特許第6922491号(P6922491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922491
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/00 20150101AFI20210805BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20210805BHJP
【FI】
   A63B53/00 Z
   A63B102:32
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-134322(P2017-134322)
(22)【出願日】2017年7月10日
(65)【公開番号】特開2019-13615(P2019-13615A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 成宏
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 盛治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼須 健司
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴次
(72)【発明者】
【氏名】神野 大介
【審査官】 槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−312013(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0126297(US,A1)
【文献】 特開2004−135730(JP,A)
【文献】 特許第5546673(JP,B1)
【文献】 特開2015−188681(JP,A)
【文献】 特開2004−201911(JP,A)
【文献】 米国特許第9079083(US,B2)
【文献】 米国特許第8216085(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00−53/04
A63B 60/00
A63B 60/46
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド、シャフト及びグリップを備えており、
順式クラブフレックスが140mm以上であり、
グリップ重量Wgが30g以下であるゴルフクラブ。
【請求項2】
クラブ長さが45.7インチ以上46.5インチ以下である請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
スイングウェイトがD5以上である請求項1又は2に記載のゴルフクラブ。
【請求項4】
前記ヘッドの重量がWhとされ、クラブの重量がWcとされるとき、Wh/Wcが0.72以上である請求項1から3のいずれか1項に記載のゴルフクラブ。
【請求項5】
前記グリップの後端から前記グリップの重心までの距離がLg1とされ、前記グリップの長さがLg2とされるとき、Lg1/Lg2が0.37以上である請求項1から4のいずれか1項に記載のゴルフクラブ。
【請求項6】
下記式(1)により算出される肩中心グリップGLLが140kg・cm以下である請求項1から5のいずれか1項に記載のゴルフクラブ。
肩中心グリップGLL = Wg×L×L ・・・(1)
ただし、この式(1)において、Wgは前記グリップの重量(kg)であり、Lは下記式(2)で計算される値である。この式(2)においてLg1は、前記グリップの後端から前記グリップの重心までの距離(cm)である。
L = [60+(Lg1)1/2・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
打球の方向安定性等の改善を目的としたゴルフクラブが知られている。特開2001−149510号公報は、リアルロフトが11°以下であり、クラブ振動数が240cpm以下であり、且つ、これらリアルロフトとクラブ振動数とが所定の関係にあるゴルフクラブを開示する。特開2004−201911号公報は、ゴルフクラブの総重量が285g以下とされ、クラブの長さが111cm以上とされ、且つ、ゴルフクラブの総重量に占めるヘッドの質量割合が73%以上81%以下とされたゴルフクラブを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−149510号公報
【特許文献2】特開2004−201911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、ゴルフクラブの更なる改善について、鋭意検討した。その結果、ゴルフクラブがスイングの安定性に与える影響について、新たな知見を得た。
【0005】
本発明の目的は、スイングの安定性を高めうるゴルフクラブの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある側面において、ゴルフクラブは、ヘッド、シャフト及びグリップを備えている。順式クラブフレックスが、140mm以上であってもよい。グリップ重量Wgは、30g以下であってもよい。
【0007】
他の側面において、前記ゴルフクラブのクラブ長さが45.7インチ以上46.5インチ以下であってもよい。
【0008】
他の側面において、前記ゴルフクラブのスイングウェイトはD5以上であってもよい。
【0009】
前記ヘッドの重量がWhとされ、クラブの重量がWcとされる。他の側面において、Wh/Wcが0.72以上であってもよい。
【0010】
前記グリップの後端から前記グリップの重心までの距離がLg1とされ、前記グリップの長さがLg2とされる。他の側面において、Lg1/Lg2が0.37以上であってもよい。
【0011】
他の側面において、下記式(1)により算出される肩中心グリップGLLが140kg・cm以下であってもよい。
肩中心グリップGLL = Wg×L×L ・・・(1)
ただし、この式(1)において、Wgは前記グリップの重量(kg)であり、Lは下記式(2)で計算される値である。この式(2)においてLg1は、前記グリップの後端から前記グリップの重心までの距離(cm)である。
L = [60+(Lg1)1/2・・・(2)
【発明の効果】
【0012】
スイング中に人体に作用する力が抑制され、スイングが安定化しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係るゴルフクラブを示す。
図2図2は、スイング中のゴルファーを上方から見た図である。図2には、ダウンスイング中に身体に作用する力が矢印で示されている。
図3図3は、スイングの各局面において身体に作用する力を示す概念図である。
図4図4は、ダウンスイングの初期段階における腕とクラブとの状態を示す概念図である。
図5図5は、順式クラブフレックスの測定のために用いられるフレックス用長さを示す。
図6図6は、順式クラブフレックスの測定方法を示す概略図である。
図7図7は、クラブ振動数の測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0015】
なお、本願において、「軸方向」とは、撓んでいない真っ直ぐな状態のシャフトの軸方向を意味する。
【0016】
図1は、一実施形態に係るゴルフクラブ2を示す。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8とを備えている。シャフト6のチップ部に、ヘッド4が取り付けられている。シャフト6のバット部に、グリップ8が取り付けられている。
【0017】
ゴルフクラブ2は、飛距離性能に優れる。ゴルフクラブ2は、ドライバー(1番ウッド)である。通常、ドライバーのクラブ長さは、43インチ以上である。好ましくは、ゴルフクラブ2は、ウッド型ゴルフクラブである。
【0018】
クラブ2は、クラブ重量Wcを有する。
【0019】
図1において両矢印Lcで示されているのは、クラブ長さである。このクラブ長さLcの測定方法は、後述される。
【0020】
本実施形態において、ヘッド4は中空構造を有する。ヘッド4は、ウッド型である。ヘッド4は、ハイブリッド型(ユーティリティ型)であってもよい。ヘッド4は、アイアン型であってもよい。ヘッド4は、パター型であってもよい。ヘッド4の材質として、金属及び繊維強化プラスチックが例示される。この金属として、チタン合金、純チタン、ステンレス鋼及び軟鉄が例示される。繊維強化プラスチックとして、炭素繊維強化プラスチックが例示される。
【0021】
ヘッド4は、ヘッド重量Whを有する。
【0022】
シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる。シャフト6は、管状体である。シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、チップ端Tpとバット端Btとを有する。チップ端Tpは、ヘッド4の内部に位置している。バット端Btは、グリップ8の内部に位置している。
【0023】
シャフト6は、シャフト重量Wsを有する。
【0024】
図1において両矢印Lf2で示されているのは、シャフト長さである。シャフト長さLf2は、チップ端Tpとバット端Btとの間の軸方向距離である。図1において両矢印Lf1で示されているのは、バット端Btからシャフト重心Gsまでの軸方向距離である。シャフト重心Gsは、シャフト6単体の重心である。この重心Gsは、シャフト軸線上に位置する。
【0025】
シャフト6は、いわゆるカーボンシャフトである。好ましくは、シャフト6は、プリプレグシートを硬化させてなる。このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向している。このように繊維が実質的に一方向に配向したプリプレグは、UDプリプレグとも称される。「UD」とは、ユニディレクションの略である。UDプリプレグ以外のプリプレグが用いられても良い。例えば、プリプレグシートに含まれる繊維が編まれていてもよい。
【0026】
プリプレグシートは、繊維と樹脂とを有している。この樹脂は、マトリクス樹脂とも称される。典型的には、この繊維は炭素繊維である。典型的には、このマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂である。
【0027】
シャフト6は、いわゆるシートワインディング製法により製造されている。プリプレグにおいて、マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト6は、プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。
【0028】
プリプレグシートのマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂の他、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等も用いられ得る。シャフト強度の観点から、マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂が好ましい。
【0029】
シャフト6の製法は限定されない。設計自由度の観点から、シートワインディング製法により製造されたシャフトが好ましい。なお、シャフト6の材質は限定されない。シャフト6は、例えば、スチールシャフトでもよい。
【0030】
グリップ8は、スイング中においてゴルファーにより握られる部分である。グリップ8は、グリップ重量Wgを有する。
【0031】
グリップ8の材質として、ゴム組成物及び樹脂組成物が例示される。このゴム組成物におけるゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。特に、天然ゴム、又は天然ゴムに親和性の良いエチレンプロピレンジエンゴムもしくはスチレンブタジエンゴムなどをブレンド(混合)したものが、好ましい。前記樹脂組成物に含まれる樹脂として、熱可塑性樹脂が挙げられる。この熱可塑性樹脂は、射出成形に用いられうる。この熱可塑性樹脂として、熱可塑性エラストマーが好ましく、ソフトセグメントとハードセグメントとを含む熱可塑性エラストマーがより好ましい。グリップ性と耐摩耗性との両立の観点から、ウレタン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0032】
グリップ8の前記ゴム組成物は、発泡ゴムであってもよい。発泡ゴムには、発泡剤が配合されてもよい。この発泡剤の一例は、熱分解型発泡剤である。この熱分解型発泡剤として、アゾジカルボンアミドのようなアゾ化合物、ジニトロソペンタメチレンテトラミンのようなニトロソ化合物及びトリアゾール化合物が例示される。発泡ゴムは、グリップ8の軽量化に寄与する。
【0033】
発泡率が異なる複数種のゴムが用いられてもよい。発泡率が異なる複数種のゴムには、無発泡のゴム(発泡率がゼロ)が含まれうる。これら複数種のゴムの配置を調整することで、グリップ重心Gg(後述)の位置が調整されうる。
【0034】
グリップ8の製法は限定されない。グリップ8は、公知の製法により製造されうる。この製法として、プレス成形及び射出成形が例示される。
【0035】
発泡率が異なる複数種のゴムが用いられる場合、プレス成形が好ましい。この場合、例えば、第1の発泡率で成形される材料からなるゴムシート1と、第2の発泡率で成形される材料からなるゴムシート2とが用意される。これらのシートのそれぞれを金型内の任意の位置に置き、加熱及び加圧をすることで、プレス成形がなされる。この方法では、発泡率が異なるゴムのそれぞれを自由に配置することができる。
【0036】
[1.スイング中に人体に作用する力Fとスイングの安定性との関係]
本発明者は、新たな視点に基づいて、ゴルフクラブの改良の可能性を検討した。この結果、ゴルフクラブそのもののみではなく、スイングとゴルフクラブとの関係に行き着いた。そして、本発明者は、スイング中に人体に作用する力Fがスイングを不安定としうること、及び、ゴルフクラブの仕様によってこの力Fが制御されうることを、見いだした。また、この力Fの解析では、クラブの動きだけではなく、腕の動きをも考慮する必要があることが判った。
【0037】
[1−1.スイング中に人体に作用する力F]
図2は、スイング中のゴルファーを上方から見た様子を示す。図2は、トップオブスイング近傍であって、ダウンスイング初期の状態を示している。トップオブスイングは、単にトップとも称される。
【0038】
スイングは、人体h10の中心をスイング軸とした回転運動とみなされる。人体h10の中心は、実質的に、胴体h12である。スイングでは、ゴルフクラブ2が回転するが、同時に、腕(左腕h14及び右腕h16)も回転する。人体h10の中心(胴体h12)には、腕の遠心力F1と、クラブの遠心力F2とが作用する。前記力Fは、実質的に、腕の遠心力F1とクラブの遠心力F2との総和であると考えることができる。
【0039】
通常のゴルフスイングにおいては、ダウンスイングにおける腕の遠心力F1は、クラブの遠心力F2よりも大きい(図2参照)。なぜなら、腕の重量がクラブ2の重量よりも格段に大きいからである。クラブ重量が0.2〜0.5kg程度であるのに対して、両腕の重量の合計は、体重50kgの人でも6kg程度である。ダウンスイングにおける多くの局面において、クラブ2は腕よりもスイング軸から遠く、クラブ2の方が腕よりも回転速度が速いが、この大きな重量差に起因して、腕の遠心力F1はクラブの遠心力F2よりも大きい。本発明者はスイングの研究によりクラブの遠心力が200〜300N程度であるのに対して、腕の遠心力が400N程度であることを見いだした。
【0040】
[1−2.前記力Fと人体のバランスとの関係]
図3は、スイング中における両足の位置を示す概略図である。スイング中の人体において、前後方向D1及び打球方向D2が定義される。前後方向D1とは、人体の前方と後方とを結ぶ方向である。打球方向D2とは、ボールの位置とターゲットとを結ぶ方向である。方向D1及びD2は、地面に平行である。
【0041】
スイング中において、人体h10は、左足LFと右足RFとで、バランスを維持しようとする。しかし、スイング中に人体に作用する力Fにより、このバランスが崩れうる。バランスが崩れると、ボールとスイング軸との間の距離が変わる。この結果、打点が変動する。この打点の変動により、打球結果にバラツキが生じる。なお、打球結果とは、打球の飛距離、打球の方向、打ち出し角、スピン量、弾道等である。更に、バランスが崩れると、スイング軸がブレて、円滑なスイングが妨げられる。バランスは重要である。
【0042】
左足LFと右足RFとは、打球方向D2に沿って配置されている。換言すれば、人体h10は、方向D2における位置が異なる2カ所で接地している。このため、打球方向D2に沿った力に対しては、バランスは比較的崩れにくい。一方、前後方向D1に沿った力に対しては、バランスは崩れやすい。特に、前方に引っ張られると、人体h10はよろめきやすい。
【0043】
図3は、ダウンスイングからインパクトまでの各時点において、人体の中心CBに作用する力Fを示す。図3は、従来のゴルフクラブの場合である。力Fとして、切り返しの時点における力Fa、ダウンスイング前半における力Fb、タウンスイングの中間における力Fc、インパクト直前における力Fd、及び、インパクトにおける力Feが示されている。ダウンスイングの初期段階では、腕及びクラブ2の回転速度が遅く、力Fは小さい(Fa、Fb参照)。ダウンスイングの後半からインパクトでは、腕及びクラブ2の回転速度が増加し、力Fは大きい(Fc、Fd及びFe参照)。
【0044】
インパクト近傍の局面では、クラブ2及び腕は人体h10の前方に位置し、且つ、リストコックが解けてクラブ2が人体h10から遠くなる。このため、大きな力Fが前方に作用する。すなわち、インパクト近傍の局面では、力Fの前後方向成分が大きい(Fc、Fd及びFe参照)。前述の通り、人体h10を前方に引っ張る力は、人体h10のバランスを崩しやすい。この前方に引っ張る力を抑制できれば、人体h10のバランス(姿勢)は維持されやすい。人体h10のバランスを安定させることができれば、スイング軸のブレが抑制され、打点のバラツキが低減される。
【0045】
[2.力Fを低減しうるクラブ]
以上の解析を踏まえ、本発明者は、力Fを低減しうるクラブについて検討した。
【0046】
胴体h12とクラブ2の重心との間の距離は、スイング中に変化する。この変化の一因は、シャフト6の撓みである(図2の二点鎖線を参照)。シャフト6の撓みの程度により、クラブ2とスイング軸(胴体h12)との間の距離は変化する。この距離が近くなると、スイング軸周りのクラブ2の慣性モーメントは小さくなる。
【0047】
トップからダウンスイングに移行するタイミングが、トップからの切り返しとも称される。このトップからの切り返しでは、スイングの進行方向が反転する際にヘッド4の慣性力が働くことで、シャフト6が撓みうる。このシャフト6の撓みは、ダウンスイングの進行方向に対してヘッド4が遅れるような撓みである(図2において二点鎖線で示されたクラブ2を参照)。本願において、このダウンスイングの初期における撓みが、初期撓みとも称される。
【0048】
初期撓みは、クラブ2の重心が人体h10に近づく方向の撓みである。初期撓みが大きいと、クラブ2の重心が前記回転中心に近づき、前記スイング軸周りのクラブ2の慣性モーメントは小さくなる。逆に、この撓みが小さいと、クラブ2の重心は、当該撓みが大きい場合に比べて、前記スイング軸から遠くなる。この結果、前記スイング軸周りのクラブ2の慣性モーメントは大きくなる。
【0049】
前記初期撓みが大きい場合、ヘッド4の軌道が胴体h12に近づく。換言すれば、ヘッド4の軌道がスイング軸に近づく。この結果、ダウンスイングの前半において、スイング軸周りのクラブ2の慣性モーメントが小さくなり、腕の回転速度が増加する(腕速度増大効果A)。この回転エネルギーがクラブ2に伝達され、ヘッド4が加速される。
【0050】
ヘッド4が加速されたクラブ2では、クラブ2のスイング軸に対する遠心力が増加し、クラブ2の重心を中心としたクラブ2の回転が促進される。この回転運動により、ヘッド4とは反対側に位置するグリップ8は、ダウンスイングの進行方向とは逆方向に動こうとするが、グリップ8は腕によって拘束されているので、グリップ8には腕を減速させる向きの力が生じる。結果として、人体h10の手の動きが遅くなる一方で、ヘッド2は走る。つまり、ダウンスイングの後半では、ヘッド2は加速され、腕の回転速度は小さくなる(腕速度抑制効果)。
【0051】
このように、前記初期撓みを大きくすることで、インパクト近傍でのヘッドスピードは増大し、且つ、インパクト近傍での腕の回転速度は減少する。この場合、実質的に腕の遠心力F1とクラブの遠心力F2との合計である力Fは、小さくなる。なぜなら、上述の通り、腕の重量がクラブ2の重量よりも大きいからである。このため、腕の回転速度が遅くなることによる遠心力F1の減少量は、ヘッド2が速くなることによる遠心力F2の増加量を上回る。結果として、前記力F、特に、人体h10を前方に引っ張る力が減少し、スイングが安定する。
【0052】
以上の通り、前記初期撓みを大きくすることで、力Fを抑制することができる。特に、力Fの前後方向成分が増加する局面であるインパクト近傍において、力Fが低減されうる。よって、人体h10のバランスが維持され、スイングが安定し、打点のバラツキが抑制される。この効果が、スイング安定化効果とも称される。
【0053】
また、インパクト近傍での腕の回転速度が抑制されるにも関わらず、ヘッドスピードは高まる。この結果、打点のバラツキが抑制されるのに加えて、ヘッドスピードも増大する。このクラブでは、飛距離が増大するとともに、その飛距離が安定して得られる。換言すれば、平均飛距離が増大する。
【0054】
[2−1.順式クラブフレックス]
順式クラブフレックスが、力Fに影響することが判明した。順式クラブフレックスは、完成されたクラブにおいて測定される。順式クラブフレックスの測定条件は、各クラブの仕様に対応している。順式クラブフレックスは、スイング中におけるクラブの挙動を精度よく反映しうる。
【0055】
順式クラブフレックスの測定では、グリップ側が固定され、ヘッド側に重量が付与される。この状態は、トップからの切り返しにおけるクラブの状況に近い。しかも、順式クラブフレックスは、シャフト単体でのフレックスとは異なり、個々のクラブの状態に適合した条件で測定される。この順式クラブフレックスは、前記初期撓みの度合いを精度よく反映しうる。
【0056】
順式クラブフレックスが大きくされることで、トップからの切り返しにおいてシャフトが撓みやすい。順式クラブフレックスが大きくされることで、前記初期撓みが増大する。この結果、ダウンスイング前半においてスイング軸周りのクラブ2の慣性モーメントが減少することで腕の回転速度が速まる。これにより、クラブ2のスイング軸に対する遠心力が増加し、クラブ2の重心を中心としたクラブ2の回転が促進される。この回転運動により、ヘッド4とは反対側に位置するグリップ8は、ダウンスイングの進行方向とは逆方向に動こうとするが、グリップ8は腕によって拘束されているので、グリップ8には腕を減速させる向きの力が生じる。この力の作用によって腕は減速する。このようにして、腕の回転エネルギーがクラブ2に伝達される結果、腕の回転速度の低下とヘッドスピードの向上とが達成される。つまり、前記初期撓みを増加させることによって、エネルギー伝達を促進させるクラブ2の遠心力を増加させることで、腕からクラブ2へのエネルギー伝達率が向上すると共に、上記力Fが減少し、スイングが安定する。大きな順式クラブフレックスは、スイングの安定化と平均飛距離の増大とに寄与する。
【0057】
[2−2.グリップ重量Wg]
上述の通り、前記力Fの解析では、クラブ及び腕に作用する遠心力が考慮される。インパクトにおいて、クラブ及び腕の各部は、トップで作ったリストコックが解けて略一直線となる。このインパクトでは、シャフト重心及びヘッド重心がスイング軸(胴体の中心)から遠い。一方、一般的なゴルファーのトップでは、リストコックによって、シャフト重心及びヘッド重心がインパクトの時よりもスイング軸に近くなっているが、グリップ重心とスイング軸との距離はほとんど変わらない。そのため、このトップでのグリップ重心の位置に起因して、グリップ重量Wgは、トップからの切り返しにおける腕の回転速度に大きく影響する。グリップ重量Wgが軽くされることで、トップからの切り返しにおける腕の回転速度が増大する(腕速度増大効果B)。
【0058】
一方、グリップ重量Wgが軽い場合、手元が過度に動きやすくなる。このため、手元の挙動が不安定となりうる。しかし、上述の腕速度抑制効果により、腕の遠心力F1が減少し、手元の挙動が安定する。結果として、手元の挙動の不安定さは解消されつつ、上記スイング安定化効果が奏される。また、上述した腕速度増大効果Aに加えて、前記腕速度増大効果Bが奏される。これらの効果により、平均飛距離が効果的に増大しうる。
【0059】
[2−3.肩中心グリップGLL]
本願では、肩中心グリップGLLが定義される。図4は、この肩中心グリップGLLを説明するための概念図である。
【0060】
図4は、トップからの切り返しの局面における、左腕h14及びクラブ2の様子を示す概念図である。典型的なスイングにおいて、この局面では、左腕h14とクラブ2のシャフト軸線zとの成す角度θは、およそ90°である。この角度θは、リストコックにより生ずる。この切り返しの局面では、互いに90°の角度を成す左腕h14とクラブ2とが、スイング軸Zs(両肩の中心)を中心として回転する。
【0061】
この切り返しでの回転に対する、グリップ8の動的な影響の指標として、肩中心グリップGLLが定義される。この肩中心グリップGLLの算定では、スイング軸Zsとグリップエンドとの間の距離が60cmに設定される。この距離は、平均的な腕の長さに基づく。
【0062】
グリップ8は、重心Ggを有している。グリップ重心Ggは、グリップ単体の重心である。クラブ2において、グリップ重心Ggは、シャフト軸線z上に位置する。図4において両矢印Lg1で示されるのは、グリップ8の後端からグリップ重心Ggまでの距離である。図4において両矢印Lg2で示されるのは、グリップ8の全長である。Lg1及びLg2は、シャフト軸線zに沿って測定される。
【0063】
上述の通り、角度θは90°とされうる。距離Lg1の単位がセンチメートルであるとき、回転中心Zsとグリップ重心Ggとの距離L(センチメートル)は、三平方の定理より、次の通りである。
L = [60+(Lg1)1/2
【0064】
この距離L(センチメートル)に基づいて、肩中心グリップGLL(kg・cm)は、以下の式により算出される。
肩中心グリップGLL = Wg×L×L
ただし、Wgはグリップ重量(キログラム)である。
【0065】
肩中心グリップGLLを小さくすることで、ダウンスイング初期における回転速度を大きくすることができる。このため、ダウンスイングの前半において腕の回転速度が増大する(腕速度増大効果C)。この腕速度増大効果Cは、前述の腕速度増大効果A,Bと相乗的に作用しうる。
【0066】
[2−4.Lg1/Lg2;グリップ重心率]
グリップ8の後端とグリップ重心Ggとの間の距離がLg1とされる。グリップ8の全長がLg2とされる。Lg1/Lg2を大きくすることで、グリップ端回りのグリップ8の回転が抑制され、ダウンスイングの初期においてリストコックが維持されやすい。これにより、ダウンスイングの初期における腕の回転速度が増大しうる。
【0067】
なお、前述の通り、トップにおける典型的な角度θは、約90度である。このため、Lg1が大きくなっても、Lはそれほど大きくならない。このため、Lg1が大きくなっても、肩中心グリップGLLはそれほど大きくならない。結果として、Lg1/Lg2が大きいことによる上記効果と、肩中心グリップGLLが小さいことによる上記腕速度増大効果Cとは、両立しうる。
【0068】
[2−5.クラブ長さLc]
クラブ長さLcが大きいと、スイングの回転半径が大きくなってヘッドスピードが増加するという利点があるが、打点のバラツキが増大するという欠点がある。
【0069】
上述の通り、順式クラブフレックスを大きくすることで、トップからの切り返しにおいてシャフトが撓みやすく、スイング安定化効果が得られる。長いクラブにこの効果を適用することで、上記欠点である打点のバラツキが抑制されつつ、上記利点を生かすことができる。この結果、ヘッドスピードが向上し、平均飛距離が増大する。
【0070】
[2−5.スイングウェイト(14インチバランス)]
スイングウェイトは、一般にスイングバランスとも称されている。ヘッド重量Whを増やすことで、スイングウェイトが大きくされうる。本願におけるスイングウェイトは、14インチバランスである。
【0071】
スイングウェイトが大きいと、ヘッド重量Whが大きくなる傾向にある。この場合、ヘッドの運動エネルギーが増大し、ボール初速が向上する。また、スイングウェイトが大きいと、ヘッドの慣性が増大し、トップでのヘッドの静止状態が維持されやすい。この結果、トップからの切り返しにおいてシャフトが撓みやすい。スイングウェイトが大きくされることで、前記初期撓みが増大しうる。
【0072】
一方、スイングウェイトが大きいと、クラブの遠心力F2が増大する傾向にある。この場合、スイング中に身体に作用する力Fも増大しうる。その結果、人体h10のバランスが崩れ、スイングが不安定となりやすい。しかし、上述のスイング安定化効果により、この不都合が解消されうる。結果として、スイングの安定は維持されつつ、ヘッドの運動エネルギーは高まる。更に、ヘッドの慣性に起因する初期撓みの増大が、スイング安定化効果を一層高める。よって、スイングが安定し、打点のバラツキが減少し、且つ、ボール初速が高まる。この結果、平均飛距離が更に増大しうる。
【0073】
[2−6.Wh/Wc]
比(Wh/Wc)は、ヘッド重量Whの、クラブ重量Wcに占める割合である。ヘッド重量Whが大きいと、ヘッドの運動エネルギーが増大し、反発係数が向上する。また、ヘッド重量Whが大きいと、ヘッドの慣性が増大し、トップでのヘッドの静止状態が維持されやすい。この結果、トップからの切り返しにおいてシャフトが撓みやすい。Wh/Wcが大きくされることで、前記初期撓みが増大しうる。
【0074】
一方、ヘッド重量Whが大きいと、クラブの遠心力F2が増大するので、スイング中に身体に作用する力Fも増大しうる。その結果、人体h10のバランスが崩れ、スイングが不安定となりやすい。しかし、上述のスイング安定化効果により、この不都合が解消されうる。結果として、スイングの安定は維持されつつ、ヘッドの運動エネルギーは高まる。更に、ヘッドの慣性に起因する初期撓みの増大が、スイング安定化効果を一層高める。よって、スイングが安定し、打点のバラツキが減少し、且つ、ボール初速が高まる。この結果、平均飛距離が更に増大しうる。
【0075】
[3.好ましい値]
各仕様の好ましい値は、以下の通りである。
【0076】
[3−1.順式クラブフレックス]
前記初期撓みを増大させ、スイング安定化効果を高める観点から、順式クラブフレックスは、140mm以上が好ましく、150mm以上がより好ましく、160mm以上がより好ましく、165mm以上がより好ましく、170mm以上がより好ましい。順式クラブフレックスが過大であると、スイング中におけるシャフトの挙動が不安定となりうる。この観点から、順式クラブフレックスは、220mm以下が好ましく、210mm以下がより好ましく、200mm以下が更に好ましい。
【0077】
[3−2.グリップ重量Wg]
スイング安定化効果及び前記腕速度増大効果Bの観点から、グリップ重量Wgは、36g以下が好ましく、34g以下がより好ましく、30g以下がより好ましく、28g以下がより好ましい。グリップの強度を考慮すると、グリップ重量Wgは、15g以上が好ましく、17g以上がより好ましく、19g以上が更に好ましい。
【0078】
[3−3.肩中心グリップGLL]
肩中心グリップGLLを小さくすることで、ダウンスイング初期における回転速度を大きくすることができ、前記腕速度増大効果Cが奏される。この観点から、肩中心グリップGLLは、140kg・cm以下が好ましく、130kg・cm以下がより好ましく、120kg・cm以下がより好ましく、110kg・cm以下がより好ましい。設計上の制約から、肩中心グリップGLLは、60kg・cm以上が好ましく、70kg・cm以上がより好ましく、80kg・cm以上が更に好ましい。
【0079】
[3−4.Lg1/Lg2;グリップ重心率]
Lg1/Lg2を大きくすることで、グリップ端回りのグリップ8の回転が抑制され、ダウンスイングの初期においてリストコックが維持されやすい。この維持により、ダウンスイングの初期におけるヘッド4の軌道がスイング軸に近くなり、前述の腕速度増大効果Aが更に高まる。この観点から、Lg1/Lg2は、0.37以上が好ましく、0.38以上がより好ましく、0.39以上がより好ましく、0.40以上がより好ましい。設計上の制約より、Lg1/Lg2は、0.52以下が好ましく、0.50以下がより好ましく、0.48以下が更に好ましい。
【0080】
なお、Lg1を調整する方法は限定されず、例えば以下が挙げられる。
(a)グリップの肉厚分布を調整する。
(b)比重の異なる複数種のゴムを用い、それらの配置を調整する。
(c)発泡率の異なる複数種のゴムを用い、それらの配置を調整する。
【0081】
[3−5.クラブ長さLc]
前記スイング安定化効果を増大させると共にヘッドスピードを高める観点から、クラブ長さLcは、45.5インチ以上が好ましく、45.7インチ以上がより好ましく、46.0インチ以上が更に好ましい。振りやすさを考慮すると、クラブ長さLcは、48インチ以下が好ましく、47.5インチ以下がより好ましく、47インチ以下が更に好ましい。
【0082】
[3−6.スイングウェイト(14インチバランス)]
前記スイング安定化効果を増大させると共に反発係数を高める観点から、スイングウェイトは、D2以上が好ましく、D3以上がより好ましく、D4以上がより好ましく、D5以上が更に好ましい。振りやすさを考慮すると、スイングウェイトは、E5以下が好ましく、E3以下がより好ましく、E1以下が更に好ましい。
【0083】
[3−7.Wh/Wc]
前記スイング安定化効果を増大させると共に反発係数を高める観点から、比(Wh/Wc)は、0.70以上が好ましく、0.71以上がより好ましく、0.72以上が更に好ましい。振りやすさを考慮すると、過大なヘッド重量Whは好ましくない。この観点から、比(Wh/Wc)は、0.82以下が好ましく、0.81以下がより好ましく、0.80以下が更に好ましい。
【0084】
[4.測定方法]
各仕様の測定方法は、以下の通りである。
【0085】
[4−1.クラブ長さLc]
本願におけるクラブ長さLcは、R&A(Royal and Ancient Golf Club of Saint Andrews;全英ゴルフ協会)の規定に準拠して測定される。この規定は、R&Aが発行する最新のゴルフ規則において、「付属規則II クラブのデザイン」の「1 クラブ」における「1c 長さ」に記載されている。図1が示すように、このクラブ長さLcの測定では、クラブ載置平面Pcに対して60°の平面にソールが当接される。この60°の平面とクラブ載置平面Pcとの交線から、クラブの後端までの距離が、クラブ長さLcである。なお、実際の測定では、クラブ載置平面Pcは水平とされる。
【0086】
[4−2.順式クラブフレックス]
前述の通り、この順式クラブフレックスは、シャフトのフレックスとは異なり、完成されたクラブの状態で測定される。順式クラブフレックスは、個々のクラブの仕様に適合した条件で測定される。以下、図5及び図6を用いて、順式クラブフレックスの測定方法を説明する。
【0087】
順式クラブフレックスの測定の準備として、フレックス用長さL1が決定される。このフレックス用長さL1は、前述したクラブ長さ(R&A方式のクラブ長さLc)とは異なる。フレックス用長さL1は、クラブフレックスの測定条件を設定するために決定される。この長さL1を用いるのは、個々のクラブの仕様をより精度よく順式クラブフレックスに反映させるためである。
【0088】
図5は、フレックス用長さL1を示している。この図5に示すように、クラブ2のライ角α通りに、クラブ2のソールを平面pに当てる。シャフト軸線zを含み平面pに垂直な平面とヘッド4のソール側外面との交線上の点のうち、平面pからの距離が0.625インチの点を基準点kとする。この基準点kとグリップ8のバット側エッジgとの間の軸方向距離が、長さL1である。
【0089】
次に、決定された長さL1(mm)を用いて、寸法L2が決定される。この寸法L2(mm)は、次の式により決定される。
L2 = L1 − (140+L3+40)
【0090】
ここで、L3は、番手毎に決められた定数である。L3は、次の通りである。
【0091】
[L3の値(ウッド)]
・W#1(1番ウッド) :860mm
・W#2(2番ウッド) :847mm
・W#3(3番ウッド) :835mm
・W#4(4番ウッド) :822mm
・W#5(5番ウッド) :809mm
・W#7(7番ウッド) :796mm
・W#9(9番ウッド) :784mm
・W#11(11番ウッド) :772mm
【0092】
[L3の値(ユーティティ及びハイブリッド)]
・U#2(2番ユーティリティ/ハイブリッド) :796mm
・U#3(3番ユーティリティ/ハイブリッド) :784mm
・U#4(4番ユーティリティ/ハイブリッド) :772mm
・U#5(5番ユーティリティ/ハイブリッド) :760mm
・U#6(6番ユーティリティ/ハイブリッド) :748mm
・U#7(7番ユーティリティ/ハイブリッド) :736mm
・U#8(8番ユーティリティ/ハイブリッド) :724mm
【0093】
[L3の値(アイアン]
・I#1(1番アイアン) :771mm
・I#2(2番アイアン) :758mm
・I#3(3番アイアン) :745mm
・I#4(4番アイアン) :733mm
・I#5(5番アイアン) :720mm
・I#6(6番アイアン) :707mm
・I#7(7番アイアン) :695mm
・I#8(8番アイアン) :682mm
・I#9(9番アイアン) :669mm
・PW(ピッチングウエッジ) :656mm
【0094】
例えば、W#1(ドライバー)において、長さL1が1160mmである場合、L3は860mmであり、寸法L2は、1160−(140+860+40)=120mmである。
【0095】
この寸法L2を用いて、順式クラブフレックスが測定される。この測定は、社団法人日本ゴルフ用品協会のゴルフクラブフレックス計測測定基準(平成3年4月1日付け書面)に準じて行い、この日本ゴルフ用品協会から購入した標準測定器が用いられる。以下に記載の無い部分は、前記ゴルフクラブフレックス計測測定基準に従うものとする。
【0096】
図6が示すように、上側支点S1と下側支点S2とが設定される。上側支点S1は、上側からクラブ2を支持する。下側支点S2は、下側からクラブ2を支持する。上側支点S1と下側支点S2との間の距離は、140mmである。これら上側支点S1及び下側支点S2にクラブ2をセットする。シャフト軸線zが水平になるように、上側支点S1と及び下側支点S2の鉛直方向位置の調整がなされる。前記バット側エッジgと上側支点S1との距離が、前記寸法L2に設定される。
【0097】
このように水平にセットされたクラブ2に、順式測定用の重りWJがぶら下げられる。重りWJの重量は、2.7kgである。重りWJは、前記基準点kから水平方向グリップ側に40mm隔てた位置に、ぶら下げられる。前記基準点kから水平方向グリップ側に65mm隔てた位置に、撓み測定点t1が設定される。重りWJを吊す前と吊した後との間で、撓み測定点t1の移動距離が計測される。この移動距離は、鉛直方向の距離である。この移動距離が、順式クラブフレックスである。
【0098】
なお、順式クラブフレックスの測定にあたっては、重りWJを吊す前及び後のいずれにおいても、上側支点S1と下側支点S2との間におけるシャフト軸線zが水平となるように、前記調整がなされる。
【0099】
[4−3.スイングウェイト(14インチバランス)]
スイングウェイトは、DAININ社製の商品名「BANCER−14」を用いて測定される。このスイングウェイトは、14インチバランスである。
【0100】
スイングウェイトは、アルファベット1文字と数字との組み合わせである記号によって表現される。アルファベットは、A〜Fのうちの1つである。数値は、0から9の整数である。なお、この数値の小数点以下は、四捨五入されている。このスイングウェイトでは、グリップエンドから14インチ隔てた位置が支点とされる。この支点からクラブ重心までの軸方向距離(インチ)にクラブ重量(オンス)をかけた数値に基づき、スイングウェイトが決定される。この数値が、AからFの6段階に分類される。更に、AからFのそれぞれにおいて、0から9の数値によって細分化がなされる。AからFに向かうほどスイングウェイトが大きいことを意味し、数値が大きいほどスイングウェイトが大きいことを意味する。
【0101】
[5.他の仕様]
他の好ましい仕様は、次の通りである。
【0102】
[5−1.ヘッド重量Wh]
前記初期撓み及び反発係数の観点から、ヘッド重量Whは、188g以上が好ましく、190g以上がより好ましく、192g以上がより好ましい。振りやすさの観点から、ヘッド重量Whは、210g以下が好ましく、207g以下がより好ましく、205g以下がより好ましい。
【0103】
[5−2.シャフト重量Ws]
比(Wh/Wc)を高めつつも振りやすくする観点から、シャフト重量Wsは軽いほうが好ましい。初期撓みの増大と振りやすさとの観点から、シャフト重量Wsは、50g未満が好ましく、48g以下がより好ましく、46g以下がより好ましく、44g以下がより好ましく、43g以下がより好ましい。シャフトの強度及び耐久性の観点から、シャフト重量Wsは、33g以上が好ましく、35g以上がより好ましく、37g以上がより好ましい。
【0104】
[5−3.Lf1/Lf2:シャフト重心率]
前述の通り、距離Lf1は、シャフト6のバット端Btとシャフト重心Gsとの間の距離であり、距離Lf2はシャフト6の全長である。Lf1及びLf2は、軸方向の距離である。
【0105】
Wh/Wcを高めても振りやすくするには、Lf1/Lf2が小さいのが好ましい。初期撓みの増大と振りやすさとの両立の観点から、Lf1/Lf2は、0.46以下が好ましく、0.45以下がより好ましく、0.44以下がより好ましい。設計上の制約より、Lf1/Lf2は、0.33以上が好ましく、0.34以上がより好ましく、0.35以上がより好ましい。
【0106】
[5−4.番手]
長いクラブほど、飛距離性能が重視される傾向にある。また、長いクラブほど、打点のバラツキが大きいのは、ドライバーである。この観点から、ウッド型クラブが好ましく、ドライバーが特に好ましい。特に好ましくは、ドライバーのリアルロフトは、通常、7°以上15°以下である。ヘッドの体積は、350cc以上が好ましく、380cc以上がより好ましく、400cc以上がより好ましく、420cc以上がより好ましい。ヘッド強度の観点から、ヘッドの体積は、470cc以下が好ましい。
【0107】
[5−5.クラブ重量Wc]
振りやすさの観点から、クラブ重量Wcは、290g以下が好ましく、280g以下がより好ましく、275g以下がより好ましく、272g以下がより好ましい。クラブの強度を考慮すると、クラブ重量Wcは、230g以上が好ましく、240g以上がより好ましく、245g以上がより好ましい。
【0108】
[5−6.クラブ振動数]
クラブ振動数は、完成されたクラブにおいて測定される。クラブ振動数は、静的な特性ではなく、動的な特性である。スイングは、動的である。クラブ振動数は、スイング中におけるクラブの挙動を精度よく反映しうる。
【0109】
クラブ振動数の測定では、クラブのグリップ側が固定され、クラブのヘッド側に負荷が与えられて、クラブが振動する。この状態は、トップからの切り返しにおけるクラブの状況に近い。しかも、クラブ振動数は、動的な指標である。このクラブ振動数は、スイング中の動的な挙動を精度よく反映しうる。
【0110】
クラブ振動数が小さくされることで、トップからの切り返しにおいてシャフトが撓みやすい。すなわち、クラブ振動数が小さくされることで、前記初期撓みが増大する。この結果、ダウンスイング当初において腕の回転速度が速まり、この回転エネルギーがクラブに伝達されるとともに、その反作用で、腕の回転速度の低下とヘッドスピードの向上とが達成される。よって、腕からクラブへのエネルギー伝達率が向上すると共に、上記力Fが減少し、スイングが安定する。小さなクラブ振動数は、前述のスイング安定化効果を高め、平均飛距離の増大に寄与する。
【0111】
前記初期撓みを増大させ、スイング安定化効果を高める観点から、クラブ振動数は、230cpm以下が好ましく、220cpm以下がより好ましく、210cpm以下が更に好ましい。クラブ振動数が過小であると、しなり戻りが不足する場合がある。この観点から、クラブ振動数は、150cpm以上が好ましく、160cpm以上がより好ましく、170cpm以上が更に好ましい。
【0112】
図7は、クラブ振動数の測定器にクラブ2が固定された様子を示している。クラブ振動数の測定には、藤倉ゴム工業株式会社製の商品名「GOLF CLUB TIMING HARMONIZER」を用いる。図7が示すように、クランプCP1により、グリップエンドから7インチの地点からグリップエンドまでが固定される。すなわち、固定部分の長さF1は7インチ(約178mm)である。ヘッド4に対して下方に向けて任意の負荷を加え、シャフト6を振動させる。1分間あたりの振動数が、クラブ振動数(cpm)である。
【実施例】
【0113】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0114】
[サンプル1]
鍛造されたフェース部材と、鋳造されたボディ部材とを溶接することで、チタン合金製のドライバーヘッドを得た。複数のプリプレグシートを用いて、シートワインディング製法により、シャフトを得た。ゴム組成物を金型内で加熱及び加圧することにより、グリップを得た。グリップの成形では、発泡率の異なる3種のゴムを用いた。発泡率が比較的低い第1のゴムが、グリップの全長に亘って、外層に用いられた。発泡率が比較的高い第2のゴムが、グリップの全長に亘って、内層に用いられた。更に、無発泡である第3のゴムが、グリップの先端部のみに用いられた。これらのヘッド、シャフト及びグリップを組み立てることで、ゴルフクラブサンプル1を得た。サンプル1の仕様及び評価結果が、下記の表3に示されている。
【0115】
[サンプル2〜38]
下記の表3〜10に示される仕様の他はサンプル1と同様にして、ゴルフクラブサンプル2〜38を得た。
【0116】
なお、ヘッド重量Whは、ヘッドの内部に粘着剤を配置することで、調整された。この粘着剤は、ヘッド内面に固着させて用いた。この粘着剤は熱可塑性であり、常温ではヘッド内面の所定位置に固着し、高温では流動する。この粘着剤は、高温とされてヘッド内部に流し込まれ、その後、室温に冷却して固定された。この粘着剤は、ヘッド重心の位置を変えないように、配置された。
【0117】
順式クラブフレックス等のシャフト仕様は、プリプレグシートの積層設計及びプリプレグ材料により、調整された。下記の表1及び表2は、使用可能なプリプレグシートの例を示している。これら多種のシートを適宜選択することで、シャフト仕様が容易に調整されうる。また、後端部分層及び先端部分層を適宜用いることで、順式クラブフレックス及びLf1/Lf2が調整されうる。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
グリップ重量Wg等のグリップ仕様は、発泡率が異なる複数種のゴムの体積割合及び配置によって、調整された。前述した第3のゴム(無発泡ゴム)は、比較的比重が大きく且つ局所的に配置されているため、距離Lg1の調整に役立つ。
【0121】
各サンプルの仕様及び評価結果が、下記の表3〜10に示されている。各仕様の測定方法は、前述の通りである。
【0122】
[評価方法]
評価方法は、次の通りである。
【0123】
[ヘッドスピード]
ハンディキャップが0から20までの10名のテスターが、実打テストを行った。各テスターが各クラブで5球ずつ打撃し、これらの打撃のそれぞれについて、ヘッドスピードと打点とが計測された。50のデータの平均値が、下記の表で示される。
【0124】
[打点の標準偏差]
上記実打テストにおいて、ヘッドスピードとともに打点が測定された。打点は、ショットマーカー(インパクトマーカー)を用いて測定された。このショットマーカーをヘッドのフェース面に貼り付け、フェース面上における打撃痕の位置が測定された。フェースセンターからの打点の距離(ズレ距離)が測定された。左右方向におけるズレ距離(mm)と、上下方向におけるズレ距離(mm)とが測定された。左右方向とは、トウ−ヒール方向を意味する。上下方向とは、トップ−ソール方向を意味する。左右打点及び上下打点の標準偏差が、下記の表に示される。
【0125】
なお、打点は、高い精度で測定できるため、スイングのバラツキを精度よく検出する指標として役立つ。すなわち、打点は、スイングの安定性を精度よく検出するのに有効である。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
【表5】
【0129】
【表6】
【0130】
【表7】
【0131】
【表8】
【0132】
【表9】
【0133】
【表10】
【0134】
表3では、順式クラブフレックスが変更されている。この表3に示されるように、順式クラブフレックスが柔らかいほうが打点のバラツキが少ないという結果が得られた。すなわち、順式クラブフレックスが大きくされることで、打点のバラツキが抑制される傾向が確認された。この結果は、大きな順式クラブフレックスがスイングの安定性に寄与することを示している。また、順式クラブフレックスが大きくされることで、ヘッドスピードも高くなっている。
【0135】
表4でも、順式クラブフレックスが変更されている。この表4でも、順式クラブフレックスが大きくされることで、打点のバラツキが抑制されることが確認された。表3のサンプルは、表4のサンプルに比較して、グリップ重量Wgが小さい。表3の各サンプルは、対応する表4の各サンプルに比較して、打点のバラツキが一層抑制され、ヘッドスピードも向上している。
【0136】
表5では、グリップ重量Wgが変更されている。グリップ重量Wgが小さいほうが、打点のバラツキが抑制され且つヘッドスピードが高い傾向にあることが確認された。
【0137】
また、表5では、肩中心グリップGLLが変更されている。肩中心グリップGLLが小さいほうが、打点のバラツキが抑制され且つヘッドスピードが高い傾向にあることが確認された。
【0138】
表6及び表7では、Lg1/Lg2が変更されている。Lg1/Lg2が大きいほうが、打点のバラツキが抑制され且つヘッドスピードが高い傾向にあることが確認された。
【0139】
表8では、クラブ長さが変更されている。通常、長いクラブほど、ヘッドスピードは増大するものの、打点のバラツキは大きくなりやすい。しかし、所定のクラブ長さの範囲では、クラブが長くされても打点のバラツキが大きくならないことが確認された。
【0140】
表9では、スイングウェイトが変更されている。スイングウェイトが大きいほうが、打点のバラツキが抑制される傾向にあることが確認された。また、スイングウェイトが増加した割には、ヘッドスピードが低下しなかった。
【0141】
表10では、比(Wh/Wc)が変更されている。比(Wh/Wc)が大きいほうが、打点のバラツキが抑制される傾向にあることが確認された。
【0142】
これらの評価結果が示すように、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0143】
以上説明されたゴルフクラブは、ウッド型、ユーティリティ(ハイブリッド)型、アイアン型など、あらゆるゴルフクラブに適用されうる。
【符号の説明】
【0144】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
Gs・・・シャフトの重心
Gg・・・グリップの重心
z・・・シャフト軸線
Tp・・・シャフトのチップ端
Bt・・・シャフトのバット端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7