(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車が正面から歩行者に衝突した場合、その際の衝撃によって、歩行者の頭部がダッシュボードに衝突する場合がある。この際に頭部への衝撃を緩和するために発泡ダクトがクッション性を有することが望まれる。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、クッション性に優れた発泡ダクトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、筒部を有する発泡ダクトであって、前記筒部は、周方向気泡変形率が0.30以下であり、且つ気泡異方性が0.6〜1.6である、発泡ダクトが提供される。
【0007】
本発明者は鋭意検討を行ったところ、発泡ダクトの周方向気泡変形率及び気泡異方性を特定の範囲内にすることによってクッション性を高めることができることを見出し、本発明の完成に到った。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記筒部の発泡倍率は、1.5〜3.5倍である。
好ましくは、前記筒部の平均肉厚は、1.0〜2.0mmである。
好ましくは、前記筒部のブロー比は、0.3〜1.0である。
好ましくは、前記筒部の厚み方向の平均気泡径は、100μm以下である。
好ましくは、前記筒部を構成する樹脂は、HDPEとLDPEを含み、前記HDPEと前記LDPEの質量比は、35:65〜70:30である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0011】
1.成形機1の構成
最初に、
図1を用いて、本発明の一実施形態の発泡ダクトの製造に利用可能な成形機1について説明する。成形機1は、樹脂供給装置2と、ヘッド18と、分割金型19を備える。樹脂供給装置2は、ホッパー12と、押出機13と、インジェクタ16と、アキュームレータ17を備える。押出機13とアキュームレータ17は、連結管25を介して連結される。アキュームレータ17とヘッド18は、連結管27を介して連結される。
以下、各構成について詳細に説明する。
【0012】
<ホッパー12,押出機13>
ホッパー12は、原料樹脂11を押出機13のシリンダ13a内に投入するために用いられる。原料樹脂11の形態は、特に限定されないが、通常は、ペレット状である。原料樹脂11は、例えばポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂であり、ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体及びその混合物などが挙げられる。原料樹脂11は、HDPEとLDPEを含むことが好ましく、HDPEとLDPEの質量比が35:65〜70:30であることが好ましい。原料樹脂11は、ホッパー12からシリンダ13a内に投入された後、シリンダ13a内で加熱されることによって溶融されて溶融樹脂になる。また、シリンダ13a内に配置されたスクリューの回転によってシリンダ13aの先端に向けて搬送される。スクリューは、シリンダ13a内に配置され、その回転によって溶融樹脂を混練しながら搬送する。スクリューの基端にはギア装置が設けられており、ギア装置によってスクリューが回転駆動される。シリンダ13a内に配置されるスクリューの数は、1本でもよく、2本以上であってもよい。
【0013】
<インジェクタ16>
シリンダ13aには、シリンダ13a内に発泡剤を注入するためのインジェクタ16が設けられる。インジェクタ16から注入される発泡剤は、物理発泡剤、化学発泡剤、及びその混合物が挙げられるが、物理発泡剤が好ましい。物理発泡剤としては、空気、炭酸ガス、窒素ガス、水等の無機系物理発泡剤、およびブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の有機系物理発泡剤、さらにはそれらの超臨界流体を用いることができる。超臨界流体としては、二酸化炭素、窒素などを用いて作ることが好ましく、窒素であれば臨界温度−149.1℃、臨界圧力3.4MPa以上、二酸化炭素であれば臨界温度31℃、臨界圧力7.4MPa以上とすることにより得られる。化学発泡剤としては、酸(例:クエン酸又はその塩)と塩基(例:重曹)との化学反応により炭酸ガスを発生させるものが挙げられる。化学発泡剤は、インジェクタ16から注入する代わりに、ホッパー12から投入してもよい。
【0014】
<アキュームレータ17、ヘッド18>
原料樹脂と発泡剤が溶融混練されてなる溶融樹脂11aは、シリンダ13aの樹脂押出口から押し出され、連結管25を通じてアキュームレータ17内に注入される。アキュームレータ17は、シリンダ17aとその内部で摺動可能なピストン17bを備えており、シリンダ17a内に溶融樹脂11aが貯留可能になっている。そして、シリンダ17a内に溶融樹脂11aが所定量貯留された後にピストン17bを移動させることによって、連結管27を通じて溶融樹脂11aをヘッド18内に設けられたダイスリットから押し出して垂下させて発泡パリソン23を形成する。発泡パリソン23の形状は、特に限定されず、筒状であってもよく、シート状であってもよい。
【0015】
<分割金型19>
発泡パリソン23は、一対の分割金型19間に導かれる。分割金型19を用いて発泡パリソン23の成形を行うことによって、
図2に示すような発泡成形体10が得られる。分割金型19を用いた成形の方法は特に限定されず、分割金型19のキャビティ内にエアーを吹き込んで成形を行うブロー成形であってもよく、分割金型19のキャビティの内面からキャビティ内を減圧して発泡パリソン23の成形を行う真空成形であってもよく、その組み合わせであってもよい。
【0016】
図2は、発泡ダクトを製造するための発泡成形体10を示す。発泡成形体10は、袋部3,4を有する。袋部4は、筒部6から立ち上がるように設けられている。袋部3は、筒部6の両端に設けられている。
図2では、発泡成形体10は分岐構造を有していないが、袋部3を分岐させて、袋部3の数を3つ、4つ又はそれ以上としてもよい。
【0017】
2.発泡ダクト
発泡ダクト7は、発泡成形体10から袋部3,4を切除することによって形成することができる。
図3に示すように、袋部3,4の位置に開口部3a,4aが形成される。つまり、発泡ダクト7は、筒部6に開口部3a,4aが設けられた形状を有する。空調機からのエアーは、開口部4aを通じて発泡ダクト7内に流入し、開口部3aを通じて排出される。本実施形態では、発泡ダクト7は、ダッシュボード内に配置されるインパネダクトであるが、別の部位に配置されるダクトであってもよい。また、開口部4aが設けられる、開口部3aの一方から流入したエアーが開口部3aの他方から排出されるように機能するダクトであってもよい。発泡ダクト7(筒部6)は、独立気泡構造を有する。独立気泡構造とは、複数の独立した気泡セルを有する構造であり、少なくとも独立気泡率が70%以上のものを意味する。
【0018】
筒部6は、周方向気泡変形率が0.30以下である。周方向気泡変形率は、
図4〜
図5に示すように、筒部6の横断面において、厚み二等分線Q上にある気泡bの、(厚み方向平均気泡径t/周方向平均気泡径c)によって定義される。厚み方向平均気泡径t及び周方向平均気泡径cは、それぞれ、厚み二等分線Q上にある5つの気泡についての厚み方向気泡径及び周方向気泡径の平均値である。気泡b1についての厚み方向気泡径t1及び周方向気泡径c1は、
図5Bに示すように、測定することができる。気泡b2〜b5についての厚み方向気泡径t2〜t5及び周方向気泡径c2〜c5も同様に測定することができる。厚み方向平均気泡径tは、t1〜t5を算術平均することによって算出され、周方向平均気泡径cは、c1〜c5を算術平均することによって算出される。周方向気泡変形率は、例えば0.05〜0.30であり、具体的には例えば、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0019】
筒部6は、長手方向気泡変形率が0.30以下であることが好ましい。長手方向気泡変形率は、
図6に示すように、筒部6の縦断面において、厚み二等分線Q上にある気泡bの、(厚み方向平均気泡径t/長手方向平均気泡径l)によって定義される。長手方向平均気泡径lは、厚み二等分線Q上にある5つの気泡について長手方向気泡径l1〜l5を測定し、l1〜l5を算術平均することによって算出される。長手方向気泡変形率は、例えば0.05〜0.30であり、具体的には例えば、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0020】
筒部6は、気泡異方性が0.6〜1.6である。気泡異方性は、(長手方向気泡変形率)/(周方向気泡変形率)によって定義される。気泡異方性は、(周方向平均気泡径c)/(長手方向平均気泡径l)によって算出することもできる。気泡異方性は、具体的には例えば、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0021】
厚み方向平均気泡径tは、100μm以下が好ましく、例えば50〜100μmであり、具体的には例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。周方向平均気泡径cは、例えば200〜600μmであり、250〜550μmが好ましく、具体的には例えば、200、250、300、350、400、450、500、550、600μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。長手方向平均気泡径lは、例えば200〜600μmであり、250〜550μmが好ましく、具体的には例えば、200、250、300、350、400、450、500、550、600μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0022】
筒部6の発泡倍率は、1.5〜3.5倍が好ましく、具体的には例えば、1.5、2、2.5、3、3.5倍であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0023】
筒部6の平均肉厚は、1.0〜2.0mmが好ましく、具体的には例えば、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0024】
筒部6のブロー比は、0.3〜1.0が好ましく、具体的には例えば、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ブロー比は、以下の方法で算出する。まず、
図4に示すように、筒部6の横断面において、対向するパーティングラインPLの最外点同士を直線Wで連結する。次に、前記横断面内で、直線Wから最も離れた点Tと直線Wを直線Vで連結する。次に、ブロー比=(直線Vの長さ)/(直線Wの長さ)の式に従ってブロー比を算出する。
【0025】
筒部6を構成する樹脂は、HDPEとLDPEを含む。筒部6を構成する樹脂には、HDPEとLDPE以外の樹脂が含まれていてもよい。筒部6を構成する全樹脂に対するHDPEとLDPEの質量比は、0.8以上が好ましく、0.9以上がさらに好ましく、1がさらに好ましい。HDPEとLDPEの質量比は、35:65〜70:30であることが好ましく、40:60〜60:40であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0026】
図1に示す成形機1を用いて、表1に示す実施例・比較例の発泡成形体10を作製した。押出機13のシリンダ13aの内径は50mmであり、L/D=34であった。原料樹脂には、原料樹脂には、LDPE(グレード:G201−F,住友化学製)と、HDPE(グレード:B470,旭化成ケミカルズ製)とを質量比1:1で混合し、樹脂100質量部に対して、核剤として20wt%の炭酸水素ナトリウム系発泡剤を含むLDPEベースマスターバッチ(大日精化工業株式会社製、商品名「ファインセルマスターP0217K」)を1.0重量部、および着色剤として40wt%のカーボンブラックを含むLLDPEベースマスターバッチ1.0重量部を添加したものを用いた。発泡パリソン23の温度が190〜200℃になるように各部位の温度制御を行った。発泡剤は、N
2ガスを用い、インジェクタ16を介して注入した。発泡剤の注入量、溶融樹脂11aの押出速度及びヘッド18のダイスリットの隙間は、発泡倍率、平均肉厚及び平均気泡径が表1に示す値になるように設定した。
【0027】
以上の条件で形成された発泡パリソン23を分割金型19の間に配置し、ブロー成形を行って
図2に示す発泡成形体10を作製した。分割金型19は、ブロー比が表1に示す値になるものを用いた。
【0028】
発泡成形体10から、周方向に長い試験片A(25mm×50mm)と、長手方向(発泡パリソンの流れ方向)に長い試験片B(25mm×50mm)と、を切り出した。試験片Aに現れる横断面を拡大倍率50倍で撮影し、厚み二等分線Q上にある5つの気泡のそれぞれについて厚み方向気泡径及び周方向気泡径を測定し、算術平均によって厚み方向平均気泡径及び周方向平均気泡径を算出した。また、試験片Bに現れる縦断面を拡大倍率50倍で撮影し、厚み二等分線Q上にある5つの気泡のそれぞれについて厚み方向気泡径及び周方向気泡径を測定し、算術平均によって厚み方向平均気泡径及び長手方向平均気泡径を算出した。得られた値を表1に示す。厚み方向平均気泡径については、横断面で得られた値と縦断面で得られた値を算術平均したものを表1に示した。
【0029】
<曲げ試験>
3点曲げ試験にて、試験片Aを用いて周方向の最大曲げ強度を測定し、試験片Bを用いて長手方向の最大曲げ強度を測定した。最大曲げ強度が1.0〜4.5Nの範囲に入るものを○、この範囲から外れるものを×とした。試験条件は、常温、支点間距離30mm、曲げ速度2.0mm/分とした。得られた結果を表1に示す。
【0030】
<クッション性評価>
周方向及び長手方向の両方の曲げ試験の結果が○であるもののクッション性を○と評価し、少なくとも一方の曲げ試験の結果が×であるもののクッション性を×と評価した。
【0031】
<考察>
表1に示すように、周方向気泡変形率が0.30以下であり、且つ気泡異方性が0.6〜1.6である全ての実施例では、クッション性が良好であった。一方、周方向気泡変形率が0.30超であるか、又は気泡異方性が0.6〜1.6の範囲外である全ての比較例では、周方向と長手方向の一方又は両方において、曲げ強度が高くなりすぎたために、物体の衝突時に曲げ変形が起こりにくく、クッション性が悪かった。
【0032】
【表1】