特許第6923942号(P6923942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人神戸大学の特許一覧

<>
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000002
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000003
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000004
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000005
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000006
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000007
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000008
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000009
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000010
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000011
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000012
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000013
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000014
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000015
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000016
  • 特許6923942-抗腫瘍剤 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6923942
(24)【登録日】2021年8月3日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】抗腫瘍剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20210812BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210812BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   A61K39/395 U
   A61P35/00
   A61P37/04
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-526308(P2018-526308)
(86)(22)【出願日】2017年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2017023553
(87)【国際公開番号】WO2018008470
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2020年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-133638(P2016-133638)
(32)【優先日】2016年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(01)「がん微小環境を標的とした革新的治療法の実現」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】的崎 尚
(72)【発明者】
【氏名】村田 陽二
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/138600(WO,A2)
【文献】 特開2007−056037(JP,A)
【文献】 特表2011−518824(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/063233(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/024021(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GeneCards
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする作用及びSIRPα発現細胞に対するADCP作用との二重の作用機序を有する抗SIRPα抗体のみを有効成分として含み、抗CD20抗体(rituximab)、抗HER2抗体(trastuzumab)及び抗EGFR抗体(cetuximab)から選択されるいずれをも含まないことを特徴とする、抗腫瘍剤。
【請求項2】
抗SIRPα抗体がマクロファージの貪食作用を増強することを特徴とする、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
マクロファージが、M1型マクロファージである、請求項2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
抗SIRPα抗体が、モノクローナル抗体、又は抗体フラグメントである、請求項1〜3のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
腫瘍が、SIRPα発現がんである、請求項1〜4のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
腫瘍が、腎がん及び/又はメラノーマである、請求項5に記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする作用及びSIRPα発現細胞に対するADCP作用との二重の作用機序を有する抗SIRPα抗体のみを有効成分として含み、抗CD20抗体(rituximab)、抗HER2抗体(trastuzumab)及び抗EGFR抗体(cetuximab)から選択されるいずれをも含まないことを特徴とする、細胞性免疫増強剤。
【請求項8】
細胞性免疫が、ナチュラルキラー細胞及び/又はT細胞の機能増強に伴う細胞性免疫である、請求項に記載の細胞性免疫増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする物質を有効成分として含む、抗腫瘍剤に関する。当該IgVドメインを分子標的とすることで、優れた抗腫瘍効果が得られる。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2016−133638号の優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
SIRPα(signal regulatory protein α)は、1回膜貫通型のレセプター型分子である免疫グロブリンスーパーファミリーに属する蛋白質であり、細胞外領域に3つのIg様ドメインを細胞内領域に2つのITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif:免疫受容抑制性チロシンモチーフ)を持つ。SIRPαは、その細胞外領域の生理的なリガンドである5回膜貫通型分子のCD47との相互作用により細胞間シグナル伝達システムCD47-SIRPα系を形成し、双方向性にシグナルを伝えると想定される。またSIRPαの機能には、SIRPαの細胞内領域のITIMのチロシンリン酸化が重要であり、リン酸化依存的にチロシンホスファターゼであるSHP-2又はSHP-1が結合し、SIRPαの下流シグナルとして機能する。
【0004】
免疫系において、SIRPαは樹状細胞やマクロファージなどの骨髄系細胞に強く発現する。SIRPα遺伝子改変マウスの解析により、SIRPαは樹状細胞の恒常性に重要であることを、本願発明者らは明らかにしている。また、CD47-SIRPα系は、自己免疫疾患モデル発症に重要なTh17細胞の誘導にも重要である。
【0005】
がんに対する治療法として分子標的薬、とりわけ抗体医薬の有用性が確立しつつある。依然としてがんは死因の第一位であり、より良い治療薬の開発が望まれている。CD47とSIRPαの結合が、免疫細胞の抗腫瘍効果を抑制することが知られている。SIRPαのリガンド分子であるCD47に着目し、CD47とSIRPαの結合を阻害する抗腫瘍剤の開発が進みつつある。様々な種類のがんで、CD47の過剰発現が認められ、さらに抗CD47抗体がマウスに移植したがんに対して抗腫瘍効果を有することが報告されている(非特許文献1:Proc Natl Acad Sci USA 109(17):6662-6667.(2012))。また、ADCC(Antibody-Dependent-Cellular Cytotoxicity:抗体依存性細胞傷害作用)及び/又はADCP(Antibody-Dependent-Cellular Phagocytosis:抗体依存性細胞貪食作用)活性を有する抗体医薬との併用が、抗体医薬の薬効を高めることも報告されている(非特許文献2:Cell 142(5):699-713.(2010))。しかし、抗CD47抗体の抗腫瘍効果の作用機序は不明であること、そしてCD47はがん細胞のみならず、すべての細胞にユビキタスに発現していること等が問題として挙げられる。即ち、抗CD47抗体を用いた場合には様々な副作用・毒性が危惧される。一方、抗SIRPα抗体が単独使用や他の抗体医薬との併用により抗腫瘍効果を発揮するかについては、不明である。
【0006】
SHP-2の脱リン酸化基質蛋白質としてイムノグロブリンスーパーファミリーに属する受容体型の蛋白質SHPS-1(SH2-containing Protein Tyrosine Phosphatase Substrate-1)(別名:SIRPα)が報告されている(Mol. Cell. Biol., 16: 6887-6899, 1996)。SH2ドメイン含有蛋白質の脱リン酸化基質蛋白質SHPS-1のN端免疫グロブリン様構造を特異的に認識し、結合する抗SHPS-1モノクローナル抗体を有効成分として、薬理成分とともに含有していることを特徴とする医薬組成物について報告がある(特許文献1)。特許文献1には、ペプチドであるSHPS-1を免疫原として作製した抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)が示されている。ここでは、SE12C3が、ヒトSIRPαを発現するCHO-Ras細胞に対して、細胞運動の抑制効果が確認されたことが示されている。特許文献1では、SE12C3の他にも各種抗SHPS-1モノクローナル抗体について開示があるが、特許文献1に示す抗体はがん細胞の転移や動脈硬化の予防・治療に重要であることが示されているものの、直接的な抗腫瘍作用については開示されていない。
【0007】
CD47とSIRPαの結合を阻害するモノクローナル抗体について報告がある(非特許文献3)。非特許文献3においてもモノクローナル抗体(SE12C3)が示されており、SE12C3がSIRPα1のIg1に特異的に作用することが示されている。ここで、SIRPα1のIg1は、SIRPα1の細胞外ドメインIgVに該当すると考えられる。しかしながら、非特許文献3においてはSE12C3が細胞表面上のSIRPαと組換え蛋白質CD47の結合抑制に関することが示されているものの、抗腫瘍作用については一切開示されていない。
【0008】
がんの治療方法として、免疫療法についても多くの試みがなされてきた。がん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞に対して、PD-1(Programmed cell death-1)と、そのリガンドであるPD-L1(Programmed cell death-ligand 1)との結合等、免疫作用のブレーキ役として働く免疫チェックポイントと呼ばれる作用があり、がん細胞が免疫監視を回避するメカニズムとして近年注目されている。免疫チェックポイント阻害剤により、生体に備わっているがんに対する免疫を再度活性化することによって、抗腫瘍効果を得ることができる。このような免疫チェックポイント阻害剤として、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体による医薬品の開発が進められている。
【0009】
免疫チェックポイント阻害剤及び/又はCD20の特異的抗体として臨床適用されているrituximab等のADCC及びADCP活性を有し、がん抗原に特異的に反応する抗体医薬との併用により、より効果的に作用する抗腫瘍剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci USA 109(17):6662-6667.(2012)
【非特許文献2】Cell 142(5):699-713.(2010)
【非特許文献3】Blood 97(9):2741-2749.(2001)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3914996号公報(特開平2007-56037号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、CD47とSIRPαの結合を阻害するSIRPαを標的とする抗腫瘍剤であって、より効果的な抗腫瘍剤を提供することを課題とする。さらに本発明は、免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬との併用により、より効果的に抗腫瘍効果を発揮しうる抗腫瘍剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
膜型分子であるSIRPαに対する抗体は、(1)抗SIRPα抗体によるADCC及びADCP活性の誘導による殺細胞作用又は細胞運動抑制作用などの腫瘍に対する直接的な作用と、(2)貪食細胞とがん細胞間で形成されるCD47とSIRPαの結合を抗SIRPα抗体が阻害し、CD47-SIRPα系による貪食抑制作用を解除し、抗SIRPα抗体自体による細胞傷害活性を増強する、という二重の作用機序による効果が考えられる。これらのことより、本願発明者はCD47とSIRPαの結合を阻害する物質について検討し、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、SIRPαの細胞外IgVドメインを分子標的とする物質によれば、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)やT細胞による細胞性免疫能を増強し、抗腫瘍効果を示すことを見出し、本発明を完成した。また、免疫チェックポイント阻害剤又はADCC及びADCP活性を有しがん抗原に特異的に反応する抗体医薬との併用により、より効果的に抗腫瘍効果を示すことを見出した。本発明の抗腫瘍剤によれば、SIRPαを発現しているがん細胞のみならず、SIRPαを発現していないがん細胞に対しても抗腫瘍効果を発揮しうる。
【0014】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体を有効成分として含む、抗腫瘍剤。
2.抗SIRPα抗体がマクロファージの貪食作用を増強することを特徴とする、前項1に記載の抗腫瘍剤。
3.マクロファージが、M1型マクロファージである、前項2に記載の抗腫瘍剤。
4.抗SIRPα抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメントのいずれかである、前項1〜3のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
5.抗腫瘍剤としての有効成分が、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体に加えて、さらに免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬を含む、前項1〜4のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
6.免疫チェックポイント阻害剤が、PD-L1とPD-1との結合阻害剤、あるいはCTLA4阻害剤から選択されるいずれかである、前項5に記載の抗腫瘍剤。
7.がん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬が、抗CD20抗体、抗HER2抗体及び抗EGFR抗体から選択されるいずれかである、前項5又は6に記載の抗腫瘍剤。
8.腫瘍が、がん腫、肉腫、リンパ腫、白血病、骨髄腫、胚細胞腫、脳腫瘍、カルチノイド、神経芽腫、網膜芽細胞腫及び腎芽腫から選択される一種又は複数種の腫瘍である前項1〜7のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
9.腫瘍が、腎がん、メラノーマ、有棘細胞がん、基底細胞がん、結膜がん、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、小腸がん、大腸がん、直腸がん、虫垂がん、肛門がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、副腎がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮がん、膣がん、脂肪肉腫、血管肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、未分化多型肉腫、粘液型線維肉腫、悪性末梢性神経鞘腫、後腹膜肉腫、滑膜肉腫、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、類上皮肉腫、B細胞リンパ腫、T・NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、精巣がん、卵巣がん、神経膠腫、髄膜腫から選択される一種又は複数種の腫瘍である前項1〜8のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
10.SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体を有効成分として含む、細胞性免疫増強剤。
11.細胞性免疫が、ナチュラルキラー細胞及び/又はT細胞の機能増強に伴う細胞性免疫である、前項10に記載の細胞性免疫増強剤。
【0015】
A.SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体を投与することによる、腫瘍の治療方法。
B.抗SIRPα抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメントのいずれかである、前項Aに記載の治療方法。
C.SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体に加えて、さらに免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬を投与することによる、前項A又はBに記載の腫瘍の治療方法。
D.免疫チェックポイント阻害剤が、PD-L1とPD-1との結合阻害剤、あるいはCTLA4阻害剤から選択されるいずれかである、前項Cに記載の治療方法。
E.がん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬が、抗CD20抗体、抗HER2抗体及び抗EGFR抗体から選択されるいずれかである、前項C又はDに記載の治療方法。
F.腫瘍が、がん腫、肉腫、リンパ腫、白血病、骨髄腫、胚細胞腫、脳腫瘍、カルチノイド、神経芽腫、網膜芽細胞腫及び腎芽腫から選択される一種又は複数種の腫瘍である前項A〜Eのいずれかに記載の治療方法。
G.腫瘍が、腎がん、メラノーマ、有棘細胞がん、基底細胞がん、結膜がん、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、小腸がん、大腸がん、直腸がん、虫垂がん、肛門がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、副腎がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮がん、膣がん、脂肪肉腫、血管肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、未分化多型肉腫、粘液型線維肉腫、悪性末梢性神経鞘腫、後腹膜肉腫、滑膜肉腫、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、類上皮肉腫、B細胞リンパ腫、T・NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、精巣がん、卵巣がん、神経膠腫、髄膜腫から選択される一種又は複数種の腫瘍である前項A〜Fのいずれかに記載の治療方法。
H.SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体を用いることによる、細胞性免疫増強方法。
I.細胞性免疫が、ナチュラルキラー細胞及び/又はT細胞の機能増強に伴う細胞性免疫である、前項Hに記載の細胞性免疫増強方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のSIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする物質を有効成分として含む抗腫瘍剤によれば、M1型のがん傷害性マクロファージや他の免疫細胞が活性化され、効果的な抗腫瘍効果が得られる。特に、SIRPαを発現しているがん細胞のみならず、発現していないがん細胞に対しても、免疫チェックポイント阻害剤やがん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬等との併用により、優れた抗腫瘍効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本明細書の実施例で使用する抗マウスSIRPα抗体の標的部位を確認した写真図である。(参考例1)
図2図2Aは腎がん患者の腎臓の腫瘍部におけるSIRPαの発現を組織免疫染色により確認した写真図であり、図2Bはヒト・腎がん由来株化細胞でのSIRPαの発現を確認した図である。(参考例2)
図3】腎がん患者の腎臓の正常組織部と腫瘍部におけるSIRPαmRNAの発現量を比較した図である。(参考例2)
図4図4Aはメラノーマ患者の腫瘍部におけるメラノーマのマーカー及びSIRPαの発現を組織免疫染色により確認した写真図であり、図4Bはヒト・メラノーマ由来株化細胞でのSIRPαの発現を確認した図である。(参考例2)
図5】マウスSIRPα発現細胞及びマウスCD47発現細胞との凝集に及ぼす抗マウスSIRPα抗体の作用を示す図である。(実施例1)
図6】マウス・腎がん又はマウス・メラノーマ細胞を移植したマウスにおける抗マウスSIRPα抗体の抗腫瘍効果を示す図である。図6Aは、RENCA細胞(マウス・腎がん)を移植したマウスに対し、RENCA細胞移植同日より抗マウスSIRPα抗体を投与したときの効果を示し、図6Bは、RENCA細胞を移植したマウスに対し、腫瘍の体積が約100 mm3に達した時点から抗マウスSIRPα抗体を投与したときの効果を示す図である。図6Cは、B16BL6細胞(マウス・メラノーマ)を移植したマウスに対する抗マウスSIRPα抗体の効果を示す図である。(実施例2)
図7】RENCA細胞を移植したマウスにおいて、マクロファージの有無が抗マウスSIRPα抗体投与による腫瘍体積の増加抑制に与える影響を確認した図である。(実施例3)
図8】RENCA細胞に対する抗マウスSIRPα抗体によるマクロファージ貪食能を確認した図である。(実施例4)
図9】RENCA細胞を移植したマウスにおいて、抗マウスSIRPα抗体を投与したときの腫瘍内でのマクロファージや各種免疫細胞の存在比率を確認した図である。(実施例5)
図10】RENCA細胞を移植したマウスにおいて、特定の免疫細胞の除去が抗マウスSIRPα抗体投与による腫瘍体積の増加抑制に与える影響を確認した図である。(実施例6)
図11】SIRPαを発現していないCT26細胞(マウス・大腸がん)を移植したマウスにおいて、抗マウスSIRPα抗体と免疫チェックポイント阻害剤の併用による腫瘍体積の増加抑制を示す図である。(実施例7)
図12】SIRPαを発現していないRaji細胞(ヒト・バーキットリンパ腫)について、抗マウスSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用による抗腫瘍効果を示す図である。(実施例8)
図13】RENCA細胞を移植したマウスにおいて、抗マウスSIRPα抗体と免疫チェックポイント阻害剤の併用による腫瘍体積の増加抑制を示す図である。(実施例9)
図14】Raji細胞(ヒト・バーキットリンパ腫)に対する抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用によるヒトSIRPαを発現するマウスマクロファージ貪食能を確認した図である。(実施例10)
図15】Raji細胞(ヒト・バーキットリンパ腫)を移植したヒトSIRPαを発現する免疫不全マウスにおいて、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用による抗腫瘍効果を示す図である。(実施例11)
図16】実施例10及び11で使用した抗ヒトSIRPα抗体の標的部位を確認した写真図である。(参考例3)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする物質を有効成分として含む、抗腫瘍剤に関する。本発明の「SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメイン」とは、SIRPαを構成する3つの細胞外Ig様ドメインのうちのひとつであるIgVドメインをいう。SIRPα蛋白質は、背景技術の欄にも示したように、1回膜貫通型のレセプター型分子である免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、3つのIg様ドメインを細胞外領域に、2つのITIMを細胞内領域に持つ(図1参照)。本発明におけるSIRPα蛋白質は、例えば、GenBank Accession No.: NP_001035111(ヒト)、NP_001277949(マウス)で特定することができる。当該IgVドメインは、上記GenBank Accession No.: NP_00103511(ヒト)、NP_001277949(マウス)の部分配列(それぞれ第43位-第144位アミノ酸、第43位-第145位アミノ酸)で特定することができる。
【0019】
本明細書において、「SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする物質」とは、当該IgVドメインと相互作用しうる物質をいう。そのような物質としては、当該IgVドメインを標的とする抗SIRPα抗体、当該IgVドメインを標的とするペプチド、当該IgVドメインの発現を抑制しうるアンチセンス鎖などが考えられるが、最も好適には当該IgVドメインを標的とする抗SIRPα抗体が挙げられる。
【0020】
本明細書において、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを標的とする抗SIRPα抗体は、SIRPαを抗原として作製された抗SIRPα抗体から当該IgVドメインを標的とする抗体を選別してもよいし、当該IgVドメインを抗原として作製することもできる。また当該抗SIRPα抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)等から選択されるいずれであってもよい。抗体の形態は、インタクトな抗体、抗体フラグメントのいずれであってもよいが、エフェクター機能を有するFc部を含むインタクトな免疫グロブリンであるのが好適である。
【0021】
本明細書において、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の定義及び作製方法は、自体公知の定義、作製方法等に従うことができる。また、今後開発されるあらゆる方法により作製されるモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよい。また、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)についても、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする機能を有する抗体であればよく、特に限定されない。作製方法についても、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。
【0022】
本明細書における抗体は、インタクト抗体又は抗体フラグメントであってもよい。本明細書におけるインタクトな抗体は、ふたつの抗原結合領域とひとつのFc部とを含む抗体である。好ましくは、インタクトな抗体は機能的なFc部を有する。抗体フラグメントはインタクトな抗体の部分を含み、その部分は好ましくはその抗原結合領域を含む。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab)'2、及びFvフラグメント、二特異性抗体(diabody)、線状抗体(linear antibody)、一本鎖抗体分子及び抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0023】
抗体を特定する部位について、各々Fab、Fab'、F(ab)'2、Fv及びFc等の用語については、いわゆる当業者により認識される定義を適用することができる。例えばFabフラグメントは、単一の抗原結合部位を有する抗原結合フラグメントをいい、F(ab)'2フラグメントはふたつの抗原結合部位を有するフラグメントである。Fvフラグメントは、抗原認識抗原結合部位を有する最小限の抗体フラグメントである。Fc部は免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定し、エフェクター機能を有する。エフェクター機能の例には、C1qとの結合、CDC(Complement-Dependent Cytotoxicity:補体依存性細胞傷害作用)、Fcレセプターとの結合、 ADCC、食作用、細胞表面レセプターのダウンレギュレーション(例えばB細胞レセプター:BCR)などが挙げられる。そのようなエフェクター機能は、一般にFc部が結合ドメイン(例えば抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とする。
【0024】
ADCCは、Fcレセプターを発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えばNK細胞、好中球、及びマクロファージ等)が標的細胞上に結合した抗体を認識して、その後にターゲット細胞の溶解を起こす細胞介在性反応をいう。ADCCを担うプライマリー細胞であるNK細胞ではFcγRIICとFcγRIIIAが発現しており、単球ではFcγRI、FcγRIIA、FcγRIIC及びFcγRIIIAを発現している。一方、ADCPは、Fcレセプターを発現する貪食細胞(例えばマクロファージ、好中球等)が標的細胞上に結合した抗体を認識して、その後、ターゲット細胞を細胞内に貪食する細胞介在性反応をいう。ADCPを担うプライマリー細胞である単球ではFcγRI、FcγRIIA、FcγRIIC及びFcγRIIIAが発現している。
【0025】
本発明のSIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする物質を有効成分として含む抗腫瘍剤は、免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬と共に併用して用いることもできる。あるいは、本発明の抗腫瘍剤において、当該IgVドメインを分子標的とする物質に加えて、免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬をさらに含んでいてもよい。本明細書において、免疫チェックポイント阻害剤としては、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1との結合阻害剤、又はCTLA4阻害剤などが挙げられ、より具体的には抗PD-1抗体(nivolumab、pembrolizumab)、抗PD-L1抗体(atezolizumab)、抗CTLA4抗体(ipilimumab)が挙げられる。また、がん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬としては、抗CD20抗体(rituximab)、抗HER2抗体(trastuzumab)、抗EGFR抗体(cetuximab)などが挙げられる。
【0026】
本発明の抗腫瘍剤は、がん腫、肉腫、リンパ腫、白血病、骨髄腫、胚細胞腫、脳腫瘍、カルチノイド、神経芽腫、網膜芽細胞腫、腎芽腫から選択される一種又は複数種に対して使用することができる。具体的には、がん腫では、腎がん、メラノーマ、有棘細胞がん、基底細胞がん、結膜がん、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、小腸がん、大腸がん、直腸がん、虫垂がん、肛門がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、副腎がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮がん、膣がんなどが挙げられ、肉腫では、脂肪肉腫、血管肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、未分化多型肉腫、粘液型線維肉腫、悪性末梢性神経鞘腫、後腹膜肉腫、滑膜肉腫、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、類上皮肉腫などが挙げられ、リンパ腫では、B細胞リンパ腫、T・NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫などが挙げられ、白血病では、骨髄性白血病、リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群などが挙げられ、骨髄腫では、多発性骨髄腫などが挙げられ、胚細胞腫では、精巣がん、卵巣がんなどが挙げられ、脳腫瘍では、神経膠腫、髄膜腫などが挙げられる。
【0027】
本発明のSIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする物質は、細胞性免疫増強剤としても使用することができる。細胞性免疫はNK細胞及び/又はT細胞の機能増強に伴い、増強させることができる。
【0028】
本発明の抗腫瘍剤は、有効成分としてのSIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする物質と共に、薬学上許容可能な担体を含めることができる。「薬学上許容可能な担体」は、対象疾患の種類や薬剤の投与形態に応じて広い範囲から適宜選択することができる。本発明の抗腫瘍剤の投与方法は適宜選択することができるが、例えば注射投与することができ、局所注入、腹腔内投与、選択的静脈内注入、静脈注射、皮下注射、臓器灌流液注入等を採用することができる。また、注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液、又は塩水とグルコース溶液の混合物、各種の緩衝液等からなる担体を用いて製剤化することができる。また粉末状態で製剤化し、使用時に前記液体担体と混合して注射液を調整するようにしてもよい。
【0029】
他の投与方法についても、製剤の開発と共に適宜選択することができる。例えば経口投与の場合には、経口液剤や散剤、丸剤、カプセル剤及び錠剤等を適用することができる。経口液剤の場合には、懸濁剤及びシロップ剤等のような経口液体調整物として、水、シュークロース、ソルビトール、フラクト−ス等の糖類、ポリエチレングリコール等のグリコール類、ごま油、大豆油等の油類、アルキルパラヒドロキシベンゾエート等の防腐剤、ストロベリー・フレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造することができる。散剤、丸剤、カプセル剤及び錠剤は、ラクト−ス、グルコース、シュークロース、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギニン酸ソーダ等の崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の表面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製剤化することができる。錠剤及びカプセル剤は、投与が容易であるという点において、この発明の組成物における好ましい単位投与形態である。錠剤やカプセル剤を製造する際には、固体の製造担体が用いられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の理解を深めるために、参考例及び実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(参考例1)抗マウスSIRPα抗体についての予備的検討
本参考例では、本発明を完成させるに至った予備的な検討結果を示す。本参考例では、SIRPα抗体A及びSIRPα抗体Bの2種類の抗マウスSIRPαラットモノクローナル抗体の特性を確認した。SIRPα抗体Aは、J Immunol., 187(5): 2268-2277 (2011)に示された抗マウスSIRPαラットモノクローナル抗体であり、SIRPα抗体Bは、Dev. Biol., 137(2): 219-232 (1990)に示された抗マウスSIRPαラットモノクローナル抗体である。HEK293A細胞(ヒト・胎児腎細胞)に、野生型SIRPα、△V SIRPα(IgVドメイン欠損型SIRPα)、△C1-1 SIRPα(IgC1-1ドメイン欠損型SIRPα)及び△C1-2 SIRPα(IgC1-2ドメイン欠損型SIRPα)を発現させ、1次抗体としてSIRPα抗体A又は SIRPα抗体B と抗Mycマウスモノクローナル抗体(9E10)を、2次抗体として蛍光標識された抗ラット及び抗マウスIgG抗体を用い、各々の細胞の免疫染色を行い、SIRPα抗体A及び SIRPα抗体Bの反応性を検討した。その結果、SIRPα抗体Aは、SIRPαの細胞外IgVドメインに対する抗体であり、SIRPα抗体B はSIRPαの細胞外IgC1-1ドメインに対する抗体であることが確認された(図1)。なお、HEK293A細胞での野生型SIRPα及び各変異体の発現は抗Mycマウスモノクローナル抗体の反応性から確認した(図1)。以下に示す実施例において、上記抗マウスSIRPαラットモノクローナル抗体を用いて検討した。
【0032】
(参考例2)ヒト・腎がん及びヒト・メラノーマでのSIRPα発現の確認
本参考例では、ヒト・腎がん及びヒト・メラノーマにおけるSIRPαの発現を確認した。
【0033】
腎がん患者の腫瘍部と正常組織部を含む腎組織のパラフィン包埋切片について、ヘマトキシリンエオシン(H&E)染色及び抗ヒトSIRPα抗体による免疫染色を行った。その結果、腫瘍部において抗ヒトSIRPα抗体による強い染色が確認され、腎がん細胞でのSIRPαの高発現を確認した(図2A)。また、ヒト・腎がん由来株化細胞(ACHN、786-O、A498、Caki-1)の蛋白ライセート及び抗ヒトSIRPα抗体を用いたウエスタンブロット法による解析から、各株化細胞でのSIRPαの発現が確認された(図2B)。なお、抗β-tubulin抗体によるウエスタンブロットから、使用した各株化細胞の蛋白ライセートの蛋白量が一定であることが確認された(図2B)。さらに、腎がん患者の腎臓の正常組織部と腫瘍部でのSIRPαのmRNAの発現量を比較したところ、腫瘍部において有意に高い発現が確認された(図3)。
【0034】
メラノーマ患者の腫瘍部を含む組織の凍結切片について、メラノーマのマーカーであるメランAを免疫染色した。また、抗ヒトSIRPα抗体による免疫染色も行い、両染色図を融合した。その結果、組織の同じ部位でのメランA及びSIRPαの発現が認められたことから、メラノーマにおいてSIRPαが発現していることが確認された(図4A)。さらに、ヒト・メラノーマ由来株化細胞(WM239a、A375、SK-MEL-28、SK-MEL-5)の蛋白ライセート及び抗ヒトSIRPα抗体を用いたウエスタンブロット法による解析から、各株化細胞でのSIRPαの発現が確認された(図4B)。なお、抗β-tubulin抗体によるウエスタンブロット法による解析から、使用した各株化細胞の蛋白ライセートの蛋白量が一定であることが確認された(図4B)。
【0035】
(実施例1)マウスSIRPα発現細胞及びマウスCD47発現細胞との凝集に及ぼす抗マウスSIRPα抗体の作用
本実施例では、マウスSIRPα発現CHO-Ras細胞とマウスCD47発現CHO-Ras細胞との凝集に及ぼすSIRPα抗体A及びSIRPα抗体Bの2種類の抗マウスSIRPα抗体の作用について確認した。ここで、CHO-Ras細胞とはヒト活性型Rasを発現するCHO細胞をいう。コントロールIgG(IgG)として正常ラットIgGを用いた。各抗体で前処理したマウスSIRPα発現CHO-Ras細胞とCD47発現CHO-Ras細胞を混合し、30分反応させたところ、コントロールIgG及びSIRPα抗体Bでは細胞が凝集したが、SIRPα抗体Aでは細胞の凝集が抑制されることが確認された(図5)。*P < 0.05、***P < 0.001
【0036】
(実施例2)マウス・腎がん及びマウス・メラノーマ細胞を移植したマウスでの抗マウスSIRPα抗体の抗腫瘍効果
本実施例では、RENCA細胞(マウス・腎がん)又はB16BL6細胞(マウス・メラノーマ)をマウスに移植したときの、各がん細胞に及ぼすSIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の各抗体の作用を確認した。また、RENCA細胞を移植したマウスについては生存率も確認した。各細胞にはSIRPαが発現している。
【0037】
2−1.
8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×105 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=8)。RENCA細胞移植同日より、各抗体(投与量:200μg)を週3回、図6Aに示す投与スケジュールに従って腹腔内投与した。その結果、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の投与群では、移植後腫瘍体積の増大が認められたが、SIRPα抗体A投与群では腫瘍体積の増加抑制が認められた。また、マウスの生存率もSIRPα抗体A投与群で有意に優れていた(図6A)。*P < 0.05、***P < 0.001
【0038】
2−2.
8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×105 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=11)。RENCA細胞移植同日より、平均腫瘍体積が100 mm3に達した時点(移植後5日目)から、各抗体(投与量:400μg)を週3回、図6Bに示す投与スケジュールに従って腹腔内投与した。その結果、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の投与群では、移植後腫瘍体積の増大が認められたが、SIRPα抗体A投与群では抗体投与開始後、腫瘍体積の増加の抑制が認められた(図6B)。また、マウスの生存率もコントロールIgGの投与群に比べSIRPα抗体A投与群で有意に優れていた。*P < 0.05、***P < 0.001
【0039】
2−3.
8 週齢のC57BL/6マウスにB16BL6細胞(0.5×105 cells)を尾静脈より投与し、移植した(各群:n=10)。B16BL6細胞移植後、各抗体(投与量:200μg)を週3回、図6Cに示す投与スケジュールに従って腹腔内投与した。その結果、肺に形成された腫瘍結節数がSIRPα抗体A投与群では有意に少なかった(図6C)。**P < 0.01
【0040】
本実施例の結果、SIRPαを発現するがん細胞に対し、SIRPα抗体A単独の投与で腫瘍体積の増加の抑制が認められ、がん細胞移植後のマウスの生存率も優れていた。SIRPαを発現するがん細胞に対し、SIRPα抗体Aが単独で抗腫瘍効果を発揮することが確認された。
【0041】
(実施例3)RENCA細胞を移植したマウスにおけるSIRPα抗体Aによるマクロファージを介した抗腫瘍効果
実施例2の2-1及び2−2と同様に、8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×105 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=8)。図7に示す投与スケジュールに従ってRENCA細胞移植の1日前にクロドロン酸を内包したリポソーム(200μl)を、その後、3日毎に100μlを尾静脈内投与し、F4/80+CD11b+ マクロファージをマウス生体内から除去した。クロドロン酸に対するコントロールとしてリン酸緩衝生理食塩水を内包したリポソームを投与した。RENCA細胞移植後、SIRPα抗体A又はコントロールIgG(IgG)の各抗体(投与量:200μg)を週3回、図7に示す投与スケジュールに従って腹腔内投与した。その結果、SIRPα抗体A投与でF4/80+CD11b+ マクロファージを除去していない群で最も腫瘍体積の増加抑制が認められた。一方、F4/80+CD11b+ マクロファージを除去した群でも、SIRPα抗体A投与群ではコントロールIgG投与群に比べて僅かに腫瘍体積の増加抑制が確認された。本実施例の結果、マウス個体内でのSIRPα抗体A単独投与によるSIRPα発現がん細胞に対する抗腫瘍効果には、マクロファージが関与することが確認された。 ***P < 0.001
【0042】
(実施例4)抗マウスSIRPα抗体のマクロファージ貪食能への作用 (in vitro系)
本実施例では、RENCA細胞に対するマクロファージによる貪食能について、各抗体の作用を確認した。CFSE(carboxyfluorescein succinimidyl ester)標識RENCA細胞に、SIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の各抗体を添加(10μg/ml)し、マウス骨髄由来マクロファージと共に37℃、4時間培養したときの貪食能を確認した。貪食能は、総マクロファージ中のCFSE陽性細胞を取り込んだマクロファージの割合を定量することにより行った。その結果、SIRPα抗体Aを加えた系で、最も強い貪食能が確認された(図8A)。次に、SIRPα抗体A、SIRPα抗体A (Fab')2又はコントロールIgGの各抗体を同手法によりに添加し、貪食能を確認した。その結果、SIRPα抗体Aを加えた系で、最も強い貪食能が確認され、SIRPα抗体A (Fab')2の系ではSIRPα抗体Aより劣るものの、コントロールIgGに比べて強い貪食能が確認された(図8B)。***P < 0.001
【0043】
本実施例の結果、SIRPα抗体AがSIRPαを発現するがん細胞に対してマクロファージによる貪食能を強化し、ADCP活性を発揮させうることが確認された。
【0044】
(実施例5)SIRPα抗体AのRENCA腫瘍内免疫細胞に及ぼす影響
実施例2の2-1及び2−2と同様に、8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×105 cells)を皮下投与し、移植した(マクロファージ、NK細胞、T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞の評価はIgG群:n=6 、SIRPα抗体A群:n=7、骨髄由来抑制細胞(MDSC)、制御性T細胞(Treg)の評価ではIgG群:n=8、SIRPα抗体A群:n=9)。細胞移植同日より、SIRPα抗体A又はコントロールIgGの各抗体(投与量:200μg)を腹腔内投与し、14日目に皮下に形成された腫瘍を採取した。その後、腫瘍内のCD45+細胞中のマクロファージ及び各種免疫細胞の割合を確認した。それぞれの割合は、腫瘍内CD45+細胞中のF4/80+Ly6Clow細胞(マクロファージ)CD3ε-CD49b+細胞(NK細胞)、CD3ε+細胞(T細胞)、CD3ε+CD4+細胞(CD4+T細胞)、CD3ε+CD8α+細胞(CD8+T細胞)、CD11b+Gr-1+細胞(骨髄由来抑制細胞)、CD3ε+CD4+Foxp3+細胞(抑制性T細胞)の割合としている。
【0045】
マクロファージは線維芽細胞や血管内皮細胞などとともに、がんの微小環境を形成する重要な細胞である。マクロファージにはM1型とM2型があり、M1型はがん傷害性であるといわれている。そこで、上記抗体を投与した場合、SIRPα抗体A又はコントロールIgG(IgG)の投与群で、腫瘍内のCD45+細胞中に占めるマクロファージの割合には変化を及ぼさなかったが、M1型/M2型の割合を確認したところ、SIRPα抗体A投与群の方が高い値を示し、がん傷害性の高いマクロファージの割合が腫瘍内で高まっていることが確認された(図9A)。本実施例の結果、SIRPαを発現するがん細胞に対してSIRPα抗体Aを投与することで、マウス個体の腫瘍内でのM2型マクロファージに対するがん傷害性のM1型マクロファージの割合を高められることが確認された。*P < 0.05
【0046】
腫瘍免疫に関わるNK細胞及びT細胞について確認したところ、SIRPα抗体A投与群において腫瘍内のCD45+細胞中に占める両細胞の割合が有意に高い値を示した。さらにT細胞について確認したところ、CD4+T細胞の割合については、SIRPα抗体A又はコントロールIgG (IgG)投与群で違いはほとんど認められなかったが、CD8+T細胞についてはSIRPα抗体A投与群において高い割合を示した(図9B)。一方、腫瘍免疫の抑制に関わることが知られている骨髄由来抑制細胞又は制御性T細胞については、骨髄由来抑制細胞ではSIRPα抗体A又はコントロールIgG投与群で腫瘍内での割合に変化を認めず、制御性T細胞についてはコントロールIgG投与群に比べSIRPα抗体A投与群でその増加を認めた(図9C)。*P < 0.05、**P < 0.01
【0047】
(実施例6)SIRPα抗体AのRENCA細胞に対する抗腫瘍効果におけるNK細胞、T細胞の作用
本実施例では、マウスよりNK細胞又はCD8+T細胞を除去し、がん細胞に及ぼす各抗体の作用を確認した。NK細胞の細胞表面に発現する糖脂質のアシアロ-GM1を認識する抗体を投与することで、マウスよりNK細胞が除去される。また、抗CD8α抗体を投与することで、マウスよりCD8+T細胞が除去される。抗アシアロ-GM1抗体は、抗アシアロ-GM1ウサギポリクローナル抗体を用い、抗CD8α抗体は抗マウスCD8αラットモノクローナル抗体を用いた。
【0048】
実施例2と同様に、8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×105 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=10)。図10A,Bに示す投与スケジュールに従って細胞移植の1日前、当日、以降3日毎に抗アシアロ-GM1抗体(α-GM1、投与量50μl)を腹腔内投与した。また、抗CD8α抗体(α-CD8α、投与量:400μg)は細胞移植前日から5日毎に腹腔内に投与した。さらに、SIRPα抗体A又はコントロールIgG(IgG)は細胞移植同日から週3回で腹腔内投与を行った。その結果、NK細胞やCD8+T細胞が除去されていない場合、SIRPα抗体A投与群において明らかな腫瘍体積の増加抑制が認められたが、NK細胞又はCD8+T細胞を除去した場合には、SIRPα抗体A投与群において増加抑制はほとんど認められず、コントロールIgG投与群と同等の結果であった。このことよりSIRPα抗体Aの抗腫瘍効果には、免疫応答に必要なNK細胞及びCD8+T細胞の存在が必要であることが確認された(図10A,B)。***P < 0.001
【0049】
(実施例7)SIRPα抗体Aと免疫チェックポイント阻害剤の併用効果1
近年、CD8+T細胞の抗腫瘍効果の抑制を解除する免疫チェックポイント阻害剤が種々ながん種の強力な抗腫瘍剤として注目されている。そこで、免疫チェックポイント阻害剤とSIRPα抗体Aを併用することにより、より強い抗腫瘍効果が期待できると考えられたことから、本実施例においてSIRPα抗体Aと免疫チェックポイント阻害剤として公知の抗PD-1抗体の併用時の抗腫瘍効果を確認した。抗PD-1抗体は抗マウスPD-1ラットモノクローナル抗体を用いた。
【0050】
8 週齢のBALB/cマウスにSIRPαを発現しないマウス由来大腸がん細胞(CT26、5×105 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=6)。CT26細胞移植後、平均腫瘍体積が100 mm3に達した時点から(細胞移植後5日目)、図11に示す投与スケジュールに従って週3回、SIRPα抗体A、抗PD-1抗体(α-PD-1)、コントロールIgG(IgG)の各抗体(投与量:100μg)を腹腔内投与した。その結果、抗PD-1抗体単独又は抗PD-1抗体とSIRPα抗体Aを同時に投与した群において、腫瘍体積の増加抑制が認められたが、併用投与した群でより高い増加抑制が認められた。一方、SIRPα抗体A単独投与群又はコントロールIgG投与群では、ほとんど腫瘍体積の増加抑制は認められなかった(図11)。本実施例の結果、マウス個体内においてSIRPαを発現しないがん細胞に対し、SIRPα抗体Aが抗PD-1抗体による抗腫瘍効果を増強することが確認された。 ***P < 0.01
【0051】
(実施例8)SIRPα抗体Aと抗CD20抗体の併用効果
本実施例では、抗CD20抗体(rituximab)と、SIRPα抗体A又はSIRPα抗体Bの併用による抗腫瘍効果を、マクロファージ貪食能及び腫瘍体積の増加抑制効果で確認した。抗CD20抗体投与によりオプソニン化されたがん細胞について、SIRPα抗体A又はSIRPα抗体Bによる効果を確認した。抗CD20抗体はADCC及びADCP活性が誘導されるがん細胞に対してSIRPα抗体A又はSIRPα抗体Bの併用による相乗効果を確認した。抗CD20抗体はRituxan(登録商標)を用いた。
【0052】
8−1.マクロファージ貪食能への効果
CFSE標識Raji細胞(ヒト・バーキットリンパ腫)に、抗CD20抗体と、SIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の各抗体を添加(単剤 各10μg/ml、併用 各 5μg/ml)し、NOD(non-obese diabetic)マウスより採取した骨髄由来マクロファージと共に37℃、4時間培養したときのRaji細胞に対するマクロファージによる貪食能を評価した。貪食能は、実施例4の方法に従い測定した。その結果、抗CD20抗体とSIRPα抗体A又はSIRPα抗体Bを併用した群はコントロールIgGと併用した群と比較して有意に高い貪食能が確認された。また、SIRPα抗体Aを併用した群はSIRPα抗体Bと併用した群に比べて有意に高い貪食能が認められた(図12A)。***P < 0.001
【0053】
8−2.腫瘍体積の増加抑制効果について(がん細胞移植後7日目より治療開始)
6 週齢の免疫不全マウスであるNOD/SCID(severe combined immunodeficiency)マウスにRaji細胞(3×106 cells)を皮下に投与し、移植した(各群:n=5)。図12Bに示す投与スケジュールに従ってRaji細胞移植後7日目より3日毎に抗CD20抗体(投与量:40μg)と、SIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の各抗体(投与量:200μg)を腹腔内に投与し、腫瘍体積の増加抑制について検討した。その結果、SIRPα抗体Aと抗CD20抗体の併用投与群において最も強い腫瘍体積の増加抑制が認められた(図12B)。***P < 0.001
【0054】
8−3.腫瘍体積の増加抑制効果について(がん細胞移植後14日目より治療開始)
6 週齢のNOD/SCIDマウスにRaji細胞(3×106 cells)を皮下に投与し、移植した(各群:n=5)。図12Cに示す投与スケジュールに従ってRaji細胞移植後14日目(腫瘍体積が150〜200 mm3となった時点)より週2回、抗CD20抗体(投与量:150μg)と、SIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgGの各抗体(投与量:200μg)を腹腔内に投与し、腫瘍体積の増加抑制について検討した。その結果、SIRPα抗体A又はコントロールIgG(IgG)の単独使用群では腫瘍体積の増加抑制は認められなかった。一方、抗CD20抗体の単独使用では腫瘍の増殖抑制が認められたが、SIRPα抗体Aと抗CD20抗体の併用投与群において最も強い腫瘍体積の増加抑制が認められた(図12C)。**P < 0.01、***P < 0.001
【0055】
本実施例の結果、SIRPα抗体Aはがん細胞に対する抗CD20抗体のADCP活性を増強し、また、SIRPα抗体Aと抗CD20抗体の併用は、抗CD20抗体及びSIRPα抗体A単独使用に比べ、マウスでのがん細胞に対する優れた抗腫瘍効果を示すことが確認された。
【0056】
(実施例9)SIRPα抗体Aと免疫チェックポイント阻害剤の併用効果2
本実施例では、実施例7と同手法により、SIRPα抗体Aと抗PD-1抗体の併用による抗腫瘍効果について、RENCA細胞を皮下移植したマウスを用い確認した。各々抗マウスSIRPα抗体及び抗マウスPD-1ラットモノクローナル抗体を用いた。
【0057】
8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×105 cells)を皮下投与し、移植した(コントロールIgG抗体投与群:n=8、抗PD-1抗体又はSIRPα抗体A単独投与群及び抗PD-1抗体とSIRPα抗体Aの併用投与群:n=10)。RENCA細胞移植より、平均腫瘍体積が100 mm3に達した時点から図13に示す投与スケジュールで、抗PD-1抗体(α-PD-1、投与量:100μg)と、SIRPα抗体A又はコントロールIgGの各抗体(投与量:200μg)を腹腔内に投与し、皮下に形成された腫瘍の体積を経時的に測定することで、各種抗体による抗腫瘍効果を検討した。
【0058】
その結果、SIRPα抗体A及び抗PD-1抗体の併用が、腫瘍体積の増加を最も抑制し、各単独抗体に比べて強力な抗腫瘍効果を示すことが示唆された(図13)。**P < 0.01、***P < 0.001
【0059】
(実施例10)抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用による抗腫瘍作用1
本実施例では、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体(rituximab)を併用したときの抗腫瘍効果を、マクロファージ貪食能及び腫瘍体積の増加抑制効果で確認した。抗ヒトSIRPα抗体として、特許文献1に開示する抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)を用いた。当該抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)が、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体であることは、参考例3において後述する。また、抗CD20抗体は実施例8と同様にRituxan(登録商標)を用いた。CFSE標識Raji細胞に、抗ヒトSIRPα抗体(SE12C3)、抗CD20抗体(rituximab)及びコントロールIgG(IgG)の各抗体を、単独又は併用にて添加し、ヒトSIRPαを発現する免疫不全マウス(Proc Natl Acad Sci USA., 108(32):13218-13223 (2011)に示されたマウス)より調整した骨髄由来マクロファージと共に37℃、4時間培養したときのRaji細胞に対するマクロファージによる貪食能を評価した。投与量は、抗ヒトSIRPα抗体(SE12C3)又はコントロールIgGを2.5μg/ml、抗CD20抗体(rituximab)を 0.025μg/mlとした。貪食能は、実施例4の方法に従い測定した。
【0060】
その結果、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体を併用した群は、各抗体単剤投与の場合やコントロールIgGと抗CD20抗体の併用投与群と比較して有意に高い貪食能が確認された(図14)。***P < 0.001
【0061】
(実施例11)抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用による抗腫瘍作用2
本実施例では、実施例10に示す抗ヒトSIRPα抗体(SE12C3)と抗CD20抗体(rituximab)を併用したときの抗腫瘍効果を確認した。6 週齢のヒトSIRPαを発現する免疫不全マウスにRaji細胞(1×106 cells)を皮下に投与し、移植した(コントロールIgG及び抗ヒトSIRPα抗体投与群:n=10、抗CD20抗体投与群及び抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用投与群:n=12)。Raji細胞移植後、腫瘍体積が約100 mm3となった時点より図15に示す投与スケジュールで、抗CD20抗体(投与量:150μg)と抗ヒトSIRPα抗体(SE12C3)又はコントロールIgGの各抗体(投与量:200μg)を腹腔内に投与し、皮下に形成された腫瘍の体積を経時的に測定することで、各種抗体による抗腫瘍効果を検討した。
【0062】
その結果、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用が、腫瘍体積の増加を最も抑制し、各単独抗体に比べて強力な抗腫瘍効果を示すことが示唆された(図15)。**P < 0.01、***P < 0.001
【0063】
(参考例3)抗ヒトSIRPα抗体について
実施例10及び11で使用した抗ヒトSIRPα抗体が、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体であることについて説明する。
【0064】
上記抗ヒトSIRPα抗体は、特許文献1に開示する抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)であることは上述のとおりである。抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)は、SIRPα1IgG1に対する特異抗体であることが非特許文献3の第2744頁左欄、Table.1に開示されている。
【0065】
さらに参考例1と同手法により、上記抗ヒトSIRPα抗体としての抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)の分子標的部位を確認した。HEK293A細胞(ヒト・胎児腎細胞)に、野生型ヒトSIRPα(WT)、IgVドメイン欠損型ヒトSIRPα(ΔV)及びIgV、IgC1ドメイン欠損型ヒトSIRPα(ΔVC1)を発現させ、1次抗体として上記の抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)と抗ヒトSIRPαポリクローナル抗体を、2次抗体として蛍光標識された抗マウスIgG抗体又は抗ウサギIgG抗体を用い、各々の細胞の免疫染色を行い、各一次抗体の反応性を検討した。抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)は、ヒトSIRPα(hSIRPα)蛋白質の細胞外IgVドメインに対する抗体であることが確認された(図16)。
【0066】
特許文献1には、抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)はがん細胞の転移や動脈硬化の予防・治療に重要であることは示されているものの、直接的な腫瘍抑制作用は一切示されていない。非特許文献3には、腫瘍やがんに対する作用は一切示されていない。即ち特許文献1や非特許文献3の公開時において、抗ヒトSIRPα抗体としての抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)に関し、本発明において初めて確認した抗腫瘍作用は一切不明であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上詳述したように、本発明のSIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗体を有効成分として含む、抗腫瘍剤によれば、M1型のがん傷害性マクロファージや免疫応答細胞が活性化され、効果的な抗腫瘍効果が得られる。特に、SIRPαを発現しているがん細胞のみならず、発現していないがん細胞に対しても、免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及びADCP活性を有する抗体医薬等との併用により、優れた抗腫瘍効果が期待できる。
【0068】
本発明の抗腫瘍剤によれば、化学療法剤や放射線療法との併用により強い抗腫瘍効果が期待できる。また、自己の免疫能を増強させることで、化学療法剤の使用量の低減化や放射線療法の頻度の低減化により、これらの療法に係る副作用の軽減化が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16