【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の安定な医薬製剤は、抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントおよび緩衝剤を含有する。該医薬製剤は、更に少なくとも1種の安定剤および任意に界面活性剤を含有する。
【0008】
本発明の医薬製剤において、抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、下記の配列または下記の配列に対し少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列から選択される1以上のCDR領域の配列を含んでいる:
抗体重鎖可変領域HCDR配列:配列番号1、配列番号2、配列番号3;および
抗体軽鎖可変領域LCDR配列:配列番号4、配列番号5、配列番号6。
【0009】
該アミノ酸配列を下記表に示す:
【0010】
配列相同性は、抗体の親和性または免疫原性または安定性または他の通常の物理および化学特性または生物活性を改善するための慣用的な方法から導いてもよい。
更に好ましい抗PD-1抗体は、配列番号7の重鎖アミノ酸配列および配列番号8の軽鎖アミノ酸配列を含む:
配列番号7
Evqlvesggglvqpggslrlscaasgftfssymmswvrqapgkglewvatisgggantyypdsvkgrftisrdnaknslylqmnslraedtavyycarqlyyfdywgqgttvtvssastkgpsvfplapcsrstsestaalgclvkdyfpepvtvswnsgaltsgvhtfpavlqssglyslssvvtvpssslgtktytcnvdhkpsntkvdkrveskygppcppcpapeflggpsvflfppkpkdtlmisrtpevtcvvvdvsqedpevqfnwyvdgvevhnaktkpreeqfnstyrvvsvltvlhqdwlngkeykckvsnkglpssiektiskakgqprepqvytlppsqeemtknqvsltclvkgfypsdiavewesngqpennykttppvldsdgsfflysrltvdksrwqegnvfscsvmhealhnhytqkslslslgk、
配列番号8
diqmtqspsslsasvgdrvtitclasqtigtwltwyqqkpgkapklliytatsladgvpsrfsgsgsgtdftltisslqpedfatyycqqvysipwtfgggtkveikrtvaapsvfifppsdeqlksgtasvvcllnnfypreakvqwkvdnalqsgnsqesvteqdskdstyslsstltlskadyekhkvyacevthqglsspvtksfnrgec。
【0011】
本発明の抗PD-1抗体の濃度は、1 mg/ml〜60 mg/ml、好ましくは20〜50 mg/ml、より好ましくは35〜45 mg/ml、最も好ましくは40 mg/mlである。
【0012】
本発明の緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩およびリン酸塩から成る群から選択される1以上であり、該リン酸塩はリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸二水素カリウムから成る群から選択され;好ましい緩衝剤は酢酸塩であり、その量は本発明の実施態様において特に限定されないが、例えば、1〜50 mM、好ましくは2〜20 mM、より好ましくは5〜15 mM、最も好ましくは10 mMである。
【0013】
本発明における製剤のpHは、4.5〜6.0、好ましくは4.8〜5.6の範囲、最も好ましくはpH 5.2である。
【0014】
本発明の少なくとも1種の安定剤は、好ましくは糖類またはアミノ酸から選択される。該糖類は、ショ糖、乳酸、トレハロースおよびマルトースから成る群から選択される二糖類であり、好ましくはトレハロース、最も好ましくはα,α-トレハロース二水和物である。使用する二糖類の量は、本発明の実施態様において特に限定されないが、例えば、30〜120 mg/ml、好ましくは60〜100 mg/ml、より好ましくは85〜95 mg/ml、最も好ましくは90 mg/mlである。
【0015】
本発明の界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択され、該ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルはポリソルベート20、40,60または80から選択してもよい。使用する界面活性剤の量は、本発明の実施態様において特に限定されないが、例えば、0.01〜1 mg/ml、好ましくは0.05〜0.5 mg/ml、より好ましくは0.1〜0.4 mg/ml、最も好ましくは0.2 mg/mlである。
【0016】
本発明の安定な医薬製剤は、注射用医薬製剤である。
【0017】
本発明の1つの実施態様において、安定化された医薬製剤は、抗PD-1抗体、緩衝剤、二糖類および界面活性剤から、任意に水を含んでなる。
【0018】
本発明の1つの実施態様において、安定化された医薬製剤は:
ヒト抗体が配列番号7の重鎖アミノ酸配列および配列番号8の軽鎖アミノ酸配列を含んでいる抗PD-1抗体;および
(i) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;または
(ii) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;または
(iii) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.4の20 mM酢酸緩衝剤;または
(iv) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.0の20 mM酢酸緩衝剤;または
(v) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.1 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.2の20 mM酢酸緩衝剤;または
(vi) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;または
(vii) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mlポリソルベート20およびpH 4.8の10 mM酢酸緩衝剤;または
(viii) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.2の30 mM酢酸緩衝剤;または
(ix) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.6の10 mM酢酸緩衝剤
を含有する。
【0019】
注射用医薬製剤は、注射剤の形態であるか、または更に凍結乾燥した形態で調製してもよい。凍結乾燥した粉末は、技術分野で慣用の方法によって製造できる。
【0020】
本発明は凍結乾燥した粉末の再溶解によって得られる注射剤もまた提供し、注射のために直接使用することができる。
【0021】
本発明の医薬製剤は、抗体の凝集やアミド分解を効果的に抑制することができ、それにより抗体製品の分解を防止し、25℃で6ヶ月間保存できて、2〜8℃で12ヶ月間安定である、安定な注射用組成物を得ることができる。更に、本発明の医薬組成物はタンパク質の酸化分解に対して保護効果を有し、ガラスやステンレス製の容器と適合性がよく、これらの容器内で安定に存在することができる。
【0022】
本発明の医薬製剤は、PD-1介在性の疾患または障害の予防または治療に用いられ、該疾患または障害は、好ましくは癌;より好ましくはPD-L1を発現する癌;最も好ましくは乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマから選択される癌;最も好ましくは非小細胞肺癌、メラノーマおよび腎臓癌である。
【0023】
PD-1介在性の疾患または障害の予防または治療のための薬物の製造における、本発明の医薬製剤の使用で、該疾患または障害は、好ましくは癌;より好ましくはPD-L1を発現する癌であり;該癌は、最も好ましくは乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマであり;最も好ましくは非小細胞肺癌、メラノーマおよび腎臓癌である。
【0024】
PD-1介在性の疾患または障害の予防または治療方法であって、該疾患または障害は、好ましくは癌;より好ましくはPD-L1を発現する癌であり;該癌は、最も好ましくは乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマ;最も好ましくは非小細胞肺癌、メラノーマおよび腎臓癌であり;該方法は本発明の医薬製剤を投与することを含む。
【0025】
用語
本発明は、PD-1に対する高濃度の抗体を含む安定な医薬液体製剤に関する。
本明細書において、「抗体」とは、免疫グロブリン、即ちジスルフィド結合で連結された2本の同一の重鎖と2本の同一の軽鎖によって形成された4つのペプチド鎖構造をいう。
本発明の抗体はマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体を含み、好ましくはヒト化抗体である。
【0026】
用語抗体(または単に「抗体フラグメント」)の「抗原結合フラグメント」とは、抗原(例、PD-1)に特異的に結合する能力を保持する抗体の1以上のフラグメントをいう。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントによって実現されることが判っている。抗原結合部分は、組換えDNA技術により、またはインタクトな免疫グロブリンの酵素的または化学的切断によって産生することができる。
【0027】
用語「CDR」とは、主として抗原結合に寄与する抗体の可変領域内にある6つの高頻度可変領域の1つをいう。6つのCDRに対する最も一般的に用いられる定義の1つがKabat E. A. らにより提供された((1991) Sequences of proteins of immunological interest. NIH Publication 91-324)。本明細書において、CDRのKabatの定義のみを、重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2およびHCDR3だけでなく、軽鎖可変領域のLCDRl、LCDR2およびLCDR3にも適用する。
【0028】
本発明において、本明細書でいう抗体軽鎖可変領域は、更にヒトまたはマウスのκ、λ鎖またはその変異体を含む軽鎖定常部を含んでいる。
【0029】
本発明において、本明細書でいう抗体重鎖可変領域は、更にヒトまたはマウスのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはその変異体を含む重鎖定常部を含んでいる。
【0030】
用語「キメラ抗体」は、マウス抗体の可変領域をヒト抗体の定常領域と融合させて形成された抗体であり、キメラ抗体はマウス抗体誘発の免疫応答を緩和することができる。キメラ抗体を確立するために、特異的なマウスモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマをまず確立する必要があり、可変領域遺伝子をマウスのハイブリドーマからクローン化し、次いで目的のヒト抗体の定常領域遺伝子をクローン化し、マウスの可変領域遺伝子をヒトの定常領域遺伝子に結合させ、発現キャリアに挿入できるキメラ遺伝子を形成して、最終的にキメラ抗体分子を真核生物または原核生物系で発現させる。
【0031】
用語「ヒト化抗体」は、CDR移植抗体としても知られるが、ヒト抗体可変領域フレームワーク中に移植されたマウスのCDR配列によって産生された抗体をいい、ヒト生殖系列抗体フレームワークの異なるタイプの配列を含んでいる。ヒト化抗体は、多数のマウス成分を保有するキメラ抗体によって誘発されるアロジェニック反応を回避する。そのようなフレームワーク配列は、生殖系列抗体遺伝子配列をカバーしている公的なDNAデータベースから入手できるか、または出版物から入手できる。
【0032】
用語「医薬製剤」とは、活性成分の明かに有効な生物活性を可能にし、製剤を投与する患者に毒性のある添加成分を含まないような形態にある製剤をいう。
【0033】
本発明の製剤と関連して本明細書で用いる用語「液体製剤」とは、大気圧下で少なくとも約2℃〜約8℃の温度で液体である製剤をいう。
【0034】
用語「安定剤」とは、活性医薬成分および/または製剤を製造、貯蔵および適用中の化学的および/または物理的分解から保護する薬剤的に許容される賦形剤をいう。タンパク質医薬品の化学的および物理的分解経路は、Cleland, J. L., M. F. Powell, et al. (1993)によりレビューされている。"The development of stable protein formulations: a close look at protein aggregation, deamidation, and oxidation"。Crit Rev Ther Drug Carrier Syst 10(4): 307-77, Wang, W. (1999)。"Instability, stabilization, and formulation of liquid protein pharmaceuticals"。Int J Pharm 185(2): 129-88., Wang, W. (2000)。"Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals"。Int J Pharm 203(1-2): 1-60. and Chi, E. Y.,. S. Krishnan, et al. (2003)。"Physical stability of proteins in aqueous solution: mechanism and driving forces in nonnative protein aggregation"。Pharm Res 20(9): 1325-36。安定剤としては、これらに限定されないが、糖類、アミノ酸、ポリオール、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール(例、PEG3000, 3350, 4000, 6000)、アルブミン(例、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA))、塩(例、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム)、後述のキレート剤(例、EDTA)が挙げられる。本発明で具体的に使用される安定剤は糖類から選択される。より具体的には、安定剤はショ糖、トレハロースおよびソルビトールから選択される。安定剤は30 mg/ml〜100 mg/ml、好ましくは60 mg/ml〜90 mg/mlの量で製剤中に存在してもよい。より具体的には、ショ糖またはトレハロースが90 mg/mlの量で安定剤として用いられた。
【0035】
「安定な」製剤とは、その中にあるタンパク質、例えば抗体が貯蔵中その物理的および化学的安定性、従ってその生物活性を本質的に保持しているものをいう。
【0036】
「安定な液体医薬抗体製剤」とは、冷蔵温度(2〜8℃)で少なくとも12ヶ月、特に2年、更に特に3年の間の観察で重大な変化が見られない液体の抗体製剤をいう。安定に対する判断基準は、次の通り:サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)で測定したときに抗体モノマーの10%、特に5%以下が分解していることである。更に、溶液が、目視分析で無色または透明〜僅かに乳白色である。製剤のタンパク質濃度は、+/- 10%以下の変化を有する。10%、特に5%以下の凝集が生成する。安定性は、UVスペクトル、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー(IE-HPLC)、比濁法および目視検査等の技術分野で公知の方法により測定する。
【0037】
用語「Programmed Death 1」、「Programmed Cell Death 1」、「タンパク質PD-1」、「PD-1」、「PDl」、「PDCDl」、「hPD-1」および「hPD-F」は互換的に用い、ヒトPD-1の変異体、アイソフォーム、種同族体およびPD-1と少なくとも1つの共通のエピトープを有する類縁体が含まれる。完全なPD-1配列は、NCBI Reference Sequence: NM_005018.1で見ることができる。
【0038】
用語「抗PD-1抗体」、「PD-1に対する抗体」および「抗PD-1抗体」とは、抗体がPD-1を標的にするのに診断および/または治療剤として有用であるほど、十分な親和性を持ってPD-1に結合することができる抗体をいう。本明細書において用語「PD-1への結合」は、BIAcoreアッセイ(Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden)においてまたは精製されたPD-1またはPD-1 CHO形質移入体がマイクロタイタープレートにコーティングされているELISAにおいて抗体がPD-1に結合することを意味する。
【0039】
医薬製剤に含有されているPD-1に対する抗体の濃度は、1 mg/ml〜60 mg/mlの範囲、特に20 mg/ml〜50 mg/mlの範囲に、最も好ましくは40 mg/mlである。
【0040】
本明細書において用語「界面活性剤」は、撹拌や剪断等の機械的ストレスに対してタンパク質製剤を保護するために用いる薬剤的に許容される賦形剤をいう。薬剤的に許容される界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレン アルキル エーテル(例えば、登録商標Brij
TMの下で市販で得られるもの)およびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(Poloxamer, Pluronic)が挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン-脂肪酸エステルの例は、ポリソルベート20(登録商標Tween 20
TMの下で市販で得られる)およびポリソルベート80(登録商標Tween 80
TMの下で市販で得られる)である。
【0041】
本明細書において用語「緩衝剤」は、医薬製剤のpHを安定化する薬剤的に許容される賦形剤をいう。適切な緩衝剤は技術分野で公知であり、文献で見ることもできる。好ましい薬剤的に許容される緩衝剤は、限定されないが、ヒスチジン緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液、アルギニン緩衝液、リン酸緩衝液またはそれらの混合物が挙げられる。特に関心のある緩衝剤は、技術分野で公知の酸や塩基でpH調節したクエン酸緩衝液または酢酸緩衝液から選択される。前述の緩衝剤は、一般には約1 mM〜50 mM、好ましくは約10 mM〜30 mM、より好ましくは約10 mMの量で用いられる。用いた緩衝剤とは独立して、pHは技術分野で公知の酸や塩基、例えは塩酸、酢酸、リン酸、硫酸およびクエン酸、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムで4.5〜6.0の範囲の値に、特に4.8〜5.6の範囲の値に、最も好ましくはpH 5.2に調整することができる。
【0042】
いくつかの実施態様において、本発明の安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は第2の安定剤として抗酸化剤を含有する。「抗酸化剤」は薬剤的に許容される賦形剤であり、活性な医薬成分の酸化を防止する。抗酸化剤としては、限定されないが、EDTA、クエン酸、アスコルビン酸、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、亜硫酸ナトリウム、p-アミノ安息香酸、グルタチオン、没食子酸プロピル、システイン、メチオニン、エタノール、ベンジルアルコールおよびn-アセチルシステインが挙げられる。
【0043】
本明細書において用語「糖類」とは、単糖類またはオリゴ糖をいう。単糖類は、単一の糖およびその誘導体、例えば、アミノ糖等の酸によって加水分解されない単量体の糖である。単糖類の例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、リボース、デオキシリボース、ノイラミン酸が挙げられる。オリゴ糖は、分岐してまたは鎖状で、グリコシド結合を介して結合した1以上の単量体の糖単位からなる糖である。オリゴ糖内の単量体の糖単位は、同一でも異なっていてもよい。単量体の糖単位の数により、オリゴ糖は、二糖、三糖、四糖、五糖等である。多糖類と対照的に、単糖やオリゴ糖は、水溶性である。オリゴ糖の例としては、ショ糖、トレハロース、乳糖、マルトースおよびラフィノースが挙げられる。特に、糖類はショ糖およびトレハロースから選択される。
【0044】
本明細書において用語「アミノ酸」は、カルボキシル基のα-位に位置するアミノ成分を有する薬剤的に許容される有機分子をいう。アミノ酸の例としては、アルギニン、グリシン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、プロリンが挙げられる。アミノ酸は、約5〜500 mMの量で、特に約5〜約200 mMの量で、更に特に約100〜約150 mMの量で一般的に用いられる。
【0045】
用語「安定剤」は、また、凍結乾燥保護剤を含む。用語「凍結乾燥保護剤」とは、不安定な活性成分(例、タンパク質)を、凍結乾燥過程、それに続く保存および再溶解液中の不安定化状態に対して保護する薬剤的に許容される賦形剤をいう。凍結乾燥保護剤としては、限定されないが、糖類、ポリオール類(例えば、糖アルコール等)およびアミノ酸類から成る群を含む。特に、凍結乾燥保護剤は、限定されないが、ショ糖、トレハロース、乳糖、グルコース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラフィノース、ノイラミン酸等の糖類、グルコサミン、ガラクトサミン、N-メチルグルコサミン(“メグルミン”)等のアミノ糖、マンニトールおよびソルビトール等のポリオール類およびアルギニンおよびグリシン等のアミノ酸類またはそれらの混合物から成る群から選択される。凍結保護物質は、好ましくは二糖である。本発明では、驚くべきことに、二糖類は単糖類、ポリオール類およびアミノ酸類のものより製剤の安定性により良い効果を示すことが判った。
【0046】
医薬製剤は、また、等張化剤を含んでもよい。本明細書において用語「等張化剤」とは、製剤の浸透圧を調節するために用いられる薬剤的に許容される等張化剤をいう。製剤は、低浸透圧性、等張性または高浸透圧性である。一般に等張性は、通常ヒト血清のものに対する、溶液の相対的浸透圧に関する。本発明による製剤は、低浸透圧性、等張または高浸透圧性であるが、好ましくは等張である。等張の製剤は、液体または固体形態から(例、凍結乾燥形態から)元に戻した液体であって、比較される生理食塩水や血清等の他の溶液の浸透圧と同じ浸透圧を有する溶液を指す。適切な等張化剤は、限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリンおよびアミノ酸類、糖類、特にグルコースから成る群から選択される何れかの成分が含まれる。等張化剤は、通常約5 mM〜約500 mMの量で用いられる。安定剤と等張化剤については、安定剤と等張化剤の両者として同時に機能する化合物群がある。それらの例は、糖類、アミノ酸類、ポリオール類、シクロデキストリン類、ポリエチレングリコール類および塩類の群に見られる。安定剤と等張化剤の両者として機能する糖類の例は、トレハロースである。
【0047】
医薬製剤は、また、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤を含んでもよい。微生物の存在の防止は、滅菌処理と例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等の種々の抗菌剤および抗真菌剤の包含の両者によって確実にすることができる。保存剤は、通常約0.001〜約2% (w/v) の量で用いられる。保存剤は、限定されないが、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、メチルまたはプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムが含まれる。
【0048】
本発明の安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は、PD-1介在性疾患または障害の予防または治療に用いることができ、該疾患または障害は、好ましくは癌;より好ましくはPD-L1発現癌であり;該疾患または障害は、最も好ましくは乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマ;最も好ましくは非小細胞肺癌、メラノーマおよび腎臓癌である。
【0049】
本発明による安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は、医薬品分野で知られているような静脈内 (i.v.)、皮下 (s.c.)または他の非経口投与手段により投与することができる。
【0050】
それらの高い安定性に鑑みて、本発明による医薬製剤は、インラインフィルターの必要なくi.v. 投与することができ、従ってインラインフィルターを経て投与する必要のある従来の製剤よりはるかに扱い易い。Sterifix(登録商標)等のインラインフィルターは、i.v. 溶液やライン内に存在する可能性のある何らかの粒子、空気、または微生物を防徐するためにi.v. 薬物の注入ラインに設置する必要がある。5〜20ミクロンまたはより大きなサイズの粒子は、肺塞栓症等の合併症を導く可能性のある、肺毛細血管を通る血流を閉塞させる可能性を有している。異物粒子は注射部位で静脈炎を起こすこともあり、ろ過は静脈炎の発生率を減らすことを助ける。
【0051】
in vivo投与に用いる安定な製剤は、無菌でなければならない。これは、無菌のろ過膜を通すろ過により容易に達成できる。
【0052】
本発明による安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は、例えば限外ろ過‐ダイアフィルトレーション、透析、添加および混合、凍結乾燥、再溶解およびそれらの組合せ等の技術分野で公知の方法により製造することができる。本発明による製剤の製造例は、以下で見られる。
【0053】
本発明による安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は、凍結乾燥した形態であっても、凍結乾燥した形態から元に戻した液体形態であってもよい。「凍結乾燥した形態」は、技術分野で公知の凍結乾燥方法によって製造される。凍結乾燥物は、通常、約0.1〜5% (w/w)の残留水分含量を有していて、粉末または物理的に安定なケーキとして存在している。「元に戻した形態」は、凍結乾燥物から元に戻す媒体の添加後に急速溶解することによって得られる。適当な再溶解媒体としては、限定されないが、注射用水(WFI)、注射用静菌性水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液 (例、0.9% (w/v) NaCl)、グルコース溶液 (例、5% (w/v) グルコース)、界面活性剤含有溶液 (例、0.01% (w/v) ポリソルベート20) およびpH緩衝溶液 (例、リン酸緩衝溶液)を含む。