(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
集電体上にリチウムイオンあるいはアニオンを可逆的に担持可能な正極材料が塗布されてなる正極と、集電体上にリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極材料が塗布されてなる負極とを備えるとともに、前記正極と前記負極とがセパレーターを介して対向配置されてなる電極体と電解液とが外装体内に封入されてなる蓄電素子の製造方法であって、
前記外装体内に前記電極体と電解液とを封入した後に、前記蓄電素子を充電することで前記負極にリチウムイオンをあらかじめ吸蔵させるプレドープステップと、
前記負極にあらかじめ吸蔵させておくリチウムイオンの供給源を含む添加剤を作製する添加剤作製ステップと、
前記添加剤を前記外装体内に導入する添加剤導入ステップと、
を含み、
前記添加剤作製ステップでは、リチウムイオンの供給源としてハロゲン化リチウムを用い、当該ハロゲン化リチウムを溶媒に溶解させて前記添加剤を作製する、
ことを特徴とする蓄電素子の製造方法。
請求項1に記載の蓄電素子の製造方法において、前記添加剤作製ステップでは、前記溶媒に、N,N−ジメチルホルムアミドを用いることを特徴とする蓄電素子の製造方法。
請求項1〜3のいずれかに記載の蓄電素子の製造方法において、前記添加剤導入ステップでは、前記電解液に前記添加剤を添加し、当該電解液を前記外装体内に収納することを特徴とする蓄電素子の製造方法。
【背景技術】
【0002】
充放電が可能な蓄電素子には、リチウムイオンあるいはアニオンを可逆的に担持可能な材料を含んで構成される正極と、リチウムイオンの吸蔵と放出が可能な材料を含んで構成される負極と、リチウム塩を含んだ電解液とを備えるとともに、正極と負極とをセパレーターを介して対向配置させてなる電極体が外装体内に電解液とともに密閉されてなる。そして、負極にあらかじめリチウムイオンが吸蔵(以下、プレドープとも言う)されているものがある。この負極にリチウムイオンをプレドープさせておくタイプの蓄電素子(以下、プレドープ型蓄電素子とも言う)としては、リチウムイオンキャパシタと称されるものがある。リチウムイオンキャパシタは、正極が電気二重層を形成して物理的な作用で充放電するのに対し、負極がリチウムの酸化還元反応によって充放電する。
【0003】
プレドープ型蓄電素子は、負極にリチウムイオンがプレドープされていることで負極の電位V(vs Li/Li
+)が下がり、正負極間の電位差であるセル電圧を大きくでき、それによって高いエネルギー容量を得ることができるものとなっている。また、リチウムイオンキャパシタは、周知の電気二重層コンデンサと同様に急速充電が可能なものとなっている。そして、プレドープ型蓄電素子には、風力発電の負荷平準化装置、瞬停対策装置、自動車における回生電力の蓄電用途などに利用されることが期待されている。
【0004】
プレドープ型蓄電素子を構成する正極や負極は、例えば、平板状の集電体表面に電極活物質を含んだスラリー状の電極材料を塗工することで作製される。プレドープ型蓄電素子は、正極と負極とをセパレーターを介して対向配置させた1層分の電極体、あるいは複数の電極体を積層させた複数層分の電極体を電解液とともに外装体内に封入したものである。
【0005】
なお、プレドープ型蓄電素子には、リチウムイオンを負極にプレドープさせる方式に応じて、概ね二つの種類がある。一方の種類の蓄電素子におけるプレドープの方式は、正極と負極の少なくとも一方にメッシュ状など表裏を貫通する孔が形成された集電体を用い、積層電極体の最上層あるいは最下層の外面側に金属リチウムを貼着し、その金属リチウムを起源としたリチウムイオンを集電体の孔を通して負極に吸蔵させるものである。なお、以下の特許文献1には、この方式を採用した蓄電素子について記載されている。
【0006】
他方の種類の蓄電素子におけるプレドープの方式は、シート状の集電体において、負極材料が塗工されている面と同じ面に金属リチウムを配置しておき、リチウムイオンを集電体の表面に沿って負極に吸蔵させるものである。なお、この種の蓄電素子については、例えば、以下の特許文献2などに記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
===技術思想===
上述したように、従来のプレドープ型蓄電素子は、製造時における取り扱いが難しい金属リチウムを用いて負極にリチウムイオンをプレドープさせている。そして、従来の蓄電素子の製造方法では、安全性を確保しつつ、低コストでプレドープ型蓄電素子を製造することが難しかった。そこで、本発明の実施例に係る蓄電素子の製造方法では、取り扱いが難しい金属リチウムを用いずにリチウムイオンを負極にプレドープすることとしている。具体的には、本発明の実施例に係る蓄電素子の製造方法は、プレドープするリチウムイオンの供給源(以下、リチウムイオン源とも言う)として、負極あるいは正極における化学反応によって分解する何らかのリチウム化合物を用いることで、安全性を確保しつつ製造コストを低減させるという技術思想に基づいたものである。さらに、本発明の実施例に係る蓄電素子の製造方法には、リチウム化合物を電極体や電解液とともに外装体内に封入するだけでプレドープすることで蓄電素子の製造コストをさらに低減させるという技術思想が含まれている。
【0016】
そして、上記技術思想に基づく本発明の実施例に係る蓄電素子の製造方法では、ハロゲン化リチウム(塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化リチウムなど)をリチウムイオン源として利用し、さらに、そのリチウム源からのリチウムイオンをより簡素な手順でプレドープすることに特徴を有している。そして、以下では、本発明の実施例として、ラミネートフィルムからなる外装体内に、電極体と電解液からなる発電要素が収納された蓄電素子を製造する手順を挙げる。
【0017】
===蓄電素子の構造===
図1に、本発明の実施例に係る方法によって作製される蓄電素子1の構造を示した。
図1(A)は蓄電素子1の外観を示す斜視図であり、
図1(B)は蓄電素子1の分解斜視図である。図示した蓄電素子1は、
図1(A)に示したように平板状の外観形状を有し、ラミネートフィルムからなる扁平な矩形袋状の外装体11内に発電要素が封入されてなる。また、ここに示した蓄電素子1では、矩形の外装体11の一辺13から正極端子板23および負極端子板33が外方に導出されている。
【0018】
次に、
図1(B)を参照しつつ蓄電素子1の構造について説明する。なお
図1(B)では一部の部材や部位にハッチングを施し、他の部材や部位と区別しやすいようにしている。
図1(B)に示したように、外装体11は、互いに重ね合わせた矩形状の2枚のアルミラミネートフィルム(11a、11b)において、図中網掛けのハッチングまたは点線の枠で示した周縁領域12が熱圧着法により溶着されて内部が密閉されたものである。外装体11内には、シート状の正極20とシート状の負極30とがセパレーター40を介して積層されてなる電極体10が、電解液とともに封入されている。正極集電体21および負極集電体31には、それぞれ、帯状の正極端子板23および負極端子板33の一方の端部が超音波溶着などの方法によって接続されている。正極端子板23および負極端子板33の他方の端部は外装体11の外側に露出している。そして、本発明の実施例に係る蓄電素子1の製造方法では、電解液にハロゲン化リチウムをリチウム源としたリチウムイオンを負極30にプレドープさせている。また、必要量のリチウム源を確実に電解液に溶解させるために、リチウム源を所定の溶媒に溶解させた状態で外装体11内に導入している。
【0019】
===第1の実施例===
本発明の第1の実施例に係る蓄電素子の製造方法として、塩化リチウムをリチウム源としたプレドープ型蓄電素子(以下、蓄電素子とも言う)の製造手順を挙げる。
図2に第1の実施例に係る蓄電素子1の製造方法の手順を示した。以下、この手順について、
図2と
図1とを参照しながら説明する。
【0020】
まず、電極体10を構成する正極20と負極30を作製する(s1)。正極20については、正極活物質として活性炭を用い、導電剤、増粘剤、および結着剤としてアセチレンブラック、カルボキシメチルセルロース、およびアクリル系バインダーを用いた。以下に正極20の作製手順について説明する。まず、正極活物質、導電剤、増粘剤、および結着剤を、それぞれ88wt%、6wt%、3wt%、および3wt%の割合で混合し、これに純水を加えて混合して得た正極合剤を正極材料22とした。正極材料22を45g/m
2の目付量でアルミニウム箔からなる正極集電体21上に塗布し、その正極材料22が塗布された正極集電体21を縦30mm、横50mmに打ち抜いた。さらに、正極材料22が塗布された正極集電体21を乾燥させて正極20を完成させた。ここでは、正極材料22が塗布された正極集電体21を自然乾燥させた後、例えば、100℃〜200℃程度の温度で12時間程度の時間で真空乾燥させた。
【0021】
負極30については、負極活物質にピッチコートカーボンブラックを用いるとともに、導電剤、増粘剤、および結着剤としてアセチレンブラック、カルボキシメチルセルロース、およびスチレンブタジエンゴムを用いた。そして、負極活物質、導電剤、増粘剤、および結着剤を、それぞれ88wt%、5wt%、4wt%、および3wt%の割合で混合し、これに純水を加えて混合して得た負極合剤を負極材料32とした。次に、負極材料32を21g/m
2の目付量で銅箔からなる負極集電体31上に塗布した。さらに、負極材料32が塗布された負極集電体31を縦32mm、横52mmに打ち抜いた後、正極と同様の乾燥工程により乾燥させることで負極30を完成させた。
【0022】
上記の手順で作製した正極20と負極30を、セパレーター40を介して積層することで電極体10を作製した(s2)。セパレーター40としては、例えば、ポリオレフィンなどからなる微多孔膜、織布、および不織布を用いることができる。ここでは、ポリオレフィンの不織布からなるセパレーター40を採用した。なお、正極集電体21および負極集電体31には、正極材料22および負極材料32が塗布される前、あるいは正極20および負極30の作製が完了した時点などの適宜な時点で正極端子板23および負極端子板33を取り付けておく。
【0023】
電極(20、30)の作製工程(s1)から電極体10の組み立て工程(s2)までの手順に並行して、あるいは前後して電解液とリチウム源を含む添加剤を作製した。電解液は、プロピレンカーボネートの溶媒中に1.2Mの濃度でLiPF
6を溶解させることで作製した(s3)。また、リチウム源である塩化リチウムを溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた溶液を添加剤として作製した(s4)。ここでは、13mLのDMFに1gの塩化リチウムを溶解させた。そして、0.4mLの電解液中に、35.7μLの添加剤を添加する電解液調整工程(s5)を実行した
電極体10と添加剤が添加された電解液からなる発電要素を作製した後、その発電要素を別途用意しておいたラミネートフィルムからなる外装体11内に収納した後、その外装体11を密封した(s6、s7)。なお、外装体11内に発電要素を収納して外装体11を密封する手順としては、例えば、互いに対面させた2枚の矩形状のラミネートフィルム(11a、11b)の三辺を溶着して一辺13が開口する袋状の外装体11を作製し、その袋状の外装体11内に電極体10を電解液とともに収納し、袋状の外装体11において開口している一辺13を封止するという手順が採用できる。
【0024】
次に、上述した手順(s1〜s7)によって組み立てられた蓄電素子1に対し、まず、エージング工程(s8)を実行した。エージング工程(s8)では、組み立て後の蓄電素子1を25℃恒温槽内で7日間静置した後、終止セル電圧を3.5Vにして10mAの定電流および定電圧で24時間充電し、次いで24時間休止させて自然放電させるという充放電サイクルを2回繰り返した。そして、エージング工程(s8)後の蓄電素子1を充電して負極30にリチウムイオンを吸蔵させるプレドープ工程(s9)を実行し、負極30にリチウムイオンがプレドープされて使用可能な状態の蓄電素子1を完成させた。プレドープ工程(s9)では、25℃恒温槽内で、10mAの定電流および定電圧で、3.5Vの終止セル電圧となるまで24時間掛けて充電した。
【0025】
<プレドープの確認>
上述した第1の実施例に係る方法で作製した蓄電素子の負極にリチウムイオンがプレドープされているか否かを確認するために、第1の実施例の方法で作製した蓄電素子、添加剤を用いずに作製した蓄電素子、リチウム化合物を含まない添加剤を用いて作製した蓄電素子、ハロゲン化リチウム以外のリチウム化合物を含む添加剤を用いて作製した蓄電素子をサンプルとし、各サンプルにおけるプレドープの状態を調べた。
【0026】
以下の表1に各サンプルの製造条件を示した。
【0027】
【表1】
表1において、サンプル1は第1の実施例に係る方法で作製した蓄電素子である。サンプル2は、電解液にリチウム源とその溶媒が含まれておらず、サンプル3は電解液にリチウム源の溶媒であるDMFのみが含まれている。また、サンプル4は、リチウムアセチルアセトナートをDMFに溶解させて得た溶液を添加剤として使用したものである。ここでは、
図2における添加剤作製工程(s4)において、1gのリチウムアセチルアセトナートを20mLのDMFに溶解させて添加剤を作製し、電解液調整工程(s5)では、0.4mLの電解液に132.8μLの添加剤を添加した。サンプル5は、クエン酸リチウムをDMFに溶解させて得た溶液を添加剤として使用したものであり、添加剤作製工程(s4)において、1gのクエン酸リチウムを20mLのDMFに溶解させて添加剤を作製した。電解液調整工程(s5)では、0.4mLの電解液に272.2μLの添加剤を添加した。また、サンプル2〜5に対しても、サンプル1と同様にしてエージング工程(s8)とプレドープ工程(s9)とを実行した。そして、プレドープ工程(s9)後の各サンプルの負極電位を測定した。
【0028】
表2に、各サンプルの負極電位を示した。
【0029】
【表2】
表2に示したように、第1の実施例の方法で作製したサンプル1におけるセル電圧に対する負極の電位(以下、負極電位とも言う)は0.2V(vs Li/Li
+)であった。一方、他のサンプル2〜5の負極電位は、0.7V(vs Li/Li
+)であり、サンプル1の負極電位に対して0.5V高かった。以上より、サンプル1ではリチウムイオンが負極30にプレドープされ、そのプレドープにより負極電位が0.5V低下することが確認できた。また、塩化リチウム以外のリチウム化合物を添加剤に用いたサンプル4とサンプル5では、サンプル2やサンプル3と同様に負極電位が0.7V(vs Li/Li
+)であり、プレドープされていないことが確認できた。すなわち、リチウム源としてハロゲン化リチウムの一つである塩化リチウムを用いることで負極30にリチウムイオンをプレドープさせることが可能であること、およびハロゲン化リチウム以外のリチウム化合物を添加剤に用いてもプレドープできないことが確認できた。
【0030】
===第2の実施例===
上述したように、表1に示したサンプル1〜5に対して実行したプレドープ工程(s9)では、終止セル電圧を3.5Vにしていた。これは、リチウム源が導入されていないサンプル2と3では、リチウムイオンが負極にプレドープされないため、終止セル電圧を3.5Vよりも高くして充電すると正極が酸化分解されてしまう可能性があったからである。そして、正極が酸化分解されたサンプルでは、プレドープ工程(s9)後の負極電位の値に信頼性がなく、第1の実施例に係る蓄電素子の製造方法によるプレドープの可不可を確認することができなくなる。しかし、表1に示した結果より、第1の実施例の方法によってプレドープが可能であることが確認できた。そこで、3.5Vよりも高い終止セル電圧でプレドープ工程(s9)を実行して蓄電素子1を作製する手順を本発明の第2の実施例に係る蓄電素子の製造方法とする。
【0031】
具体的には、第1の実施例に係る蓄電素子の製造方法において用いた正極材料22と負極材料32とを備えたプレドープ型蓄電素子は、リチウム源の形態を除けば、リチウムイオンキャパシタと同様の構成を備えて、リチウムイオンキャパシタと同様の充放電反応によって動作する。また、リチウムイオンキャパシタでは、負極30が吸蔵可能な量のリチウムイオンをプレドープさせるとセル電圧が3.8Vとなる。そこで、第2の実施例にかる蓄電素子の製造方法では、
図2に示した蓄電素子の作製手順におけるプレドープ工程(s9)で、組み立て後の蓄電素子を3.8Vの終止セル電圧で充電することとした。そして、プレドープ工程(s9)後の蓄電素子の負極電位を調べたところ、0V(vs Li/Li
+)の負極電位となり、理論的に負極30が吸蔵可能な量のリチウムイオンが、実際にプレドープされていることが確認できた。
【0032】
===第3の実施例===
次に、本発明の第3の実施例に係る蓄電素子の製造方法として、
図2に示した蓄電素子の作製手順における添加剤作製工程(s4)で、0.4mLの電解液に対する添加剤の添加量を変えて蓄電素子を作製する手順を挙げる。第1および第2の実施例に係る蓄電素子の製造方法では、1gの塩化リチウムを13mLのDMFに溶解させて得た溶液を添加剤とし、その添加剤35.7μLを0.4mLの電解液に添加していたが、第3の実施例では、0.4mLの電解液に対する添加剤の添加量が異なる各種蓄電素子をサンプルとして作製した。なお、第3の実施例に係る蓄電素子の製造方法では、第2の実施例と同様にして終止セル電圧3.8Vでプレドープ工程(s9)を実行した。そして、プレドープ工程(s9)後の蓄電素子をサンプルの負極電位を調べた。
【0033】
以下の表3に第3の実施例の方法で作製したサンプルにおける添加剤の添加量とプレドープ工程(s9)後の負極電位とを示した。
【0034】
【表3】
表3において、サンプル6は、第2の実施例の方法で作製した蓄電素子であり、負極電位は、0.0V(vs Li/Li
+)である。そして、表3に示したように、電解液に対する添加剤の添加量が少ないサンプルほど負極電位が高くなっている。しかし、表3に示した全てのサンプル6〜10は、プレドープされていない場合のサンプル(表1、サンプル2〜サンプル5)の負極電位である0.7V(vs Li/Li
+)よりも低い負極電位を示した。以上により、リチウム源として塩化リチウムを含む添加剤を外装体内に導入すれば、導入されたリチウム源の量に対応するリチウムイオンが確実に負極にプレドープされることが確認できた。
【0035】
===第4、第5の実施例===
上記第1〜第3の実施例では、リチウム源となるハロゲン化リチウムとして塩化リチウムを使用し、リチウム源を溶解させる溶媒にDMFを用いていた。そこで、本発明の第4の実施例に係る蓄電素子の製造方法では、
図2に示した蓄電素子の作製手順の添加剤作製工程(s4)で、塩化リチウム以外のハロゲン化リチウムをリチウム源として用いることとした。また、第5の実施例に係る蓄電素子の製造方法では、添加剤作製工程(s4)で、塩化リチウムの溶媒としてDMFに代えてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いることとした。そして、サンプルとして、第4および第5の実施例に係る方法によって
図1に示した蓄電素子1を作製し、各サンプルの負極電位を測定した。なお、プレドープ工程(s9)では、終止セル電圧を3.8Vとした。
【0036】
表4に、第4および第5の実施例の方法によって作製したサンプルについて、作製条件と負極電位とを示した。
【0037】
【表4】
表4では第2の実施例の方法で作製したサンプル6の製造条件と負極電位も示した。表4に示したように、塩化リチウム以外のハロゲン化リチウムである臭化リチウムをリチウム源としたサンプル11、およびリチウム源の溶媒としてDMSOを用いたサンプル12においても、負極電位が0.7V(vs Li/Li
+)よりも低く、プレドープされていることが確認できた。
【0038】
以上より、リチウム源には塩化リチウムに限らず、臭化リチウムも使用できることがわかった。もちろん、塩化リチウムと臭化リチウムがリチウム源として使用できることが確認されたことから、ヨウ化リチウムやフッ化リチウムなどの他のハロゲン化リチウムをリチウム源として使用できることは容易に想像できる。すなわち、Xをハロゲン原子としてLiXで表される化合物であれば、リチウム源として使用することができるものと考えられる。
【0039】
なお、本発明の実施例では、ハロゲン化リチウムを外装体内に導入するために、ハロゲン化リチウムを溶媒に溶解させてなる添加剤を作製し、その添加剤が添加された電解液を電極体とともに外装体内に収納している。これは、ハロゲン化リチウムをそのまま電解液に添加しただけでは、ハロゲン化リチウムの全てが電解液に溶解せず、目的とする量のリチウムイオンが負極にプレドープされない可能性があるからである。したがって本発明の実施例に係る蓄電素子の製造方法では、ハロゲン化リチウムを溶解できる溶媒を用いて添加剤を作製することが必要となる。そして、DMFやDMSOは、多くの化合物を溶解することで知られており、添加剤の溶媒にはそのDMFやDMSOが使用できることが確認できた。言い換えれば、DMFやDMSOに限らず、ハロゲン化リチウムを溶解させることができる溶媒を使って添加剤を作製し、その添加剤を外装体内に導入すれば、ハロゲン化リチウムを起源としたリチウムイオンを負極にプレドープすることができるものと考えられる。
【0040】
また、DMFやDMSOは、有機溶媒に任意の割合で混合できることでも知られている。そして、本発明の実施例に係る蓄電素子の製造方法では、ハロゲン化リチウムを溶質として含んだDMFやDMSOと、電解液を構成する溶媒(プロピレンカーボネート)とを混合させることでハロゲン化リチウムを電解液に溶解させている。なお、ハロゲン化リチウムは極性が強いことから、ハロゲン化リチウムの溶媒には極性を有するものを使用することが好ましい。また、各実施例の方法で作製される蓄電素子は、充放電反応にリチウムイオンを用いているため、水が分解する電圧よりも高いセル電圧で動作するものとなることから、ハロゲン化リチウムの溶媒には、高いセル電圧によって電気分解されない非プロトン性のものを使用することが好ましい。そして、極性を有する非プロトン性の溶媒としては、DMFやDMSOの他に、例えば、アセトニトリルなどがある。
【0041】
===第6の実施例===
上記第1〜第5の実施例に係る方法で製造される蓄電素子は、リチウムイオンキャパシタと同様に、正極活物質に炭素系材料を用いていた。もちろん、正極活物質は炭素系材料に限らない。例えば、正極活物質として、リチウム二次電池などで用いられているコバルト、ニッケル、マンガンを含む三元系活物質(Li(Ni−Mn−Co)O
2)を用いることも考えられる。
【0042】
三元系活物質は、単位質量当たりの容量が大きく、優れた熱安定性を有して安全性が高い。そして、三元系活物質を用いた正極の電位は4.2Vである。したがって、三元系活物質を正極に用いてプレドープ型蓄電素子を作製すれば、蓄電素子の電気容量を増大させることが可能となる。そこで、第6の実施例に係る蓄電素子の製造方法として、正極活物質に三元系活物質を用いつつ、第1〜第5の実施例の方法と同様の手順で蓄電素子を作製する手順を挙げる。以下に、
図1と
図2を参照しつつ、第6の実施例に係る蓄電素子の製造方法について説明する。
【0043】
まず、電極作製工程(s1)により正極20と負極30を作製する。正極20については、上記の三元系活物質、導電剤であるアセチレンブラック、および結着剤であるポリビニリデンジフロリド(PVDF)系バインダーを、それぞれ、90wt%、5wt%、および5wt%の割合で混合し、これにN−メチル−2ピロリドンを加えて混合して得た正極材料22を191g/m
2の電極目付でアルミニウム箔からなる正極集電体21上に塗布した。そして、正極材料22が塗布された正極集電体21を、縦17mm、横17mmに打ち抜き、その上で、この正極材料22が塗布された正極集電体21を、上述した第1の実施例と同様にして乾燥させることで正極20を完成させた。
【0044】
負極30については、負極活物質であるグラファイトを97wt%、増粘剤であるカルボキシルメチルセルロースを1.5wt%、結着剤であるスチレンブタジエンゴムを1.5wt%の割合で混合したものに純水を加えてスラリー状の負極材料32を得た。そして、この負極材料32を93g/m
2の電極目付で銅箔からなる負極集電体31上に塗布した。次いで、負極材料32が塗布された負極集電体31を、縦18mm、横18mmに打ち抜いた後、正極20と同様にして乾燥させて負極30を完成させた。
【0045】
電極体組み立て工程(s2)では、正極20と負極30をポリオレフィンの不織布からなるセパレーター40を介して積層して電極体10を作製した。なお、正極集電体21および負極集電体31には、適宜な時点で正極端子板23および負極端子板33を取り付けておけばよい。
【0046】
電解液作製工程(s3)では、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比率が1:2となるように調整した溶媒中に1.2Mの濃度のLiPF
6を溶解させることで電解液を作製した。添加剤作製工程(s4)では、1gの塩化リチウムを13mLのDMFに溶解させることで添加剤を作製し、電解液調整工程(s5)では、この添加剤5μLを0.4mLの電解液に添加した。そして、電極体10と電解液を外装体11内に封入した(s6、s7)。
【0047】
また、エージング工程(s8)では、それまでの手順(s1〜s7)によって組み立てられた蓄電素子1を25℃恒温槽内に4日間静置した後、その蓄電素子1を1mAの定電流で終止セル電圧4.2Vまで充電し、次いで、充電後の蓄電素子1を終止セル電圧2.5Vまで放電させた。なお、実際の蓄電素子1の製造方法では、エージング工程(s8)に続いてプレドープ工程(s9)を実行するところであるが、ここでは、エージング工程(s8)を実行した後の蓄電素子1をサンプルとして取り出し、エージング工程(s8)における1mAでの定電流充電と定電流放電とに掛かった時間に基づいて充電容量と放電容量とを求めた。また、第6の実施例の方法によって作製したサンプルの容量特性を評価するために、エージング工程までの手順(s1〜s8)において、添加剤を用いないこと以外は第6の実施例と同様の方法で作製した蓄電素子1を比較例に係るサンプルとして用意した。なお、添加剤を用いずに作製した蓄電素子1はリチウム二次電池として動作する。
【0048】
以下の表5に第6の実施例の方法で作製したサンプルと比較例に係るサンプルの作製条件と容量特性とを示した。
【0049】
【表5】
表5において、サンプル13が第6の実施例の方法で作製した蓄電素子1であり、サンプル14が比較例に係るサンプルである。サンプル13は、充電容量が7.75mAhで、放電容量が7.71mAhであった。一方、サンプル14では、充電容量が6.35mAhで、放電容量が6.31mAhであった。そして、サンプル13の方が充電容量と放電容量が、サンプル14の充電容量と放電容量に対して大きくなったことについては、サンプル14では、充放電容量に寄与するリチウムイオンが、正極20を構成する三元系活物質に含まれているリチウムを起源としたものだけであり、サンプル13では、リチウムイオンが、三元系活物質に含まれているリチウムを起源としたものに、エージング工程(s8)における定電流充電によってハロゲン化リチウムを起源として負極にプレドープされたものが加わったためと考えることができる。すなわち、サンプル13とサンプル14の容量の差は、負極にプレドープされたリチウムイオンの量に対応しているものと考えることができる。
【0050】
===その他の実施例===
本発明の実施例に係る製造方法によって作製される蓄電素子の構成は、上述したものに限らない。すなわち、正極や負極を構成する各種部材や材料(集電体、電極活物質、導伝剤、増粘剤、結着剤)、セパレーター、電解液は上述したものに限らない。
【0051】
例えば、導電剤としては、アセチレンブラックの他にカーボンブラックなどを使用することができる。結着剤としては、アクリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどが使用できる。正極集電体にはステンレス製のラス板なども使用可能である。負極活物質には、リチウムを吸蔵・放出可能な様々な炭素材料を使用することができる。例えば、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛など)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維などが使用できる。
【0052】
電解液は、非水溶媒にLiPF
6などのリチウム塩を溶解させたものであるが、非水溶媒には、高誘電率溶媒と低粘度溶媒がある。上記実施例では、高誘電率溶媒であるプロピレンカーボネートを電解液の溶媒として用いていたが、高誘電率溶媒と低粘度溶媒とを混合した溶媒を用いることもできる。高誘電率溶媒としては、プロピレンカーボネートの他に、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート類がある。そして、これらの高誘電率溶媒は、1種類で使用されてもよいし、2種類以上組み合わせて使用されてもよい。
【0053】
低粘度溶媒としては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンなどのエーテル類、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類が挙げられる。これらの低粘度溶媒についても、1種類で使用しても、2種類以上組み合わせて使用してもよい。そして、電解液の溶媒には、高誘電率溶媒と低粘度溶媒のそれぞれから任意に選択した溶媒を組み合わせたものを使用することができる。
【0054】
上記実施例の方法で作製される蓄電素子は、ラミネートフィルムの外装体内に1層分の電極体が収納された構造を有していた。もちろん、ラミネートフィルムの外装体内に複数層分の電極体が収納された構造であってもよい。また、本発明の実施例に係る方法で作製される蓄電素子は、ラミネートフィルムの外装体を備えたものに限らない。例えば、ボタン型(コイン型)の蓄電素子、円筒状あるいは角筒状の電池缶内に電極体を巻回した状態で収納してなる周知のスパイラル型の蓄電素子であってもよい。
【0055】
添加剤を蓄電素子の外装体内に導入するための手順は、上記実施例のように電解液に添加し、その添加剤が添加された電解液を外装体内に収納するという手順に限らない。例えば、封止前の外装体内に添加剤が添加されていない電解液を収納しておき、その外装体内に添加剤を滴下するなどして添加剤を外装体内に導入してもよい。また、正極や負極、あるいはその両方に溶液状の添加剤をあらかじめ添加しておき、正極や負極に添加剤が添加された電極体を電解液とともに外装体内に封入するという手順を採用してもよい。正極や負極に添加剤をあらかじめ添加するためには、例えば、正極と負極の一方や両方、あるいは電極体を溶液状の添加剤に浸漬させたり、溶液状の添加剤を正極や負極、あるいはその両方に滴下したりすればよい。