特許第6922243号(P6922243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6922243-人工培養土 図000006
  • 特許6922243-人工培養土 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922243
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】人工培養土
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/27 20180101AFI20210805BHJP
【FI】
   A01G24/27
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-27745(P2017-27745)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2018-130089(P2018-130089A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中村 亜希子
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−112644(JP,U)
【文献】 特開2015−008648(JP,A)
【文献】 実開昭60−106437(JP,U)
【文献】 特開昭50−068817(JP,A)
【文献】 特表2005−538862(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0186052(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維に置換基を導入する工程と、
前記置換基を有するセルロース繊維を成形し成形物を得る工程と、
前記成形物を加熱し、前記セルロース繊維に導入された置換基同士を縮合させ架橋構造を形成する工程と、を含む人工培養土の製造方法。
【請求項2】
前記置換基は、リン酸基又はリン酸基由来の置換基である、請求項1に記載の人工培養土の製造方法。
【請求項3】
前記人工培養土は塊状物である、請求項1又は2に記載の人工培養土の製造方法。
【請求項4】
前記人工培養土における前記セルロース繊維の含有量は、前記人工培養土の全固形分質量に対して90質量%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の人工培養土の製造方法。
【請求項5】
前記人工培養土の下記式(a)により算出される体積変化率は30%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の人工培養土の製造方法。
式(a):
体積変化率(%)=(イオン交換水に24時間浸漬した後の人工培養土の体積−イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の体積)/イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の体積×100
【請求項6】
前記人工培養土の下記式(b)により算出される水分率(%)は130%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の人工培養土の製造方法。
式(b):
水分率(%)=(人工培養土をイオン交換水に24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後の人工培養土の質量−イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量)/イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量×100
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工培養土に関する。具体的には、本発明はセルロース繊維を含む人工培養土に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維は、衣料や吸収性物品、紙製品等に幅広く利用されている。セルロース繊維としては、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロースに加えて、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。
【0003】
近年は、セルロース繊維を用いた人工培養土の開発も行われている。例えば、特許文献1には、繊維を造粒してなる繊維塊状体を有する人工土壌粒子が開示されている。ここでは、人工土壌粒子は、繊維塊状体の初期の吸水性を高める吸水促進材やバインダー成分を含んでいる。特許文献1では、吸水促進材やバインダー成分を溶融させ、繊維同士を固着することで人工土壌粒子を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−106629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人工培養土には、天然用土と同等もしくはそれ以上の機能が求められる場合がある。例えば、人工培養土が園芸用培養土として用いられる場合、ろ水性と保水性といった相反する特性を有していることが求められる。
【0006】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、ろ水性と保水性を兼ね備えた人工培養土を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、人工培養土に架橋されたセルロース繊維を含有させることにより、ろ水性と保水性を兼ね備えた人工培養土が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 架橋されたセルロース繊維を含む人工培養土。
[2] セルロース繊維はリン酸基又はリン酸基由来の置換基を有し、セルロース繊維の少なくとも一部において、リン酸基又はリン酸基由来の置換基が架橋している[1]に記載の人工培養土。
[3] 塊状物である[1]又は[2]に記載の人工培養土。
[4] セルロース繊維の含有量は、人工培養土の全固形分質量に対して90質量%以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の人工培養土。
[5] 下記式(a)により算出される体積変化率が30%以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の人工培養土。
式(a):
体積変化率(%)=(イオン交換水に24時間浸漬した後の人工培養土の体積−イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の体積)/イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の体積×100
[6] 下記式(b)により算出される水分率(%)が130%以上である[1]〜[5]のいずれかに記載の人工培養土。
式(b):
水分率(%)=(人工培養土をイオン交換水に24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後の人工培養土の質量−イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量)/イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量×100
[7] セルロース繊維に置換基を導入する工程と、置換基を有するセルロース繊維を成形し成形物を得る工程と、成形物を加熱する工程と、を含む人工培養土の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ろ水性と保水性を兼ね備えた人工培養土を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、繊維原料に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図2図2は、実施例で得られたリン酸化セルロース成形物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(人工培養土)
本発明は、架橋されたセルロース繊維を含む人工培養土に関する。本発明の人工培養土は、架橋されたセルロース繊維を含むものであるため、ろ水性と保水性といった相反する2つの特性を兼ね備えている。
【0013】
ろ水性に優れる人工培養土は、水はけがよく、特に園芸用植物の土壌として好ましく用いられる。優れたろ水性を達成するためには、人工培養土が吸水により膨張しにくい性質を有することが好ましい。本発明においては、人工培養土は優れた吸水性を有している一方で、吸水による膨張が抑制されている点に特徴がある。
【0014】
具体的には、本発明の人工培養土においては、下記式(a)により算出される体積変化率は30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。また、体積変化率は0%であってもよい。下記式(a)により算出される体積変化率を上記範囲内とすることにより、ろ水性を向上させることができる。
式(a):
体積変化率(%)=(イオン交換水に24時間浸漬した後の人工培養土の体積−イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の体積)/イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の体積×100
なお、本明細書において、イオン交換水に24時間浸漬した後の人工培養土の体積は、人工培養土の体積よりも多い十分量の水に人工培養土を浸漬し、その状態で25℃の室内に24時間静置し、その後、ろ紙上で人工培養土表面の水滴を除去した後の人工培養土の体積である。また、イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の体積は、イオン交換水に浸漬する前の人工培養土をろ紙上に広げて25℃、相対湿度50%の環境下で24時間送風乾燥させた後の人工培養土の体積である。
【0015】
本発明の人工培養土は、ろ水性に優れている一方で、吸水性や保水性にも優れている点に特徴がある。ここで、吸水性は、人工培養土を十分量の水に24時間浸漬した後の水分吸収量により評価することができ、保水性は、人工培養土を十分量の水に24時間浸漬することで吸収させた水の経時後の保持量により評価することができる。本発明の人工培養土は、水に浸漬した直後の水分吸収量が多く、かつ経時後の吸収した水の保持量が多い。
【0016】
具体的には、本発明の人工培養土においては、下記式(b)により算出される水分率(%)は130%以上であることが好ましく、140%以上であることがより好ましく、150%以上であることがさらに好ましい。なお、下記式(b)により算出される24時間静置後の水分率(%)の上限値は特に限定されず、例えば、300%とすることができる。24時間静置後の水分率(%)を上記範囲内とすることにより、人工培養土の保水性をより効果的に高めることができる。なお、本明細書においては、下記式(b)で算出される水分率(%)を保水率(%)と呼ぶこともできる。
式(b):
水分率(%)=(人工培養土をイオン交換水に24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後の人工培養土の質量−イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量)/イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量×100
なお、本明細書において、人工培養土をイオン交換水に24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後の人工培養土の質量は、人工培養土の体積よりも多い十分量の水に人工培養土を浸漬し、その状態で25℃の室内に24時間静置し、その後、ろ紙上で人工培養土表面の水滴を除去した後に25℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後の人工培養土の質量である。また、イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量は、イオン交換水に浸漬する前の人工培養土をろ紙上に広げて25℃、相対湿度50%の環境下で24時間送風乾燥させた後の人工培養土の質量である。
【0017】
本発明の人工培養土においては、下記式(c)により算出される吸水率(%)は、130%以上であることが好ましく、140%以上であることがより好ましく、150%以上であることがさらに好ましい。なお、下記式(c)により算出される吸水率(%)の上限値は特に限定されず、例えば、300%とすることができる。下記式(c)により算出される吸水率(%)を上記範囲内とすることにより、人工培養土の吸水性をより効果的に高めることができる。
式(c):
吸水率(%)=(人工培養土をイオン交換水に24時間浸漬した後の人工培養土の質量−イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量)/イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量×100
なお、本明細書において、人工培養土をイオン交換水に24時間浸漬した後の人工培養土の質量は、人工培養土の体積よりも多い十分量の水に人工培養土を浸漬し、その状態で25℃の室内に24時間静置し、その後、ろ紙上で人工培養土表面の水滴を除去した後の人工培養土の質量である。また、イオン交換水に浸漬する前の人工培養土の質量は、イオン交換水に浸漬する前の人工培養土をろ紙上に広げて25℃、相対湿度50%の環境下で24時間送風乾燥させた後の人工培養土の質量である。
【0018】
本発明の人工培養土の全質量に対する水分含有量は50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明において、人工培養土の水分含有量は0質量%であってもよい。
人工培養土の水分含有量を測定する際には、105℃の条件下で24時間乾燥する前後の重量を測定し、下記式により算出することができる。
水分含有量(質量%)=(乾燥前の重量−乾燥後の重量)/乾燥後の重量×100
【0019】
本発明の人工培養土の密度は、特に限定されるものではないが、0.50g/cm3以下であることが好ましく、0.30g/cm3以下であることがより好ましい。また、人工培養土の密度は、0.01g/cm3以上であることが好ましい。人工培養土の密度を上記範囲内とすることにより、人工培養土を軽量化することも可能となる。
【0020】
本発明の人工培養土は、塊状物であることが好ましい。塊状物としては、例えば、粒状物、粉状物、綿状物等を挙げることができる。塊状物の平均粒径は0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。なお、塊状物は必ずしも円形ではないため、本明細書において塊状物の平均粒径は塊状物の外接円の直径と定義する。
【0021】
本発明の人工培養土は、複数の固形物の集合体であり、例えば、塊状物であることが好ましい。すなわち、本発明は、人工培養土として用いられる架橋されたセルロース繊維からなる塊状物に関するものでもある。このような人工培養土は、単独で植物の栽培に用いることもできるし、他の用土や肥料等と混合して土壌を構成してもよい。
【0022】
(セルロース繊維)
本発明の人工培養土は、架橋されたセルロース繊維を含む。人工培養土におけるセルロース繊維の含有量は、人工培養土の全固形分質量に対して90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。なお、人工培養土の全固形分がセルロース繊維から構成されていてもよい。すなわち、本発明の人工培養土は、バインダー成分や吸収促進剤等の添加剤を含まないか、含んでいたとしても少量である。
【0023】
なお、人工培養土の全固形分質量は、人工培養土の絶乾質量である。人工培養土を絶乾にする方法としては、例えば、105℃±2℃に設定された送風乾燥機内での乾燥を挙げることができるが、特に限定されない。測定の際には培養土が吹き飛ばされないよう、秤量ビン等の機器を適宜使用することができる。
全固形分中のセルロース繊維の含有量は、セルロース繊維以外に含まれる成分または
セルロース繊維のみを抽出あるいは分解する方法で適宜算出することが出来るが、前述の通り、通常は、人工培養土の大部分はセルロース繊維で構成されており、実質的に全固形分質量の値はセルロース繊維の質量に極めて近くなる。
【0024】
セルロース繊維を得るためのセルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。
【0025】
本発明において、リン酸基を有するセルロース繊維の繊維幅は特に限定されない。例えば、リン酸基を有するセルロース繊維の繊維幅は1000nmよりも大きいものであってもよく、1000nm以下であってもよい。また、繊維幅が1000nmよりも大きいセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維が混在していてもよい。なお、セルロース繊維の繊維幅が1000nm以下である場合、このようなセルロース繊維を微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0026】
ここで、セルロース繊維の繊維幅は、電子顕微鏡観察によって以下の方法で測定することができる。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下のセルロース繊維水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。この際、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0027】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0028】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。
【0029】
セルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、0.1mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましい。また、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。セルロース繊維の平均繊維長を上記範囲内とすることにより、セルロース繊維を塊状物に成形した際の強度を高めることができる。ここで、セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS−200形)を用い、長さ加重平均繊維長を測定することにより求めることができる。また、繊維の長さに応じて走査型顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて測定することもできる。
【0030】
セルロース繊維は、置換基を有するものであることが好ましく、リン酸基又はリン酸基由来の置換基(単にリン酸基ということもある)を有するものであることがより好ましい。本発明の人工培養土においては、セルロース繊維の少なくとも一部において、リン酸基又はリン酸基由来の置換基が架橋していることが好ましい。
【0031】
本発明の人工培養土は、架橋されたセルロース繊維を含むものであり、このような架橋構造はセルロース繊維に導入された置換基同士の縮合により形成される。置換基がリン酸基である場合は、セルロース繊維に導入されたリン酸基同士が縮合することによりセルロース繊維が架橋される。また、本発明においては、リン酸基以外に架橋構造を形成し得る基としては、セルロース繊維が含むヒドロキシル基を挙げることが出来る。この場合、クエン酸のような多価カルボン酸と、複数のエステル結合を形成させてもよいし、ホルムアルデヒドを用いれば、メチレンジオキシ(−OCH2O−)構造を形成することもできる。
【0032】
リン酸化セルロース繊維におけるリン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であることが好ましい。
【0033】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0034】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1以上n以下の整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0035】
セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが一層好ましく、1.20mmol/g以上であることがより一層好ましく、1.30mmol/g以上であることが特に好ましく、1.60mmol/g以上であることが最も好ましい。また、リン酸基の含有量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.5mmol/g以下であることがより好ましく、3.0mmol/g以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、後述するようにセルロース繊維が有するリン酸基の強酸性基量と等しい。
【0036】
セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定の際には、リン酸基を完全に酸型に変換させた後、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0037】
リン酸基の酸型への変換は、セルロース繊維を含む人工培養土を、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、十分な量の1N塩酸水溶液を少しずつ添加することで行う。リン酸基の酸型への変換では、上記のセルロース繊維含有スラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水で希釈し、1N塩酸水溶液を添加する操作を繰り返すことにより、セルロース繊維に含まれるリン酸基を完全に酸型へ変化させることが好ましい。そして、リン酸基の酸型への変換工程の後には、得られたセルロース繊維含有スラリーを攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流すことが好ましい。
【0038】
機械処理工程(微細化工程)では、得られた脱水シートにイオン交換水を注ぎ、セルロース繊維濃度が0.3質量%のセルロース繊維含有スラリーを得て、このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス‐2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間処理する。このようにして、微細繊維状セルロース含有スラリーを得る。
【0039】
アルカリを用いた滴定では、微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、分散液が示すpHの値の変化を計測する。この中和滴定では、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液)を加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点を二つ与える(増分が最大となる点と、2番目に大きくなる点)。このうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点(以下、第1終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中の強酸性基量と等しく、次に得られる増分の極大点(以下、第2終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中の弱酸性基量と等しくなる。第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して、第1解離アルカリ量(mmol/g)とし、この量をセルロース繊維が有するリン酸基の含有量とする。
【0040】
図1は、中和滴定において、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液)を加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線を例示したものである。第1終点までの領域を第1領域、第2終点までの領域を第2領域という。なお、第2領域の後には第3領域がある。すなわち、3つの領域が現れる。図1において、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。
【0041】
架橋構造は、セルロース繊維に導入された置換基(例えばリン酸基同士)が縮合することによって形成される。セルロース繊維にリン酸基が導入された場合、架橋構造は、ピロリン酸の2つのP原子に1つずつ、セルロースのグルコースユニットが、O原子を介して結合した構造となる。したがって、架橋構造が形成されると、見かけ上、弱酸性基が失われ、第1終点までに必要としたアルカリ量と比較して第2終点までに必要としたアルカリ量が少なくなる。ここで、セルロース繊維に導入されたリン酸基同士が全く縮合していない場合、セルロース繊維に導入されている強酸性基量と、弱酸性基量は等しい。このため、架橋構造が形成されることで失われた弱酸性基の量を2で除した値は架橋構造量(架橋点数)を表すことになる。すなわち、架橋構造量(架橋点数)は、第1終点までに要したアルカリ量(第1解離アルカリ量)と第2終点までに要したアルカリ量(第2解離アルカリ量)の差分を2で除した値に等しい。架橋構造量(架橋点数)は下記式(1)で表される。
架橋構造量(架橋点数)=(セルロース繊維に含まれる強酸性基量−セルロース繊維に含まれる弱酸性基量)/2 式(1)
【0042】
本発明においては、上記式(1)で算出されるセルロース繊維の架橋構造量(架橋点数)は0.20mmol/g以上であればよく、0.25mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましい。なお、架橋構造量(架橋点数)の上限値は、セルロース繊維に含まれる強酸性基量を2で除した値となるため、例えば1.82mmol/g以下となる。
【0043】
セルロース繊維は、対イオンを有していてもよい。対イオンは、無機イオンであっても有機イオンであってもよい。無機イオンとしては、アルカリ金属イオンに代表される1価の金属イオン、アルカリ土類金属イオンに代表される2価の金属イオン、その他、非金属の陽イオンであるアンモニウムイオン、アルミニウムイオン、スズイオン、鉛イオンなどの卑金属イオン、その他、銀イオン、銅イオン、鉄イオンなどの遷移金属イオンが挙げられる。有機イオンとしては、有機アンモニウムイオンや、有機ホスホニウムイオンが挙げられる。保水性を高めたい場合は、1価の陽イオンを対イオンとすることが好ましく、汎用性の観点から、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオンを対イオンとすることがより好ましく、ナトリウムイオン、アンモニウムイオンを対イオンとすることがさらに好ましい。
【0044】
(任意成分)
本発明の人工培養土には、セルロース繊維以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、填料、安定剤、アルコール等の水と混和可能な有機溶媒、防腐剤、有機微粒子、無機微粒子等を挙げることができる。なお、人工培養土に任意成分が含まれる場合は、人工培養土の全固形分質量に対して10質量%未満であることが好ましい。
【0045】
(人工培養土の製造方法)
本発明は、人工培養土の製造方法に関するものでもある。人工培養土の製造方法は、セルロース繊維に置換基を導入する工程(置換基導入工程)と、置換基を有するセルロース繊維を成形し成形物を得る工程(成形工程)と、成形物を加熱する工程(加熱工程)と、を含む。
【0046】
<置換基導入工程>
置換基導入工程では、上述した置換基をセルロース繊維に導入することが好ましい。置換基としては、リン酸基又はリン酸基由来の置換基であることが好ましく、置換基導入工程は、リン酸基導入工程であることが好ましい。
【0047】
リン酸基導入工程では、セルロース繊維(パルプ)に対し、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化剤」又は「化合物A」ともいう)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化剤は、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、セルロース繊維のスラリーにリン酸化剤の粉末や水溶液を添加してもよい。すなわち、リン酸基導入工程は、少なくとも、セルロース繊維とリン酸化剤を混合する工程を含む。
【0048】
リン酸基導入工程は、セルロース繊維にリン酸化剤を反応させることにより行うことができるが、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。
【0049】
化合物Aを化合物Bの共存下でセルロース繊維に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、セルロース繊維含有スラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。セルロース繊維の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0050】
リン酸化剤(化合物A)は、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。中でも、リン酸、リン酸のナトリウム塩、又はリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩は好ましく用いられる。
【0051】
反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率がより高くなることからリン酸化剤(化合物A)は水溶液として用いることが好ましい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、セルロース繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0052】
セルロース繊維に対するリン酸化剤(化合物A)の添加量は特に限定されないが、リン酸化剤(化合物A)の添加量をリン原子量に換算した場合、セルロース繊維(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。セルロース繊維に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、リン酸化セルロース繊維の収率をより向上させることができる。セルロース繊維に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。一方、セルロース繊維に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0053】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
【0054】
化合物Bは化合物Aと同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。セルロース繊維(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0055】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0056】
<成形工程>
成形工程では、リン酸基導入工程を経たセルロース繊維(パルプ)を成形する。リン酸基導入工程を経たセルロース繊維はリン酸化薬液含浸セルロース繊維もしくはリン酸化薬液含浸パルプであることが好ましい。成形工程では、リン酸化薬液含浸セルロース繊維(リン酸化薬液含浸パルプ)を塊状となるように成形することが好ましい。例えば、リン酸化薬液含浸セルロース繊維(リン酸化薬液含浸パルプ)を細かく刻んだ後に、塊状に成形することができる。この際、塊状物の平均粒径が0.5mm以上となるように成形することが好ましく、1mm以上となるように成形することがより好ましく、3mm以上となるように成形することがさらに好ましい。
【0057】
<加熱工程>
加熱工程では、成形工程で成形したセルロース繊維(パルプ)を加熱処理する。このような加熱工程を設けることで、セルロース繊維にリン酸基を効率的に導入し、さらにリン酸基又はリン酸基由来の置換基の少なくとも一部を架橋させることができる。このようにセルロース繊維間に架橋構造を形成することで、形状安定性に優れた成形物(人工培養土)を得ることができる。本発明の人工培養土は、水に濡れた場合であってもその形状を保持することができ、優れたろ水性を発揮することができる。
【0058】
加熱工程における加熱処理温度は、セルロース繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基の架橋を促進し得る温度を選択することが好ましい。また、加熱処理温度は、上述した式(1)で算出されるセルロース繊維の架橋点数が所定値以上となるようにリン酸基又はリン酸基由来の置換基を架橋させる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0059】
加熱処理に用いる加熱装置としては、成形したセルロース繊維(パルプ)が保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、セルロース繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することができる。
【0060】
加熱処理の時間(加熱時間)は、加熱温度にも影響されるが、リン酸化剤とセルロース繊維が混合され、熱源に晒されてから10秒以上300分以下であることが好ましく、1分以上270分以下であることがより好ましく、10分以上120分以下であることがさらに好ましい。本発明においては、加熱処理温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量と架橋点数を好ましい範囲内とすることができる。
【0061】
<洗浄工程>
加熱工程の後には、さらに洗浄工程が設けられることが好ましい。洗浄工程では、リン酸化剤等の余剰の薬液を洗い流す。洗浄工程では、架橋されたセルロース繊維を含む成形物(人工培養土)にイオン交換水を注ぎ攪拌した後に固液分離を行う操作を繰り返すことが好ましい。
【0062】
<乾燥工程>
洗浄工程の後には、乾燥工程が設けられることが好ましい。乾燥工程を設けることにより、軽量で持ち運びが容易や人工培養土を得ることができる。乾燥工程では、20℃以上100℃以下の環境下に人工培養土を静置することが好ましい。この際、送風乾燥を行うことも好ましい。
【0063】
(用途)
本発明の人工培養土はろ水性と保水性を兼ね備えたものであるため、園芸用の人工培養土として好ましく用いられる。天然由来の用土の使用は資源枯渇という問題をはらんでいるが、本発明の人工培養土はこのような天然由来の用土の代替品として用いることができるため、天然資源の保全という役割も期待される。
【0064】
また、天然由来の用土を販売用にパッケージする際には、採掘後に燻煙等により病原菌や害虫などの除去処理を行う必要があるが、本発明の人工培養土には、病原菌や害虫などが含まれていないため、除去処理を行う必要がないという点にも利点がある。
さらに、本発明の人工培養土は、生分解性を有しているため、廃棄処理が容易であり、かつ土壌改良剤としても機能し得る。また、セルロース繊維がリン酸基を有するものである場合、人工培養土を土壌中に混合することでリン酸が溶出するため、追肥効果も見込むことができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例と参考例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0066】
(実施例)
<リン酸化セルロース成形物の調製>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分96質量%、坪量213g/m2シート状)を原料(以下、原料パルプという)として使用した。上記原料パルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、イオン交換水150質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを手でちぎり、5〜7mm程度の大きさとなるよう丸めた後、165℃の熱風乾燥機で10分間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基及びリン酸架橋構造を導入し、リン酸化セルロース成形物を得た。
【0067】
リン酸化セルロース成形物1質量部に対し100質量部のイオン交換水を加え、マグネチックスターラーで撹拌後、No2のろ紙を用いてリン酸化セルロース成形物とろ液を分離した。この操作を3回繰り返し、リン酸化セルロース成形物に付着した余剰の反応薬液を洗浄除去した。その後、リン酸化セルロース成形物をろ紙上に広げて25℃、相対湿度50%の環境下で24時間送風乾燥させた。なお、得られたリン酸化セルロース成形物(人工培養土)は、図2の写真のとおりであった。
【0068】
(参考例)
参考例として、市販の園芸用鹿沼土を用いた。使用の前には、市販の園芸用鹿沼土から、あらかじめ混入している木片、砂粒等を目視にて取り除いた。なお、粒状の鹿沼土の表面には、擦れ合うことで生じた鹿沼土の粉状屑が付着しているため、園芸用鹿沼土の表面をイオン交換水で洗浄し、粒表面に付着している粉状の鹿沼土を除去した後、ろ紙上に広げて25℃、相対湿度50%の環境下で24時間送風乾燥した。
【0069】
(分析)
<リン酸基導入量の測定>
リン酸化セルロース成形物のリン酸基の導入量は、中和滴定法により測定した。具体的には、リン酸化セルロース成形物のセルロース繊維に含まれるリン酸基を完全に酸型に変換させた後、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリー(分散液)が示すpHの変化を求めることにより、導入量を測定した。
リン酸基の酸型への変換では、得られたリン酸化セルロース成形物を、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、十分な量の1N塩酸水溶液を少しずつ添加した。次いで、このセルロース繊維含有スラリーを15分間撹拌したのち脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水で希釈し、1N塩酸水溶液を添加する操作を繰り返すことにより、セルロース繊維に含まれるリン酸基を完全に酸型へ変化させた。さらに、このセルロース繊維含有スラリーを攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流した。
機械処理工程では、得られた脱水シートにイオン交換水を注ぎ、セルロース繊維濃度が0.3質量%のセルロース繊維含有スラリーを得た。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間処理した。
【0070】
アルカリを用いた滴定では、微細繊維状セルロース含有スラリーに0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、分散液が示すpHの値の変化を計測した。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点を二つ与える(増分が最大となる点と、2番目に大きくなる点)。このうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点(以下、第1終点と呼ぶ)、までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中の強酸性基量と等しく、次に得られる増分の極大点(以下、第2終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中の弱酸性基量と等しくなる。
第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象分散液中の固形分(g)で除して、第1解離アルカリ量(mmol/g)とし、この量をリン酸基の導入量とした。
【0071】
<架橋点数の測定>
架橋構造は、セルロース繊維に導入されたリン酸基同士が脱水縮合することによって形成されると考えられる。すなわち、架橋構造は、ピロリン酸の2つのP原子に1つずつ、セルロースのグルコースユニットが、O原子を介して結合した構造となる。したがって、架橋リン酸基が形成されると、見かけ上弱酸性基が失われ、第1終点までに必要としたアルカリ量と比較して第2終点までに必要としたアルカリ量が少なくなる。すなわち、架橋点数は、第1終点までに要したアルカリ量(第1解離アルカリ量)と第2終点までに要したアルカリ量(第2解離アルカリ量)の差分を2で除した値に等しい。
【0072】
【表1】
【0073】
(評価)
実施例のリン酸化セルロース成形物(人工培養土)の水分保持特性を評価した。
【0074】
<吸水量・ろ水性の測定>
質量既知の100mL容量のガラス製メスシリンダーを1本ずつ用意し、洗浄後乾燥させたリン酸化セルロース成形物及び洗浄後乾燥させた鹿沼土をいずれも55mLになるように入れ、重量を測定した。このメスシリンダーにイオン交換水を、リン酸化セルロース成形物もしくは鹿沼土が十分に浸る程度注ぎ、25℃の室内に24時間静置した。それぞれのサンプルに十分に吸水させた後、No2のろ紙を用いて水を分離し、ろ紙上に広げて表面の水滴を除去してからメスシリンダーに戻し、体積と重量を測定した(表2)。
【0075】
【表2】
【0076】
<保水率(水分量の経時変化)の測定>
洗浄後乾燥させたリン酸化セルロース成形物及び洗浄後乾燥させた鹿沼土を50mLずつ取り、イオン交換水を、リン酸化セルロース成形物もしくは鹿沼土が十分に浸る程度加えて25℃で24時間静置した。それぞれのサンプルに十分に吸水させた後、No2のろ紙を用いて水を分離し、ろ紙上に広げて表面の水滴を除去した。その後、それぞれのサンプルを200mLのプラスチックカップに入れ、重量を測定したのち、25℃、相対湿度50%の実験室内に静置し、数日おきに重量を測定して水分量の変化を確認した(表3)。
【0077】
【表3】
【0078】
表2及び3に示されているように、実施例のリン酸化セルロース成形物は、吸水性及び保水性に優れていた。また、実施例のリン酸化セルロース成形物においては、吸水量が多いにも関わらず吸水後の体積の増加が抑えられていることから、ろ水性に優れていると言える。
図1
図2