(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動装置は、前記第1電極と前記共通電極に第1電位を与えて前記第2電極には前記第2電位を与えること、及び前記第2電極と前記共通電極に第1電位を与えて前記第1電極には前記第2電位を与えることを選択的に実行する、
請求項2に記載の光制御装置。
前記駆動装置は、前記第1電極と前記共通電極に第1電位を与えて前記第2電極には前記第2電位を与えること、前記第2電極と前記共通電極に第1電位を与えて前記第1電極には前記第2電位を与えること、及び前記第1電極と前記第2電極に同電位を与えることを選択的に実行する、
請求項3に記載の光制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は、液晶素子の基本的な構成ならびに動作原理を説明するための模式的な断面図である。
図1(A)に示す液晶素子は、対向配置された2つの基板(透明基板)1、2の間に液晶層8が配置されている。そして、基板1は、その一面側に、一対の電極3a、3bと、これら電極3a、3bの間に設けられてそれぞれと接続している高抵抗膜4と、少なくとも高抵抗膜4の上側領域に設けられた配向膜5を有する。基板2は、その一面側に、少なくとも各電極3a、3bおよび高抵抗膜4と対向する領域に設けられた共通電極6と、少なくともこの共通電極6の上側領域に設けられた配向膜7を有する。
【0012】
図示の例では、各配向膜5、7は、ラビング処理等の配向処理が施されており一方向への配向規制力を有する垂直配向膜である。また、液晶層8は、誘電率異方性が負の液晶材料を用いて構成されており、各配向膜5、7の配向規制力を受けて一方向(例えば図示の左右方向)へ配向し、電圧無印加時の配向(初期配向)が略垂直配向となる。ここでいう略垂直配向とは、液晶層8のプレティルト角が90°未満であって90°に近い状態(例えば88°〜89.9°程度)であることをいう。
【0013】
なお、原理的には、各配向膜5、7は、ラビング処理等の配向処理が施されており一方向への配向規制力を有する水平配向膜であってもよい。この場合、液晶層8は、誘電率異方性が正の液晶材料を用いて構成され、各配向膜5、7の配向規制力を受けて一方向(例えば図示の左右方向)へ配向し、電圧無印加時の配向(初期配向)が略水平配向となる。ここでいう略水平配向とは、液晶層8のプレティルト角が0°より大きい状態であって比較的0°に近い状態(例えば2°〜5°程度)であることをいう。
【0014】
図1(B)に示すように、例えば電極3a、3bの間に電位差Vhが生じるように電圧を印加する。一例として、電極3aに15ボルト、電極3bに0ボルト、共通電極6の電圧に0ボルトの電圧を印加する。印加する電圧は、例えば100Hzの交流電圧とする。これにより、電極3aと電極3bの間が高抵抗膜4を介して導通して両者間に連続的な電圧勾配を生じる。
【0015】
この電圧勾配により、液晶層8の配向状態が変化する。具体的には、電極3aに近い領域ほど電圧が高いため、この電圧に応じて液晶分子の配向方向が大きく変化する。逆に、電極3bに近い領域ほど電圧が低いため、この電圧に応じて液晶分子の配向方向が僅かに変化する。さらに電極3bに近い領域では液晶分子の配向方向がほとんど変化しない。すなわち、電圧勾配に応じて液晶層8の配向状態は、電極3a、3bの間(高抵抗膜4の存在する領域)において連続的に変化する。
【0016】
このような状態の液晶素子に対して、レーザ光などの偏光を入射させる。例えば
図1(C)に示すように、各配向膜5、7への配向処理方向(液晶層8の配向方向)と偏光方向が平行な光BMを基板1の他面側から入射させる。すると、図示のように液晶層8の配向状態が連続的に変化していることから液晶層8内部の位置によってリターデーションが異なる状態であるため、そこを通過する光BMの通過速度が領域によって異なることになる。このため、ホイヘンスの定理により、液晶層8を通過する光BMの進行方向が変化するものと考えられる。図示の例では、電圧の相対的に高い側の電極3a側へ光BMが曲がって進む。なお、上記と逆に電極3b側が相対的に高い電圧となるように電圧勾配を形成すれば、電極3b側へ光BMが曲がって進むことになる。
【0017】
図2は、第1実施形態の液晶素子の構成を示す模式的な平面図である。また、
図3は、この実施形態の液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。なお、
図3に示す断面図は
図2に示すIII−III方向の断面に対応している。また、上記した
図1と共通する構成については同符号を用いている。各図に示す本実施形態の液晶素子100は、第1基板1、第2基板2、2つの電極3a、3b、高抵抗膜4、共通電極6、配向膜5、7、液晶層8、シール材9を含んで構成されている。
【0018】
第1基板1、第2基板2は、ともに、例えばガラス基板などの透光性を有する基板である。ここでいう透光性とは、液晶素子100による制御対象となる光が透過し得る透過率を有していることをいう。
【0019】
2つの電極3a、3bは、第1基板1の一面側に設けられている。これらの電極3a、3bは、例えばITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電膜をパターニングすることによって形成されている。なお、各電極3a、3bは、原理上必ずしも透光性を必要とするものではないので、透光性を有しない金属薄膜などを用いて形成されていてもよい。各電極3a、3bは、例えばそれぞれ平面視において一方向に延びる矩形状に形成されており、両者間に間隙を設けて配置されている。電極3aは、配線部を介して取り出し電極13aと接続されている。電極3bは、配線部を介して取り出し電極13bと接続されている。各取り出し電極13a、13bは、第1基板1の一端側(図示の例では第1基板1の上端側)に設けられている。
【0020】
高抵抗膜4は、2つの電極3a、3bの相互間に設けられている。図示の例では2つの電極3a、3bの間を埋め、さらに各電極3a、3bの一部を覆うようにして設けられている。この高抵抗膜4は、各電極3a、3bを構成する材料よりもシート抵抗の高い材料を用いて形成される。例えば、高抵抗膜4は、各電極3a、3bに対して少なくとも10倍以上のシート抵抗を有することが好ましく、100倍〜10
10倍程度のシート抵抗を有することがより好ましい。
【0021】
配向膜5は、第1基板1の一面側において各電極3a、3bと高抵抗膜4を覆って設けられている。この配向膜5としては、液晶層8をどのような初期配向とするかに応じて垂直配向膜または水平配向膜が選択的に用いられる。
【0022】
共通電極6は、第2基板2の一面側に設けられている。この共通電極6は、例えばITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電膜をパターニングすることによって形成されている。共通電極6は、少なくとも各電極3a、3bと対向する領域に形成されている。図示の例では、図中の上下方向に延びる矩形状に形成されており、その一部が各電極3a、3bと対向するように配置されている。共通電極6は、配線部を介して取り出し電極14と接続されている。この取り出し電極14は、第2基板2の一端側(図示の例では第2基板2の下端側)に設けられている。
【0023】
配向膜7は、第2基板2の一面側において共通電極6を覆って設けられている。この配向膜7としても、液晶層8をどのような初期配向とするかに応じて垂直配向膜または水平配向膜が選択的に用いられる。
【0024】
液晶層8は、誘電率異方性が負の液晶材料、もしくは誘電率異方性が正の液晶材料を用いて形成されている。この液晶層8は、各配向膜5、7による配向規制力を受けて初期配向状態(電圧無印加時の配向状態)が定まる。例えば、各配向膜5、7として垂直配向膜が用いられていれば初期配向状態が垂直配向状態となり、各配向膜5、7として水平配向膜が用いられていれば初期配向状態が水平配向状態となる。
【0025】
シール材9は、液晶層8を封止するためのものであり、平面視において第1基板1と第2基板2の間で液晶層8を囲んで枠状に形成されている。シール材9は、その一部(図示の例では左側)が開口しており、この開口部分が液晶材料の注入口として用いられる。
【0026】
図4及び
図5は、一実施形態の液晶素子の製造方法を説明するための模式的な平面図である。
【0027】
第1基板1の一面側に各電極3a、3b、配線部および各取り出し電極13a、13bを形成する(
図4(A)参照)。例えば、一面側の全体にITO膜が形成されているガラス基板を用意し、ITO膜をパターニングすることによって各電極3a、3b等が形成される。各電極3a、3bは、相互間の幅Lが例えば100μm程度となるように形成される。
【0028】
次に、第1基板1の一面側において、各電極3a、3bの相互間に高抵抗膜4を形成する(
図4(B)参照)。図示の例では、高抵抗膜4は、各電極3a、3bの間を埋め、さらに各電極3a、3bの一部を覆うように形成されているが、少なくとも各電極3a、3bの相互間の隙間を埋めるように形成されていればよい。この高抵抗膜4は、各電極3a、3bを構成する材料よりもシート抵抗が高く、かつ制御対象の光に対して透明な材料を用いて形成される。
【0029】
上記のような高抵抗膜4としては、例えば各種の金属酸化膜、導電性高分子膜(有機系導電膜)、金などの金属からなる薄膜、金属ナノ粒子や金属酸化膜ナノ粒子の分散膜、絶縁性ナノ粒子に導電性修飾を施したナノ粒子の分散膜などが挙げられる。高抵抗膜4の形成方法としては、例えばスパッタ法や真空蒸着法などの真空成膜法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット法、バーコート法、スリットコート法などの各種印刷法、スピンコート法やディップ法(ラングミュアブロジェット法を含む)などの成膜法が挙げられる。
【0030】
上記の通り、高抵抗膜4は、各電極3a、3bに対して少なくとも10倍以上のシート抵抗を有することが好ましく、100倍〜10
10倍程度のシート抵抗を有することがより好ましい。一例として、各電極3a、3bを構成するITO膜のシート抵抗が10Ω/sq.であるとすると、高抵抗膜4のシート抵抗は1kΩ/sq.程度でもよい。消費電力をより低減するためにはシート抵抗をより高くすることが好ましく、具体的には1kΩ/sq.〜10GΩ/sq.程度であることが好ましく、例えば100MΩ/sq.程度に設定される。一例として、スパッタ法により成膜されるZnO膜を高抵抗膜4として用いることができる。
【0031】
なお、高抵抗膜4の形成範囲については、少なくとも制御対象の光が通過する領域を確保し得る程度であればよいが、各電極3a、3bと接続される各取り出し電極13a、13bの上面には形成しないことが好ましい。また、有機系導電膜など基板への密着性があまり高くない材料を用いる場合には、特にシール材9の形成される領域には高抵抗膜4を形成しないことが好ましい。したがって、高抵抗膜4を形成する際には、マスクスパッタ法や各種印刷法を用いて、必要な領域にのみ選択的に形成することが好ましく、スピンコート法等によって基板全面に成膜した場合には、フォトリソ法等によってパターニングして不要な部分を除去することが好ましい。もしくは、フレキソ印刷等の各種印刷法により各取り出し電極13a、13b上などにレジスト膜を塗布し、その上に高抵抗膜4を成膜し、最後にリフトオフして各取り出し電極13a、13b上のレジスト膜を除去してもよい。
【0032】
また、高抵抗膜4の上側にパッシベーション膜などの絶縁膜を設けてもよい。これは基板間の短絡防止、光学的な機能向上(透過率向上、液晶層8との屈折率マッチングによる表面反射防止など)の効果が期待できる。この場合の絶縁膜についても各取り出し電極13a、13bの上側やシール材9の形成領域には形成されないことが好ましい。なお、絶縁膜としてフレキソ印刷可能なシリコン酸化膜を用いる場合には、密着性が非常に高いため、シール材9の形成領域に絶縁膜が形成されてもよい。
【0033】
次に、第2基板の一面側に共通電極6、配線部および取り出し電極14を形成する(
図4(C)参照)。例えば、一面側の全体にITO膜が形成されているガラス基板を用意し、ITO膜をパターニングすることによって共通電極6等が形成される。
【0034】
次に、第1基板1の一面側において、少なくとも各電極3a、3bと高抵抗膜4の形成領域を覆う範囲に配向膜5を形成する(
図4(D)参照)。同様に、第2基板2の一面側において、少なくとも各電極3a、3bと高抵抗膜4の形成領域と対向する範囲に配向膜7を形成する(
図4(E)参照)。配向膜5、7は、例えばフレキソ印刷法、インクジェット法などで配向膜材料を塗布し、熱処理を行うことによって形成される。
【0035】
配向膜5、7として垂直配向膜を形成する場合には、例えば、印刷性と密着性に優れ、側鎖に剛直な骨格(液晶性のものなど)を有するタイプの垂直配向膜材料を、フレキソ印刷法によって適当な膜厚(例えば500〜800Å程度)に成膜し、その後熱処理(例えば160℃〜250℃で1時間〜1.5時間の焼成)を行う。なお、有機配向膜としては上記タイプのみに限定されない。さらに、無機配向膜、例えば主鎖骨格がシロキサン結合(Si−O−Si結合)で形成されているものなどを用いてもよい。
【0036】
配向膜5、7として水平配向膜を形成する場合には、例えば、STN用と呼ばれる比較的に高いプレティルト角を得られるタイプの側鎖(アルキル鎖)付きの水平配向膜材料を、フレキソ印刷法によって適当な膜厚(例えば500〜800Å程度)に成膜し、その後熱処理(例えば160℃〜250℃で1時間〜1.5時間の焼成)を行う。なお、有機配向膜としては上記タイプのみに限定されない。さらに、無機配向膜(例えばSiO斜方蒸着膜)を用いてもよい。
【0037】
次に、各配向膜5、7に対して配向処理を行う。配向処理としては、例えば一方向へ配向膜を擦る処理であるラビング処理を行う。その条件としては、例えば押し込み量を0.3mm〜0.8mmに設定することができる。
【0038】
ラビング処理の方向は、各配向膜5、7が垂直配向膜である場合には、各電極3a、3bの延在方向(図中左右方向)に対して略直交する方向となるようにする。なお、厳密に直交でなくてもよく、例えば直交方向から0.1°〜5°程度ずれた方向にラビング方向を設定してもよい。
【0039】
また、ラビング処理の方向は、各配向膜5、
7が水平配向膜である場合には、各電極3a、3bの延在方向(図中左右方向)に対して略平行な方向となるようにする。なお、厳密に平行でなくてもよく、例えば平行方向から0.1°〜5°程度ずれた方向にラビング方向を設定してもよい。
【0040】
なお、上記の各ラビング方向は一例であり、各配向膜5、
7が垂直配向膜である場合においてそのラビング方向を各電極3a、3bの延在方向(図中左右方向)に対して略平行な方向としてもよいし、各配向膜5、
7が水平配向膜である場合においてそのラビング方向を各電極3a、3bの延在方向(図中左右方向)に対して略直交の方向としてもよい。
【0041】
次に、いずれか一方の基板、例えば第1基板1の一面側にギャップコントロール材を適量(例えば2〜5wt%)含んだシール材9を形成する(
図4(F)参照)。シール材9は、例えばスクリーン印刷法やディスペンサー法によって形成される。また、ここではギャップコントロール材の径を、例えば液晶層8の厚さが10μm程度となるように設定する。
【0042】
液晶層8の層厚は上記に限定されないが、光の進路が曲がる角度(配光角)をより大きくしたい場合には層厚をより大きくすればよく、液晶層8の電界に対する動作速度(反応速度)を
速くしたい場合には層厚をより小さくすればよい。具体的には、液晶層8の層厚は、例えば2μm〜500μmの間で設定することができる。
【0043】
また、他方の基板である第2基板2の一面側には、ギャップコントロール材が散布される。例えば、粒径10μmのプラスチックボールを乾式散布機によって散布する。もしくは、ギャップコントロールのためのリブ材が形成されてもよい。このときのギャップコントロール材(またはリブ材)の高さは、シール材9に添加されたギャップコントロール材の径とほぼ同等にする。また、各電極3a、3bの間隙(スリット部)にはギャップコントロール材(またはリブ材)が配置されないようにすると更に好ましい。なお、液晶素子の大きさが概ね10mm角程度より大きい場合には本工程を行うことが好ましいが、液晶素子の大きさがそれ以下の場合には本工程を省略してもよい。
【0044】
次に、第1基板1と第2基板2をそれぞれの一面側が対向するようにして重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、シール材9を硬化させる。例えば、150℃で3時間の熱処理が行われる。それにより第1基板1と第2基板2とが貼り合わされる。
【0045】
図5(A)は、各配向膜5、7として垂直配向膜が形成された第1基板1と第2基板2を貼り合わせて得られたセル(以下「セル1」と称する。)の模式的な平面図である。このセルでは、図中の右下側に矢印で示すように、第1基板1の配向処理方向(図中y方向に沿って上向き)と第2基板2の配向処理方向(図中y方向に沿って下向き)とがアンチパラレル配置となり、かつ配向処理方向のそれぞれが各電極3a、3b間のスリット部15の延在方向(図中X方向)に対して略直交している。なお、スリット部15とは、一対の電極3a、3bの間に画定されるスリット形状の間隙である(以下同様)。
【0046】
図5(B)は、各配向膜5、7として水平配向膜が形成された第1基板1と第2基板2を貼り合わせて得られたセル(以下「セル2」と称する。)の模式的な平面図である。このセルでは、図中の右下側に矢印で示すように、第1基板1の配向処理方向(図中x方向に沿って右向き)と第2基板2の配向処理方向(図中x方向に沿って右向き)とがパラレル配置となり、かつ配向処理方向のそれぞれが各電極3a、3b間のスリット部15の延在方向(図中x方向)に対して略平行となっている。なお、第1基板1の配向処理方向と第2基板2の配向処理方向とがアンチパラレル配置となってもよい。いずれの配置とするかは上記した配向処理の工程において設定することができる。
【0047】
次に、セル1、2の各々に対して、第1基板1と第2基板2の間に液晶材料を充填することによって液晶層8を形成する。例えば、シール材9に設けられた注入口を用いて真空注入法により液晶材料を基板間に注入する。セル1には誘電率異方性Δεが負の液晶材料(例えば屈折率異方性Δnが約0.25)を充填する。セル2には誘電率異方性Δεが正の液晶材料(例えば屈折率異方性Δnが約0.2)を充填する。ここではカイラル材が添加されていない液晶材料を用いる。なお、配光角をより大きくするには屈折率異方性Δnがより大きい液晶材料を用いることが好ましい。
【0048】
各セルへ液晶材料を充填した後、その注入口をエンドシール材によって封止する。そして、液晶材料の相転移温度以上の温度で適宜熱処理(例えば、120℃で1時間)を行うことにより、液晶層8の液晶分子の配向状態を整える。以上により、液晶素子100が完成する。
【0049】
図6は、液晶素子を用いて構成される光制御装置の構成を示す模式図である。この光制御装置は、上記したセル1に対応する液晶素子100と、この液晶素子100を駆動する駆動装置101を含んで構成されており、例えば光源102から出射するレーザ光の進行方向を自在に変化させることができる。図示の例において光源102から出射するレーザ光は、図中x方向に偏光方向を有する偏光である。液晶素子100は、レーザ光の偏光方向に対して各配向膜5、7への配向処理方向(液晶層8の配向方向)が略平行となり、かつスリット部15(
図5参照)の延在方向が略直交し、当該スリット部15に対してレーザ光が略垂直に入射するように配置される。駆動装置101は、液晶素子100の各取り出し電極13a、13b、14(
図2参照)と接続され、これらの電極を介して液晶層8へ駆動電圧を与える。
【0050】
例えば、駆動装置101から液晶素子100に対して、各取り出し電極13a等を介して、電極3aに交流電圧を印加し、電極3bと共通電極
6には基準電位を与える(例えば接地端子と接続する)。電圧の大きさと周波数は適宜設定することができ、例えば15V、100Hzとする。それにより、液晶素子100へ入射したレーザ光は、電圧無印加時の進行方向を基準として、図示のx方向において一方向(例えば右方向)へ進行方向が変化する。また、駆動装置101から電極3bに交流電圧を印加し、電極3aと共通電極
6には基準電位を与えた場合には、液晶素子100へ入射したレーザ光は、逆方向(例えば左方向)へ進行方向が変化する。
【0051】
ここで、レーザ光の進行方向を最大値の配光角θで変化させることができる電圧値については、電極3a、3bの相互間距離、レーザ光のスポット径、液晶層厚などに依存する。同様に、周波数についても電極3a、3bの相互間距離、レーザ光のスポット径、液晶層厚などに依存するものであるが、周波数が高くなるほど配光角θの最大値が大きくなる傾向が見られる。
図7にいくつかの条件による配光角θと応答速度の計測結果を示す。セル1に対応する液晶素子100において、液晶層厚(セル厚)と駆動条件を変えて、その際の配光角θと応答速度を計測した結果である。なお、計測に用いた液晶素子100については、上記した製造方法において例示した条件によって作製された。
【0052】
図8は、液晶素子を用いて構成される光制御装置の他の構成を示す模式図である。この光制御装置は、上記したセル2に対応する液晶素子100と、この液晶素子100を駆動する駆動装置101を含んで構成されており、例えば光源102から出射するレーザ光の進行方向を自在に変化させることができる。図示の例において光源102から出射するレーザ光は、図中x方向に偏光方向を有する偏光である。液晶素子100は、レーザ光の偏光方向に対して各配向膜5、7への配向処理方向(液晶層8の配向方向)が略平行となり、かつスリット部15(
図5参照)の延在方向も略平行となり、当該スリット部15に対してレーザ光が略垂直に入射するように配置される。駆動装置101は、液晶素子100の各取り出し電極13a、13b、14(
図2参照)と接続され、これらの電極を介して液晶層8へ駆動電圧を与える。
【0053】
例えば、駆動装置101から液晶素子100に対して、各取り出し電極13a等を介して、電極3aに交流電圧を印加し、電極3bと共通電極
6には基準電位を与える(例えば接地端子と接続する)。電圧の大きさと周波数は適宜設定することができ、例えば30V、100Hzとする。それにより、液晶素子100へ入射したレーザ光は、電圧無印加時の進行方向を基準として、図示のy方向において一方向(例えば上方向)へ進行方向が変化する。また、駆動装置101から電極3bに交流電圧を印加し、電極3aと共通電極
6には基準電位を与えた場合には、液晶素子100へ入射したレーザ光は、逆方向(例えば下方向)へ進行方向が変化する。
【0054】
ここで、レーザ光の進行方向を最大値の配光角θで変化させることができる電圧値については、電極3a、3bの相互間距離、レーザ光のスポット径、液晶層厚などに依存する。同様に、周波数についても電極3a、3bの相互間距離、レーザ光のスポット径、液晶層厚などに依存するものであるが、周波数が高くなるほど配光角θの最大値が大きくなる傾向が見られる。
図9にいくつかの条件による配光角θと応答速度の計測結果を示す。セル2に対応する液晶素子100において、液晶層厚(セル厚)と駆動条件を変えて、その際の配光角θと応答速度を計測した結果である。なお、計測に用いた液晶素子100については、上記した製造方法において例示した条件によって作製された。上記した説明では配向状態としてパラレル配置を説明していたが、アンチパラレル配置とした液晶素子100も作製し、パラレル配置の液晶素子100と比較した。その結果、パラレル配置とした液晶素子のほうが応答速度が速く、他方で配光角が小さくなる傾向が見られた。応答速度が速くなる要因は、パラレル配置の場合には液晶層への電圧印加時に配向モードがスプレイ配向からベンド配向へ遷移し、ベンド配向モードで動作することによるものと考えられる。
【0055】
液晶素子の駆動方法についてまとめると、本実施形態の液晶素子は、第1基板1に2つの電極3a、3bを有し、第2基板2に共通電極
6を有するので、これらを用いて液晶層8を交流駆動する。その際、配光角を変化させない場合(配光角θ=0)には、各電極3a、3bを同電位にすればよく、その際、共通電極
6の電位は各電極3a、3bと同じにしてもよいし異なる電位としてもよい。ある方向へ配光を変化させる場合には、電極3aと共通電極
6に同電位を与え、電極3bに異なる電位を与える。また、逆方向へ配光を変化させる場合には、電極3bと共通電極
6に同電位を与え、電極3aに異なる電位を与える。このような駆動方法を用いることで、特定方向(例えば、上下方向または左右方向)に沿って対称に配光制御することができる。
【0056】
(第2実施形態)
上記した第1実施形態では、1つの液晶素子を用いて光の進行方向を一次元的に変化させる場合について説明していたが、2つの液晶素子を組み合わせることにより、光の進行方向を二次元的に変化させることができる。以下、それを実現するための構成を説明する。なお、第1実施形態と共通する構成については詳細な説明を省略する。
【0057】
図10(A)は、第2実施形態の液晶素子の構成を示す模式的な平面図である。なお、本図では見やすさを考慮してシール材9を省略している。
図10(A)に示すように第2実施形態の液晶素子は、上記した第1実施形態におけるセル1に対応する液晶素子100aとセル2に対応する液晶素子100bが重ねて配置されたものである。
【0058】
詳細には、液晶素子100aは、図中では手前側に配置されており、かつ一方向に延びたスリット部15(
図5(A)参照)の延在方向がx方向と平行になるように配置されている。なお、液晶層8の配向方向についてはx方向に平行であり、かつアンチパラレル配置である。また、液晶素子100bは、図中では奥側に配置されており、かつ一方向に延びたスリット部15(
図5(B)参照)の延在方向がy方向と平行になるように配置されている。なお、液晶層8の配向方向についてはx方向に平行であり、かつパラレル配置である。
【0059】
図10(B)は、各液晶素子の電極配置について説明するための図である。図示のように、前面側の液晶素子100aは、各電極3a、3bの間隙であるスリット部15の延在方向がy方向(上下方向)と略平行になるように配置される。また、背面側の液晶素子100bは、各電極3a、3bの間隙であるスリット部15の延在方向がx方向(左右方向)と略平行になるように配置される。そして、液晶素子100aのスリット部15と液晶素子100bのスリット部15とが交差(本例では直交)するように配置されている。各スリット部15の重なる矩形状領域20は、レーザ光などの制御対象光が入射されるべき領域として用いられる。
【0060】
前面側に配置された液晶素子100aは、各電極3a、3b、共通電極
6を介して駆動装置101から駆動電圧を与えることにより、光源102から出射する光の進行方向を図中のx方向へ変化させることができる(
図6参照)。また、背面側に配置された液晶素子100bは、各電極3a、3b、共通電極
6を介して駆動装置101から駆動電圧を与えることにより、光源102から出射する光の進行方向を図中のy方向へ変化させることができる(
図8参照)。このため、2つの液晶素子100a、100bを
図10(A)に示すように重ねて配置することにより、光の進行方向をx方向とy方向、すなわち上下左右の各方向に変化させることができる。
【0061】
この実施形態では、前面側の液晶素子100aによる光の制御方向はx方向に平行であるが、その光の出射先にある背面側の液晶素子100bのスリット部はx方向に略平行となるように配置されていることから、出射した光がx方向に振れても、その光を背面側の液晶素子100bのスリット部15へ容易に入射させることができる。したがって、前面側の液晶素子100aによってx方向に沿った配光制御を行い、さらに背面側の液晶素子100bによってy方向に沿った配光制御を行うことができるので、最終的に液晶素子100bから出射する光の進行方向を二次元的に制御することが可能となる。
【0062】
また、前面側の液晶素子100aと背面側の液晶素子100bの応答速度に差を設けることにより、
図11に示すように、入射する光を二次元方向に走査することもできる。この場合、前面側の液晶素子100aによる配光角θ1と、背面側の液晶素子100bによる配光角θ2によって画定される範囲で光が走査される。例えば、前面側の液晶素子100aとしてセル厚10μmとしたもの(
図7に示す表の二段目参照)を用い、背面側の液晶素子100bとしてセル厚100μmのもの(
図9に示す表の三段目参照)を用い、液晶素子100aに印加する電圧を300ms周期で15V、0V、15V・・・と繰り返し変化させ、液晶素子100bに印加する電圧を5s周期で50V、0V、50V・・・と繰り返し変化させた場合には、配光角θ1=14.4°、配光角θ2=14.6°で光をスキャンすることができる。
【0063】
また、レーザ光を連続的に照射せずに間欠的に照射した場合には、各配光角θ1、θ2で画定される領域内の任意の位置にのみ光を照射することができる。さらに、各電極3a、3bのうち高電位側にする電極を交互に切り替えることで逆バイアスをかけてもよく、それにより応答速度を高速化することができる。
【0064】
(第3実施形態)
上記した第2実施形態と同様に2つの液晶素子を組み合わせ、さらに1/2波長板(λ/2板)を組み合わせることによっても、光の進行方向を二次元的に変化させることができる。以下、それを実現するための構成を説明する。なお、第1実施形態、第2実施形態と共通する構成については詳細な説明を省略する。
【0065】
図12は、第3実施形態の液晶素子の構成を示す模式的な平面図である。なお、本図では見やすさを考慮して各液晶素子の内部構造を省略している。
図12に示すように第3実施形態の液晶素子は、上記した第1実施形態におけるセル2に対応する液晶素子100bを2つ重ねて配置し、かつ両者間に1/2波長板200を配置したものである。なお、第1実施形態におけるセル1に対応する液晶素子100aを2つ用いて両者間に1/2波長板を配置してもよい。
【0066】
図12に示すように、各液晶素子100bは、互いのスリット部15(
図5(B)参照)の延在方向が略直交するようにして配置されている。詳細には、前面側の液晶素子100bは、そのスリット部15がy方向と略平行になるように配置されている。また、前面側の液晶素子100bは、液晶層8の配向方向(左右方向)とスリット部15の延在方向(上下方向)とが略直交するように設定されている。背面側の液晶素子100bは、そのスリット部15がx方向と略平行になるように配置されている。また、背面側の液晶素子100bは、液晶層8の配向方向(上下方向)とスリット部15の延在方向(左右方向)とが略直交するように設定されている。また、各液晶素子100bの間の1/2波長板200は、その光軸方向(図中、点線矢印で示す)が各スリット部15の延在方向(x方向、y方向)に対して45°の角度をなすようにして配置されている。
【0067】
前面側の液晶素子100bは、液晶層8の配向方向と光源102から出射するレーザ光の偏光方向が平行であるとすると(
図8参照)、入射したレーザ光の進行方向をx方向に沿って変化させる。このレーザ光は、1/2波長板200を通過することにより偏光方向が90°回転する。その結果、偏光方向はy方向に平行な方向となる。このレーザ光は、背面側の液晶素子100bに入射する。背面側の液晶素子100bは、液晶層8の配向方向とレーザ光の偏光方向が平行であるので、入射したレーザ光の進行方向をy方向に沿って変化させる。したがって、前面側の液晶素子100bによってx方向に沿った配光制御を行い、さらに背面側の液晶素子100bによってy方向に沿った配光制御を行うことができるので、最終的に背面側の液晶素子100bから出射する光の進行方向を二次元的に制御することが可能となる。この実施形態では、前面側の液晶素子100bからのレーザ光の出射先にある背面側の液晶素子100bのスリット部はx方向に略平行となるように配置されていることから、出射した光がx方向に振れても、その光を背面側の液晶素子100bのスリット部15へ入射させることができる。
【0068】
(第4実施形態)
上記した第1〜第3実施形態では、2つの電極間に高抵抗膜を設けた両電極間に連続的な電圧勾配を設けて液晶層8の配向状態を連続的に変化させていたが、2つの電極の一方を第1電極1側に設け、他方を第2電極2側に設けて斜め電界を発生させることによっても同様の動作を実現することができる。以下その場合の構成について説明する。
【0069】
図13は、第4実施形態の液晶素子の基本的な構成ならびに動作原理を説明するための模式的な断面図である。
図13(A)に示す液晶素子は、対向配置された2つの基板(透明基板)1、2の間に液晶層8が配置されている。そして、基板1は、その一面側に電極3aと配向膜5を有し、基板2は、その一面側に電極3bと配向膜7を有する。
【0070】
図示の例では、各配向膜5、7は、ラビング処理等の配向処理が施されており一方向への配向規制力を有する垂直配向膜である。また、液晶層8は、誘電率異方性が負の液晶材料を用いて構成されており、各配向膜5、7の配向規制力を受けて一方向(例えば図示の左右方向)へ配向し、電圧無印加時の配向(初期配向)が略垂直配向となっている。なお、原理的には、各配向膜5、7は、ラビング処理等の配向処理が施されており一方向への配向規制力を有する水平配向膜であってもよい。この場合、液晶層8は、誘電率異方性が正の液晶材料を用いて構成され、各配向膜5、7の配向規制力を受けて一方向(例えば図示の左右方向)へ配向し、電圧無印加時の配向(初期配向)が略水平配向とされる。
【0071】
図13(B)に示すように、例えば電極3a、3bの間に電位差が生じるように電圧を印加する。一例として、電極3aに15ボルト、電極3bに0ボルトを印加する。印加する電圧は、例えば100Hzの交流電圧とする。これにより、電極3aと電極3bの間に斜め電界が発生し、この斜め電界によって液晶層8の配向状態が連続的に変化する。
【0072】
このような状態の液晶素子に対して、レーザ光などの偏光を入射させる。例えば
図13(C)に示すように、各配向膜5、7への配向処理方向と偏光方向が平行な光BMを基板1の他面側から入射させる。すると、図示のように液晶層8の配向状態が連続的に変化し、液晶層8内部の位置によってリターデーションが異なる状態となるため、そこを通過する光BMの通過速度が領域によって異なることになる。このため、ホイヘンスの定理により、液晶層8を通過する光BMの進行方向が変化するものと考えられる。
【0073】
一例として、上記した第1実施形態におけるセル2と同様の条件でセル厚を100μm、配向条件をアンチパラレル配置とした液晶素子を作製し、その動作を確認した。駆動条件50ボルト、100Hzとした場合に、各電極3a、3b間の距離(平面視距離)が200μmの場合には配光角1.64°、動作速度5secという結果が得られ、各電極3a、3b間の距離が300μmの場合には配光角2.05°、動作速度5secという結果が得られた。各電極3a、3b間の距離を大きくするほど配光角が大きくなる傾向が見られた。
【0074】
以上のような各実施形態によれば、光の進行方向を自在に制御する際の精度を向上させることが可能になる。なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。