(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、特別養護老人ホーム等の福祉施設や病院等において、入所者や患者の中で摂食機能の低下した者(特に高齢者)を対象に、とろみをつけた食品や飲料が多く提供されている。こうした飲食物において要求されるとろみ具合は、入所者や患者の咀嚼・嚥下機能の能力によって異なる為、人の官能評価に頼ったのではとろみの調整が難しく、要求されたものを提供するには困難を要していた。
【0003】
そこで、従前においては、こうした粘性のある形態で処方される製品に対しては、工程管理、又は品質管理の為に、回転式の粘度測定方法を用いて粘度を測定することで調整していた。かかる回転式の粘度測定方法は、回転子の回転速度を変えながら、回転子と試料の間に発生する粘性摩擦トルクを計測していく方法であり、回転子の回転速度を変えながら測定することが必要であった。
【0004】
かかる回転式粘度測定装置については、いくつかの先行技術が提案されている。例えば特許文献1(特開平07−128212号公報)では、粘度計の駆動軸の回転、1回転中に複数回の指度読取りを可能とする回転式粘度計が提案されている。即ち、回転するロータを被測定液に浸漬することにより、被測定液の粘度を測定する回転式粘度計において、ロータと連結し、ロータへ回転駆動力を伝達するトルク検出軸と、トルク検出軸へ回転駆動力を伝達する駆動軸と、駆動軸とトルク検出軸との間に設けられ、駆動軸とトルク検出軸とを弾性的に連結する弾性部材と、駆動軸と連結し、ロータを回転させるための回転駆動力を発生する回転駆動源と、駆動軸の回転について、180°当たりを、予め定めた整数値で分割して得られた角度単位で、検出信号を出力する第1の回転検出手段と、トルク検出軸の回転について、180°当たりを、予め定めた整数値で分割して得られた角度単位で、検出信号を出力する第2の回転検出手段と、第1および第2の回転検出手段からの出力信号をそれぞれ取り込み、駆動軸とトルク検出軸との回転位相差に対応する、それら出力信号間の時間間隔を検出する時間差検出手段と、検出された時間間隔から、被測定液の粘性抵抗トルクに平衡する弾性部材の捻じれ量に対応する粘度指度測定値を出力する数値処理手段と、出力された粘度指度測定値を表示する表示手段とを有し、数値処理手段は、時間差検出手段が検出した時間間隔を入力として、粘度指度値を算出する粘度指度演算手段と、算出された粘度指度値を、順次、測定データとして記憶する記憶手段と、記憶されている測定データのうち、時間的に新しい、予め定めた個数の測定データを読み出して、それらの平均値を算出し、粘度指度測定値として出力する平均値演算手段とを有する回転式粘度、が提案されている。
【0005】
また、特許文献2(特開平11−264789号公報)では、測定する上での簡便性を追求した回転粘度計が提案されている。即ち、回転駆動部、検出部及び計測部とからなり、非ニュートン流体である非験流体の粘度を測定するための回転粘度計であって、上記検出部が、共軸の内筒及び外筒からなり、該外筒を固定して該内筒を上記回転駆動部により回転駆動可能とし、上記内筒が回転時に受ける粘性トルクを上記計測部で計測する内筒回転型の回転粘度計において、上記内筒が、上記回転駆動部を搭載するとともに上記外筒内で自由に回転可能に支持した基筒と、基端を上記回転駆動部に連結して該基筒内を貫通するとともに該基筒内で自由に回転可能に支持した回転軸と、外周面に螺旋状の溝を形成した部位を有するとともに上記回転軸の先端に連結固定した検出筒とからなり、上記外筒と上記検出筒の溝形成部位との嵌合部位の隙間を、上記検出筒の回転を許すとともに、該隙間に入り込んだ上記被験流体が上記検出筒の回転によってずり速度を与えられて流動する寸法とし、上記計測部が、上記回転軸を介して上記回転駆動部により上記検出筒を回転駆動したときに、上記検出筒が上記隙間に入り込んだ上記被験流体のずり流動によるずり応力によって受ける粘性トルクの反力で、上記検出筒の回転駆動方向と反対方向に回転する上記基筒及び上記回転駆動部の回転トルクを検出する回転粘度計、が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、従来においても回転式粘度測定方法(又は測定装置)に関する技術は種々検討されている。そして、病院や福祉施設等で提供される摂食機能の低下した者(特に高齢者)向けの食品には、とろみを調整する為に増粘剤やゲル化剤、或いは豆腐等の固形物が使用される場合が多い。
【0008】
しかしながら、こうしたとろみを有する食品には、粘度と共に、液体同士が結合しようとする力が発生してくる為に、特許文献1や特許文献2の様な摩擦応力を求める粘度測定装置では、とろみ具合を算出して数値化するのが困難であった。即ち、従来の方法では、ずり速度及びずり応力の関係により測定物の粘性挙動はわかるものの、ずり速度に依存して粘度が変化する場合が多い為、当該粘度の測定では、実際の製品(食品等)のとろみ具合の数値化が困難であった。よって、とろみ具合の数値化が困難なことから、従来は、とろみ具合を「ケチャップ状」、「マヨネーズ状」、「ソース状」、或いは「ドレッシング状」といった官能評価に頼った表現をせざるを得なかった。人の感覚による官能評価では、同一或いは安定した食品を製造する事が困難になる為に、生命に関わる重要な任務を担う病院や福祉施設においては特に、精確なとろみ具合を数値化できる事が要求されていた。
【0009】
そこで、本発明では増粘剤やゲル化剤、或いは豆腐等の固形物のような添加物が混在した食品や飲料等において、とろみ具合を精確に算出して数値化できる、とろみ測定装置と、これを用いた飲食物の調整方法を提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、本発明では流動体の中を移動する測定子にかかる抵抗を測定する事で、従来数値化することの困難であった、とろみ具合(即ち、「とろみの程度」、以下同じ。)を数値化できるとろみ測定装置を提供する。
【0011】
即ち、本発明は、流動体のとろみ具合を測定するとろみ測定装置であって、少なくともその先端部が、測定対象物となる流動体中に浸漬される測定子と、当該測定子を、移動及び/又は回動させる駆動部と、当該駆動部に作用する負荷量を測定する測定部とからなる、とろみ測定装置を提供するものである。
【0012】
かかるとろみ測定装置によれば、増粘剤やゲル化剤を添加したゲル状の流動体や、豆腐等の固形物を崩して添加してできたゾル状の流動体に対しても、とろみ具合を精確に数値化できる為、病院や福祉施設、並びに在宅等において、患者の咀嚼・嚥下機能別に適した食事(又は飲料)を安定して提供する事ができる。
【0013】
ここで前記流動体とは、静止状態においてせん断応力が発生しない連続体を意図しており、具体的には、水やシリコンオイル等のニュートン流体、また、マヨネーズやマーガリン、ケチャップ、塗料、ヨーグルトや濃縮ジュース等の非ニュートン流体を広く含んでいる。特に本発明に係るとろみ測定装置は、病院や福祉施設等で供されるゲル状又はゾル状の飲食物において有利な効果を奏することができ、特に粘性を有する流動体において有利な効果を奏する。
【0014】
本発明に係るとろみ測定装置は、流動体の中に測定子を浸漬させ、駆動部によって当該測定子を移動及び/又は回動させることで、当該測定子にかかる抵抗を測定することができる。そして、当該測定子にかかる抵抗を測定する為に、前記駆動部に作用する負荷量を電流値、或いは電力値等で測定する。即ち、当該駆動部に作用した負荷量を電流値、或いは電力値等で測定する事で、測定子にかかる抵抗を測定でき、流動体のとろみ具合を算出して数値化する事ができる。
【0015】
前述した様に本発明のとろみ測定装置は、測定対象物となる流動体中に浸漬される測定子と、当該測定子を移動及び/又は軸回りに回転させる駆動部と、当該駆動部に作用する負荷量を測定する測定部ととから構成することができる。
【0016】
前記測定子は、前記流動体の中を移動及び/又は回動させる事で、当該測定子が流動体の抵抗を受けることができるように構成する。よって、当該測定子は、流動体の中を移動及び/又は回動する際に、流動体の抵抗を受ける為に、前記流動体からの抵抗を行ける作用面(平面、又は曲面)を有した形状に形成されるのが望ましい。これは、当該測定子が、移動及び/又は回動時において、前記流動体の抵抗を受ける面(平面、又は曲面)を有する事で、例えば豆腐等の固形物が細かく混在したような流動体(食品等)のとろみを測定する場合にも、液体及び固形物の全ての抵抗が測定可能になり、当該流動体のとろみ具合を精確に算出して数値化する事ができる為である。
【0017】
また当該測定子は、鉛直方向に延伸する棒状の主軸部分と、当該主軸部分から横方向に延伸する1又は複数の棒状の枝部分とから形成するのが望ましい。これは、当該主軸部分から横方向に延伸する枝部分が、その移動及び/又は回動時に流動体の抵抗を受ける作用面となる事で、流動体のとろみを測定できようにする為である。当該枝部分は、測定する流動体の容量(又は容器の大きさ)に応じて複数設けることもできる。その他、当該測定子は、例えば、移動方向又は回転方向に対向する面が、移動方向又は回転方向に沿う面よりも大きく形成された平板状や直方体状、また、移動方向又は回転方向に対向する面が凹んだ形状で形成された直角に曲げた『く』の字状、或いは円弧状等に形成することもできる。
【0018】
また当該測定子は、前記流動体に対して移動方向及び/又は回転方向に対向する面、即ち流動体の抵抗を受ける面の表面積を大きく形成する事で、より精確な測定が可能となる。よって、当該測定子における、流動体の抵抗を受ける面の表面積は、200cm
2以下(より望ましくは150cm
2以下)に形成されるのが望ましい。これは、当該測定子における、流動体の抵抗を受ける面の表面積(望ましくは、測定子の移動及び/又は回動方向からの投影面積)を200cm
2より大きく形成した場合には、当該測定子を移動させる動力が多く必要となり、とろみ装置の負担が大きくなる可能性が生じる為である。また、当該測定子の表面積は、50cm
2以上の大きさに形成するのが望ましい。50cm
2未満であると、当該流動体の抵抗を正確に測定するのが困難になる場合も考えられるためである。
【0019】
さらに、測定子を形成する材料に関しては、ステンレス鋼やニッケル、銅、銅合金アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、或いは樹脂や紙等でも形成することができるが、駆動部にかかる負荷量を消費電力等で測定するに当り、流動体の抵抗を受け、その力を駆動部に伝達し易い材料であると共に、移動や回転する運動に十分耐え得る強度を備えた材料で形成されるのが望ましい。
【0020】
また、当該測定子は前記駆動部によって流動体の中を移動及び/又は回動するが、その移動(又は回転)方向は使用目的に応じて適宜設定する事ができる。例えば、当該測定子を、水平方向に前後往復移動させたり、高さ方向に上下往復移動させたりもでき、また軸回りに回転させたり、振り子状に往復移動させる事もできる。即ち、当該測定子の移動及び/又は回動は、当該測定子にかかる流動体の抵抗を測定出来れば足りる為、当該抵抗を受ける為の移動(又は回転)方向に限りは無い。但し、本発明のとろみ測定装置は病院や福祉施設、或いは在宅等でも簡便に使用出来るようにする場合には、当該測定子は、軸回りに回転させるのが望ましい。なぜなら、当該測定子を水平方向又は高さ方向へ一定の振幅で往復運動させるには、その往復運動にかかる進行・停止の制御機能が必須であり、装置自体の負担が多くなる上、構造も複雑化する為である。一方で、当該測定子を軸回りに回転させるよう構成する事で、一旦始動させてしまえば、その動きを制御する機能は極力少なくて済み、本発明のとろみ測定装置を構成する構造も簡易なもので済む為である。
【0021】
前記駆動部は当該測定子を移動及び/又は回動させる動力源として機能する。即ち、測定子を移動及び/又は回動させる動力を伝達できれば良く、その構成方法に限りは無い。例えば、歯車やベルト、ラック&ピニオンや、カム機構やリンク機構、或いはクランク機構等を利用して、その動力を伝達することができる。但し、当該動力伝達構造は出来るだけ簡易で、且つコンパクトに収まるもので構成されるのが望ましい。
【0022】
かかる駆動部は、前記測定子を軸回りに回転させるように構成した場合には、当該駆動部の回転速度は一定となるように形成することが望ましい。一定の回転速度における各種試料(飲食物など)の抵抗値を測定する為である。
【0023】
そして、本発明に係るとろみ測定装置では、前記駆動部に作用する負荷量を前記測定部によって測定し、当該測定部の測定値に基づいてとろみ具合を数値化する演算回路を備えることが望ましい。更に、当該演算回路の算出結果を表示すると表示部を備えることも望ましい。かかる表示部を備えることにより、使用者はその測定結果を迅速に把握することができる。かかる演算回路は、例えば測定部が測定した電流値や電力値などに基づいて演算し、とろみ具合の値(とろみの程度を示す値)を出力するように構成することができる。その際、試料の温度も測定して、演算補正するように構成することもできる。資料の温度も測定する場合には、別途、試料の温度を検出する温度検出手段を設けることが望ましい。
【0024】
上記本発明に係るとろみ測定装置によれば、上記の通り、とろみの程度を数値化して具体的に認識可能になる事で、従来困難であった、とろみ具合の細かな識別(又は分類)が可能になる。例えば、従来では「ポタージュ状」、「ケチャップ状」、「マヨネーズ状」といった分類しかできなく、同じ「ポタージュ状」でも人によって認識の違いが生じていたことから、増粘剤等でとろみをつけた飲食物を製造・調整する際には、人の官能評価に頼らざるを得ず、同一又は安定した食品の提供が困難であったとの課題を解決できる。
【0025】
即ち、本発明にかかるとろみ測定装置を使用すれば、具体的な数値によってとろみ具合の認識が可能になる為、病院や福祉施設等において、患者一人一人の咀嚼・嚥下機能に応じて、適した食品の提供が可能になる。その為、例えば、同じ「ポタージュ」を異なるとろみ具合で患者に提供したい場合などには、温度条件を変更したり、増粘剤やゲル化剤、或いは豆腐等の固形物等を添加する等して、目的となるとろみの値になるよう調整する事で、患者の要求する適当な粘性(とろみ)を有する飲食物の提供が可能になる。結果、本発明のとろみ測定装置を使用する事で、安全且つ安定した飲食物の提供が可能になる為、食品製造者にとっても、安心且つ簡便な調理が可能になり、確実な製造管理が可能となる。
【0026】
なお、本発明のとろみ測定装置は前述したような病院や福祉施設、在宅等で使用できる他、他の用途、例えば製薬工場や塗料工場、繊維工場や食品工場等において反応管理、又は品質管理の目的で使用する事も可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかるとろみ測定装置では、流動体の中に測定子を浸漬させ、駆動部によって当該測定子を移動又は回転させることで、当該測定子にかかる抵抗を測定でき、とろみ具合を算出して数値化できる。また、測定子は移動や回転に際して、流動体からの抵抗を受ける面を有した形状に形成する事で、例えば豆腐等の固形物が細かく混在したような流動体(食品等)のとろみを測定必要な場合にも、液体及び固形物の全ての抵抗が測定可能になり、当該流動体のとろみ具合を精確に算出して数値化できる。
【0028】
また本発明のとろみ測定装置は、前記の原理によって測定するものであるから、測定環境や、飲食物の温度に極力依存する事無く、安定した測定値を得る事が出来る為、病院や福祉施設、或いは在宅等でも簡便に使用できる。
【0029】
また、本発明のとろみ測定装置を使用する事で、具体的数値でとろみ具合の認識が可能になる為、病院や福祉施設等において、患者一人一人の咀嚼・嚥下機能に応じて、適した食品の提供が可能になる。その為、測定対象物となる飲食物に対して、本発明のとろみ測定装置を使用して算出された測定値を確認後、増粘剤やゲル化剤、或いは豆腐等の固形物等を添加する等して、目的となるとろみの値になるよう調整する事で、患者の要求する適当な粘性(とろみ)を有する飲食物の提供が可能になる。結果、本発明のとろみ測定装置を使用する事で、安全且つ安定した飲食物の提供が可能になる為、食品製造者にとっても、安心且つ簡便な調理が可能になり、確実な製造管理が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本実施の形態にかかるとろみ測定装置を具体的に説明する。
図1(A)に示すように、本実施の形態にかかるとろみ測定装置Tは、容器15に収容された測定対象物となる流動体10中に浸漬される測定子11と、当該測定子11を軸回りに回転させる駆動部12、そして当該駆動部12に作用する負荷量を測定する測定部13と、当該測定部13の測定結果から算出したとろみの値を表示する表示部14とから構成している。また、当該測定装置Tは、測定部13と駆動部12とをケーブル16によって接続しており、電源プラグ17から電力を得る構成としている。ただし、測定部13と駆動部12との情報通信は無線情報通信方式で行うこともでき、また駆動部12の電源は電池によって供給することもできる。
【0032】
また、
図1(B)に示すように本実施の形態における測定子11は、鉛直方向に延伸する棒状の主軸部分111と、当該主軸部分111から横方向に延伸する複数の棒状の枝部分112とから形成している。かかる主軸部分111と棒状の枝部分112とは、本実施の形態では丸棒として形成している。主軸部分111はモータを使用して形成された駆動部12によって回転動力を得る構成にしており、当該測定子11の先端部と駆動部12の先端部のロータの出力軸18とを接合する事で軸回りに回転することができる。
【0033】
そして
図2(A)で示すように、当該測定子11を測定対象物となる流動体10中に浸漬させ、
図2(B)のように当該測定子11を軸回りに回転させることでとろみ具合を測定することができる。即ち、本実施形態のとろみ測定装置Tでは、当該駆動部12に作用した負荷量を電流値で測定する事で、測定子11にかかる流動体の抵抗を測定でき、これに基づいて流動体10のとろみ具合を数値化する事ができる。
【0034】
また、当該測定子11は、回動に際して流動体10からの抵抗を受ける作用面となる曲面を有する形状に形成し、当該回転方向に対向する曲面(作用面)の表面積を、85cm
2で形成している。特に、当該測定子11は、鉛直方向に延伸する棒状の主軸部分111と、当該主軸部分111から横方向に延伸する複数の棒状の枝部分112とから形成している事で、当該枝部分112が回転方向に対向する面となり、その面で流動体10の抵抗を測定できる。よって、当該測定子11を使用する事で、例えば豆腐等の固形物が細かく混在したようなる流動体(食品等)のとろみを測定必要な場合にも、液体及び固形物の全ての抵抗が測定可能になり、当該流動体のとろみ具合を精確に数値化する事が可能になる。
【0035】
さらに、当該測定子11は
図3でも示すように、様々な形状で形成する事もできる。例えば、
図3(A)のような移動方向(又は回転方向)に対向して存在する面が、移動方向(又は回転する方向)に沿う面よりも大きく形成された平板状の測定子11A、また
図3(B)のような移動方向(又は回転方向)に対向する面が凹んだ形状で形成された『く』の字に折り曲げた形状の測定子11B、さらに
図3(C)のように円弧状の測定子11C、といった具合に、様々な形状に形成できる。即ち、上記のように、測定子11における移動方向又は回転方向に対向する面の表面積を大きく形成する事で、より精確に流動体10の抵抗を測定できる為、とろみ具合をより精確に算出できるようになる。
【0036】
また、本実施の形態では当該測定子11を軸回りに回転させているが、
図4に示すように、異なる方向に移動させても良い。例えば、
図4(A)のように測定子41を直方体状に形成し、水平方向に前後往復移動させても良い。測定子41を水平方向に前後往復移動させることができれば、容器15が長方形状で形成された場合等にも対応できる。また、
図4(B)のように、測定子41を高さ方向に上下往復移動させる事で、容器15の径が小さく、前後に移動するスペースが無い場合であっても、確実な測定が可能になる。さらに、
図4(C)のように、測定子41を振り子状に往復移動させる事もできる。当該測定子41を振り子状に大きく移動させる事で、容器15が大きく形成された場合等に、より確実な流動体10の反力の測定が可能になり、精確なとろみ具合の算出が可能になる。
【0037】
以上のように形成した本実施の形態に係るとろみ測定装置によれば、病院や福祉施設、或いは在宅等でも簡便に使用でき、安定した測定値を得る事のできる、とろみ測定装置と、これを用いた飲食物の調整方法を提供するとの課題を解決することができる。即ち、従来提供されている多くの回転式粘度測定方法(又は測定装置)では、回転子と試料の間に発生する摩擦応力を求める仕組みになっており、回転子の回転数(又は回転速度)によって値が変化してしまう不安定なものであった。そのため従来の粘度測定方法(又は測定装置)は、一定の条件下で測定しなければ、その測定物の安定した値が得られない為に、実験環境の整った研究施設とは異なる病院や福祉施設、或いは在宅等で利用するには不向きであった。この点、本実施の形態に係るとろみ測定装置では、測定子が流動体から受ける抵抗を測定することから、このような問題を解決して在宅等でも簡便に使用でき、安定した測定値を得る事のできる、とろみ測定装置を提供することができる。
【0038】
また上記した本実施の形態に係るとろみ測定装置は、とろみ具合を数値化することで正確に表示できるとろみ測定装置と、これを用いた飲食物の調整方法を提供するとの課題を解決することができる。この点、従前において、粘性のある食品におけるとろみ測定には、LST(Line Spread Test)という測定方法が用いられることもあった。このLST(Line Spread Test)は、とろみのついた溶液が一定時間に広がる距離を見る事によってとろみ具合を数値化する方法である。しかしながら、LST(Line Spread Test)では、広がった距離を読み取るのはあくまで目視によるものであり、読み取る値に誤差が生じる可能性が高く、測定精度の低いものであった。また、極端に流れ難い溶液や、極端に流れやすい溶液を測定することが困難である上、読み取った値で判断されるとろみ具合の分類も3種類〜5種類程しかない為、細かなとろみ具合の識別(又は分類)が困難であった。この点、本実施形態に係るとろみ測定装置は、とろみ具合を数値化することで、測定者の主観に依存することなく、客観的にとろみ具合を測定することができる。
【0039】
そして本実施の形態に係るとろみ測定装置は、温度に依存する事無く、とろみ具合を一定に算出して数値化できるとろみ測定装置を提供するとの課題を解決することができる。即ち、従前においてとろみを測定する際には、その測定対象となる飲食物の温度は一定ではない場合が多い。例えば、料理等では、当該飲食物は加熱したり、或いは冷却したりすることから、その温度は様々である。その為、当該飲食物を所定のとろみ具合に調整し、患者の要求する適当なとろみを有する飲食物を提供する場合には、温度に左右される事無く、とろみ具合を一定に算出出来る事が要求されていた。この点、本実施の形態に係るとろみ測定装置では、試料となる流動体内における測定子の移動及び/又は回動時の抵抗に基づいてとろみを測定していることから、試料の温度に依存する事無く、とろみ具合を一定に算出して数値化することができる。
【実施例1】
【0040】
以下、本実施の形態にかかる測定装置Tの検証結果について説明する。なお、以下の実施例では、本実施の形態に係るとろみ測定装置の測定結果に基づくとろみ具合を示す数値の単位として「tr値」を使用している。この「tr値」とは、Thickness Resistance Value(とろみ抵抗値)を示しており、本実施の形態に係るとろみ測定装置特有の値である。即ち、「tr値」では、測定部によって駆動部にかかる負荷量を電流値や電力値等で測定し、目的に応じて数値が読み取り易いよう係数をかけて数値化している。その為、例えば電流値が0.4Aの場合には、それに係数として10を掛けて「tr値」が4と表示される、といった具合に、読取り易いよう係数を利用している。
【0041】
病院や福祉施設等で提供されている粘性を有する飲食物は、患者一人一人の咀嚼・嚥下機能に応じて適したとろみに調整して提供される必要がある。しかしながら、従来より、そのとろみ具合は、「ケチャップ状」、「マヨネーズ状」、「ソース状」、或いは「ドレッシング状」といった官能評価に頼った表現をせざるを得ないのが実情で、食品提供者(製造者)はそのとろみを調整するのに苦難を強いられていた。そこで、従来より存在する回転式粘度計を用いて、当該とろみ具合を測定可能か検証を行い、病院や福祉施設等でも簡便に使用できるか否かの検証を行った。
【0042】
即ち、従来の回転式粘度計では、
図5に示すように下記の測定原理で粘度の測定を行っていた。具体的には、従来の回転式粘度計は、駆動源であるモータ51と、目盛円盤53と、モータ51に連結され、目盛円盤53の中心を固着貫通して、その下まで延出している駆動軸52とを有した構成となっている。さらに、当該回転式粘度計は、駆動軸52の下端に連結されるスプリング54と、スプリング54の他端に連結されているロータ軸55と、ロータ軸55に連結されている円錐ロータ56と、円板58とを有し、この円板58と円錐ロータ56との間には、粘度を測定する被測定液59が注入される。なお、前記ロータ軸55から目盛円盤53の上面には指針57が延出する構成となっている。この従来技術においては、駆動源のモータ51を回転させると、円錐ロータ56は、円板58との間に被測定液59を挟んだ状態で回転する。この時、スプリング54は、被測定液59の粘性抵抗によって発生する粘性トルクと、スプリング54の復元トルクがバランスをとるまで捩じられる。このスプリング54の捩れ角度は、目盛円盤53と指針57によって読み取られる。そして、被測定液59の粘度は、上記のように測定して求められた目盛円盤53上の目盛読み取り値、スプリング54のばね定数、円錐ロータ56の接続部寸法、円錐傾斜角度、及び粘度計回転速度などのデータから、計算して求めることができる。
【0043】
上記の測定原理を利用した従来の回転式粘度計として、B型粘度計(東機産業製: BM II)を使用して本検証を行い、試料(サケや山芋、水、とろみ剤等をミキサーにかけて出来た流動体)と、粘度標準液の粘度測定を行った。
図6(A)で示すように、本検証では小径円柱状のロータ61を使用して検証を行った。そしてB型粘度計による試料の測定結果と比較する為に、当該試料を本実施の形態にかかるとろみ測定装置Tを用いて算出した「tr値」を測定した。その結果を
図6(B)に示す。なお、当該粘度測定値は、ロータ61の形状と、回転数により係数が割り当てられ、読み値(針指示値)に、その係数をかけることにより測定値を算出しており、粘度単位にはmPa・S(ミリパスカル・秒)を用いている。結果として、当該試料を従来の方法で粘度測定をすると、ロータ61の回転数によって粘度測定値が大きく変化する為、値が断定できなかった。しかし、本実施の形態にかかるとろみ測定装置Tで測定したところ「tr値」が6.3となり、一定の値で算出できた。
【0044】
また、同様の方法で粘度標準液の粘度測定を行った測定結果を
図6(C)に示す。その結果、粘度標準液では、ロータ61の回転数を変化させても安定した測定値が得られた。
【0045】
即ち、上記結果より、従来の方法ではロータ61の回転数によって測定値が変化する場合がある為、病院や福祉施設等で提供されている飲食物のとろみ具合を測定するには不向きと判断できた。一方で、本実施の形態にかかるとろみ測定装置Tでは、とろみ具合を算出して数値化する事が可能と判断できた。
【0046】
次に、本実施の形態にかかるとろみ測定装置Tを用いて、様々な種類の粘性を有する流動体10のとろみ具合を測定した検証結果について説明する。測定方法として、まずは本実施の形態に係るとろみ測定装置Tの測定容器15に測定対象物となる流動体を約300ml(300g)注入し、定時間測定子11を回転させることにより「tr値」を測定した。本検証では、温度による物性の確認を行う為に、測定対象物を事前に冷蔵庫で冷やし、当該測定対象物に対して湯せんにかけて温度を上昇させていくことで、各々の温度での「tr値」を測定した。本検証で使用した測定対象物の詳細を下記の表1に示す。
【0048】
上記、表1に示す通り、本検証では、測定対象物として、水、ポタージュ、フレンチドレッシング、とんかつソース、ヨーグルト、ケチャップ、とろみ剤A、とろみ剤B、の計8種類を使用して検証を実施した。その検証結果(グラフ)を
図7及び
図8に示す。
【0049】
図7及び
図8のグラフに示す通り、水に関しては温度による「tr値」の変化はほぼ無く、ポタージュ、フレンチドレッシング、ヨーグルト、及びとろみ剤Aに関しては温度による「tr値」の変化が若干確認できた。そして、とんかつソース、ケチャップ、とろみ剤Bに関しては温度による「tr値」の変化が大きく、食品提供の際は温度管理の徹底が必要と確認できた。
【0050】
即ち、本発明のとろみ測定装置Tを使用する事で、様々な流動体のとろみ具合を算出して数値化出来る事が確認でき、温度変化によるとろみ具合の変化も確認できる。その為、本発明のとろみ測定装置を使用して測定した飲食物に対して、温度条件を変更したり、増粘剤やゲル化剤、或いは豆腐等の固形物等を添加する等して、目的となる「tr値」になるよう調整する事で、患者の要求する適当な粘性(とろみ)を有する飲食物の提供が可能になる。
【0051】
さらに、本発明のとろみ測定装置Tを使用して測定するに当たり、測定回数別で「tr値」に変化が生じないか検証確認を行った。本検証では、水、ポタージュ、フレンチトレッシングの計3種類を使用して、各々10回測定検証を行った。検証に際して、水は19℃、ポタージュ及びフレンチドレッシングは24℃の一定温度に調整して検証した。その検証結果(グラフ)を
図9に示す。
【0052】
図9に示す通り、水、ポタージュ、フレンチドレッシングの何れに於いても、測定回数別で「tr値」の誤差は極力少なく、安定した測定値を得る事ができた。
【0053】
この実験例では、本実施の形態に係るとろみ測定装置(
図1及び2に示したとろみ測定装置)とB型粘度計における測定結果を対比した。この実験で使用したとろみ測定装置は、測定子の長手方向の長さが75mmであり、回転数は300rpmのものを使用した。またB型粘度計として、ブルックフィールド社製B型粘度計(型番:LVDV1M、使用測定子:LV-02、LV-03)を使用した。そして測定対象物としてヨーグルトを使用し、以下の実験例4の1〜4の実験を行った。
【0054】
<実験例4の1>
この実験では、B型粘度計を使用して、回転数を10rpmとして回転させながら、時間の経過にともなう粘度(cp:センチポアズ)の変化を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0055】
この実験結果から、ヨーグルトの場合には、時間の経過とともに粘度が低下することを確認した。
【0056】
<実験例4の2>
この実験では、B型粘度計を使用して、回転数を変化させながら粘度の変化を測定した。その結果を表3に示す。
【表3】
【0057】
B型粘度計を使用した粘度の測定では、回転数が変化しても粘度は同じ値になるべきところ、この実験ではそれぞれの回転数によって粘度の差がありすぎることから、粘度によって特定するのが困難であり、実質的に測定できないことを確認した。
【0058】
<実験例4の3>
この実験では、本実施の形態に係るとろみ測定装置を使用して、回転数を300rpmに固定して、時間の経過にともなう数値(tr値)の変化を測定した。その結果を表4に示す。
【0060】
この実験結果から、ヨーグルトの場合には、時間の経過とともにとろみ値(tr値)が低下することを確認した。
【0061】
<実験例4の4>
この実験では、本実施の形態に係るとろみ測定装置を使用して、回転数を300rpmに固定して、測定対象物として十分に攪拌したヨーグルトに1gのとろみ剤(商品名:とろみパワースマイル)を投入したものを使用し、時間の経過に伴う数値(tr値)の変化を測定した。その結果を表5に示す。
【表5】
【0062】
この実験結果から、ヨーグルトに1gのとろみ剤(商品名:とろみパワースマイル)を投入した場合でも、時間の経過とともにとろみ値(tr値)が低下することを確認した。
【0063】
この実験例では、実験例4と同じとろみ測定装置とB型粘度計を使用し、測定対象物として中濃ソース(商品名:ブルドッグ中農ソース)に、ろみ剤(商品名:とろみパワースマイル)の添加量を変えて配合して、それぞれの値(粘度及びtr値)を測定した。
【0064】
<実験例5の1>
本実施の形態に係るとろみ測定装置を使用して、回転数を300rpmに固定して、測定対象物として中濃ソースにとろみ剤(商品名:とろみパワースマイル)の添加量を変えて配合して、そのとろみ値(tr値)を測定した。その結果を表6に示す。
【0066】
この実験結果から、とろみ測定装置を使用した場合には、とろみ剤の添加の増加に伴い、とろみ値(tr値)が上昇することを確認できた。
【0067】
<実験例5の2>
B型粘度計を使用して、回転数を変えながら、測定対象物として中濃ソースにとろみ剤(商品名:とろみパワースマイル)の添加量を変えて配合して、その粘度を測定した。その結果を表7に示す。なお、表7に示した数値の単位はcp(センチポアズ)である。
【0069】
B型粘度計を使用した粘度の測定では、回転数が変化しても粘度は同じ値になるべきところ、この実験ではそれぞれの回転数によって粘度の差がありすぎることから、粘度によって特定するのが困難であり、実質的に測定できないことを確認した。
【0070】
この実験例では、実験例4と同じとろみ測定装置とB型粘度計を使用し、測定対象物としてドレッシング(商品名:ミツカン玉ねぎドレッシング)に、ろみ剤(商品名:とろみパワースマイル)の添加量を変えて配合して、それぞれの値(粘度及びtr値)を測定した。
【0071】
<実験例6の1>
本実施の形態に係るとろみ測定装置を使用して、回転数を300rpmに固定して、測定対象物としてドレッシング(商品名:ミツカン玉ねぎドレッシング)にとろみ剤(商品名:とろみパワースマイル)の添加量を変えてとろみ値(tr値)を測定した。その結果を表8に示す。
【0073】
この実験結果から、とろみ測定装置を使用した場合には、とろみ剤の添加の増加に伴い、とろみ値(tr値)が上昇することを確認できた。
【0074】
<実験例6の2>
B型粘度計を使用して、回転数を変えながら、測定対象物としてドレッシング(商品名:ミツカン玉ねぎドレッシング)にとろみ剤(商品名:とろみパワースマイル)の添加量を変えて配合して、その粘度を測定した。その結果を表9に示す。なお、表9に示した数値の単位はcp(センチポアズ)である。
【0076】
B型粘度計を使用した粘度の測定では、回転数が変化しても粘度は同じ値になるべきところ、この実験ではそれぞれの回転数によって粘度の差がありすぎることから、粘度によって特定するのが困難であり、実質的に測定できないことを確認した。
【0077】
この実験例では、非ニュートン流体(前記、ヨーグルト、中濃ソース、ドレッシングを使用)のとろみ具合を測定する際に、とろみ値(tr値)と粘度との相関性を確認した。この実験で使用したとろみ測定装置とB型粘度計は、前記実験例4と同じであり、特にB型粘度計の回転速度は10rpmに設定して実験を行った。また、測定対象である各非ニュートン流体は、何れも撹拌を行い数値が安定した状態のものを使用した。その結果を表10に示す。
【0079】
この実験結果から、B型粘度計の回転数を固定した場合であっても、粘度(cp)ととろみ値(Tr値)に相関は見られないことを確認した。よって、とろみの程度を粘度によって特定することは困難であり、本実施の形態に係るとろみ測定装置による測定が有効なことを確認した。