特許第6922668号(P6922668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922668
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】熱間圧延方法、及び熱間圧延機列
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/26 20060101AFI20210805BHJP
   B21B 39/14 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   B21B1/26 E
   B21B39/14 D
   B21B39/14 E
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-214886(P2017-214886)
(22)【出願日】2017年11月7日
(65)【公開番号】特開2019-84564(P2019-84564A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】福島 傑浩
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−070602(JP,A)
【文献】 特開昭61−074706(JP,A)
【文献】 特開平04−084616(JP,A)
【文献】 特開昭61−165218(JP,A)
【文献】 特開昭61−199501(JP,A)
【文献】 特開昭59−035804(JP,A)
【文献】 特開昭63−010010(JP,A)
【文献】 特開昭62−045404(JP,A)
【文献】 実開昭56−045501(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00−11/00
B21B 39/00−30/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスタンドを有する熱間圧延機列において、
一つおきの前記スタンドの前で通板される鋼板を板幅方向に圧下板幅方向に圧下した直後の前記スタンドとその次の下流のスタンド間で前記鋼板に張力を付与する熱間圧延方法。
【請求項2】
前記板幅方向に圧下することにより、前記鋼板の板幅方向端部の板厚を板幅方向中央の板厚より厚くする請求項1に記載の熱間圧延方法。
【請求項3】
前記板幅方向の圧下は、圧延機入側に設けられたサイドガイドに設置されたローラで行われる請求項1又は2に記載の熱間圧延方法。
【請求項4】
圧延機を有するスタンドが複数配置された熱間圧延機列であって、
通板される鋼板を板幅方向に圧下可能に、前記鋼板が通される位置の板幅方向の両側にローラが配置される板幅方向圧下装置を複数備え、
前記板幅方向圧下装置は、一つおきの前記スタンドの前に配置され、前記板幅方向圧下装置が配置された直後の前記スタンドとその次の下流のスタンド間で前記鋼板に張力を付与することが可能とされた、熱間圧延機列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延方法、及び熱間圧延機列に関し、特に、高い圧下率で圧延しながら圧延時のエッジ割れの発生を抑制することができる熱間圧延方法及び熱間圧延機列に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延において、高い圧延負荷を必要とする圧延材があり、これらは高負荷材、難加工材と分類されている。そしてこのような材料に対してさらに高い圧下率で圧延を行う場合には、圧延機にかかる負荷が設備限界を超えるレベルにまで大きくなる問題がある。これに対して一般的な対策として圧延負荷を減らすために鋼板に高い張力を付与して圧延(高張力圧延)することが知られている。
【0003】
ところが、高張力圧延では、圧延の際に鋼板の板幅方向両端部に割れ(エッジ割れ)が発生する問題がある。特に高負荷材、難加工材は加工変形時の延性が低く、エッジ割れが発生しやすい材料であることが多く、高張力圧延を行うとさらに頻繁にエッジ割れが発生する虞がある。エッジ割れが大きく発生すると鋼板の破断やロールの損傷などの製造トラブルが発生し、製造歩留まりが大きく低下してしまう。
【0004】
このようなエッジ割れに対して、鋼板の板幅方向の両端に、延性の高い鋼材を溶接してから圧延することで、エッジ割れの発生を防止し、製品厚まで圧延した後に、溶接部を含む板幅方向端部をトリミング加工して切り落とすという対策がある。
【0005】
また、鋼板の板幅方向端部を変形加工する装置として、例えば特許文献1及び特許文献2のようなエッジャと呼ばれる装置が良く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62−142401号公報
【特許文献2】特許第2689612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、鋼板の板幅方向の両端に、延性の高い鋼材を溶接してから圧延してトリミングする方法では、当該鋼材の溶接及び切断をする必要があり非常に手間とコストがかかる。また、特許文献1、特許文献2に記載のようなエッジャはエッジ割れを解決するものではなく、エッジ割れに対する対策について検討されていない。
【0008】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、高い圧下率で圧延しながらエッジ割れの発生を抑制することができる熱間圧延方法を提供することを課題とする。またこの方法のための熱間圧延機列を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、板幅方向端部において応力が局所的に強い引張り状態にある鋼板に対して、高い張力を付与して圧延するとエッジ割れが発生することに着目した。そして板幅方向端部を、低い程度の引張り応力状態又は圧縮の応力状態にしてから圧延することでエッジ割れの発生を抑制することを考えた。そのため、高い張力を付与するスタンド間の前のスタンド間で、鋼板を板幅方向に圧下することで、板幅方向端部を低い程度の引張り応力状態又は圧縮の応力状態にすることができ、その後に高張力圧延をしてもエッジ割れが発生しないとの知見を得て本発明を完成させた。
より具体的には、スタンド間に、板幅方向に圧下する装置を設置し、それを使用して鋼板を板幅方向に圧下することで鋼板の断面形状として板幅方向端部における板厚が、板幅方向中央部における板厚よりも厚い形態に変形させてから板厚方向圧下の水平圧延を行う。これにより通常の水平圧延ではエッジドロップが発生していることにより高い引張り応力状態となりやすい板幅方向端部の応力状態を、低い程度の引張り応力状態、又は、圧縮応力状態となるように変化させることができる。ここで低い程度の引張り応力状態とは、圧延中から圧延後の板の幅方向端部に、脆性破断による割れが発生しない程度の引張り応力状態を意味する。
以下本発明について説明する。
【0010】
本発明の1つの態様は、複数のスタンドを有する熱間圧延機列において、一つおきのスタンドの前で通板される鋼板を板幅方向に圧下板幅方向に圧下した直後のスタンドとその次の下流のスタンド間で鋼板に張力を付与する、熱間圧延方法である。
【0011】
ここで、板幅方向に圧下することにより、鋼板の板幅方向端部の板厚を板幅方向中央の板厚より厚くするように圧下してもよい。
【0012】
当該板幅方向の圧下はローラで行ってよく、さらにローラがサイドガイドに組み込まれたような簡便な装置で行ってもよい。
【0014】
本発明の他の態様は、圧延機を有するスタンドが複数配置された熱間圧延機列であって、通板される鋼板を板幅方向に圧下可能に、鋼板が通される位置の板幅方向の両側にローラが配置される板幅方向圧下装置を複数備え、板幅方向圧下装置は、一つおきのスタンドの前に配置され、板幅方向圧下装置が配置された直後のスタンドとその次の下流のスタンド間で鋼板に張力を付与することが可能とされた、熱間圧延機列である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、高張力圧延をする場合であってもエッジ割れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】1つの形態にかかる熱間圧延方法を説明する図である。
図2図2(a)、図2(b)は、鋼板の断面形状を説明する図である。
図3】板幅方向圧下による鋼板の変形について説明する図である。
図4】板幅方向圧下による鋼板の板幅方向端部における応力状態を説明する図である。
図5】熱延鋼板の製造設備の一部を模式的に示した図である。
図6】板幅方向圧下装置30が備えられたスタンド間、及びその下流側に隣接するスタンド間に注目した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら形態に限定されるものではない。
【0018】
図1には、1つの形態にかかる熱間圧延方法を説明する図を示した。図1では上流側から3つのスタンド1、2、3を表し、各スタンド1、2、3は圧延機1a、2a、3aを有して構成されている。そしてスタンド1とスタンド2との間に板幅方向圧下装置5が配置されている。
【0019】
1つの形態にかかる熱間圧延方法では、高い張力を付与するスタンド間(スタンド2とスタンド3との間)の直前のスタンド間(スタンド1とスタンド2との間)で板幅方向の圧下を行う。より具体的には次の通りである。
【0020】
高い張力を付与するスタンド間の直前のスタンド間に板幅方向圧下装置5が配置されており、鋼板の板幅方向の圧下が行われる。
これにより、具体的には図2に示したように鋼板Sの断面形状が変形される。図2(a)は鋼板Sの板幅方向の圧下を行う直前の鋼板Sの断面形状、図2(b)は鋼板Sの板幅方向の圧下を行った後の断面形状をそれぞれ表している。図2(a)と図2(b)とを対比するとわかるように、鋼板の板幅方向の圧下により鋼板の板幅方向端部の板厚が、板幅方向中央の板厚よりも厚くなる形状となる。
【0021】
図3には、板幅方向の圧下による鋼板の変形の1つの例のグラフを示した。このグラフの横軸は「板幅方向圧下量/板厚」で定義される無次元化幅圧下量であり、縦軸は図2(b)にaで示したエッジ盛り上がり量を「エッジ盛り上がり量/板厚」で定義した無次元化エッジ盛り上がり量である。
図3からわかるように、無次元化幅圧下量を大きくすることで、無次元化エッジ盛り上がり量を大きくすることができる。
【0022】
そして、このように鋼板の板幅方向端部の板厚が、板幅方向中央の板厚よりも厚くなる形状とすることで、鋼板の板幅方向端部における応力状態を変えることができる。具体的には引張り応力状態の緩和、又は、圧縮応力状態にすることができる。これにより、次のスタンド間で高張力圧延してもエッジ割れが発生するのを防ぐことが可能となる。
【0023】
図4には、板幅方向の圧下による鋼板の変形に伴う板幅方向端部における応力状態の1つの例のグラフを示した。図4の横軸は図3と同様に無次元化幅圧下量である。一方、図4の縦軸は「板幅方向端部応力/変形抵抗」で定義される無次元化幅端部応力である。無次元化幅端部応力はマイナス側が引張り応力状態であることを意味し、プラス側が圧縮応力状態であることを意味する。
図4からわかるように、無次元化幅圧下量を大きくすることで、無次元化幅端部応力を大きくすることができる。すなわち、引張り応力状態が緩和される、又は圧縮応力状態に移行することが可能となる。
【0024】
このようにして板幅方向の圧下が行われた次のスタンドで高張力が付与されて圧延される。ここで高張力とは、鋼板の変形抵抗比で10%以上40%以下となる程度の応力が付与されることを意味する。これは圧延機の荷重低減として5%以上など、十分な負荷低減効果のための張力付与であるという観点に基づくものである。すなわち、張力が鋼板の変形抵抗比で10%未満では圧延負荷低減の効果が不十分となる虞がある。一方、張力が高いほど圧延負荷の低減効果は大きいが幅ネッキングや破断などのトラブルも発生しやすくなるため、熱間圧延では実質的に鋼板の変形抵抗比で40%程度より大きい張力を付与することは難しい。
【0025】
高い張力が付与されたスタンド間を構成する圧延機(圧延機2a及び圧延機3a)では高い張力が付与された状態で圧延が行われ、圧延負荷が低減される。そのため、より高い圧下率で圧延を行うことが可能となる。そして、鋼板はその直前のスタンド間で板幅方向に圧下されて板幅方向端部の圧延方向応力が圧縮側に改善されているので、その直後のスタンド間で平均的に高い張力を付与してもエッジ割れの発生を抑制することができる。
【0026】
図5は、1つの形態にかかる熱延鋼板の製造設備(以下、「製造設備」と記載することがある。)のうち、熱間仕上げ圧延機列10を表した概念図である。図5では、鋼板Sが紙面左(上流側、上工程側)から右(下流側、下工程側)の方向へと搬送され、紙面上下が鉛直方向である。ここではパスラインを破線で示している。上流側(上工程側)から下流側(下工程側)方向を通板方向と記載することがあり、これに直交する方向で、通板される鋼板Sの板幅の方向を板幅方向と記載することがある。また、図において見易さのため繰り返しとなる符号の記載は一部を省略することがある。
【0027】
図5に示すように、製造設備は、熱間仕上げ圧延機列10を備えている。なお、図示及び説明は省略するが、熱間仕上げ圧延機列10の上流側には、加熱炉や粗圧延機列等が配置される。熱間仕上げ圧延機列10の下流側には冷却装置や巻き取り機等が配置されている。また、鋼板Sを搬送するため、搬送ロールが必要に応じて設けられている。
【0028】
本形態の熱間仕上げ圧延機列10は、上流側から第一スタンド11〜第七スタンド17を有し、これらが通板方向に沿って配列されている。本形態では、各スタンドには圧延機21〜圧延機27が備えられており、第一スタンド11と第二スタンド12とのスタンド間、第三スタンド13と第四スタンド14とのスタンド間、及び第五スタンド15と第六スタンド16とのスタンド間には、板幅方向圧下装置30が配置されている。また本形態では各スタンド間にルーパー40が配置されている。
本形態では第一スタンド11〜第七スタンド17の圧延機21〜圧延機27では、不図示のハウジングに上下に2つのバックアップロール21a〜バックアップロール27aが備えられ、この2つのバックアップロール21a〜バックアップロール27aの間に上下に2つのワークロール21b〜ワークロール27bが配置されている。そしてこの2つのワークロール21b〜ワークロール27bの間を圧延材である鋼板Sが通過することに圧延がなされる。
このようなスタンドは公知の通りであり、スタンドに具備される各構成要素も公知の通りである。
【0029】
なおここでは、上記のように3つの板幅方向圧下装置30を配置したがこれに限定されることなく、後述するように高張力を付与するスタンド間の直前のスタンド間、及び/又は、最も上流側に配置されるスタンドである第一スタンド11の上流側に板幅方向圧下装置30が配置される。
【0030】
図6は、第三スタンド13〜第五スタンド15に注目して仕上げ圧延機列10を上方から見た図であり、下側のワークロール23b、24b、25b、該ワークロール23b、24b、25bの上を通過する鋼板S、及び板幅方向圧下装置30を概念的に表した図である。従って図6では紙面上下方向が鋼板の板幅方向となる。また、図6に直線矢印で示した方向が通板方向である。
【0031】
図6からわかるように、本形態で板幅方向圧下装置30は、サイドガイド31、ローラ32、及び油圧機器33を有して構成されている。
【0032】
サイドガイド31は鋼板Sを板幅方向両側から挟むように配置された一組のガイド部材である。従ってサイドガイド31は、通板方向にある程度の長さを有して構成されている。ただしガイド31は鋼板Sをガイドするものあって、鋼板Sを板幅方向に圧下するものではない。一方、サイドガイド31は鋼板Sをガイドするものであるとともに、鋼板Sの板寄りを防止する観点から、鋼板Sから離隔し過ぎてもその機能を発揮することができない。従ってサイドガイド31は鋼板Sの板幅方向端部に対して所定の間隔を有して配置される。
【0033】
ローラ32は、サイドガイド31に、該サイドガイド31から鋼板Sの板幅方向端部に向けて突出されるように配置されたローラである。ローラ32は鉛直方向に延びる軸を回転軸として水平面内で回転する円柱状のローラで構成される。従ってローラ32は、その外周面で鋼板Sの板幅方向端部を圧下するように鋼板Sに接触して配置される。
【0034】
ここで、ローラは駆動されるものであっても非駆動のものであってもよい。また、ローラは上記のように円柱状である他、回転軸線方向において両端よりも中央が細くなるように外周面が凹状であってもよい。これによれば、ローラの外周面に接触する鋼板Sの端面が自然に凹状の最も深い部分に配置されるように作用し、鋼板Sの安定した通板が可能となる。
【0035】
油圧機器33は、サイドガイド31及び該サイドガイド31に配置されたローラ32を鋼板Sの板幅方向に移動させるとともに、ローラ32が鋼板Sを圧下する際に、鋼板Sからの反力を受けてサイドガイド31及びローラ32を支持する機器である。これには公知の油圧機器を挙げることができる。
【0036】
このような板幅方向圧下装置30により、鋼板Sを板幅方向に圧下することで、鋼板Sの断面形状を変形させ、板幅方向端部における板厚が中央部の板厚よりも厚い形態にすることができる。そしてこれにより通常はエッジドロップが発生していることにより引張り応力状態となりやすい板幅方向端部の応力状態を、より低い程度の引張り応力状態又は圧縮応力状態となるように変化させることが可能となる。
【0037】
そして、以上のような仕上げ圧延機列10及びこれを備える製造設備によれば、板幅方向圧下装置30が配置されたスタンド間の下流側に隣接するスタンド間にて高張力圧延を行ってもエッジ割れを生じることを抑制することができる。
そして高張力圧延ができることで、圧延負荷の軽減、及び、高圧下圧延をすることが可能となる。
【0038】
次に、熱間仕上げ圧延機列10により熱間仕上げ圧延をする方法を説明する。
【0039】
熱間仕上げ圧延機列10に達した鋼板Sは、第一スタンド11の圧延機21により圧延され、第一スタンド11と第二スタンド12との間のスタンド間に達する。そして当該スタンド間には板幅方向圧下装置30が配置されており、鋼板Sの板幅方向の圧下が行われる。板幅方向の圧下については上記した通りである。
【0040】
以上のようにして第一スタンド11と第二スタンド12とのスタンド間で鋼板Sの板幅方向端部を変形させ、その変形が加えられた状態の鋼板Sが第二スタンド12の圧延機22により圧延される。このスタンド間では、ルーパー40は使ってもよいし、使わなくてもよい。ルーパー40を使う場合には、板幅方向の変形をさせる場合のルーパー40の操作量や動作速度は極力小さくし、鋼板の座屈が発生しないようにする必要がある。
【0041】
鋼板Sは、第二スタンド12と第三スタンド13との間で高張力が付与されるように第二スタンド12の圧延機22及び第三スタンド13の圧延機23にて圧延される。このスタンド間でも、ルーパー40は使ってもよいし、使わなくてもよい。高張力については上記した通りである。
【0042】
第二スタンド12の圧延機22及び第三スタンド13の圧延機23では高い張力が付与された状態で圧延が行われ、圧延負荷が低減される。そのため、より高い圧下率で圧延を行うことが可能となる。そして、鋼板Sは第一スタンド11と第二スタンド12との間で板幅方向に圧下されて第二スタンド12での圧延後の板幅方向端部の圧延方向応力が圧縮側に改善されているので、第二スタンドと第三スタンドの間で平均的に高い張力を付与してもエッジ割れの発生を抑制することができる。
【0043】
以降は同様にして、第三スタンド13と第四スタンド14とのスタンド間で板幅方向の圧下、第四スタンド14と第五スタンド15とのスタンド間で高張力を付与して圧延を行う。さらに第五スタンド15と第六スタンド16とのスタンド間で板幅方向の圧下、第六スタンド16と第七スタンド17とのスタンド間で高張力を付与する。
すなわち、隣り合うスタンド間において、上流側で板幅方向圧下、その下流側で高張力付与を行うことで上記の効果を有する圧延となる。高張力を付与するスタンド間の直前のスタンド間では板幅方向圧下を行う。従って、板幅方向圧下装置は、連続したスタンド間に配置してもそのうちの一方は使うことができないことから、1つのスタンド間以上はなれたスタンド間に離隔して配置しておくことが設備投資の観点から効率的である。
【実施例】
【0044】
本発明例、及び比較例として、第一スタンド〜第四スタンドの4つスタンドを有する熱間圧延機列を用いて条件を変えて圧延を行った。熱間圧延機列の各スタンドにおけるワークロールの直径は800mm、スタンド間の距離は5.5mである。用いた圧延材はCを0.15質量%含有し、Mnを2.0質量%含有する鋼材である。
【0045】
<比較例1>
比較例1として、スタンド間で張力を付与しない圧延を行った。この比較例1における各スタンドの圧延荷重が以降の例(比較例2、比較例3、本発明例1、本発明例2)の基準となる。
表1に条件及び結果を示した。表1に表した各項目は次の通りである。
「平均変形抵抗」は各スタンドの圧延時における鋼板の平均変形抵抗である。
「入側板厚」、「出側板厚」は各スタンドの圧延前後の鋼板の板厚である。
「後方張力」、「前方張力」は各スタンドにおける後方張力、及び前方張力の大きさである。
「圧延荷重」は各スタンドにおける圧延荷重である。
「エッジ割れ」は圧延中にワークロールの2m下流側位置で鋼板の板幅方向端部観察し、3mm以上の亀裂が発生したときにエッジ割れが「発生」したと判断する。それ以外は「未発生」とする。なお、上流側で「発生」となった場合には、それより下流側ではすべて「発生」となる。
【0046】
【表1】
【0047】
<比較例2>
比較例2では、比較例1に対してスタンド間にて張力を付与したが、スタンド間における板幅方向の圧下は行わなかった。表2に条件と結果を示す。表2において「荷重低減率」は比較例1の圧延荷重に対する圧延荷重の低減率を百分率で表したものである。
【0048】
【表2】
【0049】
表2からわかるように、張力を付与したことによる荷重低減効果は認められたが、高い張力を付与した部分でエッジ割れが発生した。
【0050】
<比較例3>
比較例3では比較例2に対して張力を変更した。表3に条件と結果を示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3からわかるように、スタンド1及びスタンド2において付与する張力を高めた結果、スタンド1及びスタンド2で圧延荷重をさらに減らすことができたが、ここでもエッジ割れが発生した。
【0053】
<本発明例1>
本発明例1では、比較例2の条件に加えて、第二スタンドと第三スタンドとの間のスタンド間に、上記板幅方向圧下装置30に倣った板幅方向圧下装置を設置した。そして、第三スタンドのワークロール圧延位置から上流側1mの位置にて無次元化幅圧下量が0.2、すなわち板幅方向圧下量1mmで板幅方向圧下を行った。板幅方向圧下装置のローラは円柱状であり、その直径は100mmである。
板幅方向圧下の後に第三スタンド圧延前の板を噛み止めサンプリングして寸法計測を行ったところ、無次元化エッジ盛り上がり量は0.055、すなわちエッジ盛り上がり量は0.275mmであった。表4に条件及び結果を示した。
【0054】
【表4】
【0055】
比較例2と同じ圧延荷重低減効果を得るとともに、エッジ割れの発生を防ぐことができた。
【0056】
<本発明例2>
本発明例2では、比較例3の条件に加えて、本発明例1と同様の板幅方向圧下装置による板幅方向の圧下を、第一スタンドの上流側、及び第二スタンドと第三スタンドとのスタンド間の2箇所で行った。いずれの箇所でも、無次元化幅圧下量は0.2で、無次元化エッジ盛り上がり量は0.055であった。表5に条件及び結果を示した。
【0057】
【表5】
【0058】
比較例3と同じ圧延荷重低減効果を得るとともに、エッジ割れの発生を防ぐことができた。
【符号の説明】
【0059】
1、2、3 スタンド
1a、2a、3a 圧延機
5 板幅方向圧下装置
10 熱間仕上げ圧延機列
11 第一スタンド
12 第二スタンド
13 第三スタンド
14 第四スタンド
15 第五スタンド
16 第六スタンド
17 第七スタンド
21〜27 圧延機
30 板幅方向圧下装置
40 出側冷却装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6