特許第6921183号(P6921183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6921183
(24)【登録日】2021年7月29日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20210805BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20210805BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   B60T17/18ZYW
   B60T13/74 G
   B60T8/17 A
   B60T8/17 B
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-510181(P2019-510181)
(86)(22)【出願日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2018013435
(87)【国際公開番号】WO2018181807
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2020年6月3日
(31)【優先権主張番号】特願2017-71349(P2017-71349)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛将
(72)【発明者】
【氏名】小比賀 俊博
(72)【発明者】
【氏名】古賀 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】青木 康史
(72)【発明者】
【氏名】豊田 博充
(72)【発明者】
【氏名】小寺 晴大
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】 的場 眞夢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−219133(JP,A)
【文献】 特開2003−220943(JP,A)
【文献】 特開2016−124509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
8/32−8/96
13/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦パッドをロータ側に押圧するための電動アクチュエータを少なくとも1つ備える電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを駆動するドライバと、制御装置と、を備える車両用ブレーキシステムにおいて、
前記制御装置は、相互に接続された少なくとも3つのコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記ドライバを制御するドライバ制御部と、前記電動ブレーキの制動力を演算する制動力演算部と、を含み、
前記コントローラの少なくとも1つは、
各コントローラの制動力演算結果を比較して正常か否かを判断する判定部を更に含み、
前記判定部は、
いずれかの前記コントローラが正常でないと判断した場合に、正常でないと判断された前記コントローラの出力を遮断する出力遮断手段を備えることを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御装置は、
少なくとも1つの前記コントローラを備えた第1の制御装置と、少なくとも1つの前記コントローラを備えた第2の制御装置とを含むことを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
各コントローラは、自己の制動力演算部の演算結果に基づいて自己が正常か否かを判断する自己判定部を備え、自己判定によって正常でないと判断された前記コントローラの出力を遮断する手段を更に備えることを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキを備えた車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキシステムの電気制御システムとしては、2つの中央モジュール(中央制御装置)と、4つの車輪モジュール(車輪制御装置)と、入力装置と、を含むシステムが提案されている(特許文献1)。2つの中央モジュールはそれぞれ車輪モジュールを2つずつ制御している。2つの中央制御装置は互いに監視し合い、車輪制御装置は欠陥の際に中央制御装置により給電装置から切り離される。このシステムでは、ロック防止機能又は横滑り防止機能を備える車輪制御装置の監視を行っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−9980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電動ブレーキを備えた車両用ブレーキシステムであって、信頼性の高い車両用ブレーキシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[1]
本発明に係る車両用ブレーキシステムの一態様は、
摩擦パッドをロータ側に押圧するための電動アクチュエータを少なくとも1つ備える電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを駆動するドライバと、制御装置と、を備える車両用ブレーキシステムにおいて、
前記制御装置は、相互に接続された少なくとも3つのコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記ドライバを制御するドライバ制御部と、前記電動ブレーキの制動力を演算する制動力演算部と、を含み、
前記コントローラの少なくとも1つは、
各コントローラの制動力演算結果を比較して正常か否かを判断する判定部を更に含み、
前記判定部は、
いずれかの前記コントローラが正常でないと判断した場合に、正常でないと判断された前記コントローラの出力を遮断する出力遮断手段を備えることを特徴とする。
【0007】
上記車両用ブレーキシステムの一態様によれば、制動力演算部を備えたコントローラを少なくとも3つ備え、そのうち少なくとも1つのコントローラが、各コントローラの制動力演算結果を比較して正常か否かを判断し、正常でないと判断されたコントローラの出力を遮断することで、制動力演算結果の信頼性を向上するとともに当該システムの冗長化を実現できる。
【0008】
[2]
上記車両用ブレーキシステムの一態様において、
前記制御装置は、
少なくとも1つの前記コントローラを備えた第1の制御装置と、少なくとも1つの前記コントローラを備えた第2の制御装置とを含むことができる。
【0009】
上記車両用ブレーキシステムの一態様によれば、少なくとも3つのコントローラを別々の制御装置に搭載することにより、当該システムの冗長性を向上することができる。
【0010】
[3]
上記車両用ブレーキシステムの一態様において、
各コントローラは、自己の制動力演算部の演算結果に基づいて自己が正常か否かを判断する自己判定部を備え、自己判定によって正常でないと判断されたコントローラの出力を遮断する手段を更に備えることができる。
【0011】
上記車両用ブレーキシステムの一態様によれば、各コントローラが、自己の制動力演算結果に基づき自己が正常か否かを自己判定、正常でないと自己判定された前記コントローラの出力を遮断することで、制動力演算結果の信頼性を更に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係る車両用ブレーキシステムを示す全体構成図である。
図2図2は、本実施形態に係る車両用ブレーキシステムのマスタコントローラ、第1、第2サブコントローラ及びスレーブコントローラを示すブロック図である。
図3図3、は変形例に係る車両用ブレーキシステムのマスタコントローラ、第1、第2サブコントローラ及びスレーブコントローラを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。この説明に用いる図面は説明の便宜上のものである。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
本実施形態に係る車両用ブレーキシステムは、摩擦パッドをロータ側に押圧するための電動アクチュエータを少なくとも1つ備える電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを駆動するドライバと、制御装置と、を備える車両用ブレーキシステムにおいて、前記制御装置は、相互に接続された少なくとも3つのコントローラを備え、前記コントローラは、前記ドライバを制御するドライバ制御部と、前記電動ブレーキの制動力を演算する制動力演算部と、を含み、前記コントローラの少なくとも1つは、各コントローラの制動力演算結果を比較して正常か否かを判断する判定部を更に含み、前記判定部は、いずれかの前記コントローラが正常でないと判断した場合に、正常でないと判断された前記コントローラの出力を遮断する出力遮断手段を備えることを特徴とする。
【0015】
1.車両用ブレーキシステム
図1及び図2を用いて本実施形態に係る車両用ブレーキシステム1について詳細に説明する。図1は本実施形態に係る車両用ブレーキシステム1を示す全体構成図であり、図2は本実施形態に係る車両用ブレーキシステム1のマスタコントローラ30、第1、第2サブコントローラ40,41及びスレーブコントローラ50を示すブロック図である。
【0016】
図1に示すように、車両用ブレーキシステム1は、図示しない摩擦パッドを図示しないロータ側に押圧するための電動アクチュエータであるモータ80〜85を少なくとも1つ備える電動ブレーキ16a〜16dと、モータ80〜85を駆動するドライバ60〜65と、相互に接続された複数のコントローラ(マスタコントローラ30、第1サブコントローラ40、第2サブコントローラ41、スレーブコントローラ50)を備える制御装置(10,11)と、を備える。図示しないロータは、4輪車である車両VBの各車輪Wa〜Wdに設けられて車輪Wa〜Wdと一体に回転する。なお、車両VBは4輪車に限られない。また、1つの電動ブレーキに対して複数のモータを備えていてもよいし、1つの車輪に複数の電動ブレーキを備えていてもよい。
【0017】
1−1.電動ブレーキ
前輪左側(FL)の車輪Waに設けられる電動ブレーキ16aは、ブレーキキャリパ5aと、ブレーキキャリパ5aに減速機4aを介して固定されたモータ80,81と、モータ80,81によって図示しない摩擦パッドに加えられる荷重を検出する荷重センサ6aと、を備える。モータ80は、自身のステータに対する回転軸の相対位置を検出する回転角センサ90を備える。モータ81は、モータ80と同軸であるため回転角センサは不要である。荷重センサ6aの検出信号は、第1サブコントローラ40に入力され、回転角センサ90の検出信号は、ドライバ60,61を介して第1サブコントローラ40及びマスタコントローラ30に入力される。
【0018】
前輪右側(FR)の車輪Wbに設けられる電動ブレーキ16bは、ブレーキキャリパ5bと、ブレーキキャリパ5bに減速機4bを介して固定されたモータ82,83と、モータ82,83によって図示しない摩擦パッドに加えられる荷重を検出する荷重センサ6bと、を備える。モータ82は、自身のステータに対する回転軸の相対位置を検出する回転角センサ92を備える。モータ83は、モータ82と同軸であるため回転角センサは不要である。荷重センサ6bの検出信号は、スレーブコントローラ50に入力され、回転角センサ92の検出信号は、ドライバ62,63を介してスレーブコントローラ50及びマスタコントローラ30に入力される。
【0019】
後輪左側(RL)の車輪Wcに設けられる電動ブレーキ16cは、ブレーキキャリパ5cと、ブレーキキャリパ5cに減速機4cを介して固定されたモータ84と、モータ84によって図示しない摩擦パッドに加えられる荷重を検出する荷重センサ6cと、を備える。モータ84は、自身のステータに対する回転軸の相対位置を検出する回転角センサ94を備える。荷重センサ6cの検出信号は、第2サブコントローラ41に入力され、回転角センサ94の検出信号は、ドライバ64を介して第2サブコントローラ41に入力される。
【0020】
後輪右側(RR)の車輪Wdに設けられる電動ブレーキ16dは、ブレーキキャリパ5dと、ブレーキキャリパ5dに減速機4dを介して固定されたモータ85と、モータ85によって図示しない摩擦パッドに加えられる荷重を検出する荷重センサ6dと、を備える。モータ85は、自身のステータに対する回転軸の相対位置を検出する回転角センサ95を備える。荷重センサ6dの検出信号は、第2サブコントローラ41に入力され、回転角センサ95の検出信号は、ドライバ65を介して第2サブコントローラ41に入力される。
【0021】
ブレーキキャリパ5a〜5dは、略C字型に形成されて図示しないロータを跨いで反対側へ延びる爪部が一体的に設けられている。
【0022】
減速機4a〜4dは、ブレーキキャリパ5a〜5dに固定されて、モータ80〜85の回転によって発生したトルクをブレーキキャリパ5a〜5dに内蔵された図示しない直動機構に伝える。
【0023】
直動機構は、電動ブレーキにおいて公知の機構を採用することができる。直動機構は、モータ80〜85の回転を減速機4a〜4dを介して摩擦パッドの直線運動に変換する。直動機構は、摩擦パッドをロータに押し付けて車輪Wa〜Wdの回転を抑制する。
【0024】
モータ80〜85は、公知の電動モータを採用することができ、例えばブラシレスDCモータである。モータ80〜85の駆動により、減速機4a〜4d及び直動機構を介して摩擦パッドを移動させる。電動アクチュエータとしてモータを採用した例について説明するが、これに限らず、他の公知のアクチュエータを採用してもよい。
【0025】
1−2.入力装置
車両用ブレーキシステム1は、入力装置であるブレーキペダル2と、ブレーキペダル2に接続されたストロークシミュレータ3と、を含む。ブレーキペダル2は、運転者のブレーキペダル2の操作量を検出する第2ストロークセンサ21及び第3ストロークセンサ22を備える。ストロークシミュレータ3は、ブレーキペダル2の操作量を検出する第1ストロークセンサ20を備える。
【0026】
各ストロークセンサ20〜22は、ブレーキペダル2の操作量の一種である踏込ストローク及び/または踏力に対応した電気的な検出信号を互いに独立して発生させる。第1ストロークセンサ20は後述するマスタコントローラ30へ検出信号を送信し、第2ストロークセンサ21は後述する第1サブコントローラ40へ検出信号を送信し、第3ストロークセンサ22は後述する第2サブコントローラ41へ検出信号を送信する。
【0027】
車両VBは、車両用ブレーキシステム1への入力装置として、車両用ブレーキシステム1以外のシステムに設けられた複数の制御装置(以下「他の制御装置1000」という)を備える。他の制御装置1000は、CAN(Controller Area Network)によって第1の制御装置10のマスタコントローラ30及び第2の制御装置11の第2サブコントローラ41に接続され、相互にブレーキ操作に関する情報を通信する。
【0028】
1−3.制御装置
制御装置は、第1の制御装置10と第2の制御装置11とを含む。第1の制御装置10は、第2の制御装置11とは独立して車両VBの所定位置に配置される。第1の制御装置10及び第2の制御装置11は、電子制御ユニット(ECU)である。第1の制御装置10及び第2の制御装置11のそれぞれは、合成樹脂製の筐体に収容される。したがって、第1の制御装置10と第2の制御装置11という2つの制御装置によって、冗長化されている。なお、制御装置を2つ用いた例について説明するが、車両VBにおける配置を考慮して1つとしてもよいし、さらに冗長性を高めるために3つ以上としてもよい。
【0029】
第1の制御装置10と第2の制御装置11との間はCANによって接続され、通信が行われる。CANの通信においては、一方向および双方向の情報の送信が行われる。なお、ECU間の通信はCANに限定されない。
【0030】
第1の制御装置10及び第2の制御装置11は、互いに独立した3つのバッテリ100,101,102と電気的に接続される。バッテリ100,101,102は、第1の制御装置10及び第2の制御装置11が備える電子部品に電力を供給する。車両用ブレーキシステム1のバッテリ100,101,102は、車両VBの所定の位置に配置される。
【0031】
第1の制御装置10は、マスタコントローラ30及び第1サブコントローラ40を少なくとも1つずつ備え、第2の制御装置11は、少なくとも1つのサブコントローラ(第2サブコントローラ41)を備える。第1の制御装置10がマスタコントローラ30及び第1サブコントローラ40を搭載することにより、第1の制御装置10における冗長化と信頼性が向上する。
【0032】
また、第1の制御装置10は、さらにスレーブコントローラ50を備える。安価なスレーブコントローラ50を用いることで低コスト化を実現できる。なお、スレーブコントローラ50の代わりにサブコントローラを設けることも可能である。
【0033】
マスタコントローラ30、第1、第2サブコントローラ40,41及びスレーブコントローラ50はそれぞれ、マイクロコンピュータである。
【0034】
第1の制御装置10は、マスタコントローラ30、第1サブコントローラ40及びスレーブコントローラ50を備える。複数のコントローラを使用することによる冗長化を達成しながらも、比較的高価なマスタコントローラを複数搭載しないので低コスト化を実現できる。マスタコントローラ30は、挙動制御部303(挙動制御部303については後述する)を設けるために高い性能が必要となり、第1、第2サブコントローラ40,41に比べて比較的高価なコントローラとなる。
【0035】
図1及び図2に示すように、マスタコントローラ30は、ドライバ61,63を制御するドライバ制御部301と、電動ブレーキ16a〜16dの制動力を演算する制動力演算部302と、車両VBの挙動を制御する挙動制御部303と、を含む。
【0036】
第1サブコントローラ40は、ドライバ60を制御するドライバ制御部400と、電動ブレーキ16a〜16dの制動力を演算する制動力演算部402と、を含む。第2サブコントローラ41は、ドライバ64,65を制御するドライバ制御部410と、電動ブレーキ16a〜16dの制動力を演算する制動力演算部412と、を含む。第1、第2サブコントローラ40,41は、挙動制御部を備えない分、マスタコントローラ30より安価なマイクロコンピュータを採用できるため、低コスト化に貢献する。
【0037】
スレーブコントローラ50は、制動力演算部を有しておらず、マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41の少なくとも1つのコントローラの制動力演算結果に基づいてドライバ62を制御するドライバ制御部500を含む。スレーブコントローラ50は、制動力演算部を有していないため、第1、第2サブコントローラ40,41に比べて比較的安価なマイクロコンピュータを採用することができる。
【0038】
ドライバ60〜65は、モータ80〜85の駆動を制御する。具体的には、ドライバ60はモータ80の駆動を制御し、ドライバ61はモータ81の駆動を制御し、ドライバ62はモータ82の駆動を制御し、ドライバ63はモータ83の駆動を制御し、ドライバ64はモータ84の駆動を制御し、ドライバ65はモータ85の駆動を制御する。ドライバ60〜65は、モータ80〜85を例えば正弦波駆動方式によって制御する。また、ドライバ60〜65は、正弦波駆動方式に限らず、例えば矩形波の電流で制御してもよい。
【0039】
ドライバ60〜65は、ドライバ制御部301,400,410,500の指令に応じた電力をモータ80〜85に供給する電源回路及びインバータを備える。
【0040】
制動力演算部302,402,412は、ブレーキペダル2の操作量に応じた各ストロークセンサ20〜22の検出信号に基づいて制動力(要求値)を算出する。また、制動力演算部302,402,412は、他の制御装置1000からの信号に基づいて制動力(要求値)を算出することができる。
【0041】
ドライバ制御部301,400,410,500は、制動力演算部302,402,412が算出した制動力(要求値)と、各荷重センサ6a〜6dの検出信号と、回転角センサ90,92,94,95の検出信号とに基づいてドライバ60〜65を制御する。ドライバ60〜65は、ドライバ制御部301,400,410,500からの指令に従ってモータ80〜85に駆動用の正弦波電流を供給する。モータ80〜85に供給された電流は、電流センサ70〜75によって検出される。
【0042】
挙動制御部303は、車両VBの挙動を制御するための信号をドライバ制御部301,400,410,500に出力する。通常のブレーキペダル2の操作に応じた単純な制動以外の挙動であり、例えば、車輪Wa〜Wdのロックを防ぐ制御であるABS(Antilock Brake System)、車輪Wa〜Wdの空転を抑制する制御であるTCS(Traction Control System)、車両VBの横滑りを抑制する制御である挙動安定化制御である。
【0043】
マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41は、各コントローラの制動力演算結果を比較して各コントローラが正常であるか否かを判断(診断)する判定部304,404,414を含む。
【0044】
判定部304,404,414は、マスタコントローラ30の制動力演算部302における演算結果と、第1サブコントローラ40の制動力演算部402における演算結果と、第2サブコントローラ41の制動力演算部412における演算結果とを比較し、多数決によって、各コントローラが正常か否かを判断する。例えば、制動力演算部302の演算結果だけが他の演算結果(制動力演算部402,412の演算結果)と異なる場合(例えば、制動力演算部302の演算結果と他の演算結果との差分が所定の閾値を超える場合、或いは、制動力演算部302からの演算結果を取得できなかった場合)には、マスタコントローラ30が正常でないと判断し、第1、第2サブコントローラ40,41が正常であると判断する。また、制動力演算部402の演算結果だけが他の演算結果(制動力演算部302,412の演算結果)と異なる場合には、第1サブコントローラ40が正常でないと判断し、マスタコントローラ30及び第2サブコントローラ41が正常であると判断する。また、制動力演算部412の演算結果だけが他の演算結果(制動力演算部302,402の演算結果)と異なる場合には、第2サブコントローラ41が正常でないと判断し、マスタコントローラ30及び第1サブコントローラ40が正常であると判断する。
【0045】
各ドライバ制御部は、正常であると判断されたコントローラの演算結果を制動力として採用して、当該演算結果に基づいてドライバを制御する。例えば、マスタコントローラ30が正常でないと判断された場合には、ドライバ制御部400は、制動力演算部402の演算結果に基づいてドライバ60を制御し、ドライバ制御部410は、制動力演算部412の演算結果に基づいてドライバ64,65を制御し、ドライバ制御部500は、制動力演算部402又は制動力演算部412の演算結果に基づいてドライバ62を制御する。また、第1サブコントローラ40が正常でないと判断された場合には、ドライバ制御部301は、制動力演算部302の演算結果に基づいてドライバ61,63を制御し、ドライバ制御部410は、制動力演算部412の演算結果に基づいてドライバ64,65を制御し、ドライバ制御部500は、制動力演算部302又は制動力演算部412の演算結果に基づいてドライバ62を制御する。また、第2サブコントローラ41が正常でないと判断された場合には、ドライバ制御部301は、制動力演算部302の演算結果に基づいてドライバ61,63を制御し、ドライバ制御部400は、制動力演算部402の演算結果に基づいてドライバ60を制御し、ドライバ制御部500は、制動力演算部302又は制動力演算部402の演算結果に基づいてドライバ62を制御する。
【0046】
判定部304,404,414は、正常でないと判断されたコントローラの出力を遮断する出力遮断部305,405,415(出力遮断手段)を備える。コントローラの出力とは、例えばドライバに対する制御信号(指令)や、他のコントローラに対する自己の演算結果である。例えば、出力遮断部305,405,415は、マスタコントローラ30が正常でないと判断された場合には、マスタコントローラ30(或いは、ドライバ61,63)への電源供給を遮断し、第1サブコントローラ40が正常でないと判断された場合には、第1サブコントローラ40(或いは、ドライバ60)への電源供給を遮断し、第2サブコントローラ41が正常でないと判断された場合には、第2サブコントローラ41(或いは、ドライバ64,65)への電源供給を遮断することで、正常でないと判断されたコントローラによってドライバが制御されることのないようにする。
【0047】
なお、判定部304,404,414は、正常でないと判定したコントローラの出力を遮断した結果、正常に動作しているコントローラ(マスタコントローラ、サブコントローラ)が2つ以下となった場合には、多数決による正常性判断を行うことができなくなるため、それ以降、各コントローラの演算結果を比較する処理を行わない。
【0048】
本実施形態では、マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41のそれぞれが判定部を備えているが、マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41の少なくとも1つが判定部を備えていればよい。なお、マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41のそれぞれが判定部を備える場合、これらの判定部が順番に各コントローラの正常性判断を行う(各コントローラの正常性判断を行う判定部を所定の順番で切り替える)ようにしてもよい。例えば、まず、マスタコントローラ30の判定部304が正常性判断を行い、次に、第1サブコントローラ40の判定部404が正常性判断を行い、次に、第2サブコントローラ41の判定部414が正常性判断を行い、次に、再びマスタコントローラ30の判定部304が正常性判断を行うように切り替える。なお、判定部における正常性判断を行った回数が所定回数に達する度に次の判定部に切り替えてもよいし、所定時間が経過する度に次の判定部に切り替えてもよい。このようにすると、マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41の処理負荷を分散して各コントローラの長寿命化を図ることができる。
【0049】
本実施形態に係る車両用ブレーキシステム1によれば、制動力演算部を備えたコントローラ(マスタコントローラ、サブコントローラ)を少なくとも3つ備え、そのうち少なくとも1つのコントローラが、各コントローラの制動力演算結果を比較して各コントローラが正常か否かを判断し、正常でないと判断されたコントローラの出力を遮断することで、制動力演算結果の信頼性を向上するとともに車両用ブレーキシステム1の冗長化を達成できる。
【0050】
また、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム1によれば、少なくとも3つのコントローラを別々の制御装置(第1の制御装置10、第2の制御装置11)に搭載することにより、車両用ブレーキシステム1の冗長性を向上することができ、また、第1の制御装置10と第2の制御装置11とで前後輪を個別に制御することができ、制御性の向上を図ることができる。
【0051】
2.変形例
図3を用いて変形例に係る車両用ブレーキシステムについて説明する。図3は変形例に係る車両用ブレーキシステムのマスタコントローラ30、第1、第2サブコントローラ40,41及びスレーブコントローラ50を示すブロック図である。以下の説明において、図2の車両用ブレーキシステム1と同じ構成については図3でも同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0052】
図3に示すように、変形例に係る車両用ブレーキシステムにおいて、判定部304,404,414は、自己の制動力演算部302,402,412の演算結果に基づいて自己が正常か否かを判断する自己判定部306,406,416を更に含む。例えば、自己判定部306,406,416は、自己の制動力演算部302,402,412からの複数の演算結果を比較することによって自己が正常か否かを自己判定する。出力遮断部305,405,415は、自己判定によって正常でないと判断されたコントローラの出力を遮断する。
【0053】
変形例に係る車両用ブレーキシステムによれば、各コントローラが、自己の制動力演算結果に基づき自己が正常か否かを自己判定し、正常でないと自己判定されたコントローラの出力を遮断することで、制動力演算結果の信頼性を更に向上することができる。
【0054】
なお、マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41が、例えばロックステップ方式などの自己診断機能を有する場合、判定部304,404,414は、各コントローラの演算結果に加えて自己診断結果に基づいて各コントローラが正常か否かを判断してもよい。
【0055】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0056】
1…車両用ブレーキシステム、2…ブレーキペダル、3…ストロークシミュレータ、4a〜4d…減速機、5a〜5d…ブレーキキャリパ、6a〜6d…荷重センサ、10…第1の制御装置、11…第2の制御装置、16a〜16d…電動ブレーキ、20…第1ストロークセンサ、21…第2ストロークセンサ、22…第3ストロークセンサ、30…マスタコントローラ、301…ドライバ制御部、302…制動力演算部、303…挙動制御部、304…判定部、305…出力遮断部、306…自己判定部、40…第1サブコントローラ、400…ドライバ制御部、402…制動力演算部、404…判定部、405…出力遮断部、406…自己判定部、41…第2サブコントローラ、410…ドライバ制御部、412…制動力演算部、414…判定部、415…出力遮断部、416…自己判定部、50…スレーブコントローラ、500…ドライバ制御部、60〜65…ドライバ、70〜75…電流センサ、80〜85…モータ、90,92,94,95…回転角センサ、100〜102…バッテリ、1000…他の制御装置、VB…車両、Wa〜Wd…車輪
図1
図2
図3