【実施例】
【0030】
以下、本発明の理解を深めるために、参考例及び実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(参考例1)抗マウスSIRPα抗体についての予備的検討
本参考例では、本発明を完成させるに至った予備的な検討結果を示す。本参考例では、SIRPα抗体A及びSIRPα抗体Bの2種類の抗マウスSIRPαラットモノクローナル抗体の特性を確認した。SIRPα抗体Aは、J Immunol., 187(5): 2268-2277 (2011)に示された抗マウスSIRPαラットモノクローナル抗体であり、SIRPα抗体Bは、Dev. Biol., 137(2): 219-232 (1990)に示された抗マウスSIRPαラットモノクローナル抗体である。HEK293A細胞(ヒト・胎児腎細胞)に、野生型SIRPα、△V SIRPα(IgVドメイン欠損型SIRPα)、△C1-1 SIRPα(IgC1-1ドメイン欠損型SIRPα)及び△C1-2 SIRPα(IgC1-2ドメイン欠損型SIRPα)を発現させ、1次抗体としてSIRPα抗体A又は SIRPα抗体B と抗Mycマウスモノクローナル抗体(9E10)を、2次抗体として蛍光標識された抗ラット及び抗マウスIgG抗体を用い、各々の細胞の免疫染色を行い、SIRPα抗体A及び SIRPα抗体Bの反応性を検討した。その結果、SIRPα抗体Aは、SIRPαの細胞外IgVドメインに対する抗体であり、SIRPα抗体B はSIRPαの細胞外IgC1-1ドメインに対する抗体であることが確認された(
図1)。なお、HEK293A細胞での野生型SIRPα及び各変異体の発現は抗Mycマウスモノクローナル抗体の反応性から確認した(
図1)。以下に示す実施例において、上記抗マウスSIRPαラットモノクローナル抗体を用いて検討した。
【0032】
(参考例2)ヒト・腎がん及びヒト・メラノーマでのSIRPα発現の確認
本参考例では、ヒト・腎がん及びヒト・メラノーマにおけるSIRPαの発現を確認した。
【0033】
腎がん患者の腫瘍部と正常組織部を含む腎組織のパラフィン包埋切片について、ヘマトキシリンエオシン(H&E)染色及び抗ヒトSIRPα抗体による免疫染色を行った。その結果、腫瘍部において抗ヒトSIRPα抗体による強い染色が確認され、腎がん細胞でのSIRPαの高発現を確認した(
図2A)。また、ヒト・腎がん由来株化細胞(ACHN、786-O、A498、Caki-1)の蛋白ライセート及び抗ヒトSIRPα抗体を用いたウエスタンブロット法による解析から、各株化細胞でのSIRPαの発現が確認された(
図2B)。なお、抗β-tubulin抗体によるウエスタンブロットから、使用した各株化細胞の蛋白ライセートの蛋白量が一定であることが確認された(
図2B)。さらに、腎がん患者の腎臓の正常組織部と腫瘍部でのSIRPαのmRNAの発現量を比較したところ、腫瘍部において有意に高い発現が確認された(
図3)。
【0034】
メラノーマ患者の腫瘍部を含む組織の凍結切片について、メラノーマのマーカーであるメランAを免疫染色した。また、抗ヒトSIRPα抗体による免疫染色も行い、両染色図を融合した。その結果、組織の同じ部位でのメランA及びSIRPαの発現が認められたことから、メラノーマにおいてSIRPαが発現していることが確認された(
図4A)。さらに、ヒト・メラノーマ由来株化細胞(WM239a、A375、SK-MEL-28、SK-MEL-5)の蛋白ライセート及び抗ヒトSIRPα抗体を用いたウエスタンブロット法による解析から、各株化細胞でのSIRPαの発現が確認された(
図4B)。なお、抗β-tubulin抗体によるウエスタンブロット法による解析から、使用した各株化細胞の蛋白ライセートの蛋白量が一定であることが確認された(
図4B)。
【0035】
(実施例1)マウスSIRPα発現細胞及びマウスCD47発現細胞との凝集に及ぼす抗マウスSIRPα抗体の作用
本実施例では、マウスSIRPα発現CHO-Ras細胞とマウスCD47発現CHO-Ras細胞との凝集に及ぼすSIRPα抗体A及びSIRPα抗体Bの2種類の抗マウスSIRPα抗体の作用について確認した。ここで、CHO-Ras細胞とはヒト活性型Rasを発現するCHO細胞をいう。コントロールIgG(IgG)として正常ラットIgGを用いた。各抗体で前処理したマウスSIRPα発現CHO-Ras細胞とCD47発現CHO-Ras細胞を混合し、30分反応させたところ、コントロールIgG及びSIRPα抗体Bでは細胞が凝集したが、SIRPα抗体Aでは細胞の凝集が抑制されることが確認された(
図5)。*P < 0.05、***P < 0.001
【0036】
(実施例2)マウス・腎がん及びマウス・メラノーマ細胞を移植したマウスでの抗マウスSIRPα抗体の抗腫瘍効果
本実施例では、RENCA細胞(マウス・腎がん)又はB16BL6細胞(マウス・メラノーマ)をマウスに移植したときの、各がん細胞に及ぼすSIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の各抗体の作用を確認した。また、RENCA細胞を移植したマウスについては生存率も確認した。各細胞にはSIRPαが発現している。
【0037】
2−1.
8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×10
5 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=8)。RENCA細胞移植同日より、各抗体(投与量:200μg)を週3回、
図6Aに示す投与スケジュールに従って腹腔内投与した。その結果、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の投与群では、移植後腫瘍体積の増大が認められたが、SIRPα抗体A投与群では腫瘍体積の増加抑制が認められた。また、マウスの生存率もSIRPα抗体A投与群で有意に優れていた(
図6A)。*P < 0.05、***P < 0.001
【0038】
2−2.
8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×10
5 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=11)。RENCA細胞移植同日より、平均腫瘍体積が100 mm
3に達した時点(移植後5日目)から、各抗体(投与量:400μg)を週3回、
図6Bに示す投与スケジュールに従って腹腔内投与した。その結果、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の投与群では、移植後腫瘍体積の増大が認められたが、SIRPα抗体A投与群では抗体投与開始後、腫瘍体積の増加の抑制が認められた(
図6B)。また、マウスの生存率もコントロールIgGの投与群に比べSIRPα抗体A投与群で有意に優れていた。*P < 0.05、***P < 0.001
【0039】
2−3.
8 週齢のC57BL/6マウスにB16BL6細胞(0.5×10
5 cells)を尾静脈より投与し、移植した(各群:n=10)。B16BL6細胞移植後、各抗体(投与量:200μg)を週3回、
図6Cに示す投与スケジュールに従って腹腔内投与した。その結果、肺に形成された腫瘍結節数がSIRPα抗体A投与群では有意に少なかった(
図6C)。**P < 0.01
【0040】
本実施例の結果、SIRPαを発現するがん細胞に対し、SIRPα抗体A単独の投与で腫瘍体積の増加の抑制が認められ、がん細胞移植後のマウスの生存率も優れていた。SIRPαを発現するがん細胞に対し、SIRPα抗体Aが単独で抗腫瘍効果を発揮することが確認された。
【0041】
(実施例3)RENCA細胞を移植したマウスにおけるSIRPα抗体Aによるマクロファージを介した抗腫瘍効果
実施例2の2-1及び2−2と同様に、8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×10
5 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=8)。
図7に示す投与スケジュールに従ってRENCA細胞移植の1日前にクロドロン酸を内包したリポソーム(200μl)を、その後、3日毎に100μlを尾静脈内投与し、F4/80
+CD11b
+ マクロファージをマウス生体内から除去した。クロドロン酸に対するコントロールとしてリン酸緩衝生理食塩水を内包したリポソームを投与した。RENCA細胞移植後、SIRPα抗体A又はコントロールIgG(IgG)の各抗体(投与量:200μg)を週3回、
図7に示す投与スケジュールに従って腹腔内投与した。その結果、SIRPα抗体A投与でF4/80
+CD11b
+ マクロファージを除去していない群で最も腫瘍体積の増加抑制が認められた。一方、F4/80
+CD11b
+ マクロファージを除去した群でも、SIRPα抗体A投与群ではコントロールIgG投与群に比べて僅かに腫瘍体積の増加抑制が確認された。本実施例の結果、マウス個体内でのSIRPα抗体A単独投与によるSIRPα発現がん細胞に対する抗腫瘍効果には、マクロファージが関与することが確認された。 ***P < 0.001
【0042】
(実施例4)抗マウスSIRPα抗体のマクロファージ貪食能への作用 (in vitro系)
本実施例では、RENCA細胞に対するマクロファージによる貪食能について、各抗体の作用を確認した。CFSE(carboxyfluorescein succinimidyl ester)標識RENCA細胞に、SIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の各抗体を添加(10μg/ml)し、マウス骨髄由来マクロファージと共に37℃、4時間培養したときの貪食能を確認した。貪食能は、総マクロファージ中のCFSE陽性細胞を取り込んだマクロファージの割合を定量することにより行った。その結果、SIRPα抗体Aを加えた系で、最も強い貪食能が確認された(
図8A)。次に、SIRPα抗体A、SIRPα抗体A (Fab')
2又はコントロールIgGの各抗体を同手法によりに添加し、貪食能を確認した。その結果、SIRPα抗体Aを加えた系で、最も強い貪食能が確認され、SIRPα抗体A (Fab')
2の系ではSIRPα抗体Aより劣るものの、コントロールIgGに比べて強い貪食能が確認された(
図8B)。***P < 0.001
【0043】
本実施例の結果、SIRPα抗体AがSIRPαを発現するがん細胞に対してマクロファージによる貪食能を強化し、ADCP活性を発揮させうることが確認された。
【0044】
(実施例5)SIRPα抗体AのRENCA腫瘍内免疫細胞に及ぼす影響
実施例2の2-1及び2−2と同様に、8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×10
5 cells)を皮下投与し、移植した(マクロファージ、NK細胞、T細胞、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞の評価はIgG群:n=6 、SIRPα抗体A群:n=7、骨髄由来抑制細胞(MDSC)、制御性T細胞(Treg)の評価ではIgG群:n=8、SIRPα抗体A群:n=9)。細胞移植同日より、SIRPα抗体A又はコントロールIgGの各抗体(投与量:200μg)を腹腔内投与し、14日目に皮下に形成された腫瘍を採取した。その後、腫瘍内のCD45
+細胞中のマクロファージ及び各種免疫細胞の割合を確認した。それぞれの割合は、腫瘍内CD45
+細胞中のF4/80
+Ly6C
low細胞(マクロファージ)CD3ε
-CD49b
+細胞(NK細胞)、CD3ε
+細胞(T細胞)、CD3ε
+CD4
+細胞(CD4
+T細胞)、CD3ε
+CD8α
+細胞(CD8
+T細胞)、CD11b
+Gr-1
+細胞(骨髄由来抑制細胞)、CD3ε
+CD4
+Foxp3
+細胞(抑制性T細胞)の割合としている。
【0045】
マクロファージは線維芽細胞や血管内皮細胞などとともに、がんの微小環境を形成する重要な細胞である。マクロファージにはM1型とM2型があり、M1型はがん傷害性であるといわれている。そこで、上記抗体を投与した場合、SIRPα抗体A又はコントロールIgG(IgG)の投与群で、腫瘍内のCD45
+細胞中に占めるマクロファージの割合には変化を及ぼさなかったが、M1型/M2型の割合を確認したところ、SIRPα抗体A投与群の方が高い値を示し、がん傷害性の高いマクロファージの割合が腫瘍内で高まっていることが確認された(
図9A)。本実施例の結果、SIRPαを発現するがん細胞に対してSIRPα抗体Aを投与することで、マウス個体の腫瘍内でのM2型マクロファージに対するがん傷害性のM1型マクロファージの割合を高められることが確認された。*P < 0.05
【0046】
腫瘍免疫に関わるNK細胞及びT細胞について確認したところ、SIRPα抗体A投与群において腫瘍内のCD45
+細胞中に占める両細胞の割合が有意に高い値を示した。さらにT細胞について確認したところ、CD4
+T細胞の割合については、SIRPα抗体A又はコントロールIgG (IgG)投与群で違いはほとんど認められなかったが、CD8
+T細胞についてはSIRPα抗体A投与群において高い割合を示した(
図9B)。一方、腫瘍免疫の抑制に関わることが知られている骨髄由来抑制細胞又は制御性T細胞については、骨髄由来抑制細胞ではSIRPα抗体A又はコントロールIgG投与群で腫瘍内での割合に変化を認めず、制御性T細胞についてはコントロールIgG投与群に比べSIRPα抗体A投与群でその増加を認めた(
図9C)。*P < 0.05、**P < 0.01
【0047】
(実施例6)SIRPα抗体AのRENCA細胞に対する抗腫瘍効果におけるNK細胞、T細胞の作用
本実施例では、マウスよりNK細胞又はCD8
+T細胞を除去し、がん細胞に及ぼす各抗体の作用を確認した。NK細胞の細胞表面に発現する糖脂質のアシアロ-GM1を認識する抗体を投与することで、マウスよりNK細胞が除去される。また、抗CD8α抗体を投与することで、マウスよりCD8
+T細胞が除去される。抗アシアロ-GM1抗体は、抗アシアロ-GM1ウサギポリクローナル抗体を用い、抗CD8α抗体は抗マウスCD8αラットモノクローナル抗体を用いた。
【0048】
実施例2と同様に、8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×10
5 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=10)。
図10A,Bに示す投与スケジュールに従って細胞移植の1日前、当日、以降3日毎に抗アシアロ-GM1抗体(α-GM1、投与量50μl)を腹腔内投与した。また、抗CD8α抗体(α-CD8α、投与量:400μg)は細胞移植前日から5日毎に腹腔内に投与した。さらに、SIRPα抗体A又はコントロールIgG(IgG)は細胞移植同日から週3回で腹腔内投与を行った。その結果、NK細胞やCD8
+T細胞が除去されていない場合、SIRPα抗体A投与群において明らかな腫瘍体積の増加抑制が認められたが、NK細胞又はCD8
+T細胞を除去した場合には、SIRPα抗体A投与群において増加抑制はほとんど認められず、コントロールIgG投与群と同等の結果であった。このことよりSIRPα抗体Aの抗腫瘍効果には、免疫応答に必要なNK細胞及びCD8
+T細胞の存在が必要であることが確認された(
図10A,B)。***P < 0.001
【0049】
(実施例7)SIRPα抗体Aと免疫チェックポイント阻害剤の併用効果1
近年、CD8
+T細胞の抗腫瘍効果の抑制を解除する免疫チェックポイント阻害剤が種々ながん種の強力な抗腫瘍剤として注目されている。そこで、免疫チェックポイント阻害剤とSIRPα抗体Aを併用することにより、より強い抗腫瘍効果が期待できると考えられたことから、本実施例においてSIRPα抗体Aと免疫チェックポイント阻害剤として公知の抗PD-1抗体の併用時の抗腫瘍効果を確認した。抗PD-1抗体は抗マウスPD-1ラットモノクローナル抗体を用いた。
【0050】
8 週齢のBALB/cマウスにSIRPαを発現しないマウス由来大腸がん細胞(CT26、5×10
5 cells)を皮下投与し、移植した(各群:n=6)。CT26細胞移植後、平均腫瘍体積が100 mm
3に達した時点から(細胞移植後5日目)、
図11に示す投与スケジュールに従って週3回、SIRPα抗体A、抗PD-1抗体(α-PD-1)、コントロールIgG(IgG)の各抗体(投与量:100μg)を腹腔内投与した。その結果、抗PD-1抗体単独又は抗PD-1抗体とSIRPα抗体Aを同時に投与した群において、腫瘍体積の増加抑制が認められたが、併用投与した群でより高い増加抑制が認められた。一方、SIRPα抗体A単独投与群又はコントロールIgG投与群では、ほとんど腫瘍体積の増加抑制は認められなかった(
図11)。本実施例の結果、マウス個体内においてSIRPαを発現しないがん細胞に対し、SIRPα抗体Aが抗PD-1抗体による抗腫瘍効果を増強することが確認された。 ***P < 0.01
【0051】
(実施例8)SIRPα抗体Aと抗CD20抗体の併用効果
本実施例では、抗CD20抗体(rituximab)と、SIRPα抗体A又はSIRPα抗体Bの併用による抗腫瘍効果を、マクロファージ貪食能及び腫瘍体積の増加抑制効果で確認した。抗CD20抗体投与によりオプソニン化されたがん細胞について、SIRPα抗体A又はSIRPα抗体Bによる効果を確認した。抗CD20抗体はADCC及びADCP活性が誘導されるがん細胞に対してSIRPα抗体A又はSIRPα抗体Bの併用による相乗効果を確認した。抗CD20抗体はRituxan(登録商標)を用いた。
【0052】
8−1.マクロファージ貪食能への効果
CFSE標識Raji細胞(ヒト・バーキットリンパ腫)に、抗CD20抗体と、SIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の各抗体を添加(単剤 各10μg/ml、併用 各 5μg/ml)し、NOD(non-obese diabetic)マウスより採取した骨髄由来マクロファージと共に37℃、4時間培養したときのRaji細胞に対するマクロファージによる貪食能を評価した。貪食能は、実施例4の方法に従い測定した。その結果、抗CD20抗体とSIRPα抗体A又はSIRPα抗体Bを併用した群はコントロールIgGと併用した群と比較して有意に高い貪食能が確認された。また、SIRPα抗体Aを併用した群はSIRPα抗体Bと併用した群に比べて有意に高い貪食能が認められた(
図12A)。***P < 0.001
【0053】
8−2.腫瘍体積の増加抑制効果について(がん細胞移植後7日目より治療開始)
6 週齢の免疫不全マウスであるNOD/SCID(severe combined immunodeficiency)マウスにRaji細胞(3×10
6 cells)を皮下に投与し、移植した(各群:n=5)。
図12Bに示す投与スケジュールに従ってRaji細胞移植後7日目より3日毎に抗CD20抗体(投与量:40μg)と、SIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgG(IgG)の各抗体(投与量:200μg)を腹腔内に投与し、腫瘍体積の増加抑制について検討した。その結果、SIRPα抗体Aと抗CD20抗体の併用投与群において最も強い腫瘍体積の増加抑制が認められた(
図12B)。***P < 0.001
【0054】
8−3.腫瘍体積の増加抑制効果について(がん細胞移植後14日目より治療開始)
6 週齢のNOD/SCIDマウスにRaji細胞(3×10
6 cells)を皮下に投与し、移植した(各群:n=5)。
図12Cに示す投与スケジュールに従ってRaji細胞移植後14日目(腫瘍体積が150〜200 mm
3となった時点)より週2回、抗CD20抗体(投与量:150μg)と、SIRPα抗体A、SIRPα抗体B又はコントロールIgGの各抗体(投与量:200μg)を腹腔内に投与し、腫瘍体積の増加抑制について検討した。その結果、SIRPα抗体A又はコントロールIgG(IgG)の単独使用群では腫瘍体積の増加抑制は認められなかった。一方、抗CD20抗体の単独使用では腫瘍の増殖抑制が認められたが、SIRPα抗体Aと抗CD20抗体の併用投与群において最も強い腫瘍体積の増加抑制が認められた(
図12C)。**P < 0.01、***P < 0.001
【0055】
本実施例の結果、SIRPα抗体Aはがん細胞に対する抗CD20抗体のADCP活性を増強し、また、SIRPα抗体Aと抗CD20抗体の併用は、抗CD20抗体及びSIRPα抗体A単独使用に比べ、マウスでのがん細胞に対する優れた抗腫瘍効果を示すことが確認された。
【0056】
(実施例9)SIRPα抗体Aと免疫チェックポイント阻害剤の併用効果2
本実施例では、実施例7と同手法により、SIRPα抗体Aと抗PD-1抗体の併用による抗腫瘍効果について、RENCA細胞を皮下移植したマウスを用い確認した。各々抗マウスSIRPα抗体及び抗マウスPD-1ラットモノクローナル抗体を用いた。
【0057】
8 週齢のBALB/cマウスにRENCA細胞(5×10
5 cells)を皮下投与し、移植した(コントロールIgG抗体投与群:n=8、抗PD-1抗体又はSIRPα抗体A単独投与群及び抗PD-1抗体とSIRPα抗体Aの併用投与群:n=10)。RENCA細胞移植より、平均腫瘍体積が100 mm
3に達した時点から
図13に示す投与スケジュールで、抗PD-1抗体(α-PD-1、投与量:100μg)と、SIRPα抗体A又はコントロールIgGの各抗体(投与量:200μg)を腹腔内に投与し、皮下に形成された腫瘍の体積を経時的に測定することで、各種抗体による抗腫瘍効果を検討した。
【0058】
その結果、SIRPα抗体A及び抗PD-1抗体の併用が、腫瘍体積の増加を最も抑制し、各単独抗体に比べて強力な抗腫瘍効果を示すことが示唆された(
図13)。**P < 0.01、***P < 0.001
【0059】
(実施例10)抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用による抗腫瘍作用1
本実施例では、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体(rituximab)を併用したときの抗腫瘍効果を、マクロファージ貪食能及び腫瘍体積の増加抑制効果で確認した。抗ヒトSIRPα抗体として、特許文献1に開示する抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)を用いた。当該抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)が、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体であることは、参考例3において後述する。また、抗CD20抗体は実施例8と同様にRituxan(登録商標)を用いた。CFSE標識Raji細胞に、抗ヒトSIRPα抗体(SE12C3)、抗CD20抗体(rituximab)及びコントロールIgG(IgG)の各抗体を、単独又は併用にて添加し、ヒトSIRPαを発現する免疫不全マウス(Proc Natl Acad Sci USA., 108(32):13218-13223 (2011)に示されたマウス)より調整した骨髄由来マクロファージと共に37℃、4時間培養したときのRaji細胞に対するマクロファージによる貪食能を評価した。投与量は、抗ヒトSIRPα抗体(SE12C3)又はコントロールIgGを2.5μg/ml、抗CD20抗体(rituximab)を 0.025μg/mlとした。貪食能は、実施例4の方法に従い測定した。
【0060】
その結果、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体を併用した群は、各抗体単剤投与の場合やコントロールIgGと抗CD20抗体の併用投与群と比較して有意に高い貪食能が確認された(
図14)。***P < 0.001
【0061】
(実施例11)抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用による抗腫瘍作用2
本実施例では、実施例10に示す抗ヒトSIRPα抗体(SE12C3)と抗CD20抗体(rituximab)を併用したときの抗腫瘍効果を確認した。6 週齢のヒトSIRPαを発現する免疫不全マウスにRaji細胞(1×10
6 cells)を皮下に投与し、移植した(コントロールIgG及び抗ヒトSIRPα抗体投与群:n=10、抗CD20抗体投与群及び抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用投与群:n=12)。Raji細胞移植後、腫瘍体積が約100 mm
3となった時点より
図15に示す投与スケジュールで、抗CD20抗体(投与量:150μg)と抗ヒトSIRPα抗体(SE12C3)又はコントロールIgGの各抗体(投与量:200μg)を腹腔内に投与し、皮下に形成された腫瘍の体積を経時的に測定することで、各種抗体による抗腫瘍効果を検討した。
【0062】
その結果、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用が、腫瘍体積の増加を最も抑制し、各単独抗体に比べて強力な抗腫瘍効果を示すことが示唆された(
図15)。**P < 0.01、***P < 0.001
【0063】
(参考例3)抗ヒトSIRPα抗体について
実施例10及び11で使用した抗ヒトSIRPα抗体が、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを分子標的とする抗SIRPα抗体であることについて説明する。
【0064】
上記抗ヒトSIRPα抗体は、特許文献1に開示する抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)であることは上述のとおりである。抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)は、SIRPα1IgG1に対する特異抗体であることが非特許文献3の第2744頁左欄、Table.1に開示されている。
【0065】
さらに参考例1と同手法により、上記抗ヒトSIRPα抗体としての抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)の分子標的部位を確認した。HEK293A細胞(ヒト・胎児腎細胞)に、野生型ヒトSIRPα(WT)、IgVドメイン欠損型ヒトSIRPα(ΔV)及びIgV、IgC1ドメイン欠損型ヒトSIRPα(ΔVC1)を発現させ、1次抗体として上記の抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)と抗ヒトSIRPαポリクローナル抗体を、2次抗体として蛍光標識された抗マウスIgG抗体又は抗ウサギIgG抗体を用い、各々の細胞の免疫染色を行い、各一次抗体の反応性を検討した。抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)は、ヒトSIRPα(hSIRPα)蛋白質の細胞外IgVドメインに対する抗体であることが確認された(
図16)。
【0066】
特許文献1には、抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)はがん細胞の転移や動脈硬化の予防・治療に重要であることは示されているものの、直接的な腫瘍抑制作用は一切示されていない。非特許文献3には、腫瘍やがんに対する作用は一切示されていない。即ち特許文献1や非特許文献3の公開時において、抗ヒトSIRPα抗体としての抗ヒトSHPS-1モノクローナル抗体(SE12C3)に関し、本発明において初めて確認した抗腫瘍作用は一切不明であった。