【実施例1】
【0018】
図1は、本発明が適用された車両10の概略構成を説明する図である。
図1において、車両10は、走行用の駆動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた車両用動力伝達装置16(以下、動力伝達装置16)とを備えている。動力伝達装置16は、非回転部材としてのハウジング18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のロックアップクラッチ19付のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20の出力回転部材であるタービン軸と一体的に設けられた入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構としての公知のベルト式無段変速機24(以下、無段変速機24)、同じく入力軸22に連結された前後進切替装置26、前後進切替装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に配置された伝動機構としてのギヤ機構28、無段変速機24およびギヤ機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30およびカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36に連結されたデフギヤ38、デフギヤ38に連結された1対の車軸40等を備えている。このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12の動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、トルクコンバータ20、無段変速機24(或いは前後進切替装置26およびギヤ機構28)、減速歯車装置34、デフギヤ38、および車軸40等を順次介して1対の駆動輪14へ伝達される。また、トルクコンバータ20の入力回転部材であるポンプ翼車に、オイルポンプ41が動力伝達可能に連結されている。
【0019】
このように、動力伝達装置16は、エンジン12(ここではエンジン12の動力が伝達される入力回転部材である入力軸22でも同意)と駆動輪14(ここでは駆動輪14へエンジン12の動力を出力する出力回転部材である出力軸30でも同意)との間の動力伝達経路に並列に設けられた、無段変速機24およびギヤ機構28を備えている。よって、動力伝達装置16は、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を介して駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達するギヤ走行経路PT1と、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を介して駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達するベルト走行経路PT2とを備え、車両10の走行状態に応じてそのギヤ走行経路PT1とそのベルト走行経路PT2とが切り替えられるように構成されている。そのため、動力伝達装置16は、上記ギヤ走行経路PT1と上記ベルト走行経路PT2とを選択的に切り替えるクラッチ機構として、上記ギヤ走行経路PT1における動力伝達を断接するクラッチ機構としてのギヤ走行用クラッチC1および後進用ブレーキB1と、上記ベルト走行経路PT2における動力伝達を断接するクラッチ機構としてのベルト走行用クラッチC2とを備えている。ギヤ走行用クラッチC1、ベルト走行用クラッチC2、および後進用ブレーキB1は、断接装置に相当するものであり、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる公知の油圧式摩擦係合装置(摩擦クラッチ)である。また、ギヤ走行用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、後述するように、それぞれ前後進切替装置26を構成する要素の1つである。
【0020】
前後進切替装置26は、入力軸22まわりにその入力軸22に対して同軸心に設けられており、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、ギヤ走行用クラッチC1、および後進用ブレーキB1を主体として構成されている。遊星歯車装置26pのキャリヤ26cは入力軸22に一体的に連結され、遊星歯車装置26pのリングギヤ26rは後進用ブレーキB1を介してハウジング18に選択的に連結され、遊星歯車装置26pのサンギヤ26sは入力軸22まわりにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ42に連結されている。また、キャリヤ26cとサンギヤ26sとは、ギヤ走行用クラッチC1を介して選択的に連結される。このように構成された前後進切替装置26では、ギヤ走行用クラッチC1が係合されると共に後進用ブレーキB1が解放されると、入力軸22が小径ギヤ42に直結させられる。また、後進用ブレーキB1が係合されると共にギヤ走行用クラッチC1が解放されると、小径ギヤ42は入力軸22に対して逆方向へ回転させられる。また、ギヤ走行用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、ギヤ走行経路PT1は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
【0021】
ギヤ機構28は、小径ギヤ42と、ギヤ機構カウンタ軸44に相対回転不能に設けられてその小径ギヤ42と噛み合う大径ギヤ46とを含んで構成されている。従って、ギヤ機構28は、1つのギヤ段(ギヤ比)が形成される伝動機構である。ギヤ機構カウンタ軸44まわりには、アイドラギヤ48がギヤ機構カウンタ軸44に対して同軸心に相対回転可能に設けられている。ギヤ機構カウンタ軸44まわりには、更に、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48との間に、これらの間を選択的に断接する噛合式クラッチD1が設けられている。従って、噛合式クラッチD1は、ギヤ走行用クラッチC1および後進用ブレーキB1と同様に、動力伝達装置16に備えられた、上記ギヤ走行経路PT1における動力伝達を断接するクラッチ機構として機能する。具体的には、噛合式クラッチD1は、ギヤ機構カウンタ軸44に形成された第1ギヤ50と、アイドラギヤ48に形成された第2ギヤ52と、これら第1ギヤ50および第2ギヤ52と嵌合可能(係合可能、噛合可能)な内周歯が形成されたハブスリーブ54とを含んで構成されている。このように構成された噛合式クラッチD1では、ハブスリーブ54がこれら第1ギヤ50および第2ギヤ52と嵌合することで、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48とが接続される。
【0022】
また、噛合式クラッチD1は、第1ギヤ50と第2ギヤ52とを嵌合する際に回転を同期させる、同期機構としての公知のシンクロメッシュ機構S1をさらに備えている。アイドラギヤ48は、そのアイドラギヤ48よりも大径の出力ギヤ56と噛み合っている。出力ギヤ56は、出力軸30と同じ回転軸心まわりにその出力軸30に対して相対回転不能に設けられている。ギヤ走行用クラッチC1および後進用ブレーキB1の一方が係合され且つ噛合式クラッチD1が係合されると、エンジン12の動力が入力軸22から前後進切替装置26、ギヤ機構28、アイドラギヤ48、および出力ギヤ56を順次経由して出力軸30に伝達される、ギヤ走行経路PT1が成立させられる。すなわち、ギヤ走行用クラッチC1および後進用ブレーキB1の一方が係合され且つ噛合式クラッチD1が係合されると、ギヤ走行経路PT1すなわちギヤ機構28にエンジン12の動力が伝達される。
【0023】
無段変速機24は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路上に設けられている。無段変速機24は、入力軸22に設けられた有効径が可変のプライマリプーリ58と、出力軸30と同軸心の回転軸60に設けられた有効径が可変のセカンダリプーリ62と、その一対の可変プーリ58,62の間に巻き掛けられた伝動ベルト64とを備え、一対の可変プーリ58,62と伝動ベルト64との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる、よく知られたプッシュ式の無段変速機である。
【0024】
プライマリプーリ58は、入力軸22に対して同軸に取り付けられた入力側固定回転体としての固定シーブ58aと、入力軸22に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動シーブ58bと、それらの間のプーリ幅(V溝幅)を調整するために可動シーブ58bを移動させるための推力を発生させるプライマリ側油圧アクチュエータ58c(以下、油圧アクチュエータ58cと称す)とを、備えている。
【0025】
セカンダリプーリ62は、出力側固定回転体としての固定シーブ62aと、その固定シーブ62aに対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動シーブ62bと、それらの間のプーリ幅(V溝幅)を調整するために可動シーブ62bを移動させるための推力を発生させるセカンダリ側油圧アクチュエータ62c(以下、油圧アクチュエータ62cと称す)とを、備えて構成されている。
【0026】
無段変速機24では、一対の可変プーリ58,62のV溝幅が変化して伝動ベルト64の掛かり径(有効径)が変更されることで、変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる。例えば、プライマリプーリ58のV溝幅が狭くされると、ギヤ比γが小さくされる(すなわち無段変速機24がアップシフトされる)。また、プライマリプーリ58のV溝幅が広くされると、ギヤ比γが大きくされる(すなわち無段変速機24がダウンシフトされる)。出力軸30は、回転軸60まわりにその回転軸60に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。ベルト走行用クラッチC2は、無段変速機24よりも駆動輪14側に設けられており(すなわちセカンダリプーリ62と駆動輪14(出力軸30)との間に設けられており)、セカンダリプーリ62と出力軸30(駆動輪14)との間を選択的に断接する。このベルト走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12の動力が入力軸22から無段変速機24を経由して出力軸30に伝達される、ベルト走行経路PT2が成立(接続)させられる。すなわち、ベルト走行用クラッチC2が係合されると、無段変速機24にエンジン12の動力が伝達される。
【0027】
動力伝達装置16の作動について、以下に説明する。
図2は、動力伝達装置16の各走行パターン毎の係合要素の係合表を用いて、その走行パターンの切り替わりを説明する為の図である。
図2において、C1はギヤ走行用クラッチC1の作動状態に対応し、C2はベルト走行用クラッチC2の作動状態に対応し、B1は後進用ブレーキB1の作動状態に対応し、D1は噛合式クラッチD1の作動状態に対応し、「○」は係合(接続)を示し、「×」は解放(遮断)を示している。
【0028】
先ず、ギヤ機構28を介してエンジン12の動力が出力軸30に伝達される走行パターン(すなわちギヤ走行経路PT1を経由して動力が伝達される走行パターン)であるギヤ走行について説明する。このギヤ走行では、
図2に示すように、例えばギヤ走行用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合される一方、ベルト走行用クラッチC2および後進用ブレーキB1が解放される。
【0029】
具体的には、ギヤ走行用クラッチC1が係合されると、前後進切替装置26を構成する遊星歯車装置26pが一体回転させられるので、小径ギヤ42が入力軸22と同回転速度で回転させられる。また、小径ギヤ42はギヤ機構カウンタ軸44に設けられている大径ギヤ46と噛み合わされているので、ギヤ機構カウンタ軸44も同様に回転させられる。更に、噛合式クラッチD1が係合されているので、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48とが接続される。このアイドラギヤ48は出力ギヤ56と噛み合わされているので、出力ギヤ56と一体的に設けられている出力軸30が回転させられる。このように、ギヤ走行用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合されると、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20、前後進切替装置26、ギヤ機構28、およびアイドラギヤ48等を順次介して出力軸30に伝達される。なお、このギヤ走行では、例えば後進用ブレーキB1および噛合式クラッチD1が係合される一方、ベルト走行用クラッチC2およびギヤ走行用クラッチC1が解放されると、後進走行が可能となる。
【0030】
次いで、無段変速機24を介してエンジン12の動力が出力軸30に伝達される走行パターン(すなわちベルト走行経路PT2を経由して動力が伝達される走行パターン)であるベルト走行について説明する。このベルト走行では、
図2のベルト走行(高車速)に示すように、例えばベルト走行用クラッチC2が係合される一方、ギヤ走行用クラッチC1、後進用ブレーキB1、および噛合式クラッチD1が解放される。
【0031】
具体的には、ベルト走行用クラッチC2が係合されると、セカンダリプーリ62と出力軸30とが接続されるので、セカンダリプーリ62と出力軸30とが一体回転させられる。このように、ベルト走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20および無段変速機24等を順次介して出力軸30に伝達される。このベルト走行(高車速)中に噛合式クラッチD1が解放されるのは、例えばベルト走行中のギヤ機構28等の引き摺りをなくすと共に、高車速においてギヤ機構28等が高回転化するのを防止する為である。
【0032】
前記ギヤ走行は、例えば車両停止中を含む低車速領域において選択される。このギヤ走行経路PT1におけるギヤ比γ1(すなわちギヤ機構28により形成されるギヤ比)は、無段変速機24により形成される最大ギヤ比(すなわち最も低車速側のギヤ比である最ローギヤ比)γmaxよりも大きな値(すなわちロー側のギヤ比)に設定されている。例えばギヤ比γ1は、動力伝達装置16における第1速ギヤ段のギヤ比である第1速ギヤ比γ1に相当し、無段変速機24の最ローギヤ比γmaxは、動力伝達装置16における第2速ギヤ段のギヤ比である第2速ギヤ比γ2に相当する。その為、例えばギヤ走行とベルト走行とは、公知の有段変速機の変速マップにおける第1速ギヤ段と第2速ギヤ段とを切り替える為の変速線に従って切り替えられる。また、例えばベルト走行においては、公知の手法を用いて、アクセル開度θacc、車速Vなどの走行状態に基づいてギヤ比γが変化させられる変速(例えばベルト変速、無段変速)が実行される。ここで、ギヤ走行からベルト走行(高車速)、或いはベルト走行(高車速)からギヤ走行へ切り替える際には、
図2に示すように、ベルト走行(中車速)を過渡的に経由して切り替えられる。
【0033】
例えばギヤ走行からベルト走行(高車速)へ切り替えられる場合、ギヤ走行に対応するギヤ走行用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合された状態から、ベルト走行用クラッチC2および噛合式クラッチD1が係合された状態であるベルト走行(中車速)に過渡的に切り替えられる。すなわち、ギヤ走行用クラッチC1を解放してベルト走行用クラッチC2を係合するようにクラッチを掛け替える変速(例えばクラッチツゥクラッチ変速(以下、CtoC変速という))が実行される。このとき、動力伝達経路はギヤ走行経路PT1からベルト走行経路PT2へ変更され、動力伝達装置16においては実質的にアップシフトさせられる。そして、動力伝達経路が切り替えられた後、不要な引き摺りやギヤ機構28等の高回転化を防止する為に噛合式クラッチD1が解放される(
図2の被駆動入力遮断参照)。このように噛合式クラッチD1は、駆動輪14側からの入力を遮断する被駆動入力遮断クラッチとして機能する。
【0034】
また、例えばベルト走行(高車速)からギヤ走行へ切り替えられる場合、ベルト走行用クラッチC2が係合された状態から、ギヤ走行への切替準備として更に噛合式クラッチD1が係合される状態であるベルト走行(中車速)に過渡的に切り替えられる(
図2のダウンシフト準備参照)。このベルト走行(中車速)では、ギヤ機構28を介して遊星歯車装置26pのサンギヤ26sにも回転が伝達された状態となる。このベルト走行(中車速)の状態からベルト走行用クラッチC2を解放してギヤ走行用クラッチC1を係合するようにクラッチを掛け替える変速(例えばCtoC変速)が実行されると、ギヤ走行へ切り替えられる。このとき、動力伝達経路はベルト走行経路PT2からギヤ走行経路PT1へ変更され、動力伝達装置16においては実質的にダウンシフトさせられる。
【0035】
図3は、車両10における各種制御の為の制御機能および制御系統の要部を説明する図である。
図3において、車両10には、例えば動力伝達装置16の走行パターンを切り替える車両10の制御装置を含む電子制御装置80(制御装置)が備えられている。よって、
図3は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、また、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12の出力制御、無段変速機24の変速制御やベルト挟圧制御、走行パターンをベルト走行またはギヤ走行に切り替える切替制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
【0036】
電子制御装置80には、車両10が備える各種センサ(例えばエンジン回転速度センサ82、入力軸回転速度センサ84、出力軸回転速度センサ86、アクセル開度センサ88、スロットル弁開度センサ90、ブレーキスイッチ92、Gセンサ94など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne、タービン回転速度Ntに対応するプライマリプーリ58の回転速度である入力軸回転速度Nin、車速Vに対応するセカンダリプーリ62の回転速度である出力軸回転速度Nout、運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度θacc、スロットル弁開度θth、常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示す信号であるブレーキオンBon、車両10の前後加速度Gなど)が、それぞれ供給される。
【0037】
電子制御装置80からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、無段変速機24の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Scvt、動力伝達装置16の走行パターンの切替えに関連する前後進切替装置26、ベルト走行用クラッチC2、および噛合式クラッチD1を制御する為の油圧制御指令信号Sswt等が、それぞれ出力される。
【0038】
具体的には、エンジン出力制御指令信号Seとして、スロットルアクチュエータを駆動して電子スロットル弁の開閉を制御する為のスロットル信号や燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。
【0039】
また、油圧制御指令信号Scvtとして、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pinを調整するソレノイド弁を駆動する為の指令信号、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutを調整するソレノイド弁を駆動する為の指令信号などが油圧制御回路96へ出力される。
【0040】
また、油圧制御指令信号Sswtとして、ギヤ走行用クラッチC1、後進用ブレーキB1、ベルト走行用クラッチC2、ハブスリーブ54を作動させる各油圧アクチュエータに供給される油圧を制御する各ソレノイド弁を駆動する為の指令信号などが油圧制御回路96へ出力される。
【0041】
油圧制御回路96は、動力伝達装置16を構成する装置の1つであり、無段変速機24の変速制御を主に受け持つプライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58c、無段変速機24のベルト挟圧制御を主に受け持つセカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62c、ギヤ走行用クラッチC1、後進用ブレーキB1、ベルト走行用クラッチC2、およびシンクロメッシュ機構S1を作動させる各油圧アクチュエータに供給される油圧を制御するために設けられている。
図4は、動力伝達装置16に備えられた油圧制御回路96のうち無段変速機24とギヤ走行用クラッチC1とベルト走行用クラッチC2と噛合式クラッチD1とに関わる油圧を制御する部分を説明する図である。
【0042】
油圧制御回路96は、オイルポンプ41から吐出される作動油を元圧にしてライン圧PLを調圧するレギュレータバルブ98と、ライン圧PLを元圧にして一定圧であるモジュレータ圧Plpmを調圧するモジュレータバルブ99と、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pinを調圧するプライマリ圧制御弁102と、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧制御弁104と、フェールセーフバルブ106と、プライマリ圧制御弁102によって調圧されるプライマリ圧Pinを制御するためのSLP圧Pslp(制御油圧)を出力するプライマリ用電磁弁SLPと、セカンダリ圧制御弁104によって調圧されるセカンダリ圧Poutを制御するためのSLS圧Psls(制御油圧)を出力するセカンダリ用電磁弁SLSと、レギュレータバルブ98によって調圧されるライン圧PLを制御するためのSLT圧Pslt(制御油圧)を出力するスロットル用電磁弁SLTと、ギヤ走行用クラッチC1へ供給されるクラッチ油圧としてのC1圧Pc1を制御するためのC1用電磁弁SL1と、ベルト走行用クラッチC2へ供給されるクラッチ油圧としてのC2圧Pc2を制御するためのC2用電磁弁SL2と、シンクロメッシュ機構S1を作動させるための油圧アクチュエータ100を制御するためのSLG圧Pslgを出力するシンクロ用電磁弁SLGと、を備えている。なお、プライマリ用電磁弁SLPが、本発明の電磁弁に対応している。
【0043】
各電磁弁SLP、SLS、SLT、SL1、SL2、SLGは、何れも、電子制御装置80から出力される油圧制御指令信号(供給電流、駆動電流)によって駆動されるリニアソレノイド弁である。
【0044】
レギュレータバルブ98は、スロットル用電磁弁SLTから出力されるSLT圧Psltに基づいて作動させられることで、オイルポンプ41から吐出される作動油の油圧を元圧にしてライン圧PLを調圧する。スロットル用電磁弁SLTは、例えばアクセル開度θacc等に基づいて設定されるSLT圧Psltを出力することで、レギュレータバルブ98において走行状態に応じたライン圧PLが調圧される。モジュレータバルブ99は、ライン圧PLを元圧にして一定圧であるモジュレータ圧Plpmを調圧する。
【0045】
プライマリ圧制御弁102は、プライマリ用電磁弁SLPから出力されるSLP圧Pslpに基づいて作動させられることで、ライン圧PLを元圧にしてSLP圧Pslpに比例したプライマリ圧Pinに調圧する。プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cには、プライマリ圧制御弁102によって調圧されたプライマリ圧Pinが供給される。セカンダリ圧制御弁104は、セカンダリ用電磁弁SLSから出力されるSLS圧Pslsに基づいて作動させられることで、ライン圧PLを元圧にしてSLS圧Pslsに比例したセカンダリ圧Poutに調圧する。セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cには、セカンダリ圧制御弁104によって調圧されたセカンダリ圧Poutが供給される。なお、本実施例では、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cの受圧面積が、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cの受圧面積よりも大きく設定されており、プライマリ圧Pinの最大圧が、セカンダリ圧Poutの最大圧よりも低い値に設定されている。
【0046】
C1用電磁弁SL1は、マニュアルバルブ110を介して供給されるモジュレータ圧Plpmを元圧にしてSL1圧Psl1を出力する。このSL1圧Psl1は、ギヤ走行用クラッチC1のC1圧Pc1として供給される。C2用電磁弁SL2は、マニュアルバルブ110を介して供給されるモジュレータ圧Plpmを元圧にしてSL2圧Psl2を出力する。このSL2圧Psl2は、フェールセーフバルブ106を介してベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2として供給される。シンクロ用電磁弁SLGは、マニュアルバルブ110を介して供給されるモジュレータ圧Plpmを元圧にしてSLG圧Pslgを出力する。このSLG圧Pslgは、シンクロ制御圧としてシンクロメッシュ機構S1を作動させるための油圧アクチュエータ100へ直接的に供給される。マニュアルバルブ110は、運転者のシフト操作に応じて油路の連通状態が切り替えられ、例えば前進走行操作位置Dにシフト操作されると、Dレンジ圧Pdとしてモジュレータ圧Plpmが出力される。
【0047】
C1用電磁弁SL1は、モジュレータ圧Plpmを元圧にしてSL1圧Psl1を出力していることから、モジュレータ圧Plpmは、一般にSL1圧Psl1よりも高圧の油圧であって、C1用電磁弁SL1によって出力可能な最大油圧となる。また、C2用電磁弁SL2は、モジュレータ圧Plpmを元圧にSL2圧Psl2を出力していることから、モジュレータ圧Plpmは、一般にSL2圧Psl2よりも高圧の油圧であって、C2用電磁弁SL2によって出力可能な最大油圧となる。
【0048】
図5は、
図4のフェールセーフバルブ106の構成を説明する図である。
図5において、フェールセーフバルブ106は、スプリングSP、第1入力ポートpi1、第2入力ポートpi2、第1入力ポートpi1および第2入力ポートpi2の何れかの入力ポートと択一的に連通する出力ポートpo、第1油室pr1、第2油室pr2、第1入力ポートpi1および第2入力ポートpi2と出力ポートpoとの連通状態を切り替えるためのスプール弁子SVとを、有して構成されている。フェールセーフバルブ106を構成するスプール弁子SVは、バルブボデー内において、所定のストロークの範囲で摺動可能に収容されており、スプール弁子SVが摺動方向の一端または他端に移動させられることで、出力ポートpoが、第1入力ポートpi1または第2入力ポートpi2に連通させられる。
【0049】
第1入力ポートpi1には、C2用電磁弁SL2の出力圧であるSL2圧Psl2(制御油圧)が供給される油路Lsl2が接続されている。C2用電磁弁SL2は、Dレンジ圧Pd(すなわちモジュレータ圧Plpm)を元圧としてベルト走行が可能となる適切なSL2圧Psl2を出力する。第2入力ポートpi2には、Dレンジ圧Pdが供給される油路Ldが接続されている。前進走行レンジ(Dレンジ)に対応する前進走行操作位置Dにシフト操作された場合には、マニュアルバルブ110内の油路が切り替えられることにより、油路Ldに、Dレンジ圧PdとしてSL2圧Psl2よりも高圧の油圧であるモジュレータ圧Plpmが供給される。また、油路Ldには、オリフィス112が設けられている。なお、SL2圧Psl2が、本発明の制御油圧に対応し、油路Lsl2が、本発明の制御油圧が供給される油路に対応し、油路Ldが、本発明の制御油圧よりも高圧の油圧が供給される油路に対応している。
【0050】
出力ポートpoには、ベルト走行用クラッチC2の油室と連通する油路Lc2が接続されている。よって、油路Lc2が、ベルト走行用クラッチC2に作動油を供給するための油路となる。第1油室pr1には、プライマリ用電磁弁SLPから出力されるSLP圧Pslpが供給される油路Lslpが接続されている。第2油室pr2には、プライマリ用電磁弁SLPの元圧として供給されるモジュレータ圧Plpmが供給される油路Llpmが接続されている。なお、油路Lc2が、本発明のベルト走行用クラッチに作動油を供給するための油路に対応し、第1油室pr1が、本発明の油室に対応している。
【0051】
このように構成されたフェールセーフバルブ106は、プライマリ用電磁弁SLPの出力圧であるSLP圧Pslpに基づいて、スプール弁子SVの位置が、正常時位置(
図5においてスプール弁子SVの中心線C1に対して右側)とフェール時位置(
図5においてスプール弁子SVの中心線C1に対して左側)とに、択一的に切り替えられる。すなわち、フェールセーフバルブ106は、ベルト走行用クラッチC2に作動油を供給するための油路Lc2の連通先を、C2用電磁弁SL2のSL2圧Psl2が供給される油路Lsl2、および、Dレンジ圧Pd(すなわちモジュレータ圧Plpm)が供給される油路Ldの一方に切り替える。
【0052】
フェールセーフバルブ106において、スプリングSPは、スプール弁子SVを正常時位置に向かって付勢している。また、フェールセーフバルブ106において、第2油室pr2内にモジュレータ圧Plpmが供給されることで、スプール弁SVは、モジュレータ圧Plpmによって正常時位置に付勢させられる。また、フェールセーフバルブ106において、第1油室pr1内にSLP圧Pslpが供給されることで、スプール弁子SVは、SLP圧Pslpによってフェール時位置に付勢させられる。
【0053】
例えば、フェールセーフバルブ106のスプール弁子SVが正常時位置にある状態でベルト走行中に、C2用電磁弁SL2が断線することでSL2圧Psl2が出力されなくなると、電子制御装置80からSLS圧Pslsを増圧する指令が出力される。次いで、SLP圧Pslpを増圧する指令が出力される。SLP圧Pslpの増圧によって、第1油室pr1内の油圧(すなわちSLP圧Pslp)が所定値以上になると、第1油室pr1において発生する、スプール弁子SVをフェール時位置側に付勢する付勢力が、スプリングSPおよびモジュレータ圧Plpmによるスプール弁子SVの正常時位置側への付勢力よりも大きくなり、スプール弁子SVがフェール時位置側に移動させられる。これにより、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替えられ、第2入力ポートpi2と出力ポートpoとが連通させられて、油路Ldと油路Lc2とが連通させられることで、Dレンジ圧Pd(すなわちモジュレータ圧Plpm)がベルト走行用クラッチC2に供給される。従って、ベルト走行用クラッチC2の係合が維持されることで、ベルト走行による走行(退避走行)が可能となる。
【0054】
また、フェールセーフバルブ106のスプール弁子SVが正常時位置にある状態でギヤ走行中に、プライマリ用電磁弁SLPから所定値以上の油圧(具体的には、最大油圧であるモジュレータ圧Plpm)が常時出力される故障が発生すると、第1油室pr1にSLP圧Pslpが供給されることで、スプール弁子SVがフェール時位置側に移動させる付勢力が発生する。このとき、スプリングSPおよびモジュレータ圧Plpmによるスプール弁子SVを正常時位置に移動させる付勢力に抗って、スプール弁子SVがフェール時位置に移動させられる。これにより、第2入力ポートpi2と出力ポートpoとが連通させられることで、Dレンジ圧Pd(すなわちモジュレータ圧Plpm)がベルト走行用クラッチC2に供給される。従って、ベルト走行用クラッチC2が係合させられることでベルト走行が可能となり、ベルト走行による走行(退避走行)が可能となる。
【0055】
図3に戻り、電子制御装置80は、エンジン出力制御手段すなわちエンジン出力制御部120、変速制御手段すなわち変速制御部122、および故障判定手段すなわち故障判定部124を機能的に備えている。
【0056】
エンジン出力制御部120は、例えば予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)関係(例えば駆動力マップ)からアクセル操作量pap及び車速Vに基づいて要求駆動力Fdemを算出し、その要求駆動力Fdemが得られる目標エンジントルクTetgtを設定し、その目標エンジントルクTetgtが得られるようにエンジン12を出力制御するエンジン出力制御指令信号Seをそれぞれスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置などへ出力する。
【0057】
変速制御部122は、車両停止中には、ギヤ走行モードに備えて、油圧アクチュエータ100による噛合式クラッチD1の係合作動を行う指令を油圧制御回路96へ出力する。その後、変速制御部122は、前進走行操作位置D(或いは後進走行操作位置R)に切り替えられた場合、ギヤ走行用クラッチC1(或いは後進用ブレーキB1)を係合する指令を油圧制御回路96へ出力する。
【0058】
また、変速制御部122は、ベルト走行モードにおいて、例えば予め定められた関係(例えばベルト変速マップ、ベルト挟圧力マップ)にアクセル開度θaccおよび車速Vを適用することで、無段変速機24のベルト滑りが発生しないようにしつつエンジン12の動作点が所定の最適ライン(例えばエンジン最適燃費線)上となる無段変速機24の目標変速比γtgtを達成する為のプライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutの各油圧指令(油圧制御指令信号Scvt)を決定し、それら各油圧指令を油圧制御回路96へ出力してベルト変速を実行する。本実施例では、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62c供給されるセカンダリ圧Poutを調整することで、セカンダリプーリ62と伝動ベルト64との間で発生するベルト挟圧力が調整され、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsに比例してセカンダリ圧Poutおよびベルト挟圧力が大きくなる。
【0059】
また、変速制御部122は、ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御を実行する。具体的には、変速制御部122は、例えばギヤ走行モードにおける変速比γ1とベルト走行モードにおける最ロー変速比γmaxとを切り替える為の所定のヒステリシスを有したアップシフト線及びダウンシフト線に車速V及びアクセル操作量papを適用することで変速比γの切替えを判断し、その判断結果に基づいて走行モードを切り替える。
【0060】
変速制御部122は、ギヤ走行モードでの走行中にアップシフトを判断してギヤ走行モードからベルト走行(中車速)モードへ切り替える場合、ギヤ走行用クラッチC1を解放しつつベルト走行用クラッチC2を係合するCtoC変速を実行する。これにより、動力伝達装置16における動力伝達経路は、ギヤ走行経路PT1からベルト走行経路PT2へ切り替えられる。変速制御部122は、ベルト走行(中車速)モードからベルト走行(高車速)モードへ切り替える場合、油圧アクチュエータ100による噛合式クラッチD1の解放作動を行う指令を油圧制御回路96へ出力する。また、変速制御部122は、ベルト走行(高車速)モードからベルト走行(中車速)モードへ切り替える場合、油圧アクチュエータ100による噛合式クラッチD1の係合作動を行う指令を油圧制御回路96へ出力する。変速制御部122は、ベルト走行(中車速)モードでの走行中にダウンシフトを判断してギヤ走行モードへ切り替える場合、ベルト走行用クラッチC2を解放しつつギヤ走行用クラッチC1を係合するCtoC変速を実行する。これにより、動力伝達装置16における動力伝達経路は、ベルト走行経路PT2からギヤ走行経路PT1へ切り替えられる。ギヤ走行モードとベルト走行モードとを切り替える切替制御では、ベルト走行(中車速)モードの状態を経由することで、CtoC変速によるトルクの受け渡しを行うだけでギヤ走行経路PT1とベルト走行経路PT2とが切り替えられるので、切替えショックが抑制される。
【0061】
故障判定部124は、ベルト走行中において、C2用電磁弁SL2からSL2圧Psl2が出力されなくなる故障が発生したかを判定する。故障判定部124は、例えばC2用電磁弁SL2の断線を検出する予め設けられた断線検出回路から断線検出信号が検出されると、C2用電磁弁SL2の故障を判定する。或いは、故障判定部124は、不図示の油圧センサによってC2用電磁弁SL2から出力されるSL2圧Psl2を直接検出し、SL2圧Psl2の指示圧に対して実圧が所定値以上低い場合に、C2用電磁弁SL2が故障したものと判定する。
【0062】
また、故障判定部124は、ギヤ走行中において、プライマリ用電磁弁SLPから常時SLP圧Pslpが出力される故障が発生したかを判定する。故障判定部124は、例えば、プライマリ用電磁弁SLPの断線を検出する予め設けられた断線検出回路から断線検出信号が検出されると、プライマリ用電磁弁SLPの故障を判定する。なお、プライマリ用電磁弁SLPにあっては、ノーマリオープンタイプであることから、プライマリ用電磁弁SLPが断線する故障時に、プライマリ用電磁弁SLPからモジュレータ圧Plpmが出力される。
【0063】
プライマリ用電磁弁SLPは、プライマリ用電磁弁SLPに供給電流IslpがゼロになるとSLP圧Pslpを出力するノーマリオープンタイプとなっており、特に、供給電流Islpがゼロの状態で、SLP圧Pslpの最大油圧であるモジュレータ圧Plpmが出力されるように構成されている。具体的には、プライマリ用電磁弁SLPは、
図6に示す特性を有している。
図6に示すように、プライマリ用電磁弁SLPに供給される供給電流Islpが所定値α以下では、最大油圧であるモジュレータ圧Plpmが出力される。モジュレータ圧Plpmは、プライマリ用電磁弁SLPの元圧であって、且つ、プライマリ用電磁弁SLPから出力されるSLP圧Pslpの最大油圧である。また、供給電流Islpが所定値αを越えると、SLP圧Pslpが漸減し、供給電流Islpが所定値βに到達すると、SLP圧Pslpがゼロとなる。従って、プライマリ用電磁弁SLPが断線した故障時には、プライマリ用電磁弁SLPに供給される供給電流Islpがゼロとなり、プライマリ用電磁弁SLPからモジュレータ圧Plpmが出力される。
【0064】
また、プライマリ用電磁弁SLPから出力されるSLP圧Pslpを不図示の油圧センサによって直接検出し、SLP圧Pslpの指示圧に対して実圧が所定値以上高くなった場合に、プライマリ用電磁弁SLPの故障を判定することもできる。
【0065】
変速制御部122は、ベルト走行中において、C2用電磁弁SL2の故障が判定されると、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsを増圧する。すなわち、油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutを増圧する。次いで、変速制御部122は、SLS圧Pslsの増圧開始から所定のタイミングで、プライマリ用電磁弁SLPのSLP圧slpを増圧する。すなわち、油圧アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pinを増圧する。例えばC2用電磁弁SL2が断線するとSL2圧Psl2がゼロとなり、ベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2が低下し、ベルト走行用クラッチC2のトルク容量が減少することでベルト走行が困難となる。これに対して、SLP圧Pslpが増圧されることで、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替えられることで、出力ポートpoと第2入力ポートpi2とが連通させられ、CVT走行用クラッチC2にDレンジ圧Pdすなわちモジュレータ圧Plpmが供給される。従って、CVT走行用クラッチC2の係合が維持されて、ベルト走行が可能となる。
【0066】
また、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替えられると、ベルト走行用クラッチC2にモジュレータ圧Plpmが供給されることから、ベルト走行用クラッチC2が急係合し、このとき伝動ベルト64のベルト滑りが生じる虞がある。これに対して、SLS圧Pslsの増圧が予め実行されることで、CVT走行クラッチC2が係合される前(係合過渡期、CVT走行用クラッチC2のC2圧Pc2がモジュレータ圧Plpmに到達する前)にベルト挟圧力が確保される。従って、フェールセーフバルブ106の切替過渡期のベルト滑りが防止される。さらに、Dレンジ圧(モジュレータ圧Plpm)が供給される油路Ldにオリフィス112が設けられているため、オリフィス112において圧力降下が発生し、ベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2の上昇が遅らせられる。従って、ベルト走行用クラッチC2が係合する前に、セカンダリ圧Poutをベルト滑りが防止される値(目標値)まで上昇させることができ、CVT走行クラッチC2が係合される前にベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が確保され、ベルト滑りを防止することができる。
【0067】
また、変速制御部122は、ギヤ走行中において、プライマリ用電磁弁SLPから常時SLP圧Pslp(モジュレータ圧Plpm)が出力される故障が判定されると、動力伝達経路をギヤ走行経路PT1からベルト走行経路PT2に切り替えて、ベルト走行による退避走行を実行する。変速制御部122は、プライマリ用電磁弁SLPの故障が判定されると、ギヤ走行経路PT1を遮断するためにギヤ走行用クラッチC1または噛合式クラッチD1を解放する。
【0068】
プライマリ用電磁弁SLPの故障が発生すると、そのプライマリ用電磁弁SLPのSLP圧Pslpが第1油室Pr1に供給されることで、フェールセーフバルブ106のスプール弁子SVがフェール時位置に移動させられる。このとき、Dレンジ圧Pd(モジュレータ圧Plpm)が供給される油路Ldとベルト走行用クラッチC2の油室に作動油を供給するための油路Lc2とが連通し、ベルト走行用クラッチC2にDレンジ圧Pdが供給され、ベルト走行用クラッチC2が係合させられる。よって、ベルト走行経路PT2が動力伝達可能となり、ベルト走行による退避走行が可能となる。また、プライマリ用電磁弁SLPが故障するとSLP圧Pslpが出力されることから、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cにプライマリ圧制御弁102を介してプライマリ圧Pinが供給され、無段変速機24が所定の変速比γに変速させられる。
【0069】
また、ベルト走行に切り替わる過渡期において、伝動ベルト64のベルト滑りを防止するため、変速制御部122は、プライマリ用電磁弁SLPの故障が判定されると、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsを増圧する。これにより、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutが増圧されることで、伝動ベルト64のベルト挟圧力が確保される。なお、SLS圧Pslsの増圧時の目標値は、エンジントルクTe、無段変速機24の変速比γ等に基づいて算出され、伝動ベルト64のベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が得られる値に設定される。
【0070】
ところで、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わると、ベルト走行用クラッチC2にDレンジ圧Pdすなわちモジュレータ圧Plpmが供給される。モジュレータ圧Plpmは、C2用電磁弁SL2から正常状態で出力されるSL2圧Psl2に比べて高圧であることから、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutが、ベルト滑りの防止される目標値に到達する前に、ベルト走行用クラッチC2が急係合させられる虞がある。この場合、ベルト走行用クラッチC2に伝達されるトルクに対して、ベルト挟圧力が相対的に小さくなることで、伝動ベルト64のベルト滑りが発生する虞がある。このベルト走行用クラッチC2の急係合によるベルト滑りを防止するため、Dレンジ圧Pd(モジュレータ圧Plpm)が供給される油路Ldにはオリフィス112が設けられている。オリフィス112が設けられることで、オリフィス112において圧力降下が生じ、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わったときのC2圧Pc2の上昇が遅らせられる。従って、オリフィス112によってベルト走行用クラッチC2の急係合が防止され、ベルト走行用クラッチC2が係合する前にセカンダリ圧Poutをベルト滑りが防止される値(目標値)まで上昇し(すなわちベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が確保され)、ベルト滑りを防止することができる。なお、オリフィス112の形状や寸法は、予め実験的または設計的に求められ、ベルト走行用クラッチC2が係合される前に、ベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が確保できる値に設定されている。
【0071】
図7は、電子制御装置80の制御作動の要部であって、特に、ベルト走行中においてC2用電磁弁SL2からC2圧Psl2が出力されなくなる故障が発生したときの制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、ベルト走行中において繰り返し実行される。
【0072】
図7において、故障判定部124の制御機能に対応するステップST1(以下、ステップを省略する)において、C2用電磁弁SL2からSL2圧Psl2が出力されなくなる故障が発生したかが判定される。ST1が否定される場合、本ルーチンが終了させられる。C2用電磁弁SL2の故障が判定されるとST1が肯定され、変速制御部124の制御機能に対応するST2において、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが増圧させられる。次いで、変速制御部124の制御機能に対応するST3において、プライマリ用電磁弁SLPのSLP圧Pslpが増圧させられる。
【0073】
このようにベルト走行中にC2用電磁弁SLPの故障が判定されると、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが増圧された後、プライマリ用電磁弁SLPのSLP圧Pslpが増圧されることで、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替えられてベルト走行用クラッチC2にモジュレータ圧Plpmが供給され、ベルト走行が維持される。また、ベルト走行用クラッチC2に供給される油圧が、SL2圧Psl2からモジュレータ圧Plpmに切り替わることで、ベルト走行用クラッチC2が急係合され、このとき伝動ベルト64のベルト滑りが生じる虞があるが、SLP圧Pslpが増圧される時点よりも早いタイミングでSLS圧Pslsが増圧(すなわちセカンダリ圧Poutが増圧)されるため、予めベルト挟圧力が確保されてベルト滑りが防止される。さらに、モジュレータ圧Plpmが供給される油路Ldにはオリフィス112が設けられているため、オリフィス112において圧力降下が発生し、ベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2の上昇が遅らせられることで、ベルト走行用クラッチC2が係合される前にベルト挟圧力が確保されてベルト滑りが防止される。
【0074】
図8は、電子制御装置80の制御作動の要部であって、特に、ギヤ走行中にプライマリ用電磁弁SLPの故障が発生したときの制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、ギヤ走行中において繰り返し実行される。
【0075】
図8において、故障判定部124の制御機能に対応するステップST10(以下、ステップを省略する)において、プライマリ用電磁弁SLPの故障が発生したかが判定される。ST10が否定された場合、本ルーチンは終了させられる。一方、ST10が肯定された場合、変速制御部120の制御機能に対応するST11において、ベルト走行への切替中のベルト滑りを防止するため、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが増圧される。これと併行して、ギヤ走行用クラッチC1が解放されることでギヤ走行経路PT1が遮断される。
【0076】
このように、プライマリ用電磁弁SLPの故障が発生すると、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わり、ベルト走行用クラッチC2にDレンジ圧Pd(モジュレータ圧Plpm)が供給されるものの、そのDレンジ圧Pdが供給される油路Ldにオリフィス112が設けられているため、ベルト走行用クラッチC2の急係合が防止され、ベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2の上昇が遅められる。従って、C2圧Pc2の上昇過渡期にセカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsを目標値に到達させることができる。すなわち、ベルト走行用クラッチC2が係合する前に、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが目標値に到達することで、ベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が確保され、ベルト滑りが防止される。
【0077】
図9は、
図8のフローチャートが実行されたときの作動結果を示すタイムチャートの一例である。
図9に示すt1時点は、プライマリ用電磁弁SLPが断線することで故障が発生した時点を示し、t2時点は、故障に伴ってフェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わった時点を示し、t3時点は、プライマリ用電磁弁SLPの断線を検知することで、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsの上昇が開始された時点を示している。なお、
図8に示す各油圧(SLP圧Pslp、SLS圧Psls、C2圧Pc2)において、一点鎖線が指示圧を示し、実線が実圧を示している。
【0078】
t1時点においてプライマリ用電磁弁SLPの故障が発生すると、SLP圧Pslpの指示圧が引き上がるため、実圧である実線で示すSLP圧Pslpが上昇する。SLP圧Pslpの上昇に伴って、t2時点において、フェールセーフバルブ106が正常時位置からフェール時位置に切り替わり、ベルト走行用クラッチC2にDレンジ圧Pd(モジュレータ圧Plpm)が供給される。従って、t2時点においてC2圧Pc2の上昇が開始される。t3時点において、プライマリ用電磁弁SLPの断線が検出されると、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsの上昇が開始される。ここで、Dレンジ圧Pdが供給される油路Ldにオリフィス112が設けられているため、ベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2の上昇過渡期、すなわちベルト走行用クラッチC2の油室への作動油の充填中に、C2圧Pc2の上昇が停滞する期間が発生し、C2圧Pc2の上昇が遅くなっている。従って、C2圧Pc2がモジュレータ圧Plpmに到達するまでの間に、SLS圧Pslsが目標値に到達することから、ベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が確保されるため、ベルト走行用クラッチC2の急係合による伝動ベルト64のベルト滑りが防止される。
【0079】
上述のように、本実施例によれば、プライマリ用電磁弁SLPが断線することで、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わると、ベルト走行用クラッチC2に作動油を供給するための油路Lc2とDレンジ圧Pd(モジュレータ圧Plpm)が供給される油路Ldとが連通することから、ベルト走行用クラッチC2にSL2圧Psl2よりも高圧のDレンジ圧Pdが供給されることとなる。ここで、油路Ldにはオリフィス112が設けられていることから、ベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2の上昇が遅らせられる。従って、ベルト走行用クラッチC2の係合過渡期にベルト滑りが防止されるベルト挟圧力を確保でき、係合過渡期のベルト滑りを防止することができる。
【0080】
また、本実施例によれば、プライマリ用電磁弁SLPがノーマリオープンタイプであることから、プライマリ用電磁弁SLPが断線した場合にSLP圧Pslpが出力される。このとき、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わり、ベルト走行用クラッチC2にDレンジ圧Pdが供給されるが、このDレンジ圧Pdが供給される油路Ldにオリフィス112が設けられていることから、ベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2の上昇が遅らせられる。従って、ベルト走行用クラッチC2の係合過渡期にベルト滑りが防止されるベルト挟圧力を確保でき、係合過渡期のベルト滑りを防止することができる。
【0081】
また、本実施例によれば、ギヤ走行用クラッチC1が係合されるとともに、ベルト走行クラッチC2が解放されると、ギヤ走行経路PT1が動力伝達状態に切り替えられてギヤ走行経路PT1による走行が可能となる。また、ギヤ走行経路PT1による走行中にプライマリ用電磁弁SLPの断線が発生すると、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わり、ベルト走行用クラッチC2にDレンジ圧Pdが供給されてベルト走行用クラッチC2が係合される。従って、ベルト走行経路PT2による走行(退避走行)が可能となる。このとき、無段変速機24においてベルト挟圧力を確保する必要が生じるが、Dレンジ圧Pdがが供給される油路Ldにオリフィス112が設けられていることから、ベルト走行用クラッチC2のC2圧Pc2の上昇が遅らせられるため、ベルト走行用クラッチC2の係合過渡期にベルト滑りが防止されるベルト挟圧力を確保でき、係合過渡期のベルト滑りを防止することができる。
【0082】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0083】
図10は、本発明の他の実施例である車両用動力伝達装置130(以下、動力伝達装置130)の構成を説明するための骨子図である。本実施例の動力伝達装置130にあっては、エンジン12と駆動輪14との間に、トルクコンバータ20、前後進切替装置26、無段変速機24、減速歯車装置34、およびデフギヤ38を備えて構成されている。動力伝達装置130を前述の実施例の動力伝達装置16と比較すると、前述した実施例のギヤ機構28を備えて構成されるギヤ走行経路を並列に備えない点で相違している。すなわち、動力伝達装置130は、従来からよく知られている無段変速機24を備えた動力伝達装置である。なお、トルクコンバータ20、前後進切替装置26、無段変速機24、減速歯車装置34、およびデフギヤ38の構造は、前述した実施例の動力伝達装置16と基本的に同じであるため、前述の実施例と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0084】
図11は、動力伝達装置130に備えられた油圧制御回路132のうち、無段変速機24とベルト走行用クラッチC3と後進用ブレーキB1とに関わる油圧を制御する部分を説明する図である。
【0085】
図11の油圧制御回路132において、レギュレータバルブ98、モジュレータバルブ99、プライマリ圧制御弁102、セカンダリ圧制御弁104、プライマリ用電磁弁SLP、セカンダリ用電磁弁SLS、スロットル用電磁弁SLT、およびマニュアルバルブ110については、前述の実施例の油圧制御回路96と基本的には変わらないため、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0086】
切替用電磁弁SLは、モジュレータ圧Plpmを元圧にして切替圧Pslを出力する。また、C3用電磁弁SL3は、モジュレータ圧Plpmを元圧にしてSL3圧Psl3を出力する。このSL3圧Psl3は、後述するフェールセーフバルブ140およびマニュアルバルブ110を介して、ベルト走行用クラッチC3または後進用ブレーキB1に供給される。例えば、マニュアルバルブ110において、前進走行操作位置Dにシフト操作されている場合には、SL3圧Psl3が、フェールセーフバルブ140およびマニュアルバルブ110を介してベルト走行用クラッチC3のC3圧Pc3として供給される。また、マニュアルバルブ110において、後進走行操作位置Rにシフト操作されている場合には、SL3圧Psl3が、フェールセーフバルブ140およびマニュアルバルブ110を介して後進用ブレーキB1のB1圧Pb1として供給される。
【0087】
フェールセーフバルブ140は、スプリングSP、第1入力ポートpi1、第2入力ポートpi2、第1入力ポートpi1および第2入力ポートpi2の何れかと択一的に連通する出力ポートpo、切替用電磁弁SLの切替圧Pslを受け入れる油室pr、および第1入力ポートpi1および第2入力ポートpi2と出力ポートpoとの連通状態を切り替えるための不図示のスプール弁子とを、有して構成されている。スプール弁子は、フェールセーフバルブ140内に摺動可能な状態で設けられており、スプール弁子が摺動方向の一端または他端に移動させられることで、出力ポートpoが、第1入力ポートpi1および第2入力ポートpi2の何れかと連通させられる。
【0088】
第1入力ポートpi1には、C3用電磁弁SL3の出力圧であるSL3圧Psl3が供給される油路Lsl3が接続されている。第2入力ポートpi2には、モジュレータ圧Plpmが供給される油路Llpmが接続されている。また、油路Llpmには、オリフィス144が設けられている。出力ポートpoには、マニュアルバルブ110を介してベルト走行用クラッチC3または後進用ブレーキB1に作動油を供給するための油路Loが接続されている。油室prには、切替用電磁弁SLから出力される切替圧Pslが供給される。なお、SL3圧Psl3が、本発明の制御油圧に対応し、油路Lsl3が、本発明の制御油圧が供給される油路に対応し、油路Llpmが、本発明の制御油圧よりも高圧の油圧が供給される油路に対応し、油路Loが、本発明のベルト走行用クラッチに作動油を供給するための油路に対応している。
【0089】
スプリングSPは、スプール弁子を正常時位置側に付勢している。従って、切替圧Pslが出力されない状態では、スプリングSPの付勢力によってスプール弁子が正常時位置に移動させられる。スプール弁子が正常時位置に移動させられた状態が
図11に対応している。具体的には、第1入力ポートpi1と出力ポートpoとが連通させられる。従って、スプール弁子が正常時位置にある状態では、SL3圧Psl3が、フェールセーフバルブ140およびマニュアルバルブ110を介して、ベルト走行用クラッチC3または後進用ブレーキB1に供給される。
【0090】
また、切替用電磁弁SLから切替圧Pslが出力されると、切替圧Pslが油室pr内に供給されることから、スプール弁子をフェール時位置側に移動させる付勢力が発生する。このとき、スプール弁子がフェール時位置に移動させられ、第2入力ポートpi2と出力ポートpoとが連通させられる。従って、フェールセーフバルブ140がフェール時位置にある状態では、モジュレータ圧Plpmがフェールセーフバルブ140およびマニュアルバルブ110を介して、ベルト走行用クラッチC3または後進用ブレーキB1に供給される。よって、例えばC3用電磁弁SL3が断線等で故障した場合であっても、フェールセーフバルブ140がフェール時位置に切り替えられることで、モジュレータ圧Plpmがベルト走行用クラッチC3または後進用ブレーキB1に供給されるため、無段変速機24による走行(退避走行)が可能となる。
【0091】
図12は、動力伝達装置130を制御する電子制御装置134(制御装置)による制御機能による要部を説明する機能ブロック線図である。
図12に示すエンジン出力制御部120については、前述の実施例と同じであるため、同じ符号を付してその説明を省略する。変速制御部152は、例えば予め定められた関係(例えばベルト変速マップ、ベルト挟圧力マップ)にアクセル開度θaccおよび車速Vを適用することで、無段変速機24のベルト滑りが発生しないようにしつつエンジン12の動作点が所定の最適ライン(例えばエンジン最適燃費線)上となる無段変速機24の目標変速比γtgtを達成する為のプライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutの各油圧指令(油圧制御指令信号Scvt)を決定し、それら各油圧指令を油圧制御回路96へ出力してベルト変速を実行する。
【0092】
故障判定部154は、C3用電磁弁SL3からSL3圧Psl3が出力されなくなる故障が発生したかを判定する。故障判定部154は、例えばC3用電磁弁SL3の断線を検出する予め設けられた断線検出回路から断線検出信号が出力されると、C3用電磁弁SL3の故障を判定する。或いは、故障判定部154は、不図示の油圧センサによってC3用電磁弁SL3から出力されるSL3圧Psl3を直接検出し、SL3圧Psl3の指示圧に対して実圧が所定値以上低い場合に、C3用電磁弁SL3が故障したものと判定する。
【0093】
また、故障判定部154は、切替用電磁弁SLから常時切替圧Pslが出力される故障したか否かを判定する。故障判定部154は、例えば切替用電磁弁SLの断線を検出する予め設けられた断線検出回路から断線検出信号が出力されると、切替用電磁弁SLの故障を判定する。
【0094】
ここで、切替用電磁弁SLは、供給電流が供給されない状態で切替圧Pslを出力するノーマリオープンタイプとされている。従って、切替用電磁弁SLが断線した故障時には、切替用電磁弁SLから切替圧Pslが出力される。これに関連して、切替圧Pslを検出する不図示の油圧センサを設け、電子制御装置134から切替圧Pslを出力する信号が出力されないにも拘わらず、切替圧Pslが検出された場合に、切替用電磁弁SLの故障を判定することもできる。
【0095】
変速制御部152は、走行中にC3用電磁弁SL3からSL3圧Psl3が出力されない故障が判定されると、プライマリ用電磁弁SLPのSLP圧Pslpを増圧するとともに、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsを増圧する。次いで、変速制御部152は、切替用電磁弁SLの切替圧Pslを出力する。
【0096】
走行中にC3用電磁弁SL3が故障すると、ベルト走行用クラッチC3(後進用ブレーキB1も同様であるが以下省略)の係合が困難になるが、故障が判定されると切替用電磁弁SLから切替圧Pslが出力されることで、フェールセーフバルブ140がフェール時位置に切り替わり、モジュレータ圧Plpmが油路Loに供給される。従って、ベルト走行用クラッチC3にモジュレータ圧Plpmが供給されるため、退避走行が可能となる。また、ベルト走行用クラッチC3にモジュレータ圧Plpmが供給されると、ベルト走行用クラッチC3が急係合される虞があるが、予めセカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが増圧(セカンダリ圧Poutが増圧)されることで、ベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が確保されてベルト滑りも防止される。さらに、モジュレータ圧Plpmが供給される油路Llpmにオリフィス144が設けられていることから、オリフィス144において圧力降下が発生し、ベルト走行用クラッチC3のC3圧Pc3の上昇が遅らせられる。従って、ベルト走行用クラッチC3が係合する前(係合過渡期、C3圧Pc3がモジュレータ圧Plpmに到達する前)に、ベルト滑りが防止されるベルト挟圧力を確保することができる。
【0097】
また、変速制御部152は、走行中に切替用電磁弁SLの故障が判定されると、プライマリ用電磁弁SLPのSLP圧Pslpを増圧するとともに、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsを増圧する。
【0098】
走行中に切替用電磁弁SLが断線すると、切替圧Pslが出力されることからフェールセーフバルブ140がフェール時位置に切り替えられる。このとき、モジュレータ圧Plpmが油路Loに供給される。従って、ベルト走行用クラッチC3にモジュレータ圧Plpmが供給されるため、退避走行が可能となる。一方で、ベルト走行用クラッチC3にモジュレータ圧Plpmが供給された際にベルト走行用クラッチC3が急係合され、ベルト滑りが生じる虞がある。これを防止するため、切替用電磁弁SLの故障が判定されると、ベルト滑りを防止するためにセカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが増圧(セカンダリ圧Poutが増圧)され、ベルト挟圧力が増加する。さらに、モジュレータ圧Plpmが供給される油路Llpmにオリフィス144が設けられていることからベルト走行用クラッチC3の急係合が防止され、C3圧Pc3の上昇が遅らせられる。従って、ベルト走行用クラッチC3が係合する前に、ベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が確保されてベルト滑りが防止される。
【0099】
図13は、電子制御装置134の制御作動の要部であって、特に、C3用電磁弁SL3からSL3圧Psl3が出力されない故障が発生したときの制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、車両運転時において繰り返し実行される。
【0100】
図13において、故障判定部154の制御機能に対応するステップST20(以下、ステップを省略する)において、C3用電磁弁SL3からSL3圧Psl3が出力されない故障が発生したか否かが判定される。ST20が否定される場合、本ルーチンが終了させられる。C3用電磁弁SL3の故障が判定される場合、ST20が肯定され、変速制御部152の制御機能に対応するST21において、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが増圧されるとともに、プライマリ用電磁弁SLPのSLP圧Pslpが増圧される。次いで、変速制御部152の制御機能に対応するST22において、切替圧Pslが増圧させられる。
【0101】
このように、C3用電磁弁SL3の故障が判定されると、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが増圧(セカンダリ圧Poutが増圧)されることで、ベルト挟圧力が確保される。次いで、切替用電磁弁SLから切替圧Pslが出力されることでフェールセーフバルブ140がフェール時位置に切り替えられ、モジュレータ圧Plpmが油路Loに供給され、ベルト走行用クラッチC3が係合可能となることから退避走行が可能となる。ここで、ベルト走行用クラッチC3にモジュレータ圧Plpmが供給されたとき、ベルト走行用クラッチC3が急係合する虞があるが、予めベルト挟圧力が確保されることでベルト走行用クラッチC3の急係合によるベルト滑りが防止される。さらに、モジュレータ圧Plpmが供給される油路Llpmにはオリフィス144が設けられていることからオリフィス144において圧力降下が生じ、ベルト走行用クラッチC3の急係合が防止されてC3圧Pc3の上昇が遅らせられる。従って、ベルト走行用クラッチC3が係合する前に、必要なベルト挟圧力が確保されてベルト滑りが防止される。
【0102】
図14は、電子制御装置134の制御作動の要部であって、特に、例えばC3用電磁弁SL3が断線することで切替用電磁弁SLから切替圧Pslが常時出力される故障が発生したときの制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、車両運転時において繰り返し実行される。
【0103】
図14において、故障判定部154の制御機能に対応するステップST30(以下、ステップを省略する)において、切替用電磁弁SLの故障が発生したか否かが判定される。ST30が否定される場合、本ルーチンは終了させられる。切替用電磁弁SLの故障が判定された場合、変速制御部152の制御機能に対応するST31において、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが増圧されるとともに、プライマリ用電磁弁SLPのSLP圧Pslpが増圧させられる。
【0104】
このように、切替用電磁弁SLの故障が発生すると、フェールセーフバルブ144がフェール時位置に切り替わり、油路Loにモジュレータ圧Plpmが供給されてベルト走行用クラッチC3が係合可能となることから退避走行が可能となる。ここで、フェールバルブ144がフェール時位置に切り替わり、ベルト走行用クラッチC3にモジュレータ圧Plpmが供給されたとき、ベルト走行用クラッチC3の急係合が発生する虞があるが、モジュレータ圧Plpmが供給される油路Llpmにオリフィス144が設けられているため、オリフィス144において圧力降下が発生し、ベルト走行用クラッチC3の急係合が防止されてC3圧Psl3の上昇が遅らせられる。従って、ベルト走行用クラッチC3が係合する前に、ベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が確保され、ベルト滑りを防止することができる。
【0105】
図15は、動力伝達装置130が例えばニュートラルレンジ(Nレンジ)にあるときに、切替用電磁弁SLが断線したときの作動状態を示すタイムチャートである。
図15において、t1時点は、切替用電磁弁SLが断線して切替圧Pslが出力される故障が発生した時点を示し、t2時点は、故障に伴ってフェールセーフバルブ140がフェール時位置に切り替わるとともに、退避走行を実行するために例えば前進走行操作位置Dにシフト操作された時点を示し、t3時点は、切替用電磁弁SLの断線が検知されることで、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsの上昇が開始された時点を示している。
【0106】
t1時点において、切替用電磁弁SLの故障が発生すると、切替圧Pslが上昇する。切替圧Pslの上昇に伴って、t2時点において、フェールセーフバルブ140が正常時位置からフェール時位置に切り替わり、ベルト走行用クラッチC3にモジュレータ圧Plpmが供給される。従って、t2時点において、ベルト走行用クラッチC3に供給されるC3圧Pc3が上昇する。t3時点において、切替用電磁弁SLの断線が検出されることで、ベルト滑りを防止するため、セカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsの上昇が開始される。ここで、モジュレータ圧Pmが供給される油路Llpmにオリフィス144が設けられているため、ベルト走行用クラッチC3のC3圧Pc3の上昇が一時的に停滞しており、その間にセカンダリ用電磁弁SLSのSLS圧Pslsが目標値近傍に到達している。従って、ベルト滑りが防止されるベルト挟圧力が、ベルト走行用クラッチC3が係合する前に確保される。このように、本実施例においても、モジュレータ圧Plpmが供給される油路Ldにオリフィス144が設けられることで、前述の実施例と同様にベルト滑りを防止することができる。
【0107】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0108】
例えば、前述の実施例では、プライマリ用電磁弁SLPから出力されたSLP圧Pslpに基づいてプライマリ圧制御弁102において調圧されたプライマリ圧Pinが、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cに供給されていたが、プライマリ用電磁弁SLPの出力圧であるSLP圧Pslpが直接油圧アクチュエータ58cに供給されるものであっても構わない。また、セカンダリ用電磁弁SLSから出力されたSLS圧Pslsに基づいてセカンダリ圧制御弁104によって調圧されたセカンダリ圧Poutが、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されていたが、セカンダリ用電磁弁SLSの出力圧であるSLS圧Pslsが直接油圧アクチュエータ62cに供給されるものであっても構わない。
【0109】
また、前述の実施例では、ギヤ走行中にプライマリ用電磁弁SLPから常時SLP圧Pslp(モジュレータ圧Plpm)が出力される故障が判定されると、変速制御部122は、ギヤ走行用クラッチC1または噛合式クラッチD1を解放するものであったが、必ずしも制御的にこれらの一方を解放するものに限定されず、プライマリ用電磁弁SLPの故障が発生すると機械的にギヤ走行用クラッチC1または噛合式クラッチD1が解放されるものであっても構わない。例えば、ギヤ走行用クラッチC1が、フェールセーフバルブ106を介して作動油が供給されるように構成されており、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わると、ギヤ走行用クラッチC1の油圧アクチュエータ100に作動油を供給するための油路がドレーン油路と連通するように構成されていても構わない。このように構成されることで、プライマリ用電磁弁SLPの故障が発生した際に、フェールセーフバルブ106がフェール時位置に切り替わり、ギヤ走行用クラッチC1が解放されるためにギヤ走行経路PT1が機械的に遮断される。また、フェールセーフバルブ106に限定されず、プライマリ用電磁弁SLPの故障が発生した際に、別個のバルブによってギヤ走行用クラッチC1または噛合式クラッチD1が解放されるものであっても構わない。
【0110】
また、前述の実施例では、切替用電磁弁SL3は、ノーマリオープンタイプに構成されていたが、供給電流に比例した油圧が出力されるノーマリクローズタイプに構成されていても構わない。この場合には、切替用電磁弁SL3の供給電流がゼロの状態で、スプリングSPの付勢力によってフェールセーフバルブ140がフェール時位置に切り替えられるように構成される。従って、切替用電磁弁SL3が断線した場合に、フェールセーフバルブ140がフェール時位置に切り替わることで退避走行が可能となる。
【0111】
また、前述の実施例では、前進走行時について主に説明が為されているが、本発明は、後進走行においても適用することができる。例えば、実施例2において、後進走行操作位置Rにシフト操作された状態での後進走行中に、切替用電磁弁SLが故障してフェールセーフバルブ144がフェール時位置に切り替わった場合であっても、オリフィス144が設けられていることで、後進用ブレーキB1の急係合が防止されてベルト滑りが防止される。
【0112】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。