(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6921668
(24)【登録日】2021年7月30日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20210805BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20210805BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20210805BHJP
B60C 17/00 20060101ALI20210805BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20210805BHJP
B60C 15/00 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
B60C15/06 N
B60C9/08 L
B60C9/18 K
B60C9/18 C
B60C17/00 B
B60C13/00 G
B60C15/00 K
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-140313(P2017-140313)
(22)【出願日】2017年7月19日
(65)【公開番号】特開2019-18762(P2019-18762A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆之
【審査官】
弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−292415(JP,A)
【文献】
特開2008−273288(JP,A)
【文献】
特表2013−525203(JP,A)
【文献】
特開2000−017525(JP,A)
【文献】
特開2008−273291(JP,A)
【文献】
特開2009−234333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部と、サイドウォール部と、トレッド部と、前記ビード部間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層からなるベルトと、を備えた空気入りタイヤにおいて、
断面形状が非円形である金属繊維の複合体が、少なくとも一部が前記カーカスプライおよび前記ベルト層のうち少なくとも一方に近設して配置され、かつ、少なくとも一部がタイヤ外表面から3.0mm以内の範囲に存在するように配置されてなり、
前記断面形状が非円形である金属繊維が、黄銅、銅およびスチールからなる群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
ビード部と、サイドウォール部と、トレッド部と、前記ビード部間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層からなるベルトと、前記サイドウォール部におけるカーカスのタイヤ径方向内側に配置されたサイド補強ゴム層と、を備えた空気入りタイヤにおいて、
断面形状が非円形である金属繊維の複合体が、少なくともサイド補強ゴムと前記カーカスプライを介して近設して配置され、かつ、少なくとも一部がタイヤ外表面から3.0mm以内の範囲に存在するように配置されてなり、
前記断面形状が非円形である金属繊維が、黄銅、銅およびスチールからなる群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記断面形状が非円形である金属繊維の複合体が、前記断面形状が非円形である金属繊維が撚り合わされることなく引き揃えたコード状のもの、または、前記断面形状が非円形である金属繊維を織らずにシート状にしたものである請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記断面形状が非円形である金属繊維の複合体が、タイヤ断面視において、タイヤ厚み方向に波打つウェーブ状である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記断面形状が非円形である金属繊維の複合体が帯状体であり、該帯状体の幅方向がタイヤ径方向と略平行である請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記断面形状が非円形である金属繊維が、黄銅からなる請求項1〜5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記断面形状が非円形である金属繊維の線径が、10〜200μmである請求項1〜6のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ(以下、それぞれ、単に「タイヤ」とも称す)に関し、詳しくは、重量増加を伴わずに、放熱性を高めることで耐久性を向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムやプラスチックは、一般的に、金属材料と比較して、熱伝導性が2〜3オーダー程度低い。そのため、走行中におけるゴムの自己発熱が、タイヤの劣化耐久性の低下の要因のひとつとなっている。そこで、走行中にタイヤ内部で生じた熱を外部に放熱するために、充填剤として金属粉体や炭素繊維、あるいはカーボンナノチューブ等をゴムに配合する方法が提案されている。しかしながら、この場合、充填量を増加させる必要があり、作業性の悪化や硬さや燃費性に関するゴム物性の調製が難しいという問題が生じる。
【0003】
このような中、特許文献1では、発熱の大きいビード部の放熱性を改善しつつ、耐久性の低下を招くことがない空気入りタイヤが提案されている。具体的には、サイドウォール部におけるサイドウォールゴムよりも高い熱伝導率を有する高熱伝導率層を、サイドウォール部においてタイヤ径方向に沿った幅を有してタイヤ周方向に延在させており、高熱伝導率層のタイヤ径方向内側を、ビードフィラーに接触させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−292415公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1では、高熱伝導率層に金属コード、すなわちスチールコードやスチールワイヤを用いることが提案されている。しかしながら、金属コードを用いた場合、タイヤ重量の増加や、高歪領域での耐久性悪化の要因となるため、使用領域が限定されるという問題を有している。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を生じることなく、重量増加を伴わずに、放熱性を高めることで耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱伝導率のよい金属材料の断面形状が非円形であり、金属コードよりも柔軟性を有する、金属ウールのような金属繊維の複合体を用いることによって、金属材料の比表面積を大きくすることができ、その結果、効率的に熱伝導性を向上させることができ、かつ、ゴムとの剛性段差が少なく、耐久性を確保することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、ビード部と、サイドウォール部と、トレッド部と、前記ビード部間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層からなるベルトと、を備えた空気入りタイヤにおいて、
断面形状が非円形である金属繊維の複合体が、少なくとも一部が前記カーカスプライおよび前記ベルト層のうち少なくとも一方に近設して配置され、かつ、少なくとも一部がタイヤ外表面から3.0mm以内の範囲に存在するように配置されてなり、
前記断面形状が非円形である金属繊維が、黄銅、銅およびスチールからなる群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の他の空気入りタイヤは、ビード部と、サイドウォール部と、トレッド部と、前記ビード部間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層からなるベルトと、前記サイドウォール部におけるカーカスのタイヤ径方向内側に配置されたサイド補強ゴム層と、を備えた空気入りタイヤにおいて、
断面形状が非円形である金属繊維の複合体が、少なくともサイド補強ゴムと前記カーカスプライを介して近設して配置され、かつ、少なくとも一部がタイヤ外表面から3.0mm以内の範囲に存在するように配置されてなり、
前記断面形状が非円形である金属繊維が、黄銅、銅およびスチールからなる群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のタイヤにおいては、前記断面形状が非円形である金属繊維の複合体は、前記断面形状が非円形である金属繊維が撚り合わされることなく引き揃えたられたコード状のもの、または、前記断面形状が非円形である金属繊維を織らずにシート状にしたものであることが好ましく、これらは、タイヤ断面視において、タイヤ厚み方向に波打つウェーブ状であることが好ましい。また、前記断面形状が非円形である金属繊維の複合体が帯状体であり、該帯状体の幅方向がタイヤ径方向と略平行であることも好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記金属繊維は、黄銅が好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記金属繊維の幅は、10〜200μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重量増加を伴わずに、放熱性を高めることで耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一好適な実施の形態に係る空気入りタイヤのタイヤ幅方向における片側断面図である。
【
図2】本発明の他の好適な実施の形態に係る空気入りタイヤのタイヤ幅方向における片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の空気入りタイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係る空気入りタイヤのタイヤ幅方向における片側断面図である。図示するタイヤは、トラック・バス等の重荷重車両用であり、図示するように、本発明のタイヤ20は、左右一対のビード部1と、ビード部1から、それぞれタイヤ径方向外側に連なる一対のサイドウォール部2と、一対のサイドウォール部2間に跨って延び接地部を形成するトレッド部3と、を有している。また、一対のビード部1間にトロイド状に延在してこれら各部1、2、3を補強する一枚以上のカーカスプライ4からなるカーカスと、カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、少なくとも1層、図示例においては4層のベルト層5a〜5dからなるベルト5が配置されている。また、図示するタイヤにおいては、ビード部1内にそれぞれ埋設されたリング状のビードコア6のタイヤ径方向外側にビードフィラー7が配置されている。
【0014】
本発明のタイヤ20においては、断面形状が非円形である金属繊維の複合体(以下、単に、「金属繊維複合体」とも称す)が、少なくとも一部がカーカスプライ4およびベルト層のうち少なくとも一方に近設して、好ましくは、3.0mm以内に配置され、かつ、少なくとも一部がタイヤ外表面から3.0mm以内の範囲に存在するように配置されてなる。図示例においては、金属繊維複合体10の一方の端部がカーカスプライ4の折り返し端部に近設して配置され、他方の端部がサイドウォール部2の表面近傍で終端している。すなわち、発熱の大きい部位であるカーカスプライ4、ベルト層間、ベルト5の端部等から、タイヤ外表面またはその近傍にかけて、熱伝導性の大きい金属繊維複合体20を配置することで、タイヤ内部で発生した熱を外部に放熱し、これにより、ゴムの劣化を防止し、タイヤ20の耐久性を向上させている。なお、カーカスプライ4と金属複合繊維とが接する位置としては、カーカスプライ4の本体部に限らず、図示するように、折り返し端部であってもよい。
【0015】
図2は、本発明の他の好適な実施の形態に係る空気入りタイヤのタイヤ幅方向における片側断面図である。
図2に示すタイヤは、サイド補強ゴムで補強したサイド補強型のランフラットタイヤであり、図示するように、タイヤ120は、左右一対のビード部101と、ビード部101から、それぞれタイヤ径方向外側に連なる一対のサイドウォール部102と、一対のサイドウォール部102間に跨って延び接地部を形成するトレッド部103とを有している。また、一対のビード部101間にトロイド状に延在してこれら各部101、102、103を補強する一枚以上のカーカスプライ104からなるカーカスと、カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に、図示例においては、2層のベルト層105a、105bからなるベルト105が配置されている。また、図示するタイヤにおいては、ビード部101内にそれぞれ埋設されたリング状のビードコア106のタイヤ径方向外側にビードフィラー107が配置されている。
【0016】
さらに、図示するタイヤは、ベルト105のタイヤ径方向外側に、ベルト105の全体を覆うベルト補強層(キャップ層)108aと、このベルト補強層108aの両端部のみを覆う一対のベルト補強層(レイヤー層)108bとが配置されており、さらにまた、サイドウォール部102におけるカーカスのタイヤ径方向内側に、サイド補強ゴム層109が配置されている。
【0017】
本発明の他の好適な実施の形態に係る空気入りタイヤ120のように、サイド補強ゴム109を有するタイヤにおいては、金属繊維複合体110が、少なくとも一部がサイド補強ゴム109とカーカスプライ104を介して近設して、好ましくは、3.0mm以内に配置され、かつ、少なくとも一部がタイヤ外表面から3.0mm以内の範囲に存在するように配置されてなる。
【0018】
すなわち、ランフラットタイヤにおいては、金属繊維複合体は、カーカスプライ104や、ベルト層間、ベルト105等と近設して配置されていてもよく、さらに、カーカスプライ104を介してサイド補強ゴム109と近設して配置されていてもよい。
図2に示すタイヤにおいては、金属繊維複合体110の一方の端部を、カーカスプライ104を介してサイド補強ゴム109に近設して配置され、他方の端部をタイヤの外表面またはその近傍で終端するように配置している。このような構成とすることで、サイド補強ゴム109における発熱を効率よく外部に放熱することができるため、ランフラット耐久性を向上させることができる。なお、他の好適な実施の形態に係るタイヤ120においても、カーカスプライ104と金属複合繊維とが接する場合、その位置は、カーカスプライ104の本体部に限らず、折り返し部であってもよい。
【0019】
本発明のタイヤ20、120に係る金属繊維複合体10、110を構成する、断面形状が非円形の金属繊維は、金属線材等の表面を連続切削して金属繊維を得る方法等により製造することができる。このような方法で製造された金属繊維は、断面形状が三日月型、三角、長方形等となり、金属繊維自体が不均一なものとなる。そのため、断面形状が円形の金属繊維等と比較して、表面積が大きくなり、従来よりも効率よく放熱が可能となる。また、細線径であるため、柔軟性を有している。そのため、このような金属繊維複合体を配置してもゴムとの剛性段差が小さく、耐久性を確保することができる。金属繊維複合体10、110の製造コストおよび放熱性の観点から、断面形状が非円形の金属繊維の線径は、10〜200μmが好ましく、より好ましくは、50〜200μm、特に好ましくは、80〜120μmである。また、金属繊維複合体の目付け密度は、放熱性、ゴムとの剛性段差および重量の観点から、20〜2000g/m
2が好ましい。なお、目付け密度とは、金属繊維複合体における単位面積あたりの金属繊維の総重量を意味する。
【0020】
本発明のタイヤ20、120においては、上述のとおり、金属繊維複合体10、110の少なくとも一部を、タイヤ外表面から3.0mm以内の範囲に存在するように配置する。例えば、効率よく放熱を行うために、金属繊維複合体10、110をタイヤ外表面に露出させてもよいが、金属繊維複合体20、120における錆の発生を阻止する観点から、タイヤ外表面に露出させず、タイヤの内部で終端していることが好ましい。金属繊維複合体20、120からタイヤ外表面までの距離は、0.5〜3.0mmとすることが好ましい。なお、金属繊維複合体20、120とタイヤ外表面とが近設する位置は、例えば、サイドウォール部2、102やショルダー部とすることができる。また、金属繊維複合体20、120とタイヤ外表面とが近設する位置の外表面に、凸部等を設けてもよい。これにより、表面積が大きくなるため、放熱性を高めることができる。
【0021】
本発明のタイヤ20、120においては、金属繊維複合体10、110としては、断面形状が非円形である金属繊維が撚り合わされることなく引き揃えたコード状のもの、または、断面形状が非円形である金属繊維を織らずにシート状にしたものを好適に用いることができる。コード状の金属繊維複合体は、タイヤ径方向に配置してもよく、タイヤ周方向に沿う方向に配置してもよい。また、金属繊維複合体は、タイヤ断面視において、延在方向に垂直な方向、すなわち、タイヤ厚み方向に波打つウェーブ状となるように配置してもよい。これにより、タイヤ内部の熱を外部に効率よく放熱することができる。また、シート状の金属繊維複合体10、110を帯状体とし、この帯状体の幅をタイヤ径方向と略平行となるように、すなわち、タイヤ断面視、垂直となるように配置してもよい。なお、タイヤ断面視における金属繊維複合体の延在長さは、5.0〜100mmが好ましい。
【0022】
本発明のタイヤ20、120において、金属繊維複合体10、110を所定の位置に配置するにあたっては、金属繊維複合体10、110をゴムで被覆し、ゴム−金属繊維複合体として配置してもよい。そうすることで、金属繊維複合体を有するタイヤを成形し易くなる。この場合、金属繊維複合体10、110を被覆する被覆ゴムとしては特に制限はなく、従来から、ベルト等の被覆ゴムとして用いられているゴムを用いることができる。また、本発明のタイヤ20、120においては、金属繊維複合体10は、タイヤ周方向に沿って連続して配置されることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明のタイヤ20、120においては、金属繊維複合体10、110は、黄銅、銅およびスチールからなる群から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。これら金属は、熱伝導率が高く、本発明の効果を良好に得られることができる。熱伝導率以外にも、ゴムとの接着性も考慮すると、特に、黄銅が好ましい。なお、金属繊維複合体にスチールを用いる場合は、表面に黄銅めっきがなされているものを用いることが好ましい。
【0024】
本発明のタイヤ20、120は、熱伝導率が高い金属繊維複合体を、一部が発熱の大きい部位に近設し、さらに他の一部がタイヤ外表面またはタイヤ外表面近傍に存在するように配置することのみが重要であり、これ以外の構成については特に制限はない。また、本発明のタイヤの用途についても、特に制限はなく、例えば、乗用車用、トラック・バス用等の重荷重車両用、建設車両用、二輪車用、航空機用、農業用のタイヤに適用することができる。
【0025】
また、ベルト層5、105は、平行に配列されたスチールコードをゴム引きして形成することができ、そのコード角度についても、適宜設定することができる。ベルト5、105のスチールコードの構造としては特に制限はなく、単撚り構造であってもよく、層撚り構造であってもよく、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせずに束ねた束コードであってもよい。また、ベルト5、105へのスチールコードの打込み数は28〜57本/50mmであることが好ましい。さらに、
図2に示す例においては、ベルト105のタイヤ径方向外側に、ベルト補強層108として、キャップ層108aおよびレイヤー層108bが配置されている。キャップ層108aは、図示するようにベルト105の全幅以上にわたり少なくとも1層にて配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードまたは無機繊維コードがゴム引きされてなる。また、レイヤー層108bは、ベルト105の両端領域に少なくとも1層にて配置され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードがゴム引されてなる。
【0026】
さらに、図示例においては、一方のビード部から他方のビード部にわたってトロイド状に延びるカーカスは、一枚のカーカスプライ4、104からなるが、本発明のタイヤ20、120においては複数枚としてもよく、また、カーカスのコードとしてはタイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70〜90°の角度で延びる有機繊維コードを用いることができる。また、トレッド部3、103は、カーカスのクラウン領域のタイヤ径方向外側に配置した少なくとも1層、
図1に示す例では、4層の第1ベルト層5a〜第4ベルト層5dとからなるベルト5により、
図2に示す例では2層の第1ベルト層105a、第2ベルト層105dとからなるベルト105により補強されているが、やはり、本発明のタイヤ20、120においては、これに限られるものではない。
【0027】
さらにまた、トレッド部3、103の表面には適宜トレッドパターンが形成されており、トレッド部3、103の最内層にはインナーライナーが形成されていてもよい(図示せず)。さらに、本発明のタイヤ20、120に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1−1〜1−4および従来例1>
実施例1−1〜1−4および従来例1のタイヤについては、
図1に示すタイプのタイヤを、タイヤサイズ11R22.5にて作製した。金属繊維複合体は、一方の端部をカーカスプライの折り返し端部に近設するように配置し、他方の端部をサイドウォール部のタイヤ外表面から2〜3mmの位置となるように配置した。使用した金属繊維複合体はメタルウールであり、メタルウールの材質、線径、形態、目付量および幅は表1のとおりとした。従来例1のタイヤについては、上記タイヤに金属繊維複合体を用いずに作製した。作製したタイヤにつき、縦バネおよびドラム耐久性の評価を下記手順に従って行った。
【0029】
<比較例>
比較例のタイヤは、金属繊維複合体に換えてスチールワイヤを用いた。スチールワイヤの長さは40mmとし、5本/cmの間隔で配置した。これ以外については、実施例1−1と同等とした。
【0030】
<縦バネ>
各タイヤを、JATMAで定める標準リムサイズのリムを用い、JATMA規格の最大内圧において、荷重−撓み曲線を作成し、得られた荷重−撓み曲線上のある荷重における接線の傾きをその荷重に対する縦バネ定数とし、従来例1のタイヤの縦バネ定数の値を100として、指数表示した。指数値が大きいほど、縦バネ定数が大きいことを示す。したがって、指数値が小さいほど乗り心地性は良好である。
【0031】
<ドラム耐久性>
各タイヤを、標準リムに組み付け、所定の内圧(JATMA規定の内圧)を充填して、荷重6000kgfを負荷したドラム上走行試験において、ビード部故障等によって走行不能になるまでの走行距離を測定した。結果は、従来例1の測定結果を100として指数表示した。指数値が高いほどドラム耐久性に優れていることを示す。
【0032】
<実施例2−1〜2−5および従来例2>
実施例2−1〜2−5のタイヤについては、
図2に示すタイプのタイヤを、タイヤサイズ225/50R17にて作製した。金属繊維複合体は、一方の端部をカーカスプライを介してサイド補強ゴムに近設するように配置し、他方の端部をサイドウォール部のタイヤ外表面から2〜3mmの位置となるように配置した。使用した金属繊維複合体はメタルウールであり、メタルウールの材質、線径、形態、目付量および幅は表2のとおりとした。従来例2のタイヤについては、上記タイヤに金属繊維複合体を用いずに作製した。作製したタイヤにつき、縦バネ、ドラム耐久性およびランフラット耐久性の評価を下記手順に従って行った。得られた結果は、従来例2のタイヤを100とする指数にて表した。得られた結果を、同表に併記する。
【0033】
<縦バネ>
各タイヤを、JATMAで定める標準リムサイズのリムを用い、JATMA規格の最大内圧において、重−撓み曲線を作成し、得られた荷重−撓み曲線上のある荷重における接線の傾きをその荷重に対する縦バネ定数とし、従来例2のタイヤの縦バネ定数の値を100として、指数表示した。指数値が大きいほど、縦バネ定数が大きいことを示す。したがって、指数値が小さいほど乗り心地性は良好である。
【0034】
<ドラム耐久性>
ドラム表面が平滑な鋼鉄製で直径が1.707mであるドラム試験機を使用して、周辺温度を30±3℃に制御し、JATMAで定める標準リムサイズのリムを用い、JATMA規格の最大内圧において、JATMA規格の最大負荷能力の2倍の荷重をかけて、耐久性ドラム走行試験を行い、タイヤが壊れるまでの距離を測定した。評価は、従来例2の場合を100として、指数表示した。この値が大きいほど通常内圧時のドラム耐久性は良好である。
【0035】
<ランフラット耐久性>
各試作タイヤを常圧で、JATMAで定める標準リムサイズのリムにリム組みし、空気を内圧230kPaで封入してから38℃の室温中に24時間放置後、バルブのコアを抜き、内圧を大気圧として、荷重約4.17kN、速度89km/h、室温38℃の条件でドラム走行テストを行い、この際の故障発生までの走行距離で表す。なお、評価は、従来例2の場合を100とした指数で表2中に示し、この値が大きいほどランフラット耐久性は良好である。
【0036】
【表1】
※1:タイヤ断面視におけるメタルウールの延在長さ
【0037】
【表2】
【0038】
表1および2からわかるように、本発明のタイヤは縦バネを増加させずに、ドラム耐久性が向上している。また、表2から、サイド補強タイプのランフラットタイヤのランフラット耐久性も向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0039】
1、101 ビード部
2、102 サイドウォール部
3、103 トレッド部
4、104 カーカスプライ
5、105 ベルト
6、106 ビードコア
7、107 ビードフィラー
108 ベルト補強層
109 サイド補強ゴム
10、110 金属繊維複合体
20、120 タイヤ