特許第6922292号(P6922292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6922292-インクジェット記録方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922292
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20210805BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20210805BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20210805BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   B41M5/00 132
   B41M5/00 120
   B41M5/00 100
   B41M5/00 112
   C09D11/30
   C09D11/54
   B41J2/01 123
   B41J2/01 501
   B41J2/01 125
【請求項の数】13
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-52567(P2017-52567)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-154014(P2018-154014A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 尚義
(72)【発明者】
【氏名】瀬口 賢一
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−025911(JP,A)
【文献】 特開2016−193980(JP,A)
【文献】 特開2017−043701(JP,A)
【文献】 特開2012−206488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
C09D 11/30
C09D 11/54
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させる反応液付着工程と、
前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出させて記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程と、を備え、
前記インク組成物付着工程において、前記記録媒体の表面温度が30℃以上40℃以下であり、
前記インク組成物が、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスと、水と、を含有する水系インクジェットインク組成物であり、
前記第2のワックスの融点が、前記インク組成物付着工程における前記記録媒体の表面温度より20℃以上高い温度である、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記第1のワックスの融点が100℃以上150℃以下であり、前記第2のワックスの融点が44℃以上70℃以下である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記第1のワックスがポリオレフィンワックスであり、前記第2のワックスがパラフィンワックスである、請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記第2のワックスに対する前記第1のワックスの含有量の比が、0.1以上0.6以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記記録媒体が、非吸収性または低吸収性の記録媒体である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記インク組成物付着工程において、前記記録媒体の表面温度が30℃以上38℃以下である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記第2のワックスの融点は、前記インク組成物付着工程における前記記録媒体の表面
温度より23℃以上高い温度である、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記第2のワックスの融点は、前記インク組成物付着工程における前記記録媒体の表面温度に対して20℃以上40℃を超えない範囲で高い温度である、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記インク組成物付着工程を経た記録媒体を加熱する後加熱工程を備える、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記第1のワックスの融点は、前記後加熱工程における前記記録媒体の表面温度より高い、請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記第2のワックスの融点は、前記後加熱工程における前記記録媒体の表面温度より低い、請求項9または請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記凝集剤が、多価金属塩、カチオンポリマーおよび有機酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記インク組成物が、さらに含窒素溶剤を含有する、請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置の記録ヘッドのノズルから微小なインク滴を吐出させて、記録媒体上に画像を記録するインクジェット記録方法が知られており、サイン印刷分野、高速ラベル印刷分野での使用も検討されている。そして、インク低吸収性の記録媒体(例えば、アート紙やコート紙)またはインク非吸収性の記録媒体(例えば、プラスチックフィルム)に対して画像の記録を行う場合、インクとして、地球環境面及び人体への安全性等の観点から、樹脂エマルジョンを含有する水系レジンインク組成物(以下、「水系インク」または、「インク」ともいう。)の使用が検討されており、記録物の耐擦性向上の点で、水系インクにワックスを含ませることが知られている。
【0003】
そこで、たとえば、水系レジンインク組成物を用いてインク低(非)吸収性の記録媒体に記録する際に、経時での保存安定性に優れ、画像形成直後の耐ブロッキング性や画像の耐擦性を改善するために、記録の際に、2種のワックスを含むワックス粒子を含む水系インクと、インク成分の凝集剤を含有する反応液を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−25911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクを迅速に固定するために反応液を用いているが、この反応液によりインクの顔料や樹脂の成分が凝集すると平坦な膜化が形成しにくくなる傾向があり、画像の耐擦性が低下する場合がある。
【0006】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、上述の課題の少なくとも一部を解決することで、耐擦性に優れた記録物が得られるインクジェット記録方法及びインクセットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[適用例1]
本発明に係る記録方法の一態様は、
インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させる反応液付着工程と、
前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出させて記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程と、を備え、
前記インク組成物が、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスと、水と、を含有する水系インクジェットインク組成物であることを特徴とする。
【0009】
上記適用例によれば、インクジェット記録方法が、反応液付着工程と、インク組成物付着工程と、を備えることにより、画質に優れた画像が得られる。また、インク組成物が、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスとを含有するため、光沢性に優れ、さらに反応液と併用しても耐擦性が優れた画像が得られる。このため、得られる画像の画質と耐擦性と光沢性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0010】
[適用例2]
上記適用例において、
前記第1のワックスの融点が100℃以上150℃以下であり、前記第2のワックスの融点が35℃以上70℃以下であることができる。
【0011】
上記適用例によれば、第1のワックスの融点が100℃以上150℃以下であり、第2のワックスの融点が35℃以上70℃以下であることにより、上述の効果がより一層発揮される。
【0012】
[適用例3]
上記適用例において、
前記第1のワックスがポリオレフィンワックスであり、前記第2のワックスがパラフィンワックスであることができる。
【0013】
上記適用例によれば、第1のワックスがポリオレフィンワックスであり、第2のワックスがパラフィンワックスであることにより、第1および第2のワックスの融点を適正な範囲とすることができ、さらに、画像の画質が向上する。
【0014】
[適用例4]
上記適用例において、
前記第2のワックスに対する前記第1のワックスの含有量の比が、0.1以上0.6以下であることができる。
【0015】
上記適用例によれば、第2のワックスに対する第1のワックスの含有量の比が0.1以上0.6以下であることにより、より画像の耐擦性が向上する。
【0016】
[適用例5]
前記記録媒体が、非吸収性または低吸収性の記録媒体であることができる。
【0017】
上記適用例によれば、非吸収性または低吸収性の記録媒体である場合において、ブリードの発生を抑制すると共に、耐擦性に優れた画像を形成することができる。
【0018】
[適用例6]
上記適用例において、
前記インク組成物付着工程は、加熱された記録媒体へ行うものであることができる。
【0019】
上記適用例によれば、インク組成物付着工程が加熱された記録媒体へ行うものである場合においても、耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できると供に、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0020】
[適用例7]
上記適用例において、
前記インク組成物付着工程において、前記記録媒体の表面温度が30℃以上45℃以下
であることができる。
【0021】
上記適用例によれば、インク組成物付着工程において、記録媒体の表面温度が30℃以上45℃以下である場合においても、耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できると供に、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0022】
[適用例8]
上記適用例において、
前記第2のワックスの融点は、前記インク組成物付着工程における前記記録媒体の表面温度より高い温度であることができる。
【0023】
上記適用例によれば、第2のワックスの融点は、インク組成物付着工程における記録媒体の表面温度より高い温度であることにより、インク組成物付着工程の際にインクジェットヘッドがプラテン加熱の影響を受けても、目詰まりが発生しにくくなり、より吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0024】
[適用例9]
上記適用例において、
前記第2のワックスの融点は、前記インク組成物付着工程における記録媒体の表面温度に対して40℃を超えない範囲で高い温度であることができる。
【0025】
上記適用例によれば、第2のワックスの融点は、インク組成物付着工程における記録媒体の表面温度に対して40℃を超えない範囲で高い温度であることにより、インク組成物付着工程の際にインクジェットヘッドがプラテン加熱の影響を受けても、目詰まりが発生しにくくなり、より吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0026】
[適用例10]
上記適用例において、
前記インク組成物付着工程を経た記録媒体を加熱する後加熱工程を備えることができる。
【0027】
上記適用例によれば、後加熱工程を備えるインクジェット記録方法においても、耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できると供に、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0028】
[適用例11]
上記適用例において、
前記第1のワックスの融点は、前記後加熱工程における前記記録媒体の表面温度より高くすることができる。
【0029】
上記適用例によれば、第1のワックスの融点が後加熱工程における記録媒体の表面温度より高いことにより、耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できると供に、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0030】
[適用例12]
上記適用例において、
前記第2のワックスの融点は、前記後加熱工程における前記記録媒体の表面温度より低くすることができる。
【0031】
上記適用例によれば、第2のワックスの融点が後加熱工程における記録媒体表面温度より低いことにより、耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できると供に、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0032】
[適用例13]
上記適用例において、
前記凝集剤が、多価金属塩、カチオンポリマーおよび有機酸よりなる群から選択される少なくとも1種であることができる。
【0033】
上記適用例によれば、凝集剤が、多価金属塩、カチオン性化合物および有機酸よりなる群から選択される少なくとも1種以上であることにより、より耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できると供に、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0034】
[適用例14]
本発明に係るインクセットの一態様は、
インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液と、
前記インク組成物であって、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスと、水と、を含有する水系インクジェットインク組成物と、を備えることを特徴とする。
【0035】
上記適用例によれば、インクセットが反応液と水系インクジェットインク組成物とを備えることにより、画質に優れた画像が得られる。また、インク組成物が、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスとを併用することで、光沢性に優れ、さらに反応液と併用しても耐擦性が優れた画像が得られる。このため、得られた画像の画質と耐擦性と光沢性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】インクジェット記録装置を模式的に示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0038】
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させる反応液付着工程と、前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出させて記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程と、を備え、前記インク組成物が、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスと、水と、を含有する水系インクジェットインク組成物であることを特徴とする。
【0039】
以下、本実施形態に係るインクジェット記録方法について、この記録方法により記録を行うインクジェット記録装置、水系インクジェットインク組成物(以下、「インク」ともいう。)、反応液、記録媒体、インクジェット記録方法の順に説明する。
【0040】
1.各構成
1.1.インクジェット記録装置
本実施形態に係る記録方法が実施されるインクジェット記録装置の一例について、図面
を参照しながら説明する。なお、本実施形態に係る記録方法に使用できるインクジェット記録装置は、以下の態様に限定されるものではない。
【0041】
本実施形態で用いられるインクジェット記録装置に使用可能なインクジェット記録装置の一例について、図面を参照しながら説明する。図1は、インクジェット記録装置を模式的に示す概略断面図である。図1に示すように、インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、硬化ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、を備える。インクジェット記録装置1は、図示しない制御部を備え、制御部によりインクジェット記録装置1全体の動作が制御される。
【0042】
インクジェットヘッド2は、記録媒体Mに対してインク組成物を吐出させて付着させる手段である。インクジェットヘッド2としては、ライン式インクジェットヘッド、シリアル式インクジェットヘッドのいずれも使用可能である。
【0043】
インクジェットヘッド2は、インク組成物、及び、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含む反応液を吐出するノズル(図示せず)を備える。インクをノズルから吐出させる方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に吐出させ、インクの液滴が偏向電極間を飛翔する間に記録情報信号に対応して吐出させる方式(静電吸引方式);小型ポンプでインクに圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を吐出させる方式;インクに圧電素子で圧力と記録情報信号を同時に加え、インクの液滴を吐出・記録させる方式(ピエゾ方式);インクを記録情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インクの液滴を吐出・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。
【0044】
ここで、シリアル式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置とは、記録用のインクジェットヘッドを記録媒体に対して相対的に移動させつつ該インク組成物を吐出させる走査(パス)を、複数回行うことによって記録を行うものである。シリアル型のインクジェットヘッドの具体例には、記録媒体の幅方向(記録媒体の搬送方向に交差する方向)に移動するキャリッジにインクジェットヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動することにより記録媒体上に液滴を吐出するものが挙げられる。
【0045】
一方、ライン式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置は、記録用のインクジェットヘッドを記録媒体に対して相対的に移動させつつ該インク組成物を吐出させる走査(パス)を1回行うことにより記録を行うものである。ライン型のインクジェットヘッドの具体例には、インクジェットヘッドが記録媒体の幅よりも広く形成され、記録用ヘッドが移動せずに記録媒体上に液滴を吐出するものが挙げられる。
【0046】
なお、本実施形態では、インクジェット記録装置1として、シリアル式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置を用い、インクをノズルから吐出させる方式としてピエゾ方式を利用した)インクジェットヘッド2を用いることができる。
【0047】
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2からのインク組成物の吐出時(インク組成物付着工程)において、記録媒体Mを加熱するための、IRヒーター3及びプラテンヒーター4を備えている。本実施形態において、インク組成物の付着工程において記録媒体Mを加熱する際には、IRヒーター3及びプラテンヒーター4の少なくとも1つを用いればよい。
【0048】
なお、IRヒーター3を用いると、インクジェットヘッド2側から記録媒体Mを加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4など記録媒体Mの裏面から加熱される場合と比べて、記録媒体Mの厚みの影響を受けずに昇温することができる。また、記録媒体Mを加熱する際にプラテンヒーター4を用いると、インクジェットヘッド2側と反対側から記録媒体Mを加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2が比較的加熱されにくくなる。
【0049】
ただし、後述するインクジェット記録の際の、IRヒーター3及びプラテンヒーター4からの加熱による記録媒体Mの表面温度は、70℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましく、38℃以下であることがいっそう好ましい。これにより、IRヒーター3及びプラテンヒーター4から受ける輻射熱が少ない又はなくなることから、インクジェットヘッド2内のインク組成物の乾燥及び組成変動を抑制することができ、インクジェットヘッド2の内壁に樹脂やワックス等が溶着することが抑制される。なお、インクジェット記録の際の記録媒体Mの表面温度の下限値は30℃以上であることが好ましく、31℃以上であることがより好ましく、32℃以上であることがさらに好ましい。インクジェット記録の際の記録媒体Mの表面温度の下限値が30℃以上であることにより、記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させることができ、ブリードが抑制される。
【0050】
硬化ヒーター5は、記録媒体Mに記録されたインク組成物を乾燥及び固化させるものである(後加熱工程)。硬化ヒーター5を用いて画像が記録された記録媒体Mを加熱することにより、インク組成物中に含まれる水分等がより速やかに蒸発飛散して、インク組成物中に含まれる樹脂微粒子によってインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着(接着)して、耐擦性に優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。硬化ヒーター5により加熱する際の記録媒体Mの表面温度は、好ましくは40℃以上120℃以下であり、より好ましくは60℃以上110℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上100℃以下である。
【0051】
インクジェット記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。記録媒体Mに記録されたインク組成物を硬化ヒーター5で加熱および乾燥した後、冷却ファン6により記録媒体M上のインク組成物を冷却することにより、記録媒体M上に密着性よくインク膜を形成することができる。
【0052】
また、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに対してインク組成物が吐出される前に、記録媒体Mを予め加熱する(プレ加熱する)プレヒーター7を備えていてもよい。さらに、記録装置1は、記録媒体Mに付着したインク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。
【0053】
1.2.水系インクジェットインク組成物
次に、本実施形態にかかるインクジェット記録方法で用いられる水系インクジェットインク組成物について説明する。本実施形態で用いられるインク組成物は、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスと、水と、を含有するものであり、その他、例えば、色材、樹脂成分、有機溶剤、および界面活性剤を含有してもよい。このような水系インクジェットインク組成物は、後述の反応液と共にインクセットとして用いることにより、特に、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対するインクジェット記録において、耐擦性が優れた画像を得ることができる。以下、本実施形態における水系インクジェットインク組成物に含まれる成分について説明する。
【0054】
1.2.1.ワックス
本実施形態にかかるインクジェット記録方法で用いられる水系インクジェットインク組
成物は、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスを含有する。水系インクジェットインク組成物が、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスとを含有することにより、形成される画像の光沢性と耐擦性を特に優れたものとすることができる。特に、反応液付着工程と、インク組成物付着工程とを有するインクジェット記録方法に用いた場合でも、形成される画像の耐擦性に優れたものとすることができる。
【0055】
第1のワックスの融点は、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましい。また、第1のワックスの融点は、150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、135℃以下であることがさらに好ましい。また、第1のワックスの融点は、後述する、記録後の後加熱工程(二次加熱工程)における記録媒体の表面温度より高いことが好ましく、後加熱工程における記録媒体の表面温度より10℃以上高いことがより好ましい。
【0056】
本実施形態にかかるインクジェット記録方法において、水系インクジェットインク組成物に含まれる第1のワックスの融点が上記範囲にあることにより、第1のワックスは、記録の際、および記録後の後加熱工程でも溶解しないが、第2のワックスが後加熱工程で溶解して第1のワックスの周囲を覆うことで、得られた画像の耐擦性と光沢性が向上する。また、記録の際に第1のワックスが溶けることがないため、インクジェットヘッドの目詰まりが防止され、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0057】
一方、本実施形態にかかるインクジェット記録方法において、水系インクジェットインク組成物に含まれる第2のワックスの融点は、65℃以下であることが好ましく、63℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることがさらに好ましい。また、第2のワックスの融点は、35℃以上であることが好ましく、44℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。さらに、第2のワックスの融点は、インク組成物付着工程における記録媒体の表面温度より高い温度であることが好ましく、インク組成物付着工程における前記記録媒体の表面温度に対して40℃を超えない範囲で高い温度であることがより好ましく、30℃を超えない範囲で高い温度であることがさらに好ましく、20℃を超えない範囲で高い温度であることがさらにより好ましく、10℃を超えない範囲で高い温度であることがいっそう好ましく、5℃を超えない範囲で高い温度であることが特に好ましい。
【0058】
本実施形態にかかるインクジェット記録方法において、水系インクジェットインク組成物に含まれる第2のワックスの融点が上記範囲にあることにより、インク組成物付着工程の温度に比較的近くなり、インク組成物付着工程後に第2のワックスはやや軟化しかけた状態となる。これにより、後加熱工程(二次加熱工程)において、第1のワックスの周囲を第2のワックスでうまく覆うことができ、得られた画像の耐擦性と光沢性が向上すると推察される。
【0059】
また、第2のワックスの融点が、インク組成物付着工程における記録媒体の表面温度に対して40℃を超えない範囲で高い温度であることにより、インク組成物付着工程の際にインクジェットヘッドがプラテン加熱の影響を受けても、目詰まりが発生しにくくなり、より吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0060】
なお、記録の際のインクジェットヘッドの目詰まりを防止し、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法とするためには、第2のワックスの融点は、インク組成物付着工程における記録媒体の表面温度に対して5℃以上高い温度であることがより好ましく、10℃以上高い温度であることがさらに好ましく、20℃以上高い温度であることがさらにより好ましく、30℃以上高い温度であることがいっそう好ましく、40℃以上高い温度であ
ることが特に好ましい。
【0061】
ここで、インク組成物付着工程における記録媒体の加熱温度は、ワックスの融点より低くても一部が軟化を始めたり、ワックスの融点よりも高くても一部は完全には溶解しきらないことがある。このため、融点と記録媒体の加熱温度は、単純に高い低いという関係に限るものではない。
【0062】
本実施形態にかかるインクジェット記録方法において、水系インクジェットインク組成物に含まれるワックスとしては、例えば、パラフィンワックスや、パラフィンワックス以外のワックスが挙げられる。
【0063】
パラフィンワックスはいわゆる石油系ワックスである。ここで、パラフィンとは、炭素原子の数が20以上のアルカン(一般式がC2n+2の鎖式飽和炭化水素)を意味し、本実施形態において、パラフィンワックスとは、炭素数20以上30以下の直鎖状のパラフィン系炭化水素(ノルマル・パラフィン)を主成分とし、少量のイソ・パラフィンを含む分子量300〜500程度の炭化水素の混合物をいう。水系インクジェットインク組成物がパラフィンワックスを含むことにより、記録物にスリップ性が付与され、それにより耐擦性が向上する。また、パラフィンワックスは撥水性を持つため、適量であれば記録物の耐水性を向上させることができる。
【0064】
本実施形態において、パラフィンワックスは微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。パラフィンワックスを微粒子状態で含有することにより、水系インクジェットインク組成物の粘度を、インクジェットヘッドを用いた吐出で適正な範囲となるように調整しやすくなり、またインクの保存安定性・吐出安定性を確保しやすくなる。
【0065】
パラフィンワックスを微粒子状態する場合、その平均粒子径は、水系インクジェットインク組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する点から、好ましくは5nm以上400nm以下であり、より好ましくは50nm以上200nm以下である。
【0066】
パラフィンワックスとしては市販品をそのまま利用することもでき、例えば、AQUACER537、AQUACER539(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0067】
一方、パラフィンワックス以外のワックスとしては、パラフィンワックスと同様、形成された記録物の表面にスリップ性を付与し耐擦性を向上させる機能を有する。パラフィンワックス以外のワックスは、水系インクジェットインク組成物に微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。これにより、インクの粘度をインクジェットヘッドを用いた吐出で適正な範囲となるように調整し、インクの保存安定性・吐出安定性を確保しやすくなる。
【0068】
パラフィンワックス以外のワックスを構成する成分としては、例えば、カルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α−オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。この中で好ましい種類としてはポリオレフィンワックスである。ポリオレフィンワックスを添加すると、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に形成された画像の物理的接
触に対する滑り性を向上させることができ、画像の耐擦性を向上できる。
【0069】
ポリオレフィンワックスとしては、特に限定されるものではなく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンまたはその誘導体から製造されたワックスおよびそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。これらの中でも、画像のヒビ割れの発生をより効果的に低減できるという観点から、ポリエチレン系ワックスが好ましい。ポリオレフィンワックスは、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0070】
ポリオレフィンワックスの市販品としては、「ケミパールW4005」(三井化学株式会社製、ポリエチレン系ワックス、粒子径200以上800nm以下、環球法軟化点110℃、針入度法硬度3、固形分40%)等のケミパールシリーズが挙げられる。その他、AQUACER513(ポリエチレン系ワックス、粒子径100以上200nm以下、融点130℃、固形分30%)、AQUACER507、AQUACER515、AQUACER840(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等のAQUACERシリーズや、ハイテックE−7025P、ハイテックE-2213、ハイテックE-9460、ハイテックE-9015、ハイテックE−4A、ハイテックE−5403P、ハイテックE−8237(以上、東邦化学株式会社製)等のハイテックシリーズ、ノプコートPEM−17(サンノプコ社製、ポリエチレンエマルジョン、粒子径40nm)等が挙げられる。これらは、常法によりポリオレフィンワックスを水中に分散させた水系エマルジョンの形態で市販されており、水系エマルジョンの形態のまま直接インク組成物中に添加することができる。
【0071】
ポリオレフィンワックスの平均粒子径は、好ましくは10nm以上800nm以下であり、より好ましくは40nm以上600nm以下であり、特に好ましくは150nm以上300nm以下である。ポリオレフィンワックスの平均粒子径が前記範囲にあることにより、形成される画像のヒビ割れの発生を低減させるとともに、耐擦性も向上できる。また、インクジェットヘッドの吐出安定性と、形成される画像の耐擦性の両性能を高い基準で満たすことができる。
【0072】
なお、上記ワックスの平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
【0073】
本実施形態において、第1のワックスはポリオレフィンワックスであり、第2のワックスがパラフィンワックスであることが好ましい。第1のワックスがポリオレフィンワックスであり、第2のワックスがパラフィンワックスであることにより、第1および第2のワックスの融点を適正な範囲とすることができ、さらに、画像の画質が向上する。
【0074】
なお、各ワックスは、各ワックスの成分の分子量や種類を変えることで融点を調整できる。また、第1および第2のワックスの2種のワックスの調製は、2種のワックスエマルジョン液を混合させて混合ワックスエマルジョンにするか、または2種のワックスからなるワックス微粒子のエマルジョンを調製することにより行う。
【0075】
本実施形態において、第2のワックスに対する第1のワックスの含有量の比は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。また、第2のワックスに対する第1のワックスの含有量の比は、0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.4以下であることがさらに好ましい。第2のワックスに対する第1のワックスの含有量の比が0.1
以上0.6以下であることにより、より画像の耐擦性が向上し、吐出安定性を確保しやすくなる。
【0076】
また、第1のワックスの含有量は、水系インクジェットインク組成物の総質量(100質量%)に対して、固形分換算で0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.04質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.08質量%以上1.0質量%以下であるのがさらに好ましい。第1のワックスの含有量が上記範囲にある場合には、上述の効果が十分に発揮される。
【0077】
一方、第2のワックスの含有量は、水系インクジェットインク組成物の総質量(100質量%)に対して、固形分換算で0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。第2のワックスの含有量が上記の範囲であることにより、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、画像の耐擦性、耐ブロッキング性および耐水性に優れた画像を形成することが可能となる。さらに、目詰まりを防止し、吐出安定性が向上する。
【0078】
1.2.2.水
本実施形態において、水系インクジェットインク組成物は、水を含有する。水は、水系インクジェットインク組成物の主となる媒体であり、加熱によって蒸発飛散する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、顔料分散液およびこれを用いたインク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を抑制できるので好適である。
【0079】
水の含有量は、水系インクジェットインク組成物の総質量(100質量%)に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。
【0080】
1.2.3.色材
本実施形態で用いられる水系インクジェットインク組成物は、色材を含有してもよい。色材としては、染料や顔料等を挙げることができ、光やガス等に対して退色しにくい性質を有していることから顔料を用いることが好ましい。そのため、顔料を用いてインク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に形成された画像は、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れ、保存性が良好となる。
【0081】
本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。一方、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0082】
本実施形態で使用可能な顔料の具体例のうち、ブラック顔料としてはカーボンブラックが挙げられ、カーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、もしくはチャンネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、また市販品としてNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA77、MA100、No.2200B等(以上全て商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S1
70、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(以上全て商品名、エボニックジャパン株式会社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上全て商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(以上全て商品名、キャボットジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0083】
ホワイト顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、及び酸化ジルコニウムの白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0084】
イエローインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0085】
マゼンタインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0086】
シアンインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー4、60が挙げられる。
【0087】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外のカラーインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、10、C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0088】
パール顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0089】
メタリック顔料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの単体又は合金からなる粒子が挙げられる。
【0090】
インク組成物に含まれ色材の含有量は、水系インクジェットインク組成物の総質量(100質量%)に対して、1.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
【0091】
上記の顔料を水系インクジェットインク組成物に適用するためには、顔料が水中で安定的に分散保持できるようにする必要がある。その方法としては、水溶性樹脂および/または水分散性樹脂等の樹脂分散剤にて分散させる方法(以下、この方法により分散された顔料を「樹脂分散顔料」という。)、水溶性界面活性剤および/または水分散性界面活性剤の界面活性剤にて分散させる方法(以下、この方法により分散された顔料を「界面活性剤分散顔料」という。)、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、上記の樹脂あるいは界面活性剤等の分散剤なしで水中に分散および/または溶解可能とする方法(以下、この方法により分散された顔料を「表面処理顔料」という。)等が挙げられる。本実施形態において、インク組成物は、上記の樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料のいずれも用いることができ、必要に応じて複数種混合した形で用いることもできる。
【0092】
樹脂分散顔料に用いられる樹脂分散剤としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等およびこれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に、疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を有するモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0093】
上記の塩としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリ−iso−プロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等の塩基性化合物との塩が挙げられる。これら塩基性化合物の添加量は、上記樹脂分散剤の中和当量以上であれば特に制限はない。
【0094】
上記樹脂分散剤の分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000の範囲であることが好ましく、3,000〜10,000の範囲であることがより好ましい。分子量が上記範囲であることにより、色材の水中での安定的な分散が得られ、またインク組成物に適用した際の粘度制御等がしやすい。
【0095】
以上述べた樹脂分散剤としては市販品を用いることもできる。詳しくは、ジョンクリル67(重量平均分子量:12,500、酸価:213)、ジョンクリル678(重量平均分子量:8,500、酸価:215)、ジョンクリル586(重量平均分子量:4,600、酸価:108)、ジョンクリル611(重量平均分子量:8,100、酸価:53)、ジョンクリル680(重量平均分子量:4,900、酸価:215)、ジョンクリル682(重量平均分子量:1,700、酸価:238)、ジョンクリル683(重量平均分子量:8,000、酸価:160)、ジョンクリル690(重量平均分子量:16,500、酸価:240)(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0096】
また、界面活性剤分散顔料に用いられる界面活性剤としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アシルメチルタウリン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキ
ルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルピリジウム塩、アルキルアミノ酸塩、アルキルジメチルベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0097】
上記樹脂分散剤または上記界面活性剤の顔料に対する添加量は、顔料100質量部に対して好ましくは1質量部〜100質量部であり、より好ましくは5質量部〜50質量部である。この範囲であることにより、顔料の水中への分散安定性が確保できる。
【0098】
また、表面処理顔料としては、親水性官能基として、−OM、−COOM、−CO−、−SOM、−SONH、−RSOM、−POHM、−PO、−SONHCOR、−NH、−NR(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基を示す。)等が挙げられる。これらの官能基は、顔料粒子表面に直接および/または他の基を介してグラフトされることによって、物理的および/または化学的に導入される。多価の基としては、炭素数が1〜12のアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいナフチレン基等を挙げることができる。
【0099】
また、前記の表面処理顔料としては、硫黄を含む処理剤によりその顔料粒子表面に−SOMおよび/または−RSOM(Mは対イオンであって、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウムイオンを示す。)が化学結合するように表面処理されたもの、すなわち、前記顔料が、活性プロトンを持たず、スルホン酸との反応性を有せず、顔料が不溶ないしは難溶である溶剤中に、顔料を分散させ、次いでアミド硫酸、又は三酸化硫黄と第三アミンとの錯体によりその粒子表面に−SOMおよび/または−RSOMが化学結合するように表面処理され、水に分散および/または溶解が可能なものとされたものであることが好ましい。
【0100】
前記官能基またはその塩を顔料粒子の表面に直接または多価の基を介してグラフトさせる表面処理手段としては、種々の公知の表面処理手段を適用することができる。例えば、市販の酸化カーボンブラックにオゾンや次亜塩素酸ソーダ溶液を作用し、カーボンブラックをさらに酸化処理してその表面をより親水化処理する手段(例えば、特開平7−258578号公報、特開平8−3498号公報、特開平10−120958号公報、特開平10−195331号公報、特開平10−237349号公報)、カーボンブラックを3−アミノ−N−アルキル置換ピリジウムブロマイドで処理する手段(例えば、特開平10−195360号公報、特開平10−330665号公報)、有機顔料が不溶又は難溶である溶剤中に有機顔料を分散させ、スルホン化剤により顔料粒子表面にスルホン基を導入する手段(例えば、特開平8−283596号公報、特開平10−110110号公報、特開平10−110111号公報)、三酸化硫黄と錯体を形成する塩基性溶剤中に有機顔料を分散させ、三酸化硫黄を添加することにより有機顔料の表面を処理し、スルホン基又はスルホンアミノ基を導入する手段(例えば、特開平10−110114号公報)等が挙げられるが、本発明で用いられる表面処理顔料のための作製手段はこれらの手段に限定されるものではない。
【0101】
1つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェットヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0102】
以上述べた樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料を水中に分散させる方法としては、樹脂分散顔料については顔料と水と樹脂分散剤、界面活性剤分散顔料については顔料と水と界面活性剤、表面処理顔料については表面処理顔料と水、また各々に必要に応じて水溶性有機溶剤・中和剤等を加えて、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミル等の従来用いられている分散機にて行うことができる。この場合、顔料の粒子径としては、平均粒子径で20nm以上500nm以下になるまで、より好ましくは50nm以上200nm以下になるまで分散することが、顔料の水中での分散安定性を確保する点で好ましい。
【0103】
1.2.4.樹脂粒子
本実施形態において、水系インクジェットインク組成物は、上記のワックスとともに、水溶性および/または非水溶性の樹脂成分を含有してもよい。樹脂粒子は、後述する記録媒体の後加熱工程において、ワックスとともに樹脂皮膜を形成して記録物を記録媒体上に定着させ耐擦性を向上させる効果を発揮する。よって、樹脂粒子は熱可塑性樹脂粒子であることが好ましい。この効果により樹脂粒子を含有する水系インクジェットインク組成物で記録された記録物は、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上で耐擦性に優れる。該樹脂粒子は水系インクジェットインク組成物に微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。樹脂粒子を微粒子状態で含有することにより、水系インクジェットインク組成物の粘度をインクジェットヘッドを用いた吐出で適正な範囲に調整しやすくなり、またインクの保存安定性・吐出安定性を確保しやすくなる。なお、本明細書において「樹脂」とは、天然または合成した高分子からなり、好ましくは合成した高分子から成り、一定の状態のもとで可塑性を示す物質をいう。
【0104】
上記の樹脂成分としては、上記の樹脂分散剤として用いられる樹脂の他、ポリアクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリアクリロニトリルもしくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレンもしくはそれらの共重合体、石油樹脂、クロマン・インデン樹脂、テルペン樹脂、ポリ酢酸ビニルもしくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニルもしくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドンもしくはその共重合体、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリブタジエンもしくはその共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、天然樹脂等が挙げられる。この中で、特に分子構造中に疎水性部分と親水性部分とを併せ持つものが好ましい。
【0105】
上記の樹脂粒子を微粒子状態で得るには、以下に示す方法で得られ、そのいずれの方法でもよく、必要に応じて複数の方法を組み合わせてもよい。その方法としては、所望の樹脂成分を構成する単量体中に重合触媒(重合開始剤)と分散剤とを混合して重合(すなわち乳化重合)する方法、親水性部分を持つ樹脂成分を水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を水中に混合した後に水溶性有機溶剤を蒸留等で除去することで得る方法、樹脂成分を非水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を分散剤と共に水溶液中に混合して得る方法等が挙げられる。上記の方法は、用いる樹脂成分の種類・特性に応じて適宜選択することができる。樹脂成分を分散する際に用いることのできる分散剤としては、特に制限はないが、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ラウリルリン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩等)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチ
レンアルキルフェニルエーテル等)を挙げることができ、これらを単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0106】
上記のような樹脂粒子として、微粒子状態(エマルジョン状態、サスペンジョン状態)で用いる場合、公知の材料・方法で得られるものを用いることも可能である。例えば、特公昭62−1426号公報、特開平3−56573号公報、特開平3−79678号公報、特開平3−160068号公報、特開平4−18462号公報等に記載のものを用いてもよい。また、市販品を用いることもでき、例えば、マイクロジェルE−1002、マイクロジェルE−5002(以上商品名、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(商品名、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(商品名、サイデン化学株式会社製)、ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC−1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX−7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX−7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0107】
樹脂粒子を微粒子状態で用いる場合、インク組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する観点から、その平均粒子径は5nm以上400nm以下の範囲が好ましく、より好ましくは50nm以上200nm以上の範囲である。樹脂微粒子の平均粒子径が前記範囲にあることにより、成膜性に優れると共に、凝集しても大きな塊ができにくいのでノズルの目詰まりを低減することができる。
【0108】
樹脂粒子を用いる場合、そのガラス転移点は25℃以上100℃以下が好ましく、40℃以上95℃以下であることがより好ましく、50℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。また、樹脂粒子のガラス転移点は、インク組成物付着工程における記録物の表面温度より高いことが好ましい。また、樹脂粒子のガラス転移点は、後加熱工程(二次加熱工程)における記録媒体の表面温度より低いことが好ましい。樹脂粒子のガラス転移点が上記の範囲であることにより、インクジェットヘッドの吐出安定性と、形成される画像の耐擦性をさらに高い基準で満たすことができる。なお、樹脂粒子のガラス転移点は、JIS K7121に準じて、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定することができる。
【0109】
上述した樹脂粒子とワックスを併用した場合に記録物の耐擦性が良好となる理由は下記のように推察される。樹脂粒子を構成する成分は、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体及び水不溶性の色材に対して良好な親和性を有するため、後述する記録媒体の後加熱工程において樹脂皮膜を形成する際に色材を包み込みながら記録媒体上に強固に定着する。一方、ワックスも樹脂皮膜の表面にも存在しており、第2のワックスは第1のワックスよりも融点が低いため、第1のワックスの表面を覆い滑らせる働きがある。これにより、記録面の耐擦性が向上すると推察される。また、第1のワックスは色材よりも平均粒子径が大きく、樹脂皮膜の表面に存在するため、樹脂皮膜表面の摩擦抵抗を低減する特性を有する。これにより、外部からの擦れによって削れにくく、かつ記録媒体から剥がれにくい樹脂皮膜を形成することができ、印刷物の耐擦性が向上するものと推察される。
【0110】
樹脂成分の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、固形分換算で好ましくは0.1質量%以上15質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上10質量
%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上7質量%以下であり、3質量%5質量%以下であることが特に好ましい。この範囲内であることにより、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上においても、インクを固化・定着させることができる。
【0111】
1.2.5.有機溶剤
本実施形態において、水系インクジェットインク組成物は有機溶剤を含有してもよい。インク組成物が有機溶剤を含有することにより、記録媒体上に吐出された水系インクジェットインク組成物の乾燥性が良好となり、耐擦性に優れた画像を得ることができる。
【0112】
インク組成物に用いる有機溶剤としては、水溶性有機溶剤であることが好ましい。水溶性有機溶剤を使用することにより、よりインク組成物の乾燥性が良好となり、耐擦性に優れた画像を得ることができる。
【0113】
水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル類;ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの水酸基を持つアミン類;グリセリンが挙げられる。水系インクジェットインク組成物の乾燥性を向上させる点では、これらの中でも、プロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ブタンジオール等を用いることが好ましい。
【0114】
水溶性有機溶剤の含有量は、水系インクジェットインク組成物の総質量(100質量%)に対して、5.0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
【0115】
また、本実施形態において、水系インクジェットインク組成物に用いる有機溶剤としては、耐擦性に優れた記録物が得られる点により、含窒素溶剤を含むことが好ましい。含窒素溶剤としては、より詳細には、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。含窒素溶剤は、熱可塑性樹脂の良好な溶解剤として作用する。
【0116】
なお、沸点が280℃以上の有機溶剤は、インクの水分を吸収して、インクジェットヘッド付近のインクを増粘させる場合があり、これにより、インクジェットヘッドの吐出安定性を低下させる場合がある。このため、本実施形態において、水系インクジェットインク組成物は、標準沸点が280℃以上の有機溶剤の含有量が3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。この場合には、記録媒体上でのインク組成物の乾燥性が高くなるので、ブリードの発生が抑制された優れた画像を形成できる。また、得られた記録物のベタツキが低減され、耐擦性に優れたものとなる。
【0117】
沸点が280℃以上の有機溶剤としては、例えば、グリセリンを挙げることができる。グリセリンは吸湿性が高く、沸点が高いため、インクジェットヘッドの目詰まりや、動作
不良の原因となる場合がある。また、グリセリンは、防腐性が乏しく、カビや菌類を繁殖させやすいので、インク組成物に含有しないことが好ましい。
【0118】
1.2.6.界面活性剤
本実施形態において、水系インクジェットインク組成物は、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤が挙げられ、これらの少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0119】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4−ジメチル−5−デシン−4−オール及び2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される1種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(商品名、エアープロダクツ社製)、サーフィノール465やサーフィノール61やサーフィノールDF110D(商品名、日信化学工業株式会社製)などが挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0120】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、サーフロンS144、S145(以上商品名、AGCセイミケミカル株式会社製);FC−170C、FC−430、フロラード−FC4430(以上商品名、住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO−100、FSN、FSN−100、FS−300(以上商品名、Dupont社製);FT−250、251(以上商品名、株式会社ネオス製)が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0121】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349(以上商品名、BYK Additives & Instruments社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0122】
これらの中でも、アセチレングリコール系界面活性剤は、ノズルの目詰まり回復性をさらに向上させることができる。一方、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤は、記録媒体上でインクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有している点で好ましい。したがって、本実施形態において、水系インクジェットインク組成物は、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤の少なくとも一方と、アセチレングリコール系界面活性剤と、を含有することがより好ましい。
【0123】
アセチレングリコール系界面活性剤の含有量の下限は、水系インクジェットインク組成
物の総質量(100質量%)に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。一方、含有量の上限は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が特に好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量が前記範囲にあると、ノズルの目詰まり回復性が向上する効果が得られやすい。
【0124】
フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の含有量の下限は、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。一方、含有量の上限は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の含有量が前記範囲にあると、記録媒体上でインクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有している点で好ましい。
【0125】
1.2.7.その他の含有成分
本実施形態において、水系インクジェットインク組成物は、さらに、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等を含有してもよい。これらの材料を添加すると、水系インクジェットインク組成物の有する特性をさらに向上させることができる。
【0126】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0127】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニサイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0128】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0129】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0130】
1.2.8.水系インクジェットインク組成物の調製方法
本実施形態で用いられる水系インクジェットインク組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0131】
1.2.9.水系インクジェットインク組成物の物性
本実施形態で用いられる水系インクジェットインク組成物は、画像品質とインクジェット記録用のインクとしての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/mであることが好ましく、20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP−Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0132】
また、同様の観点から、本実施形態で用いられる水系インクジェットインク組成物の2
0℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR−300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0133】
1.3.反応液
次に、後述するインクジェット記録方法で用いられる反応液について説明する。本実施形態で用いられる反応液は、上述の水系インクジェットインク組成物と共にインクセットを構成し、水系インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有するものである。以下、本実施形態で用いられる反応液に含まれる成分及び含まれ得る成分ついて詳細に説明する。
【0134】
なお、本実施形態において、反応液とは、色材の含有量が0.2質量%以下であり、記録媒体に着色するために用いる上述の水系インクジェットインク組成物ではなく、水系インクジェットインク組成物を付着する前に記録媒体へ付着させて用いる補助液である。
【0135】
1.3.1.凝集剤
本実施形態で用いられる反応液は、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する。反応液が凝集剤を含むことにより、後述するインク組成物付着工程において、凝集剤と水系インクジェットインク組成物に含まれる樹脂とが速やかに反応する。そうすると、水系インクジェットインク組成物中の色材や樹脂の分散状態が破壊され、色材や樹脂が凝集する。そして、この凝集物が色材の記録媒体への浸透を阻害するため、記録画像の画質の向上の点で優れたものとなると考えられる。
【0136】
凝集剤としては、例えば、多価金属塩、カチオンポリマー、有機酸が挙げられる。これらの凝集剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの凝集剤の中でも、水系インクジェットインク組成物に含まれる樹脂との反応性に優れるという点から、多価金属塩及びカチオンポリマーよりなる群から選択される少なくとも1種の凝集剤を用いることが好ましい。
【0137】
多価金属塩としては、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶な化合物である。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオン;Al3+、Fe3+、Cr3+などの三価金属イオンが挙げられる。陰イオンとしては、Cl、I、Br、SO2−、ClO3−、NO3−、及びHCOO、CHCOOなどが挙げられる。これらの多価金属塩の中でも、反応液の安定性や凝集剤としての反応性の観点から、カルシウム塩及びマグネシウム塩が好ましい。
【0138】
有機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0139】
カチオンポリマーとしては、例えば、カチオン性のウレタン樹脂、カチオン性のオレフィン樹脂、カチオン性のアリルアミン樹脂等が挙げられる。
【0140】
カチオン性のウレタン樹脂としては、公知のものを適宜選択して用いることができる。
カチオン性のウレタン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイドラン CP−7010、CP−7020、CP−7030、CP−7040、CP−7050、CP−7060、CP−7610(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、スーパーフレックス 600、610、620、630、640、650(以上商品名、第一工業製薬株式会社製)、ウレタンエマルジョン WBR−2120C、WBR−2122C(以上商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0141】
カチオン性のオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、カチオン性のオレフィン樹脂は、水や有機溶剤等を含む溶媒に分散させたエマルジョン状態であってもよい。カチオン性のオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、アローベースCB−1200、CD−1200(以上商品名、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0142】
カチオン性のアリルアミン樹脂としては、公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等を挙げることができる。このようなカチオン性のアリルアミン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、PAA−HCL−01、PAA−HCL−03、PAA−HCL−05、PAA−HCL−3L、PAA−HCL−10L、PAA−H−HCL、PAA−SA、PAA−01、PAA−03、PAA−05、PAA−08、PAA−15、PAA−15C、PAA−25、PAA−H−10C、PAA−D11−HCL、PAA−D41−HCL、PAA−D19−HCL、PAS−21CL、PAS−M−1L、PAS−M−1、PAS−22SA、PAS−M−1A、PAS−H−1L、PAS−H−5L、PAS−H−10L、PAS−92、PAS−92A、PAS−J−81L、PAS−J−81(以上商品名、ニットーボーメディカル会社製)、ハイモ Neo−600、ハイモロック
Q−101、Q−311、Q−501、ハイマックス SC−505、SC−505(以上商品名、ハイモ株式会社製)等を用いることができる。
【0143】
その他、カチオン性界面活性剤も使用可能である。カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニ
ウムクロライド等が挙げられる。
【0144】
反応液の凝集剤の濃度は、反応液1kg中において、0.03mol/kg以上であってもよい。また、反応液1kg中において、0.1mol/kg以上1.5mol/kg以下であってもよく、0.2mol/kg以上0.9mol/kg以下であってもよい。また、凝集剤の含有量は、例えば、反応液の総質量(100質量%)に対し、0.1質量%以上25質量%以下であってもよく、0.2質量%以上20質量以下であってもよく、0.3質量%以上10質量以下であってもよい。
【0145】
1.3.2.水
本実施形態で用いられる反応液は、水を主溶媒とすることが好ましい。この水は、反応液を記録媒体に付着させた後、乾燥により蒸発飛散する成分である。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、反応液を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止できるので好適である。反応液に含まれる水の含有量は、反応液の総質量(100質量%)に対して、例えば、40質量%以上とすることができ、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上である。
【0146】
1.3.3.有機溶剤
本実施形態で用いられる反応液は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤を含有することにより、記録媒体に対する反応液の濡れ性を向上させたりすることができる。有機溶剤としては、上述の水系インクジェットインク組成物で例示する有機溶剤と同様のものを使用できる。有機溶剤の含有量は、特に限定されるものではないが、反応液の総質量(100質量%)に対して、例えば、1質量%以上40質量%以下とすることができ、好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
【0147】
なお、反応液は、有機溶剤として、上述の水系インクジェットインク組成物と同様に、標準沸点が280℃超の水溶性有機溶剤の含有量が3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。この場合、反応液の乾燥性が良いため、反応液の乾燥が迅速に行われるほか、得られた記録物のベタツキ低減や耐擦性に優れる。
【0148】
1.3.4.界面活性剤
本実施形態で用いられる反応液には、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を添加することにより、反応液の表面張力を低下させ、記録媒体との濡れ性を向上させることができる。界面活性剤の中でも、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーンン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。これらの界面活性剤の具体例については、後述の水系インクジェットインク組成物で例示する界面活性剤と同様のものを使用できる。界面活性剤の含有量は、特に限定されるものではないが、反応液の総質量(100質量%)に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下とすることができる。
【0149】
1.3.5.その他の成分
本実施形態で用いられる反応液には、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等を添加してもよい。
【0150】
1.3.6.反応液の調製方法
本実施形態で用いられる反応液は、上記の各成分を適当な方法で分散・混合することよって製造することができる。上記の各成分を十分に攪拌した後、目詰まりの原因となる粗
大粒子及び異物を除去するためにろ過を行って、目的の反応液を得ることができる。
【0151】
1.3.7.反応液の物性
本実施形態で用いられる反応液は、インクジェットヘッドで吐出させる場合には、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/mであることが好ましく、20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP−Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートを反応液で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0152】
また、同様の観点から、本実施形態で用いられる反応液の20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR−300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0153】
1.4.記録媒体
上述の水系インクジェットインク組成物は、インク乾燥性を有し、特に、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対する記録において、耐擦性が優れた画像を得ることができ、好ましく用いることができる。
【0154】
インク非吸収性の記録媒体として、例えば、インクジェット記録用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。インク低吸収性の記録媒体として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。なお、本明細書中において、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体を、単に「プラスチックメディア」ともいう。
【0155】
ここで、本明細書において「インク非吸収性または低吸収性の記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0156】
インク非吸収性の記録媒体としては、例えば、インク吸収層を有していないプラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0157】
インク低吸収性の記録媒体としては、表面にインクを受容するための塗工層が設けられた記録媒体が挙げられ、例えば、基材が紙であるものとしては、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられ、基材がプラスチックフィルムである場合には、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の表面に、親水性ポリマーが塗工されたもの、シリカ、チタン等の粒子がバインダーとともに塗工されたものが挙げられる。これらの記録媒体
は、透明な記録媒体であってもよい。
【0158】
また、エンボスメディア等の、表面に凹凸を有するインク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対しても、好適に用いることができる。
【0159】
2.インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させる反応液付着工程と、前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出させて記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程と、を備え、前記インク組成物が、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスと、水と、を含有する水系インクジェットインク組成物であることを特徴とする。以下、本実施形態に係るインクジェット記録方法について、図面を参照しながら説明する。
【0160】
2.1.反応液付着工程
反応液付着工程は、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させる工程である。インク組成物の付着より前にインク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させることにより、耐擦性に優れた画像を記録することができる。
【0161】
反応液付着工程の前に図1に示すプレヒーター7により、または反応液付着工程の際に、図1に示すIRヒーター3またはプラテンヒーター4により記録媒体Mが加熱されていることが好ましい。加熱された記録媒体M上に反応液を付着させることにより、記録媒体M上に吐出された反応液が記録媒体M上で塗れ広がりやすくなり、均一塗布することができる。このため、後述のインク組成物付着工程で付着されたインクと反応液が十分に反応し、優れた画質が得られるようになる。また、反応液は記録媒体M上で均一に塗布されるため、塗布量を減らすことができる。このため、得られた画像の耐擦性低下を防止することができる。
【0162】
ここで、反応液を付着させる際の記録媒体Mの表面温度は30℃以上55℃以下であることが好ましく、35℃以上50℃以下であることがより好ましく、40℃以上45℃以下であることがさらに好ましい。反応液を付着させる際の記録媒体Mの温度が前記範囲にある場合には、反応液を記録媒体Mに均一に塗布することができ、画質を向上させることができる。また、インクジェットヘッド2への熱による影響を抑えることができる。
【0163】
なお、反応液の付着は、インクジェットヘッド2による吐出により行ってもよく、それ以外の方法、例えば、反応液をロールコーター等で塗布する方法や、反応液を噴射する方法等が挙げられる。
【0164】
2.2.インク組成物付着工程
インク組成物付着工程は、反応液付着工程を行った記録媒体へ、上述の水系インクジェットインク組成物をインクジェットヘッド2から吐出させて付着させる工程であり、この工程により、インク組成物の液滴と、反応液とが記録媒体M上で反応する。これにより、記録媒体Mの表面にインク組成物からなる画像が形成される。また、反応液が凝集剤を含有することにより、凝集剤が記録媒体M上でインクの成分と反応し、より耐擦性に優れたものとすることができる。
【0165】
ここで、本実施形態において、「画像」とは、ドット群から形成される記録パターンを示し、テキスト印字、ベタ画像も含める。なお、「ベタ画像」とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録し、通常、記録媒体
の記録領域がインクで覆われ記録媒体の地が見えていないような画像であるべき画像パターンを意味する。
【0166】
本実施形態において、インク組成物付着工程加熱工程は、反応液付着工程と同時に行われてもよい。
【0167】
記録媒体Mへの単位面積当たりの水系インクジェットインク組成物の最大付着量は、好ましくは10mg/inch以上であり、より好ましくは12mg/inch以上であり、特に好ましくは13mg/inch以上である。記録媒体の単位面積当たりの水系インクジェットインク組成物の付着量の上限は、特に限定されないが、例えば、20mg/inchが好ましい。
【0168】
インク組成物付着工程は、加熱された記録媒体Mへ行うことが好ましい。これにより、記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させることができ、ブリードが抑制される。また、耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できると供に、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0169】
なお、インクを付着させる際の記録媒体Mの表面温度(一次加熱温度)は、80℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましく、38℃以下であることがいっそう好ましい。インクを付着させる際の記録媒体の表面温度が前記範囲にあることにより、インクジェットヘッド2への熱による影響を抑制し、ノズルの目詰まりを防止することができる。また、インクジェット記録の際の記録媒体Mの表面温度の下限値は30℃以上であることが好ましく、31℃以上であることがより好ましく、32℃以上であることがさらに好ましい。インクジェット記録の際の記録媒体Mの表面温度の下限値が30℃以上であることにより、記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させることができ、ブリードが抑制され、耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できる。
【0170】
なお、上記インク組成物付着工程における記録媒体Mの表面温度は、第1のワックスの融点より低く、第2のワックスの融点より高い温度であることが好ましく、インク組成物付着工程における記録媒体Mの表面温度は、第2のワックスの融点より40℃以上の温度であることがより好ましく、30℃以上の温度であることがさらに好ましく、20℃以上の温度であることがさらにより好ましく、10℃以上の温度であることがいっそう好ましく、5℃以上下の温度であることが特に好ましい。
【0171】
本実施形態にかかるインクジェット記録方法において、インク組成物付着工程における記録媒体Mの表面温度が上記範囲にあることにより、水系インクジェットインク組成物に含まれる第2のワックスの融点とインク組成物付着工程の温度が比較的近くなり、インク組成物付着工程後に第2のワックスはやや軟化しかけた状態となる。これにより、後加熱工程(二次加熱工程)において、第1のワックスの周囲を第2のワックスでうまく覆うことができ、得られた画像の耐擦性と光沢性が向上すると推察される。
【0172】
また、インク組成物付着工程における記録媒体Mの表面温度が、第2のワックスの融点より高い温度であることにより、インク組成物付着工程の際にインクジェットヘッド2がプラテン加熱の影響を受けても、目詰まりが発生しにくくなり、より吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0173】
なお、記録の際のインクジェットヘッド2の目詰まりを防止し、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法とするためには、インク組成物付着工程における記録媒体Mの表面温度は、第2のワックスの融点の5℃以上の温度であることがより好ましく、10℃以上
の温度であることがさらに好ましく、20℃以上の温度であることがさらにより好ましく、30℃以上の温度であることがいっそう好ましく、40℃以上の温度であることが特に好ましい。
【0174】
ここで、インク組成物付着工程における記録媒体Mの加熱温度は、ワックスの融点より低くても一部が軟化を始めたり、ワックスの融点よりも高くても一部は完全には溶解しきらないことがある。このため、ワックスの融点と記録媒体Mの加熱温度は、単純に高い低いという関係に限るものではない。
【0175】
2.3.後加熱工程(二次加熱工程)
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上記インク組成物付着工程の後、図1に示す硬化ヒーター5により水系インクジェットインク組成物が付着した記録媒体Mを加熱する後加熱工程を有していてもよい。これにより、記録媒体M上の水系インクジェットインク組成物に含まれる樹脂微粒子やワックスが溶融してインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着(接着)して、耐擦性に優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。
【0176】
硬化ヒーター5により記録媒体Mの表面を加熱する温度(二次加熱温度)は、好ましくは40℃以上120℃以下であり、より好ましくは60℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上90℃以下である。加熱温度が上記範囲内であることにより、得られた記録物の耐擦性がより向上し、さらに記録媒体M上に密着性よくインク膜を形成することができる。
【0177】
また、後加熱工程における記録媒体Mの表面温度は、第1のワックスの融点より低く、第2のワックスの融点より高いことが好ましく、第1のワックスの融点より10℃以下の温度であり、第2のワックスの融点より10℃以上の温度であることがより好ましく、第1のワックスの融点より20℃以下の温度であり、第2のワックスの融点より20℃以上の温度であることがさらに好ましい。本実施形態にかかるインクジェット記録方法において、後加熱工程における記録媒体Mの表面温度が上記範囲にあることにより、第1のワックスは、記録後の後加熱工程でも溶解しないが、第2のワックスが後加熱工程で溶解して第1のワックスの周囲を覆うことで、得られた画像の耐擦性と光沢性が向上する。
【0178】
なお、後加熱工程の後に、図1に示す冷却ファン6により、記録媒体M上のインク組成物を冷却する工程を有していてもよい。
【0179】
以上示したように、本実施形態に係るンクジェット記録方法では、インク組成物が、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスとを含有するため、耐擦性が優れた画像が得られる。また、第2のワックスは、融点が70℃以下であることにより、記録の際にはまだ溶解していない状態であるものの、記録後の後加熱工程では溶解して、第1のワックスの周囲を覆うことに作用すると推察される。このため、得られる画像の耐擦性と光沢性が向上すると共に、記録の際にワックスが溶けることに因るインクジェットヘッド2の目詰まりを防止し、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0180】
3.実施例
以下、本発明の実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0181】
3.1.インク組成物の調製
表1の配合割合になるように各成分を混合攪拌して、カラーインク1〜12を得た。な
お、表1中の数値は全て質量%を示し、純水はインク組成物の全質量が100質量%となるように添加した。
【0182】
【表1】
【0183】
なお、用いた各材料は以下の通りである。
<顔料>
・PB15:3(大日精化工業株式会社製、商品名「クロモファインブルー」、C.I.ピグメントブルー15:3)
<界面活性剤>
・BYK348(商品名、BYK Additives & Instruments社製、シリコーン系界面活性剤)
・DF110D(商品名「サーフィノール DF110D」、エアープロダクツ株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
<樹脂>
・スチレン・アクリル樹脂(商品名「UF−5022」、東亞合成株式会社製、Tg75℃、固形分として)
【0184】
ワックス1〜10は、表2に記載のものを用いた。詳細には、ワックス1〜4、7、9は2種のワックスで構成される混合ワックスであり、ワックス5、6、8、10は1種のワックスのみで構成される。ワックス5として、ビックケミー・ジャパン株式会社製、AQUACER539(AQ539)を用い、ワックス6としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製、AQUACER593(AQ593)を用いた。それ以外のワックスの融点は、各ワックスの成分の分子量や種類を変えることで調整した。また、2種のワックスからなるワックス1〜4、7、9については、融点の異なる2種のワックス液を混合する
ことにより、混合ワックスエマルジョンとした。
【0185】
【表2】
【0186】
3.2.反応液の調製
表3に記載の組成にしたがって、各成分を混合・攪拌した後、10μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、反応液1、2を調製した。なお、表3中の数値は全て質量%を示し、純水は反応液の全質量が100質量%となるように添加した。
【0187】
【表3】
【0188】
なお、表3に記載の成分の詳細は、以下の通りである。
<凝集剤>
・ポリアリルアミン(PAA−01、ニットーボーメディカル株式会社製、15%固形分)
<界面活性剤>
・BYK348(商品名、BYK Additives & Instruments社製、シリコーン系界面活性剤)
【0189】
3.3.評価試験
3.3.1.記録試験
インクジェットプリンター(商品名「SC−S30650」、セイコーエプソン株式会社製)改造機に記録媒体を搬入し、ヘッドにカラーインクおよび反応液を充填した。まず、反応液を1440×1440dpiの解像度、1.0mg/inchの付着量でインクジェット塗布した。次に、記録媒体を巻き戻して、インクを10.0mg/inchの付着量で、1440×1440dpiの解像度で、反応液層に重ねてインクジェット塗布した。インクジェット塗布の際にはプラテンヒーターを作動させて、加熱した記録媒体に反応液やインクを付着させた。その際、記録媒体の表面温度が表4に記載の一次加熱温度となるようにプラテンヒーターを制御した。記録後、プリンターから記録媒体を排出し、表4の二次加熱温度で2分間乾燥させた。なお、記録媒体として、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランド社製、SV−G−1270G)を用いた。
【0190】
【表4】
【0191】
3.3.2.耐擦性の評価
上記記録試験で得られた記録物を、室温(25℃)条件下の実験室にて1時間放置した後、記録物の記録面を学振型摩擦堅牢度試験機AB−301(商品名、テスター産業株式会社製)を用いて、荷重200g下、綿布にて20回擦ったときの記録面の剥がれ状態や綿布へのインク移り状態を確認し、以下の基準で耐擦性を評価した。
(評価基準)
A:傷または剥離がない。
B:ストローク面積の1%以下の傷または剥離がある。
C:ストローク面積の1%以上10%未満の傷または剥離がある。
D:ストローク面積の10%以上の傷または剥離がある。
【0192】
3.3.3.目詰り性(吐出安定性)の評価
記録試験と同様の条件で、記録を1時間連続して行った。記録の終了後に、不吐出ノズル発生数(180ノズル中の数)を確認し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
A:不吐出ノズル(ノズル抜け)の数が0本。
B:不吐出ノズルの数が1〜5本。
C:不吐出ノズルの数が6〜20本。
D:不吐出ノズルの数が21本以上。
【0193】
3.3.4.画質(凝集ムラ)の評価
凝集ムラの評価には、上記耐擦性試験で用いたものと同様の記録物を用いた。記録物のベタパターン内のインクの凝集ムラを目視で観察し、下記評価基準で評価した。なお、この評価は室温(25℃)条件下の実験室で行った。
(評価基準)
A:ベタパターン内に凝集ムラが認められなかった。
B:ベタパターン内に凝集ムラが若干認められた。
C:ベタパターン内に凝集ムラが全体的にかなり認められた。
D:Cに加えてパターンの輪郭もパターン内から外へインクの流れ出しがみられ、境界が直線でなかった。
【0194】
3.3.5.光沢の評価
3.3.4.で得られた記録物の記録部の60°光沢を、光沢度計(コニカミノルタ社製、MULTI Gloss 268)を用いて測定し、下記評価基準で評価した。
(評価基準)
A:60°光沢が80以上。
B:60°光沢が20以上80未満。
C:60°光沢が20未満。
【0195】
3.4.評価結果
評価試験の結果を表4に示す。
【0196】
反応液を記録に用いなかった比較例8、9を除く比較例1〜7では、いずれも耐擦性の評価がDだったのに対し、実施例ではいずれも耐擦性の評価がC以上であり、耐擦性に優れる画像を形成できると供に、画像は画質や光沢に優れていた。反応液を記録に用いなかった比較例8、9は、画像の耐擦性や目詰り性は優れていたが、反応液を用いなかったため、実施例2や比較例6と比べると画質が劣っていた。
【0197】
また、実施例1〜4より、低融点ワックス(第2のワックス)の融点の温度が、一次加熱温度と差がある方が得られた画像の耐擦性が向上し、目詰まりが発生しにくくなったが、低融点ワックス(第2のワックス)の融点の温度が、一次加熱温度と近い方が光沢性に
優れた画像となった。また、低融点ワックスがパラフィンワックスである実施例3では、実施例1、2、4よりも画質が優れていた。実施例5では、高沸点であるグリセリンを含むため、目詰り性や光沢に優れていたが、得られた画像の耐擦性や画質は、実施例1〜4と比較して劣る結果となった。
【0198】
実施例1、6〜8の比較により、一次加熱温度が低い方が目詰り性に優れ、二次加熱温度が高い方が、画像の耐擦性や画質や光沢に優れていた。実施例8、9の比較により、反応液1、2は共に4つの評価が高かったが、より画質に優れた画像を得る目的であれば、凝集剤は多価金属塩であることが好ましく、より耐擦性に優れた画像を得る目的であれば、凝集剤はカチオンポリマーであることが好ましいことが分かった。
【0199】
なお、比較例1〜7のうち、比較例1、2、4、6は、ワックスが1種のみであり、比較例3では高融点ワックス(第1のワックス)の融点が100℃未満であり、比較例5では低融点ワックス(第2のワックス)の融点が70℃超であり、いずれも耐擦性が劣っていた。
【0200】
なお、目詰り性(吐出安定性)の評価が低かった実施例6と比較例4のヘッドを試験後に切断して検査したところ、圧力室内に樹脂が溶け付着が観察されたが、ノズル抜けが悪化したヘッドを吸引クリーニングしたところ、全ノズルが回復した。
【0201】
以上により、反応液を用い、インクが100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスと、水と、を含有する実施例では、耐擦性に優れた記録物が得られた。
【0202】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0203】
1…インクジェット記録装置、2…インクジェットヘッド、3…IRヒーター、4…プラテンヒーター、5…硬化ヒーター、6…冷却ファン、7…プレヒーター、8…通気ファン、M…記録媒体
図1