特許第6921062号(P6921062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スーヂョウ サンケイディア バイオファーマスーティカルズ カンパニー リミテッドの特許一覧 ▶ ジエンス ヘンルイ メデイシンカンパニー リミテッドの特許一覧 ▶ シャンハイ ヘンルイ ファーマスーティカル カンパニー リミテッドの特許一覧

特許6921062安定な抗PD−1抗体医薬製剤および医薬におけるその適用
<>
  • 特許6921062-安定な抗PD−1抗体医薬製剤および医薬におけるその適用 図000009
  • 特許6921062-安定な抗PD−1抗体医薬製剤および医薬におけるその適用 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6921062
(24)【登録日】2021年7月29日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】安定な抗PD−1抗体医薬製剤および医薬におけるその適用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20210805BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210805BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210805BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210805BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20210805BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210805BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   A61K39/395 MZNA
   A61K39/395 N
   A61K39/395 T
   A61K47/12
   A61K47/26
   A61K9/08
   A61K9/19
   A61P35/00
   C07K16/28
【請求項の数】26
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-515764(P2018-515764)
(86)(22)【出願日】2016年9月14日
(65)【公表番号】特表2018-532730(P2018-532730A)
(43)【公表日】2018年11月8日
(86)【国際出願番号】CN2016098982
(87)【国際公開番号】WO2017054646
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年6月20日
(31)【優先権主張番号】201510629020.X
(32)【優先日】2015年9月28日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518095356
【氏名又は名称】スーヂョウ サンケイディア バイオファーマスーティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】特許業務法人謝国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100153394
【弁理士】
【氏名又は名称】謝 卓峰
(74)【代理人】
【識別番号】100116311
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100145056
【弁理士】
【氏名又は名称】當別當 健司
(73)【特許権者】
【識別番号】510166892
【氏名又は名称】ジエンス ヘンルイ メデイシンカンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU HENGRUI MEDICINE CO.,LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】508209602
【氏名又は名称】シャンハイ ヘンルイ ファーマスーティカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI HENGRUI PHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100153394
【弁理士】
【氏名又は名称】謝 卓峰
(74)【代理人】
【識別番号】100116311
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100145056
【弁理士】
【氏名又は名称】當別當 健司
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ジェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ピンピン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】タオ、ウェイカン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、リエンシャン
(72)【発明者】
【氏名】スン、ピアオヤン
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−515017(JP,A)
【文献】 特表2013−521768(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/085847(WO,A1)
【文献】 特表平03−504605(JP,A)
【文献】 特表2010−531340(JP,A)
【文献】 特表2013−515754(JP,A)
【文献】 特開2013−224305(JP,A)
【文献】 J. Pharm. Sci. (2007), 96, p.1-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
A61K 47/00−47/69
A61K 9/08
A61P 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定な抗PD-1抗体医薬製剤であって、
1mg/ml〜60mg/mlの抗PD-1抗体、
30mg/ml〜120mg/mlのα,α-トレハロース二水和物、
0.01mg/ml〜1mg/mlのポリソルベート20、および
2mM〜30mMの酢酸塩緩衝剤を含み、
ここで、該製剤のpHが、4.5〜6.0であり、
抗PD-1抗体が、配列番号7の重鎖アミノ酸配列および配列番号8の軽鎖アミノ酸配列を含む、医薬製剤。
【請求項2】
抗PD-1抗体の濃度が、35mg/ml〜45mg/mlである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
抗PD-1抗体の濃度が、40mg/mlである、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
緩衝剤の濃度が、5mM〜15mMである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
緩衝剤の濃度が、10 mMである、請求項4に記載の医薬製剤。
【請求項6】
製剤のpHが、4.8〜5.6である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
製剤のpHが、5.2である、請求項6に記載の医薬製剤。
【請求項8】
α,α-トレハロース二水和物の濃度が、85mg/ml〜95 mg/mlである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
α,α-トレハロース二水和物の濃度が、90mg/mlである、請求項8に記載の医薬製剤。
【請求項10】
ポリソルベート20の濃度が、0.1mg/ml〜0.4mg/mlである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
ポリソルベート20の濃度が、0.2mg/mlである、請求項10に記載の医薬製剤。
【請求項12】
配列番号7の重鎖アミノ酸配列および配列番号8の軽鎖アミノ酸配列を含む抗PD-1抗体;および
(i) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物およびpH 5.2の10 mM 酢酸塩緩衝剤;または
(ii) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/ml ポリソルベート20およびpH5.2の10 mM 酢酸塩緩衝剤;または
(iii) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/ml ポリソルベート20およびpH5.4の20 mM 酢酸塩緩衝剤;または
(iv) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/ml ポリソルベート20およびpH5.0の20 mM 酢酸塩緩衝剤;または
(v) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.1 mg/ml ポリソルベート20およびpH 5.2の20 mM 酢酸塩緩衝剤;または
(vi) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/ml ポリソルベート20およびpH5.2の10 mM 酢酸塩緩衝剤;または
(vii) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/ml ポリソルベート20およびpH4.8の10 mM 酢酸塩緩衝剤;または
(viii) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/ml ポリソルベート20およびpH 5.2の30 mM 酢酸塩緩衝剤;または
(ix) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/ml ポリソルベート20およびpH5.6の10 mM 酢酸塩緩衝剤
を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
40mg/mlの抗PD-1抗体、
90mg/mlのα,α-トレハロース二水和物、
0.2mg/mlのポリソルベート20、および
10mMの酢酸塩緩衝剤を含み、
ここで、製剤のpHが、5.2であり、
抗PD-1抗体が、配列番号7の重鎖アミノ酸配列および配列番号8の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項14】
医薬製剤が、注射用水を更に含む注射用医薬製剤である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の安定な抗PD-1抗体医薬製剤。
【請求項15】
請求項14に記載の医薬製剤の凍結乾燥形態である、凍結乾燥粉末。
【請求項16】
請求項15に記載の凍結乾燥粉末の注射形態である、注射剤。
【請求項17】
PD-1介在性の疾患または障害の予防または治療のための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の安定な抗PD-1抗体医薬製剤、請求項15に記載の凍結乾燥粉末、または請求項16に記載の注射剤。
【請求項18】
PD-1介在性の疾患または障害が癌である、請求項17に記載の安定な抗PD-1抗体医薬製剤、凍結乾燥粉末、または注射剤
【請求項19】
PD-1介在性の疾患または障害がPD-L1を発現する癌である、請求項17に記載の安定な抗PD-1抗体医薬製剤、凍結乾燥粉末、または注射剤
【請求項20】
PD-1介在性の疾患または障害が乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、またはメラノーマである、請求項17に記載の安定な抗PD-1抗体医薬製剤、凍結乾燥粉末、または注射剤
【請求項21】
PD-1介在性の疾患または障害が非小細胞肺癌、メラノーマ、または腎臓癌である、請求項17に記載の安定な抗PD-1抗体医薬製剤、凍結乾燥粉末、または注射剤
【請求項22】
PD-1介在性の疾患または障害の予防または治療用の薬物の製造のための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の安定な抗PD-1抗体医薬製剤、請求項15に記載の凍結乾燥粉末、または請求項16に記載の注射剤の使用。
【請求項23】
PD-1介在性の疾患または障害が癌である、請求項2に記載の使用。
【請求項24】
癌がPD-L1を発現する癌である、請求項2に記載の使用。
【請求項25】
癌が乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、またはメラノーマである、請求項2に記載の使用。
【請求項26】
癌が非小細胞肺癌、メラノーマ、または腎臓癌である、請求項2に記載の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントを含有する医薬製剤、該製剤の製造方法および該製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍免疫逃避機構と腫瘍に対する体の免疫応答の間には非常に複雑な関係がある。癌免疫療法の初期段階において、腫瘍特異的キラーT細胞が生物活性を有しているが、腫瘍増殖の後期の段階で殺能力を失う。腫瘍に対する患者自身の免疫系応答を最大限に高めるために、腫瘍免疫療法のキーとなるのは存在する免疫系応答を活性化するのみならず、免疫系応答の持続と強度を維持することである。
【0003】
1992年に見つかったProgrammed death-1(PD-1)は、T細胞表面に発現するタンパク質受容体であり、細胞のアポトーシスに関与している。PD-1は、CD28ファミリーに属し、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)と23%のアミノ酸相同性を示す;CTLA4と異なり、PD-1は主として活性化したT細胞、B細胞および骨髄系細胞に発現する。PD-1は2つのリガンド、それぞれPD-L1およびPD-L2を有している。新しい研究では乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマ等のヒトの腫瘍組織でPD-L1タンパク質の高い発現を検出し、PD-L1の発現レベルは患者の臨床上の応答と予後に密接に関連している。PD-L1は第2のシグナル経路におけるT細胞の増殖を阻害するため、PD-L1は、PD-1のPD-L1への結合をブロックすることによる癌免疫療法の分野での非常に有望な新しいターゲットとなっている。
【0004】
特許文献1は、高い親和性と長い半減期を特徴とする、新規な抗PD-1抗体を開示しており、上述の疾患に対しより良い治療効果を有することが期待されている。しかしながら、これらの新しい抗PD-1抗体は非常に不安定で、臨床的に使用できる製剤の形に製剤化することが困難である。それらをどのように製剤化するかを開示するPCT出願もない。それ故、安定で便利な臨床使用のための製剤を得るために、これらの抗体の徹底的な研究を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2015/085847
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安定な抗PD-1抗体の製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の安定な医薬製剤は、抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントおよび緩衝剤を含有する。該医薬製剤は、更に少なくとも1種の安定剤および任意に界面活性剤を含有する。
【0008】
本発明の医薬製剤において、抗PD-1抗体またはその抗原結合フラグメントは、下記の配列または下記の配列に対し少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列から選択される1以上のCDR領域の配列を含んでいる:
抗体重鎖可変領域HCDR配列:配列番号1、配列番号2、配列番号3;および
抗体軽鎖可変領域LCDR配列:配列番号4、配列番号5、配列番号6。
【0009】
該アミノ酸配列を下記表に示す:
【0010】
配列相同性は、抗体の親和性または免疫原性または安定性または他の通常の物理および化学特性または生物活性を改善するための慣用的な方法から導いてもよい。
更に好ましい抗PD-1抗体は、配列番号7の重鎖アミノ酸配列および配列番号8の軽鎖アミノ酸配列を含む:
配列番号7
Evqlvesggglvqpggslrlscaasgftfssymmswvrqapgkglewvatisgggantyypdsvkgrftisrdnaknslylqmnslraedtavyycarqlyyfdywgqgttvtvssastkgpsvfplapcsrstsestaalgclvkdyfpepvtvswnsgaltsgvhtfpavlqssglyslssvvtvpssslgtktytcnvdhkpsntkvdkrveskygppcppcpapeflggpsvflfppkpkdtlmisrtpevtcvvvdvsqedpevqfnwyvdgvevhnaktkpreeqfnstyrvvsvltvlhqdwlngkeykckvsnkglpssiektiskakgqprepqvytlppsqeemtknqvsltclvkgfypsdiavewesngqpennykttppvldsdgsfflysrltvdksrwqegnvfscsvmhealhnhytqkslslslgk、
配列番号8
diqmtqspsslsasvgdrvtitclasqtigtwltwyqqkpgkapklliytatsladgvpsrfsgsgsgtdftltisslqpedfatyycqqvysipwtfgggtkveikrtvaapsvfifppsdeqlksgtasvvcllnnfypreakvqwkvdnalqsgnsqesvteqdskdstyslsstltlskadyekhkvyacevthqglsspvtksfnrgec。
【0011】
本発明の抗PD-1抗体の濃度は、1 mg/ml〜60 mg/ml、好ましくは20〜50 mg/ml、より好ましくは35〜45 mg/ml、最も好ましくは40 mg/mlである。
【0012】
本発明の緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩およびリン酸塩から成る群から選択される1以上であり、該リン酸塩はリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸二水素カリウムから成る群から選択され;好ましい緩衝剤は酢酸塩であり、その量は本発明の実施態様において特に限定されないが、例えば、1〜50 mM、好ましくは2〜20 mM、より好ましくは5〜15 mM、最も好ましくは10 mMである。
【0013】
本発明における製剤のpHは、4.5〜6.0、好ましくは4.8〜5.6の範囲、最も好ましくはpH 5.2である。
【0014】
本発明の少なくとも1種の安定剤は、好ましくは糖類またはアミノ酸から選択される。該糖類は、ショ糖、乳酸、トレハロースおよびマルトースから成る群から選択される二糖類であり、好ましくはトレハロース、最も好ましくはα,α-トレハロース二水和物である。使用する二糖類の量は、本発明の実施態様において特に限定されないが、例えば、30〜120 mg/ml、好ましくは60〜100 mg/ml、より好ましくは85〜95 mg/ml、最も好ましくは90 mg/mlである。
【0015】
本発明の界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択され、該ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルはポリソルベート20、40,60または80から選択してもよい。使用する界面活性剤の量は、本発明の実施態様において特に限定されないが、例えば、0.01〜1 mg/ml、好ましくは0.05〜0.5 mg/ml、より好ましくは0.1〜0.4 mg/ml、最も好ましくは0.2 mg/mlである。
【0016】
本発明の安定な医薬製剤は、注射用医薬製剤である。
【0017】
本発明の1つの実施態様において、安定化された医薬製剤は、抗PD-1抗体、緩衝剤、二糖類および界面活性剤から、任意に水を含んでなる。
【0018】
本発明の1つの実施態様において、安定化された医薬製剤は:
ヒト抗体が配列番号7の重鎖アミノ酸配列および配列番号8の軽鎖アミノ酸配列を含んでいる抗PD-1抗体;および
(i) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;または
(ii) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;または
(iii) 90 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.4の20 mM酢酸緩衝剤;または
(iv) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.0の20 mM酢酸緩衝剤;または
(v) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.1 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.2の20 mM酢酸緩衝剤;または
(vi) 60 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;または
(vii) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mlポリソルベート20およびpH 4.8の10 mM酢酸緩衝剤;または
(viii) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.2の30 mM酢酸緩衝剤;または
(ix) 30 mg/ml α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mlポリソルベート20およびpH 5.6の10 mM酢酸緩衝剤
を含有する。
【0019】
注射用医薬製剤は、注射剤の形態であるか、または更に凍結乾燥した形態で調製してもよい。凍結乾燥した粉末は、技術分野で慣用の方法によって製造できる。
【0020】
本発明は凍結乾燥した粉末の再溶解によって得られる注射剤もまた提供し、注射のために直接使用することができる。
【0021】
本発明の医薬製剤は、抗体の凝集やアミド分解を効果的に抑制することができ、それにより抗体製品の分解を防止し、25℃で6ヶ月間保存できて、2〜8℃で12ヶ月間安定である、安定な注射用組成物を得ることができる。更に、本発明の医薬組成物はタンパク質の酸化分解に対して保護効果を有し、ガラスやステンレス製の容器と適合性がよく、これらの容器内で安定に存在することができる。
【0022】
本発明の医薬製剤は、PD-1介在性の疾患または障害の予防または治療に用いられ、該疾患または障害は、好ましくは癌;より好ましくはPD-L1を発現する癌;最も好ましくは乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマから選択される癌;最も好ましくは非小細胞肺癌、メラノーマおよび腎臓癌である。
【0023】
PD-1介在性の疾患または障害の予防または治療のための薬物の製造における、本発明の医薬製剤の使用で、該疾患または障害は、好ましくは癌;より好ましくはPD-L1を発現する癌であり;該癌は、最も好ましくは乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマであり;最も好ましくは非小細胞肺癌、メラノーマおよび腎臓癌である。
【0024】
PD-1介在性の疾患または障害の予防または治療方法であって、該疾患または障害は、好ましくは癌;より好ましくはPD-L1を発現する癌であり;該癌は、最も好ましくは乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマ;最も好ましくは非小細胞肺癌、メラノーマおよび腎臓癌であり;該方法は本発明の医薬製剤を投与することを含む。
【0025】
用語
本発明は、PD-1に対する高濃度の抗体を含む安定な医薬液体製剤に関する。
本明細書において、「抗体」とは、免疫グロブリン、即ちジスルフィド結合で連結された2本の同一の重鎖と2本の同一の軽鎖によって形成された4つのペプチド鎖構造をいう。
本発明の抗体はマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体を含み、好ましくはヒト化抗体である。
【0026】
用語抗体(または単に「抗体フラグメント」)の「抗原結合フラグメント」とは、抗原(例、PD-1)に特異的に結合する能力を保持する抗体の1以上のフラグメントをいう。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントによって実現されることが判っている。抗原結合部分は、組換えDNA技術により、またはインタクトな免疫グロブリンの酵素的または化学的切断によって産生することができる。
【0027】
用語「CDR」とは、主として抗原結合に寄与する抗体の可変領域内にある6つの高頻度可変領域の1つをいう。6つのCDRに対する最も一般的に用いられる定義の1つがKabat E. A. らにより提供された((1991) Sequences of proteins of immunological interest. NIH Publication 91-324)。本明細書において、CDRのKabatの定義のみを、重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2およびHCDR3だけでなく、軽鎖可変領域のLCDRl、LCDR2およびLCDR3にも適用する。
【0028】
本発明において、本明細書でいう抗体軽鎖可変領域は、更にヒトまたはマウスのκ、λ鎖またはその変異体を含む軽鎖定常部を含んでいる。
【0029】
本発明において、本明細書でいう抗体重鎖可変領域は、更にヒトまたはマウスのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはその変異体を含む重鎖定常部を含んでいる。
【0030】
用語「キメラ抗体」は、マウス抗体の可変領域をヒト抗体の定常領域と融合させて形成された抗体であり、キメラ抗体はマウス抗体誘発の免疫応答を緩和することができる。キメラ抗体を確立するために、特異的なマウスモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマをまず確立する必要があり、可変領域遺伝子をマウスのハイブリドーマからクローン化し、次いで目的のヒト抗体の定常領域遺伝子をクローン化し、マウスの可変領域遺伝子をヒトの定常領域遺伝子に結合させ、発現キャリアに挿入できるキメラ遺伝子を形成して、最終的にキメラ抗体分子を真核生物または原核生物系で発現させる。
【0031】
用語「ヒト化抗体」は、CDR移植抗体としても知られるが、ヒト抗体可変領域フレームワーク中に移植されたマウスのCDR配列によって産生された抗体をいい、ヒト生殖系列抗体フレームワークの異なるタイプの配列を含んでいる。ヒト化抗体は、多数のマウス成分を保有するキメラ抗体によって誘発されるアロジェニック反応を回避する。そのようなフレームワーク配列は、生殖系列抗体遺伝子配列をカバーしている公的なDNAデータベースから入手できるか、または出版物から入手できる。
【0032】
用語「医薬製剤」とは、活性成分の明かに有効な生物活性を可能にし、製剤を投与する患者に毒性のある添加成分を含まないような形態にある製剤をいう。
【0033】
本発明の製剤と関連して本明細書で用いる用語「液体製剤」とは、大気圧下で少なくとも約2℃〜約8℃の温度で液体である製剤をいう。
【0034】
用語「安定剤」とは、活性医薬成分および/または製剤を製造、貯蔵および適用中の化学的および/または物理的分解から保護する薬剤的に許容される賦形剤をいう。タンパク質医薬品の化学的および物理的分解経路は、Cleland, J. L., M. F. Powell, et al. (1993)によりレビューされている。"The development of stable protein formulations: a close look at protein aggregation, deamidation, and oxidation"。Crit Rev Ther Drug Carrier Syst 10(4): 307-77, Wang, W. (1999)。"Instability, stabilization, and formulation of liquid protein pharmaceuticals"。Int J Pharm 185(2): 129-88., Wang, W. (2000)。"Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals"。Int J Pharm 203(1-2): 1-60. and Chi, E. Y.,. S. Krishnan, et al. (2003)。"Physical stability of proteins in aqueous solution: mechanism and driving forces in nonnative protein aggregation"。Pharm Res 20(9): 1325-36。安定剤としては、これらに限定されないが、糖類、アミノ酸、ポリオール、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール(例、PEG3000, 3350, 4000, 6000)、アルブミン(例、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA))、塩(例、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム)、後述のキレート剤(例、EDTA)が挙げられる。本発明で具体的に使用される安定剤は糖類から選択される。より具体的には、安定剤はショ糖、トレハロースおよびソルビトールから選択される。安定剤は30 mg/ml〜100 mg/ml、好ましくは60 mg/ml〜90 mg/mlの量で製剤中に存在してもよい。より具体的には、ショ糖またはトレハロースが90 mg/mlの量で安定剤として用いられた。
【0035】
「安定な」製剤とは、その中にあるタンパク質、例えば抗体が貯蔵中その物理的および化学的安定性、従ってその生物活性を本質的に保持しているものをいう。
【0036】
「安定な液体医薬抗体製剤」とは、冷蔵温度(2〜8℃)で少なくとも12ヶ月、特に2年、更に特に3年の間の観察で重大な変化が見られない液体の抗体製剤をいう。安定に対する判断基準は、次の通り:サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)で測定したときに抗体モノマーの10%、特に5%以下が分解していることである。更に、溶液が、目視分析で無色または透明〜僅かに乳白色である。製剤のタンパク質濃度は、+/- 10%以下の変化を有する。10%、特に5%以下の凝集が生成する。安定性は、UVスペクトル、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー(IE-HPLC)、比濁法および目視検査等の技術分野で公知の方法により測定する。
【0037】
用語「Programmed Death 1」、「Programmed Cell Death 1」、「タンパク質PD-1」、「PD-1」、「PDl」、「PDCDl」、「hPD-1」および「hPD-F」は互換的に用い、ヒトPD-1の変異体、アイソフォーム、種同族体およびPD-1と少なくとも1つの共通のエピトープを有する類縁体が含まれる。完全なPD-1配列は、NCBI Reference Sequence: NM_005018.1で見ることができる。
【0038】
用語「抗PD-1抗体」、「PD-1に対する抗体」および「抗PD-1抗体」とは、抗体がPD-1を標的にするのに診断および/または治療剤として有用であるほど、十分な親和性を持ってPD-1に結合することができる抗体をいう。本明細書において用語「PD-1への結合」は、BIAcoreアッセイ(Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden)においてまたは精製されたPD-1またはPD-1 CHO形質移入体がマイクロタイタープレートにコーティングされているELISAにおいて抗体がPD-1に結合することを意味する。
【0039】
医薬製剤に含有されているPD-1に対する抗体の濃度は、1 mg/ml〜60 mg/mlの範囲、特に20 mg/ml〜50 mg/mlの範囲に、最も好ましくは40 mg/mlである。
【0040】
本明細書において用語「界面活性剤」は、撹拌や剪断等の機械的ストレスに対してタンパク質製剤を保護するために用いる薬剤的に許容される賦形剤をいう。薬剤的に許容される界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレン アルキル エーテル(例えば、登録商標BrijTMの下で市販で得られるもの)およびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(Poloxamer, Pluronic)が挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン-脂肪酸エステルの例は、ポリソルベート20(登録商標Tween 20TMの下で市販で得られる)およびポリソルベート80(登録商標Tween 80TMの下で市販で得られる)である。
【0041】
本明細書において用語「緩衝剤」は、医薬製剤のpHを安定化する薬剤的に許容される賦形剤をいう。適切な緩衝剤は技術分野で公知であり、文献で見ることもできる。好ましい薬剤的に許容される緩衝剤は、限定されないが、ヒスチジン緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液、アルギニン緩衝液、リン酸緩衝液またはそれらの混合物が挙げられる。特に関心のある緩衝剤は、技術分野で公知の酸や塩基でpH調節したクエン酸緩衝液または酢酸緩衝液から選択される。前述の緩衝剤は、一般には約1 mM〜50 mM、好ましくは約10 mM〜30 mM、より好ましくは約10 mMの量で用いられる。用いた緩衝剤とは独立して、pHは技術分野で公知の酸や塩基、例えは塩酸、酢酸、リン酸、硫酸およびクエン酸、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムで4.5〜6.0の範囲の値に、特に4.8〜5.6の範囲の値に、最も好ましくはpH 5.2に調整することができる。
【0042】
いくつかの実施態様において、本発明の安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は第2の安定剤として抗酸化剤を含有する。「抗酸化剤」は薬剤的に許容される賦形剤であり、活性な医薬成分の酸化を防止する。抗酸化剤としては、限定されないが、EDTA、クエン酸、アスコルビン酸、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、亜硫酸ナトリウム、p-アミノ安息香酸、グルタチオン、没食子酸プロピル、システイン、メチオニン、エタノール、ベンジルアルコールおよびn-アセチルシステインが挙げられる。
【0043】
本明細書において用語「糖類」とは、単糖類またはオリゴ糖をいう。単糖類は、単一の糖およびその誘導体、例えば、アミノ糖等の酸によって加水分解されない単量体の糖である。単糖類の例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、リボース、デオキシリボース、ノイラミン酸が挙げられる。オリゴ糖は、分岐してまたは鎖状で、グリコシド結合を介して結合した1以上の単量体の糖単位からなる糖である。オリゴ糖内の単量体の糖単位は、同一でも異なっていてもよい。単量体の糖単位の数により、オリゴ糖は、二糖、三糖、四糖、五糖等である。多糖類と対照的に、単糖やオリゴ糖は、水溶性である。オリゴ糖の例としては、ショ糖、トレハロース、乳糖、マルトースおよびラフィノースが挙げられる。特に、糖類はショ糖およびトレハロースから選択される。
【0044】
本明細書において用語「アミノ酸」は、カルボキシル基のα-位に位置するアミノ成分を有する薬剤的に許容される有機分子をいう。アミノ酸の例としては、アルギニン、グリシン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、プロリンが挙げられる。アミノ酸は、約5〜500 mMの量で、特に約5〜約200 mMの量で、更に特に約100〜約150 mMの量で一般的に用いられる。
【0045】
用語「安定剤」は、また、凍結乾燥保護剤を含む。用語「凍結乾燥保護剤」とは、不安定な活性成分(例、タンパク質)を、凍結乾燥過程、それに続く保存および再溶解液中の不安定化状態に対して保護する薬剤的に許容される賦形剤をいう。凍結乾燥保護剤としては、限定されないが、糖類、ポリオール類(例えば、糖アルコール等)およびアミノ酸類から成る群を含む。特に、凍結乾燥保護剤は、限定されないが、ショ糖、トレハロース、乳糖、グルコース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラフィノース、ノイラミン酸等の糖類、グルコサミン、ガラクトサミン、N-メチルグルコサミン(“メグルミン”)等のアミノ糖、マンニトールおよびソルビトール等のポリオール類およびアルギニンおよびグリシン等のアミノ酸類またはそれらの混合物から成る群から選択される。凍結保護物質は、好ましくは二糖である。本発明では、驚くべきことに、二糖類は単糖類、ポリオール類およびアミノ酸類のものより製剤の安定性により良い効果を示すことが判った。
【0046】
医薬製剤は、また、等張化剤を含んでもよい。本明細書において用語「等張化剤」とは、製剤の浸透圧を調節するために用いられる薬剤的に許容される等張化剤をいう。製剤は、低浸透圧性、等張性または高浸透圧性である。一般に等張性は、通常ヒト血清のものに対する、溶液の相対的浸透圧に関する。本発明による製剤は、低浸透圧性、等張または高浸透圧性であるが、好ましくは等張である。等張の製剤は、液体または固体形態から(例、凍結乾燥形態から)元に戻した液体であって、比較される生理食塩水や血清等の他の溶液の浸透圧と同じ浸透圧を有する溶液を指す。適切な等張化剤は、限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリンおよびアミノ酸類、糖類、特にグルコースから成る群から選択される何れかの成分が含まれる。等張化剤は、通常約5 mM〜約500 mMの量で用いられる。安定剤と等張化剤については、安定剤と等張化剤の両者として同時に機能する化合物群がある。それらの例は、糖類、アミノ酸類、ポリオール類、シクロデキストリン類、ポリエチレングリコール類および塩類の群に見られる。安定剤と等張化剤の両者として機能する糖類の例は、トレハロースである。
【0047】
医薬製剤は、また、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤を含んでもよい。微生物の存在の防止は、滅菌処理と例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等の種々の抗菌剤および抗真菌剤の包含の両者によって確実にすることができる。保存剤は、通常約0.001〜約2% (w/v) の量で用いられる。保存剤は、限定されないが、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、メチルまたはプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムが含まれる。
【0048】
本発明の安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は、PD-1介在性疾患または障害の予防または治療に用いることができ、該疾患または障害は、好ましくは癌;より好ましくはPD-L1発現癌であり;該疾患または障害は、最も好ましくは乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、腎臓癌、メラノーマ;最も好ましくは非小細胞肺癌、メラノーマおよび腎臓癌である。
【0049】
本発明による安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は、医薬品分野で知られているような静脈内 (i.v.)、皮下 (s.c.)または他の非経口投与手段により投与することができる。
【0050】
それらの高い安定性に鑑みて、本発明による医薬製剤は、インラインフィルターの必要なくi.v. 投与することができ、従ってインラインフィルターを経て投与する必要のある従来の製剤よりはるかに扱い易い。Sterifix(登録商標)等のインラインフィルターは、i.v. 溶液やライン内に存在する可能性のある何らかの粒子、空気、または微生物を防徐するためにi.v. 薬物の注入ラインに設置する必要がある。5〜20ミクロンまたはより大きなサイズの粒子は、肺塞栓症等の合併症を導く可能性のある、肺毛細血管を通る血流を閉塞させる可能性を有している。異物粒子は注射部位で静脈炎を起こすこともあり、ろ過は静脈炎の発生率を減らすことを助ける。
【0051】
in vivo投与に用いる安定な製剤は、無菌でなければならない。これは、無菌のろ過膜を通すろ過により容易に達成できる。
【0052】
本発明による安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は、例えば限外ろ過‐ダイアフィルトレーション、透析、添加および混合、凍結乾燥、再溶解およびそれらの組合せ等の技術分野で公知の方法により製造することができる。本発明による製剤の製造例は、以下で見られる。
【0053】
本発明による安定な抗PD-1抗体の医薬製剤は、凍結乾燥した形態であっても、凍結乾燥した形態から元に戻した液体形態であってもよい。「凍結乾燥した形態」は、技術分野で公知の凍結乾燥方法によって製造される。凍結乾燥物は、通常、約0.1〜5% (w/w)の残留水分含量を有していて、粉末または物理的に安定なケーキとして存在している。「元に戻した形態」は、凍結乾燥物から元に戻す媒体の添加後に急速溶解することによって得られる。適当な再溶解媒体としては、限定されないが、注射用水(WFI)、注射用静菌性水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液 (例、0.9% (w/v) NaCl)、グルコース溶液 (例、5% (w/v) グルコース)、界面活性剤含有溶液 (例、0.01% (w/v) ポリソルベート20) およびpH緩衝溶液 (例、リン酸緩衝溶液)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】抗PD-1抗体の熱安定性に関する緩衝系の効果を示す図である。
図2】抗PD-1抗体の熱安定性に関する糖類の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
発明の詳細な説明
以下に、本発明を以下の実施例を参照して詳細に更に説明する;しかしながら、これらの実施例は説明目的のみのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0056】
具体的条件が記載されていない本発明の実施例において、実験は慣用の条件下、または物質または製品の製造者によって提唱されている条件下で通常に行った。試薬の出所が具体的に与えられていない場合は、試薬は市販で入手できる慣用の試薬である。
【実施例】
【0057】
本発明の製造工程は、次の通りである:
ステップ1:抗PD-1抗体の貯蔵溶液をろ過する前に、中間コントロールにおける抗体タンパク質濃度の検出のためにサンプルを抽出した。中間コントロールを通した後、貯蔵溶液を0.22 μm PVDFフィルターを通して、ろ液を集めた。PD-1抗体は、配列番号7に示した重鎖アミノ酸配列および配列番号8に示した軽鎖アミノ酸配列を有し、特許文献1に開示された方法に従って製造できる。
ステップ2:添加容積を5.3 mlに調整し、ろ液をハーフストッパーのついた20 mlバイアルに充填し、添加の差異をそれぞれ充填の始め、中間および最後にサンプリングして検出した。
ステップ3:ストッパーのついた溶液を凍結乾燥容器に充填し、次の凍結乾燥方法に従って凍結乾燥した。凍結乾燥手続きが完了した後、凍結乾燥した粉末を真空中で栓をした。
ステップ4:キャッピングマシンを開け、アルミカバーを置いて、カバーを巻く。
ステップ5:目視検査を行って、崩壊のない製品、添加容量の正確性および他の欠陥を確認した。バイアル瓶のラベルを印刷してパスする;カートンラベルを印刷して収め、パッキングとラベリングを行う。
【0058】
中間コントロールのタンパク質濃度は、紫外分光光度計で測定し、280 nmの吸収ピークを測定した(Thermo: Nanodrop 2000)。
0.22 μm PVDFフィルターは、Millipore Millipak-100である。
充填機は、Chutian technology KGS8/2-X2 linear filling machineである。
添加容積差は、電子天びん秤量(製造者:Sartorius, model BSA423S)を用いて検出した。
Tofflon Lyo-B (SIP.CIP)真空凍結乾燥機を凍結乾燥に用いた。
Shandong Penglai DZG-130ナイフタイプ自動キャッピングマシンをキャッピングマシンに用いた。
Tianjin Jingtuo YB-2A透明性検出機を目視外観検査に用いた。
実施例におけるHPLC (SECおよびIEC) 測定は、Agilent 1200DAD 高速液体クロマトグラフィー (TSK gel SuperSW mAb HR 300×7.8 mm columnおよびProPacTM WCX-10 BioLCTM, 250×4 mm column)を用いて行った。
タンパク質の熱変性温度(Tm)は、GE MicroCal VP-Capillary DSC示差走査熱量計を用いて測定した。
DLC(動的光散乱)の平均粒子径は、Malvern Zetasizer Nano ZSナノ粒子径電位差計を用いて測定した。
【0059】
実施例1
10 mM酢酸(ナトリウム)、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物および0.2 mg/mLポリソルベート20を含有する、pH 4.8〜5.6の抗PD-1抗体の製剤をそれぞれ調製した。そのタンパク質濃度は40 mg/mLであった。各製剤をろ過し、凍結乾燥のため、5 mL/ボトルの量で20 mLの中性ホウケイ酸塩のガラスシリンジボトルに充填した。該ガラス瓶を注射用の凍結乾燥無菌粉末用ハロゲン化ブチル製ゴム栓で密封した。安定性試験のため、凍結乾燥物を25℃および40℃で保存した。その結果、抗PD-1抗体はpH 4.8〜5.6で非常に安定であったことが示された。
表1. 抗PD-1抗体の分解におけるpHの影響
【0060】
実施例2
タンパク質濃度1 mg/mlの抗PD-1抗体製剤を以下の緩衝液中で調製した。
1) 緩衝液1: 10 mM酢酸(ナトリウム)、pH 5.0;
2) 緩衝液2: 10 mMリン酸水素二ナトリウム(クエン酸)、pH 5.0;
3) 緩衝液3: 10 mMコハク酸(ナトリウム)、pH 5.0;
4) 緩衝液4: 10 mMクエン酸(ナトリウム)、pH 5.0。
示差走査熱量測定法(DSC)により、各製剤における抗PD-1抗体の熱安定性を測定した。製剤の熱変性中間温度(Tm)を分析した結果、酢酸塩の緩衝系における抗PD-1抗体の安定性はコハク酸塩、クエン酸塩およびリン酸水素二ナトリウムの緩衝系より著しく良好であることが示された。この結果を図1に示す。
【0061】
実施例3
DSC技術を用いて濃度1 mg/mLのタンパク質および様々な糖類を様々な濃度で含有するPD-1抗体の製剤をスクリーニングした。
1) 緩衝液1: 10 mM酢酸(ナトリウム)、90 mg/mL蔗糖、pH 5.2;
2) 緩衝液2: 10 mM酢酸(ナトリウム)、30 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、pH 5.2;
3) 緩衝液3: 10 mM酢酸(ナトリウム)、60 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、pH 5.2;
4) 緩衝液4: 10 mM酢酸(ナトリウム)、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、pH 5.2。
図2により、Tm値からα,α-トレハロース二水和物の濃度が90 mg/mLになった時に抗PD-1抗体の熱安定性は最もよいことが示された。
【0062】
実施例4
以下の様々な濃度の界面活性剤を含有する緩衝液の中で、40 mg/mLのPD-1抗体蛋白、10 mM酢酸(ナトリウム)、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物を含有する、pH 5.2の抗PD-1抗体の製剤を調製した。
1) 界面活性剤を含有せず;
2) 0.1 mg/mLポリソルベート20;
3) 0.2 mg/mLポリソルベート20;
4) 0.3 mg/mLポリソルベート20;
5) 0.4 mg/mLポリソルベート20;
6) 0.2 mg/mLポリソルベート80;
各製剤を5 mL/バイアルの量で20 mLのバイアル瓶に充填し、バイアル瓶をプラスチック膜の栓で密封した。該薬剤を25℃の恒温シェーカーに置き、500 rpmの速度で振動した。安定性試験の結果、0.1〜0.4 mg/mLのポリソルベート20が抗PD-1抗体の凝集および大きい顆粒の形成を有効に阻害したことが示された。
表2. 25℃および500 rpm振動下で抗PD-1抗体の凝集における界面活性剤の影響
【0063】
実施例5
pH 5.2で10 mM酢酸(ナトリウム)、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20の溶液中に40 mg/mLの抗PD-1抗体を調製した。該製剤を5 mL/バイアルの量で20 mLのバイアル瓶に充填し、凍結乾燥した。該バイアル瓶を凍結乾燥栓で密封した。凍結乾燥後の試料について、4500±500 Lxの光照射を10日間、40±2℃での放置を10日間、4℃〜40℃での低温循環を3回、または-20℃〜40℃での凍結―融解の繰り返しを3回行った。薬剤の安定性はタンパク質濃度、純度および活性度で評価した。その結果、該製剤状態において抗PD-1抗体は安定であり、強い光、高温または低温および凍結―融解の繰り返しの処理を行っても依然として規格を満たすことができたことが示された。
表3. 強い光や高・低温への暴露および凍結-融解の繰返しの条件における抗PD-1抗体製剤の安定性
【0064】
実施例6
pH 5.2で10 mM酢酸(ナトリウム)、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20の溶液中に40 mg/mLの抗PD-1抗体を調製した。該製剤をガラス瓶および316 Lのステンレスタンクにそれぞれ充填し、室温で24時間放置した。そのタンパク質濃度および純度について分析した結果、抗PD-1抗体は24時間まで安定であり、また、316 Lのステンレスタンクは該製剤に適用できることが示された。
表4. ステンレススチールタンクにおける抗PD-1抗体の安定性
【0065】
実施例7
pH 5.2で10 mM酢酸(ナトリウム)、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20の溶液中に40 mg/mLの抗PD-1抗体を調製した。該製剤を5 mL/バイアルの量で20 mLのバイアル瓶に充填し、第1乾燥の温度-15℃、-10℃および-5℃でそれぞれ凍結乾燥した。該バイアル瓶は凍結乾燥栓で密封した。凍結乾燥品を25℃で保存し、その安定性について分析した。その結果、凍結乾燥工程における最適な第1乾燥の温度は-10℃〜-5℃であることが示された。
表5. 様々な第1乾燥工程により調製された抗PD-1抗体製剤の安定性
【0066】
実施例8 その他の製剤
本発明は以下の成分を含有する安定な薬物製剤を提供する:配列番号7の重鎖アミノ酸配列および配列番号8の軽鎖アミノ酸配列と以下から任意に選択される安定化緩衝剤の組合せ:
(i) 90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(ii) 90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(iii) 90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.4の20 mM酢酸緩衝剤;
(iv) 60 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.0の20 mM酢酸緩衝剤;
(v) 60 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.1 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の20 mM酢酸緩衝剤;
(vi) 60 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(vii) 30 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mLポリソルベート20およびpH 4.8の10 mM酢酸緩衝剤;
(viii) 30 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の30 mM酢酸緩衝剤;または
(ix) 30 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.6の10 mM酢酸緩衝剤。
以上の例において抗PD-1抗体の濃度は1 mg/mL〜60 mg/mLであり、好ましくは20〜50 mg/mLであり、より好ましくは35〜45 mg/mLであり、最も好ましくは40 mg/mLである。具体的に実施可能なものは、これらに限定されないが、以下の組合せから選択できる。
(1) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(2) 抗PD-1抗体1 mg/mL、30 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 4.5の10 mM酢酸緩衝剤;
(3) 抗PD-1抗体20 mg/mL、60 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 4.8の1 mM酢酸緩衝剤;
(4) 抗PD-1抗体35 mg/mL、85 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.6の2 mM酢酸緩衝剤;
(5) 抗PD-1抗体45 mg/mL、95 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 6.0の5 mM酢酸緩衝剤;
(6) 抗PD-1抗体50 mg/mL、100 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.2 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の15 mM酢酸緩衝剤;
(7) 抗PD-1抗体60 mg/mL、90 mg/mL蔗糖、0.2 mg/mLポリソルベート400およびpH 5.2の30 mM酢酸緩衝剤;
(8) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mL乳糖、0.2 mg/mLポリソルベート60およびpH 4.5の50 mM酢酸緩衝剤;
(9) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mLトレハロース、0.2 mg/mLポリソルベート80およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(10) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mL麦芽糖、0.2 mg/mLポリオキシエチレン水素化ヒマシ油およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(11) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.01 mg/mLグリセリン脂肪酸エステルおよびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(12) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.05 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(13) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.4 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(14) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、0.5 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤;
(15) 抗PD-1抗体40 mg/mL、90 mg/mL α,α-トレハロース二水和物、1 mg/mLポリソルベート20およびpH 5.2の10 mM酢酸緩衝剤。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]