特許第6920050号(P6920050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6920050
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】シートおよびベルトコンベア装置
(51)【国際特許分類】
   B65G 15/32 20060101AFI20210805BHJP
   B65G 43/00 20060101ALI20210805BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20210805BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20210805BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   B65G15/32
   B65G43/00 N
   C08J5/18CFF
   B32B27/12
   B32B27/40
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-236484(P2016-236484)
(22)【出願日】2016年12月6日
(65)【公開番号】特開2018-90396(P2018-90396A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年12月3日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年6月7〜10日 東京ビッグサイトにおいて開催された FOOMA JAPAN 2016 国際食品工業展 で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】591012392
【氏名又は名称】日本マタイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595027549
【氏名又は名称】アラム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154335
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】荒木 利一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】定家 誠
(72)【発明者】
【氏名】田口 和寛
【審査官】 福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−306217(JP,A)
【文献】 特開2016−183049(JP,A)
【文献】 特開2016−121016(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3152920(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトコンベアのベルトに用いられるシートであって、磁性粉末の含有量が20質量%以上であるポリエーテル系またはポリカーボネート系ウレタン樹脂よりなることを特徴とするシート。
【請求項2】
繊維シートを積層してなる請求項1に記載のシート。
【請求項3】
磁性粉末の含有量が30質量%以下である請求項1または2に記載のシート。
【請求項4】
磁性粉末の含有量が23〜28質量%である請求項1から3のいずれかに記載のシート。
【請求項5】
前記ウレタン樹脂は、ポリエーテル系である請求項1からのいずれかに記載のシート。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載のシートを用いてなるベルトと、1mm以下の異物を検出可能な金属探知機とを備えることを特徴とするベルトコンベア装置。
【請求項7】
さらに、磁石選別機を備える請求項に記載のベルトコンベア装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトコンベアのベルトに用いられるシートおよびベルトコンベア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品ないし衛生分野の工場をはじめとして、物品の搬送目的でベルトコンベアが用いられている。このベルトコンベアが備えるベルトは、一般的に熱硬化性樹脂やゴム系材料を主成分として含んだものが適用されている。
【0003】
また、このベルトコンベアでは、長年使用やベルトの蛇行等により劣化や破損が生じ、その部分が脱落して食品等の搬送物に混入する場合がある。その混入した異物を検知するために、様々な提案がなされている。たとえば、特許文献1では、異物が混入しても金属探知機にて容易に検出可能とするために、合成樹脂に磁性粉末を含ませたコンベア用のベルトが提案されている。また、特許文献2では、搬送物の錆や色の付着を防ぎ、かつ異物を容易に発見可能とするために、非磁性金属粉末を含ませたベルトコンベアで利用可能なベルトが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−306217号公報
【特許文献2】特開2009−23765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱硬化性樹脂では、他の材料からなる層との積層や接合に際し、別途、接着剤が必要となり、それによる接着を行うには樹脂表面の微細凹凸加工や油分の除去等の下処理を要するので、作業が煩雑になる問題があった。また、接着では接合される面積が表面の一部に制限されるので、層間で剥がれやすい問題があった。さらに、熱硬化性樹脂については、液体または粘質の状態から不可逆的に硬化するために心体構成や寸法範囲が制限されてしまい、ベルトのサイズや形状の調整が必要になる問題があった。しかも、接着のみでは、層間の接合力が不十分なことがあり、接着面の剥離等の問題が生じやすかった。さらには、接着に使用する溶剤(接着剤)は、熱硬化性樹脂に適したものを選択する必要があるのみならず、使用時に接着剤のみが単独で割れる等して、ひびや亀裂が入るおそれの無いものを選択しなければならず、制約が大きかった。
【0006】
また、ゴム系材料では、積層や接合に際し、溶着が可能なので、接合力は向上するが、加硫が必要なので、作業が煩雑であることは熱硬化性樹脂の場合と同様である。
【0007】
一方、特許文献1の提案で使用する合成樹脂は、熱可塑性樹脂の例があるが、この提案の合成樹脂は、ポリエステル等であり、強度や耐磨耗性に劣る問題があった。また、樹脂によっては、溶着可能であっても、その強度が低く接着剤の併用が必要となるものがある。
【0008】
また、特許文献2の提案では、ウレタン系エラストマーも一例として記載されているが、熱硬化性樹脂やゴム系材料を排除しておらず、接合力の弱さや作業の煩雑性については、何ら考慮されていない。さらに、この提案では非磁性体により検知を行うため、食品プラントのラインで用いられるマグネットキャッチャー等の磁石選別機で異物を捕捉できないことから、異物の検知精度が低下する問題があった。さらに、非磁性体を用いた場合、ほつれ防止効果が十分でないことがあった。
【0009】
また、これらの問題を踏まえつつ、用いる樹脂の物性や異物の検知精度を十分に保持する必要がある。
【0010】
本発明は、容易に溶着可能で、強度や耐磨耗性に優れ、ベルトコンベアのベルトに用いた場合に、異物の検知精度が高いシート、およびこれを用いたベルトコンベア装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
<1> ベルトコンベアのベルトに用いられるシートであって、磁性粉末を含むウレタン樹脂よりなることを特徴とするシートである。
【0012】
<2> 繊維シートを積層してなる<1>に記載のシートである。
【0013】
<3> 磁性粉末の含有量が30質量%以下である<1>または<2>に記載のシートである。
【0014】
<4> 磁性粉末の含有量が20質量%以上である<3>に記載のシートである。
【0015】
<5> 磁性粉末の含有量が23〜28質量%である<4>に記載のシートである。
【0016】
<6> 前記ウレタン樹脂は、ポリエーテル系である<1>から<5>のいずれかに記載のシートである。
【0017】
<7> 非磁性粉末を含む<1>から<6>のいずれかに記載のシートである。
【0018】
<8> <1>から<7>のいずれかに記載のシートを用いてなるベルトと、金属探知機とを備えることを特徴とするベルトコンベア装置である。
【0019】
<9> さらに、磁石選別機を備える<8>に記載のベルトコンベア装置である。
【0020】
なお、本発明において「ウレタン樹脂よりなる」とはウレタン樹脂を主成分としていればよく、添加剤等はもちろん、他の樹脂を含んでいてもよいものとする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシートは、ウレタンよりなるので、その熱可塑性より容易に溶着可能であるとともに、ベルトコンベアのベルトに用いた場合に、強度や耐磨耗性に優れる。また、磁性粉末を含むので、高い検知精度を保持することが可能となる。
【0022】
本発明のベルトコンベア装置は、本発明のシートを用いてなるベルトを備えるので、そのシートが容易に溶着可能で、強度や耐磨耗性に優れるとともに、高い検知精度を保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施例1〜6の引張強度の測定結果を示すグラフである。
図2図2は、本発明の実施例1〜6の引裂強度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のシートは、ベルトコンベアのベルト(以下、「コンベアベルト」と言う。)に用いられるシートであって、磁性粉末を含むウレタン樹脂よりなるウレタンシートである。
【0025】
ウレタン樹脂は熱可塑性樹脂であるが、ウレタン樹脂以外の熱可塑性樹脂では、コンベアベルトとして用いた場合に、強度や耐磨耗性に劣りやすい。
【0026】
ウレタン樹脂は、通常、用いられる公知の種類のものを適宜選択して適用することができ、たとえば、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系等が挙げられる。これらの中では、耐水性や耐微生物性に優れて食品や衛生分野の用途に好適なこと、異物の検知精度を高くできること、硬度が高いことによって加水分解による強度劣化が抑えられること等から、ポリエーテル系が好ましい。
【0027】
なお、本発明のシートは、ウレタン樹脂を主成分として含んでいれば、他の熱可塑性樹脂を補足的に含んでいてもよい。
【0028】
ここで、製造後のシートにおいて、ウレタン樹脂を含むことは、たとえば、赤外分光法(IR)や核磁気共鳴装置(NMR)等を用いて常法により分析することができる。
【0029】
磁性粉末は、コンベアベルトとして用いた場合に、マグネットキャッチャー等の磁石選別機で異物を捕捉するために必要であり、たとえば、長期間の使用によりベルトが磨耗した際に、生じた粉状の破片を除去することが可能となる。
【0030】
磁性粉末としては、公知のものを適宜選択して配合すればよく、たとえば、フェライト系、サマリウムコバルト系、ネオジウム系等の粉末が挙げられる。
【0031】
磁性粉末の含有量は、通常、シート全体質量の30質量%以下であり、20質量%以上であることが好ましく、23〜28質量%であることが、より好ましく、25〜27質量%であることが特に好ましい。
【0032】
磁性粉末の含有量が30質量%を超えると、強度や耐磨耗性等、コンベアベルトの物性が低下することがあり、20質量%未満であると、異物の検知精度が低下することがある。
【0033】
得られたシートにおける磁性粉末の含有量は、たとえば、X線回折等により常法にて分析することができる。
【0034】
なお、本発明のシートは、金属粉末として必ずしも磁性粉末以外を排除する趣旨では無く、補足的に非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0035】
本発明のシートは、他の材料層を積層ないし接合してもよく、たとえば、繊維シートを積層することで、コンベアベルトとして好適に使用可能である。コンベアベルトでは、繊維シートが表面シートとして用いられることがあるが、この場合、積層により磁性粉末が繊維シートに移動して異物の検知精度の向上に資する。
【0036】
このように、磁性粉末の繊維シートへの移動は、本発明のように、熱可塑性樹脂によりコンベアベルトのシートを作製することから可能となる。つまり、熱硬化性樹脂では他の材料層と積層や接合をする場合、接着剤により層間を接着するので、他の材料層に磁性体が移動することは不可能である。しかし、熱可塑性樹脂では、溶着、すなわち、樹脂を他の材料層とともに溶かした上で積層ないしは接合するため、これにより樹脂内の含有物が他の材料層に混ざり込むことができる。
【0037】
また、このように樹脂を溶かすことで、二軸スクリューが使用可能となり、これによる撹拌で磁性粉末の分散性を向上させることができる。
【0038】
さらに、樹脂を溶かすことが可能なことから、表面に桟、ガイド、サイドウォール等、使用条件に合わせたパターンを加工形成することができる。つまり、コンベアベルトが傾斜となっていたり、搬送物が豆等の粒状のものである場合には、搬送物のコンベアベルトからの落下を防ぐために、桟やサイドウォール等を設けることが要請され得るが、そのような要請に容易に対応することが可能である。
【0039】
その他にも、溶かした樹脂を再ペレット化し、加熱することで再加工や再利用することが可能である。
【0040】
なお、本発明のシートは、他の材料層とのみならず、本発明のシートを複数層、積層または接合してもよい。また、本発明のシートは、コンベアベルトのベルト材のみならず、上面コーティング材としても好適に使用可能である。
【0041】
本発明のシートの成形方法、磁性粉末の配合方法、層間の溶着方法については、通常用いられる公知の方法を適宜選択すればよい。
【0042】
本発明のシートは、これを用いたコンベアベルトと、このコンベアベルトが通過する金属探知機を備えたベルトコンベア装置で用いることができる他、マグネットキャッチャー等の磁石選別機とを備えたベルトコンベア装置にて好適に用いることができる。また、X線検査機を備えたベルトコンベア装置においても用いることができる。
【0043】
コンベアベルトでは、その心体の生地のほつれを防止するために、ベルトを挟み込み、ほつれ加工をすることがあるが、その加工部分が駆動時にプーリーの両端金属の板に干渉し、削れたり脱落して異物となることがある。金属探知機や磁石選別機を用いると、その除去も可能となる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0045】
(実施例1)
ウレタン樹脂としてのBASF社製エラストラン1190ATR(ポリエーテル系)に、フェライト系の磁性粉末を、含有量が19.0質量%となるように混練し、二軸スクリューにより磁性粉末を均一に分散して、厚さ1mmの本発明のウレタンシートを作製した。
【0046】
このウレタンシートについて、引張強度(N/5mm)と引裂強度(N)を、JIS K7311にて引張試験機(島津製作所製、AG−IS)を用いて測定した。
【0047】
また、作製したウレタンシートを、金属探知機を備えた食品工場で使用される市販のベルトコンベア装置のベルトとして使用し、概ね1mm以下の径の異物を搬送物に混入させ、マグネットキャッチャーを20回通過させた。異物の検出可能回数が18回以上の場合を◎、10〜17回の場合を〇、6〜10回の場合を△、5回未満の場合を×として異物の検知精度を測定した。
【0048】
これらの各測定結果を表1と図1および図2のグラフに示す。
【0049】
(実施例2)
実施例1において、磁性粉末の含有量を20.0質量%とした以外は同様にして、引張強度、引裂強度および検知精度を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
実施例1において、磁性粉末の含有量を26.5質量%とした以外は同様にして、引張強度、引裂強度および検知精度を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
実施例1において、磁性粉末の含有量を30.0質量%とした以外は同様にして、引張強度、引裂強度および検知精度を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例5)
実施例1において、磁性粉末の含有量を31.0質量%とした以外は同様にして、引張強度、引裂強度および検知精度を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例6)
実施例3において、他社製のポリエステル系ウレタン樹脂からなる同サイズのウレタンシートを作製した以外は同様にして、引張強度、引裂強度および検知精度を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
表1と図1および図2の結果より、本発明のシートは、いずれの例でも引張強度、引裂強度ともに良好であり、強度や耐磨耗性に優れることが判った。また、コンベアベルトとして用いた場合に、高い異物検知精度を有することが判った。
【0055】
中でも、実施例1〜4のように、特定のウレタン樹脂において、金属粉末の含有量を20〜30質量%の範囲内とした場合には異物検知精度が極めて高く、特に、実施例3のように金属粉末の含有量を25〜27質量%の範囲内とした場合には、良好な強度と高い異物検知精度とのバランスが最適であることが判った。
【0056】
また、実施例1〜6において、マグネットキャッチャーを備えたベルトコンベアにて、金属探知機の際と同様の検知精度測定を行ったところ、いずれの例でも◎、つまり20回全てで異物の検出を行うことができた。
【0057】
(実施例7〜12)
実施例1において、ウレタン樹脂を、他社製のポリエーテル系のものに変えた以外は同様にして、かつ、磁性粉末の含有量を、19.0質量%、20.0質量%、26.5質量%、30.0質量%、31.0質量%と、実施例1〜6に合わせて変えて上述の測定を行った。その結果、実施例1〜6と同様に、引張強度、引裂強度、異物検知精度について良好な結果が得られ、磁性粉末の含有量を25〜27質量%の範囲内とした場合に特に良好な結果が得られた。このことより、ポリエーテル系のウレタン樹脂であれば、異なる製品を用いても同様の結果が得られることが判った。
【0058】
(比較例1)
実施例3において、塩化ビニル樹脂を用いて同サイズのシートを作製した以外は同様にして、引張強度、引裂強度および検知精度を測定したところ、引張強度および引裂強度が本発明のシートより弱い結果となった。
【0059】
(実施例13〜18)
実施例1〜6で得られた本発明の各シートを繊維シートに溶着により積層したものを、同様のベルトコンベア装置で用いたところ、実施例1〜6の各例と同程度の高い異物検知精度を有していた。
【0060】
(比較例2)
熱硬化性樹脂であるフッ素系樹脂を用いて、磁性粉末を実施例3と同様に含有量が19.0質量%となるように混ぜてシートを作製し、これに繊維シートを接着により積層させたものを、実施例13〜18と同様にベルトコンベア装置で用いたところ、繊維シートを積層させなかったものに比して異物検知精度の低下が観られた。
【0061】
このことから、本発明のシートは、溶着が可能であるため、積層により磁性粉末が繊維シートに移動して、高い異物検知精度を維持できたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、物品の搬送目的で用いられるベルトコンベアの分野において適用可能である。
図1
図2