(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るフィルタ、画像撮影装置および画像撮影システムの実施形態(以下、本実施形態とする)について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更できる。
【0029】
図1に示すように、本発明を適用した一実施形態の画像撮影装置2は、受光部4を備えて撮像可能なものであれば、特に限定されないが、例えばカメラや撮像用の光学機器等である。受光部4には、複数の画素Pを有する受光素子5が設けられている。本実施形態のマルチスペクトル偏光フィルタアレイ(フィルタ、以下、フィルタアレイとする)6Aは、受光素子5において光が入射する側に設けられている。
【0030】
図1に示すフィルタアレイ6Aは、本発明を適用したフィルタの第一の態様であり、複数の分光偏光セルC1,C2,…,Cnが配列されたものである。複数の分光偏光セルC1,C2,…,Cnはそれぞれ、受光素子5の画素P1,P2,…,Pq(ただし、
図1において、画素P1,P2はフィルタアレイ6Aに隠れている)のそれぞれに対向配置できるように形成されている。受光素子5の全ての画素Pに対してフィルタアレイ6Aが対向可能となるように、複数の分光偏光セルCの数nは、受光素子5の画素Pの数qに応じて適宜設定されている。
図1に示すように、1つの分光偏光セルCに対して1つの画素Pが対向する場合は、n=qである。
【0031】
なお、本明細書では、分光偏光セルCの個数と、分光偏光セルCに関係するパラメータおよび分光偏光セルCに対向し得る構成要素の個数をnとして説明する。また、分光偏光セルCでいえば、1番目の分光偏光セルCをC1、2番目の分光偏光セルCをC2、…と表し、不特定のx,y番目の分光偏光セルCをCx,Cyと表し、分光偏光セルCに関係するパラメータおよび分光偏光セルCに対向し得る構成要素にも同様の表現を援用する。それぞれの分光偏光セルCxは、図示していないが特定の波長帯域Wxおよび偏光の方位φxが割り当てられ、波長帯域Wxの範囲内の波長の光を透過させると共に、配向された方位φxの光を透過させることができる。
【0032】
隣接する分光偏光セルCx,Cyのぞれぞれに割り当てられた波長帯域Wx,Wyの種類は、基本的に互いに異なっている。「基本的に」という意味は、隣接する分光偏光セルCx,Cyが互いに特定の波長帯域Wx,Wyを透過させることができればよいことを示している。例えば、分光偏光セルCxには、400nm以上450nmの波長帯域が割り当てられ、分光偏光セルCyには450nm以上500nm未満の波長帯域が割り当てられている。ただし、後述する偏光の方位φが互いに異なって割り当てられれば、分光偏光セルCx,Cyの両方に450nm以上500nm未満の波長帯域が割り当てられていても構わない。
上述のように、フィルタアレイ6Aは、波長帯域Wx,Wyのそれぞれの範囲内の波長の光を通過させるフィルタを交換することによって通過させる光の波長を変えるのに替えて、フィルタアレイ6Aの板面(すなわち、画像撮影装置2の受光部4の受光面)を空間分割し、複数の波長の分光情報をワンショットで取得可能としたものである。
【0033】
隣接する分光偏光セルCx,Cyのそれぞれに割り当てられた偏光の方位φx,φyの種類も、互いに異なっている。
図2には、紙面の縦方向および横方向(すなわち、フィルタアレイ6Aの行と列の各方向)に隣接する4つの分光偏光セルCに対向する画素Pで受光した光の情報をそれぞれ比較及び演算し、不図示の測定対象物の偏光情報および分光情報を取得する構成例を示している。そのため、例えば4つの分光偏光セルCx,Cx+1,Cy,Cy+1のそれぞれに割り当てられた偏光の方位φx,φx+1,φy,φy+1は、−45°,0°,45°,90°に設定されている。すなわち、フィルタアレイ6Aは、偏光子を回転させることによって通過させる光の方位を変えることに替えて、フィルタアレイ6Aの板面(すなわち、画像撮影装置2の受光面)を空間分割し、複数の方位の偏光情報をワンショットで取得可能としたものでもある。
【0034】
例えば、フィルタアレイ6Aにおいて、波長帯域Wの種類がm個あり、偏光の方位φの種類がk個あり、複数の分光偏光セルCにこれらの何れかの種類が割り当てられる場合、
図2に示す構成例では、m=16,k=4である。別の例として、m=6,k=4(偏光の方位φの種類は、−45°,0°,45°,90°の4種類である)の場合は、
図3に示すように、4種類の方位φの偏光につき、6種類の波長帯域Wのスペクトル情報が得られる。
なお、波長帯域Wの種類の数と、偏光の方位φの種類の数は、一致していてもよく、上述の例のように一致していなくてもよい。何れの場合でも、分光偏光セルCのそれぞれに割り当てられた波長帯域Wの種類と偏光の方位φの種類がわかっていれば、後述する処理方法等を用いることによって、波長帯域Wと偏光の方位φとに基づく分光偏光セルCごとの分光情報および偏光情報が得られる。
【0035】
フィルタアレイ6Aを構成するものは、複数の分光偏光セルCを有し、それぞれの分光偏光セルCに波長帯域Wの種類と偏光の方位φの種類を割り当てることが可能なものであれば、特に限定されない。このようなフィルタアレイ6Aを構成するものとしては、例えば、フォトニック結晶等が挙げられる。
【0036】
フォトニック結晶は、
図4に示すような多層干渉膜からなり、優れた透過率を有するデバイスである。それぞれの分光偏光セルCをフォトニック結晶で構成した場合、分光偏光セルCごとに格子ピッチを変化させることで分光透過特性、すなわち透過波長帯域を変えることができる。言い換えれば、分光偏光セルCを構成するフォトニック結晶の格子ピッチは、分光偏光セルCを透過させる波長帯域Wの種類に合わせて適宜設定されている。
【0037】
また、フォトニック結晶は、格子方向によって偏光特性を制御することが可能なデバイスでもある。言い換えれば、それぞれの分光偏光セルCを構成するフォトニック結晶の格子方向は、分光偏光セルCを透過させる偏光の方位φの種類に合わせて適宜設定されている。
よって、
図4に示すように、石英等からなる基板の上に形成された多層干渉膜において、分光偏光セルCごとに格子方向および間隔を変えることによって、分光偏光セルCごとに透過させる光の分光特性および偏光特性が容易に調整可能となっている。このように、フォトニック結晶が用いられた場合、単一デバイスによるフィルタアレイ6Aが実現される。1つの分光偏光セルCの平面サイズは、例えば5μm×5μmである。多層干渉膜としては、例えば、二酸化ニオブ(Nb
2O
2)と二酸化シリコン(SiO
2)との積層膜が挙げられる。また、格子ピッチは、約300nm以下とされているが、これらの数値は特に限定されない。
【0038】
以上説明した第一の態様のフィルタアレイ6Aによれば、図示しない測定対象物からの光のように、分光情報および偏光情報を含む光が入射した際に、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれにおいて、割り当てられた所定の波長帯域W1,W2,…,Wnの範囲内かつ所定の偏光の方位φ1,φ2,…,φnの光を分光偏光セルCごとに並列で透過させることができる。また、フォトニック結晶を用いることで、波長帯域W1,W2,…,Wnの範囲内であって、かつ所定の偏光の方位φ1,φ2,…,φnの光を単一のデバイスで分光偏光セルCごとに並列で透過させることができる。
【0039】
本発明を適用したフィルタの第二の態様として、フィルタアレイ6Bが挙げられる。フィルタアレイ6Bは、フィルタアレイ6Aの分光偏光セルCに替えて、複数の複合セルc1,c2,…,cnが配列されたものである。複数の複合セルc1,c2,…,cnはそれぞれ、
図1に示すような画像撮影装置2の受光部4の画素P1,P2,…,Pqのそれぞれに対向可能になるように形成されている。
【0040】
フィルタアレイ6Bは、
図5に示すMSFA(分光フィルタアレイ)11と、偏光フィルタアレイ12と、を一体的に備え、具体的にはMSFA11と偏光フィルタアレイ12とを積層したものである。
【0041】
MSFA11では、波長帯域Wの種類が割り当てられた分光セルSC1,SC2,…,SCnが複数配列されている。一方、偏光フィルタアレイ12では、偏光の方位φの種類が割り当てられた偏光セルPC1,PC2,…,PCnが複数配列されている。
すなわち、フィルタアレイ6Bの複合セルc1,c2,…,cnは、分光セルSC1,SC2,…,SCnのそれぞれと、偏光セルPC1,PC2,…,PCnのそれぞれが積層されたものである。なお、透過する光の光学特性に影響を与えないものであれば、MSFA11と偏光フィルタアレイ12との間に介在するものがあっても構わない。
【0042】
ただし、MSFA11と偏光フィルタアレイ12とを重ねる場合の条件として、MSFA11の偏光特性が十分弱いこと、および、偏光フィルタアレイ12の分光特性が測定対象範囲において十分な感度があることが重要である。
【0043】
すなわち、分光セルSC1,SC2,…,SCnが透過させる偏光の方位は、対向配置される偏光セルPC1,PC2,…,PCnが透過させる偏光の方位φ1,φ2,…,φnに少なくとも等しく、偏光の方位φ1,φ2,…,φnを含んでいればよい。一方、偏光セルPC1,PC2,…,PCnが透過させる光の波長帯域は、対向配置される分光セルSC1,SC2,…,SCnが透過させる光の波長帯域W1,W2,…,Wnに少なくとも一致し、波長帯域W1,W2,…,Wnを含んでいればよい。具体的には、
図5に例示するように、偏光セルPCxが透過させる光の波長帯域W´は、少なくとも分光セルSCxが透過させる光の波長帯域Wを含んでいる。また、波長帯域W´の半値幅ω(PCx)は、波長帯域Wの半値幅ω(SCx)以上とされている。
【0044】
上述の条件が満たされることで、分光セルSC1,SC2,…,SCnのそれぞれを透過する光が偏光セルPC1,PC2,…,PCnのそれぞれの分光特性によって遮られることがなく、偏光セルPC1,PC2,…,PCnのそれぞれを透過する光が分光セルSC1,SC2,…,SCnのそれぞれの偏光特性によって遮られることもない。
【0045】
図6には、m=4,k=4のフィルタアレイ6Bの例を示している。MSFA11では、隣接する分光セルSCごとに透過させる波長帯域Wの種類が異なり、4種類のフィルタを用いるのと同様に構成されている。偏光の方位φの種類と構成については、フィルタアレイ6Aで説明したとおりである。
【0046】
MSFA11の感度および配置最適化については、公知の文献(例えば、柳悠大,篠田一馬,長谷川まどか,加藤茂夫,石川雅浩,駒形英樹,小林直樹:「観測波長とフィルタ配置を考慮したマルチスペクトルフィルタアレイの最適化手法」,電子情報通信学会論文誌,Vol.J99-D,No.8,pp.794-804,Aug. 2016等を参照)で提案されている。例示した公知の文献においては、何らかのオリジナルの画像を用意し、シミュレーション上でフィルタアレイによる撮影と画像復元を行うことが開示されている。その際に、MSFA11の分光感度を可能な限り、総当りで画像復元を行い、最も復元精度が高い分光感度を選ぶことでフィルタ設計を行うことも開示されている。
【0047】
MSFA11を構成するものは、複数の分光セルSCを有し、それぞれの分光セルSCに波長帯域Wの種類を割り当てることが可能なものであれば、特に限定されない。このようなMSFA11を構成するものとしては、例えば、染料、顔料色素(以下、単に顔料という場合がある)、合成樹脂、多層干渉膜等が挙げられる。
【0048】
特に、染料は、特定の偏光特性を持たないため、偏光セルPC1,PC2,…,PCnのいずれかを透過した光を遮る可能性が低く、MSFA11に用いるものとして好適である。
現在主流となっているMSFAには主に顔料が用いられているが、顔料には偏光を打ち消す作用(消偏性)がある。そのため、顔料については、上述の条件をふまえ、偏光セルPC1,PC2,…,PCnを透過する光の偏光の方位φの種類を勘案し、粒子の微細化によって消偏性を抑制することで、MSFA11に用いられることが好ましい。
合成樹脂や多層干渉膜についても、上述のように、適用する分光セルSC1,SC2,…,SCnのそれぞれに対向する偏光セルPC1,PC2,…,PCnのそれぞれを透過する方位φ1,φ2,…,φnの偏光を遮らず、透過させるように各種パラメータを設定することが好ましい。
【0049】
偏光フィルタアレイ12の感度および配置最適化については、市販されているものでは、2×2の複合セルで4種類の偏光の方位の情報を取得するフィルタが一般的となっている。特に方位φ=0°での画像とφ=90°での画像とを足すことで、元の光強度が復元できるため、製造上の簡便さと画像復元の簡便さの観点から、実用上は、偏光の方位φは、0°,90°,45°,−45°のように4種類以上確保されていることが好ましい。
【0050】
偏光フィルタアレイ12を構成するものは、複数の偏光セルPCを有し、それぞれの偏光セルPCに偏光の方位φの種類を割り当てることが可能なものであれば、特に限定されない。このような偏光フィルタアレイ12を構成するものとしては、例えば、フォトニック結晶、ワイヤーグリッド構造、合成樹脂、多層干渉膜等が挙げられる。
【0051】
それぞれの偏光セルPCをフォトニック結晶で構成した場合、
図5に示すように、偏光セルPCごとに割り当てられた偏光の方位φの種類に合わせて格子方向を変化させることで、偏光特性を制御することができる。この場合、それぞれの偏光セルPCを構成するフォトニック結晶の格子ピッチは、対向する分光セルSC1,SC2,…,SCnのそれぞれを透過する波長帯域W1,W2,…,Wnの光を少なくとも遮らず、透過させるように、均一に設定されている。
【0052】
ワイヤーグリッド構造は、例えば、溶融石英等からなるガラス基板の間に挟まれ、互いに平行に複数並べられた金属ワイヤーで構成されたデバイスである。ワイヤーグリッド構造は、もともと広い透過波長帯域を有している。例えば、可視域ワイヤーグリッド偏光子であれば、400nmから700nmに対応した反射防止コーティング等が施されることもあり、波長帯域Wの全種類を透過波長帯域として設定することができる。
【0053】
また、ワイヤーグリッド構造は、金属ワイヤーが張られる方向によって偏光特性を制御することが可能なデバイスである。したがって、それぞれの偏光セルPCをワイヤーグリッド構造で構成した場合、金属ワイヤーが張られる方向がそれぞれの偏光セルPCに割り当てられた偏光の方位φに合っている。言い換えれば、偏光セルPCを構成するワイヤーグリッド構造のグリッド方向は、偏光セルPCを透過させる偏光の方位φに合わせて適宜設定されている。
【0054】
以上説明した第二の態様のフィルタアレイ6Bによれば、図示しない測定対象物の情報を含む光が入射した際に、分光セルSC1,SC2,…,SCnのそれぞれにおいて、割り当てられた種類の波長帯域W1,W2,…,Wnの光を並列に一括して透過させることができる。また、分光セルSC1,SC2,…,SCnのそれぞれに対向可能な偏光セルPC1,PC2,…,PCnのそれぞれにおいて、割り当てられた種類の方位φ1,φ2,…,φnの光を並列に一括して透過させることができる。したがって、フィルタアレイ6Bによれば、フィルタアレイ6Aと同様の作用効果が得られる。
【0055】
また、フィルタアレイ6A,6Bを備えた画像撮影装置2によれば、測定対象物の情報を含む光等を受光した際に、複数の画素Pのそれぞれに対向する分光偏光セルCまたは、分光セルSCおよび偏光セルPCに割り当てられた種類の波長帯域Wおよび偏光の方位φにおける測定対象物の光学情報を一括し、ワンショットで取得することができる。例えば、受光素子5のそれぞれの画素Pには、前述の光学情報が反映された光強度が取得される。
【0056】
ここで、フィルタアレイ6Aを備えた画像撮影装置2で撮影された画像と、その画像から各種画像を復元する方法の一例について、説明する。言うまでもなく、フィルタアレイ6Bを備えた画像撮影装置2においても、フィルタアレイ6Aを備えた画像撮影装置2と同様の画像復元方法を適用可能である。
【0057】
例として、
図6に示すように構成されたフィルタアレイ6Aによって撮影した画像を想定する。フィルタアレイ6Aの分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた波長帯域Wの種類は、450nm(
図6に示す「1」、
図7に示すBand1)、550nm(
図6に示す「2」、
図7に示すBand2)、650nm(
図6に示す「3」、
図7に示すBand3)、750nm(
図6に示す「4」、
図7に示すBand4)、の4種類である。一方、フィルタアレイ6Aの分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた偏光の方位φの種類は、−45°(
図6に示す「\」)、0°(
図6に示す「―」)、45°(
図6に示す「/」)、90°(
図6に示す「|」)、の4種類である。
【0058】
図6に示すフィルタアレイ6Aを用いて撮影された画像は、
図7に示す意味をもつ画像となる。例えば、波長帯域Wの種類のうち、450nmについては、太い破線で囲んだ範囲内に図示している4つの分光偏光セルC(紙面左上から右側に数え、次の行に連続する数え方でいえば、分光偏光セルC1,C3,C9,C11)で測定対象物の情報を含む光を受光する。一方、偏光の方位φの種類のうち、0°については、細い破線で囲んだ範囲内に図示している4つの分光偏光セルC(紙面左上から右側に数え、次の行に連続する数え方でいえば、分光偏光セルC1,C7,C10,C16)で測定対象物の情報を含む光を受光する。
【0059】
例示したフィルタアレイ6Aは、
図7に示すように、4種類の波長帯域Wおよび4種類の偏光の方位φに基づく画像を取得することができる。ただし、特定の波長帯域Wの種類と特定の偏光の方位φの種類とが割り当てられた分光偏光セルCは互いに離間しているので、実際に測定対象物からの光を受光すると、特定の波長帯域Wの種類と偏光の方位φの種類とを取得可能な分光偏光セルC以外の画素(
図8に示す白い画素)Pはデータが欠損している。そのため、実用上は復元処理が必要と考えられるが、復元処理には既存の画素補間手法をそのまま適用することができる。このような復元処理として最も簡単な方法として、
図8に示すように、解像度が実質上小さくなるものの、未補間の分光偏光セルCで受光した光強度(すなわち、光学情報)を削除して観測対象の分光偏光セルCのみで受光した光強度をまとめる方法が挙げられる。
【0060】
また、撮影された画像の補完を行う場合には、最近傍補間、内挿補間、最小二乗法等の従来の画素補間方法をそのまま適用することができる。マルチスペクトル画像のための画素補間方法もこれまでいくつか提案されているため、それらの画素補間方法を偏光の方位φの種類が割り当てられた分光偏光セルCでの情報取得に適用することでも補間することができる。
【0061】
さらに、フィルタアレイ6Aを備えた画像撮影装置2で撮影された画像から各種画像を復元する方法の他の例について、説明する。
フィルタアレイへの入射光の列ベクトル表現をx, フィルタアレイの感度行列をΦ,撮影された画像をyとすると,撮影された画像yはy=Φxという式(すなわち、行列による計算式)でモデル化することができる。
【0062】
上述のモデル化により、入射光の復元は、撮影された画像yを既知として、|y−Φx|を最小化するxを求めることになる。したがって、最も単純な復元方法は、Φ
+を一般化疑似逆行列として、x^=Φ
+yの関係式によって、xの推定値を求める方法である。なお、本明細書では、xの推定値を「x^」と表記する。
【0063】
また,波長帯域Wのそれぞれの種類において偏光の方位φのそれぞれの種類の画像を、それぞれ独立にbilinear補間することで、x^を求めることもできる。x^は分光偏光画像(すなわち、
図3に示す画像)となるため、各画像は以下のようにして算出することができる。なお、以下の求め方は、分光偏光画像から各種画像を算出する方法の一例であって、以下の内容に限定されるわけではない。
【0064】
例えば、分光画像は、x^の方位0°の画像に方位90°の画像(または、方位45°に画像と−45°の画像)を加えることで得られる。
また、RGB画像については、分光画像をrとし、照明光強度の対角行列をEとし、XYZ等色関数をTとし、XYZ-RGB色変換行列をCとすると、線形RGB画像gがg=CTErという行列計算によって求められる。このような行列計算の後、得られた線形RGB画像gに対して、表示装置や再生機器に応じた適切な色域変換やガンマ補正を行うことで、RGB画像が得られる。
さらに、直線偏光強度画像は、x^の各波長帯の画像において、次に示す計算:
{(方位0°の画像−方位90°の画像)
2+(方位45°の画像−方位−45°の画像)
2}/(方位0°の画像+方位90°の画像)、
を実行することで得られる。
【0065】
次いで、本発明を適用した一実施形態の画像撮影システムについて、説明する。
第一の態様の画像撮影システム20Aは、
図9に示すように、受光部4にフィルタアレイ6Aを備えた画像撮影装置2と、記憶装置22Aと、演算装置24Aと、表示装置26と、を備えている。
【0066】
記憶装置22Aは、いわゆるメモリであって、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた光の波長帯域Wの種類及び偏光の方位φの種類と、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれを透過し、画像撮影装置2によって取得された分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとの光強度と、を記憶する装置である。
なお、記憶装置22Aは、
図9に示すように画像撮影装置2の外部に設けられていてもよく、図示していないが画像撮影装置2に内蔵されていてもよい。
【0067】
演算装置24Aは、記憶装置22Aに記憶されている、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた波長帯域Wの種類と画像撮影装置2によって取得された光強度に基づいて、分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとのスペクトル情報を算出する。また、演算装置24Aは、記憶装置22Aに記憶されている、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた偏光の方位φの種類と画像撮影装置2によって取得された光強度に基づいて、分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとの偏光情報を算出する。
なお、演算装置24Aについても、
図9に示すように画像撮影装置2の外部に設けられていてもよく、図示していないが画像撮影装置2に内蔵されていてもよい。
【0068】
演算装置24Aにおいては、上述の画像復元方法や公知の画像復元方法や補完方法を用いて、分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとの分光情報や偏光情報を算出することができる。
【0069】
表示装置26は、再生装置ともいえるものであり、演算装置24Aで演算された分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとのスペクトル情報を画像として表示すると共に、演算装置24Aで演算された分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとの偏光情報を画像として表示する。
なお、表示装置26は、
図9に示すように画像撮影装置2の外部に設けられていてもよく、図示していないが画像撮影装置2の外装体に付設されていてもよい。
【0070】
以上説明した第一の態様の画像撮影システム20Aでは、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた波長帯域Wの種類および偏光の方位φの種類等の物性データが記憶装置22Aに保有され、光強度のデータに含まれる波長帯域Wおよび偏光の方位φのそれぞれの種類が演算装置24Aで活用される。
【0071】
第一の態様の画像撮影システム20Aによれば、フィルタアレイ6Aの分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた波長帯域Wの種類および偏光の方位φの種類に基づいて、ワンショットで、測定対象物Bの偏光情報と分光情報を同時取得し、取得した測定対象物の偏光情報と分光情報を画像として表示することができる(
図3参照)。したがって、画像撮影システム20Aの使用者に対して測定対象物の偏光情報と分光情報とを瞬時に、わかりやすく見せることができる。
【0072】
なお、
図9に示すように、第一の態様の画像撮影システム20Aの変形例として、受光部4にフィルタアレイ6Bを備えた画像撮影装置2と、記憶装置22Aと、演算装置24Aと、表示装置26と、を有する画像撮影システム20Bが挙げられる。画像撮影システム20Bについては、画像撮影システム20Aに関する説明において、分光偏光セルC1,C2,…,Cnを複合セルc1,c2,…,cnに置き換えて適用すればよいので、説明は省略する。
【0073】
第二の態様の画像撮影システム20Cは、
図10に示すように、受光部4にフィルタアレイ6Aを備えた画像撮影装置2と、記憶装置22Cと、演算装置24Cと、表示装置26と、を備えている。なお、画像撮影装置2と表示装置26については、画像撮影システム20Aの画像撮影装置2と表示装置26と同様であるため、説明を省略する。
【0074】
記憶装置22Cは、いわゆるメモリであって、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれを透過し、画像撮影装置2によって取得された分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとの光強度のみを、いわゆるメタデータとして記憶する装置である。
なお、記憶装置22Cは、
図10に示すように画像撮影装置2の外部に設けられていてもよく、図示していないが画像撮影装置2に内蔵されていてもよい。
【0075】
演算装置24Cには、フィルタアレイ6Aの分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた波長帯域Wの種類と偏光の方位φの種類が導入されている。波長帯域Wの種類と偏光の方位φの種類は、演算装置24Cに予め入力されてもよく、演算装置24Cに対して画像撮影システム20Cの外部から直接入力されてもよい。
演算装置24Cは、導入された分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとの波長帯域Wの種類と、記憶装置22Aに記憶されている光強度に基づいて、分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとのスペクトル情報を算出する。また、演算装置24Cは、導入された分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた偏光の方位φの種類と、記憶装置22Aに記憶されている光強度に基づいて、分光偏光セルC1,C2,…,Cnごとの偏光情報を算出する。
なお、演算装置24Cについても、
図10に示すように画像撮影装置2の外部に設けられていてもよく、図示していないが画像撮影装置2に内蔵されていてもよい。
【0076】
以上説明した第二の態様の画像撮影システム20Cでは、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれで取得された光強度のデータが記憶装置22Aに保有され、分光偏光セルC1,C2,…,Cnのそれぞれに割り当てられた波長帯域Wおよび偏光の方位φのそれぞれの種類が演算装置24Aで入手された後、光強度のデータが活用される。
上述のようにデータの入手と活用の流れが異なるが、第二の態様の画像撮影システム20Cによれば、画像撮影システム20Aと同様の作用効果が得られる。
【0077】
なお、
図10に示すように、第二の態様の画像撮影システム20Cについても、その変形例として、受光部4にフィルタアレイ6Bを備えた画像撮影装置2と、記憶装置22Cと、演算装置24Cと、表示装置26と、を有する画像撮影システム20Dが挙げられる。画像撮影システム20Dについては、画像撮影システム20Cに関する説明において、分光偏光セルC1,C2,…,Cnを複合セルc1,c2,…,cnに置き換えて適用すればよいので、説明は省略する。
【0078】
上述のように、本発明を適用したフィルタ、画像撮影装置および画像撮影システムによれば、従来のワンショット分光イメージングカメラやワンショット偏光イメージングカメラと同程度の機材構成および機材コストによって、MSIと偏光情報とをワンショットで同時に取得することができる。
また、本発明を適用したフィルタ、画像撮影装置および画像撮影システムによれば、取得されたマルチスペクトル偏光画像、すなわち測定対象物の分光情報と偏光情報を含むマルチスペクトル画像から、偏光情報を持たない通常のマルチスペクトル画像や、RGB画像、偏光強度画像を得ることができるため、従来のRGBイメージセンサ、マルチスペクトルイメージセンサ、偏光イメージセンサの役割を1つのセンサに集約することができる。
【0079】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0080】
例えば、
図1等には、行と列の各方向にわたって各種セル(すなわち、分光偏光セルC、分光セルSC、偏光セルPC)が隣接するように配列されたフィルタアレイ6A,6Bを例示して説明したが、フィルタアレイ6A,6Bの各種セルは、必ずとも互いに隣接していなくてもよく、配列されていなくてもよい。つまり、フィルタアレイ6A,6Bの各種セルは、それぞれに割り当てられている波長帯域Wと偏光の方位φとがわかっていれば、任意の相対位置に配されていても構わない。
【0081】
また、分光偏光セルCや分光セルSC、偏光セルPCに割り当てられる波長帯域Wの種類および偏光の方位φの種類と各種類の数は、上述の実施形態で記載した種類や数に限定されない。例えば、偏光の方位φが4種類である場合、0°,45°,90°,−45°以外の4種類であってもよい。偏光の方位φの種類の数は、4つに限らず、3つ以下でもよく、5つ以上であってもよい。
さらに、複数の各種セルのそれぞれは、受光素子5の複数の画素Pに亘って対向可能となるようにタイル状に構成されていても構わない。
【実施例】
【0082】
次いで、本発明に係る実施形態のフィルタ、画像撮影装置および画像撮影システムの効果を裏付けるために行った実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
4種類の波長帯域Wと4種類の偏光の方位φのマルチスペクトル画像の撮影および復元を行った。光源には、ハロゲンライト投光機(型番:CHP-500-0.3、サイズ名:500W、製造元:Caster)を2個使用した。測定対象物は、市販の色鉛筆、金属製のステイプラー、陶器製の置物とポット、液晶画面を有する携帯端末の並べて置いたものとした。波長帯域Wの種類は、450nm,550nm,650nm,750nmの4種類とした。また、偏光の方位φの種類は、−45°,0°,45°,90°の4種類とし、方位φを変えるために偏光板(型番:TEG1465DU、製造元:日東電工株式会社)を使用した。また、測定対象物の撮影および波長帯域Wの分光を行うために、ハイパースペクトルカメラ(型番:NH-7、画素数:1280×1024pixels、製造元:エバ・ジャパン株式会社)を使用した。
【0084】
本実施例では、偏光板の角度(すなわち、方位φの種類)を変えながら、マルチスペクトルカメラを使用してマルチスペクトル画像を4回撮影した。撮影したマルチスペクトル画像をオリジナルとし、シミュレーション上でフイルタアレイによる間引きを行い、グレイスケール画像を取得した。その後、内挿補間により、いわゆる4バンド4偏光方位のマルチスペクトル画像を復元し、復元画像からRGB画像と直線偏光強度画像を取得した。
【0085】
図11には、オリジナルの4バンド4偏光方位のマルチスペクトル画像のうち、φ=90°におけるマルチスペクトル画像をRGB画像化したものを示す。なお、
図11に示すオリジナルの画像は、本来フルカラーの画像であるが、本図面ではグレースケールで表示している。
図12には、上述のようにシミュレーションによって作成したワンショット撮像画像を示す。
図13には、4種類の偏光の方位φの一例として、φ=90°において、4種類の波長帯域W(すなわち、4バンド)のマルチスペクトル画像をRGB画像化したものを示す。さらに、
図14には、4種類の波長帯域Wの一例として、W=650nmにおいて、4種類の偏光の方位φに基づいて直線偏光強度画像を求めたものを示す。
【0086】
図11から
図14に示すように、オリジナルのマルチスペクトル画像から、特定の偏光の方位φでのRGB画像や特定の波長帯域Wでの偏光強度画像が復元されていることがわかる。特に、
図14に示す偏光強度画像では、偏光特性が強い携帯端末画面や光沢の強いステイプラーが白く表示され、良好な偏光強度画像が復元されている。
【0087】
以上説明した実施例の結果から、本発明を適用したフィルタアレイ6A,6Bの実現により、各種セル(すなわち、分光偏光セルC、分光セルSC、偏光セルPC)のそれぞれにおいて、割り当てられた波長帯域Wの種類かつ所定の偏光の方位φの種類の光を一括して各種セルごとに透過させ、ワンショットで、分光情報と偏光情報を同時に取得することができるといえる。