(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態による金属板からなるパネル状成形品は、天板部と、開口部と、縦壁部と、を備える。天板部は多角形である。開口部は天板部に形成される。縦壁部は、天板部の辺のうちの少なくとも2以上の隣接する辺から伸びる。縦壁部のうちで隣接する縦壁部の組の少なくとも1組の各縦壁部は、段差部を有する。
【0023】
本実施形態のパネル状成形品は、互いに隣接し、段差部を有する縦壁部を備える。これにより、本実施形態のパネル状成形品は車内の密閉性を高くすることができる。
【0024】
好ましくは、パネル状成形品の引張強度が1200MPa以上である。
【0025】
このようなパネル状成形品を自動車用のドアインナーパネルに適用した場合、衝突特性が向上する。
【0026】
好ましくは、パネル状成形品は自動車用のドアインナーパネルであり、天板部の辺のうちの車両上側の辺に縦壁部を有しない。これにより、ドアインナーパネルをドアアウターパネルと組合せて、自動車用のサイドドアとすることができる。サイドウインドウ等はドアアウターパネルとドアインナーパネルとの間に収納される。
【0027】
好ましくは、開口部は天板部の周縁部を残すように設けられる。これにより、天板部の周縁部のうちで車両上側の辺を含む車両上側の縁部が、ドアインナーパネルのベルトライン部を形成する。
【0028】
好ましくは、天板部の車両上側の辺を含む車両上側の縁部に、この車両上側の縁部に沿って凹部及び凸部のうちの少なくとも一方が設けられる。この場合、天板部の車両上側の縁部(ベルトライン部)は、天板部を補強するベルトラインリインフォースメントの役割を担う。すなわち、ドアインナーパネルとベルトラインリインフォースメントとが一体化される。これにより、ドアインナーパネルの軽量化及び製造コストの削減ができる。
【0029】
好ましくは、パネル状成形品の天板部は、開口部を複数に分割する境界部を有する。この境界部に、この境界部に沿って凹部及び凸部のうちの少なくとも一方が設けられる。この場合、天板部の境界部は、天板部を補強するドアインパクトビームの役割を担う。すなわち、ドアインナーパネルとドアインパクトビームとが一体化される。これにより、ドアインナーパネルの軽量化及び製造コストの削減ができる。
【0030】
好ましくは、金属板は鋼板である。この場合、パネル状成形品はホットスタンピングによって成形することができ、高強度で、かつ、割れ、シワ等の欠陥が少ない。
【0031】
ドアインナーパネルの場合、好ましくは、天板部の下側の辺を含む下側の縦壁部の領域の板厚が、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。板厚の厚い下側の縦壁部により、衝突特性が向上する。
【0032】
上述したドアインナーパネルの場合、好ましくは、天板部の前側の辺を含む前側の縦壁部の領域の板厚が、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。前側の縦壁部は、ピラーに接続されるヒンジの取り付け部に相当する。板厚の厚い前側の縦壁部により、ヒンジ取り付け部の強度が十分に確保される。
【0033】
上述したドアインナーパネルの場合、好ましくは、天板部の車両上側の辺を含む車両上側の縁部の領域の板厚が、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。天板部の周縁部のうちで車両上側の辺を含む車両上側の縁部は、ドアインナーパネルのベルトライン部を形成する。板厚の厚い車両上側の縁部により、衝突特性が向上する。
【0034】
上述したドアインナーパネルの場合、好ましくは、天板部は、開口部を複数に分割する境界部を有し、境界部の領域の板厚が、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。板厚の厚い境界部により、衝突特性が向上する。
【0035】
上述したドアインナーパネルに、ベルトラインリインフォースメント、ドアインパクトビーム等の補強部材を追加してもよい。これらの補強部材を追加する場合、補強部材は上述した凹部、凸部等と重ね合わせて取り付けてもよいし、別の部位に取り付けてもよい。その場合、従来の補強部材よりも薄板材、低強度材等の低廉価の材料を使用しても各種特性を満足することができる。また、追加で取り付ける補強部材の形状を簡素にすることができる。そのため、補強部材を追加する場合であっても、製造コストを抑えることができる。
【0036】
本発明の実施形態によるパネル状成形品の製造方法は、天板部と、縦壁部と、段差部とを有するパネル状成形品の製造に適用される。天板部は多角形である。縦壁部は、天板部の辺のうちの少なくとも2以上の隣接する辺から伸びる。そして、縦壁部のうちで隣接する縦壁部の組の少なくとも1組の各縦壁部に段差部が設けられる。
【0037】
製造方法は、準備工程と、加熱工程と、プレス成形工程とを備える。準備工程では、金属板からなるブランク材を準備する。加熱工程では、ブランク材を加熱する。プレス成形工程では、加熱されたブランク材にホットスタンピングによるプレス加工を施し、ブランク材をパネル状成形品に成形する。
【0038】
プレス成形工程は、ダイと、第1パンチと、第2パンチと、ブランクホルダとを備えたプレス加工装置を用いる。ダイは、パネル状成形品の形状が造形された型彫刻部を有する。第1パンチは、ダイに対向し、天板部の形状が造形された先端面を有する。第2パンチは、第1パンチの外側に隣接するとともに、ダイに対向し、段差部の形状が造形された先端面を有する。ブランクホルダは、第2パンチの外側の少なくとも一部に隣接して存在するとともに、ダイに対向する。ブランク材は、ダイと、ブランクホルダ、第1パンチ及び第2パンチとの間に配置される。ブランクホルダ、第1パンチ及び第2パンチは、ダイに対して相対的に移動して、ブランク材に第1パンチ及び第2パンチを押し込み、パネル状成形品に成形する。
【0039】
本実施形態のパネル状成形品の製造方法は、成形難易度が高い形状のパネル状成形品を割れやシワ等の欠陥を抑制して製造することができる。成形難易度が高い形状はたとえば、パネル状成形品の隣接する縦壁部が段差部を有するような形状がある。
【0040】
好ましくは、ブランク材は、パネル状成形品の天板部に対応する位置に開口部を有する。
【0041】
これにより、天板部は伸びフランジ成形で成形される。そのため、パネル状成形品の割れやシワ等を抑制することができる。
【0042】
好ましくはプレス成形工程では、第2パンチによるブランク材の押し込みが、第1パンチによるブランク材の押し込みよりも先に完了する。
【0043】
この場合、プレス成形工程では、第2パンチによるブランク材の押し込みが完了したとき又はその押し込みが完了した後に、第1パンチによるブランク材の押し込みが始まってもよい。また、プレス成形工程では、第2パンチによるブランク材の押し込みが完了する前に、第1パンチによるブランク材の押し込みが始まってもよい。
【0044】
これにより、第1パンチよりも先に、第2パンチがダイとによってブランク材を抑え込む。そのため、パネル状成形品の割れやシワ等をより抑制することができる。ブランク材を抑え込むとはブランク材がパンチとダイとによって完全に挟み込まれ、それ以上押し込むまれなくなることである。また、個々のパンチによるブランク材の押し込みの完了とは、ブランク材を抑え込む状態になることである。
【0045】
好ましくは、成形後のパネル状成形品の引張強度は、1200MPa以上である。
【0046】
このような、パネル状成形品を自動車用のドアインナーパネルに適用した場合、衝突特性を向上させることができる。
【0047】
好ましくは、プレス成形工程で用いられるダイの型彫刻部は、ブランクホルダと対向する基準面から第2パンチと対向する段差面までの深さをd1とし、基準面から第1パンチと対向する型底面までの深さをd2としたとき、d2≧40mm、かつ、d1/d2<0.8の条件を満たす。
【0048】
この場合、パネル状成形品を自動車用のドアインナーパネルに適用した場合、ウインドウ等を収納する十分な広さの空間を得ることができる。また車内の密閉性を高くすることができる。
【0049】
上述の金属板は鋼板であるのが好ましい。この場合、ホットスタンピングによる焼入れによって、成形されたパネル状成形品の強度が高まる。また、鋼板はテーラードブランクであってもよい。これにより、必要な箇所に限定して強度を強化することができ、板厚を減少することもできる。
【0050】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。本実施形態では例として、パネル状成形品が鋼板からなる自動車用ドアインナーパネルの場合を説明する。
【0051】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図1を参照して、ドアインナーパネル1は、天板部2、開口部3、縦壁部4、段差部5及びフランジ部6を備える。天板部2の平面形状は多角形である。多角形は、たとえば、四角形でもよいし、五角形でもよい。多角形の角部は、R形状であってもよい。
図1では、例として、天板部2の平面形状が五角形である場合を示す。ドアインナーパネル1において、天板部2の車両上側の辺はベルトラインBLを形成する。本実施形態では、鋼板の板厚が一定である場合を説明する。したがって、ドアインナーパネル1の板厚も全域にわたり一定である。ただし、厳密には、プレス成形により、板厚のわずかな増減は生じる。
【0052】
縦壁部4は、天板部2の辺のうちの少なくとも2以上の隣接する辺から伸びる。
図1では、例として、五角形の天板部2の5つの辺のうち、車両上側の辺(ベルトラインBL)を除く4つの辺2A、2B、2C及び2Dから縦壁部4が伸びる場合を示す。しかしながら、縦壁部4が伸びる天板部2の辺の数は4つに限定されない。縦壁部4は、天板部2の2以上の隣接する辺の各辺から伸びていればよい。天板部2の2以上の隣接する各辺から縦壁部4が伸びる場合、各辺から伸びる各縦壁部も隣接する。
図1では、例として、縦壁部4が天板部2に対して垂直に伸びる場合を示す。しかしながら、縦壁部4は天板部2に対して厳密に垂直でなくてもよい。縦壁部4によって天板部2はフランジ部6から突出し、これによりウインドウ等を収納するための空間が形成される。
【0053】
段差部5は、天板部2に繋がる縦壁部4Aから外側に伸びる。段差部5の外縁は、フランジ部6に繋がる縦壁部4Bに繋がる。
図1では、例として、段差部5の面が天板部2と平行である場合を示す。しかしながら、段差部5の面は、天板部2と厳密に平行でなくてもよい。
図1では、例として、3つの隣接する縦壁部4が段差部5を有する場合を示す。すなわち、隣接する縦壁部4の組が2つあり、その2組が共に段差部5を有する場合を示す。しかしながら、段差部5を有する縦壁部4の組数は2組に限定されない。隣接する縦壁部4の組のうちの少なくとも1組が段差部5を有していればよい。
図1では、例として、1段の段差部5が縦壁部4に設けられる場合を示す。しかしながら、段差部5の段数は1段に限定されず、複数段であってもよい。
【0054】
天板部2は開口部3を含む。ドアインナーパネル1が鋼板からなる場合、天板部2は伸びフランジ変形によって成形される。天板部2は開口部3を含むため、伸びフランジ変形しやすい。
図1では、例として、開口部3が天板部2の周縁部を残すように1箇所設けられる場合を示す。しかしながら、開口部3の数は1箇所に限定されない。天板部2は、複数の開口部3を含んでもよい。開口部3の形状は、円、楕円、多角形等でもよく、特に限定されない。自動車用ドアインナーパネル1では、開口部3に音響スピーカ、取っ手等が取り付けられる。
【0055】
図2は、
図1とは異なる形状の開口部3を有するドアインナーパネルの斜視図である。
図2を参照して、開口部3は天板部2の周縁部の1辺に広がる。すなわち、開口部3はベルトラインBLが途切れるように設けられる。この場合、ベルトラインBLにはベルトラインリインフォースメント等の補強部材が取り付けられてもよい。
【0056】
図3は、自動車用サイドドアの鉛直断面の模式図である。
図3を参照して、サイドドアは、ドアアウターパネルAとドアインナーパネル1とを組み合わせて製造される。空間SPは、ドアアウターパネルAとドアインナーパネル1との間の空間である。空間SPには、音響スピーカ、ウインドウ、ウインドウ駆動装置等を収納する場合がある。そのため、ドアインナーパネル1に縦壁部4を設けることにより、空間SPが形成されることが多い。
【0057】
ドアインナーパネル1において、天板部2の車両上側の辺はベルトラインBLとなる。ベルトラインBLは図示しないウインドウの出入り口側になる。ウインドウを開く場合、ウインドウは下降し、空間SPに収納される。そのため、ベルトラインBLには縦壁部は存在しない。
【0058】
図4は、自動車用サイドドア及びその近傍の水平方向断面の模式図である。
図4を参照して、段差部5は車体のピラーBと対向する。そのため、本実施形態のドアインナーパネル1は、段差部5を有しないドアインナーパネルよりも自動車の車内の密閉性を高くすることができる。段差部5とピラーBとの間に、シール部材が配置されてもよい。この場合、車内の密閉性をさらに高くすることができる。シール部材はたとえば、ゴムである。
【0059】
天板部2の車両前側の辺2Aを含む車両前側の縦壁部4には、ピラー(図示しない)に接続されるヒンジが取り付けられる。
【0060】
図4に示すh1は、フランジ部6から段差部5までの高さを示す。h2は、フランジ部6から天板部2までの高さを示す。本実施形態のドアインナーパネル1は、h2≧40mm、かつ、h1/h2<0.8の条件を満足するのが好ましい。h2<40mmの場合、ウインドウ等を収納する空間SPが小さすぎるからである。h1/h2≧0.8の場合、天板部2と段差部5との距離が近いため、車内の密閉性が低くなるからである。
【0061】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図5に示す第2実施形態のドアインナーパネル1は、前記第1実施形態のドアインナーパネル1の構成を基本とする。後述する第3及び第4実施形態でも同様とし、重複する説明は適宜省略する。
【0062】
図5を参照して、第2実施形態のドアインナーパネル1では、4つの隣接する縦壁部4(3組の縦壁部4)のすべてに段差部5が設けられる。この場合、段差部5は、車体のセンターピラー、フロントピラー、サイドシル等と対向する。したがって、車内の密閉性をさらに高くすることができる。
【0063】
[第3実施形態]
図6は、第3実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図6を参照して、第3実施形態のドアインナーパネル1では、五角形の天板部2の5つの辺のうち、ベルトラインBLを除く4辺から縦壁部4が伸び、隣接する4つの縦壁部4のうちの3つの縦壁部4に段差部5が設けられる場合を示す。
【0064】
第3実施形態のドアインナーパネル1では、天板部2のベルトラインBLを含む車両上側の縁部21(以下、「ベルトライン部」ともいう)に、このベルトライン部21に沿って凹部7が設けられる。凹部7の形成により、天板部2のベルトライン部21の断面二次モーメントが増加する。すなわち、凹部7はベルトライン部21の強度を高める。一般に、ドアインナーパネルのベルトライン部は、ベルトラインリインフォースメント等の補強部材を取り付けることによって補強されることが多い。この点、第3実施形態のドアインナーパネル1では、凹部7を有するベルトライン部21が天板部2に一体的に設けられる。換言すると、第3実施形態では、ドアインナーパネルにベルトラインリインフォースメントが一体化される。したがって、ベルトライン部21は、別個のベルトラインリインフォースメントによって補強される必要がない。これにより、ドアの部品点数及び組立工数を削減することができ、更に、ドアの重量を軽くすることができる。
【0065】
ベルトライン部21には、凹部7に代えて凸部を設けても構わないし、凹部7と凸部の両方を設けても構わない。凸部の形成により、天板部2のベルトライン部21の断面二次モーメントが増加することに変わりはない。
【0066】
[第4実施形態]
図7は、第4実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図7を参照して、第4実施形態のドアインナーパネル1では、前記
図1に示す第1実施形態の開口部が複数に分割される。すなわち、天板部2に複数の開口部が設けられる。
図7では、例として、2つの開口部3A及び3Bが設けられる場合を示す。
【0067】
第4実施形態のドアインナーパネル1では、天板部2は、開口部3A及び3Bの境界部22を有する。境界部22には、この境界部22に沿って凹部8が設けられる。凹部8の形成により、天板部2の境界部22の断面二次モーメントが増加する。すなわち、凹部8は境界部22の強度を高める。一般に、サイドドアの強度を高めるために、ドアインナーパネルの天板部は、ドアインパクトビーム等の補強部材を取り付けることによって補強されることが多い。この点、第4実施形態のドアインナーパネル1では、凹部8を有する境界部22が天板部2に一体的に設けられる。換言すると、第4実施形態では、ドアインナーパネルにドアインパクトビームが一体化される。したがって、天板部2はドアインパクトビーム等によって補強される必要がない。これにより、ドアの部品点数及び組立工数を削減することができ、更に、ドアの重量を軽くすることができる。
【0068】
境界部22には、凹部8に代えて凸部を設けても構わないし、凹部8と凸部の両方を設けても構わない。凸部の形成により、天板部2の境界部22の断面二次モーメントが増加することに変わりはない。
【0069】
もっとも、
図7に示す第4実施形態のドアインナーパネル1のベルトライン部21に、前記
図6に示す凹部7及び凸部のうちのいずれか一方を追加してもよいし、両方を追加してもよい。
【0070】
ここで、ドアインナーパネルのように、互いに隣接する縦壁部に段差部が設けられるパネル状成形品は、成形の難易度が高く、プレス成形の際に割れ、シワ等の欠陥が発生しやすい。そのため、従来、複雑な形状の成形品を成形する場合、素材として延性の高い低強度鋼板を用いていた。その結果、パネル状成形品の衝突特性の向上に限界があった。この点、縦壁部と段差部とを有するような複雑な形状であっても、天板部に開口部を設けて、ホットスタンピングを適用することにより、割れ、シワ等の欠陥が抑制され、引張強度が1200MPa以上の高強度であるパネル状成形品を得ることができる。
【0071】
本実施形態のパネル状成形品の素材として用いられる鋼板は、質量%で、炭素(C):0.11%以上含有するのが好ましい。鋼板が0.11%以上の炭素を含有する場合、ホットスタンピング後のパネル状成形品の強度を高くすることができる。
【0072】
上述のように、パネル状成形品を高強度とすることで、それを自動車のドアインナーパネルに適用した場合、ドアの衝突特性が向上する。パネル状成形品の硬度はビッカース硬さでHV380以上であるのが好ましい。硬度HV380は、引張強度1200MPaに相当する。なお、ビッカース硬さHVはJIS Z 2244に準拠するものである。
【0073】
引張強度が高いドアインナーパネルは、通常、成形が困難である。以下、上述の実施形態のドアインナーパネルの製造方法の一例を説明する。以下の製造方法では、製造するドアインナーパネルが、鋼板からなり、引張強度が1200MPa以上である場合を例示する。
【0074】
[製造方法]
本実施形態のドアインナーパネルの製造方法は、準備工程と、加熱工程と、ホットスタンピングによるプレス成形工程と、を備える。準備工程では鋼板からなるブランク材を準備する。加熱工程ではブランク材を加熱する。プレス成形工程では、加熱されたブランク材をプレス加工すると同時に、成形されたドアインナーパネルを焼入れする。本実施形態のプレス成形工程では、プレス加工装置として、ホットスタンピング装置を用いる。
【0075】
[ホットスタンピング装置10]
図8は、本実施形態のドアインナーパネルを製造するためのホットスタンピング装置を模式的に示す断面図である。
図8を参照して、ホットスタンピング装置10は、上型として、パンチ11及びブランクホルダ14を備え、下型として、ダイ15を備える。
【0076】
パンチ11は、第1パンチ12と第2パンチ13とを備える。第1パンチ12は先端面12Aを備える。第1パンチ12の先端面12Aには、ドアインナーパネルの天板部の形状が造形される。第2パンチ13は先端面13Aを備える。第2パンチ13の先端面13Aには、ドアインナーパネルの段差部の形状が造形される。パンチ11は、ブランク材Sをダイ15の型彫刻部16に押し込みドアインナーパネルを成形する。
【0077】
ブランクホルダ14は第2パンチ13の外側の少なくとも一部に隣接して配置される。ブランクホルダ14は先端面14Aを有する。ブランクホルダ14の先端面14Aは、ダイ15の基準面16Cと対向する。ブランクホルダ14は、ダイ15の基準面16Cとの間にブランク材Sを挟み込む。
【0078】
ダイ15は、型彫刻部16を有する。型彫刻部16は、型底面16A、段差面16B及び基準面16Cを備える。型底面16Aは第1パンチ12の先端面12Aと対向する。段差面16Bは第2パンチ13の先端面13Aと対向する。
【0079】
第1パンチ12、第2パンチ13及びブランクホルダ14は、上型ホルダ17に支持される。第2パンチ13及びブランクホルダ14と上型ホルダ17との間には、図示しない加圧部材が設けられる。加圧部材は、油圧シリンダ、ガスシリンダ、ばね、ゴム等である。ダイ15は、下型ホルダ18に固定される。上型ホルダ17は、図示しないスライドに取り付けられる。下型ホルダ18は、図示しないボルスタプレートに取り付けられる。ここで、ホットスタンピング装置10は、
図8に示す場合に限定されない。例えば、第1パンチ12、第2パンチ13及びブランクホルダ14は、それぞれ個別に可動するスライドに取り付けられてもよい。
【0080】
型底面16A及び第1パンチ12の先端面12Aは、
図1に示すドアインナーパネル1の天板部2を成形する。段差面16B及び第2パンチ13の先端面13Aは、
図1に示すドアインナーパネル1の段差部5を成形する。基準面16C及びブランクホルダ14の先端面14Aは、
図1に示すドアインナーパネル1のフランジ部6を成形する。
【0081】
ダイ15において、基準面16Cから段差面16Bまでの深さd1と、基準面16Cから型底面16Aまでの深さd2は、d2≧40mm、かつ、d1/d2<0.8の条件を満たすのが好ましい。深さd1及び深さd2はそれぞれ、
図4に示す高さh1及び高さh2に対応する。そのため、d2<40mmの場合、ウインドウ等を収納する空間が小さすぎる。d1/d2≧0.8の場合、天板部2と段差部5との距離が近いため、車内の密閉性が低くなる。
【0082】
本実施形態のホットスタンピング装置10は、パンチ11及びブランクホルダ14を装置上方に有し、ダイ15を装置下方に有する場合を示す。しかしながら、これらの配置は
図8に示す場合に限定されない。すなわち、ホットスタンピング装置10は、パンチ11及びブランクホルダ14と、ダイ15との配置は上下反転してもよい。要するに、パンチ11及びブランクホルダ14が、ダイ15に対して相対的に移動する構成であればよい。以下、本実施形態の製造方法の各工程を説明する。
【0083】
[準備工程]
準備工程では、鋼板からなるブランク材を準備する。本実施形態のドアインナーパネルの鋼板は、質量%で、炭素(C):0.11%以上含有するのが好ましい。鋼板が0.11%以上の炭素を含有する場合、ホットスタンピング後のドアインナーパネルの強度を高くすることができる。
【0084】
[加熱工程]
加熱工程では、図示しない加熱装置によってブランク材は加熱される。ブランク材が鋼板の場合、加熱温度は700℃以上が好ましい。加熱温度はたとえば、900℃である。加熱温度は、材料、成形難易度等によって適宜設定される。ホットスタンピングでは、ブランク材を加熱し軟化させるため、複雑な形状を成形することができる。複雑な形状はたとえば、
図1に示すドアインナーパネル1のような隣接する縦壁部4が段差部5を有する形状等がある。
【0085】
ブランク材は、その材料のA1変態点以上に加熱されるのが好ましい。ブランク材はA3変態点以上に加熱されるのがさらに好ましい。ホットスタンピングでは、ブランク材をプレス成形するのと同時に、成形されたドアインナーパネルを焼入れする。ブランク材がA1点以上に加熱されれば、焼入れ後のドアインナーパネルはマルテンサイト組織となり強度が高くなる。
【0086】
[プレス成形工程]
図9A〜
図9Cは、本実施形態のプレス成形工程を模式的に示す断面図である。
図9Aはブランクホルダ14でブランク材Sを挟み込む段階を示す。
図9Bは第2パンチ13による押し込みが完了したときの状態を示す。
図9Cは第1パンチ12による押し込みが完了したときの状態を示す。
【0087】
図9Aを参照して、加熱されたブランク材Sはホットスタンピング装置10に配置される。ブランク材Sが配置された後、スライドが下降する。これにより、ブランクホルダ14の先端面14Aとダイ15の基準面16Cとでブランク材Sを挟み込む。ただし、ブランクホルダ14の先端面14Aとダイ15の基準面16Cとの間隔は、ブランク材Sの厚さよりも大きい方が好ましい。すなわち、ブランク材Sとブランクホルダ14の先端面14Aとの間に隙間が設けられる。隙間の大きさはたとえば、0.1mmである。ブランク材Sをブランクホルダ14に接触させた場合、ブランク材Sがプレス成形される前に、ブランク材Sのブランクホルダ14と接触する部分が冷却される。そのため、ブランク材Sの冷却速度が部分的に異なるため、成形品の強度が部分により異なる。したがって、ブランクホルダ14の先端面14Aとブランク材Sとの間はわずかな隙間が設けられるのが好ましい。
【0088】
図9Bを参照して、スライドが更に下降すると、パンチ11とダイ15とによってブランク材Sは絞り成形される。
図9Bでは、第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みが完了したとき、第1パンチ12の先端面12Aは第2パンチ13の先端面13Aと同じ高さの位置である場合を示す。すなわち、第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みが完了したと同時に、第1パンチ12によるブランク材Sの押し込みが始まる場合を示す。しかしながら、第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みが完了したとき、第1パンチ12の先端面12Aの高さの位置は第2パンチ13の先端面13Aと同じ高さの位置に限定されない。このときの第1パンチ12の先端面12Aの高さの位置は、第2パンチ13の先端面13Aより高い位置にあってもよいし、低い位置にあってもよい。すなわち、第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みが完了した後に、第1パンチ12によるブランク材Sの押し込みが始まってもよい。また、第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みが完了する前に、第1パンチ12によるブランク材Sの押し込みが始まってもよい。いずれの場合であっても、第1パンチ12による押し込みは、第2パンチ13による押し込みよりも先に完了しない。なお、ブランクホルダとダイによるブランク材の抑え込みは第2パンチの成形が完了するまでに行われればよい。
【0089】
図9Cを参照して、第2パンチ13による押し込みが完了した後、第1パンチ12は下降し、ブランク材Sは絞り成形される。このとき、ブランク材Sの第2パンチ13により押し込まれた部分は、第2パンチ13により拘束される。これにより、ドアインナーパネルの段差部付近に発生するシワを抑制することができる。以下、この点を詳述する。
【0090】
[割れ及びシワの抑制]
図10は、一般的なホットスタンピング装置によるプレス加工中の状態を示す断面図である。
図10では、一般的なホットスタンピング装置のダイの段差面付近を拡大して示す。
図10を参照して、ホットスタンピング装置200では、パンチ210の先端面210A及び210Bはパンチ210に一体的に造形される。そのため、パンチ210の先端面210A及び210Bは同時に、ダイ220の型底面220A及び段差面220Bに到達する。先端面210Aは、先端面210Bよりもブランク材Sを押し込む距離が長い。そのため、
図10に示すように、パンチ210を下降させたとき、始めに先端面210Aがブランク材Sを押し込む。このとき、ブランク材Sの一部分S1は、パンチ210の先端面210B及びダイ220の段差面220Bによって拘束されていない。つまり、ブランク材Sの一部分S1は、パンチ210の先端面210B及びダイ220の段差面220Bと接触しない。
【0091】
ホットスタンピングでは、ブランク材とパンチ、ダイ等との接触によってブランク材を冷却する。したがって、プレス加工中の
図10に示す段階では、ブランク材Sの一部分S1は、冷却されない。ブランク材Sの一部分S1は、パンチ210が
図10に示す位置よりもさらに押し込まれたとき、冷却される。要するに、ドアインナーパネルの天板部及び段差部の形状が一体的に造形されたパンチ210によって、縦壁部に段差部が設けられたドアインナーパネルを成形した場合、ブランク材Sの一部分S1は他の部分よりも遅れて冷却される。
【0092】
ブランク材Sの冷却が部分的に遅れると、ブランク材Sの強度及び延性が部分的に異なる場合がある。この場合、成形されるドアインナーパネルに割れ、シワ等が発生しやすくなる。
図1に示すように、ドアインナーパネル1の隣接する縦壁部4が段差部5を有する場合、特に割れ、シワ等が発生しやすい。成形後のドアインナーパネルの強度が高い場合、さらに割れ、シワ等が発生しやすくなる。
【0093】
本実施形態のドアインナーパネルの製造方法は、
図8に示すように、第1パンチ12及び第2パンチ13を有するホットスタンピング装置10を用いる。これにより、
図1に示すようなドアインナーパネル1の天板部2と段差部5は、別個のパンチで成形される。加えて、第2パンチ13による押し込みは、第1パンチ12による押し込みよりも先に完了する。これにより、一方のパンチが天板部2を成形するとき、他方のパンチがドアインナーパネル1の段差部5を抑え込む。したがって、天板部2を成形するとき、ブランク材の拘束されていない部分が少なくなり、ドアインナーパネルの割れやシワ等を抑制することができる。
【0094】
ブランク材Sは、開口部を有していてもよい。この場合、ブランク材Sはダイ15の型底面16Aに対向する位置に開口部を有する。これにより、
図1に示すように、天板部2に開口部3を有するドアインナーパネル1が成形される。すなわち、ブランク材Sの開口部は、ドアインナーパネル1の開口部3に相当する。ブランク材Sが開口部を有する場合、天板部2は伸びフランジ成形により成形される。具体的には、第1パンチ12がブランク材Sを加工するとき、開口部の外縁は開口部が広がる方向に伸びる。そのため、第1パンチ12を押し込んでも割れが発生しにくい。さらに、ホットスタンピングでは、ブランク材Sが加熱されることによりブランク材Sの延性が向上するため、伸びフランジ成形を容易にすることができる。
【0095】
[他の製造方法]
図11A〜
図11Cは、
図9A〜
図9Cとは異なるプレス成形工程を模式的に示す断面図である。
図11Aはブランクホルダ14でブランク材Sを挟み込む段階を示す。
図11Bは第2パンチ13による押し込みが完了したときの状態を示す。
図11Cは第1パンチ12による押し込みが完了したときの状態を示す。
【0096】
図11Bを参照して、
図9A〜
図9Cとは異なるプレス成形工程では、第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みが完了したとき、第1パンチ12の先端面12Aは第2パンチ13の先端面13Aよりも下方にある。すなわち、第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みが完了する前に、第1パンチ12によるブランク材Sの押し込みが始まる。このとき、第1パンチ12によるブランク材Sの押し込みは、完了していない。この場合も上述したように、第1パンチ12による押し込みが完了する前に、第2パンチ13がブランク材Sを抑え込む。これにより、成形難易度の高い形状のドアインナーパネルを成形しても、割れやシワ等を抑制することができる。
図11A〜
図11Cでは、ブランク材Sは開口部31を有する場合を示す。したがって、ドアインナーパネルの天板部は、伸びフランジ成形で成形される。
【0097】
ホットスタンピングでは、ブランク材の成形と同時に焼入れを行う。具体的には、ブランク材はパンチ、ダイ及びホルダとの接触により冷却される。これにより、高強度のドアインナーパネルを成形することができる。高強度のドアインナーパネルは、たとえば、引張強度が1200MPa以上の成形品である。
【0098】
本実施形態の製造方法では、第2パンチ13による押し込みが完了する前において、第1パンチ12の先端面12Aの高さの位置は特に限定されない。要するに、第1パンチ12が先にブランク材Sを押し込んでもよいし、第2パンチ13が先にブランク材Sを押し込んでもよい。第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みが、第1パンチ12によるブランク材Sの押し込みよりも先に完了すればよい。これにより、成形難易度の高い形状のドアインナーパネルを成形することができる。また、ブランクホルダの下降は第2パンチによる押し込みが完了するまでに行われればよい。
【0099】
しかしながら、鋼板に延性の高い低強度鋼板を用いる場合、第1パンチ12によるブランク材Sの押し込みが、第2パンチ13によるブランク材Sの押し込みよりも先に完了してもよい。要するに、本実施形態の製造方法は、分割されたパンチを用いるため、ドアインナーパネルを様々な成形難易度の形状にプレス成形することができる。
【0100】
本実施形態の製造方法では、第1及び第2パンチを備えるホットスタンピング装置でドアインナーパネルを製造する場合を説明した。しかしながら、パンチの数は2つに限定されない。第2パンチは、複数のパンチに分割されてもよい。要するに、3以上のパンチを有するホットスタンピング装置を用いてもよい。この場合、ドアインナーパネルの縦壁部に、複数の段差部が設けられる。
【0101】
上述した製造方法において、鋼板をテーラードブランクとすることもできる。以下、テーラードブランクから製造されるドアインナーパネルの例を説明する。
【0102】
[第5実施形態]
図12は、第5実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図13A及び
図13Bは、
図12に示すドアインナーパネルの素材を示す斜視図である。これらの図のうち、
図13Aは、開口部を打ち抜く前の状態を示す。
図13Bは、開口部を打ち抜いた後、ホットスタンピングに供される直前の状態を示す。
【0103】
図12に示す第5実施形態のドアインナーパネル1は、前記第1〜第4実施形態のドアインナーパネルと比較し、上記したホットスタンピングによって成形される点で共通するが、テーラードブランクを素材とする点で相違する。テーラードブランクは、テーラード溶接ブランク(以下、「TWB」ともいう)と、テーラードロールドブランク(以下、「TRB」ともいう)に大別される。TWBは、板厚、引張強度等が異なる複数種の鋼板を溶接(例:突き合わせ溶接)によって一体化したものである。一方、TRBは、鋼板を製造する際に圧延ロールの間隔を変更することによって、板厚を変化させたものである。
図13A及び
図13Bでは、例として、テーラードブランクがTRBである場合を示す。
【0104】
図12を参照して、第5実施形態のドアインナーパネル1では、前記
図5に示す第2実施形態のドアインナーパネル1と同様に、4つの隣接する縦壁部4(3組の縦壁部4)のすべてに段差部5が設けられる。開口部3は、天板部2の周縁部を残すように1箇所設けられる。このドアインナーパネル1において、天板部2の車両上側の辺(ベルトラインBL)を含む車両上側の縁部(ベルトライン部21)の領域の板厚は、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。すなわち、ドアインナーパネル1の板厚は一定ではなく、ベルトライン部21の板厚が厚くなっている。これにより、ベルトライン部21の強度が高まり、ドアインナーパネルの衝突特性が向上する。また、ベルトライン部21以外の領域で高い強度が求められない領域がある場合、その領域の板厚を薄くすれば、ドアインナーパネル1の軽量化も望める。
【0105】
第5実施形態のドアインナーパネル1は、
図13A及び
図13Bに示す素材(TRB)を用いて製造される。具体的には、先ず、
図13Aに示すように、ドアインナーパネル1の輪郭形状に見合った輪郭形状のTRB30を準備する。このTRB30において、ドアインナーパネル1のベルトライン部21に相当する領域の板厚は、それ以外の領域の板厚よりも厚い。次に、そのTRB30に、ドアインナーパネル1の天板部2の開口部3に対応する開口部31を形成する。この開口部31は、たとえば、打ち抜き加工によって形成される。このような開口部31を有するTRB30に、上記したホットスタンピングを施すことにより、
図12に示すドアインナーパネル1を成形することができる。
【0106】
第5実施形態では、素材として、TRBに代えてTWBを用いることもできる。
【0107】
[第6実施形態]
図14は、第6実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図14に示す第6実施形態のドアインナーパネル1は、前記
図12に示す第5実施形態のドアインナーパネルを前記第3実施形態に準じて変形したものである。
【0108】
図14を参照して、第6実施形態のドアインナーパネル1では、前記
図6に示す第3実施形態のドアインナーパネル1と同様に、天板部2のベルトライン部21に、このベルトライン部21に沿って凹部7が設けられる。板厚の厚いベルトライン部21に凹部7が設けられるため、ベルトライン部21の強度が一層高まる。これにより、ベルトライン部21は、ベルトラインリインフォースメントの役割も担うようになる。ベルトライン部21には、前記第3実施形態と同様に、凹部7に代えて凸部を設けても構わないし、凹部7と凸部の両方を設けても構わない。
【0109】
第6実施形態のドアインナーパネル1は、前記第5実施形態と同様に、
図13A及び
図13Bに示す素材を用いて製造される。凹部7は、ホットスタンピングによって形成される。
【0110】
[第7実施形態]
図15は、第7実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図16A及び
図16Bは、
図15に示すドアインナーパネルの素材を示す斜視図である。これらの図のうち、
図16Aは、開口部を打ち抜く前の状態を示す。
図16Bは、開口部を打ち抜いた後、ホットスタンピングに供される直前の状態を示す。
図15に示す第7実施形態のドアインナーパネル1は、前記
図12に示す第5実施形態のドアインナーパネル1を前記第4実施形態に準じて変形したものである。
【0111】
図15を参照して、第7実施形態のドアインナーパネル1では、前記第4実施形態のドアインナーパネル1と同様に、天板部2に複数の開口部3A及び3Bが設けられる。
図15では、例として、2つの開口部3A及び3Bが設けられる場合を示す。天板部2は、開口部3A及び3Bの境界部22を有する。境界部22は、ベルトライン部21とほぼ平行に前後方向に伸びる。このドアインナーパネル1において、天板部2のベルトライン部21の領域の板厚は、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。さらに、天板部2の境界部22の領域の板厚は、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。すなわち、ドアインナーパネル1の板厚は一定ではなく、ベルトライン部21及び境界部22の板厚が厚くなっている。これにより、ベルトライン部21及び境界部22の強度が高まり、ドアインナーパネルの衝突特性が向上する。また、ベルトライン部21及び境界部22以外の領域で高い強度が求められない領域がある場合、その領域の板厚を薄くすれば、ドアインナーパネル1の軽量化も望める。
【0112】
第7実施形態のドアインナーパネル1は、
図16A及び
図16Bに示す素材を用いて製造される。具体的には、先ず、
図16Aに示すように、ドアインナーパネル1の輪郭形状に見合った輪郭形状のTRB30を準備する。このTRB30において、ドアインナーパネル1のベルトライン部21及び境界部22にそれぞれ相当する領域の板厚は、それら以外の領域の板厚よりも厚い。次に、そのTRB30に、ドアインナーパネル1の天板部2の開口部3A及び3Bに対応する開口部31A及び31Bを形成する。このような開口部31A及び31Bを有するTRB30に、上記したホットスタンピングを施すことにより、
図15に示すドアインナーパネル1を成形することができる。
【0113】
もっとも、第7実施形態のドアインナーパネル1において、ベルトライン部21及び境界部22のうちのいずれか一方の板厚が厚くなるように変形しても構わない。
【0114】
[第8実施形態]
図17は、第8実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図17に示す第8実施形態のドアインナーパネル1は、前記
図15に示す第7実施形態のドアインナーパネルを前記第4実施形態に準じて変形したものである。
【0115】
図17を参照して、第8実施形態のドアインナーパネル1では、前記第4実施形態のドアインナーパネル1と同様に、天板部2の境界部22には、この境界部22に沿って凹部8が設けられる。板厚の厚い境界部22に凹部8が設けられるため、境界部21の強度が一層高まる。これにより、境界部22は、ドアインパクトビームの役割も担うようになる。境界部22には、前記第4実施形態と同様に、凹部8に代えて凸部を設けても構わないし、凹部8と凸部の両方を設けても構わない。
【0116】
第8実施形態のドアインナーパネル1は、前記第7実施形態と同様に、
図16A及び
図16Bに示す素材を用いて製造される。凹部8は、ホットスタンピングによって形成される。
【0117】
[第9実施形態]
図18は、第9実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図19A及び
図19Bは、
図18に示すドアインナーパネルの素材を示す斜視図である。これらの図のうち、
図19Aは、開口部を打ち抜く前の状態を示す。
図19Bは、開口部を打ち抜いた後、ホットスタンピングに供される直前の状態を示す。
【0118】
図18を参照して、第9実施形態のドアインナーパネル1では、天板部2の下側の辺2Bを含む下側の縦壁部4の領域の板厚は、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。すなわち、ドアインナーパネル1の板厚は一定ではなく、下側の縦壁部4の板厚が厚くなっている。これにより、下側の縦壁部4の強度が高まり、ドアインナーパネルの衝突特性が向上する。また、下側の縦壁部4以外の領域で高い強度が求められない領域がある場合、その領域の板厚を薄くすれば、ドアインナーパネル1の軽量化も望める。
図18では、例として、下側の縦壁部4A及び4Bに加え、下側の段差5、及び下側のフランジ部6の板厚も厚くなっている場合を示す。
【0119】
第9実施形態のドアインナーパネル1は、
図19A及び
図19Bに示す素材を用いて製造される。具体的には、先ず、
図19Aに示すように、ドアインナーパネル1の輪郭形状に見合った輪郭形状のTRB30を準備する。このTRB30において、ドアインナーパネル1の下側の縦壁部4に相当する領域の板厚は、それ以外の領域の板厚よりも厚い。次に、そのTRB30に、ドアインナーパネル1の天板部2の開口部3に対応する開口部31を形成する。このような開口部31を有するTRB30に、上記したホットスタンピングを施すことにより、
図18に示すドアインナーパネル1を成形することができる。
【0120】
もっとも、前記第5〜第8実施形態のドアインナーパネル1において、第9実施形態に準じて下側の縦壁部4の板厚が厚くなるように変形しても構わない。
【0121】
図20は、
図18とは異なる形状の開口部3を有するドアインナーパネルの斜視図である。
図21は、
図20に示すドアインナーパネルの素材を示す斜視図であって、開口部を打ち抜いた後、ホットスタンピングに供される直前の状態を示す。
【0122】
図20に示すドアインナーパネル1では、開口部3は天板部2の周縁部の1辺に広がる。すなわち、開口部3はベルトラインBLが途切れるように設けられる。この場合、
図21に示すように、前記
図19Aに示す打ち抜き加工前のTRB30に、ドアインナーパネル1の天板部2の開口部3に対応する開口部31を形成する。このような開口部31を有するTRB30に、上記したホットスタンピングを施すことにより、
図20に示すドアインナーパネル1を成形することができる。
【0123】
[第10実施形態]
図22は、第10実施形態のドアインナーパネルの斜視図である。
図23A及び
図23Bは、
図22に示すドアインナーパネルの素材を示す斜視図である。これらの図のうち、
図23Aは、開口部を打ち抜く前の状態を示す。
図23Bは、開口部を打ち抜いた後、ホットスタンピングに供される直前の状態を示す。
【0124】
図22を参照して、第10実施形態のドアインナーパネル1では、天板部2の前側の辺2Aを含む前側の縦壁部4(縦壁部4A)の領域の板厚は、この領域に隣接する領域の板厚よりも厚い。すなわち、ドアインナーパネル1の板厚は一定ではなく、前側の縦壁部4の板厚が厚くなっている。これにより、ヒンジが取り付けられる前側の縦壁部4の強度が高まる。また、前側の縦壁部4以外の領域で高い強度が求められない領域がある場合、その領域の板厚を薄くすれば、ドアインナーパネル1の軽量化も望める。
図22では、例として、前側の縦壁部4A及び4Bに加え、前側の段差5、及び前側のフランジ部6の板厚も厚くなっている場合を示す。
【0125】
第10実施形態のドアインナーパネル1は、
図23A及び
図23Bに示す素材を用いて製造される。具体的には、先ず、
図23Aに示すように、ドアインナーパネル1の輪郭形状に見合った輪郭形状のTRB30を準備する。このTRB30において、ドアインナーパネル1の前側の縦壁部4に相当する領域の板厚は、それ以外の領域の板厚よりも厚い。次に、そのTRB30に、ドアインナーパネル1の天板部2の開口部3に対応する開口部31を形成する。このような開口部31を有するTRB30に、上記したホットスタンピングを施すことにより、
図22に示すドアインナーパネル1を成形することができる。
【0126】
もっとも、素材としてTWBを用いれば、前記第5〜第9実施形態のドアインナーパネル1において、本実施形態に準じて前側の縦壁部4の板厚が厚くなるように変形することができる。TWBは、鋼板の組合せの自由度が大きいからである。
【0127】
上述の説明では、ドアインナーパネルの材料が鋼板である場合を説明した。しかし、ドアインナーパネルの材料は鋼板に限定されず、金属板であればよい。金属板は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、複層鋼板、チタン、マグネシウム等である。また、上述の説明では、パネル状成形品がドアインナーパネルである場合を説明した。しかし、パネル状成形品はドアインナーパネルに限定されない。パネル状成形品は、優れた衝突特性が要求される製品に適用できる。そのような製品は、自動車の他に、例えば、車両、建設機械、航空機等である。
【実施例】
【0128】
図9A、
図11Aに示すホットスタンピング装置10、及び
図10に示すホットスタンピング装置200を用いたプレス加工を想定し、各プレス加工の解析を行った。解析結果から、各プレス加工によって得られるドアインナーパネルの板厚減少率及び曲率分布を評価した。ここで、本発明例1として、
図9Aに示すホットスタンピング装置10を用いたプレス加工を想定した。本発明例2として、
図11Aに示すホットスタンピング装置10を用いたプレス加工を想定した。比較例として、
図10に示すホットスタンピング装置200を用いたプレス加工を想定した。
【0129】
[解析条件]
ブランク材は、質量%で、C:0.21%、Si:0.25%、Mn:1.2%、B:0.0014%を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼板とした。焼入れ後の材料特性は、ビッカース硬さ:448、降伏強さ:448MPa、引張強さ:1501MPa、及び破断伸び:6.4%とした。ブランク材の加熱温度は750℃とした。機械特性のひずみ速度依存性を考慮して、ダイに対する第1及び第2パンチの移動速度は、40m/s相当とした。パンチ、ダイ及びブランクホルダに対するブランク材の摩擦係数は0.4とした。解析には、汎用のFEM(有限要素法)ソフト(LIVERMORE SOFTWARE TECHNOLOGY社製、商品名LS−DYNA)による熱−成形連成解析を用いた。
【0130】
図24は、本実施例の解析で用いたダイの寸法を示す。
図24中の寸法の単位は、mmである。
図8に示す、ダイの基準面16Cと段差面16Bとの深さd1は、45mmとした。ダイの基準面16Cと型底面16Aとの深さd2は、120mmとした。
【0131】
本発明例1では、第1パンチ及び第2パンチは同時にブランク材に接触するように設定した。すなわち、本発明例1では、
図9Bに示すように、第2パンチ13による押し込みが完了したとき、第1パンチ12の先端面12Aは第2パンチ13の先端面13Aと同じ高さの位置にあった。本発明例2では、第1パンチの先端面は第2パンチの先端面よりも下方にあった。すなわち、本発明例2では、
図11Bに示すように、第2パンチ13による押し込みが完了したとき、第1パンチ12の先端面12Aは第2パンチ13の先端面13Aよりも40mm下方となるように設定した。比較例では、分離されずに一体化されたパンチを用いた。すなわち、
図10に示すように、1つのパンチによってドアインナーパネルの段差部及び天板部を成形した。また、本発明例1及び2のいずれでも第1及び第2パンチがブランク材を押し込む前に、ダイとブランクホルダによってブランク材を抑えるように設定した。
【0132】
[評価方法]
上記の各プレス成形の解析によって得られるドアインナーパネルの板厚減少率及びその表面の曲率分布を調査した。板厚減少率は、下記の式(1)を用いて算出した。
(板厚減少率 [%])=((プレス成形前の板厚)−(プレス成形後の板厚))/(プレス成形前の板厚)×100 (1)
【0133】
曲率は、下記の式(2)を用いて算出した。
(曲率 [1/m])=(1/(曲率半径)) (2)
【0134】
ここで、式(2)の曲率半径には、各位置において、ドアインナーパネル表面に垂直な複数の断面それぞれにおいて、ドアインナーパネル表面の曲率半径を算出し、そのうちの最小値を採用した。曲率は、各位置において材料が裏面側に凸となる様に変形した場合は正の値とし、材料が表面側に凸となる様に変形した場合は負の値とした。なお、曲率は第1のパンチが下死点に到達する1mm手前の状態で評価した。板厚減少率が、20.0%以上の場合、ドアインナーパネルに割れが発生したと判断した。曲率の絶対値が0.01以上の場合、ドアインナーパネルにシワが発生したと判断した。
【0135】
[解析結果]
図25A及び
図25Bは、本発明例1の解析結果を示す。
図25Aは本発明例1のドアインナーパネルの板厚減少率を示す。
図25Bは本発明例1のドアインナーパネルの曲率分布を示す。
図25Aを参照して、本発明例1では、板厚減少率の最大値は16.5%であった。したがって、ドアインナーパネルに割れは発生しなかったといえる。
図25Bを参照して、本発明例1では、ドアインナーパネルの段差部において、曲率の絶対値が0.01以上の部分は見られなかった。したがって、シワは発生しなかったといえる。
【0136】
図26A及び
図26Bは、本発明例2の解析結果を示す。
図26Aは本発明例2のドアインナーパネルの板厚減少率を示す。
図26Bは本発明例2の曲率分布を示す。
図26Aを参照して、本発明例2では、板厚減少率の最大値は15.8%であった。したがって、ドアインナーパネルに割れは発生しなかったといえる。
図26Bを参照して、本発明例2では、ドアインナーパネルの段差部において、曲率の絶対値が0.01以上の部分は見られなかった。したがって、シワは発生しなかったといえる。
【0137】
図27A及び
図27Bは比較例の解析結果を示す。
図27Aは比較例のドアインナーパネルの板厚減少率を示す。
図27Bは比較例のドアインナーパネルの曲率分布を示す。
図27Aを参照して、比較例では、板厚減少率の最大値は14.0%であった。したがって、ドアインナーパネルに割れは発生しなかったといえる。
図27Bを参照して、比較例では、ドアインナーパネルの段差部において、
図27B中、Xで示される領域では、曲率の絶対値が0.01以上の部分が見られた。したがって、シワが発生したといえる。
【0138】
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変更して実施することができる。