特許第6920549号(P6920549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6920549食用油の製造方法、これを用いて製造された食用油及び食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6920549
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】食用油の製造方法、これを用いて製造された食用油及び食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/02 20060101AFI20210805BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20210805BHJP
   A23L 5/20 20160101ALN20210805BHJP
【FI】
   A23D9/02
   A23D9/007
   !A23L5/20
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-517268(P2020-517268)
(86)(22)【出願日】2018年5月30日
(65)【公表番号】特表2020-525043(P2020-525043A)
(43)【公表日】2020年8月27日
(86)【国際出願番号】KR2018006162
(87)【国際公開番号】WO2018221962
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2020年1月9日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0067872
(32)【優先日】2017年5月31日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519426531
【氏名又は名称】クイーンズバケット カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク ジョンヨン
(72)【発明者】
【氏名】イム ヨスク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ヒョンナム
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−140583(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2017−0019887(KR,A)
【文献】 特開平01−135892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)植物性原料を遠赤外線で焙煎する段階;
b)前記焙煎した植物性原料を搾油し、第1有効成分が含有された油脂組成物を得る段階;
c)前記油脂組成物が搾油されて残った植物性原料の残滓から第2有効成分が含有された抽出物を得る段階;及び
d)前記油脂組成物と前記抽出物を混合する段階;を含み、
前記a)段階は、
a−1)前記植物性原料を遠赤外線焙煎器に投入し、前記遠赤外線焙煎器の内部温度が80から100℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記植物性原料に含まれた水分を除去する段階;
a−2)前記遠赤外線焙煎器の内部温度が130から150℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記水分が除去された植物性原料を焙煎する1次焙煎段階;及び
a−3)前記遠赤外線焙煎器の内部温度が140から160℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記1次焙煎段階で1次焙煎された植物性原料を焙煎する2次焙煎段階を含み、
前記c)段階は、
c−1)前記植物性原料の残滓に抽出溶媒を添加し、40から60℃の温度で混合して混合物を得る段階;
c−2)前記混合物を濾過して濾液を得る段階;及び
c−3)前記濾液を濃縮する段階;を含み、
前記抽出溶媒はエタノールまたは水であり、
前記植物性原料は胡麻であり、前記第1有効成分と前記第2有効成分は、リグナン(lignan)系化合物であるものである食用油の製造方法。
【請求項2】
前記c−1)段階で、前記抽出溶媒を添加する前に前記植物性原料の残滓は熱処理されるものである、請求項1に記載の食用油の製造方法。
【請求項3】
前記植物性原料の残滓が熱処理される温度は、150から250℃であるものである、請求項に記載の食用油の製造方法。
【請求項4】
前記c−3)段階は、前記濾液を60から80℃の温度で前記抽出溶媒を蒸発させて濃縮するものである、請求項1に記載の食用油の製造方法。
【請求項5】
e)前記油脂組成物を前記抽出物と混合する前にパルプが含有された濾過紙で濾過する段階をさらに含むものである、請求項1に記載の食用油の製造方法。
【請求項6】
前記リグナン系化合物は、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサモリノール、セサミノール及びエピセサミノールよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである、請求項1に記載の食用油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種食物を調理するのに用いられる食用油の製造方法、これを用いて製造された食用油及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種食物を調理する過程には、多様な液状の食用油が用いられる。代表的な食用油として、コーン油、大豆油、オリーブ油、ショートニング油、胡麻油、荏胡麻油、パーム油、ひまわり油などを挙げることができるが、これらはその独特の風味と使用者の好みにより生野菜料理、煮付け料理、天ぷら料理、炒め料理などに用いられる。
このような食用油を製造する方法中の1つとしては、植物性原料をロースターに投入した後、高温で焙煎した焙煎段階と、圧搾して搾油する搾油段階とを経る方法を挙げることができる。
【0003】
しかし、前記焙煎段階で植物性原料を焙煎する際、多環芳香族炭化水素化合物(Polycyclic aromatic hydrocarbons,PAHs)が生成される問題がある。特に、前記多環芳香族炭化水素化合物中の一つであるベンゾピレンは、食品を高温調理する際に食品の主成分である炭水化物、脂肪及びタンパク質などが不完全燃焼されながら炭化により生成される物質であって、WHO(世界保健機関)及びLARC(国際癌研究所)などから皮膚癌、肺癌及び気管支癌などを起こす代表的な発癌物質として報告されている。
これにより、焙煎段階で温度を下げるか、強制排気を進めてベンゾピレンを減少させる方法などが提案されているが、この方法を介して製造された食用油は、特有の味と香味などを得ることができないか、色が濃くなるという短所がある。
【0004】
一方、食用油の保管安定性及び人体に対する効用性を高めるために、食用油の製造時に植物性原料に含有された有効成分の抽出率を高めて有効成分の含量が高い食用油を製造しようとする試みが多様になされている。その例として、超臨界流体抽出方法を適用し、植物性原料中の一つである胡麻から有効成分であるリグナン成分の抽出率を高め、リグナン成分の含量が高い胡麻油を製造する技術を挙げることができる。
しかし、前記のような有効成分の含量が高い食用油の製造に依然として限界がある実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許第2015−0112918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記問題点を解決するため、本発明は、多環芳香族炭化水素化合物を含有せずとも有効成分が高含量で含有された食用油を製造する方法、これを用いて製造された食用油及び食品の提供を図る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するため、本発明は、a)植物性原料を遠赤外線で焙煎する段階;b)前記焙煎した植物性原料を搾油し、第1有効成分が含有された油脂組成物を得る段階;c)前記油脂組成物が搾油されて残った植物性原料の残滓から第2有効成分が含有された抽出物を得る段階;及びd)前記油脂組成物と前記抽出物を混合する段階;を含む食用油の製造方法を提供する。
【0008】
前記a)段階は、a−1)前記植物性原料を遠赤外線焙煎器に投入し、前記遠赤外線焙煎器の内部温度が80から100℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記植物性原料に含まれた水分を除去する段階;a−2)前記遠赤外線焙煎器の内部温度が130から150℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記水分が除去された植物性原料を焙煎する1次焙煎段階;及びa−3)前記遠赤外線焙煎器の内部温度が140から160℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記1次焙煎された植物性原料を焙煎する2次焙煎段階を含むことができる。
【0009】
前記c)段階は、c−1)前記植物性原料の残滓に抽出溶媒を添加して混合物を得る段階;c−2)前記混合物を濾過して濾液を得る段階;及びc−3)前記濾液を濃縮する段階;を含むことができる。
前記c−1)段階で、前記抽出溶媒を添加する前に前記植物性原料の残滓は熱処理されてよい。
前記植物性原料の残滓が熱処理される温度は、150から250℃であってよい。
前記c−3)段階は、前記濾液を60から80℃の温度で前記抽出溶媒を蒸発させて濃縮することであってよい。
前記抽出溶媒は、エタノールまたは水であってよい。
【0010】
前記植物性原料は、胡麻、荏胡麻、黒胡麻、大豆、松の実、カボチャの種、蓮の種、ひまわりの種、桑の実の種、玄米、落花生、月見草の種、菜種及び胡桃よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
前記植物性原料は胡麻であり、前記第1有効成分と前記第2有効成分はリグナン(lignan)系化合物であってよい。
前記リグナン系化合物は、セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサモール、セサモリノール、セサミノール及びエピセサミノールよりなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0011】
このような本発明の食用油の製造方法は、e)前記油脂組成物を前記抽出物と混合する前にパルプが含有された濾過紙で濾過する段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0012】
前記のように食用油を製造することにより、本発明は、多環芳香族炭化水素化合物(例えば、ベンゾピレン)を含有せずとも有効成分を高含量で含有し、食用油特有の味と香味などを優れて維持している食用油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。
本発明は、植物性原料を焙煎する際に遠赤外線を用いて、植物性原料の残滓から得られた抽出物を油脂組成物と混合して食用油を製造するのが特徴であり、これに対して具体的に説明する。
【0014】
a)植物性原料の焙煎
植物性原料を遠赤外線で焙煎する。具体的に、植物性原料を遠赤外線焙煎器(roaster)に投入して焙煎することであって、前記遠赤外線焙煎器は、遠赤外線の透過率が80%以上である高効率の焙煎装置であり、温度区間別に適した回転速度と時間が別途プログラミングできる制御部が備えられている。このような遠赤外線焙煎器を用いて植物性原料を焙煎することにより、本発明は、従来の技術に比べ、焙煎する過程で多環芳香族炭化水素化合物(例えば、ベンゾピレン)のような有害物質の発生を最少化することができる。
すなわち、従来には、植物性原料を鉄板でなる焙煎釜に入れて焙煎するに伴い熱が植物性原料に直接伝わるので、低い温度で焙煎するとしても、植物性原料を内部まで炊く過程で植物性原料の表面に微細な炭化点が生成されるしかなく、これは有害物質である多環芳香族炭化水素化合物を誘発する要因として作用した。
【0015】
しかし、本発明は、遠赤外線を用いて植物性原料を焙煎することにより、植物性原料の炭化が防止されながらも植物性原料を表面から内部までむらなく炊くことができるので、焙煎する過程で多環芳香族炭化水素化合物のような有害物質の発生を最少化することができる。
【0016】
前記植物性原料は特に限定されないが、胡麻、荏胡麻、黒胡麻、大豆、松の実、カボチャの種、蓮の種、ひまわりの種、桑の実の種、玄米、落花生、月見草の種、菜種及び胡桃よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
このような植物性原料は、遠赤外線焙煎器に投入される前に異物を選別及び除去する洗浄段階をさらに経てもよい。具体的に、洗浄段階は、比重を用いて植物性原料に含まれた異物を選別した後、上水道などを用いて洗浄する過程からなされてよい。このような洗浄段階は、植物性原料から分離される石、砂などのような異物の量により1回以上(具体的に1から3回)繰り返し実施してなされてよい。
【0017】
前記遠赤外線焙煎器を用いて植物性原料を焙煎する過程(a)は、遠赤外線焙煎器を回転させながら、前記遠赤外線焙煎器の内部温度が80から100℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記植物性原料に含まれた水分を除去する段階(a−1)、
前記遠赤外線焙煎器の内部温度が130から150℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記水分が除去された植物性原料を焙煎する1次焙煎段階(a−2)、及び
前記遠赤外線焙煎器の内部温度が140から160℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を照射し、前記1次焙煎された植物性原料を焙煎する2次焙煎段階(a−3)で具体化されてよい。
【0018】
前記水分を除去する段階(a−1)は、遠赤外線焙煎器の内部温度が80から100℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を5から15分間照射しながら、遠赤外線焙煎器を約2から7秒間40から60Hzで高速回転させる過程と、約15から20秒間15から25Hzで低速回転させる過程を順次繰り返し実施してなされることが好ましい。前記条件下で高速回転及び低速回転の過程が繰り返されることにより、植物性原料全体にむらなく遠赤外線が照射されて水分の除去が効率よくなされるからである。
【0019】
前記1次焙煎段階(a−2)は、1次ポップアップ(popup)が起こる段階であって、遠赤外線焙煎器の内部温度が130から150℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を5から20分間照射しながら、約2から7秒間40から60Hzで高速回転させる過程と、約15から20秒間15から25Hzで低速回転させる過程とを順次20回以上繰り返し実施してなされることが好ましい。前記条件下で高速回転及び低速回転の過程が繰り返されることにより、1次ポップアップが均一になされ、植物性原料の炭化を防止しながら植物性原料をむらなく焙煎することができるからである。
【0020】
前記2次焙煎段階(a−3)は、2次ポップアップが起こる段階であって、遠赤外線焙煎器の内部温度が140から160℃の温度範囲に到達するまで遠赤外線を5から10分間照射しながら、約4から7秒間40から60Hzで高速回転させる過程と、約15から20秒間15から25Hzで低速回転させる過程とを順次10回以上繰り返し実施してなされることが好ましい。前記条件下で高速回転及び低速回転の過程が繰り返されることにより、2次ポップアップが均一になされ、植物性原料の炭化を防止しながら植物性原料をむらなく焙煎することができるからである。
【0021】
ここで、植物性原料が胡麻の場合、前記2次焙煎段階(a−3)は、遠赤外線焙煎器の内部温度が160℃に到達するまで遠赤外線を5から10分間照射しながら、約4から7秒間40から60Hzで高速回転させる過程と、約15から20秒間15から25Hzで低速回転させる過程とを順次10回以上繰り返し実施してなされてよい。
また、植物性原料が荏胡麻の場合、前記2次焙煎段階(a−3)は、遠赤外線焙煎器の内部温度が150℃に到達するまで遠赤外線を5から10分間照射しながら、約3から7秒間40から60Hzで高速回転させる過程と、約15から20秒間15から25Hzで低速回転させる過程とを順次5回以上繰り返し実施してなされてよい。
また、植物性原料が黒胡麻の場合、前記2次焙煎段階(a−3)は、遠赤外線焙煎器の内部温度が160℃に到達するまで遠赤外線を5から10分間照射しながら、約4から7秒間40から60Hzで高速回転させる過程と、約15から20秒間15から25Hzで低速回転させる過程とを順次5回以上繰り返し実施してなされてよい。
【0022】
一方、前記遠赤外線焙煎器を用いて植物性原料を焙煎する過程(a)は、2次焙煎された植物性原料を熟成させる段階(a−4)をさらに含んでよい。このような熟成段階(a−4)は、遠赤外線焙煎器の熱量を減らした後、約2から7秒間40から60Hzで高速回転させる過程と、約15から20秒間15から25Hzで低速回転させる過程とを順次10回以上繰り返し実施してなされることが好ましい。前記条件下で2次焙煎された植物性原料を熟成させることにより、最終的に製造される食用油の味と香りをより長期間維持させることができるからである。
【0023】
このような熟成段階(a−4)は、2次焙煎された植物性原料の初期温度が5から10%以下の温度に下がる間なされてよい。
前記過程を経て焙煎された植物性原料は、遠赤外線焙煎器を高速(例えば、40から60Hz)で回転させながら短時間(例えば、10秒以内)内に遠赤外線焙煎器から排出されることが好ましい。前記植物性原料が遠赤外線焙煎器から短時間内に排出されるに伴い、遠赤外線焙煎器の残留熱により植物性原料の表面の炭化が最少化されるので、最終的に製造される食用油の味と香りが低下することを防止することができるからである。
【0024】
その後、前記遠赤外線焙煎器から排出された植物性原料は、後述の油脂組成物の収得の過程(b)を経る前に、室温で自然に冷却する段階をさらに経てもよい。
【0025】
b)油脂組成物の収得
前記焙煎する過程を経た植物性原料を搾油し、第1有効成分が含有された油脂組成物を得る。前記植物性原料を搾油する方法は特に限定されないが、圧縮熱が作用しないスクリュー方式のエキスペラーが適用された搾油機を用いて搾油することが好ましい。具体的に、植物性原料から油脂組成物を分離するための最小温度である180℃の温度でプレスヘッドを加熱した後、スクリューを介して投入された植物性原料が熱に露出されることなくプレスヘッドにより瞬時に圧搾されて油脂組成物を搾油することである。このような方法で搾油する場合、植物性原料の炭化を防止しながら油脂組成物を高効率で得ることができる。
【0026】
前記油脂組成物に含有された第1有効成分は特に限定されないが、植物性原料が胡麻の場合、第1有効成分はリグナン(lignan)系化合物であることが好ましい。前記リグナン系化合物は、生体内/外(in vitro/in vivo)において抗酸化効能とともに血圧降下、血中脂質降下、脂質過酸化抑制、アルコール分解能向上などのような効能を示すことができる。また、前記リグナン系化合物の抗酸化効能により、食用油(例えば、胡麻油)の保管安定性が高くなり得る。具体的に、前記リグナン系化合物は、セサミン(sesamin)、エピセサミン(episesamin)、セサモリン(sesamolin)、セサモール(sesamol)、セサモリノール(sesamolinol)、セサミノール(sesaminol)及びエピセサミノール(episesaminol)よりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含むことができる。
【0027】
一方、得られた油脂組成物は、後述の抽出物と混合される前に濾過する段階(e)をさらに経てよい。前記油脂組成物を濾過する方法は特に限定されないが、パルプが含有された濾過紙を用いて濾過することが好ましい。
具体的に、前記濾過紙としては、厚さが3.63から3.95mmであり、0.5から1barで通過流量が1300から2500L/m(分)であり、破裂強度(Bursting strength wet)が50から60kPadであるものを用いることができる。このような濾過紙で油脂組成物を濾過する場合、油脂組成物に含有されてあり得る植物性原料の残滓を最大限除去しながらも、粘着性が強い油脂組成物の濾過効率(精製効率)を高めることができる。
このような濾過段階は、1回の処理容量を最大200から800mlとし、空気圧を2気圧以下にして実施することが好ましい。
【0028】
c)抽出物の収得
前記油脂組成物が搾油されて残った植物性原料の残滓から第2有効成分が含有された抽出物を得る。具体的に、前記植物性原料の搾油が完了すると、植物性原料の残滓が残るようになるが、このような植物性原料の残滓には依然として多量の有効成分が含有されている。これにより、本発明は、植物性原料の残滓をリサイクルして有効成分が高含量で含有された食用油を製造すべく、植物性原料の残滓から第2有効成分が含有された抽出物を得て、これを油脂組成物と混合して食用油を製造することが特徴である。
【0029】
前記植物性原料の残滓から第2有効成分が含有された抽出物を得る過程(c)は、
前記植物性原料の残滓に抽出溶媒を添加して混合物を得る段階(c−1)、
前記混合物を濾過して濾液を得る段階(c−2)、及び
前記濾液を濃縮する段階(c−3)に具体化されてよい。
【0030】
前記混合物を得る段階(c−1)は、植物性原料の残滓に抽出溶媒を添加した後、40から60℃の温度で1から3時間150から300rpmで混合する過程でなされることが好ましい。前記抽出溶媒は特に限定されないが、人体に無害で抽出効率が高いエタノールまたは水であることが好ましい。
ここで、前記植物性原料の残滓に抽出溶媒を添加する前に、植物性原料の残滓は熱処理できる。前記植物性原料の残滓を熱処理することにより、抽出物に含有される第2有効成分の含有率を高めることができるためである。前記植物性原料の残滓を熱処理する温度は特に限定されないが、150から250℃であることが好ましい。
【0031】
前記濾液を得る段階(c−2)は、植物性原料の残滓と抽出溶媒が混合された混合物を濾過器に投入し、0.1から1barの圧力で減圧濾過する過程でなされることが好ましい。
前記濾液を濃縮する段階(c−3)は、得られた濾液から上澄み液を採取し、60から80℃の温度で抽出溶媒を蒸発させて濃縮する過程でなされることが好ましい。
【0032】
このような過程で収得された抽出物に含有された第2有効成分は、前記第1有効成分と同一のリグナン系化合物であってよい。すなわち、植物性原料が胡麻の場合、植物性原料の残滓は胡麻粕(sesame oil meal)であり、前記胡麻粕を用いて抽出物を収得することにより、第2有効成分はリグナン系化合物であってよい。
【0033】
d)混合
前記油脂組成物と前記抽出物を混合する。具体的に、第1有効成分が含有された油脂組成物に第2有効成分が含有された抽出物を添加して混合することによって食用油を製造することができる。このように抽出物を油脂組成物に添加して混合することにより、有効成分(第1有効成分+第2有効成分)が高含量で含有された食用油を効率よく製造することができる。
ここで、油脂組成物と抽出物の混合の割合は特に限定されないが、最終的に製造される食用油に含有される有効成分(第1有効成分+第2有効成分)の含有率を考慮するとき、1:0.0001から1の重量比であることが好ましい。
【0034】
このような製造方法で製造された本発明の食用油は、ソース、ドレッシング、スプレッド、和え物、軽い炒め物など多様な料理に用いられ得る。
以下、本発明を実施例を介して詳しく説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明が下記実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
a)胡麻の焙煎段階
仕入れられた胡麻に混ざってある土、砂、雑草、木の枝、未成熟の胡麻粒のような不純物を除去した後、胡麻を水に投入して5分から15分間スクリューなどを用いて撹拌しながら、ほこり及び籾のような異物を除去した。
次に、異物が除去された胡麻を遠赤外線焙煎器に投入し、遠赤外線焙煎器の内部温度が90℃に到達するまで遠赤外線を15分間照射しながら、遠赤外線焙煎器を約50Hzで約5秒間高速回転させる過程と、約20Hzで約15秒間低速回転させる過程とを10回以上順次繰り返し実施することにより、胡麻に含まれた水分を除去した。
【0036】
次いで、遠赤外線焙煎器の内部温度が150℃に到達するまで遠赤外線を20分間照射しながら、遠赤外線焙煎器を約50Hzで約4秒間高速回転させる過程と、約20Hzで約17秒間低速回転させる過程とを30回以上順次繰り返し実施することにより、胡麻を1次焙煎した。
その後、遠赤外線焙煎器の内部温度が155℃に到達するまで遠赤外線を10分間照射しながら、遠赤外線焙煎器を約50Hzで約6秒間高速回転させる過程と、約20Hzで約17秒間低速回転させる過程とを10回以上順次繰り返し実施することにより、胡麻を2次焙煎した。
【0037】
次いで、遠赤外線を照射していない状態で遠赤外線焙煎器を約50Hzで約6秒間高速回転させる過程と、約20Hzで約17秒間低速回転させる過程とを10回以上順次繰り返し実施することにより、2度にかけて焙煎された胡麻を熟成させた。
次に、約50Hzで高速回転する遠赤外線焙煎器から熟成された胡麻を10秒以内にかけて取り出した後、取り出された胡麻を自然冷却方式で冷却させた。
【0038】
b)油脂組成物の収得段階
前記自然冷却された胡麻を、圧縮熱が作用しないスクリュー方式のエキスペラーを用いる搾油機に投入し、180℃のプレスヘッドで瞬間圧縮して胡麻油脂組成物を得た。このとき、搾油機に胡麻を投入する過程で胡麻を継続的に撹拌して胡麻の温度が均一に維持できるようにした。
得られた油脂組成物を40℃未満の温度で1時間自然冷却させた後、1回の処理容量が200から800mlで、パルプと珪藻土からなる濾過紙を用いて2気圧以下の空圧条件で濾過を実施した(濾過時にボトリング(bottling)同時実施)。
【0039】
c)抽出物の収得段階
前記油脂組成物が搾油されて残った胡麻粕(温度:160℃)400gと純度95%のエタノール1,200mlをガラス容器に投入し、50℃で2時間530rpmの条件で混合して混合物を得た。
得られた混合物を濾過器(濾過紙:watman filiter paper No1)に投入し、減圧濾過して濾液を得た。このとき、混合物が投入された濾過器に純度95%のエタノール400mlをさらに添加した後、減圧濾過を実施した。
得られた濾液を−20℃で42時間保管した後、濾液の上澄み液を80℃で濃縮して抽出物11gを得た。
【0040】
d)油脂組成物と抽出物の混合段階
濾過された油脂組成物と抽出された抽出物を1:1の重量比で混合することにより、胡麻油を製造した。
【0041】
[実施例2]
抽出物の収得段階で230℃で熱処理された胡麻粕を用いたことを除いては、実施例1と同一の過程を経て胡麻油を製造した。
【0042】
[比較例1]
シージェイ第一製糖のペクソルリグナン胡麻油を購入して適用した。
【0043】
[比較例2]
抽出物の収得段階c)及び混合段階d)を経ないことを除いては、実施例1と同一の過程を経て胡麻油を製造した。
【0044】
[実験例1]有効成分の測定
実施例1から2及び比較例1から2で製造された胡麻油0.1gに1mlのn−Haxaneを添加して24時間暗室に放置した後、0.2μmのシリンジフィルター(syringe filter(National Science))で濾過し、紫外線検出器(Ultraviolet detector)が取り付けられているHPLC(High Performance Liquid Chromatography)機器で分析することで、胡麻油に含有された有効成分であるリグナン系化合物の含量を測定した。このとき、前記HPLC機器の分析条件は下記表1の通りであり、測定されたリグナン系化合物の含量を下記表2に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
前記表2を参照すると、本発明の製造方法で製造された胡麻油の場合、有効成分であるリグナン系化合物の含量が高いことを確認することができる。このような結果は、本発明の製造方法で食用油を製造する場合、有効成分の含量が高い食用油を製造できることを裏付けるものである。
【0048】
[実験例2]ベンゾピレン含量の分析
前記実施例1から2で製造された胡麻油に含有されているベンゾピレンの含量を(株)韓国食品研究所に依頼して分析し、その結果を下記表3に示した。このとき、分析方法は、食品医薬安全処で告示した方法を適用した。具体的に、胡麻油中のベンゾピレンを内部標準物質とし、3−メチルコラントレンを用いてN,N−ジメチルホルムアミドと水の混合物(9:1)とヘキサンで抽出した後、SPE(Solid Phase Extraction)カートリッジで精製し、高速液体クロマトグラフィー/蛍光検出器で分析した。
【0049】
【表3】
【0050】
前記表3を参照すると、本発明の製造方法で製造された胡麻油は、ベンゾピレンが含有されていないことを確認することができる。このような結果は、食品医薬安全処で告示した食用油中のベンゾピレン基準(2.0μg/kg以下)を満たすので、本発明の製造方法が従来の製造方法に比べて産業上の利用価値が高いということを裏付けるものである。
【0051】
[実験例3]官能テスト(味と香りの評価)
前記実施例1から2で製造された胡麻油の味と香りに対する評価を次の通りの方法で進め、その結果を下記表4に示した。
評価方法:20代から60代に至る年齢層の試食者10名(各年齢層から2名ずつ無作為で選抜:但し、試食者は非喫煙者である)に実施例1から2の胡麻油を提供して苦い味がするのか否か、香ばしい香りがするのか否かを評価させた。8名以上が良好なものとして判定したときは○、6または5名が良好なものとして判定したときは△、3または2名が良好なものとして判定したときはXで示した。
【0052】
【表4】
【0053】
前記表4を参照すると、本発明の製造方法で製造された胡麻油は、味と香りに優れることを確認することができる。