(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一の実施の形態>
第一の実施の形態の鉄道車両用制振装置V1は、鉄道車両の車体Bの制振装置として使用され、
図1および
図2に示すように、モータ15で駆動されるポンプ12からの作動液体の供給により伸縮可能なアクチュエータAと、アクチュエータAを制御するコントローラC1とを備えて構成されている。
【0020】
アクチュエータAは、詳細には、鉄道車両の場合、車体Bの下方に垂下されるピンPに連結され、車体Bと台車Tとの間で対を成して並列に介装されている。台車Tは、車輪Wを回転自在に保持しており、車体Bと台車Tとの間には、枕ばねと称される懸架ばねSが介装され、車体Bが弾性支持されることにより、台車Tに対する車体Bの横方向への移動が許容されている。
【0021】
そして、これらのアクチュエータAは、基本的には、コントローラC1によるアクティブ制御で車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の振動を抑制するようになっている。
【0022】
コントローラC1は、加速度センサ40が検知する車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の加速度αに基づいて、アクチュエータAが発生すべき目標推力Frefを求め、各アクチュエータAに目標推力Fref通りの推力を発生させる指令を与える。このようにして、鉄道車両用制振装置V1は、アクチュエータAに目標推力Frefを発揮させて車体Bの前記横方向の振動を抑制する。
【0023】
つづいて、アクチュエータAの具体的な構成について説明する。なお、アクチュエータAは、台車Tに対して一つ設けられても、複数設けられていてもよい。アクチュエータAが複数設けられる場合、コントローラC1で全部のアクチュエータAを制御してもよいし、アクチュエータA毎にコントローラC1を設けてもよい。
【0024】
アクチュエータAは、本例では
図2に示すように、鉄道車両の車体Bと台車Tの一方に連結されるシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3と、シリンダ2内に挿入されて車体Bと台車Tの他方とピストン3とに連結されるロッド4と、作動液体を貯留するタンク7と、タンク7から作動液体を吸い上げてロッド側室5へ作動液体を供給可能なポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、アクチュエータAの伸縮の切換と推力を制御する液圧回路HCとを備えており、片ロッド型のアクチュエータとして構成されている。
【0025】
また、前記ロッド側室5とピストン側室6には、本例では、作動液体として作動油が充填されるとともに、タンク7には、作動油の他に気体が充填されている。なお、タンク7内は、特に、気体を圧縮して充填して加圧状態とする必要は無い。また、作動液体は、作動油以外にも他の液体を利用してもよい。
【0026】
液圧回路HCは、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8に設けた切換弁としての第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10に設けた切換弁としての第二開閉弁11と、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22とを備えている。
【0027】
そして、基本的には、第一開閉弁9で第一通路8を連通状態とし、第二開閉弁11を閉じてポンプ12を駆動すると、アクチュエータAが伸長し、第二開閉弁11で第二通路10を連通状態とし、第一開閉弁9を閉じてポンプ12を駆動すると、アクチュエータAが収縮する。
【0028】
以下、アクチュエータAの各部について詳細に説明する。シリンダ2は筒状であって、その
図2中右端は蓋13によって閉塞され、
図2中左端には環状のロッドガイド14が取り付けられている。また、前記ロッドガイド14内には、シリンダ2内に移動自在に挿入されるロッド4が摺動自在に挿入されている。このロッド4は、一端をシリンダ2外へ突出させており、シリンダ2内の他端をシリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3に連結している。
【0029】
なお、ロッドガイド14の外周とシリンダ2との間は図示を省略したシール部材によってシールされており、これによりシリンダ2内は密閉状態に維持されている。そして、シリンダ2内にピストン3によって区画されるロッド側室5とピストン側室6には、前述のように作動油が充填されている。
【0030】
また、このアクチュエータAの場合、ロッド4の断面積をピストン3の断面積の二分の一にして、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積がピストン側室6側の受圧面積の二分の一となるようになっている。よって、伸長作動時と収縮作動時とでロッド側室5の圧力を同じにすると、伸縮の双方で発生される推力が等しくなり、アクチュエータAの変位量に対する作動油量も伸縮両側で同じとなる。
【0031】
詳しくは、アクチュエータAを伸長作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6を連通させた状態とする。すると、ロッド側室5内とピストン側室6内の圧力が等しくなり、アクチュエータAは、ピストン3におけるロッド側室5側とピストン側室6側の受圧面積差に前記圧力を乗じた推力を発生する。反対に、アクチュエータAを収縮作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6との連通を断ちピストン側室6をタンク7に連通させた状態とする。すると、アクチュエータAは、ロッド側室5内の圧力とピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積を乗じた推力を発生する。
【0032】
要するに、アクチュエータAの発生推力は伸縮の双方でピストン3の断面積の二分の一にロッド側室5の圧力を乗じた値となるのである。したがって、このアクチュエータAの推力を制御する場合、伸長作動、収縮作動共に、ロッド側室5の圧力を制御すればよい。また、本例のアクチュエータAでは、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しているので、伸縮両側で同じ推力を発生する場合に伸長側と収縮側でロッド側室5の圧力が同じとなるので制御が簡素となる。加えて、変位量に対する作動油量も同じとなるので伸縮両側で応答性が同じとなる利点がある。なお、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しない場合にあっても、ロッド側室5の圧力でアクチュエータAの伸縮両側の推力を制御できる点は変わらない。
【0033】
戻って、ロッド4の
図2中左端とシリンダ2の右端を閉塞する蓋13とには、図示しない取付部を備えており、このアクチュエータAを鉄道車両における車体Bと台車Tとの間に介装できるようになっている。
【0034】
そして、ロッド側室5とピストン側室6とは、第一通路8によって連通されており、この第一通路8の途中には、第一開閉弁9が設けられている。この第一通路8は、シリンダ2外でロッド側室5とピストン側室6とを連通しているが、ピストン3に設けられてもよい。
【0035】
第一開閉弁9は、電磁開閉弁とされており、第一通路8を開放してロッド側室5とピストン側室6とを連通する連通ポジションと、第一通路8を遮断してロッド側室5とピストン側室6との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第一開閉弁9は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
【0036】
つづいて、ピストン側室6とタンク7とは、第二通路10によって連通されており、この第二通路10の途中には、第二開閉弁11が設けられている。第二開閉弁11は、電磁開閉弁とされており、第二通路10を開放してピストン側室6とタンク7とを連通する連通ポジションと、第二通路10を遮断してピストン側室6とタンク7との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第二開閉弁11は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
【0037】
ポンプ12は、コントローラC1に制御されて所定の回転数で回転するモータ15によって駆動され、一方向のみに作動油を吐出するギヤポンプとされている。そして、ポンプ12の吐出口は供給通路16によってロッド側室5へ連通されるとともに吸込口はタンク7に通じていて、ポンプ12は、モータ15によって駆動されるとタンク7から作動油を吸込んでロッド側室5へ作動油を供給する。
【0038】
前述のようにポンプ12は、一定の回転数で回転するように制御され、一方向のみに作動油を吐出するのみで回転方向の切換動作がないので、回転切換時に吐出量が変化するといった問題は皆無である。さらに、ポンプ12の回転方向が常に同一方向であるので、ポンプ12を駆動する駆動源であるモータ15にあっても回転切換に対する高い応答性が要求されず、その分、モータ15も安価なものを使用できる。なお、供給通路16の途中には、ロッド側室5からポンプ12への作動油の逆流を阻止する逆止弁17が設けられている。なお、モータ15は、コントローラC1によって制御される図示しないインバータ回路から電力供給を受けて駆動される。
【0039】
さらに、本例の液圧回路HCは、前述したように、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21と、排出通路21の途中に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22を備えている。
【0040】
可変リリーフ弁22は、本例では、比例電磁リリーフ弁とされており、供給される電流に応じて開弁圧を調節でき、前記電流が最大となると開弁圧を最小とし、電流の供給がないと開弁圧を最大とするようになっている。
【0041】
このように、排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、アクチュエータAを伸縮作動させる際に、ロッド側室5内の圧力を可変リリーフ弁22の開弁圧に調節でき、アクチュエータAの推力を可変リリーフ弁22へ供給する電流で制御できる。排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、アクチュエータAの推力を調節するために必要なセンサ類が不要となり、ポンプ12の吐出流量の調節のためにモータ15を高度に制御する必要もなくなる。よって、鉄道車両用制振装置V1が安価となり、ハードウェア的にもソフトウェア的にも堅牢なシステムを構築できる。
【0042】
なお、第一開閉弁9を開いて第二開閉弁11を閉じる場合或いは第一開閉弁9を閉じて第二開閉弁11を開く場合、ポンプ12の駆動状況に関わらず、外力からの振動入力に対して伸長或いは収縮のいずれか一方にのみアクチュエータAが減衰力を発揮できる。よって、たとえば、減衰力を発揮する方向が鉄道車両の台車Tの振動により車体Bを加振する方向である場合、そのような方向には減衰力を出さないようにアクチュエータAを片効きのダンパと機能させ得る。よって、このアクチュエータAは、カルノップのスカイフック理論に基づくセミアクティブ制御を容易に実現できるため、セミアクティブダンパとしても機能できる。
【0043】
なお、可変リリーフ弁22に与える電流で開弁圧を比例的に変化させる比例電磁リリーフ弁を用いると開弁圧の制御が簡単となるが、開弁圧を調節できる可変リリーフ弁であれば比例電磁リリーフ弁に限定されない。
【0044】
そして、可変リリーフ弁22は、第一開閉弁9および第二開閉弁11の開閉状態に関わらず、アクチュエータAに伸縮方向の過大な入力があって、ロッド側室5の圧力が開弁圧を超える状態となると、排出通路21を開放する。このように、可変リリーフ弁22は、ロッド側室5の圧力が開弁圧以上となると、ロッド側室5内の圧力をタンク7へ排出するので、シリンダ2内の圧力が過大となるのを防止してアクチュエータAのシステム全体を保護する。よって、排出通路21と可変リリーフ弁22を設けると、システムの保護も可能となる。
【0045】
なお、本例のアクチュエータAにおける液圧回路HCには、前述の構成に加えて、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路19を備えている。よって、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態でアクチュエータAが伸縮すると、シリンダ2内から作動油が押し出される。そして、シリンダ2内から排出された作動油の流れに対して可変リリーフ弁22が抵抗を与えるので、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態では、本例のアクチュエータAはユニフロー型のダンパとして機能する。
【0046】
より詳細には、整流通路18は、ピストン側室6とロッド側室5とを連通しており、途中に逆止弁18aが設けられ、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。さらに、吸込通路19は、タンク7とピストン側室6とを連通しており、途中に逆止弁19aが設けられ、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。なお、整流通路18は、第一開閉弁9の遮断ポジションを逆止弁とすると第一通路8に集約でき、吸込通路19についても、第二開閉弁11の遮断ポジションを逆止弁とすると第二通路10に集約できる。
【0047】
このように構成されたアクチュエータAでは、第一開閉弁9と第二開閉弁11がともに遮断ポジションを採っても、整流通路18、吸込通路19および排出通路21で、ロッド側室5、ピストン側室6およびタンク7を数珠繋ぎに連通させる。また、整流通路18、吸込通路19および排出通路21は、一方通行の通路に設定されている。よって、アクチュエータAが外力によって伸縮すると、シリンダ2から必ず作動油が排出されて排出通路21を介してタンク7へ戻され、シリンダ2で足りなくなる作動油は吸込通路19を介してタンク7からシリンダ2内へ供給される。この作動油の流れに対して前記可変リリーフ弁22が抵抗となってシリンダ2内の圧力を開弁圧に調節するので、アクチュエータAは、パッシブなユニフロー型のダンパとして機能する。
【0048】
また、アクチュエータAの各機器への通電が不能となるようなフェール時には、第一開閉弁9と第二開閉弁11のそれぞれが遮断ポジションを採り、可変リリーフ弁22は、開弁圧が最大に固定された圧力制御弁として機能する。よって、このようなフェール時には、アクチュエータAは、自動的に、パッシブダンパとして機能する。
【0049】
つづいて、アクチュエータAに所望の伸長方向の推力を発揮させる場合、コントローラC1は、基本的には、モータ15を回転させてポンプ12を所定の回転数で回転駆動し、シリンダ2内へ作動油を供給する。そして、第一開閉弁9を連通ポジションとし、第二開閉弁11を遮断ポジションとする。このようにすると、ロッド側室5とピストン側室6とが連通状態におかれて両者にポンプ12から作動油が供給され、ピストン3が
図2中左方へ押されアクチュエータAは伸長方向の推力を発揮する。ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力が可変リリーフ弁22の開弁圧を上回ると、可変リリーフ弁22が開弁して作動油が排出通路21を介してタンク7へ排出される。よって、ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力は、可変リリーフ弁22に与える電流で決まる可変リリーフ弁22の開弁圧にコントロールされる。そして、アクチュエータAは、ピストン3におけるピストン側室6側とロッド側室5側の受圧面積差に可変リリーフ弁22によってコントロールされるロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力を乗じた値の伸長方向の推力を発揮する。
【0050】
これに対して、アクチュエータAに所望の収縮方向の推力を発揮させる場合、コントローラC1は、モータ15を回転させてポンプ12からロッド側室5内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を遮断ポジションとし、第二開閉弁11を連通ポジションとする。このようにすると、ピストン側室6とタンク7が連通状態におかれるとともにロッド側室5にポンプ12から作動油が供給されるので、ピストン3が
図2中右方へ押されアクチュエータAは収縮方向の推力を発揮する。そして、前述と同様に、可変リリーフ弁22の電流を調節すると、アクチュエータAは、ピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積と可変リリーフ弁22にコントロールされるロッド側室5内の圧力を乗じた収縮方向の推力を発揮する。
【0051】
ここで、ポンプ12における作動油を押し出すギヤは、ロッド側室5内の圧力に応じた抵抗を受けるため、ポンプ12を回転駆動するモータ15は、ロッド側室5内の圧力に見合ったトルクを出力する。つまり、モータ15が出力するトルクは、ロッド側室5内の圧力に比例する関係にあり、モータ15の出力トルクが分かれば、ロッド側室5内の圧力を推定できる。そして、前述したように、アクチュエータAは、伸長する場合も収縮する場合も、ロッド側室5内の圧力に応じた推力を発揮するので、モータ15の出力トルクが分かれば、アクチュエータAが発揮する推力を推定できる。
【0052】
また、前述したところから理解できるように、第一開閉弁9と第二開閉弁11は、アクチュエータAが推力を発揮する際の伸縮方向を切換える切換弁として機能している。
【0053】
なお、本例のアクチュエータAにあっては、アクチュエータとして機能するのみならず、モータ15の駆動状況に関わらず、第一開閉弁9と第二開閉弁11の開閉のみでダンパとしても機能できる。また、アクチュエータAをアクチュエータからダンパへ切換える際に、面倒かつ急峻な第一開閉弁9と第二開閉弁11の切換動作を伴わないので、応答性および信頼性が高いシステムを提供できる。
【0054】
また、本例のアクチュエータAにあっては、片ロッド型に設定されているので、両ロッド型のアクチュエータに比較してストローク長を確保しやすく、アクチュエータの全長が短くなって、鉄道車両への搭載性が向上する。
【0055】
本例のアクチュエータAにおけるポンプ12からの作動油供給および伸縮作動による作動油の流れは、ロッド側室5、ピストン側室6を順に通過して最終的にタンク7へ還流するようになっている。そのため、ロッド側室5あるいはピストン側室6内に気体が混入しても、アクチュエータAの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、推力発生の応答性の悪化を阻止できる。したがって、アクチュエータAの製造にあたって、面倒な油中での組立や真空環境下での組立を強いられず、作動油の高度な脱気も不要となるので、生産性が向上するとともに製造コストを低減できる。さらに、ロッド側室5あるいはピストン側室6内に気体が混入しても、気体は、アクチュエータAの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、性能回復のためのメンテナンスを頻繁に行う必要もなくなり、保守面における労力とコスト負担を軽減できる。
【0056】
なお、アクチュエータAの構成は、以上に限定されるものではなく、たとえば、シリンダとポンプとの間に、ポンプをシリンダの伸側室と圧側室のいずれか一方を選択して連通可能な切換弁を設けるといった構成の採用も可能である。このような構成としても、ポンプが作動油を供給している室内の圧力の抵抗を受けるので、ポンプを駆動するモータの出力トルクからアクチュエータAの推力を推定できる。
【0057】
つづいて、本例のコントローラC1は、
図3に示すように、加速度センサ40が検知する車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の加速度αに基づいてアクチュエータAが出力すべき目標推力Frefを求める目標推力演算部41と、モータ15の電流からアクチュエータAの推力を推定する推定部42と、目標推力Frefと推定推力Fmとの偏差εから可変リリーフ弁22へ与える電流に応じた指令電圧Vを求めるリリーフ弁制御部43と、モータ15を所定の回転数で駆動制御するモータ制御部44と、指令電圧Vに基づいて可変リリーフ弁22を駆動するリリーフ弁駆動部45と、第一開閉弁9、第二開閉弁11を駆動制御する開閉弁駆動部46とを備えている。
【0058】
目標推力演算部41は、加速度センサ40が検知する加速度αに含まれる曲線走行時の定常加速度、ドリフト成分やノイズを除去するバンドパスフィルタで加速度を処理して、アクチュエータAが発揮すべき目標推力Frefを求める。目標推力演算部41は、本例では、H∞制御器とされており、加速度αから車体Bの振動を抑制するためにアクチュエータAが出力すべき推力を指示する目標推力Frefを求める。なお、目標推力Frefは、方向により正負の符号が付されており、符号はアクチュエータAに出力させるべき推力の方向を示す。
【0059】
モータ制御部44は、モータ15の回転数を監視しており、モータ15の回転数をフィードバック(速度フィードバック)して、ポンプ12を前述した所定の回転数で回転駆動するようにモータ15を制御する。より詳細には、モータ制御部44は、ポンプ12を所定の回転数で回転させるためのモータ15の目標回転数とモータ15の実際の回転数との偏差からモータ15へ与える電流指令を生成して、モータ15を制御する。このように、モータ制御部44は、モータ15の回転数が目標回転数となるようにモータ15を制御する。
【0060】
推定部42は、アクチュエータAが発揮している推力を推定し、推定推力Fmを求める。具体的には、まず、推定部42は、モータ15に流れる電流を検知して、この電流からアクチュエータAの推力の大きさを推定する。前述のように、ポンプ12がロッド側室5内の圧力の抵抗を受ける関係にあるため、モータ15のトルクとアクチュエータAの推力とは、ほぼ比例関係にある。モータ15のトルクは、モータ15のTI特性からモータ15に流れる電流から求められる。よって、モータ15に流れる電流からアクチュエータAの推力の大きさを求め得る。本例では、モータ15のトルクとアクチュエータAの実際の推力を計測して、
図4に示すように、モータ15のトルクとアクチュエータAの実際の推力との関係を予め把握しておく。そして、この関係を数式化するか、或いは、マップ化しておけば、モータ15に流れる電流からトルクを求め、求めたトルクから容易にアクチュエータAの推力の大きさを推定できる。数式化に際しては、たとえば、最小二乗法等を用いて近似式を得て、この近似式を数式として用いればよい。なお、
図4で、モータ15のトルクがt1以上とならないとアクチュエータAの推力が発揮されないのは、アクチュエータA、ポンプ12およびモータ15の摩擦に起因している。このようにして、アクチュエータAが発揮する推力の大きさは、モータ15に流れる電流から求め得るが、アクチュエータAの推力の方向が伸長方向なのか収縮方向なのかを判定する必要がある。
【0061】
そこで、推定部42は、目標推力演算部41が求めた目標推力Frefの符号からアクチュエータAが推力を発揮すべき方向が伸長方向なのか或いは収縮方向なのかを判定する。つまり、極性を判定する。目標推力Frefは、数値がアクチュエータAの推力の大きさを、符号がアクチュエータAの推力の方向である極性を指示しており、推定部42は、符号を用いて極性判定を行う。本例では、アクチュエータAに伸長方向の推力を発揮させる場合、目標推力Frefが正の値をとり、反対に、アクチュエータAに収縮方向の推力を発揮させる場合、目標推力Frefが負の値をとるように設定してある。このように、推定部42は、モータ15の電流からアクチュエータAの推力の大きさを求め、目標推力Frefの符号から極性判定を行って、推力を推定して推定推力Fmを求める。よって、推定部42は、たとえば、モータ15の電流から求めたアクチュエータAの推力の大きさがaである場合、極性がプラスで伸長方向を示していると推定推力Fmを+aと推定し、極性がマイナスで収縮方向を示していると推定推力Fmを−aと推定する。なお、アクチュエータAに伸長方向の推力を発揮させる場合に目標推力Frefが負の値をとり、アクチュエータAに収縮方向の推力を発揮させる場合に目標推力Frefが正の値をとるように設定してもよい。
【0062】
リリーフ弁制御部43は、目標推力演算部41が求めた目標推力Frefと推定推力Fmとの偏差εから指令電圧Vを求める。本例では、リリーフ弁制御部43は、比例補償器とされており、目標推力Frefと推定推力Fmとの偏差εを求める偏差演算部43aと、偏差εを絶対値処理する絶対値処理部43bと、絶対値処理された偏差|ε|に比例ゲインKを乗じるゲイン乗算部43cと、ゲイン乗算部43cが求めた値|ε|Kからリリーフ弁駆動部45へ与える指令電圧Vを求める指令電圧演算部43dとを備えている。指令電圧演算部43dは、予め、アクチュエータAの推力とこの推力を実現するためのリリーフ弁駆動部45へ与えるべき電圧との関係をマップ或いは数式として保有している。よって、指令電圧演算部43dは、前述のマップ或いは数式を利用し、値|ε|Kをパラメータとしてリリーフ弁駆動部45への指令電圧Vを求める。
【0063】
リリーフ弁駆動部45は、可変リリーフ弁22を駆動するドライバ回路を備えており、リリーフ弁制御部43から指令電圧Vの入力を受けて、可変リリーフ弁22へ指令電圧Vに応じた電流を可変リリーフ弁22へ供給する。このようにリリーフ弁駆動部45は、可変リリーフ弁22へ供給する電流を指令電圧Vに応じて調節して、可変リリーフ弁22の開弁圧を制御する。
【0064】
開閉弁駆動部46は、目標推力演算部41が求めた目標推力Frefの符号からアクチュエータAの伸縮方向である極性を判定して、第一開閉弁9と第二開閉弁11を駆動制御する。目標推力Frefが指示するアクチュエータAの極性が伸長方向である場合、開閉弁駆動部46は、第一開閉弁9と第二開閉弁11を駆動して、第一開閉弁9を連通ポジションとし第二開閉弁11を遮断ポジションとする。他方、目標推力Frefが指示するアクチュエータAの極性が収縮方向である場合、開閉弁駆動部46は、第一開閉弁9と第二開閉弁11を駆動して、第一開閉弁9を遮断ポジションとし第二開閉弁11を連通ポジションとする。
【0065】
なお、コントローラC1における目標推力演算部41、推定部42およびリリーフ弁制御部43は、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度センサ40が出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、加速度センサ40の出力値を取り込んでアクチュエータAを制御するのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、CPUの前記プログラムの実行により実現できる。
【0066】
前述のように、第一の実施の形態の鉄道車両用制振装置V1は、モータ15で駆動されるポンプ12からの作動油の供給により伸縮可能なアクチュエータAと、モータ15の電流からアクチュエータAの推力を推定する推定部42とを有して推定部42が推定した推定推力FmをフィードバックしてアクチュエータAを制御するコントローラC1を備えている。
【0067】
よって、コントローラC1は、加速度センサ40で検知した加速度αに基づいて目標推力Frefを求め、モータ15に流れる電流に基づいてアクチュエータAの推力を推定して推定推力Fmをフィードバックして、閉ループ制御にてアクチュエータAを制御できる。
【0068】
このように、本発明の鉄道車両用制振装置V1にあっては、アクチュエータAの制御にあたり、アクチュエータAの荷重やシリンダ2内の圧力を検知するセンサを用いずとも、推定推力Fmをフィードバックする閉ループ制御を実施できる。
【0069】
よって、本発明の鉄道車両用制振装置V1によれば、外乱の入力があってもアクチュエータAの推力を目標推力Frefに追従させ得るので、高い制振効果が得られる。さらに、本発明の鉄道車両用制振装置V1によれば、閉ループ制御にあたり、アクチュエータAの荷重やシリンダ2内の圧力を検知するセンサの設置も要しないのでシステムが安価となる。以上より、本発明の鉄道車両用制振装置V1によれば、鉄道車両の車体Bの制振にあたって、高い制振効果が得られるとともに、システムも安価となる。また、鉄道車両用制振装置V1によれば、開ループ制御では可変リリーフ弁22の開弁圧の精度が要求されるのでチューニング作業が面倒であったが、閉ループ制御ではアクチュエータAの推定推力のフィードバックによって可変リリーフ弁22の開弁圧が自動的に調整されるので可変リリーフ弁22の開弁圧のチューニング作業が非常に容易となる。
【0070】
また、推定部42は、アクチュエータAの目標推力Frefに基づいて、アクチュエータAの極性を判定するので、モータ15の回転方向を一方向のみとするような場合でも、アクチュエータAの推力を推定できる。なお、アクチュエータAの構成がシリンダの伸側室と圧側室とを連通する通路の途中に双方向吐出型のポンプを設けた構成となっている場合、モータの回転方向を切換えてアクチュエータAの伸縮を切換えるようになる。このような構成のアクチュエータAの場合、推定部42は、モータに流れる電流から極性判定も行えるので、前記電流のみから推定推力Fmを求め得る。このようにアクチュエータAを構成し、推定部42がモータに流れる電流のみからアクチュエータAの推力を推定して推定推力Fmを求めてもよいが、モータが双方向に回転する場合、モータの回転方向が切換わる際に慣性の影響もあって、アクチュエータAの伸縮方向の切換わりにおいて推力が目標推力Frefに追従しづらくなる。よって、推定部42がアクチュエータAの目標推力Frefに基づいてアクチュエータAの極性を判定する場合、アクチュエータAに一方向へのみ回転駆動されるモータ15の使用が可能となり、アクチュエータAの伸縮方向の切換わりに際しても推力が目標推力Frefに追従しやすくなる。以上より、推定部42がアクチュエータAの目標推力Frefに基づいてアクチュエータAの伸縮方向である極性を判定する本例の鉄道車両用制振装置V1によれば、高応答のアクチュエータAの使用が可能となって、より高い制振効果が得られる。
【0071】
なお、前述したところでは、極性判定に目標推力演算部41が求めた目標推力Frefを利用しているが、推定部42は、切換弁としての第一開閉弁9および第二開閉弁11の動作状況、本例では、第一開閉弁9および第二開閉弁11の開閉状況から極性を判定してもよい。開閉弁駆動部46は、アクチュエータAを伸長させる場合、第一開閉弁9へ電流供給し、第二開閉弁11へは電流供給しない。また、開閉弁駆動部46は、アクチュエータAを収縮させる場合、第一開閉弁9へは電流供給せず、第二開閉弁11へ電流供給する。このように、本例では、第一開閉弁9および第二開閉弁11の開閉状況からアクチュエータAの極性を判定できる。よって、アクチュエータAの極性判定に際して、
図5に示すように、推定部42は、切換弁である第一開閉弁9および第二開閉弁11の励磁状態を監視または励磁信号により両者の動作状況を把握し、極性判定を行ってアクチュエータAの推力を推定してもよい。第一開閉弁9および第二開閉弁11が自身のポジションをセンシングする手段を有している場合には、推定部42は、前記手段から得られるポジションから切換弁である第一開閉弁9および第二開閉弁11の動作状況を把握し、極性判定を行ってもよい。要するに、推定部42は、切換弁の動作状況に基づいて極性判定を行ってもよいのである。このように鉄道車両用制振装置V1が構成される場合、アクチュエータAの伸縮方向を正確に把握できるので、アクチュエータAの推力を正確に推定できる。また、この場合も、アクチュエータAに一方向へのみ回転駆動されるモータ15の使用が可能となるから、高応答のアクチュエータAの使用が可能となって、より高い制振効果が得られる。
【0072】
なお、
図6に示すように、リリーフ弁制御部43は、偏差εを絶対値処理する絶対値処理部43bの代わりに、目標推力Frefを絶対値処理する絶対値処理部43eと推定された推定推力Fmを絶対値処理する絶対値処理部43fを備える構成とされてもよい。偏差演算部43aでは、絶対値処理された目標推力|Fref|と絶対値処理された推定推力|Fm|との偏差εを演算して、ゲイン乗算部43cと指令電圧演算部43dとでその後の処理を行えばよい。
【0073】
また、前述したところでは、リリーフ弁制御部43は、比例ゲインKを偏差εに乗じる比例パスのみを備えて比例補償のみを行うようになっているが、比例パスに加えて積分パス或いは積分パスと微分パスを追加した構成を備えていてもよい。
【0074】
さらに、本例の鉄道車両用制振装置V1は、シリンダ2と、ピストン3と、ロッド4と、タンク7と、ロッド側室5へ作動油を供給するポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8に設けた第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10に設けた第二開閉弁11と、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22と、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路19とを備えている。このように構成された鉄道車両用制振装置V1では、ポンプ12が停止されていても、アクチュエータAがスカイフックセミアクティブダンパとして機能するので、ポンプ12の停止中も制振効果が失われない。
【0075】
<第二の実施の形態>
第二の実施の形態の鉄道車両用制振装置V2は、
図7に示すように、第一の実施の形態の鉄道車両用制振装置V1とは、コントローラC2における構成が異なっている。第二の実施の形態の鉄道車両用制振装置V2では、コントローラC2は、第一の実施の形態におけるコントローラC1の構成に、目標推力Frefの周波数に基づいて推定推力Fmを補正する補正部50を加えた構成となっている。
【0076】
前述したように、本例におけるアクチュエータAのポンプ12は、ギヤポンプである。ギヤポンプは、二つのギヤが噛み合いながら回転して作動油を吸込口から吸込みつつ吐出口から吐出するようになっているが、バックラッシがある関係でギヤ同士の噛み合いの抵抗が変化する。他方、ポンプ12を駆動するモータ15は、モータ制御部44によって前述の所定の回転数で等速回転するように制御されている。よって、ポンプ12は、所定の回転数で等速回転するのであるが、ギヤ同士の噛み合いの抵抗が変化するために、モータ15は等速回転しつつもトルク自体は変動する。このトルク変動は、ポンプ12の回転とともに周期的に表れる。
【0077】
したがって、モータ制御部44からモータ15へ供給される電流も変動するので、推定部42で推定するアクチュエータAの推定推力Fmも同様に脈動するので、得られる推定推力Fmも波打つように変動する。よって、たとえば、目標推力Frefが一定値を採る場合にあっても、推定推力Fmが変動するので偏差εも変動する。比例ゲインKの値を高く設定すると、アクチュエータAの推力が目標推力Frefに追従しやすくなるのであるが、そのようにすると、推定推力Fmの変動の影響で得られる指令電圧Vも大きく波打った波形となってアクチュエータAが実際に出力する推力も大きく変動してしまう。このアクチュエータAの推力の変動は、車体Bに余計な振動を与えるので、乗心地を劣化させる一因となり得る。このように、制御性の観点から比例ゲインKを高くしたい要望があるものの、比例ゲインKの値を低く抑えないと、乗心地が劣化してしまう。乗心地の劣化は、目標推力Frefが低周波である場合に顕著となり、高周波である場合には然程問題にならない。
【0078】
そこで、第二の実施の形態の鉄道車両用制振装置V2では、推定推力Fmを補正する補正部50を備えている。補正部50は、推定部42が求めた推定推力Fmを濾波するフィルタ50aと、フィルタ50aで濾波した推定推力FmにゲインKyを乗じるゲイン乗算部50bとを備えている。
【0079】
フィルタ50aは、
図8に示すように、目標推力演算部41が求めた目標推力Frefの周波数が高くなるとゲインが高くなる特性を持つフィルタである。フィルタ50aの特性は、ゲインの最大値を0dB、最小値を−6dBとして、目標推力Frefの周波数が10Hz以上となると0dBに漸近してより高周波となると0dBに収束し、1Hz以下となると−6dBに漸近しより低周波となると−6dBに収束する特性に設定してある。また、ゲイン乗算部50bが濾波後の推定推力Fmに乗じるゲインKyは、1以下の定数に設定されている。
【0080】
よって、補正部50は、目標推力Frefの周波数が10Hz未満であると、周波数に応じて推定推力Fmの符号を除く数値が小さくなるように補正される。また、補正部50は、目標推力Frefの周波数が10Hz以上の場合には、推定推力FmにゲインKyを乗じた値に近い値を出力するようになる。目標推力Frefの周波数が10Hz以下である場合、推定推力Fmの符号を除く数値が小さく補正されるので、推定部42が推定した推定推力Fmがポンプ12の構造の影響で波打つように変動してもこの変動分の波高は小さく補正される。
【0081】
このように補正部50が推定推力Fmを補正すると、目標推力Frefの周波数が10Hz未満の低周波の場合には、リリーフ弁制御部43に入力される推定推力Fmの符号を除く数値が実際のアクチュエータAの推力の数値よりも小さくなるので、偏差演算部43aで求める偏差εは大きくなる。しかしながら、リリーフ弁制御部43におけるゲイン乗算部43cが偏差εに乗じる比例ゲインKの値は、偏差εが大きくなる分に見合って第一の実施の形態のそれよりも小さな値に設定してある。目標推力Frefの周波数が10Hz以下でフィルタ50aにおけるゲインが小さくなって偏差εが大きくなっても、指令電圧Vが過大とならずにアクチュエータAを推力が目標推力Frefに追従するように、比例ゲインKとゲインKyの双方をチューニングしてある。
【0082】
このように、補正部50を設けると、目標推力Frefの周波数が10Hz未満の低周波の場合には、補正後の推定推力Fmの変動が抑えられるため、指令電圧Vの変動も抑制され、アクチュエータAの推力を目標推力Frefに高精度で追従させ得る。
【0083】
他方、目標推力Frefの周波数が10Hz以上の高周波の場合には、補正部50が推定推力Fmの符号を除く数値を小さく補正して偏差εが大きくなると、指令電圧Vが過大となってしまう。しかしながら、目標推力Frefの周波数が10Hz以上の高周波の場合には、補正部50は、推定部42が推定した推定推力FmにゲインKyを乗じた値を出力するようになるので、推定推力Fmと補正後の推定推力Fmとに差が然程生じないようになる。よって、リリーフ弁制御部43に入力される推定推力Fmは、実際にアクチュエータAが出力している推力に近い値となる。目標推力Frefが高周波である場合、推定部42で推定する推定推力Fmのポンプ12の構造の影響による変動がコントローラC2における制御に与える悪影響が少ない。以上から、目標推力Frefの周波数が10Hz以上の高周波となっても、指令電圧Vが過大となるのが防止されて、アクチュエータAの推力を目標推力Frefに高精度で追従させ得る。
【0084】
以上のように、第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置V2は、目標推力Frefの周波数に基づいて推定推力Fmを補正する補正部50を備えているので、ポンプ12にギヤポンプを使用しても、目標推力Frefの全周波数域でアクチュエータAの推力を目標推力Frefに追従させて、車両における乗心地をより一層向上できる。
【0085】
よって、第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置V2によれば、第一の実施の形態における鉄道車両用制振装置V1の作用効果を奏するだけでなく、車両における乗心地をより効果的に向上できる。また、補正部50が前述のように構成されると、補正部50は、時間遅れが生じる処理を行わずに推定推力Fmを補正するので、制御性能の悪化を招かずにすむ。
【0086】
なお、前述したところでは、リリーフ弁制御部43は、比例ゲインKを偏差εに乗じる比例パスのみを備えて比例補償のみを行うようになっているが、比例パスに加えて積分パス或いは積分パスと微分パスを追加した構成を備えていてもよい。また、補正部50におけるフィルタ50aにおけるゲインの周波数特性は、目標推力Frefの周波数が高くなるとゲインが高くなる特性であればよいが、ゲインの最小値と最大値、ゲインの周波数に応じた変化度合等の設定については鉄道車両の車体Bの制振に適するように適宜変更が可能である。
【0087】
また、第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置V2は、比例ゲインKを偏差εに乗じる比例パスを備えているので、補正部50で推定推力Fmを補正する際のゲインKyと比例ゲインKの二つのゲインのチューニングが可能であり、目標推力Frefの全周波数域でアクチュエータAの推力を高精度に目標推力Frefに追従させて車両における乗心地をより一層効果的に向上できる。
【0088】
なお、補正部50をローパスフィルタとして、ポンプ12の構造の影響で推定される推定推力Fmが波打つように変動するのをローパスフィルタ処理してもよい。このようにすれば、推定推力Fmの振動成分を除去できるので、比例ゲインKを小さく設定せずともよく、アクチュエータAの推力を振動的にならないように制御でき乗心地を向上できる。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。