特許第6922922号(P6922922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6922922乳化組成物調製用プレミックス、及びそれを用いた組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922922
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】乳化組成物調製用プレミックス、及びそれを用いた組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20210805BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20210805BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20210805BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20210805BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20210805BHJP
   A23C 9/152 20060101ALN20210805BHJP
【FI】
   A23D7/00 504
   A23D7/005
   A23L2/00 F
   A23L2/38 P
   A23L33/115
   !A23C9/152
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-542339(P2018-542339)
(86)(22)【出願日】2017年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2017032615
(87)【国際公開番号】WO2018061723
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2020年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-188390(P2016-188390)
(32)【優先日】2016年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一孝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真晴
(72)【発明者】
【氏名】盛川 美和子
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−083874(JP,A)
【文献】 特開平10−276669(JP,A)
【文献】 特開平07−107938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
A23L 2/00−2/84
A23L 5/40−5/49
A23L 31/00−33/29
A23C 1/00−23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件を満たす、乳化組成物調製用プレミックス。
1 油相にDHA及び/又はEPAを含有する油脂を含有する。
2 油相に、融点が10〜42℃のラウリン系油脂を25〜99.5重量%含有する。ただし、該油 脂は、DHAとEPAの合計量の0.8重量倍以上である。
3 水相は油相の0.8〜280重量倍である。
4 該油相と該水相は、水中油型乳化油脂組成物を構成する。
5 水相として牛乳を45.83質量%以上、又は脱脂粉乳を7.2質量%以上配合する。
【請求項2】
さらに、水溶性乳化剤及び/又は油溶性乳化剤を含有する、請求項1に記載の乳化組成物 調製用プレミックス。
【請求項3】
水溶性抗酸化剤を水相中2.5〜65重量%含有し、さらに糖質を、水相中の水溶性固形分が合計18〜79重量%となるように添加された水相1〜38重量%が油相中に分散されている、DHA及び/又はEPAを含有する油脂を使用する、請求項1〜2いずれか1項に記載の乳化組成物調製用プレミックス。
【請求項4】
以下の工程による、乳化組成物調製用プレミックスの製造法。
1 DHA及び/又はEPAを含有する油脂、及び融点が10〜42℃のラウリン系油脂を25〜99.5 重量%含有する油相を調製する工程。ここで、融点が10〜42℃のラウリン系油脂は、DHAとEPAの 合計量の0.8重量倍以上含有する。
2 油相の0.8〜280重量倍の水相を調製する工程。ここで、水相として牛乳を45.83質量%以上、又は脱脂粉乳を7.2質量%以上配合する。
3 該油相と該水相を混合し水中油型乳化油脂組成物とする工程。
【請求項5】
さらに、水溶性乳化剤及び/又は油溶性乳化剤を含有させる工程を含む、請求項に記載 の乳化組成物調製用プレミックスの製造法。
【請求項6】
水溶性抗酸化剤を水相中2.5〜65重量%含有し、さらに糖質を、水相中の水溶性固形分が合計18〜79重量%となるように添加された水相1〜38重量%が油相中に分散さ れている、DHA及び/又はEPAを含有する油脂を使用する、請求項4〜5いずれか1項に 記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法。
【請求項7】
請求項に記載の乳化組成物調製用プレミックスを、1〜100重量倍希釈する、DHA及 び/又はEPAを含有する飲食品の製造法。
【請求項8】
請求項に記載のプレミックスを用いることによる、 DHA及び/又はEPAを含有する飲食 品における、 DHA及び/又はEPAに由来する異風味を低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化組成物調製用プレミックス、及びそれを用いた組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)に代表される高度不飽和脂肪酸は、その健康機能が注目されているものの、容易に酸化されるため、一般的な食品に使用される例は少ない。
たとえば特許文献1では、DHAを含有する食品について記載され、食品の例として牛乳が記載されている。
また、特許文献2では、栄養成分としてDHA等を含む、牛乳についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−227227号公報
【特許文献2】特開2002−209513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、DHAやEPAなどの高度不飽和脂肪酸を含有する食品を容易に調製できる、乳化組成物調製用プレミックス、及びそれを用いた乳化組成物の製造法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題に対し、まず先行技術文献について詳細に検討を行った。
特許文献1には、DHA等を含有する牛乳について記載されているが、親水性媒体として多価アルコールもしくは含水多価アルコールを使用する必要があり、実施が制限される場合がある。
特許文献2には栄養成分としてDHA等を含む牛乳についての記載があるが、カプセルとして添加するものであり、極めて煩雑である。
【0006】
本発明者は、更に鋭意検討を行った。そうしたところ、高度不飽和脂肪酸含有油脂を事前に所定の融点を示す油脂と混合して油相とし、これを水相と混合して水中油型乳化組成物たる乳化組成物調製用プレミックスとすることで、これを用いて調製された組成物は、高度不飽和脂肪酸に由来する異風味の発生が抑制された、風味良好な製品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は
(1)以下の要件を満たす、乳化組成物調製用プレミックス、
1 油相にDHA及び/又はEPAを含有する油脂を含有する、
2 油相に、融点が10〜42℃の油脂を25〜99.5重量%含有する、ただし、該油脂は、DHAとEPAの合計量の0.8重量倍以上である、
3 水相は油相の0.8〜280重量倍である、
4 該油相と該水相は、水中油型乳化油脂組成物を構成する、
(2)(1)記載の、融点が10〜42℃の油脂がラウリン系油脂である、(1)記載の乳化組成物調製用プレミックス、
(3)水相が、水溶性蛋白質が溶解したものである、(1)記載の乳化組成物調製用プレミックス、
(4)水相が、水溶性蛋白質が溶解したものである、(2)記載の乳化組成物調製用プレミックス、
(5)さらに、水溶性乳化剤及び/又は油溶性乳化剤を含有する、(4)に記載の乳化組成物調製用プレミックス、
(6)水溶性抗酸化剤を水相中2.5〜65重量%含有し、さらに糖質を、水相中の水溶性固形分が合計18〜79重量%となるように添加された水相1〜38重量%が油相中に分散されている、DHA及び/又はEPAを含有する油脂を使用する、(1)〜(5)いずれか1つに記載の乳化組成物調製用プレミックス、
(7)以下の工程による、乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
1 DHA及び/又はEPAを含有する油脂、及び融点が10〜42℃の油脂を25〜99.5重量%含有する油相を調製する工程、ここで、融点が10〜42℃の油脂は、DHAとEPAの合計量の0.8重量倍以上含有する、
2 油相の0.8〜280重量倍の水相を調製する工程、
3 該油相と該水相を混合し水中油型乳化油脂組成物とする工程、
(8)融点が10〜42℃の油脂がラウリン系油脂である、(7)記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(9)水相が、水溶性蛋白質が溶解したものである、(7)に記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(10)水相が、水溶性蛋白質が溶解したものである、(8)に記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(11)さらに、水溶性乳化剤及び/又は油溶性乳化剤を含有させる工程を含む、(7)に記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(12)水溶性抗酸化剤を水相中2.5〜65重量%含有し、さらに糖質を、水相中の水溶性固形分が合計18〜79重量%となるように添加された水相1〜38重量%が油相中に分散されている、DHA及び/又はEPAを含有する油脂を使用する、(7)〜(11)いずれか1つに記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(13)(6)に記載の乳化組成物調製用プレミックスを、1〜100重量倍希釈する、DHA及び/又はEPAを含有する飲食品の製造法、
(14)(6)に記載のプレミックスを用いることによる、 DHA及び/又はEPAを含有する飲食品における、 DHA及び/又はEPAに由来する異風味を低減する方法、
に関するものである。
【0008】
また換言すれば、本発明は、
(21)以下の工程による、乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
1 DHA及び/又はEPAを含有する油脂、及び融点が10〜42℃の油脂を25〜99.5重量%含有する油相を調製する工程。ここで、融点が10〜42℃の油脂は、DHAとEPAの合計量の0.8重量倍以上含有する。
2 油相の0.8〜280重量倍の水相を調製する工程、
3 該油相と該水相を混合し水中油型乳化油脂組成物とする工程、
(22)融点が10〜42℃の油脂がラウリン系油脂である、(21)記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(23)水相が、水溶性蛋白質が溶解したものである、(21)又は(22)に記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(24)さらに、水溶性乳化剤及び/又は油溶性乳化剤を含有させる工程を含む、(21)〜(23)いずれか1つに記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(25)水溶性抗酸化剤を水相中2.5〜65重量%含有し、さらに糖質を、水相中の水溶性固形分が合計18〜79重量%となるように添加された水相1〜38重量%が油相中に分散されている、DHA及び/又はEPAを含有する油脂を使用する、(21)〜(24)いずれか1つに記載の乳化組成物調製用プレミックスの製造法、
(26)(21)〜(25)いずれか1つに記載の製造法で製造された乳化組成物調製用プレミックスを、1〜100重量倍希釈する、DHA及び/又はEPAを含有する飲食品の製造法、
(27)(21)〜(25)いずれか1つに記載の方法で製造されるプレミックスを用いることによる、 DHA及び/又はEPAを含有する飲食品における、 DHA及び/又はEPAに由来する異風味を低減する方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、DHAやEPAなどの高度不飽和脂肪酸を含有する飲料等を容易に調製できる、乳化組成物調製用プレミックスを得ることが出来、これを用いることで、高度不飽和脂肪を含有しているにもかかわらず、異風味の発生が抑制された飲食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、DHAやEPAを含有する油脂とは、油脂すなわちトリグリセライドの構成脂肪酸の1以上として、DHA及びEPAから選ばれる1以上が含まれる、という意味である。
本発明において、DHAやEPAの量というときは、DHAやEPAを構成脂肪酸として含有する油脂において、脂肪酸としてのDHAやEPAの量を言う。
【0011】
本発明はDHAやEPAなどの高度不飽和脂肪酸を含有する食品を容易に調製できる、乳化組成物調製用プレミックス(以下、単にプレミックスということがある)、及びそれを用いた乳化組成物に関するものである。なお、「乳化組成物調製用プレミックス」といえるためには、それ自身が風味良好である必要がある他、乳化も安定し流通に耐える必要がある。具体的な評価方法は実施例に記載する。
【0012】
本発明に係るプレミックスは、水中油型乳化油脂組成物である。なお、本発明においては必要に応じ抗酸化処理した高度不飽和脂肪酸含有油脂を使用する場合もある。そして該高度不飽和脂肪酸含有油脂の抗酸化処理が水相を分散させたものである場合には、厳密にはW/O/Wの二重乳化となる場合もある。本発明では、このような二重乳化の場合も含め、最外相が水相であり、その中に油相が存在する乳化系に係る組成物を水中油型乳化油脂組成物と称する。
【0013】
本発明においては、DHA及び/又はEPAを含有する油脂を使用する。当該油脂の由来は問わない。DHA及び/又はEPAを含有する油脂におけるDHA,EPAの濃度は問わないが、乳化組成物調製用プレミックスにおいて、DHAとEPAの合計が0.05〜30重量%であることが望ましい。この量はより望ましくは0.07〜27重量%であり、さらに望ましくは0.09〜25重量%である。適当な量を含むことで、本プレミックスを使用し、DHA等を含みつつ、風味良好な飲食品を得ることができる。
なお、DHAやEPAは、油脂においてトリグリセライドの構成成分として存在するものであり、本発明において、脂肪酸として存在するものでないことは言うまでもない。そして、その量は、分析において脂肪酸として測定される値である。
【0014】
DHA及び/又はEPAを含有する油脂は、抗酸化処理を行ったものを使用することが望ましい。抗酸化処理の方法は適宜選択することができるが、一例として、水溶性抗酸化剤を溶解した水相を高度不飽和脂肪酸含有油脂を含む油相に分散させる方法を挙げることができる。
より具体的には、水溶性抗酸化剤を水相中2.5〜65重量%含有し、さらに糖質を、水相中の水溶性固形分が合計18〜79重量%となるように添加された水相1〜38重量%が、DHA及び/又はEPAを含有する油脂を含む油相中に分散されている、DHA及び/又はEPAを含有する油脂を使用することが望ましい。なおこの油脂には、水分0.35〜18重量%を含有することが望ましい。
水溶性抗酸化剤としては、ビタミンC及び/又はカテキンを使用することが望ましい。その水相における量は、より望ましくは10〜63重量%であり、さらに望ましくは18〜28重量%である。
糖質としては、ショ糖を使用することが望ましく、その水相における量は、水溶性固形分が合計67〜77重量%となるように添加されることがより望ましい。
水相の量は、1.5〜4重量%となるように添加されることがより望ましい。そして、この抗酸化処理された油脂は、水分を0.4〜1重量%含むことがより望ましい。
このような油脂を使用することで、本プレミックスを使用し、DHA等を含みつつ、より風味良好な飲食品を得ることができる。
【0015】
本発明では、融点が10〜42℃の油脂を使用する。融点は、より望ましくは15〜41℃であり、さらに望ましくは20〜41℃である。適当な融点の油脂を使用することで、本プレミックスを使用し、DHA等を含みつつ、風味良好な飲食品を得ることができる。
融点が10〜42℃の油脂としては、加工方法としては各種硬化油、分別油、エステル交換油から選ばれる1以上を使用することができ、油種としてはラウリン系油脂を使用することが望ましい。
ラウリン系油脂とは、ラウリン酸を構成脂肪酸に10重量%以上含む油脂であり、具体的にはヤシ油、パーム核油をはじめ、これらの分別油、硬化油、エステル交換油をあげることができる。
【0016】
融点が10〜42℃の油脂の、油相における量は25〜99.5重量%である必要がある。この量はより望ましくは30〜90重量%であり、さらに望ましくは35〜85重量%である。
また、融点が10〜42℃の油脂の量は、DHAとEPAの合計量に対し、0.8重量倍以上含有する必要がある。上限は限定されないが、500重量倍以下であることが望ましく、より望ましくは400重量倍以下である。
適当な量の該油脂を使用することで、本プレミックスを使用し、DHA等を含みつつ、風味良好な飲食品を得ることができる。
【0017】
本発明においては、DHA及び/又はEPAを含有する油脂と融点が10〜42℃の油脂を混合して油相を調製する。この場合、各油脂は融解状態で混合することは言うまでもない。
【0018】
本発明においては、油相の0.8〜280重量倍の水相を使用する。この量は、より望ましくは1〜200重量倍であり、さらに望ましくは4〜150重量倍である。適当な量の水相を使用することで、本プレミックスを使用し、DHA等を含みつつ、風味良好な飲食品を得ることができる。
なお、水相には、水溶性蛋白質が溶解していることが望ましい。溶解している水溶性蛋白質としては、具体的には乳蛋白質、大豆蛋白質をはじめとする各種動植物性蛋白質であり、より望ましくは乳蛋白質である。
より具体的には、水相として牛乳、生乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、乳ホエー、豆乳から選ばれる1以上を使用することが望ましく、より望ましくは牛乳、生乳、脱脂濃縮乳から選ばれる1以上であり、さらに望ましくは生乳である。また、脱脂粉乳や全脂粉乳、ホエーパウダーを水に溶解したものも使用することができる。なお、本発明においては、これらを「水系溶媒」と呼ぶことがある。
適当な水相を用いることで、本プレミックスを使用し、DHA等を含みつつ、風味良好な飲食品を得ることができる。
【0019】
本発明では、乳化剤を使用することが望ましい。使用する乳化剤としては、水溶性乳化剤としてはポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1以上を使用でき、より望ましいのは、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1以上である。油溶性乳化剤としてはポリグリセリン縮合リシノレート、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチンを上げることができ、より望ましいのはショ糖脂肪酸エステルである。ここで、水溶性乳化剤と油溶性乳化剤の両方を使うことが最も望ましい。
なお、本発明ではHLBが7以上の乳化剤を水溶性乳化剤と、HLBが7未満の乳化剤を油溶性乳化剤と定義している。
乳化剤の使用量は、水溶性乳化剤はプレミックス中に0.005〜3重量%であることが望ましく、より望ましくは0.007〜2重量%である。油溶性乳化剤はプレミックス中に0.1〜3重量%であることが望ましく、より望ましくは0.3〜2重量%である。
適当な乳化剤を適当な量使用することで、本プレミックスを使用し、DHA等を含みつつ、風味良好な飲食品を得ることができる。
【0020】
本発明に係る乳化組成物調製用プレミックスの製造法で製造されたプレミックスは各種の飲食品に使用することができる。すなわち、該プレミックスを1〜100倍希釈することで、DHA及び/又はEPAを含有する飲食品を製造できる。ここで、1倍とは、該プレミックスをそのまま飲食品として食す場合である。
具体的には、該プレミックスを生乳により希釈することで、DHA及び/又はEPAを含有する乳飲料が得られる。また、該プレミックスを乳化組成物たるフィリングの原料のひとつとして使用することで、DHA及び/又はEPAを含有するフィリングを得ることができる。
このような方法で得られた飲食品は、プレミックスを使用しないものに比べ、DHA及び/又はEPAに由来する異風味が大きく改善されたものとなる。
すなわち、本発明に係るプレミックスを使用することで、DHA及び/又はEPAを含有する飲食品において、DHA及び/又はEPAに由来する異風味を低減することができるのであり、このようなプレミックスを、乳化組成物調製用と称するのである。
なお、本発明に係るプレミックスは水中油型乳化組成物であることから原則白濁しており、にごりがあっても目立たない、乳化組成物たる飲食品を調製する際に好適なものである。しかし、これを乳化組成物ではない飲食品に使用することを否定するものではない。
以下に実施例を示す。
【実施例】
【0021】
検討 1 DHA及び/又はEPAを含有する油脂の抗酸化処理
表1−1の配合で、「○DHA及び/又はEPAを含有する油脂の抗酸化処理法」に従い、高度不飽和脂肪酸含有油脂の抗酸化処理を行った。
【0022】
表1−1 配合
・カテキンには太陽化学株式会社製「サンフェノン90S」を使用した。
・乳化剤には阪本薬品工業株式会社製ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル「CRS-75」を使用した。
・粉糖には、粉末化したグラニュー糖を使用した
・大豆油には不二製油株式会社製「大豆白絞油」を使用した。
・PUFA油1にはDHAとEPAを合計48.8重量%含有する油脂を用いた。
・試験例1において、水相中の水溶性抗酸化剤量は23.0質量%であった。
・試験例1において、水相中の水溶性固形分量は72質量%であった。
・試験例1において、水相の量は2.39質量%であった。
・以下、試験例1の油脂を「安定化PUFA油1」と称した。
【0023】
○DHA及び/又はEPAを含有する油脂の抗酸化処理法
1.水相に分類されている成分、及び油相に分類されている成分をそれぞれ混合し、溶解した。
2.水相と油相を混合し、略乳化した。
3.2の乳化液を高圧ホモゲナイザー(37Mpa、20パス)にて乳化した。
【0024】
検討2 乳化組成物調製用プレミックスの調製
表2−1の配合に基づき、「○乳化組成物調製用プレミックスの調製法」に従い、乳化組成物調製用プレミックスを調製した。
得られたプレミックスについて、以下に記載の方法により、乳化安定性及び風味を評価した。結果を表2−2に示した。
【0025】
表2−1 乳化組成物調製用プレミックスの配合
・乳化剤1には太陽化学株式会社製のポリグリセリン脂肪酸エステル「サンソフトA−181E」(HLB:13)を使用した。
・乳化剤2には三菱化学フーズ製のショ糖脂肪酸エステル「S−1670」(HLB:16)を使用した。
・乳化剤3には理研ビタミン製蒸留モノグリセライド「リケマールH−100」(HLB:4.3)を使用した。
・乳化剤4には三菱化学フーズ製のショ糖脂肪酸エステル「S-170」(HLB:1以下)を使用した。
・油脂1には不二製油株式会社製「精製パーム核油」(融点27.5℃)(ラウリン系油脂)を使用した
・油脂2には不二製油株式会社製精製硬化パーム核油 融点38℃「ニューメラリン38」(ラウリン系油脂)を使用した。
・油脂3には不二製油株式会社製パーム主体エステル交換油「メラノサンド38」(融点:38℃)(非ラウリン系油脂)を使用した。
・油脂4には不二製油株式会社製パーム、菜種混合硬化油「メラノフレッシュ31」(融点:31℃)(非ラウリン系油脂)を使用した。
・油脂5には不二製油株式会社製スーパーパームオレイン「パームエース10」(融点:10℃)(非ラウリン系油脂)を使用した。
・油脂6には不二製油株式会社製大豆白締油(融点:0℃以下)(非ラウリン系油脂)を使用した。
・表中、「水相/油相」にて、水相の油相に対する重量倍を示した。
・表中、「油脂(A)/(B)」にて、融点が10〜42℃の油脂の、DHAとEPAの合計量に対する重量倍を示した。
【0026】
○乳化組成物調製用プレミックスの調製法1
1.配合に従い、水相及び油相に分類された原材料をそれぞれ混合し、水相及び油相を調製した。
2.攪拌している水相へ油相を投入し、混合した。
3.2の混合物を、高圧ホモゲナイザー(150kg/cm2で均質化した。)
4.殺菌後、5℃に冷却した。
【0027】
○プレミックスの乳化安定性の評価法
1 調製されたプレミックスを、3〜7℃で12時間静置した。
2 静置後、目視により分離状態を確認し、以下の基準で採点した。
採点基準
5点 全く分離が見られないもの。
4点 注視して初めて分離に気づく程度の、極めてわずかに分離が見られるに過ぎないもの。
3点 わずかながら分離が見られるもの。
2点 一見して分離していることが判別できるもの。
1点 ほぼ完全に分離しているもの。
4点以上を合格と判断した。
【0028】
○プレミックスの風味評価法
1 調製されたプレミックスを、3〜7℃で12時間静置した。
2 パネラー3名の合議により、以下の基準で採点した。
採点基準
5点 異風味が全く感じられないもの。
4点 パネラー3名中1名以下が異風味を感じる程度の、ごくわずかな異風味しかないもの。
3点 パネラー3名中2名以上が異風味を感じるが、許容範囲と感じられるもの。
2点 パネラー3名全員が異風味を感じ、かつその異風味が許容範囲を超えるもの。
1点 パネラー3名全員が異風味を感じ、かつその異風味が許容範囲を大きく超えるもの。
3点以上を合格と判断した。
【0029】
○表2−2 乳化安定性及び風味評価結果
【0030】
考察
・実施例8〜10、実施例1の検討より、プレミックスの水相として各種のものが使用できることが明らかとなった。特に、水相として生乳を使用することで、風味はより良好となった。
・実施例19〜22、比較例2の検討より、プレミックスに使用する「融点が10〜42℃の油脂」としては、各種の油脂が使用できることが明らかとなった。しかし、融点が10℃に満たない大豆油を使用した場合には、風味の改善効果が見られなかった(比較例2)。また、比較例5〜7の検討から、油相にDHA,EPA含有油以外の油脂を使用しない場合も、風味の改善効果が見られなかった。
・比較例3の検討より、融点が10〜42℃の油脂が、DHAとEPAの合計量の0.8重量倍以上ない場合は、プレミックスの風味の改善効果が見られなかった。
・実施例23〜29、比較例4の検討より、水相の量が油相に対して0.8重量倍に満たない場合は、プレミックスにおける乳化が不安定になることが明らかとなった。
【0031】
検討3 飲料の調製
検討2で調製したプレミックスを用い飲料(乳飲料)を調製した。
配合は表3−1に示した。調製法は以下の「○飲料の調製法」に従った。
得られた飲料を以下の「○飲料の評価法」に従い評価し、結果を表3−2に記載した。
【0032】
表3−1 飲料の配合
【0033】
○飲料の調製法
「比較例2,3について」
1. 配合に従い、生乳、無脂肪牛乳もしくは水を50〜55℃に昇温し、乳化剤1、脱脂粉乳を溶解した。
2.配合に従い、1へ、プレミックス、安定化PUFA油1、及び加温融解した油脂1を添加した。
3.50〜55℃で15分間、ミキサーで予備乳化した。
4.高圧ホモゲナイザー(150kg/cm2で均質化した。
5.殺菌後、5℃に冷却した。
【0034】
○飲料の評価法
調製後1日冷蔵保管したサンプルをパネラー3名により以下の基準で評価した。採点は合議で行った。
5点 市販の牛乳ないし乳飲料と差が感じられないもの。
4点 わずかながらDHA油の風味が感じられるが、差はほとんどないもの。
3点 DHA油の存在が感じられるが、許容範囲と感じられるもの。
2点 DHA油の存在が違和感として感じられるもの。
1点 強いDHA油の風味が感じられ、不味であるもの。
3点以上を合格とした。
【0035】
表3−2
【0036】
考察
・抗酸化処理された「安定化PUFA油」を使用した場合でも、プレミックスを調製せずに飲料とした場合に、一定の違和感が感じられた。しかし、プレミックスを調製した後に飲料とした場合は、そのような違和感はまったく感じられず、風味良好な飲料を得ることができた。
・実施例58の風味が、特に良好であった。