特許第6923968号(P6923968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6923968
(24)【登録日】2021年8月3日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】光反射体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20210812BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20210812BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   G02B5/08 A
   C08K3/26
   C08L67/00
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-85639(P2020-85639)
(22)【出願日】2020年5月15日
【審査請求日】2020年5月15日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】江口 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】南野 裕
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/058057(WO,A2)
【文献】 特開2007−045935(JP,A)
【文献】 特開2019−014785(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2019/0292348(US,A1)
【文献】 特開2005−097578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00 ― 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料と、炭酸カルシウムと、を含む基材と、
該基材の表面に設けられた金属層と
を備える、光反射体であって、
該樹脂材料が、ポリエステル樹脂組成物、ポリアリレート樹脂組成物、およびこれらの混合樹脂組成物からなる群より選択され、
該炭酸カルシウムのBET比表面積が1〜14/グラムであり、
水銀圧入法により、該炭酸カルシウムの細孔分布を測定して得られる細孔分布曲線において、粒子間空隙径を表すピークのトップが、細孔径0.1〜1.0μmの範囲にあり、
電子顕微鏡を用いて、該炭酸カルシウムの粒径分布を測定して得られる粒径分布において、粒径0.1μm以下の該炭酸カルシウムの粒子の割合が9.5%以下であり、
目開きが45μmの篩を用いて、該炭酸カルシウムを湿式篩して得られる残分が、0.1%以下であることを特徴とする、前記光反射体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料と炭酸カルシウムを含む基材の上に金属層を設けた光反射体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ランプ等に使用されるリフレクターやエクステンション等の光反射体として、ポリエステル樹脂組成物からなる基材の上に金属蒸着膜などの光反射層を設けた光反射体が検討されている。これらの光反射体においては、基材の耐熱性等を高めるため、ポリエステル樹脂に無機フィラーが添加されている。この際、金属蒸着膜を設けるに先立ち、基材に下塗り(アンダーコート)を行い、その後に設ける金属蒸着膜の輝度を損なわないようにすることが通常行われていた。しかしながら下塗りは作業負担とコストを増大させるほか、光反射体のデザインの自由度を制限しうるため、下塗りせずに高い輝度と均一な反射率を有する光反射体を提供することが望まれていた。一方、高い輝度の光反射体を得るために、樹脂成形の際に研磨した金型を使用して基材を作製する試みも行われていた。しかしながら、研磨した金型を用いて樹脂を成形すると、金型からの取り出しが困難になりうるため、いわゆる離型ムラが発生することがあり、歩留まりの低下を招くことになっていた。
【0003】
特許文献1には、平均粒径が10μm以下の微粉末フィラーをポリエステル樹脂に含有するポリエステル樹脂組成物を成形した光反射体が開示されている。特許文献1の光反射体は、高輝度、かつ良表面性を有するとされている。特許文献2には、平均一次粒子径が2.5μm以下の無機充填材をポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットに含有する樹脂組成物を成形した光反射体が開示されている。特許文献2の光反射体は、強度が高く、また製造の際の離型性に優れ、外観にも優れたものであるとされている。また、特許文献3には、平均粒子径0.1〜0.3μmの炭酸カルシウムをポリエステル樹脂に含有する樹脂組成物を成形した光反射体が開示されている。特許文献3の光反射体は、特に高輝度であることが謳われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−280498号公報
【特許文献2】特開2016−27148号公報
【特許文献3】特開2017−116825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの特許文献においては、各種無機フィラーが検討されているものの、さらに樹脂への分散性が高い無機フィラーに対する要求がある。さらに、無機フィラーを含有する樹脂の成形に際し優れた離型性を有し、得られた基材に設けた金属層の表面が高い光沢度を示す光反射体の開発が望まれている。
【0006】
そこで本発明の目的は、樹脂への分散性が高い無機フィラーを樹脂に分散させた混合物を効率よく成形して基材を得、この基材の表面に金属層を設けた、表面の光沢度の高い光反射体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、樹脂材料と、炭酸カルシウムと、を含む基材と、該基材の表面に設けられた金属層とを備える、光反射体にかかる。ここで、樹脂材料が、ポリエステル樹脂組成物、ポリアリレート樹脂組成物、およびこれらの混合樹脂組成物からなる群より選択され、炭酸カルシウムのBET比表面積が1〜15m/グラムであることを特徴とする。
【0008】
ここで、炭酸カルシウムは、水銀圧入法により、当該炭酸カルシウムの細孔分布を測定して得られる細孔分布曲線において、粒子間空隙径を表すピークのトップが、細孔径0.1〜1.0μmの範囲にあるものであってもよい。
【0009】
さらに、炭酸カルシウムは、電子顕微鏡を用いて、当該炭酸カルシウムの粒径分布を測定して得られる粒径分布において、粒径0.1μm以下の該炭酸カルシウムの粒子の割合が10%以下であるものであってもよい。
【0010】
またさらに、炭酸カルシウムは、目開きが45μmの篩を用いて、当該炭酸カルシウムを湿式篩して得られる残分が、0.1%以下であるものであってもよい。
【0011】
本発明に使用される炭酸カルシウムのこれらの特徴は、すべてを兼ね備えていて良い。また炭酸カルシウムは、これらの特徴の任意の組み合わせを有するものであっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、無機フィラーとして特定の炭酸カルシウムを用いて基材を成形することにより、無機フィラーの分散性が高く、したがって外観に優れた光反射体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0014】
実施形態は、樹脂材料と、炭酸カルシウムと、を含む基材と、該基材の表面に設けられた金属層とを備える、光反射体である。実施形態において、基材とは、概して平板の、特定の厚みを有する成形品のことである。基材の形状は、概ね平板の形状をしていれば、用途に応じて如何ようにも変更することができる。
【0015】
実施形態で用いる樹脂材料は、単一の高分子材料または複数の高分子材料の混合物である。樹脂材料は、ポリエステル樹脂組成物、ポリアリレート樹脂組成物、およびこれらの混合樹脂組成物からなる群より選択されることが好ましい。ポリエステル樹脂とは、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合物からなるポリエステル類およびこれらの混合物である。ポリエステル樹脂としては、特に芳香族ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。芳香族ポリエステル樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)、ポリ(シクロヘキサン−1,4−ジメチレン−テレフタレート)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。さらに、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレートコポリマーや、ポリアルキレンテレフタレーを主成分とするポリアルキレンテレフタレート混合物を挙げることができる。さらに、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のエラストマー成分を含有又は共重合したものを用いてもよい。ポリアルキレンテレフタレートの混合物としては、たとえば、PBTとPBT以外のポリアルキレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT以外のアルキレンテレフタレートコポリエステルとの混合物が挙げられる。なかでも、PBTとPETとの混合物や、PBTとポリトリメチレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT/ポリアルキレンイソフタレートとの混合物などが好ましい。
【0016】
ポリアリレート樹脂は、2価フェノールと二塩基酸との重縮合物からなるポリアリレート類およびこれらの混合物であり、非晶質で透明のスーパーエンプラとして知られている。ポリアリレート樹脂としては、ビスフェノールAとフタル酸との重縮合物や、ポリ4,4’−イソプロピリデンジフェニレンテレフタレート/イソフタレートコポリマー等が挙げられる。ビスフェノールAとフタル酸との重縮合物は特に好適に用いられる。
【0017】
なお、ポリエステル樹脂とポリアリレート樹脂は、それぞれ単独で、または組み合わせて、実施形態で使用する樹脂材料として用いることができる。また、樹脂材料は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、およびこれらの混合物以外の樹脂を必要に応じて含むことができる。また樹脂材料は、通常の添加剤、たとえば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、繊維状強化剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、顔料を含有することができる。これらの添加剤の含量は、実施形態で使用する樹脂材料の10質量%以下であることが好ましい。
【0018】
実施形態で用いる基材は炭酸カルシウムを含む。炭酸カルシウムはCaCOの化学式で表されるカルシウムの塩である。炭酸カルシウムは、貝殻、鶏卵の殻、石灰岩、白亜などの主成分である。石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)と化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)とに分類されるが、本実施形態では、合成炭酸カルシウムが好ましく用いられる。合成炭酸カルシウムは、たとえば、水酸化カルシウムを炭酸ガスと反応させることによって製造することができる。水酸化カルシウムは、たとえば、酸化カルシウムを水と反応させることによって製造することができる。酸化カルシウムは、石灰石原石をコークスなどと混合し焼成することによって製造することができる。この場合、焼成時に炭酸ガスが発生するので、この炭酸ガスを水酸化カルシウムの水懸濁液中に吹き込み、炭酸ガスを水酸化カルシウムと反応させることによって炭酸カルシウムを製造することができる。このほか、炭酸ナトリウムを含むスラリー(緑液)に水酸化カルシウムを反応させる苛性化反応や、アンモニアソーダ法における副生物である塩化カルシウム溶液を炭酸ナトリウムまたは炭酸アンモニウム溶液と反応させる方法、あるいは、石灰焼成炉排ガスの炭酸化法により合成炭酸カルシウムを得ることもできる。
【0019】
合成炭酸カルシウムには、カルサイト結晶、アラゴナイト結晶、パテライト結晶等の結晶形があるが、特にカルサイト結晶の合成炭酸カルシウムを用いることが好ましい。また、合成炭酸カルシウムの粒子は、球状のほか、略立方体、紡錘状、針状等の形状を有していることが好ましい。
【0020】

実施形態で使用する炭酸カルシウムは、必要に応じて、表面処理されていてもよい。表面処理としては、脂肪酸や樹脂酸などの有機酸による表面処理、シリカ処理、縮合リン酸処理、シラン系処理剤や有機チタネート等による処理が挙げられる。これらの表面処理は、併用されていてもよい。シラン系処理剤としては、シランカップリング剤、有機ケイ素化合物単量体(モノマー)、変性シリコーンオイルやこれらの低重合体(オリゴマー)等が挙げられる。
【0021】
実施形態において、炭酸カルシウムは、上記の樹脂材料に添加して用いる無機フィラーである。炭酸カルシウムは、無機フィラーとして従来用いられている硫酸バリウムやタルク等と比較して比重が小さい。このため、無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いることにより、実施形態の光反射体を軽量化することができる。なお、実施形態で使用する炭酸カルシウムは、単独で用いることが最も好ましいが、必要に応じて、硫酸バリウムやタルク等の無機フィラーを混合しても良い。
【0022】
実施形態で使用する炭酸カルシウムは、BET比表面積が1〜15m/グラムであることが好ましい。BET比表面積は、物質に、吸着占有面積のわかった気体分子(窒素等)を吸着させ、その量を測定することにより求めることができる。炭酸カルシウムのBET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。実施形態で使用する炭酸カルシウムのBET比表面積は、1〜15m/グラムであることが好ましく、より好ましくは3〜15m/グラム、さらに好ましくは4〜15m/グラムである。BET比表面積が大きすぎると、粒子同士が凝集して粗大粒子を形成して、樹脂成形品の表面にフィラー浮きを生じさせ、光反射体の光沢度が低下する。一方、BET比表面積が小さすぎると、一次粒子が大きくなり、BET比表面積が大きすぎる場合と同様に、樹脂成形品の表面にフィラー浮きを生じさせ、光反射体の光沢度が低下する。
【0023】
実施形態において、水銀圧入法により、当該炭酸カルシウムの細孔分布を測定して得られる細孔分布曲線において、粒子間空隙径を表すピークのトップが、細孔径0.1〜1.0μmの範囲にあることが好ましい。ここで水銀圧入法による細孔分布測定とは、物質の細孔に水銀を浸入させるために圧力を加え、圧力と圧入された水銀量から、物質に存在する細孔の分布を求める方法である。水銀圧入法による細孔分布は、水銀圧入式細孔径測定装置(ポロシメーター)を用いて測定することができ、得られる細孔分布曲線は、横軸が細孔径、縦軸が粒子数で表される。水銀圧入法にて実施形態に使用する炭酸カルシウムの細孔分布を測定すると、炭酸カルシウム粒子自体に存在する細孔径に基づくピークと、炭酸カルシウムの粒子の間の径(粒子間空隙径)に基づくピークとが観察され、通常は、粒子間空隙径に基づくピークのほうが大きい。この粒子間空隙径に基づくピークのトップが細孔径0.1〜1.0μmの範囲にあることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.5μm、さらに好ましくは、0.1〜0.3μmである。粒子間空隙径に基づくピークトップが細孔径0.1〜1.0μmの範囲にあることは、炭酸カルシウムの粒子と粒子との間の距離がほぼ揃っていることを意味する。粒子間空隙径のピークトップが大きすぎると、一次粒子が大きくなり、樹脂成形品の表面にフィラー浮きを生じさせ、光反射体の光沢度が低下する。一方、粒子間空隙径のピークトップが小さすぎると、一次粒子が小さくなり、粒子同士が凝集して粗大粒子を形成して、樹脂成形品の表面にフィラー浮きを生じさせ、光反射体の光沢度が低下する。
【0024】
実施形態において、炭酸カルシウムは、電子顕微鏡を用いて、当該炭酸カルシウムの粒径分布を測定して得られる粒径分布において、粒径0.1μm以下の該炭酸カルシウムの粒子の割合が10%以下であることが好ましい。電子顕微鏡を用いた粒径分布の測定とは、透過型電子顕微鏡(TEM)にて、200〜1000個の粒子がカウントできる倍率で粒子を観察し、市販の画像解析式粒度分布測定ソフトを用いて、200〜1000個の粒子を定方向に計測してフェレ径(定方向接線径)を測定し、粒子の個数分布を測定するものである。得られる粒径分布曲線は、横軸が粒径、縦軸が粒子数で表される。電子顕微鏡を用いて粒子のフェレ径を直接観察して求めた粒径分布において、粒径が0.1μm以下の炭酸カルシウムの粒子の割合が10%以下であることが好ましい。より好ましくは8%以下、さらに好ましくは5%以下である。この方法で測定された粒径分布において、粒径が0.1μm以下の炭酸カルシウムの粒子の割合が10%以下であることは、すなわち、炭酸カルシウムの一次粒子の径がよく揃っていることを意味する。粒径が0.1μm以下の炭酸カルシウムの粒子の割合が多すぎることは、微細な粒子が多いことを意味するほか、粒径の分布が広いことを意味し、凝集体の形成が促進され、樹脂成形品の表面にフィラー浮きを生じさせ、光反射体の光沢度が低下する。
【0025】
実施形態において、炭酸カルシウムは、目開きが45μmの篩を用いて、湿式篩して得られる残分が、0.1%以下であることが好ましい。湿式篩とは、粉体を分級する方法の一つであり、特に粉体を液体に分散させたスラリーを篩に通して粗大な粒子を除去する方法である。実施形態で使用する炭酸カルシウムは、日本工業規格JIS K 5101−14−ふるい残分(湿式法)に準拠して、目開き45μmの篩を用いて湿式篩を行ったときに、残分の質量が0.1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。このような方法による湿式篩残分が0.1%以下であることは、炭酸カルシウムの粒子の中に粗大粒子、凝集粒子等の巨大粒子がほぼ含まれていないことを意味する。湿式篩残分が0.1%を超えると、粗大粒子、凝集粒子等の巨大粒子が多く、また粒子径も揃っていないことを意味し、樹脂成形品の表面にフィラー浮きを生じさせ、光反射体の光沢度が低下する。
【0026】
上記のような炭酸カルシウムは製造することが可能である。たとえば、結晶核の役割を担う炭酸カルシウム、たとえば、炭酸ガス化合法等により合成された炭酸カルシウムをオストワルド熟成によって粒子を成長させて得ることができ、この炭酸カルシウムの粒子に水酸化カルシウムを加えた、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムの混合スラリーを炭酸ガスが充てんされた反応槽に霧状に導入することを複数回繰り返すことにより凝集粒子を抑制しつつ粒子成長を促すことで、実施形態で使用できる、分散性の良好な炭酸カルシウム粒子を得ることができる。あるいは、通常の方法により得た炭酸カルシウムを遠心分離法により分級し、上記の条件を満たす粒径分布を有する炭酸カルシウムを得ることもできる。さらに通常の方法により炭酸カルシウムを得る際に、たとえば、フラッシュドライヤーに代表される様な、急速に流れる熱空気中に湿潤原料を投入して瞬間的に乾燥させる乾燥方法を使用することができる。乾燥した炭酸カルシウムをさらに強制渦方式分級機で凝集体などの粗大粒子を除去することができ、その分級の際に分級ロータの回転速度を周速10m/s以上とすることで、実施形態に規定する粒径分布を有する炭酸カルシウムを得ることも、また可能である。なお、上記の条件を満たす炭酸カルシウムは、合成することも可能であるが、市販品として、ブリリアント1500F(白石工業株式会社)等を利用することもできる。
【0027】
実施形態で使用する基材は、樹脂材料と炭酸カルシウムとを含む。実施形態において、樹脂材料100質量部に対し、炭酸カルシウム1〜40質量部を混合することが好ましい。炭酸カルシウムの配合量は、樹脂材料100質量部に対して、3〜30質量部とすることがさらに好ましく、5〜20質量部とすることが特に好ましい。炭酸カルシウムの配合量が少なすぎる場合、多すぎる場合とも、成形された基材の表面の平滑性が失われ、したがって光反射体の輝度を高めることが困難になりうる。
【0028】
実施形態において、樹脂材料と炭酸カルシウムを、従来から公知の方法により混合、混練することができる。混合・混練方法としては、たとえば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機を用いる方法により行うことができる。混練時の加熱温度は、使用する樹脂材料の融点や、炭酸カルシウムの配合等により変わりうるが、適宜選択して決定することができる。なお、実施形態の基材は、樹脂材料と炭酸カルシウムのほか、基材を成形するにあたり必要な添加剤を含むことができる。
【0029】
実施形態で使用する基材は、炭酸カルシウムを配合した樹脂材料を成形することにより製造することができる。成形方法は、特に限定されるものではなく、従来から公知の成形方法を用いることができる。具体的には、射出成形、ガスアシスト射出成形、中空成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形、回転成形等の方法が挙げられる。これらの中でも、特に、射出成形法が好ましく用いられる。
【0030】
実施形態で使用する基材の表面には金属層が設けられている。金属層は、電解めっき、無電解めっき等の湿式めっき法のほか、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理気相成長法ならびにプラズマCVD、熱CVD、有機金属CVD、光CVD等の化学気相成長法に分類される乾式めっき法により、基材の表面に設けることができる。金属層は、基材の上に直接形成することが好ましい。これにより、製造工程を簡略化することができる。ただし、必要に応じて、基材の上にアンダーコートやプライマー処理を施した後、金属層を形成してもよい。金属層を構成する金属として、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、銀等を挙げることができるが、これらのなかではアルミニウムを用いることが特に好ましい。アルミニウムで構成された金属層は、光をよく反射し、実施形態の光反射体の表面上で光反射層として機能する。
【0031】
金属層は、本発明の目的を損なわない範囲で、意匠を施すことを目的とした被覆層や、帯電防止層等を有していても良い。
【0032】
実施形態で使用する基材の表面に設けられる金属層の厚みは、特に限定されるものではないが、10〜100nm、好ましくは30〜90nm、さらに好ましくは50〜80nmとすることができる。金属層の厚みは、実施形態の光反射体に求められる反射性能や外観ならびに意匠に要求される条件等に応じて、適宜決定することができる。
【0033】
実施形態の光反射体は、基材の上に金属層を設けることにより製造することができる。実施形態の光反射体は、自動車用等のランプにおけるハウジング、リフレクター、エクステンションとして、特に好ましく用いることができる。但し、本発明の光反射体の用途は、これに限定されるものではなく、家電、照明器具、玩具、家具等のあらゆる分野に用いられる光反射体にも適用することができる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[炭酸カルシウムの分散性の評価]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(ノバデュラン、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)100質量部と炭酸カルシウム(白石工業株式会社)10質量部とを配合し、ブレンダーで均一に混合した後、シリンダー温度250℃で二軸押出機に投入し、ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを射出成形機で射出成形して、基材となる平板成形品(60mm×60mm×2mm)を得た。得られた成形品をダイヤモンドカッターまたはガラスカッターで断面を形成し、断面を光学顕微鏡で観察した。断面に凝集物があるかどうかを目視により評価した。評価は、以下の4段階:凝集物が認められない:A、凝集物がわずかに認められる:B、凝集物が認められる:C、凝集物が多数認められる:Dにより行った。
【0036】
[成形品表面の外観評価]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(ノバデュラン、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)100質量部と炭酸カルシウム(白石工業株式会社)10質量部とを配合し、ブレンダーで均一に混合した後、シリンダー温度250℃で二軸押出機に投入し、ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを射出成形機で射出成形して、基材となる平板成形品(60mm×60mm×2mm)を得た。この際、射出成形用の金型として、#3000番のやすりにより研磨した鏡面を片面に持つ金型を使用し、成形時のシリンダー温度260℃、金型温度60℃、成形サイクルタイム40秒間とした。ちなみに、この成形条件は、成形品の表面に無機フィラー浮きが生じやすい、低速射出速度条件である。得られた成形品の鏡面側の表面を観察し、無機フィラーの浮きによる不良(白化、表面の荒れ)があるかどうか目視により評価した。評価は以下の4段階:白化、表面の荒れが認められない:A、白化、表面の荒れがわずかに認められる:B、白化、表面の荒れが認められる:C、白化、表面の荒れが多数認められる:Dにより行った。
【0037】
[アルミニウム蒸着面の光沢度の測定]
上記の成形品表面の外観評価を行った成形品の鏡面側の表面にアルミニウムを蒸着させた。アルミニウムの蒸着は、実験用小型蒸着装置(アルバック社)を用いた真空蒸着法により行い、厚み80nmのアルミニウム層を形成した。光沢度の測定は、日本工業規格JIS Z 8741鏡面光沢度測定方法に準拠した平行光方式の光沢計を使用して行った。
【0038】
実施例、比較例ならびに参考例で無機フィラーとして使用した炭酸カルシウムの性状は表1に示した。なお、表1中、「BET比表面積」は、JIS Z 8830に従い測定した比表面積を表し;「粒子間空隙径ピークトップ」は、水銀圧入法により、測定した当該炭酸カルシウムの細孔分布曲線において、粒子間空隙径を表すピークのトップを表し;「粒径0.1μm以下の割合」は、電子顕微鏡を用いて、当該炭酸カルシウムの粒径分布を測定して得られる粒径分布において、粒径0.1μm以下の当該炭酸カルシウムの粒子の割合を表し;「湿式篩残分」は、目開きが45μmの篩を用いて、湿式篩して得られる残分の質量割合を表す。なお、表1に示された炭酸カルシウムは、いずれも表面無処理の合成炭酸カルシウムであり、カルサイト結晶の球状の粒子である。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明の条件を満たす炭酸カルシウムを使用した成形品(実施例1〜3)は、無機フィラーの分散性に優れ、成形品の表面の外観が良好であり、アルミニウム蒸着面の光沢度が高い。これに対し、BET比表面積、粒子間空隙径ピークトップ、粒径0.1μm以下の割合の条件を満たしていない比較例1の成形品は、無機フィラーの分散性が悪く、成形品の表面の外観も不良であり、光沢度も低かった。
【要約】      (修正有)
【課題】樹脂への分散性が高い無機フィラーを樹脂に分散させた混合物を効率よく成形して基材を得、この基材の表面に金属層を設けた、表面の光沢度の高い光反射体を提供すること。
【解決手段】樹脂材料と、炭酸カルシウムと、を含む基材と、該基材の表面に設けられた金属層とを備える、光反射体であって、該樹脂材料が、ポリエステル樹脂組成物、ポリアリレート樹脂組成物、およびこれらの混合樹脂組成物からなる群より選択され、該炭酸カルシウムのBET比表面積が1〜15m/グラムであることを特徴とする、前記光反射体を提供する。
【選択図】なし