(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施形態における射出成形機1は、成形機本体10と、成形機本体10の動作を制御する制御装置20とを備えている。
なお、本実施形態は油圧アクチュエータ(油圧機構)により駆動される射出成形機1を用いて説明するが、油圧アクチュエータに代えてサーボモータ、インバータモータ、IPM(Interior Permanent Magnet)モータなどの電動モータによる電動アクチュエータを適用した射出成形機1としても支障ない。
【0023】
[成形機本体10]
成形機本体10は、
図1に示すように、型締ユニット11と、可塑化ユニット15と、を備える。
型締ユニット11は、図示を省略する固定金型が取り付けられた固定ダイプレート12と、図示を省略する可動金型が取り付けられた可動ダイプレート13とを備えている。型締ユニット11は、可動ダイプレート13を固定ダイプレート12に向けて移動させる油圧機構を備えており、射出成形に先立って、可動ダイプレート13を移動させて可動金型を固定金型に当接させる。そしてさらに、油圧機構の作動油の圧力を高めて、可動金型と固定金型を締め付けて、型締めを行った後に、可動金型と固定金型の間に形成されるキャビティに、可塑化ユニット15から溶融樹脂を射出して成形品を得る。
【0024】
可塑化ユニット15は、
図1に示すように、型締ユニット11の側である前方側に吐出ノズルが形成された可塑化シリンダ16と、可塑化シリンダ16の内部に設けられたスクリュ17と、樹脂材料を可塑化シリンダ16の内部に供給するための原料ホッパ18と、を備えている。可塑化ユニット15は、スクリュ17を前進又は後退させる駆動源と、スクリュ17を正転又は逆転させる駆動源などの図示を省略する構成も備えている。また、可塑化シリンダ16は、その外周に加熱ヒータ19が設けられており、加熱ヒータ19は電源がONされている間に可塑化シリンダ16の内部を調節された温度で加熱する。
スクリュ17は、先端側17Aと基部17Bを備えており、原料ホッパ18の側に基部17Bが配置される。
【0025】
可塑化ユニット15は、スクリュ17が回転されると、原料ホッパ18から供給される例えばペレット状の熱可塑性樹脂が、可塑化シリンダ16の前方側へ搬送される。この搬送過程において、この樹脂ペレットは徐々に加熱、溶融して、スクリュ17の前方に貯留される。貯留により発生する樹脂の圧力を受けてスクリュ17は原料ホッパ18の側に後退しながら所定量の溶融樹脂をスクリュ17の前方に搬送、計量する。その後、吐出ノズルから、計量された溶融樹脂を型締ユニット11の固定金型と可動金型の間に形成されるキャビティ内へ所定量だけ射出充填される。
【0026】
以上の要素を備える射出成形機1を用いて成形品を得るために、以下の工程が順に実行される。すなわち、可動金型と固定金型を閉じて高圧で型締めする型締工程と、樹脂ペレットを可塑化シリンダ16の内部で加熱、溶融して可塑化させる可塑化工程と、可塑化された溶融樹脂を、可動金型と固定金型により形成されるキャビティ内に射出、充填する射出工程と、キャビティ内に充填された溶融樹脂が固化するまで冷却する冷却工程と、金型を開放する型開き工程と、キャビティ内で冷却固化された成形品を取り出す取り出し工程と、を経て成形品が得られる。
【0027】
成形機本体10は、型締ユニット11及び可塑化ユニット15に各種のセンサを備えており、以上の各工程を実行している間にセンサで実測して得られたセンシング情報は、制御装置20に送信される。センシング情報としては、例えば、型締め圧力、射出圧力などがあり、本実施形態においてはスクリュ17の位置、可塑化シリンダ16の温度が計測される。
【0028】
[制御装置20]
制御装置20は、
図1に示すように、成形機本体10から送られるセンシング情報を用い、あるいは、制御装置20が予め備える情報を用いて、成形機本体10が型締工程、可塑化工程、射出工程…の各工程に必要な動作を行うように、動作指令情報を生成する。制御装置20は、生成した動作指令情報を成形機本体10の各駆動部に向けて送信する。これが制御装置20の基本的な動作である。成形機本体10の各駆動部は、受信した動作指令情報に基づいて射出成形を行うのに必要な動作を実行する。
【0029】
また、本実施形態の特徴的な事項として、制御装置20は、成形される樹脂材料に対応して記憶される基準値と計測値又は設定値とを比較して、現時点の状態では異常な成形が行われるおそれがある場合に警告を発する。
射出成形機1は、オペレータが制御装置20に設定した射出成形の条件に基づいて、上述した工程を自動で実行するが、自動運転中の何らかのトラブルにより自動で射出成形機が停止したり、又は生産計画に従ってあるいは成形の一時的な不具合のために、自動であるいはオペレータが制御装置20に指示することにより、スクリュ17の運転を停止したり、オペレータが手動で運転条件を設定したりすることがある。制御装置20は、これらによりスクリュ17が停止したときには、停止時間を計時し、警告を発する判定に用いることができる。
【0030】
制御装置20は、制御部21と、判定部22と、第一記憶部23と、第二記憶部24と、を備えている。この制御装置20は、コンピュータ装置で構成され、ソフトキー又はハードキーからなる入力装置25と、LCD(Liquid Crystal Display)などの表示装置26と、を備える。さらに、制御装置20は、入力装置25に制御装置20の電源のオン・オフを行う第一スイッチ27、成形機本体10の電源のオン・オフを行う第二スイッチ28、成形機本体10の動作のオン・オフを行う第三スイッチ29を備えている。
【0031】
制御部21はオペレータからの指示、選択にしたがって、第一記憶部23に記憶されている種々の情報を読み出して、動作指令情報を生成するとともに、生成した動作指令情報を成形機本体10の各駆動部に向けて送信する。また、制御部21は、判定部22で判定した結果に基づいて、警告情報を生成するとともに、生成した警告情報を表示装置26に表示させる。
【0032】
判定部22は、成形機本体10からのセンシング情報(計測値)又は成形機本体10に設定されている条件と、第二記憶部24に記憶されている樹脂材料ごとに予め定められた基準値と、を比較・判定し、その結果を制御部21に伝える。
【0033】
第一記憶部23は、成形機本体10の固定ダイプレート12に取り付けられる固定金型と可動ダイプレート13に取り付けられる可動金型と、成形条件と、成形される樹脂材料と、が対応付けて記憶される。この対応付けられた情報を、本実施形態においては金型−成形条件対応情報ということにする。
【0034】
通常、射出成形機1を使用して樹脂成形品を作製するユーザは、成形品ごとに対応する複数種類の金型を所持する。そして、金型が特定されると、当該射出成形機1において、成形条件及び使用される樹脂材料は一義的に定まる。したがって、射出成形機1は、第一記憶部23に金型-成形条件対応情報を記憶しておき、制御装置20において金型が特定されると成形条件を読みだし、制御部21は読み出した成形条件に基づいて成形機本体10の動作を制御する。
【0035】
[金型−成形条件対応情報]
図2に金型−成形条件対応情報の例が示されている。
この金型-成形条件対応情報は、それぞれの金型に付与されている金型IDと、成形条件と、樹脂名と、が対応付けられている。なお、成形条件は、一部のみが示されており、型寸法、可塑化条件、射出成形条件を含んでいる。例えば、金型IDが#1の金型に対応する型寸法はα1、可塑化条件はβ1、射出条件はγ1であり、この金型で成形される樹脂はABCである。なお、各成形条件、樹脂名は架空のものである。
また、金型-成形条件対応情報は、成形される樹脂のカテゴリも対応付けている。このカテゴリは、当該樹脂が、非晶性に該当するか否か、強腐食性を有するか否か、熱安定性が低いか否か、高い熱安定性を有するか否か、ハイサイクルで成形されるか否か、高粘度樹脂に該当するか否かに区分される。後述するモードA、モードB、モードC及びモードDにおいて、この樹脂のカテゴリが参照される。なお、
図2は、強腐食性を有するか否か、熱安定性が低いか否かの要素の記載を省略している。
【0036】
制御装置20は、入力装置25から金型ID、例えば#1が入力されると、制御部21がこれを第一記憶部23から#1の金型に対応する成形条件(型寸法:α1、可塑化条件:β1、射出条件:γ1…)及び樹脂名を読み出す。制御部21は、読み出したこれらの情報に基づいて、成形機本体10の運転を制御する。
【0037】
[判定基準(樹脂−成形基準対応情報)]
次に、第二記憶部24は、判定部22が行う判定の基になる樹脂−成形基準対応情報を記憶する。
この情報は、
図3(a)に示される第一成形基準情報と
図3(b)に示される第二成形基準情報からなる。第一成形基準情報は、特定の一つの樹脂名と複数の成形基準情報とが対応付けられたものであり、第二成形基準情報は、相前後して成形の対象となる二つの樹脂材料の組み合わせと基準となる成形温度の差に関する情報とが対応付けられたものである。
【0038】
図3(a)を参照しながら第一基準情報について説明する。
第一基準情報は、成形の対象となる樹脂名と、成形基準値としてのスクリュ基準停止時間と、スクリュ基準後退位置と、スクリュ基準回転数と、シリンダ基準温度と、が対応付けられている。
【0039】
スクリュ基準停止時間(S−T1〜S−Tn)は、可塑化シリンダ16の内部に設けられたスクリュ17の動作が停止してから動作が再開されるまでの許容上限時間を意味する。スクリュ基準停止時間は、スクリュ17が停止している時間S−Tdと比較される。この停止時間S−Tdは、実測される計測値である。
この比較は、成形対象となる樹脂材料が、非晶性樹脂、腐食性樹脂又は熱安定性の低い樹脂のいずれかである場合に行われる。また、この比較は、成形対象となる樹脂材料が滞留劣化、黄色変色、あるいは強腐食性ガスの揮発が生じるおそれがあることを、又はスクリュ17の特に基部17Bにおいて溶融した樹脂材料がスクリュ17に巻き付きが生じるおそれがあることを、オペレータに警告して伝えるために行われる。
【0040】
次に、スクリュ基準後退位置(S−P1〜S−Pn)は、スクリュ17の動作が停止してから動作が再開されるまでの間に、スクリュ17が後退しているべき位置を規定するものである。スクリュ基準後退位置は、スクリュ17が実際に停止している位置S−Pdと比較される。この位置S−Pdは、実測される計測値である。
この比較は、成形対象となる樹脂材料が熱安定性の高い場合に行われる。また、この比較は、スクリュ17の基部17Bにおいて溶融した樹脂材料がスクリュ17に巻き付きが生じるおそれがあることをオペレータに警告して伝えるために行われる。
【0041】
次に、スクリュ基準回転数(S−R1〜S−Rn)は、スクリュ17の許容される回転数の上限を樹脂材料毎に規定するものである。スクリュ基準回転数は、オペレータにより手動で設定される設定値であるスクリュ17の回転数(S−Rs)と比較される。
この比較は、成形対象となる樹脂材料が高い粘度を有する場合に行われる。また、この比較は、設定される回転数が高すぎて、樹脂材料を可塑化するのに必要なスクリュ17の回転トルクが不足することによる回転不能状態又は高回転数による過剰な剪断発熱によって樹脂材料に熱劣化が生じるのを未然に防ぐために行われる。
【0042】
次に、シリンダ基準温度(C−T1〜C−Tn)は、成形時に必要とされるシリンダ内の下限の温度を規定する。シリンダ基準温度は、オペレータの設定操作により設定される設定値である可塑化シリンダの全ての又は一部の温度(C−Ts)及び可塑化シリンダの計測温度(C−Tm)の一方又は両方と比較される。
【0043】
一般的には可塑化シリンダには、長手方向に沿って複数のヒータが設けられており、それぞれのヒータ毎に独立した設定温度で、又は、複数のヒータを組み合わせたヒータ群毎に独立して温度制御がなされるようになっている。このときの設定温度は、全てのヒータ、又は、全てのヒータ群が同じ値であることもあれば、ヒータ毎に、又は、ヒータ群毎に異なる値であることもある。このように設定温度が複数存在する場合には、可塑化シリンダの基準温度と比較するのは全ての設定温度でもよいし、一部の設定温度でもよい。また、可塑化シリンダの基準温度についても、ヒータ毎あるいはヒータ群毎に設けて、設定温度と基準温度の比較をヒータ毎又はヒータ群毎に行ってもよい。
この比較は、ハイサイクル成形が行われる樹脂材料が成形対象となる場合に行われる。また、この比較は、設定された可塑化シリンダの温度が低いために、スクリュ17が可塑化シリンダ16との回転摺動時に囓り摩耗(凝着摩耗)が発生するおそれがあることをオペレータに警告して伝えるために行われる。
なお、比較されるのは、対応するヒータ同士であり、又は、対応するヒータ群同士である。対応するか否かは、ヒータ又はヒータ群が設けられる可塑化シリンダ16の位置に基づいて特定される。
【0044】
次に、
図3(b)を参照しながら第二基準情報を説明する。
第二基準情報は、射出成形機1において先行して成形に供された樹脂名(先行樹脂材料)と、その後に成形の対象となる樹脂材料(後続樹脂材料)の組み合わせに対応して許容される成形温度の差(ΔT1〜ΔTn)を規定する。
上述したように、それぞれのヒータ毎に又はヒータ群毎に対応する複数の同じ値の設定温度又は複数の異なる値の設定温度が存在する場合には、先行樹脂材料と後続樹脂材料の組み合わせに対応して許容される成形温度の差と比較するのは、全てのヒータの成形温度の温度差でもよいし、一部のヒータの成形温度の温度差でもよい。また、先行樹脂材料と後続樹脂材料の組み合わせに対応して許容される成形温度の差についても、ヒータ毎に又はヒータ群毎に設けて、ヒータ毎に又はヒータ群毎に比較を行ってもよい。
【0045】
[警告発生手順]
制御装置20は、モードA〜モードEの五つの警告発生モードを備える。それぞれの警告発生モードの要旨を説明した後に、それぞれのモードの具体的な手順を
図4〜
図8を参照しながら説明する。なお、前提として、オペレータが制御装置20に対して使用する金型IDを入力することで、制御部21が第一記憶部23から成形条件と樹脂名を読み出しているものとする。
【0046】
[モードA〜モードEの概要]
モードAは、成形されるのが非晶性樹脂、強腐食性を有する樹脂、熱劣化により黄変し易く熱安定性の乏しい樹脂、典型的にはPC(polycarbonate:ポリカーボネート)、PMMA(Polymethyl methacrylate:ポリ メタクリル酸メチル樹脂)などの光学成形品に使用される樹脂であって高度な透明性を有する樹脂の場合に、又は難燃ABS(アクリロニトリル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン (Styrene)共重合合成樹脂)、難燃PP(polypropylene:ポリプロピレン)などの難燃性樹脂やPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene:ポリテトラフルオロエチレン)、PVC(Poly Vinyl Chloride:ポリ塩化ビニル)などの強腐食性樹脂の場合に適用される。これら樹脂を成形する際には、透明性を損なわないこと、又は難燃剤(特に、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、ホウ素系難燃剤、窒素系難燃材)や弗素系樹脂や塩化ビニル系樹脂の熱分解による強腐食性ガスによってスクリュ17や可塑化シリンダ16などが腐食されないことが求められる。それぞれの樹脂が、非晶性樹脂、熱安定性の乏しい樹脂又は強腐食性を有する樹脂に該当するか否かは、
図2に示すに金型−成形条件対応情報を参照することで特定できる。
【0047】
モードAは、加熱ヒータ19の電源がONしている状態において、スクリュ17が回転していない実行時間、つまりスクリュ17の計測値である停止時間とスクリュ基準停止時間(
図3(a))との比較により行われる。ただし、加熱ヒータ19の電源がON操作された直後などでスクリュ17の冷間起動防止機能が作動中又は停機温度維持機能が作動中は適用の除外となる。モードBも同様である。
【0048】
なお、冷間起動防止機能とは、可塑化シリンダ16の温度が成形温度に到達する以前でスクリュ17の中の樹脂材料の軟化が不十分な状態でスクリュ回転を行った場合に発生するスクリュ破損を防止するために、スクリュ17の中の樹脂材料の軟化が十分に進むまでスクリュ17の回転を禁止する機能を意味する。
また、停機温度維持機能とは、射出成形機1が停機中にスクリュ17の中の樹脂材料が熱劣化するのを防止するために、成形温度よりも低い温度で可塑化シリンダ16の温度を維持制御する機能を意味する。
【0049】
モードAは、スクリュ17の中の樹脂材料が滞留劣化、黄色変色あるいは強腐食性ガスの揮発が生じるのを防止するとともに、スクリュ17の特に基部17Bへの樹脂の巻き付くのを防止することを目的とする。
【0050】
モードBは、成形されるのが予め定められた熱安定性の高い樹脂、典型的にはPP、PE(Polyethylene:ポリエチレン)などのオレフィン系樹脂、PS(polystyrene:ポリスチレン)などのスチレン系樹脂に適用される。それぞれの樹脂が、熱安定性の高い樹脂に該当するか否かは、
図2に示すに金型−成形条件対応情報を参照することで特定できる。
モードBは、加熱ヒータ19の電源がONしている状態において、スクリュ17の計測値としての停止時間とスクリュ基準停止時間(
図3(a))との比較をするとともに、スクリュ17の計測値としての位置とスクリュ基準後退位置の比較により行われる。
【0051】
モードBは、モードAと同様に、樹脂材料のスクリュ17の特に基部17Bへの巻き付くのを防止すること目的とする。しかし、モードAが成形される樹脂材料が特に非晶性樹脂、熱安定性の乏しい樹脂、強腐食性を有する樹脂を対象としているのに対し、モードBは、熱安定性がよく高温環境下に晒す時間を監視する必要が小さい樹脂を対象とする。つまり、モードBは、オペレータが常時注意しなければならない時間で監視することに代えて、取り扱いが容易なスクリュ位置により長時間放置した場合でも巻き付きを防止することを目的とする。
【0052】
モードCは、成形されるのが予め定められた成形サイクルの短いハイサイクル成形の対象となる樹脂材料、典型的にはPP、PE、PSなどの樹脂に適用される。それぞれの樹脂が、ハイサイクル成形の対象に該当するか否かは、
図2に示す金型−成形条件対応情報を参照することで特定できる。
モードCは、可塑化シリンダ16のオペレータの設定操作による設定温度とシリンダ基準温度(
図3(a))との比較により行われる。
モードCは、オペレータの設定操作による設定温度が低温設定であった場合にスクリュ17が可塑化シリンダ16との回転摺動時に囓り摩耗(凝着摩耗)が発生するのを防止することを目的に行われる。
スクリュ17の形状は可塑化時にスクリュ17内で樹脂材料が固相から液相に変化する度合いに合わせて設計されているが、樹脂材料が固相から液相への相変化する度合い(あるいは速度は)、可塑化シリンダ16からスクリュ17内の樹脂材料に供給される伝熱量に大きく左右される。つまり、可塑化シリンダ16の設定温度が低いとスクリュ17内の樹脂材料に供給される熱量が乏しくなるため、樹脂材料の相変化が遅くれて残存固相が増大してしまう。この残存固相が過剰に増大すると、スクリュ17溝の圧縮部に楔状に食い込んでスクリュ17を大きく偏芯させて可塑化シリンダ16の内周に強く押し付けることになる。この状態でスクリュ17が回転すると囓り摩耗(凝着摩耗)が発生する。モードCは、このオペレータの設定操作による低温設定が原因で発生するスクリュ17の囓り摩耗を防止することを目的に行われる。
【0053】
モードDは、成形される樹脂材料の可塑化トルクが高トルクとなる高粘度のエンジニアリングプラスチック樹脂、典型的にはPC、PMMA、ABS、PTFE、PET(Polyethyleneterephthalate:ポリエチレンテレフタレート)、PEI(Poly Ether Imide:ポリエーテルイミド)、PEEK(Poly Ether Ether Ketone:ポリエーテルエーテルケトン)、PVCなどの樹脂に適用される。それぞれの樹脂が、高粘度の樹脂に該当するか否かは、
図2に示すに金型−成形条件対応情報を参照することで特定できる。
モードDは、オペレータの設定操作によって設定されたスクリュ17の設定回転数とスクリュ基準回転数(
図3(a))との比較により行われる。
モードDは、可塑化トルク不足によるスクリュ17の回転不能状態又は高回転数による過剰な剪断発熱による樹脂材料の熱劣化の事前回避を目的に行われる。
【0054】
モードEは、成形の対象となっている樹脂材料(後続樹脂)の成形温度(後続成形温度)と後続樹脂の直前に成形された樹脂材料(先行樹脂)の成形温度(先行成形温度)の温度差と許容成形温度差(
図3(b))との比較により行われる。
モードEは、相前後して成形される樹脂材料の成形温度の差分が大きいことによる低温設定が原因でスクリュ17に囓り摩耗が生ずるのを事前に回避することを目的とする。
【0055】
[モードAの手順]
図4を参照しながらモードAの手順を説明する。この手順は、制御部21が第一記憶部23及び第二記憶部24に記憶されている各種情報を参照して実行される。モードB〜モードEも同様である。
制御部21は、オペレータの指示に基づいて読み込んだ金型−成形条件対応情報(
図2)から成形の対象となっている樹脂材料を特定する(
図4 S101)。
【0056】
制御部21は、特定した樹脂材料が非晶性樹脂に該当するか否か、強腐食性樹脂であるか否か、又は、熱安定性が低い樹脂であるか否か、を判断する(
図4 S103)。なお、
図4のS103には、強腐食性樹脂又は熱安定性が低い樹脂についての記載が省略されている。
制御部21は、特定した樹脂材料が非晶性樹脂、熱安定性が低い樹脂及び強腐食性樹脂のいずれかの樹脂であれば(
図4 S103 Yes)、次に、加熱ヒータ19の電源がONされているか否かの確認をする(
図4 S105)。
制御部21は、加熱ヒータ19の電源がONされているのを確認すると(
図4 S105 Yes)、スクリュ17が停止しているか否かの確認をする(
図4 S107)。
【0057】
制御部21は、スクリュ17が停止していることを確認すると(
図4 S107 Yes)、スクリュ17が停止してからの経過時間である停止時間S−Tdとスクリュ基準停止時間S−Tnの大小関係を比較する(
図4 S109)。なお、ここではスクリュ基準停止時間S−Tnを例示するが、実際には成形の対象となっている樹脂名に対応するスクリュ基準停止時間S−T1〜S−Tnが選択される。また、停止時間S−Tdのタイムカウントのスタートは、例えばオペレータが射出成形機1の自動運転モードから手動運転モードに切換操作した時点でもよいし、自動運転モードにおいてスクリュ17の回転が自動で最後に停止した時点でもよい。また、タイムカウントのスタートは、手動運転モードにおいてスクリュ17の回転がオペレータの操作により最後に停止した時点でもよい。モードB以降も同様とする。またこの場合、スクリュ基準停止時間S−T1〜S−Tnは、樹脂の種類にもよるが、概ね1時間以下が好ましく、さらには30分以下が好ましい。また、特に光学成形品など熱劣化あるいは酸化劣化による微細な黄色変色が品質評価に大きく影響する樹脂や強腐食性成分を多量に含む樹脂の場合には、このスクリュ基準停止時間は20分以下が好ましい。
制御部21は、計測値としての停止時間S−Tdがスクリュ基準停止時間S−Tn以上だと判定すれば(
図4 S109 Yes)、警告を発する(
図4 S111)。
制御部21は、スクリュ17の停止が続く限り(
図4 S109 No,S107Yes)、S−TdとS−Tnの大小関係を比較し(
図4 S109)、S−TdがS−Tn以上と判定すれば(
図4 S109 Yes)、警告を発する(
図4 S111)。
【0058】
モードAにおいて、警告を発しない場合(
図4 S103 No,S105 No,S107 No)には、モードBの判定に進む。
【0059】
[モードAの効果]
モードAは、特に巻き付きの生じやすい非晶性樹脂、熱劣化による黄色変色が発生しやすい熱安定性の乏しい樹脂、又は熱分解によって強腐食性ガスを発生させる樹脂を対象として、オペレータに樹脂材料が滞留劣化、黄色変色又は強腐食性ガスの揮発が生じるおそれや巻き付きが生じるおそれがあることを警告する。
ここで、巻き付きは、溶融した樹脂がスクリュ17の溝内に硬化して固着する現象であり、巻き付きが生じると溝内の樹脂を搬送する開口面積が減少することと、巻き付いた樹脂の摩擦が金属に比べて大きいことにより、樹脂を搬送する能力が低下する。また、巻き付いた樹脂がそのまま滞留して劣化すると、一部が剥離して成形樹脂中に含まれるおそれがある。剥離した樹脂は滞留により劣化しているために、成形品に点状の着色を生じさせる。したがって、非晶性樹脂にとって巻き付きは特に避けたい現象である。
【0060】
巻き付きの原因は、いくつかあるが、本実施形態が想定するのは、自動運転中の何らかのトラブルにより射出成形機が停止したとき、又は生産計画に従ってあるいは成形の一時的な不具合のために、自動であるいはオペレータが射出成形機を停止したときのことである。
【0061】
スクリュ17の動作を停止しても、加熱ヒータ19の電源はONにしたままの場合が多い。したがって、スクリュ17の動作を停止すると、可塑化シリンダ16の内部にすでに供給された樹脂材料の温度が上昇し、溶融してしまう。スクリュ17の動作中であれば、樹脂材料が供給されるとともに、供給された樹脂材料は前方に向けて搬送されるので、加熱ヒータ19による昇温だけで樹脂材料は溶融しないが、スクリュ17の動作が停止する時間が長くなると、スクリュ17の溝内に停滞する樹脂材料は溶融が過度に進行する。具体的には、スクリュ17の動作中であれば溶融しておらず固相のままの樹脂材料までが溝内で溶融して溝内(溝底、溝側壁)に付着してしまう。その後、スクリュ17の動作が再開されると、新たな低温の樹脂材料が次々に供給されるスクリュ17の基部17Bにおいては、それまで滞留し溶融して溝内に付着していた樹脂材料の温度が低下して、溝底又は溝側面で固化して貼り付いてしまい、スクリュ17を回転させても樹脂材料がスクリュ17と一体となって回転してしまい、スクリュ17内を搬送されずにそのまま留まる、所謂、巻き付き現象を起こすおそれがある。
【0062】
以上に対して、本実施形態の射出成形機1は、モードAを採用することにより、特に樹脂材料が滞留劣化、黄色変色あるいは強腐食性ガスの揮発が生じるおそれや、スクリュ17の基部17Bにおける巻き付きが生じるおそれがあることを、オペレータに警告する。警告を受けたオペレータは樹脂材料が滞留劣化、黄色変色あるいは強腐食性ガスの揮発や巻き付きが生じる前にスクリュ17の動作を再開させれば、樹脂材料が滞留劣化、黄色変色又は強腐食性ガスの揮発や巻き付きが生じるのを避けることができる。
【0063】
[モードBの手順]
図5を参照しながらモードBの手順を説明する。
制御部21は、特定した樹脂材料が熱安定性に優れるのか否かを判断する(
図5 S201)。
制御部21は、特定した樹脂材料が熱安定性に優れる樹脂材料であれば(
図5 S201 Yes)、次に、加熱ヒータ19の電源がONされているか否かの確認をする(
図5 S203)。
制御部21は、加熱ヒータ19の電源がONされているのを確認すると(
図5 S203 Yes)、スクリュ17が停止しているか否かの確認をする(
図5 S205)。
【0064】
制御部21は、スクリュ17が停止していることを確認すると(
図4 S205 Yes)、スクリュ17が停止してからの停止時間S−Tdとスクリュ基準停止時間S−Tnの大小関係を比較する(
図5 S207)。
制御部21は、停止時間S−Tdがスクリュ基準停止時間S−Tn以上だと判定すれば(
図5 S207 Yes)、次に、スクリュ17の計測された位置S−Pdとスクリュ17の基準位置S−Pnの大小関係を比較する(
図5 S209)。
制御部21は、スクリュ17の後退位置が基準位置S−Pnに達していない、つまり位置S−Pdがスクリュ17の基準位置S−Pn以下だと判定すれば(
図5 S209 Yes)、警告を発する(
図5 S211)。またこの場合、スクリュ基準停止時間S−T1〜S−Tnは、樹脂の種類にもよるが、概ね2時間以下が好ましく、更には1時間以下が好ましい。
【0065】
制御部21は、スクリュ17の停止が続く限り(
図5 S209 No,S205 Yes)、S−TdとS−Tnの大小関係の比較(
図5 S207)、S−PdとS−Pnの大小関係の比較(
図5 S209)を継続して行い、比較結果に基づいて警告を発する(
図5 S211)。
【0066】
モードBにおいて、警告を発しない場合(
図5 S201 No,S203 No,S205 No,S207 No)には、モードCの判定に進む。
【0067】
[モードBの効果]
モードBは熱安定性の高い樹脂材料を対象としているために、モードAとは異なり、熱劣化を危惧する必要はない。しかし、スクリュ17の停止が長引くとその基部17Bにおいて巻き付きが生じ得る。そこで、スクリュ17の基部、具体的にはスクリュ17の動作中であれば樹脂材料が溶融せず固相のままのスクリュ溝領域である基部17Bが、可塑化シリンダ16の高温領域を外れる程度までスクリュ17を後退させることで、基部17Bに巻き付きが生じるのを事前にオペレータに警告する。このとき可塑化シリンダ16の高温領域とは、例えば可塑化シリンダ16の内壁付近の温度が樹脂材料の軟化温度以上あるいは流動開始温度以上である領域を意味する。特に、樹脂材料が結晶性樹脂の場合は、基部17Bを融点以上である領域を外れる程度まで後退させることが好ましく、樹脂材料が非晶性樹脂の場合は、基部17Bをガラス転移点よりも60℃以上高い領域を外れる程度まで後退させることが好ましい。
可塑化シリンダ16には加熱ヒータ19が備えられているが、原料ホッパ18の周辺又はその後方側(
図1においては右方向側)には加熱ヒータ19は設けられていない。このため加熱ヒータ19の設けられた領域から加熱ヒータ19が設けられていない領域方向(
図1右側)に離れた位置ほど可塑化シリンダ16の温度は低下していく。
モードBは、スクリュ17の動作中であれば樹脂材料が溶融していない基部17Bを、長時間スクリュ17を動作させなくても溝内の樹脂材料が溶融しないように、可塑化シリンダ16も低温領域に避難させるものである。
【0068】
基準位置S−Pnは、樹脂材料が結晶性樹脂の場合は、スクリュ直径の2倍以上の値、つまりスクリュ17が最前進位置からスクリュ直径の2倍以上の距離だけ後退した位置とするのが好ましく、樹脂材料が非晶性樹脂の場合、同様にスクリュ直径の3倍以上の値とするのが好ましい。これはスクリュ17をスクリュ直径の2倍程度まで後退させた際の基部17Bに対応する位置の可塑化シリンダ16の内壁面温度を、結晶性樹脂においては溶融温度、非晶性樹脂におけるガラス転移点よりも60℃高い温度を下回らせるのに十分な位置まで後退させることができる後退量であるためである。
【0069】
[モードCの手順]
図6を参照しながらモードCの手順を説明する。
制御部21は、特定した樹脂材料がハイサイクル樹脂に該当するか否かを判断する(
図6 S301)。
制御部21は、特定した樹脂材料がハイサイクル樹脂に優れる樹脂材料であれば(
図6 S301 Yes)、次に、加熱ヒータ19の電源がONされているか否かの確認をする(
図5 S303)。
【0070】
制御部21は、加熱ヒータ19の電源がONされているのを確認すると(
図6 S303 Yes)、スクリュ17が停止しているか否かの確認をする(
図6 S305)。
制御部21は、スクリュ17が停止していることを確認すると(
図6 S305 Yes)、オペレータがスクリュ17の回転操作をおこなったか否かを確認する(
図6 S306)。
制御部21は、オペレータがスクリュ17の回転操作をおこなったことを確認すると(
図6 S306 Yes)、スクリュ17が停止したままで可塑化シリンダ16の設定温度C−Tsとシリンダ基準温度C−Tnを比較する(
図6 S309)。この比較はスクリュ17の回転が停止したままで行うことが好ましい。ただし、可塑化シリンダ16の設定温度C−Tsがシリンダ基準温度C−Tnよりも低温であっても、スクリュ17の回転直後にスクリュ17の囓り摩耗が発生する可能性は低いため、設定温度C−Tsとシリンダ基準温度C−Tnの比較はスクリュ17の回転を開始してから行ってもよい。
制御部21は、設定温度C−Tsが成形の対象となっている樹脂材料に対応したシリンダ基準温度C−Tn以下であれば(
図6 S309 Yes)、スクリュを回転開始させることなく、警告を発する(
図6 S311)。このとき、設定温度C−Tsとシリンダ基準温度C−Tnの比較をスクリュ17が停止したままで行った場合には、スクリュ17が停止したままで警告を行ってもよいし、スクリュ17の回転を開始してから警告を行ってもよい。また、設定温度C−Tsとシリンダ基準温度C−Tnの比較をスクリュ17の回転を開始してから行った場合には、スクリュ17を回転させながら警告を行ってもよいし、スクリュ17の回転を停止してから警告を行ってもよい。
このとき、シリンダ基準温度C−Tnは、樹脂材料が結晶性樹脂の場合は、溶融温度よりも20℃以上高い温度が好ましく、30℃以上高い温度であることが更に好ましい。また樹脂材料が非晶性樹脂の場合は、ガラス転移温度よりも80℃以上高い温度であることが好ましく、100℃以上高い温度であることが更に好ましい。
【0071】
制御部21は、C−TsとC−Tnの大小関係の比較(
図6 S309 No)を継続して行い、C−TsがC−Tnよりも低温の値であれば警告を継続して発する(
図6 S311)。
【0072】
[モードCの効果]
モードCはソリッドベッドのブレークアップによるスクリュ17の可塑化シリンダ16との回転摺動時に囓り摩耗が発生するおそれを警告する。
射出成形機1のユーザは、成形サイクルを短くして射出成形品の生産効率を上げることを念頭に置くことがある。成形サイクルを短くしてハイサイクル成形にするためには、成形温度、つまり可塑化シリンダ16の設定温度をできるだけ低く抑え、樹脂が固化するまでの時間を短くすることが有効である。また、金型内で溶融樹脂が冷却固化する際に発生する樹脂材料の収縮は、溶融樹脂の温度が高いほど大きいため、固化過程で発生する成形品の歪みや残留応力を低減するためには、溶融樹脂温度をできるだけ低く抑えることが有効である。この場合、溶融樹脂温度に影響の大きい可塑化シリンダ16の設定温度をできるだけ低く抑えることが有効である。したがって、オペレータは、可塑化シリンダ16の温度を設定する際に、設定温度C−Tsを低く設定しようとする。ところが、成形温度が低いと、スクリュ17の溝内で可塑化時にブレークアップ現象が生じやすくなる。ブレークアップが生じると、スクリュ17の周方向に偏荷重が生じ、スクリュ17は可塑化シリンダ16にかじりやすくなる。
【0073】
そこで、射出成形機1は、モードCを採用することにより、設定温度C−Tsがシリンダ基準温度C−Tn以下であれば、オペレータに対して可塑化シリンダ16の設定温度C−Tsが低いために、スクリュ17が可塑化シリンダ16にかじるおそれがあることを警告する。
この警告を受けたオペレータは、可塑化シリンダ16の設定温度C−Tsを設定しなおすことで、設定温度が低いことによるスクリュ17の囓り摩耗を未然に防止できる。
【0074】
[モードDの手順]
図7を参照しながらモードDの手順を説明する。
制御部21は、特定した樹脂材料が高粘度樹脂に該当するか否かを判断する(
図7 S401)。
制御部21は、特定した樹脂材料が高粘度樹脂であれば(
図7 S401 Yes)であれば、次に、加熱ヒータ19の電源がONされているか否かの確認をする(
図7 S403)。
制御部21は、加熱ヒータ19の電源がONされているのを確認すると(
図7 S403 Yes)、スクリュ17が停止されているか否かの確認をする(
図7 S405)。
制御部21は、スクリュ17が停止されていることを確認すると(
図7 S405 Yes)、スクリュ17がオペレータの操作により回転数が設定されているか否かの確認をする(
図7 S407)。
【0075】
制御部21は、スクリュ17の回転数が設定されているのを確認すると(
図7 S407 Yes)、オペレータがスクリュ17の回転操作をおこなったか否かを確認する(
図7 S409)。
制御部21は、オペレータがスクリュ17の回転操作をおこなったことを確認すると(
図7 S409 Yes)、スクリュ17が停止したままで設定されたスクリュ17の回転数S−Rsとスクリュ17基準回転数S−Rnを比較する(
図7 S411)。この比較はスクリュ17が停止したままで行うことが好ましい。ただし、スクリュ17の回転数S−Rsがスクリュ17の基準回転数S−Rnより高い回転数であっても、スクリュ17の回転不能状態あるいは樹脂材料の熱劣化が、スクリュ17の回転直後に発生する可能性は低いため、スクリュ17の回転数S−Rsとスクリュ17基準回転数S−Rnの比較は、スクリュ17の回転を開始してから行ってもよい。
【0076】
制御部21は、設定回転数S−Rsが基準回転数S−Rn以上であれば(
図7 S411 Yes)、警告を発する(
図6 S413)。
このとき、スクリュ17の回転数S−Rsとスクリュ17基準回転数S−Rnの比較をスクリュ17が停止したままで行った場合には、スクリュ17が停止したままで警告を行ってもよいし、スクリュ17の回転を開始してから行ってもよい。スクリュ17の回転数S−Rsとスクリュ17基準回転数S−Rnの比較を、スクリュ17を回転させてから行った場合には、スクリュ17を回転させながら行ってもよいし、スクリュ17の回転を停止してから行ってもよい。
【0077】
制御部21は、スクリュ17の手動モードでオペレータによるスクリュ17の回転操作が続く限り(
図7 S409 Yes)、R−RsとS−Rnの大小関係の比較(
図7 S405)を継続して行い、必要に応じて警告を発する(
図7 S413)。
【0078】
[モードDの効果]
モードDは、高粘度の樹脂に適用される。高粘度の樹脂を射出成形する場合、トルクを確保するために、スクリュ17の回転数は低く抑えられる。これとは逆に高い回転数でスクリュ17を回転させる、つまりスクリュ17の駆動源である電動モータの回転数を高くすると、電動モータが発生するトルクが不足して、極端な場合にはスクリュ17が回転しないという事態が生ずる。
また、高粘度樹脂は高回転数でスクリュ17を回転させると、過剰な剪断発熱が引き起こって熱劣化を発生させる場合がある。
【0079】
ところが、射出成形機1はモードDを備えるので、オペレータはトルク不足によりスクリュ17が回転しないという事態あるいは過剰な剪断発熱による樹脂材料の熱劣化の発生を事前に知ることができるので、設定回転数S−Rsを再設定することにより、スクリュ17の回転不能状態あるいは樹脂材料の熱劣化を未然に防止できる。
【0080】
[モードEの手順]
図8を参照しながらモードEの手順を説明する。
制御部21は、直前に成形した樹脂材料(先行樹脂)の情報を第一記憶部23から読み出す(
図8 S501)。この情報は、先行樹脂の名称(先行樹脂名)と成形温度(先行成形温度:C−TB)を含む。制御部21は、これから成形の対象となる樹脂材料(後続樹脂)の情報として、後続樹脂の名称(後続樹脂名)と成形温度(後続成形温度:C−TA)を第一記憶部23からすでに読み出している。またこのとき、制御部21は、先行成形温度C−TBを第一記憶部23から読み出した直前に成形した樹脂材料(先行樹脂)の情報ではなく、図示を省略する温度センサにより計測した可塑化シリンダ16の温度を先行成形温度C−TBとしてもよい。
【0081】
制御部21は、先行樹脂名と後続樹脂名の組み合わせを、第二記憶部24に記憶されている第二基準情報(
図3(b))と照合し、許容成形温度差(ΔT1〜ΔTn)を特定する(
図8 S503)。
図3(b)において、例えば先行樹脂名が「ABG」であり後続樹脂名が「ABH」であれば、許容成形温度差ΔTnが特定される。このとき、許容成形温度差ΔTnは樹脂材料毎に選定することが好ましいが、先行樹脂名と後続樹脂名の相関によらず、例えば許容成形温度差ΔTnを10〜30℃程度の一定温度値としてもよい。
【0082】
制御部21は、許容成形温度差ΔTnを特定すると、先行成形温度C−TBと後続成形温度C−TAの差(設定成形温度差=|(C−TB)−(C−TA)|)と許容成形温度差ΔTnを比較する(
図8 S505)。
制御部21は、C−TBとC−TAの差(|(C−TB)−(C−TA)|)が許容成形温度差ΔTn以上であれば(
図8 S503 Yes)、警告を発する(
図8 S505)。
制御部21は、C−TBとC−TAの差(|(C−TB)−(C−TA)|)が許容成形温度差ΔTn未満であれば(
図8 S503 No)、警告を発することなく処理を終える。
【0083】
[モードEの効果]
モードEは、先行成形温度と後続成形温度の差が大きい場合のブレークアップによるスクリュ17の囓り摩耗に対応できる。なお、モードEの前提として、先行して成形された樹脂の相当量は可塑化シリンダ16の内部に残留している。先行成形温度よりも後続成形温度の方が大幅に低い場合は、後続成形温度が低温であることにより内部に残留する樹脂が冷却されて高粘度化あるいは固化が進んでいると、ブレークアップや可塑化トルク不足によるスクリュ17の回転不能状態を起こしやすい。また、先行成形温度が後続成形温度よりも大幅に高い場合は、先行樹脂がスクリュ17の基部17Bで溶融し巻き付きを起こしやすい。
【0084】
はじめに、先行成形温度が高く、後続成形温度が低い場合(ケースX)について説明する。
可塑化シリンダ16の内部に成形温度の高い樹脂が残留したままで成形温度の低い樹脂を成形しようとして、通常のように成形温度の低い樹脂について成形温度を設定したのでは、後続成形温度が低温であることで残留する成形温度の高い樹脂が冷却されて高粘度化あるいは固化が進んでいる場合がある。この場合、この高粘度化したあるいは固化した樹脂を軟化あるいは溶融するための熱量として可塑化シリンダ16から供給されることが必要な伝熱量(スクリュ17の中の材料樹脂との温度差)が不足する。この場合、実際にスクリュ17内に残留している先行樹脂を溶融したまま可塑化シリンダ16(あるいはスクリュ17)の外に排出するために必要な温度よりも低い温度に設定される低温設定になり、過大なブレークアップが発生するおそれがある。
またこのとき、スクリュ17内に残留し高粘度化したあるいは固化した樹脂を軟化あるいは溶融させるためには、不足した可塑化シリンダ16からの伝熱量を補う分だけスクリュ17から剪断力(可塑化トルク)を与える必要がある。このため必要な可塑化トルクが増大し、可塑化トルク不足によるスクリュ17の回転不能状態や、樹脂材料の過剰な剪断発熱による熱劣化が発生する虞がある。
【0085】
次に、先行成形温度が低く、後続成形温度が高い場合(ケースY)について説明する。
可塑化シリンダ16の内部に後続樹脂よりも成形温度の低い樹脂が残留したままで成形温度の高い後続樹脂を成形しようとして、通常のように後続樹脂の高い成形温度を設定したとする。これでは、残留する成形温度の低い先行樹脂が、先行成形温度で運転されていれば溶融しておらず固相のままの状態である基部17Bにおいて、溝内で溶融して溝内(溝底、溝側壁)に付着してしまう。その後、後続樹脂が投入されてスクリュ17の動作が再開されると、例えばペレット状態(低温状態)の後続樹脂が次々に供給され、基部17Bの温度を低下させる。これにより、基部17Bで溶融して溝内に付着していた先行樹脂が溝底又は溝側面で固化して貼り付いてしまい巻き付きを起こすおそれがある。
【0086】
ところが、射出成形機1はモードEを備えているので、先行成形温度と後続成形温度の差が大きい場合には、オペレータに対して警告を発することで、可塑化シリンダ16の内部にこれから成形しようとする樹脂と成形温度差の大きい樹脂が残留している可能性を知らせる。
この警告を受けたオペレータは、先行して成形された樹脂を可塑化シリンダ16から排出させる動作を成形機本体10に指示するなどを行って、成形温度差が大きいことによるスクリュ17の囓り摩耗、可塑化トルク不足、過剰な剪断発熱による樹脂材料の熱劣化、巻き付きを未然に防止できる。
【0087】
[実施形態の効果]
以上説明した通りであり、モードA〜モードEを備える本実施形態の射出成形機1によれば、オペレータが制御装置20を操作又は設定した際に、この操作、設定がトラブルの原因となるおそれがあることを警告する。したがって、射出成形機1は、思いこみや勘違いによる不適切な操作を取り止めるための気付きをオペレータに提供できる。これにより、経験が少ないオペレータが射出成形機1を操作していても、種々のトラブルを防止することができる。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、警告は表示装置26に視覚的に表示させるのに限定されず、音声を発するというようにオペレータが聴覚で認識できる警告を行うことができる。また、振動のように触覚で警告を表すこともできる。さらに、警告の内容についても任意であり、例えば、「モードAについて不具合が発生するおそれがあります」といった内容の文字・音声、あるいは、「スクリュの停止をこれ以上続けると巻き付きが生じるおそれがあります」といった内容の文字・音声とすることができる。
また、センサや記憶装置の故障などの誤信号に基づいて誤警告が発令された場合に対して、所定の操作をおこなうことにより、警告を解除できるようにしてもよい。また、当該解除はユーザIDやパスワードなどにより管理された、予め解除資格を与えられた資格所有者のみが警告を解除可能とすることが好ましい。
【0089】
また、本実施形態におけるスクリュの停止は、オペレータの操作により行われる場合を例示したが、本発明におけるスクリュの停止はこれに限らない。射出成形機が自動運転の開始前あるいは終了後、つまり射出成形機1が自動運転による成形運転を行っておらず、連続自動運転中の1成形サイクルに要する時間を超えて長時間停止している状態を含み得る。つまり、少なくともスクリュが回転している状態から、オペレータの操作により手動モードに切りかえてスクリュの回転を停止した場合に限らず、自動運転中の何らかのトラブルにより、又は生産計画に従って、制御装置からの指示により自動で射出成形機1の運転が停止した場合などでスクリュの回転が停止する場合も該当する。
【0090】
また、本実施形態では、樹脂材料の情報を、樹脂の固有名称に対応付けた情報として例示したが、これは一例にすぎない。
固有名称ではなく、非晶性樹脂あるいは結晶性樹脂などの樹脂の構造的特性が類似した樹脂グループに対応付けた情報としてもよいし、軟化温度、流動開始温度、溶融温度、ガラス転移温度、熱分解温度などの樹脂材料の特性が変位する温度が近似し所定の温度範囲に含まれる樹脂グループに対応付けた情報としてもよい。
また、成形温度が近似し所定の温度範囲に含まれる樹脂グループに対応付けた情報としてもよいし、溶融樹脂粘度が近似し所定の粘度範囲に含まれる樹脂グループに対応付けた情報としてもよい。
また、樹脂材料が溶融するための必要熱量値が近似し所定の範囲に含まれる樹脂グループに対応付けた情報としてもよいし、光学成形品用、雑貨品用、自動車部品用などの成形品用途毎あるいは類似した成形品用途群毎の樹脂グループに対応付けた情報としてもよい。
さらに、含有されている添加剤、強化材毎あるいは類似した添加剤、強化材群毎の樹脂グループに対応付けた情報としてもよいし、これらの他、樹脂を類別するあらゆる樹脂グループに対応付けた情報とすることができる。
またこれらの類別を単独ではなく、複数の類別を組み合わせて細分化した複合類別に対応付けた情報としてもよい。
【0091】
また本実施形態では、樹脂材料の特定を、樹脂材料の情報を金型と対応付けた情報として、制御装置が記憶装置から金型IDに対応する成形条件及び樹脂名を読み出すことにより行う例を示したが、樹脂材料の特定は、オペレータが入力装置から直接入力することによって行ってもよい。
【0092】
また、制御装置に設定された、少なくとも可塑化シリンダの設定温度又はスクリュの回転数を含む成形条件に基づいて、樹脂材料を特定してもよい。この場合、記憶部に複数の可塑化シリンダの設定温度又はスクリュの回転数の組合せに対応付けて代表的な樹脂材料を記憶しておく。このとき樹脂材料に対応させて記憶部に記憶するのは、特定の温度ではなく、温度範囲又は回転数範囲として記憶することが好ましい。例えば、可塑化シリンダの設定温度が250℃以下の範囲とスクリュ回転数の設定が機械仕様値の80%以上のスクリュ回転数範囲との組合せに対して、樹脂材料としてオレフィン系樹脂を対応付けて記憶しておく。このとき、可塑化シリンダの設定温度が230℃、スクリュ回転数が90%であれば、樹脂材料をオレフィン系樹脂として特定する。
【0093】
樹脂材料を特定する精度を高めるためには、可塑化シリンダの設定温度とスクリュの回転数の組み合せに樹脂材料を対応させて記憶部に記憶することが好ましい。
ただし、PP、PE、PSなどの熱可塑性樹脂の成形温度範囲としては下限値温度範囲で成形する、又は、射出成形機の仕様回転数範囲の上限回転数範囲で成形する、ことが一般的である樹脂材料の場合は、可塑化シリンダの設定温度のみ又はスクリュの回転数のみ、から樹脂材料を特定可能であるとみなすことができる。したがって、PP、PEなどの樹脂材料については、可塑化シリンダの設定温度のみ又はスクリュの回転数のみに対応付けて記憶してよい。
【0094】
また、記憶部に記憶する樹脂材料や成形基準値などの樹脂−成形基準値は、オペレータにより作成又は編集して記憶部に記憶できるようすることが好ましい。
【0095】
また、成形基準情報は、予め設定されたデフォルト値を設けるが、オペレータがデフォルト値を編集して独自の成形基準情報に変更することができる。