤの乗り心地を長期間維持する観点から、水素添加された熱可塑性エラストマーが好ましい。そのような水素添加熱可塑性エラストマーとしては、例えば、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0050】
熱可塑性エラストマーは水素添加熱可塑性エラストマーを含むものであることが好ましく、あるいは、水素添加熱可塑性エラストマーのみからなるものであることが好ましい。
【0051】
(変性)
熱可塑性エラストマーは、所望により、変性剤で変性して変性基を導入したものを使用することもできる。そのような変性基としては、この分野で通常使用するものをいずれも好適に使用することができ、例えば、アルコキシシリル基(例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基)等が挙げられる。例えば、スチレン末端を少なくとも一端に有するスチレン系熱可塑性エラストマーを合成後、変性剤としてクロロトリエトキシシランを用いて処理すれば、スチレン系熱可塑性エラストマーの活性末端にトリエトキシシリル基が導入された変性スチレン系熱可塑性エラストマーを得ることができる。
【0052】
熱可塑性エラストマーとしては、市販品を用いても、合成により得られたものを用いてもよい。市販品としては、例えば、旭化成(株)、(株)クラレによって製造販売されているものが挙げられる。
【0053】
ゴム成分100質量部に対する熱可塑性エラストマーの含有量は、本開示の効果の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、4質量部以上がさらに好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、35質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0054】
<補強用充填剤>
本開示に係るゴム組成物は、補強用充填剤として、カーボンブラックおよびシリカを含有することが好ましい。また、補強用充填剤は、カーボンブラックおよびシリカのみからなる補強用充填剤としてもよい。
【0055】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。また、分散性、低燃費性能、破壊特性および耐久性の観点からは、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217−2「ゴム用カーボンブラック基本特性−第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」のA法に準じて測定される値である。
【0057】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐候性や補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、トレッド部の発熱抑制による耐久性能向上の観点からは、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0058】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性およびトレッド部での減衰性の確保の観点から、140m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がより好ましく、160m2/g以上がさらに好ましく、170m2/g以上がさらに好ましい。また、発熱性および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037−93に準じてBET法で測定される値である。
【0060】
シリカの平均一次粒子径は、特に限定されないが、20nm以下が好ましく、18nm以下がより好ましく、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が前期の範囲であることによって、補強性、破壊特性、耐摩耗性をさらに改善できる傾向がある。なお、シリカの平均一次粒子径は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたシリカの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。
【0061】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、トレッド部での減衰性の確保およびウェットグリップ性能の観点から、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、35質量部以上がさらに好ましい。また、ゴム組成物の比重を低減させ軽量化を図る観点、またトレッド部の発熱抑制による耐久性能向上およびゴムの柔らかさによる乗り心地性能確保の観点からは、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、75質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下がさらに好ましく、65質量部以下がさらに好ましい。
【0062】
(その他の補強用充填剤)
シリカおよびカーボンブラック以外の補強用充填剤としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。
【0063】
シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0064】
補強用充填剤のゴム成分100質量部に対する合計含有量は、本開示の効果の観点から、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、75質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下がさらに好ましく、65質量部以下がさらに好ましい。また、補強性およびトレッド部での減衰性の確保の観点から、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、35質量部以上がさらに好ましく、40質量部以上がさらに好ましく、45質量部以上がさらに好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。
【0065】
なお、補強用充填剤がカーボンブラックおよびシリカのみからなる場合、補強用充填剤の合計含有量と、カーボンブラックおよびシリカのいずれか一方の含有量が上記に従い定まれば、残る他方の含有量は自ずと定まる。
【0066】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、下記のメルカプト基を有するシランカップリング剤;ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤;等が挙げられる。なかでも、スルフィド基を有するシランカップリング剤およびメルカプト基を有するシランカップリング剤の少なくとも一つを含有することが好ましく、スルフィド基を有するシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、モメンティブ社、エボニックデグサ社によって製造販売されているもの等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
メルカプト基を有するシランカップリング剤は、下記式(1)で表される化合物、および下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物の少なくとも一つであることが好ましい。
【化1】
(式中、R101、R102、およびR103は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル、炭素数1〜12のアルコキシ、または−O−(R111−O)z−R112(z個のR111は、それぞれ独立して、炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表し;R112は、炭素数1〜30のアルキル、炭素数2〜30のアルケニル、炭素数6〜30のアリール、または炭素数7〜30のアラルキルを表し;zは、1〜30の整数を表す。)で表される基を表し;R104は、炭素数1〜6のアルキレンを表す。)
【化2】
【化3】
(式中、xは0以上の整数を表し;yは1以上の整数を表し;R201は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシルもしくはカルボキシルで置換されていてもよい炭素数1〜30のアルキル、炭素数2〜30のアルケニル、または炭素数2〜30のアルキニルを表し;R202は、炭素数1〜30のアルキレン、炭素数2〜30のアルケニレン、または炭素数2〜30のアルキニレンを表し;ここにおいて、R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【0068】
式(1)で表される化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記式(4)で表される化合物等が挙げられる。これらシランカップリング剤としては、例えば、エボニックデグサ社製のもの等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化4】
【0069】
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、モメンティブ社製のもの等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0071】
<樹脂>
本開示に係るゴム組成物は、樹脂を含有することが好ましい。樹脂としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
(石油樹脂)
石油樹脂としては、例えば、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、C5C9系石油樹脂が挙げられる。石油樹脂は1種または2種以上を使用することができる。
【0073】
≪C5系石油樹脂≫
本明細書において「C5系石油樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4〜5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。C5系石油樹脂は1種または2種以上を使用することができる。
【0074】
≪芳香族系石油樹脂≫
本明細書において「芳香族系石油樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8〜10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α−メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα−メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、アリゾナケミカル社製のもの等の市販品が好適に用いられる。芳香族系石油樹脂は1種または2種以上を使用することができる。
【0075】
≪C5C9系石油樹脂≫
本明細書において「C5C9系石油樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、LUHUA社製、Qilong社製、東ソー(株)製のもの等の市販品が好適に用いられる。C5C9系石油樹脂は1種または2種以上を使用することができる。
【0076】
(テルペン系樹脂)
テルペン系樹脂としては、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ジペンテンなどのテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂、テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂などのテルペン系樹脂(水素添加されていないテルペン系樹脂)、ならびにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。ここで、芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエンなどが挙げられ、また、テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。テルペン系石油樹脂は1種または2種以上を使用することができる。
【0077】
(ロジン系樹脂)
ロジン系樹脂は、松脂を加工することにより得られるロジン酸を主成分とする樹脂である。ロジン系樹脂は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸等の樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の天然産のロジン樹脂(重合ロジン)の他、水素添加ロジン樹脂、不飽和カルボン酸変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等の変性ロジン樹脂、ロジングリセリンエステル、不飽和カルボン酸変性ロジンエステル等のロジンエステル、ロジン樹脂を不均化することによって得られる不均化ロジン樹脂等が例示される。ロジン系石油樹脂は1種または2種以上を使用することができる。
【0078】
(フェノール系樹脂)
フェノール系樹脂は、その構造にフェノール骨格を含む樹脂であり、例えば、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。フェノール系樹脂は1種または2種以上を使用することができる。
【0079】
樹脂としては、乗り心地性能、耐久性能およびウェットグリップ性能がバランスよく得られる観点から、芳香族系石油樹脂が好ましく、芳香族ビニル系樹脂がより好ましい。
【0080】
樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、乗り心地性能およびウェットグリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、耐久性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、9質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。
【0081】
<その他の配合剤>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、オイル、ワックス、加工助剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0082】
(オイル)
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルが挙げられる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、オイル芳香族系プロセスオイルを再抽出したTreated Distillate Aromatic Extract(TDAE)、アスファルトとナフテン油の混合油であるアロマ代替オイル、軽度抽出溶媒和物(mild extraction solvates)(MES)、および重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0083】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および耐久性能の観点からは、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0084】
(ワックス)
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0085】
(加工助剤)
加工助剤としては、未加硫時におけるゴムの低粘度化や離型性の確保を目的とした脂肪酸金属塩や、ゴム成分のミクロな層分離を抑制する観点から広く相溶化剤として市販されているもの等を使用することができる。
【0086】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0087】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩などの老化防止剤が挙げられる。
【0088】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0089】
(酸化亜鉛)
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0090】
(ステアリン酸)
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0091】
(加硫剤)
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0092】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、劣化防止の観点からは、7.0質量部以下が好ましく、6.0質量部以下がより好ましく、5.0質量部以下がさらに好ましい。
【0093】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等の硫黄原子を含む有機架橋剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。これら硫黄以外の加硫剤としては、田岡化学工業(株)製、フレキシス社製、ランクセス(株)製のもの等が挙げられる。
【0094】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド−アミン系もしくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤が好ましく、これら2種を併用することがより好ましい。
【0095】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、1,3−ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましい組合せとしては、例えば、CBSとDPGが挙げられる。
【0096】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0097】
<ゴム組成物>
ゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0098】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150〜170℃で1〜10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70〜110℃で1〜5分間混練りする方法が挙げられる。
【0099】
<タイヤ>
本開示のタイヤは、タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量WT(kg)の比(WT/WL)が0.0180以下である。ここで、該WT/WLは、好ましくは0.0179以下であり、より好ましくは0.0178以下であり、さらに好ましくは0.0177以下であり、さらに好ましくは0.0176以下であり、さらに好ましくは0.0175以下であり、さらに好ましくは0.0174以下である。該WT/WLの下限は、本開示の効果の観点からは特に限定されないが、例えば、0.0165以上、ないし、0.0167以上である。なお、WTは常法により変動させることができ、すなわち、タイヤの比重を大きくする、あるいは、タイヤの体積を大きくすることにより大きくすることができ、その逆により小さくすることもできる。
【0100】
本開示のタイヤにおいて、tanδ(15℃)/WTは、本開示の効果の観点から、0.010以上であることが好ましい。tanδ(15℃)/WTは好ましくは0.011以上であり、より好ましくは0.012以上である。tanδ(15℃)/WTの上限は特に限定されないが、通常、0.016以下程度である。
【0101】
本開示に係るタイヤは、上記ゴム組成物により構成されるトレッド部を備えるものであり、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、ランフラット用タイヤ、二輪車用タイヤ等に用いることができる。また、サマータイヤやオールシーズンタイヤに用いることができる。
【0102】
本開示のタイヤは通常の方法により製造することができる。例えば、上記で得られる未加硫のゴム組成物を、トレッド部を構成する少なくとも1層のゴム層の形状に合わせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150〜200℃で10〜30分間加硫する方法が挙げられる。
【実施例】
【0103】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0104】
<評価>
以下に示す各種薬品を用いて表1および表2に従って配合を変化させて得られるゴム組成物からなるトレッド部を有するタイヤ(図1に示すような構造のタイヤ)を想定して下記評価方法に基づいて算出した結果を表1および表2に示す。
【0105】
(各種薬品)
NR:TSR20
SBR:後述の製造例1で製造した変性溶液重合SBR(スチレン含量:30質量%、ビニル結合量:52モル%、Mw:25万、非油展品)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(ビニル結合量:1.5モル%、シス1,4−含有率:97%、Mw:44万)
熱可塑性エラストマー1(変性スチレン系熱可塑性エラストマー):後述の製造例2で製造した熱可塑性エラストマー(片末端にエトキシシリル基を有するスチレン−(SB)−スチレン型のブロック共重合体、tanδピーク値=1.23、ピーク温度=7℃)
熱可塑性エラストマー2(水添スチレン系熱可塑性エラストマー):旭化成(株)製のS.O.E S1605(スチレン−水添SB−スチレンブロック共重合体、tanδピーク値=1.38、ピーク温度=18℃)
熱可塑性エラストマー3(水添スチレン系熱可塑性エラストマー):(株)クラレ製「ハイブラー7125」(スチレン−水添IP−スチレンブロック共重合体、tanδピーク値=1.84、ピーク温度=−6℃)
熱可塑性エラストマー4(水添スチレン系熱可塑性エラストマー):旭化成(株)製のS.O.E S1611(スチレン−水添SB−スチレンブロック共重合体、tanδピーク値=0.83、ピーク温度=9℃)
熱可塑性エラストマー5(水添スチレン系熱可塑性エラストマー):旭化成(株)製のタフテックH1062(水添SEBS、tanδピーク値=0.86、ピーク温度=−47℃)
樹脂:アリゾナケミカル社製のSylvares SA85(α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイヤブラックN220(N2SA:115m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:17nm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:H&R社製のVivaTec400(TDAEオイル)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:細井化学工業(株)製のHK−200−5(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン(DPG))
【0106】
(製造例1)
SBRの合成
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、および1,3−ブタジエンを仕込む。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n−ブチルリチウムを添加して重合を開始する。断熱条件で重合し、最高温度は85℃に達する。重合転化率が99%に達した時点で1,3−ブタジエンを追加し、さらに5分重合させた後、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを変性剤として加えて反応を行う。重合反応終了後、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加する。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥し、SBRを得る。
【0107】
(製造例2)
熱可塑性エラストマー1の合成
攪拌装置付き耐圧容器中にシクロヘキサン800g、よく脱水したスチレン38gおよびsec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液(10wt%)を7.7g加え、50℃で1時間重合反応を行う。次いで、スチレン(S):ブタジエン(B)の混合物(S:B=3:4(モル比))127gを加えて1時間重合反応を行い、さらにその後スチレンを38g加えて1時間重合反応を行う。その後にクロロトリエトキシシラン2.5gを加え、最後にメタノールを添加して反応を停止する。片末端にエトキシシリル基を有するスチレン−(SB)−スチレン型のブロック共重合体を合成する。反応溶液を減圧蒸留し溶剤を取り除いて熱可塑性エラストマー1を得る。GPCより求めた数平均分子量は163,000、スチレン含有率は60%である。tanδピーク値=1.23、ピーク温度=7℃である。なお、GPCとして、東ソー(株)製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC−8020」を用い、溶媒はテトラヒドロフランを用い、標準ポリスチレン換算により測定を行う。
【0108】
(実施例および比較例)
各表に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150〜160℃になるまで1〜10分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を、トレッド部11の形状に成形し、他のタイヤ部材(サイドウォール部12、ビード部13、ビードコア14、カーカス15、スチールベルト16等)とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で12分間プレス加硫することで、試験用タイヤ1(195/65R15 91V)および試験用タイヤ2(195/60R15 88H)を作製する。
【0109】
(tanδおよび複素弾性率(E*)の測定)
各試験用タイヤから切り出した加硫ゴム組成物について、GABO社製の動的粘弾性測定装置「イプレクサー4000N」を用いて、15℃、初期歪み5%、動歪み1%、周波数10Hzの条件下でtanδを測定する。また、各試験用加硫ゴム組成物について、30℃、初期歪み10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で複素弾性率(E*)を測定する。
【0110】
(比重の測定)
各試験用タイヤから切り出した加硫ゴム組成物について、当該加硫ゴム組成物の温度を15℃とし、基準となる標準物質である水の温度を4℃として、JIS K 2249−4:2011にしたがって算出する。
【0111】
(乗り心地性能)
各試験用タイヤに、250kPaの圧力で空気を充填し自動車に装着する。この自動車を、その路面がアスファルトであるテストコースで走行させ、乗り心地性をテストドライバー10人が官能評価(1点から10点の10段階評価、点数が高い方が性能が良い)を行う。10人分の合計値に基づいて、基準比較例(比較例6または比較例12)が100となり、合計値に比例するように指数化して、評価結果とする。
【0112】
(摩耗後の乗り心地性能)
各試験用タイヤで3000km走行後、その乗り心地性能を、上記と同様に評価する。
【0113】
(総合性能)
本開示において、乗り心地と摩耗後の乗り心地との総合性能は、各指数の総和で表される。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
上記結果より、本開示のタイヤでは、乗り心地が向上すること、また、摩耗による乗り心地の悪化を抑制できることがわかる。
【符号の説明】
【0117】
10 タイヤ
11 トレッド部
12 サイドウォール部
13 ビード部
14 ビードコア
15 カーカス
16 スチールベルト
18 縦溝
30 リム
Wt タイヤ断面幅
Ht タイヤ断面高さ
Dt タイヤ外径
【要約】
【課題】軽量でありながら、乗り心地を向上することができるタイヤ、とりわけ、摩耗による乗り心地の悪化を抑制することができるタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部を備えたタイヤであって、前記タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量WT(kg)の比(WT/WL)が0.0180以下であり、前記トレッド部は、ゴム成分および熱可塑性エラストマーを含有するゴム組成物からなる少なくとも1層のゴム層を有し、前記熱可塑性エラストマーは、JIS K 6394に準拠した動的粘弾性試験(温度依存測定10Hz)において、−20〜20℃の範囲にtanδピーク値を示し、そのピーク値が1.00以上である、タイヤ。
【選択図】図1
図1
図2