(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態におけるサスペンション制御装置Cは、車両Vのばね下部材である車輪Wとばね上部材である車体Bとの間に懸架ばねSとともに介装されるアクチュエータAを制御して車体Bの振動を抑制する。
【0017】
以下、各部について詳細に説明する。
図1に示すように、システムである車両Vは、外周にタイヤTiを有する車輪Wと、車体Bと、車輪Wと車体Bとの間に介装されて車体Bを弾性支持する懸架ばねSとで構成されている。
【0018】
車両Vは、タイヤTiをばね定数K
tのばねとし、車輪Wを質量M
2のマスとし、懸架ばねSをばね定数K
Sのばねとし、車体Bを質量M
1のマスとする二質点二自由度のばねマスシステムであり、
図1に示すばねマスシステムのモデルで表現できる。また、路面変位をX
0とし、車体Bの上下方向の変位をX
1とし、車輪Wの上下方向の変位をX
2とし、
図1中で上向きを正としている。
【0019】
サスペンション制御装置Cは、ばね下部材である車輪Wの振動情報を検知するための第一センサ1と、ばね上部材である車体Bの振動情報を検知するための第二センサ2と、アクチュエータAに与える最終制御指令Fを求める制御器3とを備えている。
【0020】
サスペンション制御装置Cは、本例では、ばね下部材である車輪Wの振動情報として車輪Wの上下方向の変位X
2と速度dX
2/dtを検知するために、第一センサ1は、加速度センサとされている。第一センサ1は、車輪Wの上下方向の加速度d
2X
2/dt
2を検出し、制御器3へ入力する。また、サスペンション制御装置Cは、本例では、ばね上部材である車体Bの振動情報として車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2を検知するために、第二センサ2は、加速度センサとされている。第二センサ2は、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2を検出し、制御器3へ入力する。
【0021】
制御器3は、
図2に示すように、第一センサ1から入力される加速度d
2X
2/dt
2を積分して車輪Wの上下方向の速度dX
2/dtを求める速度演算部31と、速度演算部31が求めた速度dX
2/dtを積分して車輪Wの上下方向の変位X
2を求める変位演算部32と、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2に基づいて速度dX
2/dtを補正する速度補正部33と、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2に基づいて変位X
2を補正する変位補正部34と、補正後の速度dX
2/dtに基づいて速度対応制御指令f
Vを求める速度対応制御指令演算部35と、補正後の変位X
2に基づいて変位対応制御指令f
Xを求める変位対応制御指令演算部36と、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2を積分して車体Bの上下方向の速度dX
1/dtを求める積分部37と、車体Bの上下方向の速度dX
1/dtにスカイフックゲインを乗じてスカイフック制御指令f
SKYを求めるスカイフック制御指令演算部38と、速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xとスカイフック制御指令f
SKYを合算して最終制御指令Fを生成してアクチュエータAへ入力する最終制御指令演算部39とを備えている。制御器3は、車輪Wから車体Bへ伝わる伝達力を打ち消すために、速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xとを求め、加えて、車体Bが振動した場合にこの振動を抑制するスカイフック制御を行うためにスカイフック制御指令f
SKYを求めている。つまり、速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xとを加算して得られる制御指令f
W_refは、アクチュエータAに前記伝達力を打ち消す力を発揮させるための制御指令となる。また、スカイフック制御指令f
SKYは、アクチュエータAにスカイフック制御に基づく制御力を発揮させるための制御指令となる。
【0022】
このように、制御器3は、ばね下部材の振動情報としての車輪Wの上下方向の変位X
2と速度dX
2/dtおよびばね上部材の振動情報としての車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2に基づいてアクチュエータAへ与える最終制御指令Fを生成してアクチュエータAへ与える。最終制御指令Fは、アクチュエータAへ伸縮の方向と推力の大きさを指示する指令である。
【0023】
アクチュエータAは、懸架ばねSに並列されて車体Bと車輪Wとの間に介装されており、たとえば、油圧や空圧を利用したテレスコピック型のシリンダや電動リニアアクチュエータ等とされており、モータで駆動されるポンプ等といった動力源を有している。そして、アクチュエータAは、最終制御指令Fの入力により制御指令通りの方向と大きさの推力を発揮して伸縮し、車体Bおよび車輪Wを上下方向へ加振する。
【0024】
まず、車輪Wから車体Bへ伝わる伝達力を打ち消す制御にて、制御指令f
W_refを速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xと加算して求める理由について説明する。
【0025】
図1に示すように、路面変位をX
0とし、車輪Wの上下方向の変位をX
2とし、車体Bの上下方向の変位をX
1とし、アクチュエータAの出力である推力をf
Wとし、上向きを正として考えると、ばね上部材である車体Bの上下方向の釣り合いから車体Bの運動方程式は、以下の式(1)のように示せる。
【0026】
【数1】
また、ばね下部材である車輪Wの上下方向の釣り合いから車輪Wの運動方程式は、以下の式(2)のように示せる。
【0027】
【数2】
さらに、アクチュエータAを一次遅れ系とし、アクチュエータAの制御指令f
W_refから出力である推力f
Wまでの応答遅れにおける時定数をTとすると、アクチュエータAの応答に関する微分方程式は、以下の式(3)のように示せる。
【0028】
【数3】
式(1)を分解すると以下の式(4)となる。
【0029】
【数4】
ここで、路面変位X
0の変動(外乱)によって車輪Wが振動するが、車輪Wの振動によって車体Bへ伝達される伝達力を打ち消せば、車体Bへ車輪Wの振動の伝達をキャンセルして絶縁できる。つまり、路面変位X
0の変動(外乱)によって動かされる車体Bの変位X
1と、アクチュエータAが力f
Wを発揮して動かされる車体Bの変位X
1が全く逆の大きさになれば両者が相殺される。車輪Wの変位X
2によって車体Bに作用する伝達力は、車輪Wの変位X
2によって懸架ばねSが伸縮して懸架ばねSが発揮するばね力となるから、アクチュエータAの力f
Wが車輪Wの変位によって懸架ばねSが発揮するばね力K
sX
2の符号を反転した値に等しくなればよい。
【0030】
なお、式(1)では、K
S(X
2−X
1)と力f
Wの値が異符号で数値が等しい関係となれば、車体Bには加速度が生じないことを示しているように思える。つまり、力f
W=−K
S(X
2−X
1)とすればよいようにも思える。ところが、(X
2−X
1)は、車体Bと車輪Wの相対変位であり、相対変位の変化は、旋回、制動或いは加速による車体Bの姿勢変化や車体Bへの積載荷重の変化によるものか路面変位に起因するものか判別がつかない。たとえば、ピッチングによって車体Bの前方が沈み込んで懸架ばねSを縮める場合、f
W=−K
S(X
2−X
1)としてアクチュエータAに力を発揮させると、車体Bの沈み込みを助長する方向に力を発揮してしまう。車体Bが浮き上がる場合には、浮き上がりを助長してしまう。このように、車体Bと車輪Wの相対変位をフィードバックする制御では、車体Bの姿勢が安定せず、却って、車体Bの振動が発振してしまうモードが存在する。よって、アクチュエータAの力f
Wが車輪Wの変位X
2によって懸架ばねSが発揮するばね力K
S・X
2を伝達力として、この伝達力を打ち消すように、アクチュエータAの力f
Wを求めればよい。以上を踏まえると、以下の式(5)が成り立てばよい。
【0031】
【数5】
他方、ラプラス演算子をsとして、式(3)の制御指令とアクチュエータAの推力の関係を伝達関数で表現すると、伝達関数は、以下の式(6)で表現される。
【0032】
【数6】
この式(6)を式(5)に代入すると、式(7)となる。なお、式(7)中で、kはゲインである。この式(7)は、アクチュエータAの制御指令f
W_refの入力から力f
Wを出力するまでの応答遅れが勘案された式となる。
【0033】
【数7】
ラプラス演算子sが乗算される変数は微分されるので、式(7)を展開して整理すると、以下の式(8)が得られる。
【0034】
【数8】
式(8)から理解できるように、変位X
2に対して位相が進む速度を利用してアクチュエータAの応答遅れを補償できる制御指令f
W_refを求める。この式(8)において、アクチュエータAの制御指令f
W_refの入力から力f
Wを出力するまでの応答遅れについて、予め、実機において時定数Tとゲインkを計測すれば足り、車輪Wの変位X
2と速度dX
2/dtを第一センサ1で検知する加速度d
2X
2/dt
2から得られる。よって、制御指令演算部23は、式(8)を演算すれば制御指令f
W_refを求め得る。このように制御指令f
W_refを求めてアクチュエータAへ入力するとアクチュエータAは、力f
Wを発揮して車輪Wからの伝達力を打ち消せるので、路面からの外乱入力による車体Bの振動を相殺して、車体Bの振動を抑制できる。
【0035】
よって、制御器3は、伝達力を打ち消す制御を実施するため、加速度d
2X
2/dt
2を積分して車輪Wの上下方向の速度dX
2/dtを求める速度演算部31と、加速度d
2X
2/dt
2を二階積分して車輪Wの上下方向の変位X
2を求める変位演算部32と、補正後の速度dX
2/dtに基づいて速度対応制御指令f
Vを求める速度対応制御指令演算部35と、補正後の変位X
2に基づいて変位対応制御指令f
Xを求める変位対応制御指令演算部36とを備えている。
【0036】
速度演算部31は、
図2に示すように、加速度d
2X
2/dt
2を積分して車輪Wの上下方向の速度dX
2/dtを求める積分部31aと、求めた速度dX
2/dtからばね下共振周波数帯域の成分のみを抽出してノイズとドリフト成分を取り除くフィルタ部31bと備えている。フィルタ部31bは、詳しく図示はしないが、2段のハイパスフィルタと2段のローパスフィルタとで構成されており、処理した速度dX
2/dtがばね下共振周波数帯域で実際のゲインおよび位相にずれが生じないように処理する。
【0037】
変位演算部32は、速度演算部31が求めた速度dX
2/dtを積分して車輪Wの上下方向の変位X
2を求める積分部32aと、求めた変位X
2からばね下共振周波数帯域の成分のみを抽出してノイズとドリフト成分を取り除くフィルタ部32bと備えている。フィルタ部32bは、詳しく図示はしないが、2段のハイパスフィルタと2段のローパスフィルタとで構成されており、処理した変位X
2がばね下共振周波数帯域で実際のゲインおよび位相にずれが生じないように処理する。なお、変位演算部32は、速度演算部31が求めた速度dX
2/dtの入力を受けるのではなく、第一センサ1から加速度d
2X
2/dt
2の入力を受けて積分部32aで加速度d
2X
2/dt
2を二階積分して車輪Wの上下方向の変位X
2を求めるようにしてもよい。
【0038】
なお、ばね下共振周波数は、車両によって異なるが概ね10Hzから17Hzの範囲にあり、フィルタ部31b,32bにおけるハイパスフィルタのカットオフ周波数を0.5Hzとし、ローパスフィルタのカットオフ周波数を150Hzに設定してある。このように設定すると、処理後の速度dX
2/dtと変位X
2が実際の速度と変位に対してゲインと位相のずれが少なく、精度よく、車輪Wの速度と変位を検知できる。また、両フィルタ部31b,32bは、ローパスフィルタとハイパスフィルタとで構成される代わりに、バンドパスフィルタで構成されてもよい。
【0039】
速度対応制御指令演算部35は、懸架ばねS
のばね定数
をK
S、アクチュエータAの応答における時定数をT、ゲインをkとして、速度dX
2/dtに速度ゲインとして−(K
S・T)/kを乗じて速度対応制御指令f
Vを求める。この速度対応制御指令f
Vは、式(8)の右辺の第一項に相当しており、伝達力を打ち消す力のうち速度dX
2/dtに依存した力成分である。
【0040】
変位対応制御指令演算部36は、懸架ばねS
のばね定数
をK
S、ゲインをkとして、変位X
2に変位ゲインとして−K
S/kを乗じて変位対応制御指令f
Xを求める。この変位対応制御指令f
Xは、式(8)の右辺の第二項に相当しており、伝達力を打ち消す力のうち変位X
2に依存した力成分である。
【0041】
よって、速度対応制御指令演算部35が速度演算部31により求められた速度dX
2/dtに速度ゲインを乗じて速度対応制御指令f
Vを求め、変位対応制御指令演算部36が変位演算部32により求められた変位X
2に変位ゲイン乗じて変位対応制御指令f
Xを求め、速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xを加算すれば、伝達力を打ち消す力をアクチュエータAに発揮させ得る筈である。
【0042】
ところが、アクチュエータA内の作動流体の温度変化等による応答性変化や、懸架ばねSがエアばねとされて内圧が変更されたり温度変化により内圧が変化したりする場合には、アクチュエータAの時定数Tや懸架ばねのばね定数K
Sといった伝達力を打ち消す力を得るためのパラメータが変化してしまう。これらのパラメータが変化すると、演算処理によって求められた伝達力を打ち消す力と実際の伝達力とに誤差が生じて、伝達力をアクチュエータAが発揮する力で打ち消せなくなってしまう。
【0043】
そこで、本例の制御器3では、アクチュエータAの時定数Tや懸架ばね
Sのばね定数K
Sが変化しても、自動的に前記変化に対応できるように、速度dX
2/dtを補正する速度補正部33と、変位X
2を補正する変位補正部34とを備えている。そして、速度対応制御指令演算部35には、補正後ばね下振動情報としての補正後の速度dX
2/dtを入力し、変位対応制御指令演算部36には、補正後ばね下振動情報としての補正後の変位X
2を入力して速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xを求める。よって、アクチュエータAの時定数Tや懸架ばねのばね定数K
Sが変化しても、実際の伝達力に見合った力をアクチュエータAに発揮させて、車輪Wから車体Bへの振動の入力を絶縁できる。
【0044】
以下、速度補正部33と変位補正部34について詳述する。速度補正部33は、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2をフィルタ処理する位相補償部33aと、速度演算部31により求められた速度dX
2/dtと位相補償部33aで処理した加速度d
2X
1/dt
2とを乗じる乗算部33bと、乗算部33bで求めた値に補正ゲインk
Vを乗じるゲイン乗算部33cと、ゲイン乗算部33cが求めた値を順次積分する積分値演算部33dと、積分値演算部33dが求めた積分値I
Vに速度演算部31により求められた速度dX
2/dtを乗じて速度補正値C
Vを求める補正値演算部33eと、速度演算部31により求められた速度dX
2/dtに速度補正値C
Vを加算して速度演算部31により求められた速度dX
2/dtを補正して補正後の速度dX
2/dtを求める加算部33fとを備えている。
【0045】
車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2は、アクチュエータAが伝達力を綺麗に打ち消す力を発揮すれば、理論上、0になる。車体Bの加速度d
2X
1/dt
2が0にならない状態となっているということは、アクチュエータAが発揮する力では伝達力を完全に打ち消せていない状態となっている。また、車両における乗心地は、理想的となるのは、車体Bの前記加速度d
2X
1/dt
2が0となる状況である。
【0046】
乗算部33bの演算結果は、前述したように補正ゲインk
Vが乗じられて積分され、積分値I
Vが速度dX
2/dtに乗じられて速度補正値C
Vが求められる。速度補正値C
Vは、速度演算部31により求められた速度dX
2/dtに加算され、加算された値が補正後の速度dX
2/dtとなる。前述したところから、車体Bの前記加速度d
2X
1/dt
2が0でない場合には、乗算部33bの演算結果は0ではない値を出力するから、積分値I
Vの値が必ず更新される。よって、車体Bの前記加速度d
2X
1/dt
2が0にならない限り、制御周期毎に積分値I
Vの値が更新され続ける。積分値I
Vは、速度補正値C
Vを得るためのゲインと看做せ、ゲインの値の更新によって、速度補正部33によってばね上部材である車体Bの加速度d
2X
1/dt
2が0に向けて収束する方向に速度dX
2/dtが補正される。そして、車体Bの前記加速度d
2X
1/dt
2が0に収束すると、乗算部33bの出力も0となるので、積分値I
Vの値はそれ以上更新されなくなり、速度補正部33は、一定のゲインで速度補正値C
Vを求めるようになる。
【0047】
つまり、アクチュエータAの応答や懸架ばねSのばね定数が変化した場合、速度補正部33は、車体Bの加速度d
2X
1/dt
2が0に収束するまで、積分値I
Vの値を更新し、0に収束すると積分値I
Vの値をホールドして速度dX
2/dtを補正する。
【0048】
なお、位相補償部33aは、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2をフィルタ処理して加速度d
2X
1/dt
2からばね下共振周波数帯の成分のみを抽出するためローパスフィルタとハイパスフィルタとで構成されている。位相補償部33aで加速度d
2X
1/dt
2を処理すると加速度d
2X
1/dt
2から車輪W側から伝達される振動に起因したばね下共振周波数帯の成分のみを抽出でき、ノイズの除去と車輪Wの速度dX
2/dtとの位相ずれが大きくなる低周波成分が除去される。このように前述の位相ずれが解消されると、積分値I
Vの増減が伝達力を効率よく打ち消す方向に推移するので、積分値I
Vの値が速く収束するようになり、アクチュエータAの応答や懸架ばねSのばね定数が変化した際に応答性よく伝達力を打ち消せるようになる。なお、位相補償部33aは、バンドパスフィルタで構成されてもよい。
【0049】
変位補正部34は、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2をフィルタ処理する位相補償部34aと、変位演算部32により求められた変位X
2と位相補償部33aで処理した加速度d
2X
1/dt
2とを乗じる乗算部34bと、乗算部34bで求めた値に補正ゲインk
Xを乗じるゲイン乗算部34cと、ゲイン乗算部34cが求めた値を順次積分する積分値演算部34dと、積分値演算部34dが求めた積分値I
Xに変位演算部32により求められた変位X
2を乗じて変位補正値C
Xを求める補正値演算部34eと、変位演算部32により求められた変位X
2に変位補正値C
Xを加算して変位演算部32により求められた変位X
2を補正して補正後の変位X
2を求める加算部34fとを備えている。
【0050】
変位補正部34は、速度補正部33と同様に、乗算部34bの演算結果に補正ゲインk
Xを乗じて積分し、積分値I
Xを変位X
2に乗じて変位補正値C
Xを求める。変位補正値C
Xは、変位演算部32により求められた変位X
2に加算され、加算された値が補正後の変位X
2となる。よって、車体Bの前記加速度d
2X
1/dt
2が0でない場合には、乗算部34bの演算結果は0ではない値を出力するから、積分値I
Xの値が必ず更新される。よって、車体Bの前記加速度d
2X
1/dt
2が0にならない限り、制御周期毎に積分値I
Xの値が更新され続ける。積分値I
Xは、変位補正値C
Xを得るためのゲインと看做せ、ゲインの値の更新によって、変位補正部34によってばね上部材である車体Bの加速度d
2X
1/dt
2が0に向けて収束する方向に変位X
2が補正される。そして、車体Bの前記加速度d
2X
1/dt
2が0に収束すると、乗算部34bの出力も0となるので、積分値I
Xの値はそれ以上更新されなくなり、変位補正部34は、一定のゲインで変位補正値C
Xを求めるようになる。
【0051】
つまり、アクチュエータAの応答や懸架ばねSのばね定数が変化した場合、変位補正部34は、車体Bの加速度d
2X
1/dt
2が0に収束するまで、積分値I
Xの値を更新し、0に収束すると積分値I
Xの値をホールドして変位X
2を補正する。
【0052】
なお、位相補償部34aは、位相補償部33aと同様に、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2をフィルタ処理して加速度d
2X
1/dt
2からばね下共振周波数帯の成分のみを抽出するためローパスフィルタとハイパスフィルタとで構成されている。よって、位相補償部34aを変位補正部34に設けると、加速度d
2X
1/dt
2から車輪W側から伝達される振動に起因したばね下共振周波数帯の成分のみを抽出でき、ノイズの除去と車輪Wの速度dX
2/dtとの位相ずれが大きくなる低周波成分を除去できる。このように前述の位相ずれが解消されると、積分値I
Xの増減が伝達力を効率よく打ち消す方向に推移するので、積分値I
Xの値が速く収束するようになり、アクチュエータAの応答や懸架ばねSのばね定数が変化した際に応答性よく伝達力を打ち消せるようになる。なお、位相補償部34aは、バンドパスフィルタで構成されてもよい。
【0053】
また、本例では、速度補正部33と変位補正部34のそれぞれで最適化するために加速度d
2X
1/dt
2のフィルタ処理をする位相補償部33a,34aを備えているが、速度補正部33と変位補正部34で一つの位相補償部を共有してもよい。
【0054】
さらに、前述したところでは、車輪Wの速度dX
2/dtと変位X
2の補正にあったって、車体Bの加速度d
2X
1/dt
2をばね上部材の振動情報としているが、車体Bがどの程度振動しているかが分かればよいので、補正に必要なばね上部材の振動情報は、速度dX
1/dtとされてもよい。その場合、速度補正部33および変位補正部に、第二センサ2が検知した加速度d
2X
1/dt
2を積分して速度dX
1/dtを求めて入力すればよい。
【0055】
このように、速度補正部33と変位補正部34は、車体Bの加速度d
2X
1/dt
2が0に収束するようにゲインである積分値I
V,I
Xを更新して、それぞれ、対応する速度dX
2/dtと変位X
2を補正する。よって、制御器3が求めた速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xは、共に、アクチュエータAの応答や懸架ばねSのばね定数の変化に対応して最適化されるので、アクチュエータAの応答や懸架ばねSのばね定数といったパラメータが変化しても車体Bの振動を効果的に抑制できる。
【0056】
ここで、乗算部33b,34bの演算結果を用いて速度dX
2/dtと変位X
2を補正すると、前記パラメータの変動に対応して速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xを効率よく最適化できる点について詳細に説明する。
図3(a)のグラフは、伸縮によって懸架ばねSが発揮するばね力に対してアクチュエータAが発揮する力が小さく、アクチュエータAの力の位相が伝達力を打ち消せる位相よりも遅れる場合において、アクチュエータAが発揮する力(図中実線)と懸架ばねSのばね力(図中破線)とばね上部材の加速度d
2X
1/dt
2(図中一点鎖線)が振動的に推移している状態を示している。懸架ばねSのばね力は、車輪Wから車体Bに伝達される伝達力であるから、
図3(a)のグラフでは、伝達力を打ち消せる位相に対してアクチュエータAが発揮する力の位相が遅れている。
図3(a)の状況において、
図3(b)のグラフに示したように、一点鎖線で示した車体Bの加速度d
2X
1/dt
2と破線で示した車輪Wの速度dX
2/dtとを乗じて得られる図中実線で示した乗算値は、振動的ではあるが概ね0以上の値を採る。また、
図3(a)の状況において、
図3(c)のグラフに示したように、一点鎖線で示した車体Bの加速度d
2X
1/dt
2と破線で示した車輪Wの変位X
2とを乗じて得られる図中実線で示した乗算値は、振動的ではあるが、概ね0以上の値を採る。
図3(a)のグラフから理解できるように、アクチュエータAが発揮する力の位相が伝達力(懸架ばねSのばね力)を打ち消せる位相に対して遅れている場合、アクチュエータAが発揮する力の位相を進ませれば伝達力を打ち消せるようになる。伝達力は、懸架ばねSの伸縮、つまり、車輪Wが変位して発生する力であり、位相が進んでいる速度dX
2/dtのゲインを上げれば、アクチュエータAが発揮する力の位相が進む。よって、車輪Wの速度dX
2/dtに対するゲインと看做せる積分値I
Vを大きくして速度dX
2/dtを大きくするように補正すればよい。また、アクチュエータAが発揮する力は、伝達力よりも小さいのでこの力を大きくすれば伝達力を打ち消せるようになる。前述の通り、伝達力は、懸架ばねSの伸縮、つまり、車輪Wが変位して発生する力であるから、変位X
2に対するゲインを上げれば、アクチュエータAが発揮する力を大きくできる。よって、車輪Wの変位X
2に対するゲインと看做せる積分値I
Xを大きくして変位X
2を大きくするように補正すればよい。ここで、
図3(b)と
図3(c)を見ると、乗算値は、共に概ね0以上となるので、積分値I
V,I
Xを増加させるように推移する。このように、乗算部33b,34bの乗算結果を用いれば、伝達力を打ち消せる位相に対してアクチュエータAが発揮する力の位相が遅れている場合、アクチュエータAの力で伝達力を打ち消せるように速度dX
2/dtと変位X
2とを補正できる。
【0057】
これに対して、懸架ばねSのばね力に対してアクチュエータAが発揮する力が小さく位相が伝達力を打ち消せる位相よりも進む場合について説明する。
図4(a)のグラフは、懸架ばねSのばね力に対してアクチュエータAが発揮する力が小さく、その位相が伝達力を打ち消せる位相より進む場合において、アクチュエータAが発揮する力(図中実線)と懸架ばねSのばね力(図中破線)とばね上部材の加速度d
2X
1/dt
2(図中一点鎖線)が振動的に推移している状態を示している。
図4(a)の状況において、
図4(b)のグラフに示したように、一点鎖線で示した車体Bの加速度d
2X
1/dt
2と破線で示した車輪Wの速度dX
2/dtとを乗じて得られる図中実線で示した乗算値は、振動的ではあるが概ね0以下の値を採る。また、
図4(a)の状況において、
図4(c)のグラフに示したように、一点鎖線で示した車体Bの加速度d
2X
1/dt
2と破線で示した車輪Wの変位X
2とを乗じて得られる図中実線で示した乗算値は、振動的ではあるが、概ね0以上の値を採る。
図4(a)のグラフから理解できるように、アクチュエータAが発揮する力の位相が伝達力(懸架ばねSのばね力)を打ち消せる位相に対して進んでいる場合、アクチュエータAが発揮する力の位相を遅らせれば伝達力を打ち消せるようになる。伝達力は、懸架ばねSの伸縮、つまり、車輪Wが変位して発生する力であり、位相が進んでいる速度dX
2/dtのゲインを下げれば、アクチュエータAが発揮する力の位相が遅れる。よって、車輪Wの速度dX2/dtに対するゲインと看做せる積分値I
Vを負の値として速度dX
2/dtを小さくするように補正すればよい。また、アクチュエータAが発揮する力は、伝達力よりも小さいので力を大きくすれば伝達力を打ち消せるようになる。前述の通り、伝達力は、懸架ばねSの伸縮、つまり、車輪Wが変位して発生する力であるから、変位X
2に対するゲインを上げれば、アクチュエータAが発揮する力を大きくできる。よって、車輪Wの変位X
2に対するゲインと看做せる積分値I
Xを大きくして変位X
2を大きくするように補正すればよい。ここで、
図4(b)と
図4(c)を見ると、速度dX
2/dtと加速度d
2X
1/dt
2との乗算値は、概ね0以下であり、積分値I
Vを減少させるように推移し、変位X
2と加速度d
2X
1/dt
2との乗算値は、概ね0以上となるので積分値I
Xを増加させるように推移する。このように、乗算部33b,34bの乗算結果を用いれば、伝達力を打ち消せる位相に対してアクチュエータAが発揮する力の位相が進む場合でも、アクチュエータAの力で伝達力を打ち消せるように速度dX
2/dtと変位X
2とを補正できる。
【0058】
なお、
図5に示すように、懸架ばねSのばね力(図中破線)に対してアクチュエータAが発揮する力(図中実線)の位相が逆で大きさが一致する場合、つまり、アクチュエータAの力が伝達力を打ち消せる位相に一致していて両者の大きさが等しい場合、伝達力が打ち消さればね上部材の加速度d
2X
1/dt
2は0となる。このような状況では、速度dX
2/dtと加速度d
2X
1/dt
2との乗算値および変位X
2と加速度d
2X
1/dt
2との乗算値は、0となる。よって、懸架ばねSのばね力(図中破線)に対してアクチュエータAが発揮する力(図中実線)の位相と逆であって大きさが一致する限り、ゲインと看做せる積分値I
V,I
Xが変動しなくなる。このように、乗算部33b,34bの乗算結果を用いれば、アクチュエータAが発揮する力の位相と大きさが伝達力を打ち消せる位相と大きさに一致するようになれば、速度dX
2/dtを補正する速度補正値C
Vと変位X
2を補正する変位補正値C
Xがともに一定値を採るようになり、アクチュエータAの力の位相と大きさが伝達力を打ち消せる位相と大きさに一致する状態を維持できる。
【0059】
制御器3は、
図2に示すように、前述の構成に加えて、車体Bの振動を抑制するスカイフック制御を実施するために、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2を積分する積分部37と、スカイフック制御指令f
SKYを求めるスカイフック制御指令演算部38とを備えている。
【0060】
積分部37は、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2を積分して車体Bの上下方向の速度dX
1/dtを求める。なお、積分部37では、低周波のドリフト成分を除去するためにハイパスフィルタ処理を行っている。スカイフック制御指令演算部38は、車体Bの上下方向の速度dX
1/dtにスカイフックゲインを乗じてスカイフック制御指令f
SKYを求める。スカイフック制御指令f
SKYは、アクチュエータAにスカイフック制御に基づく制御力を発揮させるための制御指令である。
【0061】
最終制御指令演算部39は、速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xとスカイフック制御指令f
SKYとを合算して最終制御指令Fを生成し、アクチュエータAへ出力する。アクチュエータAは、前述したように、最終制御指令Fの入力により制御指令通りの方向と大きさの推力を発揮して伸縮し、車体Bおよび車輪Wを上下方向へ加振する。
【0062】
このようにサスペンション制御装置Cは、車両におけるばね下部材である車輪Wの振動情報とばね上部材である車体Bの振動情報とに基づいて車輪Wから車体Bに伝達される伝達力を打ち消す制御指令f
W_refを求める。このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、アクチュエータAの応答性や懸架ばねSのばね定数といったパラメータの変化に対応して制御指令f
W_refが適切となるよう補正でき、ばね上部材の振動抑制効果を向上させて車両における乗り心地を向上できる。なお、アクチュエータAが発する力の過不足によって車体Bが振動する場合、ばね上部材の加速度d
2X
1/dt
2に直ちに影響が現れるので、ばね上部材の振動情報として、ばね上部材の加速度d
2X
1/dt
2を利用するとパラメータの変化に対して応答性よくばね下部材の振動情報の補正が実施され、車両における乗心地をより一層向上できる。車体Bの振動は、速度dX
1/dtでも監視できるので、前述したようにばね上部材の振動情報は速度dX
1/dtでもよい。ばね上部材の振動情報を速度dX
1/dtとする場合、加速度d
2X
1/dt
2とは位相がずれていて補正の方向が変わるが、符号を考慮すれば対応できる。
【0063】
さらに、本例のサスペンション制御装置Cにあっては、制御器3がばね下部材の振動情報を前記ばね上部材の振動情報に基づいて補正して補正後ばね下振動情報を求め、補正後ばね下振動情報に基づいて前記制御指令を求めるので、アクチュエータAの応答性や懸架ばねSのばね定数といったパラメータの変動を直接検知する必要がない。たとえば、アクチュエータAについてみても、作動流体の温度変化によるものの他にも、経年劣化による摺動部の摩擦やポンプの効率の変化によって応答性が変化するし、懸架ばねSについてもエアばねであるような場合には、内圧の変化の他にも気体の温度変化によってばね定数が変化する。懸架ばねが金属ばねであっても交換によってばね定数が変化する場合がある。このように、アクチュエータAおよび懸架ばねSのパラメータ変動の因子は複数あって、パラメータ変動をセンシングによって検知するのは難しく、可能であっても多数のセンサが必要となる。これに対して、本例のサスペンション制御装置Cでは、前記パラメータの変動を直接検知するのではなく、パラメータ変動の結果としてばね上部材としての車体Bが振動するのを検知してばね下部材の振動情報を補正するので、パラメータ変動に対応するのに第二センサ2一つのみの設置で足りる。このように、本例のサスペンション制御装置Cにあっては、第二センサ2のみの設置でアクチュエータAと懸架ばねSのパラメータ変動の因子によらず当該変動に対応して車両における乗心地を向上できるとともにセンサ設置数も少ないので製造コストを低減できる。
【0064】
なお、本例では、制御器3がばね下部材の振動情報をばね上部材の振動情報に基づいて補正しているが、ばね上部材の振動情報に基づいて速度対応制御指令演算部35および変位対応制御指令演算部36で乗じる速度ゲイン−(K
S・T)/kと変位ゲイン−K
S/kを補正してもよい。ここで、乗算部33b,34bの乗算結果は、ばね上部材の速度X
1/dtと加速度d
2X
1/dt
2の増減の方向を決する指標となっており、積分値I
Vおよび積分値I
Xは、乗算部33b,34bの乗算結果の積分値でアクチュエータAが発揮する力で車輪Wから車体Bに伝達される伝達力を打ち消せるようになると値が一定値となる。よって、このように速度ゲイン−(K
S・T)/kと変位ゲイン−K
S/kを補正する場合、たとえば、本例と同様に、積分値I
Vおよび積分値I
Xを求め、積分値I
Vおよび積分値I
Xを用いて、それぞれに対応する速度ゲイン−(K
S・T)/kと変位ゲイン−K
S/kを補正すればよい。
【0065】
さらに、本例のサスペンション制御装置Cにあっては、制御器3がばね下部材の振動情報とばね上部材の振動情報の乗算値に基づいて前記ばね下部材の振動情報を補正するよう構成されている。このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、乗算値を用いるので、アクチュエータAの力の位相と大きさが伝達力を打ち消せる位相と大きさとに一致しない場合には、これらを一致させるようにばね下部材の振動情報を補正できる。よって、本例のサスペンション制御装置Cによれば、アクチュエータAの応答性や懸架ばねSのばね定数といったパラメータが変化しても、自動的に制御指令f
W_refを適切に補正できる。また、乗算値を用いるので、ばね上部材の振動の大きさ応じてばね下部材の振動情報を補正するので、アクチュエータAが発揮する力が伝達力に一致するまでの時間も短くなる。
【0066】
また、本例のサスペンション制御装置Cにあっては、制御器3が順次求められるばね下部材の振動情報とばね上部材の振動情報の乗算値を積分して積分値I
V,I
Xを求め、積分値I
V,I
Xに基づいて前記ばね下部材の振動情報を補正するよう構成されている。このように構成されたサスペンション制御装置Cによれば、積分値I
V,I
Xを用いるので、アクチュエータAの力の位相と大きさが伝達力を打ち消せる位相と大きさに一致するようになると積分値I
V,I
Xを固定できる。よって、本例のサスペンション制御装置Cによれば、アクチュエータAの応答性や懸架ばねSのばね定数といったパラメータが変化すると、自動的に学習して制御指令を適切に補正し、アクチュエータAの力の位相と大きさが伝達力を打ち消せる位相と大きさに一致すると学習を終了して制御指令f
W_refを適切な状態に維持できる。
【0067】
そして、本例のサスペンション制御装置Cは、伝達力を打ち消す制御にスカイフック制御を併用しており、伝達力を打ち消す制御では抑制が難しい車体Bの低周波振動等に対してはスカイフック制御による制御力をアクチュエータAに発揮させる。よって、本例のサスペンション制御装置Cは、伝達力を打ち消す制御とスカイフック制御との併用により、ばね上部材である車体Bの振動をより効果的に抑制でき車両における乗心地を向上できる。
【0068】
なお、前述したところでは、スカイフック制御に当たって、車体Bの加速度d
2X
1/dt
2を第二センサ2で検知し、加速度d
2X
1/dt
2を積分して速度dX
1/dtを得て、スカイフック制御指令f
SKYを求めていた。このように積分演算を用いる場合、低周波のドリフト成分を除去するためにハイパスフィルタ処理を行う必要があり、スカイフックゲインを高くすると低周波成分で発振しやすくなる。そこで、車体Bにカメラを設置して、カメラが撮影した画像を処理して車体Bのピッチ、バウンス、ロールといった姿勢に関する情報を得るようにし、姿勢情報から車体Bの速度を得て、スカイフック制御に利用することが考えられる。このようにして得られる車体Bの姿勢情報は、変位情報であるから、車体Bの上下方向の速度を得るには姿勢情報を微分すればよい。姿勢情報の微分には、高周波ノイズの除去のためローパスフィルタ処理が必要であるが、ハイパスフィルタ処理は不要であるから、低周波領域で位相変化のない車体Bの速度dX
1/dtが得られるようになる。よって、低周波領域ではカメラから得られる画像を処理して得られる車体Bの上下方向の変位X
1を微分して速度dX
1/dtを得て、高周波領域では第二センサ2で検知した加速度d
2X
1/dt
2を積分して速度dX
1/dtを得れば、実際の速度に位相ずれの無い速度dX
1/dtを求め得る。このようにして求めた速度dX
1/dtをスカイフック制御に用いれば、スカイフックゲインを高くしても発振の恐れが無くなる。これを実現するには、
図6に示すサスペンション制御装置Cの一変形例のように、
図2の制御器3に対して、カメラ5aが撮影した画像を処理して車体Bの変位を求める変位演算部5bと変位演算部5bが検知した変位を微分する微分部5cとを有する速度検知部5を積分部37に並列に設けるとともに、積分部37が出力する速度と速度検知部5が出力する速度を処理して車体Bの速度を求める速度演算部6を設ければよい。このようにすれば、スカイフックゲインを高くでき、車体Bの振動を効果的に抑制して車両における乗心地がより一層向上する。
【0069】
つづいて、アクチュエータAが二次遅れの特性を備えている場合には、ばね下部材の振動情報としては、変位、速度に加えて、更に位相が進んだ加速度を加味して制御すればよい。つまり、アクチュエータAが二次遅れの特性を備えている場合、速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xに加えて加速度対応制御指令f
aを加算して制御指令f
W_refを求めればよい。
【0070】
ここで、固有角周波数をωとし、減衰率をζとすると、ゲインをkとすると、制御指令f
W_refから力f
Wまでの伝達関数は、以下の式(9)のように示される。
【0071】
【数9】
この式(9)を式(5)に代入すると、式(10)となる。式(10)は、アクチュエータAの制御指令f
W_refの入力から力f
Wを出力するまでの二次の応答遅れが勘案された式となる。
【0072】
【数10】
ラプラス演算子sが乗算される変数は微分され、ラプラス演算子sの二乗が乗算される変数は二階微分となるので、式(10)を展開して整理すると、以下の式(11)が得られる。
【0073】
【数11】
式(11)から理解できるように、アクチュエータAが二次の応答遅れの特性を備えている場合、一次遅れのアクチュエータAに比較して、変位X
2から位相が進んだ速度dX
2/dtに加えて、更に位相が進んだ加速度d
2X
2/dt
2を加味して、制御指令f
W_refを求めればよい。つまり、二次遅れのアクチュエータAの場合、制御指令f
W_refを求めるために利用するばね下部材である車輪Wの振動情報は、変位X
2、速度dX
2/dtおよび加速度d
2X
2/dt
2となる。このようにすれば、アクチュエータAの応答遅れを補償しつつ、路面からの外乱入力による車体Bの振動を相殺して、車体Bの振動を抑制できる。よって、アクチュエータAが高次の応答遅れとなれば、車輪Wの変位X
2から位相が次数分進んだ情報を加味すれば、アクチュエータAの応答遅れの特性に対応して車体Bの振動を抑制できる。よって、制御指令f
W_refを得るためのばね下部材である車輪Wの振動情報は、アクチュエータAの応答遅れの次数に応じて、前述のように決定すればよい。
【0074】
以上より、アクチュエータAが二次の応答遅れの特性である場合、
図7に示すサスペンション制御装置Cの他の変形例のように、
図2の制御器3に、加速度d
2X
2/dt
2を補正する加速度補正部40と、補正された加速度d
2X
2/dt
2から加速度対応制御指令f
aを求める加速度対応制御指令演算部41とを設けて、最終制御指令演算部39で速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xと加速度対応制御指令f
aとスカイフック制御指令f
SKYを合算して最終制御指令Fを求めればよい。なお、この場合、制御指令f
W_refは、速度対応制御指令f
Vと変位対応制御指令f
Xと加速度対応制御指令f
aとを合算したものとなる。
【0075】
加速度補正部40は、速度補正部33および変位補正部34と同様に、車体Bの上下方向の加速度d
2X
1/dt
2をフィルタ処理する位相補償部40aと、加速度d
2X
2/dt
2と位相補償部40aで処理した加速度d
2X
1/dt
2とを乗じる乗算部40bと、乗算部40bで求めた値に補正ゲインk
aを乗じるゲイン乗算部40cと、ゲイン乗算部40cが求めた値を順次積分する積分値演算部40dと、積分値演算部40dが求めた積分値I
aに加速度d
2X
2/dt
2を乗じて加速度補正値C
aを求める補正値演算部40eと、加速度d
2X
2/dt
2に加速度補正値C
aを加算して加速度d
2X
2/dt
2を補正して補正後の加速度d
2X
2/dt
2を求める加算部40fとを備える。
【0076】
加速度対応制御指令演算部41は、懸架ばねSをばね定数K
S、固有角周波数をωとして、加速度d
2X
2/dt
2に加速度ゲインとして−K
S/ω
2を乗じて加速度対応制御指令f
aを求める。この加速度対応制御指令f
aは、式(11)の右辺の第一項に相当しており、伝達力を打ち消す力のうち加速度d
2X
2/dt
2に依存した力成分である。なお、速度対応制御指令演算部35では、補正後の速度dX
2/dtに−2ζK
S/ωを乗じて速度対応制御指令f
Vを求めればよい。
【0077】
なお、ばね上部材である車体Bが振動すると、ばね下部材である車輪Wの振動情報に可変ゲインを乗じて補正し、可変ゲインを車体Bの振動継続に応じて大きくするようにしてもよい。
【0078】
さらには、速度補正部33と変位補正部34は、以下のようにして、速度と変位を補正してもよい。速度補正部33および変位補正部34は、
図8に示すサスペンション制御装置Cの更なる他の変形例のように、共に、
図2の速度補正部33および変位補正部34の構成に加えて、乗算部33b,34bとゲイン乗算部33c,34cとの間に設けた符号抽出部33g,34gと、積分値演算部33d,34dと補正値演算部33e,34eとの間に設けたローパスフィルタ33h,34hと、位相補償部33a,34aと乗算部33b,34bとの間に設けた不感帯処理部33i,34iとを備えている。
【0079】
符号抽出部33g,34gは、それぞれ自身が対応する乗算部33b,34bの演算結果から符号を抽出して、符号から1、0或いは−1をゲイン乗算部33c,34cへ出力する。つまり、符号抽出部33g,34gは、それぞれ自身が対応する乗算部33b,34bの演算結果が正の値であると1を、0であると0を、負の値であると−1を出力する。
【0080】
ゲイン乗算部33c,34cは、符号抽出部33g,34gが出力した値にそれぞれ補正ゲインk
V,k
Xを乗じて、積分値演算部33d,34dへ出力する。つまり、本例では、ゲイン乗算部33c,34cの演算結果が0でない場合、積分値I
V,I
Xは、補正ゲインk
V,k
Xだけ増減する。
【0081】
ローパスフィルタ33h,34hは、ゲイン乗算部33c,34cの演算結果が0でない場合、積分値I
V,I
Xが補正ゲインk
V,k
Xだけ増減するので、積分値I
V,I
Xの変化を滑らかにする。このように、ローパスフィルタ33h,34hを挿入すると、アクチュエータAが発揮する力の急変が緩和されるので車両における乗心地が向上する。なお、同じ目的で、第2図の制御器3の積分値演算部33d,34dの後段にローパスフィルタを設けてもよい。
【0082】
不感帯処理部33i,34iは、ばね上部材である車体Bの加速度d
2X
1/dt
2の入力を受けて不感帯処理を実施する。不感帯処理部33i,34iは、それぞれ自身が対応する積分値演算部33d,34dが出力する積分値I
V,I
Xの変化率が大きな場合には、ばね上部材である車体Bの加速度d
2X
1/dt
2に対する不感帯を小さくし、前記変化率が小さくなると不感帯を大きくする。具体的には、不感帯処理部33i,34iは、それぞれ、積分値I
V,I
Xを微分して絶対値処理を行って積分値I
V,I
Xの変化率を求め、変化率が閾値を超えると、変化率の増加にしたがって不感帯の値を減少させて最終的には0とする。不感帯処理部33i,34iは、それぞれ、積分値I
V,I
Xの変化率が閾値未満であると、不感帯の値を所定値とする。そして、不感帯処理部33i,34iは、車体Bの加速度d
2X
1/dt
2の絶対値が不感帯の値未満であると0を、車体Bの加速度d
2X
1/dt
2の絶対値が不感帯の値以上であると加速度d
2X
1/dt
2をそのまま出力して乗算部33b,34bへ入力する。このように不感帯処理部33i,34iを設けると、車体Bの振動が収束して非常に小さくなると積分値I
V,I
Xの値が更新されなくなってアクチュエータAの力で伝達力を打ち消せる状態を維持できる。不感帯処理部33i,34iを設けない場合、車体Bが少しでも振動すると、積分値I
V,I
Xの値が更新される。積分値I
V,I
Xの値が更新されると、アクチュエータAの力が伝達力を打ち消せる位相に対してずれたり、伝達力と大きさが異なってしまったりするが、不感帯処理部33i,34iを設けるとそのような事態を回避できる。
【0083】
このようにサスペンション制御装置Cの更なる他の変形例にあっても、アクチュエータAの応答性や懸架ばねSのばね定数に変動があっても、乗算部33b,34bの演算結果の符号から積分値I
V,I
Xの値を更新して、伝達力を打ち消すのに最適となるように制御指令f
W_refを生成できる。
【0084】
また、図示はしないが、車輪Wの振動を抑制するダイナミックダンパを設けて車輪Wの振動を抑制してもよい。車輪Wの固有振動数にダイナミックダンパの固有振動数を一致させると車輪Wの振動を抑制できる。このように伝達力を打ち消す制御に加えてダイナミックダンパを併用すれば、車輪Wが振動しても、この振動を低減でき、車体Bの振動も効果的に抑制できる。
【0085】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。