特許第6921608号(P6921608)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6921608マクロレンズ及びマクロレンズを備えた撮像装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6921608
(24)【登録日】2021年7月30日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】マクロレンズ及びマクロレンズを備えた撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20210805BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   G02B13/00
   G02B13/18
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-85733(P2017-85733)
(22)【出願日】2017年4月24日
(65)【公開番号】特開2018-185378(P2018-185378A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】520164367
【氏名又は名称】天津欧菲光電有限公司
【氏名又は名称原語表記】TIANJIN OFILM OPTO ELECTRONICS CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 達郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 良明
【審査官】 岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−325713(JP,A)
【文献】 特開昭54−017835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00−17/08
G02B 21/02−21/04
G02B 25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、
両凸形状の第1レンズと、
負の屈折力を有し、物体側に凹面を向けた第2レンズと、
正の屈折力を有し、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の第3レンズと、
負の屈折力を有し、物体側に凹面を向けたメニスカス形状の第4レンズとから構成される実質的に4個のレンズからなり、
前記第3レンズの物体側の面より物体側に位置する開口絞りをさらに備え
さらに以下の条件式を満足するマクロレンズ。
1.5<f3/f<4 (1)
ただし、
f:全系の焦点距離
f3:前記第3レンズの焦点距離
【請求項2】
さらに以下の条件式を満足する請求項1に記載のマクロレンズ。
−55<f4/f<−2.5 (2)
ただし、
f:全系の焦点距離
f4:前記第4レンズの焦点距離
【請求項3】
さらに以下の条件式を満足する請求項1又は請求項2に記載のマクロレンズ。
1.5<f34/f<5.5 (3)
ただし、
f:全系の焦点距離
f34:前記第3レンズと前記第4レンズとの合成焦点距離
【請求項4】
さらに以下の条件式を満足する請求項1〜請求項の何れか1項に記載のマクロレンズ。
−0.65<[(1−N1)/R2+(N2−1)/R3−{((1−N1)・(N2−1))/(R2・R3)}・D2]・f<−0.45 (4)
ただし、
f:全系の焦点距離
D2:前記第1レンズの像側の面と前記第2レンズの物体側の面との光軸上での距離
N1:前記第1レンズの屈折率
N2:前記第2レンズの屈折率
R2:前記第1レンズの像側の面の曲率半径
R3:前記第2レンズの物体側の面の曲率半径
【請求項5】
前記第2レンズが、両凹形状である、
請求項1〜請求項の何れか1項に記載のマクロレンズ。
【請求項6】
さらに以下の条件式を満足する請求項1〜請求項の何れか1項に記載のマクロレンズ。
1.8<f3/f<3.9 (1−1)
ただし、
f:全系の焦点距離
f3:前記第3レンズの焦点距離
【請求項7】
さらに以下の条件式を満足する請求項1〜請求項の何れか1項に記載のマクロレンズ。
−55<f4/f<−2.6 (2−1)
ただし、
f:全系の焦点距離
f4:前記第4レンズの焦点距離
【請求項8】
さらに以下の条件式を満足する請求項1〜請求項の何れか1項に記載のマクロレンズ。
1.6<f34/f<5.4 (3−1)
ただし、
f:全系の焦点距離
f34:前記第3レンズと前記第4レンズとの合成焦点距離
【請求項9】
さらに以下の条件式を満足する請求項1〜請求項の何れか1項に記載のマクロレンズ。
−0.62<[(1−N1)/R2+(N2−1)/R3−{((1−N1)・(N2−1))/(R2・R3)}・D2]・f<−0.48 (4−1)
ただし、
f:全系の焦点距離
D2:前記第1レンズの像側の面と前記第2レンズの物体側の面との光軸上での距離
N1:前記第1レンズの屈折率
N2:前記第2レンズの屈折率
R2:前記第1レンズの像側の面の曲率半径
R3:前記第2レンズの物体側の面の曲率半径
【請求項10】
さらに以下の条件式を満足する請求項1〜請求項の何れか1項に記載のマクロレンズ。
2.8<f3/f<3.9 (1−2)
ただし、
f:全系の焦点距離
f3:前記第3レンズの焦点距離
【請求項11】
さらに以下の条件式を満足する請求項1〜請求項10の何れか1項に記載のマクロレンズ。
−54<f4/f<−8 (2−2)
ただし、
f:全系の焦点距離
f4:前記第4レンズの焦点距離
【請求項12】
さらに以下の条件式を満足する請求項1〜請求項11の何れか1項に記載のマクロレンズ。
3<f34/f<5.2 (3−2)
ただし、
f:全系の焦点距離
f34:前記第3レンズと前記第4レンズとの合成焦点距離
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のマクロレンズを備えている撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マクロレンズ及びマクロレンズを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型カメラ等の普及により、2次元バーコードの読み取り及び手書きメモの記録等に小型カメラが用いられており、この小型カメラに搭載される撮像レンズには、コンパクト性が要求されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、スマートフォン、タブレット型端末等に搭載可能とし、かつ、4枚のレンズを備えた撮像レンズが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許US2016/0352984A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記先行技術では、撮像レンズがマクロレンズとして設計されていないため、近接撮影しても被写体を大きく写すことが困難であり、等倍以上の撮影では満足する性能を得ることが困難であった。このため、小型カメラによって撮影されたデータを拡大することで対応していたが画像が劣化するという課題があった。また、マクロレンズが搭載された撮像機器において、上述した撮影性能を満足しながらも、レンズ全長を短縮化できることが求められている。
【0006】
本開示は上記事実を考慮し、レンズ全長を短縮化しつつ、有限距離の撮影に適した等倍以上の倍率を確保することができるマクロレンズ及び近接撮影であっても被写体を大きく写すことができる撮像装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。すなわち、本態様に係るマクロレンズは、物体側から順に、両凸形状の第1レンズと、負の屈折力を有し、物体側に凹面を向けた第2レンズと、正の屈折力を有し、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の第3レンズと、負の屈折力を有し、物体側に凹面を向けたメニスカス形状の第4レンズとから構成される実質的に4個のレンズからなり、前記第3レンズの物体側の面より物体側に位置する開口絞りをさらに備えている。
【0008】
なお、本態様のマクロレンズにおいて、「実質的に4個のレンズからなり、」とは、本態様のマクロレンズが、4個のレンズ以外に、パワーを有さないレンズ、絞り、カバーガラス等レンズ以外の光学要素、レンズフランジ、レンズバレル、撮像素子、手振れ補正機構等の機構部分、等を持つものも含むことを意味する。また、上記のレンズのうち非球面が含まれているものについては、面形状及び屈折力の符号として、近軸領域における面形状及び屈折力の符号を用いることとする。
【0009】
また、本態様に係るマクロレンズは、以下の条件式(1)〜(4)、(1−1)〜(4−1)及び(1−2)〜(3−2)のいずれか一つを満たすものでもよく、あるいは任意の組合せを満たすものでもよい。
1.5<f3/f<4 (1)
1.8<f3/f<3.9 (1−1)
2.8<f3/f<3.9 (1−2)
−55<f4/f<−2.5 (2)
−55<f4/f<−2.6 (2−1)
−54<f4/f<−8 (2−2)
1.5<f34/f<5.5 (3)
1.6<f34/f<5.4 (3−1)
3<f34/f<5.2 (3−2)
−0.65<[(1−N1)/R2+(N2−1)/R3−{((1−N1)・(N2−1))/(R2・R3)}・D2]・f<−0.45 (4)
−0.62<[(1−N1)/R2+(N2−1)/R3−{((1−N1)・(N2−1))/(R2・R3)}・D2]・f<−0.48 (4−1)
ただし、
f:全系の焦点距離
f3:前記第3レンズの焦点距離
f4:前記第4レンズの焦点距離
f34:前記第3レンズと前記第4レンズとの合成焦点距離
D2:前記第1レンズの像側の面と前記第2レンズの物体側の面との光軸上での距離
N1:前記第1レンズの屈折率
N2:前記第2レンズの屈折率
R2:前記第1レンズの像側の面の曲率半径
R3:前記第2レンズの物体側の面の曲率半径
【0010】
さらに、本態様に係るマクロレンズは、第2レンズが、両凹形状である。
【0011】
加えて、本態様に係る撮像装置は、本態様に係るマクロレンズを備えている。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係るマクロレンズは、レンズ全長を短縮化しつつ、有限距離の撮影に適した等倍以上の倍率を確保することができるという優れた効果を有する。
【0013】
また、本発明の一実施形態に係る撮像装置は、近接撮影であっても被写体を大きく写すことができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係るマクロレンズのレンズ構成と光線軌跡を示す断面図である。
図2】第2実施形態に係るマクロレンズのレンズ構成を示す断面図である。
図3】第3実施形態に係るマクロレンズのレンズ構成を示す断面図である。
図4】第4実施形態に係るマクロレンズのレンズ構成を示す断面図である。
図5】第5実施形態に係るマクロレンズのレンズ構成を示す断面図である。
図6A】第1実施形態に係るマクロレンズの球面収差を示す収差図である。
図6B】第1実施形態に係るマクロレンズの非点収差を示す収差図である。
図6C】第1実施形態に係るマクロレンズの歪曲収差を示す収差図である。
図6D】第1実施形態に係るマクロレンズの倍率色収差を示す収差図である。
図7A】第2実施形態に係るマクロレンズの球面収差を示す収差図である。
図7B】第2実施形態に係るマクロレンズの非点収差を示す収差図である。
図7C】第2実施形態に係るマクロレンズの歪曲収差を示す収差図である。
図7D】第2実施形態に係るマクロレンズの倍率色収差を示す収差図である。
図8A】第3実施形態に係るマクロレンズの球面収差を示す収差図である。
図8B】第3実施形態に係るマクロレンズの非点収差を示す収差図である。
図8C】第3実施形態に係るマクロレンズの歪曲収差を示す収差図である。
図8D】第3実施形態に係るマクロレンズの倍率色収差を示す収差図である。
図9A】第4実施形態に係るマクロレンズの球面収差を示す収差図である。
図9B】第4実施形態に係るマクロレンズの非点収差を示す収差図である。
図9C】第4実施形態に係るマクロレンズの歪曲収差を示す収差図である。
図9D】第4実施形態に係るマクロレンズの倍率色収差を示す収差図である。
図10A】第5実施形態に係るマクロレンズの球面収差を示す収差図である。
図10B】第5実施形態に係るマクロレンズの非点収差を示す収差図である。
図10C】第5実施形態に係るマクロレンズの歪曲収差を示す収差図である。
図10D】第5実施形態に係るマクロレンズの倍率色収差を示す収差図である。
図11】第1実施形態〜第5実施形態に係るマクロレンズを備えた撮像装置としてのスマートフォンの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示に係るマクロレンズの第1実施形態について説明する。図1には、本実施形態に係る「マクロレンズL」の断面が示されており、この断面は、後述する第1実施形態に係る数値実施例(表1、表2)のレンズ構成に対応している。また、図1には、有限距離に位置する物体に合焦した状態における軸上光束10、最大画角の光束12の各光線軌跡(光路)及び最大画角の半値ωが示されている。なお、最大画角の光束12において、最大画角の主光線14は、一点鎖線で示されている。同様にして、図2図5には、それぞれ後述する第2実施形態〜第5実施形態に係るマクロレンズLの断面構成が示されており、これらはそれぞれ第2実施形態〜第5実施形態に係る数値実施例(表3〜表10)に対応している。
【0016】
また、図1図5において、符号Riは、最も物体側のレンズ要素の面を1番目として、像側(結像側)に向かうに従い順次増加するようにして符号を付したi番目の面の曲率半径を示している。一方、符号Diは、i番目の面とi+1番目の面との光軸Z1上での距離(面間隔)を示している。なお、各実施形態共に基本的な構成は同様であるため、以下では、図1に示したマクロレンズの構成例を基本にして説明することとする。
【0017】
マクロレンズLは、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を用いた各種撮像機器、特に、比較的小型の携帯端末機器、例えばデジタルスチルカメラ、監視カメラ、カメラ付き携帯電話機、スマートフォン、タブレット型端末、PDA(Personal Digital Assistant)等に用いることが可能である。このマクロレンズLは、光軸Z1に沿って、物体側から順に、「第1レンズL1」と、「第2レンズL2」と、「第3レンズL3」と、「第4レンズL4」とを備えている。
【0018】
一方、図11には、撮像装置としての「スマートフォン16」が示されている。スマートフォン16は、本実施形態に係るマクロレンズLと、このマクロレンズLによって形成された光学像に応じた撮像信号を出力するCCD等の撮像素子18(図1〜5参照)とを有するカメラ部20とを備えている。撮像素子18は、このマクロレンズLの結像面(撮像面)に配置されている。なお、マクロレンズLは、スマートフォン16の背面側のカメラ部22にも用いることが可能である。また、スマートフォン16には、マクロレンズLに求められる性能に応じて、後述する第2実施形態〜第5実施形態に係るマクロレンズLが搭載されていてもよい。
【0019】
図1に戻り、第4レンズL4と撮像素子18との間には、レンズを装着するカメラ側の構成に応じて、種々の光学部材24が配置されていてもよい。例えば撮像面保護用のカバーガラス、赤外線カットフィルタ等の平板状の光学部材が配置されていてもよい。この場合、光学部材24として例えば平板状のカバーガラスに、赤外線カットフィルタ、ND(Neutral Density)フィルタ等のフィルタ効果のあるコートが施されたもの、あるいは同様の効果を有する材料を使用してもよい。
【0020】
また、光学部材24を用いずに、第4レンズL4にコートを施す等して光学部材24と同等の効果を持たせるようにしてもよい。これにより、部品点数の削減とレンズ全長の短縮を図ることができる。
【0021】
このマクロレンズLは、第3レンズL3の物体側の面より物体側に配置された「開口絞りSt」を備えている。開口絞りStをこのように配置した場合には、特に結像領域の周辺部において、光学系を通過する光線の結像面(撮像素子)への入射角が大きくなるのを抑制することができ、その結果、周辺での光量低下を抑制することができる。なお、「第3レンズL3の物体側の面より物体側に配置」とは、光軸方向における開口絞りStの位置が、軸上マージナル光線と第3レンズL3の物体側の面の交点と同じ位置かそれより物体側にあることを意味している。
【0022】
第1レンズL1は、両凸形状である。このため、第1レンズL1の物体側の面と像側の面で正の屈折力を分担することにより、第1レンズL1の屈折力を確保しつつ、第1レンズL1の物体側の面と像側の面の近軸曲率半径の絶対値が小さくなりすぎることを抑制することができ、その結果、球面収差補正が容易となっている。
【0023】
第2レンズL2は、光軸近傍で負の屈折力を有している。このため、球面収差、像面湾曲及び軸状色収差を良好に補正することができる。また、第2レンズL2は、両凹形状であるため、レンズ全長を好適に短縮化でき、球面収差を良好に補正することができる。しかも、第2レンズL2は、物体側に凹面を向けているため、第1レンズL1の像側の面と第2レンズL2の物体側の面とを同方向とすることができ、その結果、第2レンズL2への入射時における高次収差の発生を抑制することができる。なお、第1実施形態〜第5実施形態のうち第2実施形態に係る第2レンズL2は、光軸近傍において像側に凸面を向けた形状となっている。
【0024】
第3レンズL3は、光軸近傍で正の屈折力を有している。このため、レンズ全長をより短縮化することができる。また、第3レンズL3は、光軸近傍において物体側に凸面を向けたメニスカス形状である。このため、レンズ全長の短縮化に有利となり、かつ、球面収差を補正しやすくすることができる。さらに、第3レンズL3の後側主点位置を物体側に寄せやすくなり、より好適にレンズ全長の短縮化を図ることができる。
【0025】
第4レンズL4は、光軸近傍で負の屈折力を有している。このため、好適にレンズ全長の短縮化を実現しつつ、像面湾曲を良好に補正することができる。また、第4レンズL4は、光軸近傍において物体側に凹面を向けたメニスカス形状である。このため、入射光の角度を小さくし、高次収差の発生を抑制することができ、かつ、像面湾曲を良好に補正することができる。
【0026】
次に、上記のように構成されたマクロレンズLの条件式に関する作用及び効果を詳細に説明する。なお、マクロレンズLは、下記各条件式について、各条件式のいずれか1つまたは任意の組合せを満足することが好ましい。また、満足する条件式はマクロレンズLに要求される事項に応じて適宜選択されることが好ましい。
【0027】
まず、第3レンズL3の焦点距離f3及び全系の焦点距離fは、以下の条件式(1)を満足することが好ましい。
1.5<f3/f<4 (1)
【0028】
条件式(1)は全系の焦点距離fに対する第3レンズL3の焦点距離f3の比の好ましい数値範囲を規定するものである。条件式(1)の下限以下とならないようにすることで、球面収差を良好に補正することができる。一方、条件式(1)の上限以上とならないようにすることで、好適にレンズ全長を短縮化することが可能となる。また、この効果を高めるために、全系の焦点距離fに対する第3レンズL3の焦点距離f3の比は、以下の条件式(1−1)を満たすことが好ましい。
1.8<f3/f<3.9 (1−1)
【0029】
さらに、この効果をより高めるために、全系の焦点距離fに対する第3レンズL3の焦点距離f3の比は、以下の条件式(1−2)を満たすことがより好ましい。
2.8<f3/f<3.9 (1−2)
【0030】
また、第4レンズL4の焦点距離f4及び全系の焦点距離fは、以下の条件式(2)を満足することが好ましい。
−55<f4/f<−2.5 (2)
【0031】
条件式(2)は全系の焦点距離fに対する第4レンズL4の焦点距離f4の比の好ましい数値範囲を規定するものである。条件式(2)の下限以下とならないようにすることで、全系の屈折力に対して第4レンズL4の負の屈折力が弱くなりすぎないようにすることができ、その結果、レンズ全長の短縮化を実現しつつ、像面湾曲を良好に補正することができる。一方、条件式(2)の上限以上とならないようにすることで、球面収差を良好に補正することができる。また、この効果を高めるために、全系の焦点距離fに対する第4レンズL4の焦点距離f4の比は、以下の条件式(2−1)を満たすことが好ましい。
−55<f4/f<−2.6 (2−1)
【0032】
さらに、この効果をより高めるために、全系の焦点距離fに対する第4レンズL4の焦点距離f4の比は、以下の条件式(2−2)を満たすことがより好ましい。
−54<f4/f<−8 (2−2)
【0033】
また、第3レンズL3と第4レンズL4との合成焦点距離f34及び全系の焦点距離fは、以下の条件式(3)を満足することが好ましい。
1.5<f34/f<5.5 (3)
【0034】
条件式(3)は全系の焦点距離fに対する第3レンズL3と第4レンズL4との合成焦点距離f34の比の好ましい数値範囲を規定するものである。条件式(3)の下限以下とならないようにすることで、レンズ全長の短縮化に有利となる。一方、条件式(3)の上限以上とならないようにすることで、光学系を通過する光線の結像面(撮像素子)への入射角が大きくなるのをより好適に抑制することができ、かつ、ディストーション(歪曲収差)及び倍率色収差を好適に補正することができる。また、この効果を高めるために、全系の焦点距離fに対する第3レンズL3と第4レンズL4との合成焦点距離f34の比は、以下の条件式(3−1)を満たすことが好ましい。
1.6<f34/f<5.4 (3−1)
【0035】
さらに、この効果をより高めるために、全系の焦点距離fに対する第3レンズL3と第4レンズL4との合成焦点距離f34の比は、以下の条件式(3−2)を満たすことがより好ましい。
3<f34/f<5.2 (3−2)
【0036】
また、第1レンズL1の像側の面と第2レンズL2の物体側の面との光軸Z1上での距離D2、第1レンズL1の屈折率N1、第2レンズL2の屈折率N2、第1レンズL1の像側の面の曲率半径R2、第2レンズL2の物体側の面の曲率半径R3の関係は、以下の条件式(4)を満足することが好ましい。なお、条件式(4)における大括弧で囲まれている部分は、第1レンズL1の像側の面と第2レンズL2の物体側の面との間の空間を空気で満たされたレンズと見なす空気レンズとしたときに、この空気レンズの屈折力PAir23を示している。
−0.65<[(1−N1)/R2+(N2−1)/R3−{((1−N1)・(N2−1))/(R2・R3)}・D2]・f<−0.45 (4)
【0037】
条件式(4)は第1レンズL1の像側の面と第2レンズL2の物体側の面とを含んで構成される空気レンズの屈折力PAir23と全系の焦点距離fとの積の好ましい数値範囲を規定するものである。条件式(4)の下限以下とならないようにすることで、歪曲収差及び倍率色収差の発生を抑制することができる。一方、条件式(4)の上限以上とならないようにすることで、ペッツバール和を小さく保ち、像面の平坦性を向上させることができる。また、この効果を高めるために、屈折力PAir23と全系の焦点距離fとの積は、以下の条件式(4−1)を満たすことが好ましい。
−0.62<[(1−N1)/R2+(N2−1)/R3−{((1−N1)・(N2−1))/(R2・R3)}・D2]・f<−0.48 (4−1)
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るマクロレンズLは、レンズ全長を短縮化しつつ、有限距離の撮影に適した等倍以上の倍率を確保することができる。また、本実施形態に係るスマートフォン16は、マクロレンズLを搭載することで近接撮影であっても被写体を大きく写すことができる。
【0039】
次に、本実施形態に係るマクロレンズLの具体的な数値実施例について説明する。後掲の表1及び表2には、図1に示されているマクロレンズLの構成に対応する具体的なレンズデータが示されている。なお、表1には、マクロレンズLを構成する各レンズの基本的なレンズデータが示されており、表2には各レンズの非球面に関するデータが示されている。表1に示されているレンズデータにおける面番号Siの欄には、本実施形態に係るマクロレンズLについて、最も物体側の光学要素の物体側の面を1番目として、像側に向かうに従い順次増加するようにして符号を付したi番目の面の番号が示されている。曲率半径Riの欄には、図1において付した符号Riに対応させて、物体側からi番目の面の曲率半径の値(mm)が示されている。面間隔Diの欄についても、同様に物体側からi番目の面Siとi+1番目の面Si+1との光軸Z1上の間隔(mm)が示されている。屈折率Njの欄には、物体側からj番目の光学要素のd線(波長587.6nm)に対する屈折率の値が示されている。アッベ数νjの欄には、物体側からj番目の光学要素のd線に対するアッベ数の値が示されている。
【0040】
また、表1には開口絞りStと光学部材24も含めて示されている。表1では開口絞りStに相当する面の面番号の欄には、面番号と(St)という語句が記載されており、像面に相当する面の面番号の欄には面番号と(IMG)という語句が記載されている。曲率半径の符号は、物体側に凸面を向けた面形状のものを正とし、像側に凸面を向けた面形状のものを負としている。また、各レンズデータの枠外上部には、諸データとして、全系の焦点距離f(mm)と、バックフォーカスBf(mm)と、FナンバーFNo.と、有限距離の物体に合焦した状態における最大画角2ω(°)の値とが示されている。なお、このバックフォーカスBfは空気換算した値を表している。また、本実施形態並びに後述する第2実施形態〜第5実施形態において、マクロレンズLは、近接撮影等の至近距離の被写体の撮影に用いられ、有限距離における集光を想定しているため、バックフォーカスBfを例示的にマイナスの値としている。
【0041】
なお、本実施形態に係るマクロレンズLでは、第1レンズL1から第4レンズL4において、全てのレンズの両面が非球面形状となっている。したがって、表1に示されているレンズ面の曲率半径の数値には、レンズ面の非球面光軸近傍の曲率半径(近軸曲率半径)の数値が用いられている。
【0042】
一方、表2には本実施形態に係るマクロレンズLにおける非球面データが示されている。非球面データとして示した数値において、記号“E”は、その次に続く数値が10を底とした“べき指数”であることを示し、その10を底とした指数関数で表される数値が“E”の前の数値に乗算されることを示す。例えば、「1.0E−02」であれば、「1.0×10−2」であることを示す。
【0043】
表2には、非球面データとして、以下の式(A)によって表される非球面形状の式における各係数Ai,KAの値が記されている。なお、式(A)で用いられる各係数については、以下に説明してあるが、Zについて補足説明すると、Zは、光軸Z1から高さhの位置にある非球面上の点から、非球面の頂点の接平面(光軸Z1に垂直な平面)に下ろした垂線の長さ(mm)を示しており、以下では、「非球面の深さ」と称している。
【0044】
【数1】



ただし、
Z:非球面の深さ(mm)
h:光軸からレンズ面までの距離(高さ)(mm)
C:近軸曲率=1/R
(R:近軸曲率半径)
Ai:第i次(iは4以上の整数)の非球面係数
KA:非球面係数
【0045】
なお、本実施形態において、非球面係数Aiは、第4次から第10次までのうちiが偶数のものが用いられているが、これに限らず、iが3以下の整数である非球面係数Aiを用いてもよいし、iが10よりも大きい整数である非球面係数Aiを用いてもよい。
【0046】
以上の第1実施形態に係るマクロレンズLと同様にして、図2図5に示したマクロレンズLの構成に対応する具体的なレンズデータを第2実施形態〜第5実施形態として、表3〜表10に示す。なお、これらの第2実施形態〜第5実施形態に係るマクロレンズLにおいても、上述した第1実施形態と同様に、第1レンズL1〜第4レンズL4の両面がすべて非球面形状となっている。また、第2実施形態を除く全ての実施形態においてマクロレンズLの倍率は等倍であり、第2実施形態に係るマクロレンズLの倍率は2倍である。
【0047】
図6A図6Dには、この順に、第1実施形態に係るマクロレンズLの球面収差、非点収差、ディストーション(歪曲収差)、倍率色収差(倍率の色収差)を表す収差図がそれぞれ示されている。
【0048】
球面収差、非点収差(像面湾曲)、ディストーション(歪曲収差)を表す各収差図には、d線(波長587.6nm)を基準波長とした収差が示されているが、球面収差図にはF線(波長486.1nm)及びC線(波長656.3nm)についての収差も示されている。一方、倍率色収差図では、F線、C線についての収差が示されている。なお、非点収差図において、実線はサジタル方向(S)の収差を示しており、破線はタンジェンシャル方向(T)の収差を示している。また、各図に適宜示されるFNo.はFナンバーを示しており、ωは有限距離に位置する物体に合焦した状態における最大画角の半値をそれぞれ示している。
【0049】
同様に、図7A図10Dには、第2実施形態〜第5実施形態に係るマクロレンズLの諸収差が示されている。なお、図7A図10Dに示される収差図は、全て物体距離が有限距離の場合のものである。
【0050】
また、表11には、各実施形態のそれぞれにおける上述した各条件式(1)〜(4)、(1−1)〜(4−1)及び(1−2)〜(3−2)に関する値が示されている。
【0051】
以上の各数値データ及び各収差図から分かるように、各実施形態に係るマクロレンズLにおいて、レンズ全長を短縮化しつつ、有限距離の撮影に適した等倍以上、具体的には等倍及び2倍の倍率を確保することができる。
【0052】
なお、マクロレンズLの構成は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、上述した各条件式(1)〜(4)、(1−1)〜(4−1)及び(1−2)〜(3−2)の少なくとも一つを満たすものであればよい。すなわち、各レンズ成分の曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数、非球面係数の値等は、各実施形態で示した値に限定されず、上述した条件式の少なくとも一つを満たす範囲内において、他の値をとり得る。
【0053】
また、各実施形態では、すべて固定焦点で使用する前提での記載とされているが、フォーカス調整可能な構成とすることも可能である。例えばレンズ系全体を繰り出したり、一部のレンズを光軸上で動かしてオートフォーカス可能な構成とすることも可能である。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
【表8】
【0062】
【表9】
【0063】
【表10】
【0064】
【表11】
【符号の説明】
【0065】
10 軸上光束
12 最大画角の光束
14 最大画角の主光線
16 スマートフォン
18 撮像素子
20 カメラ部
22 カメラ部
24 光学部材
D1〜D11 面間隔
L マクロレンズ
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
L4 第4レンズ
R1〜R12 曲率半径
St 開口絞り
Z1 光軸
ω 最大画角の半値
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D
図11