特許第6923310号(P6923310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6923310
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】車両用ランプの点灯制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/04 20060101AFI20210805BHJP
   B60Q 11/00 20060101ALI20210805BHJP
   B60Q 1/00 20060101ALI20210805BHJP
   B60Q 1/14 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   B60Q1/04 E
   B60Q11/00 610B
   B60Q11/00 650G
   B60Q1/00 G
   B60Q1/14 D
   B60Q11/00 620Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-230769(P2016-230769)
(22)【出願日】2016年11月29日
(65)【公開番号】特開2018-86913(P2018-86913A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】和間 健典
(72)【発明者】
【氏名】眞野 光治
(72)【発明者】
【氏名】難波 高範
【審査官】 河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−094127(JP,A)
【文献】 特開2014−019347(JP,A)
【文献】 特開2004−168209(JP,A)
【文献】 特開2010−184540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/00
B60Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された複数のランプを備え、各ランプは所要領域を照明するランプユニットと、少なくとも当該所要領域を撮像する撮像手段と、前記撮像手段で撮像した画像に基づいて前記ランプユニットを点灯制御するランプ制御手段とを備え、前記複数のランプはそれぞれ独立して前記ランプユニットの点灯制御を行うことが可能であり、
前記複数のランプのうち一つのランプが異常のときに、他のランプのランプ制御手段により、前記複数のランプの正常な少なくとも一つのランプユニットを点灯制御するように構成され、
前記異常なランプのランプ制御手段、又は前記正常なランプのランプ制御手段は、正常なランプの撮像手段で撮像した画像に基づいて前記異常なランプのランプユニットの点灯制御を行うことを特徴とする車両用ランプの点灯制御装置。
【請求項2】
前記ランプは、少なくとも自身のランプのランプユニット、撮像手段、ランプ制御手段の異常を検出する監視手段を備える請求項1に記載の車両用ランプの点灯制御装置。
【請求項3】
前記監視手段には、検出した異常を乗員に対して表示する異常表示手段が接続されている請求項2に記載の車両用ランプの点灯制御装置。
【請求項4】
前記複数のランプの各ランプ制御手段に車両制御手段が接続されており、前記車両制御手段は各ランプの監視手段の検出出力に基づいて前記各ランプ制御手段を制御する請求項2又は3に記載の車両用ランプの点灯制御装置。
【請求項5】
自動車に搭載された2つのヘッドランプを備え、それぞれ自動車の前方領域を照明するランプユニットと、当該前方領域を撮像するカメラと、前記カメラで撮像した画像に基づいて前記ランプユニットの配光を制御するランプ電子制御ユニットを備えており、一方のヘッドランプが異常のときに、他方のヘッドランプのランプ電子制御ユニットにより前記2つのヘッドランプの正常な少なくとも一つのランプユニットを点灯制御するように構成され、前記他方のヘッドランプのランプ電子制御ユニットは、当該他方のヘッドランプのカメラで撮像した画像に基づいて異常なランプユニットの点灯制御を行うことを特徴とする車両用ランプの点灯制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ランプの点灯状態を制御する装置に関し、特に車両の左右に設けられた一対のヘッドランプの配光を制御する装置として好適な車両用ランプの点灯制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、自動運転制御やヘッドランプの自動配光制御を実現するために、自動車にカメラ(撮像装置)を配設し、このカメラで自動車の前方領域で撮像し、撮像した画像を解析して前方領域に存在する対向車や先行車等の他車両を検出することが提案されている。例えば、自動車のヘッドランプ(前照灯)の配光を制御する技術として、ADB(Adaptive Driving Beam)配光制御が提案されている。このADB配光制御は、カメラで撮像した画像から検出した対向車や先行車等の他車両を眩惑することがないようにヘッドランプのハイビーム配光の配光パターンの一部を制御する技術である。
【0003】
自動車の前方領域を撮像することを考えれば、カメラは自動車のフロントウインドウの内側の高い位置に配設することが好ましいが、ADB配光制御に適用した場合には、ヘッドランプのランプ光軸と、カメラの撮像光軸との位置変位が大きくなり、高精度のADB配光制御を実現することが難しくなる。そのため、特許文献1では、左右のヘッドランプのうち、一方のヘッドランプのランプハウジング内にカメラを内装した技術が提案されている。
【0004】
特許文献1によれば、カメラ光軸がランプ光軸に近接されるため、カメラで撮像した画像から検出される他車両の方向、すなわち自車両から他車両を見たときの角度が、ヘッドランプから照射される光の角度に一致ないしほぼ一致することになり、ヘッドランプにおけるADB配光制御を容易かつ高精度に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−147138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は、カメラを内装した一方のヘッドランプにおいてADB配光制御を行う構成である。そのため、カメラに異常が生じたとき、あるいはカメラを内装している一方のヘッドランプに異常が生じたときには、高精度のADB配光制御が実行できなくなる。また、カメラに異常が生じていなくても、ヘッドランプにおける汚れや傷等によって撮像した画像が不鮮明なものになり、他車両を正確に検出することができなくなり、高精度のADB配光制御が難しくなる。
【0007】
本発明の目的は、ランプやカメラに異常が生じたときにもランプにおける適正な点灯制御を確保することを可能にした車両用ランプの点灯制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両に搭載された複数のランプで構成されており、各ランプは所要領域を照明するランプユニットと、少なくとも当該所要領域を撮像する撮像手段と、この撮像手段で撮像した画像に基づいて前記ランプユニットを点灯制御するランプ制御手段とを備え、複数のランプはそれぞれ独立してランプユニットを点灯制御することを特徴とする。ここで、複数のランプのうち一つのランプが異常のときに、他のランプのランプ制御手段により、前記複数のランプの正常な少なくとも一つのランプユニットを点灯制御する。さらに、異常なランプのランプ制御手段、又は正常なランプのランプ制御手段は、正常なランプの撮像手段で撮像した画像に基づいて当該異常なランプのランプユニットの点灯制御を行う構成とする。
【0009】
前記各ランプは、少なくとも自身のランプのランプユニット、撮像手段、ランプ制御手段の異常を検出する監視手段を備える。この、監視手段には、検出した異常を乗員に対して表示する異常表示手段が接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正常時には複数のランプはそれぞれのランプ制御手段により独立してランプユニットの点灯が制御される。いずれかのランプにおいて異常が生じたときには、正常なランプのランプ制御手段により、正常なランプユニットの点灯を制御することが可能になり、高精度な配光での点灯制御が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用した自動車の正面図。
図2図1の右ヘッドランプのII−II線に沿った拡大断面図。
図3】左右ヘッドランプを含む点灯制御装置のブロック構成図。
図4】メインランプユニットの配光を説明する模式図。
図5】実施形態における点灯制御の基本フロー図。
図6】撮像した画像での他車両検出の異常を説明する模式図。
図7】他車両検出の異常の形態と、その表示、対応、点灯制御を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明を自動車のヘッドランプに適用した実施形態の正面図であり、自動車CARの車体BDの左右前部に左ヘッドランプL−HLと右ヘッドランプR−HLが取り付けられている。これら左右の各ヘッドランプL−HL,R−HLは左右対称の構成であるので、以降は右ヘッドランプR−HLで代表して説明する。
【0013】
前記右ヘッドランプR−HLは、ランプハウジング1内にメインランプユニット2とサブランプユニット3が配設され、さらに撮像手段としてのカメラ4が配設されている。ここでは、ランプハウジング1内の車幅方向の外側位置にメインランプユニット2が配設され、その内側にサブランプユニット3が配設され、さらにその内側にカメラ4が配設されている。
【0014】
図2は前記右ヘッドランプR−HLの水平方向の断面図であり、図1のII−II線に沿った拡大断面図である。前記ランプハウジング1は、前面領域が開口された容器状をしたランプボディ11と、このランプボディ11の当該開口を覆うように固定された透光カバー12とで構成されている。この透光カバー12は、透明な無色の樹脂によって所要形状に湾曲された板状に形成されており、前記メイン及びサブの各ランプユニット2,3から出射した光を透光して自動車の前方領域を照射させる。さらに、前記カメラ4は透光カバー12を透して自動車の前方領域を撮像することが可能とされている。
【0015】
前記ランプハウジング1内にはエクステンション13が配設されており、このエクステンション13によって当該ランプハウジング1の内部が図2の左側から順次メインランプ部、サブランプ部、カメラ部の各領域が画成されている。このエクステンション13は表面にアルミニウム塗装あるいはアルミニウムめっきが施され、疑似リフレクタとして構成されている。
【0016】
前記メインランプユニット2は、複数個の白色LED(発光ダイオード)21を光源とし、これら白色LED21で発光した白色光をリフレクタ22で反射し、この反射光を投影レンズ23により自動車の前方に投影して照明を行うプロジェクタ型のランプユニットとして構成されている。後述するように、複数の白色LED21を選択して発光させることにより、メインランプユニットの配光をハイビーム配光とロービーム配光に切り替えて制御することが可能とされている。さらに、同様にしてハイビーム配光の配光パターンの一部領域を選択的に照明しなくするADB配光での制御も可能とされている。
【0017】
前記サブランプユニット3は、ここではクリアランスランプとして構成されている。このクリアランスランプ3は、白色LED31を光源とし、この白色LED31で発光した白色光をリフレクタ32で反射し、このリフレクタ32の前側に配置されたインナーレンズ33によって自動車の前に所要の配光パターンで照明するリフレクタ型のランプユニットとして構成されている。
【0018】
前記カメラ4は、CCD撮像素子やCMOS撮像素子を備えるカメラとして構成されている。このカメラ4は前記エクステンション13の後面側に配設されており、ヘッドランプR−HLの前方から透光カバー12を透して見たときに、外部からは観察できないようにされている。カメラ4のレンズ鏡筒41はエクステンション13に設けた開口窓131に臨む位置に配置されており、この開口窓131を透して自動車の前方領域を撮像することが可能である。
【0019】
さらに、前記ランプハウジング1内には、前記エクステンション13によって外部に露見されない位置にランプECU(ランプ電子制御ユニット)5が配設されている。これによりランプの意匠性が保持される。このランプECU5は、後述するように前記メインランプユニット2、サブランプユニット3、カメラ4にそれぞれ電気的に接続されており、特にカメラ4で撮像した画像に基づいてメインランプユニット2及びサブランプユニット3の点灯状態をADB配光制御するようになっている。
【0020】
図3は前記左右のヘッドランプL−HL,R−HLのブロック構成図である。なお、左ヘッドランプL−HLについては、一部の構成を簡略図示している。前記ランプECU5は、メインランプ制御部51、サブランプ制御部52、カメラ制御部53、監視部54を備えている。メインランプ制御部51はメインランプユニット2の点消灯制御と、ハイビーム/ロービームの配光制御と、ADB配光制御を実行する。サブランプ制御部52は、サブランプユニット3の点消灯を制御する。
【0021】
前記カメラ制御部53は、カメラ4で撮像して得られた画像を解析して自動車の前方に存在する他車両、すなわち対向車と先行車を検出する他車両検出部531を備えている。また、当該カメラ制御部53は、カメラ4での撮像に係わる制御、例えば撮像タイミングの制御や撮像した画像の取込動作等を制御する。
【0022】
前記メインランプ制御部51は、検出された他車両に対応した適切な配光を設定するための配光設定部511と、設定された配光に基づいて後述するようにメインランプユニット2の複数の白色LED21の点消灯を制御する点灯制御部512を備えている。
【0023】
前記監視部54はそれぞれのヘッドランプを監視し、異常を検出したときに異常信号を出力する。この監視部54は自身を含むランプECU5の異常を検出することも可能であり、すなわちメインランプ制御部51、サブランプ制御部52、カメラ制御部53での異常を検出する。メインランプ制御部51とサブランプ制御部52の監視については、メインランプユニット2とサブランプユニット3が正常に点灯されない状態を異常として検出する。また、その場合に異常の原因を検出する。
【0024】
カメラ制御部53についての監視については、カメラ4の異常と、撮像した画像における異常を検出する。前者はカメラ4において正常な撮像が行われない状態を異常として検出する。後者はカメラ4で撮像してカメラ制御部53で取得された画像を解析し、他車両を正確に検出できない状態であることを異常として検出する。例えば、撮像した画像から透光カバー12の外面に生じた付着物や傷を検出したときに、これらの付着物や傷により他車両が正常に検出されない状態である。その上で、前記監視部54は、これらの異常を検出したときに異常信号を出力する。
【0025】
前記した右ヘッドランプR−HLと左ヘッドランプL−HLは、図3のようにバスラインBLを介して自動車CARに設けられて当該自動車CARの走行に係わる総合的な制御を行うための車両ECU(車両電子制御ユニット)6に接続されている。すなわち、左右の各ヘッドランプL−HL,R−HLのランプECU5はそれぞれバスラインBLに接続され、また前記車両ECU6もバスラインBLに接続され、このバスラインBLを介してランプECU5と車両ECU6との間で相互に信号を入出力する構成とされている。このバスラインBLとしては、自動車に装備されているCAN(Controller Area Network)あるいはLIN(Local Interconnect Network)を利用することができる。
【0026】
また、自動車CARの車室内には、乗員に各種情報を報知するためのモニター7が配置されており、このモニター7は前記バスラインBLに接続されている。このモニター7は、ヘッドランプに異常が生じたときに異常を表示し、さらに乗員に対して異常を解消し、あるいは異常に対処するための対応を報知するようになっている。このモニター7はナビゲーション装置の表示パネルで構成されてもよい。さらに、前記バスラインBLには、イグニッションスイッチ8とランプスイッチ9が接続されている。イグニッションスイッチ8がオンされたときに車両ECU6が駆動される。また、ランプスイッチ9がオンされたときに左右のヘッドランプL−HL,R−HLが点灯され、かつその点灯制御が実行される。
【0027】
以上の構成によれば、左右の各ヘッドランプL−HL,R−HL(以下、両ヘッドランプを総称してヘッドランプと称することがある)においては、ランプスイッチ9がオンされるとヘッドランプが点灯するとともに、それぞれのランプECU5によりランプユニット2,3が点灯され、同時に監視部54において自身のヘッドランプを監視する。異常が検出されないときには、ランプECU5のメインランプ制御部51とサブランプ制御部52がそれぞれメインランプユニット2とサブランプユニット3の点灯を制御する。
【0028】
図4に示すように、メインランプユニット2の光源を構成している複数の白色LED21は4個の第1列LED21aと、6個の第2列のLED21bの2列に配列されている。各白色LED21(21a,21b)の光が投影レンズ23により投影される照明領域は、図4の上部の配光パターンにおける各枡目領域に対応している。メインランプ制御部51によるメインランプユニット2の点灯制御においては、ランプECU5の点灯制御部512において第1列LED21aを発光したときには、図4に点描したロービーム配光が得られる。また、第1列と第2列LED21a,21bを発光したときには図4の点描画とチェック描画した照明領域を含めたハイビーム配光が得られる。
【0029】
ADB配光制御においては、カメラ4で撮像した画像に基づいて他車両検出部531において他車両を検出する。他車両を検出したときには、点灯制御部512は全白色LED21(21a,21b)のうち、当該他車両に対応する白色LEDを除く他の白色LEDを選択的に発光する。図4の例では、対向車CAR1に対しては領域POに対応する白色LEDを消灯し、他の白色LEDを発光する。先行車CAR2に対しては領域PBに対応する白色LEDを消灯し、他の白色LEDを発光する。これにより、これら他車両CAR1,CAR2を眩惑することがなく自車両の前方領域を可及的に明るく照明するADB配光が得られる。
【0030】
これらの点灯制御は、左右のヘッドランプL−HL,R−HLにおいてそれぞれ独立して行われる。すなわち、左右のヘッドランプL−HL,R−HLのカメラ4は略同じ画像を撮像することになるので、左右のヘッドランプL−HL,R−HLにおける点灯制御も基本的には同じ制御となる。特に、各ヘッドランプL−HL,R−HLにおいてそれぞれ独立してADB配光制御を実行することにより、仮に一方のヘッドランプにおけるADB配光制御の精度が低下されているような場合、あるいは一方のヘッドランプにおけるADB配光制御が実行不能になった場合でも、他方のヘッドランプによって車両全体のADB配光制御を確保することが可能になる。
【0031】
また、この実施形態では、複数のヘッドランプのうち一つのヘッドランプが異常のときに、他のヘッドランプのランプECUにより正常なランプユニット2,3を点灯制御する。すなわち、左右のヘッドランプL−HL,R−HLのうち、一方のヘッドランプのランプユニット2,3、カメラ4、ランプECU5のいずれかが異常のときに、車両ECU6、あるいは他方のヘッドランプのランプECU5により、異常なヘッドランプあるいは正常なヘッドランプを含めて、正常なランプユニットの少なくとも一つを点灯制御する。この点灯制御の一例を次に説明する。
【0032】
図5は実施形態における点灯制御の基本的なフローチャートである。各ヘッドランプにおいては、ランプECU5の監視部54が自身のヘッドランプの異常を監視する(S11)。異常を検出すると、その異常の箇所を検出し、その検出信号をバスラインBLに出力する(S12)。ここでは、異常として次の(a)〜(c)の異常形態を判別している。
(a)メインとサブのランプユニット異常
(b)ランプECUの異常
(c)カメラの異常
【0033】
ここで、異常形態(a)の場合には、次の異常形態(a1),(a2)を判別している(S13)。
(a1)メインランプユニット、サブランプユニット自体の異常
(a2)ランプECUと各ランプユニットの接続異常(断線)
【0034】
異常形態(c)の場合には、次の異常形態(c1),(c2)を判別している(S14)。
(c1)カメラでの撮像異常
(c2)他車両の検出異常
さらに、異常形態(c1)の場合には、次の異常形態(c1−1),(c1−2)を判別している(S15)。
(c1−1)カメラ自体の異常
(c1−2)カメラとランプECUの接続異常(断線)
【0035】
車両ECU6は、監視部54において検出したこれら異常形態(a)〜(c)の検出信号をバスラインBLを通して取得すると、モニター7に異常を表示する(S16)。このとき、異常形態についても報知するとともに、この異常を解消するため、あるいは異常に対処するための好ましい対応を合せて報知する。
【0036】
これと同時に、車両ECU6あるいはランプECU5は、異常が生じているヘッドランプ(以下、異常ヘッドランプと称する)に対してフェイルセーフとしての点灯制御FSを実行する(S17)。このステップS17における点灯制御FSは異常の形態の違いによりFS−a〜FS−cであり、以下各別に説明する。
【0037】
(a)メインとサブのランプユニットの点灯異常
(a1)メインランプユニット又はサブランプユニット自体の異常
この異常形態は、光源としての白色LED21が破損する等してランプユニット2,3が全く点灯しない形態であり、ランプユニット2,3を修理又は交換しない限り復旧できない。車両ECU6はモニター7に異常ヘッドランプ及び異常のランプユニットを表示するとともに、当該ヘッドランプないしランプユニットを修理又は交換する必要があることを報知する。
【0038】
これと同時に、車両ECU6は点灯制御FS−a1を実行する。すなわち、異常ヘッドランプにおいて、メインランプユニット2とサブランプユニット3のうちいずれか一方が正常なときには、正常なランプユニットを点灯させる。このとき、メインランプユニット2が正常であれば、ランプECU5により通常のロービーム配光、ハイビーム配光、ADB配光の各制御を実行する。メインランプユニット2が異常のときには、サブランプユニット3のみを点灯制御する。
【0039】
両ランプユニット2,3が全く点灯しないとき、あるいはサブランプユニット3のみが正常のときには、車両ECU6は他方のヘッドランプが正常であることを確認すると、正常なヘッドランプ(以下、正常ヘッドランプと称する)のランプECU5において正常ヘッドランプの光量を増光させる。これにより自動車全体のヘッドランプの光量低下を補填し、安全性を高めるようにする。例えば、正常ヘッドランプにおいてメインランプユニット2が点灯しているがサブランプユニット3が消灯しているときには、サブランプユニット3を点灯する。また、メインランプユニット2がロービーム配光で点灯しているときにはハイビーム配光制御又はADB配光制御を実行する。
【0040】
(a2)ランプユニットとランプECUの接続異常(断線)
この異常形態は、ランプユニット2,3とランプECU5を接続する配線が断線したような形態であり、これらランプユニット2,3とランプECU5の接続を修理しない限り復旧できない。車両ECU6はモニター7に異常ヘッドランプの接続部位が異常であることを表示するとともに、当該部位を修理する必要があることを報知する。
【0041】
これと同時に車両用ECU6は点灯制御FS−a2を実行する。例えば、異常ヘッドランプにおいてメインランプユニット2とサブランプユニット3のいずれか一方の接続が正常である場合には、メインランプユニット2とサブランプユニット3のうち、正常に接続されているランプユニットを点灯させる。
【0042】
両ランプユニット2,3の接続が共に異常のときには、異常形態(a1)の場合と同様に、車両ECU6は正常ヘッドランプのランプECU5により正常ヘッドランプの光量を増量して自動車全体のヘッドランプの光量低下を補填する。
【0043】
(b)ランプECUの異常
この異常形態は、ランプECU5を構成している各部51〜53のいずれかあるいは全体に障害が生じている形態であり、これら各部やランプECU5の全体を修理または交換する必要がある形態である。車両ECU6はモニター7に異常ヘッドランプとそのランプECU5が異常であることを表示するとともに、当該ランプECU5を修理又は交換する必要があることを報知する。
【0044】
また、車両ECUは点灯制御FS−bを実行する。すなわち、異常なランプECU5の異常形態を精査し、メインランプ制御部51又はサブランプ制御部52のいずれかが正常である場合には、正常なランプ制御部51又は52によりメインランプユニット2又はサブランプユニット3を点灯する。ここで、メインランプ制御部51が異常の場合には、メインランプユニット2がハイビーム配光でフリーズしてしまうことを回避するために、メインランプユニット2は消灯する。あるいは、可能な場合にはロービーム配光に固定する点灯制御を実行する。
【0045】
異常のランプECU5においてメインランプ制御部51とサブランプ制御部52が両方とも異常の場合には、車両ECU6は正常ヘッドランプのランプECU5から出力される点灯制御信号をバスラインBLを介して異常ヘッドランプに出力する。これにより、異常ヘッドランプのメインランプユニット2とサブランプユニット3は、入力された正常ヘッドランプのランプECU5からの点灯制御信号によって点灯制御される。
【0046】
例えば、異常ヘッドランプのメインランプユニット2は、正常ランプECU5のメインランプ制御部51から出力される点灯制御信号により点灯が制御される。異常ヘッドランプのサブランプユニット3は、正常ヘッドランプのランプECU5のサブランプ制御部52から出力される点灯制御信号により点灯が制御される。
【0047】
ここで、メインランプ制御部51が正常であるがカメラ制御部53に異常が生じているときには、点灯制御FS−bとして、後述する異常形態(c)の他車両が検出できない異常形態(c2)と同じ点灯制御FS−c2を実行することになるので、ここでの説明は省略する。
【0048】
以上において、点灯制御FS−a1とFS−bを行うことが難しい場合には、車両ECU6は異常ヘッドランプのメインランプユニット2を強制的にロービーム配光に制御するようにしてもよい。あるいはサブランプユニット3を強制的に点灯する制御を行ってもよい。
【0049】
(c1)カメラでの撮像異常
(c1−1)カメラ自体の異常
この異常形態は、カメラ4から撮像した画像(画像信号)が出力されない形態である。この場合にはカメラ4を修理あるいは交換しない限り復旧できない。車両ECU6はモニター7に異常ヘッドランプのカメラ4の異常を表示するとともに、当該カメラ4を修理又は交換する必要があることを報知する。
【0050】
この異常形態においては、車両ECU6の点灯制御FS−c1−1は、正常ヘッドランプのカメラ4で撮像されてランプECU5のカメラ制御部53から出力される画像を、バスラインBLを介して異常ヘッドランプのランプECU5に出力する。異常ヘッドランプのランプECU5はメインランプ制御部51によりメインランプユニット2点灯制御するこの場合に、正常ヘッドランプのランプECU5のメインランプ制御部53から出力される点灯制御信号は、車両ECU6を介することなくバスラインBLから直接異常ヘッドランプのメインランプ制御部51に出力して点灯制御するようにしてもよい。
【0051】
(c1−2)カメラとランプECUの接続異常
この異常形態は、カメラ4とランプECU5を接続する配線が断線したような形態であり、これらカメラ4とランプECU5の接続を修理しない限り復旧できない。車両ECU6はモニター7に異常ヘッドランプとその異常部位を表示するとともに、その接続を修理する必要があることを報知する。
【0052】
車両ECU6は、前記点灯制御FS−c1−1と同様な点灯制御FS−c1−2を実行する。すなわち、正常ヘッドランプのカメラ4で撮像されてランプECU5のカメラ制御部53から出力される画像を、バスラインBLを介して異常ヘッドランプのランプECU5に出力する。これにより、異常ヘッドランプのランプECU5はメインランプ制御部53によりメインランプユニット2を点灯制御する。
【0053】
(c2)他車両の検出異常
この異常形態は、カメラ4が正常で撮像は可能であり、カメラECU5も正常で、撮像した画像をカメラ制御部53から出力できるが、カメラ制御部53の他車両検出部531において、画像から他車両を高い精度で検出できない場合である。この異常の原因は、カメラ4が内装されているランプハウジング1の透光カバー12の外面(表面)に付着物や傷が存在しており、これら付着物や傷によって撮像した画像を画像解析しても他車両を検出することが困難になることである。
【0054】
すなわち、図2に示したように、カメラ4においては、透光カバー12を透して自動車の前方領域を撮像する。このとき、透光カバー12の外面の一部領域、特にカメラ4の撮像画角の範囲、すなわち撮像領域に付着物や傷が存在していると、撮像した画像には付着物や傷の画像が写し込まれることになる。例えば、図6(a)のように、透光カバー12の撮像領域CA内に付着物X1と傷X2が存在していると、カメラ4で撮像した画像には、図6(b)のように、付着物X1と傷X2の画像、あるいはこれらのぼやけた画像が写し込まれる。そのため、撮像された画像中に存在する他車両CAR1,CAR2に、これら付着物X1と傷X2の画像が重なると、画像解析による他車両の検出精度が低下され、結果として配光制御の精度も低下してしまう。
【0055】
ここで、付着物の形態としては、大きく分けると、(p)水滴と、(q)泥や虫等、である。前者の水滴は、透光カバー12の表面に付着した雨等の水滴や、ランプハウジング1内での水蒸気によって透光カバー12の内面に生じた結露による水滴である。一方、傷の形態として、透光カバー12の表面に生じたこすり傷や透光カバー12の一部における割れや破損等があるが、これらは基本的には同じであるので、ここでは、(r)傷等として一つにまとめている。
【0056】
監視部54では、これら付着物や傷等の判別を行うが、例えば図7の表にまとめているように、撮像した画像に基づいて判別する。(p)水滴が付着した場合には、夜間においてホワイトアウト(ハレーション)を起こしている光点が一時的に出現し、継続して短時間(数秒〜数分)だけ同じ位置に停滞していることで判別する。また、(q)泥や虫等が付着した場合には、昼間時には撮像した画像の形状やエッジのぼけ具合で判断する。夜間時は、車両や外乱光の一時的な消失が常に同じ場所で発生することで判別する。
【0057】
一方、(r)傷等の場合は、自動車の走行中に撮像した画像が一定の位置に長い時間にわたって存在しており、しかも他の画像が当該位置にまで移動されたときにその形状が判別できなくなることで判別する。
【0058】
これらの異常形態に対する車両ECU6が行う異常の表示とその対応は、(p)水滴が付着している場合には、モニター7に水滴が付着していることを表示する。この場合、特に対応は報知しなくてもよい。これは、時間の経過によって水滴が除去される可能性が高いためである。表示を見た乗員はモニター7の表示を見て手操作によって水滴を除去してもよい。あるいは、エアクリーナ搭載ヘッドランプの場合には、エアクリーナを手動又は自動で駆動して水滴を除去してもよい。
【0059】
(q)泥や虫等が付着している場合には、車両ECU6はモニター7に泥や虫等が付着していることを表示する。また、これと同時に付着物を除去するように報知する。乗員はモニター7の表示を見て手操作によって透光カバー12の表面を洗浄し、泥や虫等を除去する。
【0060】
(r)傷等の場合には、車両ECU6はモニター7に傷等が生じていること、およびその傷等の位置を表示する。また、これと同時に対象となるヘッドランプを修理あるいは交換する必要があることを報知する。乗員はモニター7の表示を見て透光カバー12に生じている傷等を補修し、あるいは新品と交換する。
【0061】
このように、他車両検出部531において、付着物や傷等によって、撮像した画像から他車両が検出できない異常の場合には、車両ECU6はモニター7に異常を表示すると同時に、好ましい対応を報知することにより、異常状態を改善し、以降は正常なランプ制御が実現できるようになる。この異常状態が改善されない状況では、車両ECU6は点灯制御FS−c2を行う。
【0062】
すなわち、車両ECU6は、異常ヘッドランプについては、そのランプECU5によりメインランプユニット2を強制的にロービーム配光に制御する。これによりハイビーム配光とADB配光制御による他車両への眩惑を防止する。サブランプユニット3については特に制御は行わず、点灯あるいは消灯の正常時の状態を保持する。この制御は、特に、左右両方のヘッドランプの他車両検出部531において他車両が検出できない異常となった場合に実行される。
【0063】
左右いずれか一方のヘッドランプでの他車両検出が異常とされたとき、車両ECU6は正常ヘッドランプのランプECU5からの点灯制御信号、すなわち正常ヘッドランプのカメラ4で撮像された画像から他車両検出部531において他車両が検出され、この他車両に対して適正なハイビーム配光の制御とADB配光制御を行う点灯制御信号が出力されるときには、この点灯制御信号を異常ヘッドランプに出力し、異常ヘッドランプのメインランプユニット2を点灯制御する。これにより、異常ヘッドランプにおいても、好適なメインランプユニット2の点灯制御、特にハイビーム配光の制御とADB配光制御が実現できる。
【0064】
ここで、点灯制御FS−c2の変形形態として、車両ECU6は正常ヘッドランプのカメラ4で撮像された画像をそのまま異常ヘッドランプのランプECU5に出力してもよい。この異常ヘッドランプのランプECU5では、異常ヘッドランプのカメラ4で撮像した画像を、正常ヘッドランプから出力されてきた画像で補間処理を行う。すなわち、他車両を検出することが困難な付着部や傷等が撮像されている部分を、正常ヘッドランプからの画像の当該部分で置換する処理である。そして、この補間処理された画像に基づいて異常ヘッドランプの他車両検出部531において他車両を検出するようにする。これにより、異常ヘッドランプにおいても、自身のランプECU5による点灯制御が可能になる。
【0065】
この画像の補間は、付着物や傷等によって画像が不鮮明になる領域の割合が、全画面の50%以下の場合に有効である。不鮮明の領域がこれ以上の割合のときには、補間の信頼性が低下するので、正常ヘッドランプのランプECU5に基づく点灯制御が好ましい。
【0066】
なお、透光カバーに生じている付着物や傷による異常に対して有効な手法として、透光カバーの表面に保護カバーを配設しておくことが考えられる。例えば、透光カバーの表面に透明な樹脂フィルムを粘着剤により配設する。この樹脂フィルムを設けておくことにより、付着物や傷が生じたときには、樹脂フィルムを剥がして新品の樹脂フィルムを貼り直すことにより、付着物や傷を除去でき、カメラによる他車両の検出の精度を高めることができる。
【0067】
実施形態では、車両ECUにおいて、異常をモニターに表示し、その際の対応を報知し、さらにランプの点灯制御を行うように構成したが、各ランプに設けているランプECUの監視部によってこれら異常の表示、報知、点灯制御を行うように構成してもよい。本発明における異常を表示するモニターは、必ずしも視覚的な表示を行うものに限られるのではなく、音響、振動等によって異常を表出する形態であればよい。これは異常に対する対応の報知も同様であり、音声等による報知であってもよい。
【0068】
本発明における異常の検出は、必ずしもランプECUにおける監視部が自身のランプを監視するのではなく、複数のランプのランプECUはそれぞれの監視部が他のランプの異常を検出するように構成してもよい。
【0069】
本発明における異常に対するフェイルセーフとしの点灯制御は、車両ECUを介して実行するのではなく、正常ランプのランプECUが異常ランプを直接的に点灯制御するように構成してもよい。
【0070】
本発明はヘッドランプに限られるものではなく、点灯状態、特に照明に際しての配光を制御する構成の照明用ランプであれば適用できる。また、ランプ数は3つ以上で構成されてもよく、そのうちの一つのランプが正常であれば、他の異常のランプを点灯制御することができるようになる。
【符号の説明】
【0071】
1 ランプハウジング
2 メインランプユニット
3 サブランプユニット
4 カメラ(撮像手段)
5 ランプECU(ランプ電子制御ユニット)
6 車両ECU(車両電子制御ユニット)
7 モニター
8 イグニッションスイッチ
9 ランプスイッチ
51 メインランプ制御部
52 サブランプ制御部
53 カメラ制御部
54 監視部
511 配光設定部
512 点灯制御部
531 他車両検出部
L−HL,R−HL ヘッドランプ(照明用のランプ)
BL バスライン
CA 画像
X1 付着物
X2 傷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7