【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
後述する実験例1に示したように、HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy: HAM)患者由来のCD4+T細胞を用いたマイクロアレイ解析及びパスウェイ解析により、HAM患者由来のCD4+T細胞では、有意に発現亢進している遺伝子を含むパスウェイとして、ABL1遺伝子を含むパスウェイを同定した。そこで、本実施例では、ABL1遺伝子がコードするチロシンキナーゼの阻害剤であるイマチニブ(グリベック)及びニロチニブ(タシグナ)を使用し、これら薬剤のHAM患者由来CD4+T細胞に対する影響を検討した。
【0050】
<検討方法>
[1]CellTiter-Fluor Cell Viability Assay(G6080, Promega社製)を用いたヒトPBMCの細胞濃度測定(アッセイ感度決定)(Technical Bulletin (#TB371). CellTiter-Fluor Cell Viability Assay. Instructions for use of Products G6080, G6081 and G6082 (Promega).本キットは、生細胞プロテアーゼの基質である細胞膜透過性の蛍光ペプチド glycylphenylalanyl-aminofluoro coumarin (GF-AFC, Ex400/Em505nm) を用いて生細胞数に比例する生細胞プロテアーゼによるGF-AFC基質の開裂による蛍光を定量するキットである。)
【0051】
(1)プロトコール
(1−1)細胞の洗浄:比較的新鮮な陰性対照者(negative controls: NC)由来末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cells: PBMC)検体(液体窒素中凍結保存細胞1×10
7個)を37℃湯浴で溶解しPBS10mLを入れた15mLチューブに移し、300×g、10分間遠沈し洗浄した。上清を捨て、ペレットのみとしたチューブの底部を金網上で擦過し、PBS10mLを入れて同様にもう1回洗浄した。そして、PBS 1mLで懸濁して氷上に置いた。
【0052】
(1−2)血球計算盤による細胞濃度の決定と細胞検体の濃度の調製:ビュルカー-チュルク(Burker-Turk)血球計算盤、Trypan Blue0.4%溶液(T8154, シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)とトリパンブルー除外テストを用いて生細胞濃度を決定し、生細胞数の濃度を、10%非働化Fetal bovine serum(#10437028, Thermo Fisher Scientific社製)および1%penicillin-streptomycin(#15140122, Thermo Fisher Scientific社製)を添加したRPMI1640培地(#189-02025 和光純薬工業社製)中で40万個(4×10
5個)cells/mL(培地)となるように希釈した。
【0053】
(1−3)384ウェルプレートへのプレーティング:Nunc 384-well clear polystyrene plate with non-treated surface (#242765, Thermo Fisher Scientific社製)のような384ウェルプレートを準備し、A行及びB行の1〜3列、7〜9列の合計6列の12ウェルに細胞濃度5×10
5cells/mL(培地)に調製した細胞懸濁液20μL(1×10
4個)をマルチチャンネルピペッターでピペッティングして入れた。
【0054】
次にB〜H行、1〜3列、7〜9列に前出の培地25μLを入れた。B行は細胞懸濁液と培地が両方入り20μLになっているが、マルチチャンネルで泡立てないようピペッティングし、B行からC行へ各列とも10μLずつ移した。同様にC行からD行、D行からE行といった具合にG行まで10μLを上の行から下の行へ移した。G行からは10μL吸って廃棄した。H行にはG行からの細胞懸濁液は入れずにNo cell controlとした。
【0055】
以上の操作によりA〜G及びH行の細胞濃度はそれぞれ10,000個、5,000個、2,500個、1,250個、625個、312.5個、156,25個、0個(No cell control)となり、ウェル内の液量はすべて10μLとなる。
【0056】
(1−4)ジギトニンによる細胞の殺処理:細胞溶解性のdetergentであるジギトニン(digitonin)(Calbiochem # 300410、Merck-Millipore社製)の20mg/mL in DMSO(043-07216、和光純薬工業社製)溶液を調製し、ストック液とした。これをさらにDMSOで希釈し、300μg/mLのジギトニン溶液ワーキング溶液としておく。ジギトニン・ワーキング溶液2.5μLを先述の384ウェルプレートのA〜H行の7〜9列のウェルに各々入れた。これが死細胞の蛍光シグナルとなる。
【0057】
ジギトニン未処理サンプル(対照)としてA〜H行の1〜3列の各々のウェルには液量を標準化するためdouble distilled water(D2W)2.5μLを入れた。これにより、全ウェル内の液量は12.5μLとなる。
【0058】
(1−5)CellTiter-Fluor 2×試薬の添加:A〜H行の1〜3行と7〜9列の全ウェルにCellTiter-Fluor 2×試薬(2×Reagent) (G6080, Promega社製)を12.5μLずつ入れた。つまり、ウェル内の容量12.5μLと2×試薬の容量比は1:1で混合した。
【0059】
短時間オービタルシェーカーに載せて混合した後、37℃インキュベーター中で30分間インキュベートした。なお、GF-AFC基質とAssay Bufferを容量比1:1000で基質が完全に溶解するまでボルテックスして溶解させたものが2×Reagentである。
【0060】
(1−6)蛍光測定:TECAN Infinite 200M(Tecan Japan 社製)で蛍光(Ex400/Em505nm)を測定した。
【0061】
(1−7)蛍光シグナルと細胞濃度の回帰分析:上記(1−6)で測定した、生細胞シグナル(未処理サンプル)と死細胞シグナル(処理サンプル)を用いて下記式により希釈度(細胞濃度)毎に生細胞シグナル比を算出した。
Relative Live cell signal (RLU)=[生細胞シグナル−死細胞シグナル]/(No cell control signalの平均)
【0062】
そして、細胞濃度を説明変数、生細胞シグナル比を目的変数として単回帰分析により回帰式を作製した。作成した回帰式を用いて、同じ細胞のCellTiter Fluorのシグナルから元の細胞の細胞濃度を算出した。
【0063】
(1−8)感度の算出:各々の細胞希釈度毎に(1万cells/well; 5,000 cells/well; 2,500 cells/well, etc.)シグナル-to-ノイズ(S/N比)の計算をすることにより感度を算出した。なお、アッセイ感度の実際のレベルはS/N比が3 SDよりも大きいとされる(Niles, A.L. et al. (2007) A homogeneous assay to measure live and dead cells in the same sample by detecting different protease markers. Anal. Biochem. 366, 197-206)。
Viability S:N = [未処理サンプルの平均-処理サンプルの平均] /(H-1〜H-3までの標準偏差)
【0064】
(2)結果
測定したRLUと細胞濃度との関係を表1に示した。
【表1】
【0065】
また、この結果を用いてRLUを説明変数(X)、細胞濃度を目的変数(Y)として単回帰分析を行った結果、回帰式:Y=5.092279X+2578.274、P=2.369E-05、R
2=0.9890997となった。RLU(X)と細胞濃度(Y)の回帰式のグラフを
図1に示した。本実施例においてPBMCの細胞濃度については、この回帰式を用いて蛍光シグナルデータから算出するものとした。
【0066】
[2]ABL1阻害薬処理によるHAM由来CD4+T細胞の細胞死誘導効果の測定
本項では、ABL1阻害薬:イマチニブ(Imatinib、グリベック
TM)及びニロチニブ(Nilotinib)を用いてHAM患者由来PBMCを処理することで細胞死がNC由来PBMCよりも優先的に起こるかどうかを検討した。なお、本項においてイマチニブ及びニロチニブは、イマチニブの添付文書にあるCmax濃度をもとに高濃度(5μM)で検討することにした。
【0067】
(2−1)プロトコール
[検体]
HAM患者、陰性対照(NC)由来のPBMCを各6例、5×10
6個の液体窒素中凍結保存PBMCを準備した。
【0068】
[細胞の準備]
37℃湯浴で融解したPBMCを、PBS10mLを入れた15mLチューブに移し、300×g、10分間遠沈し洗浄した。上清を捨て、ペレットのみとしたチューブの底部を金網上で擦過し、PBS10mLを入れて同様に更に1回洗浄した。
【0069】
マイクロビーズと抗体カクテルを用いたCD4+T cell アイソレーションキット、ヒト(#130-096-533, Myltenyi Biotec社製)のプロトコールによりPBMCをCD4+T cell、非CD4-PBMCに分離した。分離した細胞はPBS 6.5mLに再懸濁し、チューブを氷上に置いた。
【0070】
[薬剤処理]
ABL1阻害薬:イマチニブ及びニロチニブによる細胞死誘導効果を、CellTiter-Fluor Cell Viability Assay(G6080, Promega社製)を用いた細胞濃度測定によって検証した。
【0071】
まず、各検体由来のCD4+T cell、非CD4-PBMCのPBS懸濁液をボルテックスしながらよく混合し、Falcon 6-well clear flat-bottom TC-treated multiwell cell culture plate with-lid (#353046, Corning Japan社製)の3 ウェルに各ウェル2,000μLずつ入れた。ただし薬剤未処理、イマチニブ(終濃度5μM)、ニロチニブ(終濃度5μM)を各1ウェルずつ準備するものとする。イマチニブ及びニロチニブのストック液(DMSO溶液)は十分高濃度のものを用意し、1/1000で終濃度となるようにし、インキュベート開始時の3ウェルの細胞濃度は同一とみなした。
【0072】
次に37℃、5%CO
2下で24時間インキュベートし、24時間後に各ウェルの細胞懸濁液を全量ハーベストした。CD4+T cellの薬剤未処理ウェルの細胞懸濁液を入れたチューブをボルテックスしながらよく混合し、Nunc 384-well clear polystyrene plate with non-treated surface (#242765, Thermo Fisher Scientific社製)にHAM検体1由来CD4+T細胞懸濁液を1列A〜C行に25μLずつ3つ組で入れた。同様にHAM検体2由来CD4+T細胞懸濁液を2列A〜C行、HAM検体3由来を3列A〜C行といった順序で、最後のHAM検体6由来を6列A〜C行に入れた。また、NC検体1由来を7列A〜C行に入れ、同様に順に検体を入れ、最後のNC検体6由来を12列A〜C行に入れた。
【0073】
同様に非CD4-PBMCについてもHAM検体1〜6、NC検体1〜6由来の細胞懸濁液を1〜12列D〜F行に入れた。なお、1〜12列G行にはPBS25μLをNo cell controlとして入れた。
【0074】
その後、全ウェルにCellTiter-Fluor Reagentを25μL加え、短時間オービタルシェーカーに載せて混合した後、37℃インキュベーターに少なくとも30分間入れて遮光下でインキュベートした。その後、TECAN Infinite 200M(Tecan Japan社製)で蛍光(Ex400/Em505nm)を測定した。
【0075】
一方、別なプレートを用意し、イマチニブ処理(終濃度5μM)したCD4+Tcell/非CD4-PBMC、さらに別なプレートでニロチニブ処理(終濃度5μM)したCD4+Tcell/非CD4-PBMCについてもHAM検体1〜6及びNC検体1〜6に関して同様に蛍光を測定した。
【0076】
そして、生細胞数(絶対値)を算出し、曝露前を100%、曝露なしの場合は24時間後(曝露ありの場合は曝露24時間後)をX%として、細胞数の%低下(%REGRESSION)を非曝露の場合、イマチニブ曝露の場合、ニロチニブ曝露の場合で比較した。
【0077】
(2−2)コントロール実験
対比するため、HAM由来CD4+T細胞、NC由来CD4+T細胞、非CD4-PBMCのin vitro培養時の細胞濃度の経時的変化を確認した。具体的にはHAM3例及びNC2例についてPBMCをCD4+T細胞、非CD4-PBMCに分離した後、各細胞を約8×10
4個としてRPMI1640培地2mL中(薬剤無し)で6ウェルプレートを用いて経時的に観察した。
【0078】
観察開始時(0h)、24時間後(24h)、48時間後(48h)にトリパンブルー排除法で細胞濃度を観察した。0hの濃度を100%とし、それぞれのサンプルの相対濃度で示した。
【0079】
(2−3)結果
ABL1阻害薬(イマチニブ5μM又はニロチニブ5μM)24時間処理による細胞生存率に対する効果を
図2に示した。
図2のAはCD4+T細胞におけるイマチニブ5μM、24時間処理による細胞生存率に対する効果を示している。
図2のBはCD4+T細胞におけるニロチニブ5μM、24時間処理による細胞生存率に対する効果を示している。
図2のCは非CD4-PBMCにおけるイマチニブ5μM、24時間処理による細胞生存率に対する効果を示している。
図2のDは非CD4-PBMCにおけるニロチニブ5μM、24時間処理による細胞生存率に対する効果を示している。
【0080】
図2のA及びBで示すように、CD4+T細胞ではイマチニブ及びニロチニブともにHAM由来で有意に細胞死に陥り、一方NC由来CD4+T細胞では細胞死には陥らないことが理解できる。一方、非CD4-PBMCでは、
図2C及びDに示すように、イマチニブはHAMで、ニロチニブはHAM及びNCとも細胞死が有意にみられた。
【0081】
一方、上記(2−2)で説明したコントロール実験の結果を
図3に示した。
図3に示すように、HAM由来の非CD4-PBMC、NC由来のCD4+T細胞及び非CD4-PBMCの細胞数は24時間後にかけて減少し、その後48時間後まで著変なかった。しかしHAM由来のCD4+T細胞は24時間後から48時間後にかけて増加する傾向があることが判る。
【0082】
(3)考察
以上から、イマチニブ及びニロチニブとも、HAM患者由来のCD4+T細胞を優先的に殺す効果を有することが明らかになった。HTLV-1感染CD4+T細胞を含むHAM患者のCD4+T細胞に対するABL1阻害薬の優先的殺傷効果は今までに報告はなく、世界初の知見である。詳細を後述するアレイデータからHAM治療標的としてのABL1遺伝子を抽出したが、この結論の正しさを裏付ける結果を示唆している。
【0083】
コントロール実験において、薬物処理なしで経時的観察をするとHAM患者由来のCD4+T細胞は薬物なしでは24時間後〜48時間後には増加傾向があることを考慮すると、ABL1阻害薬による処理でHAM患者由来のCD4+T細胞が減少することは、より長い時間経時的観察をするとさらに減少効果は明らかとなる可能性がある。
【0084】
一方、非CD4-PBMCの細胞死効果については、臨床的には使わない高濃度(5μM)による副作用が疑われる。通常の臨床的に使用する濃度での細胞傷害の副作用のデータはイマチニブ及び/又はニロチニブに関する既知のデータが使用できると考えられる。
【0085】
〔実験例1〕
本実験例1では、HTLV-1関連脊髄症患者由来のCD4+T細胞を用いたマイクロアレイ解析及びパスウェイ解析により、HTLV-1関連脊髄症患者由来のCD4+T細胞において、有意に発現亢進している遺伝子を含むパスウェイを同定した。本実験の解析方法のフローチャートを
図4に示した。
【0086】
<対象>
WHO診断基準により臨床診断したHTLV-1関連脊髄症患者4例、無症候性HTLV-Iキャリア(AC)4例及びHTLV-1陰性健康者対照(NC)4例を無作為に選んだ(表2)。なお、倫理面へ配慮し、採血及び検体保存は十分な説明と文書での同意を得て行った。本研究では患者と検体は非連結匿名化し、鹿児島大学倫理委員会の承諾を得て取得した検体を用いた。
【表2】
【0087】
<凍結PBMC検体からのCD4+T細胞セレクションとマイクロアレイ>
約2×10
7個のPBMCを含む凍結検体を用い、CD4+T細胞を回収、さらにtotalRNA抽出、cDNAの合成、Cy3標識cRNAの合成と標識(Cy3-CTP,633nm励起)、Cy3標識cRNA精製、DNAマイクロアレイ(1-color Whole Human Genome44k×4plex DNA microarray, 41,000 genes (Agilent Technologies)) を用い、ハイブリダイズと洗浄を行った。その後、Agilent Microarray scannerで画像取得後、Feature Extraction Software Ver.10.5で蛍光シグナル強度を数値化したRaw dataを取得した。さらにGeneSpring GX softwareで数値データ対数変換、正規化した。
【0088】
<アレイデータの解析方法>
(1)パスウェイ解析による有意差発現遺伝子、有意なパスウェイの抽出
(1−1)有意差発現遺伝子の基準(3群間One-way ANOVA)
NCに比べ2 fold change(up/down)以上の変動がありかつ3群間One-way ANOVA(一元配置分散分析)でp<0.01を満たす遺伝子を有意差発現遺伝子として絞り込んだ。有意差発現遺伝子をHAMのみ、ACのみ、HAM及びAC両方でそれぞれ探索した。
【0089】
(1−2)クラスタリングとHeatmap作成
HAM、AC、NCにおける遺伝子発現パターンとHAM病態における細胞性遺伝子の意義の対応を検討すると
図5のようになる。
図5における1)は、3群(HAM・AC・NC) × 2群(発現亢進/低下)分割Venn図は、NC(陰性対照)の遺伝子発現強度を基準とするため、実際は2×2で4群に大別される。HAM
up、HAM
down、AC
up、AC
downはそれぞれ順にHAMで高発現の遺伝子、HAMで低発現の遺伝子、ACで高発現の遺伝子、ACで低発現の遺伝子の集合を示す。添字のup(高発現)、down(低発現)で示す集合を
図4のVenn図では下線付き、下線無しで示している。なお、アレイデータをクラスタリング(クラスター解析)しHeatmapを作成した。
【0090】
(1−3)3群(HAM・AC・NC)×2群(高/低発現)分割Venn図とHeatmapを対応させた新規3群分割プロトコール(Trichotomy protocol)
さらに、ウイルス感染のような3群間比較による発現変動遺伝子をVenn図で表示するために新規に考案した3群(HAM・AC・NC)×2 群(高/低発現)分割Venn図をさらに作成した。
【0091】
HAM、AC、NCでの遺伝子発現パターンとHAM病態における細胞性遺伝子の意義の対応を、Heatmapと3群(HAM・AC・NC)×2群(高/低発現)分割Venn図へのマッピングへの手順に置き換えることにより、HAMでのみ高発現となっている遺伝子をHAM病態特異的責任遺伝子として、Venn図における
【数1】
の部分として177遺伝子を同定した。同定した遺伝子を
図6〜11に示した。
【0092】
なお、本項で採用した3群間比較による一連の病態特異的責任遺伝子の抽出方法は、2群間のt検定による比較とは異なる新しい方法であり、3群間分割プロトコール(Trichotomy protocol)と呼称する。
【0093】
(1−4)パスウェイ解析
パスウェイ解析のワークフローを
図12に示した。有意差発現遺伝子をパスウェイ解析ソフトウェアExPlainと文献情報からキュレーター(curator)により整備されたパスウェイデータベースTRANSPATH(いずれもBIOBASE GmbH社製)を用いて少なくとも2つ以上の遺伝子が含まれる(#Hits in groupが2個以上)パスウェイを有意(P<0.05)とした。
【0094】
(2)上流解析
(2−1)転写因子結合サイト検索
転写因子結合サイト(エレメント)のデータベースTRANSPROを用い、有意差変動遺伝子のプロモーターウインドウ(-1000〜+100)を比較・検索し、重み付きのコンセンサス配列を算出し、上流の転写因子を予想した。変化のある遺伝子群(Yes-set):fold change ≧2.0とし、変化のない遺伝子群(No-set):fold change <1.1であり、かつHAM、AC及びNC群で共通して変動がない遺伝子群を探索するため、変動係数(Coefficient of variation (C.V.)、標準偏差を算術平均で割り(下記式)、相対的なばらつきを表す単位の無い数)が下位300個の遺伝子を採用した。
【数2】
【0095】
また、Yes/Noサイト頻度比>1.5,Yes-set中の結合サイト存在数に対する偶然の確率(P<0.05)、Yes-set中のプロモーター数に対する偶然の確率(p<0.05)を満たすものを転写因子結合サイトとした。
【0096】
(2−2)キーノード(Key node)解析
Yes-setで発現/制御応答を含むエッジを最大6つまで遡るキーノードをFDR(False Discovery Rate) <0.05で検索した。
【0097】
(2−3)キーノード遺伝子によるパスウェイ解析
2つ以上のキーノードを持つ(#Hits in groupが2個以上)パスウェイをTRANSPATHデータベースから抽出した(p<0.05)。
【0098】
(3)研究結果
(3−1)有意差発現変動遺伝子
HAMのみ、ACのみ、HAM及びAC両方で、特異的な有意差発現変動遺伝子をそれぞれ181個(うち高発現遺伝子177;低発現遺伝子4)、65個(うち高発現遺伝子19;低発現遺伝子46)及び56個(うち高発現遺伝子56;低発現遺伝子0)見出した。
【0099】
(3−2)有意差発現遺伝子によるパスウェイの特徴
HAMでは有意な(p<0.05)パスウェイは12個みられたが、TGF-β/SMADに関与する1つを除いた11個すべてCaspaseによるアポトーシス制御に関与するものであった。これら11個の経路すべてに同一遺伝子であるABL1(ABL proto-oncogene 1, non-receptor tyrosine kinase, Gene ID:25) が関与していた(
図13)。なお、
図13において、項目「Pathway ID of TRANSPATH database」は、文献報告の存在するものを人手による判断(curate)を経て作成されたシグナル伝達経路(パスウェイ)のデータベースであるTRANSPATHデータベース(BIOBASE GmbH社製)のIDである。
図13において、分子名の略語は以下を意味している。
ABL-1a: c-abl oncogene 1, non-receptor tyrosine kinase isoform a;
ABL-1b: isoform b;
TOPBP1: DNA topoisomerase II binding protein 1;
RAD52:DNA repair protein RAD52 homolog (S. cerevisiae) ;
p73α: tumor protein p73 isoformα;
Ubc9: UBE21 (ubiquitin-conjugating enzyme E2I) ;
Ran: GTP-binding Ran (ras-related nuclear protein);
Smurf-1: E3 ubiquitin-protein ligase SMURF1;
cIAP-2: BIRC3 (a member of IAP family that inhibit apoptosis by binding TRAF1 and 2)
【0100】
また、
図13において、項目「#Hits in group」は、パスウェイ内に存在する遺伝子リスト中の遺伝子数を意味している。
図13において項目「Group size」はパスウェイ内に存在する遺伝子、タンパク質、代謝物質などの全体の数を意味している。
図13において項目「#Hits expected」は遺伝子リストに偶然含まれる可能性のある遺伝子数を意味している。
図13において項目「P-value」は、パスウェイ内に存在する遺伝子リスト中の遺伝子が偶然含まれる可能性を含まれる場合、含まれない場合の2×2分割表について行・列要因の独立性をFisher正確性両側検定(Two-tailed Fisher's exact test) で検定した値を意味している。なお、
図13には、P <0.05の有意のパスウェイをP値が小さい順にHAM 病態特異的パスウェイとして示している。
【0101】
ACではCaspaseよりも上流にある細胞性ストレス関連のMAPK経路の遺伝子を含む2個の有意なパスウェイが抽出された(詳細は省略)。また、HAM・ACで共通した有意な(2個以上の遺伝子がヒットする)パスウェイは認められなかった。
【0102】
(3−3)上流解析
(3−3−1)転写因子結合サイト検索
HAM特異的遺伝子プロモーター領域、AC特異的遺伝子プロモーター領域からコンセンサス配列を作成し、転写因子結合サイトのデータベースと照合したところ、HAMでは56個、ACでは21個の転写因子が変動発現遺伝子上流に予想された。HTLV-1との関連をデータベースで検索すると、HAMではHTLV-1との関連が既知のもの(C/EBP,ATF2(CREB2),GATA1,3など)を除くとほとんど関連が知られていない転写因子であり、HAM及びACに共通したものが散見された(詳細は省略)。
【0103】
(3−3−2)キーノード解析
HAM特異的遺伝子群から予想したキーノード解析では、CREBのリン酸化キナーゼのひとつCaMKII、アポトーシス関連遺伝子(Fas,Daxx)、TGF-βR、Jak1・2、p38MAPK、HTLV-1との関連が知られているアダプター分子Crk、またインスリン受容体(InsR)など23個が抽出された。
【0104】
ACのキーノード解析では、IFN-α1、IL-4R、IL-10R、IL-22Rなどサイトカインと受容体、Jak3、TykなどJak/Tykキナーゼなど47個が抽出された。
【0105】
(3−3−3)キーノード遺伝子によるパスウェイ解析
キーノード分子を含む有意なパスウェイがHAMでは66個、ACでは65個抽出された。HAMではインスリン受容体からリン酸化シグナルに関するパスウェイ、Jak-STAT系、p38MAPKのパスウェイが、ACではインスリン受容体からリン酸化シグナルに関するパスウェイの他、Jak3、Tyk2、SHP-1、SHP-2、CAS、CrkLなど比較的細胞膜近くの分子に関するパスウェイが有意だった(詳細は省略)。
【0106】
(4)考察
Tattermusch S, Skinner JA, Bangham CR. et al. PLoS Pathog. 2012 Jan;8(1):e1002480. Systems biology approaches reveal a specific interferon-inducible signature in HTLV-1 associated myelopathy(以下、参考文献)には、HAMにおけるアレイデータが報告されている。参考文献によれば、HAMでは末梢血白血球でIFN誘導性遺伝子(STAT1及び2、TAP1、CXCL10(IP-10)、IFI35など)の過剰発現が特徴であり単球、好中球でも同様と報告されている。また、参考文献では、パスウェイ解析の事実上の標準的ソフトウェアであるIngenuity(Ingenuity Systems社製)を用いているが、これでは上流解析はできない。本実験例で使用したExplain(TRANSPATH, TRANSFACデータベース含む)は上流解析が可能である(Kel A., Voss N., Wingender E., et al. BMC Bioinformatics. 2006, 7(Suppl 2):S13. Beyond microarrays: Finding key transcription factors controlling signal transduction pathways)。また、本実験例では、末梢白血球全体でなくHTLV-1の主な感染源であるCD4+T細胞を濃縮し検討するなど方法が異なり、その結果、結論も違いがみられた。
【0107】
HAM特異的変動遺伝子によるパスウェイでは、ABL1の関与したCaspase関連のアポトーシス及び上流のストレス応答関連パスウェイが特徴的である。実際のHAM脊髄の病理でCaspaseが観察されることと矛盾しない結果と考えられた。
【0108】
これに対しACではMAPKシグナル経路上流のMEKK2 (MAPK kinase kinase 2)などストレス応答のパスウェイが特徴的でHAMと異なりアポトーシスに陥っていないことが示唆された。
【0109】
上流解析のうち転写因子結合サイト検索では,HAM、ACともHTLV-1との関連が文献的に知られていない転写因子が多く、HTLV-1の病的なシグナル伝達経路が十分検討されていないと考えられた。
【0110】
HAMのキーノード解析では、HAM・ACのキーノードから4ノード以内の接続する遺伝子(connecting gene)中に、転写因子CREBは含まれたが、ATLのシグナル伝達で重要なNF-κBは含まれておらず、HAMは炎症やサイトカインの下流であるJAK-STAT系に関与するCREBとの関係が、ATLは細胞増殖に関連するNF-κBとの関係がそれぞれシグナル伝達上で深いことを反映していると考えられる。これは特異的変動遺伝子による特異的パスウェイでも同様だった。
【0111】
キーノード分子を用いた上流のパスウェイでinsulin受容体からのシグナルがHAM及びAC共に抽出されたが、これは一般的にリン酸化シグナルのかなり上流にありエネルギーを供与するとされている。
【0112】
要約すると、本実験例では末梢血CD4+T細胞でHAM病態特異的責任遺伝子として抽出された177遺伝子中のABL1は、HAM病態特異的パスウェイとして抽出されたものである。上流解析では少数の遺伝子には収束せず、HAMの遺伝子あるいは分子標的治療法として有望な遺伝子は他に見つからなかった。
【0113】
またABL1は、HAM脊髄と同様なCaspaseなどのアポトーシス経路のパスウェイに関する遺伝子であり、従来のHAM脊髄での病理学的知見とも矛盾しないことから、ABL1を阻害標的とするABL1阻害薬はHAMの遺伝子あるいは分子標的治療法となる可能性が考えられた。
【0114】
(5)結論
HAM末梢血CD4+T細胞を用いたアレイデータを用いて抽出したHAM病態特異的責任遺伝子、またHAM病態特異的パスウェイから、HAM治療の有望な標的としてABL1チロシンキナーゼを同定した。
【0115】
〔実施例2〕
本実施例では、生細胞のみにおけるHTLV-1プロウイルス量(PVL)を定量できる新規定量法 PMA(propidium monoazide)-HTLV-1 viability PCRを開発し、この手法を用いることでABL1阻害薬が生細胞中HTLV-1プロウイルス量減少効果を有するか検討した。通常のPVL測定法では、死細胞と生細胞のPVLをそれぞれ区別して測定することができず、両者について一括してPVLを測定することとなる。
【0116】
新規定量法 PMA-HTLV-1 viability PCRは、詳細を後述の実験例2にて説明するが、従前公知であったPMA Viability PCR(Nocker A. et al. J Microbiol Methods 2006. 67: 310-320)に基づいている。
【0117】
(1)PMA-HTLV-1 Viability PCR によるABL1阻害薬のアッセイ
(1−1)実験の準備
(1−1−1)対象・細胞
液体窒素中冷凍保存されているHAM由来16例のPBMCを用いた。
【0118】
(1−1−2)PMA処理・光クロスリンキング
PMA処理の方法は、詳細を後述するPMA-HTLV-1 viability PCRと同様である。PMAストック液(20mM、-20℃遮光冷凍保存)を最終濃度50μMとなるように細胞サンプルに添加し、室温、5分間、暗所で(アルミホイルで包んで)チューブをインキュベートした(時々チューブを混合するため指ではじく)。
【0119】
光クロスリンキングはすべてハロゲンランプ光クロスリンカーを用いて家庭用交流電源100Vで行った。細胞検体の容量はPBSを適宜加えて調製し200μLとし、暗所にてハロゲンランプから20cm離した位置で5分間照射した。サンプルの温度が37℃以上に上昇しないように照射中は空冷した。時々サンプルチューブを指ではじいた。
【0120】
(1−1−3)薬物(イマチニブ及びニロチニブ)
イマチニブ及びニロチニブの製品添付文書にあるABL1 50%阻害濃度(IC50)、体内動態検討データでのCmax濃度のデータと分子量から、IC50としてイマチニブ600nM、ニロチニブ30nM、Cmaxとしてイマチニブ5μM、ニロチニブ3μMを検討した。
【0121】
(1−2)実験プロトコール
(1−2−1)細胞検体の洗浄と細胞濃度カウント
凍結PBMC検体を37℃湯浴で融解した後、PBSで2回、300×gで洗浄し、ペレットをPBS 1mL中に懸濁し氷上に置いた。Trypan Blue排除法とヘモサイトメーターで細胞濃度をカウントした。
【0122】
(1−2−2)薬物未処理DNAサンプルの処理(T=0h)
5×10
5〜1×10
6個程度の細胞をエッペンドルフチューブに2本取り分け、溶液量をPBSを適宜加え、容量200μLとした。一方はPMA処理・光クロスリンキングを行い、もう一方はこの処理を行わず、両者ともDNeasy Blood & Tissue Kit (QIAGEN)でDNAを抽出した。
【0123】
PMA未処理の方はSample No-D(Drug)-P-、PMA処理した方のDNAはSample No-D+P+と命名した。
【0124】
(1−2−3)薬物処理(イマチニブ及びニロチニブ)
各細胞検体の細胞懸濁液の残った液に細胞培地RPMI1640(Fetal calf serum 10%、Penicillin-streptomycn 1%添加したもの)を約7.5mL加え合計8.0mL+αとしておき、ポリスチレン製6ウェルプレートに1細胞検体当たり4ウェルを使って約2000μLプレーティングした。1細胞検体当たりウェル内最終濃度がイマチニブ 600nM或いは5μM、ニロチニブ30nM或いは3μMとなるように添加した。
【0125】
(1−2−4)インキュベート
薬物を添加したらシェーカーで軽く振盪してから37℃、5%CO
2インキュベーター内でインキュベート開始した。
【0126】
(1−2−5)T=6hでのハーベストとPMA処理、DNA抽出
T=6hで各ウェルの細胞懸濁液を半分程度ハーベストし、エッペンドルフチューブに取り、3,500rpm×10分間で遠沈し、上清を捨て、ペレットをPBS1mLで再懸濁させ、もう1回3,500rpm×10分間で遠沈し、上清を捨てて洗浄した。PBSを加え200μLの容量とし、全部の検体をPMA処理及び光クロスリンキングを行った後、再度PBSで洗浄し、DNeasy Blood & Tissue Kit (QIAGEN)でDNAを抽出した。
【0127】
DNAサンプル名は、Sample No-Imatinib600nM-6hなどと命名した。
【0128】
(1−2−6)T=12hでのハーベストとPMA処理、DNA抽出
上記(1−2−5)で説明したT=6hのときと同様に行い、DNAサンプル名は、Sample No-Imatinib600nM-12hなどと命名した。
【0129】
(1−2−7)DNA濃度測定とWorking solutionの調製
DNA濃度はND-1000 (Thermo Fisher Scientific社製) により測定し、リアルタイムPCRをTriplicateで行うのに十分な量(10ng/μL×Triplicate以上)を調製した。使用するまで-20℃に凍結保存した。
【0130】
(1−2−8)TaqMan プローブを用いたReal-Time PCRによる測定(Triplicate)
TaqMan Universal Master Mix II (#4440044, Thermo Fisher Scientific社製)のプロトコール(合計25μLのPCRの系)に従い、20μM Forward Primer、Reverse Primer、8μM TaqMan Probe、2×Universal Master Mix II、D2Wを混合し、MicroAmp Fast 96-well Reaction Plate (0.1mL) (REF 4346907, Applied Biosystems社製)、MicroAmp Optical Adhesive Film (P/N 4311971, Applied Biosystems社製) を用いてTriplicateの各ウェルに25μLずつピペッティングした。
【0131】
スタンダード曲線作成のためのスタンダード希釈系列は、pXについてNTC(No Template Control)、2 copies/μL(5μLで10 copies)、20 copies/μL(同100 copies)、200 copies/μL(同1000 copies)、2000 μL(同10000 copies) の各5点から作成した。
【0132】
サーマル・サイクルプログラムは、StepOne PlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社製)とStepOne software ver.2.3を用いて、Hold stage 1 cycle: 50℃×2分、95℃×10分、Amplification 45 cycles: 95℃×15秒、60℃×1分で行った。
【0133】
(1−2−9)PMA-HTLV-1 viability PCRの指標の計算方法
ABL1阻害薬処理によるCτ 延長効果の指標
【数3】
及びABL1阻害薬処理によるHTLV-1ウイルス量減少効果の指標
【数4】
を算出するため、T=0でのDNAサンプルのD−P+サンプル群とT=6h及びT=12hでの各薬物・濃度で割り振られた細胞由来のDNAサンプル(D+P+群)とから上記指標を算出した。
【0134】
(1−2−10)検定
各薬物及び濃度でまとめ、上記指標を時系列(T=0h、6h及び12h)、薬物毎の濃度間、濃度(IC50及びCmax)毎の薬物間などで対応のあるt検定(Paired t-test)で検定を行った。すべてサンプルはN=16で検討した。
【0135】
(2)アッセイ結果
(2−1)PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1阻害薬のアッセイの結果
ABL1阻害薬処理によるCτ延長効果の指標ΔCτ
Drug及び生細胞中pXコピー減少率(pX decrease rate)(%)を算出し、算出結果を表3にまとめた。
【表3】
【0136】
(2−2)ΔCτ
DrugによるABL1阻害薬の検討
(2−2−1)時系列での検討(
図14)
結果を
図14に示した。
図14においては、T=0hとの差を*P<0.05, **P<0.01で有意; T=12hについては6hとの差も† P<0.05, ‡P<0.01で有意として示した。有意であることを示す*, **, †, ‡の記号に続く番号はそれぞれ以下に示す危険率である:1) 7.88E-05; 2) 2.01E-07; 3) 2.56E-12 ; 4) 6.30E-10 ; 5) 1.71E-10 ; 6) 0.0027 ; 7) 0.0014 ; 8) 0.85; 9) 8.17E-15; 10) 0.0071; 11) 0.0014; 12) 0.069。記号が前にない番号は有意ではない(N=16, Paired t-test)。
【0137】
図14に示すように、イマチニブ(600nM或いは5μM)、ニロチニブ(30nM或いは3μM)のいずれもT=0に比べてT=6hでもT=12hの時点でも危険率1%以下で有意にCτ延長効果がみられた。T=12hの時点ではT=6hの時点とも比較し、イマチニブ600nM、ニロチニブ30nMという低濃度(IC50)の方が有意にT=6hよりもCτ延長効果がみられ、高濃度(Cmax)では両者とも有意ではなかった。
【0138】
(2−2−2)濃度間比較(
図15、
図16)
イマチニブを使用したときの結果を
図15に示した。
図15に示すように、イマチニブ600nM vs 5μMでは有意差はみられないもののT=6hでもT=12hでも低濃度(600nM)の方が高濃度(5μM)よりもCτ延長効果がやや大きい傾向がみられた。
【0139】
ニロチニブを使用したときの結果を
図16に示した。
図16に示すように、ニロチニブ30nM vs 3μMではT=6hでもT=12hでも低濃度(30nM)の方が高濃度(3μM)よりもCτ延長効果が危険率1%以下で有意に大きかった。
【0140】
(2−2−3)薬剤間比較(
図17、
図18)
IC50同士(イマチニブ600nM vs ニロチニブ30nM)で比較した結果を
図17に示す。
図17に示すように、T=6hでもT=12hでもイマチニブ600nMよりもニロチニブ30nMの方がCτ延長効果が危険率1%以下で有意に大きかった。
【0141】
高濃度Cmax同士(イマチニブ5μM vs ニロチニブ3μM)で比較した結果を
図18に示す。
図18に示すように、T=6hでもT=12hでも有意差はなかった。
【0142】
(2−3)生細胞中pXコピー減少率(pX decrease rate)(%) によるABL1阻害薬の検討
(2−3−1)時系列での検討(
図19)
結果を
図19に示した。
図19においては、T=0hとの差を*P<0.05, **P<0.01で有意; T=12hについては6hとの差も† P<0.05, ‡P<0.01で有意として示した。有意であることを示す*, **, †, ‡の記号に続く番号はそれぞれ以下に示す危険率である: 1) 1.97E-07; 2) 1.71E-10; 3) 0.0027; 4) 2.01E-07; 5) 0.0014; 6) 0.846; 7) 2.56E-12; 8) 8.17E-15; 9) 0.0071; 10) 6.30E-10; 11) 0.0014; 12) 0.069。記号が前にない番号は有意ではない(N=16, Paired t-test)。
【0143】
図19に示すように、イマチニブ(600nM或いは5μM)、ニロチニブ(30nM或いは3μM)のいずれもT=0に比べてT=6hでもT=12hの時点でも危険率1%以下で有意に生細胞中pXコピー減少効果がみられた。T=12hの時点ではT=6hの時点とも比較し、イマチニブ600nM、ニロチニブ30nMという低濃度(IC50)の方が有意にT=6hよりも細胞中pXコピー減少効果がみられ、高濃度(Cmax)では両者とも有意ではなかった。
【0144】
低濃度(IC50)での各薬物での生細胞中pXコピー数減少率は、T=6h、12hの順に、イマチニブ600nMでは50.35%、66.37%、ニロチニブ30nMでは69.51%、78.00%と顕著にプロウイルス量を減少させることが明らかとなった。
【0145】
(2−3−2)濃度間比較(
図20、
図21)
イマチニブを使用したときの結果を
図20に示した。
図20に示すように、イマチニブ600nM vs 5μMにおいて、T=6hでは有意差はみられないものの低濃度(600nM)の方が高濃度(5μM)よりも生細胞中pXコピー数減少率がやや大きい傾向がみられた。T=12hでは有意に低濃度(600nM)の方が高濃度(5μM)よりも生細胞中pXコピー数減少率が大きかった。
【0146】
ニロチニブを使用したときの結果を
図21に示した。
図20に示すように、ニロチニブ30nM vs 3μMにおいては、T=6hでもT=12hでも低濃度(30nM)の方が高濃度(3μM)よりも生細胞中pXコピー数減少率が危険率1%以下で有意に大きかった。
【0147】
(2−3−3)薬剤間比較(
図22、
図23)
IC50同士(イマチニブ600nM vs ニロチニブ30nM)で比較した結果を
図22に示す。
図22に示すように、T=6hでもT=12hでもイマチニブ600nMよりもニロチニブ30nMの方が生細胞中pXコピー数減少率が危険率1%以下で有意に大きかった。
【0148】
高濃度Cmax同士(イマチニブ5μM vs ニロチニブ 3μM)で比較した結果を
図23に示す。
図23に示すように、T=6hでは、ニロチニブ3μMの方がイマチニブ5μMよりも有意に生細胞中pXコピー数減少率が大きかった。T=12hでは有意差はなかった。
【0149】
(3)考察
上記(2)で示したように、PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1阻害薬のアッセイにより、Cτ延長効果の指標であるΔCτ
Drug及び生細胞中pXコピー減少率(pX decrease rate)(%)ともに、薬物未処理に比べてABL1阻害薬で処理すると、生細胞中のHTLV-1プロウイルス量が減少することを明らかにすることができた。
【0150】
これらABL1阻害薬の効果は、T=6h、12hと時系列的にも減少効果は有意に継続することがわかった。実施例1の
図3でHAM、NC由来CD4+T細胞、非CD4-PBMCの薬物未処理の状態におけるin vitro培養時の細胞濃度の経時的変化を示したが、これでみたようにin vitroでは、すなわち中和抗体などがない体外ではHAM由来CD4+T細胞はT=24h〜48hでSpontaneous proliferation を起こして自然に増殖すること、すなわちプロウイルス量が拡大するという性質があることを考えると、ウイルス減少効果が比較的長時間継続するとHAM治療には大きな長所となることが期待できる。
【0151】
またイマチニブよりもニロチニブの方が、濃度が同程度(IC50同士)では有意に効果が高かった。これは、ニロチニブがより特異的な第2世代の薬物であることと合致していると考えられる。
【0152】
同一薬物ではイマチニブ及びニロチニブともに低濃度(IC50)の方が高濃度(Cmax)よりも有意に生細胞中ウイルス減少効果が高いと考えられる結果だった。ABL1チロシンキナーゼがHAMでの病態特異的責任遺伝子として、またHAM病態特異的パスウェイに関与する遺伝子として抽出され、さらにHAMのCD4+T細胞におけるアポトーシス/サバイバルに関与する遺伝子としてみつかったこと、ABL1は細胞内でさまざまなイベントに関与する多機能な分子であることなどを考慮すると、これまでの実験結果が示すようにABL1阻害薬を低濃度処理すると細胞死の方向に強く向かうことが理解できる。
【0153】
生体内では細胞膜が壊れたCD4+T細胞はただちにマクロファージが認識して貪食するが、in vitroの培養系ではマクロファージはほとんどいないことを考慮すると、ABL1阻害薬を体内投与した場合には、本実施例で示したin vitroにおける生細胞中ウイルス量減少効果がそのまま反映されるような臨床的検査結果が得られる可能性が期待できる。
【0154】
ABL1阻害薬は既に述べたように慢性骨髄性白血病(CML)の臨床応用されている分子標的薬である。HAMに対しHTLV-1プロウイルス量減少目的で新たな適応追加が期待される。
【0155】
〔実験例2〕
本実験例2では、生細胞中のみでのPVL新規定量法 PMA-HTLV-1 viability PCR を説明する。
【0156】
[PMA viavility PCR]
まず、基礎となるPMA viavility PCRの概略を説明する。PMA(propidium monoazide)とは、膜非透過性、核酸(DNA/RNA)結合性蛍光色素で、azide基に光反応性がある。PMA Viability PCRとは2006年に環境学的検体、食品などの検体における微生物が生きているかどうかを判定する目的でNockerらにより考案された(Nocker A. et al. J Microbiol Methods 2006. 67: 310-320)。
【0157】
PMAは、膜統合性(非対称性)が喪失した、死にかけている細胞又は死んだ細胞(併せて死細胞)に入り、二重鎖DNAに優先的に結合する。一方、PMAは、膜統合性を有する生細胞内には入り込まない。
【0158】
二重鎖DNAに結合したPMAは、吸収波長464nm(ほぼ470nm)を照射することで、で光クロスリンク(Photo-crosslinking)によりDNA鎖に不可逆的に結合する。一方、結合しなかったPMAは光分解(photolysis) する。そして、抽出したDNAを鋳型に定量PCR (qPCR) を行うと、PMAが結合したDNAを鋳型とするPCRは阻害され、PMAと結合していない生細胞由来のDNAのみ鋳型としてPCRが進行する。このように、鋳型となるDNAのなかにPMAが結合したDNAが含まれると、定量PCRにおける閾値に到達するサイクル数(Cτ値)は大きくなる(延長する)。よって、生菌(生細胞)が多いとPMAが結合していないDNAが多いのでPCRがかかりCτ値は小さく、生菌(生細胞)が少ないとCτ値は大きくなる(延長する)。
【0159】
PMAのPCR阻害効果を検討するための指標として、Nockerらの原著(Nocker A. et al. J Microbiol Methods 2006. 67: 310-320)では、PMA未処理検体のCτから同一検体のPMA処理検体のCτを差し引いた値(負になる)をΔCτとして下向きに表示して用いている(下記式)。
【数5】
Cτw/o PMA:PMA未処理後抽出DNAのPCRで測定したCτ値
Cτwith PMA:同一細胞サンプルのPMA処理後DNAのPCRで測定したCτ値
【0160】
[PMA-HTLV-1 viability PCR]
本実験例では、生細胞中のみでのPVL新規定量法(PMA-HTLV-1 viability PCRと呼称する)を提案する。PMA viavility PCRのプロトコールと計算理論を拡張した後にPMA-HTLV-1 viability PCRを導入する。
【0161】
(1)PMA viability PCRのプロトコールと計算理論の拡張
(1−1)PMA viability PCRのプロトコールの拡張
PMA viability PCRのプロトコールでは、通常のリアルタイムPCR絶対法と異なり、標的核酸の標準品希釈系列を用いた標準曲線を作成しない。本実験例では、ここで標的核酸の標準品とその希釈系列、標的核酸に対するプライマーセット及びTaqManプローブを用いてリアルタイムPCR絶対法に準じたプロトコールを行う場合を考える。
【0162】
測定対象となる細胞を2分割し、PMA処理しないもの(w/o (without) PMA)、PMA処理したもの(with PMA)とし、DNA抽出し、リアルタイムPCR絶対法に準じたプロトコールに従い標的核酸のスタンダードと、測定対象DNA検体の標的核酸コピー数を三重測定(Triplicate)で測定するものとする。
【0163】
(1−2)PMA viability PCRの計算理論の拡張
リアルタイムPCRでは一般に増幅産物を意味する蛍光強度は最初の1〜最大10サイクルまではノイズレベルでサンプルブランクとみなし、それらの標準偏差(Standard deviation:SD) を算出し、10SDを閾値(Threshold)とする。閾値を初めて最初に上回るサイクル数をCycle threshold (Cτ)値とする。リアルタイムPCRのプロトコールでアプライするDNA量は一定量であるが、その中の標的初期鋳型DNA量がPCR開始時に多いとCτ値は小さく、標的初期鋳型DNA量が少ないとCτ値は大きくなる。
【0164】
これらの関係と細胞検体のPMA処理の有無を含め、PCRの増幅回数-増幅産物量(実数)プロット、Cτ-遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット中にそれぞれ図示すると、
図24及び
図25のようになる。
【0165】
(1−2−1)PMA viability PCR における増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数)プロット(
図24)
Nocker AらによるPMA viability PCRの原著 (Nocker A. et al. J Microbiol Methods 2006. 67: 310-320) ではPMAのPCR阻害効果を検討するための指標として、PMA未処理検体のCτから同一検体のPMA処理検体のCτを差し引いた値(負になる)をΔCτとして下向きのグラフに表示して用いている。
【0166】
ここで、リアルタイムPCRにおける増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数)プロット上でさらにΔCτの表示を試みると
図24のように表示できる。PMA処理(-)ではCτ値は小さいがPMA処理(+)では生細胞DNAのみにより増幅産物量曲線が立ち上がりCτ値は遅延し(大きくなり)、死細胞数に依拠するΔCτは小さい方のPMA処理(-)Cτw/o PMA値から大きい方のCτwith PMA値を引いて拡大した負の値になる。
【0167】
(1−2−2)PMA viability PCRにおけるCτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット(
図25)
図24のΔCτは、PMA VIABILITY PCRに加えてさらに同時に標的核酸配列の標準品とそれに対するTAQMANプローブを用いた絶対法で標準曲線(検量線回帰式)を得たとする。この標準曲線を用いてY軸(Cτ)上に
図25のようにΔCτをプロットできる。
【0168】
さらにX軸上の遺伝子相対発現コピー数(log表示)の軸上でPCR時にアプライした初期鋳型コピー数を
I
w/o PMA:PMA処理(-)検体でPCRによりCτ
w/o PMA値だった時の初期鋳型量(コピー数)(log表示)
I
with PMA:PMA処理(+)検体でPCRによりCτ
with PMA値だった時の初期鋳型量(コピー数)(log表示)
とするとき、ΔCτと同様に負の値として初期鋳型量(コピー数)減少分:ΔI=I
w/o PMA−I
with PMAを新たに定義し図示できる。
【0169】
なお、標準曲線から算出した次式を用いてΔIを計算することもできる。
【数6】
【0170】
(2)生細胞のみにおけるHTLV-1プロウイルス量(PVL)新規定量法 PMA-HTLV-1 viability PCR
通常のTaqMan法によるPVL測定法(Nagai M. J Neurovirol. 1998 Dec;4(6):586-93.)は、生細胞、死細胞を含むPBMCからDNA抽出キットにより精製したDNAを鋳型に、標的遺伝子pX、内部対照遺伝子β-actinに対するTaqManプローブ、プライマーセットによりリアルタイムPCRを行う。この方法では生細胞、死細胞由来のHTLV-1プロウイルス量(PVL)は原理的に区別できない。
【0171】
そこで生細胞のみのPVLを測定する方法があれば、抗HTLV-1候補薬処理の有無により生細胞PVL量を比べることで抗HTLV-1候補薬の効果を検討することが可能となる。生細胞でのPVLの減少を示すために、Dead cell removal kit (Miltenyi Biotec 130-090-101)のようなAnnexin V(膜GPIアンカー構造であるPhosphatidyl serineやCa
2+と結合する抗凝固蛋白)をコンジュゲートしたビーズを詰めたカラムで死細胞を除去する方法では、細胞単位で死細胞が除去され、ハーベストできるDNA量が顕著に減少してしまい、PVL測定に必要なゲノムDNAの量と質を確保することは非常に困難となる。このためこの方法では、抗HTLV-1候補薬処理をする際に低い薬剤濃度で処理せざるを得ず、抗HTLV-1候補薬の効果の検討で有意差をみいだすことが困難になってしまうという二律背反に陥ってしまう。
【0172】
そこで細胞レベルではなく、DNAレベルで、即ちReal-Time PCRの段階で生細胞・死細胞由来のDNAを区別する方法として、PMA-HTLV-1 viability PCRを提案する。
【0173】
(2−1)PMA viability PCR を拡張したPMA-HTLV-1 viability PCR
PMA Viavility PCRを細菌その他の微生物ではなく、哺乳類であるヒト細胞に応用し、ヒトゲノムDNAに組み込まれたHTLV-1ウイルスpX領域を標的遺伝子(核酸)としてプライマーセット、TaqManプローブ、pX標準品希釈系列を用いたスタンダードをConventionalなHTLV-1 PVL定量法と同様に用い、PMA処理、DNA抽出、Cτ値測定およびΔCτ値算出といったステップを含む方法をPMA-HTLV-1 viability PCR と呼称することにする。
【0174】
(2−2)PMA-HTLV-1 viability PCRは生細胞のみにおけるHTLV-1を測定する
PMA-HTLV-1 viability PCRは、PMA viability PCRをHTLV-1 pXに対して測定するものなので、増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数)プロット、Cτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット(
図24及び
図25)はそのまま使用できる。
【0175】
PMA viability PCRの基本的事項はそのままPMA-HTLV-1 viability PCRについても成り立つことをHAM患者由来PBMCおよびHTLV-1感染細胞株Hut102を用いて後に示す。
【0176】
基本的事項を再確認すると、生・死菌混合物由来DNAの場合、PMA処理(-)でのDNAを用いた通常のPCRでは生・死細胞比率に無関係に産物量は一定(Cτ値一定)だが、PMA処理(+)でのDNAを用いた、すなわちPMA viability PCRでは生細胞比率が高いと産物量が増えPCR立ち上がりが早く(Cτ値小さい)、生細胞比率が低いとPCR立ち上がりが遅い(Cτ値大きい)。つまり産物量とCτ値は負の相関関係にある。
【0177】
PMA処理(-)のDNAを用いたPCRすなわち通常のPCRでは早い立ち上がり(あるいは大きいCτ値)は生・死細胞両方から抽出されたDNAに由来するが、PMA処理(+)のDNAを用いたPCRすなわちPMA viability PCRでの遅い立ち上がり(Cτ値遅延あるいは大きいCτ値)は生細胞のみに由来する。これにより生細胞のみでのHTLV-1 PVL定量が可能となる。
【0178】
同様に、ΔCτは死細胞のみに由来する。これを用いて抗HTLV-1薬の効果が判定可能となる。
【0179】
(3)PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイ
次に、PMA-HTLV-1 viability PCRを用いて、HTLV-1感染細胞を標的として殺傷する薬物(ずなわち、実施例2で使用したようなABL1阻害薬)をアッセイする場合を考える。
【0180】
(3−1)PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイにおける増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数)プロット(
図26)
(3−1−1)PMA処理によるCτ値延長ΔCτ
PMA、薬物処理によるCτ値延長ΔCτ
Drug
候補薬物処理(Drug処理)で標的細胞が死ぬと、その後にPMA処理し、標的細胞の特異的核酸(遺伝子)を増幅するPCRは阻害されCτ値(Cτ
D+ P+)は候補薬物処理なしの時(Cτ
D- P+)よりも大きくなる。前述したPMA処理によるCτ値延長ΔCτをΔCτ
PMAとし、候補薬物処理によるCτ値延長をΔCτ
Drugとして新たに定義する。すなわち、
ΔCτ
PMA=Cτ
D- P-−Cτ
D- P+ (Nocker A. 原著の式に相当する)
ΔCτ
Drug=Cτ
D- P+−Cτ
D+ P+
Cτ
D- P-:Drug処理(-)、PMA処理(-)のDNAを用いたときのCτ値であり、薬物未処理検体の生細胞及び死細胞由来DNA量を反映する。
Cτ
D- P+:Drug処理(-)、PMA処理(+)のDNAを用いたときのCτ値であり、薬物未処理検体の生細胞由来DNA量を反映する。
Cτ
D+ P+:Drug処理(+)、PMA処理(+)のDNAを用いたときのCτ値であり、薬物処理検体の生細胞由来DNA量を反映する。
【0181】
そして、ΔCτ
PMAは、細胞サンプル毎に異なる生細胞及び死細胞比率を反映するPMA処理による生細胞のみのDNA量の指標である。ΔCτ
Drugは、生細胞のみに由来するDNA量の薬物による減少を反映する。よって薬物の標的細胞傷害効果を判定する指標として使用できる。
【0182】
(3−2)PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイにおけるCτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット(
図27)
PMA viability PCRに加えて同時に標的核酸配列の標準品とそれに対するTaqManプローブを用いた絶対法でpXの標準曲線(検量線回帰式)を得たとする。この標準曲線を用いてY軸(Cτ)上に図のようにΔCτをプロットできる。
【0183】
(3−2−1)PMA処理による初期鋳型減少ΔI
PMA、薬物処理による初期鋳型コピー数減少ΔI
Drug
同様にCτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット上ではPCRにアプライした初期鋳型コピー数の減少を前に定義したΔIをΔI
PMAとし、候補薬剤処理(Drug処理)による減少をΔI
Drugとして新たに定義する。すなわち、
ΔI
PMA=I
D- P-−I
D- P+
ΔI
Drug=I
D- P+−I
D+ P+
I
D- P-:Drug処理なし、PMA処理なしのDNAを用いたときの初期鋳型コピー数であり、薬物未処理検体中の生細胞及び死細胞由来DNA中初期鋳型コピー数である。
I
D- P+:Drug処理なし、PMA処理ありのDNAを用いたときの初期鋳型コピー数であり、薬物未処理検体中の生細胞由来DNA中初期鋳型コピー数である。
I
D+ P+:Drug処理あり、PMA処理ありのDNAを用いたときの初期鋳型コピー数であり、薬物処理検体中の生細胞由来DNA中初期鋳型コピー数である。
【0184】
I
D- P-が生細胞及び死細胞全体の中の初期鋳型コピー数なのに対し、I
D- P+及びI
D+ P+は生細胞中のみの初期鋳型コピー数である。
【0185】
ΔI
PMAは細胞サンプル毎に異なる生細胞及び死細胞比率を反映するPMA処理による生細胞のみの初期鋳型コピー数の指標である。ΔI
Drugは生細胞のみに由来する初期鋳型コピー数の薬物による減少を反映する。よって薬物の標的細胞傷害効果を判定する指標として使用できる。なお、標準曲線から算出した次式を用いてΔI
PMAを計算することもできる。
【数7】
【0186】
(3−2−2)生細胞中標的遺伝子コピー数減少率(Target gene decrease rate in live cells) (%) と生細胞中標的遺伝子コピー数残存率(Target gene survival rate in live cells) (%)
PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイでは、候補薬物処理(Drug処理)により減少した生細胞中の標的核酸(ここではHTLV-1 pX遺伝子すなわちウイルス量)コピー数の減少率(%)を元来あった生細胞のみにおける初期鋳型コピー数I
D- P+に対する比率として、生細胞中標的遺伝子コピー数減少率(Target gene decrease rate in live cells) (%)を定義し計算できる。これによりアッセイしたい薬物の標的核酸(ここではHTLV-1ウイルス量)減少効果の指標となり効果が判定できる。
【数8】
【0187】
上記式から判るように、100−Target gene survival rate in live cells (%)で求まる値は、生細胞中標的遺伝子コピー数残存率である。
【0188】
〔実施例3〕
本実施例1では、ABL1阻害薬(イマチニブ、ニロチニブ)がHAM由来のCD4+T細胞に対して特異的に殺傷する結果を示した。本実施例では、ABL1阻害薬(イマチニブ及びニロチニブ)が無症候性キャリア(AC)由来のCD4+T細胞に対しても特異的な殺傷効果を持つか検証した。
【0189】
(3−1)プロトコール
本実施例では、検体として、無症候性HTLV-Iキャリア(AC)、陰性対照(NC)由来のPBMCを各4例、5×10
6個の液体窒素凍結保存PBMCを準備した。そして、実施例1に記載した〔細胞の準備〕と同じ方法により細胞を処理し、実施例1に記載した〔薬剤処理〕と同様な方法により薬剤処理を行った。但し、本実施例では、AC検体#1由来CD4+T細胞についてA行1〜3列に薬剤未処理ウェル懸濁液、A行4〜6列にイマチニブ5μM処理ウェル懸濁液、A行7〜9列にニロチニブ5μM処理ウェル懸濁液をそれぞれ25μLずつ3つ組で入れた。同様に、AC検体#2由来CD4+T細胞についてB行1〜9列に、AC検体#3由来CD4+T細胞についてC行1〜9列、AC検体#4由来CD4+T細胞についてD行1〜9列に入れた。また、NC検体#1由来CD4+T細胞について同様にE行1〜9列に、NC検体#2由来CD4+T細胞についてF行1〜9列に、NC検体#3由来CD4+T細胞について同様にG行1〜9列に、NC由来#4由来CD4+T細胞をH行1〜9列に入れた。
【0190】
同様にこれらのCD4+T細胞懸濁液を同じ手順でもう一組、10列はブランクとし、A〜H行11〜19列に入れた。後者の検体の領域の各ウェルには細胞毒ジゴトニン300μM溶液2.5μLを入れて死細胞蛍光強度測定用とし、前者の生細胞領域のウェルには等量とするためPBS(-)2.5μLを入れた。
【0191】
さらに、同様に非CD4-PBMC細胞についても、異なるNunc384-well clear polystyrene plate with non-treated surfaceプレートを準備し、AC検体#1〜4、NC検体#1〜4由来の細胞懸濁液を1〜16列D〜F行に入れ、同様にジゴトニン溶液及びPBS(-) も加えた。なお、1〜12列G行にはPBS25μLをNo cell controlとして入れた。
【0192】
そして、実施例1と同様にして、CellTiter-Fluor Reagent及びTECAN Infinite 200M (Tecan Japan社製)で蛍光(Ex400/Em505nm)を測定した。得られた蛍光強度は、実施例1と同様に、Relative live cell signal (RLU) を検量線回帰式に代入して細胞濃度(cells/mL)を算出した。
【0193】
(3−2)結果
薬剤未処理ウェルの細胞濃度を100とし、イマチニブ5μM処理ウェル、ニロチニブ5μM処理ウェルのそれぞれの相対濃度(%)を算出した。結果を表4に示した。なお、表4に示した数値は、生細胞濃度(cells/mL)の薬剤未処理に対する相対%を示している(相対%±標準誤差)。
【表4】
【0194】
また、表4に示した結果のグラフと統計解析結果を
図28に示した。
図28において、A及びBはCD4+T細胞に関する結果であり、C及びDは非CD4-PBMC細胞に関する結果である。また、
図28においてA及びCはイマチニブ5μM処理の結果であり、B及びDはニロチニブ5μM処理の結果を示している。
図28のA〜Dにおいて、それぞれ左側にNCの結果、右側にACの結果を示している。また、A〜Dにおいてにおいて黒い棒グラフは薬剤未処理の細胞濃度(cells/mL)で100%とし、イマチニブ5μM処理の相対的細胞濃度(% cell viability)を白い棒グラフで、ニロチニブ5μM処理の相対的細胞濃度(% cell viability)を灰色の棒グラフで示した。
【0195】
(3−3)考察
関連のあるt検定で統計解析すると、AC検体由来CD4+T細胞をイマチニブ5μM処理、ニロチニブ5μM処理すると、NCに比べて有意に細胞濃度を減少させる(それぞれP=0.011;P=0.007)ことがわかった。このような効果は非CD4-PBMC細胞ではみられず、ABL1阻害薬のHTLV-1感染細胞特異的な細胞死誘導効果であることが示唆された。
【0196】
本実施例及び実施例1で示したように、ABL1阻害薬がHAM由来のCD4+T細胞及びAC由来のCD4+T細胞、すなわちHTLV-1感染CD4+T細胞に対して優先的に細胞死を誘導する効果を発見した。特に、本実施例において、ABL1阻害薬は無症候性キャリア(AC)由来のCD4+T細胞に対しても優先的細胞死誘導効果を持つことを世界で初めて発見したと言える。
【0197】
〔実施例4〕
本実施例2では、死細胞を除き、生細胞のみのHTLV-1プロウイルスを定量する技術を適用して、ABL1阻害薬(イマチニブ、ニロチニブ)がHAM由来のCD4+T細胞の生細胞におけるプロウイルス量を減少させる効果を持つことが実証された。本実施例では、同ABL1阻害薬が無症候性キャリア(AC)由来のCD4+T細胞に対しても、同様にプロウイルス量減少効果を持つか検証した。
【0198】
(4−1)プロトコール
(4−1−1)対象・細胞
液体窒素中冷凍保存されているAC由来14例の各例1×10
7個のPBMCを用いた。
【0199】
(4−1−2)T=0hでのハーベスト(ABL1阻害薬未処理検体)
液体窒素中冷凍保存されている検体を37℃湯浴で融解後、約10mLのPBSで300×g、10分間遠沈にて2回洗浄し、PBS中1mL中に再懸濁し、細胞濃度をトリパンブルー排除法でカウントした。そして、各検体について約10万個のPBMCとなるように2組に取り分けた。これらのうち一方はPMA処理しないもの、他方はPMA処理するものとした。各々Sample No-Drug-P-及びSample No-Drug-P+と命名しておく。
【0200】
Sample No-Drug-P+と命名された検体には、実施例2に記載した方法と同様に、まずPMAストック液を終濃度50μMとなるよう加え、遮光下に室温、5分間、時々振盪しながらPMA処理し、ハロゲンランプ光クロスリンカーで5分間空冷しながらクロスリンキングした。PMA処理しない前者と合わせ両者ともDNeazy Blood & Tissue Kit(Cat No 69504、QIAGEN社製)を用いてゲノムDNAを抽出した。
【0201】
(4−1−3)薬物処理
上記(4−1−2)にて2組の検体を取り分けた後の残りの細胞懸濁液に、約7mL+αの容量のRPMI1640(10% ウシ胎児血清、1% Penicilin、Streptomycin添加)を加え、ボルテックスしたのち、6-well平底ポリスチレンプレートに約2mL分注し、実施例1の濃度と同様に、イマチニブ600nM(IC50)、同5μM(Cmax)、ニロチニブ30nM(IC50)、同3μM(Cmax)となるようにイマチニブ或いはニロチニブを加えた。短時間シェーカーで混合した後、5%CO
2インキュベーター内で培養した。
【0202】
(4−1−4)T=6hでのハーベストとPMA処理、DNA抽出
実施例2に記載した方法により、T=6h以降は全検体をPMA処理及びクロスリンキングし、その後ゲノムDNAを抽出した。
【0203】
(4−1−5)T=12hでのハーベストとPMA処理、DNA抽出
実施例2に記載した方法によりPMA処理、DNA抽出を行った。これにより、供試したAC1検体につきゲノムDNAが10サンプル、すなわち14検体から140サンプル調製された。
【0204】
(4−1−6)DNA濃度測定、Working solutionの調製、リアルタイムPCR法及びPMA-HTLV-1 viability PCRの指標の計算方法
本実施例において、DNA濃度測定、Working solutionの調製、リアルタイムPCR法及びPMA-HTLV-1 viability PCRの指標の計算方法については、実施例2に記載した方法を適用した。
【0205】
(4−1−7)検定
各薬物及び濃度でまとめ、上記指標を時系列(T=0h、6h及び12h)、薬物毎の濃度間、濃度(IC50及びCrnax)毎の薬物間などで対応のあるt検定(Paired t-test)で検定を行った。すべてサンプルはN=14で検討した。
【0206】
(4−2)アッセイ結果
PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1阻害薬のアッセイの結果として、ABL1阻害薬処理による生細胞中pXコピー減少率(pXdecrease rate(%))を算出し、結果を表5にまとめた。
【表5】
【0207】
表5に示したように、実施例2に示したHAM由来CD4+T細胞-PBMCの場合に比べるとやや成績は劣るものの、AC由来CD4+T細胞-PBMCでも、イマチニブ及びニロチニブともIC50濃度12h処理でそれぞれ約45%及び71%と未処理時に比べ大幅に生細胞中ウイルスコピー数を減少させる効果があることが証明できた。
【0208】
(4−3)考察
以下、ΔCτ
Drugによる検討、生細胞中pXコピー数減少率(%)による検討は、同等なので、簡単のため後者の生細胞中pXコピー数減少率(%)のみ用いて考察した。統計学的検討は時系列での比較はPaired t-test、濃度間及び薬剤間比較はMann-Whitney U testを用い、†:P<0.05、*:P<0.01で有意を示した。
【0209】
(4−3−1)時系列での検討(
図29)
結果を
図29に示した。
図29においてAはイマチニブ(600nM、5μM)、Bはニロチニブ(30nM、3μM)について経時的変化を検討した結果を示している。
図29に示すように、イマチニブ及びニロチニブとも、T=0hと6h及び12hとの間でいずれも危険率1%未満で有意差を認めた。イマチニブ600nM(IC50)では6hと12hとの間でも危険率1%未満で有意差を認めた。イマチニブの効果による生細胞中ウイルス減少効果の出現が6h時点でやや低いためと考えられるが、この現象がAC由来検体に特異的かどうかは更なる解析が必要である。なお、AC由来検体であっても12h後には十分な効果が出現している。
【0210】
(4−3−2)濃度間での検討(
図30)
同一薬剤及び同時点で濃度による効果の差があるかどうかを検討した。結果を
図30に示した。
図30はイマチニブを600nMと5μMで使用したときの結果である。
図30に示したように、イマチニブの600nMと5μMの間では6hの時点において危険率1%未満で有意差を認め、5μMで使用した場合の方が600nMで使用した場合と比べて、生細胞中ウイルス減少率が高かった。たたし、
図30に示したように、12hの時点では濃度間の有意差なかった。データを示さないが、ニロチニブでは濃度間の差は6h及び12hともなかった。
【0211】
(4−3−3)薬剤間での検討(
図31)
結果を
図31に示した。
図31においてAはIC50濃度でのイマチニブ(600nM)及びニロチニブ(30nM)間を比較した結果を示し、BはCmax濃度でのイマチニブ(5μM)及びニロチニブ(3μM)間を比較した結果を示している。
図31に示すように、イマチニブ600nM及びニロチニブ30nMは、6hの時点では危険率1%未満で有意差がみられ、12hの時点でもP値0.059といずれの時点でも、イマチニブと比べてABL特異性がより高いニロチニブを使用したほうが生細胞中ウイルス減少率が高かった。この傾向はHAM由来CD4+T細胞を使用した場合と同様であった。なお、Cmax濃度での両者はBに示したように有意差はなかった。
【0212】
(4−3−4)HAM由来CD4+T細胞への効果とAC由来CD4+T細胞への効果の比較(
図32)
実施例2で行ったHAM由来CD4+T細胞-PBMCに対するPMA-HTLV-1 Viability PCRによるABL1阻害薬のアッセイの結果と、本実施例で行ったAC由来CD4+T細胞-PBMCに対する同アッセイの結果とを比較した結果を
図32に示した。
図32に示すグラフにおいて、6h及び12hの各区には、左から順にイマチニブ600nMの結果、イマチニブ5μMの結果、ニロチニブ30nMの結果及びニロチニブ3μMの結果を棒グラフとして示している。
【0213】
図32に示すように、同一時点、同一薬、同一濃度では、HAM由来CD4+T細胞に対する生細胞中HTLV-1 pXコピー数減少率が、AC由来CD4+T細胞に対する同減少率と比較して大きい傾向であった。HAMの病態機序でABL1発現亢進に基礎をおく治療薬なので、ACではHAMほど高発現ではないこととHAMほど減少率が得られないことが関連していると推測される。
しかし6hと12hとで有意に低下するなど観察した12h後まで有意な減少が継続した。ACでは12h後は未処理時(T=0h)とは有意差があり6hとは有意差がなかったが、減少傾向は継続し、ニロチニブ30nMで最大71.38%とHAMに匹敵する減少率がみられた。
【0214】
以上のように本実施例の結果と上述した実施例3の結果を併せて考えると、イマチニブやニロチニブ等のABL1阻害薬は、AC由来CD4+T細胞における生細胞中HTLV-1ウイルスのコピー数を減少させる効果があることが証明された。
【0215】
〔実施例5〕
〔ヒトにおける投与例〕
HTLV-1感染動物モデルは、成人T細胞白血病(ATL)様動物腫瘍モデルに比べて、これまでのところ良いモデルが樹立されていない。HAM動物モデルはさらに困難な状況である。したがって、in vivoの系において、ABL1阻害薬によるHAM改善効果や抗ウイルス効果を検証することが困難である。
【0216】
一方、ABL1阻害薬は、慢性骨髄性白血病(Chronic myelogenous leukemia: CML)慢性期に対する臨床応用が確立した薬剤である。現在、ABL1阻害薬は、日本において当該臨床応用について保険適応となっている医薬品である。CMLは人口10万人当たり有病率1人とされる比較的まれな疾患であり、日本の抗HTLV-1抗体陽性率0.1%を考慮すると、抗体陽性CMLの症例は年間10症例程度が出現するはずである。
【0217】
そこで、ヒトのCML患者で抗HTLV-1抗体陽性が判明し、且つ、ABL1阻害薬投与前後でPVL測定を行った症例を検索し、ABL1阻害薬投与の後にPVLの低下がみられたかどうかを検索した。その結果、1例の抗HTLV-1抗体陽性であるCML患者を発見した。当該症例は、52歳時にHAMを発症し杖歩行していた。ステロイド、IFN-αなどHAMに対する治療は行われていなかった。当該症例は、8年後、60歳時にさらにCMLを発症した。このとき、白血球27,430/μLと増多、NAPスコア低値、フィラデルフィア染色体陽性にてCMLを確定診断された。イマチニブ400mg/日内服開始し、1か月後に白血球減少のため300mg/日に減量したが現在(2017年7月)も内服継続し、CMLは分子遺伝学的寛解となっている。
【0218】
イマチニブ400mg/日で運動機能障害度5が4となり、300mg/日へ減量後も5のままで維持され、それ以上の悪化を認めていない。当該症例について、末梢血PVLは、投薬前において2844コピーであり、投薬5か月後1138コピーに減少し、投薬1年5か月後448コピー/10
4PBMCと明らかなPVL低下が認められた。
【0219】
本実施例では、抗HTLV-1抗体陽性であるCML患者で、ABL1阻害薬投与のHTLV-1に対する臨床応用例を示すことができた。ABL1阻害薬の効果と考えられる明らかなPVL低下効果を実際の臨床において示すことができ、また、ABL1阻害薬による重篤な副作用や予期せぬ神経学的増悪は出現せず、内服継続可能であったという貴重な知見が得られた。
【0220】
以上、本実施例で示したように、現状では利用が困難なHTLV-1感染動物モデルの代わりに、ABL1阻害薬の臨床応用例として抗HTLV-1抗体陽性のCML患者を挙げることで、ABL1阻害薬のHTLV-1に対する治療効果を臨床的にも示唆することができた。
【0221】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。